説明

細胞内の伝達能が増加した低分子干渉RNA複合体

本発明は複数の遺伝子を発現抑制でき、かつ向上した細胞内の伝達能を有する新しいsiRNA複合体に関する。本発明に係るsiRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体は、従来複数の目的遺伝子発現を抑制するためのshRNAシステムに比べて容易に化学的合成される新しい構造を有し、従来のsiRNAより向上した効率で複数の遺伝子を同時に発現抑制させられる長所がある。また、高い細胞内の伝達能を有するだけでなく、非特異的な抗ウィルス性反応を起こすことなく、特異的に目的遺伝子を発現抑制させられるため、癌やウィルス性感染等を治療するためのsiRNA機構媒介治療剤として非常に有用である。それと共に、本発明に係る多機能性核酸構造複合体は、siRNA以外にmiRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー及びリボザイム(ribozyme)のような機能性核酸オリゴヌクレオチドを結合して、同時に多様な機能を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞内の伝達能が増加したsiRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNA interference:RNAi)は非常に特異的で、効率的に遺伝子発現を抑制できるメカニズムであり、これは目的遺伝子のmRNAと相同の配列を有するセンスと、これと相補的な配列を有するアンチセンスで構成される2本鎖RNA(以下、「dsRNA」と称する)を細胞等に導入して、目的遺伝子mRNAの分解を誘導することによって目的遺伝子の発現を抑制する。
【0003】
このようなRNAi手法に対し今まで活性及び/または細胞内の伝達効率を上げるための修飾等に対する研究が進められ、将来、癌やウィルス性感染を含んだ多くの病気の治療のための効果的な治療剤になると期待された。多くの研究者は、低分子干渉RNA(small interfering RNA:siRNA)及び低分子ヘアピン型RNA(short hairpin RNA:shRNA)のような多様なRNAi手法を用いて、成功裡にウィルスの複製を抑制した(Jacque J.M. et al., Nature,418:435, 2002; Novina C.D. et al., Nat. Med., 8:681, 2002; Nishitsuji H. et al., Microbes Infect., 6:76, 2004)。しかし、RNAi機構によって、一つの目的遺伝子だけを発現抑制させる場合、ウイルスゲノム内部の目的遺伝子の一つのヌクレオチドの置換乃至欠失によって、ウィルスがRNAi媒介遺伝子発現抑制機構から外れる場合があると報告された(Westerhout E.M. et al., Nucleic Acids Res., 33:796, 2005)。これと共にウィルスが遺伝子発現抑制機構から逃れることを最小にするための1つの方案はウイルスゲノム内の多様な部分をターゲッティングする多重RNAi機構を誘導することである。
【0004】
一方、ウィルス複製抑制だけでなく、RNAi機構は癌治療のための薬としても開発されてきた。RNAiは細胞サイクル停止を誘導して、腫瘍生存に本質的な遺伝子をターゲッティングして、癌細胞にアポトーシス(apoptosis)を誘導することができる。ここで、多数の遺伝子に対する同時多発的な遺伝子発現の抑制は、癌細胞に強いアポトーシスを誘導するようになると報告されている(Menendez J.A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 101:10715, 2004)。そこで、RNAi機構を利用して、複数の目的遺伝子を発現抑制させるための効率的な戦略の開発が求められる。
【0005】
しかし、現在までは、多重標的RNAi機構は主にshRNA発現システムを基盤として開発されてきた(Konstantinova P. et al., Gene Ther., 13:1403, 2006; ter Brake O. et al., Mol. Ther., 14:883, 2006; Watanabe T. et al., Gene Ther., 13:883, 2006)。また、Khaled等は、非ウィルス性siRNA伝達のために、phi29 RNA骨格に基づいた多重siRNAを含むRNAナノ構造を作製したが(Khaled A. et al., Nano Lett., 5:1797, 2005)、このようなRNA骨格構造は、その長さが長すぎて、化学的に合成できず、その実際の使用には制限があった。従って、多重siRNAに適用可能であると共に、化学的に合成することのできる新しい構造のsiRNA構造体開発が求められている。
【0006】
一方、siRNA手法において、さらなる障害はsiRNAを細胞内に効率的に伝達することであり、従来知らされたsiRNA構造の21塩基対のsiRNAはプラスミドDNAと比較すると、PEIのような陽イオンポリマーと結合するには適しないことが報告された(Balcato-Bellemin A.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104:16050, 2007)。
【0007】
そこで、本発明者は複数の遺伝子を発現抑制でき、かつ向上した細胞内の伝達能を有する新しいsiRNA複合体を提供しようと鋭意努力した結果、特定構造で多重siRNAと多機能性核酸構造体を作製して、これらを各々陽イオン性細胞伝達体と共に複合体を形成させた後、効果的に複数の遺伝子を発現抑制させかつ顕著に向上した細胞伝達能を有することを確認して、本発明の完成に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、複数の遺伝子を発現抑制でき、同時に向上した細胞内の伝達能を有する新しいsiRNA複合体を提供することである。
本発明の他の目的は、向上した細胞内の伝達能を有する新しい構造の多機能性核酸構造複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、3つ以上のsiRNAが各々の一末端で互いに接合されている多重siRNAに陽イオン性細胞伝達体が結合されている、細胞内の伝達能が増加したsiRNA複合体を提供する。
本発明はまた、前記siRNA複合体を細胞内に導入することを含むsiRNAの細胞内の伝達方法を提供する。
本発明はまた、3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR(antagomiR)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム(ribozyme)及びアプタマーからなる群から選択される3つ以上の核酸オリゴヌクレオチドの各々の一末端が連結している多機能性核酸構造体を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造体に陽イオン性細胞伝達体が結合されている、細胞内の伝達能が増加した多機能性核酸構造複合体を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造複合体を細胞内に導入することを含む多機能性核酸構造の細胞内の伝達方法を提供する。
本発明はまた、3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーからなる群から選択される核酸オリゴヌクレオチドの一末端を連結させることを特徴とする多機能性核酸構造体の製造方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、次の工程を含む、細胞内の伝達能が増加した多機能性核酸構造複合体の製造方法を提供する:
(a)3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーからなる群から選択される核酸オリゴヌクレオチドの一末端を連結して、多機能性核酸構造体を製造する工程;及び
(b)前記多機能性RNA構造に陽イオン性細胞伝達体を電荷相互作用によって結合させる工程。
本発明はまた、前記siRNA複合体を含有する遺伝子発現抑制用組成物を提供する。
本発明はまた、前記siRNA複合体の遺伝子発現抑制用用途を提供する。
本発明はまた、前記siRNA複合体を細胞内に導入することを特徴とする遺伝子発現抑制方法を提供する。
本発明はまた、前記siRNA複合体を含有する抗癌組成物を提供する。
本発明はまた、前記siRNA複合体の抗癌用途を提供する。
