説明

紡機における繊維束案内装置

【課題】繊維束を非接触状態で案内する案内部材を励振する励振手段のエネルギー効率を高めることができ、設置に必要なスペースを確保するのが容易になる紡機における繊維束案内装置を提供する。
【解決手段】繊維束案内装置30は、案内すべき繊維束の移動方向に沿って繊維束の幅を狭める案内面を備えた案内部材31と、案内面に繊維束が接触するのを阻止する音圧を発生するように案内部材31を振動させる励振手段32とを備えている。励振手段32を構成する振動子37は、一対の連結部材35,36間に圧電素子34及び取付け用ブラケット33を挟み込んだ形で構成されている。発振器39は圧電素子34に連結部材35,36が取付け用ブラケット33の位置が節になり、案内部材31の位置が腹になる縦振動を行うように所定周波数の電圧を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機における繊維束案内装置に係り、詳しくは繊維束を非接触状態で案内する紡機の繊維束案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リング精紡機において、ドラフトされた繊維束を撚り掛けの前に予め集束し、むらが少ない、毛羽が少ない等の糸品質の向上を目的とした繊維束集束装置が種々提案されている。そして、繊維束の集束方法としては、機械的なガイド(コレクター)を用いる方法や、多孔ベルト(通気エプロン)上を移動する繊維束に吸引気流を作用させる方法が一般的である。
【0003】
しかし、これらの方法では、繊維束と接触して繊維束を案内するため、繊維束中の繊維配列を乱さないために、案内部材の表面の摩擦を低減させる対策が必要であり、対策を施しても経時的に性能が劣化する。この問題を解消するため、繊維束に接触せずに繊維束を案内することができ、摩耗や異物の付着によって案内面の摩耗状態が経時的に劣化するのを防止する繊維束案内装置が提案されている(特許文献1参照。)。特許文献1の繊維束案内装置では、案内すべき繊維束の移動方向に沿って繊維束の幅を狭める案内面を備えた案内部材として2枚の板をそれぞれ専用の振動子で励振させる構成が採用されている。
【特許文献1】特開2007−9391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の繊維束案内装置のように、案内部材を構成する2枚の板をそれぞれ専用の振動子で励振させる構成では小型化が難しく、リング精紡機の各錘の繊維束の通過経路に案内部材を設けるスペースを確保するのが難しい。
【0005】
そこで、図8に示すように、1つの案内部材51を1つの振動子52で励振させる構成が考えられる。この繊維束案内装置は振動子52を構成する圧電素子53に対して案内部材51が固定される側と反対側の端部において取付け用ブラケット54に取り付けられる構成である。この構成では1錘に必要な振動子52は1つで済むが、インピーダンスが高く図示しない発振器を含めた励振手段のエネルギー効率が低い。
【0006】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は繊維束を非接触状態で案内する案内部材を励振する励振手段のエネルギー効率を高めることができ、設置に必要なスペースを確保するのが容易になる紡機における繊維束案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、上流側から下流側へと移動する繊維束の幅を狭めるように案内する紡機における繊維束案内装置であって、紡機に取り付けられた状態において、案内すべき繊維束の移動方向に沿って繊維束の幅を狭める案内面を備えた案内部材と、前記案内面に前記繊維束が接触するのを阻止する音圧を発生するように前記案内部材を振動させる励振手段とを備えている。そして、少なくとも隣接する2錘に対応する間隔で配置される前記案内部材を前記案内部材と直交する方向に延びる棒状の連結部材で連結し、前記連結部材の中間部に圧電素子を介在させて、圧電素子により前記連結部材を縦振動させるように励振する。
【0008】
