説明

紡績機

【課題】紡績装置から引き出される紡績糸に与える糸張力を安定させ、品質の均一な紡績糸を得ることができる紡績機を提供する。
【解決手段】精紡機の紡績ユニット2は、紡績装置9と、巻取装置13と、糸弛み取り装置12と、を備える。紡績装置9は、繊維束8に撚りを与えて紡績糸10を生成する。巻取装置13は、紡績装置9から送出された紡績糸10を巻き取ってパッケージ45を形成する。糸弛み取り装置12は、紡績装置9と巻取装置13との間に配置されるとともに、回転する弛み取りローラ21の外周に紡績糸10を巻き付けて一時的に貯留する。そして、この精紡機は、糸弛み取り装置12によって、紡績装置9から送出される紡績糸10に張力を与えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機に関する。詳細には、当該紡績機において紡績糸に張力を与えるための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1が開示するような紡績機が知られている。一般的にこの種の紡績機は、紡績装置から送出される紡績糸を、回転駆動される金属製のデリベリローラと、デリベリローラに対向して配置されて従動回転するゴム製のニップローラと、によってニップして搬送するように構成されている。即ち、デリベリローラの回転によって、紡績装置から引き出される糸に張力が与えられている。糸に所定の張力を与えることで、紡績装置から所定の速度で糸を引き出すとともに所定の速度で下流側に搬送することができる。
【特許文献1】特開2004−124333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1のような紡績機による紡績中においては、糸の太さ(番手)、紡績時の糸の引出し張力、クリアリング(糸欠点検出)時の糸張力等が所望の値となるように正確に制御することが糸品質の観点から非常に重要である。即ち、糸の太さや紡績時の引出し張力が紡績中に変動すれば、糸品質に悪影響を及ぼしてしまう。また、クリアリング時の張力が一定でなければ、正確なクリアリングを行うことができない。
【0004】
前記の糸の太さは、デリベリローラとバックローラとの速度比によって決まる。前記の紡績時の引出し張力は、デリベリローラとフロントローラとの速度比によって決まる。また、前記のクリアリング時の張力は、デリベリローラと巻取装置(糸弛み取り装置がある場合は、デリベリローラと糸弛み取り装置)との速度比によって決まる。このように、デリベリローラによる糸の搬送速度は糸品質を左右する重要なパラメータであるので、デリベリローラによって正確な速度で糸を搬送することが必要とされる。
【0005】
一方、デリベリローラの下流側に備えられた巻取装置において、糸はパッケージ表面にトラバース(綾振り)されるため、デリベリローラ下流側では常に糸張力の変動が起こる。この張力の変動は、ある程度は糸張力調整装置によって緩和されるものの、当該糸張力調整装置よりも上流側のデリベリローラまで伝わってしまうことがある。このとき、デリベリローラとニップローラによる糸のニップ力が十分でないと、糸とローラとの間にスリップが発生して張力の変動が上流側に伝わり、デリベリローラによる糸の搬送速度に変動が生じて糸品質が低下してしまう。このような糸の搬送速度の変動を防止するため、デリベリローラとニップローラによる糸のニップ力は、強力かつ安定していることが好ましい。
【0006】
しかしながら、2つのローラで糸をニップして搬送するという従来の構成では、十分な力で糸を把持するには限界があり、下流からの張力変動の影響を受けないほど強力なニップ力を実現するのは困難であった。また、ゴム製のニップローラ表面に生じる摩耗、部品の組付精度などの要因により、前記ニップ力にはバラツキが生じてしまうのが実情である。そのため、複数の紡績ユニット間でニップ力が均一となるように管理することが難しく、生産される糸の品質を均一に管理することができなかった。更に、ニップローラ表面のゴムの摩耗が進行するとニップ力が低下し、糸のスリップが頻発してしまう場合があった。
【0007】
また、ニップローラはメンテナンス性などの観点から片持ち支持式に構成する場合があるが、この場合、ニップローラの一端側と他端側でニップ力が均等となるように調整することは構成上困難である。このため、例えば前記トラバースによって糸が左右に振られると、ニップ位置が変動することでニップ力が変動し、これにより糸張力が変動してクリアラが頻繁に誤検出をしてしまうという問題があった。
