説明

素練りゴムの製造装置及び製造方法

【課題】機械的素練りにより、安定した化学的特性を示す素練りゴムを製造するための装置及び方法を提供する。
【解決手段】投入口3から投入された材料を密閉された練り室5内で攪拌する攪拌ロータ6と、攪拌ロータ6の回転速度を自動制御する制御部11と、練り室5内の温度を検出し、検出された実測温度に関する情報を制御部11に出力する温度センサ13と、を備え、制御部11は、練り室5内に天然ゴム又は50%以上が天然ゴムで構成されたゴム混合物が投入された後、設定された制御時間が経過するまでの間、前記実測温度に関する情報及び設定された目標温度に関する情報に基づき、前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴム(生ゴム、NR)を素練りして製造される素練りゴムを製造する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、添加剤等の添加工程、加硫工程を経て、成型加工されることにより、応用範囲の広い製品として市場に供されている。そして、前記添加工程の前工程として存在するのが、ゴム自体を柔らかく均一にするための素練り工程である。すなわち、素練りとは、ゴム材料に剪断力を与え、分子鎖を切断して粘性を低下させ、成形に必要な可塑性を生じさせる作業である
【0003】
天然ゴムは、通常、素練りしない状態では、質量平均分子量が200万前後と大きいため、そのままでは添加剤等を添加しても混練することが困難である。混練を可能にするためには、剪断によって、質量平均分子量を80万〜130万程度にまで下げる必要がある。また、有機溶剤に溶解して使用する場合は、質量平均分子量を80万以下に下げないと溶解しないため、素練りにより溶解可能となるまで分子量を下げる必要がある。
【0004】
従来、素練りには、低温素練りと高温素練りの2種類があり、高温素練りの際にはしゃく解剤(素練り促進剤)を添加して混練することで行われるのが通常である(下記、特許文献1,非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−227845号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本ゴム協会編,「新版 ゴム技術の基礎」,改訂版,社団法人日本ゴム協会,2005年11月30日,p.147−148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低温素練りは、110℃程度までの温度条件下で行われる機械的素練りであり、かかる工程によって主として分子鎖の長い箇所が選択的に切断されることで分子量が減少する。一方、高温素練りは、それよりも高い温度条件下、例えば120℃〜180℃の温度下において、しゃく解剤を導入して化学反応を生じさせることで分子鎖を切断する化学的素練りである。
【0008】
天然ゴムの素練りの際には、当該ゴムを密閉型ミキサ(バンバリーミキサ等)内でミキシングすることによって行われる。ゴムに対する練りが促進されるに伴って熱が発生し、当該ゴムの温度が上昇する。特に、高温素練りのように150℃〜180℃といった高い温度下の密閉空間内にゴムを長時間保持すると、ゴム焼け(スコーチ)の問題が生じるおそれがあることから、原料ゴムに可塑性を早く与えて素練り時間を短縮する目的で、前記のしゃく解剤が導入されるのが一般的である。
【0009】
しゃく解剤を用いた高温素練りでは、分子量の大小に関係なく、しゃく解剤の反応箇所において分子鎖が切断される。このため、素練り後において残されたゴム化合物としては、分子量の大きなものから小さなものまで様々な化合物が残存することが考えられる。また、しゃく解剤の偏在によって、更に反応の不均一性が増してしまうおそれがある。
【0010】
一方で、低温下で行われる機械的素練りにおいては、上述したように分子量の大きい箇所から選択的に切断されるため、ゴム化合物の各分子量が満遍なく減少する。よって、素練り後のゴムの化学的特性を安定化させる点においては、機械的素練りの方が優れている。
【0011】
しかしながら、従来の方法によって機械的素練りのみを行おうとしても、上述したようにゴムに対する練りが促進されるに伴って熱が発生し、当該ゴムの温度が上昇してしまうという課題がある。つまり、素練りが行われるに連れ温度が上昇する結果、十分な可塑性が生じないままの状態で、機械的素練りで対応可能な温度範囲を逸脱し、ゴム焼けが発生してしまう。このため、高温下でゴム焼けを防止しながら素練りを行う必要が生じ、上述したリスクを内包しつつもしゃく解剤を用いた化学的素練りを行わざるを得ないという事情があった。
【0012】
本発明は上記の問題点に鑑み、機械的素練りにより、安定した化学的特性を示す素練りゴムを製造するための装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明に係る素練りゴムの製造装置は、
