説明

細胞の自動良否判定システム

【課題】 細胞の良否判定を自動化することを実現可能な細胞の自動良否判定システムを提供する。
【解決手段】 自動良否判定システムを有する自動培養装置1は、解析プログラム12を有する。解析プログラム12は、撮像された細胞の画像から、その特徴(特徴量)を抽出するための画像処理プログラムである特徴量抽出プログラム13を駆動して、細胞の特徴を抽出する。続いて、抽出された特徴又は、複数の特徴の組合せから細胞の良否を判定する識別プログラム15を駆動して、細胞の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の良否を自動的に判定するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の細胞培養装置は、細胞の画像から培養状態の良否を判断する自動画像解析機能を持っていない。したがって、実験者が自分自身で培養装置から培養容器を取出し、別に設置された顕微鏡を利用して細胞の発育状態を観察する必要があった。
【0003】
さらに、細胞を培養する際には、世代を経るに従い、培養細胞の特性が変化して行く場合(亜種が発生する場合)があり、亜種を増殖させてしまうということが注意点として知られている。これを防止するために細胞培養実験者は、自らの使用している細胞がその細胞の基本となる特性を失っていないか、形状を保っているかなどを、過去の文献で調べたり、細胞の購入先(細胞バンクなど)に問い合わせ、細胞の変化に注意しなければならなかった。また、それを防ぐために細胞バンクなどから入手した細胞をすぐに増殖しそれらを早い段階で冷凍保存し、数ヶ月ごとに新しい細胞を溶解・培養し、比較確認する必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、バイオテクノロジーの研究分野が多岐にわたるため、専門分野の教育に多くの時間が取られ、細胞培養に関する教育がおざなりにされており、培養細胞の良否を的確に判断できない研究者が増加している。又、大量の細胞や、多種類の細胞を培養している場合、個々の細胞の良否判定を実験者が実施するのに、多くの時間がさかれてしまう。また、判断基準が不明確であるため、実験者ごとに、培養細胞の品質にばらつきが発生し、培養細胞を用いた実験の再現性が問題となっている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、細胞の良否判定を自動化することを実現可能な細胞の自動良否判定システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための第1の手段は、撮像された細胞の画像の特徴を抽出する複数の特徴抽出手段と、
抽出された特徴又は、複数の特徴の組合せから、前記細胞の良否を判定する複数の良否判定手段と、
前記細胞の種類に応じて使用する、前記特徴抽出手段及び前記良否判定手段の組み合わせを解析レシピとして記憶する解析レシピ記憶手段と、
前記解析レシピ記憶手段から前記細胞の種類に対応する前記解析レシピを選択し、その解析レシピに記憶された前記特徴抽出手段を駆動して、細胞の特徴を抽出させ、続いて、その解析レシピに記憶された良否判定手段を駆動して、細胞の良否を判断させる解析手段
とを有することを特徴とする細胞の自動良否判定システムである。
【0007】
前記課題を解決するための第2の手段は、撮像された細胞の画像の特徴を抽出する特徴抽出手段と、
抽出された特徴又は、複数の特徴の組合せから、前記細胞の良否を判定する複数の良否判定手段と、
前記細胞の種類に応じて、特徴抽出手段が抽出すべき特徴及び使用すべき前記良否判定手段の組み合わせを解析レシピとして記憶する解析レシピ記憶手段と、
前記解析レシピ記憶手段から前記細胞の種類に対応する前記解析レシピを選択し、その解析レシピに記憶された特徴抽出手段が抽出すべき特徴を前記特徴抽出手段に渡して、細胞の特徴を抽出させ、続いて、その解析レシピに記憶された良否判定手段を駆動して、細胞の良否を判断させる解析手段
とを有することを特徴とする細胞の自動良否判定システムである。
【0008】
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の手段又は第2の手段であって、前記特徴が、生育状態、細胞の数、細胞のサイズ、細胞の外形の特徴、細胞間の接着性、隣接間結合性、核の数、核の形状、核の大きさ、核小体の数、核小体の大きさ、核小体の濃度、細胞質顆粒の量、細胞質顆粒の輝度、空胞の大きさ、空胞の数、細胞質突起の形状、占有面積、密集状況のうちいずれかであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞の良否判定を自動化することを実現可能な細胞の自動良否判定システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態である細胞の自動良否判定システムを、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例である細胞の自動良否判定システムの概要を示す図である。なお、以下の説明で「特徴量」という語を用いる。多くの場合特徴は量で表されるのでこのようにするが、これらの「特徴量」は、量で表さないもの(例えば有無のようなもの)を含む概念である。
【0011】
自動良否判定システムを有する自動培養装置1は、解析プログラム12を有する。解析プログラム12は、撮像された細胞の画像から、その特徴(特徴量)を抽出するための画像処理プログラムである特徴量抽出プログラム13を駆動して、細胞の特徴を抽出する。続いて、抽出された特徴又は、複数の特徴の組合せから細胞の良否を判定する識別プログラム15を駆動して、細胞の良否を判定する。
【0012】
撮像された細胞の画像から抽出すべき特徴量は、細胞の種類に応じて、生育状態(単独、コロニー形成、シート状)、細胞の数、細胞のサイズ、細胞の外形の特徴(球形、泡立ち形状、ぎざぎざ形状),細胞間の接着性、隣接間結合性,
核の数、核の形状,核の大きさ、核小体の数、核小体の大きさ、核小体の濃度、細胞質顆粒の量、細胞質顆粒の輝度,空胞の大きさ、空胞の数、細胞質突起の形状(数、長さ、太さ)、占有面積、密集状況等がある。
【0013】
