説明

紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物および成型用フィルム並びに成型体の製造方法

【課題】 硬度や耐擦傷性に優れ、かつ成形性良好な紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物および成型用フィルム、成型方法を提供する。
【解決手段】 アクリレートとメタクリレートを主成分とする紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物。メタクリレートとしては2〜3官能のメタクリレートを用い、メタクリレートは、アクリレート100重量部に対し、10〜30重量部配合する。この紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物がプラスチックフィルムに塗布・硬化させる。紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物に対して照射を複数回に分けて行い成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物および成型用フィルム並びに成型体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成型用フィルムは一般的にPETフィルム上に熱硬化型樹脂あるいは紫外線硬化型樹脂を塗工したフィルムである。従来から、家電製品のメンブレンスイッチや自動販売機のダミー缶などに使用されてきたが、近年、熱硬化型樹脂と比較し耐擦傷性に優れる紫外線硬化型ハードコート樹脂をPETフィルムに塗工・硬化させた成型用フィルムが普及してきている。また最近では、硬度や耐擦傷性、耐汚染性、光沢感をもたせるため、携帯電話やMP3プレイヤーなどの電子機器筐体へ応用され始めている。
【特許文献1】特開平5−164903号公報
【特許文献2】特開2007−93902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、硬度や耐擦傷性に優れる紫外線硬化型ハードコート樹脂は成形性に乏しいため、比較的平坦な構造体の成型にしか応用ができず、深絞りや複雑な構造の成型時には従来の熱硬化型樹脂やあるいは未塗工のPETフィルムが使用されてきた。このような成型用フィルムでは硬度や耐擦傷性が弱く、容易に傷が入り電子機器の外観を著しく劣化させる要因となっていた。そのため、硬度や耐擦傷性に優れ、かつ成形性良好な紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物および成型用フィルム、成型方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1の発明は、アクリレートとメタクリレートを主成分とすることを特徴とする紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物である。
【0005】
請求項2の発明は、前記メタクリレートが2〜3官能のメタクリレートであることを特徴とする紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物である。
【0006】
請求項3の発明は、前記メタクリレートが、アクリレート100重量部に対し、10〜30重量部配合されてなることを特徴とする紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物である。
【0007】
請求項4の発明は、該紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物がプラスチックフィルムに塗布・硬化されていることを特徴とする成型用フィルムである。
【0008】
請求項5の発明は、該紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物に対して、複数回に分けて紫外線を照射し、硬化させることを特徴とする成型体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬度や耐擦傷性に優れ、かつ成形性良好な紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物および成型用フィルム、成型方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に用いるメタクリレートは、アクリレートの硬化遅延剤として作用し、一段階目の紫外線照射時に適度に硬化し、成型性良好なフィルムを作製できる。また、成型加工後の二段階目の紫外線照射により、表面物性の優れる成型体を作製できる。このように複数回照射することにより成型時に適度な屈曲性があり、成型後には表面物性の高い成型品となる。その配合比は、アクリレート100重量部に対して、メタクリレート10〜30重量部が適している。10重量部未満では遅延効果がなく成形性が悪く、また30重量部を超えると紫外線照射による硬化後もタックが残り、巻取りが困難となる。
【0011】
前記メタクリレートは、アクリレートの硬化遅延剤として作用するが、これは、メタクリレート中のメチル基の共役電子依存性によるものと考えられる。本発明に用いられるメタクリレートは、2あるいは3官能以下のメタクリレートであり、例えば、2官能としては、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1.4−ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1.6−ヘキサンジオールジメタクレート、1.9−ノナンジオールジメタクリレート、1.10−デカンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジメタクリレート、3官能としては、トリメチロールプロパントリメタクリレートやエトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられ、官能基数の多いメタクリレートほど硬化遅延の効果が大きく、特に3官能のメタクリレートを用いることにより、添加量を減らすことができ、表面物性も良好で、好ましい。また、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用しても良い。
【0012】
アクリレートとしては、例えば1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジアクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジアクリレート、アリル化シクロヘキシルジアクリレート、イソシアヌレートジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられ、官能基数の多いアクリレートほど表面硬度が高くなり、好ましい。これらは単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。アクリレートは、モノマーでもプレポリマーであってもよい。
【0013】
共重合の重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォフフィンオキシドなどが挙げられ、市販品としてはIrgacure184、369、651、500、907(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名)などが挙げられる。その他、過酸化物、アゾビス化合物等が挙げられ、過酸化物としては、例えば過酸化ジブチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、クメンハイドロ過酸化物等、アゾビス化合物としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
【0014】
プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッソ樹脂フィルム、ナイロンフィルム、アクリル樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0015】
尚、ハードコート剤との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施すことができる。
【0016】
