説明

細胞をガラス化保存する方法および細胞のガラス化保存用容器

【課題】効率よく安定的に微小容量の細胞保護液により細胞をガラス化保存することにより、細胞保護液による細胞毒性を抑制し、細胞の生存率を高める細胞保存方法の提供。
【解決手段】50nL以下の容量の完全無血清(血清成分を全く含まない)の保存液に細胞を保持し、当該細胞を冷凍剤存在下にて保存する方法。好ましくは、15%以下の濃度の凍結保護剤を含有する細胞保護液を用いて、細胞を冷凍剤存在下にて保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス化法による細胞保存技術に関する。特には、本発明は、ガラス化法による、細胞保存に適した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の凍結保存は、生殖医療の分野において人工授精、体外受精等に用いられるほか、遺伝資源の保存や品種改良において必要とされている。従来、哺乳動物細胞の凍結保存方法としては、凍結保護物質として、グリセロール、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、プロパンジオール、ショ糖を利用し、段階的に凍結液に浸して時間をかけて凍結させる緩慢凍結法が利用されてきた。しかし、緩慢凍結法を利用した場合には、時間がかかる(2−3時間)という問題の他、プログラムフリーザー等の専用の装置が必要であり、広く一般的に普及しにくいという問題があった。
【0003】
一方で、細胞内外の溶液を急速な冷却によりガラス状に凍結させて保存するガラス化保存法は、高価な冷却装置を必要とせず処理時間も短いことから、緩慢凍結法に変わる方法として現在広く実用化されている。しかし、ガラス化保存法は、1937年に報告(非特許文献1参照)されて後、実用化のための技術開発に長い期間を要し、1985年に高濃度の凍結保護物質(氷晶形成抑制剤)を用いる技術が開発されることによって、ようやく高生存性、単純な工程、迅速な凍結保存方法として実用化されることとなった(非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、当該ガラス化保存法においては、高濃度の凍結保護物質を含有することが必要であることから細胞への毒性が問題となっていた。この問題を解決するため、冷却する液量を減らし冷却速度を加速することにより、凍結保護物質濃度を低下させることができることが見出され、超微液量にて細胞を保存する方法が開発されている。例えば、凍結保護容器としてナイロンループ、ストロー外壁、チップ、プレート、フィルム等が使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、いずれも細胞含有保存液の液量はマイクロリットルレベルであり、細胞保護物質を少なくとも30%程度は含有させる必要があった(非特許文献3参照)。
【0005】
Demiriciらは、リンパ球細胞、マウスES細胞、胎児皮膚由来細胞株、肝細胞株、サル心房細胞株等の細胞を含有する細胞保護液の液滴を、直接液体窒素中に落とし、所望のサイズのフィルターでろ過することにより、微量の液量での細胞の保存を可能とし、より低濃度の細胞保護物質においてガラス化できることを報告している(非特許文献4参照)。しかし、本方法は、微量液滴を液体窒素中に直接滴下するため、特殊な装置が必要であること、全ての液滴の容量を揃えることが困難であること、フィルターでろ過されなかった所望の容量を超える液滴は廃棄することとなり、細胞の利用率が低くなること、液滴をフィルターにかけて所望のサイズの液滴を回収する工程に時間を要すること等の問題があった。また、生殖細胞や受精卵細胞のガラス化保存においては、生存率が良くても胚盤胞到達が悪いことがあることも問題として知られているが、Demiriciらはこのような生殖細胞の問題点については何ら言及していない。
【0006】
更に、従来の方法は、血清(ウシ血清アルブミン)を使用しているが、近年感染症等の危険を回避する目的から無血清で高い生存率を達成できる方法が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許公開第WO2004/098285号公報
【特許文献2】国際特許公開第WO00/21365号公報
【特許文献3】特開2002−315573号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Luyet,B.J.,Biodynamica,29,1−14(1937)
【非特許文献2】Rall,W.F. et al.,Nature,313,573−575(1985)
【非特許文献3】Kuwayama,J.Mamm.Ova Res.,22,193−197(2005)
【非特許文献4】Demirci et al.,Lab Chip,7,1428−1433,2007
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、安定的かつ簡便に低容量でガラス化保存を可能とする方法について検討した結果、細胞支持担体に特定の容積の穴をあけることにより、効率よく安定的に微小容量の細胞保護液を保持することができることを見出した。また、本発明者らは、当該容器を利用して保存した細胞は生存率が高いのみならず、生殖細胞においてはその後の発育も良好であることを見出した。
【0010】
