紫外線レーザ装置
【課題】
狭帯域化モジュールに内包される狭帯域化素子またはラインセレクト素子の耐用期間を延ばし、狭帯域化モジュールの交換周期を長くする。
【解決手段】
1以上のプリズムとグレーティングとこれら狭帯域化素子を内包し電極対向方向に変位と固定が自在である筐体とで狭帯域化モジュールが構成される。筐体には光が出入りする開口部が設けられており、この開口部とプリズムとグレーティングの電極対向方向の長さは、ビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。するとプリズムとグレーティングの回折面には光入射領域が電極対向方向に二以上形成される。グレーティングの回折面の各光入射領域は、対応するプリズムの光入射領域との組み合わせでスペクトルチェックが行われ、それぞれ最適なスペクトル特性が得られるように予め曲率調整される。
狭帯域化モジュールに内包される狭帯域化素子またはラインセレクト素子の耐用期間を延ばし、狭帯域化モジュールの交換周期を長くする。
【解決手段】
1以上のプリズムとグレーティングとこれら狭帯域化素子を内包し電極対向方向に変位と固定が自在である筐体とで狭帯域化モジュールが構成される。筐体には光が出入りする開口部が設けられており、この開口部とプリズムとグレーティングの電極対向方向の長さは、ビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。するとプリズムとグレーティングの回折面には光入射領域が電極対向方向に二以上形成される。グレーティングの回折面の各光入射領域は、対応するプリズムの光入射領域との組み合わせでスペクトルチェックが行われ、それぞれ最適なスペクトル特性が得られるように予め曲率調整される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置の光源として使用される紫外線レーザ装置に関し、特に紫外線レーザ装置に備えられる狭帯域化素子またはラインセレクト素子の耐用期間を長期化するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体露光装置の光源としては、狭帯域エキシマレーザ装置や、ラインセレクトフッ素分子レーザ装置や、狭帯域フッ素レーザ装置といった紫外線レーザ装置が使用される。半導体露光装置内部にはフッ化カルシウムや石英を材料としたレンズ光学系が設けられるが、このレンズ光学系が紫外光に対して使用されると収差が問題となる。したがって光源とされる紫外線レーザの発振スペクトル幅を狭くしてこの収差の問題を軽減することが必要となる。
【0003】
まず狭帯域エキシマレーザ装置について説明する。
狭帯域エキシマレーザ装置とは、波長がおよそ248nmの帯域で発振するKrFエキシマレーザや、波長がおよそ193nmの帯域で発振するArFエキシマレーザなどのレーザ光を狭帯域化素子を用いて狭帯域化するレーザ装置をいう。狭帯域化しない場合の発振スペクトル幅はおよそ300pm程度であるが、狭帯域化することによって発振スペクトル幅を1pm以下、さらに0.5pm以下まで狭くすることが可能である。
【0004】
図8は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す平面図である。
レーザチャンバ1は金属性であり、内部にレーザ媒体となるレーザガスが封入される。レーザガスは大きくはハロゲンガス、バッファガス、希ガス等のガスからなる。ハロゲンガスにはフッ素ガス(F2)が使用され、バッファガスにはネオンガス(Ne)が使用される。KrFエキシマレーザの場合は希ガスにクリプトン(Kr)が使用され、ArFエキシマレーザの場合は希ガスにアルゴン(Ar)が使用される。またレーザチャンバ1の内部には互いに対向する一対の放電電極3が設けられ、外部には高電圧パルス電源が設けられる。なお図8において、一対の放電電極3は図面に垂直する方向に対向して配置されているとしており、また高電圧パルス電源は図示されていない。
【0005】
レーザチャンバ1の両側(図面左右)にはCaF2のウィンドウ4、5が設けられる。ウィンドウ4側の光軸上には一以上(図8では一つ)のプリズム25と互いに平行する複数の溝が形成された回折面26aを有するグレーティング26が設けられる。プリズム25はレーザチャンバ1から出射された光を特定方向に拡大する機能を有するため、ビームエキスパンダともよばれる。グレーティング26は回折面26aに入射した光をその波長に応じた方向に反射する機能を有する。言い換えると、グレーティング26は特定狭帯域内の波長の光を特定方向に反射する。こうした構成によれば、レーザチャンバ1から出射された光のうち特定狭帯域内の波長の光のみが再びレーザチャンバ1側に戻るため、プリズム25及びグレーティング26を狭帯域化素子という。ウィンドウ5側の光軸上にはフロントミラー7を内蔵するモニタボックス8が設けられる。プリズム25、グレーティング26及びフロントミラー7で光共振器が構成される。
【0006】
通常、プリズム25やグレーティング26等の狭帯域化素子は筐体20に内包される。このユニットを狭帯域化モジュール2という。狭帯域化モジュール2では、各光学素子を損傷させる要因となるダストや、オゾンの発生源となる酸素を筐体外に排出するために、乾燥した清浄窒素ガスや希ガスによって筐体内部がパージされる。
【0007】
なお現実的な狭帯域化素子としては、プリズムとグレーティングの組合せで構成されるものが多いが、プリズムとエタロンの組合せやエタロンとグレーティングの組合せ等を検討した事例もある。
【0008】
ここで図8を参照して狭帯域エキシマレーザ装置の動作を説明する。図示しない高電圧パルス電源から一対の放電電極3に電流が供給され、放電電極3間の電圧がブレークダウン電圧を超えると、レーザチャンバ1内の放電電極3間で放電が生じる。この放電によってレーザガスが励起され、さらに基底状態に移行する際に光が発生する。ウィンドウ4を透過した光はプリズム25に入射する。プリズム25では所定方向に光の幅が拡大される。プリズム25を出射した光はグレーティング26の回折面26aに入射する。回折面26aに入射した光のうち、特定狭帯域内の波長の光のみがプリズム25を介してレーザチャンバ1側に反射する。レーザチャンバ1に戻った光はウィンドウ5を透過し、フロントミラー7に入射し、レーザチャンバ1側に反射する。こうして光はレーザチャンバ1を介してグレーティング26とフロントミラー7の間を複数回往復する。その間に特定狭帯域内の波長の光はエネルギーが増幅され、ある程度のエネルギーに達するとフロントミラー7からレーザ光が出射される。
【0009】
以下で狭帯域化モジュールに関する従来技術を追加説明する。
下記特許文献1で開示されるように、プリズムと光軸のなす角度を変化させるとグレーティングの回折面と光軸のなす角度が変化し、結果としてフロントミラーから出射されるレーザ光の波長が変化する。またグレーティング自体の角度を変化させてもグレーティングの回折面と光軸のなす角度が変化するため、同様の結果が得られる。またプリズムから出射される光を高反射ミラーで反射してグレーティングに入射するような構成にし、この高反射ミラーと光軸のなす角度を変化させてもグレーティングの回折面と光軸のなす角度が変化するため、同様の結果が得られる。
【0010】
狭帯域化モジュールをエキシマレーザに搭載しても、レーザ装置毎に発振スペクトルが異なり、発振中心波長やスペクトル幅のばらつきが現れる。その原因は、プリズムやグレーティング自体の個体差である。さらに別の原因は、プリズムに入射する光の波面の歪みがレーザ装置毎に異なることである。光の波面のばらつきは放電特性のばらつきが原因であると推測されている。
【0011】
下記特許文献2には、複数のプリズムを組み合わせる際に適用される技術が開示されている。複数のプリズムを組み合わせて狭帯域化モジュールを構成すると、プリズム自体の特性ばらつきに起因してスペクトルばらつきが生ずる。したがって通常は購入してきたプリズムをそのまま組み合わせて使用することはできない。特許文献2の技術は、複数のプリズムの光透過特性を予め個々に計測し、個々の計測結果に基づいて任意の3個または4個のプリズムを組み合わせた場合の光透過特性を予測し、予測結果の中から所望の光透過特性に近い特性が得られるプリズムの組合せを狭帯域化モジュールに設けるというものである。こうして構成された狭帯域化モジュールはレーザ装置に搭載される。
【0012】
狭帯域化モジュールを搭載したレーザ装置で実際にレーザ発振を行い、出力レーザ光のスペクトルをチェックした時に、所望のスペクトル幅が得られない等の不具合が生ずる場合もある。下記特許文献3には、グレーティングの回折面の曲率を微調整することで所望のスペクトル幅を得る技術が開示されている。
【0013】
しかし特許文献3の技術のように出力レーザ光のスペクトルをチェックするには高分解能の大型分光器が必要である。大型分光器をレーザ装置が設置される半導体工場に持ち込むことは事実上不可能であることから、半導体製造工場でスペクトルチェックを行うことはできない。したがって狭帯域化モジュールをレーザ製造工場に持ち込んでスペクトルのチェックをする必要がある。
【0014】
レーザ製造工場でのチェック作業は、狭帯域化モジュールにチェック用の光を入射し、モジュール内から反射してくる光のスペクトル特性を計測し、そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティングの回折面の曲率微調整を行う、といった手順で行われる。
【0015】
次にラインセレクトフッ素分子レーザ装置について説明する。フッ素分子レーザ装置は前述したエキシマレーザ装置とは異なり、もともと発振スペクトル幅が1pm以下の狭帯域になっている。しかしながら、中心波長がおよそ157.5nmと157.6nmをメインに複数の発振スペクトルが現れる。したがってやはり前述した収差が問題となる。そこでこの問題を軽減するために、複数の発振スペクトルのうち何れか一本の発振スペクトルを選択的に発振させて、他の発振スペクトルを抑制する必要がある。これを実現したフッ素分子レーザ装置をラインセレクトフッ素分子レーザ装置という。発振スペクトルの選択は、プリズム又はエタロンといった光学素子を用いて行われる。これらをラインセレクト素子という。フッ素分子レーザ装置では、中心波長が157.6nmの発振スペクトルが最大の光エネルギーを有するため、通常はこの発振スペクトルを選択的に発振させ他の発振スペクトルを抑制している。
【0016】
狭帯域フッ素分子レーザ装置とは、前述したラインセレクトフッ素分子レーザ装置において選択的に発振するスペクトル幅をさらに狭くし、収差の問題を一層軽減したレーザ装置をいう。スペクトル幅を狭くするためにプリズム、エタロン、グレーティングが用いられる。
【0017】
ところで、前述した各種紫外線レーザ装置は、深紫外域であるおよそ248nm、真空紫外域であるおよそ193nmまたはおよそ157nmの波長の光を出力する。光子エネルギーの大きい紫外光が各種光学素子を透過したり、その表面へ入射して反射したりすると、その光エネルギー自体が各種光学素子の表面のコーティングを劣化させる原因となることは知られている。紫外光によって劣化する光学素子としては、狭帯域化素子やラインセレクト素子の他にウィンドウや各種ミラーがある。これら光学素子の劣化に起因してレーザ発振が所望の仕様を満たすことができなくなった場合は、光学素子の交換が必要になる。
【0018】
エキシマレーザ装置やフッ素分子レーザ装置の光学素子交換時には、レーザ発振を停止し、光学素子をレーザ装置からとり外し、新しい光学素子を取り付ける交換作業が行われる。半導体の露光処理は半導体工場のクリーンルームで行われるが、前述した交換作業をクリーンルーム内で行うとなると、クリーンルーム内の清浄度を低下させるおそれがある。
【0019】
下記特許文献4及び下記非特許文献1には、光学素子の交換作業のうちウィンドウの交換作業に関して、クリーンルーム内の清浄度を維持できる技術が開示されている。