【0008】
また、ニップローラは、表面のゴムが摩耗するため一定期間で取り替える必要がある消耗部品である。また、デリベリローラとニップローラには風綿などが巻き付き易く、巻き付いた場合はオペレータがこれを取り除く必要がある。このように、デリベリローラとニップローラによる糸の搬送は、メンテナンスの負担が大きいという観点からも問題があった。
【0009】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、紡績装置から引き出される紡績糸に与える糸張力を安定させ、品質の均一な紡績糸を得ることができる紡績機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の観点によれば、以下の構成の紡績機が提供される。即ち、この紡績機は、紡績装置と、巻取装置と、糸貯留装置と、を備える。前記紡績装置は、繊維束に撚りを与えて紡績糸を生成する。前記巻取装置は、前記紡績装置から送出された前記紡績糸を巻き取ってパッケージを形成する。前記糸貯留装置は、前記紡績装置と前記巻取装置との間に配置されるとともに、回転する糸貯留ローラの外周に前記紡績糸を巻き付けて一時的に貯留する。そして、この紡績機は、前記糸貯留装置によって張力を与えながら前記紡績装置から紡績糸を引き出す。
【0012】
即ち、外周に紡績糸を巻き付けた糸貯留ローラによって紡績糸に張力を与えているので、例えば対向する2つのローラの間に紡績糸をニップして搬送していた従来の構成と比べて、糸搬送部材としての当該糸貯留ローラと紡績糸との間の接触面積が大きく、十分な搬送力で紡績糸に張力を与えることができる。従って、糸貯留ローラと紡績糸との間でスリップ等を起こさずに、紡績装置から紡績糸を安定した速度で引き出すことができるので、品質が均一な紡績糸を生産することができる。
【0013】
前記の紡績機においては、前記紡績装置から送出される前記紡績糸が、他の糸搬送部材を介さずに前記糸貯留装置に直接導入されることが好ましい。
【0014】
これにより、紡績装置から送出される紡績糸に対して、他の糸搬送部材の影響を受けることなく糸貯留装置によって張力を与えることができる。また、紡績装置と糸貯留装置との間に他の糸搬送部材が存在した場合に発生する当該他の糸搬送部材への風綿の巻付き等の問題を回避してメンテナンス性を向上させるとともに、部品点数を削減して紡績機全体を簡素化し、コストを抑えることができる。
【0015】
前記の紡績機においては、前記糸貯留ローラは耐摩耗性の高い材質(例えば金属製)であることが好ましい。
【0016】
これにより、ゴム製のローラに比べ耐久性が向上するので、従来の構成に比べて消耗部品の数を削減することができるとともに、長期にわたって安定した糸品質を維持することができる。また、摩耗による性能の変化を抑えることができるので、例えばゴム製のローラによって紡績糸を搬送する従来の構成に比べて、紡績機が備える複数の紡績ユニット間での糸の搬送力のバラつきを抑え、当該複数のユニットが生産する糸の品質をユニット間で均一に保つことができる。また、例えば金属製のように加工性の高い素材とすれば、糸貯留ローラを高い加工精度で製造することが容易になるので、ユニット間での部品寸法のバラつきを抑え、生産される糸の品質がユニット間で均一になるように管理することが更に容易になる。
【0017】
前記の紡績機においては、前記糸貯留装置は、当該糸貯留装置と前記巻取装置との間の糸張力の変動を吸収するように構成された糸弛み取り装置であることが好ましい。
【0018】
これにより、糸弛み取り装置と巻取装置との間の糸張力の変動が、糸弛み取り装置と紡績装置との間の糸張力に影響を与えることを防止できるので、糸の品質を更に向上させることができる。また、糸弛み取り装置が、紡績糸の搬送と、糸張力の調整と、の両方の機能を有しているので、糸搬送用の部材と張力調整用の部材とを別個に設けていた従来の構成と比べて、部品点数を削減しコストを抑えることができる。
【0019】
前記の紡績機においては、前記糸貯留ローラの外周には、少なくとも10周以上は前記紡績糸を重なることなく巻き付けることが可能であることが好ましい。
【0020】
即ち、糸貯留ローラの外周に十分な長さの紡績糸が当該糸貯留ローラを締め付けるように巻き付くことで、当該糸貯留ローラの回転による紡績糸の搬送力を十分に安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は紡績機の全体的な構成を示した正面図、図2は紡績機の縦断面図である。
