説明

紙送りロール用ゴム架橋物およびこれを用いた紙送りロール

【課題】 良好な耐摩耗性を有し、常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量を小さくすることが可能な紙送りロール用ゴム架橋物およびこれを用いた紙送りゴムロールを提供する。
【解決手段】 ポリマー成分を少なくとも含有する紙送りロール用ゴム架橋物であって、該ポリマー成分がエチレンプロピレン−ジエン共重合体を含有し、かつ該紙送りロール用ゴム架橋物が、所定の粘弾性測定条件において、下記の式(1)、
tanδ(22℃)−(0.0031×E1(22℃)+0.0503)≦0 (1)
を満たし、かつ、下記の式(2)および/または式(3)、
A(E1)−(−0.0414×E1(22℃)+0.0750)≧0 (2)
B(E1)−(−0.0066×E1(22℃)+0.0200)≧0 (3)
を満たす、紙送りロール用ゴム架橋物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な耐摩耗性を有するとともに、常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量を小さくすることが可能な紙送りロール用ゴム架橋物、およびこれを用いた紙送りロールに関する。
【背景技術】
【0002】
静電気式複写機、レーザープリンター、ファクシミリ等のOA機器や、自動預金支払機等に使用される紙送りロールにおいては、高い耐摩耗性および摩擦係数を有し、かつ該耐摩耗性および摩擦係数の保持性に優れることが要求されている。また、静電気式複写機、レーザープリンター、ファクシミリ等の画像形成時にはオゾンが発生するため、紙送りロールに使用されるゴム組成物には耐オゾン劣化性も要求される。そこで、上記の紙送りロールに使用されるゴム組成物としては、従来耐摩耗性および耐オゾン性に優れ、かつコストが安価なエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)を主成分とするものが用いられてきた。
【0003】
しかし、広い温度範囲で長期間安定した紙送り特性を維持するためには、さらに耐摩耗性および摩擦係数を向上させる必要がある。紙送りロールにおいては、一般に、初期の摩擦係数は、硬度が小さい程大きく良好である一方、耐摩耗性は、硬度が大きくかつtanδ(損失正接)が小さい程良好である傾向がある。したがって、高摩擦係数と高耐摩耗性とは相反する特性であり、両特性を両立するために種々の検討が行なわれてきた。
【0004】
具体的には、たとえば、紙送りロール用ゴム組成物中の架橋剤を増量し、ゴム組成物の架橋密度を高くする方法が挙げられる。しかしこの方法においては架橋剤のブルームが生じ易くなるという問題がある。一方、エチレンプロピレン−ジエン共重合体を主成分とするゴム組成物を用い、エチレンプロピレン−ジエン共重合体のエチレン含量を増加させたり、該エチレンプロピレン−ジエン共重合体の分子量を大きくする方法も挙げられる。しかしエチレンプロピレン−ジエン共重合体のエチレン含量を増加させた場合、ゴム硬度の上昇により初期摩擦係数が低下するという問題があるほか、低温条件下でゴム硬度が上昇することによる摩擦係数の低下、低温条件下での圧縮永久歪みの増大、低温条件下でのロール外径の収縮等の問題もある。また、エチレンプロピレン−ジエン共重合体の分子量を大きくした場合、押出し時およびプレス時の加工作業性が低下するという問題がある。
【0005】
特許文献1には、ムーニー粘度ML1+4(100℃)≧70、エチレン含量≧60wt%のエチレンプロピレン−ジエン共重合体100重量部に対し、混合重量比が1:2〜2:1の酸化亜鉛およびメタクリル酸を総量で20〜40重量部、補強性のファーネス系カーボンブラック、有機過酸化物を配合してなることを特徴とする架橋性ゴム組成物が提案されている。しかし、過酸化物架橋では耐摩耗性が十分得られ難いという問題がある。
【0006】
特許文献2には、ヨウ素価が20以上のエチレンプロピレン−ジエン共重合体をベースとするゴム組成物であって、25重量%〜50重量%の、ヨウ素吸着量が40mg/g以上で、DBP吸油量が100ml/100g以上のカーボンブラックと、5重量%〜20重量%のパラフィン系プロセス油とを含有し、かつ架橋剤として有機過酸化物が配合されたことを特徴とするゴム組成物が提案されている。該ゴム組成物においては、ヨウ素価を20以上とすることによって、架橋密度が高まるとともに圧縮永久歪みが低減されるが、通紙時の摩擦係数の保持性は低下する傾向がある。また過酸化物架橋では耐摩耗性が十分得られ難いという問題もある。
【0007】
特許文献3には、エチレン含有量が55〜95重量%、ジエン含有量が10〜20重量%のエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム100重量部に対し、ケイ酸カルシウム5〜30重量部を配合してなるロール用ゴム組成物であって、特にムーニー粘度ML1+4(100℃)が50以上であるゴム組成物が提案されている。該ロール用ゴム組成物においては、所定の範囲にジエン含有量を調整することによって圧縮永久歪みの低減が可能であるが、通紙時の摩擦係数の保持性は低下する傾向がある。
【0008】
特許文献4には、平均分子量が30万以上でかつエチレン含有率が60〜80重量%のEP(エチレンプロピレン)系ゴムを主成分とし、該EP系ゴム100重量部に対して軟化剤を90〜190重量部の範囲内で配合し、かつ単体硫黄量が0.2重量%以下に抑制された範囲で配合してなることを特徴とする給紙ローラ用ゴム組成物が提案されている。EP系ゴムの平均分子量を30万以上とすることにより、耐摩耗性を向上させることができるが、規定される分子量の下限値が大きいため加工性が悪く、軟化剤を多量に配合する必要がある。しかし耐摩耗性は軟化剤の配合量が多くなると悪化するため、この方法では十分な耐摩耗性の向上効果を得ることはできない。
【0009】