特許文献4の技術では、レーザチャンバには回転自在のウィンドウホルダが設けられ、このウィンドウホルダで大型のウィンドウが保持される。この際ウィンドウの中心部以外の一部分が光軸上に配置され光透過部分とされる。レーザ発振の経過に伴いウィンドウの光透過部分が劣化し光透過率が低下した場合は、ウィンドウホルダが回転される。すると光軸上に位置していたウィンドウの光透過部分が移動し、他の部分が光軸上に位置する。
【0020】
また別の形態としては、レーザチャンバには回転自在のウィンドウホルダが設けられ、このウィンドウホルダで複数のウィンドウが保持される。この際何れかのウィンドウのみが光軸上に配置される。レーザ発振の経過に伴いウィンドウが劣化し光透過率が低下した場合は、ウィンドウホルダが回転される。すると光軸上に位置していたウィンドウが移動し、他のウィンドウが光軸上に位置する。
【0021】
これら二つの態様によれば、大掛かりな部品交換作業が必要なくなるため、クリーンルーム内の清浄度が維持され、またウィンドウの交換作業が短縮化される。
【0022】
非特許文献1の技術では、光の出射方向と直交する方向にスライド自在のウィンドウホルダが設けらる。ウィンドウ交換時には、このウィンドウホルダにウィンドウを装着し、ウィンドウホルダをスライドさせてウィンドウを光軸上に配置する。この構成によれば、特許文献4と同等の効果が得られる。
【特許文献1】特許2631554号公報
【特許文献2】特開平11−214803号公報
【特許文献3】特開2000−208848号公報
【特許文献4】実開平1−65162号公報
【非特許文献1】Lambda Physik社カタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
紫外線レーザ装置で用いられる光学素子の中でも劣化が激しいのはグレーティングである。一方、プリズムの劣化は少ないが、最小のプリズムがレーザチャンバの近傍に設けられる場合は、高エネルギーの光の透過によってプリズムの劣化が進む可能性がある。よってグレーティングやプリズムも交換が必要である。
【0024】
特許文献4には、その技術をウィンドウ以外の光学素子に適用してもよい旨の記載がある。しかしこの技術をグレーティングやプリズムといった狭帯域化素子やラインセレクト素子に転用することには問題がある。
【0025】
レーザ装置のスペクトル特性はプリズムとグレーティングの組み合わせに影響を受ける。所望のスペクトル特性を得るためには、適切なプリズムの選択と、そのプリズムに応じたグレーティングの回折面の曲率調整が必要になる。現実には、レーザ装置の出荷段階にレーザ製造工場で狭帯域化モジュールのスペクトルチェックが行われ、適切なプリズムの選択や、選択したプリズムに対するグレーティングの曲率微調整が行われ、プリズムの個体差とグレーティングの曲率との組み合わせが最適化されている。
【0026】
ここで特許文献4をグレーティングに適用した場合を想定する。この場合はウィンドウの代わりにグレーティングを変位させることになる。するとグレーティングとプリズムの相対的な位置関係が変化する。グレーティングの特性は同一回折面内であってもばらつき(分布)がある。このためグレーティングの変位によって、最適化されたプリズムとグレーティングの関係が崩れ、スペクトル特性が変化するおそれがある。このような理由によって特許文献4の技術を単にグレーティングに適用することはできない。
【0027】
したがって従来はグレーティングやプリズムの劣化に関しては部品交換という手段が妥当であると考えられていた。ところがこれらの光学素子の交換作業を個々に行うとなると、交換の度に狭帯域化モジュールのスペクトルチェックが必要になる。前述したようにスペクトルチェックはレーザ製造工場で行わなければならない。これは非常に煩わしい作業である。このため実際は、スペクトルチェック済みの新品の狭帯域化モジュールがレーザ製造工場に保管され、必要に応じて作業員が半導体工場に行き、古い狭帯域化モジュールから新品の狭帯域化モジュールへ交換する作業が行われる。
【0028】
従来の狭帯域化モジュールの交換作業は作業員の手間を要する。さらにグレーティングやプリズムといった高価な光学素子を交換するとなるとコスト上昇を招く。狭帯域化モジュールの交換周期が長ければこれらの問題は低減される。
【0029】
本発明はこうした実状に鑑みてなされたものであり、狭帯域化モジュールに内包される狭帯域化素子またはラインセレクト素子の耐用期間を延ばし、狭帯域化モジュールの交換周期を長くすることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
第1発明は、
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有し、また前記レーザチャンバに対して前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在である筐体を備え、
前記開口部、前記プリズム及び前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されていること
を特徴とする。
【0031】
第1発明では、1以上のプリズムとグレーティングとこれら狭帯域化素子を内包し電極対向方向に変位と固定が自在である筐体とで狭帯域化モジュールが構成される。筐体にはレーザ光が出入りする開口部が設けられており、この開口部とプリズムとグレーティングの電極対向方向の長さは、レーザ光のビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。するとプリズムとグレーティングの回折面には光入射領域が電極対向方向に二以上形成される。グレーティングの回折面の各光入射領域は、対応するプリズムの光入射領域との組み合わせでスペクトルチェックが行われ、それぞれ最適なスペクトル特性が得られるように予め曲率調整される。
【0032】
第1発明の使用法について、電極対向方向を上下方向とし、さらに各狭帯域化素子の上下方向の長さをビームプロファイルの約二倍にし、二つの光入射領域を形成する場合を想定して説明する。例えば最初に筐体を上側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はプリズムやグレーティングの下側の光入射領域に入射する。すると各狭帯域化素子の下側が劣化する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、筐体を下側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はプリズムやグレーティングの上側の光入射領域に入射する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、新たな狭帯域化モジュールに交換する。
【0033】
第2発明は、第1発明において、
前記筐体を前記電極対向方向に駆動する筐体駆動手段を備えたこと
を特徴とする。
【0034】
第2発明では、筐体がモータ(筐体駆動手段)によって電極対向方向に駆動される。
【0035】
第3発明は、
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有する筐体を備え、
前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されており、また前記グレーティング自体が前記筐体内で前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在であること
を特徴とする。
【0036】
第3発明では、1以上のプリズムと電極対向方向に変位と固定が自在であるグレーティングとこれら狭帯域化素子を内包する筐体とで狭帯域化モジュールが構成される。筐体にはレーザ光が出入りする開口部が設けられている。グレーティングの電極対向方向の長さは、レーザ光のビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。するとグレーティングの回折面には光入射領域が電極対向方向に二以上形成される。グレーティングの回折面の各光入射領域は、プリズムの光入射領域との組み合わせでスペクトルチェックが行われ、それぞれ最適なスペクトル特性が得られるように予め曲率調整される。
【0037】
第3発明の使用法について、電極対向方向を上下方向とし、さらにグレーティングの上下方向の長さをビームプロファイルの約二倍にし、二つの光入射領域を形成する場合を想定して説明する。例えば最初にグレーティングを上側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はグレーティングの下側の光入射領域に入射する。するとグレーティングの下側が劣化する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、グレーティングを下側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はグレーティングの上側の光入射領域に入射する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、新たな狭帯域化モジュールに交換する。
【0038】
第4発明は、第3発明において、
前記グレーティングを前記電極対向方向に駆動するグレーティング駆動手段を備えたこと
を特徴とする。
【0039】
第4発明では、グレーティングがモータ(筐体駆動手段)によって電極対向方向に駆動される。
【0040】
第5発明は、第1、第3発明において、
前記グレーティングは、前記電極対向方向に重なる複数のグレーティング群からなること
を特徴とする。
【0041】
第5発明では、複数のグレーティングが電極対向方向に重ねられ、電極対向方向に長いグレーティング群が形成される。複数のグレーティングにはそれぞれ光入射領域が形成され、個々に曲率調整がなされる。このグレーティング群は電極対向方向に長い単体のグレーティングと同等の効果を得られる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、狭帯域化素子またはラインセレクト素子には個々に曲率調整された光入射領域が二以上設けられているため、一つの光入射領域が劣化しても他の光入射領域を利用できる。このようにすると一つの狭帯域化素子の耐用期間を伸ばすことができるため、狭帯域化モジュールの交換周期が二倍以上になる。したがって狭帯域化モジュールの交換作業に必要なコストを削減でき、また狭帯域化モジュールの交換作業を行う作業員の労力を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本明細書の各実施形態では、紫外線レーザはプリズムとグレーティングを狭帯域化素子とした狭帯域エキシマレーザ装置であるとしている。
【実施例1】
【0044】
図1は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す正面図である。図2は上側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である。図3は下側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である。図2(a)、図3(a)では正面から見た断面が示され、図2(b)、図3(b)では図2(a)、図3(a)で示されるA−A面での断面が示されている。なお図1ではレーザチャンバ内部に設けられた一対の放電電極3の配置が示されている。
【0045】
図1で示されるように、台座6には、レーザチャンバ1が載置され、前方取付プレート40と後方取付プレート30が垂直方向に立てて固定される。前方取付プレート40にはモニタボックス8が固定される。後方取付プレート30には狭帯域化モジュール2が固定される。本実施形態では、上下方向とレーザチャンバ1内の一対の放電電極3の電極対向方向とが平行する。そこで以下ではこの電極対向方向を上下方向という。
