説明

紙幣識別装置

【課題】識別センサから出力される値のばらつきにより、真券の受付性能と偽札の排除性能とを両立できない。
【解決手段】紙幣識別装置を製造する過程において、調整基準媒体10,20が有する特徴に対し識別センサ4が出力する調整用識別情報が取得され、この調整用識別情報と、識別センサ4において予め定められた基準値データとに基づいて補正情報が算出され、基準値データと前記調整用識別情報とからなる情報と、前記補正情報とのうちの少なくともいずれか一方の情報が記憶部に記憶される初期調整が行われる。そして、判別制御回路8は初期調整で算出された補正情報を用いて、紙幣通路2に挿入された紙幣7の識別情報を補正して判別するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学センサや磁気センサを用いた紙幣識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動販売機や券売機などで販売される商品の多様化と高額化に伴い、千円紙幣以外の高額紙幣を使用できる紙幣識別装置が広く使用されるようになってきた。特に高額紙幣を使用できる機器が一般的になりつつある。一方、複写機やカラープリンターなどOA機器の進歩に伴い、これら高精度の複写装置を用いた偽造紙幣が行使される犯罪も増加傾向にあり、紙幣識別装置に対しては識別能力を一層向上させて犯罪を未然に防止することが求められている。
【0003】
従来の紙幣識別装置について図8のブロック図を用いて説明する。図8において、40は判別対象の紙幣であり、38は紙幣が投入されたことを検知する投入口検知センサである。34は紙幣を搬送するベルトで構成された搬送手段である。この搬送手段34は、駆動手段36によって駆動される。35は紙幣40の搬送量を検知する検知手段である。
【0004】
従来の紙幣識別装置において紙幣を識別するための識別センサには、発光ダイオード30Aとフォトダイオード30Bからなる光学センサ31や磁気センサが用いられる。ここで、発光ダイオード30Aとフォトダイオード30Bとは通路を挟んで対向して配置され、その間を通る紙幣40の光学的な印刷パターンの透過量を検知する。
【0005】
増幅回路33は、フォトダイオード30Bから出力された出力信号を増幅する。判別制御回路37は、増幅回路33と検知手段35と投入口検知センサ38とが接続され、増幅回路33から得られた出力信号をディジタル量に変換するA/D変換機能と、紙幣40の測定位置と、その測定位置における許容範囲データを格納する記憶機能を内蔵している。
【0006】
ここでこのような従来の紙幣識別装置において、例えば光学センサ31の出力は光学センサ31の製造時における素子特性の不均一や、紙幣識別装置の組み立て時における光学センサ31位置の位置ばらつきにより、製品毎に光学センサ31から出力される出力特性が異なる。そこで紙幣識別装置においては、製品の製造時に光学センサ31の出力値を一定水準に調整する初期調整が行われる。
【0007】
この初期調整では、紙幣無しの状態における識別センサの出力を一定値に調整する。例えば増幅回路33の増幅率を微調整するための高精度可変抵抗器などを用い、この抵抗器を調整することで識別センサの出力が一定値となるように調整することとなる。
【0008】
そしてこのようにして調整された光学センサ31によって、搬送された前記紙幣40の予め定められた紙幣位置の特徴データが検知される。そして判別制御回路は、この光学センサ31からの出力と記憶機能に設定した許容範囲データとを比較することにより紙幣を判別していた。
【0009】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2001−126108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら従来の紙幣識別装置では、紙幣無しの状態における識別センサの出力を一定値に調整するだけであるので、製品毎に紙幣が無い状態でのセンサ情報値、紙幣の印刷が施されていない部分でのセンサ情報値、紙幣の印刷が施されている部分でのセンサ情報値の全てを目標とする値に近づけることができなかった。
【0011】
そのため、紙幣の真贋を判定するための許容範囲データは、機器毎にばらつくセンサ情報値を考慮し、広く設定しなければならなかった。従って、本物の札(以後、真券と呼ぶ)の受付を優先すれば、偽札の排除が困難となり、偽札の排除性能を高めようとすれば、真券の受付率が下がり、真券の受付性能と偽札の排除性能とを両立できないという課題を有している。