【0022】
図1に示す紡績装置としての精紡機1は、並設された多数の錘(紡績ユニット2)を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0023】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸弛み取り装置(糸貯留装置)12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1の筐体6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から送出された紡績糸10は後述のヤーンクリアラ52を通過した後、糸弛み取り装置12で送られて巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0024】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。
【0025】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与え、紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。
【0026】
紡績装置9の下流には、糸弛み取り装置12が設けられている。この糸弛み取り装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて紡績装置9から引き出す機能と、糸継台車3(後述)による糸継ぎ時などに紡績装置から送出される紡績糸10を滞留させて糸の弛みを防止する機能と、巻取装置13(後述)側の張力の変動が紡績装置9側に伝わらないように張力を調節する機能と、を有している。図2に示すように、糸弛み取り装置12は、弛み取りローラ(糸貯留ローラ)21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド23と、電動モータ25と、下流側ガイド26と、糸貯留量センサ27と、を備えている。
【0027】
糸掛け部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で弛み取りローラ21と一体回転することにより、当該弛み取りローラ21の外周面に紡績糸10を巻き付けることができるように構成されている。
【0028】
弛み取りローラ21は、その外周面に紡績糸10を一定量巻き付けて貯留することができるように構成されている。また、弛み取りローラ21は、電動モータ25によって回転駆動される。この構成で、弛み取りローラ21の外周に巻き付けられた紡績糸10は、弛み取りローラ21が回転することにより当該弛み取りローラ21を締め付けるようにして巻かれ、糸弛み取り装置12よりも上流側の紡績糸10を引っ張る。即ち、外周に紡績糸10を巻き付けた状態の弛み取りローラ21を所定の回転速度で回転させることで、紡績糸10に所定の張力を与えて紡績装置9から所定の速度で引き出し、所定の速度で下流側に搬送することができる。
【0029】
そして、弛み取りローラ21の外周に所定量の紡績糸10を巻き付けることで、弛み取りローラ21と紡績糸10との間で所定の接触面積を確保することができる。これにより、弛み取りローラ21が十分な力で紡績糸10を保持して引っ張ることが可能となり、スリップ等を発生させることなく紡績装置9から安定した速度で紡績糸10を引き出すことができる。また、図2に示すように、紡績装置9と糸弛み取り装置12との間には紡績糸10に張力を与えるための他の構成(従来のデリベリローラなど)がないので、紡績装置9からの糸の引出し速度は、弛み取りローラ21の回転速度によって決定される。従って、本実施形態の精紡機1では、糸弛み取り装置12によって紡績糸10に対して張力を与え、バラツキが少なく正確な速度で当該紡績糸10を紡績装置9から引き出すことができる。
【0030】
糸貯留量センサ27は弛み取りローラ21上に貯留されている紡績糸10の貯留量を非接触式で検出し、ユニットコントローラに送信するように構成されている。
【0031】
上流側ガイド23は弛み取りローラ21のやや上流側に配置される。上流側ガイド23は、弛み取りローラ21の外周面に対して糸を適切に案内する案内部材であるとともに、紡績装置9から伝播してくる紡績糸10の撚りが当該上流側ガイド23よりも下流側に伝わることを防止する撚り止めの役割を兼ねている。
【0032】
