説明

紫外線硬化型インキ圧送ポンプ用潤滑液

【課題】紫外線硬化型インキ(UVインキ)をスムーズにプランジャーポンプで圧送することと共に、該ポンプで圧送された後のインキの硬化性を維持することを可能とする。
【解決手段】プランジャー11の環状シール14を介して紫外線硬化型インキ16を吸引し排出する室17の反対側に潤滑液18用の室19を有する紫外線硬化型インキ圧送ポンプ10に用いられる潤滑液であって、紫外線硬化型モノマー(UVモノマー)を含有する紫外線硬化型インキ圧送ポンプ用潤滑液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャーの環状シールを介して、紫外線硬化型インキを吸引し排出する室とは反対側に潤滑液用の室を有する紫外線硬化型圧送ポンプに用いられる紫外線硬化型インキ圧送ポンプ用潤滑液に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化型インキ(以下、UVインキという。)は、印刷した後、紫外線を照射して瞬時に硬化させるインキである。UVインキは、発熱等により硬化しやすいため、1〜7MPa付近の圧力を出し得る高圧タイプのポンプで圧送すると、例えばプランジャポンプのピストンの摺動や、ギヤポンプのギヤ同士の咬合などによりせん断力が加わったときにインキが固化してしまい、ポンプで送ることができなくなるという問題がある。
【0003】
せん断力が加わらない低圧タイプ(0.7MPa未満)のポンプとして、ダイヤフラムポンプ、モーノポンプ、サインポンプなどはが知られている。しかし、ダイヤフラムポンプは高圧で送ることは構造上不可能であり、モーノポンプやサインポンプは剪断力をかけずにUVインキを高圧で送ることができると言われているが、高圧で送ろうとすると、軸のシール部に高圧力による強いせん断力がかかり、発熱する。これによりUVインキが固化する。
【0004】
特許文献1には、UVインキはせん断力に敏感であり、これを圧送するため、プランジャーのシールを排出室側の固定位置に設けて液の流動により熱の蓄積を防ぐこと(段落17)と、環状シールの排出室と反対の側でプランジャーが通る側に、溶剤及び、又は潤滑流体用の室を設け、該室内の流体がプランジャーを濡らすようにすること(段落28)が記載されている。
特許文献2には、UVインキをポンプでCCMによる自動計量をしようとすると、作動時の摩擦熱で硬化して使用できないこと(段落03)、自動計量を可能にするため、UVインキを光重合開始剤を含まないインキベースと、光重合開始剤ペーストとに分けて作っておき、印刷の直前に混合すること(段落17)が記載されている。
特許文献3には、左右のプランジャー各々の上下2箇所にオイルシールが設けられると共に、各チャンバーのプランジャーより上方部に第1の洗浄剤を充満させる手段が設けられており、さらに各プランジャーの前記上下オイルシールの間の空間に第2の洗浄剤を吐出する手段が設けられたUVインキ用プランジャーポンプ(段落25、26、27)が記載されている。
【特許文献1】特開平9−88814号公報
【特許文献2】特開2003−327887号公報
【特許文献3】特開2006−001152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、3には潤滑剤、洗浄剤の記載はあるが、その具体例の記載は無い。UVインキ用ポンプの潤滑液として、通常のグリース、オイル等はUVインキの硬化性を阻害する原因になるので使用できない。特許文献2の方法の場合、UVインキに添加される重合開始剤は微量であり、印刷直前に均一に混合することは難しいと考えられる。このように、UVインキを高圧タイプのポンプで圧送するときにUVインキの硬化を防ぐことが可能な潤滑作用のある潤滑液は、従来、知られていない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、紫外線硬化型インキをスムーズにポンプで圧送することを可能にし、かつポンプで圧送された後のUVインキの硬化性を維持することが可能な紫外線硬化型インキ圧送ポンプ用潤滑液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、プランジャーの環状シールを介して紫外線硬化型インキを吸引し排出する室の反対側に潤滑液用の室を有する紫外線硬化型インキ圧送ポンプに用いられる潤滑液であって、該潤滑液が紫外線硬化型モノマーを含有することを特徴とする紫外線硬化型インキ圧送ポンプ用潤滑液を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のUVインキ圧送ポンプ用潤滑液を用いることにより、UVインキをスムーズにポンプで圧送することが可能になるとともに、潤滑液がUVインキの硬化性を阻害することがないので、ポンプで圧送された後のUVインキの硬化性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良の形態について、詳しく説明する。
本発明では、図1に示すように、UVインキを圧送するためのプランジャーポンプとして、プランジャー11の環状シール14を介してUVインキ16を吸引し排出する室17の反対側に潤滑液18用の室19を有するポンプ10を用いる。
【0010】
一般にUVインキは、顔料、樹脂、プレポリマー、モノマー、開始剤を含有し、さらに場合により、ワックス等の添加剤を配合したものである。プレポリマー及びモノマーは、アクリレート類等の紫外線硬化性を有する化合物である。開始剤はプレポリマー及びモノマーの重合を開始する物質である。樹脂は高分子化合物であり、反応性(硬化性)を有するもの、有しないもの、これらの複合である。
【0011】
図1にプランジャーポンプの一例につき、その要部を概略的に示す。プランジャー11は、ピストンロッド12の下端にピストン13が設けられ、該ピストン13の外周面に環状シール14が突設された構成を備える。プランジャー11は、円筒状のバレル15内に収容されており、環状シール14がバレル15の内面に摺接されることで、上下の2室17、19がシールされている。
