細胞シグナリングのモジュレーターを同定する方法
【課題】細胞内シグナル伝達経路の候補モジュレーターのライブラリーを評価するための方法を提供すること。
【解決手段】細胞内シグナル伝達経路の候補モジュレーターのライブラリーを評価するための方法が提供される。この方法は、ライブラリー由来の候補が、非触媒部位で結合する、シグナル生成タンパク質またはそのコグネイトパートナーのいずれかとして、シグナル経路における関与物を担うペプチドの結合を阻害する能力を評価する。これに関して有用な特定のペプチドが同定された。1つの適用において、免疫系のモジュレーターは、候補物質が、PKC-θまたはそのフラグメントとそのコグネイトとの相互作用に影響を与える能力を決定することにより同定され得る。相互作用は、指標としてコグネイトの結合を用いて測定され得るか、または生理学的応答を用いて測定され得る。
【解決手段】細胞内シグナル伝達経路の候補モジュレーターのライブラリーを評価するための方法が提供される。この方法は、ライブラリー由来の候補が、非触媒部位で結合する、シグナル生成タンパク質またはそのコグネイトパートナーのいずれかとして、シグナル経路における関与物を担うペプチドの結合を阻害する能力を評価する。これに関して有用な特定のペプチドが同定された。1つの適用において、免疫系のモジュレーターは、候補物質が、PKC-θまたはそのフラグメントとそのコグネイトとの相互作用に影響を与える能力を決定することにより同定され得る。相互作用は、指標としてコグネイトの結合を用いて測定され得るか、または生理学的応答を用いて測定され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、細胞内シグナル伝達に関する。より詳細には、本発明は、候補モジュレーターが、シグナル伝達機能の調節に関与する、触媒的に活性なシグナル生成タンパク質とコグネート結合タンパク質との間の相互作用に影響を与える能力を評価することにより、細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法に関する。本発明はまた、このような方法およびその成分の特定の実施態様に関する。1つの例示では、本発明の方法は、免疫系の活性の調節における使用のための薬学的薬剤の同定、および開示される方法において同定される薬剤を用いる方法に適用される。
【背景技術】
【0002】
背景技術
特許文献1は、そのコグネイトタンパク質に関して、シグナル生成タンパク質の活性を変化させるペプチド組成物を開示および請求する。ここで、コグネイトタンパク質は、少なくとも1つのWD-40領域(これは推定上、シグナル生成タンパク質と相互作用する)を含む。このペプチド組成物は、WD-40領域を模倣し、従ってコグネイトとシグナル生成タンパク質との相互作用に競合する。この競合は、シグナル生成の阻害またはその活性化のいずれかをもたらす。
【0003】
1つの具体的に例示されるシグナル生成タンパク質は、プロテインキナーゼC(PKC)である;例示される、活性化キナーゼCのコグネイトレセプター(RACK)(この場合、βPKCに特異的な)はRACK1と称された。RACK1をコードする遺伝子が、クローン化および配列決定され、RACK1が必須のWD-40領域を有することが示された。
【0004】
上記の特許文献1は、シグナル生成タンパク質およびそれらのコグネートのさらなる対を同定する方法、ならびにコグネートにおけるWD-40配列を認識するための方法をさらに記載する。この出願はまた、このような相互作用が、シグナル生成タンパク質と、そのコグネイトそれ自体またはコグネイトのWD-40領域を模倣するポリペプチド組成物のいずれかとの間の相互作用に対する、候補結合分子の効果を測定することにより、シグナル生成タンパク質を結合するさらなる分子を同定するための系として用いられ得ることに留意する。
【0005】
ここで、数種の特定のペプチドが、シグナルに影響する様式で、シグナル生成タンパク質またはコグネイトタンパク質のいずれかへ結合すると同定される。これらの関与物の純度に依存しないアッセイにおいて、シグナル伝達のモジュレーターをアッセイするための、シグナル生成タンパク質/コグネイト系の使用もまた記載される。PKC酵素系が、特定の実施態様として例示される。さらに、シグナル生成タンパク質に存在するペプチド、ならびにコグネイトまたはその模倣物に存在するペプチドが、シグナル生成相互作用、およびシグナル生成相互作用により媒介される生物学的活性を調整するために有用であると記載される。
【0006】
PKC-θのコグネイトタンパク質の同定をfynタンパク質として実証するさらなる実験が記載される。fynはT細胞応答の媒介に関与することが十分に確立されているので、PKC-θとそのfynコグネイトとの相互作用の破壊が、免疫応答を媒介すること、およびPKC-θが免疫応答のメディエーターであることは明らかである。PKC-θとそのコグネイトfynとの間の相互作用を破壊すること、または本明細書中以下に記載されるように、PKC-θと任意のコグネイトとの相互作用に影響を与えることが示され得る物質はまた、免疫調節活性を有する。PKC-θコグネイトとしてのfynの同定およびこの結合への干渉の結果は、PKC-θが、免疫応答に関与する重要なシグナリングタンパク質であることを実証する。
【特許文献1】国際公開第95/21252号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞内シグナル伝達経路の候補モジュレーターのライブラリーを評価するための方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の開示
本発明は、細胞内シグナリング経路のモジュレーターを同定するための効率的なアッセイ系に関する。この方法は生来の生物学的特異性を利用するので、この方法は、シグナル経路における関与物(シグナル経路を制御するシグナル生成タンパク質およびそのコグネイトレセプター)の不純な調製物に対して行われ得る。アッセイは、シグナル生成タンパク質とそのコグネイトとの間の相互作用を、結合を直接測定することによって、または生理学的もしくは代謝的効果を測定することによって、評価することにより行われる。測定は、候補モジュレーターの存在下および非存在下で行われる。シグナルを作働する(agonize)好結果な候補は、代謝的または生理学的産出の増大をもたらし;アンタゴニストは減少をもたらす。アンタゴニストおよびアゴニストは両方とも、コグネイトとシグナル生成タンパク質との間の結合について競合する。
【0009】
好結果な候補のなかには、シグナル生成タンパク質またはコグネイトのいずれかの領域を模倣するペプチドならびに非ペプチド低分子がある。その同定の容易さから、これらのペプチドは、ペプチドとシグナル生成タンパク質またはコグネイトタンパク質との間の結合を検出する、別の形態のスクリーニングアッセイにおいて特に有用である。開示されるアッセイ方法は、すべてが大きな化学的ライブラリーの直接的スクリーニングに適切である訳ではないかもしれないが、これらは、リードを選択するための他の技術と組み合わされ得る、候補の洗練されたスクリーニングを可能にする。
【0010】
本明細書中に記載の方法は、コグネイトまたはシグナル生成タンパク質に由来するペプチドを含み得る。「由来する」によって、本発明者らは、このようなペプチドがコグネイトもしくはシグナル生成タンパク質において見出されるか、または限定数の保存的変化により改変されるかのいずれかを意味する。好ましくは、保存的変化は、同定された天然の配列における残基の約20%未満、より好ましくは約10%未満、そして最も好ましくは約5%未満を示す。適切なペプチドを同定するための1つの方法は、実施例4に記載されるように、種間で配列を比較することである。
【0011】
本発明はまた、候補モジュレーターのライブラリーを、上記の方法を用いてスクリーニングするための方法、およびそれ自体がこれらのアッセイならびに関連する相互作用が関与する他の適用において有用なシグナル生成タンパク質およびコグネイト上の部位を代表するペプチドに関する。
【0012】
本発明はまた、PKC-θタンパク質およびそのフラグメントまたは由来するペプチドをPKC-θのコグネイトとともに用いて、上記で開示される方法が使用される、特定の実施態様に関する。fynタンパク質およびその特定のフラグメントは、PKC-θに結合することが見出された。この相互作用ならびにPKC-θおよびそのフラグメントと他のコグネイトとの相互作用を利用して、本発明は、PKC-θ/コグネイト相互作用により媒介される生物学的および病理学的なプロセスのモジュレーターを検出することにより、免疫モジュレーターを同定する方法を提供する。このような物質は、免疫系の活性、特にT細胞の活性および分化を調節することにおいて特に有用である。
【0013】
従って、本発明の少なくとも1つの局面は、PKC-θとそのコグネイトとの相互作用を免疫系の活性を調節する物質の指標として用いることに基づく。実施例には、fynタンパク質がPKC-θに結合する証拠を示す。PKC-θの結合パートナーが本出願人らの発明以前には知られていなかったので、この観察は重要である。対照的に、fynは、いくつかのT細胞レセプターに関係するタンパク質(CD3ζ鎖、ZAP-70、およびGrb-2を含む)と結合することが以前に見出されていた。本発明の同定されたfyn/PKC-θ相互作用は、免疫応答を調節し得る薬剤を作製および同定するための基礎として使用され得る。PKC-θおよびfynペプチド、またはPKC-θもしくはfyn等価物を用いる競合アッセイは、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする化合物を同定するために使用され得る。PKC-θまたはfyn「等価物」は、適切な結合領域のアミノ酸配列に由来する、PKC-θまたはfynの相互作用結合活性を模倣し得るペプチドを示す。さらに、fynタンパク質に構造的関係を全く有さないかもしれないが、fynにより示されるのと同様の様式でPKC-θに結合する、代理コグネート(surrogate cognate)が用いられ得る。さらに、ペプチドおよびタンパク質モデリング技術が、試験用の薬剤を合理的に設計するため、または合理的に選択するために、コグネイトパートナーとPKC-θとの特異的な相互作用を研究するのに用いられ得る。好結果の薬剤は、免疫応答を阻害するか、さもなければ調節するための治療剤として用いられ得る。
【0014】
例えば本発明は、以下の手段を提供する。
(項目1)候補分子のライブラリーからシグナル生成タンパク質により媒介される細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法であって、以下の工程:
該シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチド、およびパートナーコグネイトであって、触媒的に活性な該シグナル生成タンパク質に、該シグナル生成タンパク質または該コグネイトに由来するペプチドの非触媒部位を介して特異的に結合する、コグネイト、を含む環境を提供する工程;
該環境に候補物質を添加する工程;
該候補の存在下および非存在下で、該シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチドと該コグネイトまたはそれに由来するペプチドとの相互作用を決定する工程;
該候補の存在下および非存在下での該相互作用を比較する工程;
を包含し、ここで、該相互作用を調節する候補は、細胞内シグナル伝達のモジュレーターとして同定され、そして
該決定する工程が、該コグネイトまたは該シグナル生成タンパク質の純度に依存しない条件下で行われる、方法。
(項目2)前記パートナーコグネイトが、以下の工程:
(a)細胞内成分および/または膜結合レセプターの抽出物を調製する工程;
(b)該細胞内成分および/または膜結合レセプターを固体支持体上で分離して、該支持体上の多数の位置において多数の該成分および/またはレセプターを得る工程;
(c)該固体支持体をシグナル生成タンパク質またはそのフラグメントでプローブする工程;ならびに
(d)該シグナル生成タンパク質を結合する、該支持体上の少なくとも1つの成分またはレセプターを同定して、該コグネイトを同定する工程、
を包含する方法により同定される、項目1に記載の方法。
(項目3)前記細胞内成分および/または膜結合レセプターが、工程(b)の分離の前にタンパク質分解に供され;そして/または
前記シグナル生成タンパク質またはフラグメントが放射性標識されるか、蛍光標識で標識されるか、もしくはビオチン標識で標識されるか、または抗体もしくはそのフラグメントにより検出される、項目2に記載の方法。
(項目4)前記相互作用が、
Xenopus卵母細胞の成熟;
インデューサーによる心筋細胞における陰性周期変動の誘導;
レポーター遺伝子の転写;および
触媒的に活性なシグナル生成タンパク質の細胞下輸送、
から選択される代謝効果をもたらす、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目5)以下の工程、
組換え宿主細胞において、
レポータータンパク質の第1の部分をコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、前記シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現系であって、ここで該第1の部分それ自体はレポータータンパク質の検出可能な特性を有さない、第1の発現系、および
前記コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、該レポータータンパク質の第2の部分をコードするヌクレオチド配列を含む第2の発現系であって、ここで、該レポータータンパク質の第1および第2の部分が物理的に近接している場合に、該レポータータンパク質の特性が示される、第2の発現系を提供する工程;ならびに
該第1および第2の発現系を同時発現し、これにより該シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチドに結合する該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドの発現が、前記ライブラリーの前記候補分子の存在下および非存在下において、該レポータータンパク質の特性の提示をもたらす工程;ならびに
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを測定する工程;
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを比較する工程;
を包含し、
ここで、該候補分子の非存在下に対しての、存在下でのレポータータンパク質のレベルの増大または減少が、前記モジュレーターとして該候補分子を同定する、項目1に記載の方法。
(項目6)前記シグナル生成タンパク質がPKCイソ酵素である、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)前記シグナル生成タンパク質がPKC-θである、項目6に記載の方法。
(項目8)前記コグネイトがfynである、項目7に記載の方法。
(項目9)前記シグナル生成タンパク質に由来するペプチドが、βC2-1、βC2-2、βC2-4、θV1-1、θV1-2、θV1-3、θV1-4、δV1-1、δV1-2、δV1-3、δV1-4、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6、εV1-7、ηV1-1、ηV1-2、ηV1-3、ηV1-4、ηV1-5、ηV1-6、ηV1-7、μV1-1、μV1-2、λV1-1、λV1-2、ζV1-1、ζV1-2、およびζV1-3からなる群より選択される、項目6に記載の方法。
(項目10)ペプチドβC2-1、βC2-2、βC2-4、εPKCV1、θV1-1、θV1-2、θV1-3、θV1-4、δV1-1、δV1-2、δV1-3、θV1-4、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6、εV1-7、ηV1-1、ηV1-2、ηV1-3、ηV1-4、ηV1-5、ηV1-6、ηV1-7、μV1-1、μV1-2、λV1-1、λV1-2、ζV1-1、ζV1-2、またはζV1-3。
(項目11)免疫調節活性を有する物質を同定する方法であって、以下の工程:
PKC-θまたはそのフラグメントおよびそのコグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドを含む環境を、該PKC-θまたはフラグメントが該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドと相互作用する条件下で提供する工程;
候補物質を該環境に添加する工程;
該PKC-θまたはフラグメントと、該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドとの相互作用を、該候補の存在下および非存在下で決定する工程;
該候補の存在下および非存在下での該相互作用を比較する工程;
を包含し、
ここで、該相互作用を調節する候補が、免疫調節活性を有するとして同定される、方法。
(項目12)前記環境が細胞内環境である、項目11に記載の方法。
(項目13)前記相互作用の決定が、
前記PKC-θまたはフラグメントの輸送を測定すること、または
T細胞のOKT-3刺激後の21kDタンパク質のチロシンリン酸化を測定すること、または
IFNγ産生に影響を与えることなくIL4および/またはIL5産生の減少を測定すること、
による、項目12に記載の方法。
(項目14)前記コグネイトまたはコグネイト由来ペプチドが、fyn、fynフラグメントfyn-3、fynフラグメントfyn-2、および本明細書中に記載のクローン2-10または2-32によりコードされるタンパク質からなる群より選択される、項目11〜13のいずれかに記載の方法。
(項目15)被験体における免疫系を調節する方法であって、該方法は、該被験体に項目11〜14のいずれかに記載の方法により同定される物質の有効量を投与する工程を包含する、方法。
(項目16)前記物質がT細胞活性の減少を必要とする被験体におけるT細胞活性を減少させるために投与されるか、または
前記物質が、移植片拒絶の速度の減少を必要とする被験体における移植片拒絶の速度を減少させるために投与されるか、または
前記物質が、自己免疫障害の重篤度の減少を必要とする被験体における自己免疫障害の重篤度を減少させるために投与されるか、または
前記物質が、アレルギー性応答および/または喘息性応答の改善を必要とする被験体におけるアレルギー性応答および/または喘息性応答を改善するために投与されるか、または
前記物質が、サイトカイン産生の減衰を必要とする被験体におけるサイトカイン産生を減衰させるために投与される、項目15に記載の方法。
(項目17)項目11〜14のいずれかに記載の方法により同定される物質および薬学的に受容可能な賦形剤を含有する、薬学的組成物。
(項目18)クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、または3-1によりコードされる、単離および精製されたPKC-θのタンパク質コグネイト。
(項目19)項目18に記載のコグネイトをコードする、単離された核酸分子。
(項目20)発現系を含む核酸分子であって、該発現系は、項目18に記載のコグネイトをコードするヌクレオチド配列を含み、該ヌクレオチド配列はその発現をもたらすために制御配列に作動可能に連結されている、核酸分子。
(項目21)項目20に記載の核酸分子を含む組換え宿主細胞。
(項目22)クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、または3-1によりコードされる、PKC-θのタンパク質コグネイトを産生する方法であって、該方法は、項目21に記載の細胞を前記コグネイトが産生される条件下で培養する工程を包含する、方法。
(項目23)項目18に記載のタンパク質コグネイトと免疫反応性の抗体。
(項目24)クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、または3-1に含まれるコード配列に相補的な配列を含む、単離された核酸分子。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明を実施するための形態
一般的な背景
本発明の1つの局面は、例示的なシグナル生成対の相互作用の総括として、おそらく最も理解される。ここで、シグナル生成タンパク質はPKCであり、そしてコグネイトは適切なRACKである。RACKまたはPKCに含まれるPKC結合エレメントを模倣するか、またはPKCに含まれるRACK結合エレメントを模倣するペプチドが、シグナル経路に関連するアッセイの成分として使用され得る。
【0016】
PKCは、シグナル生成イソ酵素のファミリーを示し、少なくともそれらのいくつかはほとんどの細胞型に存在する。適切な薬剤(代表的には、ホスファチジルセリン(PS)およびジアシルグリセロール(DAG)、ならびにいくつかの場合にはカルシウムイオン)による活性化の際に、PKCは、一般に、可溶性の画分から顆粒画分と関連する細胞内の別の位置へ細胞下で輸送される。このファミリーにおける各イソ酵素は、各特定のイソ酵素の活性化の生理学的効果または代謝効果に関連する適切な部位でアンカーするタンパク質である、1つまたはより多いコグネイト(またはRACK)を有するようである。従って、例えば、心臓の筋細胞中に含まれるPKCの1つまたは部分集合は、活性化された場合、収縮率の低下を生じる。Xenopus卵母細胞に含まれるPKCの1つまたは部分集合は、活性化された場合、卵の成熟に影響を与える。PKCの1つまたは部分集合は、触媒部位で阻害された場合、Tリンパ球活性化をブロックする。Birdchallら、J Pharm.Expt'l Ther(1994)268:922を参照のこと。特定のPKCイソ酵素とそのコグネイトRACKとの相互作用は、代謝効果または生理学的効果に必要である;従って、この相互作用を含む干渉はその効果を調節する。あるいは、調節の効果は、モジュレーターの相互作用がシグナル生成パートナー中における構造変化を促進する場合、拮抗的であり得、このことは、アクチベーター(例えば、PSまたはDAG)およびコグネイトタンパク質の同時の結合の際にのみ通常生じる効果に一致するか、またはそうでなければシグナル活性化を生じる。
【0017】
公知のPKCイソ酵素は、図1に示すような3つの主要な群に分けられ得る。群に関わらず、全てのイソ酵素は、2つの定常領域(C)および2つの可変領域(V)により示されるプロテインキナーゼドメインを含む。酵素活性を担う領域は、相同性が高いか、または定常である;カルボキシ末端方向へ向かうC4領域は、触媒部位を含むと考えられている;C3領域上流はATP結合を担う。
【0018】
それぞれの場合において、プロテインキナーゼドメインの上流は調節ドメインである。全ての3つのファミリー(従来の(cPKC)、新規の(nPKC)、および異型の(aPKC))は、N末端にV1と呼ばれる可変領域、およびC1で記されるすぐ下流の定常領域を含む。C1領域は、ホスファチジルセリン、ジアシルグリセロール、またはホルボールエステルのような薬理学的模倣物による活性化に関連すると考えられている。C2領域はcPKCファミリーにおいてのみ見出され、そしてカルシウムによる活性化のための部位であると考えられている。しかし、状況は、C1領域がカルシウム結合にもまた関与し得るようにそれほど単純ではあり得ず、そして異型のクラスはホルボールエステルのような試薬に対する応答が乏しい。
【0019】
それにも関わらず、調節ドメインとして示される領域内の配列が、特定のPKCとそのコグネイトRACKとの相互作用を担うことが、現在明らかである。これらはまた、偽RACK部位と呼ばれるRACK模倣領域を含み、偽RACK部位はPKCが活性化されていない場合に、PKCのそのRACKへの結合を妨げる。この状況は、一次配列中の別の部分に位置し、そしてPKCの活性化の前に触媒部位をブロックする偽物質配列に類似である。関連領域が、設計されたシグナル生成事象に関連する特定のイソ酵素に特異的であることを以下に示す。
【0020】
PCT出願番号WO95/21252において、PKC-β(cPKCファミリーのメンバー)と相互作用するコグネイトRACK1タンパク質がクローン化され、そしてPKC-βへの結合を担うと推定されるWD-40領域が構造の類似性によって同定された。これらのWD-40ペプチドの1つが、以下のようなPKCアクチベーターの非存在下でPKCのキナーゼ活性を誘導することが見出された;このペプチドおよびWD-40領域を示す別のペプチドの両方が、活性化PKC形態の特徴であるタンパク質溶解に対してPKC-βを感受性にする。全てのこれらのペプチドがまた、RACK1へのPKC-βの結合を阻害することがまた示された。原理上は、適切なRACKのWD-40領域が、対応するPKCに関連するシグナル生成のアンタゴニストまたはアゴニストとして作用し得る。記載されるように、関連PKCとそのコグネイト、または関連PKCと上記のコグネイト由来のWD-40ドメインとの間の相互作用について候補モジュレーターのライブラリーのメンバーの効果を示すアッセイが、このシグナル経路のモジュレーターを同定するためのスクリーニングアッセイとして使用され得る。
【0021】
スクリーニングアッセイ
下記の例示的な研究において、シグナル生成の調節は、適切なPKCを含む反応混合物に、関連RACK由来のWD-40ペプチドもしくはそれ自身がRACK結合ドメインを模倣しているPKC調節ドメイン由来の偽RACKペプチド、または代理コグネイトのいずれかを供給し、そして結合またはシグナル生成に対するこれらのペプチドの効果を試験することによって達成され得る。相互作用する(すなわち、コグネイトとして作用する)物質はPKCを結合し、そして/またはそのシグナル生成を変化させる。PKCまたはPKC由来のコグネイト結合ペプチドはまた、シグナル生成タンパク質へのコグネイトタンパク質の結合に影響を与えるための良好な候補の能力の利点によって、シグナル生成経路のモジュレーターをスクリーニングするための適切なコグネイトと組み合わせて、アッセイ試薬として使用され得る。一般に、その相互作用が観察され得るPKC/コグネイト組み合わせを使用する系において、この相互作用に影響を与える物質をスクリーニングするために使用され得る。従って、相互作用は候補の存在下およびその非存在下で観察され、そしてこれらの2つの条件下の相互作用における差異はこの相互作用を調節する候補の能力を反映する。
【0022】
特に重要なシグナル生成タンパク質/コグネイト系が本明細書中以下に記載される。PKC-θが関連するシグナリングは、免疫系(特に、T細胞応答)を調節することにおいて特に重要である。従って、PKC-θとそのコグネイトとの間の相互作用を調節する物質がまた、免疫応答のモジュレーターであり、従って、アレルギーおよび喘息、同種移植片拒絶の予防、ならびに自己免疫疾患の処置におけるような、免疫応答の改変が所望される状況において使用され得る。以下の記載は、PKC-θまたはそのフラグメントを使用するアッセイ系であり、ここで、このコグネイトは通常、宿主細胞中に存在するものであり、fynタンパク質(先の用語中のRACK)またはその関連フラグメント、あるいは本発明の方法に従って定義された代理コグネイトである。本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド」および「タンパク質」はサイズに関わらず交換可能に使用される。いくつかの場合において、これは従来の用語に従って意図されることが明らかである;一方、両方の可能性が含まれ得る。出願人はアミノ酸配列の長さの点からペプチドとタンパク質との間に任意の境界線を引かない。
【0023】
従って、要約すると、種々の可能な対となる相互作用が試験され得る;必要とされる成分は決して精製されない。
【0024】
【表1】
上記の表において、成分に適切な相互作用を検出する任意のアッセイ方法が使用され得る。相互作用が細胞内である場合、細胞に対する特定の生理学的効果が測定され得る。相互作用がインビトロである場合、コグネイト成分のシグナル生成タンパク質への結合の直接的な測定がおそらく最も適切である。
【0025】
一般に、本発明は特定のシグナル経路のモジュレーターを同定するためのスクリーニング方法に関する。各アッセイは、触媒的に活性であるシグナル生成タンパク質に非触媒部位を介して十分に、そして特異的に結合し、不純な調製物中でのアッセイを可能にするコグネイトを含む。これらの2つの成分の相互作用は、候補モジュレーターの存在下および非存在下で観察される。選択されるアッセイ系に依存して、相互作用およびその改変が、観察可能なパラメーター;細胞下分布における変化のような生理学的な読み出し、またはレポーター遺伝子の転写のような人工的な構築物のいずれかに影響を与える細胞内結合アッセイを含む種々の方法で観察され得る。しかし、必要とされる試薬が精製されることは決してないが、いくつかの場合において、例えば、相互作用を担うシグナル生成タンパク質(PKC-θにより示される)またはそのコグネイト結合タンパク質(fynにより示される)の領域を示す、以下に示されるように同定されたペプチドを利用することが好都合であり得る。
【0026】