【0046】
図2(a)、(b)及び図3(a)、(b)で示されるように、後方取付プレート30には貫通する光通過口31と、狭帯域化モジュール2側からのネジの螺合が自在である複数の雌ネジ部が設けられる。光通過口31はレーザチャンバ1から出射されるレーザ光Lの光軸上に位置する。後方取付プレート30には狭帯域化モジュール2の固定位置が上下方向に二箇所設けられる。二つの固定位置が離隔する距離は、レーザ光Lのビームプロファイルの上下方向の長さ(以下、単に「ビームプロファイルの長さ」という)よりも二倍以上長い。各固定位置は雌ネジ部で決定される。上側の固定位置には四つの上側雌ネジ部32Uが螺刻され、下側の固定位置には四つの下側雌ネジ部32Lが螺刻される。上側雌ネジ部32Uの互いに対する相対的な位置関係と、下側雌ネジ部32Lの互いに対する相対的な位置関係は同一である。
【0047】
狭帯域化モジュール2は、台座27に固定されるプリズム25と、台座28に固定されるグレーティング26と、これらを内包する筐体20で構成される。筐体20は、互いに対向する三組の面を有する略六面の箱型である。そのうちの一面が後方取付プレート30に密着して固定される。そこでこの一面を形成するプレートを取付面側プレート21という。この取付面側プレート21は対向面と比較して上下方向に長い。この上下に長い部分を縁部23という。上下の縁部23にはそれぞれ二つの孔24が設けられる。よって取付面側プレート21には四つの孔24が設けられることになる。孔24の互いに対する相対的な位置関係は、後方取付プレート30に設けられた上側雌ネジ部32U及び下側雌ネジ部32Lの相対的な位置関係と同一である。取付面側プレート21には貫通する光通過口22が設けられる。光通過口22の上下方向の長さ(以下、単に「光通過口22の長さ」という)は、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも二倍以上長い。
【0048】
図4はプリズムとグレーティングの配置の一例を示す斜視図である。なお図4では上下二つのレーザ光Lがプリズム25及びグレーティング26に入射する様子が示されているが、この二つのレーザ光Lは説明のために示されているのであって、実際のレーザ発振では上下何れか一方のレーザ光Lのみがプリズム25及びグレーティング26に入射することになる。
【0049】
プリズム25は自身の光拡大方向と上下方向とが直交するようにして配置される。上下方向に直交する水平面内での角度は所望のスペクトル特性が得られるように調整される。グレーティング26は回折面26aに互いに平行する多数の溝が設けられており、プリズム25から出射されたレーザ光の光軸上に、溝方向と上下方向とが平行するようにして配置される。プリズム25とグレーティング26は同じ高さ位置で固定される。プリズム25とグレーティング26の上下方向の長さ(以下、単に「プリズム25、グレーティング26の長さ」という)HP、HGは、レーザ光Lのビームプロファイルの長さHLよりも二倍以上長い。このためプリズム25にはレーザ光Lの入射領域(光入射領域)A1、A2が上下に二つ形成され、同様にグレーティング26の回折面26aにはレーザ光Lの入射領域(光入射領域)B1、B2が上下に二つ形成される。
【0050】
図2〜図4では省略されているが、グレーティング26には曲率を調整するための機構が設けられる。
【0051】
図5はグレーティングの曲率調整機構を示す図である。図5(a)ではグレーティングが押されている状態が示され、図5(b)ではグレーティングが引かれている状態が示されている。
【0052】
曲率調整機構50は、グレーティング26の両側面を支持する支持部材51と、グレーティング26の上下の中央部を把持する把持部材52と、把持部材52を介してグレーティング26の中央部を押し方向又は引き方向に移動させるバネ53及び押し部材54で構成される。
【0053】
図5(a)で示されるように、押し部材54を押し方向に移動させると、グレーティング26の中央部は押され、回折面26aが凸面に成型される。図5(b)で示されるように、押し部材54を引き方向に移動させると、グレーティング26の中央部は引かれ、回折面26aが凹面に成型される。押し部材54が固定されるとグレーティング26の曲率は保持される。曲率調整機構50はナノメートル単位の精度の高い調整を可能にするものである。回折面26aはこの曲率調整機構50を用いて光入射領域毎に予め曲率調整がなされている。この曲率調整については後述する。
【0054】
筐体20内には複数のプリズムが設けられる場合もあり、またプリズム25とグレーティング26との間に全反射ミラーが設けられる場合もある。そのような場合は、複数のプリズム及び全反射ミラーの上下方向の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも二倍以上長くする必要がある。
【0055】
ここでグレーティング26の曲率調整について説明する。
狭帯域化モジュール2を構成する際には、所望のプリズム25とグレーティング26とを組み合わせてスペクトルチェックが行われる。
【0056】
まずチェック用の光がプリズム25の下側の光入射領域とグレーティング26の下側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール2を配置する。そして狭帯域化モジュール2内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール2内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング26の回折面26aの曲率調整を行う。こうすることでプリズム25の下側とグレーティング26の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0057】
続いてチェック用の光がプリズム25の上側の光入射領域とグレーティング26の上側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール2を配置する。そして狭帯域化モジュール2内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール2内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング26の回折面26aの曲率調整を行う。こうすることでプリズム25の上側とグレーティング26の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0058】
各狭帯域化素子25、26の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にした場合に、各狭帯域化素子25、26の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性も最適状態であることが最も好ましい。しかし実際の光学素子は一つの部品名でも特性にばらつき(分布)があるため、必ずしもそうはならない。そのような場合は、各狭帯域化素子25、26の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性と各狭帯域化素子25、26の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性の両方が、狭帯域化モジュール2の仕様範囲に入るような調整点を見出せばよい。
【0059】
以上のスペクトルチェックは、狭帯域化モジュール2の出荷に先立ちレーザ製造工場で行われれる。また各狭帯域化素子25、26の上側の組み合わせでのチェックと各狭帯域化素子25、26の下側の組み合わせでのチェックの順序が逆でもよい。
【0060】
次に狭帯域化モジュール2の固定作業及び固定位置の変更作業に関して説明する。
【0061】
狭帯域化モジュール2は後方取付プレート30に固定される。例えば、図2(a)、(b)で示されるように、狭帯域化モジュール2は上側の固定位置に固定される。狭帯域化モジュール2を後方取付プレート30の上側の固定位置に固定する場合は、四つの孔24と四つの上側雌ネジ部32Uの位置を合わせ、雄ネジ18を孔24に挿通しさらに上側雌ネジ部32Uに螺合する。四つの雄ネジ18が各上側雌ネジ部32Uに螺合されると、狭帯域化モジュール2が後方取付プレート30に固定される。
【0062】
レーザ発振が行われると、レーザ光Lは筐体20の光通過口22の下側部分を通過し、プリズム25の下側部分を透過し、グレーティング26の下側部分に入射する。この状態でレーザ発振が繰り返されると、狭帯域化素子、特にグレーティング26の下側部分が著しく劣化する。狭帯域化素子の劣化に起因してスペクトル幅等のパラメータが仕様を満たさなくなった場合は、狭帯域化モジュール2の固定位置を変更する。
【0063】
この場合、図3(a)、(b)で示されるように、狭帯域化モジュール2は下側の固定位置に固定される。狭帯域化モジュール2を後方取付プレート30の下側の固定位置に固定する場合は、まず各上側雌ネジ部32Uに螺合された雄ネジ18を取り外し、狭帯域化モジュール2を下方に平行移動する。そして四つの孔24と四つの下側雌ネジ部32Lの位置を合わせ、雄ネジ18を孔24に挿通しさらに下側雌ネジ部32Lに螺合する。四つの雄ネジ18が各下側雌ネジ部32Lに螺合されると、狭帯域化モジュール2が後方取付プレート30に固定される。
【0064】
レーザ発振が行われると、レーザ光Lは筐体20の光通過口22の上側部分を通過し、プリズム25の上側部分を透過し、グレーティング26の上側部分に入射する。この状態でレーザ発振が繰り返されると、狭帯域化素子、特にグレーティング26の上側部分が著しく劣化する。狭帯域化素子の劣化に起因してスペクトル幅等のパラメータが仕様を満たさなくなった場合は、狭帯域化モジュール2そのものを交換する。
【0065】
なお筐体20に当接して狭帯域化モジュール2の位置決めをする位置決め用のピンを後方取付プレート30に抜き差し自在にして設けてもよい。この場合、後方取付プレート30には上側の位置決め用の穴と、下側の位置決め用の穴とが穿孔される。狭帯域化モジュール2を上側の固定位置に固定する場合は、位置決め用のピンが上側位置決め用の穴に挿入され、筐体20の縁部23が位置決め用のピンに当接される。狭帯域化モジュール2を下側の固定位置に固定する場合は、位置決め用のピンが下側位置決め用の穴に挿入され、筐体20の縁部23が位置決め用のピンに当接される。
【0066】
以上では、狭帯域化モジュール2が上側の固定位置に取り付けられた後に下側の固定位置に固定される例を説明したが、上側、下側の固定位置の順序は逆でもよい。
【0067】
なおプリズム25やグレーティング26といった狭帯域化素子の端部は、加工歪みが残っている場合や、表面のコーティング状態が悪い場合等がある。このような理由から、狭帯域化素子の端部は光入射領域に含まれない方が好ましい。このためプリズム、グレーティングの長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さの二倍+α以上長くする方が好ましい。
【0068】
本実施形態では二箇所の固定位置が設けられた例を示したが、その数を特に定める必要はない。N箇所の固定位置を設ける場合は、筐体20の光通過口22やプリズム25やグレーティング26の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりもN倍以上長くし、また後方取付プレート30にN組の雌ネジ部を設ければよい。
【0069】
なお本実施形態ではプリズム25やグレーティング26の長さがレーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも長い。しかし上下方向の長さがレーザ光Lのビームプロファイルの長さとほぼ等しいプリズムやグレーティングを複数用意し、これらを上下方向に重ねて狭帯域化モジュールを構成してもよい。この場合は各グレーティング毎に、対応するプリズムとの組み合わせで曲率調整を行えばよい。