本発明はまた、前記siRNA複合体を細胞内に導入することを特徴とする癌の抑制または治療方法を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造複合体を含有する遺伝子発現抑制用組成物を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造複合体の遺伝子発現抑制用用途を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造複合体を細胞内に導入することを特徴とする遺伝子発現抑制方法を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造複合体を含有する抗癌組成物を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造複合体の抗癌用途を提供する。
本発明はまた、前記多機能性核酸構造複合体を細胞内に導入することを特徴とする癌の抑制または治療方法を提供する。
本発明はまた、前記遺伝子発現用抑制用組成物を含む遺伝子発現抑制用キットを提供する。
本発明はまた、前記siRNA複合体または多機能性核酸構造複合体のウィルス治療剤としての用途を提供する。
本発明の他の特徴及び実施態様は下記の詳細な説明及び特許請求の範囲からより一層明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る多重siRNA複合体の多重siRNAのtsiRNAの構造(a)及び本発明に係るsiRNA複合体の遺伝子抑制活性を示すグラフ(b)〜(d)である。
【図2】本発明に係る多重siRNAをPEIと結合させた場合(a)と、Lipofectamine2000と結合させた場合(b)の遺伝子抑制活性を示したグラフである。
【図3】FITCラベルしたsiRNA混合物(siLamin、siDBP、FITC−siTIG3)とFITCラベルしたtsiRNA(FITC−tsiRNA)をPEIと結合させてHeLa細胞に導入した後、蛍光顕微鏡で観察した写真である。
【図4】CVA24ゲノムの互いに異なる部位をターゲットにする本発明に係る多重siRNA(tsiRNA−CVA)構造(a)及びこれと各々前記部位をターゲットにする三つのsiRNA混合物をPEIを利用して、三つの互いに異なるウィルス塩基配列を含む各々のルシフェラーゼベクターと共に細胞内に導入した後、相対的なルシフェラーゼ活性を測定して、比較したグラフ(b)である。
【図5】本発明に係るsiRNA構造が従来の19+2 siRNAと同様なRNAi機構によって、遺伝子発現を抑制させるか確認するために、5’RACE分析を行った結果である。
【図6】本発明に係るsiRNA構造が非特異的な抗ウィルス性反応を起こすか確認するために、siRNA混合物とtsiRNAをPEIと結合して、導入させた後、インターフェロン−β(IFN−β)の誘導レベルをRT−PCR方法によって、測定した比較グラフである。
【図7】本発明において使用されたTrebler tsiSurvivin(T−tiSurvivin)の構造である。
【図8】Trebler tsiSurvivinの対照群として使用されたsiSurvivinとlong siSurvivinの塩基配列である。
【図9】T−tiSurvivin−PEI伝達体の遺伝子発現効率を示したグラフである。
【図10】siSurvivin、siインテグリン及びsiβ−カテニンをTreblerホスホアミダイトに結合させて、製造したT−tiRNA構造(a)及び遺伝子発現抑制効率を示したグラフ(b)である。
【図11】Anti−miR21、siインテグリン及びsiβ−カテニンをTreblerホスホアミダイトに結合させて、製造したMT−tiRNA構造(a)及び遺伝子発現抑制効率を示したグラフ(b)である。
【図12】T−tiAnti−miR21の導入時、ルシフェラーゼ活性を比較したグラフである。
【図13】T−tiSurvivin複合体のHSによる分離率を確認するための電気泳動結果(a)と、FITCを利用して、細胞内の伝達能を測定した写真(b)及びフローサイトメトリーを利用して、蛍光強度を測定した結果(c)及び(d)である。
【図14】T−tiSurvivin複合体の遺伝子発現抑制効率を確認したグラフ(a)と、T−tiSurvivin複合体導入後HepG2細胞成長抑制効能を示したグラフ(b)及び顕微鏡イメージ(c)である。
【図15】tiRNA複合体でトランスフェクションされたT98G細胞でのIFITI mRNA(a)、IFN−βmRNA(b)及びOAS2 mRNA(c)の発現程度を示したグラフである。
【図16】Dicer処理前後の27bpのdsRNA、siLamin、tsiRNA、siSurvivin及びT−tiSurvivinを電気泳動した結果である。
【図17】tsiRNAの一部ヌクレオチドを化学的に修飾させた構造である。
【図18】T−tiSurvivinの一部ヌクレオチドを化学的修飾させた構造である。
【図19】化学的修飾を有するtsiRNA(OMe)(a)及びT−tiSurvivin(OMe)(b)のDicer処理後電気泳動した結果である。
【図20】化学的修飾を有するtsiRNA(OMe)(a)及びT−tiSurvivin(OMe)(b)の遺伝子発現抑制効率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
他の方式で定義されない限り、本明細書において使用されたあらゆる技術的・科学的用語は、本発明が属する技術分野に熟練した専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。通常、本明細書において使用された命名法は、本技術分野において周知であり、しかも汎用されるものである。
本発明の詳細な説明などにおいて使用される主な用語の定義は、下記の通りである。
【0013】
本願において「siRNA(small interfering RNA)」とは、配列特異的に効率的な遺伝子発現抑制(gene silencing)を媒介する短い2本鎖のRNA(dsRNA)を意味する。
【0014】
本願において「遺伝子」とは、最広義の意味と見なされるべきであり、構造蛋白質または調節蛋白質をコードすることができる。ここで、調節蛋白質は転写因子、熱ショック蛋白質またはDNA/RNA複製、転写及び/または翻訳に係る蛋白質を含む。また、本発明において、発現抑制の対象になる目的遺伝子は、ウイルスゲノムに内在するもので、動物遺伝子にインテグレートされたり、染色体外の構成要素として存在することができる。例えば、目的遺伝子はHIVゲノム上の遺伝子であってもよい。この場合、siRNA分子は、ほ乳動物細胞内HIV遺伝子の翻訳を不活性化させるのに有用である。
【0015】
本願において、前記多重siRNAまたは多機能性核酸構造体と陽イオン性細胞伝達体の「複合体」は、多重siRNAの骨格の陰電荷と、陽イオン性細胞伝達体の陽電荷の強い相互作用で形成され、電荷相互作用による結合体である。
【0016】
本発明は一観点において、3つ以上のsiRNAが各々の一末端で互いに接合されている多重siRNAに陽イオン性細胞伝達体が結合されている、細胞内の伝達能が増加したsiRNA複合体に関する。
本発明はまた、前記siRNA複合体を細胞内に導入することを含むsiRNAの細胞内の伝達方法を提供する。
【0017】
本発明において、多重siRNAとは、3つ以上のsiRNAが各々の一末端で互いに接合されるように構造化されたsiRNA構造体をいい、互いに異なるsiRNAを、例えば4つ等、多数のsiRNAを接合して使用できるが、複数の目的遺伝子の発現を抑制させながらも、細胞内の伝達能を顕著に高めるためには、三つの互いに異なるsiRNAを利用することが好ましい。また、前記多重siRNAは、アンチセンスの5'方向末端は外部に向かうようにして、他方の末端であるアンチセンスの3'方向末端で互いに接合される構造を有することを特徴とする。図1(a)は三つの互いに異なる目的遺伝子をターゲットにするsiRNAを本発明の多重siRNA構造で接合したものである。
【0018】
ここで、前記siRNAは化学的修飾を含むこと含むことができるが、化学的修飾は、例えば、前記siRNAに含まれる少なくとも1つのヌクレオチドのリボースの2’位置のヒドロキシル基が水素原子、フッ素原子、−O−アルキル基、−O−アシル基、及びアミノ基のいずれか一つに置換されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明において陽イオン性細胞伝達体は、in vitro及びin vivoのいずれの状態においても、核酸、即ちsiRNAを細胞内伝達するために使用し、陽性に電荷された、伝達のための試薬である。陽イオン性細胞伝達体は、本発明の多重siRNAと強く相互作用をして、複合体を形成することによってsiRNAが効果的に細胞内に導入されるようにする。陽イオン性細胞伝達体としては、陽イオン性ポリマーまたは陽イオン性脂質が使える。例えば、ポリエチレンイミン(PEI)またはLipofectamine 2000(Invitrogen)といったリポソームが使えるが、これに制限されずに陽性に電荷された伝達のための試薬の場合、本発明に係る複合体を提供するために使用できることは本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者には自明である。
