説明

細胞の電気的活動を記録するための機器及び方法

細胞を収容且つ培養するためのウェル(14)、前記ウェルに直角に配置され且つ底部領域に連結された導管(15)、及び前記ウェルの電位を記録するための二つの電極(13,13’)を備えた重合体構造(12)を有する装置を備えた、インビトロで細胞によって生じた電気的活動を記録するための機器であって、前記ウェルの幅が前記導管の幅の少なくとも10倍、好適には少なくとも20倍、より好適には少なくとも50倍であり、少なくとも一つの前記電極(13)の幅が前記導管の幅の少なくとも10倍である、機器。重合体構造は、前記導管(15)に連結された前記したようなウェル(14,14’)を二つ備え、よって電極の一つは一方のウェルに設置でき、別の一つの電極はもう一方のウェルに設置できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロで細胞によって生じた電気的活動を記録するための装置に関し、該装置は、細胞を収容且つ培養するためのウェル又はチャンバ、前記ウェルの底部領域に連結された導管又はマイクロチャネル、及び前記ウェルの電位を記録するための二つの電極を備えた重合体構造を備えてなり、そしてそのような装置を製造するための方法にも関する。本発明はまた、インビトロで細胞の電気的活動を記録するための機器及び方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
起電性細胞は、その細胞膜の電位を変更することのできる細胞である。起電性細胞の例は、神経細胞及びミオサイトである。ニューロンは例えば、その細胞膜の電位を一時的に変更することができ、神経系の情報を感知、輸送及び修正し、及び筋肉の収縮を調節して運動作用を実行する。神経系に影響する多数の病理は、ニューロンの亜集団における異常な電気的活動の結果に起因する。有効な治療を見つけるための一般的なアプローチは、標的細胞集団における活動パターンに制御された修正と、患者が示す症状に効果的な変化を生み出す成分の同定に依存する。
【0003】
電気生理学は、生体細胞及び組織の電気特性の研究である。それは特に、ニューロンの電気的活動、及び特に活動電位活動、つまり細胞膜に沿って伝わる放電のスパイクの生成の測定を含む。電気生理学は通常、生体組織のプレパレーションに電極を配置することを伴う。
【0004】
薬剤のスクリーニングにおいて、成分の有効性は大抵、それが及ぼす細胞の電気的活動への影響に基づいて評価される。細胞の電気的活動の測定は、パッチクランプ法を用いて行われ、ごく一部(パッチ)の細胞膜が、吸引又は電界手段によって、マイクロ電極プローブを有するガラス製のマイクロピペットの先端部分に固定(クランプ)され;ガラスの先端は細胞膜と高抵抗のシール(GΩ程度)を形成する。
【0005】
従来のパッチクランプ法は時間がかかり、マイクロピペットの準備と操作に特別な技能を必要とする。したがって、高速で薬剤のための大量の候補成分をスクリーニングするには不向きである。
【0006】
従来のパッチクランプ法の変形は、平面パッチクランプ法であり;接着細胞にピペットを配置する代わりに、細胞懸濁液をマイクロ孔を含む電子チップ上にピペットで取る。次いで、細胞を該孔に配し、その結果、ギガオーム程度のインピーダンスのシールが形成される。これによって、透過電流によって生じた細胞外電位の変化の記録が可能となる。
【0007】
WO2006/031612(Molecular Devices Inc.)は、平面パッチクランプ法の良い例である。ここではイオンチャネルを有する膜サンプルの分析のためのシステムが開示されており、これは、少なくとも一つの膜サンプル、細胞外チャンバ、相対する細胞内チャンバ、及び細胞外チャンバと細胞内チャンバを隔てる、細胞外チャンバと細胞内チャンバを流体的及び電気的に連結する複数の孔を有する隔壁を含むマルチコンパートメント構造、ここで少なくとも一つの孔は少なくとも一つの膜サンプルによってシールされているが別の孔はシールされていない、細胞外チャンバと細胞内チャンバの間に電流を流すように構成されている電源、ここで一部の電流はシールされていない孔を通る、及び細胞外チャンバと細胞内チャンバの間の電流を測定するように構成されている電流センサを含む。