精紡機1の筐体6の前面側であって前記紡績装置9と前記糸弛み取り装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ52が設けられている。そして、紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸弛み取り装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するように構成されている。なお、従来の構成の精紡機(例えば特許文献1)においては、ヤーンクリアラはデリベリローラによって搬送された紡績糸を監視していたので、紡績糸とデリベリローラ(及びニップローラ)との間にスリップが発生した場合に誤検出することがあった。この点、本実施形態では上記のように、紡績装置9から紡績糸10を糸弛み取り装置12によって(スリップなどを発生させずに)安定した速度及び張力で引き出すことができる。これにより、ヤーンクリアラ52による正確な糸欠点検出を行うことができる。
【0033】
前記ユニットコントローラは、前記糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ57で紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。また、ユニットコントローラは糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。その後、紡績装置9等を再び駆動し、前記糸継台車3に糸継ぎを行わせて巻取りを再開させるようになっている。このとき、糸弛み取り装置12は、紡績装置9が紡績を再開してから巻取りが再開されるまでの間、紡績装置9から連続的に送出される紡績糸10を弛み取りローラ21に滞留させて紡績糸10の弛みを取るように構成されている。
【0034】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、前記レール41上を当該紡績ユニット2まで走行し、停止するように構成されている。前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績装置9から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行う。
【0035】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0036】
また、前記巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。また、トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0037】
次に、糸弛み取り装置の詳細な構成について図3を参照して説明する。図3は、糸弛み取り装置の縦断面図である。
【0038】
弛み取りローラ21は耐摩耗性材質製とされ、電動モータ25のモータ軸25aに固定されている。この弛み取りローラ21の外周面21aは、糸掛け部材22を有する側を先端、電動モータ25が配置されている側を基端とすると、基端から先端に向かって順に、基端側テーパ部21bと、円筒部21cと、先端側テーパ部21dと、を備えている。
【0039】
円筒部21cは、先端側が僅かに細まる形状に構成されるとともに、両側のテーパ部21b,21dに対し段差なく連続する形状になっている。また、弛み取りローラ21によって紡績糸10の十分な搬送力を得るためには、弛み取りローラ21の外周面に少なくとも10周以上は紡績糸10が重なることなく巻き付いていることが好ましい。このため、円筒部21cは、紡績糸10を少なくとも10周以上は貯留することができるような寸法に形成されている。また、前記糸貯留量センサ27がこの円筒部21cに対向するように備えられており、弛み取りローラ21に巻き付いている糸の貯留量を検知してユニットコントローラに送信するように構成されている。
【0040】
基端側テーパ部21b及び先端側テーパ部21dは、それぞれ端面側を大径側とする緩やかなテーパ状に構成されている。弛み取りローラ21の外周面21aにおいて、基端側テーパ部21bは、供給された紡績糸10を大径部分から小径部分に向かって円滑に移動させて中間の円筒部21cへ到達させることにより、紡績糸10を円筒部21cの表面に整然と巻き付かせるように構成されている。また、先端側テーパ部21dは、解舒の際に、巻き付いている紡績糸10が一度に抜けてしまう輪抜け現象を防止すると同時に、紡績糸10を小径部分から端面側の大径部分へ順送りに巻き戻して、紡績糸10の円滑な引出しを確保する機能を有している。
