説明

紡糸巻取装置及び紡糸巻取設備

【課題】縦方向の寸法を小さく抑えた紡糸巻取装置を提供する。
【解決手段】機体12と、ターレット16と、機体12に対して位置が固定され、巻取ボビンBに非接触で、かつ巻取ボビンBでの糸Yの巻取速度と同じ又は大きい速度で巻取ボビンBに糸Yを送る送りローラ22と、送りローラ22に対して糸Yの進行方向の上流側に位置が固定され、糸Yをトラバースするトラバース装置32と、巻取ボビンBの周速を検出する周速検出部42と、糸巻取期間P中に、ターレット16の回転角度を制御することにより、送りローラ22と巻取ボビンBとの間にある糸YのフリーレングスFL1を基本長さFL11に維持する基本動作を行う制御部14と、を備える紡糸巻取装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸された糸を巻取ボビンに巻き取る紡糸巻取装置及び紡糸巻取設備の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紡糸巻取装置には、巻取ボビンの軸方向に往復動するトラバースガイドを備えたトラバース装置が設けられている。トラバース装置の下方には、パッケージに接触する接触ローラが設けられている。巻取ボビンを回転させ、糸を綾巻きしながらパッケージを巻き太らせると、パッケージの巻き太りに応じて接触ローラの位置が上昇する。このため、パッケージの巻き太りに応じて接触ローラとトラバース装置を共に上昇させ、パッケージに対する接触ローラとトラバース装置の相対位置を一定にする技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
一方、パッケージの両端における糸のターン部で糸密度が集中することで、パッケージの両端が中央部に比べて高くなる耳高現象が発生する問題がある。耳高現象が発生すると、パッケージが鼓形となり、パッケージから糸条を解舒する後工程で解舒不良が生じる問題がある。
【0004】
前述の特許文献1には、この耳高現象を解消するため、接触ローラとトラバース装置との距離を一時的に変化させる機構(耳崩し機構)が開示されている。この耳崩し機構は、パッケージ形成期間中にトラバース装置を接触ローラに対して一時的に大きく上昇させ、トラバース装置と接触ローラとの間にある糸のフリーレングスを一時的に増大させる動作を行う。この動作により、トラバースガイドが往復動する幅を変化させることなく巻幅を一時的に狭くでき、この巻幅の調整を繰り返し行うことによって耳高現象を解消できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−225611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の紡糸巻取装置では、パッケージの巻き太りに応じて接触ローラとトラバース装置を徐々に上昇させる必要があり、更に、パッケージの耳高現象を解消するため、トラバース装置を接触ローラに対して大きく上昇させる必要がある。上記従来の紡糸巻取装置は、このように上方に突出する可動部が設けられているため、紡糸巻取装置の縦方向の寸法を小さく抑えることができないという問題があった。
【0007】
また、縦方向の寸法が大きいため、複数の紡糸巻取装置を上下方向に多段に積むレイアウトとすると、紡糸巻取設備の高さが高くなり、上段の紡糸巻取装置に対する作業性が特に低下する。このため、複数の紡糸巻取装置を上下方向に多段に積むレイアウトを採用できず、空間を有効に活用できないという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものである。第1の目的は、縦方向の寸法を小さく抑えた紡糸巻取装置を提供することである。第2の目的は、パッケージの耳高現象を解消できる紡糸巻取装置を提供することである。第3の目的は、作業性を犠牲にせずに複数の紡糸巻取装置を上下方向に多段に積むレイアウトを可能とし、空間を有効に活用できる紡糸巻取設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、第1の発明は、紡糸された糸を巻取ボビンに巻き取る紡糸巻取装置であって、機体と、ターレットと、送りローラと、トラバース装置と、周速検出部と、制御部と、を備える。ターレットは、巻取ボビンを保持するボビンホルダを備えるとともに、前記機体に対して回転する。送りローラは、前記機体に対して位置が固定され、前記巻取ボビンに非接触で、かつ前記巻取ボビンでの糸の巻取速度と同じ又は大きい速度で前記巻取ボビンに糸を送る。トラバース装置は、前記送りローラに対して糸の進行方向の上流側に位置が固定され、糸をトラバースする。周速検出部は、前記巻取ボビンの周速を検出する。制御部は、糸巻取期間中に、前記ターレットの回転角度を制御することにより、前記送りローラと前記巻取ボビンとの間にある糸のフリーレングスを基本長さに維持する基本動作を行う。
