細胞を検出および単離するためのマイクロ流体分取装置
血液試料における1または複数の疾患血液細胞を検出する方法は、血液試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、非疾患血液細胞と比較して疾患血液細胞の変形能が低下していることに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って疾患血液細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、疾患血液細胞は、チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、非疾患血液細胞は、チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する。1または複数のチャネルは、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って細胞を単離するように適合させることもできる。一部の実施形態では、1または複数のチャネルが、螺旋状チャネルでありうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2010年3月4日に出願された、米国特許仮出願第61/310,387号、および2010年9月17日に出願された、米国特許仮出願第61/383,881号の利益を主張するものである。上記出願による開示の全体は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
[発明の分野]
細胞を分離するためのマクロスケールの対流法には、細胞のサイズ、変形能、および密度の相違を利用して標的細胞を濾別する、膜ベースのフィルターを用いる物理的濾過および密度勾配による遠心分離が含まれる。これらの技法は労働集約的であり、多段階の試料調製を必要とし、これにより、アーチファクトが導入される場合もあり、または所望の細胞が失われる場合もある。膜濾過法はまた、容易に閉塞を起こしやすく、頻繁な洗浄を必要ともする。さらにまた、濾過法および遠心分離法にかけられた標的細胞の元の表現型が、機械的な応力に誘導されて変化する証拠も報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、後続の解析のために、細胞の喪失を最小化し、元の標的細胞の表現型を維持することができる、血液試料を処理するためのより簡易でより効率的な技法を開発する必要が明らかに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
マイクロフルイディクスは、主に、その長さのスケールが小さく、これにより、血液分離時における細胞内微小環境をより良好に制御することが可能となるため、血液試料を処理するのに特に好適である。RBCの変形能の研究、血小板および血漿の分離、白血球の分離、ならびに血液に由来するCTC(循環腫瘍細胞)または胎児細胞などの希少細胞の単離など、異なる適用のためのオンチップの血液解析が、複数のグループにより示されている。しかし、これらのマイクロ流体システムにおける主要な限界は、試料が希釈されるため、または流速が遅いために、処理のスループットが低度なことであり、このために、これらのマイクロ流体システムは、通常容量がミリリットル単位である臨床血液試料を処理するのに不適となっている。本明細書では、これらの問題を克服するマイクロ流体デバイスについて説明する。
【0005】
したがって、本発明は一般に、試料における(1または複数の)細胞を検出する方法を対象とする。具体的な態様では、本発明が、血液試料(例えば、全血液)における1または複数の疾患血液細胞を検出する方法を対象とする。この方法は、血液試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、非疾患血液細胞と比較して疾患血液細胞の変形能が低下していることに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って疾患血液細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、存在する場合は、疾患血液細胞が、チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、非疾患血液細胞が、チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動し、これにより、試料における1または複数の疾患血液細胞を検出する。
【0006】
別の態様では、本発明が、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法を対象とし、この方法は、試料を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、存在する場合は、循環腫瘍細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの別の部分に沿って第2の出口へと流動し、これにより、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する。
【0007】
さらに別の態様では、本発明が、非同調細胞の混合物(例えば、懸濁液)から1または複数の同調細胞を単離する方法を対象とする。この方法は、非同調細胞の混合物を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入し、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って同調細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、より大型の同調細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、より小型の同調細胞が、チャネルの他の部分に沿って少なくとも1つの他の出口へと流動し、これにより、非同調細胞の混合物から1または複数の同調細胞を単離するステップを含む。
【0008】
なお別の態様では、本発明が、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法を対象とする。この方法は、試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、存在する場合は、循環腫瘍細胞が、チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動し、これにより、個体の試料における1または複数のCTCを検出する。
【0009】
本発明は、試料を化学的に修飾することなく、臨床試料のより迅速な処理を可能とし、これにより、処理時間を短縮し、処理費用を削減する、比較的高流速での持続的作動、ならびに後続の生物学的アッセイのための生細胞の回収を含めた多くの利点を有する。
【0010】
同じ参照符号が異なる図面を通して同じ部分を指す付属の図面において示される通り、前出は、本発明の例示的実施形態についての以下のより具体的な説明から明らかであろう。図面は、必ずしも原寸大ではなく、代わりに、本発明の実施形態の例示に力点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のマイクロチャネルのデザインおよび分離の原理を示す概略図である。1A:デバイスの寸法を示すマイクロ流体のデザインの一例を示す概略図である。このデバイスでは、マイクロチャネルが、入口では幅100μmのセグメントを含み、これが、15μmまで狭窄する。出口では、マイクロチャネルが、1:2:1の比に分割された3つの出口の分枝を伴う、目視観察を改善するための幅100μmの区分へと開口した。マイクロチャネルの高さは、10μmに固定した。1B:分離の原理を例示する、マイクロチャネルの断面概略図および上面概略図である。流動が出口に到達し、3つの出口系を用いて濾出されると、マイクロチャネルの入口では無作為に分布させた感染赤血球(infected red blood cells:iRBC)が、チャネルの側壁へと辺縁趨向する。
【図2】2(A):ヘマトクリット値を1%とする試料、2(B):ヘマトクリット値を10%とする試料、および2C:ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、マイクロチャネル出口における、標準化された3μmビーズの分布を示すヒストグラムである。
【図3】3A:5μL/分の流速で、試料のヘマトクリット値を変化させるときの、側方出口における3μmビーズの濾過効率についてのグラフ、および3B:ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、側方出口における3μmビーズの濾過効率についてのグラフである。また、図では、出口におけるチャネル断面にわたるビーズの分布を示す蛍光画像も示される(白色の点線は、おおよそのチャネル壁面の境界を示す)。
【図4】4A:ヘマトクリット値を10%とする試料、および4(B):ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、マイクロチャネル出口における、標準化されたiRBCの分布を示すヒストグラムである。3μmのビーズによる結果とは対照的に、10%のヘマトクリット値では、iRBCの辺縁趨向が観察されない。40%のヘマトクリット値では、すべての流速条件で、約80%のiRBCが、側壁へと辺縁趨向する。
【図5】ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、側方出口における後期栄養体期/分裂体期iRBCの濾過効率についてのグラフである。また、図では、出口におけるチャネル断面にわたるDAPI染色されたiRBCの分布を示す蛍光画像も示される(白色の点線は、おおよそのチャネル壁面の境界を示す)。
【図6】3つの出口で回収されるiRBCおよび正常RBCの濃度を示すフローサイトメトリー(FACS)データのグラフである。プロットは、6A:後期栄養体期/分裂体期iRBC試料、および6B:環状期iRBC試料について、3つの出口にわたるiRBCの分布を示すカウント結果を例示する。結果は、後期栄養体期/分裂体期iRBCについて>90%の濾過効率、および早期環状期iRBCについて約75%の濾過効率を示す。
【図7】PDMSで製作された、単一の入口および8つの均等に分割された出口(1〜8と表示する)を伴う、CTCを単離するために製作された螺旋状マイクロチャネルの写真である(目視観察のため、マイクロチャネルには染料を満たす)。図7Aにはまた、螺旋状マイクロチャネルの出口区分を例示する顕微鏡画像も示される。
【図8】CTCを単離するための螺旋状分取装置の概略図である。入口では、血液細胞(RBC、白血球、およびCTC)が、マイクロチャネル断面にわたり無作為に分布している。慣性揚力およびディーン渦の影響下において、これらの細胞は、それらのサイズに基づいて断面内の異なる位置において平衡化し、より大型のCTCが、マイクロチャネル内壁に最も近接して平衡化する。次いで、8つの均等な間隔を置いた出口を用いて個々の細胞流を抽出し、分離を達成する。
【図9】図9A:細胞周期を同調させるために開発した螺旋状マイクロ流体デザインの概略図(慣性揚力およびディーン抗力の影響下において、非同調細胞集団をサイズにより画分化して、G0/G1期、S期、およびG2/M期の比較的純粋な細胞集団を得る。G2/M期の細胞が、大型サイズのために、マイクロチャネルの内壁に最も近接して平衡化した後、S期およびG0/G1期の細胞が平衡化する;挿入図は、PDMSで製作した、1つの入口および8つの出口を伴う螺旋状マイクロチャネルの写真である)および9B:蛍光標識したポリスチレン粒子を用いるデザイン原理の検証を示す図(2.5ml/分の流速で、高さ140μmのマイクロチャネルの入口、出口前における幅500μmのチャネル区分、および分枝状出口における直径10μm、15μm、および25μmの粒子の分布および位置を示す重ね合せ画像である。入口において無作為に分布させた粒子が、秩序立ったフォーカス流を形成し、次いで、これが、出口1、2、および3において個別に回収される。)である。
【図10】永久細胞系(10A=HeLa細胞、10B=KKU−100細胞、10C=CHO−CD36細胞)による細胞周期解析の結果を示すグラフである。ヒストグラムは、同調後のG0/G1期、S期、およびG2/M期において分取された一倍体細胞のDNA含量の分布を示す。G2/M期の細胞のDNA量は、G0/G1期の細胞の2倍であり、したがって、蛍光強度を倍増させる。出口1から回収されたより大型細胞が、G2/M期集団の比率の増大を示すのに対し、出口4から回収された小型細胞は、G0/G1期集団の著明な濃縮を示す。プロットにはまた、同調細胞のサイズ分布も示す。
【図11】出口1、2、3、および4から回収されたサイズ分取hMSC細胞の光学顕微鏡写真である。11Aは、出口1で回収された細胞の平均直径が、出口4で回収された約15μmと比較して、約24μmであることを示す(p<0.001)。11Bは、回収された細胞のトリパンブルー染色された顕微鏡写真を示し、分取後におけるhMSCの生存率を示す(矢印は、非生存細胞を示す)。結果は、これらのマイクロチャネルにおける細胞が受ける高度のせん断が、これらの細胞の生存率を損なわず、>90%の生存率を達成していることを示す。11Cは、再播種細胞の光学顕微鏡写真であり、出口から回収された細胞の増殖速度間における著明な差違を示さず、高い生存率および無菌性を示す(バー=50μm)。
【図12】同調後のG0/G1期、S期、およびG2/M期において分取されたhMSCのDNA含量の分布を示すヒストグラムである。プロットにはまた、同調細胞のサイズ分布も示す(p<0.05)。
【図13】増大させる異なる時間間隔において、出口4から回収された分取hMSCのDNA含量の分布を示すヒストグラムである。出口4におけるhMSC(24時間目に82.3%)のすべてが、1日目にS期およびG2/M期へと移行する(79.7%)ので、hMSCは、同調細胞分裂を裏付ける。接触阻害のために、2日目以降、G0/G1期にある細胞の百分率が増大する。分裂間期では、確率的変動のために、同調性が時間と共に減衰する。
【図14】開発された超ハイスループットCTC単離チップの概略図であり、作動原理を示す図である。全血液をデバイスの内側の入口を介して送入する一方、シース液は外側の入口から通入する。チャネルが曲線形状であるため、ディーン抗力の影響下では、より小型の血液細胞(RBCおよびWBC)が、2つの反転渦に従い、チャネルの外壁へと移動する(断面図)。それらのより大型サイズのため、CTCは、それらをマイクロチャネルの内壁に沿って平衡化させる強い慣性揚力を受け、これにより、分離が達成される。
【図15】螺旋状マイクロチャネルの出口におけるRBC、白血球、およびCTCの側面方向の位置を示す平均合成画像(15A)およびラインスキャン(15B)である。画像は、血液細胞(RBCおよび白血球)が、ディーン抗力の影響下でチャネルの外側半分へと転置されるのに対し、より大型のCTCは、慣性揚力の影響下でチャネルの内壁により近接してフォーカスすることを示す。
【図16】血液から希少細胞を単離するためのマイクロ流体デバイスの概略図である。マイクロチャネルのデザインは、収縮−拡張アレイによりパターン化された、高アスペクト比の矩形マイクロチャネルからなる。細胞フォーカシング領域では、せん断変調性慣性揚力の影響下で、すべての細胞が、チャネルの側壁に沿って効率的に平衡化する。希少細胞絞込み領域を流動するとき、より大型細胞の質量中心が、チャネル中央に沿って整列するのに対し、より小型の血液細胞は、チャネルの側壁に沿ったフォーカシングを維持する。分枝状出口をデザインすることにより、中央出口においてより大型の希少細胞の回収が可能となる一方で、残りの血液細胞は、側方出口から除去される。
【図17】マイクロチャネルのアスペクト比(AR)が赤血球フォーカシングに対して及ぼす影響を示す図である。17A:アスペクト比を増大させたときのRBCの平衡化を示す、平均合成画像である。注入される血液試料は、ヘマトクリット値を1%で固定し、Re=100で送入した。マイクロチャネルは、入口における幅200μmのセグメントで始まり、分離を増強するための分枝部分の直前の出口で、幅300μmの区分へと開口する。併載される概略図は、出口におけるマイクロチャネル断面内のRBCのおおよその位置を示す(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。17B:出口において測定した、マイクロチャネル幅にわたるRBCの確率分布を表すラインスキャンである。プロットではまた、側方出口の位置を示す出口における分布も示される。
【図18】流速(Re)が赤血球フォーカシングに対して及ぼす影響を示す図である。18A:流速を増大させたときのRBCの平衡化を示す、平均合成画像である。注入される血液試料は、ヘマトクリット値を1%で固定し、AR=5とするマイクロチャネルを介して送入した(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。18B:出口において測定した、マイクロチャネル幅にわたるRBCの確率分布を表すラインスキャンである。18C:レイノルズ数(Re)を増大させたときの、チャネル中央部における無細胞領域幅、および細胞バンドの厚さを示す実験結果の図である。
【図19】ヘマトクリット値が赤血球フォーカシングに対して及ぼす影響を示す図である。19A:ヘマトクリット値を増大させたときのRBCの平衡化を示す、平均合成画像である。注入される血液試料は、AR=5とするマイクロチャネルを介して、Re=100で送入した(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。19B:出口において測定した、マイクロチャネル幅にわたるRBCの確率分布を表すラインスキャンである。19C:ヘマトクリット値を増大させたときの、チャネル中央部における無細胞領域幅、および細胞バンドの厚さを示す実験結果の図である。
【図20】開発したマイクロ流体デバイスの希少細胞を単離する原理を示す経時画像を例示する図である。細胞フォーカシング領域では、せん断変調性慣性力の影響下において、CTC(黄色の丸でマークされたMCF−7細胞)が、マイクロチャネルの側壁に沿って平衡化する。CTCは、マイクロチャネル中央部のいずれかの側への駆逐を維持するので、チャネルの拡張領域ではこれが明らかとなる(白色の点線は、おおよそのチャネル中央部を示す)。絞込み区分を通過するとき、CTCの慣性の中心は、マイクロチャネル幅の中心と共に整列する。拡張領域では、CTCが、引き続き流動の流線に追従し、マイクロチャネル幅の中心に沿った整列を維持する。
【図21】細胞絞込み領域におけるチャネル幅がCTC分離効率に対して及ぼす影響を示す図である。21A:「絞込み」幅を変化させながら、マイクロチャネルにおける流速を増大させたときの、中央出口におけるMCF−7細胞の単離を示す、平均合成画像である(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。21B:Reを増大させたときの、中央出口において回収されたMCF−7細胞および末梢血白血球の画分を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の例示的な実施形態についての説明を以下に示す。
【0013】
本発明は一般に、マイクロ流体デバイスと、2つ以上の(複数の)細胞型(例えば、細胞のコレクションまたは細胞の混合物)を含む試料から、1または複数の特定の細胞型(例えば、検出および/または単離される1または複数の標的細胞)を検出および/または単離するための、このようなデバイスの使用とを対象とする。マイクロ流体デバイスは、試料を導入するための1または複数の入口と、試料がその中を流動する1または複数のチャネルと、1または複数の出口であるが、典型的には少なくとも2つの出口とを含み、試料において検出される細胞および/もしくは単離される細胞は、出口のうちの1つ(例えば、第1の出口)を流動し、試料中の残りの細胞は、単離される細胞と同じ出口を流動せず、かつ/または別の(異なる)出口(例えば、第2の出口)を流動する。1または複数のチャネルの各々は、チャネルの断面の少なくとも一部に沿って1または複数の標的細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを有し、1または複数の標的細胞が、各チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、残りの細胞が、各チャネルの第2の部分に沿って流動し、1または複数の標的細胞と同じ出口を介して流動せず、かつ/または1もしくは複数の出口(異なる出口、例えば、第2の出口、第3の出口、第4の出口、第5の出口、第6の出口、第7の出口、第8の出口など)を介して流動する。
【0014】
本明細書で説明される場合、マイクロ流体デバイスは、試料をデバイスに導入するための1または複数の(少なくとも1つの)入口を有しうる。例えば、デバイスは、1つの入口、2つの入口、3つの入口、4つの入口、5つの入口、6つの入口、7つの入口、8つの入口、9つの入口、10の入口などを有しうる。
【0015】
当業者に知られている各種の技法を用いて、試料をデバイスに導入することができる。例えば、シリンジおよび/またはポンプを用いて試料を導入することができる。
【0016】
同様に、マイクロ流体デバイスは、1または複数の出口も有しうる。一部の態様では、デバイスが、1つの出口、2つの出口、3つの出口、4つの出口、5つの出口、6つの出口、7つの出口、8つの出口、9つの出口、10の出口などを有しうる。具体的な態様では、デバイスが、少なくとも2つの出口を有する。別の態様では、デバイスが3つの出口を有する。さらに別の態様では、デバイスが4つの出口を有する。なお別の態様では、デバイスが8つの出口を有する。
【0017】
デバイスはまた、1または複数の入口を、1または複数の出口へと接続する、1または複数のチャネル(例えば、並列チャネル、例えば、1つの並列チャネル、2つの並列チャネル、3つの並列チャネル、4つの並列チャネル、5つの並列チャネル、6つの並列チャネル、7つの並列チャネル、8つの並列チャネル、9つの並列チャネル、10の並列チャネルなど)も含む。1または複数のチャネルは、試料における1または複数の標的細胞を、残りの細胞から分離することを可能とするアスペクト比を規定する高さおよび幅の断面を含む。本明細書で用いられる場合、アスペクト比とは、チャネルの高さをその幅で除した比であり、標的細胞が、チャネルの断面の少なくとも一部に沿って第1の出口へと流動し、残りの細胞が、チャネルの断面の異なる部分(例えば、第2の部分、第3の部分、第4の部分など)に沿って、および異なる出口(例えば、第2の出口、第3の出口、第4の出口など)など、標的細胞と同じでない出口へと流動することを可能とするのに適切なチャネルの断面をもたらす。適切なアスペクト比は、試料における残りの細胞の同じであるかまたは類似の構造的特徴と比較して、試料における標的細胞の構造的特徴が異なることに基づいて標的細胞を、チャネルの異なる部分に沿って流動させる。このような構造的特徴の例には、細胞のサイズ、硬さ、変形能、接着性(例えば、細胞接着性)などが含まれる。例えば、本明細書で示される通り、1、2.5、3.75、5、または7のアスペクト比を用いることができる。
【0018】
当業者により理解される通り、チャネルは、多様な形状でありうる。一部の態様では、チャネルが線状であり得る。線状チャネルの高さは、約20μm、約50μm、約75μm、約100μm、および約150μmなど、約10μm〜約200μmの範囲にありうる。線状チャネルの幅は、約12μm、約15μm、および約20μmなど、約10μm〜約50μmの範囲にありうる。線状チャネルの長さは、約3cmなど、約1cm〜約5cmの範囲にありうる。
【0019】
他の態様では、チャネルが湾曲している。具体的な態様では、チャネルが螺旋状である。螺旋状チャネルの高さは、約100μmおよび約140μmなど、約10μm〜約200μmの範囲にありうる。螺旋状チャネルの幅は、約100μm〜約500μmの範囲にありうる。螺旋状チャネルの長さは、約1cm〜約10cmの範囲にありうる。
【0020】
試料は、マイクロ流体デバイス内を多様な流速で流動することが可能であり、例えば、生理学的な流速(例えば、細動脈における生理学的な流速)で流動することも可能であり、または非生理学的な流速で流動することも可能である。例示的な流速には、1分間当たりの細胞約2000万個が含まれるか、または例示的な流速が、約2.5mL/分〜約5μL/分の範囲にある。
【0021】
本明細書で説明されるマイクロ流体デバイスは、1または複数の標的細胞を、細胞試料から検出、分離、および/または単離するのに用いることができる。細胞試料は、例えば、血液(例えば、全血液)、血漿、腹水、リンパ、脊髄液、尿、組織などの生物学的試料でありうる。試料はまた、細胞培養試料でもありうる。具体的な態様では、試料が、血液試料(例えば、全血液試料)である。血液試料は、低ヘマトクリット値(例えば、約1〜10%)の場合もあり、または高ヘマトクリット値(例えば、約20〜50%)の場合もある。
【0022】
血液とは、血漿における細胞の複合懸濁物(血液容量の約40〜45%)であり、細胞への酸素および栄養分の輸送、細胞内の老廃生成物の除去、および免疫的防御の備給を含め、複数の重要な役割を果たす。赤血球(RBC)は、全血液細胞成分のうちの>99%を占め(全血液1ミリリットル当たり約5×109個のRBC)、残りの<1%は、末梢血白血球(PBL)および血小板からなる。その複合的性格のために、マイクロ流体バイオチップを用いて血液を解析することは、困難な課題となっている。RBCおよび白血球に加えて、患者の末梢血においては、胎児有核赤血球、循環腫瘍細胞(CTC)、幹細胞、および白血病性細胞など、他の低量細胞もまた見出され、これらは、患者のモニタリング、疾患の診断、治療的処置のモニタリング、および科学的な基礎研究の実施など、多様な生物医学的適用に用いることができる。しかし、これらの細胞は、極めて希少であるため、解析の前にこれらの細胞を血液から効率的に単離するには、濃縮ステップまたは分離ステップが、ほとんど常に必要である。
【0023】
したがって、本明細書で説明される1または複数のマイクロ流体デバイス(例えば、マイクロ流体デバイスの、例えば、並列または直列のカスケード)は、多様な目的に用いることができ、一態様では、多様な標的細胞を検出、分離、および/または単離するのに用いることができる。多様な標的細胞を検出することができる。例には、疾患細胞(例えば、マラリア感染赤血球、白血病性赤血球、鎌状赤血球貧血性赤血球、またはこれらの組合せなどの疾患血液細胞、非同調細胞の混合物中における同調細胞、および循環腫瘍細胞(CTC))が含まれる。
【0024】
一態様では、デバイスを、血液試料において1または複数の疾患血液細胞を検出する方法において用いる。この方法は、血液試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、非疾患血液細胞と比較して、疾患血液細胞の変形能が低下していることに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って疾患血液細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅からなる断面とを各チャネルが有し、疾患血液細胞が、各チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、非疾患血液細胞が、各チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する。本明細書で用いられる場合、疾患細胞とは、非疾患(例えば、健常)細胞と比較して、1または複数の側面において、構造的に異なっている。例えば、疾患細胞は、サイズ、硬さ、変形能、接着性、またはこれらの組合せが、非疾患細胞とは異なりうる。例えば、疾患細胞は、マラリア感染赤血球、鎌状赤血球貧血性赤血球、白血病性赤血球、またはこれらの組合せでありうる。一態様では、疾患細胞が、早期(例えば、環状期)マラリア感染赤血球の場合もあり、または後期(例えば、栄養体期または分裂体期)マラリア感染赤血球の場合もある。血液試料は、約5μL/分の流速で導入することができる。一態様では、環状期マラリア感染赤血球を、約75%〜約85%の範囲の効率で分離することができる。別の態様では、後期マラリア感染赤血球を、約90%の効率で分離することができる。方法は、疾患細胞を第1の出口から回収するステップをさらに含みうる。一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約1〜約2の範囲にありうる。特定の実施形態では、マイクロ流体デバイスが、目視観察を改善するための拡張領域をさらに含みうる。一部の実施形態では、第2の出口の幅が、第1の出口の幅より約2〜約10倍の範囲で広い場合がある。特定の実施形態では、チャネルの幅が、約15μmでありうる。一部の実施形態では、チャネルの高さが、約10μmでありうる。
【0025】
上記で論じた通り、具体的な態様では、疾患細胞が、マラリア感染赤血球である。マラリアは、世界の人口のうちの半分(33億人)に危険性があり、毎年100万〜200万人が死亡すると推定されている、最も重度の寄生虫性疾患のうちの1つである。これらの罹患諸国では、貧困国における医療資源の欠如が、マラリアと戦うための大きな経済的負担を課すことにより、状況をさらに悪化させている。ヒトマラリア種の4つの型のうちでは、Plasmodium(P.)falciparumが、最も致死性である。感染すると、P.falciparum感染赤血球(iRBC)は、48時間にわたる赤内期における多様な感染進行段階(環状期、栄養体期、および分裂体期)を経る。この時期において、マラリア原虫は、宿主RBCを持続的にリモデリングし、iRBC膜をより接着性とする特定の原虫性タンパク質を移出し、これにより、マラリア原虫が成熟するにつれて、iRBC膜の細胞接着性および進行性の硬化を推進する。これらの原虫誘導性の形態変化は、微小循環を損ない、なお、重度のマラリア症例では、貧血、代謝性アシドーシス、または臓器不全などの病態生理的帰結へと顕在化する場合もある。
【0026】
本発明の一態様では、in vivoにおける白血球の辺縁趨向現象(Goldsmith HLら(1984),Microvascular Research.27(2):204〜222;Fiebig Eら(1991),International Journal of Microcirculation Clinical and Experimental.10(2):127〜144)に触発された、マイクロ流体デバイスにおける、感染赤血球(iRBC)分離の変形能ベースの分離法が説明される。内腔径が約300μm未満の血管では、白血球よりサイズが小さく、変形能が大きいRBCは、血管の中心軸へと移動する傾向があり、その結果として、血管壁に隣接して、低ヘマトクリット値の血漿層が形成され、血管の中心では、赤血球(RBC)濃度が増大する(Pries ARら(1996),Cardiovascular Research.32(4):654〜667)。この内側へのRBCの移動は、血管内部のポアズイユ流プロファイルに帰せられ、この結果、中心へと向かう圧力勾配誘導性の力がもたらされる(Goldsmith HLら(1989),American Journal of Physiology.257(3):H1005〜H1015)。中心を最大とする、血管における放物線状の流体速度プロファイルのために、中心軸におけるRBCのバルク流は、より迅速に流過する。このため、ファーレウス効果である管路内ヘマトクリット値の低下がもたらされ、また、細胞の枯渇した血漿層が存在するために、見かけの血液粘性の低下ももたらされる(ファーレウス−リンドクヴィスト効果)(同上)。RBCは、中心軸へと移動するので、白血球と移動するRBCとの力学的衝突の結果、適切に辺縁趨向と称する、より大型の(そして変形能が小さい)白血球が血管壁へと駆逐される現象(Goldsmith HLら(1984),Microvascular Research.27(2):204〜222;およびFiebig Eら(1991),International Journal of Microcirculation−Clinical and Experimental.10(2):127〜144)がもたらされる。全血液から血漿を分離するためのマイクロ流体デバイス(Fan Rら(2008),Nature Biotechnology.26(12):1373〜1378;およびJaggi RDら(2007),Microfluidics and Nanofluidics.3(1):47〜53)、および全血液から白血球を濃縮するためのマイクロ流体デバイス(Shevkoplyas SSら(2005),Analytical Chemistry.77(3):933〜937)では、ファーレウス効果および辺縁趨向というこれらの2つの血行力学的効果が用いられている。これらの先行例では、分離される細胞が、変形能(硬さ)およびサイズのいずれにおいてもRBCとは顕著に異なっていた。しかし、本明細書では、サイズが同じで、細胞の変形能がわずかに異なるに過ぎない正常RBCとマラリア感染iRBCとを分離するための、この生体模倣による分離法の適用が説明される。
【0027】
まず、蛍光標識して全血液中に懸濁させた硬質の3μmポリスチレンビーズを用いることにより、分離の原理を裏付けた。次いで、全血液と混合した、環状期iRBCおよび後期栄養体期/分裂体期iRBCの両方を用いて試験を実施した。本明細書における結果は、環状期iRBCについて約75%の分離効率を示し、後期iRBCについて最大約99%など、>90%の分離効率を示す。
【0028】
本明細書で説明される分離法は、蛍光色素または他の化学修飾を必要とせず、ヘマトクリット値の高い(約40%)、未処理の血液試料に対して直接実施することができる。高ヘマトクリット値とは、約20%〜約50%の範囲のヘマトクリット値であり、具体的な態様では、約30%または約40%のヘマトクリット値である。一態様では、マイクロ流体デバイスが、入口が一つ、出口が三つのデバイスであり、流速が、ギムザ染色など、下流における検出法との容易なインターフェース形成を可能とする。デバイスの作動は、電気またはバッテリーを必要とせず、重力送りの送液を用いうるであろう。これらの特徴のすべてにより、このデバイスは、試料供給源が制約される臨床状況におけるオンサイトの検査に理想的なiRBC濃縮法となっている。加えて、このデバイスは、これらもまた細胞の硬さの変化を特徴とする、他の血液細胞疾患(例えば、鎌状赤血球貧血および白血病)にも容易に適用することができる(Evans Eら(1984),Journal of Clinical Investigation,73(2):477〜488;Rosenbluth MJら(2006),Biophysical Journal,90(8):2994〜3003)。
【0029】
その中で原虫が成熟するのに応じたiRBCの硬さの変化は、広範にわたり研究されている(Paulitschke Mら(1993)、Journal of Laboratory and Clinical Medicine,122(5):581〜589;Suresh Sら(2005),Acta Biomaterialia,1(1):15〜30;Shelby JPら(2003),Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、100(25):14618〜14622)。Sureshらは、光ピンセットを用いて、異なる感染期における個々のiRBCを伸展させ、これらの弾性率を測定した。報告される非感染RBC、環状期iRBC、栄養体期iRBC、および分裂体期iRBCの弾性率はそれぞれ、約8、16、21.3、および53.3μN/mであった(Sures Sら(2005),Acta Biomaterialia,1(1):15〜30)。様々な段階で、細胞の硬さがこのように顕著に変化することは、細胞内に大型で非変形性の原虫が存在することに部分的に帰せられており、その結果として、内部粘性が大きく増大する(Clenister FKら(2002),Blood、99(3):1060〜1063;およびNash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861)。原虫が成熟するにつれ、円板状のiRBCは、表面積対容量比が減少するにつれてより球状化し、細胞の変形能が低下する(Nash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861;およびHerricks Tら(2009),Cellular Microbiology.11(9):1340〜1353)。また、原虫のタンパク質の放出は、膜内のスペクトリンネットワークを架橋形成および安定化することにより、iRBC膜を硬化させ、これにより、iRBCの可撓性を低下させる(Cranston HAら(1984),Science.223(4634):400〜403)。近年の研究は、後期栄養体期iRBCおよび後期分裂体期iRBCの膜の硬さが、熱性温度でさらに増大することから、微小循環内の血管閉塞におけるその役割について推定していることを報告している(Marinkovic Mら(2009),American Journal of Physiology−Cell Physiology.296(1):C59〜C64)。RBCにおける変形能(およびiRBCにおける変形能の欠如)は、重要な生理学的意義を有する。正常RBCは、変形能が高く、このために、微小な毛細血管を通過するときに変形を受け(Sutton Nら(1997),Microvascular Research、53(3):272〜281)、脾臓によるクリアランスを回避し(Safeukui Iら(2008),Blood.122(6):2520〜2528),低レイノルズ数ではまた側方移動も誘導する(Coupier Gら(2008),Physics of Fluids.20(11):4)ことが可能となる。iRBCにおいて変形能が低下すれば、複数の重要な病態生理的帰結がもたらされうるであろう。例えば、Shevkoplyasらは、微小血管ネットワークを模倣するマイクロ流体デバイスにおいて、グルタルアルデヒドで処置したRBC(変形能を低下させたRBC)の流動について研究し(Shevkoplyas SSら(2006),Lab on a Chip.6(7):914〜920)、RBCの硬さが増大すると共に、ネットワーク内における血液流度が低下し、その結果、チャネルにおける閉塞、およびヘマトクリット値分布の不均一がもたらされることを示した。近年の研究はまた、硬化したRBCがまた、狭窄したマイクロチャネルにおける無細胞層の厚さにも影響を及ぼし(Fujiwara Hら(2009),Journal of Biomechanics.42(7):838〜843)、iRBC、とりわけ、後期栄養体期iRBCおよび後期分裂体期iRBCが、in vivoにおいて、内皮における多段階の白血球動員(白血球のローリングおよびその後における接着)を模倣する(Ho Mら(2000),Journal of Experimental Medicien.192(8):1205〜1211)ことも示している。実際、微小血管系における細胞接着は、iRBCが、それらの変形能の喪失を認識する脾臓によるクリアランスを回避する一助となっている。脾臓における固有のスリット様の構成は、RBCが、静脈洞内の狭小な内皮間スリットにおいて著しく変形することを要求する(Safeukui Iら(2008),Blood.122(6):2520〜2528)。より硬いiRBCは脾臓内で上流に保持され、「種抜き(pitting)」(機械的な押出しにより、iRBCから原虫を機械的に絞り出すこと)を受け、これにより、循環からiRBCが効果的に除去され、原虫負荷が低下する。
