説明

紙幣収納庫

【課題】紙幣収納庫を簡単な構造で多量の紙幣を収納可能とする。
【解決手段】内部に紙幣収納空所を有したケーシング11と、紙幣収納空所内に上下動自在に配置された紙幣堆積部材12と、紙幣堆積部材12を弾性的に上方に付勢するコイルバネと、を備える紙幣収納庫10のコイルバネを下側コイルバネ32と、下側コイルバネ32の上方に配置された上側コイルバネ33とから構成する。下側コイルバネ32の上部と上側コイルバネ33の下部の間には、中間部材16を配置し、中間部材16にはケーシング11の垂直な内壁11aに沿って摺動しながら上下動する中間部材16の姿勢を矯正するガイド部材17、17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種自動販売機、入出金装置、両替機等の紙幣取扱装置に配置される紙幣処理装置が備える紙幣収納庫の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
投入された紙幣を受け入れる入金機能や、釣り銭や払い出し金として紙幣を払い出す出金機能を備えた紙幣処理装置は、各種自動販売機、入出金装置、両替機等に装備されている。そして、この紙幣処理装置には始業時に準備した紙幣、あるいは稼働中に投入された紙幣を金種別に保管するための紙幣収納庫が装備されている。
図6は従来の紙幣収納庫を示す縦断面図である。この紙幣収納庫は、ケーシング130と、ケーシング130内に配置され、紙幣Sを堆積する紙幣堆積部材131と、この紙幣堆積部材131を上下動自在に支持して常時上向きに弾性付勢するコイルバネ134と、を備える。また紙幣収納庫は、ケーシング130の側壁に設けた入出金用のスリット135から挿入された紙幣Sを紙幣堆積部材131上に押し込むために上下動する紙幣押し込み機構132を備える。なお、符号133は紙幣押し込み機構132を駆動する押し込み部材、同じく130aは、紙幣押し込み機構132挿入用の穴を示している(特許文献1参照)。同様の構成は、特許文献2にも開示されている。
【0003】
近年、駅の券売機や、銀行等の現金自動預払機(Automatic teller machine:ATM)では、大量の紙幣を取り扱うことが多い。このため、紙幣収納庫に多量の紙幣を収納できるようにすることが要望される。
しかしながら、特許文献1に記載の紙幣収納庫において、収納できる紙幣の大容量化を図ると、以下の不具合を生じる。
即ち、図7は従来の紙幣収納庫の不具合を示すものであり、(a)は紙幣を入れない状態を示す模式的縦断面図、(b)は紙幣を格納した状態を示す模式図、(c)は底面図である。すなわち、紙幣の容量を大きくするためには、図7(a)に示すように、ケーシング130の高さ寸法Hを大きくし、紙幣堆積部材131のストロークを大きくする必要がある。そして、紙幣堆積部材131のストロークを大きくすると、紙幣堆積部材131を押圧するコイルバネ133の長さ寸法hを大きくし、ストローク寸法を大きくする必要がある。
【0004】
例えば、二千枚の紙幣の厚さ寸法は約400mmであり、これを収納するためには、コイルバネ133も約400mmのストローク寸法を必要とする。しかしながら、このように大きな寸法のコイルバネ133を使用して多量の紙幣Sを格納すると、図7(b)に示すように、紙幣の重さでコイルバネ133が押し縮められる際に座屈することがある。コイルバネ133が座屈すると、コイルバネ133による押し上げ力が得られず、ケーシング130内に正常に紙幣Sを格納できないという問題がある。
コイルバネの座屈については、JIS規格にも記載されているように、コイルバネの自由長をコイルの平均径で割った値が4を越えると座屈を発生しやすいことが一般的に知られている。
ここで、コイルバネ133の直径d(図7(c)参照)を大きくすることにより、コイルバネ133を長尺としても座屈を防止できるが、ケーシング130の寸法が紙幣サイズにより制限されるため、単純にコイルバネ133の直径dを大きくすることはできない。
【0005】
このような問題に対処して、多量の紙幣を収納することができる紙幣収納庫として以下のものが提案されている(特許文献2参照)。図8及び図9は他の紙幣収納庫を示す断面図である。
図8に示した紙幣収納庫は、ケーシング140内に配置され、紙幣Sを堆積する紙幣堆積部材141と、この紙幣堆積部材141を上下動自在に支持して常時上向きに弾性付勢する押し上げ機構143と、ケーシング140側壁に設けた入出金用のスリット146から導入されてきた紙幣を紙幣堆積部材141上に押し込むために上下動する紙幣押し込み機構142とを備えている。この例では、押し上げ機構143は、パンタグラフ機構144とコイルバネ145とを備えて構成される。