【0008】
また別の変形では、マルチ電極アレイ(MEA)が、ガラス基板に埋め込まれたマイクロメータサイズの電極(典型的にはプラチナ、インジウムスズ酸化物、又は金でできた)のアレイで細胞培養を支えることによって電気生理学的記録のスループットを高上しようとする。各マイクロ電極は、マイクロ電極と軸索小丘間の距離が短い限り(理論的には数十マイクロメータが限界と予測される)、細胞外で、つまり細胞膜を破壊することなく活動電位を記録することができる。100程度のマイクロ電極数が可能で、よって単一の培養から多数のニューロンが記録可能である。薬剤がMEAでニューロン培養に添加されると、その結果生じる活動の変化が、複数のマイクロ電極で同時にスパイク率の変化として記録される。
【0009】
MEAを用いた細胞外電位の測定は、各記録電極のサイズを細胞サイズに適合させる必要があることは広く認められている。電極が細胞によって十分に覆われない場合、その電極から記録可能な信号を得ることはできないと考えられる。
【0010】
記録電極に近接した限定位置に単一の細胞を配置し留めておくことは困難である。マイクロウェル及びマイクロ電極アレイの使用によってこの問題は一部解決する、というのはマイクロウェルは細胞の動きを記録部位近傍に物理的に拘束し、限定された細胞外容積で記録及び刺激の間所定位置に留める。いくつかのニューロンは数十ミクロンの記録部位内に偶然入り、活動時、記録可能な細胞外スパイクを生じる。
【0011】
しかし、そういったマイクロウェル及びマイクロ電極アレイの製作にはフォトリソグラフィ技術とクリーンルームでの製造を伴い、これは費用と大きな労働力を要し、よって高スループットスクリーニングの余地が著しく限られる。
【0012】
加えて、平面パッチクランプ法を用いた高スループットアプローチは、電界力、吸引又は他の手段によってマイクロ孔のアレイに対して滑らかな表面シールを有した細胞に実行可能である。しかし、神経細胞及びミオサイトといった接着細胞の不整な形状及び表面構造では、こういったマイクロ孔に高インピーダンスのシールを形成することは困難である。
【0013】
フォトリソグラフィの代替として、ソフトリソグラフィマイクロ流体構造が、心臓電気生理学の調査に関して述べられており("Extracellular recordings of field potentials from single cardiomyocytes", Klauke et ai, Biophysical Journal, Volume 91, 2006年10月)、これにより細胞外電圧及び電流が、細胞と接触していない細胞外電極を用いて測定することができる。マイクロチャネルのアレイがポリマーフィルムへのマイクロ成形により形成され、そして絶縁ポリマー隔壁がリソグラフィにより形成されて二つのマイクロ流体プールが画定され、ミオサイトの二つの端部が互いに独立して生理的に操作可能となった。特に、一体化平面マイクロ電極(40μm×20μm)を有した平行なマイクロチャネル(幅40μm、高さ12−15μm)のアレイが顕微鏡のマイクロスリップ上で加工され;アレイのマイクロチャネルは、隣合うチャネルの間に幅20又は40μmの隙間を開けて長手軸に沿って配列された。
【0014】
しかしながら、MEAタイプの基板埋め込みマイクロ電極はマイクロ加工する必要があるため、当該アプローチは依然高価なマイクロシステム技術に依存している。
However, this approach still relies on expensive microsystems technology because MEA-type substrate-embedded microelectrodes need be microfabricated.