圧電素子の片側にのみ連結部材を固定して、その連結部材を励振して縦振動させると、圧電素子の連結部材と反対側への力が無駄になる。しかし、この発明では、少なくとも2錘に対応する間隔で配置される案内部材が連結部材で連結されるとともに、連結部材の中間部に介在する圧電素子により励振されて縦振動する。そのため、圧電素子は振動のエネルギーを有効に利用して両側の連結部材を縦振動させることができる。したがって、繊維束を非接触状態で案内する案内部材を励振する励振手段のエネルギー効率を高めることができる。また、案内部材を個々に独立した励振手段で励振させる構成に比較して、設置に必要なスペースを確保するのが容易になる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記圧電素子は、前記連結部材の縦振動の節と対応する位置に設けられた取付け用ブラケットを挟んで両側に一対ずつ設けられている。この発明では、繊維束案内装置を紡機に取り付ける際の取付け用ブラケットが、連結部材の縦振動の節と対応する位置に設けられているため、取付け用ブラケットに余計な振動が伝わることなく、他部位への不要な振動の伝達及び、それに伴う余分なエネルギーの消費がない。また、圧電素子が取付け用ブラケットの両側に一対ずつ設けられているため、取付けブラケット側を接地側の電位とすることができ、接地が容易になる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記圧電素子は前記連結部材に挟まれて一対設けられ、前記圧電素子を挟んで設けられた連結部材は前記圧電素子と対向する部分において取付け用ブラケットで支持されている。この発明では、請求項2に記載の発明に比較して、圧電素子の数を容易に少なくすることができる。また、圧電素子の接地側の電位を連結部材と対向する側にすることで、取付け用ブラケットを介して接地することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記案内部材は、2枚の板がスペーサを介して連結されるとともに、前記スペーサと対応する部分において励振される。案内部材として繊維束を案内するガイド部のみ一対の板部が対向する構成とし、振動子に連結されて撓み振動する大部分を1枚の板状あるいはロッド状に構成した場合、ガイド部を所望の振動状態で効率良く大きな振幅で励振させるのが難しい。しかし、この発明では、2枚の板がスペーサを介して連結されるとともに、スペーサと対応する部分において励振される。したがって、ガイド部が効率良く大きな振幅で共振され易くなる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記圧電素子を挟んで設けられた連結部材には前記圧電素子と対向する面に雌ねじ部が形成され、両連結部材は前記圧電素子を遊貫するとともに両側に前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部を有する連結ロッドに螺合することにより前記圧電素子を挟持する状態で連結されている。この発明では、圧電素子と連結部材を対称な状態で連結することができ、振動系のインピーダンスを低減させて効率良く励振させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維束を非接触状態で案内する案内部材を励振する励振手段のエネルギー効率を高めることができ、設置に必要なスペースを確保するのが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明を精紡機に具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
図1(a)に示すように、精紡機を構成するドラフト装置11は、3線式ドラフト部の繊維束進行方向下流側に最終送出ローラ対を備えた4線式の構成である。3線式ドラフト部は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14を備えている。ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14は機台を構成するローラスタンド15に対して前後方向に位置調整可能に固定された支持ブラケット16,17を介して支持されている。
【0015】
ウエイティングアーム20のフレーム20bには、フロントトップローラ21、ミドルトップローラ22及びバックトップローラ23が、それぞれフロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14と対応する位置にトップローラ支持部材を介してそれぞれ支持されている。ウエイティングアーム20にはレバー20aが加圧位置と解放位置とに回動可能に配設されている。レバー20aが図1(a)に示すウエイティングアーム20のフレーム20bと当接する加圧位置に配置された状態では、ウエイティングアーム20に支持された各トップローラ21,22,23をボトムローラ12,13,14側に押圧する加圧位置(紡出位置)にロック状態で保持される。また、レバー20aが図1(a)に示す状態から上方の解放位置に回動された状態では、前記ロック状態が解除されるようになっている。
