説明

細径ケーブルハーネス

【課題】捻りによる損傷を防止しつつ薄型化が可能な細径ケーブルハーネスを提供する。
【解決手段】複数群の束部10に分割された複数本の細径ケーブル12と、各群の束部10の細径ケーブル12が挿通された複数本の防水チューブ21と、防水チューブ21の両端が接続された一対の防水キャップ14とを備え、複数本の防水チューブ21の中間部が互いに一体化された一体部31を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の細径ケーブルを束ねた細径ケーブルハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末や小型ビデオカメラなどの精密小型機器は、互いにスライド可能あるいは回動可能に連結された筐体内の回路基板を配線材によって接続している。精密小型機器の配線構造の一例として、2つの筐体と、2つの筐体を連結したヒンジ構造と、ヒンジ構造の内部に配索された防水チューブと、防水チューブに通され、防水チューブの端部から延出し、一方の筐体の内部から他方の筐体の内部に配索された電気信号用ケーブルと、電気信号用ケーブルに巻装されるとともに防水チューブの端部に取り付けられたシールと、シールに巻装された弾性材とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−263285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器のさらなる小型化および薄型化が図られており、ケーブルハーネスの収容スペースがさらに薄く狭くなっている。このため、中間部が1つに丸く束ねられたケーブルハーネスでは、その束ねられた中間部を薄く狭い収容スペースに配線することが困難になる場合があった。
【0005】
この場合、端末部分以外を複数の群に分けてそれぞれ防水チューブに挿通して薄型化を図ることにより、薄く狭い収容スペースへの配線が可能となる。しかし、一方の筐体が他方の筐体に対して回動し、さらに、一方の筐体が平面内で回動する回動筐体を備えた電子機器では、筐体同士の連結箇所でケーブルハーネスが捻られてしまい、防水チューブやその内部の細径ケーブルが損傷してしまうおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、捻りによる損傷を防止しつつ薄型化が可能な細径ケーブルハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明の細径ケーブルハーネスは、複数群の束に分割された複数本の細径ケーブルと、各群の束の前記細径ケーブルが挿通された複数本の防水チューブと、前記防水チューブの両端が接続された一対の防水キャップとを備え、
前記複数本の防水チューブの中間部が互いに一体化された一体部を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の細径ケーブルハーネスは、前記複数本の防水チューブのうち、少なくとも一つの防水チューブが他の防水チューブよりも長いことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数本の細径ケーブルを複数群の束に分割してそれぞれ防水チューブに挿通しているので、薄く狭い収容スペースへの配線が可能であり、薄型化された機器へ容易に配線することができる。また、例えば、互いに回動またはスライドする複数の筐体同士に配線した際に、複数本の防水チューブの中間部で互いに一体化された一体部が筐体同士の連結箇所に配置されるように配線することで、筐体同士の連結箇所における捻りを抑制することができる。したがって、防水チューブやその内部の細径ケーブルの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の細径ケーブルハーネスで接続された携帯電話の正面図であり、(a)は携帯電話の筐体同士を閉じた状態、(b)は携帯電話の筐体同士を開いた状態、(c)は携帯電話の回動筐体を回動させた状態である。
【図2】本発明に係る細径ケーブルハーネスの実施形態の一例を示す平面図である。
【図3】本発明に係る細径ケーブルハーネスの実施形態の他の例を示す平面図である。
【図4】防水チューブが接続された防水キャップの斜視図である。
【図5】防水チューブが接続された防水キャップの断面図である。
【図6】細径ケーブルハーネスを筐体に取り付けた状態を示す断面図である。