【0015】
同様に、Claverol等("Multielectrode arrays with elastomeric microstructured overlays for extracellular recordings from patterned neurons", Journal of Neural Engineering, volume 2, 2005年6月)は、レプリカモールド及びマイクロホールパンチングによってマイクロ構造化された、ニューロンのパターニングのためのエラストマーフィルムと、刺激及び記録のための標準的な平面MEAのサンドイッチ構造を記載している。エラストマーフィルムは、細胞体の閉じ込めのためのマイクロウェルと、軸索のガイドのためのマイクロチャネルを含む。装置は、平面アレイ上にエラストマー構造を重ねることによって形成される。開示されたマイクロウェル及びマイクロチャネルは、数十マイクロメートル程度の同様の直径を有する(図4は幅40μmのマイクロウェル及び幅16μmのマイクロチャネルを示す)。
【0016】
また、単一のニューロンよりも大きい同程度の直径を有するマイクロウェルが必要、及びマイクロチャネルも同様であるため、低コストの再利用可能なマクロ電極(つまりマイクロメートルサイズの電極よりも有意に大きく安価な)を該マイクロウェルに挿入することはできず、高価なマイクロ加工手順によってマイクロ電極を基板に埋め込まなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO2006/031612
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】"Extracellular recordings of field potentials from single cardiomyocytes", Klauke et ai, Biophysical Journal, Volume 91, 2006年10月
【非特許文献2】"Multielectrode arrays with elastomeric microstructured overlays for extracellular recordings from patterned neurons", Journal of Neural Engineering, volume 2, 2005年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、電気的活動への特定の影響についての薬剤のハイスループットスクリーニングを経済的に実現できるように、インビトロで起電性細胞によって引き起こされた電気的活動を記録するためのシステムを提供することである。
【0020】
かかるシステムは好適には、製造コストの高さから基板埋め込みマイクロ電極を有する装置を何ら備えるべきでない。
【0021】
本発明により、接着細胞、例えばニューロンが、少なくとも一つの導管又はマイクロチャネルが連結されたウェルの底部で、細胞培養基板のレベルで基板上に培養される。
【0022】
プレーティング時及びインビトロでの正常な成長の一環として、ニューロンの場合は軸索が伸び、細胞株の場合は増殖して細胞は平坦化し側方に広がる。これらのプロセスの発生と同時に細胞の一部が最終的に導管に入るか又は、通常は導管内に狭い電解質の隙間を残して部分的にその入口を塞ぐ。導管の細胞及び当該隙間に透過電流が流れる結果、導管が連結されているウェルの電位が導管の反対端に対して変化し、この電位が二つ一組の電極によって記録される。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様によると、装置の一つのウェルの幅は、導管の幅の少なくとも10倍、好適には少なくとも20倍、より好適には少なくとも50倍であり、一つの電極の幅は、導管の幅の少なくとも10倍である。幅とは、図面で見たときの側端から側端までの距離(場合によっては斜め方向の距離も含む)を意味するが、水平方向の次元にのみ限られるものではない。ウェルの断面が円形又は四角形でない場合、又は変化するとき(例えばウェルが錐体のとき)、ウェルの幅とは最短の断面距離を意味する(最長の距離が長さである)。
【0024】
導管の幅は、それに沿って細胞が成長できる程度に十分大きくなければならないが、記録可能な電気信号を生成する程度に十分狭いままでなくてはならない。一方、ウェルの幅は、導管の幅と同程度である必要はないがさらに大きくてもよく、これは特定の細胞を導管の開口にガイドする必要はないためである。次に電極の幅は、電極がウェルに挿入でき基板に埋め込む必要がないように、ウェルの幅と同程度であってよい。マクロサイズ(10分の数ミリメートルから数ミリメートル程度)のウェル及び電極の製造はマイクロサイズ(50マイクロメートル以下)の製造よりも安価であることに注目されたい。