また、図9に示した紙幣収納庫は、ケーシング150内に配置され、紙幣Sを堆積する紙幣堆積部材151と、この紙幣堆積部材151を上下動自在に支持して上下動する駆動機構152と、紙幣Sを紙幣堆積部材151に押し込む紙幣押し込み機構157とを備えている。この例では、駆動機構152は、ケーシング150の側方に敷設した上下方向のガイドレール153と、このガイドレール153に沿って紙幣堆積部材151を上下移動可能に案内支持するワイヤ154と、紙幣堆積部材151を引き上げるコイルバネ155と、ワイヤ154の方向を転換する滑車156とを備えて構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−134748公報
【特許文献2】特開平10−21441号公報
【特許文献3】特開2001−67517公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したリンク機構を備えた紙幣収納庫や、ワイヤ及び滑車を備えた紙幣収納庫は、その構造が複雑で、部品点数が多くコストアップする他、機構を複雑とした分だけ故障などの不具合が多くなるという問題がある。
そこで本発明は、簡単な構造で多量の紙幣を収納できる紙幣収納庫を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の紙幣収納庫は、内部に紙幣収納空所を有したケーシングと、前記紙幣収納空所内に上下動自在に配置された紙幣堆積部材と、前記紙幣堆積部材を弾性的に上方に付勢するコイルバネと、を備える紙幣収納庫において、前記コイルバネは、下側コイルバネと、前記下側コイルバネの上方に中間部材を介して連接して配置された上側コイルバネと、を備え、前記中間部材は、前記下側コイルバネの上部と前記上側コイルバネの下部にそれぞれ固定された状態で前記ケーシング内において上下動自在に配置されるとともに、前記中間部材の姿勢を矯正するガイド部材を備えることを特徴とする。
多量の紙幣を収納できるように紙幣堆積部材のストローク量を大きくしても、中間部材が下コイルバネと上コイルバネの接合部をケーシング内でぶれることなく案内し、コイルバネの座屈を防止できる。このため、簡単な構造で多量の紙幣を収納できる紙幣収納庫を実現できる。
【0009】
請求項2の発明は、前記紙幣収納庫において、前記コイルバネは、少なくとも1本の下側コイルバネと、前記中間部材を介して前記下側コイルバネの中心線の延長線上に中心線を配置した少なくとも1本の上側コイルバネと、から構成されていることを特徴とする。
請求項3の発明は、前記紙幣収納庫において、前記コイルバネは、少なくとも1本の下側コイルバネと、前記中間部材を介して前記下側コイルバネの中心線の延長線から外れた位置に中心線を配置した2本以上の上側コイルバネと、から構成されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、前記紙幣収納庫において、前記ガイド部材は、前記ケーシングの内壁に接触するシューと、前記シューを保持する保持部と、を備えることを特徴とする。
請求項5の発明は、前記紙幣収納庫において、前記紙幣堆積部材及び前記中間部材を上下方向に案内する案内機構を備えることを特徴とする。
請求項6の発明は、前記紙幣収納庫において、前記案内機構は、前記ケーシング内に立設配置されたガイドシャフトと、前記紙幣堆積部材及び前記中間部材に取り付けられ、前記ガイドシャフトに沿って移動可能なベアリングとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る紙幣収納庫によれば、多量の紙幣を収納できるように紙幣堆積部材のストローク量を大きくしても、長尺とすべきコイルバネを下側コイルバネと上側コイルバネに分け、さらにそれらの接合部をケーシング内においてガイド部材で案内される中間部材で連結しているので、中間部材が下コイルバネと上コイルバネの接合部をケーシング内でぶれることなく案内して座屈を防止でき、簡単な構造で多量の紙幣を収納できる紙幣収納庫を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係る紙幣収納庫の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示した紙幣収納庫の中間部材とコイルバネとを示す斜視図である。
【図3】図1に示した紙幣収納庫の案内機構を示す断面図である。
【図4】第1の実施形態の変形例に係る紙幣収納庫の中間部材とコイルバネとを示す斜視図である。
