説明

細胞におけるIcrac活性の根底にあるタンパク質の機能同定

本発明は、細胞におけるIcrac活性の根底にあるCRACM相同体のアイデンティティを決定するための方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、すべての目的のために全体として参照により本明細書に組み入れられている、2007年3月23日に出願された米国仮特許出願第60/896,572号の出願日の利益を主張する。
【0002】
[0002] 本発明は、一般的に、CRACM相同体および細胞におけるIcrac活性に関する。特に、本発明は、細胞におけるIcrac活性に寄与するCRACM相同体のアイデンティティを決定するための方法および組成物を提供する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 多くの細胞型において、ストア作動性Ca2+流入は、細胞内ストアからのCa2+のIP媒介性放出に続く細胞内Ca2+の長時間持続上昇の根底にある主要な(それだけではないとすれば)機構を表す。以前の研究によって、ER内腔Ca2+濃度のセンサーとしてのSTIM1、および形質膜におけるカルシウム放出活性化カルシウム(CRAC)チャネルとしてのCRACM1(またはOrai1)が同定されている。Ca2+ストア枯渇によって、STIM1は、形質膜下の小胞構造(点状構造)へと転位置し、そこで、CRACM1の多量体集合物に結合して、それを活性化する可能性がある。個々にではなく、一緒に過剰発現した場合、STIM1およびCRACM1は、大きなCRAC電流を再構成する。以下の3つの哺乳動物相同性CRACチャネルタンパク質がある:CRACM1、CRACM2、およびCRACM3。CRACM2は、STIM1と共発現した場合、ストア作動性Ca2+流入を増強し、大きなCRAC電流を生じることが示されている。同じ研究により、CRACM3がストア作動性Ca2+流入を増強せず、電流が観察されなかったことが見出されたが、CRACM1がsiRNAによってノックダウンされた場合、明らかに、そのタンパク質は、ストア作動性Ca2+流入を正常レベルまで回復させた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0004] ストア作動性カルシウム流入は、細胞機能の遍在性要素であり、CRACチャネルは、幅広い種類の細胞過程にとって重要である。CRACチャネル相同体は、別々の電気生理学的および薬理学的特性を示し、したがって、異なる細胞におけるIcrac活性に寄与するCRACチャネルのアイデンティティを決定するための方法およびアッセイの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[0005] したがって、本発明は、細胞におけるIcrac活性への異なるCRACMチャネルの寄与を決定するためのアッセイ、組成物、および方法を提供する。
【0006】
[0006] 一態様において、本発明は、細胞におけるIcrac活性へのCRACM1の寄与を決定するためのアッセイを提供する。アッセイは、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態(不活性化速度論)、活性化動態(活性化速度論)、およびカルシウム流入の測定を含む。本発明の一実施形態において、Icrac不活性化動態の遅い不活性化相のカルシウム依存性抑制は、前記細胞のIcrac活性へのCRACM1の寄与を示す。
【0007】
[0007] 別の態様において、本発明は、細胞におけるIcrac活性へのCRACM2の寄与を決定するためのアッセイを提供する。アッセイは、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態、活性化動態、およびカルシウム流入の測定を含む。本発明の一実施形態において、Icrac不活性化動態の遅い不活性化相のカルシウム依存性抑制は、前記細胞のIcrac活性へのCRACM2の寄与を示す。
【0008】
[0008] さらに別の態様において、本発明は、細胞におけるIcrac活性へのCRACM3の寄与を決定するためのアッセイを提供する。アッセイは、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態、活性化動態、およびカルシウム流入の測定を含む。本発明の一実施形態において、Icrac不活性化動態の遅い不活性化相のカルシウム依存性抑制は、前記細胞のIcrac活性へのCRACM3の寄与を示す。
【0009】
[0009] 一態様において、本発明は、細胞のIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、およびCRACM3の寄与を決定するためのアッセイであって、前記Icrac活性のイオン選択性を測定することを含むアッセイを提供する。
【0010】
[0010] 別の態様において、本発明は、細胞のIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、およびCRACM3の寄与を決定するためのアッセイであって、2−APBの存在下においてIcrac活性を測定することを含むアッセイを提供する。
【0011】
[0011] 好ましい態様において、細胞におけるIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、およびCRACM3の寄与は、表Iに記載されているように、Icrac活性の機能特性の組合せの測定を用いて決定される。
【0012】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】[0012](A)CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、およびCRACM3(「3」で示す)を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞におけるIP(20μM)によって誘導される−80mVでの平均CRAC電流密度を示すグラフである。白丸は、3つの相同体の野生型構築物+CRACM1のドミナントネガティブなE106Q突然変異体(CRACM1-E106Q+CRACM1 n=6+CRACM2 n=6+CRACM3 n=7)を同時トランスフェクトされた細胞を表す。[Ca2+は、20mM BAPTAでほぼゼロに固定された。(B)120秒時点で得られる、パネルAに示された代表的なHEK293細胞から抽出されたCRAC電流の平均電流電圧(I/V)関係を示すグラフである。データは、CRACM1、CRACM2、およびCRACM3に対応する、−150mVから+150mVへの50m秒間ランプ電位によって誘起された、漏洩を引き算した電流密度(pA/pF)を表す。点線は、CRACM2 I/VおよびCRACM3 I/Vに対応するが、−140mVでのCRACM1振幅に一致するようにスケーリングされている。(C)CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、およびCRACM3(「3」で示す)を発現する細胞における、20mM BAPTAを用い、かつIPを取り除いての受動的ストア枯渇後の平均CRAC電流密度を示すグラフである。電流は、パネルAのように分析された。(D)実験における300秒時点での、パネルCに示された代表的なHEK293細胞から抽出された平均I/Vトレースを示すグラフである。トレースは、CRACM1、CRACM2、およびCRACM3に対応する。
【図2】[0013](A)CRACM1;(B)CRACM2;(C)CRACM3を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞における、10mM EGTAと共にIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均CRAC電流密度を示すグラフである。(D)発現する細胞において−20mV、−40mV、−60mV、および−80mVへのステップパルス(2秒間持続)によって誘起された平均CRAC電流を示すグラフである。各パルスの初めにおいて、残存する容量性アーチファクトを排除するために2.5m秒間を削除してブランクとした。(E)CRACM2を発現する細胞において−20mVから−80mVまでのステップパルスによって誘起された平均CRAC電流を示すグラフである。(F)CRACM3を発現する細胞において−20mVから−80mVまでのステップパルスによって誘起された平均CRAC電流を示すグラフである。
