説明

紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法

【課題】紫外線ガスレーザ装置のレーザチャンバ内に発生したダストを清掃・除去する手間を省き、短時間でしかも容易に実施できるレーザチャンバ再生処理方法を提供する。
【解決手段】消耗部品の交換のためレーザチャンバを大気開放する時に、作業環境の露点温度を−20℃以下にしてレーザチャンバ内のダスト堆積物に水分を吸着させないか、あるいは大気開放している間にダスト堆積物に吸着した水分を、消耗部品を交換し大気遮断した後、レーザチャンバ内にフッ素ガスを導入し行うダスト脱水処理によってレーザチャンバ内から脱水させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマレーザやF2分子レーザ等の紫外領域で発振する紫外ガスレーザ装置で使用するレーザチャンバの再生処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザに代表されるエキシマレーザや、F2分子レーザなど、紫外線波長領域で発光する放電励起ガスレーザ装置で使用されるレーザチャンバでは、レーザ媒質ガス(例えば、Ar, Ne, Xe, He, F2, Cl2)を数千hPaの圧力で封入し、数mm〜数十mmの間隔を置いて対向して配置させた主電極間に数十kVの高電圧を印加し、放電させることによって、レーザ媒質をレーザ上準位に急速に励起させ、レーザパルス発光を得ている。
【0003】
その中にあって、半導体リソグラフィー分野で用いられるガスレーザ装置では、レーザ発光の繰り返し周波数が数kHzと大きく、また数十億回ものパルス放電を繰り返す。そのため後掲する特許文献1に示されるように、高電圧印加に伴う高電界で生じるスパッタリングにより、金属微粒子が前記主電極表面から叩き出され、主電極は徐々に消耗していく。叩き出された微粒子はレーザチャンバ内の活性ハロゲンガスと反応しつつレーザチャンバ内に堆積する(以下この微粒子堆積物をダスト堆積物あるいは単にダストという。)。
【0004】
主電極が消耗するとともに、主電極間隔の変化や主電極表面の不均一化も進行し、消耗が一定のレベルを越えると所定のレーザ性能が得られなくなる。よって、たとえば所定のレーザ出力が得られなくなった場合には、所定のレーザ出力が出るようにガスレーザ装置を再生処理(メンテナンス)する必要がある。その場合、レーザ性能が劣化したレーザチャンバを一括廃棄して新しいレーザチャンバと交換してもよいが、これではメンテナンスごとにレーザチャンバ一台分のコストが発生してしまう。
【0005】
そこで、従来、性能が劣化したレーザチャンバを回収し、消耗部品のみを新品と交換して再びレーザチャンバを組み上げることでレーザチャンバの再利用を図っている。以下において、性能劣化したレーザチャンバを再利用できる状態にするための一連の作業を「レーザチャンバ再生処理」と呼ぶ。
【0006】
消耗部品としては、毎回交換される主電極のほかに、予備電離用の予備電離電極、レーザチャンバの温度を調整するための熱交換器、主電極間に常に新鮮なガスを送り込むためのガス循環用ファンとそのファン軸受け、主電極表面から発生したダストを集塵するダストフィルタ、またレーザ光をレーザチャンバから取り出す窓などがあり、これらは劣化の程度を考慮して新品と交換される。
【0007】
ところで、発生したダストは、その大半が上記ダストフィルタで集塵されるが、一部のダストは、レーザチャンバ内壁およびレーザチャンバ内の部品に堆積してしまう。特に、レーザチャンバ内の循環ガス流が滞留する領域に、比較的多く堆積する。
【0008】
ダスト堆積物はその表面積が大きく、また親水性が高いため、大気中の水分を大量に吸着できる。そのため、レーザチャンバを大気開放し、所定の部品交換を行い、ダスト堆積物を除去しないで再び大気遮断した場合、ダスト堆積物に吸着した大量の水分がレーザチャンバ内に持ち込まれることになる。「大気開放」とは、レーザチャンバを分解し、レーザチャンバ内部が大気中に曝されることであり、「大気遮断」とは、レーザチャンバを組み立て、更にレーザチャンバ内部の空間に残された大気成分を真空引きにより排除し、He又はNe等の希ガスをレーザチャンバ内へ封入しておくことをいう。
【0009】
このようにダスト堆積物に大量の水分を含むレーザチャンバで放電し、レーザ発光を繰り返すと、ダスト堆積物の表面あるいはレーザチャンバ内空間で、レーザ媒質ガスに含まれる活性ハロゲンガスがこれらの水分と反応し分解される。たとえばフッ素ガスの場合は、フッ化水素と酸素に分解される。
【0010】
ところで、エキシマレーザのような紫外波長領域の光は、水分、フッ化水素、酸素等の不純物ガスによる光吸収と発光効率の低下(例えば、レーザ上準位分子に不純物ガスが衝突して上準位密度を減少させる脱励起や、レーザ上準位分子の前駆体となる励起原子やイオンの生成効率の低下などを引き起こす)の影響を受けて、レーザ出力が低下してしまう。
【0011】
そこでこれらの不純物ガスをレーザチャンバから排除するか、あるいは発生させないようにする必要がある。このため、従来、レーザチャンバ再生処理の際にレーザチャンバ内のダスト堆積物を出来得るかぎり清掃・除去してきた。
【0012】
図18は、従来のレーザチャンバ再生処理工程図である。
【0013】
図において、主電極が消耗してレーザ出力が低下したレーザチャンバは、紫外線ガスレーザ装置から切り離されてレーザチャンバ再生処理室に回収される。この再生処理室は室内を負圧にしてあるので、上記レーザチャンバ内に残留する毒性のハロゲン化合物が万一散乱しても室外に漏れることはない。さらに、併置した排気ドラフタにより上記有害物質は安全に排除される。
【0014】
所定の部品を交換するために、レーザチャンバを大気開放する(ステップS181)。レーザチャンバ内には、主電極、熱交換器、ガス循環用ファン等の構成部品が組み込まれており、この状態のままでは、レーザチャンバ内のダストを手あるいは清掃具で十分に除去できないため、レーザチャンバ内のダストをできるだけ、望ましくは完全に除去するために、これらの構成部品を全て取り外し分解する(ステップS182)。