【0025】
好ましくは、導管の軸方向はウェルの軸方向と実質的に直交する。ウェルの軸方向は操作時実質的に垂直である(ウェルは通常その上部領域が開いている)ため、導管の軸方向は実質的に水平で、導管の開口は実質的に垂直ということになる。その結果、細胞は導管の開口上に乗ることはないので、細胞は導管の開口にシールを形成せずその近傍に接着する可能性が高くなる。
【0026】
導管の長さは、細胞の適切な部分を収容し記録可能な信号を生成しうるように、好適には少なくとも50μm、及びより好適には少なくとも100μmである。
【0027】
有利には、少なくとも一つの電極が再利用可能であり、前記ウェルの内外に設置可能である。
【0028】
好ましくは、重合体構造は、前記導管に連結されたこのようなウェルを二つと、二つの電極を備え、前記電極の一つは一方のウェルに設置でき、別の電極はもう一方のウェルに設置でき;例えば電極はウェル内に沈めること及びウェルから持ち上げることができる。あるいは、前記電極の一つが一方のウェルに配置され、もう一方の電極がもう一方のウェルに配置され、例えばそれらは一体である。
【0029】
一実施例で、装置はこういったウェル、導管及び電極を複数備え、少なくともいくつかの電極が、対応するウェルのセット又はアレイの内外に設置可能な再利用可能なセットに配されうる。
【0030】
一実施例で、装置は重合体構造のための透明基板を備え、少なくともいくつかの電極が、基板に固定、例えばその中又は上に埋め込まれうる。
【0031】
一実施例で、少なくとも一つのウェルの幅は少なくとも0.1mmである。一実施例で、少なくとも一つの電極の幅は少なくとも0.1mmである。一実施例で、導管の高さは1−30μmの範囲である。よって導管の幅及び高さはマイクロレベル(50μm以下)であるがそれらは重合体構造にモールド成形可能であるため依然低コストで作ることができ、そしてウェル及び電極の幅はマクロレベル(100μm以上)であるためそれらはクリーンルームでのマイクロ加工を必要としない。重合体構造及び電極はさらに再利用可能とすることができる。
【0032】
一実施例で、装置は細胞培養皿を備え;例えば重合体構造が標準的なプラスチックの皿に設置されうる。
【0033】
本発明の別の態様によると、インビトロの細胞電気的活動を記録するための機器は本発明による装置を備える。
【0034】
一実施例で、前記機器は、電極によって記録された信号を処理するための電子システム、例えば、ニューロン活動への事前に特定された影響について成分をハイスループットでパラレルスクリーニングすることを可能としうるデータ取得及びデータ分析のためのマルチチャネルシステムを備える。
【0035】
好ましくは、電子システムは、細胞培養における活動の電気的刺激のための電子サブシステムを備える。当該刺激は電極を介して伝えられうる。
【0036】
有利には、電子システムはコンピューティングシステムを備える。
【0037】
一実施例で、機器は、ウェルに成分を放出するためのコンピュータ制御されたポンプを備える。
【0038】
一実施例で、機器は、光学アッセイを実施するための顕微鏡を備える。この理由から基板は、もしあるなら、好適には透明である。
【0039】
本発明の別の態様によると、インビトロでの細胞の電気的活動を記録するための方法は、本発明による装置又は機器の使用を含む。
【0040】
好ましくは、前記方法は、第一ウェルに記録電極を設置し、第一ウェルに連結された第二ウェルに参照電極を設置し、両ウェルは培養細胞を含んでいる工程、及び、前記二つの電極間の電位を測定する工程を含む。
【0041】
本発明の別の態様によると、本発明による装置の製造方法は、いずれも単純且つ安価な技術であるレプリカモールド技術又はプラスチック射出成形技術の使用を含む。
【0042】
一実施例で、方法は、カラム(柱)を欠損したフォトレジスト材料のマイクロストリップを備えてなるマスタ上でポリマーを所望の厚さに(例えば注ぎ込み又はスピニングにより)設定する工程を含む。マイクロストリップは導管を作るが、ウェルはさらなる工程で例えばパンチングによって作製される。
【0043】
プラスチック射出成形技術を用いる場合、二つのモールドが利用でき、一つはウェルの作製に、もう一方は導管又はマイクロチャネルの作製に利用される。
【0044】
本発明が定義する装置、機器及び方法は、フォトリソグラフィで加工されたマルチ電極アレイの代替物であり、類似の、しかし低コストのマルチチャネル記録を提供する。当該技術は一つに薬剤の大量スクリーニングに適用される。
【0045】
本発明は、薬剤投与の前と後での記録された信号の時間的プロファイルの比較によって候補アンタゴニスト及びアゴニスト成分を評価するために使用できる。
【0046】