【図3】[0014](A)CRACM1発現細胞;(B)CRACM2発現細胞;(C)CRACM3発現細胞を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞においてIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均CRAC電流密度を示すグラフである。(D)パネルA〜Cに示された細胞から120秒(CRACM3については150秒)時点で抽出されて、[Ca2+に対してプロットされた、−80mVにおけるCRACM1(黒色)、CRACM2(青色)、およびCRACM3(赤色)の平均電流密度を示すグラフである。(E)[Ca2+に対してプロットされた、CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、およびCRACM3(「3」で示す)の最大半量活性化時間を示すグラフである。データは、パネルA〜Cに示された細胞から導かれた。(F)空ベクターをトランスフェクトされた(緑色、n=14)、またはCRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、もしくはCRACM3(「3」で示す)を一過性に過剰発現する、STIM1安定発現HEK293細胞においてストア枯渇によって誘導された[Ca2+の平均変化を示すグラフである。矢印は、ストア枯渇を誘導するためのCa2+を含まない溶液におけるタプシガルジン(2μM)の投与、およびCa2+流入を探索するための2mM Ca2+の再進入を示す。挿入図は、四角形で囲まれたトレース区域を微分することによって得られる[Ca2+の速度を表す。
【図4】[0015](A)CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、またはCRACM3(「3」で示す)を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞においてIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均正規化CRAC電流を示すグラフである。個々の細胞の電流は、120秒時点での溶液変化前の電流に対して正規化された(I/I120s)。[Ca2+は、20mM BAPTAでほぼゼロに固定された。バーは、名目上Ca2+を含まない外液の投与を示す。(B)120秒および180秒時点で得られるパネルAに示された代表的な細胞から抽出されたCRACM2電流の平均I/V関係(n=7)を示すグラフである。データは、−150mVから+150mVへの50m秒間ランプ電位によって誘起された、漏洩を引き算した電流密度(pA/pF)を表す。(C)実験における120秒および180秒時点でのパネルAに示された代表的な細胞から抽出されたCRACM3電流の平均I/V関係(n=9)を示すグラフである。(D)CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、またはCRACM3(「3」で示す)を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞においてIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均正規化CRAC電流(I/I120s)を示すグラフである。バーは、Naの存在下で10mM Ba2+を含む外液の投与を示す。(E)CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、またはCRACM3(「3」で示す)を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞においてIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均正規化CRAC電流(I/I120s)を示すグラフである。バーは、外部NaがTEAに置換されている、10mM Ba2+を含む外液の投与を示す。(F)CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、またはCRACM3(「3」で示す)を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞においてIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均正規化CRAC電流(I/I120s)を示すグラフである。バーは、二価を含まない外液の投与を示す。(G)CRACM1(「1」で示す)、CRACM2(「2」で示す)、またはCRACM3(「3」で示す)を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞においてIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均正規化CRAC電流(I/I120s)を示すグラフである。バーは、50μM 2−APBを含む外液の投与を示す。
【図5】[0016](A)CRACM3を一過性に過剰発現するSTIM1安定発現HEK293細胞において10mM EGTAと共にIP(20μM)によって誘導された−80mVでの平均CRAC電流密度(n=3)を示すグラフである。0.5Hzのペースで送達される50m秒間かけて−100mV〜+100mVに及ぶランプ電位によるCRAC電流が、連続的にモニターされた。CRAC電流が完全に活性化された後(120秒)、2秒間持続の矩形電圧パルスを−80mVへと送達した(パネルB参照)。その後、細胞を、二価を含まない細胞外液に曝露し、別の電圧パルスを印加した。(B)10mM Ca2+の存在下(黒色)、およびDVF溶液中において−80mVへのステップパルス(2秒間持続)によって誘起された平均CRAC電流(n=3、パネルAと同じ細胞)を示すグラフである。DVF溶液中における不活性化の減少に注目されたい。
【図6】[0017]CRACM3のストア非依存性およびSTIM非依存性活性化を示すグラフである。(A)CRACM3のみ(STIM1なし)を過剰発現するHEK293細胞において測定されたCRAC電流の正規化平均時間経過。個々の細胞の電流については、−80mVおよび+80mVにおいて測定し、細胞静電容量によって正規化し、平均し、時間に対してプロットした(n=6±S.E.M.)。細胞質カルシウムについては、20mM BAPTAおよび20μM IPでほぼゼロに固定した。(B)CRACM3のストア非依存性およびSTIM非依存性活性化を示すグラフである。実験における180秒時点でのパネルAに示された代表的なHEK293細胞から抽出されたCRAC電流の平均電流電圧(I/V)関係。データは、細胞静電容量(pF)に対して正規化された、−150mVから+150mVへの50m秒間ランプ電位によって誘起された、漏洩を引き算した電流を表す。
【図7】[0018]CRACM1ポア突然変異体を介する2−APB誘導性電流を示すグラフである。(A)CRACM1−E106Dを一過性に過剰発現するHEK293野生型細胞における−80mV(黒色)、+80mV(白丸)、および+130mV(赤色)での平均正規化CRAC電流。内液は、150nM Ca2+に緩衝された。バーは、50μM 2−APBを含む外液の投与を示す(n=5)。(B)CRACM1ポア突然変異体を介する2−APB誘導性電流を示すグラフである。2−APB投与前およびCRAC再活性化中のパネルAに示されたデータセットについての例のI/V曲線。(C)CRACM1ポア突然変異体を介する2−APB誘導性電流を示すグラフである。STIM1を安定に発現し、かつCRACM1−E190Aを一過性に過剰発現するHEK293における−80mV(黒色)、+80mV(白丸)、および+130mV(赤色)での平均正規化CRAC電流。内液は、20μM IPを含んだ。バーは、50μM 2−APBを含む外液の投与を示す(n=9)。(D)CRACM1ポア突然変異体を介する2−APB誘導性電流を示すグラフである。2−APB投与前およびCRAC電流促進のピークにおけるパネルCに示されたデータセットについての例のI/V曲線。(E)CRACM1ポア突然変異体を介する2−APB誘導性電流を示すグラフである。CRACM1−E190Aを一過性に過剰発現するHEK293野生型細胞における−80mV(黒色)、+80mV(白丸)、および+130mV(赤色)での平均正規化CRAC電流。内液は、150nM Ca2+に緩衝された。バーは、50μM 2−APBを含む外液の投与を示す(n=8)。(F)CRACM1ポア突然変異体を介する2−APB誘導性電流を示すグラフである。2−APB投与前およびCRAC電流促進のピークにおけるパネルAに示されたデータセットについての例のI/V曲線。
