説明

紙質向上剤

【課題】嵩高剤による嵩高紙製造における課題の一つに、プレドライヤー通過等のドライヤー直後の紙の表面に塗液を塗布する工程で、塗液の吸液量が増大する傾向があり、特に、塗液を塗布する工程としてはサイズプレス工程での吸液が問題である。塗液の吸液を抑制でき嵩高い紙が得られる紙質向上剤を提供する。
【解決手段】ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)とを反応させて得られるアミド化合物に、エピクロロヒドリン(c)とをさらに反応させて得られた反応生成物であって、前記反応生成物の有機クロル量が5(mgKOH/g)以上である紙質向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用の紙質向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色度、不透明度、印刷適性、そしてボリューム感等に優れた品質の高い紙が求められている一方で、環境への配慮からパルプ使用量の少ない軽量な紙が望まれている。これらを紙の嵩高さによって解決すべく、これまでに種々の嵩向上の方法が試みられており、その一つとして嵩高剤等の紙質向上剤の利用が挙げられる。嵩高剤の一種として、アミドアミン系化合物の嵩高剤が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、加圧処理をしても密度の上昇が少なく、インクの吸収性が高く、インク画像の発色性と耐水性に優れる塗被紙を得ることを目的として、モノアミン、ポリアミン、ポリアルキレンイミン又はそれらの誘導体から活性水素を除いた残基とアシル基等を有する化合物に、エピハロヒドリン若しくはグリシジルエーテル及び/又はそれらから誘導された化合物を反応して得られる化合物等をパルプ繊維に付着させ嵩高さを付与した低密度紙を原紙として用いることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、紙の強度とサイズ度を低下させることなく、不透明度の高い紙製品を製造できることを目的として、モノアミン、ポリアミン、ポリアルキレンイミン又はそれら誘導体から活性水素を除いた残基とアシル基等を有する化合物に、エピハロヒドリン若しくはグリシジルエーテル及び/又はそれらから誘導された化合物を反応して得られる化合物を特徴とする紙用不透明化剤が開示されている。そして、その製造例として、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸(モル比1/2)とを反応して中間化合物を得、さらに該中間化合物を90℃に加熱し、エピクロロヒドリン(モル比1/2)を滴下して得られる紙用不透明化剤成分が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、カチオン性高分子及び/又は両性高分子の存在下で、所定のアミド系化合物とエピハロヒドリンとの反応を行って得られる高分子化合物を高濃度化された水性エマルション系の紙用内添添加剤として用いることが開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、従来のサイジング剤の効果を改良するために、特定の脂肪酸混合物と特定のアミン類とから調製され、エピクロロヒドリンで4級化されている塩基性脂肪酸アミド類の水性調合物と、電解質とからなる紙用のサイジング剤を用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、特定のアミン化合物(a)と、炭素数8〜40で融点が60℃以上のカルボン酸(b)と、尿素(c)と、前記アミン化合物(a)の第1級アミノ基及び第2級アミノ基の総モル数に対して0〜0.2モル当量のエピハロヒドリン(d)と、を反応させて得られた、アミン価が0〜80KOHmg/gの反応混合物及び/またはその中和塩を含有してなる紙質向上剤が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−188001号公報
【特許文献2】特開2000−273792号公報
【特許文献3】特開2006−104609号公報
【特許文献4】特公昭63−30439号公報
【特許文献5】特開2007−9393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
嵩高剤による嵩高紙製造における課題の一つに、プレドライヤー通過等のドライヤー直後の紙の表面に塗液を塗布する工程で、塗液の吸液量が増大する傾向がある。これは嵩高剤を使用すると紙の空隙率が増大することが大きな要因と考えられる。この吸液量の増大によって、塗布後の乾燥負荷が増し、嵩高紙製造全体で抄速が十分に上げられなくなる(抄速低下)。特に、塗液を塗布する工程としてはサイズプレス工程での吸液が問題である。そして、吸液量の増大の現象は、塗液中に紙を通過させるという構造上、吸液制御が困難とされる2ロールサイズプレスで顕著にみられている。
【0010】
本発明は、抄紙時の塗液の吸液を抑制でき嵩高い紙が得られる紙質向上剤及びそれを用いた紙の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)とを反応させて得られるアミド化合物に、エピクロロヒドリン(c)とをさらに反応させて得られる反応生成物からなる紙質向上剤であって、前記反応生成物の有機クロル量が5(mgKOH/g)以上である紙質向上剤に関する。
【0012】
