説明

細胞を解離するための方法

細胞を解離するための方法を開示する。細胞を、そこから細胞壁ゴーストと細胞質の混合物を得るための、pH、温度、および剪断の条件下で処理する。細胞はアルカリ性のpHでジェットクッキングして、中間混合物を形成し、続いて中間混合物をジェットクッキングすることが好ましい。一般的には、細胞は解離し、この際に少なくとも1つの別個の細胞壁成分が、解離した細胞壁から実質的に分かれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本国際出願は、2003年8月15日出願の、前の仮出願第60/495,750号の利益を主張するものであり、その出願の教示は、参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、細胞を解離して、そこから栄養素および他の商業上有用な生成物を得ることに関する。
【背景技術】
【0003】
酵母および酵母代謝物は、多くの食品および飼料製品で広く使用されている。例えば、パン酵母やビール酵母は、栄養素および着香料のすぐれた供給源である。細胞から得られる栄養素としては、不溶性および可溶性の細胞壁多糖類、オリゴ糖、グルカン、タンパク質、ペプチド、ヌクレオチドなどが含まれる。細胞、特に細胞壁は、病原物質を吸収し、その結果感染に対する予防手段を提供するとも考えられている。
【0004】
生細胞、全溶解細胞、および細胞分画は、飼料およびペットフード処方で特に価値がある。溶解細胞および細胞分画は、多くの栄養成分を、消費動物にとって生物的に利用可能な形態で含むと考えられている。酵母生細胞は、現在はまだ完全には分かっていない方法によって消化を助けると考えられている。一方全死細胞については、おそらく反芻動物以外では、特に栄養的に有用ではないと考えられている。単胃動物の消化管は本来細胞壁を破壊することができず、したがって死細胞の殆どは消化管を通過し、通常は全て排泄され、動物に栄養素を放出することはない。
【0005】
このため、酵母死細胞から栄養素を得ようと望む場合には、通常は細胞の壁を破壊して栄養素を放出させることが必要である。酵母の細胞を破壊する方法としては、機械的方法、加水分解法、自己消化法などを含む多くが知られている。機械的方法は、通常小規模の実験室において適用される。従来の機械的破砕には、フレンチプレスなどのプレス、ホモジナイザー、音波破砕機などが含まれる。例えば、実験室用のフレンチプレスでは、細胞を小さな穴を通過させることにより、20,000 psi(ポンド/平方インチ)程度の高圧、および高剪断の条件が作り出される。他の装置は細胞を様々なストレスに曝すが、同じ結果、すなわち、細胞壁の破壊をもたらす。例えば、他の周知の装置であるビードビーターは、細胞を粉砕し、剪断し、破損するのに用いられるセラミック製またはガラス製のペレットを含んでいる。加水分解法は、酵素、酸、またはアルカリを用いて細胞壁を破壊する。細胞自己消化法はよく知られた方法であり、酵母細胞は自身の酵素による消化を受ける。
【0006】
これまでは、上記の従来法に伴うある種の欠点からして、細胞、特に酵母死細胞から栄養素を工業規模で抽出することは困難であると考えられていた。機械的破壊法は魅力的だが、それは細胞の構成成分が外部からの化学物質や添加物によって汚染されないからである。しかし、このようなシステムをスケールアップし、実施することに伴うコストは、これまで認められていた通り、相当な額にのぼる。例えば、Seeleyに対し発行された米国特許第5,756,135号は、水不溶性酵母の業務用規模の生産に伴う、技術的および経済的課題のいくつかを論じている。加水分解法は、スケールアップには適用しやすいが、このような方法の殆どには、コストが高い、処理時間が長い、または特定の栄養素が分解/変性する、などといった欠点もある。
【0007】
したがって、酵母細胞の加水分解物の殆どは、商業的には自己消化によって生成されている。しかし、酵母の自己消化反応の速度は必然的に遅い。自己消化反応は、約40℃〜60℃の範囲の作用温度、典型的には50℃〜55℃の温度を要する。適切な程度の消化を得るためには、これらまたはこれら以上である適温の下で、反応にさらに数時間から数日の範囲の相当な時間をかける必要がある。自己消化反応を加速するために、従来技術では原形質分離剤の使用を教示していたが、その例としては、有機溶剤、塩、およびプロテアーゼやリパーゼなどの加水分解酵素が含まれた。しかしそれにも関わらず、自己消化反応には依然として時間がかかり、商業的に扱いにくい。
【0008】