【発明を実施するための形態】
【0014】
略語
[0019] 「2−APB」は、2−アミノエトキシジフェニルボレートを表す。
【0015】
[0020] 「IP」は、イノシトール1,4,5−三リン酸を表す。
【0016】
[0021] 「STIM1」は、ストローマ相互作用分子1を表す。同様に、「STIM2」はストローマ相互作用分子2を表す。
【0017】
[0022] 「CRACチャネル」は、カルシウム放出活性化Ca2+チャネルを表す。
【0018】
定義
[0023] 単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明らかに他の意味を示す場合を除き、複数形の言及を含む。したがって、例えば、「1つの薬物(a drug)」を送達するための組成物への言及は、1つ、2つ、またはそれ以上の薬物への言及を含む。
【0019】
[0024] 用語「Icrac活性」は、カルシウム放出活性化電流活性を表し、電気生理学およびカルシウムイメージングを含む、当技術分野において知られている方法を用いて測定することができる。Icrac活性は、細胞における1つまたは複数のCRACチャネル相同体の活性に起因する可能性がある。
【0020】
[0025] CRACM相同体活性に「影響すること」という用語は、一般的に、相同体のゲーティング、透過性、選択性、および/または発現への任意の変化を表すために、本明細書で用いられる。
【0021】
導入
[0026] CRACチャネルタンパク質は、すべての細胞型の遍在性特徴であり、異なる細胞におけるIcrac活性の根底にあるCRACチャネル相同体を同定する能力は、細胞内カルシウム制御の研究のための診断ツールを提供するだろう。したがって、本発明は、細胞におけるIcrac活性の根底にあるCRACM相同体の機能同定のためのアッセイおよび方法を提供する。
【0022】
[0027] CRACMチャネルは、例えばIPの投与による急速なCa2+ストア枯渇により、および、例えばBAPTAなどのキレート剤、またはタプシガルジンなどの筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ(SERCA)阻害剤の投与による受動的ストア枯渇により、活性化することができる。これらのチャネル相同体による、活性化および不活性化の動態、ならびにカルシウム流入の調節は、電気生理学およびカルシウムイメージングなどの当技術分野において知られている技術を用いてモニターおよび測定することができる。
【0023】
CRACM相同体の活性化動態および不活性化動態
[0028] 例えばIP3の投与による、急速なカルシウムストア枯渇に反応して活性化されるCRAC電流は、典型的には、内向き整流性電流電圧関係を示す。これらの電流の活性化の動態の測定を本発明に従って用いて、Icrac活性への異なるCRACM相同体の寄与を識別することができる。
【0024】
[0029] HEK293細胞において異種性に発現する場合、−80mVにおけるCRACM2およびCRACM3の平均電流振幅は、対応するCRACM1の振幅の約3分の1であるが、それでもなお、HEK293細胞における自然CRAC電流の約20倍である。CRACM相同体の活性化動態は、明瞭な差異を示し、CRACM1の最大半量活性化時間(±s.e.m)=35±7秒(n=12)、CRACM2=21±3秒(n=8)、およびCRACM3=63±7秒(n=9)である(図3Eも参照)。したがって、本発明によれば、細胞におけるIcrac活性の活性化動態の測定は、1つまたは複数のCRACM相同体の寄与を決定するために用いることができる。
【0025】
[0030] CRAC電流は、一般的に、2相の不活性化動態を示し、その2相とは、何十秒間もかけて起こる「遅い不活性化」相と、ミリ秒範囲で起こる「速い不活性化」相である。そのような動態は、細胞内カルシウムのレベルに依存しうる。例えば、過分極パルスが、完全に活性化されたCRACチャネルに印加されると、電流振幅の速い降下が、CRACM2およびCRACM3などのいくつかの相同体で見られ、それは、速い不活性化によるものである。一連の過分極パルスが印加された場合には、CRACM1の電流振幅は、ある程度、遅い不活性化過程のせいもあって、何十秒間もかけて、ゆっくり減衰し、ゆっくり回復するが(図3参照)、CRACM2およびCRACM3の電流振幅はそうではない。CRACM1の場合、一連の過分極パルスから生じる遅い不活性化は、約100秒間かけてCRAC電流の50%低下を生じうる。しかしながら、CRACM2またはCRACM3を発現する細胞においての同様の実験プロトコールは、CRACM1で見られた遅い不活性化動態を誘発せず、ある程度の速い不活性化相だけが明白である。したがって、本発明は、不活性化動態および不活性化動態のカルシウム依存性の測定に基づいて、細胞におけるIcrac活性への異なるCRACM相同体の寄与を同定するためのアッセイおよび方法を提供する。
【0026】
[0031] 一態様において、本発明は、細胞におけるIcrac活性へのCRACM2の寄与を決定するためのアッセイを提供する。アッセイは、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態、活性化動態、および/またはカルシウム流入の測定を含む。本発明の一実施形態において、Icrac動態(Icrac速度論)の中程度の速いカルシウム依存性不活性化は、前記細胞のIcrac活性へのCRACM2の寄与を示す。本明細書に用いられる場合、中程度の速い不活性化とは、約40%から約50%までの電流振幅の低下を生じる速い不活性化を表す。本発明の好ましい実施形態において、遅いカルシウム誘導性不活性化の欠如および中程度の速い不活性化は、前記細胞のIcrac活性へのCRACM2の寄与を示す。
【0027】
[0032] 別の態様において、本発明は、細胞におけるIcrac活性へのCRACM3の寄与を決定するためのアッセイを提供する。アッセイは、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態、活性化動態、およびカルシウム流入の測定を含む。本発明の一実施形態において、Icrac不活性化動態の強度の速いカルシウム依存性不活性化相は、前記細胞のIcrac活性へのCRACM3の寄与を示す。本発明のさらなる実施形態において、不活性化動態を測定することは、前記不活性化動態のカルシウム依存性を測定することを含み、遅いカルシウム誘導性不活性化の欠如、および強度の速い不活性化は、前記細胞のIcrac活性へのCRACM3の寄与を示す。本明細書に用いられる場合、強度の速い不活性化とは、約70%から約80%までの電流振幅の低下を生じる速い不活性化を表す。別の実施形態において、本発明は、STIM1の非存在下における細胞のIcrac活性へのCRACM3の寄与を決定するためのアッセイを提供する。
【0028】
CRACM相同体のイオン選択性
[0033] 突然変異分析により、膜貫通セグメント1におけるグルタミン酸残基106位および膜貫通セグメント3におけるグルタミン酸残基190位を含む、CRAC電流の選択性を決定するCRACM1におけるいくつかの重要なアミノ酸があることが示されている。これらの残基は、チャネルのポアを裏打ちする負荷電アミノ酸の環を形成すると考えられており、グルタミン酸106位および190位は両方とも、すべての3つのCRACM相同体に保存されている。
【0029】
[0034] 膜貫通セグメント1と膜貫通セグメント2の間のループにおける別の領域もまた、CRACM1のイオン選択性に影響する。この領域は、負電荷の第2の環を形成して、ポアにおいて第2のCa2+イオンを配位する可能性がある3つの重要なアスパラギン酸残基(D110/D112/D114)を有する。これらの残基は、3つの相同体間で異なっており、CRACM2はE110/Q112/Q114を有し、CRACM3はE110/D112/E114を有する。これらの差異は、相同体の選択性プロフィールの差異の基礎をなす可能性がある。3つの相同体は、Naと比較したCa2+について類似したカルシウム選択性を示すが、すべての二価陽イオンが除去された場合、3つの相同体は、電荷担体としてのNaに対するそれらの透過性に差異を示す。すべての陽イオンが除去され、さらに、10mM EDTAが、残留するいかなる陽イオンもキレート化するために投与された場合、CRACチャネルは、Naに対して透過性になり、典型的には、CRACM1を過剰発現するHEK293細胞において、内向き電流の2倍の増加を生じる。同じ実験プロトコールにより、わずかに大きいCRACM2電流が生じ、CRACM3は、有意により大きい一価電流を発生する。
