説明

細胞シートの搬送方法

【課題】経口的あるいは経肛門的に細長い体腔内を経由して細胞シートをその接着面を他の部位に接着させることなく患部に到達させることを可能とする。
【解決手段】接着面1aを半径方向内方に向けて筒状に丸めた細胞シート1をチューブ4内に配置し、内視鏡の挿入部2に設けられたチャネル3を介して体腔内に挿入する細胞シート1の搬送方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シートの搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、瘢痕性角結膜症等の中度または重度の角膜疾患等の治療のために培養上皮細胞シートが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。また、火傷等の皮膚損傷を治療するために、火傷により死滅した表皮を除去し、除去された部分をマスキングするために細胞シートが用いられている(例えば、特許文献2参照。)。これらの細胞シートは、患者本人の正常な細胞を採取して培養することにより製造されるものであるため、免疫拒絶反応等の問題がないという利点がある。
【0003】
また、特許文献2においては、細胞シートの製造方法として、温度応答性ポリマーにより表面を被覆した培養容器を用いる方法が開示されている。温度応答性ポリマーは、温度により疎水性から親水性に急激に変化する性質を有し、例えば、37℃での培養時には、疎水性を呈して、接着性の細胞を接着状態に維持して成長を促進し、剥離させるときには、例えば、20℃程度に冷却することにより、親水性に変化させ、培養容器から細胞を容易に剥離させることができる。
【0004】
温度応答性ポリマーを使用することにより、従来トリプシン等のタンパク質分解酵素を用いて剥離させていた場合と比較すると、細胞に与える損傷が少なく、健全な状態の細胞シートを製造することができるという利点がある。
そして、このようにして剥離された細胞シートは、培養容器の底面に設けられた温度応答性ポリマーの作用により剥離されたものであるため、細胞自体の接着性に変化はなく、剥離された後は、培養容器に接着していた面を接着面として患部に貼り付けマスキング等に利用することができる。
【特許文献1】特開2002−331025号公報
【特許文献2】国際公開第02/10349パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した角膜疾患の治療や、火傷時の皮膚の治療等のように、人体の外部に露出する部位の治療に際しては、上記細胞シートの接着面が他の部位に接着しないように広げたままで、容易に患部に配置することができるが、例えば、食道、胃あるいは腸の内壁に形成された潰瘍や、内視鏡的に粘膜が切除された部位に細胞シートを配置するには、経口的あるいは経肛門的に細長い体腔内を経由して細胞シートを挿入していく必要があり、細胞シートの接着面自体を他の部位に接着させることなく患部に到達させることが困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、経口的あるいは経肛門的に細長い体腔内を経由して細胞シートをその接着面を他の部位に接着させることなく患部に到達させることを可能とする細胞シートの搬送方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する
本発明は、接着面を半径方向内方に向けて筒状に丸めた細胞シートをチューブ内に配置し、内視鏡の挿入部に設けられたチャネルを介して体腔内に挿入する細胞シートの搬送方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、接着面を半径方向内方に向けて筒状に丸めることにより、細胞シートがチューブの内壁面に接着することなく収容状態に保持される。したがって、チューブ内に収容した細胞シートを内視鏡の挿入部に設けたチャネルを介して体腔内に容易に搬送することができる。
【0009】
また、本発明は、円形に整形した細胞シートの接着面の外周部に、所定の厚さを有する生体親和性材料からなる管状のスペーサを接着した細胞シート部材をチューブ内に配置し、内視鏡の挿入部に設けられたチャネルを介して体腔内に挿入する細胞シートの搬送方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、細胞シートの接着面外周部に管状のスペーサを接着した細胞シート部材とすることにより、細胞シートをチューブの内壁面に接着させることなく収容状態に保持することができる。したがって、チューブ内に収容した細胞シートを内視鏡の挿入部に設けたチャネルを介して体腔内に容易に搬送することができる。
【0011】