関連の内因性PKCおよび関連の内因性コグネイトが、候補物質の影響(例えば、シグナル生成タンパク質の活性化の際に細胞内輸送パターンを変化させる候補の能力)を観察することにおいて使用され得る。あるいは、関連PKCに結合するそれらの能力の利点により以下に記載されるアプローチを用いて同定されるRACKまたはコグネイトのWD40領域を示すタンパク質のような、代理コグネイトタンパク質が使用され得る。代理物がインビトロ系で使用される場合、一般に、結合は測定可能な相互作用である。本出願で使用される場合、上記のように、用語「コグネイト」は、触媒的に活性なシグナル生成タンパク質に非触媒部位を介して十分に、そして特異的に結合する物質に適用される。従って、「コグネイト」は、内因性コグネイトタンパク質(または関連フラグメント)あるいはこれらに由来の等価物、および上記の特性を共有する代理物質の両方をいう。コグネイトが非触媒部位に結合することが必要とされるが、さらにコグネイトは、シグナル生成タンパク質による触媒のための物質であり得る。
【0027】
さらに下記のように、アッセイ方法において1つまたは他の成分と置き換えられ得るペプチドは、それ自身アッセイの実施を通じて同定され得る。従って、コグネイトタンパク質とシグナル生成タンパク質との相互作用に影響を与える化合物の能力は、その化合物をシグナル経路それ自体のモジュレーターと同様にアッセイの有用な成分として同定する。一旦適切な成分が同定されると、個々の標識成分が、結合のレベルを評価するために使用され得る。標識成分は、コグネイトタンパク質を含む組成物に対して測定される、シグナル生成ペプチドの領域、または逆に、シグナル生成タンパク質を含む組成物に対して測定されるコグネイトタンパク質の部分を示す成分を示し得る。これらの組成物は、完全な細胞または細胞を含まない抽出物または部分的に精製された抽出物であり得る。
【0028】
非内因性物質がアッセイの1成分として選択される場合、好ましくは、スクリーニング試験がそれ自身の結合のみを測定することによって行われ得ることが明らかである。
【0029】
あるいは、シグナル生成タンパク質およびコグネイトタンパク質の両方が、粗抽出物中に含まれ得、そしてそれらの相互作用を評価するための方法は、調製物自身の中のシグナル生成タンパク質の局在を測定する工程、あるいは例えば、Xenopus卵母細胞の成熟のような相互作用の代謝的効果または心筋細胞の収縮率に対する効果を測定する工程を包含し得る。相互作用を評価する特定の方法は、もちろん、相互作用のパートナーに対して適切であり、そしてシグナル経路および以下に示すようなそれらの成分の特異性の利点を利用することにより、容易に確認され得る。
【0030】
さらに、「ツーハイブリッド」システムが、PKCまたはそのフラグメントとそのコグネイトとの相互作用に影響を与えるために使用され得、そしてこの相互作用に対する候補の効果が観察され得る。「ツーハイブリッド」システムは、本明細書中で参考として援用される米国特許第5,283,173号に記載されている。簡潔には、本発明に適用される場合、組換え宿主(代表的には、酵母)は、それぞれ融合タンパク質をコードする2つの発現系を用いて形質転換される。1つの融合タンパク質は、PKCまたはそのコグネイト結合フラグメントに融合された転写活性化因子の部分を含む;他の融合タンパク質は、コグネイトに融合された転写活性化部分の相補性部分を含む。代表的には、転写活性化因子はRNAポリメラーゼのアクチベーターであり、そして1つの部分はDNA結合部分を示し、もう1つの部分はポリメラーゼのアクチベーターである。コグネイトおよびPKCが結合する場合、転写因子の2つの部分は、それらが活性化した転写の機能を実行し得るほど十分に近位にもたらされる。従って、「ツーハイブリッド」アッセイはまた、レポータータンパク質(例えば、βガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)を産生する、完成された転写因子により活性化されるレポーター発現系を含む。本明細書中で規定される場合、「ツーハイブリッドアッセイ」はこの一般的なアプローチをいう。
【0031】
好都合に、調節候補化合物を同定するためのアッセイは、反応混合物中の相対成分の「結合」に対する候補の効果の測定としてしばしば記載される。コグネイトタンパク質およびシグナル生成タンパク質の両方がアッセイに関連する組成物の活性成分である場合の例において、結合は直接だけではなく、得られる代謝的または生理学的効果によってもまた測定され得る。
【0032】
fyn/PKC-θ感染
PKC-θにより媒介されるシグナル生成がT細胞の活性化を調節することにおいて重要であることが、本明細書中以下で示されている。従って、PKC-θによって媒介されるシグナリングによって媒介されるPKC-θの改変は、免疫応答の改変を生じる。従って、このシグナル経路を調節するとして同定され得る物質は、アレルギー性反応の予防またはそれらの重篤度を低減することにおいて、あるいは喘息の処置において、自己免疫疾患の効果を改善することにおいて、および移植片の拒絶のリスクを低減することにおける免疫調節剤として有用である。PKC-θは、その内因性コグネイトの少なくとも1つとして作用するfynタンパク質と内因的に相互作用することがまた、以下に示される。従って、PKC-θ/fyn相互作用はそれ自身が、免疫モジュレーターとして機能する候補物質を同定するためのアッセイ系として使用され得る。
【0033】
アッセイの1つの形態において、PKC-θシグナルタンパク質およびfynコグネイトは試験細胞中に内因的に生じ、そしてPKCシグナリング機能に対する候補の効果が直接測定され得る。以下に示すように、PKC-θの輸送は活性化の際に起こり、従って、内因性コグネイトタンパク質に結合する。この輸送の際の候補物質の効果は、そのコグネイトとPKC-θとの相互作用の際のその影響の測定として直接決定され得る。
【0034】
あるいは、アッセイは、PKC-θおよびfynを直接含んでインビボまたはインビトロで構築され得る。詳細には、fyn/PKC-θ相互作用を調節する試薬を同定するために、fynタンパク質、PKC-θに結合するドメインを含むfynタンパク質のフラグメント、またはPKC-θに結合するfynタンパク質のドメインを含む融合タンパク質が、PKC-θ、fyn結合ドメインを含むPKC-θのフラグメント、またはfyn結合ドメインを含む融合タンパク質を有する同じ環境に提供され、この環境は通常、シグナル生成タンパク質(PKC-θ)とコグネイト(fyn)とが相互作用する環境である。環境は、試験される物質の存在下および非存在下で提供される。試験される物質の存在下および非存在下で、シグナリングタンパク質とコグネイトとの間の相互作用における差異が比較される;相互作用をブロックするか、またはそうでなければ相互作用に影響を与える試薬が、これらの2つの環境の間での相互作用における差異の決定により同定され得る。
【0035】
fynタンパク質はスプライシング変異体のファミリーを提示し、そして「fyn」によって、これらのスプライスされた変異体およびそれらに由来するPKC-θを結合するペプチドの全てを意味する。
【0036】
本明細書中で用いられる場合、試薬は、試薬の存在がfynペプチドとのPKC-θペプチドの会合を妨げるか、会合の量を減少させる場合、fyn/PKC-θ結合をブロックするかまたは低減するといわれる。試薬の1つのクラスはPKC-θペプチドへの結合によって会合を低減するかまたはブロックするが、別のクラスの試薬はfynペプチドへの結合によって会合を低減するかまたはブロックする。第1のクラスの試薬の2つの例として、PKC-θペプチドに結合し、そしてPKC-θ上のfyn結合部位をブロックする抗体と、fyn上に見出されるPKC-θ結合部位を有するペプチドとが挙げられる。第2のクラスの試薬の2つの例として、fynペプチドに結合し、そしてfyn上のPKC-θ結合部位をブロックする抗体と、PKC-θ上に見出されるfyn結合部位を含むペプチドとが挙げられる。他の型の相互作用もまた、予想され得る。
【0037】
本発明の方法で使用されるfynペプチドは、そのアミノ酸配列が当該分野で公知である完全なfynタンパク質、PKC-θを結合するfynペプチドのフラグメント、または結合活性を保持しているそれらの小さな領域、もしくは適切なfyn配列を含む融合タンパク質のようなfynのPKC-θ結合部位を含むタンパク質のいずれかであり得る。あるいは、fynペプチドは、回文(palindromic)反復または縦列(tandem)反復におけるような、fyn配列の1つ以上のコピーを含み得る。fynペプチドを発現する細胞またはウイルスもまた使用され得る。
【0038】
fyn配列を含む化合物の代わりとして、本発明の方法において同定される試薬は、fynペプチドと置き換えられ得る。例えば、PKC-θへの結合によってfyn/PKC-θ結合をブロックすることが見出されている試薬が、fynペプチドの代わりに使用され得る。
【0039】
本発明の方法において使用されるPKC-θペプチドは、そのメンバーがfynペプチドに結合する限りは、タンパク質のPKC-θファミリーの任意メンバーであり得る。本明細書中で使用される場合、PKC-θファミリーのメンバーは、タンパク質のPKC-θファミリーのメンバーである当該分野で現在公知のタンパク質をいう(概説については、Baierら、J Biol Chem(1993)268(7):4997-5004およびBaierら、Eur J Biochem(1995)225(1):195-203を参照のこと)。これらは、例えば、ヒト、マウスなどの器官から単離されるPKC-θ、ならびに各生物において見出されるPKC-θの種々のスプライス形態を含む。PKC-θファミリーのメンバーはその全体において使用され得るか、またはfyn結合部位を含むPKC-θタンパク質のフラグメントが使用され得る。好ましいフラグメントはPKC-θのV1領域に由来する;強くイソ酵素特異的な領域V3またはV5もまた、使用され得る。あるいは、PKC-θを発現する細胞もしくはウイルス、またはPKC-θフラグメントが使用され得る。
【0040】
本発明の方法において使用されるfynおよびPKC-θペプチドは、種々の形態で用いられ得る。ペプチドは、天然に生じる夾雑物を含まない、高度に精製された形態で使用され得る。あるいは、細胞性成分の混合物を含む粗調製物、ならびにfynおよびPKC-θペプチドが使用され得る。さらに、fynまたはPKC-θペプチドは、天然にこれらのペプチドを発現している細胞から単離され得るか、組換え方法を用いてこれらのペプチドを発現するように改変されたか細胞から単離され得るか、または標準的なペプチド合成方法を用いて合成され得る。試験される試薬および/またはfynペプチドとのPKC-θペプチドの会合がサンプル中で同定され得る限りは、fynおよびPKC-θペプチドは上記アッセイにおける使用のために適切な形態である。
【0041】
さらに、fynおよび/またはPKC-θペプチドは、検出を容易にするために、検出可能な標識またはシグナル生成系を含むようにさらに改変され得る。蛍光タグまたは蛍光偏向(fluorescence polarization)、および二次標識試薬(例えば、ビオチン)のような試薬を接着する方法が、当該分野で周知である。
【0042】
種々の当該分野で公知の方法が、試薬がPKC-θペプチドとのfynペプチドの相互作用をブロックするかまたは減少させるかどうかを検出するために適用され、そして使用され得る。このような方法は、固体支持体を利用するアッセイ、液相中でのアッセイ、ゲル状培地で行われるアッセイ、およびこれらの環境の組み合わせを使用するアッセイを含むが、これらに限定されない。固相アッセイの例は、fynおよびPKC-θペプチドの一方または両方が固体支持体上に固定され、そして試験される試薬およびfyn/PKC-θ対の他のペプチドを含む液相中でインキュベートされるアッセイである。ついで、抗体のような二次的な検出方法が固定化ペプチドに結合する二次ペプチドの量を決定するために使用される。あるいは、fyn/PKC-θ対の二次ペプチドが検出可能に標識され得、そして固定化した第1のペプチドへのその結合が直接アッセイされる。固相に基づくアッセイについて好ましく適切な1つの形態は、96-ウェルマイクロ-タイタープレート中でのペプチドの1つの固定である。このようなタイタープレートは複数のサンプルを迅速にプロセシングするための有効なアッセイ形態を提供する。
【0043】
あるいは、fyn/PKC-θ結合対の両方のペプチドが溶液中に存在し得る。混合した後、PKC-θペプチドへのfynペプチドの結合が、種々の方法(例えば、電気泳動手段を用いて移動度シフトを検出する方法)を用いて検出され得る。当業者は、競合アッセイにおける使用のための、当該分野で公知の多くのアッセイ型形態がfyn/PKC-θペプチド対を使用するように改変され得ることを容易に理解し得る。
【0044】
上記のように、PKC-θおよびfynまたはfyn代替物の結合は、ツーハイブリッドアッセイシステムを使用して検出され得る。「fyn代替物」は、本発明のアッセイにおいて、PKC-θとfynまたは他の内因性コグネイトとの作用を干渉するようにPKC-θに結合すると見出される、任意の別のペプチドまたは他の分子であり得る。従って、本明細書における議論は、PKC-θ/fyn相互作用それ自体に限定されるようには考えられるべきでなく、PKC-θと任意のコグネイトとの相互作用を含む。
【0045】
PKC-θペプチドまたはfynペプチドへの直接結合は、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする薬剤の同定における第1工程として使用され得るが、そうである必要はない。このような方法において、薬剤はまず、PKC-θまたはfynペプチドに結合する能力についてスクリーニングされる。次いで、2つのペプチドのいずれかに結合する薬剤は、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする能力について、または免疫系の機能を調節する能力についてスクリーニングされる。
【0046】
上記の方法においてアッセイされる薬剤は、ランダムに選択されるか、あるいは合理的に選択または設計され得る。本明細書において用いられるように、薬剤がfynペプチドのPKC-θペプチドとの会合に関与する特異的な配列を考慮することなしにランダムに選択される場合、薬剤はランダムに選択されるといわれる。ランダムに選択される薬剤の例は、化学的ライブラリーまたはペプチドコンビナトリアルライブラリーの使用である。
【0047】
本明細書において用いられるように、薬剤が、薬剤の作用と関連して、標的部位の配列の配列および/またはそのコンホメーションを考慮する非ランダム基準で選択される場合、薬剤は合理的に選択または設計されるといわれる。上記のように、本発明の薬剤のための2つの作用部位は、fynペプチドおよびPKC-θペプチドである。薬剤は、fyn/PKC-θ対の接触部位を構成するペプチド配列を利用することにより、合理的に選択されるか、または合理的に設計され得る。例えば、合理的に選択されるペプチド薬剤は、そのアミノ酸配列がPKC-θ上に見出されるfyn接触部位と同一であるペプチドであり得る。このような薬剤は、fynのPKC-θとの会合を、fynへ結合することにより減少またはブロックする。
【0048】
本発明の薬剤は、ペプチド、低分子、ビタミン誘導体、および炭水化物であり得る。当業者は、本発明の薬剤または本発明のアッセイ方法において使用される薬剤の構造的性質に制限が存在しないことを容易に理解し得る。
【0049】
上に提供されるように、本発明の薬剤の1つのクラスは、そのアミノ酸配列がfynのアミノ酸配列、および特にfyn上に見出されるPKC-θ接触部位に基づいて選択される、ペプチド薬剤のクラスであり、薬剤の第2のクラスは、そのアミノ酸配列が、PKC-θのアミノ酸配列、および特にPKC-θ上に見出されるfyn接触部位に基づいて選択される、ペプチド薬剤のクラスである。PKC-θ上のfyn接触部位およびfyn上のPKC-θ接触部位は、当該分野で公知の方法論を使用して容易に決定され得る。例えば、PKC-θタンパク質のトリプシン消化が実施され得、そしてPKC-θの種々のフラグメントが、fynペプチドを結合するそれらの能力について試験され得る。あるいは、結合および咀嚼(bind and chew)アッセイの改変が使用され得、ここでfynおよびPKC-θペプチドは相互作用させられ、そして相互作用対がタンパク質消化に供される。fynペプチドにより接触されるPKC-θペプチドの領域は消化から保護され、そして後に、結合しそして保護されるアミノ酸配列を決定するために特徴付けられる。種々のフラグメントの結合を検出する別のアッセイもまた使用され得る。
【0050】
本発明のすべてのペプチド薬剤は、アミノ酸がC末端を形成する場合、薬学的に受容可能な塩またはエステルの形態であり得る。塩は、例えば、Na+、K+、Ca+2、Mg+2などであり得;エステルは一般に1〜6Cのアルコールのエステルである。本発明のすべてのペプチドにおいて、1つ以上のアミド結合(-CO-NH-)は、必要に応じて、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2CH2、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-COCH2-、-CH(OH)CH2-および-CH2SO-のような等量式(isostere)である別の結合で置換され得る。この置換は当該分野で公知の方法により作製され得る。代替ペプチド結合部分も、ペプチドに基づく薬剤の分解速度を減少させるために使用され得る。以下の参考文献は、これらの代替結合部分を含むペプチドアナログの調製を記載する:Spatola,A.F.,Vega Data(1983年3月),第1巻、第3号「Peptide Backbone Modifications」(一般的な総説);Spatola,A.F.,「Chemistry and Biochemistry of Amino Acids Peptides and Proteins」,B.Weinstein,編,Marcel Dekker,New York,267頁(1983)(一般的な総説);Spatola,A.F.ら、Life Sci(1986)38:1243-1249(-CH2-S);Hann,M.M.,J.Chem Soc Perkin Trans I(1982)307-314(1982)(-CH-CH-、シスおよびトランス);Almquist,R.G.ら、J Med Chem(1980)23:1392-1398(-COCH2-);Jennings-White,C.ら、Tetrahedron Lett(1982)23:2533(-COCH2-);Holladay,M.W.ら、Tetrahedron Lett(1983)24:4401-4404(-C(OH)CH2-);およびHruby,V.J.,Life Sci(1982)31:189-199(-CH2S-)。
【0051】
ペプチド結合の代わりに等量式を含むアナログに加えて、本発明のペプチドまたはタンパク質は、一般に、Olson,G.L.ら、J Med Chem(1993)36:3039-3049に記載のようなペプチド模倣物、およびChorev,M.ら、Science(1979)204:1210-1212;およびPallai,P.V.ら、Int J Pept Protein Res(1983)21:84-92に記載のレトロインバーソタイプ(retro-inverso type)ペプチドを含む。
【0052】
本発明の薬剤の別のクラスは、fynタンパク質の重要な位置またはPKC-θタンパク質と免疫反応性の抗体のクラスである。本発明の薬剤の作用のための標的は細胞内に存在するので(fyn/PKC-θ相互作用に関与する細胞シグナリング)、抗体薬剤は免疫診断方法において最も有用であり、そして本発明の方法におけるfynまたはPKC-θペプチドのいずれかのための代替物としての使用を見出す。しかし、現在利用可能な組換え技術を使用して、抗体は細胞内で産生され得、従って細胞内形態のアッセイにおいても同様に関与し得る。
【0053】
抗体薬剤は、抗原性領域として、抗体により標的化されることが意図されるfynまたはPKC-θタンパク質のそれらの部分を含むペプチドでの適切な哺乳動物被験体の免疫により得られる。重要な領域は、fynのPKC-θとの会合に関与する接触部位、および結合に際して接触部位との立体的干渉を提供する部位を含むが、これらに限定されない。
【0054】
抗体薬剤は、ペプチドハプテンが十分な長さであれば、それらを単独で使用して、あるいは所望であれば、または免疫原性を増強することが必要とされれば、適切なキャリアに結合したペプチドハプテンを使用して適切な免疫プロトコルで適切な哺乳動物宿主を免疫することにより調製される。BSA、KLH、または他のキャリアタンパク質のようなキャリアとの免疫原性結合体の調製方法は、当該分野で周知である。いくつかの状況において、例えば、カルボジイミド試薬を使用する直接結合が有効であり得;他の場合においては、Pierce Chemical Co.,Rockford,IKにより供給されるような結合試薬が、ハプテンへの接近可能性を提供することが所望され得る。ハプテンペプチドは、アミノ末端またはカルボキシ末端においてシステイン残基で延長され得るか、またはシステイン残基を散在させられ得、例えば、キャリアへの結合を促進し得る。免疫原の投与は、当該分野において一般に理解されるように、適切な期間にわたる注射により、そして適切なアジュバントを使用して一般に実施される。免疫スケジュールの間、抗体の力価が、抗体形成の適切さを決定するために得られる。
【0055】
この方法で産生されたポリクローナル抗血清は、いくつかの適用のために満足であり得るが、薬学的組成物のためには、モノクローナル調製物の使用が好ましい。所望のモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株は、一般に公知であるように、KohlerおよびMilsteinの標準的な方法あるいはリンパ球または脾臓細胞の不死化をもたらす改変を使用して調製され得る。(Harlow:Antibodies Cold Spring Harbor Press NY 1989を参照のこと)。所望の抗体を分泌する不死化細胞株は、抗原がペプチドハプテンであるか、あるいはPKC-θまたはfynペプチドであるイムノアッセイによりスクリーニングされる。所望の抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が同定されると、細胞はインビトロでかまたは腹水液中での産生によるかのいずれかで培養され得る。
【0056】
次いで、所望のモノクローナル抗体は、培養上清または腹水上清から回収される。免疫学的に重要な部分を含むモノクローナルまたはポリクローナル抗血清のフラグメントは、インタクトな抗体と同様に、アンタゴニストとして使用され得る。免疫学的反応性フラグメント(例えば、Fab、Fab'、またはF(ab')2フラグメント)の使用が、特に治療関連において、これらのフラグメントは一般に全体の免疫グロブリンより免疫原性が低いので、しばしば好ましい。抗体またはフラグメントはまた、最新の技術を使用して、組換え手段により産生され得る。レセプターの所望の領域に特異的に結合する領域はまた、複数の種起源を有するキメラに関連して産生され得る。
【0057】
もちろん、抗体の最初の産生を、免疫、およびモノクローナルを分泌する不死化細胞の単離を通して実施する必要はない。デノボ組換え合成を通して産生がもたらされ得るように免疫グロブリン遺伝子をクローン化するための技術が利用可能である。遺伝子が不死化B細胞中に由来するか、またはクローン化努力から得られるかにかかわらず、遺伝子の操作は、免疫グロブリンの再設計(Fvフラグメントのような単鎖免疫グロブリンの産生を含む)を可能にする。
【0058】
コグネイトとPKC-θとの相互作用を調節する物質のための使用
PKC-θとそのコグネイトとの間の相互作用は、種々の生物学的応答の調節に関連している。本発明に従って、この相互作用は、免疫系の調節、特にT細胞活性に関与するそれらの活性をもたらす。それゆえ、PKC-θのそのコグネイトとの相互作用に影響する物質は、免疫系の活性を調節するために使用され得る。
【0059】
詳細には、T細胞媒介性応答のような免疫系活性は、被験体に、適切なコグネイトのPKC-θとの相互作用に影響する物質を投与することにより調節され得る。被験体は、免疫活性の調節の必要性を有する任意の脊椎動物であり得る。これらの物質は、ヒト被験体の処置において特に有用である。
【0060】
免疫系活性は、免疫系の細胞が関与する広範な種々の細胞性事象をいう。このような活性を調節することが所望される状況の例としては、移植物外科手術、自己免疫障害、およびアレルゲンに対する応答が挙げられるが、これらに限定されない。これらの状況の各々において、T細胞応答性を選択的に減少させることが所望される。
【0061】
物質は、それが免疫系により媒介される病理学的症状の重篤度を軽減する場合、またはそれが被験体の正常免疫活性を正または負のいずれかに影響する場合、免疫系活性を調節する。例えば、薬剤は、それが移植片拒絶の発症の速度を減少させるか、または移植片拒絶の重篤度を軽減させる場合、移植片拒絶に関与する免疫系活性を調節するといわれる。免疫系に対する他の影響は、より正確に測定され得る。例えば、生じる効果は、IL-4またはIL-5のようなサイトカインの産生を、以下に示すように、好ましくはγ-IFN産生に影響せずに減衰させ得る。
【0062】
免疫系活性を調節する薬剤の投与
本発明の薬剤は、単独で、免疫系の機能を調節する別の薬剤との組み合わせで、またはさらなる生理学的効果を有する薬物との組み合わせで提供され得る。例えば、T細胞活性を減少させる本発明の物質は、別の免疫抑制剤、および/またはそのように同定された別の物質との組み合わせで投与され得る。本明細書において用いられるように、2つの薬剤が同時に投与されるか、または薬剤が同時に作用するような様式で独立して投与される場合に、2つの薬剤は、組み合わせで投与されるといわれる。
【0063】
本発明の薬剤は、非経口経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、経皮経路、または頬経路を介して投与され得る。あるいは、または同時に、投与は、経口経路によるかまたは吸入により得る。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康、および体重、同時処置の種類、もしあれば処置の頻度、および所望される効果の性質に依存する。
【0064】
本発明は、本発明の1つ以上の薬剤を含有する組成物をさらに提供する。個々の必要性は変動するが、各成分の有効量の至適範囲の決定は、当業者の技術内である。代表的な投与量は、0.01mg/k〜50mg/kg体重の範囲内である。好ましい投与量は、0.1mg/k〜10mg/kgの範囲内であり;最も好ましくは0.1mg/k〜1mg/kgである。
【0065】
薬理学的に活性な薬剤に加えて、本発明の薬剤を含有する組成物は、活性化合物の調製物(これは作用部位への送達のために薬学的に使用され得る)中への処理を促進する賦形剤および補助剤のような適切な薬学的に受容可能なキャリアを含有し得る。非経口投与のための適切な処方物としては、水溶性形態の活性化合物(例えば、水溶性塩)の水溶液が挙げられる。さらに、適切な油性注射懸濁液としての活性化合物の懸濁液が投与され得る。適切な親脂性溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油(例えば、ゴマ油)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリド)が挙げられる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランを含む)を含有し得る。必要に応じて、懸濁液はまた、安定化剤を含有し得る。リポソームはまた、細胞内への送達のために薬剤を被包するために使用され得る。
【0066】
本発明による全身投与のための薬学的処方物は、経腸投与、非経口投与、または局所投与のために処方され得る。実際、3つすべてのタイプの処方物は同時に使用されて、有効成分の全身投与を達成し得る。
【0067】
経口投与のための適切な処方物としては、硬または軟ゼラチンカプセル、丸剤、錠剤(被覆錠剤(coated tablet)を含む)、エリキシル、懸濁液、シロップまたは吸入およびその制御放出形態が挙げられる。
【0068】
吸入による投与のための適切な処方物としては、計量用量吸入器(metered dose inhaler)および乾燥粉末デバイス(dry powder device)が挙げられる。鼻吸収のために水性および非水性懸濁液または乾燥粉末が使用され得る。
【0069】
標的化のための方法
本発明の物質の有効親和性は、薬剤を、それもまたPKC-θまたはそのコグネイトのいずれかに結合する第2の薬剤に共有結合することにより増加され得る。このような第2の薬剤は、コグネイトまたはPKC-θ分子のいずれかにおける別の部位に結合し、そして第1の薬剤を標的部位にきわめて近接させて、全体のアビディティを増加させる。このような第2の薬剤は、抗体およびペプチド薬剤であり得るが、これらに限定されない。第2の薬剤は、当該分野で公知の方法を使用して、第1の薬剤に共有結合され得る。リンカーを用いる方法は、この使用のために特に良好に適合する。
【0070】
さらなる記載なしに、当業者は、前述の記載および以下の例示的な実施例を用いて、本発明を実施し得ると考えられる。以下の作業実施例は、本発明の好ましい実施態様を例証し、そして限定として解釈されるべきでない。
【実施例】
【0071】