これらの特徴は、既存の画像処理プログラムを適宜使用することにより抽出される。例えば、核の大きさは、ラプラシアンによる画像のエッジ抽出や、ヒストグラム特徴量によるテクスチャ解析で抽出できる。又、核の数は、例えば、フーリエ変換を実施すると、核の内外で高周波成分のスペクトル振幅に違いが生じるので、これにより核の領域を抽出し、核の数を決定することができる。
【0014】
また、細胞質突起は、位相差光学系で観察すると、細胞質突起の部分が黒く浮き上がって観察される。従って、バックグラウンドの階調付近で2値化した後に、ごま塩ノイズの除去を実施すると、細胞質突起の部分のみを抽出することができる。その直線部分の長さの平均値を求めると、「細胞質突起の平均長」が計測できる。
【0015】
また、ブライトコントラストの位相差光学系で観察すると、細胞とバックグラウンドの階調を分けることが可能になる。したがって、予め計測しておいたバックグラウンドの閾値で2値化した後に、ごま塩ノイズの除去を実施すると、細胞の輪郭を抽出できる。連結画像について、「複雑度」を計算し、それがある閾値よりも大きいものを、死細胞として除去する。また、基準となる大きさより、明らかに大きい連結画像(例えば3倍〜4倍)は、複数の細胞の塊とみなして、画像骨格を抽出し、そこを起点に画像を分割し、それを個々の細胞画像とみなす。最後に、連結画像の面積を求めれば、細胞サイズを求めることができる。
【0016】
この実施の形態においては、これらの特徴ごとに、特徴量抽出プログラム13が用意されており、どの特徴量抽出プログラム13を使用するかが、レシピデータベース11内に格納された解析レシピ14に記憶されている。解析レシピ14は、細胞ごとに作成されている。すなわち、全ての細胞について、これらの全ての特徴を抽出する必要はなく、細胞の種類に応じて、良否判定に必要な特徴だけを抽出すればよい。解析レシピ14には、良否判定に必要な特徴量を抽出するための特徴量抽出プログラム13のみが記憶されている。
【0017】
このようにすると、新しい細胞が判定の対象として追加されたり、良否判定の基準が新しくなった場合に、解析レシピ14を書き換えるだけで、抽出される特徴量を決定したり、更新したりすることができる。又、新しい特徴を抽出する必要が生じた場合には、特徴量抽出プログラム13を追加することにより対応することができる。
【0018】
このようにして、良否判定に必要な特徴(単独でよいこともあるが、多くの場合は複数の特徴の組合せである)が抽出されると、解析プログラム12は、解析レシピ14を参照して、そこに記憶されている識別プログラム15を起動する。識別プログラム15は、抽出された特徴又は、複数の特徴の組合せから、細胞の良否を判定するものであるが、通常、判定すべき細胞に対応して一つ定まるようになっている。但し、複数種の細胞に対して共通の識別プログラム15が使用できる場合も考えられる。この場合は、細胞ごとに識別プログラム15を作る必要が無く、それぞれの細胞に対する解析レシピ14に、共通の識別プログラム15を使用することが記憶されるだけである。
【0019】
識別プログラム15は、多変量解析などの統計解析手段や、ニューラルネットワークなどパターン認識アルゴリズムを用いて、その細胞の良否を判定する。
【0020】
図2は、以上説明した細胞の自動良否判定システムの動作をまとめたフローチャートである。まず、ステップS1において細胞の種類を手動入力する。すると、自動良否判定システムは、ステップS2で細胞の種類に対応する解析レシピ14を選択する。そして、ステップS3で、解析レシピ中に記憶されている特徴量を一つ選択する。そして、ステップS4で、それに対応する特徴量抽出プログラム13を選択し、ステップS5で起動する。すると、特徴量抽出プログラム13は、特徴量を抽出して記録する(ステップS6)。ステップS7で、解析レシピ14に記憶されている特徴量を全て検出したかどうかを判断し、未検出のものがあればステップS3に戻る。
【0021】
解析レシピ14に記憶されている全ての特徴量が抽出された場合、ステップS8に移行して、解析レシピ14に記憶されている識別プログラム15を選択し、ステップS9において起動する。すると、識別プログラム15の作用により、細胞の良否が判定される(ステップS10)。
【0022】
なお、以上の実施の形態においては、特徴量抽出プログラム13を、抽出すべき特徴量に対応させて作成していたが、特徴量抽出プログラム13を一つとして、全ての特徴量を抽出可能なようにしておき、その中で解析レシピ14に記憶されていなかった特徴量の抽出の処理をバイパスさせるようにしても、同じ効果が得られる。又、一つの特徴量抽出プログラム13が、複数のまとまった特徴量(例えば細胞の数と大きさ、空胞の数と大きさ)を同時に抽出するようにしてもよい。この場合には、解析レシピ14中に抽出されたもので実際に使用されるものを記憶しておき、特徴量抽出プログラム13にその情報を渡して、使用されない特徴量を良否判定に使用しないようにするか、対応する特徴量抽出プログラム13が、これらの情報を受け取らなかったり、使用しないようにしておくようにすればよい。また、同じ特徴量抽出プログラム13でも、内部での処理方法に複数の方法があり、それらを選択して使用するような場合には、同様に、解析レシピ14中にどの処理を使用するかを記憶しておいて、特徴量抽出プログラム13を起動する際に、その情報を識別プログラム15に渡すようにしてもよい。
【実施例】
【0023】
MK細胞(猿の腎臓の細胞)とPC12(ラット褐色細胞種由来の細胞)の、解析レシピ14に記憶される特徴量抽出用のレシピを表1に、起動する識別プログラム15を表2に示す。MKの場合、特徴量としては核の数、細胞のサイズ、空胞の数となっているが、核数と細胞のサイズは同じ特徴量抽出プログラム13であるプログラムAで抽出されるようになっている。空胞の数は、特徴量抽出プログラム13であるプログラムBで抽出される。そして、識別プログラム15としてはプログラムXが使用される。
【0024】
PC12の場合、特徴量としては核の数、細胞のサイズ、細胞質突起の平均長、空胞の数となっているが、細胞質突起の平均長と空胞の数は同じ特徴量抽出プログラム13であるプログラムDで抽出されるようになっている。核の数は、特徴量抽出プログラム13であるプログラムEで抽出される。プログラムCは、検細胞のサイズを抽出する。そして、識別プログラム15としてはプログラムYが使用される。
(表1)
【0025】
【表1】