【0020】
本発明は、また他の観点において、3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーからなる群から選択される3つ以上の核酸オリゴヌクレオチドの各々の一末端が連結している多機能性核酸構造体に関する。
【0021】
本発明において、多機能性核酸構造体とは、3つ以上の官能基を有する化合物の各官能基にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーのような機能性核酸オリゴヌクレオチドを結合させた核酸構造体をいい、前記において「3つ以上の核酸オリゴヌクレオチド」は互いに同じ種類の3つ以上の核酸オリゴヌクレオチドであるか、2または3つの同じ種類の核酸オリゴヌクレオチドと一つ以上の異なる核酸オリゴヌクレオチドで構成されたり、または全て異なる種類の核酸オリゴヌクレオチドで構成されると解釈される。即ち、図7及び図10(a)のように3つ以上のsiRNAだけ構成されたり、図11(a)のように二つのsiRNAと一つのアンタゴmiRで構成される。
【0022】
このような核酸オリゴヌクレオチドは、化学的修飾を含んで製造されるが、化学的修飾は、例えば、前記核酸オリゴヌクレオチドに含まれる少なくとも1つのヌクレオチドのリボースの2'位置のヒドロキシル基が水素原子、フッ素原子、−O−アルキル基、−O−アシル基、及びアミノ基のいずれか一つに置換されることを特徴とする。
【0023】
このような多機能性核酸構造体は、3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンス、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーからなる群から選択される核酸オリゴヌクレオチドの一末端を連結させることで製造されるが、これは3つ以上の官能基を有する化合物の各官能基に核酸断片を連結した後、前記核酸オリゴヌクレオチドに前記核酸断片と相補的に結合できる配列を導入し、前記核酸断片と相補的に結合させるようにすることで連結することを特徴とする。
【0024】
本発明において、前記3つ以上の官能基を有する化合物は、例えば、ホスホアミダイト化合物(phosphoramidite compounds)、ヨードアセチル(Iodoacetyl)化合物、マレイミド(maleimide)化合物、エポキシド化合物、チオール−ジスルフィド(thiol-disulfide)化合物、チオール化されたエルマン試薬、NHSまたはsulfo−NHS化合物、イソシアネート(Isocyanate)化合物等が使えるが、これに限定されずに3つ以上の官能基を有する化合物で3つ以上のsiRNAまたは他機能性ヘキサンオリゴヌクロチドを結合できる任意の化合物が、制限されずに使用できることは本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者には自明である。ここで、前記使用される3つ以上の官能基を有する化合物は、適切に、アミンまたはチオール等で末端が置換されたオリゴヌクレオチドと連結できる。
【0025】
例えば、リンカーとしてホスホアミダイト化合物を使う場合、望ましくはTreblerホスホアミダイト(Trilink Bio Technology)のような三つのアームを有するホスホアミダイト化合物に三つの核酸断片を連結して、センスまたはアンチセンスの一つの鎖に前記核酸断片と相補的に結合できる配列を含むsiRNAを作製して、前記核酸断片に相補的結合によって連結させることで、新しい構造の多機能性核酸構造体を作製することができる。ここで、「相補的に結合」とは、前記核酸断片の配列とsiRNAのセンスまたはアンチセンス鎖に含まれる一部断片が約70〜80%以上、望ましくは約80〜90%以上、より望ましくは約90〜95%以上、より一層望ましくは約95〜99%以上配列が互いに相補的であるか完全に相補的に混成化される可能性があることを意味する。但し、アニーリング可能なレベルで連結のための部分にミスマッチが計画的に導入される。
【0026】
本発明に係る多機能性核酸構造体に陽イオン性細胞伝達体を電荷相互作用によって結合させることで、多機能性核酸構造複合体を提供することができる。従って、本発明は他の観点において、陽イオン性細胞伝達体が結合されている、細胞内の伝達能が増加した多機能性核酸構造複合体に関する。
【0027】
陽イオン性細胞伝達体としては、陽イオン性ポリマーまたは陽イオン性脂質が使える。例えば、ポリエチレンイミン(PEI)またはLipofectamine 2000(Invitrogen)のようなリポソームが使えるが、これに制限されずに、陽性に電荷された伝達のための試薬が、本発明に係る複合体を提供するために使用できることは本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に自明である。
【0028】
本発明の一実施例においては本発明に係るsiRNA複合体と、従来のsiRNA構造に係るsiRNA−陽イオン性脂質複合体を細胞内に導入して、遺伝子発現抑制効率を測定した結果、本発明に係るsiRNA複合体が、従来のsiRNA構造体に比べて、さらに効率的にすべての目的遺伝子の発現レベルを抑制することを確認した。
【0029】
さらに、従来、ウィルス性感染に対するRNAi機構のための治療の場合、ウィルスのゲノム内のヌクレオチドの置換乃至欠失による回避が問題になってきたが、本発明の他の実施例においては、ウイルスゲノムの互いに異なる三部位をターゲッティングする多重siRNAを、PEIを利用して導入することによって、該当ウイルスゲノム部位を含むmRNAの発現を顕著に低くすることが確認され、ウィルス性感染の治療のためにも本発明が有用であることが示された。
【0030】
また、本発明の他の実施例においては蛍光顕微鏡を利用して、本発明に係るsiRNA複合体と従来のsiRNAの細胞内の透過率を比較した結果、本発明に係るsiRNA複合体が従来のsiRNA構造にPEIを結合させたもとと比べて、細胞内の伝達活性が非常に優秀であることを確認した。即ち、従来のsiRNAの場合、ポリエチレンイミン(PEI)のような陽イオン性脂質と結合するには適さないと報告し、細胞内の透過率が低いと確認されたが(図3)、本発明の多重siRNAはポリエチレンイミン(PEI)のような陽イオン性細胞伝達体と結合して、非常に高い細胞内の伝達活性を示すことが確認された。
【0031】
従って、本発明に係るsiRNA複合体は、効果的にsiRNAを細胞内に伝達する方法に関し、前記方法は本発明に係るsiRNA複合体を細胞内に導入させる工程を含むことを特徴とする。
【0032】
さらに、本発明の他の実施例では本発明に係るsiRNA複合体を一般的なRNAi機構の用途と同じ範疇で使われるか確認するために、従来のsiRNA構造と対比して機構分析実験を行って、本発明に係るsiRNA複合体の多重siRNA構造が従来の19+2 siRNA構造と同じRNAi機構によって、遺伝子発現を抑制することを確認した。これは本発明に係るsiRNA複合体を従来RNAiの用途と同一範疇で使う可能性があることを意味する。
【0033】
従って、前記siRNA複合体を細胞内伝達することによって、効率的に目的遺伝子の発現が抑制できるが、本発明は他の観点において、3つ以上のsiRNAが各々の一末端で互いに接合されている多重siRNAに陽イオン性細胞伝達体が結合されている複合体を含有する遺伝子発現抑制用組成物に関する。また、本発明は3つ以上のsiRNAが各々の一末端で3つ以上の官能基を有する化合物を利用して連結している多機能性核酸構造体に陽イオン性細胞伝達体を結合させた多機能性核酸構造複合体の形態としても遺伝子発現抑制用組成物を提供することができる。
【0034】
本発明に係る多機能性核酸構造複合体は、多重siRNA複合体のように顕著な遺伝子発現抑制効果を有するだけでなく、siRNA以外にmiRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー及びリボザイムのような機能性核酸オリゴヌクレオチドを結合して、多機能性を有する核酸構造体を提供できる長所がある。多重siRNAの場合、特定の構造を要しsiRNAのような二重螺旋のRNAの接合を要することとは異なり、3つ以上の官能基を有する化合物を利用して短いオリゴヌクレオチドを有する基本骨格を構成することによって、いかなる核酸オリゴヌクレオチドであっても構造体内に導入されるように考案した。従って、アンタゴmiRのような単一鎖核酸オリゴヌクレオチドの結合も可能にする。また、3つ以上の官能基を有する化合物に結合させることによって、多重tsiRNAより比較的短い長さの核酸断片製造で構造体の提供が可能になって、製造単価も低下し製造工程も容易になる。
【0035】