材料を投入する投入口と、
前記投入口から投入された材料を密閉された練り室内で攪拌する攪拌ロータと、
前記攪拌ロータの回転速度を自動制御する制御部と、
前記練り室内の温度を検出し、検出された実測温度に関する情報を前記制御部に出力する温度センサと、を備え、
前記制御部は、天然ゴム又は50%以上が天然ゴムで構成されたゴム混合物が前記練り室内に存在する状態で、設定された制御時間が経過するまでの間、前記実測温度に関する情報及び設定された目標温度に関する情報に基づき、前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御することを特徴とする。
【0014】
なお、より具体的には、前記制御部が、攪拌ロータを回転駆動するためのモータの回転速度を自動制御する構成としてもよい。
【0015】
上記目的を達成すべく、本発明に係る素練りゴムの製造方法は、
制御部によって回転速度の自動制御が可能な攪拌ロータを備え、内部の温度を検出して出力することが可能な密閉された練り室内に、天然ゴム又は50%以上が天然ゴムで構成されたゴム混合物を投入するステップと、
前記制御部に対して制御時間及び目標温度に関する設定を行うステップと、
前記2つのステップの完了後、前記制御時間が経過するまでの間、前記練り室内の実測温度に関する情報及び前記目標温度に基づき、前記制御部によって前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御しながら前記練り室内を攪拌するステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
このとき、天然ゴムのゴム焼けが発生する下限温度よりも低い温度を前記目標温度として設定するのが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御部によって攪拌ロータの回転速度がPID制御による自動制御がなされることで、一定の時間にわたって、練り室内の温度を一定の範囲内に留めることができる。よって、機械的素練りの実行可能な温度範囲内、望ましくは機械的素練りの実行可能な上限温度に近い温度を維持することができる。これにより、化学的素練りを行わずとも優れた成形加工性を示す素練りゴムを製造することが可能となる。
【0018】
このため、素練り工程においてしゃく解剤を導入する必要がなくなり、素練りゴム内に極端に短い分子と極端に長い分子が混在するという事態が生じることがなく、化学的に安定した特性を示す素練りゴムを製造することができる。
【0019】
また、従来存在する密閉型の混練装置に、制御部及び温度センサを導入するのみで実現できるため、安価で且つ省スペースな設備によって良好な特性を示す素練りゴムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る素練りゴム製造装置の概略構造図である。
【図2】本装置で行われるゴム加工方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】本装置において制御部からのPID制御の下での、練り室内の実測温度及びモータの回転数の変化を経時的に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に本発明に係る製造装置(以下、「本装置」という。)の模式図を示す。図1に示す本装置1は、密閉式のミキサであり、ラム4の昇降に用いられるシリンダ2、素練りを行うためのゴム(天然ゴム)を投入するための投入口3、材料を素練りするための練り室5、素練り後のゴムを排出するためのドロップドア7を備える。ラム4は、昇降によって練り室5内の圧力を調整するために配置されている。
【0022】
なお、以下の実施形態では、本装置1内において天然ゴムを素練りする場合について説明するが、50%以上が天然ゴムで構成されたゴム混合物を素練りする場合においても同様である。
【0023】
練り室5には、材料を攪拌するための一対の攪拌ロータ6が備えられ、この撹拌ロータ6はモータ(不図示)によって回転軸12を中心に回転駆動される。また、練り室5には、同室内の温度を検出するための温度センサ13が備えられている。この温度センサ13は、例えばドロップドア7の内側に設置されるものとしても構わない。
【0024】
攪拌ロータ6を回転させるモータは、制御部11からの制御信号に基づいて回転速度が調整される。制御部11は、温度センサ13から送られる練り室5内の温度情報に基づき、モータの回転速度の制御を行う。モータは制御部11によって回転速度を自在に変化できる構成であれば良く、例えばインバータモータで構成される。
【0025】