【図5】第3の実施形態に係る紙幣収納庫を示す断面図である。
【図6】従来の紙幣収納庫を示す断面図である。
【図7】従来の紙幣収納庫の不具合を示すものであり、(a)は紙幣を入れない状態を示す模式図、(b)は紙幣を格納した状態を示す模式図、(c)は底面模式図である。
【図8】従来の紙幣収納庫を示す断面図である。
【図9】従来の紙幣収納庫を示すものであり、(a)は背面図、(b)は主要部分の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る紙幣収納庫を図面に基づいて説明する。
この紙幣収納庫は、各種自動販売機、入出金装置、両替機等の紙幣取扱装置に装備される紙幣処理装置に配置される。図1は第1の実施形態に係る紙幣収納庫の構成を示す断面図である。
実施形態に係る紙幣収納庫10は、紙幣を収納する紙幣収納空所を形成したケーシング11と、ケーシング11内に上下動自在に配置され上面に紙幣を積載する紙幣堆積部材12と、紙幣堆積部材12の上方に上下動自在に配置されて紙幣堆積部材上に紙幣を押し込む紙幣押し込み機構13と、を備える。なお、紙幣押し込み機構13としては、例えば従来例で示した構成を用いる。また、図1中紙幣押し込み機構13の詳細な構成は省略してある。
【0013】
ケーシング11内には紙幣堆積部材12を弾性的に上方に付勢するコイルバネとして下側コイルバネ14と、この下側コイルバネ14の上方に中間部材16を介して直列状に配置された上側コイルバネ15とを備える。第1の実施形態に係る紙幣収納庫10では、上側コイルバネ15の軸O2は、下側コイルバネ14の軸O1の延長線上に配置される。また、中間部材16は、下側コイルバネ14の上部と上側コイルバネ15の下部にそれぞれ固定された状態で上下動自在に構成され、全体として上方に向け付勢される。なお、下側コイルバネ14及び上側コイルバネ15はそれぞれ別部材として2本のコイルバネとすることができる他、1本のコイルバネの中間位置に中間部材16を配置して構成することもできる。
紙幣収納庫10は、中間部材16の端部に、ケーシング11の対向する2つの垂直な内壁11a、11a(或いは、格別のガイド部材)に沿って摺動する2個のガイド部材17、17を備える。ガイド部材17、17は、内壁11a、11aに沿って中間部材16を案内して、中間部材16の姿勢矯正用を行う。
【0014】
第1の実施形態では、ガイド部材17は、図2に示すように、一端に円弧状の接触部を備え、且つ摺動抵抗が少ない例えば合成樹脂で形成されたシュー18と、このシュー18を中間部材16に接合する保持部19とから構成される。なお、保持部19を中間部材16によって内外方向へ進退自在に支持すると共に、図示しないバネによって外側へ付勢することにより、シュー18を内壁11a、11aに対して弾性的に圧接するように構成することができる。これにより、中間部材を水平姿勢に矯正する効果を高めることができる。
また、実施形態1に係る紙幣収納庫10は、紙幣堆積部材12及び中間部材16を上下方向に案内する案内機構20を備えている。図3は図1に示した紙幣収納庫の案内機構を示す断面図である。この案内機構20は、ケーシング11内に立設配置されたガイドシャフト21と、紙幣堆積部材12及び中間部材16に夫々取り付けられ、ガイドシャフト21に沿って小さな抵抗で移動可能なベアリング22、23とから構成される。ガイドシャフト及びベアリングとしてはボールを使用したリニアボールベアリングを使用することができる。
【0015】
第1の実施形態に係る紙幣収納庫10によれば、中間部材16はガイド部材17、17と案内機構20とによりケーシング内壁に沿って上下方向へ安定して案内されるので、多量の紙幣を収納できるように紙幣堆積部材12のストローク量を大きくしても、ケーシング内部高さにほぼ相当する長さを有した一本のコイルバネを用いずに、コイルバネを下側コイルバネ14と上側コイルバネ15とに分け、各コイルバネ14、15の対向する端部を夫々ガイド部材17で案内される中間部材16に連結している。このため、上下のコイルバネの対向する各端部は中間部材16に案内されてケーシング11内でぶれずに案内されることとなり、短尺化した個々のコイルバネが挫屈することがなくなる。このため、簡単な構造で多量の紙幣を収納できる紙幣収納庫を実現できる。
なお、中間部材16に配置するガイド部材17の数は、2つに限らない。図4は第1の実施形態の変形例に係る紙幣収納庫の中間部材とコイルバネとを示す斜視図である。第2の実施形態は、中間部材16の4つの角隅部に夫々ガイド部材17を配置したものである。本実施形態に係る紙幣収納庫では、中間部材16の挙動をより安定させることができる。
【0016】