さらに、本発明の一実施態様においては、本発明に係る多機能性核酸構造複合体と多重siRNA複合体の免疫反応誘導の有無を実験した。その結果、多重siRNA複合体がdsRNA処理に対し非常に高い免疫感受性を有すると報告されたT98G細胞で非特異的な免疫反応を一部起こすのとは異なり、多機能性核酸構造複合体はこのような免疫反応を起こさないことを確認した。
【0036】
また、本発明の他の実施態様においては、Dicerに対する抵抗性を実験して、多機能性核酸構造複合体がより高い抵抗性を示すことを確認した。
【0037】
一方、前記遺伝子発現抑制用組成物は遺伝子発現抑制用キット(kit)の形態で提供できる。遺伝子発現抑制用キットは瓶、筒(tub)、小袋(sachet)、封筒(envelope)、チューブ、アンプル(ampoule)等のような形態であってもよく、これらは部分的にまたは全体的にプラスチック、ガラス、紙、ホイール、ワックスなどから形成される。容器は、最初は容器の一部であるか、または機械的、接着性、またはその他の手段によって、容器に付着できる、完全にまたは部分的に分離可能な栓を取り付けることができる。容器はまた注射針によって内容物に接近できる、ストッパーが取り付けられる。前記キットは外部パッケージを有することができ、外部パッケージは構成要素の使用に関する使用説明書を含んでもよい。
【0038】
また、前記遺伝子発現抑制用組成物を利用することによって、効果的に同時に2つ以上の遺伝子の発現を抑制できるが、これに本発明はさらに他の観点において、前記遺伝子発現抑制用組成物を利用した遺伝子発現抑制方法に関する。
【0039】
また、本発明の他の実施態様においては、本発明に係る複合体が癌細胞の増殖を抑制する効果があることを確認したが、本発明はさらに他の観点において前記多重siRNA複合体または多機能性核酸構造複合体を含有する抗癌組成物に関する。
【0040】
本発明に係る抗癌組成物は、前記複合体を単独で含んだり一つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含んで医薬組成物で提供でき、前記複合体は疾患及びこれの重症程度、患者の年令、体重、健康状態、性別、投与経路及び治療期間等により適切な薬学的に有効な量で医薬組成物に含まれる。
【0041】
前記「薬学的に許される」とは、生理学的に許容されてヒトに投与される際に、通常、胃腸障害、めまいのようなアレルギー反応またはこれと類似する反応を起こさない組成物をいう。前記担体、賦形剤及び希釈剤としは、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油が挙げられる。
【0042】
前記医薬組成物は、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤等をさらに含んでもよい。また、本発明の医薬組成物は、ほ乳動物に投与された後、活性成分の迅速、持続または遅延放出を提供できるように当業界に公知の方法を使って、剤形化される。剤形は滅菌注射溶液などの形態でありうる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業界において通常の知識を持った者にとって自明である。
【0044】
特に、下記実施例においては目的遺伝子として、ラミンA/C(Lamin A/C)、DBP、TIG3、Survivin遺伝子及びCVA24ウイルスゲノムだけを例示したが、その他の異なる目的遺伝子をターゲットとして本発明に係る複合体及び組成物を提供した場合においても同様の結果が得られ、下記実施例において使われたAntimiR−21以外の他の機能性核酸オリゴヌクレオチドを利用しても本発明に係る多機能性核酸構造体を提供できることは本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者には自明な事項である。
【0045】
[実施例1]本発明に係るsiRNA複合体の製造
本実施例において使われた多重siRNA、及び実験に使うsiRNAはBioneer社から化学的に合成されたRNAを購入した後、製造者のプロトコールに従ってアニーリングすることによって提供された。
まず、ラミンA/C、DBP及びTIG3 mRNAをターゲットとする三重目的遺伝子発現抑制RNA(triple-target gene silencing siRNA:tsiRNA)は図1(a)のように製造した。
前記tsiRNAを提供するための3本鎖は下記の通りである。
st strand:5’−UGUUCUUCUGGAAGUCCAGUCGAAGACAUCGCUUCUCA−3’(配列番号1)
nd strand:5’−UGAGAAGCGAUGUCUUCGACUGUCUCAGGCGUUCUCUA−3’(配列番号2)
rd strand:5’−UAGAGAACGCCUGAGACAGCUGGACUUCCAGAAGAACA−3’(配列番号3)
一方、対照群として使った前記三つの各部位に対するsiRNAは下記の通りである。
Lamin mRNAに対するsiRNA(siLamin)
センス(sense):5’−CUGGACUUCCAGAAGAACA(dTdT)−3’(配列番号4)
アンチセンス(antisense):5’−UGUUCUUCUGGAAGUCCAG(dTdT)−3’(配列番号5)
DBP mRNAに対するsiRNA(siDBP)
センス(sense):5’−UCGAAGACAUCGCUUCUCA(dTdT)−3’(配列番号6)
アンチセンス(antisense):5’−UGAGAAGCGAUGUCUUCGA(dTdT)−3’(配列番号7)
TIG3 mRNAに対するsiRNA(siTIG3)
センス(sense):5’−CUGUCUCAGGCGUUCUCUA(dTdT)−3’(配列番号8)
アンチセンス(antisense):5’−UAGAGAACGCCUGAGACAG(dTdT)−3’(配列番号9)
前記のように取得したtsiRNAにポリエチレンイミン(PEI、Polyplus社)を製造者のプロトコールにより加えて、本発明に係るsiRNA複合体を製造した。
【0046】
[実施例2]本発明に係るsiRNA複合体と従来のsiRNAの遺伝子抑制活性測定
実施例1で製造したラミンA/C、DBP及びTIG3 mRNAをターゲットとする三重目的遺伝子発現抑制RNA(tsiRNA)とPEIの複合体と、実施例1の従来siRNA構造体のsiLamin、siDBP及びsiTIG3を各々PEIと複合体を形成したものをHeLa細胞(ATCC CCL−2)へ導入した。HeLa細胞は、10%FBS(fetal bovine serum)を補充したDulbecco’s改質Eagle’s培地(Hyclone社)で培養し、細胞は12ウェルプレートで平板培養し、導入前には抗生剤がない完全培地でコンフルエンシー(confluency)が80%になるまで24時間培養した。siRNA混合物は、各100nM使い、tsiRNAも100nM使い、使ったPEI(N/P=5)はPolyplus社から購入し、導入は製造者のプロトコールに従った。
導入してから3時間後に培地を交換し、ラミン、DBP、及びTIG3 mRNAのレベルは定量的なリアルタイムRT−PCRによって測定した。即ち、全RNAをTir−reagentキット(Ambion社)を利用して、細胞溶解物から抽出した後、取得された全RNAは、ImPro−II(商品名)逆転写システム(Promega社)を利用してcDNA合成をするための鋳型として使った。前記cDNAの合成は、前記製造会社のプロトコールに従った。それから、ステップワンリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を利用して、製造会社のプロトコールに従って各目的遺伝子の発現レベルを測定し、測定されたラミン、DBP、TIG3のmRNAレベルは、GAPPDH(対照群)mRNAレベルで分けて比較した。使った各遺伝子に対するプライマーは下記の通りである。
DBPのRT−PCR用プライマー対
DBP−forward 5’−CCT CGA AGA CAT CGC TTC TC−3’(配列番号10)
DBP−reverse 5’−GCA CCG ATA TCT GGT TCT CC−3’(配列番号11)
GAPDHのRT−PCR用プライマー対
GAPDH−forward 5’−GAG TCA ACG GAT TTG GTC GT−3’(配列番号12)
GAPDH−reverse 5’−GAC AAG CTT CCC GTT CTC AG−3’(配列番号13)
LaminのRT−PCR用プライマー対
Lamin−forward 5’−CCG AGT CTG AAG AGG TGG TC−3’(配列番号14)
Lamin−reverse 5’−AGG TCA CCC TCC TTC TTG GT−3’(配列番号15)
TIG3のRT−PCR用プライマー対
TIG3−forward 5’−AGA TTT TCC GCC TTG GCT AT−3’(配列番号16)
TIG3−reverse 5’−TTT CAC CTC TGC ACT GTT GC−3’(配列番号17)