【0070】
本実施形態によれば、狭帯域化素子またはラインセレクト素子には個々に曲率調整された光入射領域が二以上設けられているため、一つの光入射領域が劣化しても他の光入射領域を利用できる。つまり一つの狭帯域化素子の耐用期間を伸ばすことができる。よって狭帯域化モジュールの交換周期が二倍以上になる。したがって狭帯域化モジュールの交換作業に必要なコストを削減でき、また狭帯域化モジュールの交換作業を行う作業員の労力を軽減できる。
【0071】
前述したように、狭帯域化モジュールの調整はレーザ製造工場で行わなければならない。このため、例えばレーザ装置が一国のレーザ製造工場から世界各国に出荷される場合は、作業員が調整された狭帯域化モジュールを現場まで持参し交換作業を行わなければならない。このような作業は時間及びコストを要する。本発明によれば交換作業自体が1/2以下になるため、時間及びコストの負担を大きく低減することができる。
【実施例2】
【0072】
第1の実施形態では、狭帯域化モジュール2の固定位置はネジ位置の設定で定められる。これに対して第2の実施形態では、狭帯域化モジュール2が上下方向にモータで駆動され、狭帯域化モジュール2の固定位置はモータの停止位置の設定で定められる。以下では第1の実施形態と異なる点のみを説明する。
【0073】
図6は上下方向に変位自在である狭帯域化モジュールを示す図である。図6(a)では正面から見た断面が示され、図6(b)では図6(a)で示されるA−A面での断面が示され、図6(c)では平面図が示されている。
【0074】
後方取付プレート30と筐体20の取付面側プレート21との間には二つのリニアガイド60が設けられる。リニアガイド60は長手方向が上下方向と平行にされて後方取付プレート30及び取付面側プレート21に固着される。
【0075】
後方取付プレート30にはモータ61が固定される。モータ61の回転軸はボールネジ62を介して筐体20と連結される。ボールネジ62はスクリューを含む回動部62aとナットを含む直動部62bとで構成され、回動部62aはモータ61の回転軸に接続され、直動部62bは筐体20に接続される。
【0076】
モータ61の回転軸が回転すると回動部62aが回転する。この回転動作を受けて直動部62bは上下方向に直線動作する。直動部62bの上下方向の動作に伴い狭帯域化モジュール2は上下方向に動作する。狭帯域化モジュール2はリニアガイド60によって上下方向に案内される。
【0077】
図6(b)で示されるように、後方取付プレート30には上限リミットスイッチ65と下限リミットスイッチ66が設けられる。上限リミットスイッチ65と下限リミットスイッチ66は筐体20の取付面側プレート21の上面位置を検知する。上限リミットスイッチ65は、設定された上限位置に取付面側プレート21の上面が達したことを検知したら、図示しないコントローラにモータ停止信号を出力する。この信号を受けたコントローラはモータ61の動作を停止する。下限リミットスイッチ66は、設定された下限位置に取付面側プレート21の上面が達したことを検知したら、図示しないコントローラにモータ停止信号を出力する。この信号を受けたコントローラはモータ61の動作を停止する。
【0078】
上限リミットスイッチ65で設定される上限位置と下限リミットスイッチ66で設定される下限位置によって、狭帯域化モジュール2の固定位置が決定される。上限位置と下限位置の離隔する長さは、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも二倍以上長い。
【0079】
狭帯域化モジュール2の固定位置の変更作業に関しては、第1の実施形態で行われるネジの取り付けや取り外し作業が必要なくなり、モータ61の動作と停止のみで行われる。
【0080】
本実施形態では二箇所の固定位置が設けられた例を示したが、その数を特に定める必要はない。N箇所の固定位置が必要な場合は、筐体20の光通過口22やプリズム25やグレーティング26の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりもN倍以上長くすればよく、またリN個のミットスイッチを設ければよい。
【0081】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得られる。さらにモータやリミットスイッチの使用により狭帯域化モジュールの固定位置の変更作業がさらに容易になる。
【実施例3】
【0082】
第1、第2の実施形態では、狭帯域化モジュール2の固定位置が変更されるが、第3の実施形態では、グレーティングの固定位置が変更される。以下では第1、第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0083】
図7は上下方向に変位自在であるグレーティングを内包する狭帯域化モジュールを示す図である。図7では正面から見た断面が示されている。
狭帯域化モジュール72は、台座77に固定されるプリズム75と、台座78に固定されるグレーティング76と、これらを内包する筐体70で構成される。グレーティング76の電極対向方向の長さはビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。筐体70は後方取付プレート80の所定位置に取り外し自在にして固定される。
【0084】
筐体70の外部にはモータ91が設けられる。モータ91の回転軸はボールネジ92を介してグレーティング76の台座78と連結される。ボールネジ92はスクリューを含む回動部92aとナットを含む直動部92bとで構成され、回動部92aはモータ91の回転軸に接続され、直動部92bは台座78に接続される。ボールネジ92の回動部92aは筐体70に挿通されているため、筐体70の外部のモータ91で筐体70の内部のグレーティング76を上下に変位させることができる。
【0085】
図7では図示されていないが、筐体70の内部には、グレーティング76または台座78またはボールネジ92の回動部92aの何れかの上限位置及び下限位置を検知するリミットセンサが設けられる。
【0086】
ここでグレーティング76の曲率調整について説明する。
狭帯域化モジュール72を構成する際には、所望のプリズム75とグレーティング76とを組み合わせてスペクトルチェックが行われる。
【0087】
まずチェック用の光がプリズム75の光入射領域とグレーティング76の下側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール72を配置する。そして狭帯域化モジュール72内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール72内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング76の回折面の曲率調整を行う。こうすることでプリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0088】
続いてチェック用の光がプリズム75の光入射領域とグレーティング76の上側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール72を配置する。そして狭帯域化モジュール72内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール72内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング76の回折面の曲率調整を行う。こうすることでプリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0089】
プリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にした場合に、プリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性も最適状態であることが最も好ましい。しかし実際の光学素子は一つの部品名でも特性にばらつき(分布)があるため、必ずしもそうはならない。そのような場合は、プリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性とプリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性の両方が、狭帯域化モジュール72の仕様範囲に入るような調整点を見出せばよい。
【0090】
以上のスペクトルチェックは、狭帯域化モジュール72の出荷に先立ちレーザ製造工場で行われれる。またプリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせでのチェックとプリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせでのチェックの順序が逆でもよい。
【0091】
本実施形態では二箇所の固定位置が設けられた例を示したが、その数を特に定める必要はない。N箇所の固定位置が必要な場合は、グレーティング76の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりもN倍以上長くすればよく、またリN個のミットスイッチを設ければよい。
【0092】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得られる。さらにモータやリミットスイッチの使用により狭帯域化モジュールの固定位置の変更作業がさらに容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す正面図である。
【図2】図2は上側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である。
【図3】図3は下側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である
【図4】図4はプリズムとグレーティングの配置の一例を示す斜視図である。
【図5】図5はグレーティングの曲率調整機構を示す図である。
【図6】図6は上下方向に変位自在である狭帯域化モジュールを示す図である。
【図7】図7は上下方向に変位自在であるグレーティングを内包する狭帯域化モジュールを示す図である。
【図8】図8は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0094】
1…レーザチャンバ
2、72…狭帯域化モジュール
3…放電電極
18…雄ネジ
20、70…筐体
22…光通過口
24…孔
25、75…プリズム
26、76…グレーティング
30、80…後方取付プレート
32U…上側雌ネジ部
32L…下側雌ネジ部
61、91…モータ
62、92…ボールネジ
62a、92a…回動部
62b、92b…直動部
65…上限リミットスイッチ
66…下限リミットスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置の光源として使用される紫外線レーザ装置に関し、特に紫外線レーザ装置に備えられる狭帯域化素子またはラインセレクト素子の耐用期間を長期化するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体露光装置の光源としては、狭帯域エキシマレーザ装置や、ラインセレクトフッ素分子レーザ装置や、狭帯域フッ素レーザ装置といった紫外線レーザ装置が使用される。半導体露光装置内部にはフッ化カルシウムや石英を材料としたレンズ光学系が設けられるが、このレンズ光学系が紫外光に対して使用されると収差が問題となる。したがって光源とされる紫外線レーザの発振スペクトル幅を狭くしてこの収差の問題を軽減することが必要となる。
【0003】
まず狭帯域エキシマレーザ装置について説明する。