【0030】
本明細書で示される通り、フローサイトメトリーが、細胞表面マーカーに基づき細胞を分取する技法として堅固に確立されているが、これとは独立ではあるが、生理学的に有意義な、細胞を精製/濃縮するための測定基準を、細胞の変形能はもたらしている。変形能に基づく細胞の分離には、多様な技法が適用されている(Xiaomi Tら(1995),Journal of Chromatography B:Biomedical Sciences and Applications.674(1):39〜47;およびLincoln Bら(2004),Cytometry Part A.59A(2):203〜209)。しかし、これらの技法の大半は、バッチフロー方式で作動し(Xiaomi Tら(1995),Journal of Chromatography B:Biomedical Sciences and Applications.674(1):39〜47)、その結果、ロースループットであり、変形能が異なる細胞を個別に回収することができない(Lincoln Bら(2004),Cytometry Part A.59A(2):203〜209)。
【0031】
別の態様では、マイクロ流体デバイスを用いて、循環腫瘍細胞を検出、分離、および/または単離することができる。腫瘍形成の致死的な帰結である癌転移は、癌に関連する全死亡のうちで、約90%を占めている。転移の主要原因である循環腫瘍細胞(CTC)を検出することにより、病期および癌の進行と関連する貴重な洞察をもたらすことができる。CTCの計数はまた、治療的処置の奏効を臨床的に評価およびモニタリングするのにも用いられる。CTCは、血液細胞109個当たり1個ほどの少なさを含む極めて希少な細胞であり、形態および分子署名が高度に不均一であるので、これらを血液から単離することは、技術的な難題となっている。
【0032】
したがって、一態様ではまた、本発明が、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する方法も対象とする。この方法は、試料を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの別の部分に沿って第2の出口へと流動する。方法は、循環腫瘍細胞を第1の出口から回収するステップのほか、循環腫瘍細胞を解析して、治療的処置の有効性を評価するステップもさらに包含しうる。試料は、血液試料でありうる。
【0033】
本明細書では、マイクロ流体素子を用いて血液から循環腫瘍細胞(CTC)を分取する、ハイスループットの細胞分離法が説明される。一態様では、デザインが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で製作された、低アスペクト比で螺旋形状のマイクロチャネルからなる。分離は、マイクロチャネル断面内の異なる位置において細胞を平衡化させる、大きな細胞サイズに起因する慣性揚力と、螺旋形状に起因するディーン抗力との相互作用に依拠する。次いで、適切な分枝状出口をデザインすることにより、細胞を、それらのサイズに基づき個別に回収することができる。この技法を、典型的には直径が約20μmでサイズがより大きいCTCを、血液細胞(約8μmのRBC、約10〜15μmの白血球(WBC))から分離して、早期癌を検出し、治療の有効性をモニタリングすることに適用した。
【0034】
螺旋状のマイクロチャネル内を流動する細胞は、慣性揚力と、遠心加速度により誘導されるディーン抗力との組合せの下にある。細胞サイズの4乗に伴って変化する慣性揚力は、マイクロチャネル断面内の異なる複数の平衡位置に細胞をフォーカスする一因となる。ディーン抗力の成分を付加して、螺旋形状のマイクロチャネルをデザインすることにより、これらの複数の平衡位置を、マイクロチャネル内壁近傍の1カ所だけに縮減することができる。揚力とディーン抗力との比は、細胞のサイズを変化させるときに変化するので、最大の細胞がマイクロチャネル壁に最も近接して平衡化する形で、細胞を、それらのサイズに基づいてマイクロチャネル断面に沿った異なる位置に平衡化させることができる。この結果、異なる細胞流の進化が生じ、適切な出口をデザインすることにより、これらを個別に回収することができる。
【0035】
デバイスは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で製作し、顕微鏡用のスライドガラスに接着する(図7Aおよび7B)。マイクロチャネルのデザインは、拡張型の8等分された出口系を伴う、500×100μm(幅×高さ)のマイクロチャネルからなる。注入される試料は、濃度の異なるCTCでスパイクした希釈全血液(0.1%のヘマトクリット値)からなる。試料がマイクロチャネル内を流動するにつれて、正常RBC、白血球、およびCTCが、それらのサイズに基づいてマイクロチャネル断面にわたり平衡化する。CTCはその大型のサイズ(約20μm)のために、慣性揚力により大きな影響を受け、チャネル内壁に近接して平衡化する。CTCより小型であるRBC(約8μm)および白血球(10〜15μm)は、ディーン抗力により大きな影響を受け、マイクロチャネル内壁から遠く離れてフォーカスし、このために分離が達成される。低アスペクト比のマイクロチャネルをデザインすることにより、この平衡位置の差違が増幅され、図8に示す通り、希少なCTCを出口1から回収することが容易となり、他の出口には残りの血液細胞が含有され、このために、持続的なハイスループットのサイズベースの分離が達成されることができる。この技法の別の実施形態では、この分離法を用いるならば、腹水に由来する間質細胞、血液に由来する白血病性細胞、および母体血液に由来する胎児有核赤血球を含めた他の希少細胞を単離することができるであろう。
【0036】
一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約3.75など、約1〜約5の範囲にある。特定の実施形態では、方法が、細胞型が混合された集団内に存在する幹細胞または前駆細胞を、細胞の直径に基づいて機能的に異なる亜集団へと分離するステップを含みうる。次いで、これらの亜集団をデバイスから回収し、固有の代謝機能との関連で解析し、例えば、増殖能、分化能、または特定の薬剤に対する応答能を増強させることが可能であった特定の亜集団を単離および濃縮することができる。特定の実施形態では、チャネルの幅が約500μmであることが可能であり、チャネルの高さが約100μmでありうる。
【0037】
本明細書では、マイクロチャネルの螺旋形状を用いて全血液から循環腫瘍細胞(CTC)を分取する、ハイスループットのサイズベースの細胞分離法が説明される。このデザインは、多様なサイズの細胞に対して作用する慣性揚力および粘性抗力を利用して、示差的な移動を達成する。マイクロチャネルの螺旋形状のために優越する慣性力およびディーン回転力は、より大型のCTCに、マイクロチャネル内壁近傍の単一の平衡位置にフォーカスさせ、これを占拠させる。より小型の血液成分(RBCおよび白血球)は、ディーン力の影響下において、チャネルの外側半分に移動し、その結果として、2つの異なる流れが形成され、次いで、これらを、2つの個別の出口において回収する。全血液を処理する能力により、提起される技法は、1mLの全血液を処理するのに要する時間が10分間未満であり、内側の出口におけるCTC回収率を90%として、血液細胞のうちの99%を除去することが可能である。
【0038】
曲線状チャネル内を流動する流体は、放射方向の外側に向けられた遠心加速度を受け、チャネルの上半分および下半分において、ディーン渦として知られる2つの反転渦を形成する。これらの二次流の大きさは、
【数1】
[式中、ρは、流体密度であり、Ufは、平均流速であり、μは、流体の粘性であり、Rcは、チャネル流路の曲率半径であり、Dhは、チャネルの流体力学的直径であり、Reは、流動のレイノルズ数(慣性力対粘性力の比)である]により与えられる無次元のパラメータであるディーン数(De)により定量化される。したがって、曲線状チャネル内を流動する粒子は、これらを渦内の流動方向に沿って取り込み駆動する、これらの横方向のディーン流が存在するために、抗力を受ける。この動きは、上方または下方から目視すると、下流への距離が増大すると共に、内壁と外壁との間のチャネル幅に沿った粒子の往復運動に変換される。これらの細胞がチャネル内を流動するときに側方に移動する速度は、ディーン数に依存し、これは、
【数2】
を用いて計算することができる。
【0039】
ディーン渦に沿って粒子が横切る側面方向の距離は、「ディーン周期」との関係で定義することができる。例えば、初期にマイクロチャネルの内壁近傍に位置し、下流への所与の距離においてチャネルの外壁へと移動する粒子は、1/2のディーン周期を経過したという。マイクロチャネル内壁近傍の元の位置に戻ると、全ディーン周期を経過する。したがって、所与のマイクロチャネル長に対して、流速(Re)条件を増大させると、粒子は、複数のディーン周期にわたる移動を経過することができる。全ディーン周期による移動長は、
【数3】
[式中、wは、マイクロチャネルの幅であり、hは、マイクロチャネルの高さである]として計算することができる。結果として、ディーン移動に必要とされるマイクロチャネルの全長は、
【数4】
により与えられる。
【0040】
ディーン抗力とは別に、直径がマイクロチャネルの寸法と同等なより大型の細胞はまた、無視できない慣性揚力(FL)(せん断誘導性の慣性揚力および壁面誘導性の慣性揚力の両方)も受け、結果として、それらのフォーカシングおよび平衡化がもたらされる。ポアズイユ流における放物線状の速度プロファイルは、粒子に作用して、それらを、マイクロチャネルの中心から遠ざけてチャネルの壁面へと方向付ける、せん断誘導性の慣性揚力FILを結果としてもたらす。これらの粒子がチャネル壁面のより近くに移動すると、壁面が突然現れるために、粒子の周囲に形成される回転後流が断ち切られ、粒子を壁面から遠ざけてマイクロチャネルの中心へと方向付ける揚力(FWL)が誘導される。これらの2つの反対向きの揚力の結果として、粒子は、マイクロチャネル辺縁部周囲の、異なる予測可能な位置で平衡化(フォーカス)する。この効果は、サイズがマイクロチャネルの寸法と同等のac/h≒0.1である粒子に優勢である。曲線形状のマイクロチャネルでは、慣性揚力(FL)と、ディーン抗力(FD)との相互作用により、平衡位置は、各々がディーン渦の上腕内および下腕内にある、チャネル内壁近傍の2カ所だけに縮減される。2カ所の平衡位置は、マイクロチャネルの高さに沿って互いに重なり合い、所与の粒子サイズに対して、マイクロチャネルの内壁から同じ距離に位置する、すなわち、マイクロチャネルの幅にわたる単一の位置として目視される。
【0041】
本明細書で説明される研究は、これらの2つの現象、すなわち、ディーン移動および慣性フォーカシングを利用して、CTCを血液から単離する。一態様では、デザインが、全長約10cmの、2入口2出口の螺旋状マイクロチャネルを含む。マイクロチャネルの幅は約500μmであり、高さは約140μmである。図15Aおよび15Bに示す通り、より大型のCTCが慣性によるフォーカシングを受ける一方で、より小型の血液細胞(RBCおよび白血球)の移動はディーン抗力の影響を受ける(すなわち、CTCだけが、ac/h≒0.1の比を満たす)ように、チャネルの寸法を選択する。入口では、全血液試料を螺旋状マイクロチャネルの内側の入口に送入し、シース液(例えば、1×PBS)を螺旋状マイクロチャネルの外側の入口を介して送入する(図14)。シース液は、すべての細胞が、ほぼ同じ位置から移動を開始するように、入口において全血液を絞り込み、全血液試料を、チャネル幅における狭小な領域に閉じ込めるのに用いることができる。試験中、ディーン抗力の影響下にある小型の細胞は、ディーン渦に沿って移動を開始し、チャネルの外壁へと移動する。CTCが受ける強い慣性揚力は、ディーン抗力の影響下でCTCが移動することを阻止し、CTCに、マイクロチャネルの内壁近傍における2カ所の平衡位置にフォーカスさせ、これらを占拠させる。他方、RBCおよび白血球は慣性力による影響を受けないので、これらの細胞は、ディーン渦に沿って循環し続ける。細胞が、ディーン周期の半分の移動を経過すること確保する適切な流速を計算することにより、出口では、CTCがチャネルの内壁近傍にフォーカスする一方で、RBCおよび白血球は、チャネルの外側半分へと転置される。こうして、CTCを内側の出口で単離および回収しうる一方で、他の血液細胞は、外側の出口で回収される(図14)。この技法を用いる利点は、それが、ヘマトクリット値が極めて高値の試料(全血液)を処理することが可能であり、このため、試料の調製ステップが縮減され、解析時間も大幅に短縮されることである。この技法を用いると、1mLの全血液を、10分間以内で処理することができる。
【0042】
別の態様では、個体の試料における循環腫瘍細胞を検出する方法が、試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する。方法は、循環腫瘍細胞を第1の出口から回収するステップと、循環腫瘍細胞を解析して、治療的処置の有効性を評価するステップとをさらに包含しうる。試料は、血液試料でありうる。一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約2〜約10の範囲にありうる。他の一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約3〜約5の範囲にありうる。入口から遠位の端部におけるチャネルの幅は、単離される細胞のオーダーにありうる、すなわち、入口から遠位の端部におけるチャネルの幅は、単離される細胞のサイズとほぼ同じサイズでありうる。一部の実施形態では、チャネルの幅が、約20μmでありうる。マイクロ流体デバイスは、入口から遠位のチャネル端部において、目視観察を改善するための拡張領域をさらに含みうる。一部の実施形態では、マイクロ流体デバイスが、すべての細胞を、チャネルの長手方向へと移動(migrate)させ、チャネルの長手方向に沿って移動(move)させるように適合させた断面を有する、少なくとも1つの細胞フォーカシング領域をさらに含みうる。
【0043】
本明細書では、血液からCTCを単離するための、せん断変調型慣性マイクロ流体素子の適用が説明される。図16は、開発されたマイクロ流体デバイスの概略図を示す。デバイスは、全血液細胞のうちの>99%を占める赤血球の大半またはすべてを除去することにより、末梢血から希少細胞を、単一のステップで効率的に分離することを可能とする。一態様では、デザインが、単一の入口による、収縮−拡張アレイによりパターン化された、高アスペクト比の矩形マイクロチャネルからなる。収縮領域および拡張領域の幅は、それぞれ、約20μmおよび60μmであり、それらの長さは、約100μmであった。チャネルは、全長を約1.5cmとする、収縮−拡張領域による約75のサブユニット(収縮領域と拡張領域との対が、1つのサブユニットをなす)を含む。出口は、目視観察を増強するために、幅約300μmの区分へと開口し、2つの側方出口アームおよび中央出口アームである、幅約100μmの3つの分枝状アームへと等分されている。標的細胞が中央出口において回収される一方で、他のすべての血液成分は、側方出口から除去される。本明細書では、この新規の技法の適用として、単一のチャネルを用いて、1分間当たりの細胞108個の処理を可能とする高効率(>80%のCTC回収率)およびハイスループット(400μL/分の流速)で、血液から希少CTCを分離することが裏付けられる。チャネルのデザインは、数分間以内に、数ミリリットルの臨床血液試料を処理する能力を伴う、簡易な並列化を可能とする。デバイスは、末梢血白血球および胎児有核赤血球を含めた他の希少細胞を血液から単離するのにもカスタマイズすることができる(Vona,G.ら,American Journal of Pathology,2002.160(1):51ページ)。
【0044】
チャネル(例えば、マイクロチャネル)内の慣性揚力ベースの細胞フォーカシングは、早くも、新規でハイスループットの物理的な細胞分離法をもたらしつつある(Bhagat,A.A.S.ら,「Medical and Biological Engineering and Computing」、2010;Di Carlo、D.,Lab on a chip,2009,9(21):3038ページ)。開発されたバイオチップは、これらの慣性揚力を及ぼして、CTCを他の末梢血細胞から単離することに成功している。高アスペクト比のマイクロチャネル区分は、2つの領域:(i)細胞フォーカシング領域と、(ii)希少細胞絞込み領域(図16)とに分割することができる。細胞フォーカシング領域(最初の70のサブユニット)では、せん断変調性慣性揚力の影響下において、すべての細胞が、チャネル長手の側壁に沿って移動および平衡化する(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008、20:101702ページ)。マイクロチャネル内を流動する流体中に懸濁されている、中性浮力をもつ浮揚性の粒子/細胞は、粘性抗力および慣性揚力の両方の下に置かれることが典型的である。平面ポアズイユ流における放物線状層流の速度プロファイルは、せん断誘導性慣性揚力をもたらし、この結果、チャネル中央から遠ざかる、マイクロチャネル壁面への粒子移動がもたらされる(Asmolov,E.S.,Journal of Fluid Mechanics,1999,381:63〜87ページ)。粒子が、チャネル壁面により近接するにつれて、粒子の周囲で誘導される非対称性後流が、壁面誘導性揚力を発生させ、これらの粒子を壁面から遠ざけるように駆動する(Zeng,L.ら,Journal of Fluid Mechanics,2005,536:1〜25ページ)。これらの2つの反対向きの揚力が、互いを相殺する結果として、均一に分散した粒子が、マイクロチャネル辺縁部周囲の狭小なバンドに平衡化する(Matas,J.P.ら,「Oil & Gas Science and Technology」、2004,59(1):59〜70ページ;Segre,G.ら,Nature、1961、189:209〜210ページ;Segre,G.ら,J.Fluid Mech、1962,14:115〜136ページ;Matas,J.P.ら,Journal of Fluid Mechanics,2004,515:171〜195ページ)。これらの慣性力は一般に、マイクロ流体素子ベースの流動では、ほぼ確実にチャネルのレイノルズ数が低値である(チャネルの寸法が小さく、流速が低速である結果として)ために無視される。しかし、粒子/細胞のサイズが、チャネルの寸法と同等である場合は、これらの慣性揚力が無視できないものとなり、流動の流線を横切る側方への粒子の移動をもたらす。
【0045】
実際のマイクロ流体への適用で、細胞が有限のチャネル長にフォーカスされるような平衡化は、ac/Dh≧0.07の場合に生じる[式中、acは、細胞の直径であり、Dhは、マイクロチャネルの流体力学的直径である](Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Bhagat,A.A.S.ら,Lab on a chip,2008,8(11):1906〜1914ページ;Hampton,R.E.ら,Journal of Rheology,1997,41:621ページ;Di Carlo,D.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007,104(48):18892ページ)。正方形のマイクロチャネルにおいて、低レイノルズ数(Re<100)の流動では、4つの側面すべてにおけるせん断勾配が均一であるため、8つの安定的な平衡位置が存在する(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Chun,Bら,Physics of Fluids,2006,18:031704ページ;Bhagat,AAS.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ)。近年の報告は、高アスペクト比の矩形のマイクロチャネルにおいて、せん断率を変調させると、マイクロチャネルの長手に沿った優先的フォーカシングが結果として得られることを裏付けている(この場合は高さ)(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Bhagat,AAS.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ)。慣性揚力は、FL∝G2[式中、Gは、チャネルに沿ったせん断率である]としてスケーリングされるので、高アスペクト比(AR:チャネルの高さ対チャネルの幅の比)の矩形のマイクロチャネルの断面は、チャネル幅に沿ったより高いせん断率をもたらし(∝AR2)、マイクロチャネルの高さに沿った細胞の平衡化を駆動する。したがって、入口において分散した細胞は、移動し、チャネルの側壁近傍における2つの流れに整列され、無細胞の中央領域を創出する。本明細書で示す通り、この現象を利用して、すべての末梢血細胞をチャネル壁面に沿ってフォーカスし、下流で除去した。本明細書では、「平衡化」という用語と「フォーカシング」という用語とを互換的に用い、これらにより、細胞がマイクロチャネルの長手の側壁に沿って最終的な静止位置へと移動することを示唆する。
【0046】
マイクロ流体デバイスはまた、チャネルの出口の前に、希少細胞絞込み領域(例えば、最後の5つの収縮−拡張サブユニット)も含むことができ、これは、希少細胞を他の血液細胞からうまく単離するのに用いられる(図16)。より大型のCTC細胞の慣性の中心が、マイクロチャネルの中心軸に沿って整列するように、この絞込み領域における収縮幅(または絞込み幅)は、CTCの直径と同等である(すなわち、CTCのオーダーにある)ようにデザインする。したがって、出口では、赤血球およびPBLがチャネルの側壁に沿ったフォーカシングを維持する一方で、より大型のCTCは、チャネルの中心軸に沿って流過し、これにより、中心の出口からすべての希少細胞を回収することが可能となる一方で、血液細胞のうちの>99%は、側方出口から除去される。
【0047】
高アスペクト比のデバイスでは、マイクロチャネルの幅が、細胞フォーカシングを制御する重要な寸法である。本明細書では、この寸法が、収縮領域の幅に対応し、これを約20μmとした。理想的には、直行するだけのマイクロチャネル(収縮−拡張アレイのないマイクロチャネル)でも、チャネルの側壁に沿った効果的な細胞の平衡化には十分である(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Bhagat,AAS.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ)。しかし、拡張領域を規則的な間隔で包含する理由は、二重のものである。第1に、これらのチャネルは、二重の鋳型形成工程(下記の「方法」の節を参照されたい)を用いるPDMSポリマーにより製作されているので、アスペクト比が>2であるレリーフ構造は、変形および歪みに対して高度に感受性である(Delamarche,E.ら,Advanced Materials,1997,9(9):741〜746ページ;Xia,Y.ら,Annual Review of Materials Science、1998,28(1):153〜184ページ)。幅約60μmの拡張領域は、マイクロチャネルにより多大な構造的安定性をもたらしており、約7.5までの高アスペクト比の構造特徴を製作することを可能としている。第2に、拡張領域はまた、マイクロチャネル長にわたる圧力低下を軽減する働きもあり、デバイスを故障させることなく、高流速(Re>100)の検査を可能とする。
【0048】
別の態様では、マイクロ流体デバイスを、非同調細胞の混合物から1または複数の同調細胞を単離する方法において用いることができる。この方法は、非同調細胞の混合物を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って同調細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、より大型の同調細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、より小型の同調細胞が、チャネルの他の部分に沿って少なくとも1つの他の出口へと流動する。
【0049】
細胞周期は、細胞がその内容物を複製し、次いで、2つの娘細胞へと分割する、順序の決まった継起的イベントからなる。真核細胞では、適正な細胞分裂をもたらすこれらの異なるイベントを、4つの継起的な相:G1期(間隙期)、S期(DNA合成期)、G2期(間隙期)、およびM期(有糸分裂期)に分割することができる。細胞周期を進むにつれ、細胞は、S期においてその染色体を複製し、M期においてこの染色体を分離する。長期間にわたるサイズのホメオスタシスを維持するために、細胞は、分裂する前に、サイズを平均で倍増させなければならない。G1期およびG2期の間隙期は、新たな高分子および各種の細胞小器官を合成するための時間をもたらし、細胞が、その外部環境をモニタリングして、その状態が、S期およびM期のそれぞれに入るのに適すると確認することを可能とする。有糸分裂後、細胞は、一時的な静止状態であるG0期に入ってから、再度細胞周期に入る。
【0050】
細胞周期の同調は、細胞の特性および生物学的過程を研究し、細胞分裂前の各相に関与する遺伝子制御機構および遺伝子制御イベントを解明するのに不可欠である。同調培養物とは、細胞が、細胞周期の特定の相にあり、サイズおよびDNA含量など、類似の物理的特性および生化学的特性を示す培養物である。次いで、細胞は、その後の時点では同じ相にある比較的均一な群として、細胞周期を経過する。癌細胞による研究は、細胞周期における特定のチェックポイントに関与する重要な癌遺伝子の表現型および分布を明らかにしている。抗癌薬は、細胞周期の異なる相にある細胞を標的とすることが知られているため、癌の治療学は、腫瘍細胞試料を同調させることが可能であるかどうかに大幅に依存してきた。高度に同調させた細胞集団の使用はまた、多様な生物学的系の開発も大幅に容易とし、有用性も大幅に促進してきた。患者の免疫プロファイルに合致する細胞および組織の生成に核の導入が必要とされる幹細胞療法では、G0/G1期の幹細胞が高度な核導入効率を付与するので、細胞周期の同調が技法の成功にとって極めて重要である。したがって、それらの細胞周期の各相にある細胞を同調させるのに有効な技法を開発する必要が存在する。
【0051】
以下では、螺旋状のマイクロチャネルにおける慣性力を用いて細胞を同調させる、マイクロ流体素子ベースの手法について説明する。近年では、慣性移動の原理に基づいてマイクロ流体システムにおけるサイズベースの粒子分離が開発されている(Bhagat,A.A.S.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009、7(2):217〜226ページ;Di Carlo,D.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007、104(48):18892ページ)。ポアズイユ流条件下にある螺旋形状のマイクロチャネルでは、多様なサイズの粒子が、慣性揚力およびディーン抗力の影響下において、マイクロチャネル断面に沿った異なる位置で平衡化する。本明細書で説明する通り、この原理を用い、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−CD36細胞)および癌細胞(HeLa細胞およびKKU−I00細胞)を含めた、複数の哺乳動物による永久細胞系を、G0/G1期の細胞に富む集団(>85%)、S期の細胞に富む集団、およびG2/M期の細胞に富む集団へと同調させることに成功した。分離の原理は、細胞周期における細胞の容量(および、したがって、直径、または、より一般的には、「サイズ」)と、その相との関係を利用する。本明細書ではまた、初代細胞系(骨髄)由来ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を同調させるためのこの技法の使用も裏付けられる。結果は、非同調試料による約2.8:1のG0/G1期集団対G2/M期集団比が、約15.7:1へと濃縮されることを示す。同様に、同調させた後では、G2/M期集団の約4倍の濃縮が得られている。これらの結果は、他のマイクロ流体システムを用いて報告された結果(Kim,U.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007、104(52):20708ページ;Thevoz,P.ら,Analytical chemistry,2010、82:3094〜3098ページ;Choi,S.ら,Analytical chemistry,2009、81(5):1964〜1968ページ;Migita,Sら,Analytical Methods,2010,2:657〜660ページ)と同等であるが、スループットが顕著に増大したことにより、生存率の高い(約95%)多数の細胞(1時間当たりの細胞約15×106個)を同調させることが可能となっている。このデバイスのマイクロチャネルのデザインと組み合わせたパッシブの作動原理により、多くの異なる初代細胞型についての生物学的研究における多様な適用が可能となっていると考えられる。
【0052】
当業者に知られている通り、「非同調細胞」とは、多様な相、例えば、G0/G1期、S期、およびG2/M期にある細胞の混合物である。本明細書で用いられる場合、「同調細胞」とは、細胞周期の同じ相にある細胞を指す。非同調細胞の混合物は、哺乳動物の癌細胞の懸濁液もしくは間葉系幹細胞の懸濁液、組織、またはこれらの組合せでありうる。方法は、同調細胞を第1の出口から回収するステップをさらに含みうる。一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約1〜約5の範囲にありうる。特定の実施形態では、チャネルの幅が、約500μmでありえ、チャネルの高さが、約140μmでありうる。
【0053】
本明細書で説明する方法は、さらなる解析のために、例えば、蛍光活性化細胞分取などのために、デバイスから標的細胞を回収(単離)するステップをさらに含みうる。
【0054】
当業者により理解される通り、方法はまた、標的細胞を濃縮するステップもさらに含みうる。例えば、複数の出口を有するデバイスの場合は、分離および/または濃縮を増強するように出口の寸法比をデザインすることができる。例えば、3つの出口を伴うデバイスを例として用いると、寸法比は、1:2:1、1:3:1、1:4:1、1:5:1、1:6:1、1:7:1、1:8:1、1:9:1、1:10:1などでありうる。
【0055】
標的細胞の濃縮率は、例えば、約2倍、約3倍、または約4倍の濃縮率に到達させることができる。
【実施例1】
【0056】
[細胞を分離および単離するための変形能ベースの分取]
[材料および方法]
[マラリア原虫の培養]
本研究では、P.falciparumの3D7株を用いた。原虫は、10mg/mlのゲンタマイシン(Invitrogen、USA)1mlと併せた、1MのNaOH 1ml中に溶解させた、0.3gのL−グルタミン、5gのAlbuMAX II(Invitrogen、USA)、2gのNaHCO3、および0.05gのヒポキサンチン(Sigma−Aldrich、USA)を補充したRPMI培地1640(Invitrogen、USA)中で培養した。原虫を、2.5%のソルビトールを用いて環状期で同調させ、同調培養を維持した。5%のCO2気体、3%のO2気体、および92%のN2気体の混合物により通気した後、37℃で培養物を保存し、それらのヘマトクリット値を2.5%で維持した。環状期、後期栄養体期、および後期分裂体期において細胞を回収した。原虫培養物のための全血液は、健常ドナーから得、これをスピンダウンしてRBCを分離した。RBCペレットをCPDAで3日間にわたり処理してから、RPMI 1640で3回にわたり洗浄し、使用のために保管した。
【0057】
[試料の調製]
血液試料を、1倍濃度のリン酸緩衝液(PBS)、2mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、および1%v/vのウシ血清アルブミン(BSA)を含有する洗浄緩衝液で3回にわたり洗浄してから、実験を行った。直径3μmの蛍光標識したマイクロビーズ(Fluoresbrite(登録商標)Microspheres、Polysciences Inc、Singapore)を血液に添加し(0.01%の容量画分)、1×PBS、2mMのEDTA、1%のBSA、および3.5w/v%のデキストラン40(AppliChem Asia、Singapore)を含有する試料緩衝液中で再懸濁させた。デキストランは、正常な血漿の有効粘性をもたらし、実験中の赤血球の沈降および連銭形成を防止する一助となった(Yeh Cら(1994)、66(5):1706〜1716)。目視観察および定量化のため、iRBC(0.01%の寄生虫血)を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Sigma Aldrich、USA)で染色した。次いで、最終的な血液懸濁物を、試料緩衝液により相応に、多様なヘマトクリット値(1%、10%、および40%)に調整した。
【0058】
[デバイスの特徴づけ]
デバイスは、標準的なマイクロファブリケーションソフトリソグラフ法(McDonald JCら(2002),Accounts of Chemical Research.35(7):491〜499)を用いて、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sylgard 184、Dow Corning、USA)により製作した。マイクロ流体デバイスを特徴づけるために、細胞試料を1ccのシリンジに充填し、多様な流速で駆動されるシリンジポンプ(Fusion 400、Chemyx Inc.,USA)を用いて、マイクロ流体デバイス内に送入した。12ビットのEMCCDカメラ(iXonEM+ 885、Andor Technology、USA)を装備した倒立型落射蛍光顕微鏡(Olympus IX81、Olympus Inc.,USA)を用いて、流動を実験的に観察した。試験中、Metamorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices、USA)を用いて、出口において、チャネルのハイスピード画像を収集した。
【0059】
分離効率を定量化するため、蛍光標識したマイクロビーズおよびiRBCの分散度を、マイクロチャネルの出口で撮影した画像から測定した。マイクロビーズおよびiRBCの分散度は、出口が幅100μmのマイクロチャネルを、各々10μmずつの10の等しい区画(bin)に分割し、各区画を通過するビーズ/iRBCの数をカウントすることにより測定した(Bhagat AASら(2008),Journal of Micromechanics and Microengineering.18(8):9)。次いで、カウントをプロットして、チャネル幅にわたるビーズ/iRBCの分布を示した。側方出口で測定されたビーズ/iRBCのカウントを、全出口におけるカウントに照らして標準化することにより、濾過効率を決定した。濾過を完了するのに、すべてのビーズ/iRBCが、2つのチャネル側壁へと移動し、2つの側方出口から効率的に濾過されることが期待される。回収された出口試料に対して、BD(商標)LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences、USA)を用いる蛍光活性化細胞分取(FACS)解析を実施することにより、分離効率をさらに検証した。
【0060】
[マイクロチャネルのデザイン]
このマイクロチャネルのデザインは、長さ3cm、15×10μm(幅×高さ)で、拡張非対称型3出口システムを伴うマイクロチャネルとした。マイクロチャネルは、入口における幅100μmのセグメントで始まり、15μmへと狭窄した。出口において、マイクロチャネルは、幅100μmの区画へと開口し、目視観察を増強した。iRBC感染血により調べる前に、全血液中に懸濁させた3μmの硬質ポリスチレンビーズを用いて、濾過の原理を確認した。後期iRBCにおいて見出される原虫とサイズが同様であり、このため、実際のiRBC挙動を表すので、3μmのビーズを選択した。試料は、0.05〜0.1%のビーズまたは異なる感染期のiRBCでスパイクした全血液(40〜45%のヘマトクリット値)からなる。血液試料が、15×10μmのマイクロチャネルを流動するにつれて、iRBCより変形能が大きい正常RBCは、チャネルの中心軸に対して側方に移動し、より硬いiRBCを、チャネルの壁面へと駆逐する。低アスペクト比のマイクロチャネルをデザインすることにより、iRBCを、チャネル幅だけに沿って辺縁趨向させ、これにより、各側壁近傍に整列させることができる。次いで、非対称型3出口システムを用いてiRBCを濾過し、これにより、持続的でハイスループットの変形能ベースの濾過を達成する。図1は、開発されたマイクロ流体デザインの概略図を示す。
【0061】
[結果および考察]