【0016】
最終送出ローラ対26は、ローラスタンド15に支持されたボトムニップローラ26aと、ウエイティングアーム20に支持部材を介して支持されたトップニップローラ26bとで構成されている。トップニップローラ26bはドラフト装置11のフロントトップローラ21と同様に2錘毎に、支持部材を介してウエイティングアーム20に支持されている。
【0017】
図1(a)に示すように、繊維束案内装置30は、最終送出ローラ対26とその直前のローラであるフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21との間に配置されている。図2(a)に示すように、繊維束案内装置30は案内部材31と、案内部材31を振動させる励振手段32とを備えている。
【0018】
図2(a)に示すように、励振手段32は、機台への取付け用ブラケット33を挟んで両側に圧電素子34が一対ずつ設けられており、両圧電素子34を挟むように連結部材35,36が設けられている。即ち、励振手段32を構成する振動子37は、一対の連結部材35,36間に圧電素子34及び取付け用ブラケット33を挟み込んだ形で構成されている。連結部材35,36は金属製のロッドで構成されている。振動子37は所謂ランジュバン形振動子を構成し、圧電素子34は一対のリング状のピエゾ素子34a,34bを備えており、両ピエゾ素子34a,34b間にリング状の電極板38が配置されている。
【0019】
図2(b)に示すように、一方の連結部材35には圧電素子34と対向する面に雌ねじ部35aが形成され、他方の連結部材36には圧電素子34と対向する面に雄ねじ部36aを有するロッド部36bが突出形成されている。そして、連結部材36の雄ねじ部36aが圧電素子34及び電極板38を遊貫し、取付け用ブラケット33の嵌合孔(図示せず)を貫通して連結部材35の雌ねじ部35aに螺合されることにより、両連結部材35,36が、圧電素子34及び電極板38を取付け用ブラケット33に締め付け固定した状態で、取付け用ブラケット33に支持されている。
【0020】
案内部材31は、案内面31aを構成するように互いに対向して設けられた一対の板状のガイド部31bを備えるとともに、ガイド部31bが1枚の板状の支持部31cに連続する構成に形成され、支持部31cの基端で連結部材35,36の端部に取り付けられている。支持部31cは、連結部材35,36に、例えば、ろう付けで固着されている。図1(b)に示すように、一対のガイド部31bは対向面の間隔、即ち案内面31aの間隔が繊維束Fの進行方向の下流側より上流側が広くなるように形成されている。具体的には、ガイド部31bは、案内面31aの中央より上流側においては上流側程間隔が広くなるように形成されており、中央より下流側においては一定の間隔になるように形成されている。紡出条件によっても異なるが、ガイド部31bは、一対の案内面31aの下流端の間隔が1mm以下に形成されている。
【0021】
振動子37は発振器39に接続されている。電極板38は配線40aを介して発振器39と接続され、発振器39の接地端子が配線40bを介して取付け用ブラケット33に接続されている。したがって、圧電素子34は、取付け用ブラケット33に接触する面と、雄ねじ部36aが形成されたロッド部36bを介して取付け用ブラケット33に電気的に接続されている連結部材35,36に接触する面とが電位ゼロとなる状態に設けられている。そして、発振器39は、取付け用ブラケット33が振動の節に位置し、連結部材35,36の案内部材31が固着された端部が振動の腹となるように振動子37を励振させる。また、発振器39は、案内部材31を人の可聴領域より高い周波数で振動させるように振動子37を励振させる。
【0022】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機の運転に先立って、紡出原料に合わせて、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の位置が、支持ブラケット16,17の位置を調整することで適正な位置に調整される。ミドルトップローラ22及びバックトップローラ23の位置もミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14の位置に対応して調整される。