狭帯域エキシマレーザ装置とは、波長がおよそ248nmの帯域で発振するKrFエキシマレーザや、波長がおよそ193nmの帯域で発振するArFエキシマレーザなどのレーザ光を狭帯域化素子を用いて狭帯域化するレーザ装置をいう。狭帯域化しない場合の発振スペクトル幅はおよそ300pm程度であるが、狭帯域化することによって発振スペクトル幅を1pm以下、さらに0.5pm以下まで狭くすることが可能である。
【0004】
図8は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す平面図である。
レーザチャンバ1は金属性であり、内部にレーザ媒体となるレーザガスが封入される。レーザガスは大きくはハロゲンガス、バッファガス、希ガス等のガスからなる。ハロゲンガスにはフッ素ガス(F2)が使用され、バッファガスにはネオンガス(Ne)が使用される。KrFエキシマレーザの場合は希ガスにクリプトン(Kr)が使用され、ArFエキシマレーザの場合は希ガスにアルゴン(Ar)が使用される。またレーザチャンバ1の内部には互いに対向する一対の放電電極3が設けられ、外部には高電圧パルス電源が設けられる。なお図8において、一対の放電電極3は図面に垂直する方向に対向して配置されているとしており、また高電圧パルス電源は図示されていない。
【0005】
レーザチャンバ1の両側(図面左右)にはCaF2のウィンドウ4、5が設けられる。ウィンドウ4側の光軸上には一以上(図8では一つ)のプリズム25と互いに平行する複数の溝が形成された回折面26aを有するグレーティング26が設けられる。プリズム25はレーザチャンバ1から出射された光を特定方向に拡大する機能を有するため、ビームエキスパンダともよばれる。グレーティング26は回折面26aに入射した光をその波長に応じた方向に反射する機能を有する。言い換えると、グレーティング26は特定狭帯域内の波長の光を特定方向に反射する。こうした構成によれば、レーザチャンバ1から出射された光のうち特定狭帯域内の波長の光のみが再びレーザチャンバ1側に戻るため、プリズム25及びグレーティング26を狭帯域化素子という。ウィンドウ5側の光軸上にはフロントミラー7を内蔵するモニタボックス8が設けられる。プリズム25、グレーティング26及びフロントミラー7で光共振器が構成される。
【0006】
通常、プリズム25やグレーティング26等の狭帯域化素子は筐体20に内包される。このユニットを狭帯域化モジュール2という。狭帯域化モジュール2では、各光学素子を損傷させる要因となるダストや、オゾンの発生源となる酸素を筐体外に排出するために、乾燥した清浄窒素ガスや希ガスによって筐体内部がパージされる。
【0007】
なお現実的な狭帯域化素子としては、プリズムとグレーティングの組合せで構成されるものが多いが、プリズムとエタロンの組合せやエタロンとグレーティングの組合せ等を検討した事例もある。
【0008】
ここで図8を参照して狭帯域エキシマレーザ装置の動作を説明する。図示しない高電圧パルス電源から一対の放電電極3に電流が供給され、放電電極3間の電圧がブレークダウン電圧を超えると、レーザチャンバ1内の放電電極3間で放電が生じる。この放電によってレーザガスが励起され、さらに基底状態に移行する際に光が発生する。ウィンドウ4を透過した光はプリズム25に入射する。プリズム25では所定方向に光の幅が拡大される。プリズム25を出射した光はグレーティング26の回折面26aに入射する。回折面26aに入射した光のうち、特定狭帯域内の波長の光のみがプリズム25を介してレーザチャンバ1側に反射する。レーザチャンバ1に戻った光はウィンドウ5を透過し、フロントミラー7に入射し、レーザチャンバ1側に反射する。こうして光はレーザチャンバ1を介してグレーティング26とフロントミラー7の間を複数回往復する。その間に特定狭帯域内の波長の光はエネルギーが増幅され、ある程度のエネルギーに達するとフロントミラー7からレーザ光が出射される。
【0009】
以下で狭帯域化モジュールに関する従来技術を追加説明する。
下記特許文献1で開示されるように、プリズムと光軸のなす角度を変化させるとグレーティングの回折面と光軸のなす角度が変化し、結果としてフロントミラーから出射されるレーザ光の波長が変化する。またグレーティング自体の角度を変化させてもグレーティングの回折面と光軸のなす角度が変化するため、同様の結果が得られる。またプリズムから出射される光を高反射ミラーで反射してグレーティングに入射するような構成にし、この高反射ミラーと光軸のなす角度を変化させてもグレーティングの回折面と光軸のなす角度が変化するため、同様の結果が得られる。
【0010】
狭帯域化モジュールをエキシマレーザに搭載しても、レーザ装置毎に発振スペクトルが異なり、発振中心波長やスペクトル幅のばらつきが現れる。その原因は、プリズムやグレーティング自体の個体差である。さらに別の原因は、プリズムに入射する光の波面の歪みがレーザ装置毎に異なることである。光の波面のばらつきは放電特性のばらつきが原因であると推測されている。
【0011】
下記特許文献2には、複数のプリズムを組み合わせる際に適用される技術が開示されている。複数のプリズムを組み合わせて狭帯域化モジュールを構成すると、プリズム自体の特性ばらつきに起因してスペクトルばらつきが生ずる。したがって通常は購入してきたプリズムをそのまま組み合わせて使用することはできない。特許文献2の技術は、複数のプリズムの光透過特性を予め個々に計測し、個々の計測結果に基づいて任意の3個または4個のプリズムを組み合わせた場合の光透過特性を予測し、予測結果の中から所望の光透過特性に近い特性が得られるプリズムの組合せを狭帯域化モジュールに設けるというものである。こうして構成された狭帯域化モジュールはレーザ装置に搭載される。
【0012】
狭帯域化モジュールを搭載したレーザ装置で実際にレーザ発振を行い、出力レーザ光のスペクトルをチェックした時に、所望のスペクトル幅が得られない等の不具合が生ずる場合もある。下記特許文献3には、グレーティングの回折面の曲率を微調整することで所望のスペクトル幅を得る技術が開示されている。
【0013】
しかし特許文献3の技術のように出力レーザ光のスペクトルをチェックするには高分解能の大型分光器が必要である。大型分光器をレーザ装置が設置される半導体工場に持ち込むことは事実上不可能であることから、半導体製造工場でスペクトルチェックを行うことはできない。したがって狭帯域化モジュールをレーザ製造工場に持ち込んでスペクトルのチェックをする必要がある。
【0014】
レーザ製造工場でのチェック作業は、狭帯域化モジュールにチェック用の光を入射し、モジュール内から反射してくる光のスペクトル特性を計測し、そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティングの回折面の曲率微調整を行う、といった手順で行われる。
【0015】
次にラインセレクトフッ素分子レーザ装置について説明する。フッ素分子レーザ装置は前述したエキシマレーザ装置とは異なり、もともと発振スペクトル幅が1pm以下の狭帯域になっている。しかしながら、中心波長がおよそ157.5nmと157.6nmをメインに複数の発振スペクトルが現れる。したがってやはり前述した収差が問題となる。そこでこの問題を軽減するために、複数の発振スペクトルのうち何れか一本の発振スペクトルを選択的に発振させて、他の発振スペクトルを抑制する必要がある。これを実現したフッ素分子レーザ装置をラインセレクトフッ素分子レーザ装置という。発振スペクトルの選択は、プリズム又はエタロンといった光学素子を用いて行われる。これらをラインセレクト素子という。フッ素分子レーザ装置では、中心波長が157.6nmの発振スペクトルが最大の光エネルギーを有するため、通常はこの発振スペクトルを選択的に発振させ他の発振スペクトルを抑制している。
【0016】
狭帯域フッ素分子レーザ装置とは、前述したラインセレクトフッ素分子レーザ装置において選択的に発振するスペクトル幅をさらに狭くし、収差の問題を一層軽減したレーザ装置をいう。スペクトル幅を狭くするためにプリズム、エタロン、グレーティングが用いられる。
【0017】
ところで、前述した各種紫外線レーザ装置は、深紫外域であるおよそ248nm、真空紫外域であるおよそ193nmまたはおよそ157nmの波長の光を出力する。光子エネルギーの大きい紫外光が各種光学素子を透過したり、その表面へ入射して反射したりすると、その光エネルギー自体が各種光学素子の表面のコーティングを劣化させる原因となることは知られている。紫外光によって劣化する光学素子としては、狭帯域化素子やラインセレクト素子の他にウィンドウや各種ミラーがある。これら光学素子の劣化に起因してレーザ発振が所望の仕様を満たすことができなくなった場合は、光学素子の交換が必要になる。
【0018】
エキシマレーザ装置やフッ素分子レーザ装置の光学素子交換時には、レーザ発振を停止し、光学素子をレーザ装置からとり外し、新しい光学素子を取り付ける交換作業が行われる。半導体の露光処理は半導体工場のクリーンルームで行われるが、前述した交換作業をクリーンルーム内で行うとなると、クリーンルーム内の清浄度を低下させるおそれがある。
【0019】
下記特許文献4及び下記非特許文献1には、光学素子の交換作業のうちウィンドウの交換作業に関して、クリーンルーム内の清浄度を維持できる技術が開示されている。
特許文献4の技術では、レーザチャンバには回転自在のウィンドウホルダが設けられ、このウィンドウホルダで大型のウィンドウが保持される。この際ウィンドウの中心部以外の一部分が光軸上に配置され光透過部分とされる。レーザ発振の経過に伴いウィンドウの光透過部分が劣化し光透過率が低下した場合は、ウィンドウホルダが回転される。すると光軸上に位置していたウィンドウの光透過部分が移動し、他の部分が光軸上に位置する。
【0020】
また別の形態としては、レーザチャンバには回転自在のウィンドウホルダが設けられ、このウィンドウホルダで複数のウィンドウが保持される。この際何れかのウィンドウのみが光軸上に配置される。レーザ発振の経過に伴いウィンドウが劣化し光透過率が低下した場合は、ウィンドウホルダが回転される。すると光軸上に位置していたウィンドウが移動し、他のウィンドウが光軸上に位置する。
【0021】
これら二つの態様によれば、大掛かりな部品交換作業が必要なくなるため、クリーンルーム内の清浄度が維持され、またウィンドウの交換作業が短縮化される。
【0022】
非特許文献1の技術では、光の出射方向と直交する方向にスライド自在のウィンドウホルダが設けらる。ウィンドウ交換時には、このウィンドウホルダにウィンドウを装着し、ウィンドウホルダをスライドさせてウィンドウを光軸上に配置する。この構成によれば、特許文献4と同等の効果が得られる。
【特許文献1】特許2631554号公報
【特許文献2】特開平11−214803号公報
【特許文献3】特開2000−208848号公報
【特許文献4】実開平1−65162号公報
【非特許文献1】Lambda Physik社カタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
紫外線レーザ装置で用いられる光学素子の中でも劣化が激しいのはグレーティングである。一方、プリズムの劣化は少ないが、最小のプリズムがレーザチャンバの近傍に設けられる場合は、高エネルギーの光の透過によってプリズムの劣化が進む可能性がある。よってグレーティングやプリズムも交換が必要である。
【0024】
特許文献4には、その技術をウィンドウ以外の光学素子に適用してもよい旨の記載がある。しかしこの技術をグレーティングやプリズムといった狭帯域化素子やラインセレクト素子に転用することには問題がある。
【0025】
レーザ装置のスペクトル特性はプリズムとグレーティングの組み合わせに影響を受ける。所望のスペクトル特性を得るためには、適切なプリズムの選択と、そのプリズムに応じたグレーティングの回折面の曲率調整が必要になる。現実には、レーザ装置の出荷段階にレーザ製造工場で狭帯域化モジュールのスペクトルチェックが行われ、適切なプリズムの選択や、選択したプリズムに対するグレーティングの曲率微調整が行われ、プリズムの個体差とグレーティングの曲率との組み合わせが最適化されている。