一の態様において、本発明は、細胞をガラス化保存する方法であって、50nL以下の容量の無血清の保存液に当該細胞を保持する工程、当該細胞を冷凍剤存在下にて保存する工程を備える方法に関する。また、別の態様において、本発明は、細胞をガラス化保存する方法であって、50nL以下の容積の穴を備える細胞のガラス化保存用容器に無血清の保存液を保持させる工程、当該保存液中に該細胞を加える工程、当該細胞を冷凍剤存在下にて保存する工程を備える方法に関する。
【0011】
本発明において使用する保存液の量は、好ましくは、10nL以下であり、より好ましくは5nL以下である。また、保存液の量は、0.5〜50nL、1〜10nL、2〜5nLとすることができる。また、本発明において使用する保存液は血清由来成分を全く含まない。そのため感染の可能性を否定することができる。
【0012】
本発明において使用する保存液は、凍結保護剤を含有していてもよい。凍結保護剤としては、例えば、エチレングリコール、ジメチルスルフォキシド、グリセロール、プロパンジオール、アセトアミド、プロピレングリコール、ブタンジオール等の細胞膜透過性凍結保護物質;並びに、シュクロース、トレハロース、ラクトース、ラフィノース、パーコール、フィコール70、フィコール70000、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の細胞膜非透過性凍結保護物質を挙げることができる。本発明において使用する保存液中の凍結保護材の濃度は、細胞の生存又は発育が可能な限り低濃度であることが望ましく、例えば、30%以下であり、好ましくは、15%以下であり、より好ましくは、12%以下である。保存液中の凍結保護材の濃度は、例えば、1〜30%、5〜15%、9〜12%とすることができる。
【0013】
本発明において使用する保存液は、細胞保護物質を含有していてもよい。細胞保護物質としては、例えば、ヒアルロナン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、フィブロネクチン等を挙げることができる。本発明で使用する保存液中に含まれる細胞保護物質の濃度は、細胞が保護され生存又は発育が可能である濃度であれば特に限定されないが、例えば、0.005〜1%とすることができ、好ましくは、0.001〜0.5%であり、より好ましくは、0.05〜0.1%である。
【0014】
また、本発明において使用する保存液は、栄養源、PH調整その他の目的で、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸マグネシウム七水和物、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物、ゲンタマイシン硫酸塩、アミノ酸、アラニル−L−グルタミン、D−グルコースDL−乳酸ナトリウム等の乳酸塩、ピルビン酸ナトリウム等のピルビン酸塩等を含んでいてもよい。
【0015】
本発明において使用する細胞は、ガラス化保存が可能な細胞であれば特に限定されないが、好ましくは、真核細胞であり、より好ましくは、哺乳類、昆虫等の動物細胞及び植物細胞であり、更に好ましくは、哺乳類細胞である。細胞としては、例えば、精子、卵母細胞、羊膜間葉細胞、未受精卵細胞、受精卵細胞、胚細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、がん幹細胞、又は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の未分化細胞;並びに、子宮内膜細胞等の内膜細胞、卵管上皮細胞、羊膜上皮細胞、胆管上皮細胞等の上皮細胞、繊維芽細胞、類洞内皮細胞、血管内皮細胞等の内皮細胞、肝細胞等の分化細胞を挙げることができ、好ましくは、未分化細胞であり、より好ましくは、精子、卵母細胞、羊膜間葉細胞、未受精卵細胞、受精卵細胞、胚細胞、又は、胚性幹細胞(ES細胞)等の生殖系未分化細胞である。本発明において使用する方法は、これらの細胞の生存率が高いのみならず、未分化細胞の分化発育能を維持することができる。
【0016】
本発明において使用する冷凍剤は、細胞のガラス化を起こすことができるものであれば特に限定されず、好ましくは、安全性の高い材料である。冷凍剤としては、例えば、液体窒素、スラッシュ窒素(Slush Nitrogen)、液体ヘリウム、液体プロパン、エタンスラッシュを挙げることができ、好ましくは、液体窒素又はスラッシュ窒素である。スラッシュ窒素は、液体窒素を減圧下で保持することにより液体窒素温度を常圧の−196℃より低い−205〜−210℃に下げた窒素のことである(Huangら、Human Reproduction,Vol.20,No.1,pp.122−128(2005))。冷凍剤としてスラッシュ窒素を用いる場合には、例えば、Vit−MasterTM(IMT、Nes Ziona、イスラエル)等の装置により、ガラス化保存を行うことができる。
【0017】
本発明において使用する細胞のガラス化保存用容器は、50nL以下の容積、好ましくは0.5〜50nL、より好ましくは1〜10nL以下、さらに好ましくは2〜5nL以下の容積を有する1若しくは2以上の貫通孔または一方開口部を有する。「貫通孔」とは、ガラス化保存容器の一面を貫通する孔をいう。「一方開口部」は、細胞のガラス化保存容器の一面の一方のみに開口し、他方に開口していない凹部をいう。貫通孔の容積は、当該貫通孔の側面と、細胞のガラス化保存用容器の面と平行な当該貫通孔の天面および底面にて囲まれた領域の容積である。一方開口部の容積は、細胞のガラス化保存用容器の面と平行な当該一方開口部の天面、当該一方開口部の側面および底面にて囲まれた領域の容積である。貫通孔または一方開口部の形状は、その開口面と平行の断面積が当該開口面と垂直方向にわたって一定である円筒形状、直方体、立方体の他、当該断面積が当該垂直方向にわたって異なる形状であっても良い。また、細胞のガラス化保存用容器は、樹脂、金属、セラミックス(ガラス、炭素も含む)など、公知の材料にて形成される。さらに、細胞のガラス化保存用容器の形態は、板に貫通孔または一方開口部を形成したものの他、細管状の形態、網状の形態等を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施の形態に係る細胞のガラス化保存容器の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す一点鎖線で囲まれた領域Aの拡大図である