【0012】
そこで、本発明は上記従来の問題点を解決するものであり、高い真券の受付性能と、高い偽札の排除性能とを両立することができる紙幣識別装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の紙幣識別装置における初期調整において、調整基準媒体が有する特徴に対し識別センサが出力する調整用識別情報が取得される。この調整用識別情報と、識別センサにおいて予め定められた基準値データとに基づいて補正情報が算出され、判別制御回路はこの補正情報を用いて、紙幣通路に挿入された紙幣の識別情報を補正して判別するものである。これにより所期の目的を達成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紙幣通路と、紙幣通路に付設され前記紙幣通路に挿入された紙幣の識別情報を検出する識別センサと、この識別センサに接続されると共に、前記識別センサの検出した識別情報を判別する判別制御回路と、この判別制御回路に接続された記憶部とを備え、前記判別制御回路は前記識別センサにおいて予め定められた基準値データと、初期調整時において調整基準媒体が有する特徴に対し前記識別センサが出力する調整用識別情報とに基づいて算出される補正情報を用いて、前記紙幣通路に挿入された紙幣の識別情報を補正して判別するとともに、前記記憶部には、前記基準値データと、前記調整用識別情報とからなる情報と前記補正情報とのうちの少なくともいずれか一方の情報を記憶させたものである。
【0015】
つまり、調整基準媒体の有する特徴に対応したセンサ出力によって調整用識別情報を取得し、この調整用識別情報と基準値データとの比較情報とから識別センサ出力に対する補正情報を算出できる。これにより、センサから出力される信号の特性を基準値データの特性に近づけることが可能となる。従って、紙幣の識別時、判別制御回路はセンサ出力情報値が補正情報により補正された値を用いて識別するので、高い真券の受付性能と高い偽札の排除性能とを両立することができる紙幣識別装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における紙幣識別装置について図面を参照しながら説明する。図2は紙幣識別装置の外観図である。図3は図2のA−A断面図である。
【0017】
1は紙幣投入口であり、識別対象紙幣の厚み、幅を考慮した寸法となっている。2は紙幣が通る紙幣通路であり、3は紙幣を搬送する搬送手段(ベルト)である。4は識別センサであり、本実施の形態においては、光学センサと磁気センサとを含んでいる。投入口1から投入された紙幣は紙幣通路2内を搬送手段3によって搬送され、識別センサ4がこの搬送されてくる紙幣の位置毎の情報を読み取る。なお、識別センサとして、上記センサ以外に微小変位センサ等を加えても良い。
【0018】
図1は本発明の実施の形態1における紙幣識別装置のブロック図である。図1において、光学センサは、発光素子4A(LED)と受光素子4Bとからなる。受光素子4Bはフォトトランジスタまたはフォトダイオードからなり、発光素子4Aと通路を挟んで互いに対向するように配置される。受光素子4Bの出力信号は増幅回路6Aを介して、判別制御回路8(CPU)に接続される。4Cは磁気センサであり、増幅回路6Bを介して判別制御回路8に接続される。発光素子を駆動するLED駆動回路5は判別制御回路8に接続されており、複数色の光学センサを使用するときに点灯のタイミングを判別制御回路8によって制御する。なお、本実施の形態における増幅回路6Bに代えて対数増幅回路としても良く、光学センサは、反射型センサ構造にしても良い。
【0019】
判別制御回路8は、A/D変換機能、D/A変換機能、演算機能および、紙幣の測定位置とその許容範囲データが格納された内部記憶部を備えている。そして増幅回路6Aによって増幅された受光素子4Bの出力信号は、判別制御回路内部のA/D変換機能によって、光学センサ情報値として標本化される。同様に増幅回路6Bによって増幅された磁気検出素子の出力信号が、磁気センサ情報値として標本化される。判別制御回路8には外部記憶手段9(EEPROMであり記憶部の一例として用いた)が接続されている。なお、本実施の形態におけるA/D変換機能は、256段階の分解能を有する。
【0020】