濃縮した血流における変形能ベースの側方駆逐現象を検証するために、まず、ヘマトクリット値を10〜40%とする血液懸濁物中において、RBCとほぼ同じ大きさである、直径6μmの硬質ポリスチレンマイクロビーズを調べた。流動が出口に到達する時点までに、すべてのビーズがマイクロチャネルの2つの側壁近傍に整列したことから、辺縁趨向が裏付けられた。次いで、後期iRBCにおいて見出される原虫(3〜5μm)とサイズが同様であるために、蛍光標識したより小型の3μmポリスチレンビーズにより実験を繰り返した。硬い原虫が、感染細胞における変形能の喪失の主な原因である(Nash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861)ので、3μmのビーズは、iRBCの流動挙動をよく表す。ヘマトクリット値を1%、10%、および40%とする血液懸濁物中にビーズを添加し、多様な流速でデバイスを介して送入した。各区画位置を通過するビーズをカウントすることにより、分離効率を定量化した。一貫して、各実験につき合計200個ずつのビーズをカウントした。図2A〜2Cは、流速を変化させるときの、マイクロチャネル幅にわたるビーズの分布をプロットする。低ヘマトクリット値(1%のヘマトクリット値)では、ビーズおよびRBCが、チャネル幅にわたる均一な分散を維持したことから、軸方向の移動および辺縁趨向が無視できる程度であることが示される。ヘマトクリット値を10%および40%へと増大させると、マイクロチャネルの中央部において、十分に成長した、RBCを優勢とするコアの形成が結果としてもたらされる。ビーズとRBCとの相互作用が強いため、ほとんどすべてのビーズ(>90%)が、チャネル側壁へと駆逐された(図2B〜2Cの区画1および10)。これらの結果は、他の研究者らにより報告されている結果と一致することから、細胞の辺縁趨向に対する高ヘマトクリット値の役割が示唆される(Jain Aら(2009)、PLoS ONE.4(9):e7104)。図3Aは、ヘマトクリット値を変化させた試料について、側方出口および中央出口アームにおいて測定した3μmビーズの分布を示す。すべての実験は、5μL/分で一定の流速で実施した。ヘマトクリット値を1%とする場合、中央出口のビーズは、側方出口の約2倍であった。これは、マイクロチャネルの中央部においては流速が速くなることに帰せられ(ポアズイユ流)、所与の時間においてマイクロチャネルの中央部を通過するビーズが結果として増大する。しかし、ヘマトクリット値を増大させると(10%および40%とすると)、ほとんどすべてのビーズ(約90%)がチャネルの側壁へと駆逐され、側方出口により回収された。ヘマトクリット値を10%から40%へと増大させると、濾過効率もまた、89%から97%へと増大したことから、辺縁趨向の増大が示される(Zhao Rら(2008),Annals of Biomedical Engineering.36(7):1130〜1141)。
【0062】
本発明者らのマイクロチャネルでは、高ヘマトクリット値の試料が、ビーズの側方駆逐の増強を結果としてもたらす。次に、流速が分離効率に対して及ぼす影響を決定するために、実験を実施した。図3Aに示す結果に基づいて蛍光標識したビーズでスパイクした40%のヘマトクリット値試料を、0.2μL/分〜5μL/分の範囲の流速で調べた。図3Bは、流速を増大させたときの側方出口および中央出口アームで測定される3μmビーズの分布を示す。ビーズの辺縁趨向効率は、調べたすべての流動条件において、約90%でほぼ一定を維持した。これは、近年において報告される他の結果と符合する(Zhao Rら(2008),Annals of Biomedical Engineering.36(7):1130〜1141)。この挙動は、以下の理由により説明することができる。流速を低下させると、硬いビーズは、チャネル長を縦断するのにより長時間を費やし、このため、複数の細胞が相互作用して側方へと辺縁趨向するのに十分な時間が与えられる。しかし、流速を増大させると、慣性が増大するために、RBCは、マイクロチャネルの中心軸へとより迅速に移動し、十分に明確なコアを形成する。この結果、硬いビーズは中央部から側壁へと「押し」のけられ、このため、流速を増大させてもなお、効率的な分離が達成される。
【0063】
ポリスチレンビーズを用いる実験によるデザイン原理の検証に続いて、次に、マラリア感染iRBCによる試験を実施した。図3Aおよび3Bに示される結果に基づいてヘマトクリット値を10%および40%とするiRBC試料について調べた。まず、それらの硬さが増大するために、早期iRBCと比較した場合、辺縁趨向効果がより顕著となるので、後期栄養体期/分裂体期iRBCを用いて、すべての試験を行った。図4Aおよび4Bは、流速条件を変化させて、ヘマトクリット値を10%および40%とした場合に、マイクロチャネルの出口において測定された、iRBCの分布結果を示す。硬質ポリスチレンビーズにより得られた結果とは逆に、ヘマトクリット値を10%とする場合、本発明者らは、iRBCの側壁への辺縁趨向が無視できる程度であることを認める。iRBCカウントは、チャネルの中心軸周囲において放物線状の分布を示し、ポアズイユの速度プロファイルと符合する。これは、細胞間相互作用を中程度とするとき、iRBCと正常RBCとの変形能の差違が、iRBCを側壁へと駆逐するのに十分ではないことを示す。
【0064】
しかし、ヘマトクリット値を40%まで増大させると、著明なiRBCの辺縁趨向が結果としてもたらされる(図4B)。図により、すべての流動条件について、約80%のiRBCが、区画1および10に駆逐され、ポリスチレンビーズにより得られた結果と同様となった。調べたすべての流速で辺縁趨向効果が観察されたことから、ヘマトクリット値が、iRBCの辺縁趨向の主要な因子であることが示される。ヘマトクリット値を増大させると、細胞間相互作用の増大が促進され、変形能の低いiRBCがチャネルの側壁へと駆逐され、これにより、感染細胞の効率的な分離が可能となり、これにより、変形能の低いiRBCを分離するための細胞の辺縁趨向の使用が裏付けられ、鎌状赤血球貧血および白血病など、赤血球の硬さの変化を特徴とする他の疾患を診断するのにこの技法を適用することが支持される。
【0065】
図5は、流速を変化させるときの、このiRBC辺縁趨向現象による分離効率を示す。この技法が、高流速(5μL/分)を含め、調べたすべての流動条件において同様な良好さで作用したことは、ハイスループットの分離を行う場合の重要な考慮点であり、これに注目することは重要である。予測される通り、iRBCはなお変形可能であり、このため、側方へと辺縁趨向する効率が低いので、iRBCの分離効率は、硬質のビーズにより測定した場合の分離効率ほど高くはなかった。
【0066】
最後に、濾過効率の精度を検証するため、蛍光活性化細胞分取(FACS)を用いて、出口における試料を解析した。ヘマトクリット値を40%とする血液懸濁物における、環状期iRBCおよび後期栄養体期/分裂体期iRBCの両方を、5μL/分でデバイスを介して送入し、流出物を回収し、FACSを用いて解析した。合計500,000のイベントを記録し、iRBCの分離効率のより正確な表示を得た。後期栄養体期/分裂体期iRBCによる実験の場合、側方出口と中央出口との間では、92%の濾過効率が測定された。これは、区画内のカウントデータと符合する(図6A)。側方出口が、3つの出口の容量のうちの50%を占めるので、側方出口におけるiRBC濃度は、注入試料と比較して2倍の濃縮率を示す。しかし、この数は、出口チャネルのデザインが最適化されていないことの影響を受けるものであり、同じ工程を反復しうる場合はさらに改善することができる。
【0067】
このiRBCの辺縁趨向を、マラリアの診断に適用するには、環状期iRBCを濃縮することが重要である。典型的にはマラリア感染患者において、後期(栄養体期/分裂体期)iRBCは、毛細血管後細静脈内に付着閉塞し、マラリア感染を検出するために、末梢血流中で循環するのが観察されるのは、環状期iRBCだけである(Demirev PAら(2002)、Analytical Chemistry.74(14):3262〜3266;およびGascoyne Pら(2002)、Lab on a Chip 2(2):70〜75)。最適化させた分離条件(40%のヘマトクリット値、5μL/分)下において、環状期iRBCについてのこの技法の分離効率を調べ、FACSを用いて、回収された流出物を解析した(図6B)。環状期iRBCは、細胞表面積対容量比の減少、および細胞膜の硬化のために、非感染細胞よりわずかに硬化するに過ぎない(Suresh Sら(2005),Acta Biomaterialia,1(1):15〜30;Nash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861;およびHerricks Tら(2009),Cellular Microbiology.11(9):1340〜1353)。しかし、iRBCを濾過するのにこの辺縁趨向現象を用いると、変形能のこのわずかな差異でもなお利用することができる。環状期iRBCの分離効率が、後期iRBCの分離効率より低いことは当然である。結果は、環状期iRBCもまた、チャネルの側方へと辺縁趨向し、約80%の分離効率を結果としてもたらすことを示す。収集されたビデオ画像を解析したところ、後期iRBCが側壁へと完全に駆逐されるのに対し、早期iRBCは、それほどは駆逐されないことが認められた。これは、例えば、より長型のマイクロチャネルを用い、これにより、環状期iRBCに、側壁へと完全に辺縁趨向するのに十分な時間を与えることで、さらに改善することができる。また、出口を適切な形で分割することにより(例えば、3つのアーム間で、1:2:1の比を用いるのではなく、1:10:1の幅比を用いることにより)、開発したマイクロ流体デバイスを、低度の寄生虫血における検出感度を改善したマラリア診断のための濃縮ツールとして用いることもまた可能であろう。
【0068】
より硬いiRBCは、白血球のように挙動し、側壁への辺縁趨向を受ける。これを裏付けることにより、iRBCの微小循環による血行力学的効果、および細胞接着性に対するその病態生理的重要性に対する洞察がもたらされる。前出で言及した通り、iRBCにおける2つの重要な形態変化は、iRBC膜の接着性の増大、および変形能の低下である。これらの変化は、重度のマラリアの発症機序において枢要であり、各種の宿主細胞へのiRBCの細胞接着をもたらす。これらのiRBCの毛細血管壁への辺縁趨向はまた、細静脈の毛細血管における付着閉塞ももたらし、微小循環を含む毛細血管の閉塞の一因となる(Dondrop AMら(2000),Parasitology Today.16(6):228〜232;およびCooke BMら(2000),Parasitology Today.16(10):416〜420)。Hoらは、iRBCによる内皮への細胞接着が、ローリングおよび接着など、多段階による白血球動員を模倣し、この過程が、ヒトの毛細血管後の細静脈、および細動脈系の両方において生じたことを、in vivoにおいて示している(Ho Mら(2000)、Journal of Experimental Medicine.192(8):1205〜1211)。示された結果は、硬い後期栄養体期/分裂体期iRBCが、側方へと駆逐され、マイクロチャネルの辺縁を流動することを示す。in vivoなら、これは、iRBCが側方へと分枝する小型の毛細血管へと侵入し、結果として、その後、iRBCが毛細血管床に付着閉塞することを促進するであろう。また、生理学的な細動脈流に類似する広範な流動条件(Re=0.01〜2.22)にわたっても、iRBCの辺縁趨向について調べられており(Popel ASら(2005),Annual Review of Fluid Mechanics. 37:43〜69)、in vivoにおける付着閉塞および細胞接着に対する変形能低下の役割がさらに確認されている。
【0069】
生理学的な細胞辺縁趨向現象を、マイクロ流体デバイスにおける持続的な変形能ベースのiRBC濾過を達成するのに適用した。この技法は、他のマイクロ流体分離法を上回る多くの顕著な利点をもたらす。まず、持続的な作動方式は、試料のハイスループット(5μL/分;1分間当たりの細胞約2000万個)を可能とし、低度の寄生虫血における検出感度を増強する(Gascoyne Pら(2002),Lab on a Chip.2(2):70〜75;Zimmerman PAら(2006),American Journal of Tropical Medicine and Hygiene.74(4):568〜572)。パッシブの作動原理は、機能性のために外力の場を組み込む必要を排し、このマイクロ流体デバイスを現場環境に理想的なものとしている。患者に由来する全血液を、直接検査することができるので、他のマイクロスケールにおける分離法とは異なり、試料の調製ステップが不要であり(Zimmerman PAら(2006),American Journal of Tropical Medicine and Hygiene.74(4):568〜572;Karl Sら(2008),Malaria Journal.7(1):66)、処理時間がさらに短縮され、処理費用がさらに削減される。また、特別な化学物質または抗体も不要なので、高温多湿の気候に悩まされ、保冷庫が不足するマラリア罹患諸国にとって主要な憂慮点である、試薬の保存問題を解決する一助となっている(Stevens DYら(2008),Lab on a Chip.8(12):2038〜2045)。最後に、このデバイスの費用低廉でディスポーザブルな性格は、このデバイスを、現場臨床に理想的なものとしている。
【0070】
[結論]
本明細書では、生体模倣性の細胞辺縁趨向に基づくマイクロ流体デバイスにおける持続的な変形能ベースのiRBC濾過法を導入する。本明細書では、より硬いiRBCが、白血球と同様に挙動し、生理学的条件下において、側壁へと辺縁趨向することが裏付けられる。結果は、広範な流速にわたり観察された最適の辺縁趨向のためには、試料の高ヘマトクリット値(40%)が重要であったことを示す。試験は、5μL/分の比較的高度のスループットにおいて、全血液と混合した環状期iRBCおよび後期栄養体期/分裂体期iRBCの両方により実施した。濾過効率は、区画カウント法およびFACS解析を個別に用いて決定した。報告される結果は、早期環状期iRBCには約75%、および後期栄養体期/分裂体期iRBCには>90%の高濾過効率を示す。さらなる試料の改変および調製の必要を排するこのパッシブのマイクロ流体デバイスでは、全血液試料を直接用いうるので、この技法は、医療資源の乏しい環境におけるオンサイトの検査に理想的であり、診断をより迅速およびより正確なものとする。最後に、分離の原理が、内因性バイオマーカーとしての変形能の差違に基づくので、デバイスは、これらもまた細胞の硬さの変化により特徴づけられる、鎌状赤血球貧血および白血病など、他の血液細胞疾患にも容易に適用することができる。
【実施例2】
【0071】
[螺旋状マイクロ流体素子における細胞周期の同調]
[材料および方法]
[細胞の培養]
1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen、USA)と併せて10%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen、USA)を補充した、低グルコースのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen、USA)中で、間葉系幹細胞(Lonza、Switzerland)を培養した。1%ペニシリン−ストレプトマイシンと併せて10%FBSを補充した、RPMI 1640培地(Invitrogen、USA)中で、ヒトCD36をトランスフェクトしたチャイニーズハムスター卵巣細胞であるCHO−CD36細胞(ATCC、USA)を培養した。10%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充した、低グルコースのDMEM中で子宮頸癌細胞であるHeLa細胞(CCL−2(商標)、ATCC、USA)を培養した。胆管癌腫細胞系であるKKU−100細胞(恵与による)を、10%FBS、3%HEPES緩衝液、および1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有するハムF−12培地中で培養した。すべての培養物を、5%(v/v)CO2を含有する加湿雰囲気中で37℃に維持した。1cm2当たりの細胞500個でMSCを播種し、175cm2の滅菌フラスコ(Corning)内で培養し、48時間後に0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液により解離させて、接触阻害を阻止した。CHO−CD36細胞、HeLa細胞、およびKKU−100細胞を、25cm2の滅菌フラスコ(Corning)内で培養し、毎週3回ずつ継代培養(1:4)し、48時間ごとに培地を置換した。コンフルエント未満の単層は、0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液により解離した。
【0072】
試験の前に、非同調細胞を、1%のウシ血清アルブミン(BSA)(Miltenyi Biotec、Germany)を補充した、1倍濃度のリン酸緩衝生理食塩液(PBS)、2mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含有する緩衝液中で、1mL当たりの細胞100,000個まで希釈し、凝集およびマイクロチャネル壁面への吸着を阻止した。3.5%w/vのデキストラン40(AppliChem Asia、Singapore)を補充することにより、細胞の沈殿を阻止するように、溶液密度を調整した。
【0073】
[接触阻害および血清飢餓による間葉系幹細胞の同調]
接触阻害によりG1期の停止を開始させるため、1cm2当たりの細胞20,000個でMSCを播種し、10%FBSを補充したDMEM中で48時間にわたり培養した。血清飢餓によりG1期を停止させるため、1cm2当たりの細胞500個でMSCを播種し、FBSを伴わないDMEM中で48時間にわたり培養した。停止された細胞を、0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液により解離してから、70%のエタノール中で30分間にわたり固定した。
【0074】
[マイクロチャネルの製作]
デバイスは、標準的なソフトリソグラフ法(Xia,Y.ら,Annual Review of Materials Science,1998,28(1):153〜184ページ)を用いて、ポリジメチルシロキサン(PDMS、Sylgard 184、Dow Corning,USA)により製作した(図9A)。略述すると、まず、6インチのシリコンウェハーにパターンを描き、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を用いてエッチングし、ウェハー上にチャネルを画定する。エッチングの後、パターンが描かれたシリコンウェハーを、トリクロロ(1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチル)シラン(Sigma Aldrich、USA)で2時間にわたり処理して、PDMS鋳型のリリースを促進した。シラン化の後、硬化剤と10:1(w/w)の比で混合したPDMSプレポリマーを、シリコン原型へと注入し、70℃で2.5時間にわたり硬化させた。次いで、硬化したPDMS鋳型をシリコンウェハーから剥離させ、その後のPDMS鋳造のための母型として用いた。次に、このPDMS母型を2時間にわたりシラン化し、その後のPDMS鋳型のリリースを支援した。所望のパターンによる最終PDMS鋳型における硬化の後、1.5mmの生検用パンチを用いて、入口および出口のための小孔を開けた。次いで、PDMS鋳型を酸素プラズマ処理(Covance、Femto Science、South Korea)を用いて、顕微鏡用スライドガラス(1インチ×3インチ×1mm;Fisher Scientific Inc.,USA)に不可逆的に接着させた。
【0075】
[デバイスの特徴づけ]
蛍光ポリスチレンビーズ(25μm:緑色、15μm:青色、および10μm:赤色)(ITS Science & Medical,Singapore)を、均等の比率で、1%BSAを伴う1×PBSおよび3.5(w/v)倍濃度のデキストラン40中に、1mL当たりのビーズ1.2×105個の総濃度で懸濁させた。螺旋状マイクロ流体デバイスを特徴づけるために、ビーズの混合物および細胞懸濁液を60mLのシリンジに充填し、2.5mL/分の流速で駆動されるシリンジポンプ(NE−1000、New Era Syringe Pump Systems Inc.,USA)を用いて、マイクロチャネル内に注射した。12ビットのEMCCDカメラ(iXonEM+ 885、Andor Technology、USA)を装備した倒立型落射蛍光顕微鏡(Olympus IX81、Olympus Inc.,USA)を用いて、流動を実験的に観察した。試験後、出口から回収される細胞試料の顕微鏡画像を収集し、Metamorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices、USA)を用いて、細胞サイズを写真から計算した。
【0076】
[FACSを用いる細胞周期の解析]
分取された試料に対して、ヨウ化プロピジウム(PI)を用いるフローサイトメトリー解析を実施し、細胞内のDNA含量を解析した(Wersto,R.P.ら,Cytometry Part B:Clinical Cytometry、2001.46(5):296〜306ページ)。分取された同調細胞試料は、1×PBS中で洗浄し、70%のエタノール中、4℃で30分間にわたり固定した。次いで、600gで5分間にわたり細胞を遠心分離し、1×PBS、3.8mMのクエン酸ナトリウム(Sigma Aldrich、USA)、10μg/mlのRNアーゼ(i−DNA Biotechnology、Singapore)、および50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma Aldrich、USA)を含有する染色溶液中で30分間にわたりインキュベートした。次いで、BD(商標)LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences、USA)およびCyflogic(CyFlo Ltd、Finland)データ解析ソフトウェアを用いるFACS解析を実施することにより、染色した細胞を、同調効率について調べた。
【0077】
[結果および考察]
[デザイン原理]
図9Aは、螺旋状分離装置の概略図を示す。マイクロ流体システムにおいて慣性力を用いる、サイズベースの細胞分離は、それらの高分離分解能、および極めて高度なスループットのために関心を集めている。ポアズイユ流条件下にある単純な粒子含有管内流では、せん断誘導性揚力と壁面誘導性揚力との均衡により、懸濁する粒子を、管辺縁部の周囲に環状形に平衡化させる、「管状絞込み」効果が生じる(Segre,G.,Nature、1961、189:209〜210ページ;Segre,G.ら,Journal of fluid mechanics,1962,14(01):115〜135ページ;Matas,J.P.ら,Journal of fluid mechanics,2004,515:171〜195ページ)。ChunおよびLaddは、断面が矩形のチャネルでは、揚力(FL)が、チャネル断面にわたる8カ所の異なる位置において粒子を平衡化させることから、管と比較した対称性の破れが反映されることを裏付けた(Chun,Bら,Physics of Fluids、2006、18:031704ページ)。Asomolovによる数値計算は、この揚力が、粒子サイズ(d)に極めて感受性であり、その4乗に伴って変化する(FL∝d4)ことを示す(Asmolov,E.S.,Journal of fluid mechanics,1999,381:63〜87ページ)。近年、この慣性による粒子の移動が、1.9μmの粒子と590nmの粒子とを分離するためのマイクロチャネル流において用いられている(Bhagat,A.A.S.ら,Microfluidics and Nanofluidics、2009、7(2):217〜226ページ)。d/D≧0.07[式中、Dは、マイクロチャネルの直径である]では、これらの慣性揚力が顕著に大きく、この結果、粒子の平衡化が短い距離内で生じ、マイクロ流体システムにとって理想的となることを研究は示している(Bhagat,A.A.S.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ;Di Carlo, D.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007、104(48):18892ページ; Hampton, R.E.ら, Migration of particles undergoing pressure−driven flow in a circular conduit. Journal of Rheology, 1997.41:621ページ)。低アスペクト比の矩形マイクロチャネルでは、マイクロチャネルの直径Dを、マイクロチャネルの高さ(H)に近似することができる(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008、20:101702ページ)。
【0078】
螺旋形状のマイクロチャネルでは、外向きの遠心力により、マイクロチャネルの上半分および下半分において、ディーン渦としてもまた知られる反転渦がもたらされる。これらの二次的なディーン渦は、懸濁する粒子に対して抗力を及ぼし、粒子を渦の中に引き込む。このディーン抗力(FD)の大きさは、粒子サイズおよびチャネル断面内の粒子の位置に伴って変化する(FD∝d)。したがって、螺旋状マイクロチャネル内を流動する粒子は、慣性揚力およびディーン抗力の両方の下に置かれる。慣性揚力(FL)と、ディーン抗力(FD)との相互作用により、8カ所の平衡位置は、各々がディーン渦の上腕内および下腕内にある、チャネル内壁近傍の2カ所だけに縮減される(Russom,A.ら,New Journal of Physics、2009,11:075025ページ)。2カ所の平衡位置は、マイクロチャネルの高さに沿って互いに重なり合い、所与の粒子サイズに対して、マイクロチャネルの内壁から同じ距離に位置する、すなわち、マイクロチャネルの幅にわたる単一の位置として目視される(図9B)。このフォーカシング位置は、FLおよびFDの両方に依存するので、粒子サイズに伴って顕著に変化する(FL/FD∝d3)。これは、サイズの異なる粒子が、マイクロチャネル断面内で、側面方向の異なる位置を占め、最大の粒子が、チャネルの内壁に最も近接することを示唆する(Kuntaegowdanahalli,S.S.ら,Lab on a Chip,2009,9(20):2973〜2980ページ)。このため、分枝状出口をデザインすることにより、異なるサイズの画分が抽出され、分離が達成されることができる。
【0079】
慣性揚力とディーン力との組合せ効果を用いる、持続的なサイズベースの分離は、Kuntaegowdanahalliらにより、単回の通過による10μm、15μm、および20μmの粒子の分離、およびSH−SY5Y神経芽腫細胞とC6ラット神経膠腫細胞との分離に適用された(Kuntaegowdanahalli,S.S.ら,Lab on a Chip,2009、9(20):2973〜2980ページ)。Russomらは、この技法を、血液中における白血球の濃縮を達成するのにさらに適用した(Russom,A.ら,New Journal of Physics、2009、11:075025ページ)。本研究において、本発明者らは、この原理を、細胞周期におけるそれらの相に基づいて細胞を同調させるのに適合させた。このデバイスの作動原理は、細胞容量(および、したがって、細胞サイズ)と細胞周期におけるその相との関係を利用して、細胞を同調させる。本明細書で説明する通り、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を、G1/G2期細胞、S期細胞、およびG2/M期細胞の同調集団へとサイズにより画分化した。
【0080】
デザイン原理を裏付け、流動条件を決定するため、螺旋状マイクロチャネル内で、サイズが25μm、15μm、および10μmの蛍光標識したポリスチレンビーズの混合物を調べた。ビーズの直径は、哺乳動物細胞のサイズ範囲を模倣するように選択した。マイクロチャネルのデザインは、1つの入口および8つの分枝状出口を伴う、9つのループによる螺旋形状からなった。異なる細胞型について、マイクロチャネルの幅は、500μmで固定し、高さは、d/D比が>0.07を満たすように変化させた。図9Bは、2.5mL/分の最適化させた流速で、マイクロチャネルの入口および出口において収集したマイクロビーズの蛍光重ね合せ画像を示す。流動が出口に到達する時間までに、25μm、15μm、および10μmのビーズは、マイクロチャネル断面にわたる3つの異なる流れにフォーカスされ、それぞれ、出口1、出口2、および出口3において効率的に回収される。
【0081】
[永久培養物の同調]
指数関数的に増殖する哺乳動物細胞培養物では、G1期の新生細胞が、この培養物のサイズ分布の下端のサイズである(Cooper,S.,Cellular and Molecular Life Sciences,2003,60(6):1099〜1106ページ)。細胞が、タンパク質および脂質の合成を介して臨界サイズとなったとき、細胞は、後期G1期において新たな細胞周期を開始し、S期においてDNAを合成する。細胞成長は、細胞が、G0/G1期における細胞の元のサイズの約2倍まで成長する有糸分裂期(M期)まで持続する。これに対応して、G2/M期における細胞は、2コピーずつのDNAを有する。
【0082】
2つの癌細胞系(HeLa細胞およびKKU−100細胞)を用いて、デバイスの同調性能を探索した。HeLa細胞集団およびKKU−100細胞集団の平均直径が、それぞれ、16.3±2.5μmおよび17.8±2.4μmと測定されたので、高さ140μmの螺旋状マイクロチャネル(d/H≧0.07の条件を満たす)を用いて細胞を分取した。細胞をマイクロチャネルに導入すると、サイズ分布が広範な非同調細胞が、マイクロチャネルの内側の半分に沿った、側面方向の異なる位置において、異なる軌跡へと分離される。分取後、出口1〜4から回収される非分取(対照)細胞および分取細胞の光学顕微鏡画像を撮影し、これらの直径を記録および解析した。細胞を、それらのサイズに基づき分離することに成功した。最大の細胞集団は、マイクロチャネルの内壁に最も近接した出口(出口1)において回収され、平均直径は、19.4±5.6μm(HeLa)および24.6±3.0μm(KKU−100)であった。最小のHeLa細胞集団およびKKU−100細胞集団は、出口4において回収され、平均直径は、それぞれ、13.5±1.5μmおよび16.6±2.4μmであった。同様に、別の細胞系であるCHO−CD36細胞もまた、より大型のサイズ分布(13.3〜36.7μm)を収容する、高さ200μmのマイクロチャネルを用いて、サイズにより画分化した。
【0083】
細胞周期の異なる相にある細胞は、細胞内のDNA含量により識別することができる。異なる相における分離細胞の分布は、フローサイトメトリー解析を用いて推定した。前出で言及した通り、G2/M期にある細胞のDNA蛍光強度は、G0/G1期にある細胞の2倍であることが典型的である。各相における細胞の百分率を計算し、二倍体または凝集体の細胞は、蛍光のパルス面積対パルス幅のプロットを用いて識別した(Wersto,R.P.ら,Cytometry Part B:Clinical Cytometry,2001.46(5):296〜306ページ)。図10A〜10Cは、HeLa細胞、KKU−100細胞、およびCHO−CD36細胞を同調させた後、G0/G1期、S期、およびG2/M期において分取された一倍体細胞のDNA含量の分布を示すヒストグラムを表示する。分離後、出口4から回収された細胞では、高度の細胞同調性が達成され、HeLa細胞のうちの84%、KKU−100細胞のうちの96%、およびCHO−CD36細胞のうちの86%が、G0/G1期に同調した。同時に、出口1から回収された細胞でも、G2/M期における2〜3倍の濃縮が達成された。
【表1】
【0084】
これらの結果は、他のマイクロ流体システムを用いて報告された結果(Kim,U.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007,104(52):20708ページ;Thevoz,P.ら,Analytical chemistry,2010,82:3094〜3098ページ;Choi,S.ら,Analytical chemistry,2009,81(5):1964〜1968ページ;Migita,Sら,Analytical Methods,2010,2:657〜660ページ)と同等である。しかし、本技法の高度な流動スループットは、報告されている他のマイクロフルイディクス法より顕著に高量である、1時間当たりの細胞約15×106個を画分化することが可能である。パッシブの分取原理はまた、>90%の細胞生存率も確保する。各種のマイクロ流体細胞周期同調システムの概要を表2に示す。
【表2】
【0085】
[初代培養物(ヒト間葉系幹細胞(hMSC))の同調]
次いで、デバイスが、初代細胞系(骨髄)由来のヒト間葉系幹細胞(hMSC)を同調させる能力について調べた。癌細胞系または形質転換細胞系と異なり、hMSCは、接触阻害に対する感受性が高い。1500cm−2および3000cm−2の密度で播種したhMSCの細胞内DNA含量を解析すると、培養の2日後において、S期およびG2/M期の細胞が実質的に少なくなる。したがって、S期の細胞集団およびG2/M期の細胞集団を濃縮するため、500cm−2のより低密度で細胞を播種し、2日間にわたり培養してから分取した。図11A〜11Cは、出口1〜4から回収された分取hMSCの光学顕微鏡写真および生存率の結果を示す。出口1から回収されたhMSCの平均細胞直径は、23.5±5.6μmであり、出口4から回収された細胞(約15.5±2.1μm)より顕著に大きかった。分離後、トリパンブルー除外アッセイおよび長時間にわたる再培養により、細胞の生存率を評価した。分取細胞の生存率は、対照の非分取MSCの生存率と同様であり、各出口から回収された細胞のうちの90%超が色素を含まなかったことから、いかなる物理的な損傷を与えずに細胞が分取されたことが示される(図11B)。培養の14日後、分取hMSCの形態が、非分取(対照)細胞の形態と類似していたことから、分取後においても細胞生存率が維持されていることがさらに裏付けられる(図11C)。
【0086】
DNAについてのヒストグラムにより示される通り、対照のMSC培養物では、細胞のうちの56.2%がG0/G1期にあり、24.3%がS期にあり、19.9%がG2/M期にあることが判明した(図12)。同調後、出口2から回収された細胞集団が、S期にある細胞集団およびG2/M期にある細胞集団を組み合わせて72.7%であったのに対し、出口4からの細胞のうちの86.1%は、G0/G1期に同調していた(表1)。これらの結果は、非同調試料の3:1のG0/G1期集団対G2/M期集団の比が、出口4で回収される試料では、16:1へと濃縮されていることを示す。同様に、出口1で回収された試料では、G2/M期集団の4倍の濃縮が得られる。
【0087】
hMSCがG0/G1期で同調していたことを実験的に裏付けるために、最小のhMSC集団(出口4)の同調性を、血清飢餓および接触阻害によりG0/G1期で停止させたhMSCと比較した。接触阻害による76.4%、および48時間にわたる血清飢餓による77.5%と比較して、デバイスの出口4から回収されたhMSCのうちの86.2%が、G0/G1期で同調していることが判明した。出口4から回収されるhMSCの対応する直径(15.5±2.1μm)は、血清飢餓細胞(16.9±4.2μm)および接触阻害細胞(23.3±3.8μm)よりサイズ分布が狭い。接触阻害は、DNA量が同様の細胞をもたらしたが、停止させた集団の細胞サイズは、元の培養物と同程度に均質性を欠いていた(21.9±3.5μm)ことが注目された。同調の成功についての主要な基準は、同調細胞集団におけるDNA含量が同様なことであるが、細胞のサイズ分布もまた、初期細胞と比較して、比較的均一なことである(Cooper,S.,Cellular and Molecular Life Sciences,2003,60(6):1099〜1106ページ)。接触阻害群の細胞直径が広範囲にばらついていることは、細胞が、同様のDNA量を伴って停止しただけであり、タンパク質および質量の合成をもたらす他の細胞過程が真に同調したわけではなかったことを示す。これに対し、培養物から血清を除去した場合は、G1期のDNA量を有するhMSCを同調させ、物質合成を停止させたが、細胞のサイズ範囲は、本発明者らのデバイスにより同調させた細胞と比較して、やはり比較的大きかった。したがって、血清飢餓細胞は、DNA量は比較的同様であったが、真に同調していたわけではなかった。また、血清飢餓させたhMSCの形状は、比較的多くの気泡を伴ってより不規則であったことから、血清飢餓に誘導されるストレス下においては、hMSCの正常な生理状態の破壊が示されることも注目された。
【0088】
デバイスにより同調させたhMSCが、同調分裂を経過するかどうかを、次に探索した。同調した細胞は、同様のサイズおよびDNA含量を有するだけでなく、比較的均一なコホートとして細胞周期を経過しうるということを基本的な仮定とする。この仮説を検証するため、G0/G1期における同調性を86%とする、出口4から回収したhMSCを再播種し、24、48、および72時間後にそれらのDNA含量を解析した(図13)。興味深いことに、培養の24時間後、S期およびG2/M期にある細胞の百分率が79.7%であったことから、G0/G1期の細胞の大半が、後続の相へと進行したことが示される(表3)。
【表3】
【0089】
哺乳動物細胞は、G1/S期に16〜24時間とどまり、G2/M期にとどまるのは約2〜3時間だけであることが典型的である(Kim,U.ら,「Selection of mammalian cells based on their cell−cycle phase using dielectrophoresis」,Proceedings of the National Academy of Sciences、2007、104(52):20708ページ)。したがって、培養の24時間後には、細胞の大半が、S期およびG2/M期にあることが見出されると予測される。しかし、細胞の同調性は、分裂間期における確率的変動の結果として、時間と共に減衰した。細胞増殖の接触阻害により、G0/G1期のhMSC集団が、培養の74時間後に69.4%へと増大した。アフィジコリン、ロスコビチン、およびコルヒチンなど、多くの化学的方法または「バッチ処理」が、細胞培養物を、その細胞培養物の特定の相で停止させるのに用いられているが、正常な細胞周期の進行は破壊されることが多い(Choi,S.ら,Analytical chemistry,2009,81(5):1964〜1968ページ)。例えば、Whitfieldらは、チミジン−ノコダゾール遮断を用いて、HeLa細胞をG2期で停止させた(Whitfield,M.L.ら,Molecular Biology of the Cell,2002,13(6):1977ページ)。停止手順を解除して12時間後、ただ1つの相または多くとも2つの相に由来する細胞ではなく、細胞周期のすべての相に由来する細胞が存在した。これに対し、本明細書における結果は、デバイスにより同調させたhMSCが示す細胞分裂は、比較的同調していることを示す。