本発明はさらに、特定のチャネルに関連する透過電流の、非起電性細胞、例えばHeLa、COS、及び前記透過チャネルをコードする遺伝子をトランスフェクトされた他の細胞株を用いた記録に使用されうる。細胞は、トランスフェクトされたチャネルを流れる細胞外電流を閉じ込めて記録可能な信号を生成するマイクロ導管の細長い形状に適合する。
【0047】
本発明のいくつかの実施例は、添付の図面を参照して以下で非限定的な例としてのみ記述される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】当該技術分野で知られた従来の平面パッチクランプ装置の概略的縦断面図である。
【図2】本発明による装置の一実施例の概略的縦断面図である。
【図3】別の実施例の概略的縦断面図である。
【図4】また別の実施例の概略的縦断面図である。
【図5】図4の実施例の概略的水平断面図である。
【図6】図5の装置のアレイを備えた装置である。
【図7】本発明による装置の別の実施例の概略的水平断面図である。図面は純粋に略図であり、実際の比率を反映するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0049】
当該記述を通じて、ニューロンに対する言及が数多くある。これらの言及は、そうでないことが特記されない限り、他の適切な起電性細胞、例えばミオサイトを包含するものと理解されたい。
【0050】
図1は、当該技術分野で周知のニューロンの電気的活動を記録するための装置を示す。それは平面MEAの一部であってよく、底部が電気絶縁層2である細胞培養皿1を備える。絶縁層の下には導電層(又は電極)3があり、皿内部には絶縁層の開口部4を介した導電層へのアクセスがある。全体がガラス基板6に支持されている。開口部4の直径(又は幅)は、ニューロンの細胞体の直径と同程度の大きさであり(層2の厚さはそれよりもずっと短くてよいが)、一又は複数のニューロン7は開口部4の近傍で層2に接着し、電極3によって記録可能な電気的活動を生成することが見込まれる(参照電極は図示せず)。
【0051】
図2は、本発明による装置の一実施例を示す。それは、底部に重合体構造12が取り付けられている皿11を備える。重合体構造12に適したポリマーは例えば、エラストマーであるPDMS(ポリジメチルシロキサン)及びポリスチレンである。
【0052】
重合体構造12は、側方からマイクロチャネル又は導管(実際にはマイクロ導管)15が開いて伸びているウェル14を備え;導管15は端部が閉じていてウェル14の底部領域から開いている。一組の電極13及び13’は、導管15の開口部又は入口の近傍に接着したニューロン7の両端の電位の相違を記録することができ、ここで一端(細胞体)はウェル14にあり、もう一方(軸索)の端は導管15にある。活性電極13はウェル14の導管開口部にあまり近くない位置に位置し、そして参照電極13’は導管15の閉端に位置し、よって電極13は電極13’よりもずっと大きくてよい。電極13及び13’は増幅器を備えた信号処理システム(図示せず)に接続される。電極に適した金属は例えば、銀及び塩化銀である。全体がガラス基板16に支持されている。
【0053】
ウェル14は細胞培養を収容し、導管15はニューロンの細胞体よりも狭い。こういった状況で、インビトロでの細胞成長の結果、ニューロン7は少なくとも一つの軸索8を導管15内に伸ばすが、そのニューロン細胞体はウェル14に残る可能性が非常に高い。導管はこうしてニューロンとルーズパッチ関係を築き;ギガオームの程度である典型的なパッチクランプシールと比べて、導管−軸索隙間のインピーダンスはメガオームの程度である。次に、軸索によって生成された信号は(参照電極13’に対して)電極13によって検出され、信号処理システムによって処理されうる。ニューロン以外の細胞型もまた当該装置に適合し;場合によっては細胞体が部分的に導管内に成長しその開口部をほぼシールすることもある。
【0054】
ニューロンの細胞体の直径は10−50μmの範囲で、ニューロンテストの場合、導管15は長さ50−2000μm、幅10−40μm、及び高さ5−10μmであってよく、ウェル14の幅は0.1−20mmの範囲であってよく、そして電極の幅はウェルの幅と同様であってよい。ウェルの高さについては、ウェルは導管15上のレベルで細胞培養を収容するのに過不足ない高さでなければならず;よってウェルの高さは通常0.1−10mmの範囲である。
【0055】
ウェル14の幅(及び同じく電極13の幅)は導管15の幅の少なくとも10倍であり、よって、導管のサイズはマイクロレベルで(軸索のサイズに合うように)あるがウェルのサイズはより製造しやすいマクロレベルである。
【0056】
当該明細書を通じて、用語「幅」は「側端から側端までの距離」を意味し、非円形の断面に言及しうるため、用語「直径」よりも使用が好ましく;示される図面の参照において、要素の幅は、水平方向の側端から側端までの距離を通常意味する。よって、ウェルの幅は図面の平面上で水平方向の距離であるが、導管の幅は図面の平面から見たときの深さである。