【0015】
次に、分解した部品のうち、再使用が可能な耐用部品の表面に堆積したダストと、レーザチャンバ内壁に堆積したダストを、揮発性のアルコール等を含ませた紙や布で手拭きし十分に清掃・除去するとともに、消耗した主電極と所定以上の劣化が認められる部品は廃棄する(ステップS183)。新しい交換部品とダストを清掃・除去した耐用部品を用いてレーザチャンバをもとの状態に組立て、その後レーザチャンバを大気遮断する(ステップS184)。
【0016】
次に、大気遮断した上記レーザチャンバをダミーの紫外線レーザ装置に組み込み、レーザチャンバの内壁あるいは構成部品に吸着した水分を加熱脱水処理するために真空ベーキングを行う。たとえば、レーザチャンバ全体を100℃程度に加熱するとともに、ターボ分子ポンプ等でレーザチャンバ内の真空度を10−2Pa以下に保ち、2日間以上継続して真空引きを行う(ステップS185)。
【0017】
次に、フッ素ガスを混入させた放電ガスをレーザチャンバ内へ封入して新しく交換した主電極の放電パシベーションを行う(ステップS186)。これは、安定なレーザ出力を得るために、放電の繰り返しを所定回数以上行って電極表面を均一にしておく必要があるからである。なお、放電パシベーションを行うことによって、レーザチャンバ内の一部は100℃以上の高温になるため、先の真空ベーキングでは除去できなかった吸着エネルギーの大きい水分等を除去することができる。また、放電ガスにフッ素ガスを混入しているので、放電パシベーションにより新しい交換部品の表面はフッ化不動体化される。このフッ化不動体化処理をすることで、後にレーザ発振のために行われる放電でレーザ媒質である微量のフッ素ガスが前記交換部品の表面と反応して減少するのを抑制することができ、従って長期間安定したレーザ性能を得ることができる。
【0018】
最後に、レーザ性能の確認と調整を行う(ステップS187)。ここでは、一連の再生処理工程を経たレーザチャンバが所定の性能に戻っているかを確認する。ここでいう性能とは、例えばそのレーザの用途が半導体リソグラフィー用であれば、レーザ出力以外に、スペクトル線幅、スペクトル純度、ビーム形状、ビーム広がり角、中心波長、各値のパルス安定性などが考えられ、それぞれの応用・用途に応じた必要な特性すべてを言う。
【特許文献1】特開平4−101476号公報(第5頁下から2行目〜第7頁2行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、従来のレーザチャンバ再生処理方法には、以下に述べるような問題がある。
【0020】
上記したように、堆積したダストはアルコール等を含ませた紙や布を用いて清掃・除去しているが、熱交換器やガス循環用ファンの場合、形状が複雑で表面積が大きいために、すべてのダスト堆積物を手作業で拭き取るには多大な手間と時間を要する。また、レーザチャンバ内の構成部品をすべて分解するには、Oリングやガスケットなどのシール材やネジ類も全て取り外す必要があるが、これにも多大な手間と時間がかかる。当然ながら、清掃後に行われる部品の再組立てにおいても、上記分解作業と同様な手間と時間がかかってしまう。本発明者らのデータによれば、上記分解、清掃、および再組立におよそ45時間を要している。
【0021】
なお、シール材は、再利用するとガスリークが発生するおそれがあるため新品と交換する必要がある。また、ネジ・ワッシャ・ナットなどのネジ部品は小さくしかも個数が多いので、何回使用されたか等の履歴管理をするのが困難であり、通常、構成部品の再組立てにおいてはすべて新品に交換される。
【0022】
また真空ベーキングには約40時間、放電パシベーションに約50時間を要しており、その他レーザ性能確認等も含めると、一連のレーザチャンバ再生処理に総計で140時間以上を費やしている。
【0023】
さらには、ダスト堆積物除去のために、たとえばアルコールを含んだ紙や布を用いて清掃すると、アルコールが気化する際の気化熱で大気の水分がダストを清掃・除去した表面に取りまれてしまうという問題がある。表面に取り込まれた水分は、レーザ性能を悪化させる不純物ガスのHF,O2源となり、これらの不純物ガスが発生した場合、レーザ出力を低下させてしまう。また、清掃に用いたアルコール自身も一部は表面に取り込まれて残留する可能性がある。アルコールは不純物ガスのCF4,CO2,CO発生源となり、これらはレーザ性能を悪化させ、レーザ出力を低下させる。
【0024】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、レーザチャンバ内に発生したダストを清掃・除去する手間を省くことができるレーザチャンバ再生処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以上のような目的を達成するために、第1発明においては、レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定の部品を交換し、前記レーザチャンバを大気遮断するまでの間、前記レーザチャンバを乾燥した大気環境に保持しておくことを特徴としている。
【0026】
第2発明は、第1発明において、前記乾燥した大気環境の露点温度が−20℃以下であることを特徴としている。
【0027】
また第3発明は、レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定の品を交換し、前記レーザチャンバを大気遮断した後に、前記レーザチャンバ内にハロゲンガスまたはハロゲン化物を含む混合ガスを流すことを特徴としている。
【0028】
第4発明は、第3発明において、前記ハロゲンがフッ素であることを特徴としている。
【0029】
第5発明は、第3発明において、前記レーザチャンバ内の温度を110℃以上とすることを特徴としている。