自己消化のさらなる欠点は、自己消化法は生細胞を用いる場合のみに適用できることである。死細胞は自己消化することができない。この必要条件を認識した上で、酵母細胞を自己消化させたいと望む熱心な酵母製造業者らは、細胞の生存能力を保つために処置を講じる必要がある。相当な量の酵母生細胞が副生成物として生成される他の産業、例えば醸造業では、生細胞を経済的に回収することができ、自己消化を受けさせることができる。しかしある種の工業プロセスでは、自己消化を受けさせることのできない相当量の死菌酵母副生成物が産生される。これは、蒸留プロセスで酵母細胞を死滅させるために細胞を自己消化させることが不可能な、蒸留エタノール製品の製造に特有の問題である。
【0009】
したがってこれまでに記載された機械的方法および加水分解法の欠点からして、そのような死細胞から、大量の酵母由来の飼料または工業製品を高い対費用効果で製造することは、非常に困難である。実際には酵母死細胞自体は、全細胞のまま、通常は反芻動物飼料市場に販売されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
細胞の壁を破壊し、そこから細胞質が放出されるようにする方法で、酵母および他の細胞を解離する方法が提供されることが望ましい。そのような方法が、生細胞に加えて死細胞に適用可能であれば特に有益である。そのような方法は、蒸留エタノール産業では特別に適用の可能性があることがわかるが、多くの他の産業に関しても有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明)
酵母、真菌、細菌、および他の細胞(真核細胞を含む)を処理し、タンパク質、糖類、ペプチド、脂質、グルカンなどの、可溶性または不溶性の細胞成分を回収しうることが現在分かっている。一般的には、細胞はアルカリ性のpH、および熱(即ち25℃を超える温度)の存在下で、剪断力によって処理される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞を解離するための方法が提供される。本発明の一実施形態では、細胞の解離に適するpH、剪断、および温度の条件が選択され、これらの条件は、少なくとも1つの可溶性の解離した分子である細胞壁成分が、解離した細胞から実質的に分離可能となる解離に適するものである。この方法は、細胞壁を少なくとも実質上完全に解離することを意図するものであるが、細胞壁の分子成分が単純な分子になる程度まで細胞が解離されることはない。解離された可溶性の細胞壁成分は、解離された細胞から分離しうる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、細胞壁ゴーストと細胞質の混合物を供給する方法が提供される。この方法は、実質的に完全な細胞壁ゴーストを残しながら、細胞壁を破壊しそこから細胞質を放出させるのに十分な条件下で細胞を熱、剪断、およびpHに付す工程を含む。この方法が細胞のジェットクッキングを含むことが、最も好ましい。本発明の最も高度に好ましい実施形態では、細胞をジェットクッキングして中間生成物を形成させ、続いて中間生成物をジェットクッキングして細胞質と細胞の混合物を形成させる。このように形成されたこの混合物は、噴霧乾燥するか、または細胞壁を細胞質から実質的に分離するなど他の方法で処理しうる。このように形成された混合物または噴霧乾燥された混合物から、動物用飼料を調製しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下の段落は、主として酵母細胞の解離に重点を置くが、本発明はこれだけに限定されるものではないことを理解されたい。実際、本発明はあらゆる原核細胞または真核細胞、特に微生物細胞、とりわけ酵母に適用可能であると考えられる。本発明の方法に関連する解離に適する他の細胞には、真菌、植物細胞、胞子、および同様の微生物が含まれる。より一般的には、栄養分または他の化学的に有用な材料を供給するために「回収される」ことのできるあらゆる細胞を、本発明と組み合わせて用いることができる。酵母を用いる場合は、酵母は、ビール酵母およびパン酵母として販売される系統を含む、Saccharomyces cereviasiaeの系統であることが好ましい。細胞は生存していても死滅していてもよく、あるいは生細胞と死細胞の混合物を使用してもよい。商業的な蒸留操作から供給される酵母細胞を用いてもよく、または苦味物質、発酵不溶物などを除去するために、本発明と組み合わせて使用する前に洗浄してもよい。酵母が、繊維性炭水化物、または商業的なエタノール蒸留操作に由来する他の材料を含んでいてもよく、また本発明のいくつかの実施形態では酵母供給源がアルコール蒸留廃液を含んでもよいことが企図される。好ましい酵母供給源は、噴霧乾燥された酵母である。