【0026】
(表2)
【0027】
【表2】

【0028】
識別プログラムは、抽出された特徴量に基づいて、表3、表4のような基準により、細胞の良否を判断する。
(表3)
【0029】
【表3】

【0030】
(表4)
【0031】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態の1例である細胞の自動良否判定システムの概要を示す図である。
【図2】細胞の自動良否判定システムの動作をまとめたフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
1…自動培養装置、11…レシピデータベース、12…解析プログラム、13…特徴量抽出プログラム、14…解析レシピ、15…識別プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像された細胞の画像の特徴を抽出する複数の特徴抽出手段と、
抽出された特徴又は、複数の特徴の組合せから、前記細胞の良否を判定する複数の良否判定手段と、
前記細胞の種類に応じて使用する、前記特徴抽出手段及び前記良否判定手段の組み合わせを解析レシピとして記憶する解析レシピ記憶手段と、
前記解析レシピ記憶手段から前記細胞の種類に対応する前記解析レシピを選択し、その解析レシピに記憶された前記特徴抽出手段を駆動して、細胞の特徴を抽出させ、続いて、その解析レシピに記憶された良否判定手段を駆動して、細胞の良否を判断させる解析手段
とを有することを特徴とする細胞の自動良否判定システム。
【請求項2】
撮像された細胞の画像の特徴を抽出する特徴抽出手段と、
抽出された特徴又は、複数の特徴の組合せから、前記細胞の良否を判定する複数の良否判定手段と、
前記細胞の種類に応じて、特徴抽出手段が抽出すべき特徴及び使用すべき前記良否判定手段の組み合わせを解析レシピとして記憶する解析レシピ記憶手段と、
前記解析レシピ記憶手段から前記細胞の種類に対応する前記解析レシピを選択し、その解析レシピに記憶された特徴抽出手段が抽出すべき特徴を前記特徴抽出手段に渡して、細胞の特徴を抽出させ、続いて、その解析レシピに記憶された良否判定手段を駆動して、細胞の良否を判断させる解析手段
とを有することを特徴とする細胞の自動良否判定システム。
【請求項3】
前記特徴が、生育状態、細胞の数、細胞のサイズ、細胞の外形の特徴、細胞間の接着性、隣接間結合性、核の数、核の形状、核の大きさ、核小体の数、核小体の大きさ、核小体の濃度、細胞質顆粒の量、細胞質顆粒の輝度、空胞の大きさ、空胞の数、細胞質突起の形状、占有面積、密集状況のうちいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の細胞の自動良否判定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−333710(P2006−333710A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158499(P2005−158499)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】