【0030】
第6発明は、第1発明に記載の前記大気遮断したレーザチャンバに、第3発明に記載の再生処理を行うことを特徴としている。
【0031】
第7発明は、第1発明に記載の前記大気遮断したレーザチャンバに、第5発明に記載の再生処理を行うことを特徴としている。
【0032】
第8発明は、レーザチャンバを大気開放する前に所定の交換用モジュールを準備し、前記レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定のモジュールと前記交換用モジュールとをモジュール単位で交換し、前記レーザチャンバを大気遮断することを特徴としている。
【0033】
第9発明は、第8発明において、前記レーザチャンバを大気開放した時から、前記レーザチャンバを大気遮断するまでの間、前記レーザチャンバを乾燥した大気環境に保持しておくことを特徴としている。
【0034】
第10発明は、第8発明において、前記交換用モジュールに真空脱ガス処理が施されていることを特徴としている。
【0035】
第11発明は、レーザチャンバを大気開放する前に部品単位で真空脱ガス処理した所定の交換用モジュール部品を準備し、前記レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定の部品と前記交換用モジュール部品とを交換し、その後前記レーザチャンバを大気遮断することを特徴としている。
【0036】
第12発明は、第11発明において、前記レーザチャンバを大気開放した時点から、前記レーザチャンバを大気遮断するまでの間、前記レーザチャンバを乾燥した大気環境に保持しておくことを特徴としている。
【発明の効果】
【0037】
第1発明によれば、図1および図2に示すように、レーザチャンバを大気開放し、レーザチャンバ内の部品を交換し、その後レーザチャンバを大気遮断するまでの作業環境が乾燥しているので、レーザチャンバ内壁あるいは前記部品の表面、特に、主電極から発生したダスト堆積物に水分が吸着するのを抑制することができる。よって、真空ベーキング等によるレーザチャンバ内の吸着水分の脱水処理時間を短縮することができる。
【0038】
第2発明によれば、図2に示す作業環境の露点温度が−20℃以下であるので、第1発明よりさらに効果的に水分の吸着を抑制することができ、その後の真空ベーキング等によるレーザチャンバ内の吸着水分の脱水処理時間をさらに大幅に短縮できる。
【0039】
第3発明によれば、図9および図10に示すように、導入した活性なハロゲンガスがレーザチャンバ内のダスト堆積物に吸着した水分と反応し気体となって蒸発するので、レーザチャンバ内の吸着水分を容易に脱水することができる。また従来、手ではダストの清掃・除去が困難であった箇所を脱水できる。よって、レーザチャンバ内の残留水分を原因とするレーザ性能悪化を引き起こすことがない。
【0040】
第4発明によれば、高い反応性を有するフッ素ガスにより、レーザチャンバ内の吸着水分を効果的に脱水することができる。
【0041】
第5発明によれば、図17のデータに示すように、レーザチャンバ内の温度を110℃以上とすることで脱水反応性を高めることができるので、ダスト堆積物に吸着した水分を効率的に脱水することができる。
【0042】
第6発明によれば、図12に示すように、部品交換を行っている際に、レーザチャンバ内のダスト堆積物に水分が吸着するのを抑制できるとともに、レーザチャンバを大気遮断した後に、レーザチャンバ内に多少取り込まれていた水分を脱水することができる。
【0043】
第7の発明によれば、高温下でのダスト脱水処理により、レーザチャンバ内の水分をさらに効果的に脱水することができる。
【0044】
第8発明によれば、図5に示すように、交換用モジュールを一括して交換できるので、レーザチャンバの大気開放から大気遮断までの処理工程時間を短縮することができ、また大気からのレーザチャンバ内への水分吸着を抑制することができる。
【0045】
第9発明によれば、レーザチャンバを大気開放している間、レーザチャンバが乾燥した作業環境にあるので、さらに作業環境からのレーザチャンバ内への水分吸着を抑制することができる。
【0046】
第10発明によれば、交換用モジュールに真空脱ガス処理が施されているので、交換用モジュールがレーザチャンバ内に水分を持ち込むことを回避できる。
【0047】
第11発明によれば、図6に示すように、真空脱ガス処理が施されている部品を交換することにより、レーザチャンバ内に水分を持ち込むことを抑制できる。
【0048】
第12発明によれば、図7に示すように、大気開放から大気遮断するまでの間の作業環境が乾燥しているので、その間にレーザチャンバ内に大気中の水分が吸着することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下に、本発明に係わる紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバの再生処理方法ついて、図面を参照して説明する。
【0050】
まず、本発明に至った実験経緯および本発明の基本原理について説明する。
【0051】
水分を大量に吸着するダストは、前掲の特許文献1に示されているように、主電極を構成する金属が放電ガスの中に叩き出され、レーザ媒質のフッ素ガスと反応して生成されるフッ化金属が主成分であることが、本発明者等のダストX線回折分析で明らかになった。
【0052】
このフッ化金属を大気中に曝しておくと、水との親和性が高いため、大気側から衝突し吸着してくる水分子と以下のような化学反応式で表される水和物に変化することが知られている。
【0053】
MF2 + xH2O →MF2・xH2O (1)
ただし、Mは2価金属、xは任意数である。
【0054】
なお、このフッ化金属水和物は、窒素中や希ガス中で加熱して水分を取り除こうとしても、
MF2・H2O →MOHF + HF(gas) (2)