【0023】
精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置11の3線式ドラフト部でドラフトされた後、案内部材31の案内面31aを介して最終送出ローラ対26のニップ部へと案内され、最終送出ローラ対26から送出される。精紡機の運転時には、発振器39の駆動により、振動子37が案内部材31の所定の共振周波数(例えば、30kHz前後)で励振され、連結部材35,36が縦振動して連結部材35,36を介して案内部材31が撓み振動する。そして、案内面31aに繊維束Fが接触するのを阻止する音圧を発生するように案内部材31が振動され、繊維束Fは非接触状態で案内面31aと対応する位置を通過して集束され、ボトムニップローラ26a及びトップニップローラ26bのニップ点を過ぎた後、撚り掛けを受けながら下流側へ移動し、図示しないボビンに巻き取られる。最終送出ローラ対26はフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21の表面速度より若干速く回転され、繊維束Fは適度な緊張状態で最終送出ローラ対26のニップ点を過ぎた後、転向して撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。
【0024】
3線式のドラフト部でドラフトされた繊維束Fは、案内面31aを通過する間に幅が1mm以下に圧縮された状態で最終送出ローラ対26へ案内されてニップ点を過ぎる。従って、繊維束案内装置30を装備しない3線式のドラフト装置が装備された精紡機に比較して、毛羽の発生や落綿が抑制されて糸質が改善される。
【0025】
繊維束案内装置30は、精紡機の2錘に対応する間隔で配置される案内部材31が、連結部材35,36で連結されるとともに、連結部材35,36の中間部に介在する圧電素子34により励振されて縦振動する。そして、各連結部材35,36の圧電素子34と反対側の端部に固着された両案内部材31が撓み振動されて、各一対のガイド部31bは案内面31aに対して繊維束Fが接触しないような音圧を発生する状態で超音波振動する。そのため、圧電素子34の片側にのみ連結部材を固定して、その連結部材を励振して縦振動させて1つの案内部材31を励振させる構成に比較して、圧電素子34は振動のエネルギーを有効に利用して両側の連結部材35,36を縦振動させることができる。したがって、繊維束Fを非接触状態で案内する案内部材31を励振する励振手段32のエネルギー効率を高めることができる。また、案内部材31を個々に独立した励振手段32で励振させる構成に比較して、繊維束案内装置30の設置に必要なスペースを確保するのが容易になる。
【0026】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維束案内装置30は、紡機に取り付けられた状態において、案内すべき繊維束Fの移動方向に沿って繊維束Fの幅を狭める案内面31aを備えた案内部材31と、案内面31aに繊維束Fが接触するのを阻止する音圧を発生するように案内部材31を振動させる励振手段32とを備えている。そして、隣接する2錘に対応する間隔で配置される案内部材31を案内部材31と直交する方向に延びる棒状の連結部材35,36で連結し、連結部材35,36の中間部に圧電素子34を介在させて、圧電素子34により連結部材35,36を縦振動させるように励振する。これにより、圧電素子34は振動のエネルギーを有効に利用して両側の連結部材35,36を振動させることができるようになる。したがって、繊維束Fを非接触状態で案内する案内部材31を励振する励振手段32のエネルギー効率を高めることができる。また、案内部材31を個々に独立した励振手段32で励振させる構成に比較して、繊維束案内装置30の設置に必要なスペースを確保するのが容易になる。
【0027】
(2)圧電素子34は、連結部材35,36の縦振動の節と対応する位置に設けられた取付け用ブラケット33を挟んで両側に一対ずつ設けられている。したがって、繊維束案内装置30が紡機に取り付けられた状態において、取付け用ブラケット33に余計な振動が伝わることがないため、他部位への不要な振動の伝達及び、それに伴う余分なエネルギーの消費がない。
【0028】