【0026】
ここで特許文献4をグレーティングに適用した場合を想定する。この場合はウィンドウの代わりにグレーティングを変位させることになる。するとグレーティングとプリズムの相対的な位置関係が変化する。グレーティングの特性は同一回折面内であってもばらつき(分布)がある。このためグレーティングの変位によって、最適化されたプリズムとグレーティングの関係が崩れ、スペクトル特性が変化するおそれがある。このような理由によって特許文献4の技術を単にグレーティングに適用することはできない。
【0027】
したがって従来はグレーティングやプリズムの劣化に関しては部品交換という手段が妥当であると考えられていた。ところがこれらの光学素子の交換作業を個々に行うとなると、交換の度に狭帯域化モジュールのスペクトルチェックが必要になる。前述したようにスペクトルチェックはレーザ製造工場で行わなければならない。これは非常に煩わしい作業である。このため実際は、スペクトルチェック済みの新品の狭帯域化モジュールがレーザ製造工場に保管され、必要に応じて作業員が半導体工場に行き、古い狭帯域化モジュールから新品の狭帯域化モジュールへ交換する作業が行われる。
【0028】
従来の狭帯域化モジュールの交換作業は作業員の手間を要する。さらにグレーティングやプリズムといった高価な光学素子を交換するとなるとコスト上昇を招く。狭帯域化モジュールの交換周期が長ければこれらの問題は低減される。
【0029】
本発明はこうした実状に鑑みてなされたものであり、狭帯域化モジュールに内包される狭帯域化素子またはラインセレクト素子の耐用期間を延ばし、狭帯域化モジュールの交換周期を長くすることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
第1発明は、
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有し、また前記レーザチャンバに対して前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在である筐体を備え、
前記開口部、前記プリズム及び前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されていること
を特徴とする。
【0031】
第1発明では、1以上のプリズムとグレーティングとこれら狭帯域化素子を内包し電極対向方向に変位と固定が自在である筐体とで狭帯域化モジュールが構成される。筐体にはレーザ光が出入りする開口部が設けられており、この開口部とプリズムとグレーティングの電極対向方向の長さは、レーザ光のビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。するとプリズムとグレーティングの回折面には光入射領域が電極対向方向に二以上形成される。グレーティングの回折面の各光入射領域は、対応するプリズムの光入射領域との組み合わせでスペクトルチェックが行われ、それぞれ最適なスペクトル特性が得られるように予め曲率調整される。
【0032】
第1発明の使用法について、電極対向方向を上下方向とし、さらに各狭帯域化素子の上下方向の長さをビームプロファイルの約二倍にし、二つの光入射領域を形成する場合を想定して説明する。例えば最初に筐体を上側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はプリズムやグレーティングの下側の光入射領域に入射する。すると各狭帯域化素子の下側が劣化する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、筐体を下側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はプリズムやグレーティングの上側の光入射領域に入射する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、新たな狭帯域化モジュールに交換する。
【0033】
第2発明は、第1発明において、
前記筐体を前記電極対向方向に駆動する筐体駆動手段を備えたこと
を特徴とする。
【0034】
第2発明では、筐体がモータ(筐体駆動手段)によって電極対向方向に駆動される。
【0035】
第3発明は、
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有する筐体を備え、
前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されており、また前記グレーティング自体が前記筐体内で前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在であること
を特徴とする。
【0036】
第3発明では、1以上のプリズムと電極対向方向に変位と固定が自在であるグレーティングとこれら狭帯域化素子を内包する筐体とで狭帯域化モジュールが構成される。筐体にはレーザ光が出入りする開口部が設けられている。グレーティングの電極対向方向の長さは、レーザ光のビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。するとグレーティングの回折面には光入射領域が電極対向方向に二以上形成される。グレーティングの回折面の各光入射領域は、プリズムの光入射領域との組み合わせでスペクトルチェックが行われ、それぞれ最適なスペクトル特性が得られるように予め曲率調整される。
【0037】
第3発明の使用法について、電極対向方向を上下方向とし、さらにグレーティングの上下方向の長さをビームプロファイルの約二倍にし、二つの光入射領域を形成する場合を想定して説明する。例えば最初にグレーティングを上側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はグレーティングの下側の光入射領域に入射する。するとグレーティングの下側が劣化する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、グレーティングを下側位置に配置してレーザ発振を行う。レーザ光はグレーティングの上側の光入射領域に入射する。所望のスペクトル特性が得られなくなったならば、新たな狭帯域化モジュールに交換する。
【0038】
第4発明は、第3発明において、
前記グレーティングを前記電極対向方向に駆動するグレーティング駆動手段を備えたこと
を特徴とする。
【0039】
第4発明では、グレーティングがモータ(筐体駆動手段)によって電極対向方向に駆動される。
【0040】
第5発明は、第1、第3発明において、
前記グレーティングは、前記電極対向方向に重なる複数のグレーティング群からなること
を特徴とする。
【0041】
第5発明では、複数のグレーティングが電極対向方向に重ねられ、電極対向方向に長いグレーティング群が形成される。複数のグレーティングにはそれぞれ光入射領域が形成され、個々に曲率調整がなされる。このグレーティング群は電極対向方向に長い単体のグレーティングと同等の効果を得られる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、狭帯域化素子またはラインセレクト素子には個々に曲率調整された光入射領域が二以上設けられているため、一つの光入射領域が劣化しても他の光入射領域を利用できる。このようにすると一つの狭帯域化素子の耐用期間を伸ばすことができるため、狭帯域化モジュールの交換周期が二倍以上になる。したがって狭帯域化モジュールの交換作業に必要なコストを削減でき、また狭帯域化モジュールの交換作業を行う作業員の労力を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本明細書の各実施形態では、紫外線レーザはプリズムとグレーティングを狭帯域化素子とした狭帯域エキシマレーザ装置であるとしている。
【実施例1】
【0044】
図1は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す正面図である。図2は上側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である。図3は下側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である。図2(a)、図3(a)では正面から見た断面が示され、図2(b)、図3(b)では図2(a)、図3(a)で示されるA−A面での断面が示されている。なお図1ではレーザチャンバ内部に設けられた一対の放電電極3の配置が示されている。
【0045】
図1で示されるように、台座6には、レーザチャンバ1が載置され、前方取付プレート40と後方取付プレート30が垂直方向に立てて固定される。前方取付プレート40にはモニタボックス8が固定される。後方取付プレート30には狭帯域化モジュール2が固定される。本実施形態では、上下方向とレーザチャンバ1内の一対の放電電極3の電極対向方向とが平行する。そこで以下ではこの電極対向方向を上下方向という。
【0046】
図2(a)、(b)及び図3(a)、(b)で示されるように、後方取付プレート30には貫通する光通過口31と、狭帯域化モジュール2側からのネジの螺合が自在である複数の雌ネジ部が設けられる。光通過口31はレーザチャンバ1から出射されるレーザ光Lの光軸上に位置する。後方取付プレート30には狭帯域化モジュール2の固定位置が上下方向に二箇所設けられる。二つの固定位置が離隔する距離は、レーザ光Lのビームプロファイルの上下方向の長さ(以下、単に「ビームプロファイルの長さ」という)よりも二倍以上長い。各固定位置は雌ネジ部で決定される。上側の固定位置には四つの上側雌ネジ部32Uが螺刻され、下側の固定位置には四つの下側雌ネジ部32Lが螺刻される。上側雌ネジ部32Uの互いに対する相対的な位置関係と、下側雌ネジ部32Lの互いに対する相対的な位置関係は同一である。
【0047】
狭帯域化モジュール2は、台座27に固定されるプリズム25と、台座28に固定されるグレーティング26と、これらを内包する筐体20で構成される。筐体20は、互いに対向する三組の面を有する略六面の箱型である。そのうちの一面が後方取付プレート30に密着して固定される。そこでこの一面を形成するプレートを取付面側プレート21という。この取付面側プレート21は対向面と比較して上下方向に長い。この上下に長い部分を縁部23という。上下の縁部23にはそれぞれ二つの孔24が設けられる。よって取付面側プレート21には四つの孔24が設けられることになる。孔24の互いに対する相対的な位置関係は、後方取付プレート30に設けられた上側雌ネジ部32U及び下側雌ネジ部32Lの相対的な位置関係と同一である。取付面側プレート21には貫通する光通過口22が設けられる。光通過口22の上下方向の長さ(以下、単に「光通過口22の長さ」という)は、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも二倍以上長い。
【0048】
図4はプリズムとグレーティングの配置の一例を示す斜視図である。なお図4では上下二つのレーザ光Lがプリズム25及びグレーティング26に入射する様子が示されているが、この二つのレーザ光Lは説明のために示されているのであって、実際のレーザ発振では上下何れか一方のレーザ光Lのみがプリズム25及びグレーティング26に入射することになる。
【0049】
プリズム25は自身の光拡大方向と上下方向とが直交するようにして配置される。上下方向に直交する水平面内での角度は所望のスペクトル特性が得られるように調整される。グレーティング26は回折面26aに互いに平行する多数の溝が設けられており、プリズム25から出射されたレーザ光の光軸上に、溝方向と上下方向とが平行するようにして配置される。プリズム25とグレーティング26は同じ高さ位置で固定される。プリズム25とグレーティング26の上下方向の長さ(以下、単に「プリズム25、グレーティング26の長さ」という)HP、HGは、レーザ光Lのビームプロファイルの長さHLよりも二倍以上長い。このためプリズム25にはレーザ光Lの入射領域(光入射領域)A1、A2が上下に二つ形成され、同様にグレーティング26の回折面26aにはレーザ光Lの入射領域(光入射領域)B1、B2が上下に二つ形成される。