MOHF →MO + HF(gas) (3)
という2つの反応により、最終的に酸化金属の形態となって酸素が排除されないことが分かっている。
【0055】
一方、ファンデルワールス力による44〜50kJ/molの比較的弱い吸着エネルギーでレーザチャンバ内の表面に物理吸着している水分は、その平均滞在時間が10−6〜10−4秒と短いため、ロータリーポンプ等の真空排気で取り除くことができる。しかし、表面を長時間大気開放しておくと、表面の吸着サイトは次第に結合力の強い化学吸着サイトに変化していく。このような場合、水分はおよそ70〜300kJ/molの強い吸着エネルギーでレーザチャンバ内表面に吸着されている。
【0056】
SUS316L材の試験片を数時間大気に放置し、その後、昇温脱離スペクトル分析計で計測して試験片の表面上の水分の吸着エネルギーを測定したところ180kJ/molであった。この値は、表面での平均滞在時間が、20℃で3.4x1015時間、100℃で4.5x108時間、250℃で26時間に対応し、水分を取り除くために温度に依存した膨大な時間がかかることが分かる。
【0057】
なお、実際の水分子の化学吸着エネルギーは上記のように一つの値とは限らず、3つ以上の異なる吸着エネルギーで表面に吸着していることが多い。そのため、レーザチャンバ内にそれぞれの吸着エネルギーで吸着した水分が、それぞれの時間をかけて脱離し、レーザ媒質のガス中に混入していくことになる。
【0058】
以上のように、大気に放置する時間が数時間程度であれば、250℃以上のベーキング温度で、24時間以上真空排気すれば吸着水分がほぼ取り除かれる。しかし、レーザチャンバ内には、温度膨張係数が異なる異種金属の接合部や、軸受け機構など、250℃まで昇温するのが困難な箇所があるため、実際上、真空ベーキングで十分に吸着水分を除去することはできない。また、上記したように、ダストの水和物を単に高温加熱するだけでは酸素原子を取り除くことはできない。
【0059】
そこで上記問題を解決するためには、レーザチャンバを大気開放している時に、レーザチャンバ内に水分を吸着させないようにすればよい。
【0060】
しかし、完全に水分を遮断することは困難であり、また水分を完全に遮断することは必ずしも必要でない。すなわち、ロータリーポンプ等の真空引きで除去できる物理吸着レベルの水分や、真空ベーキング工程と放電パシベーション工程で除去できるレベルの吸着水分は容認してもよい。
そこで本発明者等は、所定の露点温度をパラメータとして大気中にレーザチャンバを開放し、所定時間放置した時のレーザチャンバの水分吸着量を求めることとした。露点温度とは、大気中に含まれている水分が水滴になり始める温度をいい、露点計を用いて測定することができる。
【0061】
図14はその結果であり、図において、横軸を4種類の露点温度をパラメータとし、縦軸は、レーザチャンバを、上記各露点温度の大気に1時間開放し、次に1時間真空引きを行い、その後、レーザチャンバ内に希ガスを3000hPaになるまで封入し、レーザチャンバ温度を50℃に保ちながら2時間放置した時点でのレーザチャンバ内の水分の濃度(ppm)を表している。
【0062】
露点温度が−10℃の場合、大気開放中にレーザチャンバ内に吸着した水分が、2時間後にはレーザチャンバ内に大量に再放出されている。露点温度を下げるにつれ吸着水分量は減少し、露点温度が−30℃以下では、水分の再放出量は検出限界以下であった。
【0063】
このように、作業環境の露点温度を低く保つことでレーザチャンバ内に水分を吸着させないレーザチャンバ再生処理を本発明ではドライリファブリケーション(ドライリファブ)と呼ぶ。本発明のドライリファブにおいては、レーザチャンバ内のダスト堆積物の清掃・除去作業を行わないのを基本とする。
【0064】
図15は、所定の露点温度で所定の時間レーザチャンバを大気開放してドライリファブを行い、その後レーザチャンバを大気遮断して真空ベーキングと放電パシベーション処理を行った後のレーザ出力の変化に対する試験前のレーザ出力の変化との比較を示す。大気開放時間は1時間あるいは3時間とした。なお、一回目に引き続き二回目を行った時の比較も示してある。ここでいうレーザ出力の変化とは、所定時間経過したあとのレーザ出力の減少量であり、前述したように、この減少の原因は不純物ガスの発生によるものである。
【0065】
この図から明らかなように、露点温度が−10℃の場合、放電パシベーションを行ってもレーザ性能が試験前の減少量レベルには戻らず、約70%悪化しているが、露点温度を−20℃にすると、ドライリファブ後のレーザ性能の悪化はあまり大きくない。そのため、さらに数時間の追加放電パシベーションを行えば試験前のレーザ性能を得ることができることが分かった。また、露点温度が−30℃以下の場合には、ドライリファブによるレーザ性能の悪化は特に見られなかった。
【0066】
よって、少なくとも、露点温度が−20℃以下の作業環境で部品交換を行うことにより、特にダスト堆積物を清掃・除去しなくてもレーザチャンバ再生処理以前のレーザ性能を得ることができる。露点温度が−30℃以下の作業環境で部品交換を行うことがより望ましい。
【0067】
またこのような低露点温度の大気環境で部品交換を行えば、レーザチャンバ内に吸着される水分量が極めて抑制されるため、水分を放出させるための真空ベーキング処理を不用または、従来より短縮することが可能となる。
【0068】
また本発明の目的を達成するための他の方法として、たとえ作業環境の水分がレーザチャンバ内のダスト堆積物に吸着し、ダストと水和物を構成しても、この水和物を容易に取り除いてしまうことが考えられる。
【0069】
前述した通り、フッ化金属の水和物は、単に高温加熱しただけでは最終的に酸化金属になってしまう。しかし、フッ素を含む混合ガスを流すことにより、フッ素金属の水和物には、
MF2・H2O + F2(gas) → MF2 + 2HF(gas) + O(gas) (4)