次に第2の実施形態に係る紙幣収納庫について説明する。図5は第2の実施形態に係る紙幣収納庫を示す断面図である。紙幣収納庫30は、ケーシング31に配置するコイルバネとして、1本の下側コイルバネ32と、ガイド部材17、17を備えた中間部材16を介して上方に配置された2本の上側コイルバネ33、34と、を配置している。第2の実施形態では、上側コイルバネ33、34は、軸O2、軸O3が、下側コイルバネ32の軸O1の延長線から外れた位置に配置されている。
つまり、上側及び下側に配置するコイルバネの本数は前記各実施形態で示した例に限らず、必要に応じて増やすことができる。
但し、第2の実施形態に係る紙幣収納庫30は、図1の実施形態に比してコイルバネの本数が増えるため組立てが煩雑となり、メンテナンスに際しても同様に手数を要する。また、コイルバネ33、34として長さと弾発力が全く同一のものをセレクトして組み付けを行わないと、紙幣堆積部材12を支持する際のバランスが悪化(水平姿勢保持の困難化)するため精密な調整が必要となる。これらの結果としてコストアップをもたらすこととなる。更に、図1の実施形態に比してコイルバネの本数が多く部品点数が増えるため、運用中に故障が発生する率も増大することとなる。
要するに、図1の実施形態のように上下一本ずつのバネを用いるのが最も好適な態様であると言える。
【0017】
以上説明したように、本発明に係る紙幣収納庫によれば、上側及び下側コイルバネの接合部に配置される中間部材にガイド部材を配置しているので、コイルバネの座屈が防止され、簡単な構造で多量の紙幣を収納できる紙幣収納庫を実現できる。
【符号の説明】
【0018】
10 紙幣収納庫、11 ケーシング、11a、11a 内壁、12 紙幣堆積部材、13 機構、14 下側コイルバネ、15 上側コイルバネ、16 中間部材、17、17 ガイド部材、18 シュー、19 保持部、20 案内機構、21 ガイドシャフト、22、23 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に紙幣収納空所を有したケーシングと、前記紙幣収納空所内に上下動自在に配置された紙幣堆積部材と、前記紙幣堆積部材を弾性的に上方に付勢するコイルバネと、を備える紙幣収納庫において、
前記コイルバネは、下側コイルバネと、前記下側コイルバネの上方に中間部材を介して連接して配置された上側コイルバネと、を備え、
前記中間部材は、前記下側コイルバネの上部と前記上側コイルバネの下部にそれぞれ固定された状態で前記ケーシング内において上下動自在に配置されるとともに、前記中間部材の姿勢を矯正するガイド部材を備えることを特徴とする紙幣収納庫。
【請求項2】
前記コイルバネは、少なくとも1本の下側コイルバネと、前記中間部材を介して前記下側コイルバネの中心線の延長線上に中心線を配置した少なくとも1本の上側コイルバネと、から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の紙幣収納庫。
【請求項3】
前記コイルバネは、少なくとも1本の下側コイルバネと、前記中間部材を介して前記下側コイルバネの中心線の延長線から外れた位置に中心線を配置した2本以上の上側コイルバネと、から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の紙幣収納庫。
【請求項4】
前記ガイド部材は、前記ケーシングの内壁に接触するシューと、前記シューを保持する保持部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の紙幣収納庫。
【請求項5】
前記紙幣堆積部材、及び前記中間部材を上下方向に案内する案内機構を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の紙幣収納庫。
【請求項6】
前記案内機構は、前記ケーシング内に立設配置されたガイドシャフトと、前記紙幣堆積部材、及び前記中間部材に取り付けられ、前記ガイドシャフトに沿って移動可能なベアリングと、を備えることを特徴とする請求項5に記載の紙幣収納庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−80317(P2013−80317A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219098(P2011−219098)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(305027456)ネッツエスアイ東洋株式会社 (200)
【Fターム(参考)】