実施例1
εPKC輸送に対する陰性周期変動の特異性
新生児ラット心筋細胞をこのアッセイにおいて使用した。これらの細胞は、培養物中で調製される場合、約40〜50/15秒の速度で収縮を示し、そしてホルボールエステルである4-βホルボール12-ミリステート-13-アセテート(PMA)は収縮率を減少させることが知られている(Johnson,J.A.ら、Circ Res(1995)76:654-653)。以前の研究はまた、心筋細胞のPMAまたはノルエピネフリン(NE)での処理が、αPKCの核境界への、βIPKCの核の内部への、δPKCの筋原線維および核周囲構造への、およびεPKCの黄紋(cross-striated)構造への輸送を引き起こすことを示した(Disatnik,M-H.ら、Exp Cell Res(1994)210:287-297)。外因的に添加された活性化PKCが同様に結合することも示された(Mochly-Rosen,Dら、Molec Biol Cell(1990)1:693-706)。種々のイソ酵素が輸送される位置は異なるので、各イソ酵素に特異的な可変領域(Nishizuka,Y.,Nature(1988)334:661-665)は、特異的RACK結合部位の少なくとも一部を含むはずであることが示唆された(Disatnik,M-H.ら、Exp Cell Res(1994)210:287-297)。さらに、εPKCのV1領域は、その基質特異性を決定することが示唆された(Pears,C.ら、Biochem J(1991)276:257-260)。
【0072】
対応するイソ酵素の輸送のみがそのフラグメントの1つにより阻害される(例えば、εPKCの輸送のみがεPKC-V1フラグメントにより阻害される)ことを示すために、チャンバースライド上で培養した細胞に、それぞれの場合においてアミノ酸2〜144を含む100μg/mlのラット組換えεPKC-V1またはδPKC-V1フラグメントの非存在下または存在下で、サポニン(50μg/ml)を浸透させた。細胞機能(細胞生存性を含む)、自発的または刺激性収縮率、遺伝子発現ならびに肥大は、サポニン処理により影響されない。
【0073】
これらのフラグメントを、cDNAライブラリー(Stratagene)由来の遺伝子の関連する部分を増幅することにより調製した。FLAGTMエピトープ(DYKDDDK)をフラグメントの5'末端に操作し、そして0.45 kb PCRフラグメントを、E.coliにおけるマルトース結合タンパク質との融合タンパク質としての過剰発現のために、pMAL-C2ベクター(New England Biolabs)中にサブクローン化した。融合タンパク質のタンパク質精製および第Xa因子タンパク質分解は、Ron,D.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1994)91:839-843に記載のとおりであった。
【0074】
各フラグメントの細胞内濃度は、洗浄および抽出された細胞の定量的ウエスタンブロットにより測定すると、約300 nM、または細胞外濃度の約3%であった。
【0075】
εPKC-V1またはδPKC-V1フラグメントを浸透により投与した後、細胞を、4-αまたは4-βPMAのいずれかとともにインキュベートした。(4αPMAは活性ではなく、そしてこれをコントロールとして使用する。)次いで、細胞をメタノールおよびアセトンで固定し、そしてPKCイソ酵素の局在を免疫蛍光法により決定した;δPKCおよびεPKCを検出するために使用した抗血清は、投与したフラグメントを認識しない。各処理群についてならびにPKCイソ酵素α、βI、δ、およびεについて、複数の視野の細胞を観察し、そしてデータを活性化部位における試験される酵素を有する細胞の割合として表した。細胞を100 nM PMAで5分間処理した場合、δPKC-V1またはεPKC-V1のいずれもがαおよびβイソ酵素の輸送に対する効果を有さなかったが、δおよびεフラグメントの各々が、対応するイソ酵素の輸送を特異的に阻害し、他のイソ酵素の輸送は阻害しなかったことが明らかであった。εPKCの輸送を3nM PMAのずっとより低いレベルで測定するさらなる実験はまた、εフラグメントによる完全な阻害を示した。3nM PMAはε形態以外のPKCイソ酵素の輸送においてわずかにのみ有効であることが、以前に示されている(Johnson,J.A.ら、Circ Res(1995)76:654-663)。
【0076】
εPKCの黄紋構造への局在化は、εイソ酵素がPMAの収縮率に対する効果を媒介し得ることを示唆した。細胞を、サポニンとともに、150μg/mlの上記のδまたはεPKC-V1フラグメントの存在下または非存在下で培養しそして浸透させた。基底収縮率を10分間モニターし、次いで細胞を3nM PMAで処理した。収縮の率を次の20分間にわたってモニターした
。結果を図2に示す。
【0077】
示すように、フラグメントを添加しなかった細胞において、収縮率は、PMAの添加の15分以内にほぼゼロに減少される。同様に、δPKCフラグメントが添加される細胞において、収縮率はこのように減少される。しかし、εPKCフラグメントを添加した細胞において、収縮率は維持される。このように、εPKC-V1フラグメントは、自発性収縮のPMA誘導性阻害を特異的に防止した。これらのデータは、輸送に関して上記したデータおよびεPKC-V1フラグメントがインビトロにおいてεPKCの触媒活性に影響しないという事実と組み合わせて、εPKCの輸送が、PMAの周期変動効果のシグナリングにおける重要な工程であること、およびこのシグナリングがV1領域を含むフラグメントにより阻害されることを実証する。
【0078】
収縮率を減少させることにおけるPMAの効果は、筋細胞のα1およびβ1アドレナリン作動性レセプターを制御することにより模倣され得、これはより生理学的に関連する現象を提供する。α1レセプターおよびβ1レセプターの両方がNEで活性化される場合、収縮率における増加が生じ;両方のレセプターが阻害される場合、NEはもはやこの効果を有さない。α1レセプターが単独でプラゾシンにより阻害される場合、収縮率における最初の増加はより高く;β1レセプター単独が阻害される場合、収縮率は減少する。
【0079】
上記のδフラグメントまたはεフラグメントのいずれかが、α1およびβ1レセプターの公知のインヒビターに置換される場合、NEに応答しての細胞の挙動は、δフラグメントの存在により影響されないが;しかし、εフラグメントの添加は、プラゾシンの存在下で得られる応答に類似の応答を与える。これらのデータは、収縮率を制御することにおけるεフラグメントの役割と一致する。なぜなら、α1レセプター(プラゾシンにより阻害される)はPKC輸送を媒介するからである。
【0080】
図3は、3nM PMAでの刺激を使用し、そして、0.1μMεPKC由来ペプチドεV1-2(配列EAVSLKPT)または20μMのβPKC由来ペプチドβC2-4(配列SLNPEWNET)を使用してεPKCおよびβPKCの局在化をブロックする10残基未満のペプチドを提供する、類似の実験の結果を示す。図3に示すように、浸透される細胞へのペプチドの添加なしの、または20μMのβPKC局在化インヒビターの存在下での3nM PMAでの刺激は、上記のように陰性周期変動を生じる。
【0081】
実施例2
C2由来ペプチドによるβPKC輸送の特異的阻害
本願は、本明細書中に、特定のRACK、すなわちRACK1(これはβPKCの結合を担う)上の結合部位を記載している。PKC上の結合部位が同定されている場合、この結合部位を模倣したペプチドもまた、βPKCの輸送および機能のモジュレーターとして働き得ると認識される。さらに、PKCは、それ自身偽RACKペプチド配列を含み得、その配列はRACK上の結合部位を模倣しており、そして、PKC上のRACKに対する結合部位の曝露を制御することに留意されるべきである。続く実験では、これらの可能性を区別していない;にもかかわらず、PKC配列上のどの機能が呈示されても、この配列の模倣物は関連するシグナル経路の有効なモジュレーターであり得る。
【0082】
アイソザイムのcPKCクラスは、C2領域を含む一般的なPKCファミリーのメンバーのみを含む。シナプトタグミンおよびホスホリパーゼCγのような他のC2含有タンパク質もまた、細胞顆粒画分から調製されたRACKの混合物に結合する。C2相同領域を含むシナプトタグミンの組換えフラグメントは、RACKの混合物に結合し、PKCのRACKへの結合を阻害する(Mochly-Rosen,D.ら、Biochemistry(1992)31:8120-8124)。
【0083】
続く実験では、βPKCのC2領域に存在する特定のペプチドもまた、βPKCの転移およびXenopus卵母細胞の成熟を阻害し得ることを示している(Ron,D.ら、J.Biol Chem(1995)270:24180-24187)。
【0084】
以下のβPKC由来ペプチドを調製した:
βC2-1:KQKTKTIK(210-217);
βC2-2:MDPNGLSDPYVKL(186-198);
βC2-3:IPDPKSE(201-207);
βC2-4:SLNPEWNET(218-226);
スクランブルしたβC2-1:TKQKKITK;
コントロールペプチド:LQKAGVDG(266-271)。
【0085】
βPKCの組換え産生フラグメントを、GSTとの融合タンパク質として発現させた:融合体L9はβPKCのV1領域、偽基質配列、およびC1およびV2の領域(残基3〜182)を含んでいる。L10は、V1領域、偽基質配列およびC1領域由来の第1システイン繰り返し配列、および完全なC2領域とV3領域とを含む(残基3〜76および143〜339)。番号付けは、Luo,J-H.ら、J.Biol Chem(1993)248:3715-3719の記載に従った。
【0086】
標準的なオーバーレイアッセイを、Mochly-Rosen,D.ら、Proc Natl Acad Sci USA(1991)88:3997-4000に記載のニトロセルロース上へのRACK1のブロッティングによって行った。1片あたり0.1〜1μgのRACK1を含むニトロセルロースシート片を、約10μMの試験フラグメントを加えた、または加えていないオーバーレイ緩衝液中でインキュベートした。添加は、50μg/mlのホスファチジルセリン(PS)および1mMカルシウムの存在または非存在下で行った。混合物を、さらに30分間室温でインキュベートした。次いで、この片を洗浄し、L9フラグメントまたはL10フラグメントのRACK1への結合を、抗GSTポリクローナル抗体を用いて、続いて抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗体での標識化、および基質添加による発色で検出した。
【0087】
このアッセイを用いたところ、L9ではなく、L10がRACK1を結合することが分かった。PKCアクティベーターホスファチジルセリンおよびカルシウムは、L10のRACK1への結合を増加させなかった。しかしこれらのアクティベーターは、インタクトなPKCがRACK1に結合するため必要である。従って、これらのデータは、PKCアクティベーターが、インタクトなPKCにおけるRACK結合部位の曝露に必要であるという予想と一致する;この部位はすでに、C2含有フラグメントL10中に曝露されている。
【0088】
L10がインタクトなβPKCのRACK1への結合を阻害するかどうかを決定するために、RACK1をアミロースカラム上で固定化し、そしてPS、DAGおよびカルシウム存在下、ならびにL10またはL9存在下でのβPKC結合を決定した。L10存在下において、RACK1へのβPKC結合は、完全に阻害された;しかし、これはL9にはあてはまらなかった。同様の結果がオーバーレイアッセイで得られた。
【0089】
同様のオーバーレイアッセイを、L10のRACK1への結合に対して候補インヒビターとして、上記で挙げたペプチドを用いて行った。C2由来ペプチドβC2-1、βC2-2およびβC2-4ペプチドは、L10のRACK1への結合を十分に阻害した;しかしβC2-3およびスクランブルされたβC2-1はそうではなかった。
【0090】
前記無細胞アッセイに加えて、βPKCとRACK1との会合、およびC2領域由来のペプチドのこの相互作用を遮断する能力を、培養中のラット新生児心臓筋細胞で試験した。これらの細胞中のRACK1の存在を免疫染色によって確認した。RACK1は、核周辺構造で、かつサイトゾルを通して見い出された。NEまたはPMAでの処理は、これらの位置を変化させなかった。活性化したβII PKCが、RACK1と共存することもまた示された(C2欠損アイソザイムのδまたはεPKCでは示されなかった)。
【0091】
次いで、RACK1へのβPKC結合を阻害することがインビトロで示されたC2由来ペプチドを、筋細胞中で活性化誘導性輸送を阻害する能力について試験した。
【0092】
筋細胞を、試験ペプチドの存在および非存在下で、サポニン(50μg/ml)を用いて一時的に透過化処理した後、100nM PMAに15分間曝露した。ペプチドで処理されなかった細胞の80%は、β1PKCの核周辺構造への局在を示した。しかし、10μM細胞外濃度のβC2-1、βC2-2またはβC2-4を透過化処理細胞に供給した場合、βI PKCおよびβII PKCの両イソ酵素の輸送が65〜95%阻害された。βC2-4が最も有効であった。上記のコントロールペプチドは、輸送に影響しなかった。
【0093】
実施例1の結果と一致して、100nM PMAでの非透過化処理心臓筋細胞の処理は、εPKCの核から核周辺および横紋構造への輸送、ならびにδPKCの核周辺および原線維サイトゾル構造からの輸送を、それぞれ細胞の80%および90%において生じた。細胞を透過化処理し、そしてβPKC由来C2ペプチドで処理しても、これらのC2欠損アイソザイムの輸送には影響しなかった。
【0094】
筋細胞の周期変動(chronotropy)はβPKCイソ酵素によって影響を受けないが、インシュリンで誘導されたXenopus卵母細胞の成熟は、β型によって媒介される。これらの卵母細胞のインシュリン処理はβPKCの輸送を生じ、そして成熟はPKC特異的触媒性阻害剤偽基質ペプチドによって遅延される。PKC輸送は、精製RACK、またはRACK上のPKC結合部位に相当するペプチドの注入によってブロックされる(Smith,B.L.ら、Biochem Biophys Res Commun(1992)188:1235-1240;Ron,D.ら、J Biol Chem(1994)269:21395-21398)。
【0095】
したがって、Xenopus卵母細胞の成熟を、上記のC2領域由来のペプチドの機能を試験するための代替アッセイ系として用いた。このアッセイにおいて、卵母細胞には、インシュリン処理(8.25μg/ml)する1時間前に、50μMの試験ペプチドを注入した。次いで、インシュリンで誘導される卵母細胞の成熟を、卵母細胞の動物極に白い点が現れるのをモニターすることによって判定した。これは成熟中の卵核胞の破壊を表す。1回のアッセイは10〜15卵母細胞を含み、そして卵母細胞は処理後35時間観察評価した。予想通り、5μM〜500μMの範囲で供給されたβC2-1、βC2-2およびβC2-4は、量依存様式で卵母細胞成熟を有意に遅延させた。コントロールペプチドは遅延させなかった。この効果とXenopus卵母細胞におけるβPKCの顆粒画分への輸送を防ぐこととの関連は、別の実験において確認された。ペプチドβC2-4は、Jurkat T-細胞において、θPKCではなくβPKCの輸送を阻害した。図4はXenopus卵母細胞成熟におけるこれらのさまざまなペプチドの効果を示す。
【0096】
実施例3
ペプチドを相互作用するアゴニスト効果
上記の卵母細胞成熟アッセイをまた、PKC/RACK1対由来のさまざまなペプチドの効果を試験するために使用した。RACK1由来のペプチドIは、予想通り、Xenopus卵母細胞の成熟を、おそらくβPKC1のRACK1への結合に干渉することによって阻害する。一方、RACK1中の6番目のWD-40繰り返し配列由来の短いペプチドrVIは、インシュリン存在下および非存在下の両方で成熟を増強する(Ron,D.,Mochly-Rosen,D.,J.Biol.Chem(1994)269:21395-21398)。これらの結果を図5および5bに示す。rVIペプチドは、活性化がなければ通常RACK結合部位を覆うPKC上のRACK模倣部位に干渉すると考えられている。
【0097】
実施例4
θPKC由来の相互作用ペプチド
θPKCは、nPKCファミリーのメンバーであり、そしてC2領域が欠損している。可変配列のεPKCおよび他のイソ酵素との比較は、最も異なる領域を明らかにする。これらの領域のうちいくつかは、膨大な系統発生の広がり(例えば、哺乳類から無脊椎動物のアメフラシまで)を通して強固に保存されている。進化によって強固に保存されているイソ酵素特異的配列が、考えられるコグネイトタンパク質の結合部位である。δPKCとθPKCとを類似した領域において比較すると、RACKへのPKC結合に干渉すると予想されたθ特異的ペプチドを同定し得た。θPKCのV1領域由来のこれらの特徴を有するペプチドを調製し、θPKC V1フラグメントのRACK1への結合を阻害する能力についてインビトロで試験した。結果を図6に示す。試験された多数のペプチド(これらはθPKCイソ酵素の他の領域由来およびファミリー中の代わりのイソ酵素由来の両方を含む)のうちθV1由来ペプチドのT1およびT2(それぞれアミノ酸配列GLSNFDCG(θPKC残基8〜15)およびYVESENGQMYI(θPKC残基36〜46)を有する)のみが、相互作用にネガティブに影響し得た。予想通り、RACK1のWD-40領域由来のペプチドrIIIおよびrVIもまた有効であった。
【0098】
ペプチドT1およびT2は、Jurkat T細胞においてθPKCの細胞顆粒画分への輸送を阻害し得た。この相互作用の特異性を図11Aに示す(これは、θPKC V1ペプチド(T2)によるθPKC(βPKCではなく)の輸送の阻害を示す)。
【0099】
他のPKC領域由来の配列
V3領域。V3またはヒンジ領域は、調節ドメインおよび触媒ドメインに分かれる。この領域は、トリプシンおよびカルパインによるタンパク質分解部位を含む。異なるPKCアイソザイム間でV3ドメインの保存がないことは、この部分もまた、少なくとも一部、PKCアイソザイムのそれらのアンカータンパク質へのターゲティングに関与し得ることを示唆する。さらに、αPKCのV3内の領域は、そのアイソザイムの核への輸送を媒介することが示されている(James G.,およびOlson E.J.Cell Biol.116:863-873,1992)。θPKCのV3領域は、インビトロで、RACK1に結合することが見出された。従って、V3領域は、活性化されたアイソザイム(ここではV3領域が曝露されている)のターゲティングに影響を与えるだけでなく、タンパク質分解のための酵素感受性もまた制御し得た。θV3に対して作製された抗体では、fynは沈澱しなかった。このことは、V3上の同じ部位について競合していることを示唆する。
【0100】
V5。βPKCイソ型βIPKCおよびβIIPKCのアミノ酸配列は、V5領域内の可変部(βIPKCでは35アミノ酸およびβIIPKCでは38アミノ酸)を除いて同一である。活性化の際に、βIPKCおよびβIIPKCは、細胞中の異なる局在部位に輸送される(Disatnik M.-H.,Buraggi G.,Mochly-Rosen D.Exp.Cell Res.(1994)210:287-297)。ほぼ同一のイソ酵素の局在におけるこの違いは、それらのターゲティングの媒介におけるV5領域の重要性によって説明され得る。さらに、βIIPKCは、核膜タンパク質Iamin B1を選択的にリン酸化する増殖性刺激の際に、選択的に核に輸送されることが見い出された(Murray N.R.ら、J.Biol.Chem.(1994)269:1385-2191)。
【0101】
PKC関連タンパク質。遠縁のホモログはPKC-muと称されている。これは、N末端膜透過ドメインを有する点で通常でない。近年、2つの新規のプロテインキナーゼをコードするヒトcDNAがクローン化された。PRK1およびPRK2(プロテインキナーゼC関連キナーゼ1および2)と名付けられたこれらのタンパク質は互いに高い相同性を示し、そしてPKCの調節領域にいくらかの相同性を示す(Palmer R.H.ら、Eur.J.Biochem.(1995)227:344-351)。PKCの調節ドメイン内の配列が、PKCとそのアンカータンパク質との間の相互作用を担うので、PKCの調節ドメイン内の機能的に重要な配列に相同性を示すPRK1およびPRK2由来の配列は、おそらく生物学的に重要である。
【0102】
他のアイソザイム、および同じアイソザイム選択性/進化保存基準に適合する関連タンパク質に由来の配列は、以下を包含する:
PKCアイソザイム(ヒト)のV1領域由来のペプチド
【0103】
【表2】
PKCアイソザイム(ヒト)のV3領域由来のペプチド
【0104】
【表3】
PKCアイソザイム(ヒト)のV5領域由来のペプチド
【0105】
【表4】
プロテインキナーゼC関連タンパク質(ヒト)由来のペプチド
【0106】
【表5】
μPKC由来のμV1-1、μV1-2は、εV1-2およびθV1-2、ならびにθV1-1の一部のそれぞれと並置したので、それらを取り出した。λPKC由来のλV1-1およびλV1-2を、それらのεV1-2ならびにεV1-3およびθV1-2の一部のそれぞれとの並置に基づいて取り出した。ζPKC由来のζV1-1、ζV1-2、ζV1-3を、それらの以下との相同性に従って取り出した:εV1-2、θV1-2、およびεV1-3のそれぞれ。PRK1-1およびPRK2-2を、それらのβC2-1との相同性に従って同定した。PRK1-2およびPRK2-2を、それらの生物学的に活性なεPKC由来ぺプチドεV1-3、およびεV1-2の一部との相同性に従って同定した。PRK1-3およびPRK2-3を、それらのぺプチドεV1-5との並置に従って取り出した。
【0107】
ぺプチド配列を、MegAlign DNASTAR Inc.プログラムを用いて、ヒトPKC配列とヒトPRK1およびPRK2配列とを並置することによって生成した。その配列を、クラスター法を用いることによって並置した。演算は、すべてのペア間の距離を調べることによって、配列をクラスターにグループ化した。クラスターを最初は別々に、次いでまとめて並置させて、全体のアラインメントを作製した(Higgins D.G.ら、(1989).CABIOS 5(2):151-153)。アラインメントに対する行列は、PAM250であった(1残基あたり変異受要パーセント(percent accepted mutation)250−2.5変異)。この行列により高ストリジェンシーアラインメントのみが与えられる。
【0108】
実施例5
PKC-θコグネイトとしてのfyn
本実施例において、T細胞中のPKC-θに対するコグネイト結合パートナーとしての特定のタンパク質を同定する証拠を提供する。このタンパク質は、以前に公知でありそしてT細胞機能において重要な役割を果たすと考えられる、fynと呼ばれるチロシンプロテインキナーゼである。fynと相互作用するPKCドメイン由来のペプチドを用いる、PKC-θの局在化の破壊により、T細胞機能を抑制することを証明するための証拠が、さらに提供される。
【0109】
T細胞レセプター(TCR)複合体は、最小で、タンパク質のCD3およびCD4複合体を含み、これにいくつかのチロシンキナーゼが結合する。二次メッセンジャー(例えば、ジアシルグリセロールおよびイノシトール三リン酸)の発生に重要な、PLCγもまた、チロシンリン酸化の基質である。非レセプターチロシンキナーゼのうちZAP-70およびsrc関連タンパク質fynおよびlckが、CD3およびCD4とそれぞれ相互作用すると考えられ;別のチロシンキナーゼであるcskもまた、タンパク質のTCRスーパーコンプレックスと結合している。
【0110】
いくつかの報告において、fynは1%のCD3複合体中に含まれるだけである。しかし、特定のシグナル伝達エピソード間にのみ、細胞中に特定の場所に同様に存在する、他の局在因子(例えば、PKCに対するRACK1)について知られているものの状況から、一過性の結合は道理にかなっている。T細胞シグナリングにおけるfynの役割は、十分に証明されており、いくつかの実験条件下でTCRとも結合する、少なくとも半ダースの他のタンパク質との結合を含む(Penningerら、Immunol.Rev.135:183-214(1993))。fynとPKCとの結合は以前に観察されていない。
【0111】
fynがPKC-θと相互作用する証拠は、いくつかの独立したかつ相互に補助的な実験系から生じる。ほとんどの場合において、結合特異性を規定するために使用されるPKC-θの領域は、V1領域(約140アミノ酸)であった(これは、PKCの調節ドメイン由来であり、そしてこのアイソザイムに独特の配列である);いくつかの実験においてV3ドメインも使用した、図1。これらの領域と相互作用するタンパク質は、実施例1〜4において規定される基準を満たす。実施例1〜4に提供されるデータにおいて、RACK1は、T1またはT2ペプチド(V1領域に由来する)で部分的にブロックされ得る、PKC-θに対するある程度の結合を有することが示された。両方のペプチドはまた、シグナル伝達ネットワークのアクチベーターでの処理後の、PKC-θの通常の細胞下輸送を阻害し得た;後者の実験は、V1領域の重要性を示したが、生理学的に関連するコグネイト結合パートナーを同定するには十分でない。
【0112】
生理学的に関連するコグネイト結合パートナーを同定するために、Triton(非イオン性界面活性剤)細胞抽出物を、標準的な手順を用いて、Jurkat T細胞(ヒトT細胞リンパ腫株)から調製した。PKCに対する生理学的に関連するコグネイト結合パートナーが顆粒画分に結合し得るという以前の経験に基づくと、「Triton抽出物」は可溶性タンパク質およびいくつかの顆粒画分タンパク質の両方を含み、そして本明細書中でTriton抽出物という。V1-hisテイル構築物(6つのヒスチジン残基がV1のN末端に付着された)もまた操作された。6つのヒスチジン残基はニッケルアガロースアフィニティビーズに結合する。
【0113】
アフィニティ抽出培地としてこれらのビーズを使用して、V1領域を固定化し、そしてTriton抽出物とともにインキュベートした。洗浄(Eppendorfチューブ中での遠心分離による)後、結合タンパク質を、強力に変性するSDSゲルサンプル緩衝液で溶出した。溶出物をゲル電気泳動により分離し、そしてメンブランに移した後、fynは、fyn特異的抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)を用いて正確な分子量で検出可能であった。同じ分子量でのバンドもまた、ホスホチロシンに対する抗体(Transduction Laboratories,Lexington,KY)により検出した。関連するチロシンキナーゼであるcskに対する抗体は、PKCドメインに対するいかなる結合も示さなかった。
【0114】
PKC-θのV1/C1境界(アイソザイム特異的)領域に対して調製された抗体を使用して、Jurkat T細胞由来の抽出物の特定の画分からPKC-θおよび任意の結合タンパク質を免疫沈降した(4℃で一晩)。これらの結合されたタンパク質は、ゲル電気泳動により分離され、そしてメンブランにブロットされる。ブロットがホスホチロシンに対する抗体でプローブされた場合、fynのMWである59kDaで顕著なバンドを含むいくつかのバンドを同定した、図7A。反対に、別のfyn関連チロシンキナーゼであるlckのMWでのバンドは、適切な抗体でのプローブにより示されるように同定されなかった。共沈したタンパク質がfynであるという直接的な証拠は、市販のfynに対して調製された標識抗体での染色により提供された、図7B。特異性についてのコントロールとして、PKC-βに対する抗体を首尾良く使用して、このアイソザイムに対する公知のコグネイト結合タンパク質であるRACK1を共沈した;この場合、fynを共沈しなかった。
【0115】
fynの相互作用部分(subsequence)特異性を定義するために、改変された酵母ツーハイブリッドシステムを使用した(米国特許第5,283,173号、Vojtekら、Cell 74:205-214(1993))。PKC-θ V1およびfynの遺伝子配列を、相補する転写因子の半分に対する融合物としてクローニングした。使用する特定のシステムにおいて、2つのレポーター遺伝子は、2つのハイブリッドタンパク質間の結合の結果として活性になり、これにより、転写アクチベーターのホロ酵素状態を回復する。第1のレポーターは、増殖選択を可能にするヒスチジン栄養要求性修復酵素である;第2のレポーターは、β-ガラクトシダーゼであり、その活性を酵素的切断の後に青色になる基質X-galを用いて可視化し得る。コロニーの視覚的検査は、強い(2時間以内に完全に発色)、弱い(12時間まで)、なし(24時間でシグナルなし)のような相互作用のスコア付けを可能にする。液相アッセイはまた、定量的データを提供し得る。Miller,J.H.Experiments in Molecular Genetics(1972)Cold Spring Harbor Laboratory Press。
【0116】