【図7】細径ケーブルハーネスを、回動筐体を備えた携帯電話内に配線した例を示す図であって、(a)は回動筐体の回動前における概略裏面図、(b)は回動筐体の回動途中における概略裏面図、(c)は回動筐体の回動後における概略裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る細径ケーブルハーネスの実施形態の例について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の細径ケーブルハーネスは、例えば、図1(a),(b)に示すような携帯電話1などの機器の筐体2,3内の基板に接続されている。この携帯電話1の例では、一方の筐体2にディスプレイが設けられ、他方の筐体3にキー操作部が設けられている。筐体2,3はそれらをつなぐヒンジを軸として回転して開閉する。重ねられた筐体2,3の縦方向にスライドして開閉する構造の場合もある。
【0012】
図1(c)に示すように、一方の筐体2は、筐体本体2Aと、この筐体本体2Aに対して平面内で回動する回動筐体2Bとを備えており、細径ケーブルハーネスの一端は、回動筐体2B内に接続されている。
【0013】
図2に示すように、細径ケーブルハーネス11は、複数本(本実施形態では40本)の細径ケーブル12を有するものであり、これらを複数の群に分けることにより、複数本(本実施形態では10本)ずつに束ねた複数(本実施形態では4つ)の束部10が設けられている。細径ケーブルハーネス11の両端の端末部分では、各束部10の細径ケーブル12が平面状に配列され、携帯電話1の筐体2,3内の配線基板への接続のためのコネクタ13が取り付けられて成端処理されている。
【0014】
細径ケーブル12の各群(束部10)の長さ(各防水チューブ21の長さ)はハーネスの配索形状により決められる。図3に示す細径ケーブルハーネス11Aのように、配索されたときに一番外側に位置する群(防水チューブ21)を長くするとよい。三つ以上の群(防水チューブ21)がある場合、各群とも長さが異なっていてもよい。例えば、曲げて配索する場合の外側に位置する防水チューブ21は、その内側の防水チューブ21より1mm〜2mmの曲げ半径差が生じるようにするのが望ましい。そのため、隣り合う防水チューブ21の線長差を3mm以上6mm以下とすることが望ましい。
【0015】
細径ケーブル12は、中心軸に直交する径方向の断面において、中心から外側に向かって、中心導体、内部絶縁体、外部導体、外被を有する同軸ケーブルである。細径ケーブル12のそれぞれの端部では、端末処理が施されて、外部導体、内部絶縁体、中心導体が段階的に所定長さに露出され、コネクタ13に接続されている。また、細径ケーブルハーネス11には、複数本の同軸ケーブルの他に、外部導体のない絶縁ケーブルが含まれていても良い。なお、図面では、細径ケーブル12の本数を少なく示して簡略化している。
【0016】
本発明でいう細径ケーブル12は、AWG(American Wire Gauge)の規格によるAWG40よりも細い同軸ケーブルであり、その外径は、約0.2mm程度とされている。AWG44よりも細い極細同軸ケーブルを用いるのが望ましい。これにより、細径ケーブルハーネス11は、曲がり易く、筐体2,3が回動またはスライドするときの抵抗を小さくすることができる。また、複数本の細径ケーブル12を束ねて複数の束部10を形成したときに、束部10の厚さを薄くすることができ、限られた配線スペースでの高密度配線が可能となる。
【0017】
細径ケーブルハーネス11の各束部10では、防水チューブ21に各群の複数本の細径ケーブル12がそれぞれ挿通され、各群の各細径ケーブル12同士の位置関係が変化し得る程度に束ねられている。したがって、この細径ケーブルハーネス11を屈曲した際に、防水チューブ21内で細径ケーブル12が円滑に移動するため、各細径ケーブル12への引張力や側圧等の付与が極力抑えられる。
【0018】
防水チューブ21は、防水性に優れ、可撓性及び屈曲性を有するものであり、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン及びフッ化ビニリデンの三元重合体ポリマー(THV)から形成することにより、高い耐久性を有している。この防水チューブ21を構成する三元重合体ポリマーは、融点が100℃以上140℃以下、MFR(メルトフローレート、265℃/5kg)が1.5g/分以上2.5g/分以下、ガラス転位点が0℃以上10℃以下、伸びが600%以上700%以下、曲げ弾性率が0.05GPa以上0.10GPa以下であることが好ましい。
【0019】
防水チューブ21は、外径が1.3mm以下、肉厚が0.1mm以上0.2mm以下とされている。本実施形態の防水チューブ21では、外径が1.3mm、内径が1.1mm、肉厚が0.1mmとされている。
【0020】
また、細径ケーブルハーネス11は、複数本の防水チューブ21の中間部が互いに一体化された一体部31を有している。この一体部31は、複数本のチューブ21を、長手方向の長さ20mmから40mm程度の部分に、樹脂テープ32を巻き付けることにより設けられている。この樹脂テープ32としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)テープに接着剤を塗布したものが使用可能である。この一体部31が筐体2,3をつなぐヒンジ部分に配置される。