【0030】
[0035] 一態様において、本発明は、細胞のIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、およびCRACM3の寄与を決定するためのアッセイであって、前記Icrac活性のイオン選択性を測定することを含むアッセイを提供する。好ましい実施形態において、Naが電荷担体である場合のIcrac活性のレベルは、前記Icrac活性へのCRACM1、CRACM2、CRACM3、またはそれらのいくつかの組合せの寄与のレベルを示す。
【0031】
CRACM相同体のヘテロ多量体
[0036] CRACM1は、多量体チャネル複合体を形成することが示されている。CRACM1の非導電性ポア突然変異(E106Q)は、天然CRACチャネルにドミナントネガティブな表現型を与え、他のCRACM相同体がCRACM1と多量体を形成することができるかどうかを確立するために用いることができる。過剰発現のCRACM1−E106Qを等量で野生型CRACM2およびCRACM3と組み合わせることが、いずれのCRACM相同体に運ばれるCRAC電流も本質的に消失させ、チャネル相同体がヘテロ多量体を形成することができることを示唆する。(図1参照)。これらのヘテロ多量体の動態(速度論)およびカルシウム流入活性は、本発明に従って用いて、細胞におけるIcrac活性への異なるCRACM相同体およびCRACMヘテロ多量体の寄与を同定することができる。一実施形態において、本発明のアッセイは、天然細胞におけるIcrac活性の根底にある異なるCRACM相同体の寄与を決定するために、天然細胞におけるIcrac活性に対する、細胞系で異種性に発現したCRACMヘテロ多量体の活性の比較を含む。さらなる実施形態において、このアッセイは、異種性に発現したCRACM相同体とヘテロ多量体との間でのイオン選択性、ゲーティング、薬理学、および透過性の比較、ならびに天然細胞におけるIcrac活性を含む。
【0032】
CRACM相同体の薬理学
[0037] 細胞におけるIcrac活性への異なるCRACM相同体の寄与を同定および分析するための1つの方法は、薬理学を利用することである。本発明の一態様において、異なる相同体に異なる様式で影響する薬理学的物質は、細胞におけるIcrac活性への1つまたは複数の相同体の影響を決定するために用いることができる。
【0033】
[0038] 一態様において、2−アミノエトキシジフェニルボレート(2−APB)を、細胞におけるIcrac活性への異なるCRACM相同体の寄与を同定および分析するためのツールとして用いる。2−APBは、低用量(≦5μM)でCRACM1電流に促進効果を生じるが、高用量(≧10μM)でそれらを抑制する化合物であり、50μM 2−APBでCRACM1の完全な抑制が見られる。しかしながら、CRACM2は、2−APB媒介性抑制に対して有意に感受性が低く、CRACM3は、同じ範囲の2−APB濃度に関して2−APBによって驚くほど大きく増強される。
【0034】
[0039] 一態様において、本発明は、2−APBの存在下においてIcrac活性を測定することを含む、細胞のIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、およびCRACM3の寄与を決定するためのアッセイを提供する。2−APBの存在下におけるIcrac電流の増強は、前記Icrac活性へのCRACM3の寄与を示す。本発明の一実施形態において、5μM以下の濃度の2−APBにおけるIcrac電流の増強および10μM以上の2−APBの存在下におけるIcrac電流の抑制は、前記Icrac活性へのCRACM1の寄与を示す。
【0035】
[0040] STIM1過剰発現がない場合、CRAC電流は、ストアが枯渇した場合でさえも、典型的には1pA/pF未満である。しかしながら、50μM 2−APBは、CRACM3チャネルを直接活性化することによって大きなCRAC電流を活性化することができる。IPの非存在下で、かつストア枯渇を避けるために細胞内Ca2+を150nMに緩衝している場合、同様の反応を誘起することができる(n=6、データは示さず)。このゆえに、2−APB誘導性電流は、ストア非依存性およびSTIM非依存性である。この機構を利用して、STIM過剰発現なしにCRACM3を活性化すること、および薬物スクリーニングを目的として電流またはCa2+シグナルを測定することができる。
【0036】
[0041] さらなる態様において、2−APBは、CRACチャネルの選択性を変化させることによってIcracの活性およびその構成要素CRACM相同体を評価するために用いることができる。一実施形態において、2−APBの投与は、CRACM3の選択性を変化させる(図6参照)。本発明の一態様において、2−APBを用いてCRACM相同体の選択性を変化させることにより、Na指示薬または電位感受性色素を用いて、細胞におけるIcrac活性への異なるCRACM相同体の寄与をさらに同定することが可能になる。例えば、2−APB誘起性CRACM3電流は、+30mVの逆転電位で、負および正の膜電位において強い整流を示す(図6D参照)。通常、CRAC電流は、Ca2+選択性が高く、かつKまたはCsに対する透過性が低く、その結果として、正の逆転電位を生じる。しかしながら、細胞が2−APBに曝露された場合にCRACM3で観察される外向き電流は、一価Cs透過の有意な増加および逆転電位の大きなシフトを示す。
【0037】
[0042] さらなる態様において、本発明は、2−APBの類似体に反応してのCRACM相同体活性についてのアッセイを提供する。そのような類似体は、当技術分野において知られており、例えば、オキサザボロリジン環への置換基(メチル、ジメチル、tert-ブチル、フェニル、メチルフェニル、およびピリジル)に変化を有する類似体、およびオキサザボロリジン環のサイズが7員環および9員環に増加している類似体がある。本発明に従って用いることができる他の類似体2−APBには、フェノールフタレインおよびフェノールフタレイン誘導体などの構造類似体が挙げられる。
【0038】
CRACチャネルおよび疾患
[0043] 限定されるわけではないが、免疫不全症、神経学的疾患、および心血管疾患を含むいくつかの疾患は、CRACチャネルにおける突然変異と関連している。例えば、CRACチャネルの重要な構成要素における突然変異がTリンパ球機能障害および重症複合型免疫不全症(SCID)を引き起こすという遺伝的欠陥が記載されている。(Partisetiら、J Biol. Chem.(1994)269:32327-35; Feskeら、Nature(2006)441:179-85)。これらの疾患および他のCRAC関連疾患の研究、診断、および処置における強力なツールは、(1)これらの疾患状態においてのIcrac活性の根底にあるCRACチャネル相同体、および(2)そのようなCRACチャネルを調節する作用物質を同定する能力である。
【0039】
[0044] 本発明によれば、疾患に関連した細胞におけるIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、および/またはCRACM3の寄与を同定することができるアッセイが提供される。好ましい実施形態において、アッセイは、Icrac活性、特に、活性化動態、不活性化動態、カルシウム流入、イオン選択性、および透過を測定することを含む。さらなる実施形態において、アッセイは、相同体への2−APBの示差的な薬理学的効果を測定することを含む。
【0040】
[0045] 本発明は、以下の非限定的実施例を参照することによって、よりよく理解することができ、その実施例は、本発明の例示として提供される。以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をより十分に説明するために提示されるが、決して、本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0041】
実施例I CRACM相同体の異種性発現