また、本発明は、ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)とを反応させて得られるアミド化合物に、エピクロロヒドリン(c)とをさらに反応させて得られる反応生成物を水に分散させた水分散体からなる紙質向上剤であって、
前記反応生成物の有機クロル量が5(mgKOH/g)以上であり、
前記水分散体における分散粒子の平均粒子径が0.1〜20μmである、
紙質向上剤に関する。
【0013】
また、本発明は、サイズプレス工程を有する紙の製造方法であって、上記本発明の紙質向上剤をサイズプレス工程より前に添加する工程を有する紙の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抄紙時の塗液の吸液を抑制でき嵩高い紙が得られる紙質向上剤及び該剤を用いた紙の製造方法が提供される。本発明の紙質向上剤を用いることで塗液の吸液が抑制されるので、抄紙速度を上げることができ、従来よりも嵩高紙の生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の紙質向上剤は、抄紙時にパルプスラリー中に添加し抄紙することにより、得られる紙の嵩高効果を維持しつつドライヤー直後の塗液を塗布する工程で塗液の吸液を抑制するものである。以下、本発明の紙質向上剤を得るのに用いられるアミン化合物(a)、特定の脂肪酸類(b)、及びエピクロロヒドリン(c)について説明する。
【0016】
<アミン化合物(a)>
本発明の紙質向上剤を得るには、ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物が用いられる。ポリアルキレンポリアミンの中でもポリエチレンポリアミン及びポリプロレンポリアミンが好ましい。
【0017】
ポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなど、さらに、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミンなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。なかでも、嵩高性能および原料を工業的に安価に入手することができるという点で、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンが好ましい。
【0018】
<脂肪酸類(b)>
また、本発明の紙質向上剤を得るのに用いられる炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)〔以下、脂肪酸類(b)という場合もある〕は、飽和脂肪酸と飽和脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸類(b)の脂肪酸の炭素数は12〜30が好ましく、更に炭素数16〜24が好ましい。また、直鎖又は分岐鎖の何れでもよいが、直鎖が好ましい。例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。飽和脂肪酸を主成分として本発明の効果を有する範囲で不飽和脂肪酸を含有しても良い。飽和脂肪酸は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。脂肪酸混合物としては、ヤシ油脂肪酸などの天然由来の脂肪酸を使用することもできる。塗液の吸液性の観点から、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。
【0019】
飽和脂肪酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル等の1価アルコール(好ましくはメチル)とのエステル、グリセリン等の多価アルコールとのエステルが挙げられる。飽和脂肪酸エステルの飽和脂肪酸は、前記の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸類(b)として飽和脂肪酸エステルをアミン化合物(a)と反応させてアミド化合物を得る場合、副生物として飽和脂肪酸エステルからアルコールが生じる。本発明の紙質向上剤の保存安定性の観点から、含有されるアルコールが紙質向上剤中5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。したがって、飽和脂肪酸のエステルを脂肪酸類(b)として用いる場合は、アミン化合物(a)と反応させて得られるアミド化合物から生じるアルコールを除去することが好ましい。アルコールの除去し易さの点から、飽和脂肪酸エステルとしてメチルエステルが好ましく、具体的には、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチルが挙げられる。
【0020】
得られる紙の嵩高の観点から、脂肪酸類(b)の使用量は、アミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対して、0.5〜1当量が好ましく、0.7〜1当量がより好ましく、0.8〜1当量がさらに好ましい。アミン化合物(a)のアミン価は、サンプル0.5〜1.5gをブタノール50mLに溶解し、自動電位差滴定装置で0.2mol/lHClO4−酢酸溶液を用いて滴定することにより求めることができる。
【0021】
<エピクロロヒドリン(c)>
本発明の紙質向上剤を得るのに用いられるエピクロロヒドリン(c)は、工業用原料及び試薬等の市販品を使用することができる。
【0022】
