細胞バンデージ
本発明は、組織の表面のいたる所に細胞を送達するための方法を提供し、前記方法は、医療材料のシートの上および/または中に細胞を分布させて細胞バンデージを形成すること、ならびに細胞バンデージを前記表面に適用することを含んでなり、前記細胞バンデージの組織への適用の後、細胞バンデージから細胞が遊離される。さらに、2以上の組織を結合するための方法を提供し、前記方法は、接合されるべき表面に密接に接触する細胞バンデージを提供することを含んでなり、前記細胞バンデージは医療材料のシートを含んでなり、前記医療材用は、その上および/または中に分布させた細胞を有する。本発明の方法において使用するための細胞バンデージも提供する。
【発明の詳細な説明】
【発明の説明】
【0001】
本発明は、概して、損傷を受けた組織の治療または修復に関する。
【0002】
本発明は、軟骨組織の向こう側および中へ細胞を方向付けるための方法として好ましい実施形態を参考にして述べる。しかしながら、本発明は、他の組織の工学的な適用において同様の有用性を見出しており、組織表面への調節された細胞分布が必要とされる。
【0003】
関節軟骨は、体の滑膜性の連結において、関節を成している骨の終わりを覆っている。それは、コラーゲン線維、プロテオグリカンマトリックス、および軟骨細胞(軟骨マトリックスを産生する細胞)で構成される。成熟した関節軟骨は、変性または損傷後に再生するための能力が限られている。成熟した関節軟骨における病変は、多くの関節疾患、変形性関節症(OA)、外傷、および離断性骨軟骨炎の過程の間に生じる(Hunziker, 2002)。外傷性の病変は、関節内の骨折、強い強度の衝撃、またはそれによる靭帯損傷の結果として、直接的または間接的に生じる可能性がある(Buckwalter et al., 1998)。関節軟骨の病変は、一般的に治癒しないか、またはある一定の生物学的な条件下で部分的にのみ治癒する。それらは、しばしば障害と付随し、関節痛、ロッキング現象、および機能の減少または障害のような症状と付随する。さらに、そのような病変は、一般的に、OAの重篤な形態へと進行すると考えられている(Gilbert, 1998; Hunziker, 2002)。
【0004】
関節軟骨内の組織学的および巨視的な病変の治癒を誘導するために、多数の実験的および臨床的な試みがなされており、永続的な本質の構造的および機能的にコンピテントな修復組織を再構築する方向に向けられている。
【0005】
2つの主要な生物学的な問題が、関節軟骨の修復に付随する。第1の問題は、関節軟骨と同じ構造的および機械的性質を有する修復組織の構築である(Shapiro et al.,1993)。第2の問題は、宿主と修復組織の間の界面にまたがってうまく組み込むことを達成することである。
【0006】
長期の修復または関節軟骨の再生に対して重要な必須条件は、移植した軟骨または局所的に誘導された修復組織を、レシピエント部位において天然の軟骨と統合することである(Ahsan et al., 1999; Hunziker, 1999)。組み込みの軟骨修復は、軟骨-軟骨界面領域におけるマトリックス産生細胞の欠如により阻害されるであろう(Ahsan et al., 1999; Reindel et al., 1995)。無細胞は、病変縁からの軟骨細胞の減少、無血管、または多分化能を有する前駆細胞の欠如の組み合わせによる。
【0007】
天然の軟骨の修復を促進するために臨床で現在用いられている方法には、壊死組織切除法、肋軟骨下の穿孔またはミクロフラクチャー(microfracture)法およびモザイクプラスティー(mosaicplasty)法が含まれる。そのような技術は、通常、時間と共に機械的に弱まる線維軟骨の修復組織を生じる。さらに重要なことは、産生した修復組織の質をモニターする方法がないことである。
【0008】
自己の軟骨細胞の移植(ACI)は、細胞に基づく関節軟骨欠損の治療の第1世代である。それは、体重を支えていない領域から採取した自己の関節軟骨細胞を広げること、ならびにそれらを骨膜またはコラーゲン弁の下の欠損にインプラントすることに基づく(Gillogly, 2003)。目標は、それらが軟骨を形成できるまでインプラントした細胞を適切な場所に保持することである。
【0009】
軟骨組織工学の第2世代は、欠損を充填することができる未成熟の、移植可能な構築物を産生するために、広がった軟骨細胞を蒔いた生物分解性の骨格を用いることに関する。
【0010】
しかしながら、ACIおよび未成熟の構築物は、限局している欠損の治療にのみ用いることができる。これらの方法は、関節軟骨の減少に関する変形性関節症の典型である非限局的な病変の治療には適さない。非限局的な病変のよりよい治療のためには、予め形成された成熟した軟骨の「シート」を用いて病変全体を再舗装することが望ましい。従って、変形性関節症により引き起こされたような軟骨の欠損をいつでも充填できる、成熟した、機能的および機械的に健全なインプラントを作り出すために、インビトロで成熟した軟骨組織を操作することに関心がある。一度病変上に位置させると、操作された成熟した軟骨を病変の周囲にある現存の軟骨と統合して、丈夫な関節表面を提供する統一された組織を形成する必要がある。修復組織と周囲の天然の軟骨との統合は、軟骨組織の技術的な戦略の発展において重要なステップである。最初に、縫合またはフィブリン接着剤を用いて、操作された軟骨インプラントの一時的な固定が達成されてよい。しかしながら、インプラントおよび宿主軟骨の間には明確な切れ目があり、失敗の中心を形成する(Hunziker, 1999)。インビボにおいて、隣接する表面の統合が容易にまたは矛盾なく起こることを示す明確な証拠は、文献中にはない。これは、コラーゲン原繊維性および亀裂構造により特徴付けられる欠陥の、乏しい環境により説明することができる(Donohue et al., 1983; Thompson et al., 1991)。さらに、鈍的外傷が、欠陥のある壁体の軟骨細胞のアポトーシスを引き起こすことが示されている(Redman et al., 2004)。
【0011】
本発明者は、連続的なマトリックスを達成するために、軟骨を合成する能力を有する細胞をインプラントと宿主組織との間に遊走させる必要があるという仮説を立てている。天然のまたは操作された軟骨の欠陥部分に存在する軟骨細胞は、このように遊走しそうにない。以前の研究では、操作された軟骨の表面を単離した軟骨細胞で覆うことを提案している(Peretti et al., 1999; Peretti et al., 2003; Schinagl et al., 1999)。これらの細胞が、トランスプラントと周囲の軟骨との間の架橋を形成し得ることは初めに述べた。さらなる最近の知見では、前記軟骨細胞は、実際に、隣接する軟骨を破壊し、新しい軟骨組織を再生するように作用することが示唆されている。しかしながら、トランスプラントを覆う軟骨細胞は、控えめな「小さな架橋」がインプラントと周囲の組織との間に形成される結果として、凝集塊へと凝集する傾向を有することが見出されたため、この戦略は成功が限られている。これらの小さな架橋は、修復された軟骨について、移植片と周囲の組織との間に、関節において受ける機械的な応力に抵抗するのに十分強固な結合を形成しない。
【0012】
本発明者は、レシピエント部位においてインプラントされた軟骨と天然の軟骨との改善された統合を達成するための鍵は、表面に細胞を送達する方法および一度所定の位置に置かれた場合にそれらを遊離させる方法を見出すことであると認識している。
【0013】
従って、第1の側面において、本発明は、組織の表面に細胞を送達するための方法を提供し、前記方法は、医療材料のシート上および/または中に細胞を分布させることにより細胞バンデージを形成することならびに表面に前記細胞バンデージを適用することを含んでなり、ここで、組織の表面に前記細胞バンデージを適用した後、前記細胞が前記細胞バンデージから遊離されることにより、医療材料を介して隣接する組織に遊走させることができる。
【0014】
ここで用いられる場合、「細胞バンデージ」という用語は、組織の表面に対する密集した付加において細胞を適用するための媒体を意味するものであり、医療材料の上または中に分布した細胞を含んでなる。簡単に言うと、前記細胞バンデージは、シート状である。
【0015】
ここで用いられる場合、「医療材料」という用語は、体の組織、臓器、もしくは機能を治療、増強、または置換する方法または方法の一部として使用され得る、合成または天然の物質(薬剤以外)を意味する。好ましくは、前記医療材料は生分解性であり、すなわち、体内で無期限に持続せず、残留物が存在する可能性はあるが次第に分解される。細胞が付着するか、または中に保持され得る任意の医療材料を使用することができる。適切な医療材料の例には、PGA、PGLA、およびキトサンが含まれる。合成医療材料に加えて、ここで説明するように、コラーゲンのような天然の医療材料が使用されてもよい。前記医療材料は、該医療材料が適切な位置に保持され、細胞が増殖/発達するのに十分長く持続することを提供する繊維の懸濁液のような非固形の担体(ゲル様)または骨格であってよい。骨格は、例えば縫合により適切な場所に保持されてよく、相対的に長い半減期を有する。前記医療材料は、本質的に粘着性であってよく、望ましい位置において細胞バンデージの保持を助ける。例えば、細胞に合図することができる物質を使用することにより、潜在的に生物学的な刺激を与えることもできるが、前記医療材料の主要な機能は、物理的なキャリアとしてのものである。
【0016】
以下の記述において、組織、特に軟骨の外科的な「インプランテーション」および「トランスプランテーション」について言及する。インプランテーションは、体外で培養した、操作された組織(インプラント)の外科的な導入を意味するものであり、一方、トランスプランテーションは、体の他の場所から移動させた組織(トランスプラント)の外科的な導入を意味するものである。前記トランスプラントは、患者またはドナーに由来してよい。本発明は、組織がどのようにして得られたかに関わりなく一般的な適用についてのものである。従って、トランスプラントされた組織についての参考文献は、インプラントされた組織に対して同じように適用されてよく、逆も同じである。
【0017】
第2の側面において、本発明は、2以上の組織を結合するための方法を提供し、該方法は、接合されるべき表面と密に接触する細胞バンデージを提供することを含んでなり、前記細胞バンデージは、医療材料のシートを含んでなり、前記医療材料は、その上および/または中に分布した細胞を有する。好ましくは、前記細胞バンデージは、接合されるべき組織間の界面に提供される。
【0018】