[0046] CRACMタンパク質の機能特性を評価するために、すべての3つのCRACM種をHEK293細胞に過剰発現させた。20μM イノシトール1,4,5−三リン酸(IP3)による急速なCa2ストア枯渇に反応してのCRAC電流、およびストアからのCa2漏洩に依存するより遅いストア枯渇を生じる、細胞の20mM BAPTAでの灌流による受動的ストア枯渇後のCRAC電流を測定した。完全長ヒトCRACM1(アクセッション番号NM_032790)およびCRACM1−E106Qを記載されているようにサブクローン化した。完全長ヒトCRACM2(アクセッション番号NM_032831)およびCRACM3(アクセッション番号NM_152288)を、高忠実性Pfu Ultra High Fidelityポリメラーゼ(Stratagene)を用いてcDNA(Origeneから購入)から増幅し、pCAGGS−IRES−GFPベクターへサブクローン化した。リボソーム結合部位ACC GCC ACCおよびHA−タグを、CRACM2 cDNAおよびCRACM3 cDNAの開始コドンの5’側すぐにインフレームで導入し、引き続いて、緑色蛍光タンパク質(GFP)と共にCRACM2およびCRACM3の一過性のジシストロニックな発現としてpCAGGS−IRES−GFPへクローン化した。リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、STIM1を安定に発現するHEK293細胞にCRACMタンパク質を過剰発現させ、GFP発現細胞を蛍光によって選択した。
【0042】
[0047] パッチクランプ実験を、21〜25℃において、密封ホールセル記録で行った。EPC−9(HEKA)を用いて高分解能電流記録が得られた。0mVの保持電位から、−150mV〜+150mVの範囲に及ぶ50m秒間持続のランプ電位を100〜300秒間にわたり0.5Hzのペースで送達した。すべての電位を、10mVの液界電位に対して補正した。電流を2.9kHzでフィルタリングし、100μ秒間隔でデジタル化した。容量性電流を決定し、各ランプ電位の前に補正した。個々のランプ電流記録から−80mVにおける電流振幅を抽出することによって、電流の低分解能時間的推移を評価した。適用可能な場合には、平均データの統計誤差を、n個の測定値に関して平均±S.E.M.として与える。標準外液は以下のとおりであった(mMで):120 NaCl、2 MgCl、10 CaCl、10 TEA−Cl、10 HEPES、10 グルコース、pH7.2(NaOHで調整)、300 mOsm。一部の実験において、Naを含まない溶液を投与し、その溶液においては、NaClを等モルで塩化テトラエチルアンモニウム(TEA−Cl)に置換した。Ca2+を含まない外液について、CaClを取り除いたが、Mg2+を保持した。二価を含まない外液(DVF)は、標準外液に基づいていたが、CaClおよびMgClの非存在下で、かつ追加として10mM EDTAが補充された。二価置換溶液は、標準外液に基づいていたが、10mM CaClが10mM BaClに置換された。一部の実験において、2−アミノエチルジフェニルボレート(2−APB)を標準外液に50μMの最終濃度で加えた。標準内液は、以下のとおりであった(mMで):120 Cs−グルタミン酸、20 Cs−BAPTA、3 MgCl、10 HEPES、0.02 IP、pH7.2(CsOHで調整)、300 mOsm。図2の実験においては、10mM EGTAが用いられ、図3においては、20mM Cs−BAPTAおよびWebMaxCで計算された適切な濃度のCaClを用いて、[Ca2+が規定レベルに緩衝された。受動的枯渇実験については、IPが内液から取り除かれた。すべての化学物質は、Sigma−Aldrich Co.から購入された。
【0043】
[0048] 野生型HEK293細胞は、通常、約0.5pA/pFの自然CRAC電流を示し、典型的な内向き整流性電流電圧(I/V)関係を有する。野生型HEK細胞におけるCRACM2またはCRACM3の単純な過剰発現は、内因性CRAC電流に有意な効果を生じず、増幅したCRAC電流を発生させるためにはさらにSTIM1が必要であるということに一致した。STIM1細胞を安定に過剰発現するHEK293細胞におけるCRACM2またはCRACM3の一過性過剰発現は、IPでのストア枯渇により、CRACM2発現細胞およびCRACM3発現細胞の両方において大きな膜電流を生じ(図1A)、Icracに特徴的な内向き整流性電流電圧(I/V)関係を有した(図1B)。
【0044】
実施例II CRACM相同体の活性化動態および電位依存性挙動
[0049] STIM1と共発現した場合、−80mVにおけるCRACM2およびCRACM3の平均電流振幅は、対応するCRACM1の振幅の約3分の1であったが、それでもなお、HEK293細胞における自然CRAC電流の約20倍であった。CRACM相同体の活性化動態は明らかに異なり、CRACM1の最大半量活性化時間(±s.e.m)=35±7秒(n=12)、CRACM2=21±3秒(n=8)、およびCRACM3=63±7秒(n=9)であった(図3Eも参照)。−140mVで一致するようにスケーリングした場合の3つのチャネルの平均I/V関係(図1Bにおける点線)は、整流にわずかな差異を示し、CRACM3は最も顕著な曲線を描き、それは、それの非常に顕著な、速いCa2+依存性不活性化によるものである(図2参照)。
【0045】
[0050] IPの非存在下における20mM BAPTAでの受動的ストア枯渇によるCRACMチャネル活性化を調べた。すべての3つのCRACM種は、漏洩経路を通して受動的にストアを枯渇させるのに必要な時間を反映する特徴的な遅延を有するCRAC様電流を生じた。I/V関係(図1D)は、これらの電流がCRAC電流に特徴的な形をもつことを確信させる。総合すれば、これらの結果は、STIM1と共発現する場合、すべての3つのCRACM相同体が、能動的または受動的ストア枯渇によって、増幅したストア作動性CRAC電流を発生させる能力があることを実証している。
【0046】
実施例III CRACMヘテロ多量体
[0051] ストア作動性チャネルを生じたすべての3つの相同体とCRACM1が多量体チャネル複合体を形成することが示されているとして、CRACM1がCRACM2および/またはCRACM3と集合して、ヘテロマーのチャネル複合体を構築するかどうかを評価するために、天然CRACチャネルにドミナントネガティブな表現型を与えるCRACM1の非導電性ポア突然変異(E106Q)を用いた。図1Aは、過剰発現のCRACM1−E106Qを等量で野生型CRACMタンパク質と組み合わせることが、いずれのCRACM相同体によって運ばれるCRAC電流も本質的に消失させたことを示し、CRACM1ポア突然変異体が実際、ドミナントネガティブな効果を与えることを示唆する。CRACM1−E106Qと共発現した3つの相同体についての100〜120秒時点で、かつ−80mVにおける平均電流振幅は以下であった:CRACM1 0.15±0.15pA/pF(n=6)、CRACM2 0.19±0.13pA/pF(n=6)、およびCRACM3 0.33±0.28pA/pF(n=7)、これらのすべては、STIM1発現HEK293細胞における内因性CRAC電流(0.69±0.27pA/pF(n=14))より低い。これらの結果は、CRACM1が、その相同体のどちらともヘテロマーのチャネルを形成することができることを示す。
【0047】
実施例IV CRACM相同体の不活性化動態
[0052] 自然CRAC電流は、[Ca2+によって制御され、速いCa2+依存性不活性化および遅いCa2+依存性不活性化の両方を受けやすい。ミリ秒範囲で起こる速い不活性化は、チャネル自体へのCa2+の結合に起因すると考えられているのに対して、何十秒間もかけての遅い不活性化は、ストア補給および/またはチャネルへの細胞フィードバック機構による制御機構に起因する可能性がある。図1Bに見られるCRACM相同体の内向き整流における差異は、様々な相同体についての速い不活性化動態における差異を示す。図2は、3つの相同体によって運ばれるCRAC電流が、10mM EGTAを含む細胞内液を用いて、20μM IPによって誘導された実験を示す。このキレート剤は、BAPTAより、Ca2+をキレート化するのが遅く、それゆえに、速いCa2+依存性不活性化を抑制するのに効率が悪い。十分なCa2+が細胞内に蓄積している場合には、EGTAの緩衝能力は圧倒されて、遅いCa2+依存性過程が露呈する。
【0048】