【0090】
[結論]
本明細書では、哺乳動物細胞を、サイズに基づいて細胞周期の異なる段階へと画分化するのに、慣性力とディーン抗力との組合せ効果を用いる、螺旋状マイクロ流体デバイスの適用が裏付けられる。デバイスは、極めて高度な試料スループット(1時間当たりの細胞約15×106個)を可能とし、これにより、試料の処理時間を顕著に短縮する持続的作動を含め、他のマイクロ流体による分離法を上回る多くの顕著な利点をもたらす。パッシブの作動原理は、機能性のための外力の場または阻害性化学物質を組み込む必要を排し、これにより、分取細胞の完全性および生存率が保存される(>90%)。したがって、本明細書では、マイクロフルイディクスの使用により、生存率を顕著に上昇させながら、細胞周期を同調させるハイスループットがもたらされることが裏付けられる。哺乳動物細胞の懸濁液を直接分離し、同調させうるので、FACSおよびCCEなどの他の方法とは異なり、試料の調製ステップが不要であり、処理時間がさらに短縮され、処理費用がさらに削減される。細胞周期用のマイクロ流体デバイスの性質が、ハイスループットであり、かつ侵襲性を最小とするものであるとすれば、バイオテクノロジーに関する研究において様々に適用することができ、有用となりうるであろう。
【実施例3】
【0091】
[循環腫瘍細胞をハイスループットで単離するための、せん断変調型希少細胞抽出法によるバイオチップ]
[材料および方法]
[細胞の培養および試料の調製]
本研究では、2つのヒト乳腺癌腫細胞系であるMCF−7細胞およびMDA−MB−231細胞について調べた。1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen、USA)と併せて10%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen、USA)を補充した、低グルコースのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen、USA)中で、MCF−7細胞(HTB−22TM、ATCC、USA)およびMDA−MB−231細胞(HTB−26TM、ATCC、USA)を培養した。培養物を、5%(v/v)CO2を含有する加湿雰囲気中で37℃に維持した。細胞を、25cm2の滅菌フラスコ(Corning)内で培養し、毎週3回ずつ継代培養(1:4)し、48時間ごとに培地を置換した。コンフルエント未満の単層は、0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液(Lonza、Switzerland)により解離した。対照実験および回収実験のため、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)(Miltenyi Biotec、Germany)を補充した、1倍濃度のリン酸緩衝生理食塩液(PBS)、2mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含有する緩衝液中で癌細胞を希釈し、配管およびマイクロチャネル壁面への非特異的吸着を阻止した。3%w/vのデキストラン40(AppliChem Asia、Singapore)を補充することにより、細胞の沈殿を防止するように、緩衝液密度を増大させた(Hou,H.W.ら,Lab on a chip、2010、10(19):2605〜2613ページ)。RBC平衡化実験では、健常ドナーから得た全血液をスピンダウンして、RBCを分離した。最終的な試料濃度を、試料緩衝液により相応に、多様なヘマトクリット値(0.5%〜5%)に調整した。白血球対照実験では、製造元の指示書に従い、全血液を、RBC溶解緩衝液(eBioscience、USA)により処理して、純粋な白血球集団を得た。
【0092】
[マイクロチャネルの製作]
デバイスは、二重鋳型形成工程(Hou,H.W.ら,Lab on a chip,2010,10(19):2605〜2613ページ)を用いて、ポリジメチルシロキサンポリマー(PDMS、Sylgard 184、Dow Corning、USA)により製作した。まず、収縮−拡張マイクロチャネルはAZ(登録商標)P4620フォトレジストを用いて、シリコンウェハーにパターンを描いた。リソグラフ法に従い、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を用いてマイクロチャネルをシリコンにエッチングした。次に、フォトレジストを剥離し、パターンが描かれたシリコンウェハーを、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン(Sigma Aldrich、USA)で2時間にわたりシラン化して、PDMS鋳型のリリースを促進した。次いで、硬化剤と5:1(w/w)の比で混合したPDMSプレポリマーを、シリコンウェハーへと注入し、70℃で2時間にわたり硬化させた。より高比率の硬化剤を用いて、架橋形成の増大を促進し、これにより、容易に変形しがちである高アスペクト比の構造を製作するために、PDMS鋳型の硬さを増大させた。この硬化させたPDMS鋳型が、今度は、その後のPDMS鋳造のための原型(陰画の複製)として作用する。次いで、このPDMS母型を2時間にわたりシラン化し、その後の、パターン化されたマイクロチャネルを伴うPDMS鋳型のリリースを促進した。最後に、入口および出口のための小孔を開け、次いで、短時間にわたり、酸素プラズマ環境(Covance、Femto Science、South Korea)へと曝露することにより、PDMS鋳型を、顕微鏡用スライドガラスに不可逆的に接着させた。プラズマ処理の後、表面を互いと速やかに接触させ、70℃で3時間にわたり静置して、接着を完了させる。
【0093】
[デバイスの特徴づけ]
試験の間、シリンジポンプ(NE−1000、New Era Pump Systems Inc.,USA)を用いてレイノルズ数(Re)を変化させながら、マイクロ流体デバイス内に試料を送入した。マイクロチャネルを、ハイスピードCCDカメラ(FASTCAM 1024 PCI、Photron、USA)を装備した倒立型位相差顕微鏡(Olympus IX71)に取り付けた。次いで、チャネルの出口において収集されるハイスピードのビデオ画像を、ImageJ(登録商標)ソフトウェアを用いて解析した。
【0094】
[免疫蛍光染色およびFACS解析]
中央出口における試料および側方出口における試料に対してBD(商標)LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences、USA)を用いるフローサイトメトリー解析を実施することにより、回収効率、回収率および濃縮率を決定するために実施された実験からの結果を解析した。免疫蛍光染色により、目視観察および定量化のために、多様な細胞型を差別化することが可能となった。流出試料を、15分間にわたりFcRブロッキング試薬と共にインキュベートして(1:100;Miltenyi Biotec Asia Pacific、Singapore)、非特異的結合を遮断した後、40分間にわたり、アロフィコシアニン(APC)コンジュゲート内皮細胞接着分子(EpCAM)と共にインキュベートし(1:100;Miltenyi Biotec Asia Pacific、Singapore)、癌細胞を同定した。40分間にわたりイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)コンジュゲートCD45(1:100;Miltenyi Biotec Asia Pacific、Singapore)マーカーで染色することにより、末梢血白血球を同定した。
【0095】
[結果および考察]
RBCは、すべての血液細胞のうちの>99%を占めるので、有意義な濃縮を達成するには、RBCを完全に除去することが枢要である。マイクロチャネルのデザインおよび試験条件は、マイクロチャネルのアスペクト比、流速、および試料のヘマトクリット値を含めた各種のパラメータが、RBCフォーカシングおよび側方出口からの除去に対して及ぼす影響を調べることにより最適化した。
【0096】
[アスペクト比(AR)の影響]
図17Aおよび17Bは、マイクロチャネルのアスペクト比がRBCフォーカシングに対して及ぼす影響を示す。断面が矩形のマイクロチャネルでは、チャネル断面にわたるせん断変調を利用して、チャネルの長手に沿って、細胞を優先的に平衡化させることができる。高アスペクト比の別の利点は、より高流速で試料を処理し、これにより、スループットを増大させる能力である。アスペクト比の影響を調べるため、高さ20μm、50μm、75μm、100μm、および150μmのマイクロチャネルを製作し、それぞれ、1、2.5、3.75、5、および7.5のアスペクト比を得た。チャネルにわたるRBC分布を、アスペクト比の関数として示す合成画像およびラインスキャンを、図17Aおよび17Bに示す。
【0097】
正方形のマイクロチャネル(AR=1)の場合、Re=100および1%のヘマトクリット値とするとき、RBCは、チャネル断面にわたり、フォーカスの弱い細胞リングを形成する環状形で平衡化する(概略的に示す)。断面にわたり均一の流体せん断は、細胞を、それらの平衡位置において強くフォーカスさせるのに、より長いマイクロチャネル長を要求する。アスペクト比を2.5に増大させると、チャネル幅にわたる細胞の優先的移動、およびマイクロチャネルの高さに沿った平衡化が開始される。しかし、ラインスキャンは、すべてのRBCが、所与のチャネル長で平衡位置にフォーカスしたわけではないことを明確に示す。アスペクト比を3.75とするマイクロチャネルでは、このマイクロチャネルの高さで、すべてのRBCが平衡化する。これは、マイクロチャネルの中央部に沿った、顕著な無細胞領域の形成により明らかである。アスペクト比を5へとさらに増大させると、チャネルの側壁へとより近接する、2つの強くフォーカスされた細胞バンドの移動が引き起こされる。本発明者らがマイクロチャネルのアスペクト比を7.5へと増大させると、興味深い効果が認められる。この極めて高度なアスペクト比のチャネルでは、フォーカスしたRBCバンドが、内側バンドと外側バンドの2つに分割されることが観察される。この観察は、慣性移動に対するアスペクト比の影響について調べる、ごく近年の実験およびモデル化による研究(Bhagat,A.A.S、「Shear−modulated inertial migration」,2009,University of Cincinnati,Cincinnati;Gupta,Aら,47th AIAA Aerospace Sciences Meeting,2009,Orlando)と符合する。この挙動の原因となる正確な機構はいまだ不明であり、さらなる探索に値する。しかし、この影響は、分離適用には好ましくなく、したがって、本発明者らは、本研究を、アスペクト比を最大で5とするチャネルに限定する。
【0098】
[レイノルズ数(Re)の影響]
図18A〜18Cは、RBCフォーカシングに対するReの影響を示す。ハイスループットを得るには、血液試料を高流速で処理することが必要である。AR=5(h=100μm)のマイクロチャネルにおいて、ヘマトクリットを1%とする試料を用いて試験を行った。Reを10〜150の範囲とするときのRBCの平衡化について調べた。デバイスの故障を結果としてもたらす、マイクロチャネルにわたる高度の圧力降下のために、より高度の流速について調べることはできなかった。低度の流速(Re≦25)では、RBCに作用する慣性揚力が粘性抗力より弱く、このため、平衡化が観察されない。流速をRe=50以上に増大させると、RBCが抗力を凌駕し、チャネルの側壁へと優先的に移動し、2つの十分に明確な細胞バンド(上方または下方から撮像すると、2つの異なるピークとして観察される)を形成することが可能となる。また、Reを増大させると、RBCの平衡位置が、マイクロチャネル壁面により近接するように移動することも観察された(Chun,Bら,Physics of Fluids,2006,18:031704ページ)。
【0099】
フォーカシングの程度をReの関数として定量化するため、2つのパラメータ:無細胞領域幅、および細胞バンド幅を定義した(図18B)。無細胞領域幅は、RBCを完全に欠いた、マイクロチャネル中央部における、標準化されたマイクロチャネル幅である。無細胞領域幅は、2つの細胞占有領域間における距離の半値全幅(FWHM)を測定することにより、RBCの確率分布プロファイルから計算される。同様に、RBCにより占有される領域のFWHMを測定することにより、細胞バンド幅が計算される。図18Cは、無細胞領域幅および細胞バンド幅をReの関数としてプロットする図である。Reが増大するにつれ、大きな慣性揚力により、より強いRBCフォーカシングが誘導される。これは、細胞バンドの幅の減少により明らかである(図18C)。結果として、無細胞領域幅は、流速の増大に伴い増大する。Reが低値(<100)のときは、RBCフォーカシングがより強まる結果として細胞バンド幅が減少することから、マイクロチャネルの中央部における無細胞領域の増大が説明される。Re=100を超えると、細胞バンド幅は一定を維持するが、2つのRBCバンドが、チャネル側壁により近接するように移動することにより、無細胞領域の増大が説明される。RBCフォーカシングおよび側方出口における回収を最適とするには、Reの範囲を強いフォーカシング領域(≧100)において操作することが重要である(図18C)。
【0100】
[ヘマトクリット値の影響]
次に、RBCフォーカシングをそれほど弱めることなく、これらのマイクロチャネルにおいて処理しうる最高度の試料ヘマトクリット値を決定した。全血液の処理(約40%のヘマトクリット値)を伴う適用では、高ヘマトクリット値を伴う操作により、処理時間および解析時間を短縮することが望ましい。無細胞領域幅および細胞バンド幅のパラメータを用いて、最適の試験条件を決定した。AR=5のマイクロチャネルにおいて、Re=100で、ヘマトクリット値を0.5%〜5%の範囲として、実験を実施した。ヘマトクリット値の増大がRBCの平衡化に対して及ぼす影響を示す合成画像およびラインスキャンを、図19A〜19Cに示す。流入するヘマトクリット値が増大するにつれ、RBCバンド幅が直線的に増大し、結果として、中央の無細胞領域幅が減少した。容量画分(ヘマトクリット値)を増大させるときは、平衡化位置を占拠しようとするRBCが増大する結果として、著明な細胞間相互作用により誘導される分散がもたらされるので、この傾向が予測される。
【0101】
ヘマトクリット値を3%以上へと増大させたところ、興味深い影響が観察された。前出の、アスペクト比を7.5とするマイクロチャネルで認められた通り、ここでもまた、細胞バンドが、内側および外側の2つの顕著なバンドへと分割されることが観察された。これらの複数のバンドの形成は、前出の、高アスペクト比のマイクロチャネルでも観察された(Gupta,Aら,47th AIAA Aerospace Sciences Meeting,2009,Orlando)が、今回の観察は、この現象の誘発に対して果たす容量画分の役割を示す。ここでもまた、これらの内側バンドおよび外側バンドの形成は、中央部の無細胞領域幅を減殺するので、分離適用には好ましくない。この理由で、本研究は、試験前に全血液を20倍に希釈することを示唆する、ヘマトクリット値の最大値を2%とする試料に限定される。
【0102】
[絞込み幅がCTCの単離および回収に及ぼす影響]
デザイン原理の節で言及した通り、希少細胞を他の血液細胞から成功裏に単離するには、「絞込み」幅を用いる。希少細胞の直径と同等である(希少細胞の直径より小さいか、または希少細胞の直径のオーダーにある)ように、この絞込み領域に沿った収縮幅をデザインすることにより、希少細胞が収縮チャネルを縦断するときに、希少細胞の効果的な「押込み」が確保される。しがたって、これらのより大型細胞の慣性の中心が、拡張領域へと流過するときに、マイクロチャネルの中心軸に沿って整列することから、分離が達成される(Yamada,M.ら,Anal.Chem.2004,76(18):5465〜5471ページ)(図20)。裏付けとして、この技法を、CTCを単離するのに用いた。
【0103】
測定による平均直径を、それぞれ、18.1±1.8μmおよび18.2±2.8μmとする、2つのヒト乳腺癌腫細胞系であるMCF−7細胞およびMDA−MB−231細胞について調べた。CTCの平均サイズは、15μmを超える(Tan,Sら,Biomedical Microdevices,2009,11(4):883〜892ページ;Vona,G.ら,American Journal of Pathology,2000,156(1):57〜63ページ)ので、絞込み幅を10μm、12μm、および15μmとするマイクロチャネルをデザインして、側方出口におけるCTCの喪失が最小となることを確保した。図21Aおよび21Bは、チャネルのReを増大させるときに、絞込み幅が、MCF−7細胞の分離に対して及ぼす影響を示す。低値のRe=50では、3つの収縮幅すべてについて、約95%の腫瘍細胞が、中央出口で回収された。Reを増大させたところ、おそらくは、層流による高度なせん断応力下では、癌細胞の変形能が大きいために、回収効率の低下が結果としてもたらされた(Lincoln,B.ら,Cytometry Part A,2004,59(2):203〜209ページ;Hou,H.W.ら,Biomedical microdevices,2009,11(3):557〜564ページ)。高流速では、懸濁細胞と担体緩衝液との表面張力による不適合から、界面間応力が誘導され、CTC形状の歪みがもたらされた。粘弾性の細胞は、球形から伸長した長球へと変形する(Born,C.ら,Biotechnology and Bioengineering,1992,40(9):1004〜1010ページ)。CTCが伸長すると、それらの臨界寸法が、初期直径より小さくなるので、このために、CTCの有効な絞込みが回避される。重要であるが見過ごされることの多い因子である、高流速において圧力に誘導されるPDMSの変形が生じれば、これもまた、高流速における回収効率の低下の部分的な原因となりうるであろう。硬質プラスチック(PMMA、COC)などの代替的材料を考慮すれば、この問題を克服する可能性が高く、これにより、回収効率が増大するであろう。CTCは、極めて希少な細胞集団なので、本研究では、90%の回収効率カットオフを目標とした。RBCだけで実施した実験からの結果は、Re=100の流動が、これらを側方出口から除去するのに最適であることを示唆する。これらの結果に基づいて10μmのチャネル幅を、効率的なCTC回収に選択した。MDA−MB−231細胞についても、同様の結果が観察された。
【0104】
絞込み領域を通過する癌細胞は、無視できない変形を受けるので、癌細胞が受ける大きな応力および高度のせん断のために、癌細胞の完全性および生存率が懸念される。分離後、方法節で説明した手順を用いて、MCF−7細胞を再播種して培養物中に戻すことにより、細胞の生存率を調べ、細胞の増殖(proliferationおよびgrowth)を観察した。培養の4日後、単離MCF−7細胞の増殖速度は、対照細胞の増殖速度と同様であり、形態には認識可能な変化が見られなかった。結果は、開発された技法が、単離時において細胞に対して及ぼす影響は最小限であり、分取後における高い細胞生存率を維持することを裏付ける。
【0105】
その後の下流におけるCTC解析では、単離試料には末梢血白血球(PBL)が存在するために、夾雑を最小化することが重要である。PBLを除去するデバイスの効率を評価するため、RBC溶解により単離されたヒト白血球の純粋集団を、Reを変化させながらマイクロチャネル(絞込み幅=10μm)内に流した。ヒト白血球の平均直径は、直径10μmより小さい(Sethu,P.ら,Lab on a Chip,2006,6(1):83〜89ページ;Schmid−Schonbein,G.W.ら,Blood,1980,56(5):866ページ;Downey,G.Pら,Journal of Applied Physiology、1990、69(5):1767ページ)ので、細胞絞込み領域におけるPBLの流路は変化せずに維持され、このため、側方出口から濾出される(図21B)。図から明らかである通り、Re=50および75のときは、慣性による細胞フォーカシングが弱いために、PBLの画分が、中央出口においてなおも回収される。しかし、Re≧100では、すべての白血球が、チャネルの側壁に沿って平衡化し、中央出口では細胞が回収されなかった(回収効率は約0%)。
【0106】
デバイスの性能をさらに評価するため、濃度を変化させるMCF−7細胞を、PBS緩衝液中にスパイクし、バイオチップの中央出口から回収した。FACSを用いて入口の試料および中央出口の試料を解析し、回収率を確認した。試験中にCTCが失われれば、潜在的な誤診をもたらしうるであろう。結果は、CTCの単離効率と符合する90%の回収率を示したことから、試料を回収および解析するときに失われる細胞は無視しうる程度であることが示唆される。おそらく、絞込み領域に沿って細胞間の相互作用が増大するために、より高濃度(1mL当たりの細胞104個)では、CTC回収率の低下(約85%への低下)が観察された。
【0107】
[血液中におけるCTCの濃縮]
デバイスの寸法および作動条件を特徴づけた後で、最適なパラメータを用いて、全血液中にスパイクしたMCF−7細胞をデバイスにより解析した。MCF−7細胞(1mL当たりの細胞500個)をスパイクした血液試料を、約1.5〜2%のヘマトクリット値まで希釈し、Re=100で、アスペクト比=5のマイクロチャネルを介して送入した。細胞絞込み領域の幅は、10μmに固定した。FACSおよび血球計を用いて、蛍光マーカーで標識した流出試料を解析し、分離による濃縮率を計算した。結果を表4に示すが、これにより、SMARTデバイス(1段目)内の単回通過により、RBCについては約300倍の濃縮率、およびPBLについては約850倍の濃縮率が示され、CTC回収率は約85%である。
【表4】
【0108】
これらの濃縮率は、大半の細胞分離適用について相当な程度であるが、血液細胞を伴う分離は、理想的には、107〜108倍の濃縮を必要とする(Lara,O.ら,Experimental hematology,2004,32(10):891〜904ページ)。絞込み領域において大型のCTCが存在するために、そのすぐの近傍では流動場が撹乱されたので、この研究における濃縮率は限定的なものであった。結果として、少量のRBCおよびPBLが中央出口で回収された。これは、CTCの到達が、フォーカスしない血液細胞のバーストを常に伴う、出口において収集されたハイスピードのビデオ画像から明らかである。したがって、CTCを検出するためにより高度で有意義な濃縮率を達成するために、デバイスの中央出口から回収された試料を、デバイスにより再度処理し、夾雑する血液細胞を完全に除去した(2段目)。1段目からの出口配管を、カスケード状の構成で別のデバイスに接続することにより、これを実装した。2段目を付加することにより、MCF−7の濃縮率は、RBCについて3.25×105(5.5 log10)倍、およびPBLについて約1.2×104(4.1 log10)倍へと顕著に増大し、全CTC回収率の低下は最小(約81%への低下)である。これは、血液1mL当たりのRBC約15,000個および血液1mL当たりのPBL850個未満に変換される(全血液1mL中のRBCを50億個とし、全血液1mL中のPBLを1000万個とする)。
【0109】
デバイスの濃縮性能は、他の一般的なCTC分取法と同等である(Nagrath,S.ら,Nature,2007,450(7173):1235〜1239ページ;Tan,Sら,Biomedical Microdevices,2009,11(4):883〜892ページ;Mohamed,H.ら,Journal of Chromatography A,2009、1216(47):8289〜8295ページ;Vona,G.ら,American Journal of Pathology、2000、156(1):57〜63ページ;Zheng,S.ら,Journal of Chromatography A,2007,1162(2):154〜161ページ;Zabaglo,L.ら,Cytometry Part A,2003,55(2):102〜108ページ;Lara,O.ら,Experimental hematology、2004、32(10):891〜904ページ)。例えば、Zabagloらにより用いられているポリカーボネート膜による濾過法は、CTC回収率を>90%とし、0.1%PBLを伴うことについて報告している(Zabaglo,L.ら,Cytometry Part A,2003,55(2):102〜108ページ)。Vonaらにより報告されているISET法は、回収率を約80%とし、血液1mL当たりのPBLをわずかに20個とする、優れたCTC濃縮率について報告している(Vona,G.ら,American Journal of Pathology、2000、156(1):57〜63ページ)。Laraらは、赤血球溶解を、免疫磁性によるPBLの枯渇と組み合わせる、2ステップの陰性選択法を用いて、5.17 log10倍のCTC濃縮率を報告した(Lara,O.ら,Experimental hematology,2004,32(10):891〜904ページ)。RBCは、溶解により100%が効率的に枯渇したのに対し、単離試料は、約0.3%のPBLに由来するDNAにより依然として汚染されているので、濃縮の倍数はデバイスと同等である。デバイスの性能はまた、104〜106倍の濃縮を得ることが可能な免疫媒介CTC分離法(免疫磁性CTC分離法、免疫蛍光CTC分離法、および免疫結合CTC分離法を含めた)(Nagrath,S.ら,Nature,2007,450(7173):1235〜1239ページ;Paterlini−Brechot,P.およびN.L.Benali,Cancer letters,2007,253(2):180〜204ページ)とも同等である。
【0110】
RBCから白血球を成功裏に濃縮することにより、血液から他の低量の細胞を単離するためのデバイスの多用途性が裏付けられた。これは、細胞絞込み領域における収縮幅を8μmへと変化させ、これにより、中央出口においてより大型のPBLの回収を可能とすることだけによって達成された(Sethu,P., A. Sin,ら,Lab on a Chip,2006,6(1):83〜89ページ;Schmid−Schonbein,G.W.ら,Blood、1980、56(5):866ページ;Downey,G.Pら,Journal of Applied Physiology、1990、69(5):1767ページ)。側方出口を介してすべてのRBCを効率的に除去することにより、デバイスは、中央出口において、100倍の白血球の濃縮率を達成し、約60%のPBL回収率をもたらした。
【0111】
オンチップで血液解析を行い、血液から希少細胞を単離するには、短時間でミリリットル単位の臨床血液試料を処理するハイスループットが重要である。400μl/分の流速(Re=100)で、ヘマトクリット値を2%とする試料を調べることにより、このデバイスは、単体のデバイスを用いて、1分間当たりの細胞約108個を処理することが可能である。これは、1mLの全血液に対する約50分間の処理時間へと転換される。わずか4つの並列チャネルをデザインすると、解析時間を、事実上、血液1mL当たり15分間未満にまで短縮することができ、他の一般的なCTC検出法より顕著に高速となる。マイクロ流体素子による免疫結合法は、CTCと抗体でコーティングした表面との最大の相互作用を可能とし、分離時におけるCTCの解離を阻止する、低流速による処理に限定されることが典型的である(Nagrath,S.ら,Nature,2007,450(7173):1235〜1239ページ;Gleghorn,J.P.ら,Lab on a Chip、2010、10(1):27〜29ページ)。CTCの物理的捕捉と関連する、一般的なマイクロ流体濾過法はまた、トラップまたは小孔により変形することなく、CTCの捕捉の維持を確保するためにも、低流速に限定されている(Adams,A.A.ら,Journal of the American Chemical Society,2008,130(27):8633〜8641ページ;Tan,Sら,Biomedical Microdevices,2009.11(4):883〜892ページ)。さらに、いかなる捕捉されたCTCの物理的な存在も、捕捉領域内の流動パターンを変化させるので、CTCカウントがより大きくなると、捕捉効率が低下する。解析のための複雑な回収手順と共に、血液処理後に必要とされるさらなる洗浄ステップは、全処理時間をさらに延長する。デバイスは、遺伝子解析、薬物スクリーニング、および分子標的癌治療など、下流における分子アッセイのためにCTCの回収を可能とする、持続的な分取能および回収能をもたらす。単離細胞は、終点調査を行うのではなく、リアルタイムで計数および解析することもできる。
【0112】
[結論
血液から生存希少細胞を単離する、ハイスループットで高感度な技法について説明した。血液から低量の細胞をサイズベースで単離するデバイスでは、せん断変調性の慣性による細胞フォーカシングを用いた。開発したデバイスの適用として、高度な効率(約80%)およびスループット(約400μL/分)を伴う、末梢血からのCTCの分離が裏付けられた。デバイスは、2段式のカスケード型配置を用いて、赤血球(RBC)については3.25×105倍の濃縮率、およびPBLについては1.2×104倍の濃縮率をもたらす。試料の希釈は必要とされるが、単純なチャネルデザインは、数分間以内に、ミリリットル単位の臨床血液試料を解析する能力を伴う簡易な並列化を可能とする。デバイスの下流にチップベースの検出を組み込むことにより、臨床癌診断のための強力なツールがもたらされる。最後に、絞込み幅を特定の適用にカスタマイズすることにより、胎児細胞および幹細胞を含め、血液から他の希少細胞を濃縮するのにチップを容易に用いることができる。
【0113】
本明細書で引用されるすべての特許、出願公開、および参考文献による関連する教示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0114】
その例示的な実施形態に言及しながら、本発明を具体的に示し、説明してきたが、付属の特許請求の範囲により包含される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明において多様な形態および詳細の変化を行いうることが、当業者により理解されるであろう。
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2010年3月4日に出願された、米国特許仮出願第61/310,387号、および2010年9月17日に出願された、米国特許仮出願第61/383,881号の利益を主張するものである。上記出願による開示の全体は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
[発明の分野]
細胞を分離するためのマクロスケールの対流法には、細胞のサイズ、変形能、および密度の相違を利用して標的細胞を濾別する、膜ベースのフィルターを用いる物理的濾過および密度勾配による遠心分離が含まれる。これらの技法は労働集約的であり、多段階の試料調製を必要とし、これにより、アーチファクトが導入される場合もあり、または所望の細胞が失われる場合もある。膜濾過法はまた、容易に閉塞を起こしやすく、頻繁な洗浄を必要ともする。さらにまた、濾過法および遠心分離法にかけられた標的細胞の元の表現型が、機械的な応力に誘導されて変化する証拠も報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、後続の解析のために、細胞の喪失を最小化し、元の標的細胞の表現型を維持することができる、血液試料を処理するためのより簡易でより効率的な技法を開発する必要が明らかに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
マイクロフルイディクスは、主に、その長さのスケールが小さく、これにより、血液分離時における細胞内微小環境をより良好に制御することが可能となるため、血液試料を処理するのに特に好適である。RBCの変形能の研究、血小板および血漿の分離、白血球の分離、ならびに血液に由来するCTC(循環腫瘍細胞)または胎児細胞などの希少細胞の単離など、異なる適用のためのオンチップの血液解析が、複数のグループにより示されている。しかし、これらのマイクロ流体システムにおける主要な限界は、試料が希釈されるため、または流速が遅いために、処理のスループットが低度なことであり、このために、これらのマイクロ流体システムは、通常容量がミリリットル単位である臨床血液試料を処理するのに不適となっている。本明細書では、これらの問題を克服するマイクロ流体デバイスについて説明する。
【0005】
したがって、本発明は一般に、試料における(1または複数の)細胞を検出する方法を対象とする。具体的な態様では、本発明が、血液試料(例えば、全血液)における1または複数の疾患血液細胞を検出する方法を対象とする。この方法は、血液試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、非疾患血液細胞と比較して疾患血液細胞の変形能が低下していることに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って疾患血液細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、存在する場合は、疾患血液細胞が、チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、非疾患血液細胞が、チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動し、これにより、試料における1または複数の疾患血液細胞を検出する。
【0006】
別の態様では、本発明が、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法を対象とし、この方法は、試料を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、存在する場合は、循環腫瘍細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの別の部分に沿って第2の出口へと流動し、これにより、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する。
【0007】
さらに別の態様では、本発明が、非同調細胞の混合物(例えば、懸濁液)から1または複数の同調細胞を単離する方法を対象とする。この方法は、非同調細胞の混合物を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入し、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って同調細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、より大型の同調細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、より小型の同調細胞が、チャネルの他の部分に沿って少なくとも1つの他の出口へと流動し、これにより、非同調細胞の混合物から1または複数の同調細胞を単離するステップを含む。
【0008】
なお別の態様では、本発明が、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞(CTC)を検出する方法を対象とする。この方法は、試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、存在する場合は、循環腫瘍細胞が、チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動し、これにより、個体の試料における1または複数のCTCを検出する。
【0009】
本発明は、試料を化学的に修飾することなく、臨床試料のより迅速な処理を可能とし、これにより、処理時間を短縮し、処理費用を削減する、比較的高流速での持続的作動、ならびに後続の生物学的アッセイのための生細胞の回収を含めた多くの利点を有する。
【0010】
同じ参照符号が異なる図面を通して同じ部分を指す付属の図面において示される通り、前出は、本発明の例示的実施形態についての以下のより具体的な説明から明らかであろう。図面は、必ずしも原寸大ではなく、代わりに、本発明の実施形態の例示に力点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のマイクロチャネルのデザインおよび分離の原理を示す概略図である。1A:デバイスの寸法を示すマイクロ流体のデザインの一例を示す概略図である。このデバイスでは、マイクロチャネルが、入口では幅100μmのセグメントを含み、これが、15μmまで狭窄する。出口では、マイクロチャネルが、1:2:1の比に分割された3つの出口の分枝を伴う、目視観察を改善するための幅100μmの区分へと開口した。マイクロチャネルの高さは、10μmに固定した。1B:分離の原理を例示する、マイクロチャネルの断面概略図および上面概略図である。流動が出口に到達し、3つの出口系を用いて濾出されると、マイクロチャネルの入口では無作為に分布させた感染赤血球(infected red blood cells:iRBC)が、チャネルの側壁へと辺縁趨向する。
【図2】2(A):ヘマトクリット値を1%とする試料、2(B):ヘマトクリット値を10%とする試料、および2C:ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、マイクロチャネル出口における、標準化された3μmビーズの分布を示すヒストグラムである。
【図3】3A:5μL/分の流速で、試料のヘマトクリット値を変化させるときの、側方出口における3μmビーズの濾過効率についてのグラフ、および3B:ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、側方出口における3μmビーズの濾過効率についてのグラフである。また、図では、出口におけるチャネル断面にわたるビーズの分布を示す蛍光画像も示される(白色の点線は、おおよそのチャネル壁面の境界を示す)。
【図4】4A:ヘマトクリット値を10%とする試料、および4(B):ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、マイクロチャネル出口における、標準化されたiRBCの分布を示すヒストグラムである。3μmのビーズによる結果とは対照的に、10%のヘマトクリット値では、iRBCの辺縁趨向が観察されない。40%のヘマトクリット値では、すべての流速条件で、約80%のiRBCが、側壁へと辺縁趨向する。