【0011】
第2の発明は、第1の発明であって、前記送りローラは、前記巻取ボビンでの糸の巻取速度より大きい速度で前記巻取ボビンに糸を送り、前記制御部は、糸巻取期間中に、前記基本動作と、前記フリーレングスを前記基本長さよりも一時的に増大する変更動作とを繰り返す。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明であって、前記周速検出部は、前記巻取ボビンの位置変更に追従して、前記巻取ボビンに所定の接圧で接触する接触ローラを備える。
【0013】
第4の発明は、第1から第3のいずれかの紡糸巻取装置を上段と下段に複数組み合わせて構成される紡糸巻取設備であって、前記下段に配置される紡糸巻取装置に供給される糸は、上段に配置される複数の紡糸巻取装置の間を通り、かつトラバース装置に対して上方から供給される。
【0014】
第5の発明は、第1から第3のいずれかの紡糸巻取装置を上段と下段に複数組み合わせて構成される紡糸巻取設備であって、前記上段及び下段に配置される紡糸巻取装置に供給される糸は、前記トラバース装置に対して側方から供給される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
第1の発明によれば、送りローラ及びトラバース装置は機体に対して位置が固定されており、ターレットが回転することで巻取ボビンの巻き太りに対応する。このため、紡糸巻取装置の縦方向に突出する可動部を設ける必要がなく、紡糸巻取装置の縦方向の寸法を小さく抑え、紡糸巻取装置をコンパクトにすることができる。
【0017】
第2の発明によれば、送りローラ及びトラバース装置は機体に対して位置が固定されており、ターレットは従来から機体に対して回転する構造である。このため、簡素で信頼性の高い構造としつつ、パッケージの耳高現象を解消できる。また、送りローラが、巻取ボビンでの糸の巻取速度より大きい速度で巻取ボビンに糸を送ることにより、パッケージのバルジ巻き現象も解消できる。
【0018】
第3の発明によれば、巻取ボビンの位置変更に追従して、巻取ボビンに所定の接圧で接触する接触ローラを備えるため、接触ローラが巻取ボビンに従動回転することにより、巻取ボビンの周速を検出することができる。
【0019】
第4の発明によれば、複数の紡糸巻取装置を上段と下段に縦置き形式で組み合わせ、各紡糸巻取装置のトラバース装置に対して上方から糸が供給されるように紡糸巻取設備を構成している。紡糸巻取装置は、縦方向の寸法が小さく抑えられており、コンパクトであるため、複数の紡糸巻取装置を縦置き形式で上下方向に多段に積んでも、紡糸巻取設備の高さを低くできる。特に上段の紡糸巻取装置に対する作業性が向上する。このため、作業性を犠牲にせずに複数の紡糸巻取装置を上下方向に縦置き形式で多段に積むレイアウトが可能となり、空間を有効に活用できる。
【0020】
第5の発明によれば、複数の紡糸巻取装置を上段と下段に横置き形式で組み合わせ、各紡糸巻取装置のトラバース装置に対して側方から糸が供給されるように紡糸巻取設備を構成している。紡糸巻取装置は、縦方向の寸法が小さく抑えられており、コンパクトであるため、複数の紡糸巻取装置を横置き形式で上下方向に多段に積んでも、紡糸巻取設備の横幅を小さくすることができる。このため、隣接する紡糸巻取設備同士の間に必要な作業空間を確保でき、紡糸巻取装置に対する作業性を向上させることができる。このため、作業性を犠牲にせずに複数の紡糸巻取装置を上下方向に横置き形式で多段に積むレイアウトが可能となり、空間を有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置100を示す正面図。
【図2】本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置100のブロック図。
【図3】第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持する基本動作を行っている状態を示す正面図。
【図4】第1フリーレングスFL1を基本長さFL11で一定とした場合の、巻幅、時間の関係を示す図である。
【図5】第1フリーレングスFL1を一時的にFL12まで増大する変更動作を行っている状態を示す正面図。