[0053] 0.5Hzのペースで送達される50m秒かけて−100mV〜+100mVに及ぶランプ電位によるCRAC電流を連続してモニターした。CRAC電流が完全に活性化した後、2秒間持続の矩形電圧パルスおよび増加性負電位を、Ca2+流入を増加させるために送達した。図2のパネルA〜Cは、各過分極パルスが、CRACM1電流振幅の速い降下を引き起こし、次のパルスが送達される前に、完全にではないが、ゆっくり回復したことを示す。電流の速い降下は、速い不活性化によるものであり、回復は、速い不活性化からのチャネルの回復と、何十秒間もかけて進行する遅い不活性化という2つの拮抗作用の正味の結果である可能性が高い(図3も参照)。CRACM1の場合、5回の過分極パルスの結果として生じた遅い不活性化は、約100秒間かけてCRAC電流の約50%低下をもたらした。好対照として、CRACM2またはCRACM3を発現する細胞で行われた同じ実験プロトコールにより、有意な遅い不活性化はなく、電流の速い不活性化のみが明らかにされた(図2、BおよびC)。CRACM2は、概して、Ca2+誘導性不活性化に対してかなり抵抗性であるように思われ、速い不活性化をわずかに示しただけだが、CRACM3は、はるかに大きい程度の速い不活性化を示した。両方の場合において、速い不活性化からの回復は、20秒以内に本質的に完全であった。
【0049】
[0054] 図2のパネルD〜Fは、パネルA〜Cにおける過分極パルスによって生じた高分解能CRAC電流の平均を示し、3つの相同体の速いCa2+依存性不活性化の程度を明らかにしている。CRACM3電流は、−80mVにおける支配的な指数関数的減衰によって特徴づけられる著しいCa2+依存性不活性化を示し、τ=17m秒および非常にわずかな遅い成分τ=130m秒の時定数を有する。このCRACM3の劇的な不活性化は主に、Ca2+によるものである。図2Cと同様のプロトコールに続いて、10mM Ca2+の存在下で、かつDVF溶液に切り換えた後、−80mVへの過分極電圧パルスを送達する実験において、Ca2+が存在するのに電流の急速な不活性化、および二価陽イオンが存在しないときの電流の不活性化されない持続が明らかにされた(図5参照)。CRACM2は、中程度の速いCa2+依存性不活性化を示し、τ=80m秒およびτ=900m秒の2つの時定数で減衰し、その2つはどちらも速い不活性化全体に対しておよそ等量で寄与する。CRACM1は、3つのCa2+依存性フィードバック効果を反映している可能性がある複雑な挙動を示し、それゆえに、容易には時定数による定量的評価を行うことができない。CRACM1電流の遅い不活性化は、それが何十秒間もかけて起こるため、図2Dに示された記録では明らかではない(図2A参照)。しかしながら、遅い不活性化は、負パルスによって得られる全体的な電流振幅の低下によって反映されており、なぜなら、それらは内向き整流性I/Vから予測されるものより小さいからである。
【0050】
[0055] CRAC電流の遅いCa2+依存性不活性化を評価するために、遊離[Ca2+が0μMから1μMの間の規定レベルに固定されるように、20mM BAPTAおよび適切な量のCaClで細胞を灌流した。CRAC電流をIPによって誘導し、ランプ電位によるCRAC電流をモニターした。図3Aに示された結果は、増加性[Ca2+が、CRACM1電流を用量依存的に抑制したが、CRACM2またはCRACM3への有意な効果をほとんど生じなかったことを示す(図3、BおよびC)。CRACM2またはCRACM3に関して見られる有意な遅い不活性化の欠如は、生理学的関連においてかなり重要である可能性が高く、なぜなら、生理学的に発生する中間の[Ca2+レベル(300〜500nM)は、CRACM2チャネルおよびCRACM3チャネルの活性を維持する傾向にあると考えられるが、CRACM1電流は有意に低下すると考えられるからである。1μM[Ca2+においてのみ、CRACM2電流およびCRACM3電流が、CRACM1によって運ばれる電流とほとんど同じくらいの強さで抑制された。
【0051】
実施例V CRACM相同体動態(CRACM相同体速度論)のカルシウム依存性およびカルシウム流入の調節
[0056] CRAC電流活性化の動態(速度論)への[Ca2+の効果を、最大半量活性化までの時間(t1/2)を決定することにより調べた。このパラメーターは、概して、CRACM2およびCRACM1について[Ca2+に依存せず、CRACM2およびCRACM1のどちらも類似して速い活性化動態を有していた(図3E)。低[Ca2+レベルにおいて、CRACM3電流は、他の相同体の電流より有意に遅く活性化されたが、150〜300nMの中間[Ca2+において加速された(図3E)。CRACM相同体間での速いCa2+依存性不活性化および遅いCa2+依存性不活性化の動態(速度論)の差異および程度は、それらを自然に発現する細胞においてCRACM種を同定するのに有用でありうる。
【0052】
[0057] Ca2+測定について、fura−2 AM(Molecular Probes、Eugene、OR、USA)を負荷された細胞(1μM/60分/37℃)を、以下を含む細胞外生理食塩水に保持した(mMで):140 NaCl、2.8 KCl、2 MgCl、10 グルコース、10 HEPES・NaOH、pH7.2。2μMタプシガルジンをバスへ加えることによってストア枯渇を誘導し、ストア作動性Ca2+流入を評価するために、2mM Ca2+を加えた。二重励起蛍光イメージングシステムを備え、40× Plan NeoFluar対物レンズを用いるZeiss Axiovert 100蛍光顕微鏡(TILL-Photonics、Grafelfingen、Germany)で実験を行った。データ取得および計算については、TILLvisIONソフトウェアによって管理した。モノクロメータ(Polychrome IV)により発生した340nmおよび380nmの波長によって色素負荷細胞を励起した。いくつかの単細胞ボディーの蛍光放出を、光学440nmロングパスフィルターを用いるビデオカメラ(TILL-Photonics Imago)で同時に記録した。シグナルを0.5Hzでサンプリングし、異なる波長(340/380nm)における蛍光強度の相対比単位へと算出した。結果は、パッチピペットにおけるfura−2と組み合わされた規定Ca2+濃度でのパッチクランプ実験で行われたインビボのCa2+較正を用いて、340/380nm蛍光値から計算された近似[Ca2+として示されている。
【0053】
[0058] 遅いCa2+依存性不活性化が、上記の様式でCRACM1電流に影響するならば、[Ca2+がCRACチャネル活性により増加する無傷細胞において観察される、Ca2+流入の量に少なくとも部分的に影響することが予想されるだろう。様々なCRACMタンパク質を過剰発現する細胞においてfura−2シグナルをモニターした。ストア枯渇を細胞外Ca2+の非存在下でタプシガルジンによって誘導する標準プロトコールに細胞を供し、続いて、ストア作動性Ca2+流入を探索するために2mM Ca2+を再進入させた(図3F)。空ベクターをトランスフェクトされた細胞において、Ca2+再進入は、内因性CRACチャネルを通してのストア作動性流入により[Ca2+の中程度の増加を引き起こした。CRACM相同体を過剰発現する細胞は、fura−2シグナルを識別することによってCa2+流入の速度を分析すると、よりいっそう印象的である[Ca2+の有意により大きい変化を生じた(図3Fの挿入図を参照)。CRACM1は、[Ca2+がほぼゼロに緩衝されている場合、CRACM2またはCRACM3と比較して3倍の電流を発生する能力があるが(図1A参照)、すべての3つの相同体は、無傷細胞においてfura−2によって評価される場合、類似した、[Ca2+の絶対的レベルおよびCa2+流入の初速度を達成する。この理由はおそらく、より顕著な遅いCa2+依存性不活性化によると思われ、それがCRACM1についてのCa2+流入の速度を制限し、[Ca2+のより大きな増加を妨げる。このように、全体的な[Ca2+が300〜500nMの範囲へ増加する無傷細胞において得られる[Ca2+シグナルは、全体的な[Ca2+をその範囲の規定レベルへ固定した場合に観察されるCRAC電流の振幅に匹敵する(図3D参照)。
【0054】
実施例V CRACM相同体のイオン選択性
[0059] CRACM1に関する以前の研究は、チャネルの選択性に影響する、そのタンパク質の3つの領域における重要な残基を同定している。膜貫通(TM)セグメント1におけるグルタミン酸残基106位およびTM3におけるグルタミン酸残基190位は、チャネルのポアを裏打ちする負荷電アミノ酸の環を形成すると考えられている。これらの残基の両方とも、すべての3つのCRACM相同体において同様に保存されており、それゆえに、3つの相同体間の示差的な選択性の原因となる可能性は低い。しかしながら、TM1とTM2の間のループに位置する第3領域もまた、CRACM1の選択性に影響する。この領域は、CRACM1ポアに第2のCa2+イオンを配位する負電荷の第2環を形成する可能性がある、3つの重要なアスパラギン酸残基(D110/D112/D114)を有し、それらの残基は、3つの相同体によって異なる(CRACM2はE110/Q112/Q114を有し、CRACM3はE110/D112/E114を有する)。