以上のように構成された本実施の形態の紙幣識別装置においても、製品生産時に識別センサ4の初期調整が行われる。この初期調整では、識別センサ4の出力値の調整が行われる。では以下、初期調整の方法について説明する。初期調整は、まず紙幣通路2に被検出物がない状態(無紙幣状態)において、識別センサ4から出力される値がディジタル値へと変換され、無紙幣時のセンサ情報値として外部記憶手段9へ記憶される。
【0021】
次に調整基準媒体が被調整製品の紙幣投入口1から紙幣通路2へと挿入される。これにより検出センサは調整基準媒体が有する特徴を検知し、その特徴に対応した出力信号を判別制御回路8へ出力する。ここで調整基準媒体の有する特徴とは、識別センサが光学センサである場合には色の濃さのことであり、識別センサが磁気センサである場合には磁力のことであり、識別センサが微小変位センサである場合には厚みのことである。
【0022】
判別制御回路8では、調整基準媒体に対するこれらの検出センサ出力をA/D変換機能によって調整用識別情報へと変換し、外部記憶手段9へ記憶させる。なお外部記憶手段9には、無紙幣時と調整基準媒体のそれぞれの特徴に対して、理想的、平均的な識別センサが出力する出力値が基準データとして格納されている。ここで基準データとは、調整基準媒体の有する特徴に対して判別制御回路8が本来入力されるべき値であり、逆に言えば調整基準媒体に対して識別センサ4が本来出力すべき値である。
【0023】
そしてこのように構成された紙幣識別装置で実際に紙幣を識別する場合、判別制御回路8は、無紙幣時のセンサ情報値と、調整用識別情報と基準データとに基づく補正情報を用いて、識別センサ4が紙幣を検知して出力した出力信号を補正する。このようにすることによって、識別センサの出力は、無紙幣状態と調整基準媒体が挿入された2つの状態において調整されることとなるので、識別センサ4のばらつきに関わらず識別センサ4から出力される信号の特性を基準データの特性に近づけることが可能となる。そして紙幣の判定時には、判別制御回路8が補正情報により補正されたセンサ情報値を用いて紙幣を判定するので、高い真券の受付性能と高い偽札の排除性能とを両立することができる紙幣識別装置を実現できる。また、識別センサ4の出力を予め定められた信号レベルに近づけるために、高精度な可変抵抗器などを必要としないので、その部材自体のコストに加え、可変抵抗器の調整作業も不要となり、安価な紙幣識別装置を実現できる。
【0024】
なお、本実施の形態における初期調整では、紙幣を検知した場合に検知センサ4からの出力が最大となるべき紙幣特徴と、最小となるべき紙幣特徴との2つの特徴により調整を行っている。これにより、識別センサ4から出力される信号の特性をさらに基準データの特性に近づけることが可能となる。従ってさらに高い真券の受付性能と高い偽札の排除性能とを両立することができる。
【0025】
そしてこのように、2つの特徴により調整を行っているので、増幅回路6Aに代えて対数増幅回路を用いたような場合においても、紙幣が無い状態でのセンサ情報値、紙幣の印刷が施されていない部分でのセンサ情報値、紙幣の印刷が施されている部分においてセンサ情報値を目標とする値に近づけることができる。
【0026】
ここで2つの特徴とは、例えば検知センサが光センサである場合、紙幣の最も薄い部分の色と最も濃い部分の色のことである。また、例えば検出センサが磁気センサである場合には、紙幣の磁気のない部分と磁気の最も強い部分の磁力のことであり、検出センサが微小変位センサである場合には、紙幣の最も厚い部分と最も薄い部分との特徴のことである。
【0027】
また本実施の形態ではこの2つの特徴をひとつの調整基準媒体上に形成している。これにより、1種類のセンサに対する初期調整は、1枚の調整基準媒体を挿入するだけで行える。従って、調整時の工数を少なくできるので、安価な紙幣識別装置を実現できる。
【0028】
さらに本実施の形態では、初期調整の段階で調整用識別情報の値と基準データとが外部記憶手段9に記憶させられる。さらに判別制御回路8は、これらの値から補正情報を算出し、その補正情報も外部記憶手段9へ記憶させている。これにより紙幣を識別する度に補正情報を算出する必要が無く、紙幣の判定をすばやく行うことができる。またこのようにすれば、識別センサ4の経時変化による出力値変化に対して容易に対応することも可能となる。つまり、基準データも格納されているので、市場に設置された状態において、再度初期調整を行えば、そのときの識別センサ4の出力値に応じた補正値を容易に設定することができるためである。なおこの設定のためには、例えば判別制御回路8に初期設定の処理を行わせるためのスイッチ等を設けておけばよい。そして市場に設置された状態において、このスイッチにより初期設定モードへと切替え、調整基準媒体を挿入することによって、再度初期設定の処理を行うことが可能となる。