導入した後、導入してから30分後、1時間及び3時間後にRT−PCRでmRNAレベルを各々ラミン、DBP及びTIG3のmRNAレベルを測定した結果、図1(b)乃至1(d)に示したように、各時間帯毎に本発明に係るsiRNA複合体(tsiRNA)がより優秀な遺伝子抑制活性を示すことが分かる。
一方、実施例1で取得したsiRNA複合体(TsiRNA)及び実施例1で取得したtsiRNAに、Lipofectamine2000(Invitrogen社)を製造会社のプロトコールに従って加えて製造したsiRNA複合体(TsiRNA−1)を、各々前記と同様の方法でHeLa細胞(ATCC CCL−2)へ導入した後、24時間後RT−PCRでmRNAレベルを測定した。
その結果、図2に示したように、従来の報告と同様で(Bolcato-Bellemin A.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104:16050, 2007)、各々のsiRNAとPEIとの混合物は、非常に限定的な遺伝子発現抑制活性を見せたが、TsiRNAを陽イオン性ポリマーのPEIを結合させた場合と、陽イオン性脂質であるLipofectamine2000を結合させた場合とは、共に三つ全ての遺伝子mRNAの発現レベルがずっと低いことが分かる。
このような結果は本発明に係るsiRNA複合体が、従来のsiRNA構造にPEIやLipofectamine2000のような陽イオン性細胞伝達体を結合して処理した場合と比べて、三つの互いに異なる遺伝子発現を抑制するのにさらに効果的であることを示す。
【0047】
[実施例3]本発明に係るsiRNA複合体の細胞内の伝達能測定
本発明に係るsiRNA複合体と、従来のsiRNA(siTIG3)の細胞内の伝達能を比較するために、次のような実験を行った。
siTIG3のセンス鎖の3'末端と、tsiRNAのTIG3センスの3'末端にFITCをラベルした。そして、FITCラベルしたsiRNA混合物(siLamin、siDBP、FITC−siTIG3)とFITCラベルしたtsiRNA(FITC−tsiRNA)をPEIと結合させてHeLa細胞に導入した。導入後、HeLa細胞は時間帯毎に蛍光顕微鏡(Olympus)で観察した。
10分、30分、1時間及び3時間間隔で観察した結果、図3に示したように、図3(a)のsiRNA混合物を、PEIを利用して導入させた場合、テストした全ての培養時間帯においてほとんど蛍光が観察されないことが明らかになった。これに対して、FITCラベルしたtsiRNAを、PEIを利用して導入した場合(図3(b))、細胞内の部位で散在された緑色のスポットが見られ、これは培養時間の増加に従って順次その強度も増加することが明らかになった。
このような結果は、本発明に係るsiRNA複合体が、従来のsiRNA構造にPEIを結合させたものに比べて、細胞内の伝達活性が非常に優れていることを示す。
【0048】
[実施例4]ウイルスゲノムに対するターゲット
従来のRNAi機構を利用したウィルス複製抑制の場合、高いウィルスの回避率による問題点があった。そこで、このような問題点を克服できるか、及び本発明に係るsiRNA構造が一般にsiRNA機構のために適用される機構であるかを確認するために、以下の実験を行った。まず、本発明に係るsiRNA複合体をウイルスゲノム(coxsackievirus A24:CVA24)の3つの互いに異なる部位(CRE、3D1、3D2)をターゲットとするように図4(a)(tsiRNA−CVA)のように製造した。
前記tsiRNA−CVAを提供するための3本鎖は下記の通りである。
tsiRNA−CVA:
ststrand:5’−UCAAUACGGUGUUUGCUCUUGGUGAUGAUGUAAUUGCU−3’(配列番号18)
ndstrand:5’−AGCAAUUACAUCAUCACCACCAUGACUCCAGCUGACAA−3’(配列番号19)
rdstrand:5’−UUGUCAGCUGGAGUCAUGGAGAGCAAACACCGUAUUGA−3’(配列番号20)
一方、対照群として使った前記3つの各部位に対するsiRNAは下記の通りである。
CVA−CRE mRNAに対するsiRNA(siCVA−CRE)
センス(sense):5’−AGAGCAAACACCGUAUUGA(dTdT)−3’(配列番号21)
アンチセンス(antisense):5’−UCAAUACGGUGUUUGCUCU(dTdT)−3’(配列番号22)
CVA−3D1 mRNAに対するsiRNA(siCVA−3D1)
センス(sense):5’−UGGUGAUGAUGUAAUUGCU(dTdT)−3’(配列番号23)
アンチセンス(antisense):5’−AGCAAUUACAUCAUCACCA(dTdT)−3’(配列番号24)
CVA−3D2 mRNAに対するsiRNA(siCVA−3D2)
センス(sense):5’−CCAUGACUCCAGCUGACAA(dTdT)−3’(配列番号25)
アンチセンス(antisense):5’−UUGUCAGCUGGAGUCAUGG(dTdT)−3’(配列番号26)
次に、siCVA−CREに対するターゲット配列、siCVA−3D1に対するターゲット配列、siCVA−3D2に対するターゲット配列を、各々pMIR Report−luciferase vector(Ambion社)のルシフェラーゼmRNAコーディング遺伝子の3'非番駅部位のSpeII及びHindIII位置に挿入したベクターpMIR−CRE、pMIR−3D1、及びpMIR−3D2を構築した。前記挿入された各ターゲット配列は下記の通りである。
CRE AS−target
Hind 5’−AGCTT T CAA TAC GGT GTT TGC TCT A −3’(配列番号27)
Spe 3’− A A GTT ATG CCA CAA ACG AGA TGATC−5’(配列番号28)
3D1 AS−target
Hind 5’−AGCTT A GCA ATT ACA TCA TCA CCA A −3’(配列番号29)
Spe 3’− A T CGT TAA TGT AGT AGT GGT TGATC−5’(配列番号30)
3D2 AS−target
Hind 5’−AGCTT T TGT CAG CTG GAG TCA TGG A −3’(配列番号31)
Spe 3’− A A ACA GTC GAC CTC AGT ACC TGATC−5’(配列番号32)
各々の前記ベクターをsiRNA混合物(siCVA−CRE、siCVA−3D1、siCVA−3D2)とPEIとの複合体、またはtsiRNA−CVAとPEIとの複合体として、HeLa細胞に導入した後、ルシフェラーゼ活性を下記の通り測定した。即ち、導入してから24時間後に、細胞をDual−luciferase Reorter Assay System(Promega社)のPassive lysisバッファーで溶解させた。ルシフェラーゼ活性はショウジョウバエ及びRenillaルシフェラーゼのためのVictor3プレートリーダー(Victor3 plate reader、PerkinElmer社)を利用して測定した。
その結果、図4(b)に示したように、実施例2の結果と同様に、従来のsiRNA構造にPEIを結合させて導入したものと比べて、本発明に係るsiRNA複合体がずっと低いルシフェラーゼ活性を示すことが確認された。
前記の実験結果は、本発明に係るsiRNA複合体は、既存のRNAi機構に対し高い回避率を示すウィルスの複製抑制のためにも有用に利用できることを提示している。これは本発明に係るsiRNA複合体の構造が、実施例2の目的遺伝子の発現抑制にだけ限定されるものではなく、細胞伝達能及び抑制効率が改善された一般的なsiRNA機構として提供できることを意味する。
但し、追加的に本発明に係るsiRNA複合体が従来のRNAi機構の用途と同じ範疇で使われるかを確認するために、次の機構分析実験を行った。
【0049】
[実施例5]遺伝子発現抑制機構の分析
本発明に係るsiRNA構造が、従来の19+2 siRNAと同じRNAi機構によって、遺伝子発現を抑制させるかを確認するために次のような実験を行った。即ち、各目的mRNAに対する切断部位を分析するために5’RACE(Rapid amplification of cDNA ends)分析を行った。
まず、siRNA(siLamin、siDBP、siTIG3)または実施例1で作製したtsiRNAをPEIを利用してHeLa細胞に導入してから、18時間後にTri−reagent kit(Ambion)で全RNAを抽出した。全RNA(3μg)は前処理を行わずに0.25μgのGeneRacer RNA oligoを接合(ligation)させてから、GeneRacer RNA oligo−接合された全RNAをGeneRacer oligo dT及びSuperScript(商品名)III RT kit(Invitrogen)を利用して逆転写させた。RNAオリゴ接合されたmRNAは、遺伝子特異的なプライマーを利用して増幅した。次にPCR産物はT&A vector(RBC)でクローンした後、M13フォワードプライマーでシーケンシングした。