より具体的には、モータの回転速度は、制御部11の内部に設けられるPID演算処理部によって、温度センサ13が検出する練り室5内の実測温度Tpと目標温度Tsとの偏差から、比例(P)、積分(I)、及び微分(D)の演算の実行に基づくPID制御を実行する。即ち、前記PID演算処理部は、温度センサ13が検出する練り室5内の実測温度Tpと目標温度Tsとの差(偏差e)に比例して制御量を算出する比例(P)動作、偏差eを時間軸方向に積分した積分値により制御量を算出する積分(I)動作、及び偏差eの変化の傾きすなわち微分値より制御量を算出する微分(D)動作によって得られる各制御量の合算値により、モータの回転速度を決定する。
【0026】
図2に、本装置1で行われるゴム加工方法の流れをフローチャートとして図示している。装置1内に、素練りを行う対象である天然ゴムが投入されると(ステップS1)、ステップS2において入力された目標温度Ts及び制御設定時間tmの値に基づき、制御部11によってモータへのPID制御が開始される(ステップS3)。即ち、制御部11からの制御信号に基づきモータの回転速度が決定され、これによって撹拌ロータ6の回転速度(すなわち攪拌速度)が決定される。目標温度Ts,制御設定時間tmに関する情報は、ステップS1以前の段階で予め制御部11側に与えられているものとしても構わない。
【0027】
制御部11は、制御開始時刻からの経過時間tが制御設定時間tm以上になるまでの間(ステップS4においてNo)、モータの回転速度に対するPID制御を行う。具体的な制御内容については、上述したように、温度センサ13から送られる練り室5内の実測温度Tpと目標温度Tsの偏差、偏差の積分値、偏差の微分値に基づき、回転速度を小刻みに変化させる。
【0028】
なお、目標温度Tsの値については、しゃく解剤を導入しなくてもゴム焼けが発生しない上限温度よりも微小温度だけ低く設定するのが好適である。なぜなら、制御部11はPID制御を行う構成であるが、制御過程において一時的に目標温度Tsを少し上回る場合も想定されるためである。つまり、制御過程において練り室5内の実測温度Tpが一時的に目標温度Tsを少し上回ることが許容されるよう、目標温度Tsの値を設定するのが好適である。
【0029】
そして、制御時間tが制御設定時間tm以上になった時点で(ステップS4においてYes)、制御部11はモータへのPID制御を終了し、ドロップドア7より素練りゴムを排出する(ステップS5)。制御設定時間tmとしては、ゴムに十分な可塑性を生じさせるのに必要な時間tcよりも長い時間とする。
【0030】
図3は、本装置1において制御部11からのPID制御の下での、練り室5内の実測温度Tp及びモータの回転数の変化を経時的に示したグラフである。なお、(b)は、(a)における領域A部分の拡大図である。
【0031】
図3によれば、モータの回転速度を小刻みに変化(上昇又は下降)させることで練り室5内の実測温度Tpが長時間にわたって目標温度Tsにほぼ等しい値に維持できていることが分かる。よって、この温度領域を一定時間以上維持することで、素練りゴムに十分な可塑性を生じさせることができる。図3の例では、目標温度Tsを90℃としてPID制御を行い、実測温度Tpは85℃〜98℃を維持することができた。
【0032】
なお、図2のフローチャートでは、天然ゴムの投入後に制御部11によるPID制御が必ず実行される構成としたが、実際には、PID制御を行うか否かを利用者によって選択できる構成としても構わない。
【0033】
本装置を用いることで、練り室5内の温度を一定時間にわたって保持できるため、機械的素練りのみによって十分な可塑性を有する素練りゴムを生成することが可能となる。このため、しゃく解剤を用いた化学的素練りが不要となり、生成される素練りゴムの化学量がほぼ均衡化され、生成された素練りゴムは安定した化学的特性を示すこととなる。より具体的な効果は、以下の実施例において詳細に説明される。
【実施例】
【0034】
本装置1によるPID制御の下で素練りした場合を実施例1,PID制御を行うことなく素練りした場合を比較例1〜2として結果を下記表1に示す。なお、各値は、比較例1における値を基準(100)としたときの相対値で示している。また、材料としては、以下のものを用いた。
【0035】
(材料)
・天然ゴム:RSS#3
・しゃく解剤:DBD(2,2’−ジベンズアミドジフェニルジスルフィド)を5〜10質量%含有する脂肪酸亜鉛塩(構成脂肪酸は炭素数18の飽和脂肪酸を主成分とする。)、ラインケミー社製「アクチプラストMS」
【0036】
なお、上記材料を採用した場合における、ゴム成分がゴム焼けを生じる下限温度は、およそ180℃であるため、前記およそ180℃を下回る温度範囲を保ちながら攪拌処理を行うことで、ゴム焼けを防止しつつ機械的素練りを持続させることが可能になる。特に、110℃を下回る温度範囲を保つのが好ましく、更に、100℃を下回る温度範囲を保つのがより好ましい。下記実施例1では、本装置1のPID制御により、混練室5内を前記の温度範囲内である90℃に保ちながら攪拌処理を行っている。
【0037】
【表1】

【0038】