【図6】基本動作と変更動作とを繰り返した場合の、巻幅、時間の関係を示す図である。
【図7】第1フリーレングスFL1とトラバース遅れの関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例2に係る紡糸巻取設備200のレイアウトを示す正面図。
【図9】本発明の実施例3に係る紡糸巻取設備300のレイアウトを示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置100について、図1から図4を用いて説明する。
【0024】
本実施例の紡糸巻取装置100は、図1に示すように、糸Yをトラバース装置32でトラバース(綾振り)させながら巻取チューブ62上に巻き取ってパッケージ64を形成する装置である。糸Yは上方にある紡糸装置(図示省略)で紡糸され、ローラ52、54等を介して紡糸巻取装置100に送られる。糸Yの走行方向は、矢印で示すように上方の紡糸装置から巻取チューブ62に向かう方向である。
【0025】
以下では、糸Yを弾性糸として説明するが、紡糸巻取装置100は弾性糸以外の糸を巻き取ることもできる。図1に示す紡糸巻取装置100は1台であるが、このような紡糸巻取装置100を複数台配置することで、紡糸巻取設備が構成される。
【0026】
また、巻取チューブ62及びパッケージ64を総称して巻取ボビンBとして説明する。すなわち、糸層が形成されていない巻取ボビンBが巻取チューブ62であり、糸層が形成された巻取ボビンBがパッケージ64である。図4に示すように、糸Yを巻き取ってパッケージ64を形成している期間をパッケージ形成期間Pとする。
【0027】
紡糸巻取装置100の縦方向は、トラバース装置32に向かう糸Yに沿った方向とする。つまり、図1において紙面上下方向を紡糸巻取装置100の縦方向とする。紡糸巻取装置100の横方向は、ターレット16の回転軸17方向から見て紡糸巻取装置100の左右方向とする。つまり、図1において紙面左右方向を紡糸巻取装置100の横方向とする。一方、紡糸巻取装置100の設置形式には、縦置き形式と横置き形式とがある。図1のように糸Yがトラバース装置32に対して上から下に向いて供給される設置形式を縦置き形式とする(図8参照。)。糸Yがトラバース装置32に対して側方から供給される設置形式を横置き形式とする(図9参照。)。尚、糸Yが供給される上下方向及び側方は、鉛直方向、水平方向のみを意味するものではない。
【0028】
図1、図2に示すように、紡糸巻取装置100は、機体12、制御部14、ターレット16、送りローラ22、トラバース装置32、周速検出部42を備えている。機体12は、紡糸巻取装置100の本体をなすものである。制御部14は、演算部としてのCPUや、記憶部としてのROM、RAM等を備えている。これらのROMには、CPU等のハードウェアを制御部として動作させる制御ソフトウェアが記憶されている。制御部14は、各種センサが発生する信号に基いて、各駆動モータの駆動を制御する。
【0029】
ターレット16は、巻取ボビンBを保持するボビンホルダ18を備えるとともに、機体12に対して回転するものである。ターレット16は、ターレット駆動モータ160によって回転軸17を中心に回転する(図2参照。)。ターレット駆動モータ160は制御部14に電気的に接続され、駆動が制御される。
【0030】
ボビンホルダ18は、ターレット16の回転軸17に対して対称となる位置に2本設けられている。2本のボビンホルダ18は、それぞれボビンホルダ駆動モータ180に接続されており、回転可能である(図2参照。)。各ボビンホルダ駆動モータ180は制御部14に電気的に接続され、駆動が制御される。
【0031】
ターレット16は、ターレット駆動モータ160が正逆回転することによって正逆回転する。ターレット16は、ターレット駆動モータ160によって約半回転することで、ボビンホルダ18の一方が上方の巻取位置に、他方が下方の待機位置となるように、2本のボビンホルダ18の位置を交代させることができる。また、ターレット駆動モータ160の回転角度を制御して、ターレット16を微少角度だけ回転させることで、巻取ボビンBの位置を細かく制御することもできる。
【0032】
送りローラ22は、トラバース装置32から糸Yを受け継いで巻取ボビンBの外周に糸Yを送るローラである。送りローラ22は、送りローラ駆動モータ220で駆動する。送りローラ駆動モータ220は制御部14に電気的に接続され、駆動が制御される。送りローラ22の回転速度は、巻取ボビンBでの糸Yの巻取速度と同じか、より大きい速度で巻取ボビンBに糸Yを送ることができる速度とする。送りローラ22の回転速度は、送りローラ駆動モータ220の回転数を変更することで変更可能である。