TIG3 Gene specific 3’primer:
5’−GGGGCAGATGGCTGTTTATTGATCC−3’(配列番号33)
TIG3 Gene specific 3’nested primer:
5’−ACTTTTGCCAGCGAGAGAGGGAAAC−3’(配列番号34)
Lamin Gene specific 3’primer:
5’−CCAGTGAGTCCTCCAGGTCTCGAAG−3’(配列番号35)
Lamin Gene specific 3’nested primer:
5’−CCTGGCATTGTCCAGCTTGGCAGA−3’(配列番号36)
DBP gene specific primer
5’−CGGGACAGCACGGCGCGGTAGT−3’(配列番号37)
DBP gene specific 3’ nested primer
5’−CTCCTGGCGCACGGCCACAACTT−3’(配列番号38)
M13フォワードプライマー
5’−GTTTTCCCAGTCACGAC−3’(配列番号39)
その結果、図5に示したように、siRNA−PEI複合体を処理した場合及びtsiRNA−PEI複合体を処理した場合共に、Lamin、DBP及びTIG3 mRNAの同じ地点を切断することが明らかになった。
前記実験結果は、本発明に係るsiRNA複合体の多重siRNA構造が、従来の19+2 siRNA構造と同じRNAi機構によって、遺伝子発現を抑制することを意味する。
【0050】
[実施例6]非特異的な抗ウィルス反応発生有無測定
30bp以上のRNA2本鎖は、非特異的な抗ウィルス反応をHeLa細胞で起こして、特異的な遺伝子発現抑制を起こさなかったと報告されている(Manche L. et al., Mol. Cell Biol., 12:5238, 1992; Elbashir S.M. et al., Nature, 411:494, 2001)。本発明に係るsiRNA複合体が従来のsiRNA構造と比較すると、特異的かつ効率的な遺伝子発現抑制効率を示すか実験した。
抗ウィルス性反応が起こるか否かを確認するために、実施例2のsiRNA混合物とtsiRNAをPEIと結合して導入させた後、インターフェロン−β(IFN−β)の誘導レベルを実施例2と同様の方法でRT−PCR方法によって測定した。使われたプライマー対は下記の通りであり、抗ウィルス性反応を起こす陽性対照群ではポリ(I:C)導入された細胞を使った。
IFN−βRT−PCR用プライマー対
IFN−βforward:5’−AGA AGT CTG CAC CTG AAA AGA TAT T−3’(配列番号40)
IFN−βreverse:5’−TGT ACT CCT TGG CCT TCA GGT AA−3’(配列番号41)
その結果、図6に示したように、本発明に係るsiRNA複合体も従来のsiRNA構造を有するsiRNA混合物をPEIと結合させて導入した場合と同様にポリI:Cの陽性対照群によって誘導されるIFN−βmRNAレベルの1%未満に過ぎなかった。
前記実験結果は、本発明に係るsiRNA複合体の多重siRNAが、30bp以上の長さにもかかわらず従来siRNA構造と同様に非特異的な抗ウィルス反応を示さないことを意味する。
【0051】
[実施例7]リンカーを利用した三重siRNA伝達複合体の製造及び遺伝子抑制活性測定
7−1:T−tiSurvivinの製造及び遺伝子抑制活性測定
図7に示したような三重ホスホアミダイト化合物(Trebler phosphoramidite,Trilink Bio Technology,USA)を利用して、三重siRNA伝達複合体を作製した。
まず、前記Treblerホスホアミダイトを購入した後、ゲノテック社に依頼してTreblerホスホアミダイトに配列番号42のDNAオリゴヌクレオチドを三本連結した(赤色表示、Treblerから5'−>3'方向)。次に、配列番号42のDNAオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を有する部分とsiSurvivinのアンチセンス配列を同時に有するRNAオリゴヌクレオチド(配列番号43)、そしてsiSurvivinセンス配列(配列番号44)を同時にアニーリングして、図7に示したT−tiSurvivinを得た。それから、対照群として図8のsiSurvivin、long siSurvivin、そして図7のT−tiSurvivinを各々PEIと結合させてHeLa細胞内部に伝達してから、24時間後にSurvivin mRNAの発現程度を実施例2と同様の方法でリアルタイムRT−PCRを使って測定した。使われたプライマー対は下記の通りである。
Survivin−forward:5’−GCA CCA CTT CCA GGG TTT AT−3’(配列番号48)
Survivin−reverse:5’−CTC TGG TGC CAC TTT CAA GA−3’(配列番号49)
その結果、図9(a)に示したように、T−tiSurvivinの遺伝子発現抑制効果が既存のsiRNAや長い(long)siSurvivinに比べて、顕著に増加したことを確認することができた。また、IC50値を測定した結果、図9(b)に示したように、従来の構造のsiRNAに比べて、約11倍低い値を示すと確認された。これは既存のsiRNA構造に比べて、本発明のリンカーを利用した三重構造のsiRNAがより優秀な遺伝子抑制効率を示すことを意味する。
【0052】
7−2:Survivin、カテニン、インテグリンの発現を抑制するT−tiRNAの製造及び遺伝子抑制活性測定
実施例7−1と同様の方法で、siSurvivin、siインテグリン及びsiβ−カテニンをTreblerホスホアミダイトに結合させて図10(a)のように三重siRNA伝達複合体を作製した。それから、図10(a)のT−tiRNA及び対照群として図8のsiSurvivinとsiインテグリン、siβ−カテニンの混合物をPEIと結合させてHeLa細胞内部に伝達してから、24時間後にSurvivin mRNA、インテグリンmRNA、β−カテニンmRNAの発現程度を実施例2と同様の方法でリアルタイムRT−PCRを使って測定した。使われたプライマー対は下記の通りである。この時、Survivinに対するプライマー対は実施例7−1で使ったプライマー対を利用した。
Integrin−forward 5’−CGT ATC TGC GGG ATG AAT CT−3’(配列番号54)
Integrin−reverse 5’−GGG TTG CAA GCC TGT TGT AT−3’(配列番号55)
β−catenin−forward 5’−ATG TCC AGC GTT TGG CTG AA−3’(配列番号56)
β−catenin−reverse 5’−TGG TCC TCG TCA TTT AGC AG−3’(配列番号57)
siIntegrin sense:5’−UGAACUGCACUUCAGAUAU(dTdT)−3’(配列番号58)
siIntegrin antisense:5’−AUAUCUGAAGUGCAGUUCA(dTdT)−3'(配列番号59)
siβ−catenin sense:5’−GUAGCUGAUAUUGAUGGACUU−3’(配列番号60)
siβ−catenin antisense:5’−GUCCAUCAAUAUCAGCUACUU−3’(配列番号61)
その結果、図10(b)に示したように、T−tiRNAの遺伝子発現抑制効果がsiRNA混合物に比べて、顕著に増加したことを確認することができた。これもまた既存のsiRNA構造に比べて、本発明のリンカーを利用した三重構造のsiRNAがより優秀な遺伝子抑制効率を示すことを意味する。
【0053】
7−3:miR−21を抑制して、カテニン及びインテグリンの発現を抑制する多機能性MT−tiRNAの製造及び遺伝子抑制活性測定
実施例7−1と同様の方法で、Anti−miR21、siIntegrin及びsiβ−カテニンをTreblerホスホアミダイトに結合させて図11(a)のように三重RNA構造体を作製した。それから、miR−21に対するターゲット配列をpMIR Report−luciferase vector(Ambion社)のルシフェラーゼmRNAコーディング遺伝子の3'非翻訳部位のSpeII及びHindIII位置に挿入したベクターを構築した。前記挿入される各ターゲット配列は下記の通りである。
miR−21 target
miR−21 sense:
5’−AATGCACTAGTTCAACATCAGTCTGATAAGCTAGCTCAGCAAGCTTAATGC−3’(配列番号63)
miR−21 antisense:
5’−GCATTAAGCTTGCTGAGCTAGCTTATCAGACTGATGTTGAACTAGTGCATT−3’(配列番号64)