【0015】
本発明によれば、細胞の壁は解離すると細胞壁成分を生ずる。この解離は、細胞壁の広範な解離を企図するものであり、解離の度合は当業者が選択しうる。例えば、入手した細胞は、静電気力(または共有結合)によって細胞壁に結合した不純物または非天然の成分を含むことがある。本発明のいくつかの実施形態における解離は、これらの不純物または非天然の成分を除去することを企図するものである。本発明の好ましい実施形態では、細胞壁は部分的に崩壊し、したがっていくつかの天然の細胞壁成分が細胞壁の分子構造から遊離しているが、細胞壁ゴーストは顕微鏡観察下では別個の存在として依然として識別可能である。したがって、細胞壁の元の成分の一部は細胞壁の残りの成分から解離してしまった可能性があるため、ゴーストは完全な細胞壁ではないかもしれないことが企図される。天然の細胞壁成分のあらゆる部分、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%がそのように遊離することがあり、このような実施形態では細胞壁ゴーストは依然として識別可能である。本発明のそれほど好ましくない実施形態では、この解離は、細胞壁が実質上完全または十分に崩壊する程度に完了し、したがって顕微鏡観察下で別個の存在として細胞壁を見ることができない。
【0016】
一般的に、本発明の好ましい実施形態によれば、細胞を破壊するための方法は、複数の細胞の少なくともいくつかの壁を破壊するのに十分な条件下で、細胞を熱、pH、および剪断に曝して、そこから細胞質を放出させ、それによってゴーストと細胞質の混合物を形成する工程を含む。本発明の作用機序は細胞の非特異的分解であり、それによってオリゴ糖(例えばマンナンオリゴ糖)およびグルカンが放出されると考えられている。このような分解に際し、細胞の壁は最終的に細胞壁が破壊し、それによってその中に含まれる細胞質を放出する点まで弱まる。適切な装置における温度、pH、剪断、および滞留時間の条件は、細胞の種によって広く異なり、さらに選択される装置に応じて異なる。一般的には、使用される温度は140〜160℃の範囲であることが企図される。
【0017】
細胞壁を加水分解するために、酵母のスラリーを蒸発または周知の液体−固体分離技術などの周知の技術によって調製しうるが、あるいは代替法として、スラリー形成のために酵母を乾燥し続いて水と混合しうる。開始時の酵母スラリーの固形分は、好ましくは約5〜25%(w/v)、好ましくは10〜20%、より好ましくは12〜18%である。実際上できるだけ高い固形分を用いるのが望ましく、18〜20%を上限とするのが商業上最も実用的であると考えられている。
【0018】
本発明の方法を実施する際に、酵母のスラリーのpHはあらゆる適するpH、好ましくは8.0〜12.0、より好ましくは9.0〜11.0、最も好ましくは9.5〜10.0のpHに、アルカリ性物質、最も好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、または水酸化カリウムなどの食品用のアルカリを用いて調製される。本発明は、アルカリ性の条件下で処理することに限定されない。いくつかの実施形態では、強酸性の条件、好ましくはpH0.5〜3、より好ましくはpH1〜2を用いうる。好ましい酸性物質は、塩酸、リン酸、硫酸、またはそれらの混合物などの食品用の酸である。殆どの場合、酸性のpHは、酵母のアルカリ加水分解に使用しうる比較的穏やかなアルカリ性の条件よりも、はるかにきびしいと考えられているので、本発明に関してはアルカリ性の条件が好ましい。
【0019】
次いで、酵母のアルカリ性スラリーを、複数の酵母細胞の少なくともいくつかの壁を破壊するのに十分な条件下で剪断にかけて細胞質を放出させる。一般的には細胞を、前記記載の温度、pH、および剪断の条件において、35〜105 psig(ポンド/平方インチ ゲージ圧)の圧力をかけうる。10〜150秒の範囲の時間、細胞にこのような圧力をかけることが好ましい。再度述べるが、このパラメータは他の操作パラメータにより変化すると予想される。
【0020】
