説明

【課題】均一性と強度に優れ、抗菌性、有機ガス吸着性を有し、かつ工業的規模での連続生産が可能な竹繊維及び/又は竹粒子を含有する紙を提供する。
【解決手段】竹繊維及び/又は竹粒子を5〜90重量%含有し、以下の(1)〜(2)の要件を満足することを特徴とする紙。
(1)破裂強度が0.05kg/cm2 以上
(2)坪量が5〜500g/m2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹を含有した紙とその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、均一性と強度に優れ、抗菌性、有機ガス吸着性を有する、工業スケールでの連続生産が可能な竹繊維及び/又は竹粒子を含有する紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は元来木材パルプ等を原料にした基本的には環境に優しい(エコ)素材であり、環境問題、衛生を考慮した紙への高機能化が達成できれば、その価値は計り知れない。通常紙は、広葉樹、針葉樹のパルプを原料としていることは、例えば、特許文献1に開示されている。
例えば、壁紙という用途を考えると、接着剤やその他の建材から発生する揮発性有機低分子化合物によるシックハウス問題やタバコのにおい、カビといった問題がある。石油由来の化学薬品を用いることなく、これらの問題を解決できるものができれば大きな市場を獲得できる。
【0003】
また、紙の大きな用途として包装材市場がある。これらの用途についても、化学薬品処理をすることなく抗菌性、におい除去性が優れた紙が工業的に生産できたならば、その価値は計り知れない。このような課題を解決するために、竹繊維を木材パルプに混ぜて紙とすることを本発明者らは考えた。竹を物理的、あるいは化学的に小さくして短繊維状にする技術はいくつか知られており、例えば、特許文献2に開示されている。また、例えば特許文献3には、竹不織布を壁紙にできることが開示されている。更に、観光地などで手工業的に紙すきして、竹繊維の入った紙は販売されている。しかしながら、均一性と強度に優れ、抗菌性、有機ガス吸着性を有し、かつ工業的規模での連続生産が可能な竹繊維及び/又は竹粒子を含有する紙については、全く検討されていない。
【0004】
【特許文献1】特公昭61−000478号公報
【特許文献2】特開2006−116917号公報
【特許文献3】特開2005−113360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、均一性と強度に優れ、抗菌性、有機ガス吸着性を有し、かつ工業的規模での連続生産が可能な竹繊維及び/又は竹粒子を含有する紙を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するために、紙素材の検討と紙製造方法を詳細に検討した結果、特定の構造を有する竹繊維や竹粒子を有する紙が本発明の課題を解決し得る可能性を見いだし、更に紙の製造方法を鋭意検討の結果、本発明を完成させるに至った。
即ち本発明は、竹繊維及び/又は竹粒子を5〜90重量%含有し、以下の(1)、(2)の要件を満足することを特徴とする紙、を提供するものである。
(1)破裂強度が0.05kg/cm2 以上
(2)坪量が5〜500g/m2
【発明の効果】
【0007】
本発明により、均一性と強度に優れ、抗菌性、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒド等や、果物や食品の腐敗を進めるエチレンガス等の有機ガス吸着性を有し、かつ工業的規模での連続生産が可能な竹繊維及び/又は竹粒子を含有する紙を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明の紙は、竹繊維及び/又は竹粒子を5〜90重量%含有し、以下の(1)〜(2)の要件を満足する紙である。
(1)破裂強度が0.05kg/cm2 以上
(2)坪量が5〜500g/m2
本発明に用いる竹繊維、竹粒子は、原料植物をそのまま、あるいは乾燥後、粉砕して製造することができる。粉砕方法としては、機械的粉砕、爆砕、アルカリ等を用いた薬品粉砕などが使用できるが、機械的粉砕で製造することが好ましい。爆砕、アルカリ等を用いた薬品粉砕を用いると、破裂強度、抗菌性、有機ガス吸収性が低下するからである。