【0033】
送りローラ22は、機体12に対して位置が固定されている。このため、ターレット16が正転(図1において反時計回り)することで巻取ボビンBは送りローラ22から離間し、ターレット16が逆転(図1において時計回り)することで巻取ボビンBは送りローラ22に接近する。パッケージ形成期間P中は、ターレット16の回転角度を制御して、送りローラ22と巻取ボビンBの間に間隔を確保している。この間隔を走行する糸Yの長さ、つまり図1、図3に示すように、送りローラ22の周面に接触している糸Yが送りローラ22の周面から離れて、巻取ボビンBの周面に接するまでの糸Yの自由長部分を第1フリーレングスFL1とする。本実施例では、第1フリーレングスFL1の長さが一定となるように制御することでパッケージ64の巻き太りに対応している。これについては後に詳述する。
【0034】
トラバース装置32は、送りローラ22に対して糸Yの進行方向の上流側に配置され、機体12に対して位置が固定されている。トラバース装置32にはトラバースガイド34が設けられている。トラバースガイド34はトラバース駆動モータ320で駆動される。トラバースガイド34が、図1の上方から供給される糸Yと係合した状態でトラバース範囲を往復動することによって、下流方向に送られる糸Yをトラバースする。トラバース駆動モータ320は制御部14に電気的に接続され、駆動が制御されている。尚、トラバース装置32としては、回転羽根を用いたロータリー式トラバース装置や、他の公知のトラバース装置であってもよい。
【0035】
トラバース装置32と送りローラ22との間には間隔が確保されている。この間隔を走行する糸Yの長さ、つまり図1、図3に示すように、トラバースガイド34に係合している糸Yがトラバースガイド34から解放されて、送りローラ22の周面に接するまでの糸Yの自由長部分を第2フリーレングスFL2とする。本実施例では、トラバース装置32及び送りローラ22は機体12に対して位置が固定されているため、パッケージ形成期間P中、第2フリーレングスFL2は変化しない。
【0036】
周速検出部42は、巻取ボビンBの周速を検出する。本実施例の周速検出部42は、接触ローラ43を備えている。接触ローラ43は、パッケージ形成期間P中、巻取ボビンBの位置変更に追従して、巻取ボビンBに所定の接圧で接触するローラである。接触ローラ43は、巻取ボビンBに従動して回転する。接触ローラ43はアーム44の第1端部441側に回転自在に支持されている。アーム44は、機体12に対して揺動自在に設けられている。アーム44の第2端部442側には、機体12との間にアクチュエータ46が連結されている。アクチュエータ46は巻取ボビンBに対する接触ローラ43の接圧を調整するものである。アーム44が揺動することによって、接触ローラ43は、巻取ボビンBに追従して、巻取ボビンBに所定の接圧で接触する(図1、図3参照。)。アーム44には、接触ローラ43の回転速度を検出する回転センサ48が設けられている。回転センサ48は、巻取ボビンBに従動して回転する接触ローラ43の回転速度を検出し、巻取ボビンBの周速度を検出する。
【0037】
回転センサ48は、制御部14に電気的に接続されている。回転センサ48からの検出信号は、制御部14に送信される。制御部14は、回転センサ48が検出する回転速度が一定となるように、ボビンホルダ駆動モータ180の駆動を制御する。具体的には、回転センサ48の検出値が巻取速度に応じた所定の値を下回れば制御部14がボビンホルダ駆動モータ180の回転速度を増加させる。逆に、検出値が所定の値を上回れば制御部14がボビンホルダ駆動モータ180の回転速度を減少させるように制御する。尚、巻取ボビンBの周速度を検出する手段としては、接触ローラ43に限定されない。例えば、光学的距離センサをターレット16に設け、巻取ボビンBの外周面に向けて照射することにより、巻取ボビンBの巻き太りを検出し、巻取ボビンBの径から巻取ボビンBの周速度を算出するようにしてもよい。
【0038】
次に、本実施例の紡糸巻取装置100における制御について説明する。本実施例では、パッケージ形成期間P中に、ターレット16の回転角度を制御することにより、送りローラ22と巻取ボビンBとの間にある糸Yの第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持する基本動作を行う。この制御を行うプログラムは、制御部14のROMに記憶されており、RAMに読み込まれて実行される。