特許文献5には、温度25℃、振動数15Hz、伸張率15±2%の条件下における動的弾性率E’が0.9〜1.9MPaであることを特徴とする紙葉類搬送部材用ゴム材が提案されている。該紙葉類搬送部材用ゴム材は、動的弾性率を所定の範囲内に設定することにより、紙粉付着によるゴム表面の凝着力低下が生じた場合にも、ゴムの変形による復元力で搬送力を保持することを狙ったものである。しかし、復元力は反発弾性またはtanδ(損失正接)に依存するため、ゴムの動的弾性率を制御するのみでは摩擦係数の保持性の向上において十分な効果を得ることができないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−199725号公報
【特許文献2】特開2000−248133号公報
【特許文献3】特開平10−114845号公報
【特許文献4】特開平7−242779号公報
【特許文献5】特開2001−171851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の課題を解決し、良好な耐摩耗性と通紙時の摩擦係数の保持性を有するとともに、常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量が小さい紙送りロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリマー成分を少なくとも含有する紙送りロール用ゴム架橋物であって、該ポリマー成分がエチレンプロピレン−ジエン共重合体を含有し、該紙送りロール用ゴム架橋物における、測定温度:−84℃〜52℃、昇温速度:2℃/min、測定温度間隔:4℃、測定周波数f:10Hz、初期歪み:4mm、振幅:0.1mmの粘弾性測定条件で測定される動的弾性率E1[MPa]および損失正接tanδの値が、下記の式(1)、
tanδ(22℃)−(0.0031×E1(22℃)+0.0503)≦0 (1)
(式(1)中、E1(22℃)およびtanδ(22℃)は、それぞれ、動的弾性率E1[MPa]および損失正接tanδの22℃における値である)
を満たし、かつ、下記の式(2)および/または式(3)、
A(E1)−(−0.0414×E1(22℃)+0.0750)≧0 (2)
(式(2)中、A(E1)は、測定温度:10〜30℃における動的弾性率E1の測定値と測定温度との関係から、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線であって相関係数R2≧0.8である近似直線の傾き(単位:MPa/℃)である)、
B(E1)−(−0.0066×E1(22℃)+0.0200)≧0 (3)
(式(3)中、B(E1)は、測定温度:20〜40℃における動的弾性率E1の測定値と測定温度との関係から、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線であって相関係数R2≧0.8である近似直線の傾き(単位:MPa/℃)である)、
を満たす、紙送りロール用ゴム架橋物に関する。
【0012】
本発明においては、紙送りロール用ゴム架橋物が、下記の式(4)、
max−(−32℃)≦0 (4)
(式(4)中、Tmaxは、上記の粘弾性測定条件においてtanδ(損失正接)が最大値をとる温度(単位:℃)である)
を満たすことが好ましい。
【0013】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物においては、該エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量が50質量%以上63質量%以下であることが好ましい。
【0014】
また、ポリマー成分中のエチレンプロピレン−ジエン共重合体の含有量が50質量%以上であることも好ましい。
【0015】
さらに、ポリマー成分中のエチレンプロピレン−ジエン共重合体の含有量が90質量%以上であり、かつ、該エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量が50質量%以上62質量%以下であることも好ましい。
【0016】
さらに、ポリマー成分中のエチレンプロピレン−ジエン共重合体の含有量が90質量%以上であり、かつ、該エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量が50質量%以上61質量%以下であることも好ましい。
【0017】
本発明においては、ポリマー成分の100質量部に対する軟化剤の配合量が15質量部以下とされることが好ましい。
【0018】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物は、硫黄により架橋されてなることが好ましい。
本発明はまた、上記の紙送りロール用ゴム架橋物をゴム層に用いた紙送りロールに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な耐摩耗性と通紙時の摩擦係数の保持性を有しつつ、常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量が小さい紙送りロール用ゴム架橋物、およびこれを用いた紙送りロールを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、ポリマー成分がエチレンプロピレン−ジエン共重合体を含有し、後述の所定の粘弾性特性を有する紙送りロール用ゴム架橋物およびこれを用いた紙送りロールに関する。本発明の紙送りロールは、たとえば金属製、樹脂製等の軸部材が筒状のゴム層に挿入されて形成され、該ゴム層を形成する紙送りロール用ゴム架橋物は、測定温度:−84℃〜52℃、昇温速度:2℃/min、測定温度間隔:4℃、測定周波数f:10Hz、初期歪み:4mm、振幅:0.1mm、試料サイズ:幅4mm×長さ40mm×厚み2mm、の粘弾性測定条件において、下記の式(1)、
tanδ(22℃)−(0.0031×E1(22℃)+0.0503)≦0 (1)
(式(1)中、E1(22℃)およびtanδ(22℃)は、それぞれ、動的弾性率E1[MPa]および損失正接tanδの22℃における値である)、
を満たし、かつ、下記の式(2)および/または式(3)、
A(E1)−(−0.0414×E1(22℃)+0.0750)≧0 (2)