【0050】
図2〜図4では省略されているが、グレーティング26には曲率を調整するための機構が設けられる。
【0051】
図5はグレーティングの曲率調整機構を示す図である。図5(a)ではグレーティングが押されている状態が示され、図5(b)ではグレーティングが引かれている状態が示されている。
【0052】
曲率調整機構50は、グレーティング26の両側面を支持する支持部材51と、グレーティング26の上下の中央部を把持する把持部材52と、把持部材52を介してグレーティング26の中央部を押し方向又は引き方向に移動させるバネ53及び押し部材54で構成される。
【0053】
図5(a)で示されるように、押し部材54を押し方向に移動させると、グレーティング26の中央部は押され、回折面26aが凸面に成型される。図5(b)で示されるように、押し部材54を引き方向に移動させると、グレーティング26の中央部は引かれ、回折面26aが凹面に成型される。押し部材54が固定されるとグレーティング26の曲率は保持される。曲率調整機構50はナノメートル単位の精度の高い調整を可能にするものである。回折面26aはこの曲率調整機構50を用いて光入射領域毎に予め曲率調整がなされている。この曲率調整については後述する。
【0054】
筐体20内には複数のプリズムが設けられる場合もあり、またプリズム25とグレーティング26との間に全反射ミラーが設けられる場合もある。そのような場合は、複数のプリズム及び全反射ミラーの上下方向の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも二倍以上長くする必要がある。
【0055】
ここでグレーティング26の曲率調整について説明する。
狭帯域化モジュール2を構成する際には、所望のプリズム25とグレーティング26とを組み合わせてスペクトルチェックが行われる。
【0056】
まずチェック用の光がプリズム25の下側の光入射領域とグレーティング26の下側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール2を配置する。そして狭帯域化モジュール2内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール2内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング26の回折面26aの曲率調整を行う。こうすることでプリズム25の下側とグレーティング26の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0057】
続いてチェック用の光がプリズム25の上側の光入射領域とグレーティング26の上側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール2を配置する。そして狭帯域化モジュール2内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール2内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング26の回折面26aの曲率調整を行う。こうすることでプリズム25の上側とグレーティング26の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0058】
各狭帯域化素子25、26の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にした場合に、各狭帯域化素子25、26の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性も最適状態であることが最も好ましい。しかし実際の光学素子は一つの部品名でも特性にばらつき(分布)があるため、必ずしもそうはならない。そのような場合は、各狭帯域化素子25、26の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性と各狭帯域化素子25、26の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性の両方が、狭帯域化モジュール2の仕様範囲に入るような調整点を見出せばよい。
【0059】
以上のスペクトルチェックは、狭帯域化モジュール2の出荷に先立ちレーザ製造工場で行われれる。また各狭帯域化素子25、26の上側の組み合わせでのチェックと各狭帯域化素子25、26の下側の組み合わせでのチェックの順序が逆でもよい。
【0060】
次に狭帯域化モジュール2の固定作業及び固定位置の変更作業に関して説明する。
【0061】
狭帯域化モジュール2は後方取付プレート30に固定される。例えば、図2(a)、(b)で示されるように、狭帯域化モジュール2は上側の固定位置に固定される。狭帯域化モジュール2を後方取付プレート30の上側の固定位置に固定する場合は、四つの孔24と四つの上側雌ネジ部32Uの位置を合わせ、雄ネジ18を孔24に挿通しさらに上側雌ネジ部32Uに螺合する。四つの雄ネジ18が各上側雌ネジ部32Uに螺合されると、狭帯域化モジュール2が後方取付プレート30に固定される。
【0062】
レーザ発振が行われると、レーザ光Lは筐体20の光通過口22の下側部分を通過し、プリズム25の下側部分を透過し、グレーティング26の下側部分に入射する。この状態でレーザ発振が繰り返されると、狭帯域化素子、特にグレーティング26の下側部分が著しく劣化する。狭帯域化素子の劣化に起因してスペクトル幅等のパラメータが仕様を満たさなくなった場合は、狭帯域化モジュール2の固定位置を変更する。
【0063】
この場合、図3(a)、(b)で示されるように、狭帯域化モジュール2は下側の固定位置に固定される。狭帯域化モジュール2を後方取付プレート30の下側の固定位置に固定する場合は、まず各上側雌ネジ部32Uに螺合された雄ネジ18を取り外し、狭帯域化モジュール2を下方に平行移動する。そして四つの孔24と四つの下側雌ネジ部32Lの位置を合わせ、雄ネジ18を孔24に挿通しさらに下側雌ネジ部32Lに螺合する。四つの雄ネジ18が各下側雌ネジ部32Lに螺合されると、狭帯域化モジュール2が後方取付プレート30に固定される。
【0064】
レーザ発振が行われると、レーザ光Lは筐体20の光通過口22の上側部分を通過し、プリズム25の上側部分を透過し、グレーティング26の上側部分に入射する。この状態でレーザ発振が繰り返されると、狭帯域化素子、特にグレーティング26の上側部分が著しく劣化する。狭帯域化素子の劣化に起因してスペクトル幅等のパラメータが仕様を満たさなくなった場合は、狭帯域化モジュール2そのものを交換する。
【0065】
なお筐体20に当接して狭帯域化モジュール2の位置決めをする位置決め用のピンを後方取付プレート30に抜き差し自在にして設けてもよい。この場合、後方取付プレート30には上側の位置決め用の穴と、下側の位置決め用の穴とが穿孔される。狭帯域化モジュール2を上側の固定位置に固定する場合は、位置決め用のピンが上側位置決め用の穴に挿入され、筐体20の縁部23が位置決め用のピンに当接される。狭帯域化モジュール2を下側の固定位置に固定する場合は、位置決め用のピンが下側位置決め用の穴に挿入され、筐体20の縁部23が位置決め用のピンに当接される。
【0066】
以上では、狭帯域化モジュール2が上側の固定位置に取り付けられた後に下側の固定位置に固定される例を説明したが、上側、下側の固定位置の順序は逆でもよい。
【0067】
なおプリズム25やグレーティング26といった狭帯域化素子の端部は、加工歪みが残っている場合や、表面のコーティング状態が悪い場合等がある。このような理由から、狭帯域化素子の端部は光入射領域に含まれない方が好ましい。このためプリズム、グレーティングの長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さの二倍+α以上長くする方が好ましい。
【0068】
本実施形態では二箇所の固定位置が設けられた例を示したが、その数を特に定める必要はない。N箇所の固定位置を設ける場合は、筐体20の光通過口22やプリズム25やグレーティング26の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりもN倍以上長くし、また後方取付プレート30にN組の雌ネジ部を設ければよい。
【0069】
なお本実施形態ではプリズム25やグレーティング26の長さがレーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも長い。しかし上下方向の長さがレーザ光Lのビームプロファイルの長さとほぼ等しいプリズムやグレーティングを複数用意し、これらを上下方向に重ねて狭帯域化モジュールを構成してもよい。この場合は各グレーティング毎に、対応するプリズムとの組み合わせで曲率調整を行えばよい。
【0070】
本実施形態によれば、狭帯域化素子またはラインセレクト素子には個々に曲率調整された光入射領域が二以上設けられているため、一つの光入射領域が劣化しても他の光入射領域を利用できる。つまり一つの狭帯域化素子の耐用期間を伸ばすことができる。よって狭帯域化モジュールの交換周期が二倍以上になる。したがって狭帯域化モジュールの交換作業に必要なコストを削減でき、また狭帯域化モジュールの交換作業を行う作業員の労力を軽減できる。
【0071】
前述したように、狭帯域化モジュールの調整はレーザ製造工場で行わなければならない。このため、例えばレーザ装置が一国のレーザ製造工場から世界各国に出荷される場合は、作業員が調整された狭帯域化モジュールを現場まで持参し交換作業を行わなければならない。このような作業は時間及びコストを要する。本発明によれば交換作業自体が1/2以下になるため、時間及びコストの負担を大きく低減することができる。
【実施例2】
【0072】
第1の実施形態では、狭帯域化モジュール2の固定位置はネジ位置の設定で定められる。これに対して第2の実施形態では、狭帯域化モジュール2が上下方向にモータで駆動され、狭帯域化モジュール2の固定位置はモータの停止位置の設定で定められる。以下では第1の実施形態と異なる点のみを説明する。
【0073】
図6は上下方向に変位自在である狭帯域化モジュールを示す図である。図6(a)では正面から見た断面が示され、図6(b)では図6(a)で示されるA−A面での断面が示され、図6(c)では平面図が示されている。
【0074】
後方取付プレート30と筐体20の取付面側プレート21との間には二つのリニアガイド60が設けられる。リニアガイド60は長手方向が上下方向と平行にされて後方取付プレート30及び取付面側プレート21に固着される。
【0075】
後方取付プレート30にはモータ61が固定される。モータ61の回転軸はボールネジ62を介して筐体20と連結される。ボールネジ62はスクリューを含む回動部62aとナットを含む直動部62bとで構成され、回動部62aはモータ61の回転軸に接続され、直動部62bは筐体20に接続される。
【0076】
モータ61の回転軸が回転すると回動部62aが回転する。この回転動作を受けて直動部62bは上下方向に直線動作する。直動部62bの上下方向の動作に伴い狭帯域化モジュール2は上下方向に動作する。狭帯域化モジュール2はリニアガイド60によって上下方向に案内される。
【0077】
図6(b)で示されるように、後方取付プレート30には上限リミットスイッチ65と下限リミットスイッチ66が設けられる。上限リミットスイッチ65と下限リミットスイッチ66は筐体20の取付面側プレート21の上面位置を検知する。上限リミットスイッチ65は、設定された上限位置に取付面側プレート21の上面が達したことを検知したら、図示しないコントローラにモータ停止信号を出力する。この信号を受けたコントローラはモータ61の動作を停止する。下限リミットスイッチ66は、設定された下限位置に取付面側プレート21の上面が達したことを検知したら、図示しないコントローラにモータ停止信号を出力する。この信号を受けたコントローラはモータ61の動作を停止する。