【0041】
弛み取りローラ21の先端側に配置される糸掛け部材22は、図3に示すように、前記弛み取りローラ21と同心して配置されるとともに、条件に応じて当該弛み取りローラ21と一体的に又は独立して回転するように構成されている。具体的には、この糸掛け部材22は、弛み取りローラ21に対し相対回転可能に支持されるフライヤー軸33と、その先端に固着されるフライヤー38を備えている。
【0042】
フライヤー軸33又は弛み取りローラ21の何れか一方には永久磁石が取り付けられ、他方には磁気ヒステリシス材が取り付けられている。これらの磁気的手段により、糸掛け部材22が弛み取りローラ21に対し相対回転するのに抗するトルクが発生するように構成されている。
【0043】
フライヤー38は前記フライヤー軸33と一体的に回転するよう構成されている。また、前記フライヤー38は、前記弛み取りローラ21の外周面21aに向かって適宜湾曲する形状に構成されている。これにより、フライヤー38は、紡績糸10と係合して(紡績糸10を引っ掛けて)、当該紡績糸10を弛み取りローラ21の外周面へ案内することができる。
【0044】
以上の構成で、糸弛み取り装置12は、フライヤー38を紡績糸10に引っ掛け、当該紡績糸10を弛み取りローラ21に巻き付かせることによって、紡績糸10の弛みを解消するとともに巻取張力を調整することができる。具体的には以下のとおりである。
【0045】
前述のとおり、糸掛け部材22は弛み取りローラ21に対して独立に回転可能であり、この回転に抗する向きの抵抗トルクが磁気的手段によって加えられている。また、弛み取りローラ21は電動モータ25によって所定の回転速度で回転している。この構成で、フライヤー38が紡績糸10と係合している場合、糸に掛かる張力が前記抵抗トルクに打ち勝つほどに強ければ、前記糸掛け部材22は弛み取りローラ21と独立に回転して、糸を前記弛み取りローラ21から解舒する。反対に、糸に掛かる張力が弱ければ、糸掛け部材22は弛み取りローラ21と一体的に回転し、糸を前記弛み取りローラ21に巻き付ける。なお、紡績糸10は弛み取りローラ21の基端側から巻き付けられる一方、糸は弛み取りローラ21の先端側から解舒されていく。
【0046】
このように、糸弛み取り装置12は、糸の張力が下がる(糸が弛みそうになる)と糸を巻き付け、糸の張力が上がると糸を解舒するように動作することで、糸の弛みを解消して適切な張力を付与することができる。また、上記のように糸弛み取り装置12と巻取装置13と間の紡績糸10に掛かる張力の変動を吸収するように糸掛け部材22が働くことで、当該張力の変動が、紡績装置9から糸弛み取り装置12までの間の紡績糸10に影響を及ぼすことを防止できる。これにより、紡績装置9から紡績糸10をより安定した速度で糸弛み取り装置12によって引き出すことができる。
【0047】
ところで、上記の弛み取りローラ21による紡績糸10の搬送(紡績装置9からの引出し)を安定して行うためには、弛み取りローラ21に紡績糸10が一定量巻き付いた状態を常に維持する必要がある。このため、本実施形態ではクレードルアーム71を糸貯留量センサ27からの信号によりフィードバック制御している。具体的には以下のとおりである。
【0048】
まず、糸掛け部材22に掛けられた糸(糸弛み取り装置12と巻取装置13との間の紡績糸10)に掛かる張力は、基本的には、弛み取りローラ21による糸送り速度(紡績装置9からの紡出速度)及び巻取装置13の巻取速度によって決定される。即ち、糸送り速度よりも巻取速度の方が速ければ糸に掛かる張力は大きくなり、弛み取りローラ21から徐々に糸が解舒される。逆に糸送り速度よりも巻取速度の方が遅ければ糸に掛かる張力は小さくなり、弛み取りローラ21に徐々に糸が巻き付けられる。弛み取りローラ21の回転速度(紡出速度)は通常一定であるので、糸掛け部材22に掛けられた糸に掛かる張力は主に巻取装置13の巻取速度によって変化する。
【0049】
通常の巻取時には、紡績糸10に適切な巻取張力を付与するため、弛み取りローラ21による糸送り速度(紡績装置9の紡出速度)よりも巻取速度の方が若干速くなるように、巻取ドラム72の回転速度が設定されている。従って、弛み取りローラ21に巻き取られていた紡績糸10は徐々に解舒され、糸の貯留量が減少する。
【0050】