エピクロロヒドリン(c)の使用量は、抄紙時の吸液抑制の観点から、アミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対して、0.1当量以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましい。また、エピクロロヒドリン(c)の使用量は、1,3ジクロロ2プロパノールの量を抑制する観点から、アミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対して、〔(1−脂肪酸類(b)の当量)×3〕当量以下が好ましい。式中「脂肪酸類(b)の当量」は、アミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対する脂肪酸類(b)の当量である。この式は、脂肪酸類(b)が反応しなかったアミノ基に対して、エピクロロヒドリン(c)は、アミノ基の脱水素反応(第1級アミンで2当量可能)及び4級化反応の合計3当量が理論上反応可能であることにより規定するものである。アミン化合物(a)と脂肪酸類(b)のアミド化反応で第1級アミンが存在しないと考えられる点から、〔(1−脂肪酸類(b)の当量)×2〕当量以下がより好ましい。
【0023】
<紙質向上剤>
本発明の紙質向上剤は、上記アミン化合物(a)と上記飽和脂肪酸類(b)とを反応させて得られるアミド化合物に、エピクロロヒドリン(c)を反応させて得られる、有機クロル量が5(mgKOH/g)以上の反応生成物からなる。ここで、該反応生成物の有機クロル量は以下の式で求まるものである。
反応生成物の有機クロル量=(TCl)−(Cl)−(ECH-Cl)−(DCP-Cl)−(CPD-Cl)
(TCl):エピクロロヒドリン(c)反応終了後の反応系の全塩素の当量(mgKOH/g)
(Cl):4級塩及び塩酸塩由来の合計の塩素の当量(mgKOH/g)
(ECH-Cl):エピクロロヒドリン(ECH)由来の塩素の当量(mgKOH/g)
(DCP-Cl):1,3ジクロロ2プロパノール(DCP)由来の塩素の当量(mgKOH/g)
(CPD-Cl):3クロロプロパンジオール(CPD)由来の塩素の当量(mgKOH/g)
【0024】
これら(TCl)、(Cl)、(ECH-Cl)、(DCP-Cl)及び(CPD-Cl)の値は、それぞれ実施例の方法で得ることができる。
【0025】
反応生成物の有機クロル量は、9(mgKOH/g)以上、更に12(mgKOH/g)以上、より更に15(mgKOH/g)以上が好ましい。
【0026】
前記アミド化合物とエピクロロヒドリン(c)との反応生成物は、ポリアミドポリアミンに属する構造の化合物を主体とするものであるが、上記で定義される有機クロル量は、この反応生成物中のポリアミドポリアミン構造に共有結合する塩素の量を示すものであり、有機クロル量が多いことは、ポリアミドポリアミン構造に共有結合する塩素の量が多いことを意味する。これは、反応率とは幾分異なる概念であり、また、ポリアミドポリアミン化合物(反応生成物)の純度を記述するものでもない。このような有機クロル量により抄紙時の塗液の吸液抑制効果に差異が生じることは、従来、全く知られていなかった。
【0027】
ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物と脂肪酸類とを反応させて得られるアミド化合物にエピクロロヒドリンをさらに反応させて得られる反応生成物として、吸水抑制効果であるサイズ性を有するものが知られている(例えば、特許文献4)。本発明は、特定の有機クロル量にすることにより、紙(原紙)を漉いた直後から吸水抑制効果を発現し、紙の製造時の塗液の吸液を抑制できるものである。この理由は不明であるが、特定量の有機クロルを有する反応生成物はパルプ繊維との親和性が向上しており、紙(原紙)を漉いた直後から強固かつ均一にパルプに吸着するので、その後の原紙に塗液を塗布する際に塗液の吸液を抑制する効果が発現すると推定される。
【0028】
有機クロル量を調整する方法としては、反応系中の水の量、反応の熟成時間、エピクロロヒドリンの量を調整することが挙げられ、例えば、系中の水の量を減じて熟成時間を延ばすと有機クロル量が増加する傾向がある。未反応のエピクロロヒドリンが反応系に存在する範囲で熟成時間が長いほど有機クロル量が増加する傾向があるが、水が存在すると生じた有機クロルが加水分解を生じるので水が存在しないことが好ましい。ただし、エピクロロヒドリンを反応系に添加する前に水を減じすぎると脂肪酸とアミンの反応物がイミダゾリン環を形成し、エピクロロヒドリンとの反応が阻害されるので、極端な水の除去は逆に有機クロル量が減少する傾向がある。また、エピクロロヒドリンの量を増やしても有機クロル量が増加する傾向があるが、多すぎるとエピクロロヒドリンの反応が飽和して、未反応のエピクロロヒドリンが残存したり、1,3ジクロロ2プロパノールの量が増加する傾向がある。
【0029】
本発明では、ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)とを反応させて得られるアミド化合物に、エピクロロヒドリン(c)を反応させて、該反応により得られる反応生成物の有機クロル量が5(mgKOH/g)以上となる反応生成物を得る工程を有する、紙質向上剤の製造方法を行うことができる。その際、脂肪酸類(b)とエピクロロヒドリン(c)の使用量は、アミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対して、前記の当量比となることが好ましい。
【0030】
本発明に係る反応生成物(紙質向上剤)は、常温で固体状でも液体状でも良いが、固体状のものの場合は、融点が50℃以上であることが好ましい。融点が50℃以上であれば常温で固体となり、有効分はほぼ100%であるので、保存や輸送等の点で好ましい。反応生成物の融点は、後述の方法で図1の測定装置を用いて測定される。本発明の反応生成物からなる紙質向上剤は、以下に説明する工程(I)及び(II)を含む方法より製造することができる。