【0057】
さらに、何らかの物の幅は通常水平方向の寸法に関するが、当該明細書では必ずしもそうではないことに注目されたく;例えば皿11が傾けられている場合、ウェル14及び導管15の幅はもはや水平方向の寸法ではない。明らかに、高さは図面において垂直方向の距離として示されている。
【0058】
図3は、図2の実施例と類似の実施例だが電極13及び13’の構成が異なる。この場合、両電極は比較的大きく、装置の上部領域から信号処理システム(図示せず)に接続されているが、図2の実施例では該接続は装置の底部領域を介したものである。
【0059】
図3に示した装置の変形で、活性電極13がウェル14の一つの壁をなし、同様に参照電極13’が導管15の閉端をなす。
【0060】
図4は、本発明の別の実施例を示す。それは重合体構造12を含む細胞培養皿11を備える。重合体構造12は、二つのウェル14及び14’と、該二つのウェルの底部領域と繋がる導管15を備える。ウェル14,14’の幅は、導管15の幅の少なくとも10倍、好適には50倍で、導管のサイズはマイクロレベルであるがウェルのサイズはマクロレベルである。
【0061】
皿11には、取り外し可能な蓋20が設けられていてよく、プレート16によって支持されうる。二つの取り外し可能な電極13,13’は二つのウェル14,14’内に沈めることと、そこから持ち上げることができる。電極13,13’は参照電極(図示せず)と協働しうるか又は、電極13’が電極13のための参照電極であるか又はその逆であってもよい。電極は、例えばプレート16を介して信号処理システム(図示せず)に接続される。
【0062】
ウェル、電極及び導管の寸法は、前述の実施例と同様である(図4に見られるように、導管15の幅と同様に、電極13,13’の幅は図面の平面から見たときの深さである)。
【0063】
ニューロンのスパイク時、過渡膜電位変化と関連する細胞外電流は導管に閉じ込められ、測定可能な電位が、導管によって接続されたウェル間に出現する。
【0064】
当該装置の操作方法の一つは、次いでニューロン集団をウェル14,14’内で培養し、一又は複数のニューロンの軸索を導管15内に伸長させ、二つの電極13,13’によって二つのウェル14,14’の間の電位差の変化として自発的又は電気的に刺激されたニューロン活動を測定し、そして前記電位測定値を記録及び処理することである。ゆえに、電極を特定のニューロンの極近傍に設置する必要も、電極又はウェルのサイズをマイクロレベル(ニューロンのサイズ程度の)にする必要もない。
【0065】
プレート16は開口部(又は透明部分)21を有してよく、該部分を介して、顕微鏡22を用いた、ウェルでの細胞成長に関する光学アッセイが実行可能である。プレート16は顕微鏡ステージ23上に置くことができる。
【0066】
図5は、ウェル14,14’及び導管15を含む重合体構造12の底部領域の横断面を示し、図6は、図4に示したような二つのウェル及び導管の群を複数備えてなる新しい実施例を表す。図6で、二つのウェルと導管の群は整列したアレイを形成する。当該実施例で、薬剤のハイスループットスクリーニングが実現可能である。
【0067】
図7は装置のまた別の実施例を示し、一つの中心のウェル14が、該中心ウェル14の周囲に同心円状に設けられた複数のより小さいウェル14’と組み合わされている。前述と同様に、ウェル14と14’の各ペアは、それよりずっと狭い導管15によって連結されており、全体が重合体構造13内に含まれている。
【0068】
コンピュータ制御されたポンプで成分をウェル又はチャンバ内に放出できる。適切なソフトウェアで一又は複数のポンプを制御し、且つスパイク率対成分濃度曲線(原型的薬剤スクリーニングアッセイ)を得ることができる。
【0069】
記述した装置は、特別な細胞培養プロトコル又は特別な細胞培養表面を必要とせず、実質的には何れの細胞培養プラスチック製品及びガラス製品とも適合する。
【0070】
上述したような重合体構造の原型は、レーザ書き込み系を用いて容易に作製可能である。しかし、前記重合体構造(特にアレイ)の大量生産には、他の方法、例えばレプリカモールド技術を採用するような方法が好適である。
【0071】
ポリマーは、カラム(柱)を欠損した、SU−8(ポリエステル樹脂)又は類似のものといったフォトレジストのマイクロストリップを含むマスタ上に所望の厚さに注がれるか又はスピンされる。ポリマーは、(熱、UV又は他の手段によって)硬化され、剥離されて、マイクロレベルの導管が装着されたポリマーのスラブが生成される。当該工程で作製されるマスタは、単一工程のフォトリソグラフィ技術又はレーザ書き込みリソグラフィによって作製できる。
【0072】
