説明

紡績機械の運転管理装置

【課題】現在の在庫量で精紡機の生産継続が可能かどうか判断することを可能にすることができる紡績機械の運転管理装置を提供する。
【解決手段】運転管理装置21は、LAN22を介して粗紡機11の制御装置12及び精紡機16の制御装置17に接続されている。運転管理装置21は、CPU23、プログラムメモリ24、作業用メモリ25、入力装置26及びディスプレイ27を備えている。CPU23は粗紡機11及び精紡機16の運転データを収集し、粗紡機11及び精紡機16の現在の稼動状況をモニタする。CPU23は粗紡機11及び精紡機16の運転データに基づいて、精紡機16における未来の粗糸在庫増減量を演算する。ディスプレイ27は前記未来の粗糸在庫増減量を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機械の運転管理装置に係り、詳しくは紡績工場における前工程及び後工程の過剰な在庫を抑制するのに寄与する紡績機械の運転管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績工場では精紡機を複数台備えた精紡工程を備えており、精紡工程の前工程として粗紡機を複数台備えた粗紡工程がある。
粗紡機はスライバを粗糸に加工する錘を多数備えた生産機械であり、ボビンに規定量の粗糸が巻き付けられると運転が停止(機台が停止)されてボビンの交換(ドッフィング)が行われる。ドッフィングの周期は数時間程度で全ての錘で一斉にドッフィングが行われる。スライバはケンスから供給され、粗糸の生産過程でドラフトによって糸が細くなるため、スライバ供給用のケンスは数回のドッフィング毎に交換される。粗紡機では1つの錘で糸切れが発生しても、機台が停止されて糸切れの修復が行われるため、糸切れが機台稼働率に影響を与え、生産量が変動する。
【0003】
一方、精紡機は粗糸から管糸に加工する錘を多数備えた生産機械であり、糸切れによる機台停止は無く、満管になると機台が停止されてドッフィングが行われ、必要とする粗糸量は安定している。また、精紡機への粗糸(粗糸ボビン)の供給は、紡出条件によって異なるが、1〜3日毎に行われる。
【0004】
紡績工場の生産能力は最終工程である精紡工程における精紡機の稼動率により決まる。このため精紡機が粗糸供給不足によって止まることは工場の生産量に直接影響するので粗糸在庫の把握は重要である。しかし、粗糸在庫を多めに持つことで安定供給を図ると粗糸保管場所のムダが生じる。
【0005】
粗糸在庫の最適化は搬送システムのコンピュータ処理等で管理できるが、搬送システムが無い場合のモニタリングシステムでは粗糸在庫の監視はできていない。搬送システムが無い場合、粗糸在庫に関しての情報は表示できず、実際の工場では粗糸が搭載された台車の台数で粗糸在庫の数量を把握し、一定周期で目視管理しているのが現状である。
【0006】
紡績工場の操業管理装置として、将来の操業状態をシミュレーションした効率の良い作業指示書を発行できるとともに、操業実績の把握及び計画の変更が可能な装置が提案されている(特許文献1参照)。この操業管理装置は、運転段取表のデータに基づいて将来の操業状態をシミュレーションし、モニタ画面に各工程における機台の稼動の有無、ドッフィングの時期等を時間を尺度として表示した運転スケジュール表を作成する手段と、運転スケジュール表をモニタ画面に操業予定として表示する手段とを備えている。また、実操業データに基づく生産進捗度を上記操業予定の中に追加表示して実績画面を得る手段と、生産進捗度が操業予定からかけ離れた場合実績画面を新たな操業予定の初期画面とする手段とを備えている。そして、ある日時での機械毎の運転状態を初期条件として入力すると、日単位の運転スケジュール表が作成され、連続して表を作成させて数日先の状態を見ることが可能となる。そして、この運転スケジュール表の内容より、将来の操業状態(運転条件)の適否、例えば、作業者人数、工程間ストック量の適否を人が判断することが記載されている。
【特許文献1】特開平4−202816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の操業管理装置では、運転段取表に基づいて将来の操業状態をシミュレーションしており、現在の各機械の稼動状況を反映していない。また、生産進捗度が操業予定表から大幅にかけ離れる場合、運転スケジュール表の実績を今後の予定にすることが開示されているが、この場合も、現在の各機械の稼動状況に基づいて将来の予測を行うのではなく、あくまでも過去の実績を利用するものである。また、生産進捗度の表示以外にも、必要に応じて「工程間ストック量」も出力表示可能との記載もあるが、詳細は何ら記載が無く、生産計画又は生産実績に基づいて計算すると考えられる。
【0008】