【0055】
[0060] Ca2+、Ba2+、およびNa透過に関するすべての3つのタンパク質の選択性プロフィールを調べた(図4)。10mM細胞外Ca2+の存在下で3つの相同体によって運ばれるCRAC電流を記録すると、すべての3つの相同体は、−80mVにおいて大きな内向き電流を発生させ(図4A)、類似した内向き整流性I/V関係を示した(図4、BおよびC)。細胞外Ca2+を除去したとき、内向き電流は、3つのチャネル種において同じ程度で抑制され(図4、A〜C)、それらが同様に高いCa2+選択性を共有し、Mg2+イオン(2mM)が存在する限り、Naイオンを冷遇することを示した。
【0056】
[0061] Ba2+イオンについてのCRACM相同体の選択性もまた調べた。図4Dは、等モル置換がCRACM1において内向き電流を大幅に低下させることを示し、このタンパク質がBa2+に対してCa2+イオンを優遇することができることを示唆する。CRACM2またはCRACM3を過剰発現する細胞において、Ba2+が電荷担体として用いられる場合、有意により大きい内向き電流があるままであり、一見したところ、より高いBa2+透過を示すと思われる。しかしながら、Naイオンは細胞外溶液に存在したままであるので、Ba2+が存在するときに、Naが内向き電流に寄与するという可能性もまたある。図4Dと同じ実験であるが、ただし、追加として、NaをTEAに置換して行った場合、すべての3つの相同体を通しての内向き電流は、今度は本質的に消失し(図4E)、Ba2+よりむしろNaイオンが、図4Dに見られた追加の電流を運んでいる可能性があることを示す。CRACMチャネルの選択性をさらに評価するために、Na透過における可能性のある差異を、すべての二価陽イオンの完全な非存在下において、かつ追加として、いかなる残留する二価陽イオンもキレート化するために10mM EDTAを加えて、評価した。これらの条件下で、CRACチャネルは、Naに対して透過性になり、典型的には、CRACM1を過剰発現するHEK293細胞において内向き電流の2倍の増加を生じる(図4F)。同じ実験プロトコールによって、わずかに大きいCRACM2電流が生じ、CRACM3は、有意により大きい一価電流を発生させ、この場合もやはり、3つのCRACM相同体がNaイオンについてわずかに異なる選択性を示すことを示唆する。
【0057】
実施例V CRACM相同体の薬理学
[0062] 2−APBは、低濃度(≦5μM)でCRAC電流を増強し、かつ高濃度(≧10μM)でそれらを抑制することによって、CRACM1チャネルに影響することが以前に見出されている。CRACM1は、50μM 2−APBによって完全に抑制される(図4G参照)。しかしながら、CRACM2は、同じ濃度で電流を約50%だけ低下させた点から、2−APB媒介性抑制に対する感受性が有意により低いように思われる。しかしながら、最も著しい効果は、CRACM3に関して観察され、CRACM3は、2−APBによって抑制されず、それどころか、大幅に増強された。
【0058】
実施例VI 2−APBに反応してのCRACM3における選択性の変化
[0063] ストア枯渇を防ぐためにCa2+濃度が約150nMに固定され、かつ2−APBが細胞内に投与されたときチャネルを活性化できるかどうかを評価するために、追加として50μM 2−APBを含むピペット溶液を用いて、CRACM3を過剰発現するHEK293細胞をパッチクランプした。これらの条件下で、ストア作動性または2−APB誘導性電流は誘発されなかったが、50μM 2−APBが外側から投与されたとき、それは、CRACM3によって運ばれるCRAC電流を容易に活性化した(図6A)。これは、2−APBの促進効果がそのタンパク質上の細胞外部位を通して媒介されることか、または2−APBが膜内で作用するが、細胞内空間からその作用部位にアクセスすることができないことのいずれかを示唆すると考えられる。
【0059】
[0064] 2−APB誘起性電流の電流電圧関係(図6D)は、+30mVの逆転電位で、負および正の膜電位において有意な整流を示し、チャネルの選択性が変化したことを表している。通常、CRAC電流は、高いCa2+選択性で、かつKまたはCsに対する透過性が低く、その結果として、正の逆転電位を生じる。しかしながら、細胞を2−APBに曝露したときに観察される外向き電流は、一価Cs透過の有意な増加および逆転電位の大きなシフトを明らかにした。これは、追加としてCRACM3をトランスフェクトされたSTIM1発現細胞において、より定量的に評価され、主な一価陽イオン種としてCsかまたはKのいずれかを含む細胞内溶液を用いて、IPによって誘起されるCRAC電流を測定した。これらの条件下で、2−APB投与前のIP誘導性ストア枯渇によるCRAC電流が観察され、それらの平均逆転電位は、+100mVであった(n=4)。2−APB投与は、Csベースの溶液およびKベースの溶液の両方において大きな外向き電流を生じ、逆転電位をCsについて+31mVへ(n=4)、Kについて29mVへシフトした。これらの細胞における平均2−APB媒介性電流は、STIM1過剰発現なしのCRACM3電流と比較して約2倍の大きさであった。
【0060】
[0065] 2−APBがCRAC電流の逆転電位をシフトしたが、それは正電位のままであり、チャネルがいくらかのCa2+透過性を保持したことを示唆し、無傷細胞においてfura−2測定に観察されたCa2+流入と一致する。一価対二価の陽イオン透過をイオン置換実験において調べ、その実験では、Ca2+が細胞外溶液から除去されたか、またはNaがTEAに置換されたかのいずれかである。図6Cに示されているように、Ca2+を含まない細胞外溶液における2−APBの投与は、Ca2+含有溶液と比較して、平均内向き電流を53%、低下させたが、外向き電流をほぼ3倍にした。これは、+94mVから+10mVへの逆転電位のシフトを伴った。これは、Ca2+が内向き電流のかなりの部分に関与すること、およびそれがまた一価陽イオンの外向き運動を妨げることを示唆すると考えられる。同時に、通常、Ca2+を含まない溶液はCRACチャネルを通してのいずれの内向き電流も完全に抑制するため、2−APBの存在下において、CRACチャネルが、Naイオンに対する透過性が有意により高いことは明らかである。
【0061】
[0066] 逆に、NaをTEAと置換することによってNaを細胞外溶液から除去することは、50μM 2−APBにより誘導される内向き電流へも外向き電流へも有意な効果を生じなかった。これらのイオンのイオン濃度およびバランスを考慮すると、CRACチャネルは、Naに対してCa2+の優先的な透過を保持する。図6Gにおける逆転電位のゴールドマン・ホジキン・カッツ分析により、Ca2+を含まない条件下でのPNa/PCs=1.5(青色I/V、Erev=+10mV)およびPCa/PCs=50(赤色I/V、+30mV)の透過比が得られ、それはPCa/PNa=33の値を示す。通常、CRACチャネルは100倍を超えるPCa/PNaを特徴とするため、2−APBがCRACチャネル選択性の劇的な低下を引き起こすことは明らかである。
【0062】
実施例VII CRACM1ポア突然変異体への2−APBの効果
[0067] 上記結果は、2−APBがCRACチャネルの選択性を変化させることを示し、2−APBがCRACM3チャネルをゲーティングする機構が、イオンがストア枯渇またはSTIM1相互作用の必要なしに透過することができるように選択性フィルターを拡大することに結びつけられることは想像できる。ポア拡大の程度は、CRACチャネルサブタイプをゲーティングすることにおける2−APBの効力を決定することができ、CRACM3が最も感受性が高く、CRACM1は辛うじて活性化可能であるが、CRACM2のポアは、STIM1なしでイオンの通過を許すほど十分には2−APBによって拡大されない。以前の研究では、膜貫通ドメインTM1におけるグルタミン酸残基E106およびTM3におけるE190をCRACM1ポアの選択性の重要な決定因子であると同定している。
【0063】
[0068] ポア構造およびそれらの2−APBに対する反応に変化を有するポア突然変異体を調べた。2−APB感受性を試験するために、2つのCRACM1突然変異体(E106DおよびE190A)を選択した。CRACM1のE106D突然変異体は、通常の内向き整流性チャネルを外向き整流性へ変換し、その逆転電位を+16mVへシフトするが、恒常的なチャネル活性をもたず、大きなCRAC電流を生じるために追加のSTIM1過剰発現およびストア枯渇を必要とし、ポア選択性の単純な変化はストア非依存性ゲーティングをもたらさないことを示唆する。
【0064】