(式(2)中、A(E1)は、測定温度:10〜30℃における動的弾性率E1の測定値と測定温度との関係から、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線であって相関係数R2≧0.8である近似直線の傾き(単位:MPa/℃)である)、
B(E1)−(−0.0066×E1(22℃)+0.0200)≧0 (3)
(式(3)中、B(E1)は、測定温度:20〜40℃における動的弾性率E1の測定値と測定温度との関係から、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線であって相関係数R2≧0.8である近似直線の傾き(単位:MPa/℃)である)、
を満たす。
【0021】
図1は、E1(22℃)とtanδ(22℃)との関係を示す図である。図1中の直線は下記の関数、
tanδ(22℃)=0.0031×E1(22℃)+0.0503
を示している。すなわち本発明に用いられる紙送りロール用ゴム架橋物は、図1中の直線上か、該直線よりもtanδ(22℃)が小さい領域に属する粘弾性特性を有する。
【0022】
一般に、紙送りロールにおいては、耐摩耗性等の必要性能を十分に得るために、該紙送りロールが使用される紙送り装置内の部位に応じて、ゴム層におけるゴム架橋物の動的弾性率を適正な範囲内に適宜設定する。この場合の動的弾性率の調整の目安としては、たとえば22℃における動的弾性率E1(22℃)を、最適と考えられるE1(22℃)の設定値(単位:MPa)±2MPaの範囲内に調整すること等が挙げられる。紙送りロールの開発においては、上記のように適宜設定された適正な動的弾性率(たとえばE1(22℃))の範囲内において、いかに耐摩耗性および摩擦係数保持性を向上させるかという点が課題となる。
【0023】
本発明においては、22℃における紙送りロール用ゴム架橋物のtanδ(22℃)を、ローラの使用される部位に応じて最適化されたE1(22℃)とのバランスにおいて、図1中の直線で示す境界以下となるよう設定することにより、紙送りロールとして使用したときの繰り返し変形による内部発熱が抑制され、かつ、紙粉付着によってゴム表面の凝着力が低下した場合にもゴムの変形による反力が大きく、該反力が紙の搬送力に寄与する。これにより、紙送り装置内のローラの使用部位に応じた適正な動的弾性率としての、E1(22℃)の設定値(単位:MPa)±2MPaの範囲内において、通紙による耐摩耗性および摩擦係数保持性が良好となる。
【0024】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物は、下記の式(5)、
tanδ(22℃)−(0.0031×E1(22℃)+0.04)≦0 (5)
を満たすことがさらに好ましい。図1中の点線は、下記の関数、
tanδ(22℃)=0.0031×E1(22℃)+0.04
を示している。すなわち、本発明の紙送り用ゴム架橋物は、図1中の点線上か、該点線よりもtanδ(22℃)が小さい領域に属する粘弾性特性を有することが好ましい。
【0025】
図2は、E1(22℃)とA(E1)との関係を示す図であり、図3は、E1(22℃)とB(E1)との関係を示す図である。図2中の直線は、下記の関数、
A(E1)=−0.0414×E1(22℃)+0.0750
を示している。また、図3中の直線は、下記の関数、
B(E1)=−0.0066×E1(22℃)+0.0200
を示している。
【0026】
すなわち本発明の紙送りロール用ゴム架橋物は、図2中の直線上あるいは該直線よりもA(E1)が大きい領域に属する粘弾性特性、または、図3中の直線上あるいは該直線よりもB(E1)が大きい領域に属する粘弾性特性、のいずれかの粘弾性特性を有することを特徴とする。本発明においては、ゴム架橋物のA(E1)がE1(22℃)とのバランスにおいて図2中の直線で示す境界以上となるか、または、ゴム架橋物のB(E1)が、E1(22℃)とのバランスにおいて図3中の直線で示す境界以上となるように設定される。この場合、紙送りロール用ゴム架橋物におけるポリマー主鎖間の相互作用が比較的小さくなることにより、紙送りロールにおいて、常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量が小さくなる。
【0027】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物は、測定温度:−84℃〜52℃、昇温速度:2℃/min、測定温度間隔:4℃、測定周波数f:10Hz、初期歪み:4mm、振幅:0.1mm、試料サイズ:幅4mm×長さ40mm×厚み2mm、の粘弾性測定条件において、下記の化学式(4)
max−(−32℃)≦0 (4)
(式(4)中、Tmaxは、上記の粘弾性測定条件においてtanδ(損失正接)が最大値をとる温度である)
を満たすことが好ましい。図4は、E1(22℃)とTmaxとの関係を示す図である。すなわち、本発明においては、紙送りロール用ゴム架橋物のTmaxが−32℃以下となるように設定されることが好ましい。この場合、紙送りロール用ゴム架橋物のポリマー分子、特にエチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニット同士の結晶化配列等による相互作用が比較的小さくなるため、特に低温条件での使用においても紙送りロールは良好な摩擦係数を有し、また、常温条件での使用時と比べた場合のロール外径収縮量も小さい。
【0028】
本発明における粘弾性特性、具体的にはE1(動的弾性率)、tanδ(損失正接)の測定は、粘弾性スペクトロメータにより行なう。なお本明細書における粘弾性特性に関する値は、岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータ(VISCOELASTIC SPECTROMETER TYPE VES−F3)により測定されたものである。
【0029】
また、本明細書を通じて、動的弾性率および損失正接の値は、周波数:100、80、40、10Hzで測定した値のうち周波数10Hzで測定した値を採用するものとし、測定点以外の温度における粘弾性特性値については、該温度に近接する2つの測定点における測定値、すなわち、対象となる該温度の高温側に隣接した測定点と低温側に隣接した測定点における測定値、から内挿により算出した代用値とする。