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の細胞をガラス化保存する方法および細胞のガラス化保存用容器の実施の形態について説明する。
【0020】
(1)細胞のガラス化保存用容器
この実施の形態において使用する好適な細胞のガラス化保存容器は、厚さ30〜300μmの樹脂製の平板であって、上下開口面が円形である貫通孔が1個以上形成されているものである。貫通孔が2個以上存在する場合、それら貫通孔は、同じ容量であっても、異なる容量であっても良い。当該ガラス化保存容器の板厚は、好ましくは50〜200μm、より好ましくは80〜150μmである。板厚を100μmとし、当該ガラス化保存容器に円筒形の貫通孔を形成する場合、貫通孔の直径を40〜400μmの範囲に設計すると、ガラス化保存容器の容積を、好適な大きさである0.5〜50nLの範囲とすることができる。貫通孔は、レーザー加工、機械工具を用いた加工、ウオータージェット加工等の種々の加工法により形成し得るが、微細な孔を最も容易に形成できるレーザー加工を用いるのが好ましい。レーザー加工には、ガスレーザー、固体レーザー、半導体レーザー等の公知のレーザーを用いることができるが、その中でもより加工に適した炭酸ガスレーザー(ガスレーザーの一種)、エキシマレーザー(ガスレーザーの一種)、YAGレーザー(固体レーザーの一種)を好適に使用できる。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る細胞のガラス化保存容器の一例を示す斜視図である。図2は、図1に示す一点鎖線で囲まれた領域Aの拡大図である。
【0022】
細胞のガラス化保存容器1は、細長く薄い平板2と、その平板2の一端側に固定されると共に平板2の厚さtより大きな厚さTを有する把持部3とを備えている。平板2は、その長さ方向の先端部分に、3個の同径の貫通孔4(いずれも直径D(μm))を有する。好適な厚さtおよび直径Dは、それぞれ100μmおよび90〜100μmである。平板2は、無色透明なアクリル樹脂から構成されている。平板2が無色透明な材料で構成されていると、細胞を含む保存液を、顕微鏡を見ながら貫通孔4の中に入れる際に、より簡便に行うことができる。ただし、平板2は、無色透明な材料に限定されるものではなく、有色透明、半透明、あるいは不透明な材料から構成されていても良い。また、本発明のガラス化保存容器1の材料は、細胞に対し安全な素材であれば材質は限定されない。
【0023】
把持部3は、樹脂、金属、セラミックスあるいは木材等のいかなる公知の材料で構成されていても良い。把持部3の厚さTを平板の厚さtより十分に大きいので、細胞を有する無血清の保存液が貫通孔4内に保持された状態の細胞のガラス化保存容器1を平らな台等に載置した際、平板2の貫通孔4は、直接、当該平らな台に接触しない。すなわち、細胞を有する保存液は、貫通孔4内に収まったまま、空間に浮いた状態になる。このため、当該保存液が貫通孔4内から不用意に出てしまうのを防止することができる。
【0024】
(2)細胞の調整方法
ガラス化保存する細胞は、適宜当業者周知の方法によりに調整することができる。たとえば、目的の細胞が卵子又は胚(卵核胞(GV)、前核期胚(PN)、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、BL(胚盤胞))の場合、Quinnらの方法(Quin et al,Journal of Reproduction and Fertility,66,161−168,1982)に準じて行うことができる。GVは、卵巣より直接採取し、PN、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、及び、BLは、HCG注射後14、36、48、60及び84時間後にそれぞれ卵管又は子宮を培養液で灌流して採取することにより調整することができる。
【0025】
(3)細胞のガラス化保存方法
細胞のガラス化保存は、細胞をガラス化保存液に馴化させた後、所望のガラス化保存液中にて保存することができる。例えば、基本培養液を0.5−1mL中に、細胞を移動させ、室温で5分間放置して馴化させ、その後、当該細胞をガラス化保存液0.5−1mL中に移動させ、室温で3−15分間放置して平衡化させてガラス化保存用細胞を調整することができる。ガラス化保存用容器の各大きさの穴にガラス化保存液をガラスピペットにて正確に注入し、速やかにガラス化保存用容器を直接液体窒素中に投入し、ガラス化保存を行うことができる。また、本発明のガラス化保存液は細胞への毒性が低いため、ガラス化保存液に細胞を馴化させた後、凍結液への投入までの時間を通常のガラス化保存法より長くすることができる。また、馴化の工程をより短時間で行ってもよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0027】
実施例1.ガラス化保存用容器の作製