(3)取付け用ブラケット33を挟んで両側に一対ずつ設けられた圧電素子34は、一対のリング状のピエゾ素子34a,34bを備えている。両ピエゾ素子34a,34b間にリング状の電極板38が配置されるとともに、両ピエゾ素子34a,34bの電極板38と対向する側と反対側の端部が、取付け用ブラケット33及び連結部材35,36と電気的に同電位で接続されている。そして、電極板38は配線40aを介して発振器39と接続され、発振器39の接地端子が配線40bを介して取付け用ブラケット33に接続されている。したがって、取付け用ブラケット33及び連結部材35,36が接地された状態、即ちゼロ電位の状態で紡機に容易に取り付けすることができる。
【0029】
(4)発振器39は、連結部材35,36の案内部材31が固着された側の端部が縦振動の腹となるように振動子37を縦振動させる。したがって、各案内部材31が効率良く撓み振動される。
【0030】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を、図3を参照しながら説明する。なお、第2の実施形態は、案内部材の構成が第1の実施形態と異なり、その他の構成は第1の実施形態と同様であるため、同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0031】
図3(a)に示すように、案内部材41は、2枚の板42がスペーサ43を介して連結されて形成されている。具体的には、各板42は、基部42aにおいてスペーサ43を介して接合されるとともに、連結部材35,36に当接する板42と反対側の板42側から板42及びスペーサ43を貫通するボルト44が連結部材35,36の図示しないねじ穴に螺合することで連結部材35,36に締め付け固定されている。なお、図3(a)では連結部材36側の案内部材41と、発振器39と、配線40a,40bの図示を省略している。
【0032】
図3(b)に示すように、板42は、基部42aと、基部42aより幅が狭い中間部42bと、中間部42bとほぼ直交するように延びるガイド部42cとを備えている。そして、両板42の間隔、即ち両ガイド部42cの間隔は、スペーサ43の厚さによって設定される。一対のガイド部42cは、その対向面が一対の案内面を構成し、案内面は上流側から下流側へと移動する繊維束Fの幅を狭めるように案内する。即ち、この実施形態では、案内部材41は、ガイド部42cに連続するとともに、励振手段32に連結される支持部となる中間部42b及び基部42aも2枚の板で構成されている。
【0033】
ガイド部42cは、案内面を構成するその対向面の間隔が繊維束Fの進行方向下流側において一定のストレート部と、繊維束Fの進行方向上流側が広くなるように形成されたテーパ部とを備えている。なお、図3(a)では便宜上、ガイド部42cにおけるテーパ部の図示を省略している。
【0034】
この実施形態においても、第1の実施形態と同様に発振器39の駆動により、振動子37が案内部材41の所定の共振周波数(例えば、30kHz前後)で励振され、連結部材35,36は、連結部材35,36の案内部材31が固着された側の端部が縦振動の腹となるように縦振動し、連結部材35,36を介して案内部材41が撓み振動する。そして、ガイド部42cに繊維束Fが接触するのを阻止する音圧を発生するように案内部材41が振動され、繊維束Fは非接触状態でガイド部42cと対応する位置を通過して集束され、ボトムニップローラ26a及びトップニップローラ26bのニップ点を過ぎた後、撚り掛けを受けながら下流側へ移動し、図示しないボビンに巻き取られる。
【0035】
したがって、この実施形態によれば、第1の実施形態における(1)〜(4)と同様な効果の他に次の効果を得ることができる。
(5)案内部材41は、2枚の板42がスペーサ43を介して連結されるとともに、スペーサ43と対応する部分において励振される。したがって、案内部材として繊維束を案内するガイド部のみ一対の板部が対向する構造に鋳造や切削加工で形成する場合に比較して、案内部材41の製造が容易になっている。また、案内部材を、振動子に連結されて撓み振動する大部分を1枚の板状あるいはロッド状に構成した場合に比較して、ガイド部42cを所望の振動状態で効率良く大きな振幅で励振させるのが容易になる。
【0036】