【図5】ヘマトクリット値を40%とする試料において、流速を変化させるときの、側方出口における後期栄養体期/分裂体期iRBCの濾過効率についてのグラフである。また、図では、出口におけるチャネル断面にわたるDAPI染色されたiRBCの分布を示す蛍光画像も示される(白色の点線は、おおよそのチャネル壁面の境界を示す)。
【図6】3つの出口で回収されるiRBCおよび正常RBCの濃度を示すフローサイトメトリー(FACS)データのグラフである。プロットは、6A:後期栄養体期/分裂体期iRBC試料、および6B:環状期iRBC試料について、3つの出口にわたるiRBCの分布を示すカウント結果を例示する。結果は、後期栄養体期/分裂体期iRBCについて>90%の濾過効率、および早期環状期iRBCについて約75%の濾過効率を示す。
【図7】PDMSで製作された、単一の入口および8つの均等に分割された出口(1〜8と表示する)を伴う、CTCを単離するために製作された螺旋状マイクロチャネルの写真である(目視観察のため、マイクロチャネルには染料を満たす)。図7Aにはまた、螺旋状マイクロチャネルの出口区分を例示する顕微鏡画像も示される。
【図8】CTCを単離するための螺旋状分取装置の概略図である。入口では、血液細胞(RBC、白血球、およびCTC)が、マイクロチャネル断面にわたり無作為に分布している。慣性揚力およびディーン渦の影響下において、これらの細胞は、それらのサイズに基づいて断面内の異なる位置において平衡化し、より大型のCTCが、マイクロチャネル内壁に最も近接して平衡化する。次いで、8つの均等な間隔を置いた出口を用いて個々の細胞流を抽出し、分離を達成する。
【図9】図9A:細胞周期を同調させるために開発した螺旋状マイクロ流体デザインの概略図(慣性揚力およびディーン抗力の影響下において、非同調細胞集団をサイズにより画分化して、G0/G1期、S期、およびG2/M期の比較的純粋な細胞集団を得る。G2/M期の細胞が、大型サイズのために、マイクロチャネルの内壁に最も近接して平衡化した後、S期およびG0/G1期の細胞が平衡化する;挿入図は、PDMSで製作した、1つの入口および8つの出口を伴う螺旋状マイクロチャネルの写真である)および9B:蛍光標識したポリスチレン粒子を用いるデザイン原理の検証を示す図(2.5ml/分の流速で、高さ140μmのマイクロチャネルの入口、出口前における幅500μmのチャネル区分、および分枝状出口における直径10μm、15μm、および25μmの粒子の分布および位置を示す重ね合せ画像である。入口において無作為に分布させた粒子が、秩序立ったフォーカス流を形成し、次いで、これが、出口1、2、および3において個別に回収される。)である。
【図10】永久細胞系(10A=HeLa細胞、10B=KKU−100細胞、10C=CHO−CD36細胞)による細胞周期解析の結果を示すグラフである。ヒストグラムは、同調後のG0/G1期、S期、およびG2/M期において分取された一倍体細胞のDNA含量の分布を示す。G2/M期の細胞のDNA量は、G0/G1期の細胞の2倍であり、したがって、蛍光強度を倍増させる。出口1から回収されたより大型細胞が、G2/M期集団の比率の増大を示すのに対し、出口4から回収された小型細胞は、G0/G1期集団の著明な濃縮を示す。プロットにはまた、同調細胞のサイズ分布も示す。
【図11】出口1、2、3、および4から回収されたサイズ分取hMSC細胞の光学顕微鏡写真である。11Aは、出口1で回収された細胞の平均直径が、出口4で回収された約15μmと比較して、約24μmであることを示す(p<0.001)。11Bは、回収された細胞のトリパンブルー染色された顕微鏡写真を示し、分取後におけるhMSCの生存率を示す(矢印は、非生存細胞を示す)。結果は、これらのマイクロチャネルにおける細胞が受ける高度のせん断が、これらの細胞の生存率を損なわず、>90%の生存率を達成していることを示す。11Cは、再播種細胞の光学顕微鏡写真であり、出口から回収された細胞の増殖速度間における著明な差違を示さず、高い生存率および無菌性を示す(バー=50μm)。
【図12】同調後のG0/G1期、S期、およびG2/M期において分取されたhMSCのDNA含量の分布を示すヒストグラムである。プロットにはまた、同調細胞のサイズ分布も示す(p<0.05)。
【図13】増大させる異なる時間間隔において、出口4から回収された分取hMSCのDNA含量の分布を示すヒストグラムである。出口4におけるhMSC(24時間目に82.3%)のすべてが、1日目にS期およびG2/M期へと移行する(79.7%)ので、hMSCは、同調細胞分裂を裏付ける。接触阻害のために、2日目以降、G0/G1期にある細胞の百分率が増大する。分裂間期では、確率的変動のために、同調性が時間と共に減衰する。
【図14】開発された超ハイスループットCTC単離チップの概略図であり、作動原理を示す図である。全血液をデバイスの内側の入口を介して送入する一方、シース液は外側の入口から通入する。チャネルが曲線形状であるため、ディーン抗力の影響下では、より小型の血液細胞(RBCおよびWBC)が、2つの反転渦に従い、チャネルの外壁へと移動する(断面図)。それらのより大型サイズのため、CTCは、それらをマイクロチャネルの内壁に沿って平衡化させる強い慣性揚力を受け、これにより、分離が達成される。
【図15】螺旋状マイクロチャネルの出口におけるRBC、白血球、およびCTCの側面方向の位置を示す平均合成画像(15A)およびラインスキャン(15B)である。画像は、血液細胞(RBCおよび白血球)が、ディーン抗力の影響下でチャネルの外側半分へと転置されるのに対し、より大型のCTCは、慣性揚力の影響下でチャネルの内壁により近接してフォーカスすることを示す。
【図16】血液から希少細胞を単離するためのマイクロ流体デバイスの概略図である。マイクロチャネルのデザインは、収縮−拡張アレイによりパターン化された、高アスペクト比の矩形マイクロチャネルからなる。細胞フォーカシング領域では、せん断変調性慣性揚力の影響下で、すべての細胞が、チャネルの側壁に沿って効率的に平衡化する。希少細胞絞込み領域を流動するとき、より大型細胞の質量中心が、チャネル中央に沿って整列するのに対し、より小型の血液細胞は、チャネルの側壁に沿ったフォーカシングを維持する。分枝状出口をデザインすることにより、中央出口においてより大型の希少細胞の回収が可能となる一方で、残りの血液細胞は、側方出口から除去される。
【図17】マイクロチャネルのアスペクト比(AR)が赤血球フォーカシングに対して及ぼす影響を示す図である。17A:アスペクト比を増大させたときのRBCの平衡化を示す、平均合成画像である。注入される血液試料は、ヘマトクリット値を1%で固定し、Re=100で送入した。マイクロチャネルは、入口における幅200μmのセグメントで始まり、分離を増強するための分枝部分の直前の出口で、幅300μmの区分へと開口する。併載される概略図は、出口におけるマイクロチャネル断面内のRBCのおおよその位置を示す(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。17B:出口において測定した、マイクロチャネル幅にわたるRBCの確率分布を表すラインスキャンである。プロットではまた、側方出口の位置を示す出口における分布も示される。
【図18】流速(Re)が赤血球フォーカシングに対して及ぼす影響を示す図である。18A:流速を増大させたときのRBCの平衡化を示す、平均合成画像である。注入される血液試料は、ヘマトクリット値を1%で固定し、AR=5とするマイクロチャネルを介して送入した(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。18B:出口において測定した、マイクロチャネル幅にわたるRBCの確率分布を表すラインスキャンである。18C:レイノルズ数(Re)を増大させたときの、チャネル中央部における無細胞領域幅、および細胞バンドの厚さを示す実験結果の図である。
【図19】ヘマトクリット値が赤血球フォーカシングに対して及ぼす影響を示す図である。19A:ヘマトクリット値を増大させたときのRBCの平衡化を示す、平均合成画像である。注入される血液試料は、AR=5とするマイクロチャネルを介して、Re=100で送入した(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。19B:出口において測定した、マイクロチャネル幅にわたるRBCの確率分布を表すラインスキャンである。19C:ヘマトクリット値を増大させたときの、チャネル中央部における無細胞領域幅、および細胞バンドの厚さを示す実験結果の図である。
【図20】開発したマイクロ流体デバイスの希少細胞を単離する原理を示す経時画像を例示する図である。細胞フォーカシング領域では、せん断変調性慣性力の影響下において、CTC(黄色の丸でマークされたMCF−7細胞)が、マイクロチャネルの側壁に沿って平衡化する。CTCは、マイクロチャネル中央部のいずれかの側への駆逐を維持するので、チャネルの拡張領域ではこれが明らかとなる(白色の点線は、おおよそのチャネル中央部を示す)。絞込み区分を通過するとき、CTCの慣性の中心は、マイクロチャネル幅の中心と共に整列する。拡張領域では、CTCが、引き続き流動の流線に追従し、マイクロチャネル幅の中心に沿った整列を維持する。
【図21】細胞絞込み領域におけるチャネル幅がCTC分離効率に対して及ぼす影響を示す図である。21A:「絞込み」幅を変化させながら、マイクロチャネルにおける流速を増大させたときの、中央出口におけるMCF−7細胞の単離を示す、平均合成画像である(点線は、チャネル壁のおおよその位置を示す)。21B:Reを増大させたときの、中央出口において回収されたMCF−7細胞および末梢血白血球の画分を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の例示的な実施形態についての説明を以下に示す。
【0013】
本発明は一般に、マイクロ流体デバイスと、2つ以上の(複数の)細胞型(例えば、細胞のコレクションまたは細胞の混合物)を含む試料から、1または複数の特定の細胞型(例えば、検出および/または単離される1または複数の標的細胞)を検出および/または単離するための、このようなデバイスの使用とを対象とする。マイクロ流体デバイスは、試料を導入するための1または複数の入口と、試料がその中を流動する1または複数のチャネルと、1または複数の出口であるが、典型的には少なくとも2つの出口とを含み、試料において検出される細胞および/もしくは単離される細胞は、出口のうちの1つ(例えば、第1の出口)を流動し、試料中の残りの細胞は、単離される細胞と同じ出口を流動せず、かつ/または別の(異なる)出口(例えば、第2の出口)を流動する。1または複数のチャネルの各々は、チャネルの断面の少なくとも一部に沿って1または複数の標的細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを有し、1または複数の標的細胞が、各チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、残りの細胞が、各チャネルの第2の部分に沿って流動し、1または複数の標的細胞と同じ出口を介して流動せず、かつ/または1もしくは複数の出口(異なる出口、例えば、第2の出口、第3の出口、第4の出口、第5の出口、第6の出口、第7の出口、第8の出口など)を介して流動する。
【0014】
本明細書で説明される場合、マイクロ流体デバイスは、試料をデバイスに導入するための1または複数の(少なくとも1つの)入口を有しうる。例えば、デバイスは、1つの入口、2つの入口、3つの入口、4つの入口、5つの入口、6つの入口、7つの入口、8つの入口、9つの入口、10の入口などを有しうる。
【0015】
当業者に知られている各種の技法を用いて、試料をデバイスに導入することができる。例えば、シリンジおよび/またはポンプを用いて試料を導入することができる。
【0016】
同様に、マイクロ流体デバイスは、1または複数の出口も有しうる。一部の態様では、デバイスが、1つの出口、2つの出口、3つの出口、4つの出口、5つの出口、6つの出口、7つの出口、8つの出口、9つの出口、10の出口などを有しうる。具体的な態様では、デバイスが、少なくとも2つの出口を有する。別の態様では、デバイスが3つの出口を有する。さらに別の態様では、デバイスが4つの出口を有する。なお別の態様では、デバイスが8つの出口を有する。
【0017】
デバイスはまた、1または複数の入口を、1または複数の出口へと接続する、1または複数のチャネル(例えば、並列チャネル、例えば、1つの並列チャネル、2つの並列チャネル、3つの並列チャネル、4つの並列チャネル、5つの並列チャネル、6つの並列チャネル、7つの並列チャネル、8つの並列チャネル、9つの並列チャネル、10の並列チャネルなど)も含む。1または複数のチャネルは、試料における1または複数の標的細胞を、残りの細胞から分離することを可能とするアスペクト比を規定する高さおよび幅の断面を含む。本明細書で用いられる場合、アスペクト比とは、チャネルの高さをその幅で除した比であり、標的細胞が、チャネルの断面の少なくとも一部に沿って第1の出口へと流動し、残りの細胞が、チャネルの断面の異なる部分(例えば、第2の部分、第3の部分、第4の部分など)に沿って、および異なる出口(例えば、第2の出口、第3の出口、第4の出口など)など、標的細胞と同じでない出口へと流動することを可能とするのに適切なチャネルの断面をもたらす。適切なアスペクト比は、試料における残りの細胞の同じであるかまたは類似の構造的特徴と比較して、試料における標的細胞の構造的特徴が異なることに基づいて標的細胞を、チャネルの異なる部分に沿って流動させる。このような構造的特徴の例には、細胞のサイズ、硬さ、変形能、接着性(例えば、細胞接着性)などが含まれる。例えば、本明細書で示される通り、1、2.5、3.75、5、または7のアスペクト比を用いることができる。
【0018】
当業者により理解される通り、チャネルは、多様な形状でありうる。一部の態様では、チャネルが線状であり得る。線状チャネルの高さは、約20μm、約50μm、約75μm、約100μm、および約150μmなど、約10μm〜約200μmの範囲にありうる。線状チャネルの幅は、約12μm、約15μm、および約20μmなど、約10μm〜約50μmの範囲にありうる。線状チャネルの長さは、約3cmなど、約1cm〜約5cmの範囲にありうる。
【0019】
他の態様では、チャネルが湾曲している。具体的な態様では、チャネルが螺旋状である。螺旋状チャネルの高さは、約100μmおよび約140μmなど、約10μm〜約200μmの範囲にありうる。螺旋状チャネルの幅は、約100μm〜約500μmの範囲にありうる。螺旋状チャネルの長さは、約1cm〜約10cmの範囲にありうる。
【0020】
試料は、マイクロ流体デバイス内を多様な流速で流動することが可能であり、例えば、生理学的な流速(例えば、細動脈における生理学的な流速)で流動することも可能であり、または非生理学的な流速で流動することも可能である。例示的な流速には、1分間当たりの細胞約2000万個が含まれるか、または例示的な流速が、約2.5mL/分〜約5μL/分の範囲にある。
【0021】
本明細書で説明されるマイクロ流体デバイスは、1または複数の標的細胞を、細胞試料から検出、分離、および/または単離するのに用いることができる。細胞試料は、例えば、血液(例えば、全血液)、血漿、腹水、リンパ、脊髄液、尿、組織などの生物学的試料でありうる。試料はまた、細胞培養試料でもありうる。具体的な態様では、試料が、血液試料(例えば、全血液試料)である。血液試料は、低ヘマトクリット値(例えば、約1〜10%)の場合もあり、または高ヘマトクリット値(例えば、約20〜50%)の場合もある。
【0022】
血液とは、血漿における細胞の複合懸濁物(血液容量の約40〜45%)であり、細胞への酸素および栄養分の輸送、細胞内の老廃生成物の除去、および免疫的防御の備給を含め、複数の重要な役割を果たす。赤血球(RBC)は、全血液細胞成分のうちの>99%を占め(全血液1ミリリットル当たり約5×109個のRBC)、残りの<1%は、末梢血白血球(PBL)および血小板からなる。その複合的性格のために、マイクロ流体バイオチップを用いて血液を解析することは、困難な課題となっている。RBCおよび白血球に加えて、患者の末梢血においては、胎児有核赤血球、循環腫瘍細胞(CTC)、幹細胞、および白血病性細胞など、他の低量細胞もまた見出され、これらは、患者のモニタリング、疾患の診断、治療的処置のモニタリング、および科学的な基礎研究の実施など、多様な生物医学的適用に用いることができる。しかし、これらの細胞は、極めて希少であるため、解析の前にこれらの細胞を血液から効率的に単離するには、濃縮ステップまたは分離ステップが、ほとんど常に必要である。
【0023】
したがって、本明細書で説明される1または複数のマイクロ流体デバイス(例えば、マイクロ流体デバイスの、例えば、並列または直列のカスケード)は、多様な目的に用いることができ、一態様では、多様な標的細胞を検出、分離、および/または単離するのに用いることができる。多様な標的細胞を検出することができる。例には、疾患細胞(例えば、マラリア感染赤血球、白血病性赤血球、鎌状赤血球貧血性赤血球、またはこれらの組合せなどの疾患血液細胞、非同調細胞の混合物中における同調細胞、および循環腫瘍細胞(CTC))が含まれる。
【0024】
一態様では、デバイスを、血液試料において1または複数の疾患血液細胞を検出する方法において用いる。この方法は、血液試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、非疾患血液細胞と比較して、疾患血液細胞の変形能が低下していることに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って疾患血液細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅からなる断面とを各チャネルが有し、疾患血液細胞が、各チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、非疾患血液細胞が、各チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する。本明細書で用いられる場合、疾患細胞とは、非疾患(例えば、健常)細胞と比較して、1または複数の側面において、構造的に異なっている。例えば、疾患細胞は、サイズ、硬さ、変形能、接着性、またはこれらの組合せが、非疾患細胞とは異なりうる。例えば、疾患細胞は、マラリア感染赤血球、鎌状赤血球貧血性赤血球、白血病性赤血球、またはこれらの組合せでありうる。一態様では、疾患細胞が、早期(例えば、環状期)マラリア感染赤血球の場合もあり、または後期(例えば、栄養体期または分裂体期)マラリア感染赤血球の場合もある。血液試料は、約5μL/分の流速で導入することができる。一態様では、環状期マラリア感染赤血球を、約75%〜約85%の範囲の効率で分離することができる。別の態様では、後期マラリア感染赤血球を、約90%の効率で分離することができる。方法は、疾患細胞を第1の出口から回収するステップをさらに含みうる。一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約1〜約2の範囲にありうる。特定の実施形態では、マイクロ流体デバイスが、目視観察を改善するための拡張領域をさらに含みうる。一部の実施形態では、第2の出口の幅が、第1の出口の幅より約2〜約10倍の範囲で広い場合がある。特定の実施形態では、チャネルの幅が、約15μmでありうる。一部の実施形態では、チャネルの高さが、約10μmでありうる。
【0025】
上記で論じた通り、具体的な態様では、疾患細胞が、マラリア感染赤血球である。マラリアは、世界の人口のうちの半分(33億人)に危険性があり、毎年100万〜200万人が死亡すると推定されている、最も重度の寄生虫性疾患のうちの1つである。これらの罹患諸国では、貧困国における医療資源の欠如が、マラリアと戦うための大きな経済的負担を課すことにより、状況をさらに悪化させている。ヒトマラリア種の4つの型のうちでは、Plasmodium(P.)falciparumが、最も致死性である。感染すると、P.falciparum感染赤血球(iRBC)は、48時間にわたる赤内期における多様な感染進行段階(環状期、栄養体期、および分裂体期)を経る。この時期において、マラリア原虫は、宿主RBCを持続的にリモデリングし、iRBC膜をより接着性とする特定の原虫性タンパク質を移出し、これにより、マラリア原虫が成熟するにつれて、iRBC膜の細胞接着性および進行性の硬化を推進する。これらの原虫誘導性の形態変化は、微小循環を損ない、なお、重度のマラリア症例では、貧血、代謝性アシドーシス、または臓器不全などの病態生理的帰結へと顕在化する場合もある。
【0026】
本発明の一態様では、in vivoにおける白血球の辺縁趨向現象(Goldsmith HLら(1984),Microvascular Research.27(2):204〜222;Fiebig Eら(1991),International Journal of Microcirculation Clinical and Experimental.10(2):127〜144)に触発された、マイクロ流体デバイスにおける、感染赤血球(iRBC)分離の変形能ベースの分離法が説明される。内腔径が約300μm未満の血管では、白血球よりサイズが小さく、変形能が大きいRBCは、血管の中心軸へと移動する傾向があり、その結果として、血管壁に隣接して、低ヘマトクリット値の血漿層が形成され、血管の中心では、赤血球(RBC)濃度が増大する(Pries ARら(1996),Cardiovascular Research.32(4):654〜667)。この内側へのRBCの移動は、血管内部のポアズイユ流プロファイルに帰せられ、この結果、中心へと向かう圧力勾配誘導性の力がもたらされる(Goldsmith HLら(1989),American Journal of Physiology.257(3):H1005〜H1015)。中心を最大とする、血管における放物線状の流体速度プロファイルのために、中心軸におけるRBCのバルク流は、より迅速に流過する。このため、ファーレウス効果である管路内ヘマトクリット値の低下がもたらされ、また、細胞の枯渇した血漿層が存在するために、見かけの血液粘性の低下ももたらされる(ファーレウス−リンドクヴィスト効果)(同上)。RBCは、中心軸へと移動するので、白血球と移動するRBCとの力学的衝突の結果、適切に辺縁趨向と称する、より大型の(そして変形能が小さい)白血球が血管壁へと駆逐される現象(Goldsmith HLら(1984),Microvascular Research.27(2):204〜222;およびFiebig Eら(1991),International Journal of Microcirculation−Clinical and Experimental.10(2):127〜144)がもたらされる。全血液から血漿を分離するためのマイクロ流体デバイス(Fan Rら(2008),Nature Biotechnology.26(12):1373〜1378;およびJaggi RDら(2007),Microfluidics and Nanofluidics.3(1):47〜53)、および全血液から白血球を濃縮するためのマイクロ流体デバイス(Shevkoplyas SSら(2005),Analytical Chemistry.77(3):933〜937)では、ファーレウス効果および辺縁趨向というこれらの2つの血行力学的効果が用いられている。これらの先行例では、分離される細胞が、変形能(硬さ)およびサイズのいずれにおいてもRBCとは顕著に異なっていた。しかし、本明細書では、サイズが同じで、細胞の変形能がわずかに異なるに過ぎない正常RBCとマラリア感染iRBCとを分離するための、この生体模倣による分離法の適用が説明される。
【0027】
まず、蛍光標識して全血液中に懸濁させた硬質の3μmポリスチレンビーズを用いることにより、分離の原理を裏付けた。次いで、全血液と混合した、環状期iRBCおよび後期栄養体期/分裂体期iRBCの両方を用いて試験を実施した。本明細書における結果は、環状期iRBCについて約75%の分離効率を示し、後期iRBCについて最大約99%など、>90%の分離効率を示す。
【0028】
本明細書で説明される分離法は、蛍光色素または他の化学修飾を必要とせず、ヘマトクリット値の高い(約40%)、未処理の血液試料に対して直接実施することができる。高ヘマトクリット値とは、約20%〜約50%の範囲のヘマトクリット値であり、具体的な態様では、約30%または約40%のヘマトクリット値である。一態様では、マイクロ流体デバイスが、入口が一つ、出口が三つのデバイスであり、流速が、ギムザ染色など、下流における検出法との容易なインターフェース形成を可能とする。デバイスの作動は、電気またはバッテリーを必要とせず、重力送りの送液を用いうるであろう。これらの特徴のすべてにより、このデバイスは、試料供給源が制約される臨床状況におけるオンサイトの検査に理想的なiRBC濃縮法となっている。加えて、このデバイスは、これらもまた細胞の硬さの変化を特徴とする、他の血液細胞疾患(例えば、鎌状赤血球貧血および白血病)にも容易に適用することができる(Evans Eら(1984),Journal of Clinical Investigation,73(2):477〜488;Rosenbluth MJら(2006),Biophysical Journal,90(8):2994〜3003)。
【0029】
その中で原虫が成熟するのに応じたiRBCの硬さの変化は、広範にわたり研究されている(Paulitschke Mら(1993)、Journal of Laboratory and Clinical Medicine,122(5):581〜589;Suresh Sら(2005),Acta Biomaterialia,1(1):15〜30;Shelby JPら(2003),Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、100(25):14618〜14622)。Sureshらは、光ピンセットを用いて、異なる感染期における個々のiRBCを伸展させ、これらの弾性率を測定した。報告される非感染RBC、環状期iRBC、栄養体期iRBC、および分裂体期iRBCの弾性率はそれぞれ、約8、16、21.3、および53.3μN/mであった(Sures Sら(2005),Acta Biomaterialia,1(1):15〜30)。様々な段階で、細胞の硬さがこのように顕著に変化することは、細胞内に大型で非変形性の原虫が存在することに部分的に帰せられており、その結果として、内部粘性が大きく増大する(Clenister FKら(2002),Blood、99(3):1060〜1063;およびNash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861)。原虫が成熟するにつれ、円板状のiRBCは、表面積対容量比が減少するにつれてより球状化し、細胞の変形能が低下する(Nash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861;およびHerricks Tら(2009),Cellular Microbiology.11(9):1340〜1353)。また、原虫のタンパク質の放出は、膜内のスペクトリンネットワークを架橋形成および安定化することにより、iRBC膜を硬化させ、これにより、iRBCの可撓性を低下させる(Cranston HAら(1984),Science.223(4634):400〜403)。近年の研究は、後期栄養体期iRBCおよび後期分裂体期iRBCの膜の硬さが、熱性温度でさらに増大することから、微小循環内の血管閉塞におけるその役割について推定していることを報告している(Marinkovic Mら(2009),American Journal of Physiology−Cell Physiology.296(1):C59〜C64)。RBCにおける変形能(およびiRBCにおける変形能の欠如)は、重要な生理学的意義を有する。正常RBCは、変形能が高く、このために、微小な毛細血管を通過するときに変形を受け(Sutton Nら(1997),Microvascular Research、53(3):272〜281)、脾臓によるクリアランスを回避し(Safeukui Iら(2008),Blood.122(6):2520〜2528),低レイノルズ数ではまた側方移動も誘導する(Coupier Gら(2008),Physics of Fluids.20(11):4)ことが可能となる。iRBCにおいて変形能が低下すれば、複数の重要な病態生理的帰結がもたらされうるであろう。例えば、Shevkoplyasらは、微小血管ネットワークを模倣するマイクロ流体デバイスにおいて、グルタルアルデヒドで処置したRBC(変形能を低下させたRBC)の流動について研究し(Shevkoplyas SSら(2006),Lab on a Chip.6(7):914〜920)、RBCの硬さが増大すると共に、ネットワーク内における血液流度が低下し、その結果、チャネルにおける閉塞、およびヘマトクリット値分布の不均一がもたらされることを示した。近年の研究はまた、硬化したRBCがまた、狭窄したマイクロチャネルにおける無細胞層の厚さにも影響を及ぼし(Fujiwara Hら(2009),Journal of Biomechanics.42(7):838〜843)、iRBC、とりわけ、後期栄養体期iRBCおよび後期分裂体期iRBCが、in vivoにおいて、内皮における多段階の白血球動員(白血球のローリングおよびその後における接着)を模倣する(Ho Mら(2000),Journal of Experimental Medicien.192(8):1205〜1211)ことも示している。実際、微小血管系における細胞接着は、iRBCが、それらの変形能の喪失を認識する脾臓によるクリアランスを回避する一助となっている。脾臓における固有のスリット様の構成は、RBCが、静脈洞内の狭小な内皮間スリットにおいて著しく変形することを要求する(Safeukui Iら(2008),Blood.122(6):2520〜2528)。より硬いiRBCは脾臓内で上流に保持され、「種抜き(pitting)」(機械的な押出しにより、iRBCから原虫を機械的に絞り出すこと)を受け、これにより、循環からiRBCが効果的に除去され、原虫負荷が低下する。
【0030】
本明細書で示される通り、フローサイトメトリーが、細胞表面マーカーに基づき細胞を分取する技法として堅固に確立されているが、これとは独立ではあるが、生理学的に有意義な、細胞を精製/濃縮するための測定基準を、細胞の変形能はもたらしている。変形能に基づく細胞の分離には、多様な技法が適用されている(Xiaomi Tら(1995),Journal of Chromatography B:Biomedical Sciences and Applications.674(1):39〜47;およびLincoln Bら(2004),Cytometry Part A.59A(2):203〜209)。しかし、これらの技法の大半は、バッチフロー方式で作動し(Xiaomi Tら(1995),Journal of Chromatography B:Biomedical Sciences and Applications.674(1):39〜47)、その結果、ロースループットであり、変形能が異なる細胞を個別に回収することができない(Lincoln Bら(2004),Cytometry Part A.59A(2):203〜209)。
【0031】
別の態様では、マイクロ流体デバイスを用いて、循環腫瘍細胞を検出、分離、および/または単離することができる。腫瘍形成の致死的な帰結である癌転移は、癌に関連する全死亡のうちで、約90%を占めている。転移の主要原因である循環腫瘍細胞(CTC)を検出することにより、病期および癌の進行と関連する貴重な洞察をもたらすことができる。CTCの計数はまた、治療的処置の奏効を臨床的に評価およびモニタリングするのにも用いられる。CTCは、血液細胞109個当たり1個ほどの少なさを含む極めて希少な細胞であり、形態および分子署名が高度に不均一であるので、これらを血液から単離することは、技術的な難題となっている。
【0032】
したがって、一態様ではまた、本発明が、個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する方法も対象とする。この方法は、試料を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの別の部分に沿って第2の出口へと流動する。方法は、循環腫瘍細胞を第1の出口から回収するステップのほか、循環腫瘍細胞を解析して、治療的処置の有効性を評価するステップもさらに包含しうる。試料は、血液試料でありうる。
【0033】
本明細書では、マイクロ流体素子を用いて血液から循環腫瘍細胞(CTC)を分取する、ハイスループットの細胞分離法が説明される。一態様では、デザインが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で製作された、低アスペクト比で螺旋形状のマイクロチャネルからなる。分離は、マイクロチャネル断面内の異なる位置において細胞を平衡化させる、大きな細胞サイズに起因する慣性揚力と、螺旋形状に起因するディーン抗力との相互作用に依拠する。次いで、適切な分枝状出口をデザインすることにより、細胞を、それらのサイズに基づき個別に回収することができる。この技法を、典型的には直径が約20μmでサイズがより大きいCTCを、血液細胞(約8μmのRBC、約10〜15μmの白血球(WBC))から分離して、早期癌を検出し、治療の有効性をモニタリングすることに適用した。
【0034】
螺旋状のマイクロチャネル内を流動する細胞は、慣性揚力と、遠心加速度により誘導されるディーン抗力との組合せの下にある。細胞サイズの4乗に伴って変化する慣性揚力は、マイクロチャネル断面内の異なる複数の平衡位置に細胞をフォーカスする一因となる。ディーン抗力の成分を付加して、螺旋形状のマイクロチャネルをデザインすることにより、これらの複数の平衡位置を、マイクロチャネル内壁近傍の1カ所だけに縮減することができる。揚力とディーン抗力との比は、細胞のサイズを変化させるときに変化するので、最大の細胞がマイクロチャネル壁に最も近接して平衡化する形で、細胞を、それらのサイズに基づいてマイクロチャネル断面に沿った異なる位置に平衡化させることができる。この結果、異なる細胞流の進化が生じ、適切な出口をデザインすることにより、これらを個別に回収することができる。
【0035】
デバイスは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で製作し、顕微鏡用のスライドガラスに接着する(図7Aおよび7B)。マイクロチャネルのデザインは、拡張型の8等分された出口系を伴う、500×100μm(幅×高さ)のマイクロチャネルからなる。注入される試料は、濃度の異なるCTCでスパイクした希釈全血液(0.1%のヘマトクリット値)からなる。試料がマイクロチャネル内を流動するにつれて、正常RBC、白血球、およびCTCが、それらのサイズに基づいてマイクロチャネル断面にわたり平衡化する。CTCはその大型のサイズ(約20μm)のために、慣性揚力により大きな影響を受け、チャネル内壁に近接して平衡化する。CTCより小型であるRBC(約8μm)および白血球(10〜15μm)は、ディーン抗力により大きな影響を受け、マイクロチャネル内壁から遠く離れてフォーカスし、このために分離が達成される。低アスペクト比のマイクロチャネルをデザインすることにより、この平衡位置の差違が増幅され、図8に示す通り、希少なCTCを出口1から回収することが容易となり、他の出口には残りの血液細胞が含有され、このために、持続的なハイスループットのサイズベースの分離が達成されることができる。この技法の別の実施形態では、この分離法を用いるならば、腹水に由来する間質細胞、血液に由来する白血病性細胞、および母体血液に由来する胎児有核赤血球を含めた他の希少細胞を単離することができるであろう。
【0036】
一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約3.75など、約1〜約5の範囲にある。特定の実施形態では、方法が、細胞型が混合された集団内に存在する幹細胞または前駆細胞を、細胞の直径に基づいて機能的に異なる亜集団へと分離するステップを含みうる。次いで、これらの亜集団をデバイスから回収し、固有の代謝機能との関連で解析し、例えば、増殖能、分化能、または特定の薬剤に対する応答能を増強させることが可能であった特定の亜集団を単離および濃縮することができる。特定の実施形態では、チャネルの幅が約500μmであることが可能であり、チャネルの高さが約100μmでありうる。
【0037】
本明細書では、マイクロチャネルの螺旋形状を用いて全血液から循環腫瘍細胞(CTC)を分取する、ハイスループットのサイズベースの細胞分離法が説明される。このデザインは、多様なサイズの細胞に対して作用する慣性揚力および粘性抗力を利用して、示差的な移動を達成する。マイクロチャネルの螺旋形状のために優越する慣性力およびディーン回転力は、より大型のCTCに、マイクロチャネル内壁近傍の単一の平衡位置にフォーカスさせ、これを占拠させる。より小型の血液成分(RBCおよび白血球)は、ディーン力の影響下において、チャネルの外側半分に移動し、その結果として、2つの異なる流れが形成され、次いで、これらを、2つの個別の出口において回収する。全血液を処理する能力により、提起される技法は、1mLの全血液を処理するのに要する時間が10分間未満であり、内側の出口におけるCTC回収率を90%として、血液細胞のうちの99%を除去することが可能である。
【0038】
曲線状チャネル内を流動する流体は、放射方向の外側に向けられた遠心加速度を受け、チャネルの上半分および下半分において、ディーン渦として知られる2つの反転渦を形成する。これらの二次流の大きさは、
【数1】
[式中、ρは、流体密度であり、Ufは、平均流速であり、μは、流体の粘性であり、Rcは、チャネル流路の曲率半径であり、Dhは、チャネルの流体力学的直径であり、Reは、流動のレイノルズ数(慣性力対粘性力の比)である]により与えられる無次元のパラメータであるディーン数(De)により定量化される。したがって、曲線状チャネル内を流動する粒子は、これらを渦内の流動方向に沿って取り込み駆動する、これらの横方向のディーン流が存在するために、抗力を受ける。この動きは、上方または下方から目視すると、下流への距離が増大すると共に、内壁と外壁との間のチャネル幅に沿った粒子の往復運動に変換される。これらの細胞がチャネル内を流動するときに側方に移動する速度は、ディーン数に依存し、これは、
【数2】
を用いて計算することができる。
【0039】