厚み100μmのプラスチック板(クライオトップ、北里サプライ)にレーザー光を照射し、直径が150μm(容積1.8nL)、200μm(容積3.1nL)、及び、250μm(容積4.9nL)の貫通孔を形成した。
【0028】
実施例2.保護剤濃度15%におけるガラス化保存液体積の細胞生存性への影響
細胞保護剤の濃度を現在使用されている30%から15%まで低下させることが可能な保存液の量を確認するため、保護剤を15%含有する保存液を使用した場合の保存液の量と細胞の生存率との関係を調べた。
(1)マウス卵子と胚の採取
マウス卵子と胚(卵核胞(GV)、前核期胚(PN)、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、BL(胚盤胞))は、Quinnらの方法(Quin et al,Journal of Reproduction and Fertility,66,161−168,1982)に準じて行った。GVは、卵巣より直接採取し、PN、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、及び、BLは、HCG注射後14、36、48、60及び84時間後にそれぞれ卵管又は子宮を培養液で灌流して採取した。
【0029】
(2)ガラス化保存液(保護剤濃度15%)の作製
乾らの方法(乾ら、日本受精着床学会誌、25、23−26、2008)に従い、基本培養液(基本成分は以下の通り:塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム七水和物、19種のアミノ酸、炭酸水素ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物、ゲンタマイシン硫酸塩、ポリビニルアルコール、アラニル−L−グルタミン、エネルギー源としてD−グルコースDL−乳酸ナトリウム等の乳酸塩、ピルビン酸ナトリウム等のピルビン酸塩)に12mMのHEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)及び8mMナトリウムHEPESを含有培地)を作製した。当該基本培養液にエチレングリコールを終濃度が7.5%となるように加え、更にジメチルスルホキシド(DMSO)を終濃度が7.5%となるように加えた。更に、ショ糖、ポリビニルアルコール、フィコール及びヒアルロナンをそれぞれ終濃度が0.5M、0.1%、1%、0.05%となるように加え、ガラス化保存液(保護剤濃度15%)とした。
【0030】
(3)ガラス化保存の手順
4ウェルIVFディッシュ(ヌンク社、176740または144444)の1番目のウェルに基本培養液を0.5−1mL入れその中に、上記にて採取したマウス2細胞期胚をガラスピペットにて移動させ、室温で5分間放置して馴化させた。その後、4ウエルディッシュ(ヌンク社、144444)の2番目のウェルに上記により作成したガラス化保存液(保護剤濃度15%)0.5−1mL入れ、その中にマウス2細胞期胚をガラスピペットにて移動させ、室温で3−15分間放置して平衡化させた。実施例1で作製したガラス化保存用容器の各大きさの穴にガラス化保存液(保護剤濃度15%)をガラスピペットにて正確に注入し、容積1.8nL、3.1nL、及び、4.9nLの保存液を調整した。容積10nL、25nL、50nL、100nL、250nL、500nL、1000nLの保存液も同様にガラスピペットにて注入することでそれぞれ所望の体積を調整した。平衡化が終了したマウス2細胞期胚は細胞をガラスピペットで取り出し、顕微鏡下で保存容器の中の保存液中に1個ずつ移動させた。マウス2細胞期胚を加えたのち、速やかにガラス化保存用容器を直接液体窒素中に投入し、ガラス化保存を行った。
【0031】
(4)融解方法並びに生存率の確認
あらかじめ4ウェルIVFディッシュ(ヌンク社、176740または144444)の1番目のウェルに融解液1(ショ糖0.7−1.0M、ポリビニルアルコール0.1%、ヒアルロナン0.05%含有基本培養液)を0.5−1mLそして2番目のウェルには融解液2(ショ糖0.35−0.5M、ポリビニルアルコール0.1%、ヒアルロナン0.05%含有基本培養液)を0.5−1mL、そして3及び4番目のウェルには融解液3(ポリビニルアルコール0.1%、ヒアルロナン0.05%のみを含有する基本培養液)を0.5−1mL準備した。融解方法は液体窒素中にて1−10日間保存後、ガラス化保存したマウス2細胞期胚を、保存容器ごと上記の1番目の融解液1の入ったウェルに直接浸漬し、1分後にガラスピペットにて2番目の融解液2のウェルに移動させ3分間平衡させた。その後3分間隔で3番目と4番目の融解液3のウェルに移し変えることにより浸透圧ショックを与える事無く段階的に凍結保護剤の除去を行った。融解操作を終えたマウス2細胞期胚は回収し、BM培地(乾ら、日本受精着床学会誌、25、23−26、2008)中で培養を継続し、細胞の生存を確認した。細胞の生存確認は、12あるいは24時間毎に倒立顕微鏡にて形態観察を行い必要に応じ写真撮影し、その形態学的分類により生存性を評価した。
【0032】
(5)結果
結果を表1に示す。表に示されるとおり、細胞保護剤を15%に低減させた場合、ガラス化保存液の体積を50nL以下とすることによって細胞の生存率が高くなることが示された。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例3.細胞保護剤濃度の細胞生存率への影響
以上の実施例からも、保存液の体積が少ない場合には、保護剤の濃度が低くても生存率が高いことが示されたことから、ガラス化保存液の体積を5nL以下とした場合に、細胞保護剤の濃度が細胞生存率に与える影響を調べた。