また、本発明は、細胞シートの接着面に、温度により親水性と疎水性とが切り替わる温度応答性を有する温度応答性部材を接着させた状態で、内視鏡の挿入部に設けられたチャネルを介して体腔内に挿入する細胞シートの搬送方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、細胞シートの接着面に温度応答性部材を接着させた状態とすることにより、細胞シートの接着面を周囲の体腔内壁等に接着させることなく内視鏡の挿入部に設けられたチャネルを介して体腔内に容易に搬送することができる。
【0013】
上記発明においては、前記温度応答性部材が、シート状であることとしてもよい。
このようにすることで、細胞シートを皺寄せることなく広げた状態で搬送することが可能となり、患部への接着作業を容易にすることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記温度応答性部材が、変形可能な部材により構成されていることとしてもよい。
このようにすることで、口や肛門から患部近傍までの狭隘な体腔内においては細胞シートを接着させた温度応答性部材を細く変形させることにより、体腔内を容易に搬送することができる。また、患部近傍において温度応答性部材を広げるように変形させることにより、細胞シートを広げることが可能となり、患部への接着作業を容易にすることができる。
【0015】
さらに、上記発明においては、前記温度応答性部材が、形状記憶アクチュエータを備えることとしてもよい。
このようにすることで、形状記憶アクチュエータに温度変化を与え、簡易に所望の形態に変形させることができる。形状記憶アクチュエータとしては、形状記憶合金あるいは形状記憶ポリマーが挙げられる。
【0016】
また、上記発明においては、前記温度応答性部材が、メタルステントであることとしてもよい。
このようにすることで、口や肛門から患部近傍までの狭隘な体腔内においては細胞シートを接着させたメタルステントを細く変形させることにより、体腔内を容易に搬送することができる。また、患部近傍においてメタルステントを広げるように変形させることにより、細胞シートを広げることが可能となり、患部への接着作業を容易にすることができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記温度応答性部材が、バルーンであることとしてもよい。
このようにすることで、口や肛門から患部近傍までの狭隘な体腔内においては細胞シートを接着させたバルーンを収縮させることにより、体腔内を容易に搬送することができる。また、患部近傍においてバルーンを膨張させることにより、患部に適した形状に細胞シートを広げ流ことができ、患部への接着作業を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、体腔内の患部近傍まで、周辺に接着させたり、それ自体が接着してしまったりする不都合なく、細胞シートを確実に搬送することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の第1の実施形態に係る細胞シート1の搬送方法について、図1を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞シート1の搬送方法は、図1に示されるように、内視鏡の挿入部2に長手方向に沿って設けられたチャネル3に挿入可能な外径寸法を有する柔軟なチューブ4の先端部に細胞シート1を収容し、チャネルを介して患部近傍まで搬送する方法である。
【0020】
細胞シート1は、例えば、口腔粘膜を採取して、底面に温度応答性処理が施された培養容器(図示略)内において培養されたものである。温度応答性処理は、例えば、N−イソプロピルアクリルアミドからなる高分子を塗布したものであり、32℃以上で疎水性、32℃より低い温度で親水性を呈するようになっている。
【0021】
培養時には、例えば、37℃で培養されるため培養容器の底面が十分な疎水性を有していて、口腔粘膜を構成する扁平上皮細胞は、培養容器の底面に容易に接着して増殖することができる。一方、培養終了時には、32℃より低い温度に冷却することで、培養容器の底面が急激に親水性を呈し、培養された扁平上皮細胞を容易に剥離することができる。
【0022】
本実施形態においては、細胞シート1として、例えば、四角形のものを例示するが、これに限定されるものではなく、患部Aの形態に合わせて、多角形、円形あるいは楕円形等の任意の形態の細胞シート1を採用することができる。
【0023】
培養容器の底面から剥離された扁平上皮細胞は、培養容器の底面に接着して成長した状態のまま剥離されるために、1枚のシート状の細胞シート1に構成される。細胞シート1の培養容器の底面に接着していた裏面側は剥離後も継続して接着性を有し、表面側は接着性を有しないものとなる。
【0024】
そこで、本実施形態においては、製造された細胞シート1の接着性を有する面(以下、接着面という。)1aを半径方向内方に向けて、細胞シート1を筒状に形成し、その筒状の細胞シート1をチューブ4の先端内部に収容する。この状態で、接着面1aが半径方向内方に向けられているので、細胞シート1はチューブ4内面に接着することなく、その弾性によりチューブ4内面に押し付けられた状態に保持されている。