本発明に関してあらゆる適当な装置を用いうる。本発明の高度に好ましい実施形態によれば、ジェットクッキング装置が用いられる。ジェットクッキング装置は、液体およびスラリーを移動するのに使用されるジェットポンプに似ている。ジェットクッキングプロセスでは、高圧飽和蒸気が約60〜200 psigの範囲の圧力で、ノズルを通ってベンチュリ混合結合管の中央に注入される。次いでスラリーが、蒸気ノズルとベンチュリ孔によって形成された環状の間隙の中に引き込まれる。スラリーは、混合管内で音速まで加速されるにつれ加熱される。混合管を通過する間に、細胞は特別な激動状態にさらされ、それによって細胞壁は部分的に加水分解される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、ジェットクッキング装置において複数のパス(通過回数)、好ましくは2〜5パス、より好ましくは2〜3パスの通過が用いられることが企図される。完全に細胞を液状化することを望む場合、すなわち細胞壁が実質上完全に解離して完全なゴーストが残らない程度に細胞を解離させるには、3〜7パスなどの、より多くのパス数を用いてもよい。完全な解離を達成するのに必要とされる正確なパス数、および細胞質とゴーストの混合を達成するのに必要とされるパス数は、使用される特定の装置および他の操作条件に依存する。
【0022】
一般的に、90%を超える細胞を液状化するためには、より高いアルカリ度および温度、より少ないパス数など、より厳しい条件を用いることが必要とされると考えられている。ジェットクッキング装置におけるそれぞれのパスの後に、少なくとも蒸気噴射器によりさらなる水分が導入されるので、また、おそらくは水酸基が取り込まれるので、スラリーのpHは低下する。それぞれのパスの後にさらなるアルカリ性物質を添加してもよいことが企図されるが、そのような物質を添加しないのが好ましい。
【0023】
ジェットクッキングは、バッチプロセスとして、または連続プロセスとして実施しうる。どちらの場合でも、最初のジェットクッキングパスの際に形成される中間生成物は、30秒〜1時間の範囲の保持時間の間保持されることが好ましい。中間生成物が140〜160℃の温度および50〜80 psigの圧力で保持され、第2のまたは後続のジェットクッキングパスの前に大気圧に放出されることが最も好ましい。最終のジェットクッキング段階後に保持時間がないのが好ましいが、これは任意で用いてもよい。生成物が2パスを超えてジェットクッキングされる場合、第1のパス後で最終パスの前に調製された中間生成物はある保持時間の間保持されてもよく、または保持時間を省略してもよい。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、穏やかな、1または2パスの、若干アルカリ性の前処理を用いて、細胞をわずかに解離させることができる。このような前処理の後、次いでアルカリ性溶液を除去することができ、水の添加によって細胞のスラリーを形成することができる。次いで細胞のスラリーは、前記記載した酸性またはアルカリ性の条件に調節しうる。次いでそのスラリーをジェットクッキングしうる。穏やかなアルカリ性の前処理により、汚染生体分子、小分子代謝物質、および異臭または着色の一因となりうる、あるいは加水分解された細胞に他の方法で良くない影響を及ぼしうるような、付随する発酵培養基の生成物を除去することが企図される。
【0025】
このようにして形成された細胞質とゴーストの混合物は、それ自体が商業的価値のある生成物とみなされる。この混合物は、通常約17〜20%の範囲の固形分を有し、固形分の約35%は不溶性材料を含み、残りが可溶性材料を含むと考えられている。このようにして形成された混合生成物は、あらゆる所望の方法で処理しうる。例えば、材料の可溶性部分は、不溶性部分から、遠心分離などにより少なくとも実質的に分離しうる。この固体材料は概して細胞壁ゴーストを含み、この細胞壁ゴーストは市販されうる。液体分画は、液体分画を適当な担体とともに噴霧乾燥するなどにより、さらに処理されうる。本発明のいくつかの実施形態では、ジェットクッカーを出て行く混合物を、担体の存在下または不在下で、それ自体噴霧乾燥しうる。本発明に関連しては、マルトデキストリン、還元マルトデキストリン、澱粉、澱粉加水分解物、その他などの、あらゆる適切な噴霧乾燥用担体を採用しうる。
【0026】