糸貯留量センサ27によって糸の貯留量が所定値以下になったこと(例えば、弛み取りローラ21の外周に巻き付いた紡績糸10が10周以下になったこと)が検知されると、当該紡績ユニット2のユニットコントローラは、図略のリフトシリンダを駆動してクレードルアーム71を図2の左側へ回動させるように制御し、パッケージ45を巻取ドラム72から離間させる。これによりパッケージ45は駆動力を失うので、慣性回転を継続するものの、その巻取速度は徐々に減少する。
【0051】
この結果、糸掛け部材22によって徐々に紡績糸10が巻き取られ、弛み取りローラ21の糸の貯留量が回復する。ただし、円筒部21cに貯留可能な量を超える糸を弛み取りローラ21に巻き取ると、紡績糸10が弛み取りローラ21に巻き付く位置が基端側テーパ部21bを登って大径側で巻き取ることとなるため、正確な速度で紡績装置9から紡績糸10を引き出すことができなくなってしまう。そこで、紡績糸10の貯留量が所定値以上になったことを糸貯留量センサ27によって検知するように構成されている。紡績糸10の貯留量が所定値以上になったことを検知すると、前記ユニットコントローラはクレードルアーム71を図2の右側へ回動させ、パッケージ45を巻取ドラム72に接触させる。これにより巻取速度が回復するので、前述のように弛み取りローラ21から紡績糸10が解舒されていく。
【0052】
このように、リフトシリンダによってクレードルアーム71を揺動させ、パッケージ45を巻取ドラム72に対して接触させたり離間させたりすることにより、巻取装置13の巻取速度を調節することができる。そして、弛み取りローラ21の糸貯留量を検知してフィードバックしながら巻取装置13の巻取速度の制御を行うことにより、一定量以上の紡績糸10を弛み取りローラ21に貯留した状態を常に維持することができる。
【0053】
以上で説明したように、本実施形態の精紡機1は、紡績装置9と、巻取装置13と、糸弛み取り装置12と、を備える。紡績装置9は、繊維束8に撚りを与えて紡績糸10を生成する。巻取装置13は、紡績装置9から送出された紡績糸10を巻き取ってパッケージ45を形成する。糸弛み取り装置12は、紡績装置9と巻取装置13との間に配置されるとともに、回転する弛み取りローラ21の外周に紡績糸10を巻き付けて一時的に貯留する。そして、この精紡機1は、糸弛み取り装置12によって張力を与えながら紡績装置9から紡績糸10を引き出している。
【0054】
即ち、外周に紡績糸10を巻き付けた弛み取りローラ21によって紡績糸10(更に言えば、撚りが付与される繊維束8)に張力を与えているので、例えば対向する2つのローラの間に紡績糸をニップして搬送していた従来の構成と比べて、糸搬送部材としての弛み取りローラ21と紡績糸10との間の接触面積が大きく、十分な搬送力で紡績糸10に張力を与えることができる。従って、弛み取りローラ21と紡績糸10との間でスリップ等を起こさずに、紡績装置9から紡績糸10を安定した速度で引き出すことができるので、品質が均一な紡績糸10を生産することができる。
【0055】
また、本実施形態の精紡機1においては、紡績装置9から送出される紡績糸10が、他の糸搬送部材を介さずに糸弛み取り装置12に直接導入されている。
【0056】
これにより、紡績装置9から送出される紡績糸10に対して、他の糸搬送部材の影響を受けることなく糸弛み取り装置12によって張力を与えることができる。また、紡績装置9と糸弛み取り装置12との間に他の糸搬送部材が存在した場合に発生する当該他の糸搬送部材への風綿の巻付き等の問題を回避してメンテナンス性を向上させるとともに、部品点数を削減して精紡機1全体を簡素化し、コストを抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態の精紡機1においては、弛み取りローラ21は耐摩耗性材質製である。
【0058】
これにより、ゴム製のローラに比べ耐久性が向上するので、従来の構成に比べて消耗部品の数を削減することができるとともに、長期にわたって安定した糸品質を維持することができる。また、摩耗による性能の変化を抑えることができるので、例えばゴム製のローラによって紡績糸を搬送する従来の構成に比べて、精紡機1が備える複数の紡績ユニット2の間での糸の搬送力のバラつきを抑え、当該複数の紡績ユニット2が生産する糸の品質を紡績ユニット2の間で均一に保つことができる。
【0059】
また、本実施形態の精紡機1においては、糸弛み取り装置12は、当該糸弛み取り装置12と巻取装置13との間の糸張力の変動を吸収するように構成されている。
【0060】
