説明

紡績用コットの再生方法およびこれに用いるスリーブ

【課題】 コットの外周面が摩耗または損傷した場合でも、該コット自体を廃棄することなく、有効に再利用する。
【解決手段】 鉄芯2にベアリング4を介して回転自在に取り付けられた紡績用ゴムコット3Aの再生方法であって、当初のゴムコット3の外周面7aが使用によって摩耗または損傷した時に、その磨耗等したゴムコット3Aの外周面7bを研磨して該ゴムコット3Aを所定外径に調整した後、その外径調整後のゴムコット3Bの外周面7cに、内径をゴムコット3Bの外径と同一か又は僅かに小さくし、且つ肉厚を当初のゴムコット3の外周面7aが摩耗および調整研磨によって減少した厚みとほぼ同一とした再生用ゴムスリーブ8を装着することにより、磨耗したゴムコット3Aを摩耗前の当初の外径とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績におけるドラフト装置等において用いられるコットの再生方法およびこれに用いるスリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばドラフト装置におけるトップローラとして用いられるコットは、筒状芯体の外周面にNBR等のゴムが一体に密着されたものであるが、コットの外周面が使用により摩耗または損傷した場合には、コット自体を新しいものと交換する必要があった。
【非特許文献1】日本機械繊維学会繊維工学刊行委員会編集 「繊維工学III 糸の製造・性能及び物性」社団法人日本繊維機械学会、昭和62年10月30日、P260〜261
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、コットはドラフト装置全体として多数使用されているため、摩耗したコットをすべて取り外して新しいものに交換するには相当の手間を要した。また、コットは前述したように、筒状芯体の外周面にゴム層を一体に形成し、所定長さに切断すると共に、その端面等の仕上げを行うといった種々の加工を施したものであるが、このように材料コストおよび加工コストをかけたにもかかわらず、コットの外周面だけが摩耗または損傷した場合に、製品の大半を占める残りの部分をすべて廃棄することは資源的にも経済的にも無駄が多い。更に、コットは前述したように、筒状芯体の外周面にゴム層を一体に形成した構造であり、ある程度の重さを有することから、多数の新しいコットを製造工場から使用先の紡績工場まで輸送するにあたってもコストがかかり、更に使用済みコットを産業廃棄物として処分する際にも多大な廃棄コストがかかる等、種々の問題があった。
【0004】
本発明の目的は、コットの外周面が摩耗した場合でも、該コット自体を廃棄することなく、有効に再利用するためのコットの再生方法およびこれに用いるスリーブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明は、鉄芯にベアリングを介して回転自在に取り付けられた紡績用ゴムコットの再生方法であって、ゴムコットの外周面が使用によって摩耗または損傷した時に、ゴムコットの外周面を研磨して該ゴムコットを所定外径に調整した後、該ゴムコットの外周に、内径を前記外径調整後のゴムコットの外径と同一か又は僅かに小さくし、且つ肉厚をゴムコット外周面の摩耗および調整研磨によって減少した厚みとほぼ同一とした再生用ゴムスリーブを装着することにより、ゴムコットを摩耗前の当初の外径とすることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の紡績用ゴムコットの再生方法について、ゴムコット外周面の調整研磨を、該ゴムコットが鉄芯に取り付けられたままの状態で行うことを特徴とするものである。
【0007】
請求項3記載の本発明は、前記請求項1または請求項2記載の紡績用ゴムコットの再生方法について、ゴムコット外周面への再生用ゴムスリーブの装着が、ゴムコット外周面またはゴムスリーブ内周面を潤滑剤で湿らせた後に行うことを特徴とするものである。
【0008】
請求項4記載の本発明は、前記請求項1記載または請求項2記載の紡績用ゴムコットの再生方法について、ゴムコット外周面への再生用ゴムスリーブの装着が、接着剤を介して行われることを特徴とするものである。
【0009】
請求項5記載の本発明は、前記請求項1〜請求項4記載の再生方法に用いられる再生用ゴムスリーブである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る紡績用ゴムコットの再生方法は、前述した通り、ゴムコットの外周面が使用により摩耗または損傷した場合に、その外周面に別途製作した再生用スリーブを装着してゴムコットの外径を使用当初の外径とするものであるため、ゴムコットにおける外周部分以外の大半の部分をそのまま利用することができ、資源的にも経済的にも有効利用が図られる。そして、前記再生用スリーブを装着した再生後のコットの外周面が摩耗等した場合にも同様にして外周面に更に新たなスリーブを装着することで同一のコットについてその再生を繰り返し行うことができ、資源的・経済的効果が累積的に得られるという格別の利点がある。また、本発明の再生方法によれば、前述したように顕著な資源的・経済的な効果が得られることから、コスト上の余裕ができ、そのためコットを構成するゴム材自体、或いは再生用スリーブに所謂、高機能材料を使用することも可能となる。
【0011】
この他、本発明の再生方法によれば、ゴムコットにおける摩耗等した外周面に再生用スリーブを装着するだけで済み、ゴムコット自体はそのまま引き続いて利用することができるため、従来のように、ある程度の重さを有する新品のコットを輸送することなく、軽量な再生用スリーブだけを輸送すれば良いため、輸送コストも軽減される他、従来のように、使用済みのコットを廃棄することがなくなるため、その廃棄コスト自体が不要となる等、種々の実用的利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を紡績のドラフト装置におけるトップローラに適用した場合の実施形態について図面にしたがって説明する。