【0012】
プランジャー11の下方の室17は、UVインキ16を吸引し排出する室17となっており、プランジャー11が上方に移動したときには弁20が開いてUVインキ16が室17内に吸引され、プランジャー11が下方に移動したときにはUVインキ16が室17から排出経路21に排出されるとともに弁20が閉じる構造となっている。
プランジャー11の上方の室19は、潤滑液18用の室19として潤滑液18が入れられており、潤滑液18は、バレル15の内面を濡らすとともに、バレル15の内面に付着したUVインキ16を洗い落とすことができる。
【0013】
本発明の潤滑液18は、紫外線硬化型モノマー(以下、UVモノマーという。)を含有することを特徴とする。UVモノマーは紫外線(UV)で硬化する化合物であり、粘度が低い液体であり、UVインキの配合上は、粘度調整のための溶剤のような役割もある。
【0014】
UVモノマーとしては、一般のUVインキに用いられるUVモノマーから選択して用いることができ、例えば、低分子ポリオールのアクリレート、低分子ポリオールにアルキレンオキサイドを付加してなるポリエーテルポリオールのアクリレート、多塩基カルボン酸を変性したポリエステルポリオールのアクリレートなどが用いられる。
具体的には、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エトキシ3モル変性トリメチロールプロパントリアクリレート(EO3TMPTA)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(POTMPTA)、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA)などを、単独で、又は複数混合して、使用することができる。
【0015】
UVインキが硬化性の遅いタイプのインキ、例えばハイブリッド型のインキであれば、官能基(アクリロイル基)数の少ないUVモノマーや、反応性の低いモノマーを潤滑液として使用できる。このときは重合禁止剤を使わずに、UVモノマー単独でUVインキ圧送ポンプ用潤滑液として使用することができる。
【0016】
また、本発明の潤滑液は、UVモノマーに可塑剤及び/又は重合禁止剤を配合した潤滑組成物により構成することもできる。潤滑液に可塑剤を配合して、UVモノマーの一部を可塑剤に置き換えることで、モノマーの反応性をさらに抑制することができる。UVインキ16が硬化性の高いインキである場合は、硬化抑制効果を高めるために、潤滑液に重合禁止剤を添加し、または可塑剤と重合禁止剤を併用する。
【0017】
ここで重合禁止剤としては、UVインキ中に含有されるプレポリマー、モノマー、及び反応性樹脂の重合を禁止する物質が用いられる。重合禁止剤の具体例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、t−ブチルハイドロキノン(TBHQ)、ハイドロキノン(HQ)等が挙げられる。重合禁止剤を添加する場合、潤滑液中に均一に溶解させる。重合禁止剤の添加量は、ポンプ圧送中にUVインキに混入する潤滑液の混入率(通常0.05%程度)に鑑みて、プランジャーポンプ内におけるUVインキの硬化を抑制できるとともに、印刷等の使用時にUVインキの硬化を妨げない範囲で調整する。UVモノマーに対する重合禁止剤の添加量を例えば3〜10%とすることができる。
【0018】
可塑剤を添加する場合、UVインキに混じってもその硬化性に問題のない(すなわち反応性のない)可塑剤が選ばれる。このような可塑剤の具体例としては、ヘキシルジグリコール、トリデカノール、トリメチルペンタンジオールジイソブチレート(TXIB)等が挙げられる。可塑剤を添加する場合、その添加量は、潤滑液中、5〜10質量%程度までとする。
【0019】
本発明のUVインキ圧送ポンプ用潤滑液を用いることにより、UVインキをスムーズにポンプで圧送することが可能になるとともに、潤滑液がUVインキの硬化性を阻害することがないので、ポンプで圧送された後のUVインキの硬化性を維持することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。また、特に断りのない場合、「%」および「部」は質量基準によるものとする。
【0021】
(実施例1)
ダイキュアハイブライト(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、低反応性UVインキ)をプランジャーポンプにより圧送する際の潤滑液として、プロピレンオキサイド(6モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(POTMPTA(6PO))100%からなる潤滑液(A−1)を使用した。この潤滑液(A−1)をプランジャーポンプの潤滑液用の室に入れてポンプを運転した。この条件にてUVインキを印刷機へと圧送し、印刷を実施したところ、UVインキの変質、硬化によるポンプの動作不良が発生することがなく、印刷時のUVインキの硬化性も良好であった。
【0022】
(実施例2)
ダイキュアハイブライト(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、低反応性UVインキ)をプランジャーポンプにより圧送する際の潤滑液として、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA)90%、ヘキシルジグリコール10%からなる潤滑液(A−2)を使用した。この潤滑液(A−2)をプランジャーポンプの潤滑液用の室に入れてポンプを運転した。この条件にてUVインキを印刷機へと圧送し、印刷を実施したところ、UVインキの変質、硬化によるポンプの動作不良が発生することがなく、印刷時のUVインキの硬化性も良好であった。
【0023】
(実施例3)