好ましくは、前記細胞は、軟骨産生細胞、または軟骨細胞、軟骨前駆細胞、もしくは幹細胞のように軟骨を産生することができる細胞であり、前記組織は軟骨質である。適切な軟骨細胞の例は、関節軟骨、半月板、または鼻軟骨から得られる軟骨細胞である。適切な幹細胞の例は、ヒト骨髄間葉幹細胞である。好ましくは、前記細胞は、軟骨産生細胞が、細胞バンデージおよび接合されるべき組織のそれぞれの表面の間の界面全体にわたって、隣接する組織に均一な態様で提供されるために、細胞バンデージの体積全体に、または細胞バンデージのそれぞれの側の表面全体にわたって平等に分布する。この方法において、細胞バンデージから各隣接組織への軟骨産生細胞の遊走が促進され、表面全体にわたって界面における継続的な遊走が生じる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、前記細胞バンデージは、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、または幹細胞を含んでなり、ある軟骨組織を他と統合するために用いられる。好ましくは、前記細胞は、治療されるべき患者から単離される。前記細胞は、操作された軟骨を産生するために用いられるものと同じ出所であるか、または任意のマトリックスの細胞型もしくは他の細胞型のような遺伝的なソースに由来してよい。関節軟骨における骨関節炎の病変の修復において、前記細胞バンデージは、外科的にインプラントされた操作された軟骨またはドナーの組織からトランスプラントされた天然の軟骨と隣接する天然の軟骨とを、レシピエント部位で統合するために用いられてよい。前記細胞バンデージはシートの形態であるため、インプラントまたはトランスプラントは、例えば、インプランテーションの前に細胞バンデージで包まれるか、または細胞バンデージが、インプランテーションの前に病変部に置かれてよい。前記インプラントおよび細胞バンデージは、例えば縫合によって適切な場所に保持される。インプラントが細胞バンデージで包まれる場合、前記細胞バンデージは、適切な場所でインプラントを保護し、ならびにインプラントおよび病変に隣接する天然の組織の表面のいたる所に軟骨細胞または他の細胞を分布させるように作用する。前記シートは、インプラント/トランスプラントおよび病変に隣接する組織の形に従うため、反対の組織表面に近い配置で細胞を保持する。前記シートは、インプラントと宿主組織の間の間隙を完全に満たすことができるので、活発に分裂する細胞の軟骨-軟骨界面への制御された送達を可能にする。前記方法は、反対側の表面のいたる所に新しい軟骨の均一な発達を可能にし、2つの組織間の界面全体のいたる所でインプラントおよび周辺組織の継続的な統合を可能にするため、生化学的に安定な組織および丈夫な軟骨表面を提供することができる。
【0020】
前記細胞バンデージは、活発に分裂している細胞の軟骨-軟骨界面への制御された送達のための機構を提供し、それは軟骨を合成する能力を有する。例に示すように、前記細胞バンデージは、結合(接合)されるべき各組織へ遊走する軟骨産生細胞を提供することにより、間隙性のスペースの閉合を達成するため、効果的な統合を生じる。本発明者は、前記細胞バンデージが、周辺軟骨のマトリックスを分解することができ且つそこへ遊走することができる軟骨産生細胞の源を提供し、遊走させることを介して間隙を満たすための新しい軟骨を合成することにより、持続性のマトリックスを産生すると仮定する。本発明は、それ故、間隙が閉合していることにより特徴付けられてよく、ここでの接合されるべき組織表面は、細胞バンデージから各隣接組織への軟骨産生細胞の遊走により他方と効果的に統合しており、間隙の充填と対立するように、細胞バンデージの医療材料支持成分の生分解を伴い、ここでの新しい組織は、隣接する組織の表面の間の間隙を満たすように産生される。本発明の間隙を閉合する作用は、接合されるべき組織のそれぞれをその隣接する組織と統合する持続性のマトリックスを提供し、単に変性または外傷により生じた間隙を充填するために新しい組織を産生する先行技術の間隙を充填する修復の戦略よりも、より優れた機械的安定性(耐久性)を伴う修復を生じる。
【0021】
本発明の間隙を閉合する成果に十分に影響を及ぼすために、細胞バンデージから遊離される軟骨産生細胞は、軟骨を再生する隣接する組織へと遊走するのみならず、それらは、細胞バンデージの医療材料が分解するときにその骨格中へも遊走し、軟骨を再生すると解されるであろう。この方法において、持続性のマトリックスが隣接する組織表面のいたる所に形成される。
【0022】
好ましくは、前記細胞バンデージは相対的に薄い。好ましくは、1.0 mmより薄い。より好ましくは、前記細胞バンデージは0.9mm、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mm、または0.4mmより薄く、さらに増加したオーダーが好ましい。前記医療材料の物理的性質は、強度を欠くことにより前記帯の完全性が損なわれる範囲外で、最小の厚さを決定するであろう。0.5mmの厚さを有する細胞バンデージは、望ましい性質を有することが見出されている。先行技術の間隙を充填する組織を用いた修復の戦略は、病変により生じた間隙をふさぐため、且つマトリックスの産生の間、細胞を保持するために、相対的に厚い骨格が必要である。対照的に、本発明の間隙を閉合する方法は、相対的に薄い医療材料のシートを必要とするため、軟骨産生細胞の隣接組織(例えば、インプラントおよび本来の軟骨)への遊走の後に前記医療材料は容易に分解され、接合されるべき組織の実質的に継続的な統合が生じる。実際に、前記細胞バンデージは徐々に分解され、統合した組織により置換される。
【0023】
好ましくは、前記細胞バンデージの医療材料は、統合される組織と接する表面において開放性の構造を有しており、例えば、コラーゲン膜の場合、表面におけるコラーゲン繊維の「波」が相対的にゆるく、膜上に蒔かれたコラーゲン産生細胞が隣接する組織に容易に遊走することを可能にする。微視的なレベルにおいて、このように開放的でゆるい骨格は「粗い」形であり、以下の例においては、粗い表面と呼ぶ。商業的に入手可能な医療材料の骨格は、それらの意図された使用と一致する特異的な物理的特徴を有する。例えば、「ゲイストリッヒ(Geidtlich)社」から入手可能なコラーゲン膜は、「粗い」表面および「滑らかな」表面を有する。微視的なレベルにおいて、前記粗い表面のコラーゲン繊維は、密接に充填されておらず、空隙を有し、可変配向性である繊維の開放性の構造を提供する。それに対して、滑らかな表面において、前記繊維はより高密度に充填されており、表面に平行に位置する。1つの粗い表面および1つの滑らかな表面を有する膜は、自己の軟骨細胞のインプランテーション治療に適しており、ここでのコラーゲン膜の目的は、インプラントされた細胞を適した位置に保持することである。膜の滑らかな表面は、修復されるべき病変部位からの細胞の逸脱を妨げるためのバリヤーとして働く。
【0024】
本発明者は、粗い表面の解放的な構造により、細胞バンデージ中の軟骨産生細胞が前記細胞バンデージから周辺組織へより容易に遊走できることを見出した。医療材料の構造の開放の度合い、見かけ上の表面の粗さは、それ故、統合に対する制御因子である。それ故、好ましくは、前記細胞バンデージは、接合されるべき表面とのそれぞれの界面において粗い表面を有し、前記バンデージの各表面には軟骨産生細胞が存在し、隣接する組織へ軟骨産生細胞が容易に移動することができ、接合されるべき組織の界面の真向こうに対して効果的な統合を可能にする。
【0025】
硝子軟骨モデルを用いた本発明者の結論は、本発明の方法の間隙を閉合する目的のために、細胞バンデージのための医療材料の理想的な性質は、接合されるべき組織間の間隙ができるだけ最小になるように相対的に薄い必要があり、その構造は、上に蒔かれた軟骨産生細胞をインプランテーションまで保持するために十分な粘着性を有する必要があるが、細胞バンデージからの細胞の周辺組織への移動を妨げるほどの強い粘着性は必要ないことを示す。他の言葉で言うと、前記医療材料は、インプランテーション後の組織への細胞の迅速な遊離を可能にするように、物理的または化学的に適合させる。細胞バンデージからの細胞の遊離速度が特定の適用に合うように製造されてよい。適切な性質は、ゲイストリッヒ社製コラーゲン膜の粗い表面により表される。
【0026】
好ましくは、細胞バンデージの医療材料シートは、両面の上および/または中に細胞を有し、接合されるべき組織へと遊走することができる細胞が、接合されるべきそれぞれの組織を有する界面に現れるように両面が粗い。
【0027】
本発明は、骨関節炎の病変の修復においてインプラントまたはトランスプラントされた軟骨を統合するための方法として、好ましい実施形態に対する参考文献を用いて上記で述べられているが、本発明が、他の疾患または外傷から生じる損傷した軟骨の修復においても同様に適用可能であることは、当業者にとって自明である。
【0028】
前記細胞バンデージは、操作された2以上の軟骨を統合し、インビトロで培養するよりも大きなサイズの単一化された断片である操作された軟骨を形成するために用いられてもよい。インビトロで培養することができる軟骨組織の大きさは、物質輸送限界により制限され、すなわち、組織の断片が一度ある大きさに到達すると、中心の細胞が栄養分(例えば酸素)および老廃物を周囲の培地と交換することはもはや不可能となることを意味する。本発明の細胞バンデージを用いると、複数の操作された軟骨の断片を使用することおよび細胞バンデージ中にそれらを包むことによって、ジグソーパズルの方式でそれらが互いに統合するように誘導してより大きなシートを形成することにより、この制限を克服することが可能である。そのように形成された複合体の軟骨は、関節軟骨における病変を修復するために、本発明の細胞バンデージと一緒に適用されてよい。あるいは、複数の操作された軟骨の断片は、前記操作された軟骨の断片が互いに統合するようにならびに同時に天然の軟骨と統合するように細胞バンデージと一緒にインプラントされてよく、両方ともインビボで生じる。
【0029】
本発明の方法により修復することができるもう1つの傷害は、半月板の裂傷である。半月板軟骨は、膝の半月板で生じる。半月板の裂傷は、比較的一般的な傷害で、変形性関節症の後期の進行の高いリスクと付随する。この傷害は、裂傷を覆って細胞バンデージを置くことおよび例えば縫合により適切な場所にそれを保持することにより治療されてよい。この場合、前記方法により接合されるべき2つの表面は、同じ組織から生じる:それらは、裂傷により作られた内部表面である。前記細胞バンデージは、前記2つの表面の間にはさまれてよい(すなわち、裂傷に挿入されてよい)。あるいは、医療材料の支持により、軟骨産生細胞が裂傷に近い位置に保持される(例えば、裂傷を横切って固定される)ことでも十分である。本発明者は、細胞バンデージに由来する細胞が隣接する軟骨組織に浸潤することを観察した。従って、医療材料からのいくつかの細胞は、裂傷の領域に浸潤するであろうと思われる。同様に、上述した複合体の操作された軟骨を構築するための方法において、覆っている細胞バンデージは、必ずしも接合されるべき表面の間に位置するように配置されなくても、向かい合う表面の接合部に隣接する細胞バンデージを提供することにより、個々の操作された軟骨の断片の統合を促進することができる。
【0030】
さらなる側面において、本発明は、医療材料のシートを含んでなる細胞バンデージを提供し、前記医療材料は、その上および/または中に分布する細胞を含む。好ましくは、前記細胞は軟骨産生細胞、または軟骨細胞、軟骨前駆細胞、もしくは幹細胞のような軟骨を産生することができる細胞である。適切な軟骨細胞の例は、関節軟骨、半月板、または鼻軟骨から得られる軟骨細胞である。適切な幹細胞の例は、ヒト骨髄間葉幹細胞である。前記細胞バンデージの他の好ましい特徴は、本発明の方法に関して述べられている通りである。特に好ましい実施形態において、前記医療材料のシートは、両方の表面または表面上に細胞を有し、前記医療材料の構造は、一度細胞バンデージが適切な位置に置かれると、前記バンデージに由来する細胞が隣接する組織へ外向きに遊走することを許容するように適応する(例えば、コラーゲン膜の場合、前記膜は両側が粗い必要がある)。好ましくは、前記膜は、時間が経つと容易に分解するようにも適応する。この側面において、前記膜は、上記で明示したように相対的に薄いことが望ましい。
【0031】
前記細胞バンデージは、組織の表面のいたる所に細胞を方向付けること、ならびにそれらの分布を調節することを可能にする。細胞が医療材料の表面上および/または骨組み中に保持される一方で、組織の表面のいたる所へのそれらの均一な分布は維持される。従って、組織表面全体のいたる所で細胞の均一な発達が促進される。前記バンデージは2つの組織表面の間の界面において用いられ、前記組織の間に挟まれ、前記2つの組織の統合を促進し、トランスプラントされた組織およびその周辺組織の界面において継続的な統合を達成することができる。前記表面を覆う細胞の密度は、医療材料への細胞の負荷を変化させることにより調節することができる。
【0032】