【0025】
細胞シート1を適用する患部Aの位置に応じて、経口的にあるいは経肛門的に挿入配置された内視鏡の挿入部2に備えられているチャネル3を介して、前記細胞シート1を収容した先端側からチューブ4を挿入し、挿入部2の先端からチューブ4の先端を突出させる。患部Aの位置は内視鏡検査により容易に特定することができ、特定された患部A近傍の位置にチューブ4の先端位置を配置する。
【0026】
このようにして患部近傍まで搬送された細胞シート1は、この状態でチューブ4の後方から導入した押圧手段5によってチューブ4内の細胞シート1を押圧し、チューブ4の先端から押し出される。押圧手段5としては、例えば、ワイヤあるいは水等の液体によって細胞シート1を押圧して押し出すものが採用される。
【0027】
本実施形態に係る細胞シート1の搬送方法によれば、細胞シート1がチューブ4内面に接着しないように、接着面1aを半径方向内方に向けて保持されているので、体腔内を搬送中に、他の部位に接着してしまう不都合が発生しない。また、円筒状の丸められた細胞シート1はその弾性によりチューブ4の内面に押し付けられるので、それ自体の接着面1aどうしが接着してしまう不都合も発生しない。
【0028】
そして、押圧手段5の作動によってチューブ4内容易に押し出され、患部A近傍に確実にリリースすることができる。
この場合において、細胞シート1は、図1(a),(b)に示されるように、筒状に丸めた際の切れ目1bが患部Aに向かう方向にして、チューブ4内から押し出すことが好ましい。チューブ4から押し出された細胞シート1は、その弾性によって、元の略平坦な形態に戻ろうとする。したがって、切れ目1bを患部Aに向けた状態で押し出されることにより、迅速に患部Aを覆う形態に広がるので、リリース後に姿勢を調節することなく患部Aに適用することができる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態に係る細胞シート1の搬送方法について、図2〜図5を参照して以下に説明する。
本実施形態においては、図2に示されるように、略円形のシート状に形成された細胞シート1の接着面1aの外周縁にリング状のスペーサ10を接着することにより細胞シート部材11を構成する。細胞シート1およびスペーサ10の直径寸法は、内視鏡の挿入部2に備えられたチャネル3内に挿入可能なチューブ4の内径寸法とほぼ同等に形成されている。
【0030】
スペーサ10は、例えば、生体吸収性の材料からなり、患部A近傍にリリースされた後には、経時的に吸収されて消滅するようになっている。なお、スペーサ10の材質としては、生体適合性を有するものであれば足り、生体吸収性を有していなくてもよい。吸収されずに残るスペーサ10は、そのまま患部に留置されるか、異物として体外に排出されることになる。また、スペーサ10を生体吸収性の材料により構成する場合には、患部Aを治療するための薬剤を混入しておくことにしてもよい。
【0031】
このように構成された細胞シート部材11は、図3に示されるように、厚さ方向に複数重ねるようにしてチューブ4内に挿入される。接着面1aにスペーサ10が配置されているので、接着面1aが隣接する細胞シート1に接着することが防止される。また、接着面1aの外周縁がスペーサ10により覆われているので、細胞シート1の接着面1aがチューブ4の内面に接着することも防止される。
【0032】
本実施形態に係る細胞シート1の搬送方法によれば、細胞シート1がスペーサ10によって隣接する細胞シート1やチューブ4の内面に接着しないように保持されるので、体腔内を搬送中に、他の部位に接着してしまう不都合がない。また、細胞シート1がスペーサ10により延びた状態に張られているので、それ自体の接着面1aどうしが接着してしまう不都合も発生しない。
【0033】
そして、図3に示されるように、チューブ4の後方から導入した押圧手段5によってチューブ4内の細胞シート1が押圧され、チューブ4の先端から押し出されることにより、患部Aの近傍にリリースされる。
【0034】
本実施形態に係る細胞シート1は、内視鏡の挿入部2のチャネル3内に挿入可能なチューブ4の内径寸法と同等の比較的小さい細胞シート1であるため、極めて小さい患部Aに適用する場合を除き、図4に示されるように、複数の細胞シート部材11を患部Aに適用する必要がある。なお、図4に示されるように、患部A全体を覆うように細胞シート部材11を配置することが望ましいが、接着した細胞が成長して患部Aを修復する機能を有するため、図5に示されるように、患部Aを部分的に覆うように細胞シート部材11を配置することにしてもよい。
【0035】
次に、本発明の第3の実施形態に係る細胞シート1の搬送方法について、図6〜図9を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る搬送方法は、図6に示されるキャップ12を使用する。