という脱水反応が生じることが、発明者等の実験で明らかになった。上記反応の場合、分解された酸素はガスとして放出されるので、真空排気することにより容易に除去することができる。
【0070】
図16に、温度環境を変えて、フッ素ガスを1%含ませた混合ガスをダスト成分の水和物に流速100sccmで2時間流したあとのダスト成分のX線回折分析の結果を示す。
【0071】
200℃の温度環境で上記ガスを流した場合、検出されたのは大部分がフッ化金属であった。図示はしていないが、酸化金属は全く検出されていなかった。また、環境温度の上昇につれて、水和物が減少し、無水物に変化していくのが分かる。このことから、フッ素ガスを含む混合ガスをレーザチャンバ内にフローすることによって、レーザチャンバ内のダスト水和物から水分を脱水することが可能であることが分かる。
このように、本発明において、フッ素等の活性ハロゲンガスを含む混合ガスをレーザチャンバ内にフローしてダスト水和物の水分を脱水する方法を「ダスト脱水処理」と呼ぶ。上記実験データから得られた脱水反応の活性化エネルギーは39kJ/mol、そしてその指数因子は7.3であった。
【0072】
図17に、上記物性値より、ダスト成分から99%以上の水分を脱水するために必要な時間を計算した結果を示す。図によれば、脱水反応に必要な時間はダスト水和物の環境温度が高くなるほど短くなり、たとえば110℃で46時間、150℃で14時間である。よって、上記方法を用いれば、レーザチャンバ内の部品の全分解とそれに伴うダスト清掃・除去、その後の再組立て等の手間をかけずに済み、さらには真空ベーキング処理を行うことなく、従来より短時間にレーザチャンバ内の水分を所定レベル以下まで除去できることが分かった。
【0073】
次に、上記基本原理をふまえた実施例につき図を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0074】
図1に、本発明のドライリファブによるレーザチャンバ再生処理工程の1実施例を示す。また、図2に、上記ドライリファブを行うための設備レイアウトを示す。
【0075】
あとの説明の都合上、上記設備レイアウトについてまず説明しておく。
【0076】
図2において、ドライリファブ室22の空気は除湿器23に送られる。送られてきた空気は、除湿器23内に設置した露点計で設定した露点温度になるまで脱水される。そしてここで脱水された空気は再びドライリファブ室22に送りこまれる。ドライリファブ室22にも露点計が設置してあり、室内が所定の露点温度になるように、除湿器23をフィードバック制御している。
なお、有毒ガスに対する安全確保のため、真空ポンプ24により排気ドラフタ25を常時稼動させてドライリファブ室22を負圧にしているので、ドライリファブ室22内に外部空気がたえず入り込んでいる。そのため、好ましくはドライリファブ室22を密閉構造にして、除湿器23の流量を大きくするのが良い。またドライリファブ室22に接して組立て室26が設けてあり、必要に応じて矢印26bで示すように部品搬入口26aを通じて部品を出し入れできるようになっている。ドライリファブ前室21と組立て室26も除湿しておくのが好ましい。
【0077】
上記ドライリファブ設備レイアウトを用いて、実施例1では以下のようなレーザチャンバ再生処理が行われる。
【0078】
図1において、性能劣化してレーザ出力が低下したレーザチャンバ1は、紫外線ガスレーザ装置から切り離され、ドライリファブ前室21を経て、矢印で示したチャンバ搬入路21aを通ってドライリファブ室22に回収される。
【0079】
(ステップS11)回収されたレーザチャンバ1が大気開放され、再生処理が始まる。
【0080】
(ステップS12)大気開放されたレーザチャンバ1にたいして所定のドライリファブ処理Aを行う。
【0081】
図3に、上記ドライリファブ処理Aの実施例を示す(図2を参照)。
【0082】
レーザチャンバ1をドライリファブ室22に搬入し(ステップS31)、露点温度が所定温度になっていることを確認した後、レーザチャンバ1を大気開放する(ステップS32)。この時点で、レーザチャンバ1の内部が大気に曝されるが、露点温度を低く設定しているため、大気中の水分によるダスト堆積物への吸着量は少ない。次に、所定の消耗部品を交換し(ステップS33)、レーザチャンバ1を再び大気遮断し(ステップS34)、最後に、リークディテクタを用いてリークが無いかどうかチェックする(ステップS35)。ステップS32からステップS34までが、レーザチャンバの内部が大気曝露される時間であり、大気曝露時間は短いほど好ましい。
【0083】
(ステップS13)上記ドライリファブ処理Aを行い、所定の消耗部品が交換されたレーザチャンバ1は、図1において真空ベーキング処理工程に進む。これは、交換部品に吸着されている水分を除去するために実施するものであるが、上記理由によりレーザチャンバ1内に持ち込まれる水分量が少ないので真空ベーキングを短時間で済ますことができる。
【0084】
(ステップS14)さらに、主電極を安定化させるために、放電パシベーション処理を行う。
【0085】
(ステップS15)最後にレーザ性能の確認と調整が行われる。
【0086】
ステップS15を経てレーザチャンバ再生処理を終了したレーザチャンバ1は、紫外線ガスレーザ装置の交換用レーザチャンバとして供給される。
【0087】
ドライリファブ時、レーザチャンバの大気開放時間を低減するために、交換する部品は、レーザチャンバを大気開放する前に交換が簡易なモジュール単位で用意されるのが望ましい。
【0088】
図4に、レーザチャンバ1の中央部を、光軸に対して垂直方向に切断した断面模式図を示す。
【0089】
図において、上チャンバ1aと下チャンバ1bで大気と遮断されたレーザチャンバ1の中央部には、上側の主電極2と下側の主電極3が対向して設けられている。主電極2は電極ホルダ4で、また主電極3は電極ホルダ5で保持されており、さらに電極ホルダ4はセラミックプレート6によって保持されている。セラミックプレート6は上チャンバ1aの上方に設けられた開口1cを大気遮断する役目も担っている。