本発明は、軟骨と軟骨を接合することに制限されるものではない。同じ原理は、軟骨と骨、骨と骨、および靭帯と骨のような他の組織表面の接合に適用されてよい。細胞の型および医療材料は、接合されるべき組織に対して適したものが選択される。
【0033】
本発明の種々の側面の好ましい特徴は、相互に必要な変更を加えることによる。
【0034】
本発明の実施形態について、図を参考にして非限定的な例により単純に述べる。
【0035】
図1は、細胞バンデージを試験するためのモデルシステムを示す。パネルaは、細胞バンデージの使用を示す図である。パネルbの写真は、縫合後短時間のモデルの例である。パネルcの写真は、8週間の培養後のモデルの例である。
【0036】
図2は、処理していない対照を示す。組織学的な切片において、細胞または細胞外マトリックスは、リング/コア界面において観察することができない。パネルaは、低倍率でのワンギーソン(Van Gieson)の染色であり、パネルbは、高倍率でのヘマトキシリンおよびエオシンである。
【0037】
図3は、トリプシン対照を示す。組織学的な切片において、リングとコアの間の界面におけるいくつかの弱いマトリックス構造が観察でき、前記コアおよびリングは、完全に接している。パネルaは、低倍率でのワンギーソンの染色であり;パネルbは、高倍率でのワンギーソンの染色である。パネルc(低倍率)およびパネルd(高倍率)において、軟骨の自然な自己発光を検出するために蛍光顕微鏡を使用し、これは、界面における弱いとぎれとぎれの間隙性の組織のみを示すものである。
【0038】
図4は、遊離細胞被覆対照の組織学を示す。マトリックス構造のいくつかの領域は、リングおよびコアの間の界面において組織学的な断面で観察することができるが、明白な組織の統合は見られない。パネルaおよびbはワンギーソンの染色であり、パネルcはヘマトキシリンおよびエオシンであり、全て高倍率である。
【0039】
図5は、遊離細胞被覆対照の細胞標識化を示す。被覆の効率を評価するために、コアを被覆する前に細胞を蛍光色素(PKH26)で標識化した。被覆してから3日後、それらをコア-リング構築物の凍結切片中において蛍光顕微鏡によりトレースした。蛍光顕微鏡は、コアが均一且つ効率的に被覆されていないことを示す。コアの一部は、大きな細胞の凝集塊で覆われ(矢印)、他の大部分は細胞が見られなかった。パネルaは低倍率であり、パネルbは高倍率である。
【0040】
図6は、組織が操作されたコアからの細胞の遊走を示す。PGA骨格に軟骨細胞を蒔き、コアの代わりにリングの内部に挿入し、培養するために6週間置いた。組織学的な分析は、骨格にインプラントされた細胞が隣接する軟骨のリングを分解し、周囲のマトリックス中に移動することができるという証拠を示す(パネルaは低倍率であり、矢印は遊走している細胞を指し;パネルbは高倍率である)。1つの実験において、PGAに蒔く前に細胞を蛍光色素で予め標識化した。パネルcにおいて、これらの細胞の大多数がPGA中に残っているが、いくつかは明らかにリング軟骨中に移動したことが見られる(矢印)。
【0041】
図7は、8週間培養した後の細胞バンデージの巨視的な外観を示す。細胞のないバンデージ(PGAのみ)である対照は統合に失敗し、それぞれの場合においてコアとリングの間に明確な空隙が存在した(パネルa)。細胞バンデージを用いて再挿入されたコアは、界面を完全に満たす介在性の組織を産生し、コアおよびリングにまたがって明瞭で大きな組織を連続的に産生する(パネルb)。1つの実験において、2つの分離したコア/リング構築物が、それらの間に細胞バンデージを用いることにより一緒に成長し、組織の堅固な統合を示す(パネルcおよびd)。
【0042】
図8は、8週間の培養の後の細胞バンデージの微視的な外観を示す。細胞バンデージを用いて再挿入されたコアは、界面を完全に満たす介在性の組織を産生し、コアおよびリングにまたがって効果的な統合を生じる。ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された組織学的な切片の代表的な例は、パネルaおよびbにおいて高倍率で示す。パネルaにおいて、バンデージからの細胞がコアおよびリングの組織へと移動した証拠を示す(矢印)。
【0043】
図9は、硝子軟骨または半月板軟骨の細胞バンデージサンドイッチモデルを示す図である。
【0044】
図10は、40日の培養の後の硝子軟骨サンドイッチモデルの巨視的な外観を示す。2つの分離したサンドイッチ構築物が、同じペトリ皿中に見られる。これらのうちの1つは、2つの硝子軟骨に対して細胞バンデージの位置を示すために標識化されている。
【0045】
図11は、軟骨の統合において、コラーゲン膜の表面が粗いことの影響を示す。1mmコラーゲン膜に蒔かれたウシの鼻軟骨細胞を、2つの鼻中隔硝子軟骨の間に置き、40日間培養した。低倍率での組織学的な分析(×10、パネルA)は、それらが隣接する軟骨と相互作用する方法において、粗い表面と滑らかな表面の間での明白な違いを示す。高倍率(×20)において、滑らかな表面では、軟骨と区別する明瞭な境界線を有することが見られ、細胞の遊走は明らかに起こっているにもかかわらずあまり統合していないことを示す(パネルB)。しかしながら、粗い表面では、隣接する軟骨との明瞭な境界は見られず、効果的な統合を示す(パネルC)。
【0046】
図12は、軟骨の統合におけるコラーゲン膜の厚さの影響を示す。1mm(厚い)または0.5mm(薄い)のコラーゲン膜に蒔かれたウシの鼻軟骨細胞を、2つの鼻中隔硝子軟骨の間にそれぞれ置き、20日間培養した。組織学的な分析は、厚い膜の場合、この時点では統合の証拠は見られないが、薄い膜の粗い表面において、効果的な統合が見られる。
【0047】
図13は、半月板全体の器官培養モデルを示す図である。
【0048】
図14は、45日間培養した後の半月板軟骨全体の器官モデルの巨視的な外観を示す。
【0049】
図15は、40日培養した後の幹細胞から作られた細胞バンデージを用いたサンドイッチモデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。明瞭な境界線がなく、優れた統合を示すことに注意されたい。
【0050】
図16は、45日間培養した後の半月板全体の器官培養モデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。界面の組織の、周囲の半月板組織との類似性に注目されたい。
【実施例】
【0051】
例1
方法
軟骨移植片
天然の軟骨プラグ(直径8mm)を、皮膚の生検パンチ(Schuco International LondonLtd)を用いて成体のウシの鼻軟骨から採取した。ディスク(disk)は直径8mm×厚さ4mmであり、鼻中隔の中央から得られた。それらをリン酸で緩衝した生理食塩水(PBS)ですすぎ、10×ペニシリン/ストレプトマイシンおよびフンギゾンを加えたPBS中で20分間インキュベートした。前記ディスクを、後の実験のために、10%FCSを含有するDMEM培地(完全培地)中に保持した。皮膚パンチは、8mmのディスク中において直径3mm(または細胞バンデージを用いる時は4mm)のコアを作るためにも用いた。残りの軟骨は、単層の軟骨細胞を作るために用いた。
【0052】
実験計画
この研究で用いたモデルは、リング軟骨の集合中のコアである(図1)(Obradovic et al., 2001)。前記コアは、リング中にプレスばめされ、♯4-0シルクおよびカッティングFS-3針を用いて縫合した。コア-リング界面からできるだけ遠くに1または2のステッチを適用した。一連の対照を、細胞バンデージと比較するために用いた。第1の対照において(n=10)、コアおよびリングは、界面における細胞被覆または充填なしで構築した。第2の対照において、コアおよびリングは、構築の前にトリプシン(0.25% w/v; シグマ社製)で処理した。第3の対照において、コアをマトリックスなしの軟骨細胞で被覆した。それらは、コアおよびリングの調製の後に、残留する軟骨から酵素的に分離した(Kafienah et al., 2002)。前記細胞は、数を増やすためにFGF-2(10ng/ml)を含有する完全培地中で培養し、培地中でそれらの脱分化を阻害した(Martin et al,. 1999)。被覆の日、培養する軟骨細胞をトリプシン化し、数え、完全培地中に500,000細胞/mlで懸濁した。1%アガロースゲルの薄層で被覆した6ウェルプレート中、内側のコアを細胞懸濁液中でインキュベートした。前記プレートを、穏やかに回転する台の上で24時間インキュベートした。いくつかの場合において、前記コアをトリプシン(0.25% w/v 20分間)で前処理し、細胞の付着を阻害し得るプロテオグリカンを除去した(Hunziker et al., 1998)。第4の対照において、未成熟の組織を操作した軟骨がコアとして用いられる。ポリグリコール酸(PGA)骨格(幅4mm×厚さ2mmのディスク)に、我々が確立した方法により軟骨細胞を蒔いた(Kafienah et al., 2003; Kafienah et al., 2002)。細胞-骨格構築物をリング穴に挿入し、上記のように縫合した。
【0053】
細胞バンデージの発明は、コアおよびリングの間にPGA骨格を用いることにより例示される。PGA骨格(幅1cm×厚さ2mm)には、上述したように細胞を蒔いた(Kafienah et al., 2002)。前記細胞-骨格構築物は、細胞を蒔いた後、コアとリングの間にまっすぐに挟まれ、構築物全体を、上述したように縫合した。細胞を蒔いていない骨格を対照として用いた。
【0054】
全ての場合において、構築された移植片は、FGF-2を含有する増殖完全培地中で4日間培養し、続いてインスリン(10mg/mL;シグマ社製)およびアスコルビン酸(50mg/mL;シグマ社製)を含む完全培地からなる分化培地で培養した。前記培地は、2〜3日毎に補充した。
【0055】
細胞標識化
被覆の効果を評価するため、および細胞の遊走をトレースするために、軟骨細胞を蛍光色素PKH26(シグマ社製)を用いて標識した。標識の方法は、いくつかの修正を伴って製造業者のプロトコルに従って行った。簡単に言うと、トリプシン放出の後、10×106細胞をカルシウムおよびマグネシウムを含有しないPBS中で一度洗浄し、標識キット中に製造者から提供される500μlの緩衝液C中に再懸濁した。前記細胞懸濁液を希釈液中でPKH26を含有する標識溶液500μlと混合し、最終濃度を最適化した。標識化は、25℃で8分間行った。反応は、1mLのFBSを加えることにより停止した。ペレットを新しい試験管に移し、完全培地中で4回洗浄した。細胞の生存度をトリパンブルーにより評価し、ほぼ100%であった。
【0056】
組織学的および免疫組織化学的な分析
4週または8週において、前記移植片を10%の中性に緩衝したホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、切片化した(厚さ8μm)。切片を、プロテオグリカンに対してサフラニン-Oで、形態学に対してH&Eで、コラーゲンに対してワンギーソンで標準的なプロトコルに従って染色した。蛍光標識した細胞で被覆された移植片は、ドライアイスを用いて直ちに凍結し(4〜8週の時点で)、組織は、切片化する前に−70℃で保存した。蛍光標識された細胞で被覆された移植片に対して、O.C.T.化合物を用いて凍結組織を固定した。8μmの切片を、凍結切片を用いて調製した。スライドを少なくとも1時間、室温で風乾し、1〜2滴のシアノアクリレートを用いて固定した。
【0057】
画像収集および分析
スポットカメラおよびスポットソフトウェアバージョン3.0.4(Diagnostic Instruments Sterling Heights,MI)を用いてデジタル画像を収集した。
【0058】
結果
細胞バンデージと比較するために用いた対照について、以下に概要を述べる:
1. 無処理の対照(コアを細胞バンデージなしで再挿入した)