【0031】
融点の測定方法について説明する。試料をできるだけ低い温度で融解し、毛細管(メトラー(Mettler)社製「ME-18552」(硬質ガラス製、長さ76mm、内径1.3mm、壁厚0.2mm))に約10mm吸い上げる。10℃以下で24時間又は少なくとも2時間冷却し、毛細管中の試料を固化させる。この毛細管を図1の装置に取り付け、振動の無い場所で昇温を始める。予想融点の約10℃手前まで昇温し、その後1分間に1℃の速度で昇温を続ける。試料が毛細管を上昇し始めたときの温度を読みとり(小数点以下一桁)、融点とする。なお、浴液は水を使用する。図1中の数値の単位はmmである。
【0032】
<工程(I)>
工程(I)は、ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)とを、100〜230℃で反応させ、アミド化合物を得る工程である。アミド化の反応率の点から酸価が5mgKOH/g以下になるまで反応させることが好ましい。
【0033】
工程(I)ではアミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対して、炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)を好ましくは0.5〜1当量、より好ましくは0.7〜1当量、さらに好ましくは0.8〜1当量を満たすようにアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)の量を調整することが好ましい。
【0034】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)で得られたアミド化合物とエピクロロヒドリン(c)とを、50〜140℃で反応させる工程である。アミド化合物にエピクロロヒドリン(c)を滴下して、前記温度範囲内となる様に反応させるのが好ましい。これによりアミド化合物をアルキル化及び/又は架橋する。工程(II)は、アミド化合物の溶融物やさらにイミダゾリン環を加水分解する程度の水等を加えたものに、エピクロロヒドリン(c)を滴下する方法が挙げられる。アミド化合物を水に分散してエピクロロヒドリン(c)を反応させる方法は、生成した有機クロルの加水分解が進行し易くなり、有機クロルが減少する傾向がある。したがって、有機クロルを増加させる観点から、アミド化合物とエピクロロヒドリン(c)との反応時には水が存在しないことが好ましい。
【0035】
工程(II)では、有機クロル量の増加と1,3ジクロロ2プロパノールの量を抑制する観点から、アミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対して、好ましくは0.1〜〔(1−脂肪酸類(b)の当量)×3〕当量、より好ましくは0.15〜〔(1−脂肪酸類(b)の当量)×2〕当量を満たすようにエピクロロヒドリン(c)の量を調整することが好ましい。
【0036】
<工程(III)>
反応生成物が固体の場合、本発明の紙質向上剤の製造方法は、さらに、下記工程(III)を有することが好ましい。
工程(III):
工程(II)で得られた反応生成物を成形して、平均長径3〜30mm、平均短径1〜15mm、平均厚さ0.1〜5mmの薄片状物とする工程
【0037】
工程(III)は工程(II)で得られた反応生成物を取り扱い容易な薄片状物(フレーク状物)にする工程である。具体的には、まず、工程(II)で得られた反応生成物を溶融状態で板状に成形した後、融点以下に保持して固化させ板状の反応生成物を得る。反応生成物を溶融状態で板状に成形する方法としては、例えば、工程(II)で得られた反応生成物をその融点以上に加熱し溶融状態とし、溶融状態の液をノズルからステンレス等の平板上に後の粉砕や水への分散に好ましい厚さで展開した後、融点以下に保持して冷却固化する方法が挙げられる。ステンレス等の平板は厚さや固化する速度を調整するために温度を調整することができる。次いで、固化した板状の反応生成物をフレーカー等により所望の大きさに粉砕し、所望のサイズの紙質向上剤を得ることができる。添加の作業性と温水との混合による水への分散性の観点から、薄片状物の平均長径は3〜30mmが好ましく、5〜25mmが好ましい。平均短径は1〜15mmが好ましく、2〜10mmが好ましい。平均厚さは0.1〜5mmが好ましく、0.1〜3mmが好ましい。したがって粒子としては、平均長径3〜30mm、平均短径1〜15mm、平均厚さ0.1〜5mmが好ましく、平均長径5〜25mm、平均短径2〜10mm、平均厚さ0.1〜3mmがより好ましい。長径は各粒子の最も長い径であり、短径は長径と直交する最も長い径である。厚さは長径と短径とそれぞれ直交する最も長い径である。平均長径、平均短径、平均厚さは100個の粒子についてそれぞれを測定した平均値である。
【0038】
なお、工程(II)で得られた反応物は、そのまま紙質向上剤として用いることができる。また、反応生成物が固体の場合、適当な形状、大きさの粒子(粉状、粒状、薄片状、ペレット状等)に成形することが作業性や水への分散性の点から好ましい。適当な形状及び大きさにする方法として、例えば、粉状及び粒状では一旦固化させた後粉砕機で粉砕する方法等、薄片状では薄く延ばして固化させてから粉砕機で粉砕する方法等、ペレット状では液状のまま液滴を平板に垂らし固化する方法等が挙げられる。これらの中でも前記工程(III)等により得られる薄片状の形状が好ましい。
【0039】