ディーン渦に沿って粒子が横切る側面方向の距離は、「ディーン周期」との関係で定義することができる。例えば、初期にマイクロチャネルの内壁近傍に位置し、下流への所与の距離においてチャネルの外壁へと移動する粒子は、1/2のディーン周期を経過したという。マイクロチャネル内壁近傍の元の位置に戻ると、全ディーン周期を経過する。したがって、所与のマイクロチャネル長に対して、流速(Re)条件を増大させると、粒子は、複数のディーン周期にわたる移動を経過することができる。全ディーン周期による移動長は、
【数3】
[式中、wは、マイクロチャネルの幅であり、hは、マイクロチャネルの高さである]として計算することができる。結果として、ディーン移動に必要とされるマイクロチャネルの全長は、
【数4】
により与えられる。
【0040】
ディーン抗力とは別に、直径がマイクロチャネルの寸法と同等なより大型の細胞はまた、無視できない慣性揚力(FL)(せん断誘導性の慣性揚力および壁面誘導性の慣性揚力の両方)も受け、結果として、それらのフォーカシングおよび平衡化がもたらされる。ポアズイユ流における放物線状の速度プロファイルは、粒子に作用して、それらを、マイクロチャネルの中心から遠ざけてチャネルの壁面へと方向付ける、せん断誘導性の慣性揚力FILを結果としてもたらす。これらの粒子がチャネル壁面のより近くに移動すると、壁面が突然現れるために、粒子の周囲に形成される回転後流が断ち切られ、粒子を壁面から遠ざけてマイクロチャネルの中心へと方向付ける揚力(FWL)が誘導される。これらの2つの反対向きの揚力の結果として、粒子は、マイクロチャネル辺縁部周囲の、異なる予測可能な位置で平衡化(フォーカス)する。この効果は、サイズがマイクロチャネルの寸法と同等のac/h≒0.1である粒子に優勢である。曲線形状のマイクロチャネルでは、慣性揚力(FL)と、ディーン抗力(FD)との相互作用により、平衡位置は、各々がディーン渦の上腕内および下腕内にある、チャネル内壁近傍の2カ所だけに縮減される。2カ所の平衡位置は、マイクロチャネルの高さに沿って互いに重なり合い、所与の粒子サイズに対して、マイクロチャネルの内壁から同じ距離に位置する、すなわち、マイクロチャネルの幅にわたる単一の位置として目視される。
【0041】
本明細書で説明される研究は、これらの2つの現象、すなわち、ディーン移動および慣性フォーカシングを利用して、CTCを血液から単離する。一態様では、デザインが、全長約10cmの、2入口2出口の螺旋状マイクロチャネルを含む。マイクロチャネルの幅は約500μmであり、高さは約140μmである。図15Aおよび15Bに示す通り、より大型のCTCが慣性によるフォーカシングを受ける一方で、より小型の血液細胞(RBCおよび白血球)の移動はディーン抗力の影響を受ける(すなわち、CTCだけが、ac/h≒0.1の比を満たす)ように、チャネルの寸法を選択する。入口では、全血液試料を螺旋状マイクロチャネルの内側の入口に送入し、シース液(例えば、1×PBS)を螺旋状マイクロチャネルの外側の入口を介して送入する(図14)。シース液は、すべての細胞が、ほぼ同じ位置から移動を開始するように、入口において全血液を絞り込み、全血液試料を、チャネル幅における狭小な領域に閉じ込めるのに用いることができる。試験中、ディーン抗力の影響下にある小型の細胞は、ディーン渦に沿って移動を開始し、チャネルの外壁へと移動する。CTCが受ける強い慣性揚力は、ディーン抗力の影響下でCTCが移動することを阻止し、CTCに、マイクロチャネルの内壁近傍における2カ所の平衡位置にフォーカスさせ、これらを占拠させる。他方、RBCおよび白血球は慣性力による影響を受けないので、これらの細胞は、ディーン渦に沿って循環し続ける。細胞が、ディーン周期の半分の移動を経過すること確保する適切な流速を計算することにより、出口では、CTCがチャネルの内壁近傍にフォーカスする一方で、RBCおよび白血球は、チャネルの外側半分へと転置される。こうして、CTCを内側の出口で単離および回収しうる一方で、他の血液細胞は、外側の出口で回収される(図14)。この技法を用いる利点は、それが、ヘマトクリット値が極めて高値の試料(全血液)を処理することが可能であり、このため、試料の調製ステップが縮減され、解析時間も大幅に短縮されることである。この技法を用いると、1mLの全血液を、10分間以内で処理することができる。
【0042】
別の態様では、個体の試料における循環腫瘍細胞を検出する方法が、試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の少なくとも一部に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、試料中の他の細胞が、チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する。方法は、循環腫瘍細胞を第1の出口から回収するステップと、循環腫瘍細胞を解析して、治療的処置の有効性を評価するステップとをさらに包含しうる。試料は、血液試料でありうる。一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約2〜約10の範囲にありうる。他の一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約3〜約5の範囲にありうる。入口から遠位の端部におけるチャネルの幅は、単離される細胞のオーダーにありうる、すなわち、入口から遠位の端部におけるチャネルの幅は、単離される細胞のサイズとほぼ同じサイズでありうる。一部の実施形態では、チャネルの幅が、約20μmでありうる。マイクロ流体デバイスは、入口から遠位のチャネル端部において、目視観察を改善するための拡張領域をさらに含みうる。一部の実施形態では、マイクロ流体デバイスが、すべての細胞を、チャネルの長手方向へと移動(migrate)させ、チャネルの長手方向に沿って移動(move)させるように適合させた断面を有する、少なくとも1つの細胞フォーカシング領域をさらに含みうる。
【0043】
本明細書では、血液からCTCを単離するための、せん断変調型慣性マイクロ流体素子の適用が説明される。図16は、開発されたマイクロ流体デバイスの概略図を示す。デバイスは、全血液細胞のうちの>99%を占める赤血球の大半またはすべてを除去することにより、末梢血から希少細胞を、単一のステップで効率的に分離することを可能とする。一態様では、デザインが、単一の入口による、収縮−拡張アレイによりパターン化された、高アスペクト比の矩形マイクロチャネルからなる。収縮領域および拡張領域の幅は、それぞれ、約20μmおよび60μmであり、それらの長さは、約100μmであった。チャネルは、全長を約1.5cmとする、収縮−拡張領域による約75のサブユニット(収縮領域と拡張領域との対が、1つのサブユニットをなす)を含む。出口は、目視観察を増強するために、幅約300μmの区分へと開口し、2つの側方出口アームおよび中央出口アームである、幅約100μmの3つの分枝状アームへと等分されている。標的細胞が中央出口において回収される一方で、他のすべての血液成分は、側方出口から除去される。本明細書では、この新規の技法の適用として、単一のチャネルを用いて、1分間当たりの細胞108個の処理を可能とする高効率(>80%のCTC回収率)およびハイスループット(400μL/分の流速)で、血液から希少CTCを分離することが裏付けられる。チャネルのデザインは、数分間以内に、数ミリリットルの臨床血液試料を処理する能力を伴う、簡易な並列化を可能とする。デバイスは、末梢血白血球および胎児有核赤血球を含めた他の希少細胞を血液から単離するのにもカスタマイズすることができる(Vona,G.ら,American Journal of Pathology,2002.160(1):51ページ)。
【0044】
チャネル(例えば、マイクロチャネル)内の慣性揚力ベースの細胞フォーカシングは、早くも、新規でハイスループットの物理的な細胞分離法をもたらしつつある(Bhagat,A.A.S.ら,「Medical and Biological Engineering and Computing」、2010;Di Carlo、D.,Lab on a chip,2009,9(21):3038ページ)。開発されたバイオチップは、これらの慣性揚力を及ぼして、CTCを他の末梢血細胞から単離することに成功している。高アスペクト比のマイクロチャネル区分は、2つの領域:(i)細胞フォーカシング領域と、(ii)希少細胞絞込み領域(図16)とに分割することができる。細胞フォーカシング領域(最初の70のサブユニット)では、せん断変調性慣性揚力の影響下において、すべての細胞が、チャネル長手の側壁に沿って移動および平衡化する(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008、20:101702ページ)。マイクロチャネル内を流動する流体中に懸濁されている、中性浮力をもつ浮揚性の粒子/細胞は、粘性抗力および慣性揚力の両方の下に置かれることが典型的である。平面ポアズイユ流における放物線状層流の速度プロファイルは、せん断誘導性慣性揚力をもたらし、この結果、チャネル中央から遠ざかる、マイクロチャネル壁面への粒子移動がもたらされる(Asmolov,E.S.,Journal of Fluid Mechanics,1999,381:63〜87ページ)。粒子が、チャネル壁面により近接するにつれて、粒子の周囲で誘導される非対称性後流が、壁面誘導性揚力を発生させ、これらの粒子を壁面から遠ざけるように駆動する(Zeng,L.ら,Journal of Fluid Mechanics,2005,536:1〜25ページ)。これらの2つの反対向きの揚力が、互いを相殺する結果として、均一に分散した粒子が、マイクロチャネル辺縁部周囲の狭小なバンドに平衡化する(Matas,J.P.ら,「Oil & Gas Science and Technology」、2004,59(1):59〜70ページ;Segre,G.ら,Nature、1961、189:209〜210ページ;Segre,G.ら,J.Fluid Mech、1962,14:115〜136ページ;Matas,J.P.ら,Journal of Fluid Mechanics,2004,515:171〜195ページ)。これらの慣性力は一般に、マイクロ流体素子ベースの流動では、ほぼ確実にチャネルのレイノルズ数が低値である(チャネルの寸法が小さく、流速が低速である結果として)ために無視される。しかし、粒子/細胞のサイズが、チャネルの寸法と同等である場合は、これらの慣性揚力が無視できないものとなり、流動の流線を横切る側方への粒子の移動をもたらす。
【0045】
実際のマイクロ流体への適用で、細胞が有限のチャネル長にフォーカスされるような平衡化は、ac/Dh≧0.07の場合に生じる[式中、acは、細胞の直径であり、Dhは、マイクロチャネルの流体力学的直径である](Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Bhagat,A.A.S.ら,Lab on a chip,2008,8(11):1906〜1914ページ;Hampton,R.E.ら,Journal of Rheology,1997,41:621ページ;Di Carlo,D.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007,104(48):18892ページ)。正方形のマイクロチャネルにおいて、低レイノルズ数(Re<100)の流動では、4つの側面すべてにおけるせん断勾配が均一であるため、8つの安定的な平衡位置が存在する(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Chun,Bら,Physics of Fluids,2006,18:031704ページ;Bhagat,AAS.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ)。近年の報告は、高アスペクト比の矩形のマイクロチャネルにおいて、せん断率を変調させると、マイクロチャネルの長手に沿った優先的フォーカシングが結果として得られることを裏付けている(この場合は高さ)(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Bhagat,AAS.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ)。慣性揚力は、FL∝G2[式中、Gは、チャネルに沿ったせん断率である]としてスケーリングされるので、高アスペクト比(AR:チャネルの高さ対チャネルの幅の比)の矩形のマイクロチャネルの断面は、チャネル幅に沿ったより高いせん断率をもたらし(∝AR2)、マイクロチャネルの高さに沿った細胞の平衡化を駆動する。したがって、入口において分散した細胞は、移動し、チャネルの側壁近傍における2つの流れに整列され、無細胞の中央領域を創出する。本明細書で示す通り、この現象を利用して、すべての末梢血細胞をチャネル壁面に沿ってフォーカスし、下流で除去した。本明細書では、「平衡化」という用語と「フォーカシング」という用語とを互換的に用い、これらにより、細胞がマイクロチャネルの長手の側壁に沿って最終的な静止位置へと移動することを示唆する。
【0046】
マイクロ流体デバイスはまた、チャネルの出口の前に、希少細胞絞込み領域(例えば、最後の5つの収縮−拡張サブユニット)も含むことができ、これは、希少細胞を他の血液細胞からうまく単離するのに用いられる(図16)。より大型のCTC細胞の慣性の中心が、マイクロチャネルの中心軸に沿って整列するように、この絞込み領域における収縮幅(または絞込み幅)は、CTCの直径と同等である(すなわち、CTCのオーダーにある)ようにデザインする。したがって、出口では、赤血球およびPBLがチャネルの側壁に沿ったフォーカシングを維持する一方で、より大型のCTCは、チャネルの中心軸に沿って流過し、これにより、中心の出口からすべての希少細胞を回収することが可能となる一方で、血液細胞のうちの>99%は、側方出口から除去される。
【0047】
高アスペクト比のデバイスでは、マイクロチャネルの幅が、細胞フォーカシングを制御する重要な寸法である。本明細書では、この寸法が、収縮領域の幅に対応し、これを約20μmとした。理想的には、直行するだけのマイクロチャネル(収縮−拡張アレイのないマイクロチャネル)でも、チャネルの側壁に沿った効果的な細胞の平衡化には十分である(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008,20:101702ページ;Bhagat,AAS.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ)。しかし、拡張領域を規則的な間隔で包含する理由は、二重のものである。第1に、これらのチャネルは、二重の鋳型形成工程(下記の「方法」の節を参照されたい)を用いるPDMSポリマーにより製作されているので、アスペクト比が>2であるレリーフ構造は、変形および歪みに対して高度に感受性である(Delamarche,E.ら,Advanced Materials,1997,9(9):741〜746ページ;Xia,Y.ら,Annual Review of Materials Science、1998,28(1):153〜184ページ)。幅約60μmの拡張領域は、マイクロチャネルにより多大な構造的安定性をもたらしており、約7.5までの高アスペクト比の構造特徴を製作することを可能としている。第2に、拡張領域はまた、マイクロチャネル長にわたる圧力低下を軽減する働きもあり、デバイスを故障させることなく、高流速(Re>100)の検査を可能とする。
【0048】
別の態様では、マイクロ流体デバイスを、非同調細胞の混合物から1または複数の同調細胞を単離する方法において用いることができる。この方法は、非同調細胞の混合物を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って同調細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、より大型の同調細胞が、チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、より小型の同調細胞が、チャネルの他の部分に沿って少なくとも1つの他の出口へと流動する。
【0049】
細胞周期は、細胞がその内容物を複製し、次いで、2つの娘細胞へと分割する、順序の決まった継起的イベントからなる。真核細胞では、適正な細胞分裂をもたらすこれらの異なるイベントを、4つの継起的な相:G1期(間隙期)、S期(DNA合成期)、G2期(間隙期)、およびM期(有糸分裂期)に分割することができる。細胞周期を進むにつれ、細胞は、S期においてその染色体を複製し、M期においてこの染色体を分離する。長期間にわたるサイズのホメオスタシスを維持するために、細胞は、分裂する前に、サイズを平均で倍増させなければならない。G1期およびG2期の間隙期は、新たな高分子および各種の細胞小器官を合成するための時間をもたらし、細胞が、その外部環境をモニタリングして、その状態が、S期およびM期のそれぞれに入るのに適すると確認することを可能とする。有糸分裂後、細胞は、一時的な静止状態であるG0期に入ってから、再度細胞周期に入る。
【0050】
細胞周期の同調は、細胞の特性および生物学的過程を研究し、細胞分裂前の各相に関与する遺伝子制御機構および遺伝子制御イベントを解明するのに不可欠である。同調培養物とは、細胞が、細胞周期の特定の相にあり、サイズおよびDNA含量など、類似の物理的特性および生化学的特性を示す培養物である。次いで、細胞は、その後の時点では同じ相にある比較的均一な群として、細胞周期を経過する。癌細胞による研究は、細胞周期における特定のチェックポイントに関与する重要な癌遺伝子の表現型および分布を明らかにしている。抗癌薬は、細胞周期の異なる相にある細胞を標的とすることが知られているため、癌の治療学は、腫瘍細胞試料を同調させることが可能であるかどうかに大幅に依存してきた。高度に同調させた細胞集団の使用はまた、多様な生物学的系の開発も大幅に容易とし、有用性も大幅に促進してきた。患者の免疫プロファイルに合致する細胞および組織の生成に核の導入が必要とされる幹細胞療法では、G0/G1期の幹細胞が高度な核導入効率を付与するので、細胞周期の同調が技法の成功にとって極めて重要である。したがって、それらの細胞周期の各相にある細胞を同調させるのに有効な技法を開発する必要が存在する。
【0051】
以下では、螺旋状のマイクロチャネルにおける慣性力を用いて細胞を同調させる、マイクロ流体素子ベースの手法について説明する。近年では、慣性移動の原理に基づいてマイクロ流体システムにおけるサイズベースの粒子分離が開発されている(Bhagat,A.A.S.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009、7(2):217〜226ページ;Di Carlo,D.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007、104(48):18892ページ)。ポアズイユ流条件下にある螺旋形状のマイクロチャネルでは、多様なサイズの粒子が、慣性揚力およびディーン抗力の影響下において、マイクロチャネル断面に沿った異なる位置で平衡化する。本明細書で説明する通り、この原理を用い、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−CD36細胞)および癌細胞(HeLa細胞およびKKU−I00細胞)を含めた、複数の哺乳動物による永久細胞系を、G0/G1期の細胞に富む集団(>85%)、S期の細胞に富む集団、およびG2/M期の細胞に富む集団へと同調させることに成功した。分離の原理は、細胞周期における細胞の容量(および、したがって、直径、または、より一般的には、「サイズ」)と、その相との関係を利用する。本明細書ではまた、初代細胞系(骨髄)由来ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を同調させるためのこの技法の使用も裏付けられる。結果は、非同調試料による約2.8:1のG0/G1期集団対G2/M期集団比が、約15.7:1へと濃縮されることを示す。同様に、同調させた後では、G2/M期集団の約4倍の濃縮が得られている。これらの結果は、他のマイクロ流体システムを用いて報告された結果(Kim,U.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007、104(52):20708ページ;Thevoz,P.ら,Analytical chemistry,2010、82:3094〜3098ページ;Choi,S.ら,Analytical chemistry,2009、81(5):1964〜1968ページ;Migita,Sら,Analytical Methods,2010,2:657〜660ページ)と同等であるが、スループットが顕著に増大したことにより、生存率の高い(約95%)多数の細胞(1時間当たりの細胞約15×106個)を同調させることが可能となっている。このデバイスのマイクロチャネルのデザインと組み合わせたパッシブの作動原理により、多くの異なる初代細胞型についての生物学的研究における多様な適用が可能となっていると考えられる。
【0052】
当業者に知られている通り、「非同調細胞」とは、多様な相、例えば、G0/G1期、S期、およびG2/M期にある細胞の混合物である。本明細書で用いられる場合、「同調細胞」とは、細胞周期の同じ相にある細胞を指す。非同調細胞の混合物は、哺乳動物の癌細胞の懸濁液もしくは間葉系幹細胞の懸濁液、組織、またはこれらの組合せでありうる。方法は、同調細胞を第1の出口から回収するステップをさらに含みうる。一部の実施形態では、チャネルのアスペクト比が、約1〜約5の範囲にありうる。特定の実施形態では、チャネルの幅が、約500μmでありえ、チャネルの高さが、約140μmでありうる。
【0053】
本明細書で説明する方法は、さらなる解析のために、例えば、蛍光活性化細胞分取などのために、デバイスから標的細胞を回収(単離)するステップをさらに含みうる。
【0054】
当業者により理解される通り、方法はまた、標的細胞を濃縮するステップもさらに含みうる。例えば、複数の出口を有するデバイスの場合は、分離および/または濃縮を増強するように出口の寸法比をデザインすることができる。例えば、3つの出口を伴うデバイスを例として用いると、寸法比は、1:2:1、1:3:1、1:4:1、1:5:1、1:6:1、1:7:1、1:8:1、1:9:1、1:10:1などでありうる。
【0055】
標的細胞の濃縮率は、例えば、約2倍、約3倍、または約4倍の濃縮率に到達させることができる。
【実施例1】
【0056】
[細胞を分離および単離するための変形能ベースの分取]
[材料および方法]
[マラリア原虫の培養]
本研究では、P.falciparumの3D7株を用いた。原虫は、10mg/mlのゲンタマイシン(Invitrogen、USA)1mlと併せた、1MのNaOH 1ml中に溶解させた、0.3gのL−グルタミン、5gのAlbuMAX II(Invitrogen、USA)、2gのNaHCO3、および0.05gのヒポキサンチン(Sigma−Aldrich、USA)を補充したRPMI培地1640(Invitrogen、USA)中で培養した。原虫を、2.5%のソルビトールを用いて環状期で同調させ、同調培養を維持した。5%のCO2気体、3%のO2気体、および92%のN2気体の混合物により通気した後、37℃で培養物を保存し、それらのヘマトクリット値を2.5%で維持した。環状期、後期栄養体期、および後期分裂体期において細胞を回収した。原虫培養物のための全血液は、健常ドナーから得、これをスピンダウンしてRBCを分離した。RBCペレットをCPDAで3日間にわたり処理してから、RPMI 1640で3回にわたり洗浄し、使用のために保管した。
【0057】
[試料の調製]
血液試料を、1倍濃度のリン酸緩衝液(PBS)、2mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、および1%v/vのウシ血清アルブミン(BSA)を含有する洗浄緩衝液で3回にわたり洗浄してから、実験を行った。直径3μmの蛍光標識したマイクロビーズ(Fluoresbrite(登録商標)Microspheres、Polysciences Inc、Singapore)を血液に添加し(0.01%の容量画分)、1×PBS、2mMのEDTA、1%のBSA、および3.5w/v%のデキストラン40(AppliChem Asia、Singapore)を含有する試料緩衝液中で再懸濁させた。デキストランは、正常な血漿の有効粘性をもたらし、実験中の赤血球の沈降および連銭形成を防止する一助となった(Yeh Cら(1994)、66(5):1706〜1716)。目視観察および定量化のため、iRBC(0.01%の寄生虫血)を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Sigma Aldrich、USA)で染色した。次いで、最終的な血液懸濁物を、試料緩衝液により相応に、多様なヘマトクリット値(1%、10%、および40%)に調整した。
【0058】
[デバイスの特徴づけ]
デバイスは、標準的なマイクロファブリケーションソフトリソグラフ法(McDonald JCら(2002),Accounts of Chemical Research.35(7):491〜499)を用いて、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sylgard 184、Dow Corning、USA)により製作した。マイクロ流体デバイスを特徴づけるために、細胞試料を1ccのシリンジに充填し、多様な流速で駆動されるシリンジポンプ(Fusion 400、Chemyx Inc.,USA)を用いて、マイクロ流体デバイス内に送入した。12ビットのEMCCDカメラ(iXonEM+ 885、Andor Technology、USA)を装備した倒立型落射蛍光顕微鏡(Olympus IX81、Olympus Inc.,USA)を用いて、流動を実験的に観察した。試験中、Metamorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices、USA)を用いて、出口において、チャネルのハイスピード画像を収集した。
【0059】
分離効率を定量化するため、蛍光標識したマイクロビーズおよびiRBCの分散度を、マイクロチャネルの出口で撮影した画像から測定した。マイクロビーズおよびiRBCの分散度は、出口が幅100μmのマイクロチャネルを、各々10μmずつの10の等しい区画(bin)に分割し、各区画を通過するビーズ/iRBCの数をカウントすることにより測定した(Bhagat AASら(2008),Journal of Micromechanics and Microengineering.18(8):9)。次いで、カウントをプロットして、チャネル幅にわたるビーズ/iRBCの分布を示した。側方出口で測定されたビーズ/iRBCのカウントを、全出口におけるカウントに照らして標準化することにより、濾過効率を決定した。濾過を完了するのに、すべてのビーズ/iRBCが、2つのチャネル側壁へと移動し、2つの側方出口から効率的に濾過されることが期待される。回収された出口試料に対して、BD(商標)LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences、USA)を用いる蛍光活性化細胞分取(FACS)解析を実施することにより、分離効率をさらに検証した。
【0060】
[マイクロチャネルのデザイン]
このマイクロチャネルのデザインは、長さ3cm、15×10μm(幅×高さ)で、拡張非対称型3出口システムを伴うマイクロチャネルとした。マイクロチャネルは、入口における幅100μmのセグメントで始まり、15μmへと狭窄した。出口において、マイクロチャネルは、幅100μmの区画へと開口し、目視観察を増強した。iRBC感染血により調べる前に、全血液中に懸濁させた3μmの硬質ポリスチレンビーズを用いて、濾過の原理を確認した。後期iRBCにおいて見出される原虫とサイズが同様であり、このため、実際のiRBC挙動を表すので、3μmのビーズを選択した。試料は、0.05〜0.1%のビーズまたは異なる感染期のiRBCでスパイクした全血液(40〜45%のヘマトクリット値)からなる。血液試料が、15×10μmのマイクロチャネルを流動するにつれて、iRBCより変形能が大きい正常RBCは、チャネルの中心軸に対して側方に移動し、より硬いiRBCを、チャネルの壁面へと駆逐する。低アスペクト比のマイクロチャネルをデザインすることにより、iRBCを、チャネル幅だけに沿って辺縁趨向させ、これにより、各側壁近傍に整列させることができる。次いで、非対称型3出口システムを用いてiRBCを濾過し、これにより、持続的でハイスループットの変形能ベースの濾過を達成する。図1は、開発されたマイクロ流体デザインの概略図を示す。
【0061】
[結果および考察]
濃縮した血流における変形能ベースの側方駆逐現象を検証するために、まず、ヘマトクリット値を10〜40%とする血液懸濁物中において、RBCとほぼ同じ大きさである、直径6μmの硬質ポリスチレンマイクロビーズを調べた。流動が出口に到達する時点までに、すべてのビーズがマイクロチャネルの2つの側壁近傍に整列したことから、辺縁趨向が裏付けられた。次いで、後期iRBCにおいて見出される原虫(3〜5μm)とサイズが同様であるために、蛍光標識したより小型の3μmポリスチレンビーズにより実験を繰り返した。硬い原虫が、感染細胞における変形能の喪失の主な原因である(Nash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861)ので、3μmのビーズは、iRBCの流動挙動をよく表す。ヘマトクリット値を1%、10%、および40%とする血液懸濁物中にビーズを添加し、多様な流速でデバイスを介して送入した。各区画位置を通過するビーズをカウントすることにより、分離効率を定量化した。一貫して、各実験につき合計200個ずつのビーズをカウントした。図2A〜2Cは、流速を変化させるときの、マイクロチャネル幅にわたるビーズの分布をプロットする。低ヘマトクリット値(1%のヘマトクリット値)では、ビーズおよびRBCが、チャネル幅にわたる均一な分散を維持したことから、軸方向の移動および辺縁趨向が無視できる程度であることが示される。ヘマトクリット値を10%および40%へと増大させると、マイクロチャネルの中央部において、十分に成長した、RBCを優勢とするコアの形成が結果としてもたらされる。ビーズとRBCとの相互作用が強いため、ほとんどすべてのビーズ(>90%)が、チャネル側壁へと駆逐された(図2B〜2Cの区画1および10)。これらの結果は、他の研究者らにより報告されている結果と一致することから、細胞の辺縁趨向に対する高ヘマトクリット値の役割が示唆される(Jain Aら(2009)、PLoS ONE.4(9):e7104)。図3Aは、ヘマトクリット値を変化させた試料について、側方出口および中央出口アームにおいて測定した3μmビーズの分布を示す。すべての実験は、5μL/分で一定の流速で実施した。ヘマトクリット値を1%とする場合、中央出口のビーズは、側方出口の約2倍であった。これは、マイクロチャネルの中央部においては流速が速くなることに帰せられ(ポアズイユ流)、所与の時間においてマイクロチャネルの中央部を通過するビーズが結果として増大する。しかし、ヘマトクリット値を増大させると(10%および40%とすると)、ほとんどすべてのビーズ(約90%)がチャネルの側壁へと駆逐され、側方出口により回収された。ヘマトクリット値を10%から40%へと増大させると、濾過効率もまた、89%から97%へと増大したことから、辺縁趨向の増大が示される(Zhao Rら(2008),Annals of Biomedical Engineering.36(7):1130〜1141)。
【0062】
本発明者らのマイクロチャネルでは、高ヘマトクリット値の試料が、ビーズの側方駆逐の増強を結果としてもたらす。次に、流速が分離効率に対して及ぼす影響を決定するために、実験を実施した。図3Aに示す結果に基づいて蛍光標識したビーズでスパイクした40%のヘマトクリット値試料を、0.2μL/分〜5μL/分の範囲の流速で調べた。図3Bは、流速を増大させたときの側方出口および中央出口アームで測定される3μmビーズの分布を示す。ビーズの辺縁趨向効率は、調べたすべての流動条件において、約90%でほぼ一定を維持した。これは、近年において報告される他の結果と符合する(Zhao Rら(2008),Annals of Biomedical Engineering.36(7):1130〜1141)。この挙動は、以下の理由により説明することができる。流速を低下させると、硬いビーズは、チャネル長を縦断するのにより長時間を費やし、このため、複数の細胞が相互作用して側方へと辺縁趨向するのに十分な時間が与えられる。しかし、流速を増大させると、慣性が増大するために、RBCは、マイクロチャネルの中心軸へとより迅速に移動し、十分に明確なコアを形成する。この結果、硬いビーズは中央部から側壁へと「押し」のけられ、このため、流速を増大させてもなお、効率的な分離が達成される。
【0063】
ポリスチレンビーズを用いる実験によるデザイン原理の検証に続いて、次に、マラリア感染iRBCによる試験を実施した。図3Aおよび3Bに示される結果に基づいてヘマトクリット値を10%および40%とするiRBC試料について調べた。まず、それらの硬さが増大するために、早期iRBCと比較した場合、辺縁趨向効果がより顕著となるので、後期栄養体期/分裂体期iRBCを用いて、すべての試験を行った。図4Aおよび4Bは、流速条件を変化させて、ヘマトクリット値を10%および40%とした場合に、マイクロチャネルの出口において測定された、iRBCの分布結果を示す。硬質ポリスチレンビーズにより得られた結果とは逆に、ヘマトクリット値を10%とする場合、本発明者らは、iRBCの側壁への辺縁趨向が無視できる程度であることを認める。iRBCカウントは、チャネルの中心軸周囲において放物線状の分布を示し、ポアズイユの速度プロファイルと符合する。これは、細胞間相互作用を中程度とするとき、iRBCと正常RBCとの変形能の差違が、iRBCを側壁へと駆逐するのに十分ではないことを示す。
【0064】
しかし、ヘマトクリット値を40%まで増大させると、著明なiRBCの辺縁趨向が結果としてもたらされる(図4B)。図により、すべての流動条件について、約80%のiRBCが、区画1および10に駆逐され、ポリスチレンビーズにより得られた結果と同様となった。調べたすべての流速で辺縁趨向効果が観察されたことから、ヘマトクリット値が、iRBCの辺縁趨向の主要な因子であることが示される。ヘマトクリット値を増大させると、細胞間相互作用の増大が促進され、変形能の低いiRBCがチャネルの側壁へと駆逐され、これにより、感染細胞の効率的な分離が可能となり、これにより、変形能の低いiRBCを分離するための細胞の辺縁趨向の使用が裏付けられ、鎌状赤血球貧血および白血病など、赤血球の硬さの変化を特徴とする他の疾患を診断するのにこの技法を適用することが支持される。
【0065】
図5は、流速を変化させるときの、このiRBC辺縁趨向現象による分離効率を示す。この技法が、高流速(5μL/分)を含め、調べたすべての流動条件において同様な良好さで作用したことは、ハイスループットの分離を行う場合の重要な考慮点であり、これに注目することは重要である。予測される通り、iRBCはなお変形可能であり、このため、側方へと辺縁趨向する効率が低いので、iRBCの分離効率は、硬質のビーズにより測定した場合の分離効率ほど高くはなかった。
【0066】
最後に、濾過効率の精度を検証するため、蛍光活性化細胞分取(FACS)を用いて、出口における試料を解析した。ヘマトクリット値を40%とする血液懸濁物における、環状期iRBCおよび後期栄養体期/分裂体期iRBCの両方を、5μL/分でデバイスを介して送入し、流出物を回収し、FACSを用いて解析した。合計500,000のイベントを記録し、iRBCの分離効率のより正確な表示を得た。後期栄養体期/分裂体期iRBCによる実験の場合、側方出口と中央出口との間では、92%の濾過効率が測定された。これは、区画内のカウントデータと符合する(図6A)。側方出口が、3つの出口の容量のうちの50%を占めるので、側方出口におけるiRBC濃度は、注入試料と比較して2倍の濃縮率を示す。しかし、この数は、出口チャネルのデザインが最適化されていないことの影響を受けるものであり、同じ工程を反復しうる場合はさらに改善することができる。
【0067】
このiRBCの辺縁趨向を、マラリアの診断に適用するには、環状期iRBCを濃縮することが重要である。典型的にはマラリア感染患者において、後期(栄養体期/分裂体期)iRBCは、毛細血管後細静脈内に付着閉塞し、マラリア感染を検出するために、末梢血流中で循環するのが観察されるのは、環状期iRBCだけである(Demirev PAら(2002)、Analytical Chemistry.74(14):3262〜3266;およびGascoyne Pら(2002)、Lab on a Chip 2(2):70〜75)。最適化させた分離条件(40%のヘマトクリット値、5μL/分)下において、環状期iRBCについてのこの技法の分離効率を調べ、FACSを用いて、回収された流出物を解析した(図6B)。環状期iRBCは、細胞表面積対容量比の減少、および細胞膜の硬化のために、非感染細胞よりわずかに硬化するに過ぎない(Suresh Sら(2005),Acta Biomaterialia,1(1):15〜30;Nash GBら(1989),Blood.74(2):855〜861;およびHerricks Tら(2009),Cellular Microbiology.11(9):1340〜1353)。しかし、iRBCを濾過するのにこの辺縁趨向現象を用いると、変形能のこのわずかな差異でもなお利用することができる。環状期iRBCの分離効率が、後期iRBCの分離効率より低いことは当然である。結果は、環状期iRBCもまた、チャネルの側方へと辺縁趨向し、約80%の分離効率を結果としてもたらすことを示す。収集されたビデオ画像を解析したところ、後期iRBCが側壁へと完全に駆逐されるのに対し、早期iRBCは、それほどは駆逐されないことが認められた。これは、例えば、より長型のマイクロチャネルを用い、これにより、環状期iRBCに、側壁へと完全に辺縁趨向するのに十分な時間を与えることで、さらに改善することができる。また、出口を適切な形で分割することにより(例えば、3つのアーム間で、1:2:1の比を用いるのではなく、1:10:1の幅比を用いることにより)、開発したマイクロ流体デバイスを、低度の寄生虫血における検出感度を改善したマラリア診断のための濃縮ツールとして用いることもまた可能であろう。
【0068】