[0069] CRACM1のE106D突然変異体のみを発現するHEK293は、恒常的なCRAC電流を生じず、その後の50μM 2−APBでの誘発により、典型的には、内向き電流の急速な増加、続いて、完全な遮断が生じるという複雑な反応が引き起こされ、2−APB投与後の遅い再活性化は保留された(図7A)。2−APB投与を停止した後、2−APB分子は拡散して、局所濃度は減少するので、CRACチャネルは再活性化できる。再活性化された電流の大きさは、追加のSTIM1過剰発現の非存在下でCRACM1チャネルのみを発現する細胞において通常見られる電流の大きさを凌ぎ、それらがCRACM1のストア非依存性およびSTIM1非依存性のゲーティングに起因することを示す。再活性化された電流の電流電圧関係は、0mVの逆転電位をもつ、本質的に線形であり(図7B)、2−APBがE106D突然変異体の逆転電位を+16mVから左へさらにシフトすることを示唆する。
【0065】
[0070] CRACチャネル選択性にとってまた重要であるCRACM1のE190残基もまた評価した。このグルタミン酸残基がグルタミンに変異している場合(E190Q)、それは、電流の逆転電位を+50mVへシフトし、I/V曲線は、内向きおよび外向きの両方の整流を示す。E190Q突然変異体は、SCID患者由来の欠陥Ca2+流入をもつT細胞においてSOCEを回復するのにわずかに効果があったが、E190AおよびE190D突然変異体は完全にCa2+流入を回復した。図7Cは、E190A突然変異体がSTIM1と共発現する場合、それは、IPが細胞へ灌流されたときの野生型CRACM1と同じように反応することを示す。ストア枯渇後、それは迅速に活性化し、そのI/V関係は、それが強い内向き整流を示した点において野生型チャネルのそれと類似したが(図7D)、その逆転電位は、E190Q突然変異体と同様に、+55mVへシフトされた。したがって、この突然変異体は、それもまたCRACM1の選択性を変化させる点において中間表現型を有するように思われるが、Csの外向き輸送は、E190Q突然変異体に関して見られるものより有意に少ないように思われる。CRAC電流が完全に活性化した後、細胞を50μM 2−APBに曝露すると、その化合物は大きな促進、続いて急速な抑制を誘起し(図7C)、それは定性的に野生型CRACM1と類似するが、より顕著な促進はない。促進された電流は、より大きな外向き電流および逆転電位における+33mVへの左方向シフトによって特徴づけられ(図7D)、この場合もやはり、2−APBがCRACチャネルの選択性を低下させることを示した。
【0066】
[0071] 野生型HEK293細胞において、STIM1なしで、単独で発現する場合のE190A突然変異体への2−APBの効果もまた分析した。これらの実験において、IPをピペット溶液から取り除き、ストア枯渇を避けるために[Ca2+は約150nMに緩衝された。これは、ホールセル記録の確立後、いかなる電流の発生も完全に抑制した(図7E)。しかしながら、50μM 2−APBの投与は、内向きおよび外向きの両方の電流に大きな一過性増加を生じ、そのI/V関係(図7F)は、2−APBが、STIM1と共発現したストア作動性E190Aチャネルを促進したという図7Dに観察されたものと類似した。総合すれば、これらのデータは、野生型CRACM1チャネルが、2−APBによるストア非依存性およびSTIM1非依存性ゲーティングに対して大いに抵抗性であるが、残基E106およびE190の改変は、チャネルを恒常的様式でゲーティングするには十分ではないとはいえ、チャネルがストア非依存性およびSTIM1非依存性様式で開くように2−APBがCRACM1のポア構造をさらに改変するのを可能にすることを示唆する。結果はまた、このゲーティング様式が、2−APB投与の初めに構築される低い2−APB濃度において有利であることも示唆し、膜における濃度が増加するにつれて、もはやイオン輸送を許可しない状態へ移行する可能性がある。したがって、2−APBは、STIM1過剰発現を必要とせずに、直接的にCRACチャネル機能を促進することと抑制することの両方を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるIcrac活性へのCRACM1の寄与を決定するためのアッセイであって、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態、活性化動態、およびカルシウム流入を測定することを含むアッセイ。
【請求項2】
Icrac活性の遅いカルシウム依存性不活性化が前記細胞のIcrac活性へのCRACM1の寄与を示す、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
35±7秒の最大半量活性化時間(±s.e.m.)を有する活性化動態が、前記細胞のIcrac活性へのCRACM1の寄与を示す、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項4】
細胞におけるIcrac活性へのCRACM2の寄与を決定するためのアッセイであって、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態、活性化動態、およびカルシウム流入を測定することを含むアッセイ。
【請求項5】
21±3秒の最大半量活性化時間(±s.e.m.)を有する活性化動態が、前記細胞のIcrac活性へのCRACM2の寄与を示す、請求項3に記載のアッセイ。
【請求項6】
カルシウム非依存性不活性化が前記細胞のIcrac活性へのCRACM2の寄与を示す、請求項3に記載のアッセイ。
【請求項7】
細胞におけるIcrac活性へのCRACM3の寄与を決定するためのアッセイであって、前記細胞のIcrac活性の不活性化動態、活性化動態、およびカルシウム流入を測定することを含むアッセイ。
【請求項8】
63±7秒の最大半量活性化時間(±s.e.m.)を有する活性化動態が、前記細胞のIcrac活性へのCRACM3の寄与を示す、請求項6に記載のアッセイ。
【請求項9】
不活性化動態を測定することが、前記不活性化動態のカルシウム依存性を測定することを含む、請求項6に記載のアッセイ。
【請求項10】
前記不活性化動態のカルシウム依存性が前記細胞のIcrac活性へのCRACM3の寄与を示す、請求項8に記載のアッセイ。
【請求項11】
細胞のIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、およびCRACM3の寄与を決定するためのアッセイであって、前記Icrac活性のイオン選択性を測定することを含むアッセイ。
【請求項12】
細胞のIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、およびCRACM3の寄与を決定するためのアッセイであって、2−APBの存在下においてIcrac活性を測定することを含むアッセイ。
【請求項13】
50μM以上の濃度の2−APBの存在下におけるIcrac電流の増強が、前記Icrac活性へのCRACM3の寄与を示す、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項14】
5μM以下の濃度の2−APBにおけるIcrac電流の増強、および10μM以上の2−APBの存在下におけるIcrac電流の抑制が、前記Icrac活性へのCRACM1の寄与を示す、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項15】
前記増強がストア枯渇の非存在下において起こる、請求項13に記載のアッセイ。
【請求項16】
細胞のIcrac活性へのCRACM1、CRACM2、および/またはCRACM3の寄与を決定するためのアッセイであって、Icrac活性の活性化動態、不活性化動態、イオン透過、薬理学、およびイオン選択性を測定することを含み、前記細胞が、免疫不全症の対象由来である、アッセイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−521975(P2010−521975A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554778(P2009−554778)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/057873
【国際公開番号】WO2008/118793
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(505315085)ザ クイーンズ メディカル センター (5)
【Fターム(参考)】