【0021】
このように、細径ケーブルハーネス11の一体部31は、複数本の防水チューブ21を、束ねて樹脂テープ32を巻き付けることにより、一括加工で容易にかつ安価に設けることができる。
【0022】
図4及び図5に示すように、各束部10の両端部では、それぞれの防水チューブ21の端部に共通の一対の防水キャップ14が水密的に一括して接続されている。防水キャップ14には、複数の防水チューブ21に対応した複数の挿通孔16が形成されており、これらの挿通孔16に防水チューブ21が取り付けられている。また、防水チューブ21に挿通された各束部10の細径ケーブル12も、防水キャップ14の挿通孔16に挿通されている。
【0023】
防水キャップ14は、シリコーンゴム等の弾性樹脂材料からなり、その硬度(ショアA硬度)は、50度以上70度以下である。本実施形態では、防水キャップ14の硬度が60度とされている。防水チューブ21の外径を1.3mmとした場合、防水キャップ14の挿通孔16の内径は0.95〜1.05mmとする(挿通孔の内径に対する防水チューブの外径は1.2倍から1.4倍となる)のが好ましい。例えば、挿通孔16の内径1.0mmよりも大きい外径1.3mmの防水チューブ21を圧入することにより、防水キャップ14に対して防水チューブ21が水密的に接続される。
【0024】
防水キャップ14の挿通孔16と防水チューブ21との間に接着材(紫外線硬化型、湿気硬化型など)を塗布し、防水キャップ14と防水チューブ21とを接着しても良い。このようにすると、防水キャップ14と防水チューブ21とをより確実に水密的に接続することができる。
【0025】
細径ケーブルハーネス11は、4つの束部10の両端に一つずつ防水キャップ14が接続されている。防水キャップ14より端部側では、4つの束部10の防水チューブ21から延びた複数本の細径ケーブル12が露出されてまとめて平面状に並列され、一端につき一つのコネクタ13が接続されている。
【0026】
また、防水キャップ14の断面外形は長円形状であり、防水キャップ14の外周には、挿通孔16の軸方向でみて両端の部分に、挿通孔16の軸方向と直交する方向に突出した一対の突条15が周方向に連続して形成されている。
【0027】
上記の細径ケーブルハーネス11を携帯電話1やカメラを構成する筐体2,3に装着するには、まず、コネクタ13を細径ケーブル12に取り付ける前に、複数本の細径ケーブル12を防水チューブ21及び防水キャップ14の挿通孔16に通して組み付けておく。そして、コネクタ13を細径ケーブル12に取り付ける。また、複数本の防水チューブ21を束ねて樹脂テープ32を巻き付け、一体部31を形成する。
【0028】
次いで、図6に示すように、防水チューブ21より端部側で露出した細径ケーブル12およびコネクタ13を筐体2の挿通孔2bと筐体3の挿通孔3bにそれぞれ通し、筐体2の嵌合部2aと筐体3の嵌合部3aに、それぞれ束部10の端部の防水キャップ14を嵌め込む。
【0029】
このようにすると、細径ケーブルハーネス11の一体部31が、筐体2,3同士の連結箇所及び筐体2を構成する筐体本体2Aと回動筐体2Bとの連結箇所に配置される。
【0030】
嵌合部2a,3aは、筐体2,3に防水キャップ14が収まるように周囲を壁で囲まれた部分である。嵌合部2a,3aより防水キャップ14の方がやや大きく、防水キャップ14は嵌合部2a,3aに押し込まれて嵌め込まれる。
【0031】
筐体2,3に防水キャップ14が取り付けられる箇所は、防水キャップ14を取り囲む壁面に囲まれた平面視長円形状の嵌合部2a,3aである。嵌合部2a,3aの断面は防水キャップ14の断面よりやや小さく、嵌合部2a,3aに防水キャップ14が圧入されて細径ケーブルハーネス11が筐体2,3に取り付けられる。なお、図6は、筐体2,3の一部を幅方向に断面視したものであり、複数の束部10のうち一つのみが示されているが、この図面の奥行き方向には他の束部10が存在している。
【0032】
防水キャップ14の突条15は、防水キャップ14が取り付けられるときに筐体2,3の嵌合部2a,3aに圧接されて潰れる。この潰れは突条15間の窪んだ箇所に逃げる。突条15は反発力(弾性力)で常に嵌合部2a,3aの壁を押しつけて密着する。これにより、防水キャップ14と筐体2,3とが確実に水密的に接続される。突条15は、防水キャップ14に一体的に成型されているので、別途Oリングを使用する場合よりもコストを抑えることができる。
【0033】
そして、防水キャップ14と防水チューブ21は水密的に接続されているので、筐体2,3に防水キャップ14が上述のように水密的に取り付けられることにより、細径ケーブルハーネス11を伝って筐体2または筐体3の内部(コネクタ13側)に水が浸入することがない。
【0034】