前記ベクターを図11(a)のMT−tiRNA、及び対照群としてAnti−miR21及びsiインテグリン、siβ−カテニンの混合物をPEIと結合させてHeLa細胞内部に伝達した後、実施例4同様にルシフェラーゼ活性を測定した。
Anti−miR21:5’−UCAACAUCAGUCUGAUAAGCUA−3’(配列番号65)
また、図11(a)のMT−tiRNAと、対照群としてAnti−miR21及びsiインテグリン、siβ−カテニンの混合物をPEIと結合させてHeLa細胞内部に伝達してから、24時間後にインテグリン mRNA、β−カテニンmRNAの発現程度を実施例2と同様の方法でリアルタイムRT−PCRを使って測定した。使われたプライマー対としては実施例7−2で使ったプライマー対を利用した。
その結果、図11(b)に示したように、本発明に係るMT−tiRNA複合体が、miR−21を抑制してルシフェラーゼ活性が顕著に増加したことを確認することができた。即ち、本発明に係る核酸構造複合体は、miRNAを抑制する機能も示すことができる多機能性を示すことを確認することができた。
また、図11(c)に示したように、T−tiRNAの遺伝子発現抑制効果が、siRNA混合物に比べて、顕著に増加したことを確認することができた。これもまた既存のsiRNA構造に比べて、本発明のリンカーを利用した三重構造のsiRNAがより優秀な遺伝子抑制効率を示すことを意味する。
【0054】
7−4:miR−21を抑制するT−tiAnti−miR21の製造及びmiR−21抑制活性測定
追加的に、実施例7−1と同様の方法で、三つのAnti−miR21を、各々Treblerホスホアミダイトに連結させて、三重RNA構造体を作製した。次に、実施例7−3と同様の方法でルシフェラーゼ活性を測定した。対照群としてはAnti−miR21を使った。
その結果、図12に示したように、アンタゴmiRのAnti−miR21を導入した場合とは異なり、T−tiAnti−miR21を導入した場合、miR−21を抑制してルシフェラーゼ活性が顕著に増加したことを確認することができた。即ち、本発明に係る核酸構造複合体は、既存のアンタゴmiRに比べて、より高い効率でmiRNAの活性を抑制することを確認することができた。
【0055】
[実施例8]陽イオン性細胞伝達体との結合力及び細胞伝達力測定
8−1:HSによる分離率比較
細胞内に核酸を導入する過程で核酸と陽イオン性細胞伝達体幹相互作用が細胞表面の陰電荷を帯びるプロテオグリカン(proteoglycan)によって阻害されるため、本発明に係る多重siRNA複合体の細胞表面に発現する陽イオン性ロテオグリカンであるHS(heparan sulfate)による分離率を次のように実験した。まず、図8の19bp siSurvivin及び図7のT−tiSurvivinを各々PEI(N/P=5)と結合させた後、各複合体とHS(Sigma/Aldrich)をHSの量を順次増加させながら30分の間培養した。次に、1%アガロースゲルで電気泳動を利用して、各複合体から放出されるsiRNAの量を測定した。この時、EtBrで染色してUV transilluminationで可視化させて確認した。
その結果、図13(a)に示したように、siSurvivinは同量(1 equivalent(wt/wt))のHSによってPEIから分離されたが、本発明に係る複合体は4倍増加したHSと共に培養した場合に限って分離されることを確認することができた。このような実験結果は、本発明に係る多機能性RNA構造複合体は、細胞内への導入前に、陽イオン性細胞表面物質による影響に抵抗性を有することを示す。
【0056】
8−2:FITCを利用した細胞内の伝達能測定
本発明に係る多機能性RNA構造体(T−tiSurvivin)及び従来siRNA(siSurvivin(図8))に対する細胞内の伝達程度を比較するために、実施例3と同様の方法でFITCで各々ラベルした後、蛍光顕微鏡で観察した。
その結果、図13(b)に示したように、siSurvivinの場合、細胞内に殆ど導入されないことが明らかになったが、本発明に係るT−tiSurvivinの場合、細胞内の部位で散在された緑色のスポットを確認することができた。
また、フローサイトメトリーを利用してFITC−ラベルされたRNAが導入された細胞の蛍光強度を測定した。測定は、FITC−ラベルされたT−tiSurvivin及びsiSurvivinを各々PEIに結合させてHeLa細胞にトランスフェクションさせてから、3時間後に細胞を収集してPBSで二回洗浄した後、FACSCalibur system(Becton Dickinson)を利用して行われた。
その結果、図13(c)に示したように、従来のsiRNA構造に比べて、本発明に係る多機能性核酸構造体は蛍光強度が増加したことが明らかになり、これを定量化した結果、図13(d)のように、平均強度で約10倍の差があることを確認することができた。
このような結果は、本発明に係る多機能性核酸構造体が、従来のsiRNAにPEIを結合させたものに比べて、細胞内の伝達活性が非常に優秀であることを示す。
【0057】
[実施例9]癌細胞成長抑制効果確認
本発明に係る複合体が抗癌組成物として使用可能であるかを確認するために、まず実施例7−1と同様の方法でSurvivin mRNA発現程度を測定した結果、本発明に係るT−tiSurvivinが従来のsiRNA構造のsiSurvivinに比べて顕著にSurvivin発現を抑制することを確認(図14(a))した。その後、図7のT−tiSurvivinと図8のsiSurvivinを各々肝臓ガン細胞株であるHepG2細胞(ATCC No.HB−8065)に導入して、癌細胞成長抑制程度を測定した。
その結果、図14(b)及び図14(c)に示したように、本発明に係る多機能性RNA構造体であるT−tiSurvivinをPEIと結合させて導入した場合、siSurvivinを導入した場合と何も処理しない対照群とは異なって、癌細胞増殖を抑制してアポトーシス化する効果があることが確認できた。
即ち、本発明に係る複合体が癌細胞の増殖を抑制する効果があり、癌の治療及び増殖抑制用抗癌組成物として提供できることを確認した。
【0058】
[実施例10]免疫反応誘導の可否確認
本発明に係る多重siRNA及び核酸構造体が、従来のsiRNAと比較して、dsRNAによって媒介される先天性免疫反応を引き起こすかを確認するために、3つの抗ウィルス性免疫反応遺伝子の発現の有無を確認した。
まず、dsRNA処理に対し非常に高い免疫感受性を有すると報告されたT98G細胞に、図7のT−tiSurvivin、図8のsiSurvivinと、実施例2のsiRNA混合物及びtsiRNAを、各々Lipofectamine2000と結合して導入させた後、IFIT1、IFN−β、OAS2の誘導レベルを実施例2と同様の方法でRT−PCR方法によって測定した。使われたプライマー対は下記の通りであり、抗ウィルス性反応を起こす陽性対照群としてはポリ(I:C)導入された細胞を使った。
IFIT1 RT−PCR用プライマー対
IFIT1−Forward 5’−GCC ACA AAA AAT CAC AAG CCA−3’(配列番号66)
IFIT1−reverse 5’−CCA TTG TCT GGA TTT AAG CGG−3’(配列番号67)
IFN−β RT−PCR用プライマー対
IFN−β forward:5’−AGA AGT CTG CAC CTG AAA AGA TAT T−3’(配列番号40)
IFN−β reverse:5’−TGT ACT CCT TGG CCT TCA GGT AA−3’(配列番号41)
OAS2 RT−PCR用プライマー対
OAS2−forward:5’−TCA GAA GAG AAG CCA ACG TGA−3’(配列番号68)
OAS2−reverse:5’−CGG AGA CAG CGA GGG TAA AT−3’(配列番号69)
その結果、図15に示したように、本発明に係る多機能性核酸構造複合体とは異なり、dsRNA処理に対し非常に高い免疫感受性を有すると報告されたT98G細胞において本発明による多重siRNA複合体の場合、ウィルスによる免疫反応遺伝子と知られたIFIT1及びOAS2の発現を誘導することを確認することができた。即ち、非特異的な免疫反応を誘導することを確認することができた。但し、IFN−βの場合、HELA細胞に導入した実施例2と同様に、ポリI:Cの陽性対照群によって誘導されるIFN−βmRNAレベルの1%未満に過ぎなかった。
前記実験結果は、非特異的な免疫反応を誘導しないためには、3つ以上の官能基を有する化合物をリンカーとして利用した多機能性核酸構造複合体がより効果的であることを示す。
【0059】
[実施例11]化学的修飾を有する多重siRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体の作製及びDicerに対する基質であるか否かの確認
長いdsRNAが細胞内導入される場合、Dicerによって切断されて21〜23bpのsiRNAが生成されると知られている。そこで、本発明に係る多重siRNA及び多機能性核酸構造体が従来のdsRNAらと異なる機構に従うのかを確認するために次のような実験を行った。