【0036】
このキャップ12は、図6に示されるように、略円筒状に形成され、長手軸方向の一端側に、内視鏡の挿入部2の先端に嵌合可能な嵌合部13を備えている。また、キャップ12の他端側には、その内表面に温度応答性処理が施された接着部12aが備えられている。この接着部12aは、温度応答性処理が施されることにより、32℃以上で疎水性、32℃より低い温度で親水性を呈するようになっている。
【0037】
これにより、32℃以上に維持することにより、接着部12aに細胞シート1を接着状態に保持することができ、それよりも低い温度に切り替えることにより、接着部12aの細胞シート1を剥離させることができるようになっている。また、接着部11以外の表面は、親水性を有するように処理されている。これにより、接着部12a以外の表面には、いかなる温度でも細胞が接着しないようになっている。
【0038】
このようなキャップ12に細胞シート1を接着させるには、例えば、図7に示されるように、接着させる細胞を浮遊させた細胞懸濁液Bに、長手軸を略水平にしたキャップ12の一部を浸漬させ、その状態でキャップ12を長手軸回りに回転させながら、所定の培養条件、例えば、温度37℃、湿度100%、CO濃度0.5%に維持することにより回転培養する。これにより、温度応答性処理が施されている接着部12aには細胞が接着して成長し、それ以外の表面には細胞が接着しないので、接着部12aのみに細胞シート1が形成されることになる。
【0039】
このようにして、細胞シート1を接着させたキャップ12を細胞懸濁液Bから取り出し、図8および図9に示されるように、内視鏡の挿入部2の先端に嵌合部13を嵌合させて取り付け、例えば、長手軸に沿って切断線1bを形成する。そして、内視鏡の挿入部2を経口的あるいは経肛門的に体腔内に挿入することで、細胞シート1が体腔内を搬送されることになる。
【0040】
この場合において、本実施形態に係る細胞シート1の搬送方法によれば、細胞シート1はその接着面1aをキャップ12の内面に形成された接着部12aに接着状態に保持されたまま搬送されるので、搬送中に、細胞シート1が体腔内の他の部位に接着してしまったり、接着面1aどうしが接着してしまったりする不都合の発生を防止できる。また、細胞シート1がキャップ12の内面に配されているので、搬送中に体腔内の部位に接触することが回避され、細胞シート1を保護しながら搬送することができる。そして、このようにして搬送することにより、細胞シート1を健全な状態で患部A近傍に配置することができるようになる。
【0041】
細胞シート1を接着させたキャップ12が患部A近傍に配置された場合には、挿入部2に備えられたチャネル3を介して32℃より低い温度の冷却水を供給することにより、チャネル3の出口周囲に配置されているキャップ12を冷却し、接着部12aの性質を親水性に変化させる。これにより、接着部12aに接着していた細胞シート1が容易に剥離し、患部に向けて供給されることになる。
【0042】
この場合において、本実施形態によれば、キャップ12の内面に設けられた接着部12aに保持していた細胞シート1をリリースするので、細胞シート1は接着面12aを外側に向けた円筒状の形態でリリースされる。したがって、リリース位置付近に配置されている患部Aに容易に接着させることができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、内視鏡の挿入部2に備えられたチャネル3を介して冷却水を供給することにより、キャップ12を冷却することとしたが、これに代えて、図10に示されるように、キャップ12の壁面内部を通る流路14を設け、該流路14に、挿入部2の外側を通して導いた外付けの給水チューブ15を接続することにより、該給水チューブ15を介して冷却水をキャップ12の流路14内に流通させ、キャップ12を冷却することにしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、キャップ12の内面に接着部12aを設けることとしたが、これに代えて、体腔内の他の部位との接触が問題にならない場合には、図11に示されるように、キャップ12の外面に設けた接着部12aに細胞シート1を接着させることにしてもよい。このようにすることで、細胞シート1に切断線1bを形成する作業を容易にすることができる。
【0045】
なお、本実施形態においては、キャップ12を細胞懸濁液Bに浸漬して回転培養することにより、キャップ12に設けた接着部12aに細胞シート1を接着状態に形成することとしたが、これに代えて、他の場所で製造した細胞シート1を接着部12aに接着させることにしてもよい。
【0046】
また、キャップ12の外面に細胞シート1を接着させることに代えて、内視鏡の挿入部2自体の外周面に温度応答性処理を施して接着部とし、該接着部に細胞シート1を接着させることにしてもよい。