従って、fynの触媒ドメインおよび調節ドメインは、PKC-θのV1領域に対する結合パートナーとして別々に試験される。触媒ドメインは強力なシグナルを与え、そして調節ドメインは中程度のシグナルを与える。各ドメインが安定な構造に等しく十分に折り畳むかどうかは知られていない。なぜなら、この差異は、fynのどの部分がV1に対する最も良好な結合を有するかについて決定的ではないからである。PKC-θのV3領域はまた、fyn調節および触媒ドメイン構築物に対して試験された;両者は、his選択により測定されるように、強い相互作用を示す全てのβ-ガラクトシダーゼ実験と相互作用する。従って、PKC-θは、V1領域に対する抗体を用いる共沈実験とは対照的に、実質的な接触表面を超えてfynと相互作用するようである。これらの実験において、V3領域に対する抗体は、fynを免疫沈降しなかった。これは、V3抗体およびfynが同じ部位に部分的に結合していることを示唆する。
【0117】
従って、図8は、試験されるべきfynペプチドが(VP16転写因子の)ポリメラーゼ活性化ドメインをコードするDNAに融合され、そしてPKC-θタンパク質の関連する部分が転写因子(LexA)のDNA結合領域に融合される、ツーハイブリッドアッセイの結果を示す。β-ガラクトシダーゼは、この図における結果のためのレポーター遺伝子として使用された。
【0118】
図8Aは構築物を示し、そして図8Bはその結果を要約する。全長fynに加えて、fynの1-259位により示される調節領域は、259-534位由来のキナーゼ領域と同様に、PKC-θのV1およびV3領域と強く相互作用する。1-143位を示すfynΔSH2は、相互作用はなお存在するが、両方のV1との減衰された相互作用を示す。1-88位を示すペプチドは、PKC-θ V3と弱く相互作用するのみであり、そしてV1と相互作用しないようである。88-143位(SH3)および143-259位(SH2)間とPKC-θ V1との弱い相互作用のみが観察された。
【0119】
他のタンパク質と比較して、PKC-θ V1とfynドメインとの相互作用の特異性を試験するために、fyn部分を組み込むツーハイブリッドシステム構築物を、類似ベクターにおいて、マウスT細胞から調製された大過剰のランダムcDNAクローンに希釈した。キナーゼドメインについて、ランダムにひろわれた12個のポジティブクローンのうち10個は、ライブラリーにスパイクされた(spiked)fyn構築物であった;調節ドメインについて、6個のうち3個は、スパイクされたfyn構築物由来であった。他のポジティブクローンを、実施例8にさらに記載する。最も密接に関連したアイソザイムであるPKC-ΔのV1領域を用いる類似構築物はfynに結合しないようであるので、PKC-θとfynとの相互作用は特異的であるようである。
【0120】
図9は、本実施例において検出されたfynスプライス改変体であるp59 fynの図および配列を示す。PKCは、活性化の際に両方曝露される2つのfynドメイン間の界面で結合することが可能である。PKCコンセンサスリン酸化部位を、ATP結合コンセンサス部位の一部としても高スコアをつける短いストレッチ配列において、トレオニン297が中心にあるfynの一次配列内で同定した。fynは別のスプライシング形態を有することが知られる;T細胞に見出される形態は、コンセンサスPKC部位を含むが、この部位はT細胞に独特ではない。興味深いことに、ATPのJurkat T細胞抽出物への添加は、免疫沈降により測定されるように、PKC-θおよびfynの結合を低下させる。これは、2つのタンパク質間の生理学的相互作用をさらに示唆する。PKCコンセンサス部位に対するより弱い基準により、fynは、13個のさらなる潜在的なリン酸化部位を有する。最後に、PKCは、V1領域において5つのチロシン残基が存在するので、fynの基質である可能性がさらにある;チロシン-36はこの点について特に適切であるようである。
【0121】
発見された第1のPKCコグネイト結合タンパク質である、RACK1は、C末端に向かって保存されたWD対を有する約40個のアミノ酸の配列の複数のタンデムコピーを有することにより特徴づけられ、WD40ファミリータンパク質の明らかなメンバーである。Fynはまた、独特な領域の中間で始まりそして触媒ドメインの始めで終わる、弱いWD40相同性(アミノ酸 51-270)を有する3つの反復を有する。より詳細なレベルにおいて、RACK1は、fynと、その調節ドメインおよび触媒ドメインの両方においていくつかの他の短い相同配列を共有する。
【0122】
3つのオルタナティブスにプライシングされたヒトfyn形態間の配列改変体は、アミノ酸 242-270間(調節ドメインの終わりおよび触媒ドメインの始め、これはN末端の第3のWD-40反復を含む)で見出される。興味深いことに、WD-40モチーフのランドマークは、S-253、KD-257-258、およびWEV 260-262を含む、全てのオールタナティブスプライシング形態において保存される。
【0123】
fynはSH3ドメインを有するので、他のこのホモログは、プロリンリッチドメインを結合することが知られており、PKC-θが、V3領域の実質的な部分を担う、約50残基の中程度にプロリンリッチな領域を有する(10個のプロリンを含む)ことは注目すべきことである。V3領域に対する抗体は、fynを免疫沈降しなかった。これは、抗体およびfynが同じ部位で部分的に結合することを示唆する。これらの結果は、V3領域がツーハイブリッドシステムにおいてポジティブな結果を与えるので決定的ではない。最も密接に関連するアイソザイムPKC-δを含む、大部分の他のPKCアイソザイムは、プロリンリッチ領域を含まない。中程度にプロリンリッチなドメインが見出される唯一の他のアイソザイムは、全体的にほとんどPKC相同性を有さないクラスの最近記載されたメンバーであるPKC-μである。
【0124】
本発明者らはまた、図10Aに示されるようにPKC-θ輸送をブロックする(従ってコグネイト局在因子との結合をブロックする)、T2ペプチドは、活性化されたJurkat T細胞からのIL-2産生の測定可能な抑制を引き起こすことを観察した、図10B。
【0125】
要約すると、fynがT細胞におけるPKC-θの生理学的に関連する結合パートナーであることを示す証拠の重要な独立した系は以下のようである:(i)アフィニティ結合態様における、PKC-θ可変ドメインが細胞抽出物からfynを引き寄せる;(ii)PKC-θ可変ドメインに対する抗体が、細胞抽出物由来のPKCとfynとの複合体を免疫沈降する;(iii)PKC-θ可変ドメインおよびfynは、酵母ツーハイブリッドシステムにおいて相互作用する。全ての場合において、密接に関連するタンパク質を用いる適切なコントロールにより、相互作用の特異性が示される。
【0126】
コグネイト結合タンパク質の存在は、それらの同定のための方法および薬物発見におけるそれらの有用性を有するとして、以前に記載されている(例えば、Fields、米国特許第5,283,173号および米国特許第5,352,660号を参照のこと)。PKC-θのパートナーとしてのfynの実際の同定を、このような当該分野で公知の方法において使用して、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする化合物を同定および単離することが今や可能である。このような因子を使用して、fyn/PKC-θ結合により媒介される生物学的活性を調節し得る;これらは、免疫系に関連する活性を含む。
【0127】
実施例6
指標としてPKC-θ輸送を用いる免疫調節化合物についてのアッセイ
輸送を評価するために、適切な細胞、好ましくは非形質転換ヒトT細胞を、106/mlの密度まで培養し、次いでサイトカインを含まない培地中で一晩インキュベートする。10ミリリットルのアリコートを、各アッセイに使用する。
【0128】
試験されるべき物質を、適切なサンプルに添加し、そして37℃で15分間インキュベートする。次いで、PKC-θの輸送を刺激することが知られている物質を添加する:典型的には、20〜80nMのPHA±1μg/mlのPHAが添加され、そして培養物を37℃で15分間インキュベートする。
【0129】
インキュベーション期間の後、サンプルを10分間1000rpmでスピンし、そして細胞ペレットを冷PBSで洗浄する。次いで、細胞をホモジナイゼーション緩衝液中に再懸濁し、そして超音波処理する。次いで、それらを30分間55000rpmで遠心分離して上清サイトゾル画分を得、そしてペレットを27ゲージ針を用いてホモジナイゼーション緩衝液中に再懸濁して顆粒画分を得る。次いで、総タンパク質の標準化の後、上清および顆粒画分のそれぞれにおけるPKCの含有量を、SDS-PAGEおよび適切な抗体を用いる検出を用いて決定した。
【0130】
図11は、抗PKC-θ抗体(図12A)または抗PKC-β抗体(図12B)で染色した、可溶性画分および顆粒画分のSDS-PAGEの結果を示す。示されるように、PKC-βは、刺激されていない細胞における可溶性画分において本質的に全て存在し、一方、PKC-θは、これらの2つの画分間に幾分均等に分布する。おそらく、これは、これらの細胞の増殖は添加されたサイトカインの存在を必要とするので、T細胞の部分的な活性化をもたらし得る場合である。例えば、一晩、培地中のサイトカインを取り除いた場合、可溶性画分中のPKC-θのレベルは増加する。いずれの場合でも、PKC活性化を直接的に引き起こす、PMAまたはPMA/PHAの組合せのいずれかの刺激の後、PKC-θおよびPKC-βの両方は、顆粒画分に輸送される。しかし、T細胞レセプターのCD3成分と免疫反応する抗体である、OKT-3で刺激(これは、より焦点を合わせた生理学的に基づく活性化を提供する)すると、PKC-θを輸送するが、PKC-βは輸送しない。特異的にPKC-θの輸送をもたらすOKT-3の能力は、T細胞レセプター媒介性刺激の伝達におけるPKC-θの関与のさらなる証拠である。
【0131】
免疫系モジュレーターを同定するためのアッセイとしての前記の使用を図12に示す。上記のように行われるアッセイにおいて、細胞を、最初に20μMの候補化合物TER14687とインキュベートする。図12に示すように、OKT-3またはPMA/PHAのいずれかを刺激剤として使用した場合、TER14687は、PKC-θの顆粒画分への輸送を阻害し得た(OKT-3を用いて行われたアッセイは、上記の15分間よりむしろ、1時間のOKT-3とのインキュベーションを含んだ。)
TER14687はまた、休止T細胞における可溶性画分中のPKC-θの割合を増加させることが示された。T細胞は、一般的に、外因的に添加されたサイトカインの存在下で増殖され、従って部分的に活性化された状態にある。サイトカイン刺激を一定期間の間やめる場合、可溶性画分中のPKC-θ濃度は通常増加する。従って、TER14687は、休止状態への衰退を促進する。
【0132】
PKC-θ/コグネイト相互作用に対するTER14687の効果もまた、TER14687が、T細胞のOKT-3刺激後の21kDタンパク質のチロシンリン酸化を妨げることを示すことより証明し得る。ここでAbを用いたホスホチロシンへのリン酸化を直接測定した以外は、前記のプロトコルに従った。このリン酸化は、T細胞活性化の公知の下流事象である。
【0133】
実施例7
結合により指標付けされる調節についてのアッセイ
内因性PKCコグネイトを可視化するために、T細胞タンパク質をSDSゲル電気泳動により分離し、そしてニトロセルロースメンブランに移す。従って、多数のタンパク質を、ニトロセルロース上に分布させる。次いで、ニトロセルロースを、PKC-θとともにインキュベートし、そして洗浄し、そして結合したPKC-θを標識抗PKC-θを用いて可視化する。PKC-θタンパク質を、バキュロウイルス発現系(Invitrogen,San Diego,CA)を用いてSf9昆虫細胞により産生した。PKCを活性化する公知の物質の非存在下で、バンドは本質的に現れない。PKCアクチベーターの存在下で、多数のバンドを示した。これらのバンドのうちいくつかは、真の内因性コグネイトであり得る;その他は、ニトロセルロースメンブランに移されたタンパク質に特有の変性状態におけるコグネイト結合能力を模倣し得る。このように、これらのタンパク質は、内因性コグネイトの代用物である。
【0134】
ブロット上でのPKC-θインキュベーション間のTER14687の存在下で、結合が減衰され、従って、コグネイト結合の際のTER14687の調節効果を示す。
【0135】
TER14687に加えて、fynの調節領域由来の以下のペプチドを試験した:fyn2(図9において下線を付けた残基111-118を示す)は、fynに対するPKC-θ結合の部分的阻害を示した;およびfyn3(図9において下線を付けた残基188-195)は、PKC結合の完全な阻害を示した。fyn2およびfyn3は、WD40反復と相同性を示す、fynの一部に由来する。さらなるペプチドであるfyn1は、結合を阻害し得なかった;このペプチドは、図9に示されるペプチドとは異なるfynスプライス改変体に由来した。別の不活性ペプチドは、fyn4(触媒ドメイン由来の残基441-449を示す)であった。
【0136】
実施例8
酵母ツーハイブリッドシステムにより同定されるさらなるコグネイト
本明細書中上記の実施例5に記載される、ペプチド/ペプチド結合を検出するための細胞内方法を使用して、a)PKC-θに結合するさらなるペプチドを見出し、そしてb)PKC-θとそのコグネイトとの相互作用に対する候補物質の効果についてのアッセイ系を提供した。
【0137】
第1に、酵母ツーハイブリッドシステムを使用して、PKC-θと相互作用するペプチドをコードするcDNAを検索した。
【0138】
このアプローチにおいて、キナーゼに融合したポリメラーゼ活性化ドメインまたはfynの調節ドメインを含むプラスミドを、1:500の割合でマウスT細胞株HT2由来のcDNAライブラリーを含む類似のベクターと混合した。DNA結合ドメインに融合したPKC-θ V1を含むプラスミドを有する酵母を、通常のプロトコルの1/10で、このプラスミドの混合物を用いて形質転換した。酵母を、プラスミド(THULL)プレートの存在について選択する培地上に播種し、そしてフィルターリフト上でβ-ガラクトシダーゼについてアッセイした。ポジティブクローンをTHULLグリッド上でひろい、次いで再試験した。DNAをポジティブのままであったコロニーから抽出し、次いで5'および3'のプラスミドベースのポリリンカー隣接プライマーを用いて増幅し、そして産物を、プローブとしてfynを用いてサザンブロットにより分析した。
【0139】
fynキナーゼドメインをcDNAライブラリーに混合した場合に見出された12個のポジティブクローンのうち、10個はfynキナーゼ自身であった。しかし、2個はfyn由来の配列以外の配列を含んだ。
【0140】
cDNAライブラリーを、fyn調節ドメインと混合した場合、混合物から得られた6個のポジティブクローンのうち、3個はfyn以外の配列を含んだ。3個のうち2個(2-10および2-40と称する)は、同一のヌクレオチド配列を有するが、任意の公知の配列およびその他で同定されなかった。2-32は、最近単離されたヒト遺伝子ELLのマウスホモログであるようである。2-10および2-40におけるcDNA挿入物は、いくつかの潜在的なジンクフィンガーモチーフを有する、これまでに知られていない335個のアミノ酸ペプチドをコードするオープンリーディングフレームを有する1083塩基対を含んだ。このcDNAは、ノザンブロットにより示されるように、リンパ系組織に存在する2.4kD転写物ならびに心筋および骨格筋に存在する6kD転写物とハイブリダイズする。
【0141】
クローン2-10および2-32の両方は、液体β-galにおいて試験した場合、上記のツーハイブリッドシステムにおいてPKC-θ V1と相互作用し得た。PKC-θ V1を欠く、親酵母株L40に形質転換された場合、レポーターアッセイにより活性化は観察されず、θ V1をδ V1または関連しないタンパク質ラミンに置き換えた場合もまた、活性化は観察されなった
。
【0142】
同じアッセイを用いて、PKC-θ V1とfynとのまたはクローン2-10および2-32のいずれかとの相互作用に対するTER14687の効果を試験した。このアッセイにおいて、上記のツーハイブリッドシステムを含む酵母を、40μM TER14687またはDMSO中のコントロール化合物を含む1ml THULLに1:10希釈で接種した。種々の他のコントロールをインキュベートした;例えば、TER14687は、転写因子(LexA/E2A)を共有結合形態で供給する場合、レポーター遺伝子の発現を阻害しなかった。生成されたβ-ガラクトシダーゼの活性を420nmでODとして測定した。TER14687は、図13に示すように、θ V1のfynへの結合または2-10および2-32から生成された代用コグネイトへの結合を驚くほど減衰した。
【0143】
さらに、明らかなコグネイトタンパク質をコードするいくつかのクローンを、いくつかの酵母ツーハイブリッドプロトコルを用いて、ヒトのCD4+T細胞cDNAライブラリーから得た。cDNAライブラリーを、ドナー血液から単離したT細胞を用いて構築し、そして105〜5×106個の独立クローンで評価された複雑さを有した。スクリーニングされた1.4×107個のクローンから、63個が二次βGALフィルターリストアッセイ後、ポジティブなままであった。
【0144】
これらのクローンのうち39個は、同一の配列およびほぼ同じcDNA挿入物サイズを有するようである。配列は、オープンリーディングフレームを含み、そしていずれのデータベース配列とも適合しない、明らかに部分的な配列である。これらのクローンのうちの1つであるNo.10を、酵母ツーハイブリッドシステムで再試験した。そしてθV1を結合するが、δV1もラミンも結合しないことが見出された。
【0145】
さらに、このライブラリーからの2個のクローン、1-22および1-23は、ヒト伸長因子1-γと配列を共有する。1-23は1-22と重複するが、両者とともに部分的な配列である。両者は、酵母ツーハイブリッドアッセイにおいてθV1と特異的に結合する。
【0146】
1つのさらなるクローンである2-18はまた、酵母ツーハイブリッドアッセイにおいてθV1に対して特異的な結合を示し、そしてc-abl形質転換を阻害する、SH3含有c-abl結合タンパク質と高い相同性を示す。U17698マウス ab1 philin-1は、89%の相同性である;U31089ヒトAbl結合タンパク質3は、94%の相同性である;そしてU23435ヒトAbl interactor 2は、88%相同性である。
【0147】
2つのさらなるクローンを、類似の様式で得た。クローン2-20は、ヒト伸長因子2に適合する部分的なcDNAとして729bpを含む。クローン3-1は、HSV1トランスデューシング因子αに対して高い相同性を有する839bpを含む。
【0148】
クローン2-10、2-32、No.10、1-22、2-18、2-20、および3-1のヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を、図15に示す。
【0149】
実施例9
PKC-θ活性化とアレルギー反応との関連
ヒトT細胞株であるTT7.5を、滴定チミジンアッセイを用いて増強された増殖により示されるように、10μg/mlで、組織培養プレート上にコートされたOKT3を用いて生理学的に活性化する。活性化はまた、適切なELISAにおいてアッセイされるように、インターフェロン-γ、インターロイキン4および5の増強された分泌により特徴づけられるが、IL-2の増強された分泌により特徴づけられない。このパターンは、Th2様細胞を特徴づける。Th2細胞は、IL-4およびIL-5の免疫調節効果を介するアレルギーを媒介することが示されており、従って、アレルギーを媒介するにおいてT細胞機能のインビトロモデルとして使用され得る。
【0150】
上記に示したように、T細胞株(TT7.5細胞を含む)のOKT3刺激により、PKC-θが輸送される。コグネイトとのPKC-θ相互作用の尺度としてサイトカイン産生を用いる類似のアッセイにおいて、OKT3活性化の間に投与されるTER14687は、図14に示されるように、IL-4およびIL-5の産生を阻害するが、インターフェロンγの誘導される産生を阻害しない。このサイトカイン産生のパターンは、IgEおよび好酸球産生の刺激の減少に関連する。同様な結果がTh2-様T細胞株TT3.6で得られる。Th1型細胞株(TT6.4)において、TER14687は、OKT3により誘導されるIL-2産生を阻害するが、インターフェロン-γ産生を阻害しない。
【0151】
TER14687はまた、一晩のOKT3刺激の後、TT7.5細胞における、T細胞活性化の表面マーカー(例えば、CD69、CD25およびCD40L)の発現を強力に阻害する。CD69は、活性化されたT細胞で排他的に発現され、CD25は、活性化されたT細胞において発現される低親和性IL-2レセプターであり、そしてCD40Lは、活性化されたT細胞でもまた排他的に発現されるCD40のリガンドである。これらのマーカーを、適切に標識した蛍光抗体およびフローサイトメーターを用いてアッセイした。
【0152】
類似の結果を、OKT3よりむしろPMAによる活性化の後にJurkat細胞において得た。50μM fyn2ペプチドの存在下で、CD69の増強された発現が減少される。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、種々のPKCイソ酵素ファミリーの公知の一般的な一次配列およびドメインを図解的に示す。
【図2】図2は、PKCにより媒介される心筋細胞の収縮への効果が、εPKCの調節ドメインのフラグメントにより阻害されるが、しかしδPKCの対応するフラグメントによっては阻害されないことを実証する実験の結果を示す。
【図3】図3は、心筋細胞の収縮率への、εPKCの調節ドメインにおけるRACK結合部位に由来する8アミノ酸ペプチドの特異的効果を示す。βPKCに由来する類似のペプチドは何の効果も有さない。
【図4】図4は、Xenopus卵母細胞の成熟への、βPKCのRACK結合部位に由来するペプチドの特異的効果を示す。
【図5】図5は、Xenopus卵母細胞のPKCに媒介される成熟への、RACK1に由来するペプチドの効果を示す。
【図6】図6は、インビトロでのθPKC V1フラグメントのRACKへの結合に対する種々のペプチドの効果を示す。
【図7】図7は、PKC-θのV1/C1境界領域に対して惹起された抗体を用いて沈降したタンパク質に対して行なったゲル電気泳動から得、そしてホスホチロシンおよびfynに対する抗体でプローブしたブロットの写真複写である。
【図8】図8は、酵母ツーハイブリッドシステムにおいて用いられたfynの領域および得られた相互作用を示す。図8では、++は強力な相互作用(<2時間で発色)であり、+は弱い相互作用(12時間以内で発色)であり、そして−はヌル(null)相互作用(24時間で発色なし)である。Uはfynのユニーク配列部分をいい;SH3およびSH2は、src相同性ドメインであり;キナーゼは保存されたチロシンプロテインキナーゼ触媒ドメインである。
【図9】図9は、fyn中に存在する配列モチーフ(WD40反復、より小さなRACK1相同性、および最も保存されたコンセンサスPKCリン酸化部位を含む)の詳細なマップを示す。
【図10】図10Aおよび10Bは、PKC-θのV1領域由来のT2ペプチド(アミノ酸36〜46)が、PMA/PHAでのJurkat T細胞の活性化後の、可溶性画分から顆粒画分へのPKC-θの輸送を減少させるが、しかしPKC-βの輸送は減少させないことを示す(図10A);ペプチドは、Jurkat T細胞において培地から自発的に取り込まれる。平行実験では、T2ペプチドは、刺激された細胞由来の上清においてELISAにより測定すると、IL-2の発現を減少させる(図10B)。
【図11】図11Aおよび11Bは、PKC-θおよびPKC-βの輸送への種々の薬剤による活性化の効果を示す、ブロットの写真複製である。
【図12】図12は、PKC-θ輸送へのTER14687の効果を示すブロットの写真複製である。
【図13】図13は、ツーハイブリッドシステムアッセイを用いた、TER14687の非存在下または存在下における、PKC-θ V1への、fynキナーゼドメインおよび2つの代理物(クローン2-10および2-32)によりコードされるペプチドの結合の結果を示す。
【図14】図14は、抗CD3により誘導される、IL4、IL5、およびγIFNの産生へのTER14687の効果を示す。
【図15A】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【図15B】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【図15C】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【図15D】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、細胞内シグナル伝達に関する。より詳細には、本発明は、候補モジュレーターが、シグナル伝達機能の調節に関与する、触媒的に活性なシグナル生成タンパク質とコグネート結合タンパク質との間の相互作用に影響を与える能力を評価することにより、細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法に関する。本発明はまた、このような方法およびその成分の特定の実施態様に関する。1つの例示では、本発明の方法は、免疫系の活性の調節における使用のための薬学的薬剤の同定、および開示される方法において同定される薬剤を用いる方法に適用される。
【背景技術】
【0002】
背景技術
特許文献1は、そのコグネイトタンパク質に関して、シグナル生成タンパク質の活性を変化させるペプチド組成物を開示および請求する。ここで、コグネイトタンパク質は、少なくとも1つのWD-40領域(これは推定上、シグナル生成タンパク質と相互作用する)を含む。このペプチド組成物は、WD-40領域を模倣し、従ってコグネイトとシグナル生成タンパク質との相互作用に競合する。この競合は、シグナル生成の阻害またはその活性化のいずれかをもたらす。
【0003】
1つの具体的に例示されるシグナル生成タンパク質は、プロテインキナーゼC(PKC)である;例示される、活性化キナーゼCのコグネイトレセプター(RACK)(この場合、βPKCに特異的な)はRACK1と称された。RACK1をコードする遺伝子が、クローン化および配列決定され、RACK1が必須のWD-40領域を有することが示された。
【0004】
上記の特許文献1は、シグナル生成タンパク質およびそれらのコグネートのさらなる対を同定する方法、ならびにコグネートにおけるWD-40配列を認識するための方法をさらに記載する。この出願はまた、このような相互作用が、シグナル生成タンパク質と、そのコグネイトそれ自体またはコグネイトのWD-40領域を模倣するポリペプチド組成物のいずれかとの間の相互作用に対する、候補結合分子の効果を測定することにより、シグナル生成タンパク質を結合するさらなる分子を同定するための系として用いられ得ることに留意する。
【0005】
ここで、数種の特定のペプチドが、シグナルに影響する様式で、シグナル生成タンパク質またはコグネイトタンパク質のいずれかへ結合すると同定される。これらの関与物の純度に依存しないアッセイにおいて、シグナル伝達のモジュレーターをアッセイするための、シグナル生成タンパク質/コグネイト系の使用もまた記載される。PKC酵素系が、特定の実施態様として例示される。さらに、シグナル生成タンパク質に存在するペプチド、ならびにコグネイトまたはその模倣物に存在するペプチドが、シグナル生成相互作用、およびシグナル生成相互作用により媒介される生物学的活性を調整するために有用であると記載される。
【0006】
PKC-θのコグネイトタンパク質の同定をfynタンパク質として実証するさらなる実験が記載される。fynはT細胞応答の媒介に関与することが十分に確立されているので、PKC-θとそのfynコグネイトとの相互作用の破壊が、免疫応答を媒介すること、およびPKC-θが免疫応答のメディエーターであることは明らかである。PKC-θとそのコグネイトfynとの間の相互作用を破壊すること、または本明細書中以下に記載されるように、PKC-θと任意のコグネイトとの相互作用に影響を与えることが示され得る物質はまた、免疫調節活性を有する。PKC-θコグネイトとしてのfynの同定およびこの結合への干渉の結果は、PKC-θが、免疫応答に関与する重要なシグナリングタンパク質であることを実証する。
【特許文献1】国際公開第95/21252号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞内シグナル伝達経路の候補モジュレーターのライブラリーを評価するための方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の開示
本発明は、細胞内シグナリング経路のモジュレーターを同定するための効率的なアッセイ系に関する。この方法は生来の生物学的特異性を利用するので、この方法は、シグナル経路における関与物(シグナル経路を制御するシグナル生成タンパク質およびそのコグネイトレセプター)の不純な調製物に対して行われ得る。アッセイは、シグナル生成タンパク質とそのコグネイトとの間の相互作用を、結合を直接測定することによって、または生理学的もしくは代謝的効果を測定することによって、評価することにより行われる。測定は、候補モジュレーターの存在下および非存在下で行われる。シグナルを作働する(agonize)好結果な候補は、代謝的または生理学的産出の増大をもたらし;アンタゴニストは減少をもたらす。アンタゴニストおよびアゴニストは両方とも、コグネイトとシグナル生成タンパク質との間の結合について競合する。