【0029】
ここで本実施の形態では、初期調整の段階で調整用識別情報の値と基準データも外部記憶手段9に記憶させたままとしたが、これは初期調整によるセンサ情報値や基準データから予め算出した補正情報のみを外部記憶手段9に記憶させても良い。この場合、市場において初期調整を行えなくさせることができる。従って、防犯性の高い紙幣識別装置を実現できることとなる。また、記憶させるデータが少ないので、その分外部記憶手段9のメモリ容量を少なくしても良い。もちろん紙幣を識別する度に、センサ情報値と基準データとから補正情報を算出しても構わない。
【0030】
次に本実施の形態において、各センサに対する初期調整について説明する。まずは光学センサの初期調整について説明する。図4は調整基準媒体10のイメージ図である。図4に示すように調整基準媒体10は、光学センサが識別対象とする紙幣の印刷の無い部分を読み取ったときのセンサ情報値に相当する材質部分(以後、光学明部10Aと呼ぶ)と、紙幣印刷の最も濃い印刷部分を読み取った時のセンサ情報値に相当する加工(印刷)が施された部分(以後、光学暗部10Bと呼ぶ)を持ち合わせている。
【0031】
そして初期調整においてこの調整基準媒体10が被調整製品へ挿入され、受光素子4Bから光学明部10Aと光学暗部10Bとに対応する出力信号が判別制御回路8へ出力される。判別制御回路8では、これらの調整基準媒体10に対するセンサ出力がA/D変換機能によってセンサ情報値(調整用識別情報の一例として用いた)へと変換される。そして、この光学明部10Aと光学暗部10Bとに対するセンサ情報値が外部記憶手段9へ記憶される。ここで外部記憶手段9には、受光素子4Bに対する基準データも記憶させている。
【0032】
図5は初期調整段階で調整基準媒体10を被調整製品へ投入したときに得られたセンサ情報値の特性グラフである。縦軸は、受光素子4Bの情報値であり、A/D変換機能により0から255の値に標本化されている。数値が大きい程、光の透過量が多いことを示す。横軸は、判別制御回路8による読込パルスを示している。ここで、搬送速度と読込パルス間隔から読込パルスと調整基準媒体10の位置関係が決定されるものであり、例えば搬送速度が100MM/Sで、読込パルスタイミングが10MS間隔であれば、1パルスは1MMに相当し調整基準媒体のセンサ情報値を1MM間隔で検出していることになる。
【0033】
初期調整によって外部記憶手段9には、無紙幣時の光学センサ情報値(Y1)、光学明部の光学センサ情報値(Y2)、光学暗部の光学センサ情報値(Y3)、光学無紙幣部の基準データ(X1)、光学明部の光学基準データ(X2)、光学暗部の光学基準データ(X3)とが、予め記憶される。
【0034】
そして判別制御回路8は、これらの値から補正情報を算出するが、本実施の形態では無紙幣時と光学明部との間での補正情報と、光学明部と光学暗部との間での補正情報とをそれぞれに算出する。まず、無紙幣時と光学明部との間での補正情報(C1)の算出は、無紙幣時の光学センサ情報値(Y1)、光学明部の光学センサ情報値(Y2)および光学無紙幣部の基準データ(X1)と光学明部の光学基準データ(X2)とから算出する。
【0035】
【数1】

【0036】
次に、光学明部と光学暗部との間での補正情報(C2)の算出は、光学明部の光学センサ情報値(Y2)、光学暗部の光学センサ情報値(Y3)および光学明部の光学基準データ(X2)と光学暗部の光学基準データ(X3)とから算出する。
【0037】
【数2】

【0038】
そして本実施の形態における初期調整では、これらの補正情報(C1)、(C2)の算出と、外部記憶手段9への記憶までが行われる。
【0039】
次に、このように初期調整された紙幣識別装置で実際の紙幣を判定する手順を説明する。まず判別制御回路8は、実際の紙幣に対して検出されたセンサ情報値(Y2’)が光学明部の光学センサ情報値(Y2)以上か、あるいは光学明部の光学センサ情報値(Y2)より小さいかを判定する。そしてセンサ情報値(Y2’)が光学センサ情報値(Y2)以上であった場合に、判別制御回路8はセンサ情報値(Y2’)は補正情報(C1)を用いて補正し、補正された光学センサ情報値(E1)を求める。
【0040】
【数3】

【0041】