目視管理によって現在の粗糸在庫量は把握できるが、現在の在庫量で精紡機の生産継続が可能かどうか判断することは困難である。なぜならば、精紡機の粗糸需要周期(粗糸替え周期)が粗紡機のドッフィング周期に比較して長いことと、精紡機では粗糸の使用が安定して行われるのに、粗紡機では糸切れによって稼働状況が変動し、運転スケジュールどおりに粗糸の生産が行われず、粗糸の供給量が安定しないからである。
【0009】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、現在の在庫量で後工程の生産継続が可能かどうか判断することを可能にすることができる紡績機械の運転管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、紡績工場における連続する2工程の紡績機械の稼動情報に基づいて紡績機械の運転管理を行う紡績機械の運転管理装置である。そして、前工程の紡績機械及び後工程の紡績機械の運転データを収集する運転データ収集手段を備える。また、前記前工程の紡績機械及び後工程の紡績機械の運転データに基づいて、前記後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量を演算する在庫増減量演算手段と、前記後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量を表示する表示手段とを備える。
【0011】
この発明では、運転データ収集手段により前工程の紡績機械及び後工程の紡績機械の運転データが収集される。運転データの収集はネットワークを経由したり、メモリカードなどの物理媒体を使用したりして行われる。また、前記運転データに基づいて、在庫増減量演算手段により後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量が演算され、後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量が表示手段に表示される。したがって、運転管理者は、現在の前工程製品在庫量と前工程の紡績機械の稼動状況から後工程の紡績機械が支障無く生産継続を可能か否かを判断することが可能となる。そして、その判断結果が生産継続を否とするものである場合は、生産継続が可能になるための処置をとることで生産を継続することが可能になる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記演算手段は、運転条件が変更された際の前記未来の前工程製品在庫増減量を演算し、前記表示手段は運転条件変更後の前記未来の前工程製品在庫増減量を表示可能である。
【0013】
後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量に基づいて現在の運転条件で前工程の紡績機械の運転を継続すると、在庫が不足する状態になって後工程の紡績機械の運転継続が難しくなると判断した場合、前工程の紡績機械の運転条件を変更することが考えられる。この発明では、運転条件変更後の後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量を表示可能なため、変更後の運転条件が妥当か否かの判断を行い、実際の運転条件を妥当な運転条件に変更することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記表示手段は、前記前工程製品在庫増減量に加えて過去の前工程製品在庫増減量を表示する。したがって、この発明では、後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量の表示を見た場合、過去の前工程製品在庫増減量も表示されているため、シミュレーションの妥当性の判断に役立てることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記表示手段は、前記前工程製品在庫増減量をグラフで表示する。前工程製品在庫増減量の表示は表でも可能であるが、この発明では、グラフで表示するため、一目で前工程製品在庫増減量の推移を確認することができるとともに、増減の程度も確認することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記前工程の紡績機械は粗紡機であり、前記後工程の紡績機械は精紡機である。したがって、この発明では、現在の在庫量で精紡機の生産継続が可能かどうか判断することは困難な精紡工程において、支障無く精紡機及び粗紡機の運転を行うことが可能になる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記表示手段は、複数の製品が生産されている場合に、前記前工程製品在庫増減量を製品コード毎に表示する。したがって、この発明では、紡績工場で複数の製品を同時に生産する場合に、各製品についてそれぞれ前工程製品在庫増減量を確認することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、現在の在庫量で後工程の生産継続が可能かどうか判断することを可能にすることができる紡績機械の運転管理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を前工程として粗紡工程、後工程として精紡工程を例に具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