【0047】
次に、本発明の第4の実施形態に係る細胞シート1の搬送方法について、図12および図13を参照して、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞シート1の搬送方法は、図12に示されるように、第3の実施形態と同様にして温度応答性処理を施した部材を利用するものであるが、第3の実施形態が、内視鏡の挿入部2の先端に取り付けるキャップ12に細胞シート1を接着させた状態としていたのに対し、本実施形態においては、第1および第2の実施形態と同様に、挿入部2のチャネル3に収容した状態で患部A近傍まで搬送する方法を提供する。
【0048】
本実施形態においては、表面20aに温度応答性処理を施した柔軟な温度応答性シート20、あるいは、温度応答性ポリマーからなる温度応答性シート20を利用する。
そして、このような温度応答性シート20の表面に細胞シート1を接着させた複合シート21をチャネル3内に収容するには、図12に示されるように、複合シート21を巻き取るように丸めて、その外径寸法がチャネル3の内径寸法より小さくなるようにする。
【0049】
このようにすることで、第1の実施形態のように、細胞シート1を単独で1重の筒状に丸める場合と比較すると、大幅に広い面積の細胞シート1をチャネル3内に収容することができる。
そして、本実施形態においては、第1の実施形態と同様にして、チャネル3の後方から導入したワイヤ等の押圧手段5により複合シート21をチャネル3外に押し出した後、チャネル3を介して導入した冷却水を複合シート21にかけることにより32℃より低い温度に冷却し、細胞シート1を温度応答性シート20から容易に剥離させ、患部A近傍にリリースすることができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、単に、温度応答性ポリマーにより構成した温度応答性シート20に細胞シート1を重ねた複合シート21を例示したが、これに代えて、柔軟なシート内部に形状記憶合金(図示略)を埋め込んだもの、あるいは、形状記憶ポリマーにより構成された温度応答性シート20を採用してもよい。このようにすることで、温度変化を与えることにより、図11の平坦に広がった状態と、図12の筒状に巻き取られた状態とを容易に切り替えることができる。
【0051】
これにより、チャネル3内への複合シート21の挿入作業を容易にすることができるとともに、リリース時の展開もスムーズに行うことができる。また、細胞シート1のリリース時に、図11のように広げ、リリース後に図12のように巻き取って、再度チャネル3内に回収することも可能となる。
【0052】
また、本実施形態においては、複合シート21をチャネル3内に収容して搬送し、患部A近傍においてリリースすることとしたが、複合シート21をチャネル3内に収容することなく、内視鏡の挿入部2の先端に、図示しない鉗子等により把持した状態で、体腔内を搬送することにしてもよい。このようにすることで、チャネル3内から押し出す工程が不要となり、単に冷却するだけで、細胞シート1を患部A近傍にリリースすることができる。
【0053】
また、平坦な温度応答性シート20に代えて、筒状に形成した温度応答性シート20の外面に細胞シート1を付着させた複合シート21の内部に、伸縮可能なメタルステント(図示略)等の拡張手段を配置することとしてもよい。このようにすることで、メタルステントを広げた状態で構成した複合シート21は、メタルステントを半径方向内方に縮小させることにより、皺寄せられてその外径寸法を縮小させることができる。この状態で、挿入部2のチャネル3内に収容することができる。
【0054】
したがって、第4の実施形態と同様にして、内視鏡の挿入部2のチャネル3を介して体腔内に接着させることなく、またそれ自体の接着面どうしを接着させてしまうことなく、患部近傍まで搬送することができる。また、挿入部2のチャネル3からリリースした後には、メタルステントを拡張させることで、皺寄せられていた複合シート21を張るように拡張させ、細胞シート1を広げることができる。この状態で、温度応答性シート20を冷却することにより、細胞シート1を容易に剥離させ、患部A近傍にリリースすることができる。
【0055】
また、同様にして、表面に温度応答性処理を施したバルーンの表面に細胞シート1を付着させたもの(図示略)を採用してもよい。バルーンを拡張させた状態で細胞シート1を接着させ、バルーンを収縮させることで、挿入部2のチャネル3内に容易に収容可能とすることができる。
【0056】
したがって、第4の実施形態と同様にして、内視鏡の挿入部2のチャネル3を介して体腔内に接着させることなく、またそれ自体の接着面どうしを接着させてしまうことなく、患部近傍まで搬送することができる。そして、チャネル3内からリリースされた後には、バルーンを膨張させることにより、皺寄せられていた細胞シート1を張るように拡張させることができる。この状態で、バルーンを冷却することにより、細胞シート1を容易に剥離させ、患部A近傍にリリースすることができる。