逆にセンサ情報値(Y2’)が光学センサ情報値(Y2)より小さい場合に、判別制御回路8はセンサ情報値(Y2’)は補正情報(C2)を用いて補正し、補正された光学センサ情報値(E2)を求める。
【0042】
【数4】

【0043】
そして判別制御回路8は、この補正された光学センサ情報値(E1)あるいは補正された光学センサ情報値(E2)と、この判別制御回路8内の記憶機能に記憶されたその測定位置における許容範囲データとを比較して紙幣の真偽を判定する。
【0044】
ではこのような紙幣識別装置において、補正された光学センサ情報値(E1)の具体的な計算例を示す。例えば無紙幣時の光学センサ情報値(Y1)が220であり、光学明部の光学センサ情報値(Y2)が88であり、光学暗部の光学センサ情報値(Y3)が44であり、光学無紙幣部の基準データ(X1)が200であり、光学明部の光学基準データ(X2)が80であり、光学暗部の光学基準データ(X3)が40である場合を例にとって説明する。なおこのときの補正情報(C1)、(C2)の値は共に1.1となる。
【0045】
そして例えば、紙幣識別時に読み取った光学センサ情報値(S1)が“100”である場合は以下のようになる。この光学センサ情報値(S1)の値が光学センサ情報値(Y2)以上であるので、光学センサ情報値(S1)は補正情報(C1)を用いて補正され、補正した光学センサ情報値(E1)は90.9となる。なおこのように、算出した値が整数にならないような場合には、近似値を用いる。従って、補正した光学センサ情報値(E1)は91となる。つまり、補正前の光学センサ情報値(S1)をそのまま用いると、光学明部の光学基準データ(X2)より透過量が20カウント高いと判断されてしまうが、検出した光学センサ情報(S1)を初期調整時に設定された補正情報により補正することにより、いま検出した光学センサ情報は基準データの明部レベルよりも透過量が11カウント高い識別センサ情報値であると補正して識別することが可能となる。
【0046】
別例として、紙幣識別時に読み取った光学センサ情報値(S1)が、“73”である場合には、以下のようになる。この光学センサ情報値(S1)が光学明部のセンサ情報値(Y2)より小さいので、光学センサ情報値(S1)は補正情報(C2)を用いて補正され、補正した光学センサ情報値(E2)は66となる。つまり、補正前の光学センサ情報値(S1)をそのまま用いると、光学明部の光学基準データ(X2)より透過量が7カウント低いと判断されてしまうが、検出した光学センサ情報(S1)を初期調整時に設定された補正情報により補正することにより、いま検出した光学センサ情報は基準データの明部レベルよりも透過量が14カウント低い識別センサ情報値であると補正して識別することが可能となる。
【0047】
以上の説明においては、基準データと製品センサ情報値が、無紙幣時、明部、暗部の比率が一定の場合について説明をしているが実際には一定比率ではない。よって高精度の可変抵抗器などを用いて増幅回路6Aを微調整し、例えば明部レベルを一定にしたとしても暗部レベルの製品毎に発生するばらつきを防ぐことはできない。その場合においても、光学明部のセンサ情報値と光学暗部のセンサ情報値との間において、色調に対するセンサ情報値に補正をかけることにより、より精度よく判定することが可能となる。従って、紙幣の色調を精度良く識別することができるので、真券の受入特性も偽札の排除能力も共に非常に高い紙幣識別装置を実現できる。
【0048】
なお、ここでは光学明部の光学センサ情報値(Y2)や光学暗部の光学センサ情報値(Y3)が光学明部の光学基準データ(X2)や光学暗部の光学基準データ(X3)よりも大きい場合について、事例を示したが、これは逆の場合も同じ方法で算出することができる。以上のように光学明部の光学センサ情報値(Y2)や光学暗部の光学センサ情報値(Y3)と光学明部の光学基準データ(X2)や光学暗部の光学基準データ(X3)との上下に関わらず、調整用識別情報と基準データに基づき補正することで、基準データのセンサ情報値の特性に近づけることができる。
【0049】
次に磁気センサ4Cに対する初期調整を説明する。図6は調整基準媒体20(磁気調整用)のイメージ図である。この磁気に対する調整基準媒体20は、磁気調整用として識別センサが識別対象紙幣の磁気の無い印刷部分を読み取った時のセンサ情報値に相当する材質部分20A(以後、磁気無部と呼ぶ)と、最も磁気の強い磁気印刷部分を読み取ったときのセンサ情報値に相当する磁性体を持つように加工された部分20B(以後、磁気有部と呼ぶ)を持ち合わせている。
【0050】