(6)案内部材41は、2枚の板42がスペーサ43にろう付け等で固着されて連結されるのではなく、ボルト44が板42及びスペーサ43を貫通して連結部材35,36に螺合することにより、連結部材35,36に締め付け固定されて連結されている。したがって、紡出条件の変更、例えば細番手の糸の紡出から太番手の糸の紡出への変更や紡出糸の風合い(毛羽の状態)の変更等により、ガイド部42cの間隔を変更する必要がある場合、スペーサ43の交換のみで対応することが可能になる。
【0037】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように構成してもよい。
○ 板状の取付け用ブラケット33を挟んで両側にそれぞれ一対の圧電素子34を設ける構成に代えて、圧電素子34が連結部材35,36に挟まれて一対設けられた構成としてもよい。例えば、図4(a),(b)に示すように、一対の圧電素子34を挟むようにして圧電素子34と連結部材35,36を連結する。詳述すると、両ピエゾ素子34a,34b間に電極板38を挟持し、これを貫通するボルトと連結部材35,36とで締め上げられた状態で、取付け用ブラケット45に支持される。
【0038】
取付け用ブラケット45は、連結部材35,36の周面と同じ曲率半径の円弧面46aを一対備え、両円弧面46aの間に円弧面46aより大きな曲率半径の円弧面46bが形成された本体46と、円弧面46aと同じ曲率半径の円弧面を有するとともに、ボルト48により本体46に固定される2個の固定部材47とで構成されている。そして、図4(a)に示すように、ピエゾ素子34a,34b及び電極板38が円弧面46bと対応し、連結部材35,36が円弧面46aに嵌合する状態で、固定部材47が連結部材35,36と嵌合するようにボルト48により本体46に締め付け固定される。したがって、圧電素子34及び電極板38は、本体46及び固定部材47と非接触の状態に保持される。そして、電極板38が配線40aを介して発振器39に接続され、発振器39の接地端子が配線40bを介して取付け用ブラケット33に接続される。即ち、圧電素子34は取付け用ブラケット45を介して接地される。
【0039】
この実施形態においても、振動子37は、圧電素子34の中央部分が縦振動の節になり、連結部材35,36の案内部材41側の端部が縦振動の腹になる状態で励振されて使用される。そのため、取付け用ブラケット45に余計な振動が伝わることがないため、他部位への不要な振動の伝達及び、それに伴う余分なエネルギーの消費がない。また、圧電素子34の数が1対だけでもよくなり、圧電素子の数を容易に少なくすることができる。
【0040】
○ 第1の実施形態において振動子37を構成する連結部材35,36を連結する構成は、一方の連結部材35に形成された雌ねじ部35aに他方の連結部材36形成された雄ねじ部36aを螺合する構成に限らない。例えば、図5に示すように、連結部材36にも雌ねじ部36cを形成し、両側に雄ねじ部49aを有するロッド49を介して連結部材35,36を連結する構成としてもよい。この場合、他方の連結部材36に雄ねじ部36aを有するロッド部36bを設ける構成に比較して、振動子37を精度良く左右対称にしてバランスをとることができ、両案内部材31を均等に振動させることができる。その結果、振動系のインピーダンスを低下させることができ、振動子37をより効率良く励振することができる。
【0041】
○ 案内部材41を2枚の板42がスペーサ43を介して連結される構成は、スペーサ43が板42と別体である構成に限らない。例えば、図6(a),(b)に示すように、両板42の基部42aにそれぞれスペーサ43を一体に突出形成してもよい。スペーサ43の厚さは、両スペーサ43の厚さの合計が、両ガイド部42cの間隔に対応する値になればよく、同じ厚さである必要はない。スペーサ43を板42と一体に形成した場合、部品点数を削減できるだけでなく、スペーサ43が別体の場合に比較して、振動系のインピーダンスを低下させることができ、より低電圧で駆動することが可能になる。
【0042】
○ スペーサ43を板42と一体に形成する場合、各板42に形成されたスペーサ43の先端面が互いに対向する状態で当接する構成に限らず、例えば、図6(c)に示すように、両板42の基部42aの高さの異なる位置に、両ガイド部42cの間隔に対応する厚さのスペーサ43を1個ずつ設けてもよい。また、図6(d)に示すように、一方の板42に2個のスペーサ43を突設し、他方の板42に前記2個のスペーサ43の間隔と同じ幅の1個のスペーサ43を突設してもよい。これらの場合、両板42を組み合わせて接合する際に、スペーサ43が上下方向の位置決め部としても機能する。
【0043】