【0078】
上限リミットスイッチ65で設定される上限位置と下限リミットスイッチ66で設定される下限位置によって、狭帯域化モジュール2の固定位置が決定される。上限位置と下限位置の離隔する長さは、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりも二倍以上長い。
【0079】
狭帯域化モジュール2の固定位置の変更作業に関しては、第1の実施形態で行われるネジの取り付けや取り外し作業が必要なくなり、モータ61の動作と停止のみで行われる。
【0080】
本実施形態では二箇所の固定位置が設けられた例を示したが、その数を特に定める必要はない。N箇所の固定位置が必要な場合は、筐体20の光通過口22やプリズム25やグレーティング26の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりもN倍以上長くすればよく、またリN個のミットスイッチを設ければよい。
【0081】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得られる。さらにモータやリミットスイッチの使用により狭帯域化モジュールの固定位置の変更作業がさらに容易になる。
【実施例3】
【0082】
第1、第2の実施形態では、狭帯域化モジュール2の固定位置が変更されるが、第3の実施形態では、グレーティングの固定位置が変更される。以下では第1、第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0083】
図7は上下方向に変位自在であるグレーティングを内包する狭帯域化モジュールを示す図である。図7では正面から見た断面が示されている。
狭帯域化モジュール72は、台座77に固定されるプリズム75と、台座78に固定されるグレーティング76と、これらを内包する筐体70で構成される。グレーティング76の電極対向方向の長さはビームプロファイルの電極対向方向の長さよりも二倍以上長い。筐体70は後方取付プレート80の所定位置に取り外し自在にして固定される。
【0084】
筐体70の外部にはモータ91が設けられる。モータ91の回転軸はボールネジ92を介してグレーティング76の台座78と連結される。ボールネジ92はスクリューを含む回動部92aとナットを含む直動部92bとで構成され、回動部92aはモータ91の回転軸に接続され、直動部92bは台座78に接続される。ボールネジ92の回動部92aは筐体70に挿通されているため、筐体70の外部のモータ91で筐体70の内部のグレーティング76を上下に変位させることができる。
【0085】
図7では図示されていないが、筐体70の内部には、グレーティング76または台座78またはボールネジ92の回動部92aの何れかの上限位置及び下限位置を検知するリミットセンサが設けられる。
【0086】
ここでグレーティング76の曲率調整について説明する。
狭帯域化モジュール72を構成する際には、所望のプリズム75とグレーティング76とを組み合わせてスペクトルチェックが行われる。
【0087】
まずチェック用の光がプリズム75の光入射領域とグレーティング76の下側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール72を配置する。そして狭帯域化モジュール72内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール72内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング76の回折面の曲率調整を行う。こうすることでプリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0088】
続いてチェック用の光がプリズム75の光入射領域とグレーティング76の上側の光入射領域に入射するように狭帯域化モジュール72を配置する。そして狭帯域化モジュール72内にチェック用の光を出射し、狭帯域化モジュール72内から戻ってくる光のスペクトル特性を計測する。そのスペクトルが所望のスペクトル幅等を有するように必要に応じてグレーティング76の回折面の曲率調整を行う。こうすることでプリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にする。
【0089】
プリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性を最適状態にした場合に、プリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性も最適状態であることが最も好ましい。しかし実際の光学素子は一つの部品名でも特性にばらつき(分布)があるため、必ずしもそうはならない。そのような場合は、プリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせによって得られるスペクトル特性とプリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせによって得られるスペクトル特性の両方が、狭帯域化モジュール72の仕様範囲に入るような調整点を見出せばよい。
【0090】
以上のスペクトルチェックは、狭帯域化モジュール72の出荷に先立ちレーザ製造工場で行われれる。またプリズム75とグレーティング76の上側の組み合わせでのチェックとプリズム75とグレーティング76の下側の組み合わせでのチェックの順序が逆でもよい。
【0091】
本実施形態では二箇所の固定位置が設けられた例を示したが、その数を特に定める必要はない。N箇所の固定位置が必要な場合は、グレーティング76の長さを、レーザ光Lのビームプロファイルの長さよりもN倍以上長くすればよく、またリN個のミットスイッチを設ければよい。
【0092】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得られる。さらにモータやリミットスイッチの使用により狭帯域化モジュールの固定位置の変更作業がさらに容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す正面図である。
【図2】図2は上側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である。
【図3】図3は下側の固定位置に固定された狭帯域化モジュールを示す図である
【図4】図4はプリズムとグレーティングの配置の一例を示す斜視図である。
【図5】図5はグレーティングの曲率調整機構を示す図である。
【図6】図6は上下方向に変位自在である狭帯域化モジュールを示す図である。
【図7】図7は上下方向に変位自在であるグレーティングを内包する狭帯域化モジュールを示す図である。
【図8】図8は狭帯域エキシマレーザ装置の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0094】
1…レーザチャンバ
2、72…狭帯域化モジュール
3…放電電極
18…雄ネジ
20、70…筐体
22…光通過口
24…孔
25、75…プリズム
26、76…グレーティング
30、80…後方取付プレート
32U…上側雌ネジ部
32L…下側雌ネジ部
61、91…モータ
62、92…ボールネジ
62a、92a…回動部
62b、92b…直動部
65…上限リミットスイッチ
66…下限リミットスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有し、また前記レーザチャンバに対して前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在である筐体を備え、
前記開口部、前記プリズム及び前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されていること
を特徴とする紫外線レーザ装置。
【請求項2】
前記筐体を前記電極対向方向に駆動する筐体駆動手段を備えたこと
を特徴とする請求項1記載の紫外線レーザ装置。
【請求項3】
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有する筐体を備え、
前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されており、また前記グレーティング自体が前記筐体内で前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在であること
を特徴とする紫外線レーザ装置。
【請求項4】
前記グレーティングを前記電極対向方向に駆動するグレーティング駆動手段を備えたこと
を特徴とする請求項3記載の紫外線レーザ装置。
【請求項5】
前記グレーティングは、前記電極対向方向に重なる複数のグレーティング群からなること
を特徴とする請求項1、請求項3記載の紫外線レーザ装置。
【請求項1】
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有し、また前記レーザチャンバに対して前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在である筐体を備え、
前記開口部、前記プリズム及び前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されていること
を特徴とする紫外線レーザ装置。
【請求項2】
前記筐体を前記電極対向方向に駆動する筐体駆動手段を備えたこと
を特徴とする請求項1記載の紫外線レーザ装置。
【請求項3】
内部に一対の対向する放電電極と、レーザ媒体とを有するレーザチャンバと、
一以上のプリズムと、互いに平行する複数の溝が形成された回折面を有するグレーティングと、を含む光共振器と、を備え、
前記レーザチャンバから電極対向方向と直交する方向にレーザ光を出射し、当該レーザ光を前記プリズムで拡大して前記グレーティングの回折面に入射し、当該回折面で反射するレーザ光のうち所定波長帯域のレーザ光のみを前記プリズムを介して前記レーザチャンバに戻すようにした紫外線レーザ装置において、
前記電極対向方向と前記プリズムの光拡大方向が直交するように前記プリズムを内包し、また前記電極対向方向と前記グレーティングの溝方向が平行するように前記グレーティングを内包し、またレーザ光が出入する開口部を有する筐体を備え、
前記グレーティングの前記電極対向方向の長さがビームプロファイルの前記電極対向方向の長さの二倍以上長く、また前記グレーティングの回折面に位置する二以上の光入射領域がそれぞれ曲率調整されており、また前記グレーティング自体が前記筐体内で前記電極対向方向に変位自在であって且つ所定位置で固定自在であること
を特徴とする紫外線レーザ装置。
【請求項4】
前記グレーティングを前記電極対向方向に駆動するグレーティング駆動手段を備えたこと
を特徴とする請求項3記載の紫外線レーザ装置。
【請求項5】
前記グレーティングは、前記電極対向方向に重なる複数のグレーティング群からなること
を特徴とする請求項1、請求項3記載の紫外線レーザ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2006−19365(P2006−19365A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193396(P2004−193396)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
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