【0039】
パッケージ形成期間P中は、パッケージ64の形成が進むにつれてパッケージ64が巻き太る。パッケージ64の巻き太りに対応して、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持するには、送りローラ22の軸心と巻取ボビンBの軸心間の距離を拡大していく必要がある。このため、基本動作では、パッケージ64の巻き太りに応じてターレット16を微少角度ずつ回転させ、送りローラ22の軸心と巻取ボビンBの軸心間の距離を微少距離ずつ拡大していく制御を行う。
【0040】
パッケージ64の巻き太りに応じてターレット16を微少角度ずつ回転させる制御は、以下のようにして行われる。図3に示すように、パッケージ形成期間Pのある時点でのパッケージ64の半径をrとする。また、巻取チューブ62に糸を巻き取り始める時点(図1参照。)から、そのパッケージ形成期間Pのある時点(図3参照。)までのターレット16の回転角度をθとする。
【0041】
制御部14は、図3に示す時点から更に微少時間dtが経過した時点で検出される、ボビンホルダ駆動モータ180の回転数、接触ローラ43の回転数、巻取り時間に基づきパッケージ64の巻き太り半径drを算出する。制御部14は算出されたパッケージ64の巻き太り半径drに基づいて、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持するために必要なターレット16の微少回転角度dθを算出する。制御部14はターレット16を回転角度θから更に微少回転角度dθだけ回転するよう、ターレット駆動モータ160の回転を制御する。このような制御を繰り返すことにより、第1フリーレングスFL1は基本長さFL11に維持される。尚、接触ローラ43は、基本動作による巻取ボビンBの位置変更に追従して、巻取ボビンBに所定の接圧で接触している。
【0042】
ここで第1フリーレングスFL1の基本長さFL11について説明する。図1、図3に示すように、基本長さFL11は、基本動作中における第1フリーレングスFL1の長さである。基本長さFL11は、パッケージ形成期間Pにおいて一定にする場合と、緩やかに変化させる場合とがある。これは形成するパッケージ64の形状により選択される。例えば、パッケージ64形状をチーズ巻き(巻幅一定)にする場合は、図4に示すように、基本長さFL11をパッケージ形成期間Pにおいて一定とし、かつ基本長さFL11をできるだけ短い長さ(例えば1〜2mm)とする。第1フリーレングスFL1を一定、かつできるだけ短い基本長さFL11に保つことで、糸Yがトラバースされる軸方向位置と、糸が実際に送りローラ22に受け継がれる軸方向位置の差(トラバース遅れ)が最少に保たれる。これによってパッケージ64の巻幅は一定の巻幅となる。
【0043】
以上説明した実施例1に係る紡糸巻取装置100によれば、次のような効果を有する。
【0044】
送りローラ22及びトラバース装置32は機体12に対して位置が固定されており、ターレット16を微少角度ずつ回転させることでパッケージ64の巻き太りに対応する。このため、紡糸巻取装置100の縦方向に突出する可動部を設ける必要がなく、紡糸巻取装置100の縦方向の寸法を小さく抑え、紡糸巻取装置100をコンパクトにすることができる。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の実施例2に係る、紡糸巻取装置100について、図5から図7を用いて説明する。実施例2では、実施例1の紡糸巻取装置100に、バルジ抑制機構、及び耳崩し機構を併設した点が実施例1と大きく異なっている。実施例1と同一部分の詳しい説明は省略する。
【0046】
まず、本実施例の紡糸巻取装置100におけるバルジ抑制機構について説明する。弾性糸の場合、糸の巻取速度が上昇すると糸道が不安定になりやすいため、弾性糸には高い張力が付与されており、伸長した状態で巻取ボビンに巻き取られている。糸が伸長した状態で巻取ボビンに巻き取られると、パッケージ内層に糸の伸長応力が累積する。伸長応力が累積することによる糸の締め付け力は非常に大きく、パッケージのバルジ巻き現象や糸同士の固着が発生する。バルジ巻き現象は、巻き付けた糸の締め付け力によってパッケージ側面が凸状に膨出する現象であり、パッケージ形状の体裁が悪化するという問題がある。
【0047】
本実施例では、送りローラ22の回転速度は、巻取ボビンBでの糸Yの巻取速度より大きい速度で巻取ボビンBに糸Yを送る速度とする。送りローラ22が糸Yを送る速度は、糸Yの特性等により決定されるが、巻取ボビンBでの糸Yの巻取速度の1.1倍以上が好ましい。