○ 1つの振動子が2錘に対応する間隔で配置された2つの案内部材31,41を同時に振動させる構成に限らず、1つの振動子が2錘に対応する間隔で配置された3つ以上の案内部材31を振動させる構成にしてもよい。例えば、図7に示すように、1つの振動子37で4錘分の案内部材31を振動させる構成としてもよい。振動子37は左右対称に形成され、第1の実施形態における連結部材35,36に加えて、2錘の間隔に対応する長さの連結部材50が案内部材31の支持部31cを挟んで連結部材35,36に連結されている。なお、図7では連結部材36側の案内部材31と、発振器39と、配線40a,40bと連結部材50の図示を省略している。案内部材31の支持部31cと連結部材35,36,50とは、例えば、ろう付けで固着されている。振動子37が案内部材31の所定の共振周波数(例えば、30kHz前後)で励振された際、連結部材35,36,50の案内部材31が固着された側の端部が縦振動の腹となるように、連結部材35,36,50の太さや形状が設定される。したがって、連結部材35,36を介して案内部材31が効率良く撓み振動する。この場合、部品点数をより削減することができる。なお、案内部材31に代えて、2枚の板42がスペーサ43を介して接合された構成の案内部材41を用いてもよい。
【0044】
○ 1つの振動子37に4錘以上と対応するように案内部材31,41を設ける場合、取付け用ブラケット33を圧電素子34に挟持された状態で振動子37の中央に設ける構成に代えて、圧電素子34と別の位置で振動子37が縦振動する際の節となる位置に設けてもよい。この場合、取付け用ブラケット33を2箇所に設けた方が安定した状態で支持することができる。
【0045】
○ ガイド部42cは、側面の形状が、入口側及び出口側の幅(高)が中央部より小さい形状に限らず、入口から出口まで一定の幅であってもよい。
○ 振動子37を励振させる際、必ずしも連結部材35,36,50の案内部材31,41と接合される位置が縦振動の腹になる状態で励振させる構成に限らず、連結部材35,36,50の案内部材31,41と接合される位置が縦振動の腹からずれた位置であってもよい。しかし、腹と一致する位置の方が小さな駆動エネルギーで案内部材31,41を所望の振動状態で振動させることができる。連結部材35,36,50の案内部材31,41と接合される位置を縦振動の腹からずらす場合、隣接する腹と節の距離の20%以内が好ましい。
【0046】
○ 案内部材31,41を連結部材35,36,50にろう付けで固着する代わりに、半田付けや接着剤で固着したり、ボルトで締め付け固定したりしてもよい。
○ 励振手段32は圧電素子34を用いて構成された振動子37に代えて、磁歪素子や超磁歪素子を用いて振動子37を構成してもよい。
【0047】
○ 繊維束案内装置30は、所謂コンパクト糸と呼ばれる高品質の糸を紡出するため、最終送出ローラ対26とその直前のローラ(フロントボトムローラ12及びフロントトップローラ21)との間に配置されて使用されるものに限らない。例えば、精紡機のドラフト装置において、繊維束案内装置30をバックローラとエプロンが巻き掛けられたミドルローラとの間に配置して使用するようにしてもよい。精紡機においては、現在のドラフトより高いドラフトで紡出を行いたいという要望もある。しかし、現在のドラフト装置ではそのドラフトを達成するためにバックローラとミドルローラとの間のドラフトを高めると、バックローラとミドルローラとの間において繊維束の幅が拡がり、拡がったままの状態で繊維束がミドルローラに進入するため、良好なドラフトを行うことができないという問題がある。しかし、前記のような構成の繊維束案内装置30をバックローラとミドルローラとの間に配置することにより、エプロンが巻き掛けられたミドルローラに繊維束が入る前に、繊維束の幅が所望の幅に狭められる。したがって、従来に比較してバックゾーンでのドラフトを高めて、全体としてのドラフトを高めるようにドラフト装置を駆動しても、エプロンゾーンでのドラフトが良好に行われる。
【0048】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項2に記載の発明において、前記連結部材は第1端部が前記圧電素子に接合され、第2端部が前記案内部材に接合されている。
【0049】
(2)請求項2又は前記技術的思想(1)に記載の発明において、前記対を成す圧電素子は、前記連結部材と接合する側及び前記取付け用ブラケットと接合する側が電位ゼロになるように設けられている。