図1に示すように、前工程としての粗紡工程には紡績機械としての粗紡機11が複数台並設されており、粗紡機11には機台毎に制御装置12が設けられている。制御装置12はCPU(中央処理装置)13、メモリ14及び入力装置15を備えている。CPU13はメモリ14に記憶された所定のプログラムデータに基づいて紡出条件に対応する運転条件で粗紡機11の運転を制御する。紡出条件としては、紡出粗糸重量、繊維種、フライヤ回転数、撚り数等があり、入力装置15により入力される。CPU13は、運転データとして、製品コード(製品の品種)、過去の粗糸生産量、1回の粗糸ドッフィング量、ドッフィング周期、次のドッフィング日時、フライヤ回転数、稼働率を、入力装置15により入力された紡出条件及びそれに対応する運転条件及び実際の紡出結果に基づいて演算してメモリ14に記憶する。なお、稼動率は、1シフト毎に求められ、1シフトの間において粗紡機11が稼動した時間を1シフトの時間で割って求められる。また、稼動率は、各粗紡機11についてそれぞれ過去数シフトの稼働率を演算した後、各シフトについてそれぞれ全ての粗紡機11の平均稼動率で求める。1シフトとは作業者の勤務交代期間であり、3交代勤務であれば8時間になる。
【0020】
後工程としての精紡工程には紡績機械としての精紡機16が複数台並設されており、精紡機16には機台毎に制御装置17が設けられている。制御装置17はCPU18、メモリ19及び入力装置20を備えている。制御装置17はメモリ19に記憶された所定のプログラムデータに基づいて紡出条件に対応する運転条件で精紡機16の運転を制御する。紡出条件としては、紡出糸番手、紡出運転時のスピンドル回転数、紡出長、リフト長、基準チェース長、撚り数等があり、入力装置20により入力される。CPU18は、運転データとして、製品コード(製品の品種)、過去の粗糸消費量、1回の粗糸交換量、粗糸交換周期、次の粗糸交換日時を、入力装置15により入力された紡出条件及びそれに対応する運転条件及び実際の紡出結果に基づいて演算してメモリ19に記憶する。
【0021】
粗紡機11及び精紡機16の運転管理を行う運転管理装置21は、LAN(ローカルエリアネットワーク)22を介して粗紡機11の制御装置12及び精紡機16の制御装置17に接続されている。LAN22としてイーサネット(登録商標)が使用されている。運転管理装置21は、CPU23、プログラムメモリ24、作業用メモリ25、入力装置26及び表示手段としてのディスプレイ27を備えている。ディスプレイ27にはカラーディスプレイが使用されている。運転管理装置21にはパーソナルコンピュータが使用される。
【0022】
CPU23はプログラムメモリ24に記憶されたプログラムデータに従って各種の処理を実行するようになっている。作業用メモリ25は入力装置26により入力された入力データ及びCPU23における演算処理結果等を一時記憶する。CPU23は、LAN22を介して粗紡機11及び精紡機16の運転データを収集する。即ち、CPU23は、前工程及び後工程の紡績機械の運転データを収集する運転データ収集手段を構成する。
【0023】
CPU23は、粗紡機11及び精紡機16の運転データに基づいて、精紡機16における未来の粗糸在庫増減量を演算する。即ち、CPU23は、前工程及び後工程の紡績機械の運転データに基づいて、後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量を演算する在庫増減量演算手段を構成する。そして、CPU23は演算した後工程(精紡工程)の紡績機械(精紡機16)における未来の前工程製品在庫増減量をディスプレイ27に表示させる。
【0024】
CPU23は、未来の粗糸在庫増減量に加えて過去の粗糸在庫増減量をディスプレイ27に表示させる。即ち、ディスプレイ27は未来の前工程製品在庫増減量に加えて過去の前工程製品在庫増減量を表示する。過去の粗糸在庫増減量は、メモリ14に記憶された複数の粗紡機11(前工程の紡績機械)における過去の粗糸生産量の合計と、メモリ19に記憶された複数の精紡機16(後工程の紡績機械)における過去の粗糸消費量の合計とから求められる。CPU23は、未来の前工程製品在庫増減量及び過去の前工程製品在庫増減量を、例えば、各シフトに合わせてディスプレイ27に表示させるように1シフト毎に演算する。