【0048】
送りローラ22により、巻取ボビンBでの糸Yの巻取速度よりも大きい速度で巻取ボビンBに糸Yを送ることで、巻取ボビンBの直前で糸Yの伸長応力を緩和する。これにより、パッケージ64の内層に作用する糸Yの締め付け力を緩和でき、パッケージ64のバルジ巻き現象や糸同士の固着を防止できる。
【0049】
次に、本実施例の紡糸巻取装置100における耳崩し機構について説明する。本実施例の耳崩し機構は、パッケージ形成期間P中に、送りローラ22と巻取ボビンBとの間にある糸Yの第1フリーレングスFL1を制御し、これによりパッケージ64の耳高現象を解消するものである。具体的には、パッケージ形成期間P中に、ターレット16の回転角度を制御することにより、送りローラ22と巻取ボビンBとの間にある糸Yの第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持する基本動作と、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11よりも一時的に増大する変更動作とを繰り返す。
【0050】
この制御を行うプログラムは、制御部14のROMに記憶されており、RAMに読み込まれて実行される。尚、第1フリーレングスFL1が基本長さFL11である基本動作を行う期間を期間F1とし、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11よりも一時的に増大する変更動作を行う期間を期間F2とする(図6参照)。
【0051】
まず、送りローラ22と巻取ボビンBとの間にある糸Yの第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持する基本動作について説明する。図6に示すように、基本動作を行う期間を期間F1とする。期間F1では、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持する。パッケージ形成期間P中は、パッケージ64の形成が進むにつれてパッケージ64が巻き太る。パッケージ64の巻き太りに対応して、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11に維持する基本動作の具体的な制御については実施例1と同様であり、詳しい説明は省略する。
【0052】
続いて、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11よりも一時的に増大する変更動作について説明する。図6に示すように、変更動作では、その時点でのパッケージ64の大きさに関係なく、第1フリーレングスFL1を一時的に増大させる制御を行う。つまり第1フリーレングスFL1を増大させ、その後、第1フリーレングスFL1を減少させて基本長さFL11に戻す制御である。
【0053】
第1フリーレングスFL1を一時的に増大させるため、変更動作では、図5に示すように、ターレット16を基本動作の状態よりも一時的に大きく回転させる。これにより送りローラ22の軸心と巻取ボビンBの軸心間の距離は、基本動作のときよりも大きくなる。本実施例の変更動作では、図6に示すように、第1フリーレングスFL1を基本長さFL11より長いFL12まで一時的に拡大する。
【0054】
第1フリーレングスFL1を基本長さFL11より長いFL12まで拡大した後、ターレット16を逆に回転させ、ターレット16の回転角度を基本動作の状態に戻す。これにより第1フリーレングスFL1は基本長さFL11に戻り、変更動作を終了する。接触ローラ43は、変更動作による巻取ボビンBの位置変更に追従して、巻取ボビンBに所定の接圧で接触している。
【0055】
この変更動作は、図7に示すように、送りローラ22における糸Yの軸方向位置と、糸Yが巻取ボビンBに巻き付けられる軸方向位置との差を増加させる制御である。すなわち、トラバース遅れD1を一時的にトラバース遅れD2に増加させるということである。つまり、第1フリーレングスFL1=FL11のときは、糸Yは軸方向位置N1で巻取ボビンBに巻き付けられ、トラバース遅れはD1である。また、ターレット16を回転させて第1フリーレングスFL1=FL12としたときは、糸Yは軸方向位置N2で巻取ボビンBに巻き付けられ、トラバース遅れはD2となる。
【0056】