2. トリプシン対照(細胞バンデージなし;他で述べた統合の代替のメカニズムとして、細胞バンデージの代わりに0.25% w/vのトリプシンでコアおよびリングを前処理した)
3. 遊離細胞被覆対照(細胞バンデージなし; 24時間プレインキュベートしたコアを軟骨細胞と共に500,000/mlで培養培地に懸濁し、遊離細胞で軟骨の表面を被覆した)
4. 組織を操作したコア(軟骨のコアの代わりに、PGAのディスク上の操作された軟骨をリングに挿入した)。
【0059】
無処理の対照
細胞、バンデージ、またはトリプシン処理なしで再挿入されたコアは、周囲の軟骨と統合することができない。図2における組織学的な切片は、界面に明瞭な空隙を有する軟骨の断片間の相互作用の形跡がないことを示す。
【0060】
トリプシン対照
トリプシンで処理し、その後再挿入したコアは、リング組織と統合する弱い能力を示した。コアとリングが完全に接触した介在性のマトリックスのいくつかの形成があるが、マトリックスの集積は、8週間の培養の後でさえ大規模ではなかった(図3)。
【0061】
遊離細胞被覆対照
軟骨細胞と共にプレインキュベートされ、その後再挿入されたコアは、組織の周囲に局在する斑点においていくつかのマトリックス形成の形跡を示したが、リングおよびコアの統合の形跡はなかった(図4)。この理由は、被覆細胞を蛍光色素で予め標識することにより確認された。このように、被覆細胞が目立たない凝集塊でコア組織上に移動し、リング組織との相互作用が起こり得る限局的な領域を作ることは明白であるが、効果的な組織の統合は生じない(図5)。これは、統合を達成するためには、軟骨表面の周囲を細胞でより均一に被覆する方法が必要であり、それによりこれらの細胞と周囲の軟骨の間の密接な相互作用が可能になることを示す。
【0062】
組織を操作したコア
本発明は、組織に移動させるために細胞を蒔くことができる医療材料の骨格を用いることにより、細胞をどのように軟骨の表面に輸送するのかという問題を解決する。原理の根拠として、PGA上に軟骨細胞を蒔くことにより組織が操作されたコアが作られ、これを本来の軟骨のコアの代わりにリングにインプラントした。このようにすると、軟骨細胞が周囲の軟骨マトリックスを分解し、そこへ遊走する明確な証拠を観察できる(図6)。本発明者の仮説は、これらの移動する細胞が新しい軟骨を合成し、それらが遊走することを介して空隙を充填するというものである。
【0063】
細胞バンデージ
本発明の最終試験は、図1に示したように、2つの軟骨の間に挟まれた細胞バンデージを使用することである。細胞を含まないPGAを用いた対照実験においては、軟骨の統合は見られなかったが(図7a)、細胞バンデージを含む培養においては、巨視的(図7)にも微視的(図8)にも、よい軟骨の統合の非常に明瞭な証拠が見られた。
【0064】
例2.空隙を充填するのではなく空隙を閉合するのに最も適した骨格のパラメーターの決定
方法
我々は、2つのウシの鼻中隔硝子軟骨をそれらの間の細胞バンデージと一緒に配置した、軟骨の統合に対するサンドイッチモデルを用いた(図9)。一連の実験のために、厚い(1mm)または薄い(0.5mm)コラーゲン膜に蒔いたウシの鼻軟骨細胞からなるバンデージを「ゲイストリッヒ社」から得た。これらの膜は、それぞれ、「粗い」表面および「滑らかな」表面を有する。前記サンドイッチは、ステープルクリップを用いて一緒に保持した(図10)。40日の培養までに、統合についての巨視的な証拠が見られた(図10)。
【0065】
結果
表面の粗さおよび統合
我々は、骨格の外の細胞の周辺組織へのより早い移動を促進することにより、粗い表面が統合を促進するという仮説を試験した。厚い膜を用いた場合、40日の培養までに、組織学的なレベルで、コラーゲン膜の粗い表面と硝子軟骨との界面において統合の明瞭な証拠が見られ、一方、滑らかな表面は、統合のわずかな証拠しか見られなかった(図11)。しかしながら、より長い培養時間の後には統合を生じることが予想されるという滑らかな表面からの細胞の遊走の証拠も見られた。これらの発見は、40日以内に軟骨細胞は粗い表面の外へ遊走して組織の統合を促進する一方、滑らかな表面においては、効果的な統合の前の細胞の遊走がまだ進行中であることを示唆する。
【0066】
膜の厚さおよび統合
我々は、薄い骨格は占有するスペースがより少ないため、厚い骨格よりも早い統合を促進するという仮説について試験した。20日間の培養の後、粗い表面において、厚い骨格では軟骨の統合の証拠が見られなかった一方、薄い骨格では、既に効果的な統合が誘導されていた(図12)。これらの発見により、統合(空隙の除去)が目的である場合、薄い骨格が最も効果的であることが確認された。
【0067】
例3.硝子軟骨および半月板軟骨の修復に最も適した細胞型の決定
方法
我々は、ウシ硝子軟骨またはヒツジ半月板軟骨を用いた、図9および10に示した軟骨統合のためのサンドイッチモデルを使用した。それぞれの場合において、我々は、ウシ/ヒツジ関節軟骨軟骨細胞、ヒツジ半月板繊維軟骨細胞軟骨細胞、ウシ鼻軟骨細胞、またはヒト骨髄間葉幹細胞の使用を比較した。我々は、半月板軟骨修復の全体の器官モデルも使用した。2つの切り口は、半月板全体において作られ、細胞バンデージがそれぞれに挿入された(図13)。適切な位置にバンデージを保持するために、ステープルクリップを用いた。
【0068】
結果
軟骨サンドイッチモデルにおける細胞型
硝子軟骨および半月板軟骨の両方のサンドイッチシステムにおいて、鼻軟骨細胞または幹細胞を用いた場合に最もよい結果が得られた。関節および半月板の軟骨細胞は常に劣っていた。しかしながら、半月板軟骨の修復に対して、幹細胞は特に効果的な統合を生じるように見えた(図15)。それ故、鼻軟骨細胞または幹細胞は硝子軟骨または半月板軟骨の統合に好ましい細胞である。
【0069】
半月板全体のモデルにおける細胞型
幹細胞は、周囲の半月板組織と非常に似ている界面組織の産生を伴い、他の細胞型と比較してより優れた統合を生じた(図16)。それ故、幹細胞は、半月板軟骨の統合に対して好ましい細胞である。
【0070】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、細胞バンデージを試験するためのモデルシステムを示す。
【図2】図2は、処理していない対照を示す。
【図3】図3は、トリプシン対照を示す。
【図4】図4は、遊離細胞被覆対照の組織学を示す。
【図5】図5は、遊離細胞被覆対照の細胞標識化を示す。
【図6】図6は、組織が操作されたコアからの細胞の遊走を示す。
【図7】図7は、8週間培養した後の細胞バンデージの巨視的な外観を示す。
【図8】図8は、8週間の培養の後の細胞バンデージの微視的な外観を示す。
【図9】図9は、硝子軟骨または半月板軟骨の細胞バンデージサンドイッチモデルを示す図である。
【図10】図10は、40日の培養の後の硝子軟骨サンドイッチモデルの巨視的な外観を示す。
【図11】図11は、軟骨の統合において、コラーゲン膜の表面の粗さの影響を示す。
【図12】図12は、軟骨の統合におけるコラーゲン膜の厚さの影響を示す。
【図13】図13は、半月板全体の器官培養モデルを示す図である。
【図14】図14は、45日間培養した後の半月板軟骨全体の器官モデルの巨視的な外観を示す。
【図15】図15は、40日培養した後の幹細胞から作られた細胞バンデージを用いたサンドイッチモデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。
【図16】図16は、45日間培養した後の半月板全体の器官培養モデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。
【発明の説明】
【0001】
本発明は、概して、損傷を受けた組織の治療または修復に関する。
【0002】
本発明は、軟骨組織の向こう側および中へ細胞を方向付けるための方法として好ましい実施形態を参考にして述べる。しかしながら、本発明は、他の組織の工学的な適用において同様の有用性を見出しており、組織表面への調節された細胞分布が必要とされる。
【0003】
関節軟骨は、体の滑膜性の連結において、関節を成している骨の終わりを覆っている。それは、コラーゲン線維、プロテオグリカンマトリックス、および軟骨細胞(軟骨マトリックスを産生する細胞)で構成される。成熟した関節軟骨は、変性または損傷後に再生するための能力が限られている。成熟した関節軟骨における病変は、多くの関節疾患、変形性関節症(OA)、外傷、および離断性骨軟骨炎の過程の間に生じる(Hunziker, 2002)。外傷性の病変は、関節内の骨折、強い強度の衝撃、またはそれによる靭帯損傷の結果として、直接的または間接的に生じる可能性がある(Buckwalter et al., 1998)。関節軟骨の病変は、一般的に治癒しないか、またはある一定の生物学的な条件下で部分的にのみ治癒する。それらは、しばしば障害と付随し、関節痛、ロッキング現象、および機能の減少または障害のような症状と付随する。さらに、そのような病変は、一般的に、OAの重篤な形態へと進行すると考えられている(Gilbert, 1998; Hunziker, 2002)。
【0004】
関節軟骨内の組織学的および巨視的な病変の治癒を誘導するために、多数の実験的および臨床的な試みがなされており、永続的な本質の構造的および機能的にコンピテントな修復組織を再構築する方向に向けられている。
【0005】
2つの主要な生物学的な問題が、関節軟骨の修復に付随する。第1の問題は、関節軟骨と同じ構造的および機械的性質を有する修復組織の構築である(Shapiro et al.,1993)。第2の問題は、宿主と修復組織の間の界面にまたがってうまく組み込むことを達成することである。
【0006】
長期の修復または関節軟骨の再生に対して重要な必須条件は、移植した軟骨または局所的に誘導された修復組織を、レシピエント部位において天然の軟骨と統合することである(Ahsan et al., 1999; Hunziker, 1999)。組み込みの軟骨修復は、軟骨-軟骨界面領域におけるマトリックス産生細胞の欠如により阻害されるであろう(Ahsan et al., 1999; Reindel et al., 1995)。無細胞は、病変縁からの軟骨細胞の減少、無血管、または多分化能を有する前駆細胞の欠如の組み合わせによる。
【0007】
天然の軟骨の修復を促進するために臨床で現在用いられている方法には、壊死組織切除法、肋軟骨下の穿孔またはミクロフラクチャー(microfracture)法およびモザイクプラスティー(mosaicplasty)法が含まれる。そのような技術は、通常、時間と共に機械的に弱まる線維軟骨の修復組織を生じる。さらに重要なことは、産生した修復組織の質をモニターする方法がないことである。
【0008】
自己の軟骨細胞の移植(ACI)は、細胞に基づく関節軟骨欠損の治療の第1世代である。それは、体重を支えていない領域から採取した自己の関節軟骨細胞を広げること、ならびにそれらを骨膜またはコラーゲン弁の下の欠損にインプラントすることに基づく(Gillogly, 2003)。目標は、それらが軟骨を形成できるまでインプラントした細胞を適切な場所に保持することである。
【0009】
軟骨組織工学の第2世代は、欠損を充填することができる未成熟の、移植可能な構築物を産生するために、広がった軟骨細胞を蒔いた生物分解性の骨格を用いることに関する。
【0010】