【0057】
また、同様にして、ワイヤからなる環状のスネア(図示略)の内側に、膜状に温度応答性シート20を貼り、該温度応答性シート20に細胞シート1を付着させることにしてもよい。スネアを収納形態とすることで、複合シート21をチャネル3内に収容可能な太さに容易に構成することができ、また、スネアをチャネル3外に突出させることにより、スネアの弾性によって複合シート21を広げることができる。
【0058】
また、上記第3および第4の実施形態においては、細胞シート1の搬送方法として、細胞シート1を接着させた温度応答性部材20を搬送し、患部A近傍において冷却する方法を採用したが、これに代えて、細胞シート1の接着面1aにアルギン酸等の保護シート(図示略)を接着しておき、患部A近傍において保護シートを剥がすこととしてもよい。また、温度により親水性と疎水性とが切り替わる温度応答性部材20を利用したが、これに代えて、電場により親水性と疎水性とが切り替わる部材を利用することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る細胞シートの搬送方法を説明する斜視図であり、(a)チューブ内に収容してチャネル内を搬送される細胞シート、(b)部分的にチューブから押し出された細胞シート、(c)チューブからリリースされた細胞シートをそれぞれ示している。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る細胞シートの搬送方法に使用される細胞シート部材を説明する斜視図である。
【図3】図2の細胞シートの搬送方法を説明する縦断面図である。
【図4】図3の細胞シートの搬送方法により患部近傍に搬送され、患部に接着された細胞シートの一例を示す図である。
【図5】図4と同様に、患部近傍に搬送され、患部に接着された細胞シートの他の例を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る細胞シートの搬送方法に使用されるキャップを示す斜視図である。
【図7】図6のキャップの接着部への細胞シートの接着方法を示す説明図である。
【図8】図7の接着方法により細胞シートを接着させたキャップを内視鏡の先端部に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図9】図8の状態を示す縦断面図である。
【図10】図9の変形例を示す縦断面図である。
【図11】図9の他の変形例を示す縦断面図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係る細胞シートの搬送方法に使用される複合シートを説明する斜視図である。
【図13】図12の複合シートを丸めた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
A 患部
1 細胞シート
1a 接着面
1b 切れ目
4 チューブ
5 ワイヤ(押圧手段)
10 スペーサ
11 細胞シート部材
20 温度応答性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着面を半径方向内方に向けて筒状に丸めた細胞シートをチューブ内に配置し、内視鏡の挿入部に設けられたチャネルを介して体腔内に挿入する細胞シートの搬送方法。
【請求項2】
円形に整形した細胞シートの接着面の外周部に、所定の厚さを有する生体親和性材料からなる管状のスペーサを接着した細胞シート部材をチューブ内に配置し、内視鏡の挿入部に設けられたチャネルを介して体腔内に挿入する細胞シートの搬送方法。
【請求項3】
細胞シートの接着面に、温度により親水性と疎水性とが切り替わる温度応答性を有する温度応答性部材を接着させた状態で、内視鏡の挿入部に設けられたチャネルを介して体腔内に挿入する細胞シートの搬送方法。
【請求項4】
前記温度応答性部材が、シート状である請求項3に記載の細胞シートの搬送方法。
【請求項5】
前記温度応答性部材が、変形可能な部材により構成されている請求項3または請求項4に記載の細胞シートの搬送方法。
【請求項6】
前記温度応答性部材が、形状記憶アクチュエータを備える請求項5に記載の細胞シートの搬送方法。
【請求項7】
前記温度応答性部材が、メタルステントである請求項5に記載の細胞シートの搬送方法。
【請求項8】
前記温度応答性部材が、バルーンである請求項5に記載の細胞シートの搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−229247(P2007−229247A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55067(P2006−55067)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】