このトラバース遅れの差(D2−D1)により、糸Yが送りローラ22のトラバース範囲の端部に達しても、糸Yは実際には、トラバース遅れの差(D2−D1)の分だけ軸方向中央寄りの位置で巻取ボビンBに巻き付けられる。すなわち、ターレット16を回転させて第1フリーレングスFL1をFL11からFL12に一時的に増大させることにより、糸Yを巻取ボビンBに巻き付けるときの軸方向の巻幅が一時的に狭められるのである。
【0057】
そして、図6に示すように、パッケージ形成期間Pにおいて、基本動作と変更動作とを繰り返すことにより、基本動作の期間F1では糸Yを巻取ボビンBの端部まで巻き付けていたのに対し、変更動作の期間F2では、巻幅を狭めて糸Yを巻取ボビンBの軸方向中央側に巻き付けられる。
【0058】
以上説明した実施例2に係る紡糸巻取装置100によれば、次のような効果を有する。
【0059】
送りローラ22及びトラバース装置32は機体12に対して位置が固定されており、ターレット16は従来から機体12に対して回転する構造である。このため、簡素で信頼性の高い構造としつつ、パッケージ64の耳高現象を解消できる。また、送りローラ22が、巻取ボビンBでの糸Yの巻取速度より大きい速度で巻取ボビンBに糸を送ることにより、パッケージ64のバルジ巻き現象も同時に解消できる。
【実施例3】
【0060】
次に、本発明の実施例3に係る紡糸巻取設備200について、図8を用いて説明する。本実施例の紡糸巻取設備200は、実施例1で説明した紡糸巻取装置100を上段と下段に複数組み合わせて構成される。紡糸巻取装置100については詳しい説明を省略する。
【0061】
図8に示すように、本実施例の紡糸巻取設備200は、上段、下段ともに紡糸巻取装置100を縦置き形式で設置している。糸Yは上方にある紡糸装置(図示省略)で紡糸され、ローラ52、54、56等を介して各紡糸巻取装置100に送られる。糸Yは、各紡糸巻取装置100のトラバース装置32に対して上から下に向けて供給される。
【0062】
複数の紡糸巻取装置100を縦置き形式で上段、下段に組み合わせて紡糸巻取設備200を構成する場合、下段の紡糸巻取装置100へ供給する糸Yが上段の紡糸巻取装置100に干渉することを防止する必要がある。本実施例の紡糸巻取設備200では、上段の紡糸巻取装置100と下段の紡糸巻取装置100を側面視で千鳥状に配置して、糸Yの干渉を防止している。すなわち、下段に配置される紡糸巻取装置100に供給される糸Yが、上段に配置される複数の紡糸巻取装置100の間を通り、かつトラバース装置32に対して上方から供給されるように配置している。
【0063】
以上説明した実施例3に係る紡糸巻取設備200によれば、次のような効果を有する。
【0064】
通常、紡糸巻取装置100を上段と下段に縦置き形式で組み合わせ、各紡糸巻取装置100のトラバース装置32に対して上方から糸Yが供給されるように紡糸巻取設備200を構成すると、紡糸巻取設備200の高さが高くなり、紡糸巻取設備200が大型化するという問題がある。また、紡糸巻取設備200の高さが高くなると、特に上段の紡糸巻取装置100に対する作業性が悪化するという問題がある。このため、従来は紡糸巻取装置100を上段と下段に縦置き形式で組み合わせるレイアウトは採用しにくいものであった。
【0065】
しかしながら本実施例の紡糸巻取設備200を構成する紡糸巻取装置100は、実施例1で説明した通り、縦方向の寸法が小さく抑えられており、コンパクトであるため、複数の紡糸巻取装置100を縦置き形式で上下方向に多段に積んでも、紡糸巻取設備200の高さを低くできる。特に上段の紡糸巻取装置100に対する作業性が向上する。このため、作業性を犠牲にせずに複数の紡糸巻取装置100を上下方向に縦置き形式で多段に積むレイアウトが可能となり、空間を有効に活用できる。
【実施例4】
【0066】
次に、本発明の実施例4に係る、紡糸巻取設備200について、図9を用いて説明する。本実施例の紡糸巻取設備300は、実施例1で説明した紡糸巻取装置100を上段と下段に複数組み合わせて構成される。紡糸巻取装置100については詳しい説明を省略する。
【0067】
図9に示すように、本実施例の紡糸巻取設備300は、上段、下段ともに紡糸巻取装置100を横置き形式で設置している。糸Yは上方にある紡糸装置(図示省略)で紡糸され、ローラ52、54、56等を介して各紡糸巻取装置100に送られる。糸Yは、ローラ56で走行方向が変えられ、各紡糸巻取装置100のトラバース装置32に対して側方から供給される。
【0068】
以上説明した実施例4に係る紡糸巻取設備300によれば、次のような効果を有する。
【0069】