しかしながら、ACIおよび未成熟の構築物は、限局している欠損の治療にのみ用いることができる。これらの方法は、関節軟骨の減少に関する変形性関節症の典型である非限局的な病変の治療には適さない。非限局的な病変のよりよい治療のためには、予め形成された成熟した軟骨の「シート」を用いて病変全体を再舗装することが望ましい。従って、変形性関節症により引き起こされたような軟骨の欠損をいつでも充填できる、成熟した、機能的および機械的に健全なインプラントを作り出すために、インビトロで成熟した軟骨組織を操作することに関心がある。一度病変上に位置させると、操作された成熟した軟骨を病変の周囲にある現存の軟骨と統合して、丈夫な関節表面を提供する統一された組織を形成する必要がある。修復組織と周囲の天然の軟骨との統合は、軟骨組織の技術的な戦略の発展において重要なステップである。最初に、縫合またはフィブリン接着剤を用いて、操作された軟骨インプラントの一時的な固定が達成されてよい。しかしながら、インプラントおよび宿主軟骨の間には明確な切れ目があり、失敗の中心を形成する(Hunziker, 1999)。インビボにおいて、隣接する表面の統合が容易にまたは矛盾なく起こることを示す明確な証拠は、文献中にはない。これは、コラーゲン原繊維性および亀裂構造により特徴付けられる欠陥の、乏しい環境により説明することができる(Donohue et al., 1983; Thompson et al., 1991)。さらに、鈍的外傷が、欠陥のある壁体の軟骨細胞のアポトーシスを引き起こすことが示されている(Redman et al., 2004)。
【0011】
本発明者は、連続的なマトリックスを達成するために、軟骨を合成する能力を有する細胞をインプラントと宿主組織との間に遊走させる必要があるという仮説を立てている。天然のまたは操作された軟骨の欠陥部分に存在する軟骨細胞は、このように遊走しそうにない。以前の研究では、操作された軟骨の表面を単離した軟骨細胞で覆うことを提案している(Peretti et al., 1999; Peretti et al., 2003; Schinagl et al., 1999)。これらの細胞が、トランスプラントと周囲の軟骨との間の架橋を形成し得ることは初めに述べた。さらなる最近の知見では、前記軟骨細胞は、実際に、隣接する軟骨を破壊し、新しい軟骨組織を再生するように作用することが示唆されている。しかしながら、トランスプラントを覆う軟骨細胞は、控えめな「小さな架橋」がインプラントと周囲の組織との間に形成される結果として、凝集塊へと凝集する傾向を有することが見出されたため、この戦略は成功が限られている。これらの小さな架橋は、修復された軟骨について、移植片と周囲の組織との間に、関節において受ける機械的な応力に抵抗するのに十分強固な結合を形成しない。
【0012】
本発明者は、レシピエント部位においてインプラントされた軟骨と天然の軟骨との改善された統合を達成するための鍵は、表面に細胞を送達する方法および一度所定の位置に置かれた場合にそれらを遊離させる方法を見出すことであると認識している。
【0013】
従って、第1の側面において、本発明は、組織の表面に細胞を送達するための方法を提供し、前記方法は、医療材料のシート上および/または中に細胞を分布させることにより細胞バンデージを形成することならびに表面に前記細胞バンデージを適用することを含んでなり、ここで、組織の表面に前記細胞バンデージを適用した後、前記細胞が前記細胞バンデージから遊離されることにより、医療材料を介して隣接する組織に遊走させることができる。
【0014】
ここで用いられる場合、「細胞バンデージ」という用語は、組織の表面に対する密集した付加において細胞を適用するための媒体を意味するものであり、医療材料の上または中に分布した細胞を含んでなる。簡単に言うと、前記細胞バンデージは、シート状である。
【0015】
ここで用いられる場合、「医療材料」という用語は、体の組織、臓器、もしくは機能を治療、増強、または置換する方法または方法の一部として使用され得る、合成または天然の物質(薬剤以外)を意味する。好ましくは、前記医療材料は生分解性であり、すなわち、体内で無期限に持続せず、残留物が存在する可能性はあるが次第に分解される。細胞が付着するか、または中に保持され得る任意の医療材料を使用することができる。適切な医療材料の例には、PGA、PGLA、およびキトサンが含まれる。合成医療材料に加えて、ここで説明するように、コラーゲンのような天然の医療材料が使用されてもよい。前記医療材料は、該医療材料が適切な位置に保持され、細胞が増殖/発達するのに十分長く持続することを提供する繊維の懸濁液のような非固形の担体(ゲル様)または骨格であってよい。骨格は、例えば縫合により適切な場所に保持されてよく、相対的に長い半減期を有する。前記医療材料は、本質的に粘着性であってよく、望ましい位置において細胞バンデージの保持を助ける。例えば、細胞に合図することができる物質を使用することにより、潜在的に生物学的な刺激を与えることもできるが、前記医療材料の主要な機能は、物理的なキャリアとしてのものである。
【0016】
以下の記述において、組織、特に軟骨の外科的な「インプランテーション」および「トランスプランテーション」について言及する。インプランテーションは、体外で培養した、操作された組織(インプラント)の外科的な導入を意味するものであり、一方、トランスプランテーションは、体の他の場所から移動させた組織(トランスプラント)の外科的な導入を意味するものである。前記トランスプラントは、患者またはドナーに由来してよい。本発明は、組織がどのようにして得られたかに関わりなく一般的な適用についてのものである。従って、トランスプラントされた組織についての参考文献は、インプラントされた組織に対して同じように適用されてよく、逆も同じである。
【0017】
第2の側面において、本発明は、2以上の組織を結合するための方法を提供し、該方法は、接合されるべき表面と密に接触する細胞バンデージを提供することを含んでなり、前記細胞バンデージは、医療材料のシートを含んでなり、前記医療材料は、その上および/または中に分布した細胞を有する。好ましくは、前記細胞バンデージは、接合されるべき組織間の界面に提供される。
【0018】
好ましくは、前記細胞は、軟骨産生細胞、または軟骨細胞、軟骨前駆細胞、もしくは幹細胞のように軟骨を産生することができる細胞であり、前記組織は軟骨質である。適切な軟骨細胞の例は、関節軟骨、半月板、または鼻軟骨から得られる軟骨細胞である。適切な幹細胞の例は、ヒト骨髄間葉幹細胞である。好ましくは、前記細胞は、軟骨産生細胞が、細胞バンデージおよび接合されるべき組織のそれぞれの表面の間の界面全体にわたって、隣接する組織に均一な態様で提供されるために、細胞バンデージの体積全体に、または細胞バンデージのそれぞれの側の表面全体にわたって平等に分布する。この方法において、細胞バンデージから各隣接組織への軟骨産生細胞の遊走が促進され、表面全体にわたって界面における継続的な遊走が生じる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、前記細胞バンデージは、軟骨細胞、軟骨前駆細胞、または幹細胞を含んでなり、ある軟骨組織を他と統合するために用いられる。好ましくは、前記細胞は、治療されるべき患者から単離される。前記細胞は、操作された軟骨を産生するために用いられるものと同じ出所であるか、または任意のマトリックスの細胞型もしくは他の細胞型のような遺伝的なソースに由来してよい。関節軟骨における骨関節炎の病変の修復において、前記細胞バンデージは、外科的にインプラントされた操作された軟骨またはドナーの組織からトランスプラントされた天然の軟骨と隣接する天然の軟骨とを、レシピエント部位で統合するために用いられてよい。前記細胞バンデージはシートの形態であるため、インプラントまたはトランスプラントは、例えば、インプランテーションの前に細胞バンデージで包まれるか、または細胞バンデージが、インプランテーションの前に病変部に置かれてよい。前記インプラントおよび細胞バンデージは、例えば縫合によって適切な場所に保持される。インプラントが細胞バンデージで包まれる場合、前記細胞バンデージは、適切な場所でインプラントを保護し、ならびにインプラントおよび病変に隣接する天然の組織の表面のいたる所に軟骨細胞または他の細胞を分布させるように作用する。前記シートは、インプラント/トランスプラントおよび病変に隣接する組織の形に従うため、反対の組織表面に近い配置で細胞を保持する。前記シートは、インプラントと宿主組織の間の間隙を完全に満たすことができるので、活発に分裂する細胞の軟骨-軟骨界面への制御された送達を可能にする。前記方法は、反対側の表面のいたる所に新しい軟骨の均一な発達を可能にし、2つの組織間の界面全体のいたる所でインプラントおよび周辺組織の継続的な統合を可能にするため、生化学的に安定な組織および丈夫な軟骨表面を提供することができる。
【0020】
前記細胞バンデージは、活発に分裂している細胞の軟骨-軟骨界面への制御された送達のための機構を提供し、それは軟骨を合成する能力を有する。例に示すように、前記細胞バンデージは、結合(接合)されるべき各組織へ遊走する軟骨産生細胞を提供することにより、間隙性のスペースの閉合を達成するため、効果的な統合を生じる。本発明者は、前記細胞バンデージが、周辺軟骨のマトリックスを分解することができ且つそこへ遊走することができる軟骨産生細胞の源を提供し、遊走させることを介して間隙を満たすための新しい軟骨を合成することにより、持続性のマトリックスを産生すると仮定する。本発明は、それ故、間隙が閉合していることにより特徴付けられてよく、ここでの接合されるべき組織表面は、細胞バンデージから各隣接組織への軟骨産生細胞の遊走により他方と効果的に統合しており、間隙の充填と対立するように、細胞バンデージの医療材料支持成分の生分解を伴い、ここでの新しい組織は、隣接する組織の表面の間の間隙を満たすように産生される。本発明の間隙を閉合する作用は、接合されるべき組織のそれぞれをその隣接する組織と統合する持続性のマトリックスを提供し、単に変性または外傷により生じた間隙を充填するために新しい組織を産生する先行技術の間隙を充填する修復の戦略よりも、より優れた機械的安定性(耐久性)を伴う修復を生じる。
【0021】
本発明の間隙を閉合する成果に十分に影響を及ぼすために、細胞バンデージから遊離される軟骨産生細胞は、軟骨を再生する隣接する組織へと遊走するのみならず、それらは、細胞バンデージの医療材料が分解するときにその骨格中へも遊走し、軟骨を再生すると解されるであろう。この方法において、持続性のマトリックスが隣接する組織表面のいたる所に形成される。
【0022】
好ましくは、前記細胞バンデージは相対的に薄い。好ましくは、1.0 mmより薄い。より好ましくは、前記細胞バンデージは0.9mm、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mm、または0.4mmより薄く、さらに増加したオーダーが好ましい。前記医療材料の物理的性質は、強度を欠くことにより前記帯の完全性が損なわれる範囲外で、最小の厚さを決定するであろう。0.5mmの厚さを有する細胞バンデージは、望ましい性質を有することが見出されている。先行技術の間隙を充填する組織を用いた修復の戦略は、病変により生じた間隙をふさぐため、且つマトリックスの産生の間、細胞を保持するために、相対的に厚い骨格が必要である。対照的に、本発明の間隙を閉合する方法は、相対的に薄い医療材料のシートを必要とするため、軟骨産生細胞の隣接組織(例えば、インプラントおよび本来の軟骨)への遊走の後に前記医療材料は容易に分解され、接合されるべき組織の実質的に継続的な統合が生じる。実際に、前記細胞バンデージは徐々に分解され、統合した組織により置換される。
【0023】
好ましくは、前記細胞バンデージの医療材料は、統合される組織と接する表面において開放性の構造を有しており、例えば、コラーゲン膜の場合、表面におけるコラーゲン繊維の「波」が相対的にゆるく、膜上に蒔かれたコラーゲン産生細胞が隣接する組織に容易に遊走することを可能にする。微視的なレベルにおいて、このように開放的でゆるい骨格は「粗い」形であり、以下の例においては、粗い表面と呼ぶ。商業的に入手可能な医療材料の骨格は、それらの意図された使用と一致する特異的な物理的特徴を有する。例えば、「ゲイストリッヒ(Geidtlich)社」から入手可能なコラーゲン膜は、「粗い」表面および「滑らかな」表面を有する。微視的なレベルにおいて、前記粗い表面のコラーゲン繊維は、密接に充填されておらず、空隙を有し、可変配向性である繊維の開放性の構造を提供する。それに対して、滑らかな表面において、前記繊維はより高密度に充填されており、表面に平行に位置する。1つの粗い表面および1つの滑らかな表面を有する膜は、自己の軟骨細胞のインプランテーション治療に適しており、ここでのコラーゲン膜の目的は、インプラントされた細胞を適した位置に保持することである。膜の滑らかな表面は、修復されるべき病変部位からの細胞の逸脱を妨げるためのバリヤーとして働く。