ダイキュアハイブライト(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、低反応性UVインキ)をプランジャーポンプにより圧送する際の潤滑液として、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA)90%、トリデカノール10%からなる潤滑液(A−3)を使用した。この潤滑液(A−3)をプランジャーポンプの潤滑液用の室に入れてポンプを運転した。この条件にてUVインキを印刷機へと圧送し、印刷を実施したところ、UVインキの変質、硬化によるポンプの動作不良が発生することがなく、印刷時のUVインキの硬化性も良好であった。
【0024】
(実施例4)
ダイキュアアビリオ(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、高反応性UVインキ)をプランジャーポンプにより圧送する際の潤滑液として、プロピレンオキサイド(6モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(POTMPTA(6PO))95%、2−t−ブチルハイドロキノン(TBHQ)5%からなる潤滑液(A−4)を使用した。この潤滑液(A−4)をプランジャーポンプの潤滑液用の室に入れてポンプを運転した。この条件にてUVインキを印刷機へと圧送し、印刷を実施したところ、UVインキの変質、硬化によるポンプの動作不良が発生することがなく、印刷時のUVインキの硬化性も良好であった。
【0025】
(比較例1)
ダイキュアハイブライト(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、低反応性UVインキ)をプランジャーポンプにより圧送する際の潤滑液として、グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA)100%からなる潤滑液(B−1)を使用した。この潤滑液(B−1)をプランジャーポンプの潤滑液用の室に入れてポンプを運転した。この条件にてUVインキを印刷機へと圧送し、印刷を実施したところ、ポンプ内でUVインキが固化してしまった。
【0026】
(比較例2)
ダイキュアアビリオ(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、高反応性UVインキ)をプランジャーポンプにより圧送する際の潤滑液として、プロピレンオキサイド(6モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(POTMPTA(6PO))100%からなる潤滑液(B−2)を使用した。この潤滑液(B−2)をプランジャーポンプの潤滑液用の室に入れてポンプを運転した。この条件にてUVインキを印刷機へと圧送し、印刷を実施したところ、ポンプ内でUVインキが固化してしまった。
【0027】
(比較例3)
ダイキュアアビリオ(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、高反応性UVインキ)をプランジャーポンプにより圧送する際の潤滑液として、スピンドル油100%からなる潤滑液(B−3)を使用した。この潤滑液(B−3)をプランジャーポンプの潤滑液用の室に入れてポンプを運転した。この条件にてUVインキを印刷機へと圧送し、印刷を実施したところ、ポンプ内でUVインキが固化しないものの、印刷時のUVインキの硬化性が著しく遅くなった。
【0028】
上記の実施例及び比較例にて用いたUVインキと潤滑剤の組み合わせを表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
以上の結果から、プランジャーの環状シールを介してUVインキを吸引し排出する室の反対側に潤滑液用の室を有するUVインキ圧送ポンプを用いてUVインキを圧送する際に、UVインキの反応性に鑑みてUVモノマーを含有する潤滑液を適切に選択し、選択した潤滑液を潤滑液用の室に入れて用いることにより、ポンプ内でのUVインキの固化を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の潤滑液は、プランジャーポンプ(ピストンとシリンダからなるポンプ)でUVインキを圧送するときにおける使用を目的としたものであるが、他のタイプの高圧ポンプで、軸のせん断力や発熱による対策として、軸のシール液(軸部の密閉と潤滑、冷却を兼ねた液)として、本発明の潤滑液を利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の潤滑液を用いたプランジャーポンプの主要部を例示して示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10…紫外線硬化型インキ圧送ポンプ、11…プランジャー、14…環状シール、16…紫外線硬化型インキ(UVインキ)、17…紫外線硬化型インキ用の室、18…潤滑液、19…潤滑液用の室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャーの環状シールを介して紫外線硬化型インキを吸引し排出する室の反対側に潤滑液用の室を有する紫外線硬化型インキ圧送ポンプに用いられる潤滑液であって、該潤滑液が紫外線硬化型モノマーを含有することを特徴とする紫外線硬化型インキ圧送ポンプ用潤滑液。
【請求項2】
前記潤滑液が重合禁止剤を含有する、請求項1に記載の紫外線硬化型インキ圧送ポンプ用潤滑液。

【図1】
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【公開番号】特開2007−291296(P2007−291296A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123478(P2006−123478)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(599132580)ディックテクノ株式会社 (20)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】