【0090】
さて上記レーザチャンバ1において、たとえば主電極2と主電極3のみを交換したい場合、レーザチャンバ1を大気開放した後、主電極2,3を保持している電極ホルダ4,5と、電極ホルダ4を保持しているセラミックプレート6なども同時に分解しなければならない。そのため、この分解作業および再組立に時間がかかってしまい、レーザチャンバ1内に吸着される水分量もその分だけ増加してしまう。
【0091】
これを回避するには、交換したい部品(ここでは主電極2,3)を含む部位をモジュール単位ですばやく交換してしまえばよい。図4の場合、5つの部位がモジュール化されている。すなわち、モジュールM1は主電極2、電極ホルダ4、そしてセラミックプレート6からなる部位、モジュールM2は主電極3、電極ホルダ5、予備電離用電極7からなる部位、モジュールM3は熱交換器の部位、モジュールM4はガス循環用ファン8と軸受け9からなる部位、そしてモジュールM5はダストフィルタの部位である。各モジュールは所定の固定治具で容易に脱着できるようになっている。
【0092】
このように、ドライリファブを行う前に交換用モジュールを準備しておけば、ドライリファブの際に、一括して簡易に交換でき、交換時間を短縮できる。
【0093】
図5に、消耗部品をモジュール単位で交換する場合のドライリファブ処理Bを示した。
【0094】
ドライリファブ処理Bがドライリファブ処理Aと異なるところは、ステップS52でレーザチャンバを大気開放する前に、副工程のステップS52aで交換用モジュールを組立てて置き、ステップS53の交換作業において、準備しておいた交換用モジュールを一括して交換することである。その前後の工程はドライリファブAの場合と同様である。
【0095】
ところで、レーザチャンバ内に組み込んだ交換部品には水分が吸着しているため、ドライリファブ処理B後、レーザチャンバに真空ベーキング処理を行う必要がある。この真空ベーキング処理は、前述したように最大で約40時間を必要とし、作業効率が悪い。そこで、レーザチャンバに組み込む前に交換部品に真空脱ガス処理を施しておくことが望ましい。ここでいう真空脱ガス処理とは、真空度を10−4Pa以下にして、最大400℃で、約24時間加熱することであり、これにより交換部品に吸着した水分を効率よく脱水できる。
【0096】
図8に、未処理のSUS部品と真空脱ガス処理を実施したSUS部品の放出ガス速度の昇温脱離スペクトルを示した。横軸は昇温パラメータであり、縦軸は昇温時におけるSUS部品からの放出ガス速度である。図から、たとえば400℃の真空脱ガス処理をすることによって、真空脱ガス処理後のSUS部品の吸着水分量が減少することが分かる。また、上記処理を施すことで、水分のみならず、水素、窒素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の部品からの放出量も減少していることも確認されている。
【0097】
図6に、本実施例の他のドライリファブ処理Cを示した。この処理工程ではドライリファブ処理Aに2つの副工程を付加している。すなわち、ステップS62でレーザチャンバを大気開放する前に、交換部品を予め真空脱ガス装置で脱ガスし(ステップS62a)、この交換部品を交換用モジュールに組立てておく(ステップS62b)。そしてレーザチャンバを大気開放した時点で上記脱ガスしておいた交換用モジュールを交換する(ステップS63)。その前後の工程はドライリファブAの場合と同様である。
【0098】
上記2つの処理工程を付加し、十分に脱水処理された交換用モジュールをレーザチャンバ内に組み込むことにより、その後に行われる真空ベーキングの時間を従来より大幅に短縮あるいは真空ベーキング処理を省略することができる。
【0099】
ところで、真空脱ガス処理を施された交換部品を一度大気に曝すと、大気中の水分が再度吸着してしまう。短時間なら水分の吸着量は少ないが、交換部品を大気中に長時間放置しておくと、真空脱ガス処理前の状態に近づいてしまう。よって、真空脱ガス処理した交換部品は、所定の乾燥室に保管されることが望ましい。また部品から交換用モジュールを組み立てる場合、乾燥した室で交換用モジュールを組立てることが望ましい。場合によっては、これらの部品やモジュールを真空パック、あるいは不活性ガスを充填したパック等で保管しておいてもよい。
【0100】
図7に、乾燥室で部品組立を実施する場合のドライリファブ処理Dを示した。図の二つの副工程において、ステップS72aで真空脱ガス処理された交換部品は乾燥した組立て室に搬入され、この室で交換部品の組立てが行われる(ステップS72b)。その後レーザチャンバを大気開放し(ステップS72)、ステップS73で部品の交換を行う。その前後の工程はドライリファブAの場合と同様である。
【0101】
なお、上記組立て室は、たとえば前述した図2の組立て室26のように、ドライリファブ室22の隣に設けられ、水分の多い大気中を通らずに、直接ドライリファブ室22に交換部品を搬入できるレイアウトであることが望ましい。同様の理由で、真空脱ガス装置やリークディテクタなども乾燥した組立て室26かドライリファブ室22内に設置されるのが望ましい。また、組立て室26の露点温度は−10℃以下であることが望ましい。
【0102】
本発明のドライリファブ処理では、その露点温度を−30℃以下にすることがさらに望ましく、また、その時のレーザチャンバの大気開放時間は3時間以内であることが望ましい。
【0103】
以上のように、上記ドライリファブ処理を行うことにより、真空ベーキング処理時間を短縮、あるいは省略することができ、従来より短時間にレーザチャンバ再生処理を終了することが可能となる。
【実施例2】
【0104】
前述したように、レーザチャンバ内のダスト堆積物に吸着した水分をダスト脱水処理で脱水し、レーザチャンバ再生処理に伴うダスト堆積物の清掃・除去作業を省略することでレーザチャンバ再生処理時間の短縮を図ることもできる。