【0035】
(1)マウス卵子と胚の採取
マウス卵子と胚(卵核胞(GV)、前核期胚(PN)、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、BL(胚盤胞))は、Quinnらの方法(Quin et al,Journal of Reproduction and Fertility,66,161−168,1982)に準じて行った。GVは、卵巣より直接採取し、PN、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、及び、BLは、HCG注射後14、36、48、60及び84時間後にそれぞれ卵管又は子宮を培養液で灌流して採取した。
【0036】
(2)ガラス化保存液(保護剤濃度30%、15%、12%、9%、6%)の作製
乾らの方法(乾ら、日本受精着床学会誌、25、23−26、2008)に従い、基本培養液(基本成分は以下の通り:塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム七水和物、19種のアミノ酸、炭酸水素ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物、ゲンタマイシン硫酸塩、ポリビニルアルコール、アラニル−L−グルタミン、エネルギー源としてD−グルコースDL−乳酸ナトリウム等の乳酸塩、ピルビン酸ナトリウム等のピルビン酸塩)(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)含有培地)を作製した。当該基本培養液にエチレングリコール及びジメチルスルホキシド(DMSO)を、それぞれ、終濃度が15%となるように加え、保護剤濃度が30%のガラス化保存液を作製した。同様に、エチレングリコール及びジメチルスルホキシド(DMSO)を、それぞれ、終濃度が7.5%、6%、4.5%、又は、3%となるように加え、保護剤濃度が15%、12%、9%又は6%のガラス化保存液を作製した。更に、全てのガラス化保存液に、ショ糖、ポリビニルアルコール、フィコール及びヒアルロナンをそれぞれ終濃度が0.5M、0.1%、1%となるように加え、ガラス化保存液(保護剤濃度30%、15%、12%、9%、6%)とした。
【0037】
(3)ガラス化保存並びに融解方法及び生存率の確認
上記実施例1の方法に準じて、ガラス化保存及び生存率の確認を行った。
【0038】
(4)結果
結果を表2に示す。表に示されるとおり、5nL以下のガラス化保存液中にて保存した場合、細胞保護剤を12%まで低下させても90%以上の高い生存率が維持され、また、細胞保護剤を6%まで低下させても70%の生存率を維持できることが示された。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例4.ガラス化保存時の保存液平衡時間の生存率への影響
上記実験結果から、ガラス化保存液の量を5mL以下に低減させることにより、細胞保護剤を15%以下でも十分な生存率が得られることが見出された。よって、次に、細胞保護剤の濃度が低下したことによるガラス化保存前の保存液への細胞の平衡化に要する時間について検討を行った。
【0041】
(1)マウス卵子及び胚の採取
マウス卵子と胚(卵核胞(GV)、前核期胚(PN)、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、BL(胚盤胞))は、Quinnらの方法(Quinn et al,Journal of Reproduction and Fertility,66,161−168,1982)に準じて行った。GVは、卵巣より直接採取し、PN、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、及び、BLは、HCG注射後14、36、48、60及び84時間後にそれぞれ卵管又は子宮を培養液で灌流して採取した。
【0042】
(2)ガラス化保存液(保護剤濃度15%)の作製
ガラス化保存液は、上記実施例2記載の方法と同様にして行った。
【0043】
(3)ガラス化保存並びに融解方法及び生存率の確認
上記実施例1の方法に準じて、ガラス化保存及び生存率の確認を行った。
【0044】
(4)結果
結果を表3に示す。表に示されるとおり、細胞保護剤を15%に低減させた場合、平衡化の時間が1分でも高い生存率が維持された。このことから、細胞保護剤を15%にすれば、平衡化の時間をほとんど要さないことが示された。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例5.ヒト廃棄(発育停止)卵子を用いた予備試験
試験的に本低毒性・完全無血清ガラス化保存システム(凍結保護剤濃度15%)を用い、インフォームドコンセントの得られたヒト廃棄(発育停止)卵子をガラス化保存し、その生存性を評価した。
【0047】
(1)ヒト廃棄(発育停止)卵子の準備
体外受精治療後に廃棄が決定した発育停止卵子を所有者の患者よりインフォームドコンセントを得た後、試験に供した。
【0048】
(2)ガラス化保存液(保護剤濃度15%)の作製及びガラス化保存
ガラス化保存液の作成及びガラス化保存は、上記実施例2記載の方法と同様にして行った。
【0049】
(4)融解方法並びに生存率の確認