本発明では、水中に本発明の紙質向上剤を含む水分散体として用いることもできる。ここで水分散体とは、乳化物又は懸濁物のことをいう。具体的には、工程(II)又は工程(III)で得られた反応生成物の融点以上の温度の水に、工程(II)又は工程(III)で得られた紙質向上剤を混合して分散させる方法が挙げられる。融点以上の温度で水に分散させることで、紙質向上剤をより小さな粒子として水中に分散させることができ、その結果、添加作業性、分散体の保存安定性、パルプシート製造時における紙質向上剤のパルプへの親和性等を向上できる。混合分散には、ラインミキサー、ホモミキサー及び高圧ホモジナイザー等の乳化機を用いることができる。例えば、実験室でのスケールではロボミクス(特殊機化製)等の乳化機を用いることが挙げられる。
【0040】
水分散体中の固形分は、水分散体の保存安定性と粘度の観点から、水分散体中3〜60重量%が好ましく、5〜55重量%がより好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。
【0041】
本発明の紙質向上剤の水分散体を得る際には、乳化剤を併用することができる。乳化剤としては、カチオン性化合物、アニオン性化合物、両性化合物及び非イオン性化合物が挙げられ、紙の製造時に発泡性が低い点で非イオン性化合物が好ましい。非イオン性化合物としては、例えばオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を有する界面活性剤が挙げられる。工程(II)又は工程(III)で得られた紙質向上剤と混合して用いることができる。また、上記のような水分散体の製造時に含有させることもできる。
【0042】
紙質向上剤が水分散体である場合、上記のような方法以外にも、通常行われている分散方法を採用できる。反応生成物単独で分散してもよいし、性能に悪影響を及ぼさない範囲であれば乳化剤や分散剤を使用して分散しても構わない。水分散体における分散粒子(乳化粒子)の平均粒子径(メジアン径)は0.1〜20μmが好ましく、0.1〜10μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm以上では歩留りがよく効率的であり、また20μm以下では性能も良好である。なお、水分散体は、水以外の液体成分、例えばイソプロピルアルコールなどの水性有機溶剤や塩酸、リン酸、硫酸等の酸等を含有していてもよい。
【0043】
<パルプシートの製造方法>
本発明の紙質向上剤は、抄紙工程の何れかにおいて添加されるものであり、そのまま添加してもよいし、必要に応じて水等に分散させた分散液として添加してもよい。
【0044】
本発明の紙質向上剤は、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、LBKP等の化学パルプ等のヴァージンパルプ、古紙パルプ等のパルプ原料に広く適用できる。
【0045】
本発明の紙質向上剤は、サイズプレス工程より前の何れかの工程において添加される。その添加場所としては、パルプ原料の稀薄液が金網上を進む間に濾水されて紙層を形成する工程以前で、パルパーやリファイナー等の離解機や叩解機、ミキシングチェスト、マシンチェストやヘッドボックスや白水タンク等のタンク、あるいはこれらの設備と接続された配管中に添加してもよいが、リファイナー、ミキシングチェスト、マシンチェスト、ヘッドボックスで添加する等、均一にパルプ原料にブレンドできる場所が望ましい。本発明の紙質向上剤は、パルプ原料に添加後、そのまま抄紙されパルプシート中に大部分残存することが好ましい。本発明の紙質向上剤の効果を発揮する上で抄紙機の種類は特に限定されるものではないが、例えば、長網式、円網式、短網式、ツインワイヤー式、及び傾斜ワイヤー式抄紙機等があげられる。また、ワイヤーパートについては、例えばギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマーなどが挙げられる。
【0046】
本発明の紙質向上剤を用いたパルプシートの製造方法は、公知の方法に準じることができるが、作業性の観点から、本発明の紙質向上剤を、水又は水性有機溶剤又はこれらの混合物に溶解又は分散させた形態でパルプスラリーに添加し抄紙することが好ましい。特に、本発明の紙質向上剤を、その融点以上の温度の水に分散させ、該分散液をパルプスラリー中に添加し抄紙を行うことが好ましい。本発明の紙質向上剤の添加量は、紙質向上効果の観点から、固形分換算で、パルプ100重量部に対し、0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、0.2重量部以上がさらに好ましい。また、パルプシート本来の特性を保持する観点から20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく2重量部以下がなお好ましい。したがって、紙質向上効果とパルプシート本来の特性を保持する観点から、パルプ100重量部に対し、0.05〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましく、0.2〜2重量部がさらに好ましい。本発明の紙質向上剤の溶液ないし分散液は、抄紙時にこの比率となるように添加するのが好ましい。
【0047】
本発明におけるパルプシートの製造時において、一般の抄紙時に用いられる、サイズ剤、填料、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、紙力向上剤等を添加してもよい。特に、本発明の紙質向上剤がその機能を発現するためには、パルプに定着することが重要であり、必要に応じて定着を促進する剤(以下、定着促進剤という)を用いることができる。かかる剤の例としては、硫酸アルミニウム、カチオン化澱粉、アクリルアミド基を有する化合物、ポリエチレンイミン等が挙げられる。定着促進剤の添加量は、パルプ100重量部に対し0.001〜5重量部が好ましく0.01〜2重量部がより好ましい。