【0024】
本発明者は、粗い表面の解放的な構造により、細胞バンデージ中の軟骨産生細胞が前記細胞バンデージから周辺組織へより容易に遊走できることを見出した。医療材料の構造の開放の度合い、見かけ上の表面の粗さは、それ故、統合に対する制御因子である。それ故、好ましくは、前記細胞バンデージは、接合されるべき表面とのそれぞれの界面において粗い表面を有し、前記バンデージの各表面には軟骨産生細胞が存在し、隣接する組織へ軟骨産生細胞が容易に移動することができ、接合されるべき組織の界面の真向こうに対して効果的な統合を可能にする。
【0025】
硝子軟骨モデルを用いた本発明者の結論は、本発明の方法の間隙を閉合する目的のために、細胞バンデージのための医療材料の理想的な性質は、接合されるべき組織間の間隙ができるだけ最小になるように相対的に薄い必要があり、その構造は、上に蒔かれた軟骨産生細胞をインプランテーションまで保持するために十分な粘着性を有する必要があるが、細胞バンデージからの細胞の周辺組織への移動を妨げるほどの強い粘着性は必要ないことを示す。他の言葉で言うと、前記医療材料は、インプランテーション後の組織への細胞の迅速な遊離を可能にするように、物理的または化学的に適合させる。細胞バンデージからの細胞の遊離速度が特定の適用に合うように製造されてよい。適切な性質は、ゲイストリッヒ社製コラーゲン膜の粗い表面により表される。
【0026】
好ましくは、細胞バンデージの医療材料シートは、両面の上および/または中に細胞を有し、接合されるべき組織へと遊走することができる細胞が、接合されるべきそれぞれの組織を有する界面に現れるように両面が粗い。
【0027】
本発明は、骨関節炎の病変の修復においてインプラントまたはトランスプラントされた軟骨を統合するための方法として、好ましい実施形態に対する参考文献を用いて上記で述べられているが、本発明が、他の疾患または外傷から生じる損傷した軟骨の修復においても同様に適用可能であることは、当業者にとって自明である。
【0028】
前記細胞バンデージは、操作された2以上の軟骨を統合し、インビトロで培養するよりも大きなサイズの単一化された断片である操作された軟骨を形成するために用いられてもよい。インビトロで培養することができる軟骨組織の大きさは、物質輸送限界により制限され、すなわち、組織の断片が一度ある大きさに到達すると、中心の細胞が栄養分(例えば酸素)および老廃物を周囲の培地と交換することはもはや不可能となることを意味する。本発明の細胞バンデージを用いると、複数の操作された軟骨の断片を使用することおよび細胞バンデージ中にそれらを包むことによって、ジグソーパズルの方式でそれらが互いに統合するように誘導してより大きなシートを形成することにより、この制限を克服することが可能である。そのように形成された複合体の軟骨は、関節軟骨における病変を修復するために、本発明の細胞バンデージと一緒に適用されてよい。あるいは、複数の操作された軟骨の断片は、前記操作された軟骨の断片が互いに統合するようにならびに同時に天然の軟骨と統合するように細胞バンデージと一緒にインプラントされてよく、両方ともインビボで生じる。
【0029】
本発明の方法により修復することができるもう1つの傷害は、半月板の裂傷である。半月板軟骨は、膝の半月板で生じる。半月板の裂傷は、比較的一般的な傷害で、変形性関節症の後期の進行の高いリスクと付随する。この傷害は、裂傷を覆って細胞バンデージを置くことおよび例えば縫合により適切な場所にそれを保持することにより治療されてよい。この場合、前記方法により接合されるべき2つの表面は、同じ組織から生じる:それらは、裂傷により作られた内部表面である。前記細胞バンデージは、前記2つの表面の間にはさまれてよい(すなわち、裂傷に挿入されてよい)。あるいは、医療材料の支持により、軟骨産生細胞が裂傷に近い位置に保持される(例えば、裂傷を横切って固定される)ことでも十分である。本発明者は、細胞バンデージに由来する細胞が隣接する軟骨組織に浸潤することを観察した。従って、医療材料からのいくつかの細胞は、裂傷の領域に浸潤するであろうと思われる。同様に、上述した複合体の操作された軟骨を構築するための方法において、覆っている細胞バンデージは、必ずしも接合されるべき表面の間に位置するように配置されなくても、向かい合う表面の接合部に隣接する細胞バンデージを提供することにより、個々の操作された軟骨の断片の統合を促進することができる。
【0030】
さらなる側面において、本発明は、医療材料のシートを含んでなる細胞バンデージを提供し、前記医療材料は、その上および/または中に分布する細胞を含む。好ましくは、前記細胞は軟骨産生細胞、または軟骨細胞、軟骨前駆細胞、もしくは幹細胞のような軟骨を産生することができる細胞である。適切な軟骨細胞の例は、関節軟骨、半月板、または鼻軟骨から得られる軟骨細胞である。適切な幹細胞の例は、ヒト骨髄間葉幹細胞である。前記細胞バンデージの他の好ましい特徴は、本発明の方法に関して述べられている通りである。特に好ましい実施形態において、前記医療材料のシートは、両方の表面または表面上に細胞を有し、前記医療材料の構造は、一度細胞バンデージが適切な位置に置かれると、前記バンデージに由来する細胞が隣接する組織へ外向きに遊走することを許容するように適応する(例えば、コラーゲン膜の場合、前記膜は両側が粗い必要がある)。好ましくは、前記膜は、時間が経つと容易に分解するようにも適応する。この側面において、前記膜は、上記で明示したように相対的に薄いことが望ましい。
【0031】
前記細胞バンデージは、組織の表面のいたる所に細胞を方向付けること、ならびにそれらの分布を調節することを可能にする。細胞が医療材料の表面上および/または骨組み中に保持される一方で、組織の表面のいたる所へのそれらの均一な分布は維持される。従って、組織表面全体のいたる所で細胞の均一な発達が促進される。前記バンデージは2つの組織表面の間の界面において用いられ、前記組織の間に挟まれ、前記2つの組織の統合を促進し、トランスプラントされた組織およびその周辺組織の界面において継続的な統合を達成することができる。前記表面を覆う細胞の密度は、医療材料への細胞の負荷を変化させることにより調節することができる。
【0032】
本発明は、軟骨と軟骨を接合することに制限されるものではない。同じ原理は、軟骨と骨、骨と骨、および靭帯と骨のような他の組織表面の接合に適用されてよい。細胞の型および医療材料は、接合されるべき組織に対して適したものが選択される。
【0033】
本発明の種々の側面の好ましい特徴は、相互に必要な変更を加えることによる。
【0034】
本発明の実施形態について、図を参考にして非限定的な例により単純に述べる。
【0035】
図1は、細胞バンデージを試験するためのモデルシステムを示す。パネルaは、細胞バンデージの使用を示す図である。パネルbの写真は、縫合後短時間のモデルの例である。パネルcの写真は、8週間の培養後のモデルの例である。
【0036】
図2は、処理していない対照を示す。組織学的な切片において、細胞または細胞外マトリックスは、リング/コア界面において観察することができない。パネルaは、低倍率でのワンギーソン(Van Gieson)の染色であり、パネルbは、高倍率でのヘマトキシリンおよびエオシンである。
【0037】
図3は、トリプシン対照を示す。組織学的な切片において、リングとコアの間の界面におけるいくつかの弱いマトリックス構造が観察でき、前記コアおよびリングは、完全に接している。パネルaは、低倍率でのワンギーソンの染色であり;パネルbは、高倍率でのワンギーソンの染色である。パネルc(低倍率)およびパネルd(高倍率)において、軟骨の自然な自己発光を検出するために蛍光顕微鏡を使用し、これは、界面における弱いとぎれとぎれの間隙性の組織のみを示すものである。
【0038】
図4は、遊離細胞被覆対照の組織学を示す。マトリックス構造のいくつかの領域は、リングおよびコアの間の界面において組織学的な断面で観察することができるが、明白な組織の統合は見られない。パネルaおよびbはワンギーソンの染色であり、パネルcはヘマトキシリンおよびエオシンであり、全て高倍率である。
【0039】
図5は、遊離細胞被覆対照の細胞標識化を示す。被覆の効率を評価するために、コアを被覆する前に細胞を蛍光色素(PKH26)で標識化した。被覆してから3日後、それらをコア-リング構築物の凍結切片中において蛍光顕微鏡によりトレースした。蛍光顕微鏡は、コアが均一且つ効率的に被覆されていないことを示す。コアの一部は、大きな細胞の凝集塊で覆われ(矢印)、他の大部分は細胞が見られなかった。パネルaは低倍率であり、パネルbは高倍率である。
【0040】
図6は、組織が操作されたコアからの細胞の遊走を示す。PGA骨格に軟骨細胞を蒔き、コアの代わりにリングの内部に挿入し、培養するために6週間置いた。組織学的な分析は、骨格にインプラントされた細胞が隣接する軟骨のリングを分解し、周囲のマトリックス中に移動することができるという証拠を示す(パネルaは低倍率であり、矢印は遊走している細胞を指し;パネルbは高倍率である)。1つの実験において、PGAに蒔く前に細胞を蛍光色素で予め標識化した。パネルcにおいて、これらの細胞の大多数がPGA中に残っているが、いくつかは明らかにリング軟骨中に移動したことが見られる(矢印)。
【0041】
図7は、8週間培養した後の細胞バンデージの巨視的な外観を示す。細胞のないバンデージ(PGAのみ)である対照は統合に失敗し、それぞれの場合においてコアとリングの間に明確な空隙が存在した(パネルa)。細胞バンデージを用いて再挿入されたコアは、界面を完全に満たす介在性の組織を産生し、コアおよびリングにまたがって明瞭で大きな組織を連続的に産生する(パネルb)。1つの実験において、2つの分離したコア/リング構築物が、それらの間に細胞バンデージを用いることにより一緒に成長し、組織の堅固な統合を示す(パネルcおよびd)。
【0042】
図8は、8週間の培養の後の細胞バンデージの微視的な外観を示す。細胞バンデージを用いて再挿入されたコアは、界面を完全に満たす介在性の組織を産生し、コアおよびリングにまたがって効果的な統合を生じる。ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された組織学的な切片の代表的な例は、パネルaおよびbにおいて高倍率で示す。パネルaにおいて、バンデージからの細胞がコアおよびリングの組織へと移動した証拠を示す(矢印)。
【0043】
図9は、硝子軟骨または半月板軟骨の細胞バンデージサンドイッチモデルを示す図である。
【0044】
図10は、40日の培養の後の硝子軟骨サンドイッチモデルの巨視的な外観を示す。2つの分離したサンドイッチ構築物が、同じペトリ皿中に見られる。これらのうちの1つは、2つの硝子軟骨に対して細胞バンデージの位置を示すために標識化されている。
【0045】
図11は、軟骨の統合において、コラーゲン膜の表面が粗いことの影響を示す。1mmコラーゲン膜に蒔かれたウシの鼻軟骨細胞を、2つの鼻中隔硝子軟骨の間に置き、40日間培養した。低倍率での組織学的な分析(×10、パネルA)は、それらが隣接する軟骨と相互作用する方法において、粗い表面と滑らかな表面の間での明白な違いを示す。高倍率(×20)において、滑らかな表面では、軟骨と区別する明瞭な境界線を有することが見られ、細胞の遊走は明らかに起こっているにもかかわらずあまり統合していないことを示す(パネルB)。しかしながら、粗い表面では、隣接する軟骨との明瞭な境界は見られず、効果的な統合を示す(パネルC)。
【0046】