より硬いiRBCは、白血球のように挙動し、側壁への辺縁趨向を受ける。これを裏付けることにより、iRBCの微小循環による血行力学的効果、および細胞接着性に対するその病態生理的重要性に対する洞察がもたらされる。前出で言及した通り、iRBCにおける2つの重要な形態変化は、iRBC膜の接着性の増大、および変形能の低下である。これらの変化は、重度のマラリアの発症機序において枢要であり、各種の宿主細胞へのiRBCの細胞接着をもたらす。これらのiRBCの毛細血管壁への辺縁趨向はまた、細静脈の毛細血管における付着閉塞ももたらし、微小循環を含む毛細血管の閉塞の一因となる(Dondrop AMら(2000),Parasitology Today.16(6):228〜232;およびCooke BMら(2000),Parasitology Today.16(10):416〜420)。Hoらは、iRBCによる内皮への細胞接着が、ローリングおよび接着など、多段階による白血球動員を模倣し、この過程が、ヒトの毛細血管後の細静脈、および細動脈系の両方において生じたことを、in vivoにおいて示している(Ho Mら(2000)、Journal of Experimental Medicine.192(8):1205〜1211)。示された結果は、硬い後期栄養体期/分裂体期iRBCが、側方へと駆逐され、マイクロチャネルの辺縁を流動することを示す。in vivoなら、これは、iRBCが側方へと分枝する小型の毛細血管へと侵入し、結果として、その後、iRBCが毛細血管床に付着閉塞することを促進するであろう。また、生理学的な細動脈流に類似する広範な流動条件(Re=0.01〜2.22)にわたっても、iRBCの辺縁趨向について調べられており(Popel ASら(2005),Annual Review of Fluid Mechanics. 37:43〜69)、in vivoにおける付着閉塞および細胞接着に対する変形能低下の役割がさらに確認されている。
【0069】
生理学的な細胞辺縁趨向現象を、マイクロ流体デバイスにおける持続的な変形能ベースのiRBC濾過を達成するのに適用した。この技法は、他のマイクロ流体分離法を上回る多くの顕著な利点をもたらす。まず、持続的な作動方式は、試料のハイスループット(5μL/分;1分間当たりの細胞約2000万個)を可能とし、低度の寄生虫血における検出感度を増強する(Gascoyne Pら(2002),Lab on a Chip.2(2):70〜75;Zimmerman PAら(2006),American Journal of Tropical Medicine and Hygiene.74(4):568〜572)。パッシブの作動原理は、機能性のために外力の場を組み込む必要を排し、このマイクロ流体デバイスを現場環境に理想的なものとしている。患者に由来する全血液を、直接検査することができるので、他のマイクロスケールにおける分離法とは異なり、試料の調製ステップが不要であり(Zimmerman PAら(2006),American Journal of Tropical Medicine and Hygiene.74(4):568〜572;Karl Sら(2008),Malaria Journal.7(1):66)、処理時間がさらに短縮され、処理費用がさらに削減される。また、特別な化学物質または抗体も不要なので、高温多湿の気候に悩まされ、保冷庫が不足するマラリア罹患諸国にとって主要な憂慮点である、試薬の保存問題を解決する一助となっている(Stevens DYら(2008),Lab on a Chip.8(12):2038〜2045)。最後に、このデバイスの費用低廉でディスポーザブルな性格は、このデバイスを、現場臨床に理想的なものとしている。
【0070】
[結論]
本明細書では、生体模倣性の細胞辺縁趨向に基づくマイクロ流体デバイスにおける持続的な変形能ベースのiRBC濾過法を導入する。本明細書では、より硬いiRBCが、白血球と同様に挙動し、生理学的条件下において、側壁へと辺縁趨向することが裏付けられる。結果は、広範な流速にわたり観察された最適の辺縁趨向のためには、試料の高ヘマトクリット値(40%)が重要であったことを示す。試験は、5μL/分の比較的高度のスループットにおいて、全血液と混合した環状期iRBCおよび後期栄養体期/分裂体期iRBCの両方により実施した。濾過効率は、区画カウント法およびFACS解析を個別に用いて決定した。報告される結果は、早期環状期iRBCには約75%、および後期栄養体期/分裂体期iRBCには>90%の高濾過効率を示す。さらなる試料の改変および調製の必要を排するこのパッシブのマイクロ流体デバイスでは、全血液試料を直接用いうるので、この技法は、医療資源の乏しい環境におけるオンサイトの検査に理想的であり、診断をより迅速およびより正確なものとする。最後に、分離の原理が、内因性バイオマーカーとしての変形能の差違に基づくので、デバイスは、これらもまた細胞の硬さの変化により特徴づけられる、鎌状赤血球貧血および白血病など、他の血液細胞疾患にも容易に適用することができる。
【実施例2】
【0071】
[螺旋状マイクロ流体素子における細胞周期の同調]
[材料および方法]
[細胞の培養]
1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen、USA)と併せて10%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen、USA)を補充した、低グルコースのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen、USA)中で、間葉系幹細胞(Lonza、Switzerland)を培養した。1%ペニシリン−ストレプトマイシンと併せて10%FBSを補充した、RPMI 1640培地(Invitrogen、USA)中で、ヒトCD36をトランスフェクトしたチャイニーズハムスター卵巣細胞であるCHO−CD36細胞(ATCC、USA)を培養した。10%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充した、低グルコースのDMEM中で子宮頸癌細胞であるHeLa細胞(CCL−2(商標)、ATCC、USA)を培養した。胆管癌腫細胞系であるKKU−100細胞(恵与による)を、10%FBS、3%HEPES緩衝液、および1%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有するハムF−12培地中で培養した。すべての培養物を、5%(v/v)CO2を含有する加湿雰囲気中で37℃に維持した。1cm2当たりの細胞500個でMSCを播種し、175cm2の滅菌フラスコ(Corning)内で培養し、48時間後に0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液により解離させて、接触阻害を阻止した。CHO−CD36細胞、HeLa細胞、およびKKU−100細胞を、25cm2の滅菌フラスコ(Corning)内で培養し、毎週3回ずつ継代培養(1:4)し、48時間ごとに培地を置換した。コンフルエント未満の単層は、0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液により解離した。
【0072】
試験の前に、非同調細胞を、1%のウシ血清アルブミン(BSA)(Miltenyi Biotec、Germany)を補充した、1倍濃度のリン酸緩衝生理食塩液(PBS)、2mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含有する緩衝液中で、1mL当たりの細胞100,000個まで希釈し、凝集およびマイクロチャネル壁面への吸着を阻止した。3.5%w/vのデキストラン40(AppliChem Asia、Singapore)を補充することにより、細胞の沈殿を阻止するように、溶液密度を調整した。
【0073】
[接触阻害および血清飢餓による間葉系幹細胞の同調]
接触阻害によりG1期の停止を開始させるため、1cm2当たりの細胞20,000個でMSCを播種し、10%FBSを補充したDMEM中で48時間にわたり培養した。血清飢餓によりG1期を停止させるため、1cm2当たりの細胞500個でMSCを播種し、FBSを伴わないDMEM中で48時間にわたり培養した。停止された細胞を、0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液により解離してから、70%のエタノール中で30分間にわたり固定した。
【0074】
[マイクロチャネルの製作]
デバイスは、標準的なソフトリソグラフ法(Xia,Y.ら,Annual Review of Materials Science,1998,28(1):153〜184ページ)を用いて、ポリジメチルシロキサン(PDMS、Sylgard 184、Dow Corning,USA)により製作した(図9A)。略述すると、まず、6インチのシリコンウェハーにパターンを描き、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を用いてエッチングし、ウェハー上にチャネルを画定する。エッチングの後、パターンが描かれたシリコンウェハーを、トリクロロ(1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチル)シラン(Sigma Aldrich、USA)で2時間にわたり処理して、PDMS鋳型のリリースを促進した。シラン化の後、硬化剤と10:1(w/w)の比で混合したPDMSプレポリマーを、シリコン原型へと注入し、70℃で2.5時間にわたり硬化させた。次いで、硬化したPDMS鋳型をシリコンウェハーから剥離させ、その後のPDMS鋳造のための母型として用いた。次に、このPDMS母型を2時間にわたりシラン化し、その後のPDMS鋳型のリリースを支援した。所望のパターンによる最終PDMS鋳型における硬化の後、1.5mmの生検用パンチを用いて、入口および出口のための小孔を開けた。次いで、PDMS鋳型を酸素プラズマ処理(Covance、Femto Science、South Korea)を用いて、顕微鏡用スライドガラス(1インチ×3インチ×1mm;Fisher Scientific Inc.,USA)に不可逆的に接着させた。
【0075】
[デバイスの特徴づけ]
蛍光ポリスチレンビーズ(25μm:緑色、15μm:青色、および10μm:赤色)(ITS Science & Medical,Singapore)を、均等の比率で、1%BSAを伴う1×PBSおよび3.5(w/v)倍濃度のデキストラン40中に、1mL当たりのビーズ1.2×105個の総濃度で懸濁させた。螺旋状マイクロ流体デバイスを特徴づけるために、ビーズの混合物および細胞懸濁液を60mLのシリンジに充填し、2.5mL/分の流速で駆動されるシリンジポンプ(NE−1000、New Era Syringe Pump Systems Inc.,USA)を用いて、マイクロチャネル内に注射した。12ビットのEMCCDカメラ(iXonEM+ 885、Andor Technology、USA)を装備した倒立型落射蛍光顕微鏡(Olympus IX81、Olympus Inc.,USA)を用いて、流動を実験的に観察した。試験後、出口から回収される細胞試料の顕微鏡画像を収集し、Metamorph(登録商標)ソフトウェア(Molecular Devices、USA)を用いて、細胞サイズを写真から計算した。
【0076】
[FACSを用いる細胞周期の解析]
分取された試料に対して、ヨウ化プロピジウム(PI)を用いるフローサイトメトリー解析を実施し、細胞内のDNA含量を解析した(Wersto,R.P.ら,Cytometry Part B:Clinical Cytometry、2001.46(5):296〜306ページ)。分取された同調細胞試料は、1×PBS中で洗浄し、70%のエタノール中、4℃で30分間にわたり固定した。次いで、600gで5分間にわたり細胞を遠心分離し、1×PBS、3.8mMのクエン酸ナトリウム(Sigma Aldrich、USA)、10μg/mlのRNアーゼ(i−DNA Biotechnology、Singapore)、および50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma Aldrich、USA)を含有する染色溶液中で30分間にわたりインキュベートした。次いで、BD(商標)LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences、USA)およびCyflogic(CyFlo Ltd、Finland)データ解析ソフトウェアを用いるFACS解析を実施することにより、染色した細胞を、同調効率について調べた。
【0077】
[結果および考察]
[デザイン原理]
図9Aは、螺旋状分離装置の概略図を示す。マイクロ流体システムにおいて慣性力を用いる、サイズベースの細胞分離は、それらの高分離分解能、および極めて高度なスループットのために関心を集めている。ポアズイユ流条件下にある単純な粒子含有管内流では、せん断誘導性揚力と壁面誘導性揚力との均衡により、懸濁する粒子を、管辺縁部の周囲に環状形に平衡化させる、「管状絞込み」効果が生じる(Segre,G.,Nature、1961、189:209〜210ページ;Segre,G.ら,Journal of fluid mechanics,1962,14(01):115〜135ページ;Matas,J.P.ら,Journal of fluid mechanics,2004,515:171〜195ページ)。ChunおよびLaddは、断面が矩形のチャネルでは、揚力(FL)が、チャネル断面にわたる8カ所の異なる位置において粒子を平衡化させることから、管と比較した対称性の破れが反映されることを裏付けた(Chun,Bら,Physics of Fluids、2006、18:031704ページ)。Asomolovによる数値計算は、この揚力が、粒子サイズ(d)に極めて感受性であり、その4乗に伴って変化する(FL∝d4)ことを示す(Asmolov,E.S.,Journal of fluid mechanics,1999,381:63〜87ページ)。近年、この慣性による粒子の移動が、1.9μmの粒子と590nmの粒子とを分離するためのマイクロチャネル流において用いられている(Bhagat,A.A.S.ら,Microfluidics and Nanofluidics、2009、7(2):217〜226ページ)。d/D≧0.07[式中、Dは、マイクロチャネルの直径である]では、これらの慣性揚力が顕著に大きく、この結果、粒子の平衡化が短い距離内で生じ、マイクロ流体システムにとって理想的となることを研究は示している(Bhagat,A.A.S.ら,Microfluidics and Nanofluidics,2009,7(2):217〜226ページ;Di Carlo, D.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007、104(48):18892ページ; Hampton, R.E.ら, Migration of particles undergoing pressure−driven flow in a circular conduit. Journal of Rheology, 1997.41:621ページ)。低アスペクト比の矩形マイクロチャネルでは、マイクロチャネルの直径Dを、マイクロチャネルの高さ(H)に近似することができる(Bhagat,A.A.S.ら,Physics of Fluids,2008、20:101702ページ)。
【0078】
螺旋形状のマイクロチャネルでは、外向きの遠心力により、マイクロチャネルの上半分および下半分において、ディーン渦としてもまた知られる反転渦がもたらされる。これらの二次的なディーン渦は、懸濁する粒子に対して抗力を及ぼし、粒子を渦の中に引き込む。このディーン抗力(FD)の大きさは、粒子サイズおよびチャネル断面内の粒子の位置に伴って変化する(FD∝d)。したがって、螺旋状マイクロチャネル内を流動する粒子は、慣性揚力およびディーン抗力の両方の下に置かれる。慣性揚力(FL)と、ディーン抗力(FD)との相互作用により、8カ所の平衡位置は、各々がディーン渦の上腕内および下腕内にある、チャネル内壁近傍の2カ所だけに縮減される(Russom,A.ら,New Journal of Physics、2009,11:075025ページ)。2カ所の平衡位置は、マイクロチャネルの高さに沿って互いに重なり合い、所与の粒子サイズに対して、マイクロチャネルの内壁から同じ距離に位置する、すなわち、マイクロチャネルの幅にわたる単一の位置として目視される(図9B)。このフォーカシング位置は、FLおよびFDの両方に依存するので、粒子サイズに伴って顕著に変化する(FL/FD∝d3)。これは、サイズの異なる粒子が、マイクロチャネル断面内で、側面方向の異なる位置を占め、最大の粒子が、チャネルの内壁に最も近接することを示唆する(Kuntaegowdanahalli,S.S.ら,Lab on a Chip,2009,9(20):2973〜2980ページ)。このため、分枝状出口をデザインすることにより、異なるサイズの画分が抽出され、分離が達成されることができる。
【0079】
慣性揚力とディーン力との組合せ効果を用いる、持続的なサイズベースの分離は、Kuntaegowdanahalliらにより、単回の通過による10μm、15μm、および20μmの粒子の分離、およびSH−SY5Y神経芽腫細胞とC6ラット神経膠腫細胞との分離に適用された(Kuntaegowdanahalli,S.S.ら,Lab on a Chip,2009、9(20):2973〜2980ページ)。Russomらは、この技法を、血液中における白血球の濃縮を達成するのにさらに適用した(Russom,A.ら,New Journal of Physics、2009、11:075025ページ)。本研究において、本発明者らは、この原理を、細胞周期におけるそれらの相に基づいて細胞を同調させるのに適合させた。このデバイスの作動原理は、細胞容量(および、したがって、細胞サイズ)と細胞周期におけるその相との関係を利用して、細胞を同調させる。本明細書で説明する通り、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を、G1/G2期細胞、S期細胞、およびG2/M期細胞の同調集団へとサイズにより画分化した。
【0080】
デザイン原理を裏付け、流動条件を決定するため、螺旋状マイクロチャネル内で、サイズが25μm、15μm、および10μmの蛍光標識したポリスチレンビーズの混合物を調べた。ビーズの直径は、哺乳動物細胞のサイズ範囲を模倣するように選択した。マイクロチャネルのデザインは、1つの入口および8つの分枝状出口を伴う、9つのループによる螺旋形状からなった。異なる細胞型について、マイクロチャネルの幅は、500μmで固定し、高さは、d/D比が>0.07を満たすように変化させた。図9Bは、2.5mL/分の最適化させた流速で、マイクロチャネルの入口および出口において収集したマイクロビーズの蛍光重ね合せ画像を示す。流動が出口に到達する時間までに、25μm、15μm、および10μmのビーズは、マイクロチャネル断面にわたる3つの異なる流れにフォーカスされ、それぞれ、出口1、出口2、および出口3において効率的に回収される。
【0081】
[永久培養物の同調]
指数関数的に増殖する哺乳動物細胞培養物では、G1期の新生細胞が、この培養物のサイズ分布の下端のサイズである(Cooper,S.,Cellular and Molecular Life Sciences,2003,60(6):1099〜1106ページ)。細胞が、タンパク質および脂質の合成を介して臨界サイズとなったとき、細胞は、後期G1期において新たな細胞周期を開始し、S期においてDNAを合成する。細胞成長は、細胞が、G0/G1期における細胞の元のサイズの約2倍まで成長する有糸分裂期(M期)まで持続する。これに対応して、G2/M期における細胞は、2コピーずつのDNAを有する。
【0082】
2つの癌細胞系(HeLa細胞およびKKU−100細胞)を用いて、デバイスの同調性能を探索した。HeLa細胞集団およびKKU−100細胞集団の平均直径が、それぞれ、16.3±2.5μmおよび17.8±2.4μmと測定されたので、高さ140μmの螺旋状マイクロチャネル(d/H≧0.07の条件を満たす)を用いて細胞を分取した。細胞をマイクロチャネルに導入すると、サイズ分布が広範な非同調細胞が、マイクロチャネルの内側の半分に沿った、側面方向の異なる位置において、異なる軌跡へと分離される。分取後、出口1〜4から回収される非分取(対照)細胞および分取細胞の光学顕微鏡画像を撮影し、これらの直径を記録および解析した。細胞を、それらのサイズに基づき分離することに成功した。最大の細胞集団は、マイクロチャネルの内壁に最も近接した出口(出口1)において回収され、平均直径は、19.4±5.6μm(HeLa)および24.6±3.0μm(KKU−100)であった。最小のHeLa細胞集団およびKKU−100細胞集団は、出口4において回収され、平均直径は、それぞれ、13.5±1.5μmおよび16.6±2.4μmであった。同様に、別の細胞系であるCHO−CD36細胞もまた、より大型のサイズ分布(13.3〜36.7μm)を収容する、高さ200μmのマイクロチャネルを用いて、サイズにより画分化した。
【0083】
細胞周期の異なる相にある細胞は、細胞内のDNA含量により識別することができる。異なる相における分離細胞の分布は、フローサイトメトリー解析を用いて推定した。前出で言及した通り、G2/M期にある細胞のDNA蛍光強度は、G0/G1期にある細胞の2倍であることが典型的である。各相における細胞の百分率を計算し、二倍体または凝集体の細胞は、蛍光のパルス面積対パルス幅のプロットを用いて識別した(Wersto,R.P.ら,Cytometry Part B:Clinical Cytometry,2001.46(5):296〜306ページ)。図10A〜10Cは、HeLa細胞、KKU−100細胞、およびCHO−CD36細胞を同調させた後、G0/G1期、S期、およびG2/M期において分取された一倍体細胞のDNA含量の分布を示すヒストグラムを表示する。分離後、出口4から回収された細胞では、高度の細胞同調性が達成され、HeLa細胞のうちの84%、KKU−100細胞のうちの96%、およびCHO−CD36細胞のうちの86%が、G0/G1期に同調した。同時に、出口1から回収された細胞でも、G2/M期における2〜3倍の濃縮が達成された。
【表1】
【0084】
これらの結果は、他のマイクロ流体システムを用いて報告された結果(Kim,U.ら,Proceedings of the National Academy of Sciences,2007,104(52):20708ページ;Thevoz,P.ら,Analytical chemistry,2010,82:3094〜3098ページ;Choi,S.ら,Analytical chemistry,2009,81(5):1964〜1968ページ;Migita,Sら,Analytical Methods,2010,2:657〜660ページ)と同等である。しかし、本技法の高度な流動スループットは、報告されている他のマイクロフルイディクス法より顕著に高量である、1時間当たりの細胞約15×106個を画分化することが可能である。パッシブの分取原理はまた、>90%の細胞生存率も確保する。各種のマイクロ流体細胞周期同調システムの概要を表2に示す。
【表2】
【0085】
[初代培養物(ヒト間葉系幹細胞(hMSC))の同調]
次いで、デバイスが、初代細胞系(骨髄)由来のヒト間葉系幹細胞(hMSC)を同調させる能力について調べた。癌細胞系または形質転換細胞系と異なり、hMSCは、接触阻害に対する感受性が高い。1500cm−2および3000cm−2の密度で播種したhMSCの細胞内DNA含量を解析すると、培養の2日後において、S期およびG2/M期の細胞が実質的に少なくなる。したがって、S期の細胞集団およびG2/M期の細胞集団を濃縮するため、500cm−2のより低密度で細胞を播種し、2日間にわたり培養してから分取した。図11A〜11Cは、出口1〜4から回収された分取hMSCの光学顕微鏡写真および生存率の結果を示す。出口1から回収されたhMSCの平均細胞直径は、23.5±5.6μmであり、出口4から回収された細胞(約15.5±2.1μm)より顕著に大きかった。分離後、トリパンブルー除外アッセイおよび長時間にわたる再培養により、細胞の生存率を評価した。分取細胞の生存率は、対照の非分取MSCの生存率と同様であり、各出口から回収された細胞のうちの90%超が色素を含まなかったことから、いかなる物理的な損傷を与えずに細胞が分取されたことが示される(図11B)。培養の14日後、分取hMSCの形態が、非分取(対照)細胞の形態と類似していたことから、分取後においても細胞生存率が維持されていることがさらに裏付けられる(図11C)。
【0086】
DNAについてのヒストグラムにより示される通り、対照のMSC培養物では、細胞のうちの56.2%がG0/G1期にあり、24.3%がS期にあり、19.9%がG2/M期にあることが判明した(図12)。同調後、出口2から回収された細胞集団が、S期にある細胞集団およびG2/M期にある細胞集団を組み合わせて72.7%であったのに対し、出口4からの細胞のうちの86.1%は、G0/G1期に同調していた(表1)。これらの結果は、非同調試料の3:1のG0/G1期集団対G2/M期集団の比が、出口4で回収される試料では、16:1へと濃縮されていることを示す。同様に、出口1で回収された試料では、G2/M期集団の4倍の濃縮が得られる。
【0087】
hMSCがG0/G1期で同調していたことを実験的に裏付けるために、最小のhMSC集団(出口4)の同調性を、血清飢餓および接触阻害によりG0/G1期で停止させたhMSCと比較した。接触阻害による76.4%、および48時間にわたる血清飢餓による77.5%と比較して、デバイスの出口4から回収されたhMSCのうちの86.2%が、G0/G1期で同調していることが判明した。出口4から回収されるhMSCの対応する直径(15.5±2.1μm)は、血清飢餓細胞(16.9±4.2μm)および接触阻害細胞(23.3±3.8μm)よりサイズ分布が狭い。接触阻害は、DNA量が同様の細胞をもたらしたが、停止させた集団の細胞サイズは、元の培養物と同程度に均質性を欠いていた(21.9±3.5μm)ことが注目された。同調の成功についての主要な基準は、同調細胞集団におけるDNA含量が同様なことであるが、細胞のサイズ分布もまた、初期細胞と比較して、比較的均一なことである(Cooper,S.,Cellular and Molecular Life Sciences,2003,60(6):1099〜1106ページ)。接触阻害群の細胞直径が広範囲にばらついていることは、細胞が、同様のDNA量を伴って停止しただけであり、タンパク質および質量の合成をもたらす他の細胞過程が真に同調したわけではなかったことを示す。これに対し、培養物から血清を除去した場合は、G1期のDNA量を有するhMSCを同調させ、物質合成を停止させたが、細胞のサイズ範囲は、本発明者らのデバイスにより同調させた細胞と比較して、やはり比較的大きかった。したがって、血清飢餓細胞は、DNA量は比較的同様であったが、真に同調していたわけではなかった。また、血清飢餓させたhMSCの形状は、比較的多くの気泡を伴ってより不規則であったことから、血清飢餓に誘導されるストレス下においては、hMSCの正常な生理状態の破壊が示されることも注目された。
【0088】
デバイスにより同調させたhMSCが、同調分裂を経過するかどうかを、次に探索した。同調した細胞は、同様のサイズおよびDNA含量を有するだけでなく、比較的均一なコホートとして細胞周期を経過しうるということを基本的な仮定とする。この仮説を検証するため、G0/G1期における同調性を86%とする、出口4から回収したhMSCを再播種し、24、48、および72時間後にそれらのDNA含量を解析した(図13)。興味深いことに、培養の24時間後、S期およびG2/M期にある細胞の百分率が79.7%であったことから、G0/G1期の細胞の大半が、後続の相へと進行したことが示される(表3)。
【表3】
【0089】
哺乳動物細胞は、G1/S期に16〜24時間とどまり、G2/M期にとどまるのは約2〜3時間だけであることが典型的である(Kim,U.ら,「Selection of mammalian cells based on their cell−cycle phase using dielectrophoresis」,Proceedings of the National Academy of Sciences、2007、104(52):20708ページ)。したがって、培養の24時間後には、細胞の大半が、S期およびG2/M期にあることが見出されると予測される。しかし、細胞の同調性は、分裂間期における確率的変動の結果として、時間と共に減衰した。細胞増殖の接触阻害により、G0/G1期のhMSC集団が、培養の74時間後に69.4%へと増大した。アフィジコリン、ロスコビチン、およびコルヒチンなど、多くの化学的方法または「バッチ処理」が、細胞培養物を、その細胞培養物の特定の相で停止させるのに用いられているが、正常な細胞周期の進行は破壊されることが多い(Choi,S.ら,Analytical chemistry,2009,81(5):1964〜1968ページ)。例えば、Whitfieldらは、チミジン−ノコダゾール遮断を用いて、HeLa細胞をG2期で停止させた(Whitfield,M.L.ら,Molecular Biology of the Cell,2002,13(6):1977ページ)。停止手順を解除して12時間後、ただ1つの相または多くとも2つの相に由来する細胞ではなく、細胞周期のすべての相に由来する細胞が存在した。これに対し、本明細書における結果は、デバイスにより同調させたhMSCが示す細胞分裂は、比較的同調していることを示す。
【0090】
[結論]
本明細書では、哺乳動物細胞を、サイズに基づいて細胞周期の異なる段階へと画分化するのに、慣性力とディーン抗力との組合せ効果を用いる、螺旋状マイクロ流体デバイスの適用が裏付けられる。デバイスは、極めて高度な試料スループット(1時間当たりの細胞約15×106個)を可能とし、これにより、試料の処理時間を顕著に短縮する持続的作動を含め、他のマイクロ流体による分離法を上回る多くの顕著な利点をもたらす。パッシブの作動原理は、機能性のための外力の場または阻害性化学物質を組み込む必要を排し、これにより、分取細胞の完全性および生存率が保存される(>90%)。したがって、本明細書では、マイクロフルイディクスの使用により、生存率を顕著に上昇させながら、細胞周期を同調させるハイスループットがもたらされることが裏付けられる。哺乳動物細胞の懸濁液を直接分離し、同調させうるので、FACSおよびCCEなどの他の方法とは異なり、試料の調製ステップが不要であり、処理時間がさらに短縮され、処理費用がさらに削減される。細胞周期用のマイクロ流体デバイスの性質が、ハイスループットであり、かつ侵襲性を最小とするものであるとすれば、バイオテクノロジーに関する研究において様々に適用することができ、有用となりうるであろう。
【実施例3】
【0091】
[循環腫瘍細胞をハイスループットで単離するための、せん断変調型希少細胞抽出法によるバイオチップ]
[材料および方法]
[細胞の培養および試料の調製]
本研究では、2つのヒト乳腺癌腫細胞系であるMCF−7細胞およびMDA−MB−231細胞について調べた。1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen、USA)と併せて10%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen、USA)を補充した、低グルコースのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen、USA)中で、MCF−7細胞(HTB−22TM、ATCC、USA)およびMDA−MB−231細胞(HTB−26TM、ATCC、USA)を培養した。培養物を、5%(v/v)CO2を含有する加湿雰囲気中で37℃に維持した。細胞を、25cm2の滅菌フラスコ(Corning)内で培養し、毎週3回ずつ継代培養(1:4)し、48時間ごとに培地を置換した。コンフルエント未満の単層は、0.01%トリプシンおよび5.3mM EDTA溶液(Lonza、Switzerland)により解離した。対照実験および回収実験のため、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)(Miltenyi Biotec、Germany)を補充した、1倍濃度のリン酸緩衝生理食塩液(PBS)、2mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含有する緩衝液中で癌細胞を希釈し、配管およびマイクロチャネル壁面への非特異的吸着を阻止した。3%w/vのデキストラン40(AppliChem Asia、Singapore)を補充することにより、細胞の沈殿を防止するように、緩衝液密度を増大させた(Hou,H.W.ら,Lab on a chip、2010、10(19):2605〜2613ページ)。RBC平衡化実験では、健常ドナーから得た全血液をスピンダウンして、RBCを分離した。最終的な試料濃度を、試料緩衝液により相応に、多様なヘマトクリット値(0.5%〜5%)に調整した。白血球対照実験では、製造元の指示書に従い、全血液を、RBC溶解緩衝液(eBioscience、USA)により処理して、純粋な白血球集団を得た。
【0092】
[マイクロチャネルの製作]
デバイスは、二重鋳型形成工程(Hou,H.W.ら,Lab on a chip,2010,10(19):2605〜2613ページ)を用いて、ポリジメチルシロキサンポリマー(PDMS、Sylgard 184、Dow Corning、USA)により製作した。まず、収縮−拡張マイクロチャネルはAZ(登録商標)P4620フォトレジストを用いて、シリコンウェハーにパターンを描いた。リソグラフ法に従い、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を用いてマイクロチャネルをシリコンにエッチングした。次に、フォトレジストを剥離し、パターンが描かれたシリコンウェハーを、トリクロロ(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)シラン(Sigma Aldrich、USA)で2時間にわたりシラン化して、PDMS鋳型のリリースを促進した。次いで、硬化剤と5:1(w/w)の比で混合したPDMSプレポリマーを、シリコンウェハーへと注入し、70℃で2時間にわたり硬化させた。より高比率の硬化剤を用いて、架橋形成の増大を促進し、これにより、容易に変形しがちである高アスペクト比の構造を製作するために、PDMS鋳型の硬さを増大させた。この硬化させたPDMS鋳型が、今度は、その後のPDMS鋳造のための原型(陰画の複製)として作用する。次いで、このPDMS母型を2時間にわたりシラン化し、その後の、パターン化されたマイクロチャネルを伴うPDMS鋳型のリリースを促進した。最後に、入口および出口のための小孔を開け、次いで、短時間にわたり、酸素プラズマ環境(Covance、Femto Science、South Korea)へと曝露することにより、PDMS鋳型を、顕微鏡用スライドガラスに不可逆的に接着させた。プラズマ処理の後、表面を互いと速やかに接触させ、70℃で3時間にわたり静置して、接着を完了させる。
【0093】
[デバイスの特徴づけ]
試験の間、シリンジポンプ(NE−1000、New Era Pump Systems Inc.,USA)を用いてレイノルズ数(Re)を変化させながら、マイクロ流体デバイス内に試料を送入した。マイクロチャネルを、ハイスピードCCDカメラ(FASTCAM 1024 PCI、Photron、USA)を装備した倒立型位相差顕微鏡(Olympus IX71)に取り付けた。次いで、チャネルの出口において収集されるハイスピードのビデオ画像を、ImageJ(登録商標)ソフトウェアを用いて解析した。
【0094】
[免疫蛍光染色およびFACS解析]
中央出口における試料および側方出口における試料に対してBD(商標)LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences、USA)を用いるフローサイトメトリー解析を実施することにより、回収効率、回収率および濃縮率を決定するために実施された実験からの結果を解析した。免疫蛍光染色により、目視観察および定量化のために、多様な細胞型を差別化することが可能となった。流出試料を、15分間にわたりFcRブロッキング試薬と共にインキュベートして(1:100;Miltenyi Biotec Asia Pacific、Singapore)、非特異的結合を遮断した後、40分間にわたり、アロフィコシアニン(APC)コンジュゲート内皮細胞接着分子(EpCAM)と共にインキュベートし(1:100;Miltenyi Biotec Asia Pacific、Singapore)、癌細胞を同定した。40分間にわたりイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)コンジュゲートCD45(1:100;Miltenyi Biotec Asia Pacific、Singapore)マーカーで染色することにより、末梢血白血球を同定した。
【0095】
[結果および考察]
RBCは、すべての血液細胞のうちの>99%を占めるので、有意義な濃縮を達成するには、RBCを完全に除去することが枢要である。マイクロチャネルのデザインおよび試験条件は、マイクロチャネルのアスペクト比、流速、および試料のヘマトクリット値を含めた各種のパラメータが、RBCフォーカシングおよび側方出口からの除去に対して及ぼす影響を調べることにより最適化した。
【0096】
[アスペクト比(AR)の影響]
図17Aおよび17Bは、マイクロチャネルのアスペクト比がRBCフォーカシングに対して及ぼす影響を示す。断面が矩形のマイクロチャネルでは、チャネル断面にわたるせん断変調を利用して、チャネルの長手に沿って、細胞を優先的に平衡化させることができる。高アスペクト比の別の利点は、より高流速で試料を処理し、これにより、スループットを増大させる能力である。アスペクト比の影響を調べるため、高さ20μm、50μm、75μm、100μm、および150μmのマイクロチャネルを製作し、それぞれ、1、2.5、3.75、5、および7.5のアスペクト比を得た。チャネルにわたるRBC分布を、アスペクト比の関数として示す合成画像およびラインスキャンを、図17Aおよび17Bに示す。
【0097】