通常、紡糸巻取装置100を上段と下段に横置き形式で組み合わせ、各紡糸巻取装置100のトラバース装置32に対して側方から糸Yが供給されるように紡糸巻取設備300を構成すると、紡糸巻取設備300の横幅が広くなり、紡糸巻取設備300が横方向に大型化するという問題がある。また、紡糸巻取設備300の横幅が広くなると、隣接する紡糸巻取設備300同士の間に必要な作業空間が少なくなり、紡糸巻取装置100に対する作業性を悪化させていた。
【0070】
しかしながら本実施例の紡糸巻取設備300を構成する紡糸巻取装置100は、実施例1で説明した通り、縦方向の寸法が小さく抑えられており、コンパクトであるため、複数の紡糸巻取装置100を横置き形式で上下方向に多段に積んでも、紡糸巻取設備300の横幅を小さくすることができる。このため、隣接する紡糸巻取設備300同士の間に必要な作業空間を確保でき、紡糸巻取装置100に対する作業性を向上させることができる。このため、作業性を犠牲にせずに複数の紡糸巻取装置100を上下方向に横置き形式で多段に積むレイアウトが可能となり、空間を有効に活用できる。
【符号の説明】
【0071】
100 紡糸巻取装置
200、300 紡糸巻取設備
12 機体
14 制御部
16 ターレット
17 回転軸
18 ボビンホルダ
160 ターレット駆動モータ
180 ボビンホルダ駆動モータ
22 送りローラ
220 送りローラ駆動モータ
32 トラバース装置
34 トラバースガイド
320 トラバース駆動モータ
42 周速検出部
43 接触ローラ
44 アーム
441 アームの第1端部
442 アームの第2端部
46 アクチュエータ
48 回転センサ
62 巻取チューブ
64 パッケージ
FL11 基本長さ
FL1 第1フリーレングス
FL2 第2フリーレングス
F1 基本動作を行う期間
F2 変更動作を行う期間
P パッケージ形成期間
B 巻取ボビン
Y 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸された糸を巻取ボビンに巻き取る紡糸巻取装置であって、
機体と、
巻取ボビンを保持するボビンホルダを備えるとともに、前記機体に対して回転するターレットと、
前記機体に対して位置が固定され、前記巻取ボビンに非接触で、かつ前記巻取ボビンでの糸の巻取速度と同じ又は大きい速度で前記巻取ボビンに糸を送る送りローラと、
前記送りローラに対して糸の進行方向の上流側に位置が固定され、糸をトラバースするトラバース装置と、
前記巻取ボビンの周速を検出する周速検出部と、
糸巻取期間中に、前記ターレットの回転角度を制御することにより、前記送りローラと前記巻取ボビンとの間にある糸のフリーレングスを基本長さに維持する基本動作を行う制御部と、
を備えることを特徴とする紡糸巻取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸巻取装置であって、
前記送りローラは、前記巻取ボビンでの糸の巻取速度より大きい速度で前記巻取ボビンに糸を送り、
前記制御部は、糸巻取期間中に、前記基本動作と、前記フリーレングスを前記基本長さよりも一時的に増大する変更動作とを繰り返すことを特徴とする紡糸巻取装置。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載の紡糸巻取装置であって、
前記周速検出部は、前記巻取ボビンの位置変更に追従して、前記巻取ボビンに所定の接圧で接触する接触ローラを備える、
ことを特徴とする紡糸巻取装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の紡糸巻取装置を上段と下段に複数組み合わせて構成される紡糸巻取設備であって、
前記下段に配置される紡糸巻取装置に供給される糸は、上段に配置される複数の紡糸巻取装置の間を通り、かつトラバース装置に対して上方から供給されることを特徴とする紡糸巻取設備。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の紡糸巻取装置を上段と下段に複数組み合わせて構成される紡糸巻取設備であって、
前記上段及び下段に配置される紡糸巻取装置に供給される糸は、前記トラバース装置に対して側方から供給されることを特徴とする紡糸巻取設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−144323(P2012−144323A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3358(P2011−3358)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】