図12は、軟骨の統合におけるコラーゲン膜の厚さの影響を示す。1mm(厚い)または0.5mm(薄い)のコラーゲン膜に蒔かれたウシの鼻軟骨細胞を、2つの鼻中隔硝子軟骨の間にそれぞれ置き、20日間培養した。組織学的な分析は、厚い膜の場合、この時点では統合の証拠は見られないが、薄い膜の粗い表面において、効果的な統合が見られる。
【0047】
図13は、半月板全体の器官培養モデルを示す図である。
【0048】
図14は、45日間培養した後の半月板軟骨全体の器官モデルの巨視的な外観を示す。
【0049】
図15は、40日培養した後の幹細胞から作られた細胞バンデージを用いたサンドイッチモデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。明瞭な境界線がなく、優れた統合を示すことに注意されたい。
【0050】
図16は、45日間培養した後の半月板全体の器官培養モデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。界面の組織の、周囲の半月板組織との類似性に注目されたい。
【実施例】
【0051】
例1
方法
軟骨移植片
天然の軟骨プラグ(直径8mm)を、皮膚の生検パンチ(Schuco International LondonLtd)を用いて成体のウシの鼻軟骨から採取した。ディスク(disk)は直径8mm×厚さ4mmであり、鼻中隔の中央から得られた。それらをリン酸で緩衝した生理食塩水(PBS)ですすぎ、10×ペニシリン/ストレプトマイシンおよびフンギゾンを加えたPBS中で20分間インキュベートした。前記ディスクを、後の実験のために、10%FCSを含有するDMEM培地(完全培地)中に保持した。皮膚パンチは、8mmのディスク中において直径3mm(または細胞バンデージを用いる時は4mm)のコアを作るためにも用いた。残りの軟骨は、単層の軟骨細胞を作るために用いた。
【0052】
実験計画
この研究で用いたモデルは、リング軟骨の集合中のコアである(図1)(Obradovic et al., 2001)。前記コアは、リング中にプレスばめされ、♯4-0シルクおよびカッティングFS-3針を用いて縫合した。コア-リング界面からできるだけ遠くに1または2のステッチを適用した。一連の対照を、細胞バンデージと比較するために用いた。第1の対照において(n=10)、コアおよびリングは、界面における細胞被覆または充填なしで構築した。第2の対照において、コアおよびリングは、構築の前にトリプシン(0.25% w/v; シグマ社製)で処理した。第3の対照において、コアをマトリックスなしの軟骨細胞で被覆した。それらは、コアおよびリングの調製の後に、残留する軟骨から酵素的に分離した(Kafienah et al., 2002)。前記細胞は、数を増やすためにFGF-2(10ng/ml)を含有する完全培地中で培養し、培地中でそれらの脱分化を阻害した(Martin et al,. 1999)。被覆の日、培養する軟骨細胞をトリプシン化し、数え、完全培地中に500,000細胞/mlで懸濁した。1%アガロースゲルの薄層で被覆した6ウェルプレート中、内側のコアを細胞懸濁液中でインキュベートした。前記プレートを、穏やかに回転する台の上で24時間インキュベートした。いくつかの場合において、前記コアをトリプシン(0.25% w/v 20分間)で前処理し、細胞の付着を阻害し得るプロテオグリカンを除去した(Hunziker et al., 1998)。第4の対照において、未成熟の組織を操作した軟骨がコアとして用いられる。ポリグリコール酸(PGA)骨格(幅4mm×厚さ2mmのディスク)に、我々が確立した方法により軟骨細胞を蒔いた(Kafienah et al., 2003; Kafienah et al., 2002)。細胞-骨格構築物をリング穴に挿入し、上記のように縫合した。
【0053】
細胞バンデージの発明は、コアおよびリングの間にPGA骨格を用いることにより例示される。PGA骨格(幅1cm×厚さ2mm)には、上述したように細胞を蒔いた(Kafienah et al., 2002)。前記細胞-骨格構築物は、細胞を蒔いた後、コアとリングの間にまっすぐに挟まれ、構築物全体を、上述したように縫合した。細胞を蒔いていない骨格を対照として用いた。
【0054】
全ての場合において、構築された移植片は、FGF-2を含有する増殖完全培地中で4日間培養し、続いてインスリン(10mg/mL;シグマ社製)およびアスコルビン酸(50mg/mL;シグマ社製)を含む完全培地からなる分化培地で培養した。前記培地は、2〜3日毎に補充した。
【0055】
細胞標識化
被覆の効果を評価するため、および細胞の遊走をトレースするために、軟骨細胞を蛍光色素PKH26(シグマ社製)を用いて標識した。標識の方法は、いくつかの修正を伴って製造業者のプロトコルに従って行った。簡単に言うと、トリプシン放出の後、10×106細胞をカルシウムおよびマグネシウムを含有しないPBS中で一度洗浄し、標識キット中に製造者から提供される500μlの緩衝液C中に再懸濁した。前記細胞懸濁液を希釈液中でPKH26を含有する標識溶液500μlと混合し、最終濃度を最適化した。標識化は、25℃で8分間行った。反応は、1mLのFBSを加えることにより停止した。ペレットを新しい試験管に移し、完全培地中で4回洗浄した。細胞の生存度をトリパンブルーにより評価し、ほぼ100%であった。
【0056】
組織学的および免疫組織化学的な分析
4週または8週において、前記移植片を10%の中性に緩衝したホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、切片化した(厚さ8μm)。切片を、プロテオグリカンに対してサフラニン-Oで、形態学に対してH&Eで、コラーゲンに対してワンギーソンで標準的なプロトコルに従って染色した。蛍光標識した細胞で被覆された移植片は、ドライアイスを用いて直ちに凍結し(4〜8週の時点で)、組織は、切片化する前に−70℃で保存した。蛍光標識された細胞で被覆された移植片に対して、O.C.T.化合物を用いて凍結組織を固定した。8μmの切片を、凍結切片を用いて調製した。スライドを少なくとも1時間、室温で風乾し、1〜2滴のシアノアクリレートを用いて固定した。
【0057】
画像収集および分析
スポットカメラおよびスポットソフトウェアバージョン3.0.4(Diagnostic Instruments Sterling Heights,MI)を用いてデジタル画像を収集した。
【0058】
結果
細胞バンデージと比較するために用いた対照について、以下に概要を述べる:
1. 無処理の対照(コアを細胞バンデージなしで再挿入した)
2. トリプシン対照(細胞バンデージなし;他で述べた統合の代替のメカニズムとして、細胞バンデージの代わりに0.25% w/vのトリプシンでコアおよびリングを前処理した)
3. 遊離細胞被覆対照(細胞バンデージなし; 24時間プレインキュベートしたコアを軟骨細胞と共に500,000/mlで培養培地に懸濁し、遊離細胞で軟骨の表面を被覆した)
4. 組織を操作したコア(軟骨のコアの代わりに、PGAのディスク上の操作された軟骨をリングに挿入した)。
【0059】
無処理の対照
細胞、バンデージ、またはトリプシン処理なしで再挿入されたコアは、周囲の軟骨と統合することができない。図2における組織学的な切片は、界面に明瞭な空隙を有する軟骨の断片間の相互作用の形跡がないことを示す。
【0060】
トリプシン対照
トリプシンで処理し、その後再挿入したコアは、リング組織と統合する弱い能力を示した。コアとリングが完全に接触した介在性のマトリックスのいくつかの形成があるが、マトリックスの集積は、8週間の培養の後でさえ大規模ではなかった(図3)。
【0061】
遊離細胞被覆対照
軟骨細胞と共にプレインキュベートされ、その後再挿入されたコアは、組織の周囲に局在する斑点においていくつかのマトリックス形成の形跡を示したが、リングおよびコアの統合の形跡はなかった(図4)。この理由は、被覆細胞を蛍光色素で予め標識することにより確認された。このように、被覆細胞が目立たない凝集塊でコア組織上に移動し、リング組織との相互作用が起こり得る限局的な領域を作ることは明白であるが、効果的な組織の統合は生じない(図5)。これは、統合を達成するためには、軟骨表面の周囲を細胞でより均一に被覆する方法が必要であり、それによりこれらの細胞と周囲の軟骨の間の密接な相互作用が可能になることを示す。
【0062】
組織を操作したコア
本発明は、組織に移動させるために細胞を蒔くことができる医療材料の骨格を用いることにより、細胞をどのように軟骨の表面に輸送するのかという問題を解決する。原理の根拠として、PGA上に軟骨細胞を蒔くことにより組織が操作されたコアが作られ、これを本来の軟骨のコアの代わりにリングにインプラントした。このようにすると、軟骨細胞が周囲の軟骨マトリックスを分解し、そこへ遊走する明確な証拠を観察できる(図6)。本発明者の仮説は、これらの移動する細胞が新しい軟骨を合成し、それらが遊走することを介して空隙を充填するというものである。
【0063】
細胞バンデージ
本発明の最終試験は、図1に示したように、2つの軟骨の間に挟まれた細胞バンデージを使用することである。細胞を含まないPGAを用いた対照実験においては、軟骨の統合は見られなかったが(図7a)、細胞バンデージを含む培養においては、巨視的(図7)にも微視的(図8)にも、よい軟骨の統合の非常に明瞭な証拠が見られた。
【0064】
例2.空隙を充填するのではなく空隙を閉合するのに最も適した骨格のパラメーターの決定
方法
我々は、2つのウシの鼻中隔硝子軟骨をそれらの間の細胞バンデージと一緒に配置した、軟骨の統合に対するサンドイッチモデルを用いた(図9)。一連の実験のために、厚い(1mm)または薄い(0.5mm)コラーゲン膜に蒔いたウシの鼻軟骨細胞からなるバンデージを「ゲイストリッヒ社」から得た。これらの膜は、それぞれ、「粗い」表面および「滑らかな」表面を有する。前記サンドイッチは、ステープルクリップを用いて一緒に保持した(図10)。40日の培養までに、統合についての巨視的な証拠が見られた(図10)。
【0065】
結果
表面の粗さおよび統合
我々は、骨格の外の細胞の周辺組織へのより早い移動を促進することにより、粗い表面が統合を促進するという仮説を試験した。厚い膜を用いた場合、40日の培養までに、組織学的なレベルで、コラーゲン膜の粗い表面と硝子軟骨との界面において統合の明瞭な証拠が見られ、一方、滑らかな表面は、統合のわずかな証拠しか見られなかった(図11)。しかしながら、より長い培養時間の後には統合を生じることが予想されるという滑らかな表面からの細胞の遊走の証拠も見られた。これらの発見は、40日以内に軟骨細胞は粗い表面の外へ遊走して組織の統合を促進する一方、滑らかな表面においては、効果的な統合の前の細胞の遊走がまだ進行中であることを示唆する。
【0066】
膜の厚さおよび統合
我々は、薄い骨格は占有するスペースがより少ないため、厚い骨格よりも早い統合を促進するという仮説について試験した。20日間の培養の後、粗い表面において、厚い骨格では軟骨の統合の証拠が見られなかった一方、薄い骨格では、既に効果的な統合が誘導されていた(図12)。これらの発見により、統合(空隙の除去)が目的である場合、薄い骨格が最も効果的であることが確認された。
【0067】
例3.硝子軟骨および半月板軟骨の修復に最も適した細胞型の決定
方法
我々は、ウシ硝子軟骨またはヒツジ半月板軟骨を用いた、図9および10に示した軟骨統合のためのサンドイッチモデルを使用した。それぞれの場合において、我々は、ウシ/ヒツジ関節軟骨軟骨細胞、ヒツジ半月板繊維軟骨細胞軟骨細胞、ウシ鼻軟骨細胞、またはヒト骨髄間葉幹細胞の使用を比較した。我々は、半月板軟骨修復の全体の器官モデルも使用した。2つの切り口は、半月板全体において作られ、細胞バンデージがそれぞれに挿入された(図13)。適切な位置にバンデージを保持するために、ステープルクリップを用いた。
【0068】