【0025】
CPU23は、粗紡工程及び精紡工程で複数の製品が生産されている場合は、未来の前工程製品在庫増減量及び過去の前工程製品在庫増減量を製品コード毎にディスプレイ27に表示させるように演算する。また、CPU23は、未来の前工程製品在庫増減量及び過去の前工程製品在庫増減量をディスプレイ27にグラフで表示させるように、ディスプレイ27を制御する。CPU23は、運転条件が変更された際の未来の前工程製品在庫増減量を演算し、ディスプレイ27に運転条件変更後の未来の前工程製品在庫増減量を表示させる。
【0026】
なお、粗紡工程から精紡工程への粗糸の搬送は、台車を使用して行われ、粗紡機11でドッフィングされた粗糸は台車に搭載された状態で精紡工程への搬送時まで所定の待機位置に保管される。また、1台の台車には製品コードが同じ粗糸のみが搭載され、製品コード毎に粗糸在庫を目視で容易に確認できるようになっている。
【0027】
次に前記のように構成された運転管理装置の作用を説明する。
粗紡機11及び精紡機16の運転に先立って、先ず入力装置15,20によりそれぞれ紡出条件が入力される。CPU13,18は入力された紡出条件に対応する運転条件で粗紡機11あるいは精紡機16の運転を制御する。そして、粗紡機11のCPU13は、運転データとして、過去の粗糸生産量、1回の粗糸ドッフィング量、ドッフィング周期、次のドッフィング日時、フライヤ回転数、稼働率を製品コード毎にメモリ14に記憶する。また、精紡機16のCPU18は、運転データとして、過去の粗糸消費量、1回の粗糸交換量、粗糸交換周期、次の粗糸交換日時を製品コード毎にメモリ19に記憶する。
【0028】
運転管理装置21のCPU23は、精紡工程における未来の前工程製品在庫増減量を演算(予測)するのに必要なデータとして、各粗紡機11の運転データ及び各精紡機16の運転データをLAN22を介してCPU13及びCPU18から収集する。そして、CPU23は、収集した運転データを製品コード別に集計して現在を在庫量を基準とした場合の粗糸在庫の増減量を演算し、演算結果をグラフ表示する。
【0029】
図2に示すように、グラフは、横軸に3交代勤務の1シフトを単位としてA,B,Cの各グループの勤務時間を表し、縦軸に粗糸在庫増減量を表す状態で表示される。そして、縦軸の0を基準として上側が在庫量が現在より増加することを示し、下側が在庫が現在より減少することを示す。また、横軸の基準位置が現在を示し、基準位置より左側が過去の粗糸在庫量を示し、右側が未来の粗糸在庫量を示す。過去の粗糸在庫量が右肩上がりの場合は、粗糸在庫が増加傾向であることを示し、右肩下がりの場合は、粗糸在庫が減少傾向であることを示す。
【0030】
図2では3品種の製品S1,S2,S3が製造されている状態のグラフである。製品S1の粗糸在庫量を示すグラフは、過去の粗糸在庫量が右肩上がりで、未来の粗糸在庫量は現在より5シフト(13C)までは在庫量が多いが、6シフト目(14A、丸で囲んだ部分)で現在の粗糸在庫量から大きく減少する状態となっている。したがって、6シフト目(14A)での粗糸在庫減少が現在の粗糸在庫量を上回る場合には、粗糸在庫不足となるおそれがあることが分かる。また、製品S2のグラフは、過去の粗糸在庫増減量がほぼ0で一定して製品生産量とバランスした状態であり、未来の粗糸在庫増減量は微減と在庫量増加の状態が繰り返されている。また、製品S3のグラフは、過去の粗糸在庫増減量及び未来の粗糸在庫増減量とも0を挟んで狭い範囲で在庫増加の状態と在庫減少の状態とが繰り返されている。
【0031】
管理者は、ディスプレイ27の表示(グラフ)を視て、未来の粗糸在庫増減量がマイナスの場合、在庫量を確認、即ち台車に搭載されている製品S1の粗糸在庫量を確認する。そして、現在の粗糸在庫量が6シフト目(14A)の減少より多ければ、現在の運転条件で粗紡機11の運転を継続させる。しかし、現在の粗糸在庫量が6シフト目(14A)の減少より少なければ、このままの状態で運転を継続すると、6シフト目(14A)に粗糸が不足して精紡機16を停止させなければならない事態になると判断し、適切な対処を行う。
【0032】
対処方法としては、粗紡機11の設定回転数変更(運転条件変更)、人員増強による機台稼働率向上等がある。管理者は、粗紡機11の運転条件を変更する場合、CPU23に運転条件が変更された際の未来の前工程製品在庫増減量を演算させ、ディスプレイ27に運転条件変更後の未来の前工程製品在庫増減量を表示させる。CPU23は、粗紡機11から収集した回転数及び稼働率と、手段を講じた後の回転数及び稼働率との比を算出することで手段を講じた後のシミュレーションを行う。