スラブはその後、軟質基板(例えばPDMSブロック)上に重ねられ、カスタマイズされた所望の半径(典型的には1−10mmの幅だが他の直径も可能である)の生検パンチシリンダのアレイを用いてウェルが打ち抜かれる。打ち抜き前の、マイクロ導管が彫り込まれたスラブへの生検パンチアレイの位置合わせは、xyzステージ及び回転ステージを用いて行われる。
【0073】
結果として得られた穿孔されたスラブは、パンチ台から剥がされ、選択されたプラスチック製又はガラス製の細胞培養に整列され、取り付けられる。一般的な培養プラスチック、例えばポリスチレン又はホウケイ酸ガラスへのPDMSの整合性のある取り付けは、ニューロン信号の長期記録には十分である。機械的ストレス又は過酷な培養手順による剥離が心配であれば、プラスチック又はガラスへの不可逆的な取り付けのために酸素プラズマ処理を重合体構造に施すこともできる。
【0074】
前記重合体構造の大量生産に適した別の方法はプラスチック射出成形である。
【0075】
射出成形モールドは、重合体構造のネガティブとして作製され、つまりウェルを形成するためのカラム(柱状体)と、マイクロチャネルを形成するための前記カラムを連結するストリップ(帯状体)とを含む。温度によって液化するプラスチックが注入され、冷却そして押し出される。その結果得られる構造体は、ウェルに対応する貫通穴と底部側内に導管を含む。前記構造体は、最終装置を形成するようにプラスチック底プレートに接着される。前記接着のための方法は、熱機械手段を含み当業者には周知である。
【0076】
射出法のまた別の例では二つのモールドが使用される。そのうち一つのモールドは、結果として得られる射出生成プラスチック片に貫通穴が作られるようにカラム(柱状体)を含む。二つ目のモールドは、導管又はマイクロチャネルを含むプラスチックプレートが作られるようにストリップ(帯状体)を含む。一つは貫通穴を含みもう一方はマイクロチャネルを含む両片は、連結導管を有するウェルを形成するように接着される。
【0077】
プラスチック射出成形及び生物医学的応用に適した材料は当業者に周知で、ポリスチレン、PVC、ポリプロピレンその他を含む。
【0078】
重合体構造の射出成形のためのモールドは、機械的手段によって、そしてまた電鋳又は電着によってニッケル、ステンレス鋼等を含む材料を用いて製造できる。
【0079】
本明細書では本発明の特定の実施例のみを示し説明したが、当業者であれば、添付の請求項に定義された特許の保護の範囲から逸脱することなく、各ケースの特定の要件に応じて、修正を加えること、及び任意の技術的特徴を技術的に等価な他の特徴に置き換えることができる。
【0080】
例えば、相互連結導管を有する二つ、三つ又はそれ以上のウェルの群を含めて、ウェル及び導管の多重配置が可能である。それらは、上述の実施例と同様に、細胞の一部を収容するマイクロメートルサイズの複数の空洞(導管)、マクロレベルの電極及びウェルを有する。
【0081】
あるいは、電極はウェル内に沈めるのではなく、ウェルの液体と接触するように底部基板を通して挿入されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を収容且つ培養するためのウェル(14)、前記ウェルの底部領域に連結された導管(15)、及び前記ウェルの電位を記録するための二つの電極(13,13’)を備えた重合体構造(12)を備えてなる、インビトロで細胞によって生じた電気的活動を記録するための装置であって、前記ウェルの幅が前記導管の幅の少なくとも10倍であり、少なくとも一つの前記電極(13)の幅が前記導管の幅の少なくとも10倍であることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記ウェルの幅が前記導管の幅の少なくとも20倍である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ウェルの幅が前記導管の幅の少なくとも50倍である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
導管(15)の軸方向がウェル(14)の軸方向と実質的に直交する、請求項1ないし3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
導管(15)の長さが少なくとも50マイクロメートルである、請求項1ないし4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
導管(15)の長さが少なくとも100マイクロメートルである、請求項1ないし5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
少なくとも一つの前記電極(13)が再利用可能であり、前記ウェルの内外に設置可能である、請求項1ないし6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