【0013】
図1は摩耗または損傷前のトップローラの部分断面図であり、該トップローラ(1)は、鉄芯(2)の両端にボールベアリング(4)を介してコット(3)が回転自在に取り付けられたものである。コット(3)は、NBR等の筒状本体ゴム(7)の内周に金属、合成樹脂またはゴムからなる筒状芯体(6)が一体に密着されたものである。また、トップローラ(1)の外径は50〜100mm、表面硬度はデュロメータ硬さA50〜A90となされている。
【0014】
前記芯体(6)の内周面にはボールベアリング(4)のカバー(9)外周面が圧接されており、カバー(9)の外端部にはキャップ(11)が嵌め込まれている。
【0015】
なお、図中(5)は鉄芯(2)の先端部外周面に取り付けられたリテイニングリングを示す。
【0016】
そして、前記コット(3)の外周面(7a)が摩耗または損傷したときには、後述する再生方法によって図2に示すように、本体ゴム(7)の外周に再生用ゴムスリーブ(8)が一体に装着された再生スリーブ(3C)を得るようにする。
【0017】
すなわち、コットを再生する方法について具体的に説明すると、図1に示すコット(3)の外周面(7a)が摩耗または損傷した段階で、図3に示すように、先ず摩耗等したコット(3A)の外周面(7b)を所定外径になるまで切削研磨し、その調整後のコット(3B)の外周面(7c)に再生用ゴムスリーブ(8)を嵌め被せることにより、前記摩耗等前の外径を有する再生コット(3C)を製作するのである。したがって、前記切削研磨調整後のコット(3B)の外径並びに再生用ゴムスリーブ(8)の内径および肉厚はそれぞれ再生コット(3C)の外径が摩耗前の外径と同一になるように設定しておくのである。本実施形態では、切削研磨調整後のコット(3B)の外径を49〜99mmとし、再生用スリーブ(8)の内径を前記切削研磨調整後のコット(3B)の外径より若干小さいものとし、再生用ゴムスリーブ(8)の肉厚を0.5〜10mmとし、再生用ゴムスリーブ(8)の硬度をデュロメータ硬さA50〜A90とする。また、切削研磨調整後のコット(3B)の外周に再生用ゴムスリーブ(8)を嵌め被せるにあたっては、接着剤を介して両部材が結合されるようにするか、或いは切削研磨調整後のコット(3B)の外周面(7c)または再生用ゴムスリーブ(8)の内周面をアルコール等の潤滑剤で拭くと共にこれが乾かないうちに、再生用スリーブ(8)を切削研磨調整後のコット(3B)の外周面(7c)に嵌め被せるようにしても良い。
【0018】
また、摩耗したコット(3B)の切削研磨は、コット(3B)が鉄芯(2)に取り付けられたままの状態で所謂センターレス研磨により行う。
【0019】
そして、更に再生コット(3C)の外周面が使用により摩耗等した際には、前記と同様、再生コット(3C)の外周面を再び切削研磨して外径を所定の大きさとし、その外周面に新たな再生用ゴムスリーブ(8)を嵌め被せることにより、再生コット(3C)を再び製作すれば良い。したがって、このような再生作業を繰り返すことで、コット自体は、当初の新品のコット(3)を引き続いて使用し続けることができる。なお、摩耗または損傷したコット(3A)と再生用ゴムスリーブ(8)とは、同じ材料、硬度のものを用いても良いし、異なる材料、硬度のものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係る紡績用ゴムコットの再生方法によれば、資源的・経済的に大幅なコストダウンが可能となるため、この紡績分野で幅広い利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】摩耗または損傷前のコットを有するトップローラの部分断面図である。
【図2】本発明により再生されたコットを有するトップローラの部分断面図である。
【図3】本発明に係る再生方法の手順を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
(1) トップローラ
(2) 鉄芯
(3) コット
(4) ボールベアリング
(6) 筒状芯体
(8) 再生用ゴムスリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄芯にベアリングを介して回転自在に取り付けられた紡績用ゴムコットの再生方法であって、ゴムコットの外周面が使用によって摩耗または損傷した時に、ゴムコットの外周面を研磨して該ゴムコットを所定外径に調整した後、該ゴムコットの外周に、内径を前記外径調整後のゴムコットの外径と同一か又は僅かに小さくし、且つ肉厚をゴムコット外周面の摩耗および調整研磨によって減少した厚みとほぼ同一とした再生用ゴムスリーブを装着することにより、ゴムコットを摩耗前の当初の外径とすることを特徴とする、紡績用ゴムコットの再生方法。
【請求項2】
ゴムコット外周面の調整研磨を、該ゴムコットが鉄芯に取り付けられたままの状態で行うことを特徴とする、請求項1記載の紡績用ゴムコットの再生方法。
【請求項3】
ゴムコット外周面への再生用ゴムスリーブの装着が、ゴムコット外周面またはゴムスリーブ内周面を潤滑剤で湿らせた後に行うことを特徴とする、請求項1または請求項2記載の紡績用ゴムコットの再生方法。
【請求項4】
ゴムコット外周面への再生用ゴムスリーブの装着が、接着剤を介して行われることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の紡績用ゴムコットの再生方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4記載の再生方法に用いられる再生用ゴムスリーブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−190052(P2008−190052A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22627(P2007−22627)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】