この初期調整時においても光学の初期調整と同様に、磁気センサ4Cにおける前記調整基準媒体20を投入した時の磁気無部20Aのセンサ情報値(M1)と、磁気有部20Bでのセンサ情報値(M2)と、調整基準媒体20を使った時の磁気無部の基準データ(L1)、磁気有部の基準データ(L2)、およびそれらから算出された補正情報とを外部記憶手段9に記憶させられる。
【0051】
図7は調整基準媒体20を調整時に投入したときに得られる磁気センサ情報値(調整用識別情報の一例として用いた)の特性グラフである。ここで縦軸は、磁気センサの情報値であり、A/D変換機能により0から255の値に標本化されている。磁気が無いときが最も値が大きく、磁気を感知したレベルが高いほどセンサの標本値は低い値を示す。ここで、横軸については、光学センサと同じであるので説明を省略する。なお磁気の場合には紙幣無し状態と磁気明部20Aでのセンサ情報値((M1)とで差が小さい。従って、本実施の形態において磁気センサ4Cに対しては、磁気無部20Aのセンサ情報値(M1)と磁気有部20Bのセンサ情報値(M2)との間のみ補正を行う。
【0052】
初期調整段階において、まずこれらの磁気センサ情報値を用いて補正情報(D1)を算出する。そして本実施の形態では、この補正情報(D1)も外部記憶手段9に記憶させられる。
【0053】
【数5】

【0054】
次に、このように初期調整された紙幣識別装置で実際の紙幣を判定する手順を説明する。判別制御回路8は、補正情報(D1)を用いて、実際の紙幣に対して検出された磁気センサ情報値(S2)を補正し、補正された磁気センサ情報値F1を求める。
【0055】
【数6】

【0056】
そして判別制御回路8は、この補正された磁気センサ情報値(F1)と、この判別制御回路8内の記憶機能に記憶されたその測定位置における許容範囲データとを比較して紙幣の真偽を判定する。
【0057】
ではこのような紙幣識別装置において、補正された磁気センサ情報値(F1)の具体的な計算例について説明する。たとえば、磁気無部20Aの磁気センサ情報値(M1)が230であり、磁気有部20Bの磁気センサ情報値(M2)が50であり、調整基準媒体20を使った時の磁気無部の基準データ(L1)が235であり、磁気有部の基準データ(L2)が100である場合を例にとって説明する。このとき補正情報(D1)は、1.33となる。
【0058】
そして例えば、補正前の磁気センサ情報値(S2)が“85”である場合、補正した磁気センサ情報値F1の値は、126となる。つまり、基準データにおける磁気有部より遥かに強い磁気を示すデータが製品で得られたとしても、そのデータを補正してやることにより、あたかも標準品で測定した時のセンサ情報値に近づけることが可能となる。
【0059】
以上のように各識別センサ情報値を基準データ特性に近づけることができるので、判別制御回路8が紙幣の真贋を判別する時には判別制御回路8の内部記憶部に記憶された紙幣の測定位置とその許容範囲データは、製品毎にばらつくセンサ情報値を考慮することなく範囲設定できるので、真券はより受付けやすく、偽券はより排除しやすい設定範囲データとすることができる。
【0060】
なお、本実施の形態1で説明している外部記憶手段9に記憶させておく基準データを一定としているが、現実は調整基準媒体10自身の劣化や加工上のばらつきも生じる。その場合に基準データを固定データとしていれば、調整基準媒体10の加工や材質のばらつきは直接製品の補正精度に影響を及ぼす。しかし、この場合も、紙幣位置における許容範囲を決める時に使用した基準製品を使うことで解決できる。つまり、この基準製品に調整基準媒体10を投入したときのセンサ情報値を個々の製品の基準データとして外部記憶手段9に記憶させ、同一の基準調整媒体10を用いて個々の製品におけるセンサ情報値を製品値として外部記憶手段9に記憶させる。こうすれば基準調整媒体10の多少の加工ばらつきや劣化が生じても基準製品の特性に近づくように補正することができるので基準調整媒体10の選別などの手間が省け経済的である。
【0061】
なお、本実施の形態1で説明している調整基準媒体10,20は説明の便宜上分けて説明しているが、各材質部分10A,20A、加工部分10B,20Bは得られる光学、磁気センサ情報値で紙幣に相当する特性が出せれば、同一にすることが可能である。その場合は調整回数を1度で行えるので、調整作業の工数が少なくできる。従って、低価格な紙幣識別装置を実現できる。例えばこれは、調整基準媒体の材質を紙幣の透かし部と同等レベルになるようにしたものを用い、10B,20Bに相当する加工部分を磁気トナーインクで着色した物を使えば、同じ領域で光学と磁気の両方の調整が可能である。また調整基準媒体10に光学調整用の領域10A,10Bと磁気調整用の領域20A,20Bを同時に持たせることも可能である。