【0009】
好結果な候補のなかには、シグナル生成タンパク質またはコグネイトのいずれかの領域を模倣するペプチドならびに非ペプチド低分子がある。その同定の容易さから、これらのペプチドは、ペプチドとシグナル生成タンパク質またはコグネイトタンパク質との間の結合を検出する、別の形態のスクリーニングアッセイにおいて特に有用である。開示されるアッセイ方法は、すべてが大きな化学的ライブラリーの直接的スクリーニングに適切である訳ではないかもしれないが、これらは、リードを選択するための他の技術と組み合わされ得る、候補の洗練されたスクリーニングを可能にする。
【0010】
本明細書中に記載の方法は、コグネイトまたはシグナル生成タンパク質に由来するペプチドを含み得る。「由来する」によって、本発明者らは、このようなペプチドがコグネイトもしくはシグナル生成タンパク質において見出されるか、または限定数の保存的変化により改変されるかのいずれかを意味する。好ましくは、保存的変化は、同定された天然の配列における残基の約20%未満、より好ましくは約10%未満、そして最も好ましくは約5%未満を示す。適切なペプチドを同定するための1つの方法は、実施例4に記載されるように、種間で配列を比較することである。
【0011】
本発明はまた、候補モジュレーターのライブラリーを、上記の方法を用いてスクリーニングするための方法、およびそれ自体がこれらのアッセイならびに関連する相互作用が関与する他の適用において有用なシグナル生成タンパク質およびコグネイト上の部位を代表するペプチドに関する。
【0012】
本発明はまた、PKC-θタンパク質およびそのフラグメントまたは由来するペプチドをPKC-θのコグネイトとともに用いて、上記で開示される方法が使用される、特定の実施態様に関する。fynタンパク質およびその特定のフラグメントは、PKC-θに結合することが見出された。この相互作用ならびにPKC-θおよびそのフラグメントと他のコグネイトとの相互作用を利用して、本発明は、PKC-θ/コグネイト相互作用により媒介される生物学的および病理学的なプロセスのモジュレーターを検出することにより、免疫モジュレーターを同定する方法を提供する。このような物質は、免疫系の活性、特にT細胞の活性および分化を調節することにおいて特に有用である。
【0013】
従って、本発明の少なくとも1つの局面は、PKC-θとそのコグネイトとの相互作用を免疫系の活性を調節する物質の指標として用いることに基づく。実施例には、fynタンパク質がPKC-θに結合する証拠を示す。PKC-θの結合パートナーが本出願人らの発明以前には知られていなかったので、この観察は重要である。対照的に、fynは、いくつかのT細胞レセプターに関係するタンパク質(CD3ζ鎖、ZAP-70、およびGrb-2を含む)と結合することが以前に見出されていた。本発明の同定されたfyn/PKC-θ相互作用は、免疫応答を調節し得る薬剤を作製および同定するための基礎として使用され得る。PKC-θおよびfynペプチド、またはPKC-θもしくはfyn等価物を用いる競合アッセイは、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする化合物を同定するために使用され得る。PKC-θまたはfyn「等価物」は、適切な結合領域のアミノ酸配列に由来する、PKC-θまたはfynの相互作用結合活性を模倣し得るペプチドを示す。さらに、fynタンパク質に構造的関係を全く有さないかもしれないが、fynにより示されるのと同様の様式でPKC-θに結合する、代理コグネート(surrogate cognate)が用いられ得る。さらに、ペプチドおよびタンパク質モデリング技術が、試験用の薬剤を合理的に設計するため、または合理的に選択するために、コグネイトパートナーとPKC-θとの特異的な相互作用を研究するのに用いられ得る。好結果の薬剤は、免疫応答を阻害するか、さもなければ調節するための治療剤として用いられ得る。
【0014】
例えば本発明は、以下の手段を提供する。
(項目1)候補分子のライブラリーからシグナル生成タンパク質により媒介される細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法であって、以下の工程:
該シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチド、およびパートナーコグネイトであって、触媒的に活性な該シグナル生成タンパク質に、該シグナル生成タンパク質または該コグネイトに由来するペプチドの非触媒部位を介して特異的に結合する、コグネイト、を含む環境を提供する工程;
該環境に候補物質を添加する工程;
該候補の存在下および非存在下で、該シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチドと該コグネイトまたはそれに由来するペプチドとの相互作用を決定する工程;
該候補の存在下および非存在下での該相互作用を比較する工程;
を包含し、ここで、該相互作用を調節する候補は、細胞内シグナル伝達のモジュレーターとして同定され、そして
該決定する工程が、該コグネイトまたは該シグナル生成タンパク質の純度に依存しない条件下で行われる、方法。
(項目2)前記パートナーコグネイトが、以下の工程:
(a)細胞内成分および/または膜結合レセプターの抽出物を調製する工程;
(b)該細胞内成分および/または膜結合レセプターを固体支持体上で分離して、該支持体上の多数の位置において多数の該成分および/またはレセプターを得る工程;
(c)該固体支持体をシグナル生成タンパク質またはそのフラグメントでプローブする工程;ならびに
(d)該シグナル生成タンパク質を結合する、該支持体上の少なくとも1つの成分またはレセプターを同定して、該コグネイトを同定する工程、
を包含する方法により同定される、項目1に記載の方法。
(項目3)前記細胞内成分および/または膜結合レセプターが、工程(b)の分離の前にタンパク質分解に供され;そして/または
前記シグナル生成タンパク質またはフラグメントが放射性標識されるか、蛍光標識で標識されるか、もしくはビオチン標識で標識されるか、または抗体もしくはそのフラグメントにより検出される、項目2に記載の方法。
(項目4)前記相互作用が、
Xenopus卵母細胞の成熟;
インデューサーによる心筋細胞における陰性周期変動の誘導;
レポーター遺伝子の転写;および
触媒的に活性なシグナル生成タンパク質の細胞下輸送、
から選択される代謝効果をもたらす、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目5)以下の工程、
組換え宿主細胞において、
レポータータンパク質の第1の部分をコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、前記シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現系であって、ここで該第1の部分それ自体はレポータータンパク質の検出可能な特性を有さない、第1の発現系、および
前記コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、該レポータータンパク質の第2の部分をコードするヌクレオチド配列を含む第2の発現系であって、ここで、該レポータータンパク質の第1および第2の部分が物理的に近接している場合に、該レポータータンパク質の特性が示される、第2の発現系を提供する工程;ならびに
該第1および第2の発現系を同時発現し、これにより該シグナル生成タンパク質またはそれに由来するペプチドに結合する該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドの発現が、前記ライブラリーの前記候補分子の存在下および非存在下において、該レポータータンパク質の特性の提示をもたらす工程;ならびに
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを測定する工程;
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを比較する工程;
を包含し、
ここで、該候補分子の非存在下に対しての、存在下でのレポータータンパク質のレベルの増大または減少が、前記モジュレーターとして該候補分子を同定する、項目1に記載の方法。
(項目6)前記シグナル生成タンパク質がPKCイソ酵素である、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)前記シグナル生成タンパク質がPKC-θである、項目6に記載の方法。
(項目8)前記コグネイトがfynである、項目7に記載の方法。
(項目9)前記シグナル生成タンパク質に由来するペプチドが、βC2-1、βC2-2、βC2-4、θV1-1、θV1-2、θV1-3、θV1-4、δV1-1、δV1-2、δV1-3、δV1-4、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6、εV1-7、ηV1-1、ηV1-2、ηV1-3、ηV1-4、ηV1-5、ηV1-6、ηV1-7、μV1-1、μV1-2、λV1-1、λV1-2、ζV1-1、ζV1-2、およびζV1-3からなる群より選択される、項目6に記載の方法。
(項目10)ペプチドβC2-1、βC2-2、βC2-4、εPKCV1、θV1-1、θV1-2、θV1-3、θV1-4、δV1-1、δV1-2、δV1-3、θV1-4、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6、εV1-7、ηV1-1、ηV1-2、ηV1-3、ηV1-4、ηV1-5、ηV1-6、ηV1-7、μV1-1、μV1-2、λV1-1、λV1-2、ζV1-1、ζV1-2、またはζV1-3。
(項目11)免疫調節活性を有する物質を同定する方法であって、以下の工程:
PKC-θまたはそのフラグメントおよびそのコグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドを含む環境を、該PKC-θまたはフラグメントが該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドと相互作用する条件下で提供する工程;
候補物質を該環境に添加する工程;
該PKC-θまたはフラグメントと、該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドとの相互作用を、該候補の存在下および非存在下で決定する工程;
該候補の存在下および非存在下での該相互作用を比較する工程;
を包含し、
ここで、該相互作用を調節する候補が、免疫調節活性を有するとして同定される、方法。
(項目12)前記環境が細胞内環境である、項目11に記載の方法。
(項目13)前記相互作用の決定が、
前記PKC-θまたはフラグメントの輸送を測定すること、または
T細胞のOKT-3刺激後の21kDタンパク質のチロシンリン酸化を測定すること、または
IFNγ産生に影響を与えることなくIL4および/またはIL5産生の減少を測定すること、
による、項目12に記載の方法。
(項目14)前記コグネイトまたはコグネイト由来ペプチドが、fyn、fynフラグメントfyn-3、fynフラグメントfyn-2、および本明細書中に記載のクローン2-10または2-32によりコードされるタンパク質からなる群より選択される、項目11〜13のいずれかに記載の方法。
(項目15)被験体における免疫系を調節する方法であって、該方法は、該被験体に項目11〜14のいずれかに記載の方法により同定される物質の有効量を投与する工程を包含する、方法。
(項目16)前記物質がT細胞活性の減少を必要とする被験体におけるT細胞活性を減少させるために投与されるか、または
前記物質が、移植片拒絶の速度の減少を必要とする被験体における移植片拒絶の速度を減少させるために投与されるか、または
前記物質が、自己免疫障害の重篤度の減少を必要とする被験体における自己免疫障害の重篤度を減少させるために投与されるか、または
前記物質が、アレルギー性応答および/または喘息性応答の改善を必要とする被験体におけるアレルギー性応答および/または喘息性応答を改善するために投与されるか、または
前記物質が、サイトカイン産生の減衰を必要とする被験体におけるサイトカイン産生を減衰させるために投与される、項目15に記載の方法。
(項目17)項目11〜14のいずれかに記載の方法により同定される物質および薬学的に受容可能な賦形剤を含有する、薬学的組成物。
(項目18)クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、または3-1によりコードされる、単離および精製されたPKC-θのタンパク質コグネイト。
(項目19)項目18に記載のコグネイトをコードする、単離された核酸分子。
(項目20)発現系を含む核酸分子であって、該発現系は、項目18に記載のコグネイトをコードするヌクレオチド配列を含み、該ヌクレオチド配列はその発現をもたらすために制御配列に作動可能に連結されている、核酸分子。
(項目21)項目20に記載の核酸分子を含む組換え宿主細胞。
(項目22)クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、または3-1によりコードされる、PKC-θのタンパク質コグネイトを産生する方法であって、該方法は、項目21に記載の細胞を前記コグネイトが産生される条件下で培養する工程を包含する、方法。
(項目23)項目18に記載のタンパク質コグネイトと免疫反応性の抗体。
(項目24)クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、または3-1に含まれるコード配列に相補的な配列を含む、単離された核酸分子。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明を実施するための形態
一般的な背景
本発明の1つの局面は、例示的なシグナル生成対の相互作用の総括として、おそらく最も理解される。ここで、シグナル生成タンパク質はPKCであり、そしてコグネイトは適切なRACKである。RACKまたはPKCに含まれるPKC結合エレメントを模倣するか、またはPKCに含まれるRACK結合エレメントを模倣するペプチドが、シグナル経路に関連するアッセイの成分として使用され得る。
【0016】
PKCは、シグナル生成イソ酵素のファミリーを示し、少なくともそれらのいくつかはほとんどの細胞型に存在する。適切な薬剤(代表的には、ホスファチジルセリン(PS)およびジアシルグリセロール(DAG)、ならびにいくつかの場合にはカルシウムイオン)による活性化の際に、PKCは、一般に、可溶性の画分から顆粒画分と関連する細胞内の別の位置へ細胞下で輸送される。このファミリーにおける各イソ酵素は、各特定のイソ酵素の活性化の生理学的効果または代謝効果に関連する適切な部位でアンカーするタンパク質である、1つまたはより多いコグネイト(またはRACK)を有するようである。従って、例えば、心臓の筋細胞中に含まれるPKCの1つまたは部分集合は、活性化された場合、収縮率の低下を生じる。Xenopus卵母細胞に含まれるPKCの1つまたは部分集合は、活性化された場合、卵の成熟に影響を与える。PKCの1つまたは部分集合は、触媒部位で阻害された場合、Tリンパ球活性化をブロックする。Birdchallら、J Pharm.Expt'l Ther(1994)268:922を参照のこと。特定のPKCイソ酵素とそのコグネイトRACKとの相互作用は、代謝効果または生理学的効果に必要である;従って、この相互作用を含む干渉はその効果を調節する。あるいは、調節の効果は、モジュレーターの相互作用がシグナル生成パートナー中における構造変化を促進する場合、拮抗的であり得、このことは、アクチベーター(例えば、PSまたはDAG)およびコグネイトタンパク質の同時の結合の際にのみ通常生じる効果に一致するか、またはそうでなければシグナル活性化を生じる。
【0017】
公知のPKCイソ酵素は、図1に示すような3つの主要な群に分けられ得る。群に関わらず、全てのイソ酵素は、2つの定常領域(C)および2つの可変領域(V)により示されるプロテインキナーゼドメインを含む。酵素活性を担う領域は、相同性が高いか、または定常である;カルボキシ末端方向へ向かうC4領域は、触媒部位を含むと考えられている;C3領域上流はATP結合を担う。
【0018】
それぞれの場合において、プロテインキナーゼドメインの上流は調節ドメインである。全ての3つのファミリー(従来の(cPKC)、新規の(nPKC)、および異型の(aPKC))は、N末端にV1と呼ばれる可変領域、およびC1で記されるすぐ下流の定常領域を含む。C1領域は、ホスファチジルセリン、ジアシルグリセロール、またはホルボールエステルのような薬理学的模倣物による活性化に関連すると考えられている。C2領域はcPKCファミリーにおいてのみ見出され、そしてカルシウムによる活性化のための部位であると考えられている。しかし、状況は、C1領域がカルシウム結合にもまた関与し得るようにそれほど単純ではあり得ず、そして異型のクラスはホルボールエステルのような試薬に対する応答が乏しい。
【0019】
それにも関わらず、調節ドメインとして示される領域内の配列が、特定のPKCとそのコグネイトRACKとの相互作用を担うことが、現在明らかである。これらはまた、偽RACK部位と呼ばれるRACK模倣領域を含み、偽RACK部位はPKCが活性化されていない場合に、PKCのそのRACKへの結合を妨げる。この状況は、一次配列中の別の部分に位置し、そしてPKCの活性化の前に触媒部位をブロックする偽物質配列に類似である。関連領域が、設計されたシグナル生成事象に関連する特定のイソ酵素に特異的であることを以下に示す。
【0020】
PCT出願番号WO95/21252において、PKC-β(cPKCファミリーのメンバー)と相互作用するコグネイトRACK1タンパク質がクローン化され、そしてPKC-βへの結合を担うと推定されるWD-40領域が構造の類似性によって同定された。これらのWD-40ペプチドの1つが、以下のようなPKCアクチベーターの非存在下でPKCのキナーゼ活性を誘導することが見出された;このペプチドおよびWD-40領域を示す別のペプチドの両方が、活性化PKC形態の特徴であるタンパク質溶解に対してPKC-βを感受性にする。全てのこれらのペプチドがまた、RACK1へのPKC-βの結合を阻害することがまた示された。原理上は、適切なRACKのWD-40領域が、対応するPKCに関連するシグナル生成のアンタゴニストまたはアゴニストとして作用し得る。記載されるように、関連PKCとそのコグネイト、または関連PKCと上記のコグネイト由来のWD-40ドメインとの間の相互作用について候補モジュレーターのライブラリーのメンバーの効果を示すアッセイが、このシグナル経路のモジュレーターを同定するためのスクリーニングアッセイとして使用され得る。
【0021】
スクリーニングアッセイ
下記の例示的な研究において、シグナル生成の調節は、適切なPKCを含む反応混合物に、関連RACK由来のWD-40ペプチドもしくはそれ自身がRACK結合ドメインを模倣しているPKC調節ドメイン由来の偽RACKペプチド、または代理コグネイトのいずれかを供給し、そして結合またはシグナル生成に対するこれらのペプチドの効果を試験することによって達成され得る。相互作用する(すなわち、コグネイトとして作用する)物質はPKCを結合し、そして/またはそのシグナル生成を変化させる。PKCまたはPKC由来のコグネイト結合ペプチドはまた、シグナル生成タンパク質へのコグネイトタンパク質の結合に影響を与えるための良好な候補の能力の利点によって、シグナル生成経路のモジュレーターをスクリーニングするための適切なコグネイトと組み合わせて、アッセイ試薬として使用され得る。一般に、その相互作用が観察され得るPKC/コグネイト組み合わせを使用する系において、この相互作用に影響を与える物質をスクリーニングするために使用され得る。従って、相互作用は候補の存在下およびその非存在下で観察され、そしてこれらの2つの条件下の相互作用における差異はこの相互作用を調節する候補の能力を反映する。
【0022】
特に重要なシグナル生成タンパク質/コグネイト系が本明細書中以下に記載される。PKC-θが関連するシグナリングは、免疫系(特に、T細胞応答)を調節することにおいて特に重要である。従って、PKC-θとそのコグネイトとの間の相互作用を調節する物質がまた、免疫応答のモジュレーターであり、従って、アレルギーおよび喘息、同種移植片拒絶の予防、ならびに自己免疫疾患の処置におけるような、免疫応答の改変が所望される状況において使用され得る。以下の記載は、PKC-θまたはそのフラグメントを使用するアッセイ系であり、ここで、このコグネイトは通常、宿主細胞中に存在するものであり、fynタンパク質(先の用語中のRACK)またはその関連フラグメント、あるいは本発明の方法に従って定義された代理コグネイトである。本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド」および「タンパク質」はサイズに関わらず交換可能に使用される。いくつかの場合において、これは従来の用語に従って意図されることが明らかである;一方、両方の可能性が含まれ得る。出願人はアミノ酸配列の長さの点からペプチドとタンパク質との間に任意の境界線を引かない。
【0023】
従って、要約すると、種々の可能な対となる相互作用が試験され得る;必要とされる成分は決して精製されない。
【0024】
【表1】
上記の表において、成分に適切な相互作用を検出する任意のアッセイ方法が使用され得る。相互作用が細胞内である場合、細胞に対する特定の生理学的効果が測定され得る。相互作用がインビトロである場合、コグネイト成分のシグナル生成タンパク質への結合の直接的な測定がおそらく最も適切である。
【0025】
一般に、本発明は特定のシグナル経路のモジュレーターを同定するためのスクリーニング方法に関する。各アッセイは、触媒的に活性であるシグナル生成タンパク質に非触媒部位を介して十分に、そして特異的に結合し、不純な調製物中でのアッセイを可能にするコグネイトを含む。これらの2つの成分の相互作用は、候補モジュレーターの存在下および非存在下で観察される。選択されるアッセイ系に依存して、相互作用およびその改変が、観察可能なパラメーター;細胞下分布における変化のような生理学的な読み出し、またはレポーター遺伝子の転写のような人工的な構築物のいずれかに影響を与える細胞内結合アッセイを含む種々の方法で観察され得る。しかし、必要とされる試薬が精製されることは決してないが、いくつかの場合において、例えば、相互作用を担うシグナル生成タンパク質(PKC-θにより示される)またはそのコグネイト結合タンパク質(fynにより示される)の領域を示す、以下に示されるように同定されたペプチドを利用することが好都合であり得る。
【0026】
関連の内因性PKCおよび関連の内因性コグネイトが、候補物質の影響(例えば、シグナル生成タンパク質の活性化の際に細胞内輸送パターンを変化させる候補の能力)を観察することにおいて使用され得る。あるいは、関連PKCに結合するそれらの能力の利点により以下に記載されるアプローチを用いて同定されるRACKまたはコグネイトのWD40領域を示すタンパク質のような、代理コグネイトタンパク質が使用され得る。代理物がインビトロ系で使用される場合、一般に、結合は測定可能な相互作用である。本出願で使用される場合、上記のように、用語「コグネイト」は、触媒的に活性なシグナル生成タンパク質に非触媒部位を介して十分に、そして特異的に結合する物質に適用される。従って、「コグネイト」は、内因性コグネイトタンパク質(または関連フラグメント)あるいはこれらに由来の等価物、および上記の特性を共有する代理物質の両方をいう。コグネイトが非触媒部位に結合することが必要とされるが、さらにコグネイトは、シグナル生成タンパク質による触媒のための物質であり得る。
【0027】
さらに下記のように、アッセイ方法において1つまたは他の成分と置き換えられ得るペプチドは、それ自身アッセイの実施を通じて同定され得る。従って、コグネイトタンパク質とシグナル生成タンパク質との相互作用に影響を与える化合物の能力は、その化合物をシグナル経路それ自体のモジュレーターと同様にアッセイの有用な成分として同定する。一旦適切な成分が同定されると、個々の標識成分が、結合のレベルを評価するために使用され得る。標識成分は、コグネイトタンパク質を含む組成物に対して測定される、シグナル生成ペプチドの領域、または逆に、シグナル生成タンパク質を含む組成物に対して測定されるコグネイトタンパク質の部分を示す成分を示し得る。これらの組成物は、完全な細胞または細胞を含まない抽出物または部分的に精製された抽出物であり得る。
【0028】
非内因性物質がアッセイの1成分として選択される場合、好ましくは、スクリーニング試験がそれ自身の結合のみを測定することによって行われ得ることが明らかである。
【0029】
あるいは、シグナル生成タンパク質およびコグネイトタンパク質の両方が、粗抽出物中に含まれ得、そしてそれらの相互作用を評価するための方法は、調製物自身の中のシグナル生成タンパク質の局在を測定する工程、あるいは例えば、Xenopus卵母細胞の成熟のような相互作用の代謝的効果または心筋細胞の収縮率に対する効果を測定する工程を包含し得る。相互作用を評価する特定の方法は、もちろん、相互作用のパートナーに対して適切であり、そしてシグナル経路および以下に示すようなそれらの成分の特異性の利点を利用することにより、容易に確認され得る。
【0030】
さらに、「ツーハイブリッド」システムが、PKCまたはそのフラグメントとそのコグネイトとの相互作用に影響を与えるために使用され得、そしてこの相互作用に対する候補の効果が観察され得る。「ツーハイブリッド」システムは、本明細書中で参考として援用される米国特許第5,283,173号に記載されている。簡潔には、本発明に適用される場合、組換え宿主(代表的には、酵母)は、それぞれ融合タンパク質をコードする2つの発現系を用いて形質転換される。1つの融合タンパク質は、PKCまたはそのコグネイト結合フラグメントに融合された転写活性化因子の部分を含む;他の融合タンパク質は、コグネイトに融合された転写活性化部分の相補性部分を含む。代表的には、転写活性化因子はRNAポリメラーゼのアクチベーターであり、そして1つの部分はDNA結合部分を示し、もう1つの部分はポリメラーゼのアクチベーターである。コグネイトおよびPKCが結合する場合、転写因子の2つの部分は、それらが活性化した転写の機能を実行し得るほど十分に近位にもたらされる。従って、「ツーハイブリッド」アッセイはまた、レポータータンパク質(例えば、βガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)を産生する、完成された転写因子により活性化されるレポーター発現系を含む。本明細書中で規定される場合、「ツーハイブリッドアッセイ」はこの一般的なアプローチをいう。
【0031】
好都合に、調節候補化合物を同定するためのアッセイは、反応混合物中の相対成分の「結合」に対する候補の効果の測定としてしばしば記載される。コグネイトタンパク質およびシグナル生成タンパク質の両方がアッセイに関連する組成物の活性成分である場合の例において、結合は直接だけではなく、得られる代謝的または生理学的効果によってもまた測定され得る。
【0032】
fyn/PKC-θ感染
PKC-θにより媒介されるシグナル生成がT細胞の活性化を調節することにおいて重要であることが、本明細書中以下で示されている。従って、PKC-θによって媒介されるシグナリングによって媒介されるPKC-θの改変は、免疫応答の改変を生じる。従って、このシグナル経路を調節するとして同定され得る物質は、アレルギー性反応の予防またはそれらの重篤度を低減することにおいて、あるいは喘息の処置において、自己免疫疾患の効果を改善することにおいて、および移植片の拒絶のリスクを低減することにおける免疫調節剤として有用である。PKC-θは、その内因性コグネイトの少なくとも1つとして作用するfynタンパク質と内因的に相互作用することがまた、以下に示される。従って、PKC-θ/fyn相互作用はそれ自身が、免疫モジュレーターとして機能する候補物質を同定するためのアッセイ系として使用され得る。
【0033】
アッセイの1つの形態において、PKC-θシグナルタンパク質およびfynコグネイトは試験細胞中に内因的に生じ、そしてPKCシグナリング機能に対する候補の効果が直接測定され得る。以下に示すように、PKC-θの輸送は活性化の際に起こり、従って、内因性コグネイトタンパク質に結合する。この輸送の際の候補物質の効果は、そのコグネイトとPKC-θとの相互作用の際のその影響の測定として直接決定され得る。
【0034】
あるいは、アッセイは、PKC-θおよびfynを直接含んでインビボまたはインビトロで構築され得る。詳細には、fyn/PKC-θ相互作用を調節する試薬を同定するために、fynタンパク質、PKC-θに結合するドメインを含むfynタンパク質のフラグメント、またはPKC-θに結合するfynタンパク質のドメインを含む融合タンパク質が、PKC-θ、fyn結合ドメインを含むPKC-θのフラグメント、またはfyn結合ドメインを含む融合タンパク質を有する同じ環境に提供され、この環境は通常、シグナル生成タンパク質(PKC-θ)とコグネイト(fyn)とが相互作用する環境である。環境は、試験される物質の存在下および非存在下で提供される。試験される物質の存在下および非存在下で、シグナリングタンパク質とコグネイトとの間の相互作用における差異が比較される;相互作用をブロックするか、またはそうでなければ相互作用に影響を与える試薬が、これらの2つの環境の間での相互作用における差異の決定により同定され得る。