本発明は、動物に給餌する方法を企図するものであり、この方法は、前記の教示にしたがって調製された混合生成物を動物に与えることを含む。または動物に、混合生成物を遠心分離した後に残留する固体分画または液体分画など、前記記載した混合物の分画を与えうる。一般的に、前記に記載した混合物(またはそれらの適切な分画)を、1つまたは複数の動物用栄養源と組み合わせて含む動物用飼料を、動物に与える。本発明により調製される混合物または分画は、動物用飼料の他の成分に対し、あらゆる量で添加しうる。混合物または分画は、0.01〜25重量%の範囲の量で添加するのが好ましいが、その範囲を超える量もそれより少ない量も企図される。本発明は、ブタ、反芻動物、家禽、およびネコやイヌなどの家庭用ペット用の飼料に特に適用可能性を見出すと考えられるが、他の動物用の飼料に関して本発明の有用性を見出しうることが企図される。本発明のいくつかの実施形態では、前記の教示にしたがって調製された混合物、またはそのような混合物の分画は、ヒトの食品に関して用いうる。細胞質はブタおよび反芻動物に栄養的な有益性をもたらすと考えられており、また驚くべきことに、ある実験では、ブタは市販の酵母派生物で調製された類似の食用製品よりも、前述の教示に従って調製された食品を好むことが分かった。
【0027】
本発明は、機械的、自己消化、または加水分解の手順を必要とせずに、細胞壁の加水分解を可能にするものと考えられる。それでもなお、本発明のいくつかの実施形態においては、前記に記載された手順とともに、自己消化または加水分解の手順を用いうる。このような場合、本発明が提供する解離によって、インキュベーション時間を短縮しうるか、および/または、酵素的な加水分解を亢進しうることが企図される。本発明を操作上の特定の理論に制限する意図はないが、細胞表面上をさらなるタンパク質、脂質、または炭水化物に曝露することにより、そうした他の手順が作用することがあると考えられている。同様の理由で、本発明が提供する解離は、そうした加工に先立って細胞壁を弱めることにより、酸性またはアルカリ性の加水分解手順とともに用いうる。
【0028】
本発明は、所望の結果を実現するために、温度、pH、および剪断の条件の選択を企図するものである。適切な条件を選択することにより、細胞解離の手段を的確に制御しうる。例えば、所望により、成分の生体分子を大きく変性せずに、細胞壁の解離および細胞質成分の放出を実現しうる。あるいは、より厳しい条件を用いれば、アルカリ不溶性のβグルカン、キチンなどの、強固な可溶性または不溶性分子のみが処理後に残る程度に細胞壁を解離しうる。いくつかの実施形態では、細胞壁を解離するために、また細胞壁の破壊を伴うか伴わないかに関わらず細胞壁から得られるオリゴ糖を回収するために、本発明を用いうる。
【0029】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供するものであるが、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例1】
【0030】
この実施例は、スキッド取り付け型ジェットクッキングパイロット規模装置における乾燥酵母細胞のジェットクッキングを例示するものである。
【0031】
市販の噴霧乾燥された死菌ビール酵母約1.8 kgを、冷水約10 Lに加え、混合タンク中で撹拌した。約5分後にさらなる量の水を加えて、最終体積を約12 Lにした。このスラリーをさらなる3〜5分間撹拌し、その際約20%の濃度の水酸化ナトリウム約500 mlを酵母スラリーにゆっくりと加えた。アルカリを添加する間および添加直後は、撹拌を高速混合に調節した。水分を混合して高速でさらに5〜10分間おき、それからpHを確認した。pHが約9.2に上昇したことが測定値で示された。20%水酸化ナトリウムをさらに少量添加して、pHを約9.7まで上昇させた。さらに約3分間スラリーを高速で混合し、そこで撹拌を緩めた。
【0032】
混合タンクは、スキッド取り付け型ジェットクッカー組立物には不可欠な構成要素であり、バルブおよび配管によりジェットクッカーに連結されている。適当な時にバルブを開放し、スラリーをクッカーに汲み上げた。クッカーは温度320Fに較正した。約3分間のジェットクッカーにおける滞留時間の後、スラリーはクッカーを出て採取された(パス1)。殆どの最終材料がクッカーの配管に入り混合タンクが空になった後、このようにして形成された中間生成物は、混合タンクに移され、再びクッカーを通して汲み出された(パス2)。次いで試料は、組立物を出るときに採取され、冷めるまで放置された。
【0033】
このようにして形成された混合物は、細胞壁ゴーストが存在することからも明かなように、細胞の解離が顕微鏡上での明確な確認が実証された。ジェットクッカーの第1のパスの後、このような細胞壁ゴーストの約10〜20%が観察された。第2のパス後では、通常約60〜70%の細胞がゴーストとして現れた。
【0034】
処理された材料のいくつかの特性を以下の表に示す。この表で、報告された粘度は、Brookfield粘度計を用いて室温で測定された(紡錘1、2、3、および5番を、それぞれの試料に対して用いた)。
【表1】

【0035】