【0030】
さらに、本明細書におけるTmaxは次のようにして算出した値である。すなわち、tanδ(損失正接)の測定において、tanδが最大値を示す測定点とその前後2つずつの測定点の合計5測定点に着目し、該5測定点について、測定温度(単位:℃)の値をx、tanδの値をyとする以下の2次関数、
y=ax2+bx+c
により近似する。得られた2次近似曲線においてy(tanδ)が極大値をとるときのx(温度)(−b/2aに相当)をTmax(単位:℃)として算出する。
【0031】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物において採用されるポリマー成分は、エチレンプロピレン−ジエン共重合体を含有するが、その他のゴムとして、たとえば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、ブタジエン−ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム等が好ましく配合され得る。これらは単独でも2種以上の組合せでも使用できる。
【0032】
本発明の紙送り用ロール用ゴム架橋物に含有されるエチレンプロピレン−ジエン共重合体としては、比較的長鎖の分岐構造を有するものが好ましい。比較的長鎖の分岐構造と有するエチレンプロピレン−ジエン共重合体は、主鎖間の空隙が大きい三次元網目構造を形成するため、エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニット同士の結晶化配列等の、ポリマー主鎖間の相互作用が低減される。また、長鎖の分岐構造をもつことにより、ポリマー分子同士の絡み合い点は多くなり、該絡み合い点は擬似的な架橋点の役割を有する。このため、比較的長鎖の分岐構造を有するエチレンプロピレン−ジエン共重合体を用いることは、紙送りロール用ゴム架橋物の物性低下の大きな原因である粘性流動が効果的に抑制されるという点で有利である。これにより、動的弾性率E1を維持しつつ損失正接tanδを低減させ、高い耐摩耗性を維持することができる。さらに、ポリマー分子の主鎖間の相互作用が低減されることにより、常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量が小さい紙送りロールを得ることが可能となる。
【0033】
比較的長鎖の分岐構造を有するエチレンプロピレン−ジエン共重合体としては、たとえば、動的粘弾性分析装置(Dynamic Mechanical Spectrometry=DMS)を用い、0.1rad/sと100rad/sにおける位相角の差が35以下、特に25以下であるものが好ましく採用され得る。
【0034】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物に含有されるエチレンプロピレン−ジエン共重合体においては、エチレンユニットとプロピレンユニットとがランダム重合していることが好ましい。この場合、低温環境でのポリマー主鎖の結晶化配列が抑制される結果、低温での摩擦係数の低下およびロール外径の収縮が抑制されるという利点を有する。
【0035】
なお、本発明においては、エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量を50質量%以上63質量%以下となるように調整することが好ましく、さらに62質量%以下、さらに61質量%以下とすることが好ましい。エチレンユニットの含有量を50質量%以上とする場合、ポリマー主鎖の回転運動性が十分得られるとともにゴム伸張時のポリマー主鎖の結晶化配列が所望の程度生じるため、紙送りロール用ゴム架橋物の機械強度が大きくなり、耐摩耗性が向上する。一方、エチレンユニットの含有量を63質量%以下とする場合、エチレンユニットに起因するポリマー主鎖の過度な結晶化配列が抑制され、低温での摩擦係数の低下やロール外径の収縮が少なく、かつ加工性も良好となる。なお、エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量は、たとえばASTM D3900によって測定することができる。
【0036】
また、エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のジエン成分の含有量は1.9質量%以上13質量%以下であることが好ましい。ジエン成分の含有量が1.9質量%未満である場合、架橋密度が低いことにより、紙送りロールのゴム層の圧縮永久歪み特性および耐摩耗性が低下する傾向があり、ジエン成分の含有量が13質量%より大きい場合、該ゴム層の耐候性が低下する傾向があるとともに、通紙による摩擦係数の保持性が低下する傾向がある。
【0037】
本発明においては、特に、エチレンプロピレン−ジエン共重合体の含有量がポリマー成分の90質量%以上であり、かつエチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量が50質量%以上かつ61質量%以下であるポリマー成分を好ましく用いることができる。
【0038】
本発明のエチレンプロピレン−ジエン共重合体の第3成分としては、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン等が挙げられるが、特にエチリデンノルボルネンが好ましい。エチリデンノルボルネンが用いられる場合、加硫速度が速くなるという利点が付与される。
【0039】
本発明において使用される、長鎖の分岐構造を有するエチレンプロピレン−ジエン共重合体としては、DSM社製の「KELTAN 8340A」「KELTAN 2340A」等の非油展ゴム、同じくDSM社製の「KELTAN 7341A」(油展量:20phr)等の油展ゴム、等が挙げられる。
【0040】