【0035】
fynタンパク質はスプライシング変異体のファミリーを提示し、そして「fyn」によって、これらのスプライスされた変異体およびそれらに由来するPKC-θを結合するペプチドの全てを意味する。
【0036】
本明細書中で用いられる場合、試薬は、試薬の存在がfynペプチドとのPKC-θペプチドの会合を妨げるか、会合の量を減少させる場合、fyn/PKC-θ結合をブロックするかまたは低減するといわれる。試薬の1つのクラスはPKC-θペプチドへの結合によって会合を低減するかまたはブロックするが、別のクラスの試薬はfynペプチドへの結合によって会合を低減するかまたはブロックする。第1のクラスの試薬の2つの例として、PKC-θペプチドに結合し、そしてPKC-θ上のfyn結合部位をブロックする抗体と、fyn上に見出されるPKC-θ結合部位を有するペプチドとが挙げられる。第2のクラスの試薬の2つの例として、fynペプチドに結合し、そしてfyn上のPKC-θ結合部位をブロックする抗体と、PKC-θ上に見出されるfyn結合部位を含むペプチドとが挙げられる。他の型の相互作用もまた、予想され得る。
【0037】
本発明の方法で使用されるfynペプチドは、そのアミノ酸配列が当該分野で公知である完全なfynタンパク質、PKC-θを結合するfynペプチドのフラグメント、または結合活性を保持しているそれらの小さな領域、もしくは適切なfyn配列を含む融合タンパク質のようなfynのPKC-θ結合部位を含むタンパク質のいずれかであり得る。あるいは、fynペプチドは、回文(palindromic)反復または縦列(tandem)反復におけるような、fyn配列の1つ以上のコピーを含み得る。fynペプチドを発現する細胞またはウイルスもまた使用され得る。
【0038】
fyn配列を含む化合物の代わりとして、本発明の方法において同定される試薬は、fynペプチドと置き換えられ得る。例えば、PKC-θへの結合によってfyn/PKC-θ結合をブロックすることが見出されている試薬が、fynペプチドの代わりに使用され得る。
【0039】
本発明の方法において使用されるPKC-θペプチドは、そのメンバーがfynペプチドに結合する限りは、タンパク質のPKC-θファミリーの任意メンバーであり得る。本明細書中で使用される場合、PKC-θファミリーのメンバーは、タンパク質のPKC-θファミリーのメンバーである当該分野で現在公知のタンパク質をいう(概説については、Baierら、J Biol Chem(1993)268(7):4997-5004およびBaierら、Eur J Biochem(1995)225(1):195-203を参照のこと)。これらは、例えば、ヒト、マウスなどの器官から単離されるPKC-θ、ならびに各生物において見出されるPKC-θの種々のスプライス形態を含む。PKC-θファミリーのメンバーはその全体において使用され得るか、またはfyn結合部位を含むPKC-θタンパク質のフラグメントが使用され得る。好ましいフラグメントはPKC-θのV1領域に由来する;強くイソ酵素特異的な領域V3またはV5もまた、使用され得る。あるいは、PKC-θを発現する細胞もしくはウイルス、またはPKC-θフラグメントが使用され得る。
【0040】
本発明の方法において使用されるfynおよびPKC-θペプチドは、種々の形態で用いられ得る。ペプチドは、天然に生じる夾雑物を含まない、高度に精製された形態で使用され得る。あるいは、細胞性成分の混合物を含む粗調製物、ならびにfynおよびPKC-θペプチドが使用され得る。さらに、fynまたはPKC-θペプチドは、天然にこれらのペプチドを発現している細胞から単離され得るか、組換え方法を用いてこれらのペプチドを発現するように改変されたか細胞から単離され得るか、または標準的なペプチド合成方法を用いて合成され得る。試験される試薬および/またはfynペプチドとのPKC-θペプチドの会合がサンプル中で同定され得る限りは、fynおよびPKC-θペプチドは上記アッセイにおける使用のために適切な形態である。
【0041】
さらに、fynおよび/またはPKC-θペプチドは、検出を容易にするために、検出可能な標識またはシグナル生成系を含むようにさらに改変され得る。蛍光タグまたは蛍光偏向(fluorescence polarization)、および二次標識試薬(例えば、ビオチン)のような試薬を接着する方法が、当該分野で周知である。
【0042】
種々の当該分野で公知の方法が、試薬がPKC-θペプチドとのfynペプチドの相互作用をブロックするかまたは減少させるかどうかを検出するために適用され、そして使用され得る。このような方法は、固体支持体を利用するアッセイ、液相中でのアッセイ、ゲル状培地で行われるアッセイ、およびこれらの環境の組み合わせを使用するアッセイを含むが、これらに限定されない。固相アッセイの例は、fynおよびPKC-θペプチドの一方または両方が固体支持体上に固定され、そして試験される試薬およびfyn/PKC-θ対の他のペプチドを含む液相中でインキュベートされるアッセイである。ついで、抗体のような二次的な検出方法が固定化ペプチドに結合する二次ペプチドの量を決定するために使用される。あるいは、fyn/PKC-θ対の二次ペプチドが検出可能に標識され得、そして固定化した第1のペプチドへのその結合が直接アッセイされる。固相に基づくアッセイについて好ましく適切な1つの形態は、96-ウェルマイクロ-タイタープレート中でのペプチドの1つの固定である。このようなタイタープレートは複数のサンプルを迅速にプロセシングするための有効なアッセイ形態を提供する。
【0043】
あるいは、fyn/PKC-θ結合対の両方のペプチドが溶液中に存在し得る。混合した後、PKC-θペプチドへのfynペプチドの結合が、種々の方法(例えば、電気泳動手段を用いて移動度シフトを検出する方法)を用いて検出され得る。当業者は、競合アッセイにおける使用のための、当該分野で公知の多くのアッセイ型形態がfyn/PKC-θペプチド対を使用するように改変され得ることを容易に理解し得る。
【0044】
上記のように、PKC-θおよびfynまたはfyn代替物の結合は、ツーハイブリッドアッセイシステムを使用して検出され得る。「fyn代替物」は、本発明のアッセイにおいて、PKC-θとfynまたは他の内因性コグネイトとの作用を干渉するようにPKC-θに結合すると見出される、任意の別のペプチドまたは他の分子であり得る。従って、本明細書における議論は、PKC-θ/fyn相互作用それ自体に限定されるようには考えられるべきでなく、PKC-θと任意のコグネイトとの相互作用を含む。
【0045】
PKC-θペプチドまたはfynペプチドへの直接結合は、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする薬剤の同定における第1工程として使用され得るが、そうである必要はない。このような方法において、薬剤はまず、PKC-θまたはfynペプチドに結合する能力についてスクリーニングされる。次いで、2つのペプチドのいずれかに結合する薬剤は、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする能力について、または免疫系の機能を調節する能力についてスクリーニングされる。
【0046】
上記の方法においてアッセイされる薬剤は、ランダムに選択されるか、あるいは合理的に選択または設計され得る。本明細書において用いられるように、薬剤がfynペプチドのPKC-θペプチドとの会合に関与する特異的な配列を考慮することなしにランダムに選択される場合、薬剤はランダムに選択されるといわれる。ランダムに選択される薬剤の例は、化学的ライブラリーまたはペプチドコンビナトリアルライブラリーの使用である。
【0047】
本明細書において用いられるように、薬剤が、薬剤の作用と関連して、標的部位の配列の配列および/またはそのコンホメーションを考慮する非ランダム基準で選択される場合、薬剤は合理的に選択または設計されるといわれる。上記のように、本発明の薬剤のための2つの作用部位は、fynペプチドおよびPKC-θペプチドである。薬剤は、fyn/PKC-θ対の接触部位を構成するペプチド配列を利用することにより、合理的に選択されるか、または合理的に設計され得る。例えば、合理的に選択されるペプチド薬剤は、そのアミノ酸配列がPKC-θ上に見出されるfyn接触部位と同一であるペプチドであり得る。このような薬剤は、fynのPKC-θとの会合を、fynへ結合することにより減少またはブロックする。
【0048】
本発明の薬剤は、ペプチド、低分子、ビタミン誘導体、および炭水化物であり得る。当業者は、本発明の薬剤または本発明のアッセイ方法において使用される薬剤の構造的性質に制限が存在しないことを容易に理解し得る。
【0049】
上に提供されるように、本発明の薬剤の1つのクラスは、そのアミノ酸配列がfynのアミノ酸配列、および特にfyn上に見出されるPKC-θ接触部位に基づいて選択される、ペプチド薬剤のクラスであり、薬剤の第2のクラスは、そのアミノ酸配列が、PKC-θのアミノ酸配列、および特にPKC-θ上に見出されるfyn接触部位に基づいて選択される、ペプチド薬剤のクラスである。PKC-θ上のfyn接触部位およびfyn上のPKC-θ接触部位は、当該分野で公知の方法論を使用して容易に決定され得る。例えば、PKC-θタンパク質のトリプシン消化が実施され得、そしてPKC-θの種々のフラグメントが、fynペプチドを結合するそれらの能力について試験され得る。あるいは、結合および咀嚼(bind and chew)アッセイの改変が使用され得、ここでfynおよびPKC-θペプチドは相互作用させられ、そして相互作用対がタンパク質消化に供される。fynペプチドにより接触されるPKC-θペプチドの領域は消化から保護され、そして後に、結合しそして保護されるアミノ酸配列を決定するために特徴付けられる。種々のフラグメントの結合を検出する別のアッセイもまた使用され得る。
【0050】
本発明のすべてのペプチド薬剤は、アミノ酸がC末端を形成する場合、薬学的に受容可能な塩またはエステルの形態であり得る。塩は、例えば、Na+、K+、Ca+2、Mg+2などであり得;エステルは一般に1〜6Cのアルコールのエステルである。本発明のすべてのペプチドにおいて、1つ以上のアミド結合(-CO-NH-)は、必要に応じて、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2CH2、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-COCH2-、-CH(OH)CH2-および-CH2SO-のような等量式(isostere)である別の結合で置換され得る。この置換は当該分野で公知の方法により作製され得る。代替ペプチド結合部分も、ペプチドに基づく薬剤の分解速度を減少させるために使用され得る。以下の参考文献は、これらの代替結合部分を含むペプチドアナログの調製を記載する:Spatola,A.F.,Vega Data(1983年3月),第1巻、第3号「Peptide Backbone Modifications」(一般的な総説);Spatola,A.F.,「Chemistry and Biochemistry of Amino Acids Peptides and Proteins」,B.Weinstein,編,Marcel Dekker,New York,267頁(1983)(一般的な総説);Spatola,A.F.ら、Life Sci(1986)38:1243-1249(-CH2-S);Hann,M.M.,J.Chem Soc Perkin Trans I(1982)307-314(1982)(-CH-CH-、シスおよびトランス);Almquist,R.G.ら、J Med Chem(1980)23:1392-1398(-COCH2-);Jennings-White,C.ら、Tetrahedron Lett(1982)23:2533(-COCH2-);Holladay,M.W.ら、Tetrahedron Lett(1983)24:4401-4404(-C(OH)CH2-);およびHruby,V.J.,Life Sci(1982)31:189-199(-CH2S-)。
【0051】
ペプチド結合の代わりに等量式を含むアナログに加えて、本発明のペプチドまたはタンパク質は、一般に、Olson,G.L.ら、J Med Chem(1993)36:3039-3049に記載のようなペプチド模倣物、およびChorev,M.ら、Science(1979)204:1210-1212;およびPallai,P.V.ら、Int J Pept Protein Res(1983)21:84-92に記載のレトロインバーソタイプ(retro-inverso type)ペプチドを含む。
【0052】
本発明の薬剤の別のクラスは、fynタンパク質の重要な位置またはPKC-θタンパク質と免疫反応性の抗体のクラスである。本発明の薬剤の作用のための標的は細胞内に存在するので(fyn/PKC-θ相互作用に関与する細胞シグナリング)、抗体薬剤は免疫診断方法において最も有用であり、そして本発明の方法におけるfynまたはPKC-θペプチドのいずれかのための代替物としての使用を見出す。しかし、現在利用可能な組換え技術を使用して、抗体は細胞内で産生され得、従って細胞内形態のアッセイにおいても同様に関与し得る。
【0053】
抗体薬剤は、抗原性領域として、抗体により標的化されることが意図されるfynまたはPKC-θタンパク質のそれらの部分を含むペプチドでの適切な哺乳動物被験体の免疫により得られる。重要な領域は、fynのPKC-θとの会合に関与する接触部位、および結合に際して接触部位との立体的干渉を提供する部位を含むが、これらに限定されない。
【0054】
抗体薬剤は、ペプチドハプテンが十分な長さであれば、それらを単独で使用して、あるいは所望であれば、または免疫原性を増強することが必要とされれば、適切なキャリアに結合したペプチドハプテンを使用して適切な免疫プロトコルで適切な哺乳動物宿主を免疫することにより調製される。BSA、KLH、または他のキャリアタンパク質のようなキャリアとの免疫原性結合体の調製方法は、当該分野で周知である。いくつかの状況において、例えば、カルボジイミド試薬を使用する直接結合が有効であり得;他の場合においては、Pierce Chemical Co.,Rockford,IKにより供給されるような結合試薬が、ハプテンへの接近可能性を提供することが所望され得る。ハプテンペプチドは、アミノ末端またはカルボキシ末端においてシステイン残基で延長され得るか、またはシステイン残基を散在させられ得、例えば、キャリアへの結合を促進し得る。免疫原の投与は、当該分野において一般に理解されるように、適切な期間にわたる注射により、そして適切なアジュバントを使用して一般に実施される。免疫スケジュールの間、抗体の力価が、抗体形成の適切さを決定するために得られる。
【0055】
この方法で産生されたポリクローナル抗血清は、いくつかの適用のために満足であり得るが、薬学的組成物のためには、モノクローナル調製物の使用が好ましい。所望のモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株は、一般に公知であるように、KohlerおよびMilsteinの標準的な方法あるいはリンパ球または脾臓細胞の不死化をもたらす改変を使用して調製され得る。(Harlow:Antibodies Cold Spring Harbor Press NY 1989を参照のこと)。所望の抗体を分泌する不死化細胞株は、抗原がペプチドハプテンであるか、あるいはPKC-θまたはfynペプチドであるイムノアッセイによりスクリーニングされる。所望の抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が同定されると、細胞はインビトロでかまたは腹水液中での産生によるかのいずれかで培養され得る。
【0056】
次いで、所望のモノクローナル抗体は、培養上清または腹水上清から回収される。免疫学的に重要な部分を含むモノクローナルまたはポリクローナル抗血清のフラグメントは、インタクトな抗体と同様に、アンタゴニストとして使用され得る。免疫学的反応性フラグメント(例えば、Fab、Fab'、またはF(ab')2フラグメント)の使用が、特に治療関連において、これらのフラグメントは一般に全体の免疫グロブリンより免疫原性が低いので、しばしば好ましい。抗体またはフラグメントはまた、最新の技術を使用して、組換え手段により産生され得る。レセプターの所望の領域に特異的に結合する領域はまた、複数の種起源を有するキメラに関連して産生され得る。
【0057】
もちろん、抗体の最初の産生を、免疫、およびモノクローナルを分泌する不死化細胞の単離を通して実施する必要はない。デノボ組換え合成を通して産生がもたらされ得るように免疫グロブリン遺伝子をクローン化するための技術が利用可能である。遺伝子が不死化B細胞中に由来するか、またはクローン化努力から得られるかにかかわらず、遺伝子の操作は、免疫グロブリンの再設計(Fvフラグメントのような単鎖免疫グロブリンの産生を含む)を可能にする。
【0058】
コグネイトとPKC-θとの相互作用を調節する物質のための使用
PKC-θとそのコグネイトとの間の相互作用は、種々の生物学的応答の調節に関連している。本発明に従って、この相互作用は、免疫系の調節、特にT細胞活性に関与するそれらの活性をもたらす。それゆえ、PKC-θのそのコグネイトとの相互作用に影響する物質は、免疫系の活性を調節するために使用され得る。
【0059】
詳細には、T細胞媒介性応答のような免疫系活性は、被験体に、適切なコグネイトのPKC-θとの相互作用に影響する物質を投与することにより調節され得る。被験体は、免疫活性の調節の必要性を有する任意の脊椎動物であり得る。これらの物質は、ヒト被験体の処置において特に有用である。
【0060】
免疫系活性は、免疫系の細胞が関与する広範な種々の細胞性事象をいう。このような活性を調節することが所望される状況の例としては、移植物外科手術、自己免疫障害、およびアレルゲンに対する応答が挙げられるが、これらに限定されない。これらの状況の各々において、T細胞応答性を選択的に減少させることが所望される。
【0061】
物質は、それが免疫系により媒介される病理学的症状の重篤度を軽減する場合、またはそれが被験体の正常免疫活性を正または負のいずれかに影響する場合、免疫系活性を調節する。例えば、薬剤は、それが移植片拒絶の発症の速度を減少させるか、または移植片拒絶の重篤度を軽減させる場合、移植片拒絶に関与する免疫系活性を調節するといわれる。免疫系に対する他の影響は、より正確に測定され得る。例えば、生じる効果は、IL-4またはIL-5のようなサイトカインの産生を、以下に示すように、好ましくはγ-IFN産生に影響せずに減衰させ得る。
【0062】
免疫系活性を調節する薬剤の投与
本発明の薬剤は、単独で、免疫系の機能を調節する別の薬剤との組み合わせで、またはさらなる生理学的効果を有する薬物との組み合わせで提供され得る。例えば、T細胞活性を減少させる本発明の物質は、別の免疫抑制剤、および/またはそのように同定された別の物質との組み合わせで投与され得る。本明細書において用いられるように、2つの薬剤が同時に投与されるか、または薬剤が同時に作用するような様式で独立して投与される場合に、2つの薬剤は、組み合わせで投与されるといわれる。
【0063】
本発明の薬剤は、非経口経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、経皮経路、または頬経路を介して投与され得る。あるいは、または同時に、投与は、経口経路によるかまたは吸入により得る。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康、および体重、同時処置の種類、もしあれば処置の頻度、および所望される効果の性質に依存する。
【0064】
本発明は、本発明の1つ以上の薬剤を含有する組成物をさらに提供する。個々の必要性は変動するが、各成分の有効量の至適範囲の決定は、当業者の技術内である。代表的な投与量は、0.01mg/k〜50mg/kg体重の範囲内である。好ましい投与量は、0.1mg/k〜10mg/kgの範囲内であり;最も好ましくは0.1mg/k〜1mg/kgである。
【0065】
薬理学的に活性な薬剤に加えて、本発明の薬剤を含有する組成物は、活性化合物の調製物(これは作用部位への送達のために薬学的に使用され得る)中への処理を促進する賦形剤および補助剤のような適切な薬学的に受容可能なキャリアを含有し得る。非経口投与のための適切な処方物としては、水溶性形態の活性化合物(例えば、水溶性塩)の水溶液が挙げられる。さらに、適切な油性注射懸濁液としての活性化合物の懸濁液が投与され得る。適切な親脂性溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油(例えば、ゴマ油)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリド)が挙げられる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランを含む)を含有し得る。必要に応じて、懸濁液はまた、安定化剤を含有し得る。リポソームはまた、細胞内への送達のために薬剤を被包するために使用され得る。
【0066】
本発明による全身投与のための薬学的処方物は、経腸投与、非経口投与、または局所投与のために処方され得る。実際、3つすべてのタイプの処方物は同時に使用されて、有効成分の全身投与を達成し得る。
【0067】
経口投与のための適切な処方物としては、硬または軟ゼラチンカプセル、丸剤、錠剤(被覆錠剤(coated tablet)を含む)、エリキシル、懸濁液、シロップまたは吸入およびその制御放出形態が挙げられる。
【0068】
吸入による投与のための適切な処方物としては、計量用量吸入器(metered dose inhaler)および乾燥粉末デバイス(dry powder device)が挙げられる。鼻吸収のために水性および非水性懸濁液または乾燥粉末が使用され得る。
【0069】
標的化のための方法
本発明の物質の有効親和性は、薬剤を、それもまたPKC-θまたはそのコグネイトのいずれかに結合する第2の薬剤に共有結合することにより増加され得る。このような第2の薬剤は、コグネイトまたはPKC-θ分子のいずれかにおける別の部位に結合し、そして第1の薬剤を標的部位にきわめて近接させて、全体のアビディティを増加させる。このような第2の薬剤は、抗体およびペプチド薬剤であり得るが、これらに限定されない。第2の薬剤は、当該分野で公知の方法を使用して、第1の薬剤に共有結合され得る。リンカーを用いる方法は、この使用のために特に良好に適合する。
【0070】
さらなる記載なしに、当業者は、前述の記載および以下の例示的な実施例を用いて、本発明を実施し得ると考えられる。以下の作業実施例は、本発明の好ましい実施態様を例証し、そして限定として解釈されるべきでない。
【実施例】
【0071】
実施例1
εPKC輸送に対する陰性周期変動の特異性
新生児ラット心筋細胞をこのアッセイにおいて使用した。これらの細胞は、培養物中で調製される場合、約40〜50/15秒の速度で収縮を示し、そしてホルボールエステルである4-βホルボール12-ミリステート-13-アセテート(PMA)は収縮率を減少させることが知られている(Johnson,J.A.ら、Circ Res(1995)76:654-653)。以前の研究はまた、心筋細胞のPMAまたはノルエピネフリン(NE)での処理が、αPKCの核境界への、βIPKCの核の内部への、δPKCの筋原線維および核周囲構造への、およびεPKCの黄紋(cross-striated)構造への輸送を引き起こすことを示した(Disatnik,M-H.ら、Exp Cell Res(1994)210:287-297)。外因的に添加された活性化PKCが同様に結合することも示された(Mochly-Rosen,Dら、Molec Biol Cell(1990)1:693-706)。種々のイソ酵素が輸送される位置は異なるので、各イソ酵素に特異的な可変領域(Nishizuka,Y.,Nature(1988)334:661-665)は、特異的RACK結合部位の少なくとも一部を含むはずであることが示唆された(Disatnik,M-H.ら、Exp Cell Res(1994)210:287-297)。さらに、εPKCのV1領域は、その基質特異性を決定することが示唆された(Pears,C.ら、Biochem J(1991)276:257-260)。
【0072】
対応するイソ酵素の輸送のみがそのフラグメントの1つにより阻害される(例えば、εPKCの輸送のみがεPKC-V1フラグメントにより阻害される)ことを示すために、チャンバースライド上で培養した細胞に、それぞれの場合においてアミノ酸2〜144を含む100μg/mlのラット組換えεPKC-V1またはδPKC-V1フラグメントの非存在下または存在下で、サポニン(50μg/ml)を浸透させた。細胞機能(細胞生存性を含む)、自発的または刺激性収縮率、遺伝子発現ならびに肥大は、サポニン処理により影響されない。
【0073】
これらのフラグメントを、cDNAライブラリー(Stratagene)由来の遺伝子の関連する部分を増幅することにより調製した。FLAGTMエピトープ(DYKDDDK)をフラグメントの5'末端に操作し、そして0.45 kb PCRフラグメントを、E.coliにおけるマルトース結合タンパク質との融合タンパク質としての過剰発現のために、pMAL-C2ベクター(New England Biolabs)中にサブクローン化した。融合タンパク質のタンパク質精製および第Xa因子タンパク質分解は、Ron,D.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1994)91:839-843に記載のとおりであった。
【0074】
各フラグメントの細胞内濃度は、洗浄および抽出された細胞の定量的ウエスタンブロットにより測定すると、約300 nM、または細胞外濃度の約3%であった。
【0075】
εPKC-V1またはδPKC-V1フラグメントを浸透により投与した後、細胞を、4-αまたは4-βPMAのいずれかとともにインキュベートした。(4αPMAは活性ではなく、そしてこれをコントロールとして使用する。)次いで、細胞をメタノールおよびアセトンで固定し、そしてPKCイソ酵素の局在を免疫蛍光法により決定した;δPKCおよびεPKCを検出するために使用した抗血清は、投与したフラグメントを認識しない。各処理群についてならびにPKCイソ酵素α、βI、δ、およびεについて、複数の視野の細胞を観察し、そしてデータを活性化部位における試験される酵素を有する細胞の割合として表した。細胞を100 nM PMAで5分間処理した場合、δPKC-V1またはεPKC-V1のいずれもがαおよびβイソ酵素の輸送に対する効果を有さなかったが、δおよびεフラグメントの各々が、対応するイソ酵素の輸送を特異的に阻害し、他のイソ酵素の輸送は阻害しなかったことが明らかであった。εPKCの輸送を3nM PMAのずっとより低いレベルで測定するさらなる実験はまた、εフラグメントによる完全な阻害を示した。3nM PMAはε形態以外のPKCイソ酵素の輸送においてわずかにのみ有効であることが、以前に示されている(Johnson,J.A.ら、Circ Res(1995)76:654-663)。
【0076】
εPKCの黄紋構造への局在化は、εイソ酵素がPMAの収縮率に対する効果を媒介し得ることを示唆した。細胞を、サポニンとともに、150μg/mlの上記のδまたはεPKC-V1フラグメントの存在下または非存在下で培養しそして浸透させた。基底収縮率を10分間モニターし、次いで細胞を3nM PMAで処理した。収縮の率を次の20分間にわたってモニターした
。結果を図2に示す。
【0077】
示すように、フラグメントを添加しなかった細胞において、収縮率は、PMAの添加の15分以内にほぼゼロに減少される。同様に、δPKCフラグメントが添加される細胞において、収縮率はこのように減少される。しかし、εPKCフラグメントを添加した細胞において、収縮率は維持される。このように、εPKC-V1フラグメントは、自発性収縮のPMA誘導性阻害を特異的に防止した。これらのデータは、輸送に関して上記したデータおよびεPKC-V1フラグメントがインビトロにおいてεPKCの触媒活性に影響しないという事実と組み合わせて、εPKCの輸送が、PMAの周期変動効果のシグナリングにおける重要な工程であること、およびこのシグナリングがV1領域を含むフラグメントにより阻害されることを実証する。
【0078】
収縮率を減少させることにおけるPMAの効果は、筋細胞のα1およびβ1アドレナリン作動性レセプターを制御することにより模倣され得、これはより生理学的に関連する現象を提供する。α1レセプターおよびβ1レセプターの両方がNEで活性化される場合、収縮率における増加が生じ;両方のレセプターが阻害される場合、NEはもはやこの効果を有さない。α1レセプターが単独でプラゾシンにより阻害される場合、収縮率における最初の増加はより高く;β1レセプター単独が阻害される場合、収縮率は減少する。
【0079】
上記のδフラグメントまたはεフラグメントのいずれかが、α1およびβ1レセプターの公知のインヒビターに置換される場合、NEに応答しての細胞の挙動は、δフラグメントの存在により影響されないが;しかし、εフラグメントの添加は、プラゾシンの存在下で得られる応答に類似の応答を与える。これらのデータは、収縮率を制御することにおけるεフラグメントの役割と一致する。なぜなら、α1レセプター(プラゾシンにより阻害される)はPKC輸送を媒介するからである。