本発明に用いる竹繊維、竹粒子は、紙中に均一に分散されることと、抗菌性、有機ガス吸着性を高めるためには、比表面積が0.05〜200m2 /gであることが好ましく、特に0.1〜100m2 /gであることが更に好ましい。
【0009】
本発明の紙に含まれる竹繊維の長さについて、単糸の直径が5μm〜2mmで繊維長Lと単糸の直径Dの比L/Dが2〜100000であることが好ましい。理由はこの範囲で紙にする時の交絡性がよく工業的に安定生産が可能で、破裂強度を高めることができるからである。単糸の直径は5μm未満になると、水中で分散しにくくなる。2mmを越えると、交絡がかかりにくくなる場合がある。好ましくは、10μm〜1mm、更に好ましくは50μm〜800μmの範囲である。L/Dは、100〜6000であることが好ましく、さらに300〜5000で有ることが好ましく、特に好ましい範囲は350〜4500の範囲である。L/Dが100000を超える場合はシートの均一性が悪化し、製造条件によっては目的とする紙が得られない場合がある。例えば、繊維直径、繊維長の好ましい組み合わせとしては、直径5μm〜1mm、長さ1〜10mm、好ましくは、直径5μm〜1mm、長さ2〜5mm程度である。
本発明の紙に含まれる竹粒子の形状については、平均粒径が0.01〜700μmが好ましい。理由はこの範囲で紙にする時の交絡性がよく工業的に安定生産が可能で、破裂強度を高めることができるからである。平均粒径を0.01μm未満にしてもよいが、安定してこの形状を作ることは困難である。平均粒径が700μmを超えると、分散が不均一になりやすい。好ましくは0.1〜500μmの範囲である。
【0010】
紙中の竹繊維及び/又は竹粒子の混合割合としては、紙の重量を基準として5〜90重量%である必要がある。5重量%未満では抗菌性が出ず、90重量%を超えて多くなると破裂強度が小さくなる。これらの特性をうまくバランス良くするために好ましくは10〜70重量%であり、更に好ましくは15〜60重量%の範囲である。紙中の竹繊維及び/又は竹粒子以外は、通常最も使用されている、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、ケナフ等の竹以外のセルロースを原料とするパルプや、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、アクリル酸、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、酢酸セルロース、アラミド、ポリビニルアルコール等の合成パルプや繊維を用いることができる。また、必要に応じて、接着剤や添加剤、表面塗布剤、表面改質剤、樹脂、ゴム、フィルム等の繊維以外の成分を含んでいてもよい。尚、これらの繊維の形状としては、特に制限はないが、繊維長が0.5〜75mmの短繊維、単糸繊度が0.1〜2cN/dtex、L/Dが50〜10000の範囲が好ましい。
【0011】
本発明の紙は、その坪量(目付)が5〜500g/m2 であることが必要である。目付が5g/m2 未満の場合、強力の高い紙を得ること困難となる問題、形態保持性が劣り、結果としてシワ発生などの不具合が生じる。坪量の上限については特に制限はないが、紙の均一性、厚みの均一性、表面平滑性等の観点から500g/m2 以下であることが好ましい。目付のより好ましい範囲は20〜250g/m2 であり、更に好ましい範囲は20〜100g/m2 である。
本発明の紙の破裂強度は0.05kg/cm2 以上であることが必要である。破裂強度が0.05kg/cm2 未満では、加工時や加工後には衝撃や突き当て等の外力に対して紙が破損したり、孔があく等の不具合が起こりやすい。貫通強力としては好ましくは0.2kg/cm2 以上、より好ましくは0.3kg/cm2 以上である。上限は特に制限はないが、通常は10kg/cm2 以下である。
【0012】
また、抗菌性、有機ガス吸着性を高度に発現させ、その効果を長持ちさせるために、通気度が10〜300秒/200mlであることが好ましい。
本発明の竹繊維及び/又は竹粒子を含有する紙は、竹繊維及び/又は竹粒子以外の原料と竹繊維及び/又は竹粒子を予め混合し、スラリーとした上で叩解し互いに高度に分散させた後、抄紙して製造することができる。
竹繊維及び/又は竹粒子以外の原料と竹繊維及び/又は竹粒子との予め混合については、乾燥状態で、あるいはそれぞれを1〜30重量%のスラリー濃度で水分散させたスラリー溶液を混合してもよい。必要に応じてスラリーを安定させるために、非イオン系、イオン系界面活性剤、金属塩などを混合させてもよい。