結果
軟骨サンドイッチモデルにおける細胞型
硝子軟骨および半月板軟骨の両方のサンドイッチシステムにおいて、鼻軟骨細胞または幹細胞を用いた場合に最もよい結果が得られた。関節および半月板の軟骨細胞は常に劣っていた。しかしながら、半月板軟骨の修復に対して、幹細胞は特に効果的な統合を生じるように見えた(図15)。それ故、鼻軟骨細胞または幹細胞は硝子軟骨または半月板軟骨の統合に好ましい細胞である。
【0069】
半月板全体のモデルにおける細胞型
幹細胞は、周囲の半月板組織と非常に似ている界面組織の産生を伴い、他の細胞型と比較してより優れた統合を生じた(図16)。それ故、幹細胞は、半月板軟骨の統合に対して好ましい細胞である。
【0070】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、細胞バンデージを試験するためのモデルシステムを示す。
【図2】図2は、処理していない対照を示す。
【図3】図3は、トリプシン対照を示す。
【図4】図4は、遊離細胞被覆対照の組織学を示す。
【図5】図5は、遊離細胞被覆対照の細胞標識化を示す。
【図6】図6は、組織が操作されたコアからの細胞の遊走を示す。
【図7】図7は、8週間培養した後の細胞バンデージの巨視的な外観を示す。
【図8】図8は、8週間の培養の後の細胞バンデージの微視的な外観を示す。
【図9】図9は、硝子軟骨または半月板軟骨の細胞バンデージサンドイッチモデルを示す図である。
【図10】図10は、40日の培養の後の硝子軟骨サンドイッチモデルの巨視的な外観を示す。
【図11】図11は、軟骨の統合において、コラーゲン膜の表面の粗さの影響を示す。
【図12】図12は、軟骨の統合におけるコラーゲン膜の厚さの影響を示す。
【図13】図13は、半月板全体の器官培養モデルを示す図である。
【図14】図14は、45日間培養した後の半月板軟骨全体の器官モデルの巨視的な外観を示す。
【図15】図15は、40日培養した後の幹細胞から作られた細胞バンデージを用いたサンドイッチモデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。
【図16】図16は、45日間培養した後の半月板全体の器官培養モデルにおける効果的な半月板軟骨の統合を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織の表面へ細胞を送達するための方法であって、医療材料のシートの上および/または中に細胞を分布させて細胞バンデージを形成すること、ならびに前記細胞バンデージを前記表面に適用することを含んでなり、組織の表面への細胞バンデージの適用の後、前記細胞バンデージから細胞が遊離される方法。
【請求項2】
前記組織は軟骨性であり、前記細胞は軟骨産生細胞または軟骨を産生することができる細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2以上の組織を結合するための方法であって、接合されるべき組織に密接に接触する細胞バンデージを提供することを含んでなり、前記細胞バンデージは医療材料のシートを含んでなり、前記医療材料は、その上および/または中に分布した細胞を有する方法。
【請求項4】
前記医療材料のシートは1.0mm未満の厚さである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
組織の少なくとも1つは軟骨性であり、前記細胞は軟骨産生細胞または軟骨を産生することができる細胞である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
組織の少なくとも1つはトランスプラントまたはインプラントされた軟骨であり、他はレシピエント部位における天然の軟骨である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
組織の少なくとも1つはトランスプラントまたはインプラントされた軟骨であり、他はレシピエント部位における骨である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
接合されるべき表面が骨折または組織における裂傷により形成される、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記組織は半月板軟骨であり、接合されるべき表面は半月板の裂傷により形成された表面である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
医療材料のシートを含んでなり、前記医療材料はその上および/または中に分布した細胞を有する細胞バンデージ。
【請求項11】
前記シートは両面に細胞を有する、請求項10に記載の細胞バンデージ。
【請求項12】
前記医療材料の構造を、前記バンデージから細胞を遊離することを可能にするように適合させる、請求項10または11に記載の細胞バンデージ。
【請求項13】
厚さが1.0mm未満である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の細胞バンデージ。
【請求項14】
前記細胞が軟骨産生細胞または軟骨を産生することができる細胞である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の細胞バンデージ。
【請求項15】
前記医療材料が合成である、請求項10〜14のいずれか1に記載の細胞バンデージ。
【請求項16】
前記医療材料が天然由来である、請求項10〜14のいずれか1項に記載の細胞バンデージ。
【請求項17】
請求項10〜16のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用であって、レシピエント部位において、トランスプラントまたはインプラントされた軟骨と天然の軟骨との統合を促進するための使用。
【請求項18】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用であって、レシピエント部位において、トランスプラントまたはインプラントされた軟骨と骨との統合を促進するための使用。
【請求項19】
半月板の裂傷を修復するための、請求項9〜13のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用。
【請求項20】
2以上の操作された軟骨の断片の統合を促進するための、請求項9〜13のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用。
【請求項1】
組織の表面へ細胞を送達するための方法であって、医療材料のシートの上および/または中に細胞を分布させて細胞バンデージを形成すること、ならびに前記細胞バンデージを前記表面に適用することを含んでなり、組織の表面への細胞バンデージの適用の後、前記細胞バンデージから細胞が遊離される方法。
【請求項2】
前記組織は軟骨性であり、前記細胞は軟骨産生細胞または軟骨を産生することができる細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2以上の組織を結合するための方法であって、接合されるべき組織に密接に接触する細胞バンデージを提供することを含んでなり、前記細胞バンデージは医療材料のシートを含んでなり、前記医療材料は、その上および/または中に分布した細胞を有する方法。
【請求項4】
前記医療材料のシートは1.0mm未満の厚さである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
組織の少なくとも1つは軟骨性であり、前記細胞は軟骨産生細胞または軟骨を産生することができる細胞である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
組織の少なくとも1つはトランスプラントまたはインプラントされた軟骨であり、他はレシピエント部位における天然の軟骨である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
組織の少なくとも1つはトランスプラントまたはインプラントされた軟骨であり、他はレシピエント部位における骨である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
接合されるべき表面が骨折または組織における裂傷により形成される、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記組織は半月板軟骨であり、接合されるべき表面は半月板の裂傷により形成された表面である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
医療材料のシートを含んでなり、前記医療材料はその上および/または中に分布した細胞を有する細胞バンデージ。
【請求項11】
前記シートは両面に細胞を有する、請求項10に記載の細胞バンデージ。
【請求項12】
前記医療材料の構造を、前記バンデージから細胞を遊離することを可能にするように適合させる、請求項10または11に記載の細胞バンデージ。
【請求項13】
厚さが1.0mm未満である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の細胞バンデージ。
【請求項14】
前記細胞が軟骨産生細胞または軟骨を産生することができる細胞である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の細胞バンデージ。
【請求項15】
前記医療材料が合成である、請求項10〜14のいずれか1に記載の細胞バンデージ。
【請求項16】
前記医療材料が天然由来である、請求項10〜14のいずれか1項に記載の細胞バンデージ。
【請求項17】
請求項10〜16のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用であって、レシピエント部位において、トランスプラントまたはインプラントされた軟骨と天然の軟骨との統合を促進するための使用。
【請求項18】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用であって、レシピエント部位において、トランスプラントまたはインプラントされた軟骨と骨との統合を促進するための使用。
【請求項19】
半月板の裂傷を修復するための、請求項9〜13のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用。
【請求項20】
2以上の操作された軟骨の断片の統合を促進するための、請求項9〜13のいずれか1項に記載の細胞バンデージの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2008−514254(P2008−514254A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532968(P2007−532968)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003690
【国際公開番号】WO2006/032915
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(300002942)ザ ユニバーシティ オブ ブリストル (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003690
【国際公開番号】WO2006/032915
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(300002942)ザ ユニバーシティ オブ ブリストル (10)
【Fターム(参考)】
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