フィルムへの塗布方法については特に制限はなく、公知の方法、例えば、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。塗布厚みは10〜200μmになるように塗工し、乾燥処理する。
【0017】
紫外線を照射する場合は、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等を用い、100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域で、50〜400mJ/cmのエネルギーを有する紫外線を照射する。硬化阻害を防止するため、窒素ガス等の不活性ガス下で照射を行ってもよい。照射は複数回に分けて行い、1段階目の照射は30〜60mJ/cmで行うことが望ましい。下限に満たないと、硬化が不十分でタックが残り、上限を超えると、強く硬化してしまい、屈曲性・成形性が悪くなる。2段階目以降の照射は300mJ/cm以上で行うことが望ましい。下限に満たないと、硬化が不十分で表面物性が劣る。
【0018】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。
【実施例1】
【0019】
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製 商品名A−DPH 固形分100%)100重量部に対し、トリメチロールプロパントリメタクリレート(新中村化学工業株式会社製 商品名TMPT 固形分100%)10重量部、MEK115重量部を混合し攪拌した。開始剤としてIrgacure184(チバスペシャリティーケミカル株式会社製)を5重量部加え、ハードコート剤を得た。次いで、厚み100μmのPETフィルム(ポリエチレンテレフタレート:東レ株式会社製 ルミラー100U34、商品名)に、硬化後の膜厚が5μmとなるように、ハードコート剤を塗布し、紫外線照射機で50mJ/cmの照射で一段階目の紫外線照射を行い、成型用フィルムを得た。次に、成型用フィルムを金型に押し当て、紫外線照射機で300mJ/cmの照射で二段階目の紫外線照射を行い、成型物を得た。
【実施例2】
【0020】
前記実施例1において、50mJ/cmの一段階目の紫外線照射の代わりに、30mJ/cmの一段階目の紫外線照射した以外は同様にして、成型物を得た。
【実施例3】
【0021】
前記実施例1において、50mJ/cmの一段階目の紫外線照射の代わりに、60mJ/cmの一段階目の紫外線照射した以外は同様にして、成型物を得た。
【実施例4】
【0022】
前記実施例1において、TMPT10重量部の代わりに、20重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【実施例5】
【0023】
前記実施例1において、TMPT10重量部の代わりに、30重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【実施例6】
【0024】
前記実施例1において、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100重量部の代わりに、多官能ウレタンアクリレート(新中村化学工業株式会社製 商品名U−15HA 固形分100%)100重量部を用いた以外は同様に実施して、成型物を得た。
【実施例7】
【0025】
前記実施例3において、TMPT10重量部の代わりに、30重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【実施例8】
【0026】
比較例1
前記実施例1において、エチレングリコールジメタクリレート10重量部の代わりに、5重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0027】
比較例2
前記実施例1において、TMPT10重量部の代わりに、40重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0028】
比較例3
前記実施例3において、TMPT10重量部の代わりに、5重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0029】
比較例4
前記実施例3において、TMPT10重量部の代わりに、40重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0030】
比較例5
前記実施例1において、TMPT10重量部の代わりに、メチルメタクリレート(共栄社化学株式会社 商品名ライトエステルM 固形分100%)10重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0031】
比較例6
前記比較例5において、メチルメタクリレート10重量部の代わりに、30重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0032】
比較例7
前記比較例5において、メチルメタクリレート10重量部の代わりに、40重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0033】
比較例8
前記実施例3において、TMPT0重量部の代わりに、メチルメタクリレート10重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0034】
比較例9
前記比較例8において、メチルメタクリレート10重量部の代わりに、30重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0035】
比較例10
前記比較例8において、メチルメタクリレート10重量部の代わりに、40重量部に変更した以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0036】
比較例11
前記実施例4において、紫外線照射機で50mJ/cmの照射で二段階目の紫外線照射を行わない以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0037】
比較例12
前記実施例4において、50mJ/cmの一段階目の紫外線照射の代わりに、300mJ/cmの一段階目の紫外線照射し、二段階目の紫外線照射を行わない以外は同様に実施して、成型物を得た。
【0038】
結果を表1、2に示す。表中の単位は全て重量部とする。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
試験・評価方法
(1)タック;ハードコート剤を塗布し80℃で2分間乾燥後、紫外線照射機で50mJ/cmの照射で紫外線処理を行い、人差し指で触れて判断。なし:粘着性が全く感じられない、あり:粘着性が感じられる。
(2)鉛筆硬度:斜め45度に固定した鉛筆の真上から1kgの荷重をかけ引っ掻き試験を行った。5回実施し、傷の入らなかった鉛筆の濃度のうち、最も濃い濃度を鉛筆硬度とした。
(3)成形性;金型に押し当てた際に、クラックの有無を目視にて確認。○:クラック無し、×:クラック有り。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリレートとメタクリレートを主成分とする紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物。
【請求項2】
前記メタクリレートが2〜3官能のメタクリレートであることを特徴とする請求項1記載の紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物。
【請求項3】
前記メタクリレートが、アクリレート100重量部に対し、10〜30重量部配合されてなる特徴とする請求項1記載の紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物。
【請求項4】
該紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物がプラスチックフィルムに塗布・硬化されていることを特徴とする成型用フィルム。
【請求項5】
該紫外線硬化型ハードコート樹脂組成物に対して、複数回に分けて紫外線を照射し、硬化させることを特徴とする成型体の製造方法。

【公開番号】特開2009−62401(P2009−62401A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228632(P2007−228632)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】