【0013】
こうして得られたスラリーは、叩解し、互いに高度に分散させることが必要である。叩解方法としては、円錐型リファイナー、円筒型リファイナー、ディスク型リファイナー、ホモジナイザー等を用いることができるが、得られたスラリーが1分間静置状態で竹繊維及び/又は竹粒子以外の原料と竹繊維及び/又は竹粒子が実質的に互いに分離しない条件で叩解することが必要である。このような条件はリファイナーやホモジナイザーの歯とケーシングの距離や回転数を制御することにより可能である。リファイナーやホモジナイザーの歯とケーシングの距離は0.2mm〜3mm、リファイナーやホモジナイザーの回転数としては1000〜100000rpmが、均一分散に好ましい。処理時間としては、10分から24時間であり、処理を数段に分けてもよい。
【0014】
こうして得られたスラリーは、必要に応じて大きな不純物をフィルター等で分離した後、抄紙、乾燥を行い、連続的に紙として巻き取ることができる。連続的に巻き取るためには、抄紙をメッシュのベルトの上で行い、乾燥炉を経て連続巻き取り機で巻き取る。この場合、抗菌性を高度に発現させるためには、乾燥温度を100〜200℃にすることが好ましい。乾燥温度が200℃を越えると、抗菌性が低下し、100℃未満であると乾燥しにくくなる。
本発明の製造方法を用いれば、紙を連続的に、かつ途中で切れたり、坪量、品質に斑なく、幅広かつ長尺で得ることができる。また、品質が均質性故に、巻き上げられた円柱状の紙ロールは安定に解じょ(巻いた紙を用途に応じて取り出し、必要に応じてカットすること)できる。
工業的に連続生産可能な紙は、通常、幅が1cm〜500cm、長さが2m以上(上限は例えば、10km)であり、巻き上げられた円柱状の形状が直径0.5〜500cm、幅が1cm〜500cmである。均質故に、幅、直径のばらつき誤差は5%以内となる。
【実施例】
【0015】
次に、実施例などによって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明に用いられる各測定値の測定方法は次の通りである。
(1)破裂強度:JIS−P−8112に準じる。測定は幅方向から適当に4ヶ所の200mm×250mmの試験片を採取し、各試験片につき裏表各2回測定し、合計4回測定した(試験条件:20℃、湿度65%)。
(2)坪量:一定の面積の重量から算出した。
(3)通気度:JIS−P−8117に準じる。ただし、測定は幅方向から適当に4ヶ所の200mm×250mmの試験片を採取し、試験片を2枚重ねにし10mmΦを200ccの空気の透る時間を4ヶ所の平均値を取って透気度とした(試験条件:20℃、湿度65%)。
(4)比表面積:BET比表面積法により測定した。
(5)竹繊維の形状:顕微鏡測定で求めた。
(6)竹粒子の平均粒径:日機装(株)マイクロトラック3300EXIIを用いて測定した。
(7)抗菌性:JIS−L−1902、菌液吸収法で求めた。菌は、黄色ぶどう球菌を用いた。数値が大きいほど抗菌性は高く、特に2.2以上で合格とされる。
(8)有機ガス吸収性:50ppmのホルムアルデヒド、エチレンが入った5lのテドラバックに、紙10gを入れて10時間後のホルムアルデヒド、エチレンの減少率を求めた。
【0016】
[実施例1〜3]
長さ30cmに切出した肉厚が10mm程度の円筒状の竹材を、縦に6分割して、1個の切出した竹材当たり、6個の円弧状の竹片を得た。この円弧状の竹片の内側の節を取除き、押し潰すようにして圧砕し、平板状の竹片を製造した。圧砕された竹片を蒸煮装置に入れて、0.43MPa、143℃の加圧飽和水蒸気で処理した後、切り裂いて細長い粗解繊の繊維束を製造した。次に、この切り裂かれた細長い粗解繊の繊維束を、複数個の解繊ピンを二段に夫々固定した互いに対向する一対の板状回転体を3000rpmで回転させて精解繊した。こうして綿状の竹繊維を製造した。こうして得られた竹繊維は直径が100μmから700μmで、L/Dが5〜330であった。また、比表面積は0.5m2 /gであった。こうして得られた竹繊維と広葉樹パルプを表1の比率で混合した10%水スラリーを調整し、円錐型リファイナー(間隔1mm、3000回転、処理時間1時間)で叩解後、連続抄紙し、150℃で乾燥後、幅1mで直径50cmのロール状に巻き取った。紙製造工程では切れもなく、安定していた。いずれも幅、厚みの斑は5%以内であった。得られた紙は抗菌性、有機ガス吸収性に優れたものであった。得られた紙の諸物性を表1に示す。
【0017】