【0048】
本発明の紙質向上剤は、塗工設備の中でも特にサイズプレス設備を設置した抄紙機で用いると抄速向上に効果的である。すなわち、サイズプレス工程を有する紙の製造方法において、本発明の紙質向上剤をサイズプレス工程より前に添加する工程を有することが好ましい。
【0049】
本発明の紙質向上剤を用いて得られるパルプシートは、紙パルプ技術便覧(紙パルプ技術協会発行、455〜460頁、1992年)に記載された品目分類の中の、新聞用紙、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙、情報用紙、段ボール用紙、白板紙、包装用紙等の紙又は板紙に好適に用いられる。特に書籍・出版用途に使用される、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙及び塗工印刷用紙に好適に用いられる。
【実施例】
【0050】
製造例1(紙質向上剤1の合成)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王 ルナックS−40)783.4g(2.844mol)とテトラエチレンペンタミン157.4g(全アミン価1251.9mgKOH/gより、アミノ基として3.512mol)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、200℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから95℃まで冷却し、水を14g加えて加水分解を行い、ポリアミドアミンを得た。次に90−100℃で水分を0.3%以下になるように留去してから、エピクロロヒドリン110.46g(1.194mol)を滴下し、更に110℃で9.5時間熟成して紙質向上剤1を得た。この紙質向上剤1は、TClが69.2mgKOH/g、Clが14.2mgKOH/g、ECH-Clが2.4mgKOH/g、DCP-Clが35.7mgKOH/g、CPD-Clが0mgKOH/gであり、有機クロル量は16.9mgKOH/gであった。
【0051】
製造例2(紙質向上剤2の合成)
製造例1でエピクロロヒドリンを滴下した後の熟成時間を7.5時間とした以外は同様にして紙質向上剤2を得た。
【0052】
製造例3(紙質向上剤3の合成)
製造例1でエピクロロヒドリンを滴下した後の熟成時間を3.5時間とした以外は同様にして紙質向上剤3を得た。
【0053】
製造例4(紙質向上剤4の合成)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王 ルナックS−40)815.1g(2.960mol)とテトラエチレンペンタミン163.7g(全アミン価1251.9mgKOH/gより、アミノ基として3.654mol)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、200℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから95℃まで冷却し、水を14g加えて加水分解を行い、ポリアミドアミンを得た。次に水分を留去する操作をすることなく、90−100℃でエピクロロヒドリン74.38g(0.804mol)を滴下し、更に110℃で3時間熟成して紙質向上剤4を得た。この紙質向上剤4の有機クロル量は11.6mgKOH/gであった。
【0054】
製造例5(紙質向上剤5の合成)
製造例4でエピクロロヒドリンを滴下した後の熟成時間を3.5時間とした以外は同様にして紙質向上剤5を得た。
【0055】
製造例6(紙質向上剤6の合成)
製造例4でエピクロロヒドリンを滴下した後の熟成時間を4.5時間とした以外は同様にして紙質向上剤6を得た。
【0056】
製造例7(紙質向上剤7の合成)
製造例4でエピクロロヒドリンを滴下した後の熟成時間を8.5時間とした以外は同様にして紙質向上剤7を得た。
【0057】
製造例8(紙質向上剤8の合成)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王 ルナックS−40)793.7g(2.882mol)とテトラエチレンペンタミン159.4g(全アミン価1251.9mgKOH/gより、アミノ基として3.558mol)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、200℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから95℃まで冷却し、水を14g加えて加水分解を行い、ポリアミドアミンを得た。次に90−100℃で、水分を0.3%以下になるように留去してから、エピクロロヒドリン98.75g(1.067mol)を滴下し、更に110℃で3時間熟成して紙質向上剤8を得た。この紙質向上剤8の有機クロル量は13.0mgKOH/gであった。
【0058】
製造例9(紙質向上剤9の合成)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王 ルナックS−40)766.9g(2.785mol)とテトラエチレンペンタミン166.4g(全アミン価1251.9mgKOH/gより、アミノ基として3.713mol)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、200℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから95℃まで冷却し、水を14g加えて加水分解を行い、ポリアミドアミンを得た。次に90−100℃で、水分を0.3%以下になるように留去してから、エピクロロヒドリン116.8g(1.262mol)を滴下し、更に110℃で3時間熟成して紙質向上剤9を得た。この紙質向上剤9の有機クロル量は14.2mgKOH/gであった。