重合体構造が前記導管(15)に連結された前記したようなウェル(14,14’)を二つ備える、請求項1ないし7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記電極(13)の一つが一方のウェル(14)に設置でき、別の一つの前記電極(13’)がもう一方のウェル(14’)に設置できる、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記電極(13’)の一つが一方のウェル(14)に配置され、別の一つの前記電極(13’)がもう一方のウェル(14’)に配置される、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記したようなウェル、導管及び電極を複数備えた、請求項1ないし10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
少なくともいくつかの電極が、対応するウェルのセットの内外に設置可能な再利用可能なセットに配された、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
重合体構造(12)のための透明基板(16)を備えた、請求項1ないし12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
少なくともいくつかの電極が基板に固定された、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
少なくとも一つのウェルの幅が少なくとも0.1mmである、請求項1ないし14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
少なくとも一つの電極の幅が少なくとも0.1mmである、請求項1ないし15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
導管の高さが1−30マイクロメートルの範囲である、請求項1ないし16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
細胞培養皿(11)を備えた、請求項1ないし17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかに記載の装置を備えることを特徴とする、インビトロの細胞電気的活動を記録するための機器。
【請求項20】
電極によって記録された信号を処理するための電子システムを備えた、請求項19に記載の機器。
【請求項21】
電子システムが細胞培養における活動の電気的刺激のための電子サブシステムを備える、請求項20に記載の機器。
【請求項22】
電子システムがコンピューティングシステムを備える、請求項20又は21に記載の機器。
【請求項23】
ウェルに成分を放出するためのコンピュータ制御されたポンプを備えた、請求項22に記載の機器。
【請求項24】
光学アッセイを実施するための顕微鏡(22,23)を備えた、請求項19ないし23のいずれかに記載の機器。
【請求項25】
請求項1ないし24のいずれかに記載の装置又は機器の使用を含むことを特徴とする、インビトロでの細胞の電気的活動を記録するための方法。
【請求項26】
第一ウェル(14)に記録電極(13)を設置し、第一ウェル(14)に連結された第二ウェル(14’)に参照電極(13’)を設置し、両ウェルは培養細胞を含んでいる工程、及び、前記二つの電極間の電位を測定する工程を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
レプリカモールド技術又はプラスチック射出成形技術の使用を含む、請求項1ないし18のいずれかに記載の装置の製造方法。
【請求項28】
カラム(柱)を欠損したフォトレジスト材料のマイクロストリップを備えてなるマスタ上でポリマーを所望の厚さに設定することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
二つのモールドの利用を含む、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−539462(P2010−539462A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524456(P2010−524456)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061584
【国際公開番号】WO2009/033987
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(510071415)
【Fターム(参考)】