あらかじめ4ウェルIVFディッシュ(ヌンク社、176740または144444)の1番目のウエルに融解液1(ショ糖0.7−1.0M、ポリビニルアルコール0.1%、ヒアルロナン0.05%含有基本培養液)を0.5−1mLそして2番目のウエルには融解液2(ショ糖0.35−0.5M、ポリビニルアルコール0.1%、ヒアルロナン0.05%含有基本培養液)を0.5−1mL、そして3及び4番目のウエルには融解液3(ポリビニルアルコール0.1%、ヒアルロナン0.05%のみを含有する基本培養液)を0.5−1mL準備した。融解方法は液体窒素中にて1−10日間保存後、ガラス化保存したマウス2細胞期胚を、保存容器ごと上記の1番目の融解液1の入ったウェルに直接浸漬し、1分後にガラスピペットにて2番目の融解液2のウェルに移動させ3分間平衡させた。その後3分間隔で3番目と4番目の融解液3のウェルに移し変えることにより浸透圧ショックを与える事無く段階的に凍結保護剤の除去を行った。融解操作を終えた卵子は回収し、BM培地(乾ら、日本受精着床学会誌、25、23−26、2008)中で培養を継続し、形態評価によりその生存を確認した。
【0050】
(5)結果
結果を表4に示す。表に示されるとおり、細胞保護剤の濃度を15%に低減させても91.7%(11/12)の生存が確認されヒト卵子への適用が可能であることが示された。
【0051】
【表4】

【0052】
実施例6.各種細胞のガラス化保存の生存率
緩慢凍結保存法、従来のガラス化保存法、及び、低容量ガラス化保存法を用いた場合の、各種細胞における生存率の違いを測定した。
【0053】
(1)細胞の調整
(1−1)ヒト子宮内膜細胞
ヒト子宮内膜細胞は、Mizunoら(12th International Academy of Human Reproduction,Venice,Italy,502−505(2005))の方法に従い調整し、培養液はMEMα(Gibco、12571−063)+5%臍帯血清にて調整しプラスティックフラスコ(IWAKI、Tissue Culture Flask、3113−025)に播種し培養した。2−3日の培養によりコンフレントに達した細胞はトリプシン溶液(Sigma、T3924)にて剥離し1−8×10cells/mlの濃度に調整しガラス化保存に用いた。
(1−2)ヒト卵管上皮細胞
ヒト卵管上皮細胞は、Mizunoら(12th International Academy of Human Reproduction,Venice,Italy,502−505(2005))の方法に従い調整し、培養液はMEMα(Gibco、12571−063)+5%臍帯血清にて調整しプラスティックフラスコ(IWAKI、Tissue Culture Flask、3113−025)に播種し培養した。2−3日の培養によりコンフレントに達した細胞はトリプシン溶液(Sigma、T3924)にて剥離し1−8×10cells/mlの濃度に調整しガラス化保存に用いた。
(1−3)ヒト羊膜細胞
ヒト羊膜細胞は、Mizunoら(12th International Academy of Human Reproduction,Venice,Italy,502−505(2005))の方法に従い調整し、培養液はMEMα(Gibco、12571−063)+5%臍帯血清にて調整しプラスティックフラスコ(IWAKI、Tissue Culture Flask、3113−025)に播種し培養した。2−3日の培養によりコンフレントに達した細胞はトリプシン溶液(Sigma、T3924)にて剥離し1−8×10cells/mlの濃度に調整しガラス化保存に用いた。
(1−4)正常ヒト皮膚繊維芽細胞
正常ヒト皮膚繊維芽細胞は、市販の細胞株NHDF−Ad(タカラ株式会社、CC−2511)を使用した。培養液はMEMα(Gibco、12571−063)+5%臍帯血清にて調整しプラスティックフラスコ(IWAKI、Tissue Culture Flask、3113−025)に播種し培養した。2−3日の培養によりコンフレントに達した細胞はトリプシン溶液(Sigma、T3924)にて剥離し1−8×10cells/mlの濃度に調整しガラス化保存に用いた。
(1−5)バッファローラット肝臓由来細胞
バッファローラット肝臓由来細胞は、市販の細胞株(buffalo rat liver cells、BRL3A)を使用した。培養液はMEMα(Gibco、12571−063)+5%臍帯血清にて調整しプラスティックフラスコ(IWAKI、Tissue Culture Flask、3113−025)に播種し培養した。2−3日の培養によりコンフレントに達した細胞はトリプシン(Sigma、T3924)にて剥離し1−8×10cells/mlの濃度に調整しガラス化保存に用いた。
(1−6)マウス卵巣細胞
マウス卵巣細胞は、 6−10週令のICR系メスマウス(日本クレア)より採取した卵巣組織を0.1mm四方に細片化した組織片を使用した。
(1−7)ヒト精子
ヒト精子は、精液検査後にインフォームドコンセントの得られた廃棄扱い精子を用い試験を行った。
【0054】
(2)保存液の調整
(2−1)ガラス化保存液(保護剤濃度30%、15%、12%、9%、6%)
ガラス化保存液(保護剤濃度30%、15%、12%、9%、6%)は、上記実施例3と同様にして行った。
(2−2)緩慢凍結保存用保存液は、定法に従い凍結保護剤として10%DMSO(ジメチルスルフォキシド、Sigma,D2438)を添加したPBS(燐酸緩衝液、Gibco、14190)+20%臍帯血清を用いた。
【0055】
(3)保存
(3−1)ガラス化保存の手順
上記実施例1の方法に準じて、ガラス化保存を行った。
(3−2)緩慢凍結保存は、定法に従い10%DMSO(ジメチルスルフォキシド、Sigma,D2438)を添加したPBS(燐酸緩衝液、Gibco、P14190)+20%臍帯血清を用いた。それぞれの細胞はクライオチューブ(Nalgen、Vryogenic Vial、5000−1020)に50−300マイクロリットルの凍結保存液とともに充填し、液体窒素表面から約2cmの高さで30分間保持緩慢に冷却し、30分後に液体窒素に浸漬し保存を行った。