【0059】
製造例10(紙質向上剤10の合成)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王 ルナックS−40)756.0g(2.745mol)とジエチレントリアミン160.0g(全アミン価1631.2mgKOH/gより、アミノ基として4.652mol)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、200℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから95℃まで冷却し、ポリアミドアミンを得た。次に水分を留去する操作をすることなく、90−100℃でエピクロロヒドリン133.44g(1.442mol)を滴下し、更に110℃で3時間熟成して紙質向上剤10を得た。この紙質向上剤10の有機クロル量は6.5mgKOH/gであった。
【0060】
比較製造例1(紙質向上剤11の合成)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王 ルナックS−40)827.9g(3.006mol)とテトラエチレンペンタミン172.7g(全アミン価1251.9mgKOH/gより、アミノ基として3.854mol)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、200℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから95℃まで冷却し、ポリアミドアミンを得た。次に水分を留去する操作をすることなく、90−100℃でエピクロロヒドリン53.49g(0.578mol)を滴下し、更に110℃で3時間熟成して紙質向上剤11を得た。この紙質向上剤11の有機クロル量は2.0mgKOH/gであった。
【0061】
比較製造例2(紙質向上剤12の合成)
パルミチン酸/ステアリン酸混合物(花王 ルナックS−40)802.8g(2.915mol)とテトラエチレンペンタミン174.2g(全アミン価1251.9mgKOH/gより、アミノ基として3.887mol)をフラスコに仕込み、窒素置換後、窒素流通下、200℃、常圧でアミド化を行った。酸価が5未満になったことを確認してから95℃まで冷却し、ポリアミドアミンを得た。次に水分を留去する操作をすることなく、90−100℃でエピクロロヒドリン75.51g(0.816mol)を滴下し、更に110℃で3時間熟成して紙質向上剤12を得た。この紙質向上剤12の有機クロル量は3.2mgKOH/gであった。
【0062】
紙質向上剤1〜12は、全て常温で固体であった。また、紙質向上剤1〜12について、アミン化合物(a)のアミン価から計算したアミノ基に対する、脂肪酸類(b)及びエピクロロヒドリン(c)の当量、並びに〔(1−脂肪酸類(b)の当量)×2〕及び〔(1−脂肪酸類(b)の当量)×3〕の数値を表1に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
<水分散体の製造>
(1)製法A
紙質向上剤500gを、90℃の水2000gに投入し、90℃にてホモミキサー(特殊機化のロボミクス)を用いて1万回転/分で30±5分間、乳化し、所定の平均粒子径を有する20%の水分散体とした。なお、水分散体の平均粒子径は、堀場製作所のLA−910にて測定した。
【0065】
(2)製法B
紙質向上剤500gを、イソプロピルアルコール(IPA)35gと36%HCl7.3g、水1957.7gを含有する90℃の分散媒2000gに投入し、90℃にてホモミキサー(特殊機化のロボミクス)を用いて1万回転/分で30±5分間、乳化し、所定の平均粒子径を有する20%水分散体とした。なお、水分散体の平均粒子径は、堀場製作所のLA−910にて測定した。
【0066】
(3)製法C
紙質向上剤500gを、IPA35gと85%H3PO48.3g、水1965.7gを含有する90℃の分散媒2000gに投入し、90℃にてホモミキサー(特殊機化のロボミクス)を用いて1万回転/分で30±5分間、乳化し、所定の平均粒子径を有する20%水分散体とした。なお、水分散体の平均粒子径は、堀場製作所のLA−910にて測定した。
【0067】
<評価>
(1)緊度
(1−1)抄紙方法
LBKPを室温下、叩解機にて離解、叩解してパルプ濃度2.2重量%のLBKPスラリーとしたものを用いた。カナディアンスタンダードフリーネスは430mlであった。このLBKPスラリーを抄紙後のシートの坪量が絶乾で100g/m2になるようにはかりとってから、カチオン化澱粉(CATO308、日本NSC製)1.0%(重量基準、対パルプ、以下同じ)、工業用硫酸バンド0.5%、軽質炭酸カルシウム20%、及び表1に示す量の紙質向上剤を攪拌しながら添加した。その後パルプ濃度が0.5重量%になるように水で希釈し、カチオン性ポリアクリルアミド系歩留向上剤(パーコール47、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.03%を攪拌しながら添加した後、丸型タッピ抄紙機にて150メッシュワイヤーで抄紙し、コーチングを行って湿紙を得た。抄紙後の湿紙は、3.5kg/cm2で2分間プレス機にてプレスし、ドラムドライヤーを用い、105℃で2分間乾燥し、パルプシートを得た。得られたパルプシートを23℃、湿度50%RHの条件で1日間調湿してから、下記方法で緊度を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(1−2)緊度