このデータは、酵母死細胞を破壊すると粘度(上昇)およびpH(低下)の付随的な変化を伴うことを示唆している。これらの変化は、細胞壁のペースト化および変質の信号と解釈され、グルカンおよびオリゴ糖などの壁成分の放出と関連づけられる。グルカンおよびオリゴ糖の放出が原因となって粘度が上昇したと考えられた。
【実施例2】
【0036】
エタノール製造工場からの蒸留後発酵培養基を遠心分離し、固形分をスラリーとして回収した。このスラリーは、主に(80〜90%)ビール酵母の死細胞を含む固形分約20%から構成される。このスラリーを実験工場の乾燥機で噴霧乾燥し、室温で貯蔵した。この材料は、後に貯蔵庫から出され、実施例1に概略を述べ図1に図示した一般的なパラメータおよび複数パスジェットクッキング手順を採用し、スキッド取り付け型実験室用/実験工場用ジェットクッキング装置を用いて処理された。
【0037】
この実験の観測および結果は、この方法で実施した他の実験とも一致した。特に、いくらかの(10〜20%)酵母死細胞壁の解離、粘度の上昇、およびpHの下降が、第1のジェットクッカーパスで観察された。試料全量の第1のパスの直後に、この材料をジェットクッカーの供給タンクに戻し、再び循環させた。第2のパス後、粘度は劇的に上昇し、pHはさらに低下し、相当数の酵母細胞が膨張または肥大した細胞壁として現れた。未処理試料または第1のパスの材料では特に明らかではなかった細胞片も、はっきりと分かった。
【実施例3】
【0038】
この実施例は、本発明の方法と、実質的に均質な微生物の真菌の供給源を用いた、真菌キチンの精製を例示するものである。
【0039】
Aspergillus nigerまたはAspergillus oryzaeなどの真菌バイオマスを、蒸発、遠心分離などの周知の手順を用いて、固形分約12〜17%に濃縮(または脱水)する。スラリーのpHを、約5〜10%の水酸化ナトリウムで約11〜12に調整する。スラリーを、次いで温度320F、50〜60 psiでジェットクッキングする。第1のパスを採取し、必要に応じてpHを11〜12に再調整する。この材料を、次いで、できるだけ多くのタンパク質、脂質、グルカン、および他の生体分子の加水分解をもたらすのに必要とされる回数だけ強アルカリ性のpHでジェットクッキングサイクルに曝す。処理された材料は、次に真空濾過または関連した手順を用いて濾過し、変性した生体分子および望ましくない材料を除去する。濾過された(すなわちアルカリで不溶性の)材料を水で洗浄し、pHを調整し、グルコサミンなどの生成のための基質として使用可能にする。
【実施例4】
【0040】
商業的エタノール蒸留操作から得られた死菌乾燥ビール酵母数千ポンドを、本発明に従って処理して、細胞壁ゴーストと細胞質の混合物を調製した。この混合物を調製するには、以下の手順を用いた。
【0041】
水に、乾燥死菌酵母を撹拌しながら加えて、17%酵母スラリーを調製した。約10〜20分間激しく撹拌した後、50%NaOHで混合物のpHを9.5〜10.0の範囲に調整した。2台のジェットクッカーは、約300Fの温度を実現するようにした。これらのジェットクッカーを直列の配置に配列した。
【0042】
酵母スラリーを、第1のジェットクッカーに約1.5ガロン/分の速度で流し込んだ。このクッカーへの排出物を、12〜15分間、温度約150℃、圧力50〜80 psigに保持し、大気圧に放出し、次いで第2のジェットクッカー中に直接流し込んだ。このジェットクッキング操作は、第1のジェットクッカーから第2のジェットクッカーへの一定の流れを保つように行われた。第2のジェットクッカーからの排出物は、次いで保持容器に採集した。約60〜70℃の温度に冷却後、採集した材料のpHを、塩酸で約pH7〜約pH4.0に低下させた。
【0043】
噴霧乾燥施設への輸送中および貯蔵中の微生物増殖を最小にするために、次に保存料(安息香酸ナトリウム)を0.8重量%の量で加えた。ジェットクッキングが完了後約40〜50時間では、細胞壁ゴーストと細胞質の混合生成物は、粘性だが依然として液状生成物であった。この生成物を箱型乾燥機で噴霧乾燥した。追加の担体は用いなかった。噴霧乾燥された材料を評価したところ、水分含量は約5%であることがわかった。
【0044】
噴霧乾燥した混合物を採集し、50 lb(ポンド)の紙袋中に包装した。このような紙袋を数千個調製し、室温で貯蔵した。
【0045】
ジェットクッキングされた材料の試料(噴霧乾燥以前)を、操作時間の間中採集し、顕微鏡観察した。加熱されたものも、実施例1の検査法に従って調製されたものも、実質的に同一の形態を表した。80〜90%の細胞が破壊されて細胞壁ゴーストを生じたことがわかった。これらのゴーストは、膨満、硬性の喪失、大きさと形の不均一性などを含む細胞壁破砕の証拠を表すことが観察された。