本発明において使用されるエチレンプロピレン−ジエン共重合体のムーニー粘度は、ML(1+4)(100℃)で80以上150以下であることが好ましく、特に85以上150以下であることが好ましい。または、ML(1+4)(125℃)で55以上110以下であることが好ましく、特に60以上110以下であることが好ましい。ムーニー粘度が、ML(1+4)(100℃)で80以上、または、ML(1+4)(125℃)で55以上である場合、ポリマー分子量が十分大きく、耐摩耗性が十分確保される。一方、ムーニー粘度が、ML(1+4)(100℃)で150以下、または、ML(1+4)(125℃)で110以下である場合、加工性が良好であるという利点を有する。なおムーニー粘度は、たとえばJIS K 6300に準拠して測定することができる。
【0041】
本発明において使用されるエチレンプロピレン−ジエン共重合体は、単独でも2種以上の共重合体の混合物でも良い。2種以上の共重合体の混合物を用いる場合、エチレンユニットの含有量、分岐構造、ムーニー粘度等本発明において規定される特性値は、各共重合体の含有比率から算出した平均値として評価される。すなわち、2種以上のエチレンプロピレン−ジエン共重合体を組合せて用いる場合には、上記の特性値を満たすものと満たさないものとを混合しても良く、エチレンプロピレン−ジエン共重合体全体の平均値が上記の特性値を満たせば良い。
【0042】
また、本発明において、たとえば油展グレード等の、軟化剤を含むEPDMが使用される場合には、上記のムーニー粘度の値は該軟化剤を含まないベースポリマーのみの値を意味する。
【0043】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物のE1(22℃)は1.5MPa以上45MPa以下とされることが好ましい。E1(22℃)が1.5MPa未満である場合、ゴム層にかかる応力に対して該ゴム層が大きく変形し、高い耐摩耗性が付与され難い傾向がある。E1(22℃)が45MPaより大きい場合、紙送りロールと紙との接触面積が小さく、良好な摩擦係数が確保され難い傾向がある。紙送りロール用ゴム架橋物のE1(22℃)は、さらに2MPa以上とされることが好ましく、また、さらに40MPa以下、特に35MPa以下とされることが好ましい。
【0044】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物は、耐摩耗性の低下につながる軟化剤の配合量を低減しつつ、低温における硬度およびE1(動的弾性率)の上昇を抑えることが可能である。これにより、特に常温環境から低温環境移行時の摩擦係数の低下率およびロール外径の収縮量が小さくなるという利点を有する。
【0045】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物の100質量部に対する軟化剤の配合量は15質量部以下、特に5質量部以下であることが好ましい。本発明における軟化剤は、オイル成分と可塑剤成分とを含む。軟化剤の配合量が15質量部より多い場合、紙送りロールの耐摩耗性を損ない易い傾向がある。本発明においては、特に、軟化剤を配合しないことが好ましい。なお、たとえば油展ポリマーであって多量のオイルを軟化剤として含有するポリマーであっても、軟化剤含有量が少ないか軟化剤を全く含有しない他のポリマーと混合することによってポリマー成分全体に対する軟化剤の配合量が上記を満たすように設定すれば良い。
【0046】
その他、本発明の紙送りロール用ゴム架橋物には、ゴム製品の製造において通常用いられる配合剤が適宜使用できる。具体的には、たとえば、カーボンブラック、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、クレー等の充填剤、架橋剤の他、加硫促進剤、老化防止剤、加工助剤等が配合され得る。
【0047】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物の製造における架橋の機構は、硫黄架橋、過酸化物架橋、樹脂架橋等が採用され得るが、硫黄架橋が好ましく採用される。この場合の架橋剤としては、硫黄が好ましく用いられ、さらに単体硫黄量は、ポリマー成分の100質量部に対して1質量部以上5質量部以下とされることが好ましい。単体硫黄量が1質量部以上であれば、架橋密度が十分確保されるため耐摩耗性が良好であり、5質量部以下であれば、圧縮永久歪みの増大が防止されるとともに硫黄のブルーム(析出)が起こり難いという利点を有する。
【0048】
本発明の紙送りロールは、紙のみならず、OHPシート等のプラスチックシート、布帛、金属シート等の種々の被記録材に対しても使用できる。
【0049】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(紙送りロール1の作製)
図5は、紙送りロール1の形状を示す図である。表1および表2に示す配合成分を、混練機を用いて混練し、これを所定の金型内で160℃、30分間の条件で加硫成形し、筒状の紙送りロール用ゴム架橋物を得た。これをゴム層51として、図5に示すようにステンレス鋼製の軸芯52に挿入し、該ゴム層の表面を研磨し、ゴム層51と軸芯52とからなる実施例および比較例の紙送りロール1を作製した。ゴム層51の形状は、外径16mm、内径8mm、長さ10mmである。
【0051】
(紙送りロール2の作製)
図6は、紙送りロール2の形状を示す図である。表1および表2に示す配合成分を、混練機を用いて混練し、これを所定の金型内で160℃、30分間の条件で加硫成形し、筒状の紙送りロール用ゴム架橋物を得た。これをゴム層61として、図6に示すようにステンレス鋼製の軸芯62に挿入し、該ゴム層の表面を研磨し、ゴム層61と軸芯62とからなる実施例および比較例の紙送りロール2を作製した。ゴム層の形状は、外径20mm、内径10mm、長さ30mmである。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

(注1)8340Aは、DSM社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)「KELTAN 8340A」である。
(注2)EP103AFは、JSR社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)である。