得られた調湿されたパルプシートの坪量(g/m2)と厚み(mm)を測定し、下記計算式により緊度(g/cm3)を求めた。
計算式: (緊度)=(坪量)/(厚み)×0.001
緊度は絶対値が小さいほど嵩が高く、また緊度の0.02の差は有意差として十分に認識される。
【0069】
(2)動的吸水性
プレスまでは上記抄紙方法と同様の操作を行った。プレスした後、湿紙を5cm×5cmの大きさにカットし、メトラー・トレド(株)製のハロゲン水分計を用い105℃で乾燥させ、紙中水分が0%の重量(絶乾重量)になった時点で、水分計にセットした状態のまま、上方から注射器を用いて速やかに60℃の温水を3マイクロリットル滴下し、完全に紙中に浸透するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。本評価方法で浸透時間の長いものほど、ドライヤー直後の紙に対する塗工工程での紙の吸水性が抑制され(すなわち動的吸水性が抑制される)抄速が向上することになる。
【0070】
(3)紙質向上剤(反応生成物)の物性値
全塩素の当量(TCl)(mgKOH/g)、4級塩及び塩酸塩の合計の当量(Cl)(mgKOH/g)、エピクロロヒドリン(ECH)由来の塩素の当量(ECH-Cl)(mgKOH/g)、1,3ジクロロ2プロパノール(DCP)由来の塩素の当量(DCP-Cl)(mgKOH/g)、3クロロプロパンジオール由来の塩素の当量(CPD-Cl)(mgKOH/g)を以下のように測定した。それらに基づいて得られた有機クロル量(mgKOH/g)を表1に示した。
【0071】
・(TCl):サンプル0.5〜1.5gを20g/Lナトリウム1−ブタノール溶液25mLに溶解し、空冷管をとりつけてホットプレート上で約1.5時間静かに沸騰反応させる。室温まで冷却させ水とアルコールで、空冷管を洗浄しながら300mlフラスコに加え溶解し、エタノールと水で約200mlにメスアップした後、25%硝酸溶液15mLを加える。自動電位差滴定装置で0.1mol/l硝酸銀標準溶液で滴定することにより求めた。
【0072】
・(Cl):サンプル0.5〜1.5gを水80mLに加え溶解し、25%硝酸溶液約15mLを加える。自動電位差滴定装置で0.1mol/l硝酸銀標準溶液を用いて滴定することにより求めた。
【0073】
・(ECH-Cl):サンプル0.5〜1.5gをCHCl3/エタノール(1/1v%)に溶解し、ガスクロマトグラフィー(GC)にて測定する。予めECHの検量線を作成しておきサンプル中のECH量を求める。(ECH-Cl)(mgKOH/g)はECH中のClの重量比率より換算して求める。
【0074】
・(DCP-Cl):サンプル0.5〜1.5gをCHCl3/エタノール(1/1v%)に溶解し、GCにて測定する。予めECHの検量線を作成しておきサンプル中のECH量を求める。(DCP-Cl)(mgKOH/g)はDCP中のClの重量比率より換算して求める。
【0075】
・(CPD-Cl):サンプル0.5〜1.5gをCHCl3/エタノール(1/1v%)に溶解し、GCにて測定する。予めECHの検量線を作成しておきサンプル中のCPD量を求める。(CPD-Cl) (mgKOH/g)はCPD中のClの重量比率より換算して求める。
【0076】
<GC測定条件>
測定機器:HEWLETT PACKARD HP4890A
測定条件:50℃→300℃(10℃/min.で昇温)→300℃で5min.ホールド
カラム:ウルトラNO1 Length 25m、Diameter 0.2mm、Film 0.33μm
【0077】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】紙質向上剤の融点を測定する装置を示す概略図
【符号の説明】
【0079】
A:測定管
B:コルク栓
C:通気孔
D:温度計
E:補助温度計
F:浴液
G:毛細管
H:側管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)とを反応させて得られるアミド化合物に、エピクロロヒドリン(c)とをさらに反応させて得られる反応生成物からなる紙質向上剤であって、前記反応生成物の有機クロル量が5(mgKOH/g)以上である紙質向上剤。
【請求項2】
ポリアルキレンポリアミンを主成分とするアミン化合物(a)と炭素数12〜40の飽和脂肪酸類(b)とを反応させて得られるアミド化合物に、エピクロロヒドリン(c)とをさらに反応させて得られる反応生成物を水に分散させた水分散体からなる紙質向上剤であって、
前記反応生成物の有機クロル量が5(mgKOH/g)以上であり、
前記水分散体における分散粒子の平均粒子径が0.1〜20μmである、
紙質向上剤。
【請求項3】
サイズプレス工程を有する紙の製造方法であって、請求項1又は2記載の紙質向上剤をサイズプレス工程より前に添加する工程を有する紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155768(P2009−155768A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336581(P2007−336581)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】