【0080】
図3は、3nM PMAでの刺激を使用し、そして、0.1μMεPKC由来ペプチドεV1-2(配列EAVSLKPT)または20μMのβPKC由来ペプチドβC2-4(配列SLNPEWNET)を使用してεPKCおよびβPKCの局在化をブロックする10残基未満のペプチドを提供する、類似の実験の結果を示す。図3に示すように、浸透される細胞へのペプチドの添加なしの、または20μMのβPKC局在化インヒビターの存在下での3nM PMAでの刺激は、上記のように陰性周期変動を生じる。
【0081】
実施例2
C2由来ペプチドによるβPKC輸送の特異的阻害
本願は、本明細書中に、特定のRACK、すなわちRACK1(これはβPKCの結合を担う)上の結合部位を記載している。PKC上の結合部位が同定されている場合、この結合部位を模倣したペプチドもまた、βPKCの輸送および機能のモジュレーターとして働き得ると認識される。さらに、PKCは、それ自身偽RACKペプチド配列を含み得、その配列はRACK上の結合部位を模倣しており、そして、PKC上のRACKに対する結合部位の曝露を制御することに留意されるべきである。続く実験では、これらの可能性を区別していない;にもかかわらず、PKC配列上のどの機能が呈示されても、この配列の模倣物は関連するシグナル経路の有効なモジュレーターであり得る。
【0082】
アイソザイムのcPKCクラスは、C2領域を含む一般的なPKCファミリーのメンバーのみを含む。シナプトタグミンおよびホスホリパーゼCγのような他のC2含有タンパク質もまた、細胞顆粒画分から調製されたRACKの混合物に結合する。C2相同領域を含むシナプトタグミンの組換えフラグメントは、RACKの混合物に結合し、PKCのRACKへの結合を阻害する(Mochly-Rosen,D.ら、Biochemistry(1992)31:8120-8124)。
【0083】
続く実験では、βPKCのC2領域に存在する特定のペプチドもまた、βPKCの転移およびXenopus卵母細胞の成熟を阻害し得ることを示している(Ron,D.ら、J.Biol Chem(1995)270:24180-24187)。
【0084】
以下のβPKC由来ペプチドを調製した:
βC2-1:KQKTKTIK(210-217);
βC2-2:MDPNGLSDPYVKL(186-198);
βC2-3:IPDPKSE(201-207);
βC2-4:SLNPEWNET(218-226);
スクランブルしたβC2-1:TKQKKITK;
コントロールペプチド:LQKAGVDG(266-271)。
【0085】
βPKCの組換え産生フラグメントを、GSTとの融合タンパク質として発現させた:融合体L9はβPKCのV1領域、偽基質配列、およびC1およびV2の領域(残基3〜182)を含んでいる。L10は、V1領域、偽基質配列およびC1領域由来の第1システイン繰り返し配列、および完全なC2領域とV3領域とを含む(残基3〜76および143〜339)。番号付けは、Luo,J-H.ら、J.Biol Chem(1993)248:3715-3719の記載に従った。
【0086】
標準的なオーバーレイアッセイを、Mochly-Rosen,D.ら、Proc Natl Acad Sci USA(1991)88:3997-4000に記載のニトロセルロース上へのRACK1のブロッティングによって行った。1片あたり0.1〜1μgのRACK1を含むニトロセルロースシート片を、約10μMの試験フラグメントを加えた、または加えていないオーバーレイ緩衝液中でインキュベートした。添加は、50μg/mlのホスファチジルセリン(PS)および1mMカルシウムの存在または非存在下で行った。混合物を、さらに30分間室温でインキュベートした。次いで、この片を洗浄し、L9フラグメントまたはL10フラグメントのRACK1への結合を、抗GSTポリクローナル抗体を用いて、続いて抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗体での標識化、および基質添加による発色で検出した。
【0087】
このアッセイを用いたところ、L9ではなく、L10がRACK1を結合することが分かった。PKCアクティベーターホスファチジルセリンおよびカルシウムは、L10のRACK1への結合を増加させなかった。しかしこれらのアクティベーターは、インタクトなPKCがRACK1に結合するため必要である。従って、これらのデータは、PKCアクティベーターが、インタクトなPKCにおけるRACK結合部位の曝露に必要であるという予想と一致する;この部位はすでに、C2含有フラグメントL10中に曝露されている。
【0088】
L10がインタクトなβPKCのRACK1への結合を阻害するかどうかを決定するために、RACK1をアミロースカラム上で固定化し、そしてPS、DAGおよびカルシウム存在下、ならびにL10またはL9存在下でのβPKC結合を決定した。L10存在下において、RACK1へのβPKC結合は、完全に阻害された;しかし、これはL9にはあてはまらなかった。同様の結果がオーバーレイアッセイで得られた。
【0089】
同様のオーバーレイアッセイを、L10のRACK1への結合に対して候補インヒビターとして、上記で挙げたペプチドを用いて行った。C2由来ペプチドβC2-1、βC2-2およびβC2-4ペプチドは、L10のRACK1への結合を十分に阻害した;しかしβC2-3およびスクランブルされたβC2-1はそうではなかった。
【0090】
前記無細胞アッセイに加えて、βPKCとRACK1との会合、およびC2領域由来のペプチドのこの相互作用を遮断する能力を、培養中のラット新生児心臓筋細胞で試験した。これらの細胞中のRACK1の存在を免疫染色によって確認した。RACK1は、核周辺構造で、かつサイトゾルを通して見い出された。NEまたはPMAでの処理は、これらの位置を変化させなかった。活性化したβII PKCが、RACK1と共存することもまた示された(C2欠損アイソザイムのδまたはεPKCでは示されなかった)。
【0091】
次いで、RACK1へのβPKC結合を阻害することがインビトロで示されたC2由来ペプチドを、筋細胞中で活性化誘導性輸送を阻害する能力について試験した。
【0092】
筋細胞を、試験ペプチドの存在および非存在下で、サポニン(50μg/ml)を用いて一時的に透過化処理した後、100nM PMAに15分間曝露した。ペプチドで処理されなかった細胞の80%は、β1PKCの核周辺構造への局在を示した。しかし、10μM細胞外濃度のβC2-1、βC2-2またはβC2-4を透過化処理細胞に供給した場合、βI PKCおよびβII PKCの両イソ酵素の輸送が65〜95%阻害された。βC2-4が最も有効であった。上記のコントロールペプチドは、輸送に影響しなかった。
【0093】
実施例1の結果と一致して、100nM PMAでの非透過化処理心臓筋細胞の処理は、εPKCの核から核周辺および横紋構造への輸送、ならびにδPKCの核周辺および原線維サイトゾル構造からの輸送を、それぞれ細胞の80%および90%において生じた。細胞を透過化処理し、そしてβPKC由来C2ペプチドで処理しても、これらのC2欠損アイソザイムの輸送には影響しなかった。
【0094】
筋細胞の周期変動(chronotropy)はβPKCイソ酵素によって影響を受けないが、インシュリンで誘導されたXenopus卵母細胞の成熟は、β型によって媒介される。これらの卵母細胞のインシュリン処理はβPKCの輸送を生じ、そして成熟はPKC特異的触媒性阻害剤偽基質ペプチドによって遅延される。PKC輸送は、精製RACK、またはRACK上のPKC結合部位に相当するペプチドの注入によってブロックされる(Smith,B.L.ら、Biochem Biophys Res Commun(1992)188:1235-1240;Ron,D.ら、J Biol Chem(1994)269:21395-21398)。
【0095】
したがって、Xenopus卵母細胞の成熟を、上記のC2領域由来のペプチドの機能を試験するための代替アッセイ系として用いた。このアッセイにおいて、卵母細胞には、インシュリン処理(8.25μg/ml)する1時間前に、50μMの試験ペプチドを注入した。次いで、インシュリンで誘導される卵母細胞の成熟を、卵母細胞の動物極に白い点が現れるのをモニターすることによって判定した。これは成熟中の卵核胞の破壊を表す。1回のアッセイは10〜15卵母細胞を含み、そして卵母細胞は処理後35時間観察評価した。予想通り、5μM〜500μMの範囲で供給されたβC2-1、βC2-2およびβC2-4は、量依存様式で卵母細胞成熟を有意に遅延させた。コントロールペプチドは遅延させなかった。この効果とXenopus卵母細胞におけるβPKCの顆粒画分への輸送を防ぐこととの関連は、別の実験において確認された。ペプチドβC2-4は、Jurkat T-細胞において、θPKCではなくβPKCの輸送を阻害した。図4はXenopus卵母細胞成熟におけるこれらのさまざまなペプチドの効果を示す。
【0096】
実施例3
ペプチドを相互作用するアゴニスト効果
上記の卵母細胞成熟アッセイをまた、PKC/RACK1対由来のさまざまなペプチドの効果を試験するために使用した。RACK1由来のペプチドIは、予想通り、Xenopus卵母細胞の成熟を、おそらくβPKC1のRACK1への結合に干渉することによって阻害する。一方、RACK1中の6番目のWD-40繰り返し配列由来の短いペプチドrVIは、インシュリン存在下および非存在下の両方で成熟を増強する(Ron,D.,Mochly-Rosen,D.,J.Biol.Chem(1994)269:21395-21398)。これらの結果を図5および5bに示す。rVIペプチドは、活性化がなければ通常RACK結合部位を覆うPKC上のRACK模倣部位に干渉すると考えられている。
【0097】
実施例4
θPKC由来の相互作用ペプチド
θPKCは、nPKCファミリーのメンバーであり、そしてC2領域が欠損している。可変配列のεPKCおよび他のイソ酵素との比較は、最も異なる領域を明らかにする。これらの領域のうちいくつかは、膨大な系統発生の広がり(例えば、哺乳類から無脊椎動物のアメフラシまで)を通して強固に保存されている。進化によって強固に保存されているイソ酵素特異的配列が、考えられるコグネイトタンパク質の結合部位である。δPKCとθPKCとを類似した領域において比較すると、RACKへのPKC結合に干渉すると予想されたθ特異的ペプチドを同定し得た。θPKCのV1領域由来のこれらの特徴を有するペプチドを調製し、θPKC V1フラグメントのRACK1への結合を阻害する能力についてインビトロで試験した。結果を図6に示す。試験された多数のペプチド(これらはθPKCイソ酵素の他の領域由来およびファミリー中の代わりのイソ酵素由来の両方を含む)のうちθV1由来ペプチドのT1およびT2(それぞれアミノ酸配列GLSNFDCG(θPKC残基8〜15)およびYVESENGQMYI(θPKC残基36〜46)を有する)のみが、相互作用にネガティブに影響し得た。予想通り、RACK1のWD-40領域由来のペプチドrIIIおよびrVIもまた有効であった。
【0098】
ペプチドT1およびT2は、Jurkat T細胞においてθPKCの細胞顆粒画分への輸送を阻害し得た。この相互作用の特異性を図11Aに示す(これは、θPKC V1ペプチド(T2)によるθPKC(βPKCではなく)の輸送の阻害を示す)。
【0099】
他のPKC領域由来の配列
V3領域。V3またはヒンジ領域は、調節ドメインおよび触媒ドメインに分かれる。この領域は、トリプシンおよびカルパインによるタンパク質分解部位を含む。異なるPKCアイソザイム間でV3ドメインの保存がないことは、この部分もまた、少なくとも一部、PKCアイソザイムのそれらのアンカータンパク質へのターゲティングに関与し得ることを示唆する。さらに、αPKCのV3内の領域は、そのアイソザイムの核への輸送を媒介することが示されている(James G.,およびOlson E.J.Cell Biol.116:863-873,1992)。θPKCのV3領域は、インビトロで、RACK1に結合することが見出された。従って、V3領域は、活性化されたアイソザイム(ここではV3領域が曝露されている)のターゲティングに影響を与えるだけでなく、タンパク質分解のための酵素感受性もまた制御し得た。θV3に対して作製された抗体では、fynは沈澱しなかった。このことは、V3上の同じ部位について競合していることを示唆する。
【0100】
V5。βPKCイソ型βIPKCおよびβIIPKCのアミノ酸配列は、V5領域内の可変部(βIPKCでは35アミノ酸およびβIIPKCでは38アミノ酸)を除いて同一である。活性化の際に、βIPKCおよびβIIPKCは、細胞中の異なる局在部位に輸送される(Disatnik M.-H.,Buraggi G.,Mochly-Rosen D.Exp.Cell Res.(1994)210:287-297)。ほぼ同一のイソ酵素の局在におけるこの違いは、それらのターゲティングの媒介におけるV5領域の重要性によって説明され得る。さらに、βIIPKCは、核膜タンパク質Iamin B1を選択的にリン酸化する増殖性刺激の際に、選択的に核に輸送されることが見い出された(Murray N.R.ら、J.Biol.Chem.(1994)269:1385-2191)。
【0101】
PKC関連タンパク質。遠縁のホモログはPKC-muと称されている。これは、N末端膜透過ドメインを有する点で通常でない。近年、2つの新規のプロテインキナーゼをコードするヒトcDNAがクローン化された。PRK1およびPRK2(プロテインキナーゼC関連キナーゼ1および2)と名付けられたこれらのタンパク質は互いに高い相同性を示し、そしてPKCの調節領域にいくらかの相同性を示す(Palmer R.H.ら、Eur.J.Biochem.(1995)227:344-351)。PKCの調節ドメイン内の配列が、PKCとそのアンカータンパク質との間の相互作用を担うので、PKCの調節ドメイン内の機能的に重要な配列に相同性を示すPRK1およびPRK2由来の配列は、おそらく生物学的に重要である。
【0102】
他のアイソザイム、および同じアイソザイム選択性/進化保存基準に適合する関連タンパク質に由来の配列は、以下を包含する:
PKCアイソザイム(ヒト)のV1領域由来のペプチド
【0103】
【表2】
PKCアイソザイム(ヒト)のV3領域由来のペプチド
【0104】
【表3】
PKCアイソザイム(ヒト)のV5領域由来のペプチド
【0105】
【表4】
プロテインキナーゼC関連タンパク質(ヒト)由来のペプチド
【0106】
【表5】
μPKC由来のμV1-1、μV1-2は、εV1-2およびθV1-2、ならびにθV1-1の一部のそれぞれと並置したので、それらを取り出した。λPKC由来のλV1-1およびλV1-2を、それらのεV1-2ならびにεV1-3およびθV1-2の一部のそれぞれとの並置に基づいて取り出した。ζPKC由来のζV1-1、ζV1-2、ζV1-3を、それらの以下との相同性に従って取り出した:εV1-2、θV1-2、およびεV1-3のそれぞれ。PRK1-1およびPRK2-2を、それらのβC2-1との相同性に従って同定した。PRK1-2およびPRK2-2を、それらの生物学的に活性なεPKC由来ぺプチドεV1-3、およびεV1-2の一部との相同性に従って同定した。PRK1-3およびPRK2-3を、それらのぺプチドεV1-5との並置に従って取り出した。
【0107】
ぺプチド配列を、MegAlign DNASTAR Inc.プログラムを用いて、ヒトPKC配列とヒトPRK1およびPRK2配列とを並置することによって生成した。その配列を、クラスター法を用いることによって並置した。演算は、すべてのペア間の距離を調べることによって、配列をクラスターにグループ化した。クラスターを最初は別々に、次いでまとめて並置させて、全体のアラインメントを作製した(Higgins D.G.ら、(1989).CABIOS 5(2):151-153)。アラインメントに対する行列は、PAM250であった(1残基あたり変異受要パーセント(percent accepted mutation)250−2.5変異)。この行列により高ストリジェンシーアラインメントのみが与えられる。
【0108】
実施例5
PKC-θコグネイトとしてのfyn
本実施例において、T細胞中のPKC-θに対するコグネイト結合パートナーとしての特定のタンパク質を同定する証拠を提供する。このタンパク質は、以前に公知でありそしてT細胞機能において重要な役割を果たすと考えられる、fynと呼ばれるチロシンプロテインキナーゼである。fynと相互作用するPKCドメイン由来のペプチドを用いる、PKC-θの局在化の破壊により、T細胞機能を抑制することを証明するための証拠が、さらに提供される。
【0109】
T細胞レセプター(TCR)複合体は、最小で、タンパク質のCD3およびCD4複合体を含み、これにいくつかのチロシンキナーゼが結合する。二次メッセンジャー(例えば、ジアシルグリセロールおよびイノシトール三リン酸)の発生に重要な、PLCγもまた、チロシンリン酸化の基質である。非レセプターチロシンキナーゼのうちZAP-70およびsrc関連タンパク質fynおよびlckが、CD3およびCD4とそれぞれ相互作用すると考えられ;別のチロシンキナーゼであるcskもまた、タンパク質のTCRスーパーコンプレックスと結合している。
【0110】
いくつかの報告において、fynは1%のCD3複合体中に含まれるだけである。しかし、特定のシグナル伝達エピソード間にのみ、細胞中に特定の場所に同様に存在する、他の局在因子(例えば、PKCに対するRACK1)について知られているものの状況から、一過性の結合は道理にかなっている。T細胞シグナリングにおけるfynの役割は、十分に証明されており、いくつかの実験条件下でTCRとも結合する、少なくとも半ダースの他のタンパク質との結合を含む(Penningerら、Immunol.Rev.135:183-214(1993))。fynとPKCとの結合は以前に観察されていない。
【0111】
fynがPKC-θと相互作用する証拠は、いくつかの独立したかつ相互に補助的な実験系から生じる。ほとんどの場合において、結合特異性を規定するために使用されるPKC-θの領域は、V1領域(約140アミノ酸)であった(これは、PKCの調節ドメイン由来であり、そしてこのアイソザイムに独特の配列である);いくつかの実験においてV3ドメインも使用した、図1。これらの領域と相互作用するタンパク質は、実施例1〜4において規定される基準を満たす。実施例1〜4に提供されるデータにおいて、RACK1は、T1またはT2ペプチド(V1領域に由来する)で部分的にブロックされ得る、PKC-θに対するある程度の結合を有することが示された。両方のペプチドはまた、シグナル伝達ネットワークのアクチベーターでの処理後の、PKC-θの通常の細胞下輸送を阻害し得た;後者の実験は、V1領域の重要性を示したが、生理学的に関連するコグネイト結合パートナーを同定するには十分でない。
【0112】
生理学的に関連するコグネイト結合パートナーを同定するために、Triton(非イオン性界面活性剤)細胞抽出物を、標準的な手順を用いて、Jurkat T細胞(ヒトT細胞リンパ腫株)から調製した。PKCに対する生理学的に関連するコグネイト結合パートナーが顆粒画分に結合し得るという以前の経験に基づくと、「Triton抽出物」は可溶性タンパク質およびいくつかの顆粒画分タンパク質の両方を含み、そして本明細書中でTriton抽出物という。V1-hisテイル構築物(6つのヒスチジン残基がV1のN末端に付着された)もまた操作された。6つのヒスチジン残基はニッケルアガロースアフィニティビーズに結合する。
【0113】
アフィニティ抽出培地としてこれらのビーズを使用して、V1領域を固定化し、そしてTriton抽出物とともにインキュベートした。洗浄(Eppendorfチューブ中での遠心分離による)後、結合タンパク質を、強力に変性するSDSゲルサンプル緩衝液で溶出した。溶出物をゲル電気泳動により分離し、そしてメンブランに移した後、fynは、fyn特異的抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)を用いて正確な分子量で検出可能であった。同じ分子量でのバンドもまた、ホスホチロシンに対する抗体(Transduction Laboratories,Lexington,KY)により検出した。関連するチロシンキナーゼであるcskに対する抗体は、PKCドメインに対するいかなる結合も示さなかった。
【0114】
PKC-θのV1/C1境界(アイソザイム特異的)領域に対して調製された抗体を使用して、Jurkat T細胞由来の抽出物の特定の画分からPKC-θおよび任意の結合タンパク質を免疫沈降した(4℃で一晩)。これらの結合されたタンパク質は、ゲル電気泳動により分離され、そしてメンブランにブロットされる。ブロットがホスホチロシンに対する抗体でプローブされた場合、fynのMWである59kDaで顕著なバンドを含むいくつかのバンドを同定した、図7A。反対に、別のfyn関連チロシンキナーゼであるlckのMWでのバンドは、適切な抗体でのプローブにより示されるように同定されなかった。共沈したタンパク質がfynであるという直接的な証拠は、市販のfynに対して調製された標識抗体での染色により提供された、図7B。特異性についてのコントロールとして、PKC-βに対する抗体を首尾良く使用して、このアイソザイムに対する公知のコグネイト結合タンパク質であるRACK1を共沈した;この場合、fynを共沈しなかった。
【0115】
fynの相互作用部分(subsequence)特異性を定義するために、改変された酵母ツーハイブリッドシステムを使用した(米国特許第5,283,173号、Vojtekら、Cell 74:205-214(1993))。PKC-θ V1およびfynの遺伝子配列を、相補する転写因子の半分に対する融合物としてクローニングした。使用する特定のシステムにおいて、2つのレポーター遺伝子は、2つのハイブリッドタンパク質間の結合の結果として活性になり、これにより、転写アクチベーターのホロ酵素状態を回復する。第1のレポーターは、増殖選択を可能にするヒスチジン栄養要求性修復酵素である;第2のレポーターは、β-ガラクトシダーゼであり、その活性を酵素的切断の後に青色になる基質X-galを用いて可視化し得る。コロニーの視覚的検査は、強い(2時間以内に完全に発色)、弱い(12時間まで)、なし(24時間でシグナルなし)のような相互作用のスコア付けを可能にする。液相アッセイはまた、定量的データを提供し得る。Miller,J.H.Experiments in Molecular Genetics(1972)Cold Spring Harbor Laboratory Press。
【0116】
従って、fynの触媒ドメインおよび調節ドメインは、PKC-θのV1領域に対する結合パートナーとして別々に試験される。触媒ドメインは強力なシグナルを与え、そして調節ドメインは中程度のシグナルを与える。各ドメインが安定な構造に等しく十分に折り畳むかどうかは知られていない。なぜなら、この差異は、fynのどの部分がV1に対する最も良好な結合を有するかについて決定的ではないからである。PKC-θのV3領域はまた、fyn調節および触媒ドメイン構築物に対して試験された;両者は、his選択により測定されるように、強い相互作用を示す全てのβ-ガラクトシダーゼ実験と相互作用する。従って、PKC-θは、V1領域に対する抗体を用いる共沈実験とは対照的に、実質的な接触表面を超えてfynと相互作用するようである。これらの実験において、V3領域に対する抗体は、fynを免疫沈降しなかった。これは、V3抗体およびfynが同じ部位に部分的に結合していることを示唆する。
【0117】
従って、図8は、試験されるべきfynペプチドが(VP16転写因子の)ポリメラーゼ活性化ドメインをコードするDNAに融合され、そしてPKC-θタンパク質の関連する部分が転写因子(LexA)のDNA結合領域に融合される、ツーハイブリッドアッセイの結果を示す。β-ガラクトシダーゼは、この図における結果のためのレポーター遺伝子として使用された。
【0118】
図8Aは構築物を示し、そして図8Bはその結果を要約する。全長fynに加えて、fynの1-259位により示される調節領域は、259-534位由来のキナーゼ領域と同様に、PKC-θのV1およびV3領域と強く相互作用する。1-143位を示すfynΔSH2は、相互作用はなお存在するが、両方のV1との減衰された相互作用を示す。1-88位を示すペプチドは、PKC-θ V3と弱く相互作用するのみであり、そしてV1と相互作用しないようである。88-143位(SH3)および143-259位(SH2)間とPKC-θ V1との弱い相互作用のみが観察された。
【0119】
他のタンパク質と比較して、PKC-θ V1とfynドメインとの相互作用の特異性を試験するために、fyn部分を組み込むツーハイブリッドシステム構築物を、類似ベクターにおいて、マウスT細胞から調製された大過剰のランダムcDNAクローンに希釈した。キナーゼドメインについて、ランダムにひろわれた12個のポジティブクローンのうち10個は、ライブラリーにスパイクされた(spiked)fyn構築物であった;調節ドメインについて、6個のうち3個は、スパイクされたfyn構築物由来であった。他のポジティブクローンを、実施例8にさらに記載する。最も密接に関連したアイソザイムであるPKC-ΔのV1領域を用いる類似構築物はfynに結合しないようであるので、PKC-θとfynとの相互作用は特異的であるようである。
【0120】
図9は、本実施例において検出されたfynスプライス改変体であるp59 fynの図および配列を示す。PKCは、活性化の際に両方曝露される2つのfynドメイン間の界面で結合することが可能である。PKCコンセンサスリン酸化部位を、ATP結合コンセンサス部位の一部としても高スコアをつける短いストレッチ配列において、トレオニン297が中心にあるfynの一次配列内で同定した。fynは別のスプライシング形態を有することが知られる;T細胞に見出される形態は、コンセンサスPKC部位を含むが、この部位はT細胞に独特ではない。興味深いことに、ATPのJurkat T細胞抽出物への添加は、免疫沈降により測定されるように、PKC-θおよびfynの結合を低下させる。これは、2つのタンパク質間の生理学的相互作用をさらに示唆する。PKCコンセンサス部位に対するより弱い基準により、fynは、13個のさらなる潜在的なリン酸化部位を有する。最後に、PKCは、V1領域において5つのチロシン残基が存在するので、fynの基質である可能性がさらにある;チロシン-36はこの点について特に適切であるようである。
【0121】
発見された第1のPKCコグネイト結合タンパク質である、RACK1は、C末端に向かって保存されたWD対を有する約40個のアミノ酸の配列の複数のタンデムコピーを有することにより特徴づけられ、WD40ファミリータンパク質の明らかなメンバーである。Fynはまた、独特な領域の中間で始まりそして触媒ドメインの始めで終わる、弱いWD40相同性(アミノ酸 51-270)を有する3つの反復を有する。より詳細なレベルにおいて、RACK1は、fynと、その調節ドメインおよび触媒ドメインの両方においていくつかの他の短い相同配列を共有する。
【0122】
3つのオルタナティブスにプライシングされたヒトfyn形態間の配列改変体は、アミノ酸 242-270間(調節ドメインの終わりおよび触媒ドメインの始め、これはN末端の第3のWD-40反復を含む)で見出される。興味深いことに、WD-40モチーフのランドマークは、S-253、KD-257-258、およびWEV 260-262を含む、全てのオールタナティブスプライシング形態において保存される。
【0123】
fynはSH3ドメインを有するので、他のこのホモログは、プロリンリッチドメインを結合することが知られており、PKC-θが、V3領域の実質的な部分を担う、約50残基の中程度にプロリンリッチな領域を有する(10個のプロリンを含む)ことは注目すべきことである。V3領域に対する抗体は、fynを免疫沈降しなかった。これは、抗体およびfynが同じ部位で部分的に結合することを示唆する。これらの結果は、V3領域がツーハイブリッドシステムにおいてポジティブな結果を与えるので決定的ではない。最も密接に関連するアイソザイムPKC-δを含む、大部分の他のPKCアイソザイムは、プロリンリッチ領域を含まない。中程度にプロリンリッチなドメインが見出される唯一の他のアイソザイムは、全体的にほとんどPKC相同性を有さないクラスの最近記載されたメンバーであるPKC-μである。
【0124】
本発明者らはまた、図10Aに示されるようにPKC-θ輸送をブロックする(従ってコグネイト局在因子との結合をブロックする)、T2ペプチドは、活性化されたJurkat T細胞からのIL-2産生の測定可能な抑制を引き起こすことを観察した、図10B。
【0125】
要約すると、fynがT細胞におけるPKC-θの生理学的に関連する結合パートナーであることを示す証拠の重要な独立した系は以下のようである:(i)アフィニティ結合態様における、PKC-θ可変ドメインが細胞抽出物からfynを引き寄せる;(ii)PKC-θ可変ドメインに対する抗体が、細胞抽出物由来のPKCとfynとの複合体を免疫沈降する;(iii)PKC-θ可変ドメインおよびfynは、酵母ツーハイブリッドシステムにおいて相互作用する。全ての場合において、密接に関連するタンパク質を用いる適切なコントロールにより、相互作用の特異性が示される。
【0126】