【0105】
図9に、本発明の第2の実施例としてダスト脱水処理を適用したレーザチャンバ再生処理工程を示す。
【0106】
劣化したレーザチャンバは再生処理室に搬送され、ステップS91で大気開放されるとともに、ステップS92で消耗部品が交換される。この場合、実施例1の場合と異なって大気の水分は除湿されていなくても良い。なお、部品の交換時間の短縮化を図るために、実施例1の図5〜図7で説明した副工程を適宜用いて交換部品の供給を行うことができる。次にステップS93でダスト脱水処理を行った後、ステップS94でただちに放電パシベーションを行う。その後に行われるレーザ性能確認・調整以下の工程は実施例1の場合と同様であり説明を省く。
【0107】
図10に、ダスト脱水処理を実施するための装置構成図を示す。
【0108】
レーザチャンバ1に、ガスポート用開口部31、32が離間して形成されており、両開口部31、32に、図示しないガス吸気ポートとガス排気ポートがそれぞれ取り付けられている。上記ガス吸気ポートには、所定の割合でフッ素ガスを希ガスと混合させたフッ素混合ガスボンベ33のガスライン33aと、ダスト脱水処理後にレーザチャンバ1内から余分なフッ素ガスを除去するための洗浄用の希ガスボンベ34のガスライン34aが並列して接続されている。 フッ素ガスを所定流量だけレーザチャンバ1内に送りこむために、ガスライン33aにはマスフローコントローラ(MFC)35を取り付けられている。
【0109】
一方、上記ガス排気ポートには、有毒なフッ素ガスを除害するためのハロゲンフィルタ36を取り付けられており、さらに真空引きのためのロータリーポンプ37が配置されている。またフッ素ガスをフローさせるために、ロータリーポンプ37は、逆止弁38を介してバイパスされている。レーザチャンバ1の周囲には、高温加熱できるように、図示しないヒータが所定の箇所に取り付けられている。なお、ヒータは脱着が容易なマントルヒータが好適である。
【0110】
図11に、上記構成図を用いたダスト脱水処理工程を示す。
【0111】
(ステップS111)劣化したレーザチャンバ1を真空排気して、チャンバ1内にある大気成分を除去する。このときの真空度は10Pa程度で良い。
【0112】
(ステップ112)たとえばフッ素ガスの割合を1%としたフッ素混合ガスを、フッ素混合ガスボンベ33からMFC35を介してレーザチャンバ1内に導入し、チャンバ1内に行き渡るようにフローさせる。フッ素混合ガスの流量は100sccm以上であることが望ましい。
【0113】
(ステップS113)レーザチャンバ1に取り付けたヒータを加熱し、チャンバ1が所定温度に到達した後、一定時間その温度に保持する。
【0114】
(ステップS114)所定のダスト脱水工程を終えた後、ヒータの電源を切り、フッ素混合ガスライン33aのフローを止め、レーザチャンバ1内をロータリーポンプ37で真空排気する。
【0115】
(ステップS115)最後に、レーザチャンバ1内に希ガスボンベ34の希ガスを封入してダスト脱水処理工程を終了する。
【0116】
なお、上記ステップ113では、前述した図17のデータを参照して脱水処理を行えばよい。
【0117】
以上のように、本発明によれば、消耗した部品の交換作業と平行してレーザチャンバ内のダスト堆積物の清掃・除去を行わなくても、その後レーザチャンバを大気遮断した時点でダスト脱水処理を行うことにより、レーザチャンバ内のダスト堆積物に吸着した水分を、短時間に、しかも構成部品の細部にわたって除去することができる。その結果、構成部品を分解し、ダスト堆積物を清掃・除去し、再度部品組立てを行う必要がなくなり、また真空ベーキング工程を省略できるため、レーザチャンバ再生処理時間を大幅に短縮することができる。さらに、普通の大気環境でレーザチャンバを大気開放できることから、レーザチャンバ再生処理室を特に改造する必要がない。
【0118】
なお、本実施例においては、ダスト脱水処理に用いる活性ガスをフッ素ガスとして説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、フッ素ガス以外のハロゲンガスを適宜使用することができる。
【実施例3】
【0119】
図12に、本発明のレーザチャンバ再生処理方法の他の実施例を示した。
【0120】
本実施例の場合、ステップS121の再生処理スタート後、実施例1で用いたドライリファブ処理(ステップS122)を行い、次に実施例2で用いたダスト脱水処理を行う(ステップS123)というもので、水分の除外に有効な二つの処理工程を連続して組み合わせている。上記2つの処理およびその前後の工程については明らかであるのでその説明はここでは省く。
【0121】
上記方法により、レーザチャンバ内の水分を二段階で除去することが可能になり、水分を原因としたレーザ性能の悪化をさらに抑制することができる。また、本実施例の場合、たとえばドライリファブ処理を−20℃以上の露点温度で行っても、次にダスト脱水処理を施すことで、レーザ性能を悪化させないレベルまで水分を除去することが期待できる。
【0122】
図13に、従来技術および上記三つの実施例によるレーザチャンバ再生処理時間を比較したデータを示す。図から明らかなように、従来技術でのレーザチャンバ処理時間を100%とした場合、実施例1で62%、実施例2と実施例3で66%となっており、いずれの実施例の場合も従来より大幅にレーザチャンバ再生処理時間の短縮化が達成できている。
【0123】
以上説明したように、本発明のレーザチャンバ再生処理方法を用いれば、紫外線ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理時間の短縮化を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のレーザチャンバ再生処理方法により、紫外線ガスレーザ装置のレーザチャンバのメンテナンスが容易になるとともに紫外線ガスレーザ装置の稼働率の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の実施例1を説明するための工程図である。