本実施形態の細径ケーブルハーネス11が配線される携帯電話1は、前述したように、相対的に回動して開閉する筐体2,3内の基板に接続されており、一方の筐体2は、筐体本体2Aと、この筐体本体2Aに対して平面内で回動する回動筐体2Bとを備えている。
【0035】
この携帯電話1では、図7(a)に示す状態から回動筐体2Bが回動され、図7(b)に示す状態を経てさらに回動されて、図7(c)に示す状態となる。これにより、回動筐体2Bが筐体本体2Aに対して90度回転される。このような携帯電話1に、複数群の束に分割された複数本の細径ケーブル12の束部10を複数本の防水チューブ21に通した細径ケーブルハーネス11を配線すると、筐体2と筐体3との連結箇所及び筐体本体2Aと回動筐体2Bとの連結箇所で捻られる。
【0036】
本実施形態に係る細径ケーブルハーネス11は、筐体2と筐体3との連結箇所及び筐体本体2Aと回動筐体2Bとの連結箇所に束部10をまとめて一体化した一体部31が配置されているので、束部10同士の捻りが抑制される。
【0037】
このように、本実施形態に係る細径ケーブルハーネス11によれば、複数本の細径ケーブル12を複数群の束部10に分割してそれぞれ防水チューブ21に挿通しているので、薄く狭い収容スペースへの配線が可能であり、薄型化された機器へ容易に配線することができる。また、複数の筐体2,3同士に配線した際に、複数本の防水チューブ21の中間部で互いに一体化された一体部31が互いに回動またはスライドする筐体2,3同士の連結箇所や互いに回動する筐体本体2Aと回動筐体2Bとの連結箇所に配置されるように配線すれば、これらの連結箇所における捻りを抑制することができ、防水チューブ21やその内部の細径ケーブル12の損傷を防止することができる。本構造では、防水チューブ21を複数本にした多バンドル構造であるので、バンドルのねじれが直接伝わらず、各防水チューブ21が互いにらせん状にねじれあって負荷が拡散される。例えば、筐体2,3の回動および筐体本体2Aに対する回動筐体2Bの回動を10万回程度行っても防水チューブ21や内部の細径ケーブル12の損傷を防止することができる。これに対して太い防水チューブ1本をねじった場合、6万回未満で防水チューブが破断した。
【0038】
また、細径ケーブルハーネス11は、両端のコネクタ13によって筐体2,3内の配線基板などに容易に接続することができる。また、細径ケーブル12はシールド性が良好でありノイズ特性に優れているため、安定した信号伝送を行うことができる。
【0039】
また、本実施形態は、コネクタ13を装着せずに、細径ケーブルハーネス11の細径ケーブル12を配線基板へ直接またはFPC(Flexible Printed Circuits)等を介して接続する場合にも適用可能である。
【0040】
細径ケーブル12を配線基板に直付けする場合には、並列させた細径ケーブル12の端末を配線基板に対してフィルムなどで仮止めし、細径ケーブル12の端末の中心導体を配線基板の接続端子に半田付けで接続すればよい。また、端末部分で露出された外部導体は、グランドバーに接続する。このようにすると、細径ケーブル12の各外部導体をグランドバーによってまとめて容易に接地させ、良好なシールド効果を得ることができる。また、各細径ケーブル12の配列ピッチを良好に固定することができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、長手方向の一箇所に一体部31を設けたが、筐体同士の各連結箇所に配置される複数の一体部31を設けても良い。この場合も一つの一体部31はヒンジを通す部分に配置する。
【0042】
また、上記実施形態では、細径ケーブルハーネス11の端部において、4つの群の束部10の防水チューブ21から延びた複数本の細径ケーブル12を平面状に並列させて一つのコネクタ13に接続したが、複数のコネクタ13に分けて接続しても良い。
【符号の説明】
【0043】
10:束部(束)、11:細径ケーブルハーネス、12:細径ケーブル、14:防水チューブ、21:防水キャップ、31:一体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数群の束に分割された複数本の細径ケーブルと、各群の束の前記細径ケーブルが挿通された複数本の防水チューブと、前記防水チューブの両端が接続された一対の防水キャップとを備え、
前記複数本の防水チューブの中間部が互いに一体化された一体部を有することを特徴とする細径ケーブルハーネス。
【請求項2】
前記複数本の防水チューブのうち、少なくとも一つの防水チューブが他の防水チューブよりも長いことを特徴とする請求項1に記載の細径ケーブルハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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