(注3)EP25は、JSR社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)である。
(注4)EP57Cは、JSR社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)である。
(注5)5508は、DSM社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)「KELTAN 5508」である。
(注6)E586は、住友化学社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)である。
(注7)EP35は、JSR社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)である。
(注8)EP37Fは、JSR社製のエチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM)である。
(注9)ステアリン酸は、花王社製の商品名「ルナックS−30」である。
(注10)酸化亜鉛は、正同化学社製の商品名「亜鉛華1号」である。
(注11)炭酸カルシウムは、白石工業社製の「白艶華CC」である。
(注12)GPFカーボンは、旭カーボン社製の商品名「旭#55」である。
(注13)HAFカーボンは、旭カーボン社製の商品名「旭#70H」である。
(注14)硫黄は、鶴見化学社製の商品名「粉末硫黄」である。
(注15)DMは、大内新興化学社製の商品名「ノクセラーDM」である。
(注16)TETは、大内新興化学社製の商品名「ノクセラーTET」である。
(注17)TRAは、大内新興化学社製の商品名「ノクセラーTRA」である。
(注18)BZは、大内新興化学社製の商品名「ノクセラーBZ」である。
(注19)TTCUは、大内新興化学社製の商品名「ノクセラーTTCU」である。
【0054】
(特性評価)
<E1(動的弾性率)>
表1および表2に示す配合成分を、混練機を用いて混練し、シート状の金型を用いて、160℃、30分間の条件で加硫成形し、シート状のゴム架橋物を得た。このシートから、実施例および比較例の、幅4mm×長さ40mm×厚さ2mmの短冊状のサンプルを打ち抜いた。上記のサンプルを、岩本製作所製粘弾性スペクトロメータ(VISCOELASTIC SPECTROMETER TYPE VES−F3)を用い、下記の条件、すなわち、
測定温度:−84℃〜52℃
測定温度の昇温速度:2℃/min
測定温度間隔:4℃
測定周波数:100、80、40、10Hz
初期歪み:4mm
振幅:0.1mm
の測定条件で、E1(動的弾性率)[MPa]を測定し、測定周波数10Hzにおける測定値を採用した。ここで、測定点以外の温度における粘弾性特性値については、該温度に近接する2つの測定点における測定値、すなわち、対象となる該温度の高温側に隣接した測定点と低温側に隣接した測定点における測定値、から内挿により算出した代用値とした。結果を表3および表4に示す。
【0055】
<tanδ(損失正接)>
上記で作製したサンプルにつき、上記のE1(動的弾性率)と同様の条件でtanδ(損失正接)を測定した。結果を表3および表4に示す。
【0056】
<A(E1)>
上記のE1(動的弾性率)の測定において、10℃〜30℃の範囲におけるE1(動的弾性率)の測定値(単位:MPa)と測定温度との関係につき、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線(但し該近似直線の相関係数R2がR2≧0.8のもののみを有効とした)の傾き(単位:MPa/℃)の値をA(E1)として算出した。
【0057】
<B(E1)>
上記のE1(動的弾性率)の測定において、20℃〜40℃の範囲におけるE1(動的弾性率)の測定値(単位:MPa)と測定温度との関係につき、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線(但し該近似直線の相関係数R2がR2≧0.8のもののみを有効とした)の傾き(単位:MPa/℃)の値をB(E1)として算出した。
【0058】
<Tmax
上記のtanδ(損失正接)の測定において、tanδが最大値を示した測定点とその前後2つずつの測定点の合計5測定点に着目し、該5測定点について、測定温度(単位:℃)の値をx、tanδの値をyとする以下の2次関数、
y=ax2+bx+c
により近似した。得られた2次近似曲線においてy(tanδ)が極大値をとるときのx(温度)(−b/2aに相当)をTmax(単位:℃)として算出した。
結果を表3、表4および図4に示す。
【0059】
<tanδ(22℃)−P1>
上記で求めたE1およびtanδの値より、tanδ(22℃)−P1を算出した。但し、
P1=0.0031×E1(22℃)+0.0503
である。結果を表3および表4に示す。
【0060】
<A(E1)−P2>
上記で求めたA(E1)の値より、A(E1)−P2を算出した。但し、
P2=−0.0414×E1(22℃)+0.0750
である。結果を表3および表4に示す。
【0061】
<B(E1)−P3>
上記で求めたB(E1)の値より、B(E1)−P3を算出した。但し、
P3=−0.0066×E1(22℃)+0.0200
である。結果を表3および表4に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

なお、表中におけるML(1+4)(100℃)、ML(1+4)(120℃)、ML(1+4)(125℃)の値は、ISO289(ASTM D 1646)、エチレン含量はASTM D 3900:A(IISRP)によって測定される値である。
【0064】
<常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率>