【図2】本発明で使用される設備レイアウト例の概念図である。
【図3】本発明のドライリファブ処理Aを説明するための工程図である。
【図4】本発明におけるモジュールを説明するための断面模式図である。
【図5】ドライリファブ処理Bを説明するための工程図である。
【図6】ドライリファブ処理Cを説明するための工程図である。
【図7】ドライリファブ処理Dを説明するための工程図である。
【図8】SUS材における放出ガス速度の温度依存を示す図である。
【図9】本発明の実施例2を説明するための工程図である。
【図10】本発明のダスト脱水処理を行うための装置構成図である。
【図11】ダスト脱水処理を説明するための工程図である。
【図12】本発明の実施例3を説明するための工程図である。
【図13】従来および本発明の方法によるレーザチャンバ再生処理時間の比較図である。
【図14】レーザチャンバ内に放出される水分量と露点温度の関係を示す図である。
【図15】レーザ出力の減少量と露点温度の関係を示す図である。
【図16】フッ素ガスによる脱水効果を説明する図である。
【図17】99%以上の脱水を行うための時間と加熱温度の関係を計算した図である。
【図18】従来のレーザチャンバ再生処理方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0126】
M1〜M5 モジュール
1 レーザチャンバ
2、3 主電極
4,5 電極ホルダ
6 セラミックプレート
7 予備電離用電極
8 ガス循環用ファン
21 ドライリファブ前室
22 ドライリファブ室
23 除湿器
24 真空ポンプ
25 排気ドラフタ
26 組立て室
33 フッ素混合ガスボンベ
34 希ガスボンベ
35 マスフローコントローラ
36 ハロゲンフィルタ
37 ロータリーポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定の部品を交換し、前記レーザチャンバを大気遮断するまでの間、前記レーザチャンバを乾燥した大気環境に保持しておくことを特徴とする紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項2】
前記乾燥した大気環境の露点温度が−20℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項3】
レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定の品を交換し、前記レーザチャンバを大気遮断し、その後に前記レーザチャンバ内にハロゲンガスまたはハロゲン化物ガスを含む混合ガスを流すことを特徴とする紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項4】
前記ハロゲンがフッ素であることを特徴とする請求項3に記載の紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項5】
前記レーザチャンバ内の温度を110℃以上とすることを特徴とする請求項3に記載の紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載の前記大気遮断したレーザチャンバに、請求項3に記載の再生処理を行うことを特徴とする紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項7】
請求項1に記載の前記大気遮断したレーザチャンバに、請求項5に記載の再生処理を行うことを特徴とする紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項8】
レーザチャンバを大気開放する前に所定の交換用モジュールを準備し、前記レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定のモジュールと前記交換用モジュールとをモジュール単位で交換し、前記レーザチャンバを大気遮断することを特徴とする紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項9】
前記レーザチャンバを大気開放した時から、前記レーザチャンバを大気遮断するまでの間、前記レーザチャンバを乾燥した大気環境に保持しておくことを特徴とする請求項8に記載の紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項10】
前記交換用モジュールに真空脱ガス処理が施されていることを特徴とする請求項8に記載の紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項11】
レーザチャンバを大気開放する前に部品単位で真空脱ガス処理した所定の交換用モジュール部品を準備し、前記レーザチャンバを大気開放し、前記レーザチャンバ内の所定の部品と前記交換用モジュール部品とを交換し、その後前記レーザチャンバを大気遮断することを特徴とする紫外レーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。
【請求項12】
前記レーザチャンバを大気開放した時点から、前記レーザチャンバを大気遮断するまでの間、前記レーザチャンバを乾燥した大気環境に保持しておくことを特徴とする請求項11に記載の紫外ガスレーザ装置のレーザチャンバ再生処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−13232(P2006−13232A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190028(P2004−190028)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】