【0050】
(3)請求項4に記載の発明において、前記スペーサは前記2枚の板と別体に形成され、ボルトを介して前記連結部材に締め付け固定されることで互いに連結状態に保持される。
【0051】
(4)請求項1〜請求項5及び前記技術的思想(1)〜(3)のいずれか一項に記載の繊維束案内装置が、最終送出ローラ対とその直前のローラとの間に配置されている精紡機のドラフト装置。
【0052】
(5)請求項1〜請求項5及び前記技術的思想(1)〜(3)のいずれか一項に記載の繊維束案内装置が、エプロンが巻き掛けられたミドルローラとバックローラとの間に配置されている精紡機のドラフト装置。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(a)は第1の実施形態におけるドラフト装置の側面図、(b)はトップ側から見た案内部材とボトムローラの関係を示す概略図。
【図2】(a)は繊維束案内装置の正面図、(b)は振動子の分解正面図。
【図3】(a)は第2の実施形態の繊維束案内装置の部分正面図、(b)は板の側面図。
【図4】別の実施形態を示し、(a)は取付け用ブラケット、圧電素子、連結部材等の関係を示す模式平面図、(b)は取付け用ブラケットの分解斜視図。
【図5】別の実施形態の連結部材の連結構成を示す模式図。
【図6】(a)は別の実施形態の案内部材を構成する板の側面図、(b)〜(d)はそれぞれ別の実施形態の案内部材の正面図。
【図7】別の実施形態の繊維束案内装置の部分模式正面図。
【図8】案内部材及び振動子が1個の繊維束案内装置の模式図。
【符号の説明】
【0054】
F…繊維束、30…繊維束案内装置、31,41…案内部材、31a…案内面、32…励振手段、33,45…取付け用ブラケット、34…圧電素子、35,36,50…連結部材、35a,36c…雌ねじ部、36a,49a…雄ねじ部、42…板、43…スペーサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側へと移動する繊維束の幅を狭めるように案内する紡機における繊維束案内装置であって、
紡機に取り付けられた状態において、案内すべき繊維束の移動方向に沿って繊維束の幅を狭める案内面を備えた案内部材と、
前記案内面に前記繊維束が接触するのを阻止する音圧を発生するように前記案内部材を振動させる励振手段とを備え、
少なくとも隣接する2錘に対応する間隔で配置される前記案内部材を前記案内部材と直交する方向に延びる棒状の連結部材で連結し、前記連結部材の中間部に圧電素子を介在させて、圧電素子により前記連結部材を縦振動させるように励振する紡機における繊維束案内装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、前記連結部材の縦振動の節と対応する位置に設けられた取付け用ブラケットを挟んで両側に一対ずつ設けられている請求項1に記載の紡機における繊維束案内装置。
【請求項3】
前記圧電素子は前記連結部材に挟まれて一対設けられ、前記圧電素子を挟んで設けられた連結部材は前記圧電素子と対向する部分において取付け用ブラケットで支持されている請求項1に記載の紡機における繊維束案内装置。
【請求項4】
前記案内部材は、2枚の板がスペーサを介して連結されるとともに、前記スペーサと対応する部分において励振される請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の紡機における繊維束案内装置。
【請求項5】
前記圧電素子を挟んで設けられた連結部材には前記圧電素子と対向する面に雌ねじ部が形成され、両連結部材は前記圧電素子を遊貫するとともに両側に前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部を有する連結ロッドに螺合することにより前記圧電素子を挟持する状態で連結されている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の紡機における繊維束案内装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−297677(P2008−297677A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147177(P2007−147177)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】