【0056】
(4)融解方法及び生存率の確認
上記実施例1の方法に準じて、生存率の確認を行った。
【0057】
(5)結果
結果を表5〜表12に示す。表5は、ヒト子宮内膜細胞、表6は、ヒト卵管上皮細胞、表7は、ヒト羊膜細胞、表8は、正常ヒト皮膚繊維芽細胞、表9は、バッファローラット肝臓由来細胞、表10は、マウス卵巣細胞、表11は、マウス精巣細胞、表12は、ヒト精子の結果を示す。
表に示されるとおり、様々な種類の細胞において、低容量ガラス化保存方法が従来の方法と同等又はそれ以上の生存率を維持することが示された。特に、細胞保護剤の濃度を15%とした場合には、ほとんどの細胞で従来の方法を上回る生存率が得られた。また、特に、卵巣組織や精子の生殖系細胞においては、いずれの細胞保護剤の濃度を使用した場合にも従来の方法を上回る生存率が得られており、低容量ガラス化保存法が特に生殖系細胞に有効であることが示された。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
【表10】

【0064】
【表11】

【0065】
【表12】

【0066】
実施例7.発育ステージの異なる細胞の生存率
発育ステージの異なるマウス卵子の生存率を確認するため、未成熟卵子、前核期卵子、2細胞期、4細胞期、8−16細胞期、胚盤胞期の細胞を利用して、低容量ガラス化保存後の生存率を調べた。
【0067】
(1)マウス卵子及び胚の採取
マウス卵子と胚(卵核胞(GV)、前核期胚(PN)、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、BL(胚盤胞))は、Quinnらの方法(Quinn et al,Journal of Reproduction and Fertility,66,161−168,1982)に準じて行った。GVは、卵巣より直接採取し、PN、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、及び、BLは、HCG注射後14、36、48、60及び84時間後にそれぞれ卵管又は子宮を培養液で灌流して採取した。
【0068】
(2)ガラス化保存液(保護剤濃度30%、15%、12%、9%、6%)の作製 乾らの方法(乾ら、日本受精着床学会誌、25、23−26、2008)に従い、基本培養液(基本成分は以下の通り:塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム七水和物、19種のアミノ酸、炭酸水素ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物、ゲンタマイシン硫酸塩、ポリビニルアルコール、アラニル−L−グルタミン、エネルギー源としてD−グルコースDL−乳酸ナトリウム等の乳酸塩、ピルビン酸ナトリウム等のピルビン酸塩)に12mMのHEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)及び8mMナトリウムHEPESを含有培地)を作製した。当該基本培養液にエチレングリコールを終濃度が7.5%となるように加え、更にジメチルスルホキシド(DMSO)を終濃度が7.5%となるように加えた。更に、ショ糖、ポリビニルアルコール、フィコール及びヒアルロナンをそれぞれ終濃度が0.5M、0.1%、1%、0.05%となるように加え、ガラス化保存液(保護剤濃度15%)とした。
【0069】
(3)ガラス化保存並びに融解方法及び生存率の確認
上記実施例1の方法に準じて、ガラス化保存及び生存率の確認を行った。
【0070】
(4)結果
結果を表13及び表14に示す。表13に示されるとおり、各発育ステージにおいて、凍結保護剤(CPA)濃度を低下させても高い生存率が維持できることが示された。また表14に示されるとおり凍結保護剤(CPA)濃度を低下させても高い発生率が維持できることが示された。
【0071】
【表13】

【0072】
【表14】

【0073】
実施例8.スラッシュ窒素を利用したガラス化保存の生存率と正常な紡錘体形成率
低容量ガラス化保存がスラッシュ窒素を利用しても行うことができるかを確認するため、スラッシュ窒素を利用した低容量ガラス化保存の生存率と正常な紡錘体形成を調べた。
【0074】
(1)マウス卵子及び胚の採取
マウス卵子と胚(卵核胞(GV)、前核期胚(PN)、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、BL(胚盤胞))は、Quinnらの方法(Quinn et al,Journal of Reproduction and Fertility,66,161−168,1982)に準じて行った。GVは、卵巣より直接採取し、PN、2細胞期胚、4細胞期胚、8〜16細胞期胚、及び、BLは、HCG注射後14、36、48、60及び84時間後にそれぞれ卵管又は子宮を培養液で灌流して採取した。
【0075】
(2)ガラス化保存液(保護剤濃度30%、15%、12%)の作製
ガラス化保存液(保護剤濃度15%、12%)は、上記実施例2及び実施例3記載の方法と同様の方法にて作製した。また、コントロールとして使用するため、ガラス化保存液(30%)を上記実施例3記載の方法と同様の方法にて作製した。
(3)ガラス化保存並びに融解方法及び生存率の確認
上記実施例1の方法に準じて、ガラス化保存及び生存率の確認を行った。
(4)紡錘体形成の確認