比較例1及び2は、従来方法と同様、機械的素練りを行った後にしゃく解剤を導入した化学的素練りを行った場合の例である。比較例1は、天然ゴムの量を100としたときのしゃく解剤の添加量が0.15であり、比較例2は0.2である。比較例2の方が、導入したしゃく解剤の量が増加されている。
【0039】
実施例1では、しゃく解剤を導入することなく、本装置1のPID制御を用いた温度管理の下、機械的素練りのみによって素練りを行った場合の例である。
【0040】
なお、各項目については、下記に示す方法により値を測定し、比較例1に対する相対値を求めて得られたものである。
【0041】
(粘度)
ミキサから取り出した素練りゴムのムーニー粘度(ML1+4)を、JIS K6300に準拠してムーニー粘度計にてL型ロータを使用し、予熱時間を1分、ロータの回転時間を4分、温度を100℃、回転速度2rpmの条件で測定した。この指数が小さいほど成形加工性が優れることを意味する。
【0042】
(ゴム強度(TB))
JIS3号ダンベルを使用して作製したサンプルをJIS K6251に準拠して、引張強さ(TB(MPa))を測定した。評価は、実施例1及び比較例2については、比較例1のTBの測定値を100として指標化した。TBの数値が大きいほど、ゴム強度が高く、良好であることを意味する。
【0043】
表1によれば、実施例1と比較例1を比べると、実施例1の方が粘度の値が小さく、成形加工性に優れていることが分かる。また、実施例1の方がTBの値が大きく、ゴム強度も高い。
【0044】
比較例1及び2を比べると、比較例2の方が粘度の値が小さくなっており、このことからしゃく解剤の量を増加することで成形加工性を良好にする効果が期待できることが分かる。しかしながら、比較例1よりも比較例2の方がTBの数値が低下しており、ゴム強度が低下してしまっていることが分かる。これは、しゃく解剤を比較例1よりも多く導入したことで、しゃく解剤による化学的反応がより進行し、極端に短い分子が存在する箇所が多く発生していることを示唆している。
【0045】
実施例1では、しゃく解剤を導入せず機械的素練りのみによって素練り動作が実行されているため、素練りゴム内に極端に短い分子が存在するということがなく、これによって、しゃく解剤による強度低下という副作用の発生を防止することができる。そして、本装置1のPID制御により90℃という温度範囲で一定時間保持することができるため、化学的素練りを行わずとも優れた成形加工性を示す素練りゴムを製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0046】
1: 本発明に係る素練り装置
2: シリンダ
3: 投入口
4: ラム
5: 練り室
6: 攪拌ロータ
7: ドロップドア
11: 制御部
12: 回転軸
13: 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を投入する投入口と、
前記投入口から投入された材料を密閉された練り室内で攪拌する攪拌ロータと、
前記攪拌ロータの回転速度を自動制御する制御部と、
前記練り室内の温度を検出し、検出された実測温度に関する情報を前記制御部に出力する温度センサと、を備え、
前記制御部は、天然ゴム又は50%以上が天然ゴムで構成されたゴム混合物が前記練り室内に存在する状態で、設定された制御時間が経過するまでの間、前記実測温度に関する情報及び設定された目標温度に関する情報に基づき、前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御することを特徴とする素練りゴムの製造装置。
【請求項2】
素練りゴムの製造方法であって、
制御部によって回転速度の自動制御が可能な攪拌ロータを備え、内部の温度を検出して出力することが可能な密閉された練り室内に、天然ゴム又は50%以上が天然ゴムで構成されたゴム混合物を投入するステップと、
前記制御部に対して制御時間及び目標温度に関する設定を行うステップと、
前記2つのステップの完了後、前記制御時間が経過するまでの間、前記練り室内の実測温度に関する情報及び前記目標温度に基づき、前記制御部によって前記実測温度を前記目標温度とするためのPID制御によって前記回転速度を自動制御しながら前記練り室内を攪拌するステップと、を有することを特徴とする素練りゴムの製造方法。
【請求項3】
前記目標温度は、天然ゴムのゴム焼けが発生する下限温度よりも低い温度であることを特徴とする請求項2に記載の素練りゴムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−18213(P2013−18213A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154071(P2011−154071)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】