コグネイト結合タンパク質の存在は、それらの同定のための方法および薬物発見におけるそれらの有用性を有するとして、以前に記載されている(例えば、Fields、米国特許第5,283,173号および米国特許第5,352,660号を参照のこと)。PKC-θのパートナーとしてのfynの実際の同定を、このような当該分野で公知の方法において使用して、fyn/PKC-θ相互作用をブロックする化合物を同定および単離することが今や可能である。このような因子を使用して、fyn/PKC-θ結合により媒介される生物学的活性を調節し得る;これらは、免疫系に関連する活性を含む。
【0127】
実施例6
指標としてPKC-θ輸送を用いる免疫調節化合物についてのアッセイ
輸送を評価するために、適切な細胞、好ましくは非形質転換ヒトT細胞を、106/mlの密度まで培養し、次いでサイトカインを含まない培地中で一晩インキュベートする。10ミリリットルのアリコートを、各アッセイに使用する。
【0128】
試験されるべき物質を、適切なサンプルに添加し、そして37℃で15分間インキュベートする。次いで、PKC-θの輸送を刺激することが知られている物質を添加する:典型的には、20〜80nMのPHA±1μg/mlのPHAが添加され、そして培養物を37℃で15分間インキュベートする。
【0129】
インキュベーション期間の後、サンプルを10分間1000rpmでスピンし、そして細胞ペレットを冷PBSで洗浄する。次いで、細胞をホモジナイゼーション緩衝液中に再懸濁し、そして超音波処理する。次いで、それらを30分間55000rpmで遠心分離して上清サイトゾル画分を得、そしてペレットを27ゲージ針を用いてホモジナイゼーション緩衝液中に再懸濁して顆粒画分を得る。次いで、総タンパク質の標準化の後、上清および顆粒画分のそれぞれにおけるPKCの含有量を、SDS-PAGEおよび適切な抗体を用いる検出を用いて決定した。
【0130】
図11は、抗PKC-θ抗体(図12A)または抗PKC-β抗体(図12B)で染色した、可溶性画分および顆粒画分のSDS-PAGEの結果を示す。示されるように、PKC-βは、刺激されていない細胞における可溶性画分において本質的に全て存在し、一方、PKC-θは、これらの2つの画分間に幾分均等に分布する。おそらく、これは、これらの細胞の増殖は添加されたサイトカインの存在を必要とするので、T細胞の部分的な活性化をもたらし得る場合である。例えば、一晩、培地中のサイトカインを取り除いた場合、可溶性画分中のPKC-θのレベルは増加する。いずれの場合でも、PKC活性化を直接的に引き起こす、PMAまたはPMA/PHAの組合せのいずれかの刺激の後、PKC-θおよびPKC-βの両方は、顆粒画分に輸送される。しかし、T細胞レセプターのCD3成分と免疫反応する抗体である、OKT-3で刺激(これは、より焦点を合わせた生理学的に基づく活性化を提供する)すると、PKC-θを輸送するが、PKC-βは輸送しない。特異的にPKC-θの輸送をもたらすOKT-3の能力は、T細胞レセプター媒介性刺激の伝達におけるPKC-θの関与のさらなる証拠である。
【0131】
免疫系モジュレーターを同定するためのアッセイとしての前記の使用を図12に示す。上記のように行われるアッセイにおいて、細胞を、最初に20μMの候補化合物TER14687とインキュベートする。図12に示すように、OKT-3またはPMA/PHAのいずれかを刺激剤として使用した場合、TER14687は、PKC-θの顆粒画分への輸送を阻害し得た(OKT-3を用いて行われたアッセイは、上記の15分間よりむしろ、1時間のOKT-3とのインキュベーションを含んだ。)
TER14687はまた、休止T細胞における可溶性画分中のPKC-θの割合を増加させることが示された。T細胞は、一般的に、外因的に添加されたサイトカインの存在下で増殖され、従って部分的に活性化された状態にある。サイトカイン刺激を一定期間の間やめる場合、可溶性画分中のPKC-θ濃度は通常増加する。従って、TER14687は、休止状態への衰退を促進する。
【0132】
PKC-θ/コグネイト相互作用に対するTER14687の効果もまた、TER14687が、T細胞のOKT-3刺激後の21kDタンパク質のチロシンリン酸化を妨げることを示すことより証明し得る。ここでAbを用いたホスホチロシンへのリン酸化を直接測定した以外は、前記のプロトコルに従った。このリン酸化は、T細胞活性化の公知の下流事象である。
【0133】
実施例7
結合により指標付けされる調節についてのアッセイ
内因性PKCコグネイトを可視化するために、T細胞タンパク質をSDSゲル電気泳動により分離し、そしてニトロセルロースメンブランに移す。従って、多数のタンパク質を、ニトロセルロース上に分布させる。次いで、ニトロセルロースを、PKC-θとともにインキュベートし、そして洗浄し、そして結合したPKC-θを標識抗PKC-θを用いて可視化する。PKC-θタンパク質を、バキュロウイルス発現系(Invitrogen,San Diego,CA)を用いてSf9昆虫細胞により産生した。PKCを活性化する公知の物質の非存在下で、バンドは本質的に現れない。PKCアクチベーターの存在下で、多数のバンドを示した。これらのバンドのうちいくつかは、真の内因性コグネイトであり得る;その他は、ニトロセルロースメンブランに移されたタンパク質に特有の変性状態におけるコグネイト結合能力を模倣し得る。このように、これらのタンパク質は、内因性コグネイトの代用物である。
【0134】
ブロット上でのPKC-θインキュベーション間のTER14687の存在下で、結合が減衰され、従って、コグネイト結合の際のTER14687の調節効果を示す。
【0135】
TER14687に加えて、fynの調節領域由来の以下のペプチドを試験した:fyn2(図9において下線を付けた残基111-118を示す)は、fynに対するPKC-θ結合の部分的阻害を示した;およびfyn3(図9において下線を付けた残基188-195)は、PKC結合の完全な阻害を示した。fyn2およびfyn3は、WD40反復と相同性を示す、fynの一部に由来する。さらなるペプチドであるfyn1は、結合を阻害し得なかった;このペプチドは、図9に示されるペプチドとは異なるfynスプライス改変体に由来した。別の不活性ペプチドは、fyn4(触媒ドメイン由来の残基441-449を示す)であった。
【0136】
実施例8
酵母ツーハイブリッドシステムにより同定されるさらなるコグネイト
本明細書中上記の実施例5に記載される、ペプチド/ペプチド結合を検出するための細胞内方法を使用して、a)PKC-θに結合するさらなるペプチドを見出し、そしてb)PKC-θとそのコグネイトとの相互作用に対する候補物質の効果についてのアッセイ系を提供した。
【0137】
第1に、酵母ツーハイブリッドシステムを使用して、PKC-θと相互作用するペプチドをコードするcDNAを検索した。
【0138】
このアプローチにおいて、キナーゼに融合したポリメラーゼ活性化ドメインまたはfynの調節ドメインを含むプラスミドを、1:500の割合でマウスT細胞株HT2由来のcDNAライブラリーを含む類似のベクターと混合した。DNA結合ドメインに融合したPKC-θ V1を含むプラスミドを有する酵母を、通常のプロトコルの1/10で、このプラスミドの混合物を用いて形質転換した。酵母を、プラスミド(THULL)プレートの存在について選択する培地上に播種し、そしてフィルターリフト上でβ-ガラクトシダーゼについてアッセイした。ポジティブクローンをTHULLグリッド上でひろい、次いで再試験した。DNAをポジティブのままであったコロニーから抽出し、次いで5'および3'のプラスミドベースのポリリンカー隣接プライマーを用いて増幅し、そして産物を、プローブとしてfynを用いてサザンブロットにより分析した。
【0139】
fynキナーゼドメインをcDNAライブラリーに混合した場合に見出された12個のポジティブクローンのうち、10個はfynキナーゼ自身であった。しかし、2個はfyn由来の配列以外の配列を含んだ。
【0140】
cDNAライブラリーを、fyn調節ドメインと混合した場合、混合物から得られた6個のポジティブクローンのうち、3個はfyn以外の配列を含んだ。3個のうち2個(2-10および2-40と称する)は、同一のヌクレオチド配列を有するが、任意の公知の配列およびその他で同定されなかった。2-32は、最近単離されたヒト遺伝子ELLのマウスホモログであるようである。2-10および2-40におけるcDNA挿入物は、いくつかの潜在的なジンクフィンガーモチーフを有する、これまでに知られていない335個のアミノ酸ペプチドをコードするオープンリーディングフレームを有する1083塩基対を含んだ。このcDNAは、ノザンブロットにより示されるように、リンパ系組織に存在する2.4kD転写物ならびに心筋および骨格筋に存在する6kD転写物とハイブリダイズする。
【0141】
クローン2-10および2-32の両方は、液体β-galにおいて試験した場合、上記のツーハイブリッドシステムにおいてPKC-θ V1と相互作用し得た。PKC-θ V1を欠く、親酵母株L40に形質転換された場合、レポーターアッセイにより活性化は観察されず、θ V1をδ V1または関連しないタンパク質ラミンに置き換えた場合もまた、活性化は観察されなった
。
【0142】
同じアッセイを用いて、PKC-θ V1とfynとのまたはクローン2-10および2-32のいずれかとの相互作用に対するTER14687の効果を試験した。このアッセイにおいて、上記のツーハイブリッドシステムを含む酵母を、40μM TER14687またはDMSO中のコントロール化合物を含む1ml THULLに1:10希釈で接種した。種々の他のコントロールをインキュベートした;例えば、TER14687は、転写因子(LexA/E2A)を共有結合形態で供給する場合、レポーター遺伝子の発現を阻害しなかった。生成されたβ-ガラクトシダーゼの活性を420nmでODとして測定した。TER14687は、図13に示すように、θ V1のfynへの結合または2-10および2-32から生成された代用コグネイトへの結合を驚くほど減衰した。
【0143】
さらに、明らかなコグネイトタンパク質をコードするいくつかのクローンを、いくつかの酵母ツーハイブリッドプロトコルを用いて、ヒトのCD4+T細胞cDNAライブラリーから得た。cDNAライブラリーを、ドナー血液から単離したT細胞を用いて構築し、そして105〜5×106個の独立クローンで評価された複雑さを有した。スクリーニングされた1.4×107個のクローンから、63個が二次βGALフィルターリストアッセイ後、ポジティブなままであった。
【0144】
これらのクローンのうち39個は、同一の配列およびほぼ同じcDNA挿入物サイズを有するようである。配列は、オープンリーディングフレームを含み、そしていずれのデータベース配列とも適合しない、明らかに部分的な配列である。これらのクローンのうちの1つであるNo.10を、酵母ツーハイブリッドシステムで再試験した。そしてθV1を結合するが、δV1もラミンも結合しないことが見出された。
【0145】
さらに、このライブラリーからの2個のクローン、1-22および1-23は、ヒト伸長因子1-γと配列を共有する。1-23は1-22と重複するが、両者とともに部分的な配列である。両者は、酵母ツーハイブリッドアッセイにおいてθV1と特異的に結合する。
【0146】
1つのさらなるクローンである2-18はまた、酵母ツーハイブリッドアッセイにおいてθV1に対して特異的な結合を示し、そしてc-abl形質転換を阻害する、SH3含有c-abl結合タンパク質と高い相同性を示す。U17698マウス ab1 philin-1は、89%の相同性である;U31089ヒトAbl結合タンパク質3は、94%の相同性である;そしてU23435ヒトAbl interactor 2は、88%相同性である。
【0147】
2つのさらなるクローンを、類似の様式で得た。クローン2-20は、ヒト伸長因子2に適合する部分的なcDNAとして729bpを含む。クローン3-1は、HSV1トランスデューシング因子αに対して高い相同性を有する839bpを含む。
【0148】
クローン2-10、2-32、No.10、1-22、2-18、2-20、および3-1のヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を、図15に示す。
【0149】
実施例9
PKC-θ活性化とアレルギー反応との関連
ヒトT細胞株であるTT7.5を、滴定チミジンアッセイを用いて増強された増殖により示されるように、10μg/mlで、組織培養プレート上にコートされたOKT3を用いて生理学的に活性化する。活性化はまた、適切なELISAにおいてアッセイされるように、インターフェロン-γ、インターロイキン4および5の増強された分泌により特徴づけられるが、IL-2の増強された分泌により特徴づけられない。このパターンは、Th2様細胞を特徴づける。Th2細胞は、IL-4およびIL-5の免疫調節効果を介するアレルギーを媒介することが示されており、従って、アレルギーを媒介するにおいてT細胞機能のインビトロモデルとして使用され得る。
【0150】
上記に示したように、T細胞株(TT7.5細胞を含む)のOKT3刺激により、PKC-θが輸送される。コグネイトとのPKC-θ相互作用の尺度としてサイトカイン産生を用いる類似のアッセイにおいて、OKT3活性化の間に投与されるTER14687は、図14に示されるように、IL-4およびIL-5の産生を阻害するが、インターフェロンγの誘導される産生を阻害しない。このサイトカイン産生のパターンは、IgEおよび好酸球産生の刺激の減少に関連する。同様な結果がTh2-様T細胞株TT3.6で得られる。Th1型細胞株(TT6.4)において、TER14687は、OKT3により誘導されるIL-2産生を阻害するが、インターフェロン-γ産生を阻害しない。
【0151】
TER14687はまた、一晩のOKT3刺激の後、TT7.5細胞における、T細胞活性化の表面マーカー(例えば、CD69、CD25およびCD40L)の発現を強力に阻害する。CD69は、活性化されたT細胞で排他的に発現され、CD25は、活性化されたT細胞において発現される低親和性IL-2レセプターであり、そしてCD40Lは、活性化されたT細胞でもまた排他的に発現されるCD40のリガンドである。これらのマーカーを、適切に標識した蛍光抗体およびフローサイトメーターを用いてアッセイした。
【0152】
類似の結果を、OKT3よりむしろPMAによる活性化の後にJurkat細胞において得た。50μM fyn2ペプチドの存在下で、CD69の増強された発現が減少される。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、種々のPKCイソ酵素ファミリーの公知の一般的な一次配列およびドメインを図解的に示す。
【図2】図2は、PKCにより媒介される心筋細胞の収縮への効果が、εPKCの調節ドメインのフラグメントにより阻害されるが、しかしδPKCの対応するフラグメントによっては阻害されないことを実証する実験の結果を示す。
【図3】図3は、心筋細胞の収縮率への、εPKCの調節ドメインにおけるRACK結合部位に由来する8アミノ酸ペプチドの特異的効果を示す。βPKCに由来する類似のペプチドは何の効果も有さない。
【図4】図4は、Xenopus卵母細胞の成熟への、βPKCのRACK結合部位に由来するペプチドの特異的効果を示す。
【図5】図5は、Xenopus卵母細胞のPKCに媒介される成熟への、RACK1に由来するペプチドの効果を示す。
【図6】図6は、インビトロでのθPKC V1フラグメントのRACKへの結合に対する種々のペプチドの効果を示す。
【図7】図7は、PKC-θのV1/C1境界領域に対して惹起された抗体を用いて沈降したタンパク質に対して行なったゲル電気泳動から得、そしてホスホチロシンおよびfynに対する抗体でプローブしたブロットの写真複写である。
【図8】図8は、酵母ツーハイブリッドシステムにおいて用いられたfynの領域および得られた相互作用を示す。図8では、++は強力な相互作用(<2時間で発色)であり、+は弱い相互作用(12時間以内で発色)であり、そして−はヌル(null)相互作用(24時間で発色なし)である。Uはfynのユニーク配列部分をいい;SH3およびSH2は、src相同性ドメインであり;キナーゼは保存されたチロシンプロテインキナーゼ触媒ドメインである。
【図9】図9は、fyn中に存在する配列モチーフ(WD40反復、より小さなRACK1相同性、および最も保存されたコンセンサスPKCリン酸化部位を含む)の詳細なマップを示す。
【図10】図10Aおよび10Bは、PKC-θのV1領域由来のT2ペプチド(アミノ酸36〜46)が、PMA/PHAでのJurkat T細胞の活性化後の、可溶性画分から顆粒画分へのPKC-θの輸送を減少させるが、しかしPKC-βの輸送は減少させないことを示す(図10A);ペプチドは、Jurkat T細胞において培地から自発的に取り込まれる。平行実験では、T2ペプチドは、刺激された細胞由来の上清においてELISAにより測定すると、IL-2の発現を減少させる(図10B)。
【図11】図11Aおよび11Bは、PKC-θおよびPKC-βの輸送への種々の薬剤による活性化の効果を示す、ブロットの写真複製である。
【図12】図12は、PKC-θ輸送へのTER14687の効果を示すブロットの写真複製である。
【図13】図13は、ツーハイブリッドシステムアッセイを用いた、TER14687の非存在下または存在下における、PKC-θ V1への、fynキナーゼドメインおよび2つの代理物(クローン2-10および2-32)によりコードされるペプチドの結合の結果を示す。
【図14】図14は、抗CD3により誘導される、IL4、IL5、およびγIFNの産生へのTER14687の効果を示す。
【図15A】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【図15B】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【図15C】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【図15D】図15は、クローン2-10、2-32、#10、1-22、2-18、2-20、および3-1についての、ヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
候補分子のライブラリーからシグナル生成タンパク質により媒介される細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法。
【請求項2】
候補分子のライブラリーからεPKCイソ酵素により媒介される細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法であって、以下の工程:
該εPKCイソ酵素またはそれに由来するペプチド、およびパートナーコグネイトであって、触媒的に活性な該εPKCイソ酵素に、該PKCイソ酵素または該コグネイトに由来するペプチドの非触媒部位を介して特異的に結合する、コグネイト、を含む環境を提供する工程;
該環境に候補物質を添加する工程;
該候補の存在下および非存在下で、該PKCイソ酵素またはそれに由来するペプチドと該コグネイトまたはそれに由来するペプチドとの相互作用を決定する工程;
該候補の存在下および非存在下での該相互作用を比較する工程;
を包含し、ここで、該相互作用を調節する候補は、細胞内シグナル伝達のモジュレーターとして同定され、そして
該決定する工程が、該コグネイトまたは該PKCイソ酵素の純度に依存しない条件下で行われる、方法。
【請求項3】
前記パートナーコグネイトが、以下の工程:
(a)細胞内成分および/または膜結合レセプターの抽出物を調製する工程;
(b)該細胞内成分および/または膜結合レセプターを固体支持体上で分離して、該支持体上の多数の位置において多数の該成分および/またはレセプターを得る工程;
(c)該固体支持体を前記PKCイソ酵素またはそのフラグメントでプローブする工程;ならびに
(d)該PKCイソ酵素を結合する、該支持体上の少なくとも1つの成分またはレセプターを同定して、該コグネイトを同定する工程、
を包含する方法により同定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞内成分および/または膜結合レセプターが、工程(b)の分離の前にタンパク質分解に供され;そして/または
前記PKCイソ酵素またはフラグメントが放射性標識されるか、蛍光標識で標識されるか、もしくはビオチン標識で標識されるか、または抗体もしくはそのフラグメントにより検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記相互作用が、
Xenopus卵母細胞の成熟;
インデューサーによる心筋細胞における陰性周期変動の誘導;
レポーター遺伝子の転写;および
触媒的に活性なPKCイソ酵素の細胞下輸送、
から選択される代謝効果をもたらす、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
以下の工程、
組換え宿主細胞において、
レポータータンパク質の第1の部分をコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、前記PKCイソ酵素またはそれに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現系であって、ここで該第1の部分それ自体は該レポータータンパク質の検出可能な特性を有さない、第1の発現系、および
前記コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、該レポータータンパク質の第2の部分をコードするヌクレオチド配列を含む第2の発現系であって、ここで、該レポータータンパク質の第1および第2の部分が物理的に近接している場合に、該レポータータンパク質の特性が示される、第2の発現系を提供する工程;ならびに
該第1および第2の発現系を同時発現し、これにより該PKCイソ酵素またはそれに由来するペプチドに結合する該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドの発現が、前記ライブラリーの前記候補分子の存在下および非存在下において、該レポータータンパク質の特性の提示をもたらす工程;ならびに
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを測定する工程;
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを比較する工程;
を包含し、
ここで、該候補分子の非存在下に対しての、存在下でのレポータータンパク質のレベルの増大または減少が、前記モジュレーターとして該候補分子を同定する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記PKCイソ酵素に由来するペプチドが、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項1】
候補分子のライブラリーからシグナル生成タンパク質により媒介される細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法。
【請求項2】
候補分子のライブラリーからεPKCイソ酵素により媒介される細胞内シグナル伝達のモジュレーターを同定する方法であって、以下の工程:
該εPKCイソ酵素またはそれに由来するペプチド、およびパートナーコグネイトであって、触媒的に活性な該εPKCイソ酵素に、該PKCイソ酵素または該コグネイトに由来するペプチドの非触媒部位を介して特異的に結合する、コグネイト、を含む環境を提供する工程;
該環境に候補物質を添加する工程;
該候補の存在下および非存在下で、該PKCイソ酵素またはそれに由来するペプチドと該コグネイトまたはそれに由来するペプチドとの相互作用を決定する工程;
該候補の存在下および非存在下での該相互作用を比較する工程;
を包含し、ここで、該相互作用を調節する候補は、細胞内シグナル伝達のモジュレーターとして同定され、そして
該決定する工程が、該コグネイトまたは該PKCイソ酵素の純度に依存しない条件下で行われる、方法。
【請求項3】
前記パートナーコグネイトが、以下の工程:
(a)細胞内成分および/または膜結合レセプターの抽出物を調製する工程;
(b)該細胞内成分および/または膜結合レセプターを固体支持体上で分離して、該支持体上の多数の位置において多数の該成分および/またはレセプターを得る工程;
(c)該固体支持体を前記PKCイソ酵素またはそのフラグメントでプローブする工程;ならびに
(d)該PKCイソ酵素を結合する、該支持体上の少なくとも1つの成分またはレセプターを同定して、該コグネイトを同定する工程、
を包含する方法により同定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞内成分および/または膜結合レセプターが、工程(b)の分離の前にタンパク質分解に供され;そして/または
前記PKCイソ酵素またはフラグメントが放射性標識されるか、蛍光標識で標識されるか、もしくはビオチン標識で標識されるか、または抗体もしくはそのフラグメントにより検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記相互作用が、
Xenopus卵母細胞の成熟;
インデューサーによる心筋細胞における陰性周期変動の誘導;
レポーター遺伝子の転写;および
触媒的に活性なPKCイソ酵素の細胞下輸送、
から選択される代謝効果をもたらす、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
以下の工程、
組換え宿主細胞において、
レポータータンパク質の第1の部分をコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、前記PKCイソ酵素またはそれに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む第1の発現系であって、ここで該第1の部分それ自体は該レポータータンパク質の検出可能な特性を有さない、第1の発現系、および
前記コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドをコードするヌクレオチド配列と同じリーディングフレーム内に、該レポータータンパク質の第2の部分をコードするヌクレオチド配列を含む第2の発現系であって、ここで、該レポータータンパク質の第1および第2の部分が物理的に近接している場合に、該レポータータンパク質の特性が示される、第2の発現系を提供する工程;ならびに
該第1および第2の発現系を同時発現し、これにより該PKCイソ酵素またはそれに由来するペプチドに結合する該コグネイトまたはコグネイトに由来するペプチドの発現が、前記ライブラリーの前記候補分子の存在下および非存在下において、該レポータータンパク質の特性の提示をもたらす工程;ならびに
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを測定する工程;
該ライブラリーのそれぞれの該候補分子の存在下および非存在下における該レポータータンパク質のレベルを比較する工程;
を包含し、
ここで、該候補分子の非存在下に対しての、存在下でのレポータータンパク質のレベルの増大または減少が、前記モジュレーターとして該候補分子を同定する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記PKCイソ酵素に由来するペプチドが、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【公開番号】特開2009−65977(P2009−65977A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293795(P2008−293795)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【分割の表示】特願2006−310801(P2006−310801)の分割
【原出願日】平成8年10月10日(1996.10.10)
【出願人】(599108976)ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・レランド・スタンフォード・ジュニア・ユニバーシティ (61)
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE LELAND STANFORD JUNIOR UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【分割の表示】特願2006−310801(P2006−310801)の分割
【原出願日】平成8年10月10日(1996.10.10)
【出願人】(599108976)ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・レランド・スタンフォード・ジュニア・ユニバーシティ (61)
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE LELAND STANFORD JUNIOR UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
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