【0033】
管理者は、そのグラフを視て、変更後の運転条件が妥当か否かの判断を行う。具体的には、グラフで示される未来の前工程製品在庫増減量がマイナスであっても現在の粗糸在庫量より少ない減少であれば、運転条件が妥当と判断し、実際の運転条件をその妥当な運転条件に変更する。グラフで示される変更後の未来の前工程製品在庫増減量がマイナスで、しかも現在の粗糸在庫量より多い減少であれば、再び運転条件を変更して、同様に変更後の未来の前工程製品在庫増減量をディスプレイ27に表示させて、変更後の運転条件が妥当か否かの判断を行い、実際の運転条件を妥当な運転条件に変更する。
【0034】
製品S1のグラフのように、製品在庫量が不足する状態となる前に在庫が十分有る状態で変化しているにも拘わらず製品在庫量が急に不足状態になるのは、例えば、精紡工程において、複数の精紡機16において粗糸交換日時が重なる場合が考えられる。
【0035】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)運転管理装置21は、粗紡機11及び精紡機16の運転データを収集する運転データ収集手段(CPU23)を備える。また、粗紡機11及び精紡機16の運転データに基づいて、精紡工程における未来の粗紡工程製品在庫増減量を演算する在庫増減量演算手段(CPU23)と、精紡工程における未来の粗紡工程製品在庫増減量を表示するディスプレイ27とを備える。したがって、運転管理者は、現在の粗糸在庫量と粗紡機11の稼動状況から精紡工程の精紡機16が支障無く生産継続を可能か否かを判断することが可能となる。そして、その判断結果が生産継続を否とするものである場合は、生産継続が可能になるための処置をとることで生産を継続することが可能になる。
【0036】
(2)CPU23は、運転条件が変更された際の未来の粗紡工程製品在庫増減量を演算し、ディスプレイ27は運転条件変更後の未来の粗紡工程製品在庫増減量を表示可能である。したがって、現在の運転条件で粗紡機11の運転を継続すると、在庫が不足する状態になって精紡機16の運転継続が難しくなると判断して、粗紡機11の運転条件を変更する場合、運転条件変更後の未来の粗紡工程製品在庫増減量の表示を視て、変更後の運転条件が妥当か否かの判断を行い、実際の運転条件を妥当な運転条件に変更することができる。
【0037】
(3)ディスプレイ27は、未来の粗紡工程製品在庫増減量に加えて過去の粗紡工程製品在庫増減量を表示する。したがって、未来の粗紡工程製品在庫増減量の表示を見た場合、過去の粗紡工程製品在庫増減量も表示されているため、過去の粗紡工程製品在庫増減量をシミュレーションの妥当性の判断に役立てることができる。
【0038】
(4)ディスプレイ27は、粗紡工程製品在庫増減量をグラフで表示する。したがって、粗紡工程製品在庫増減量の表示を表で行う場合と異なり、一目で粗紡工程製品在庫増減量の推移を確認することができるとともに、増減の程度も確認することができる。
【0039】
(5)
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記表示手段は、複数の製品が生産されている場合に、前記前工程製品在庫増減量を製品コード毎に表示する。したがって、この発明では、紡績工場で複数の製品を同時に生産する場合に、各製品についてそれぞれ前工程製品在庫増減量を確認することができる。
【0040】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 粗紡機11及び精紡機16の運転データを収集する運転データ収集手段(CPU23)は、ネットワーク(この実施形態ではLAN22)を経由してデータを収集しているが、メモリカード等の物理媒体を使ってデータ収集するようにしてもよい。通常、粗紡機11の制御装置12及び精紡機16の制御装置17は、メモリ14,19のデータをメモリカード等の物理媒体に書き込む機能を備えているため、簡単に対応できる。
【0041】
○ 表示手段(ディスプレイ27)は、後工程(精紡工程)における未来の前工程(粗紡工程)製品在庫増減量の表示をグラフで表示する場合、折れ線グラフに代えて棒グラフにしてもよい。
【0042】
○ 表示手段(ディスプレイ27)は、後工程(精紡工程)における未来の前工程(粗紡工程)製品在庫増減量の表示をグラフ以外の表示、例えば、表で表示するようにしてもよい。しかし、グラフ表示の方が、目視で簡単に製品在庫増減量の推移や増減の程度を把握し易い。
【0043】
○ 表示手段(ディスプレイ27)は、過去の製品在庫増減量を表示せずに、未来の製品在庫増減量のみを表示するようにしてもよい。しかし、過去の製品在庫増減量を同時に表示した方が、未来の製品在庫増減量のシミュレーションの妥当性を判断し易い。
【0044】