図7は、摩耗係数の評価方法について説明する図である。上記で作製した紙送りロール1を、下記のLL条件またはNN条件でそれぞれ半日以上放置した後、軸芯71の外周にゴム層72を形成した紙送りロールとテフロン(登録商標)板73との間に、ロードセル75に接続した紙74(富士ゼロックス社のGreen100紙)を挟み、紙送りロールの回転軸に荷重をかけることによって、紙に対する鉛直荷重W(単位:N)を付加した。該紙送りロールを矢印aの方向に下記の回転速度、すなわちロール外周面の周速(以下同じ)で回転させたときに作用する搬送力F(単位:N)をロードセル75で測定し、下記の式、
摩擦係数μ=F(単位:N)/W(単位:N)
から摩擦係数μを算出した。下記の条件における摩擦係数μを、それぞれμ(A)、μ(B)、μ(C)として求めた。
μ(A)
放置条件:LL条件(温度10℃、相対湿度15%)
鉛直荷重W:1N
回転速度:30mm/秒
μ(B)
放置条件:LL条件(温度10℃、相対湿度15%)
鉛直荷重W:2.55N
回転速度:300mm/秒
μ(C)
放置条件:NN条件(温度22℃、相対湿度55%)
鉛直荷重W:2.55N
回転速度:300mm/秒
μ変化率として、μ(A)とμ(C)との比μ(A)/μ(C)、およびμ(B)とμ(C)との比μ(B)/μ(C)を百分率で求めた。μ(A)/μ(C)およびμ(B)/μ(C)が大きい程、NN条件で放置した場合と比べたときのLL条件で放置した場合における摩擦係数μの低下率が小さくなる。結果を表5および表6に示す。
【0065】
図8は、実施例および比較例のA(E1)−P2とμ(A)/μ(C)との関係を示す図であり、図9は、実施例および比較例のA(E1)−P2とμ(B)/μ(C)との関係を示す図である。また、図10は、実施例および比較例のB(E1)−P3とμ(A)/μ(C)との関係を示す図であり、図11は、実施例および比較例のB(E1)−P3とμ(B)/μ(C)との関係を示す図である。
【0066】
<常温環境から低温環境への移行時のロール外径変化量>
上記で作製した紙送りロール1を、LL条件(温度10℃、相対湿度15%)、NN条件(温度22℃、相対湿度55%)のそれぞれに半日以上放置した後、各々のロール外径を、レーザー寸法測定機(キーエンス社製「LS−3100」)を用いて測定し、常温環境から低温環境への移行時のロール外径変化量の指標として、外径変化量を、以下の式、
外径変化量(mm)=(LL条件放置後のロール外径(mm))−(NN条件放置後のロール外径(mm))
により評価した。値が0に近い程、NN条件で放置した場合と比べてLL条件で放置した場合におけるロール外径の収縮量が小さくなる。なお、ロール外径変化量は、紙送りロール4個の測定値の平均値として算出した。結果を表5および表6に示す。
【0067】
<通紙後μ保持率>
上記で作製した紙送りロール2をNN条件(温度22℃、相対湿度55%)に6時間以上放置した後、図7に示す評価方法にて初期μを測定した。すなわち、軸芯71の外周にゴム層72を形成した紙送りロールとテフロン(登録商標)板73との間に、ロードセル75に接続した紙74(富士ゼロックス社のGreen100紙)を挟み、紙送りロールの回転軸に荷重をかけることによって、ゴム層72を紙に対する鉛直荷重W=2.55Nで押し付けた。次いで、温度22℃、相対湿度55%の条件下で、該紙送りロールを300mm/秒の回転速度で矢印aの方向に回転させたときに紙74に作用する搬送力F(単位:N)をロードセル75で測定し、下記の式、
摩擦係数μ=F(単位:N)/W(単位:N)
に従い摩擦係数μ(初期μ)を求めた。
【0068】
次に、紙送りロール2を富士ゼロックス社のColor Docutech60の第3トレイに取り付け、室温で、富士ゼロックス社のGreen100紙(A4のもの)を横送りで340000枚通紙した。通紙後の紙送りロールの摩擦係数につき、上記の初期μと同様の方法で測定し、通紙後残存μとした。通紙後μ保持率を、下記の式、
通紙後μ保持率(%)=(通紙後残存μ)/(初期μ)×100
により評価した。値が100%に近い程、通紙後μ保持率が良好である。結果を表5および表6に示す。
【0069】
<通紙後外径変化量>
上記で作製した紙送りロール2につき、初期および340000枚通紙後のロール外径を、レーザー寸法測定機(キーエンス社製「LS−3100」)を用い、NN条件で放置した後、NN条件にて測定し、通紙後外径変化量(mm)を、下記の式、
通紙後外径変化量(mm)=(通紙後ロール外径(mm))−(初期ロール外径(mm))
により評価し、比較例9を100とした指数で表わした。値が小さい程ロールの耐摩耗性が良好である。結果を表5および表6に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

表3、表4、および図1〜図3に示すように、実施例の紙送りロール用ゴム架橋物は、本発明における式(1)と式(2)および/または式(3)とを同時に満たしており、比較例のゴム架橋物は式(1)と式(2)および/または式(3)とを同時には満たしていない。
【0072】
表5および表6、図8〜11に示すように、実施例の紙送りロールにおいては、μ(A)/μ(C)の値が比較例と比べて大きい傾向にあり、μ(B)/μ(C)についても同等以上である。また、NN環境からLL環境への移行時の外径の収縮量は比較例より小さい傾向にある。よって実施例においてはNN環境からLL環境に移行したときの摩擦係数の低下率が小さく、またロール外径の収縮量が小さいことが分かる。また、実施例の紙送りロールにおいては、通紙後の摩擦係数μの保持率、通紙後外径変化量も良好である。これらの結果から、本発明の紙送りロール用ゴム架橋物を用いた紙送りロールは、耐摩耗性を良好に維持しつつ、常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量が小さいことが分かる。
【0073】
中でも、エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレン含量が62質量%以下とされ、本発明における式(1)、式(2)および/または式(3)を満たす実施例1〜5および実施例8〜14においては、エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレン含量が62質量%より大きい実施例6、Tmaxが−32℃より高い実施例7と比べてさらに常温環境から低温環境への移行時のロール外径の収縮量が小さいことが分かる。