[実施例4、5]
孟宗竹を粗粉砕した後、ミキサーとガラスビーズを用いて、平均粒径15μmの竹粒子を製造した。この竹粒子を用い、混合比率を表1に示す値に変えて実施例1と同様に紙を製造した。得られた紙は抗菌性、有機ガス吸収性に優れたものであった。得られた紙の諸物性を表1に示す。
[比較例1]
直径が2.2mm、長さが4mmの竹繊維を用いて、実施例1を繰り返したが破裂強度が低い物であった。得られた紙の諸物性を表1に示す。
[比較例2]
竹繊維や竹粒子を用いずに、実施例1を繰り返した。抗菌性、有機ガス吸収性は劣るものであった。得られた紙の諸物性を表1に示す。
【0018】
[比較例3]
円錐型リファイナー(間隔4mm、500回転、処理時間1時間)で叩解した以外は、実施例1を繰り返した。破裂強度が低い物であった。得られた紙の諸物性を表1に示す。
[比較例4]
平均粒径800μmの竹粒子を用いた以外は実施例4を繰り返したが破裂強度が低い物であった。得られた紙の諸物性を表1に示す。
【0019】
[参考例1]
実施例1、比較例1の紙を用い、裏紙をつけて壁紙として、4畳半の部屋に貼り付けた。タバコを5本吸って、2時間経過した後、部屋に入ったところ、実施例1の部屋ではたばこ臭が消えていた。
[参考例2]
実施例1、比較例1の紙で、おにぎり、トロの握りすしを包み、48時間、25℃で放置した。実施例1の紙ではカビの発生はなかったが、比較例1の紙ではカビが生えた。
[参考例3]
実施例1、比較例1の紙で、コップ、紙のお皿を作成し、牛乳を入れて、25時間、25℃で放置した。実施例1の紙、コップ、皿共にカビの発生はなかったが、比較例1の紙ではカビが生えた。
【0020】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の紙は、例えば、家具部材、壁紙等の家具・インテリア用途、各種包装材料、コップ、皿などの食器をはじめ、救急用品、洗浄用品、おしぼり、ナプキン等の衛生用途、ワイパー、ウェットワイパー、クリーニング材等のワイパー用途、空気フィルター、バグフィルター、エレクトレットフィルター等のフィルター用途、布団、布団袋、枕カバー等の寝装用途、べた掛けシート、防草シート、園芸プランター等の農業・園芸用途、収納用品、包装資材、台所用品等の生活資材用途、電気材料、製品材料、機器部材等の工業資材用途等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹繊維及び/又は竹粒子を5〜90重量%含有し、以下の(1)、(2)の要件を満足することを特徴とする紙。
(1)破裂強度が0.05kg/cm2 以上
(2)坪量が5〜500g/m2
【請求項2】
通気度が10〜300秒/200mlであることを特徴とする請求項1に記載の紙。
【請求項3】
竹繊維及び/又は竹粒子の含有割合が10〜50重量%であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の紙。
【請求項4】
竹繊維が、単糸直径が5μm〜2mmで、繊維長Lと単糸の直径Dの比L/Dが2〜100000であること請求項1〜3のいずれか一項に記載の紙。
【請求項5】
竹粒子が、平均粒径が0.01〜700μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の紙。
【請求項6】
幅が1cm〜500cmで長さが2m以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の紙。
【請求項7】
紙が、円柱状に巻き上げられたことを特徴とする請求項6に記載の紙。
【請求項8】
巻き上げられた円柱状の形状が直径0.5〜500cm、高さが1cm〜500cmであることを特徴とする請求項7に記載の巻き上げられた紙。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の紙を用いたことを特徴とする壁紙。
【請求項10】
請求項1〜8に記載の紙を用いたことを特徴とする包装材料。
【請求項11】
請求項1〜8に記載の紙を用いたことを特徴とする食器。

【公開番号】特開2008−169515(P2008−169515A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4547(P2007−4547)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】