これにより、糸弛み取り装置12と巻取装置13との間の糸張力の変動が、糸弛み取り装置12と紡績装置9との間の糸張力に影響を与えることを防止できるので、糸の品質を更に向上させることができる。また、糸弛み取り装置12が、紡績糸10の搬送と、糸張力の調整と、の両方の機能を有しているので、糸搬送用の部材と張力調整用の部材とを別個に設けていた従来の構成と比べて、部品点数を削減しコストを抑えることができる。
【0061】
また、本実施形態の精紡機1においては、弛み取りローラ21の外周には、少なくとも10周以上は紡績糸10を重なることなく巻き付けることが可能である。
【0062】
即ち、弛み取りローラ21の外周に十分な長さの紡績糸10が当該弛み取りローラ21を締め付けるように巻き付くことで、弛み取りローラ21を紡績糸10が締め付けて、当該弛み取りローラ21の回転による紡績糸10の搬送力を十分に安定させることができる。
【0063】
以上に本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0064】
糸掛け部材22と弛み取りローラ21との間にトルクを加える方法は、上記のような磁気的な手段に限らず、例えば摩擦力でも良く、電磁気的な手段でも良い。
【0065】
また、糸掛け部材22は必須ではなく、例えば特許文献1のように、弛み取りローラに対して相対回転可能な糸掛け部材を有しない構成の糸弛み取り装置としても良い。この構成であっても、回転する弛み取りローラの外周に糸を巻き付けることで、安定した速度で糸を引っ張ることができる。ただし、上記実施形態のように糸掛け部材22を備える構成では、当該糸掛け部材22によって糸張力の調節が実現されるので別途糸張力調整装置を設ける必要が無く、また、弛み取りローラの糸貯留量を増減させるための複雑な構成も必要無い。従って、コンパクト化などの観点を考慮すれば、上記実施形態のような糸掛け部材22を備えた糸弛み取り装置12とすることが好ましい。
【0066】
紡績ユニット2のレイアウトは、紡績装置9から送出される紡績糸10に実質的に張力を与えているのが糸弛み取り装置12であれば良く、上記実施形態のレイアウトに限定されない。例えば、紡績装置9と糸弛み取り装置12との間に、糸の張力に関与しない別の糸案内部材(例えば、糸をニップ等しない単なる転動ローラ)が設けられた構成であっても良い。
【0067】
上記の精紡機1の構成は一例であって、例えば糸継台車3を省略しても良く、また例えば自動で満巻パッケージを交換するための自動玉揚台車を更に備えていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の正面図。
【図2】紡績機の縦断面図。
【図3】糸弛み取り装置の縦断面図。
【符号の説明】
【0069】
1 精紡機(紡績機)
2 紡績ユニット
8 繊維束
9 紡績装置
10 紡績糸
12 糸弛み取り装置(糸貯留装置)
13 巻取装置
21 弛み取りローラ(糸貯留ローラ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束に撚りを与えて紡績糸を生成する紡績装置と、
前記紡績装置から送出された前記紡績糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、
前記紡績装置と前記巻取装置との間に配置されるとともに、回転する糸貯留ローラの外周に前記紡績糸を巻き付けて一時的に貯留する糸貯留装置と、
を備え、
前記糸貯留装置によって張力を与えながら前記紡績装置から紡績糸を引き出すことを特徴とする紡績機。
【請求項2】
請求項1に記載の紡績機であって、
前記紡績装置から送出される前記紡績糸が、他の糸搬送部材を介さずに前記糸貯留装置に直接導入されることを特徴とする紡績機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡績機であって、
前記糸貯留装置は、当該糸貯留装置と前記巻取装置との間の糸張力の変動を吸収するように構成された糸弛み取り装置であることを特徴とする紡績機。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記糸貯留ローラの外周には、少なくとも10周以上は前記紡績糸を重なることなく巻き付けることが可能であることを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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