正方形のマイクロチャネル(AR=1)の場合、Re=100および1%のヘマトクリット値とするとき、RBCは、チャネル断面にわたり、フォーカスの弱い細胞リングを形成する環状形で平衡化する(概略的に示す)。断面にわたり均一の流体せん断は、細胞を、それらの平衡位置において強くフォーカスさせるのに、より長いマイクロチャネル長を要求する。アスペクト比を2.5に増大させると、チャネル幅にわたる細胞の優先的移動、およびマイクロチャネルの高さに沿った平衡化が開始される。しかし、ラインスキャンは、すべてのRBCが、所与のチャネル長で平衡位置にフォーカスしたわけではないことを明確に示す。アスペクト比を3.75とするマイクロチャネルでは、このマイクロチャネルの高さで、すべてのRBCが平衡化する。これは、マイクロチャネルの中央部に沿った、顕著な無細胞領域の形成により明らかである。アスペクト比を5へとさらに増大させると、チャネルの側壁へとより近接する、2つの強くフォーカスされた細胞バンドの移動が引き起こされる。本発明者らがマイクロチャネルのアスペクト比を7.5へと増大させると、興味深い効果が認められる。この極めて高度なアスペクト比のチャネルでは、フォーカスしたRBCバンドが、内側バンドと外側バンドの2つに分割されることが観察される。この観察は、慣性移動に対するアスペクト比の影響について調べる、ごく近年の実験およびモデル化による研究(Bhagat,A.A.S、「Shear−modulated inertial migration」,2009,University of Cincinnati,Cincinnati;Gupta,Aら,47th AIAA Aerospace Sciences Meeting,2009,Orlando)と符合する。この挙動の原因となる正確な機構はいまだ不明であり、さらなる探索に値する。しかし、この影響は、分離適用には好ましくなく、したがって、本発明者らは、本研究を、アスペクト比を最大で5とするチャネルに限定する。
【0098】
[レイノルズ数(Re)の影響]
図18A〜18Cは、RBCフォーカシングに対するReの影響を示す。ハイスループットを得るには、血液試料を高流速で処理することが必要である。AR=5(h=100μm)のマイクロチャネルにおいて、ヘマトクリットを1%とする試料を用いて試験を行った。Reを10〜150の範囲とするときのRBCの平衡化について調べた。デバイスの故障を結果としてもたらす、マイクロチャネルにわたる高度の圧力降下のために、より高度の流速について調べることはできなかった。低度の流速(Re≦25)では、RBCに作用する慣性揚力が粘性抗力より弱く、このため、平衡化が観察されない。流速をRe=50以上に増大させると、RBCが抗力を凌駕し、チャネルの側壁へと優先的に移動し、2つの十分に明確な細胞バンド(上方または下方から撮像すると、2つの異なるピークとして観察される)を形成することが可能となる。また、Reを増大させると、RBCの平衡位置が、マイクロチャネル壁面により近接するように移動することも観察された(Chun,Bら,Physics of Fluids,2006,18:031704ページ)。
【0099】
フォーカシングの程度をReの関数として定量化するため、2つのパラメータ:無細胞領域幅、および細胞バンド幅を定義した(図18B)。無細胞領域幅は、RBCを完全に欠いた、マイクロチャネル中央部における、標準化されたマイクロチャネル幅である。無細胞領域幅は、2つの細胞占有領域間における距離の半値全幅(FWHM)を測定することにより、RBCの確率分布プロファイルから計算される。同様に、RBCにより占有される領域のFWHMを測定することにより、細胞バンド幅が計算される。図18Cは、無細胞領域幅および細胞バンド幅をReの関数としてプロットする図である。Reが増大するにつれ、大きな慣性揚力により、より強いRBCフォーカシングが誘導される。これは、細胞バンドの幅の減少により明らかである(図18C)。結果として、無細胞領域幅は、流速の増大に伴い増大する。Reが低値(<100)のときは、RBCフォーカシングがより強まる結果として細胞バンド幅が減少することから、マイクロチャネルの中央部における無細胞領域の増大が説明される。Re=100を超えると、細胞バンド幅は一定を維持するが、2つのRBCバンドが、チャネル側壁により近接するように移動することにより、無細胞領域の増大が説明される。RBCフォーカシングおよび側方出口における回収を最適とするには、Reの範囲を強いフォーカシング領域(≧100)において操作することが重要である(図18C)。
【0100】
[ヘマトクリット値の影響]
次に、RBCフォーカシングをそれほど弱めることなく、これらのマイクロチャネルにおいて処理しうる最高度の試料ヘマトクリット値を決定した。全血液の処理(約40%のヘマトクリット値)を伴う適用では、高ヘマトクリット値を伴う操作により、処理時間および解析時間を短縮することが望ましい。無細胞領域幅および細胞バンド幅のパラメータを用いて、最適の試験条件を決定した。AR=5のマイクロチャネルにおいて、Re=100で、ヘマトクリット値を0.5%〜5%の範囲として、実験を実施した。ヘマトクリット値の増大がRBCの平衡化に対して及ぼす影響を示す合成画像およびラインスキャンを、図19A〜19Cに示す。流入するヘマトクリット値が増大するにつれ、RBCバンド幅が直線的に増大し、結果として、中央の無細胞領域幅が減少した。容量画分(ヘマトクリット値)を増大させるときは、平衡化位置を占拠しようとするRBCが増大する結果として、著明な細胞間相互作用により誘導される分散がもたらされるので、この傾向が予測される。
【0101】
ヘマトクリット値を3%以上へと増大させたところ、興味深い影響が観察された。前出の、アスペクト比を7.5とするマイクロチャネルで認められた通り、ここでもまた、細胞バンドが、内側および外側の2つの顕著なバンドへと分割されることが観察された。これらの複数のバンドの形成は、前出の、高アスペクト比のマイクロチャネルでも観察された(Gupta,Aら,47th AIAA Aerospace Sciences Meeting,2009,Orlando)が、今回の観察は、この現象の誘発に対して果たす容量画分の役割を示す。ここでもまた、これらの内側バンドおよび外側バンドの形成は、中央部の無細胞領域幅を減殺するので、分離適用には好ましくない。この理由で、本研究は、試験前に全血液を20倍に希釈することを示唆する、ヘマトクリット値の最大値を2%とする試料に限定される。
【0102】
[絞込み幅がCTCの単離および回収に及ぼす影響]
デザイン原理の節で言及した通り、希少細胞を他の血液細胞から成功裏に単離するには、「絞込み」幅を用いる。希少細胞の直径と同等である(希少細胞の直径より小さいか、または希少細胞の直径のオーダーにある)ように、この絞込み領域に沿った収縮幅をデザインすることにより、希少細胞が収縮チャネルを縦断するときに、希少細胞の効果的な「押込み」が確保される。しがたって、これらのより大型細胞の慣性の中心が、拡張領域へと流過するときに、マイクロチャネルの中心軸に沿って整列することから、分離が達成される(Yamada,M.ら,Anal.Chem.2004,76(18):5465〜5471ページ)(図20)。裏付けとして、この技法を、CTCを単離するのに用いた。
【0103】
測定による平均直径を、それぞれ、18.1±1.8μmおよび18.2±2.8μmとする、2つのヒト乳腺癌腫細胞系であるMCF−7細胞およびMDA−MB−231細胞について調べた。CTCの平均サイズは、15μmを超える(Tan,Sら,Biomedical Microdevices,2009,11(4):883〜892ページ;Vona,G.ら,American Journal of Pathology,2000,156(1):57〜63ページ)ので、絞込み幅を10μm、12μm、および15μmとするマイクロチャネルをデザインして、側方出口におけるCTCの喪失が最小となることを確保した。図21Aおよび21Bは、チャネルのReを増大させるときに、絞込み幅が、MCF−7細胞の分離に対して及ぼす影響を示す。低値のRe=50では、3つの収縮幅すべてについて、約95%の腫瘍細胞が、中央出口で回収された。Reを増大させたところ、おそらくは、層流による高度なせん断応力下では、癌細胞の変形能が大きいために、回収効率の低下が結果としてもたらされた(Lincoln,B.ら,Cytometry Part A,2004,59(2):203〜209ページ;Hou,H.W.ら,Biomedical microdevices,2009,11(3):557〜564ページ)。高流速では、懸濁細胞と担体緩衝液との表面張力による不適合から、界面間応力が誘導され、CTC形状の歪みがもたらされた。粘弾性の細胞は、球形から伸長した長球へと変形する(Born,C.ら,Biotechnology and Bioengineering,1992,40(9):1004〜1010ページ)。CTCが伸長すると、それらの臨界寸法が、初期直径より小さくなるので、このために、CTCの有効な絞込みが回避される。重要であるが見過ごされることの多い因子である、高流速において圧力に誘導されるPDMSの変形が生じれば、これもまた、高流速における回収効率の低下の部分的な原因となりうるであろう。硬質プラスチック(PMMA、COC)などの代替的材料を考慮すれば、この問題を克服する可能性が高く、これにより、回収効率が増大するであろう。CTCは、極めて希少な細胞集団なので、本研究では、90%の回収効率カットオフを目標とした。RBCだけで実施した実験からの結果は、Re=100の流動が、これらを側方出口から除去するのに最適であることを示唆する。これらの結果に基づいて10μmのチャネル幅を、効率的なCTC回収に選択した。MDA−MB−231細胞についても、同様の結果が観察された。
【0104】
絞込み領域を通過する癌細胞は、無視できない変形を受けるので、癌細胞が受ける大きな応力および高度のせん断のために、癌細胞の完全性および生存率が懸念される。分離後、方法節で説明した手順を用いて、MCF−7細胞を再播種して培養物中に戻すことにより、細胞の生存率を調べ、細胞の増殖(proliferationおよびgrowth)を観察した。培養の4日後、単離MCF−7細胞の増殖速度は、対照細胞の増殖速度と同様であり、形態には認識可能な変化が見られなかった。結果は、開発された技法が、単離時において細胞に対して及ぼす影響は最小限であり、分取後における高い細胞生存率を維持することを裏付ける。
【0105】
その後の下流におけるCTC解析では、単離試料には末梢血白血球(PBL)が存在するために、夾雑を最小化することが重要である。PBLを除去するデバイスの効率を評価するため、RBC溶解により単離されたヒト白血球の純粋集団を、Reを変化させながらマイクロチャネル(絞込み幅=10μm)内に流した。ヒト白血球の平均直径は、直径10μmより小さい(Sethu,P.ら,Lab on a Chip,2006,6(1):83〜89ページ;Schmid−Schonbein,G.W.ら,Blood,1980,56(5):866ページ;Downey,G.Pら,Journal of Applied Physiology、1990、69(5):1767ページ)ので、細胞絞込み領域におけるPBLの流路は変化せずに維持され、このため、側方出口から濾出される(図21B)。図から明らかである通り、Re=50および75のときは、慣性による細胞フォーカシングが弱いために、PBLの画分が、中央出口においてなおも回収される。しかし、Re≧100では、すべての白血球が、チャネルの側壁に沿って平衡化し、中央出口では細胞が回収されなかった(回収効率は約0%)。
【0106】
デバイスの性能をさらに評価するため、濃度を変化させるMCF−7細胞を、PBS緩衝液中にスパイクし、バイオチップの中央出口から回収した。FACSを用いて入口の試料および中央出口の試料を解析し、回収率を確認した。試験中にCTCが失われれば、潜在的な誤診をもたらしうるであろう。結果は、CTCの単離効率と符合する90%の回収率を示したことから、試料を回収および解析するときに失われる細胞は無視しうる程度であることが示唆される。おそらく、絞込み領域に沿って細胞間の相互作用が増大するために、より高濃度(1mL当たりの細胞104個)では、CTC回収率の低下(約85%への低下)が観察された。
【0107】
[血液中におけるCTCの濃縮]
デバイスの寸法および作動条件を特徴づけた後で、最適なパラメータを用いて、全血液中にスパイクしたMCF−7細胞をデバイスにより解析した。MCF−7細胞(1mL当たりの細胞500個)をスパイクした血液試料を、約1.5〜2%のヘマトクリット値まで希釈し、Re=100で、アスペクト比=5のマイクロチャネルを介して送入した。細胞絞込み領域の幅は、10μmに固定した。FACSおよび血球計を用いて、蛍光マーカーで標識した流出試料を解析し、分離による濃縮率を計算した。結果を表4に示すが、これにより、SMARTデバイス(1段目)内の単回通過により、RBCについては約300倍の濃縮率、およびPBLについては約850倍の濃縮率が示され、CTC回収率は約85%である。
【表4】
【0108】
これらの濃縮率は、大半の細胞分離適用について相当な程度であるが、血液細胞を伴う分離は、理想的には、107〜108倍の濃縮を必要とする(Lara,O.ら,Experimental hematology,2004,32(10):891〜904ページ)。絞込み領域において大型のCTCが存在するために、そのすぐの近傍では流動場が撹乱されたので、この研究における濃縮率は限定的なものであった。結果として、少量のRBCおよびPBLが中央出口で回収された。これは、CTCの到達が、フォーカスしない血液細胞のバーストを常に伴う、出口において収集されたハイスピードのビデオ画像から明らかである。したがって、CTCを検出するためにより高度で有意義な濃縮率を達成するために、デバイスの中央出口から回収された試料を、デバイスにより再度処理し、夾雑する血液細胞を完全に除去した(2段目)。1段目からの出口配管を、カスケード状の構成で別のデバイスに接続することにより、これを実装した。2段目を付加することにより、MCF−7の濃縮率は、RBCについて3.25×105(5.5 log10)倍、およびPBLについて約1.2×104(4.1 log10)倍へと顕著に増大し、全CTC回収率の低下は最小(約81%への低下)である。これは、血液1mL当たりのRBC約15,000個および血液1mL当たりのPBL850個未満に変換される(全血液1mL中のRBCを50億個とし、全血液1mL中のPBLを1000万個とする)。
【0109】
デバイスの濃縮性能は、他の一般的なCTC分取法と同等である(Nagrath,S.ら,Nature,2007,450(7173):1235〜1239ページ;Tan,Sら,Biomedical Microdevices,2009,11(4):883〜892ページ;Mohamed,H.ら,Journal of Chromatography A,2009、1216(47):8289〜8295ページ;Vona,G.ら,American Journal of Pathology、2000、156(1):57〜63ページ;Zheng,S.ら,Journal of Chromatography A,2007,1162(2):154〜161ページ;Zabaglo,L.ら,Cytometry Part A,2003,55(2):102〜108ページ;Lara,O.ら,Experimental hematology、2004、32(10):891〜904ページ)。例えば、Zabagloらにより用いられているポリカーボネート膜による濾過法は、CTC回収率を>90%とし、0.1%PBLを伴うことについて報告している(Zabaglo,L.ら,Cytometry Part A,2003,55(2):102〜108ページ)。Vonaらにより報告されているISET法は、回収率を約80%とし、血液1mL当たりのPBLをわずかに20個とする、優れたCTC濃縮率について報告している(Vona,G.ら,American Journal of Pathology、2000、156(1):57〜63ページ)。Laraらは、赤血球溶解を、免疫磁性によるPBLの枯渇と組み合わせる、2ステップの陰性選択法を用いて、5.17 log10倍のCTC濃縮率を報告した(Lara,O.ら,Experimental hematology,2004,32(10):891〜904ページ)。RBCは、溶解により100%が効率的に枯渇したのに対し、単離試料は、約0.3%のPBLに由来するDNAにより依然として汚染されているので、濃縮の倍数はデバイスと同等である。デバイスの性能はまた、104〜106倍の濃縮を得ることが可能な免疫媒介CTC分離法(免疫磁性CTC分離法、免疫蛍光CTC分離法、および免疫結合CTC分離法を含めた)(Nagrath,S.ら,Nature,2007,450(7173):1235〜1239ページ;Paterlini−Brechot,P.およびN.L.Benali,Cancer letters,2007,253(2):180〜204ページ)とも同等である。
【0110】
RBCから白血球を成功裏に濃縮することにより、血液から他の低量の細胞を単離するためのデバイスの多用途性が裏付けられた。これは、細胞絞込み領域における収縮幅を8μmへと変化させ、これにより、中央出口においてより大型のPBLの回収を可能とすることだけによって達成された(Sethu,P., A. Sin,ら,Lab on a Chip,2006,6(1):83〜89ページ;Schmid−Schonbein,G.W.ら,Blood、1980、56(5):866ページ;Downey,G.Pら,Journal of Applied Physiology、1990、69(5):1767ページ)。側方出口を介してすべてのRBCを効率的に除去することにより、デバイスは、中央出口において、100倍の白血球の濃縮率を達成し、約60%のPBL回収率をもたらした。
【0111】
オンチップで血液解析を行い、血液から希少細胞を単離するには、短時間でミリリットル単位の臨床血液試料を処理するハイスループットが重要である。400μl/分の流速(Re=100)で、ヘマトクリット値を2%とする試料を調べることにより、このデバイスは、単体のデバイスを用いて、1分間当たりの細胞約108個を処理することが可能である。これは、1mLの全血液に対する約50分間の処理時間へと転換される。わずか4つの並列チャネルをデザインすると、解析時間を、事実上、血液1mL当たり15分間未満にまで短縮することができ、他の一般的なCTC検出法より顕著に高速となる。マイクロ流体素子による免疫結合法は、CTCと抗体でコーティングした表面との最大の相互作用を可能とし、分離時におけるCTCの解離を阻止する、低流速による処理に限定されることが典型的である(Nagrath,S.ら,Nature,2007,450(7173):1235〜1239ページ;Gleghorn,J.P.ら,Lab on a Chip、2010、10(1):27〜29ページ)。CTCの物理的捕捉と関連する、一般的なマイクロ流体濾過法はまた、トラップまたは小孔により変形することなく、CTCの捕捉の維持を確保するためにも、低流速に限定されている(Adams,A.A.ら,Journal of the American Chemical Society,2008,130(27):8633〜8641ページ;Tan,Sら,Biomedical Microdevices,2009.11(4):883〜892ページ)。さらに、いかなる捕捉されたCTCの物理的な存在も、捕捉領域内の流動パターンを変化させるので、CTCカウントがより大きくなると、捕捉効率が低下する。解析のための複雑な回収手順と共に、血液処理後に必要とされるさらなる洗浄ステップは、全処理時間をさらに延長する。デバイスは、遺伝子解析、薬物スクリーニング、および分子標的癌治療など、下流における分子アッセイのためにCTCの回収を可能とする、持続的な分取能および回収能をもたらす。単離細胞は、終点調査を行うのではなく、リアルタイムで計数および解析することもできる。
【0112】
[結論
血液から生存希少細胞を単離する、ハイスループットで高感度な技法について説明した。血液から低量の細胞をサイズベースで単離するデバイスでは、せん断変調性の慣性による細胞フォーカシングを用いた。開発したデバイスの適用として、高度な効率(約80%)およびスループット(約400μL/分)を伴う、末梢血からのCTCの分離が裏付けられた。デバイスは、2段式のカスケード型配置を用いて、赤血球(RBC)については3.25×105倍の濃縮率、およびPBLについては1.2×104倍の濃縮率をもたらす。試料の希釈は必要とされるが、単純なチャネルデザインは、数分間以内に、ミリリットル単位の臨床血液試料を解析する能力を伴う簡易な並列化を可能とする。デバイスの下流にチップベースの検出を組み込むことにより、臨床癌診断のための強力なツールがもたらされる。最後に、絞込み幅を特定の適用にカスタマイズすることにより、胎児細胞および幹細胞を含め、血液から他の希少細胞を濃縮するのにチップを容易に用いることができる。
【0113】
本明細書で引用されるすべての特許、出願公開、および参考文献による関連する教示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0114】
その例示的な実施形態に言及しながら、本発明を具体的に示し、説明してきたが、付属の特許請求の範囲により包含される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明において多様な形態および詳細の変化を行いうることが、当業者により理解されるであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料における1または複数の疾患血液細胞を検出する方法であって、前記血液試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、非疾患血液細胞と比較して疾患血液細胞の変形能が低下していることに基づいて前記チャネルの断面の少なくとも一部に沿って疾患血液細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各線状チャネルが有し、疾患血液細胞が、前記チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、非疾患血液細胞が、前記チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する方法。
【請求項2】
前記疾患細胞のサイズ、硬さ、変形能、接着性、またはこれらの組合せが、前記非疾患細胞とは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液試料が、全血液である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記疾患細胞が、環状期、または栄養体期、または分裂体期のマラリア感染赤血球である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記疾患細胞が、環状期のマラリア感染赤血球である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記血液試料が、約5μL/分の流速で導入される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記環状期のマラリア感染赤血球が、約75%〜約85%の範囲の効率で分離され、前記栄養体期のマラリア感染赤血球が、約90%の効率で分離される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1または複数の疾患細胞が、マラリア感染赤血球、鎌状赤血球貧血性赤血球、白血病性赤血球、またはこれらの組合せである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記チャネルのアスペクト比が、約1〜約2の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロ流体デバイスが、拡張領域をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の出口の幅が、前記第1の出口の幅より約2〜約10倍の範囲で広い、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記チャネルの幅が、約15μmである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記チャネルの高さが、約10μmである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する方法であって、前記試料を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、前記チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、前記試料中の他の細胞が、前記チャネルの別の部分に沿って第2の出口へと流動する方法。
【請求項16】
循環腫瘍細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップが、治療的処置の有効性を評価するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記チャネルのアスペクト比が、約1〜約5の範囲にある、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記チャネルの幅が、約500μmである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記チャネルの高さが、約100μmである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記試料が血液試料である、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記血液試料が、胎児有核赤血球を含む母体血液試料である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
非同調細胞の混合物から1または複数の同調細胞を単離する方法であって、非同調細胞の懸濁液を、少なくとも1つの螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいて前記チャネルの断面の部分に沿って同調細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各螺旋状チャネルが有し、より大型の同調細胞が、前記チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、より小型の同調細胞が、前記チャネルの他の部分に沿って少なくとも1つの他の出口へと流動する方法。
【請求項25】
同調細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記チャネルのアスペクト比が、約1〜約5の範囲にある、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記チャネルの幅が、約500μmである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記チャネルの高さが、約140μmである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
非同調細胞の混合物が、哺乳動物の癌細胞の懸濁液もしくは間葉系幹細胞の懸濁液、またはこれらの組合せである、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する方法であって、前記試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいて前記チャネルの断面の少なくとも一部に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、前記チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、前記試料中の他の細胞が、前記チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する方法。
【請求項31】
循環腫瘍細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップが、治療的処置の有効性を評価するステップを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記チャネルのアスペクト比が、約2〜約10の範囲にある、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記チャネルのアスペクト比が、約3〜約5の範囲にある、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記入口から遠位の端部における前記チャネルの幅が、単離される細胞のオーダーにある、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記チャネルの幅が、約20μmである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記マイクロ流体デバイスが、前記入口から遠位のチャネル端部において拡張領域をさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記マイクロ流体デバイスが、すべての細胞を、チャネルの長手方向へと移動させ、チャネルの長手方向に沿って移動させるように適合させた断面を有する、少なくとも1つの細胞フォーカシング領域をさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記試料が血液試料である、請求項30に記載の方法。
【請求項1】
血液試料における1または複数の疾患血液細胞を検出する方法であって、前記血液試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、非疾患血液細胞と比較して疾患血液細胞の変形能が低下していることに基づいて前記チャネルの断面の少なくとも一部に沿って疾患血液細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各線状チャネルが有し、疾患血液細胞が、前記チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、非疾患血液細胞が、前記チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する方法。
【請求項2】
前記疾患細胞のサイズ、硬さ、変形能、接着性、またはこれらの組合せが、前記非疾患細胞とは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液試料が、全血液である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記疾患細胞が、環状期、または栄養体期、または分裂体期のマラリア感染赤血球である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記疾患細胞が、環状期のマラリア感染赤血球である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記血液試料が、約5μL/分の流速で導入される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記環状期のマラリア感染赤血球が、約75%〜約85%の範囲の効率で分離され、前記栄養体期のマラリア感染赤血球が、約90%の効率で分離される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1または複数の疾患細胞が、マラリア感染赤血球、鎌状赤血球貧血性赤血球、白血病性赤血球、またはこれらの組合せである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記チャネルのアスペクト比が、約1〜約2の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロ流体デバイスが、拡張領域をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の出口の幅が、前記第1の出口の幅より約2〜約10倍の範囲で広い、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記チャネルの幅が、約15μmである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記チャネルの高さが、約10μmである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する方法であって、前記試料を、1または複数の螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいてチャネルの断面の部分に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、前記チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、前記試料中の他の細胞が、前記チャネルの別の部分に沿って第2の出口へと流動する方法。
【請求項16】
循環腫瘍細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップが、治療的処置の有効性を評価するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記チャネルのアスペクト比が、約1〜約5の範囲にある、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記チャネルの幅が、約500μmである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記チャネルの高さが、約100μmである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記試料が血液試料である、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記血液試料が、胎児有核赤血球を含む母体血液試料である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
非同調細胞の混合物から1または複数の同調細胞を単離する方法であって、非同調細胞の懸濁液を、少なくとも1つの螺旋状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいて前記チャネルの断面の部分に沿って同調細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各螺旋状チャネルが有し、より大型の同調細胞が、前記チャネルの半径方向の最も内側の部分に沿って第1の出口へと流動し、より小型の同調細胞が、前記チャネルの他の部分に沿って少なくとも1つの他の出口へと流動する方法。
【請求項25】
同調細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記チャネルのアスペクト比が、約1〜約5の範囲にある、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記チャネルの幅が、約500μmである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記チャネルの高さが、約140μmである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
非同調細胞の混合物が、哺乳動物の癌細胞の懸濁液もしくは間葉系幹細胞の懸濁液、またはこれらの組合せである、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
個体の試料における1または複数の循環腫瘍細胞を検出する方法であって、前記試料を、1または複数の線状チャネルを含むマイクロ流体デバイスの少なくとも1つの入口に導入するステップを含み、細胞のサイズに基づいて前記チャネルの断面の少なくとも一部に沿って循環腫瘍細胞を単離するように適合させた、長さと、アスペクト比を規定する高さおよび幅の断面とを各チャネルが有し、循環腫瘍細胞が、前記チャネルの第1の部分に沿って第1の出口へと流動し、前記試料中の他の細胞が、前記チャネルの第2の部分に沿って第2の出口へと流動する方法。
【請求項31】
循環腫瘍細胞を前記第1の出口から回収するステップをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記循環腫瘍細胞を解析するステップが、治療的処置の有効性を評価するステップを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記チャネルのアスペクト比が、約2〜約10の範囲にある、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記チャネルのアスペクト比が、約3〜約5の範囲にある、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記入口から遠位の端部における前記チャネルの幅が、単離される細胞のオーダーにある、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記チャネルの幅が、約20μmである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記マイクロ流体デバイスが、前記入口から遠位のチャネル端部において拡張領域をさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記マイクロ流体デバイスが、すべての細胞を、チャネルの長手方向へと移動させ、チャネルの長手方向に沿って移動させるように適合させた断面を有する、少なくとも1つの細胞フォーカシング領域をさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記試料が血液試料である、請求項30に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2013−521001(P2013−521001A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556272(P2012−556272)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2011/027276
【国際公開番号】WO2011/109762
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2011/027276
【国際公開番号】WO2011/109762
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
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