【実施例5】
【0046】
実施例4に従って調製された、噴霧乾燥した混合物を分析し、以下の近似組成が得られた。非加熱の全酵母も分析した。酵母中の栄養物の部分は、ジェットクッキングプロセスによる影響を実質的に受けないまま残り、ジェットクッキングされた混合物は栄養上の利点を供給できると見られる。
【表2】

【実施例6】
【0047】
ここでは処方AおよびBとして指定する、2種の市販のブタ飼料処方を入手した。実施例4に従って調製した噴霧乾燥した酵母の混合物を、各々の市販動物飼料処方に加えて、改変処方A1およびB1を形成した。比較のために、市販酵母派生物も2種の市販ブタ飼料のそれぞれに加えて、改変処方A2およびB2を形成した。市販酵母派生物製品は、発酵可溶物と組み合わせた、自己消化により調製されたと考えられる細胞壁ゴーストから構成されていた。市販酵母派生物は、2種の市販動物飼料に1トンあたり4 lbの量で添加したが、実施例4に従って調製した噴霧乾燥生成物は、細胞壁ゴーストの同程度の添加量を達成するために、1トンあたり6 lbの量で添加した。
【0048】
改変飼料処方A1およびB1(本発明に従って調製した飼料を表す)ならびにA2およびB2(比較生成物を表す)を、ブタ100頭に給餌した。ブタは10棟の別々の畜舎に、1棟に10頭ずつ収容された。それぞれの畜舎に給餌器を2台設置した。改変飼料処方A1およびA2を、それぞれ給餌器のうちの1つに加え、ブタが摂取した飼料の量を3日後および6日後に測定した。畜舎内での給餌器の位置に関連しうるあらゆる偏りを除くために、1日1回給餌器の位置を交換した。別の実験では、改変飼料処方B1およびB2を給餌器に加え、ブタが摂取した飼料の量を測定した。以下の結果が観察された。
【表3】

【0049】
驚くべきことに、両方の市販用ブタ飼料に対し、ブタは、市販細胞壁製品に比べ実施例4の生成物を加えて編成した変更飼料に、強い嗜好を示した。この嗜好は、3日後には明らかであり、6日後にさらに顕著になった。これらの結果は、ブタが実施例4の材料を含む飼料に強い嗜好を示したことを実証している。この飼料の美味性が改善されたことが、摂餌の増加に見られたのである。
【0050】
このように、本発明は細胞解離のための方法を提供することが認められる。
【0051】
本明細書に引用される参考文献は全て、本発明に参照により組み込まれる。本明細書に記載された方法は全て、本明細書に別段の記載がない限り、または文脈上他の形で明らかに否定されない限りは、あらゆる適切な指示の下で行うことができる。ありとあらゆる実施例の使用、または本明細書で規定される例示的な用語の使用は、本発明をよりよく解明することのみを意図するものであり、別段の主張がない限り本発明の範囲を制限するものではない。明細書におけるどのような用語も、本発明を実施するために不可欠な請求項に記載されていないあらゆる要素を示唆するものとして解釈すべきではない。
【0052】
本発明を実施するために本発明者らが知っている最良の方法を含む、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態の変更形態は、当業者であれば前記の記載を読めば明らかであると思われる。したがって、本発明は、適用可能な法律によって認められるものとして、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題の変更形態および同等物を全て含む。さらに、それらの全ての可能な変更形態における上記に記載された要素のあらゆる組合せは、本明細書に別段の記載がない限り、または文脈上他の形で明らかに否定されない限りは、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】酵母細胞壁の解離方法の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を破壊して、細胞壁ゴーストおよび細胞質を含む混合物を得る方法であって、
複数の細胞を供給する工程と、
前記複数の細胞のうち少なくともいくつかの壁を破壊するのに十分な条件下で、前記細胞を熱、pH、および剪断にさらし、そこから細胞質を放出させ、それによって前記ゴーストと細胞質の混合物を形成する工程
とを含む方法。
【請求項2】