○ 複数の製品が生産されている場合、各製品の製品在庫増減量を同時に表示する代わりに、1製品ずつ順に製品在庫増減量を表示したり、指定した製品の製品在庫増減量を選択的に表示したりしてもよい。
【0045】
○ 運転管理装置21は、粗紡機11及び精紡機16の稼動情報に基づいて粗紡機11及び精紡機16の運転管理を行う装置に限らず、紡績工場における連続する2工程の紡績機械の稼動情報に基づいて紡績機械の運転管理を行う装置としてもよい。例えば、練条工程の練条機と粗紡工程の粗紡機の運転管理を行う装置に適用してもよい。しかし、現在の在庫量で精紡機の生産継続が可能かどうかを簡単に判断することが困難な精紡工程と粗紡工程に適用する方が好ましい。
【0046】
○ 粗紡機11及び精紡機16の運転条件を入力装置15,20で個々に入力する代わりに、運転管理装置21からLAN22を介して入力するようにしてもよい。
○ 未来の前工程製品在庫増減量が在庫が増加する状態で、しかも0から大きく離れた状態が連続して、かつ在庫不足にならない場合、在庫量が過剰と判断して粗紡機11の稼働率を下げるように、粗紡機11の運転条件を変更してもよい。
【0047】
○ 演算手段(CPU23)は、運転条件が変更された際の後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量を演算し、表示手段に運転条件変更後の前記未来の前工程製品在庫増減量を表示させる機能を無しにしてもよい。
【0048】
○ 過去の粗糸在庫増減量をグラフ表示する場合に、過去に表示した増減量データを運転管理装置21の作業メモリ25に記憶保持しておき、グラフ表示の際に読み出すようにしてもよい。
【0049】
○ 表示手段(ディスプレイ27)は、在庫増減量の演算を実行する演算手段(CPU23)を有するパーソナルコンピュータとは別に設けるようにしてもよい。この場合、演算手段(CPU23)を有するパーソナルコンピュータ及びそれとは別に設けられる表示手段が本発明の運転管理装置を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】粗紡機及び精紡機の運転管理装置に適用した一実施形態の構成図。
【図2】粗糸在庫増減量の推移を示すグラフ。
【符号の説明】
【0051】
11…粗紡機、16…精紡機、21…運転管理装置、23…運転データ収集手段及び在庫増減量演算手段としてのCPU、27…表示手段としてのディスプレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績工場における連続する2工程の紡績機械の稼動情報に基づいて紡績機械の運転管理を行う紡績機械の運転管理装置であって、
前工程の紡績機械及び後工程の紡績機械の運転データを収集する運転データ収集手段と、
前記前工程の紡績機械及び後工程の紡績機械の運転データに基づいて、前記後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量を演算する在庫増減量演算手段と、
前記後工程の紡績機械における未来の前工程製品在庫増減量を表示する表示手段と
を備えることを特徴とする紡績機械の運転管理装置。
【請求項2】
前記演算手段は、運転条件が変更された際の前記未来の前工程製品在庫増減量を演算し、前記表示手段は運転条件変更後の前記未来の前工程製品在庫増減量を表示可能である請求項1に記載の紡績機械の運転管理装置。
【請求項3】
前記表示手段は、前記前工程製品在庫増減量に加えて過去の前工程製品在庫増減量を表示する請求項1又は請求項2に記載の紡績機械の運転管理装置。
【請求項4】
前記表示手段は、前記前工程製品在庫増減量をグラフで表示する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の紡績機械の運転管理装置。
【請求項5】
前記前工程の紡績機械は粗紡機であり、前記後工程の紡績機械は精紡機である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の紡績機械の運転管理装置。
【請求項6】
前記表示手段は、複数の製品が生産されている場合に、前記前工程製品在庫増減量を製品コード毎に表示する請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の紡績機械の運転管理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−275318(P2009−275318A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128489(P2008−128489)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】