それぞれの細胞について、正常な紡錘体を形成しているか否か紡錘体を確認するための観察装置(MTG社)により確認した。
【0076】
(5)結果
結果を表15に示す。表に示されるとおり、低容量ガラス化保存法は、スラッシュ窒素を使用した場合にも、細胞保護剤濃度が低いにも拘らず従来法と同程度の生存率を維持できることが示された。また、低容量ガラス化保存法とスラッシュ窒素を組み合わせることによって、高い正常紡錘体率が達成できることが示された。このことから、低容量ガラス化保存法は、スラッシュ窒素を利用することにより、これまでに達成できなかった正常な紡錘体形成を可能とすることから、正常な紡錘体形成がその後の正常な分化に不可欠である未分化細胞、特には生殖系細胞や受精卵に利用可能であると考えられる。
【0077】
【表15】

【0078】
実施例9.ガラス化保存卵の胚移植による産仔生産
低容量ガラス化保存した卵が胚移植後も正常に生育するか否かを確認するため、ガラス化保存した細胞をレシピエントに移植し、産仔への発育を観察した。
【0079】
(1)ガラス化保存胚の調整
ガラス化保存胚は、ガラス化保存液(細胞保護剤30%、15%、12%)を使用し、実施例2及び実施例3に記載の方法に準じて保存(容積は4.9nL)したものを使用した。
(2)移植
ガラス化保存胚を、実施例2に記載の方法に準じて融解し、継続培養した。ガラス化保存液(細胞保護剤15%)を使用した細胞のうち、胚盤胞まで発育した細胞30個を3匹のレシピエントに移植した。同様にして、ガラス化保存液(細胞保護剤12%)を使用した細胞のうち、胚盤胞まで発育した細胞28個を3匹のレシピエントに移植した。コントロールとして、ガラス化保存液(細胞保護剤30%)を使用した細胞のうち、胚盤胞まで発育した細胞40個を3匹のレシピエントに移植した。
【0080】
(3)結果
ガラス化保存液(細胞保護剤15%)を使用した30個の細胞から、20匹の正常な胎仔が得られ、66%の胚について胎仔まで発育させることができた。ガラス化保存液(細胞保護剤12%)を使用した28個の胚から、20匹の正常な胎仔が得られ、71%の胚について胎仔まで発育させることができた。一方で、ガラス化保存液(細胞保護剤30%)を使用した40個の細胞からは、21匹の正常な胎仔が得られ、53%の胚について胎仔まで発育させることができた。よって、低容量ガラス化保存で細胞保護剤の濃度を低下させることにより、保存した卵の発育の確率を高めることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のガラス化保存方法等は、低容量で高い生存性を維持したまま細胞を保存することができることから、広く細胞保存の分野において使用することができる。特に、本発明のガラス化保存方法等は、生殖系細胞や卵細胞等の未分化細胞においてその正常な紡錘体形成能や分化発育能を維持しながら保存することが可能であることから、生殖医療や種の保存・品種改良の分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞をガラス化保存する方法であって、50nL以下の容量の無血清の保存液に該細胞を保持する工程、当該細胞を冷凍剤存在下にて保存する工程を備える方法。
【請求項2】
保存液が、15%以下の濃度の凍結保護剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞が、精子、卵母細胞、子宮内膜細胞、卵管上皮細胞、羊膜細胞、未受精卵細胞、受精卵細胞、胚細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、がん幹細胞、又は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
細胞をガラス化保存する方法であって、50nL以下の容積の穴を備える細胞のガラス化保存用容器に無血清の保存液を保持させる工程、当該保存液中に該細胞を加える工程、当該細胞を冷凍剤存在下にて保存する工程を備える方法。
【請求項5】
細胞が、精子、卵母細胞、子宮内膜細胞、卵管上皮細胞、羊膜細胞、未受精卵細胞、受精卵細胞、胚細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、がん幹細胞、又は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)であり、かつ、保存液が、15%以下の濃度の凍結保護剤を含有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞が生殖細胞以外の哺乳類細胞であり、かつ、保存液が、15%以下の濃度の凍結保護剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
細胞が、内膜細胞、上皮細胞、繊維芽細胞、肝臓細胞であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
50nL以下の容積の穴を備える細胞のガラス化保存用容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−213692(P2010−213692A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34885(P2010−34885)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:社団法人 日本生殖医学会 刊行物名:日本生殖医学会雑誌 第53巻第4号 発送日:平成20年9月25日
【出願人】(508212912)
【Fターム(参考)】