【0062】
さらに、本実施の形態1で説明している調整基準媒体10,20は、各材質部分10A,20A、加工部分10B,20Bだけでなく、10Bより50%透過しやすい光学暗部分、20Bより50%磁気の弱い磁気加工部などを段階的に細かくしたものを複数設けておくことも可能である。この場合外部記憶手段9にこの調整基準媒体10における基準データと、初期調整時にこの調整基準媒体10のセンサ情報値を記憶させることによって、該当区間における補正量がより精度を増し、完全な線形特性、傾きを持たない識別センサ4においても、より基準データの特性に近づけることが可能である。
【0063】
さらにまた、本実施の形態1で説明している磁気センサ4Cを別のセンサに応用することも可能である。例えば紙幣のインキ盛上りによる紙面の凹凸を検出する識別センサとして、微小変位センサを用い、調整基準媒体10は、真券紙幣凹凸に相当する凹凸加工を施しておき、この調整基準媒体10における製品のセンサ情報値と基準データを外部記憶手段9に記憶させておくことで、基準値データの特性に近づけることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の紙幣識別装置は、紙幣の特徴を測定する識別センサの製品毎のばらつきを補正計算によって低減させることで、紙幣の真贋をより正確に行うことができるという効果を有し、遊技機や自動販売機用として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1におけるブロック図
【図2】同実施形態における紙幣識別装置の斜視図
【図3】同実施形態における紙幣識別装置の断面図
【図4】同実施形態における光学センサ調整基準媒体の上面図
【図5】同実施形態における光学センサ情報値の概念図
【図6】同実施形態における磁気センサ調整基準媒体の上面図
【図7】同実施形態における磁気センサ情報値の概念図
【図8】従来の識別装置のブロック図
【符号の説明】
【0066】
4A 発光素子
4B 受光素子
4C 磁気センサ
5 LED駆動回路
6A 受光素子4B出力信号増幅回路
6B 磁気センサ4C出力信号増幅回路
7 識別対象紙幣
8 判別制御回路
9 外部記憶手段
10,20 調整基準媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣通路と、
紙幣通路に付設され前記紙幣通路に挿入された紙幣の識別情報を検出する識別センサと、
この識別センサに接続されると共に、前記識別センサの検出した識別情報を判別する判別制御回路と、
この判別制御回路に接続された記憶部とを備え、
前記判別制御回路は、前記識別センサにおいて予め定められた基準値データと、初期調整時において調整基準媒体が有する特徴に対し前記識別センサが出力する調整用識別情報とに基づいて算出される補正情報を用いて、前記紙幣通路に挿入された紙幣の識別情報を補正して判別するとともに、
前記記憶部には、前記基準値データと前記調整用識別情報とからなる情報と、前記補正情報とのうちの少なくともいずれか一方の情報を記憶させた紙幣識別装置。
【請求項2】
基準値データは、予め定められた基準製品における前記調整基準媒体の識別情報を用いた請求項1記載の紙幣識別装置。
【請求項3】
前記識別センサの少なくとも一つは光学センサであり、
前記調整基準媒体は、少なくとも一部に識別対象紙幣の最も透過しやすい部分と透過しにくい部分に相当する加工が施された請求項1または2に記載の紙幣識別装置。
【請求項4】
前記識別センサの少なくとも一つは磁気センサであり、
前記調整基準媒体には、少なくとも一部に識別対象紙幣の磁気印刷に相当する磁性を持つように加工が施された請求項1または2に記載の紙幣識別装置。
【請求項5】
前記識別センサの少なくとも一つは微小変位センサであり、
前記調整基準媒体には、少なくとも一部に識別対象紙幣の印刷による表面凹凸に相当する凹凸加工が施された請求項1または2に記載の紙幣識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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