前記pHが、アルカリ性pHである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pHが、8.5〜10.5の範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記pHが、9〜10の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が140〜160℃の範囲の温度にさらされる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞がジェットクッキング装置で加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ジェットクッキング装置内で前記細胞の混合物をジェットクッキングし、中間混合物を形成する工程と、
前記中間混合物をジェットクッキングし、前記細胞壁と細胞質の混合物を形成する工程
とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が酵母細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞がS.cereviasiae細胞を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞質を前記細胞壁ゴーストから少なくとも実質的に分離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分離が、前記細胞壁ゴーストと細胞質の混合物を遠心分離することにより行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞質と細胞壁ゴーストの混合物を噴霧乾燥する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に従って調製される細胞壁ゴーストと細胞質の混合物。
【請求項14】
請求項13の混合物を動物に与える工程を含む、動物に栄養を供給する方法。
【請求項15】
前記動物が反芻動物である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記動物がブタである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
動物用の飼料であって、
細胞壁ゴーストと細胞質の混合物であり、複数の細胞の供給によって調整され、
前記複数の細胞の少なくともいくつかの壁を破壊するのに十分な条件下で、前記細胞を熱、pH、および剪断にさらして、そこから細胞質を放出させ、それによってゴーストと細胞質の混合物を形成する工程とにより調製された混合物と、
少なくとも1種の他の動物栄養源
を含む動物用の飼料。
【請求項18】
複数の細胞を供給する工程と、
前記複数の細胞について、前記複数の細胞の少なくともいくつかの壁を破壊して、そこから細胞質を放出させ、それによって細胞壁ゴーストと細胞質の混合物を生ずるのに十分な、熱、剪断、およびpHの条件を、経験的に決定する工程
とを含む方法。
【請求項19】
前記複数の細胞の少なくともいくつかの壁を破壊し、そこから細胞質を放出させ、細胞壁ゴーストと細胞質の混合物を形成するのに十分な条件下で、前記細胞を前記熱、前記剪断、および前記pHにさらす工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細胞を供給する工程と、
前記細胞を、それによって解離された細胞壁の成分の混合物を得るためのpH、温度、および剪断の条件下で解離させ、前記条件は、前記細胞の壁を少なくとも部分的に解離するのに適するように選択され、それによって少なくとも可溶な解離した分子上において、細胞壁成分が、解離した細胞壁から実質的に分離可能である工程
とを含む、細胞を解離するための方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2007−502601(P2007−502601A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523442(P2006−523442)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/026582
【国際公開番号】WO2005/016024
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(504195037)グレイン プロセシング コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】