【0074】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の紙送りロール用ゴム架橋物を用いた紙送りロールは、良好な耐摩耗性を有し、かつ常温環境から低温環境への移行時の摩擦係数μの低下率およびロール外径の収縮量が小さいため、低温条件での使用に際しても良好かつ安定した紙送り性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】E1(22℃)とtanδ(22℃)との関係を示す図である。
【図2】E1(22℃)とA(E1)との関係を示す図である。
【図3】E1(22℃)とB(E1)との関係を示す図である。
【図4】E1(22℃)とTmaxとの関係を示す図である。
【図5】紙送りロール1の形状を示す図である。
【図6】紙送りロール2の形状を示す図である。
【図7】摩擦係数の評価方法について説明する図である。
【図8】実施例および比較例のA(E1)−P2とμ(A)/μ(C)との関係を示す図である。
【図9】実施例および比較例のA(E1)−P2とμ(B)/μ(C)との関係を示す図である。
【図10】実施例および比較例のB(E1)−P3とμ(A)/μ(C)との関係を示す図である。
【図11】実施例および比較例のB(E1)−P3とμ(B)/μ(C)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
51,61,72 ゴム層、52,62,71 軸芯、73 テフロン(登録商標)板、74 紙、75 ロードセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分を少なくとも含有する紙送りロール用ゴム架橋物であって、前記ポリマー成分がエチレンプロピレン−ジエン共重合体を含有し、前記紙送りロール用ゴム架橋物における、測定温度:−84℃〜52℃、昇温速度:2℃/min、測定温度間隔:4℃、測定周波数f:10Hz、初期歪み:4mm、振幅:0.1mmの粘弾性測定条件で測定される動的弾性率E1[MPa]および損失正接tanδの値が、下記の式(1)、
tanδ(22℃)−(0.0031×E1(22℃)+0.0503)≦0 (1)
(式(1)中、E1(22℃)およびtanδ(22℃)は、それぞれ、動的弾性率E1[MPa]および損失正接tanδの22℃における値である)
を満たし、かつ、下記の式(2)および/または式(3)、
A(E1)−(−0.0414×E1(22℃)+0.0750)≧0 (2)
(式(2)中、A(E1)は、測定温度:10〜30℃における動的弾性率E1の測定値と測定温度との関係から、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線であって相関係数R2≧0.8である近似直線の傾き(単位:MPa/℃)である)、
B(E1)−(−0.0066×E1(22℃)+0.0200)≧0 (3)
(式(3)中、B(E1)は、測定温度:20〜40℃における動的弾性率E1の測定値と測定温度との関係から、最小自乗法を用いた一次近似により求められる近似直線であって相関係数R2≧0.8である近似直線の傾き(単位:MPa/℃)である)、
を満たす、紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項2】
下記の式(4)、
max−(−32℃)≦0 (4)
(式(4)中、Tmaxは、前記粘弾性測定条件においてtanδ(損失正接)が最大値をとる温度(単位:℃)である)
を満たす、請求項1に記載の紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項3】
前記エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量が50質量%以上63質量%以下である、請求項1または2に記載の紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項4】
前記ポリマー成分中の前記エチレンプロピレン−ジエン共重合体の含有量が50質量%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項5】
前記ポリマー成分中の前記エチレンプロピレン−ジエン共重合体の含有量が90質量%以上であり、かつ、前記エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量が50質量%以上62質量%以下である、請求項1または2に記載の紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項6】
前記ポリマー成分中の前記エチレンプロピレン−ジエン共重合体の含有量が90質量%以上であり、かつ、前記エチレンプロピレン−ジエン共重合体中のエチレンユニットの含有量が50質量%以上61質量%以下である、請求項1または2に記載の紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項7】
前記ポリマー成分の100質量部に対する軟化剤の配合量が15質量部以下とされる、請求項1〜6のいずれかに記載の紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項8】
硫黄により架橋されてなる、請求項1〜7のいずれかに記載の紙送りロール用ゴム架橋物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の紙送りロール用ゴム架橋物をゴム層に用いた紙送りロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−2015(P2007−2015A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180818(P2005−180818)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】