【0060】
11−1:tsiRNA及びT−tiSurvivinがDicer基質として作用するか否かの確認
27bpのdsRNA、実施例2のsiLaminとtsiRNA、図8のsiSurvivin、及び図7のT−tiSurvivinを各々30pmolずつTurbo Dicer siRNA generation Kit(Genlantis)を利用して、製造者のプロトコールに従って、12時間反応させた後、各反応物の2μL分画を取って、10%non−denaturing polyacrylamide gelで展開させた。この時、EtBrで染色し、UV transilluminationで確認した。
27bp dsRNA
Survivin27 Sense:5’−UCU UAG GAA AGG AGA UCA ACA UUU UCA−3’(配列番号70)
Survivin27 Antisense:5’−UGA AAA UGU UGA UCU CCU UUC CUA AGA−3’(配列番号71)
その結果、図16に示したように、27bpのdsRNAが完全に切断されることとは異なり、本発明に係る多重siRNAや多機能性核酸構造体は、良いDicer基質ではないと確認された。但し、tsiRNAの場合、部分的にDicerによって切断されたことが確認された。そこで、以下化学的修飾を有する多重siRNA及び多機能性核酸構造体を作製して、次のような実験を行った。
【0061】
11−2:化学的修飾を有する多重siRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体の製造及びこれらがDicerの基質として作用するのか否かの確認
実施例2のtsiRNA及び図7のT−tiSurvivinの接合される部分の一末端を図17及び図18のように灰色でアンダーラインの部分のヌクレオチドのリボースの2'位置のヒドロキシル基を−O−メチル基で置き換えた化学的修飾を有する多重siRNA(tsiRNA(OMe))及び多機能性核酸構造体(T−tiSurvivin(OMe))を製造した後、実施例11−1と同様の方法で実験を行った。
その結果、図19に示したように、tsiRNA(OMe)及びT−tiSurvivin(OMe)は共にDicerの基質として作用しないことを確認することができた。
【0062】
11−3:化学的修飾を有する多重siRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体の遺伝子発現抑制効果確認
実施例11−2のようにDicerの基質として作用しない化学的修飾を有する多重siRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体が遺伝子発現抑制効果を有するのか否かを確認するために、実施例2及び実施例7−1と同様の方法でRT−PCRを行った。
その結果、図20に示したように、化学的修飾を有する多重siRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体共に優秀な遺伝子発現抑制効果を有することを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明した通り、本発明に係るsiRNA複合体及び多機能性核酸構造複合体は、従来複数の目的遺伝子発現を抑制するためのshRNAシステムに比べて容易に化学的合成される新しい構造を有し、従来のsiRNAより向上した効率で複数の遺伝子を同時に発現抑制させられる長所がある。また、高い細胞内の伝達能を有するだけでなく、非特異的な抗ウィルス性反応を起こすことなく、特異的に目的遺伝子を発現抑制させられるため、癌やウィルス性感染等を治療するためのsiRNA機構媒介治療剤として非常に有用である。それと共に、本発明に係る多機能性核酸構造複合体は、siRNA以外にmiRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー及びリボザイムのような機能性核酸オリゴヌクレオチドを結合して、同時に多様な機能を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上のsiRNAが各々の一末端で互いに接合されている多重siRNAに陽イオン性細胞伝達体が結合されている、細胞内の伝達能が増加したsiRNA複合体。
【請求項2】
前記3つ以上のsiRNAはアンチセンスの3'方向末端で互いに接合されていることを特徴とする請求項1に記載のsiRNA複合体。
【請求項3】
前記siRNAは化学的修飾を含むことを特徴とする請求項1に記載のsiRNA複合体。
【請求項4】
前記化学的修飾は、前記siRNAに含まれる少なくとも1つのヌクレオチドのリボースの2’位置のヒドロキシル基が水素原子、フッ素原子、−O−アルキル基、−O−アシル基、及びアミノ基のいずれか一つに置換されることを特徴とする請求項1に記載のsiRNA複合体。
【請求項5】
前記多重siRNAは異なるsiRNAより構成されることを特徴とする請求項1に記載のsiRNA複合体。
【請求項6】
前記陽イオン性細胞伝達体は電荷相互作用により結合されることを特徴とする請求項1に記載のsiRNA複合体。
【請求項7】
前記陽イオン性細胞伝達体は、陽イオン性ポリマーまたは陽イオン性脂質であることを特徴とする請求項1に記載のsiRNA複合体。
【請求項8】
前記陽イオン性細胞伝達体は、ポリエチレンイミンまたはリポソームであることを特徴とする請求項7に記載のsiRNA複合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の複合体を細胞内に導入することを含むsiRNAの細胞内の伝達方法。
【請求項10】
3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、及びアプタマーからなる群から選択される3つ以上の核酸オリゴヌクレオチドの各々の一末端が連結している多機能性核酸構造体。
【請求項11】
前記3つ以上の官能基を有する化合物の各官能基に核酸断片が連結しており、そして前記siRNAのセンスまたはアンチセンスの一つの鎖、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーから選択される一つに、前記核酸断片と相補的に結合できる配列を導入することによって、前記核酸オリゴヌクレオチドのそれぞれが、前記核酸断片に、相補的結合により連結されることを特徴とする請求項10に記載の多機能性核酸構造体。
【請求項12】
前記多機能性核酸構造体は1以上のsiRNAを含むことを特徴とする請求項10に記載の多機能性核酸構造体。
【請求項13】
前記多機能性核酸構造体は3つ以上のsiRNAより構成されることを特徴とする請求項10に記載の多機能性核酸構造体。
【請求項14】
前記多機能性核酸構造体は互いに異なる三つのsiRNAより構成されることを特徴とする請求項13に記載の多機能性核酸構造体。
【請求項15】
前記オリゴヌクレオチドは化学的修飾を含むことを特徴とする請求項10に記載の多機能性核酸構造体。
【請求項16】
前記化学的修飾は、前記オリゴヌクレオチドに含まれる少なくとも1つのヌクレオチドのリボースの2’位置のヒドロキシル基が水素原子、フッ素原子、−O−アルキル基、−O−アシル基、及びアミノ基のいずれか一つに置換されることを特徴とする請求項10に記載の多機能性核酸構造体。
【請求項17】
前記3つ以上の官能基を有する化合物は、ホスホアミダイト化合物、ヨードアセチル化合物、マレイミド化合物、エポキシド化合物、チオール−ジスルフィド化合物、チオール化されたエルマン試薬、NHSまたはsulfo−NHS化合物及びイソシアネート化合物のいずれか一つであることを特徴とする請求項10に記載の多機能性核酸構造体。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれか一項に記載の多機能性核酸構造体に陽イオン性細胞伝達体が結合されている、細胞内の伝達能が増加した多機能性核酸構造複合体。
【請求項19】
前記陽イオン性伝達体は電荷相互作用により結合されることを特徴とする請求項18に記載の多機能性核酸構造複合体。
【請求項20】
前記陽イオン性細胞伝達体は、陽イオン性ポリマーまたは陽イオン性脂質であることを特徴とする請求項18に記載の多機能性核酸構造複合体。
【請求項21】
前記陽イオン性伝達体は、ポリエチレンイミンまたはリポソームであることを特徴とする請求項18に記載の多機能性核酸構造複合体。
【請求項22】
請求項18に記載の多機能性核酸構造複合体を細胞内に導入することを含む多機能性核酸構造体の細胞内の伝達方法。
【請求項23】
3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーからなる群から選択される核酸オリゴヌクレオチドの一末端を連結させることを特徴とする多機能性核酸構造体の製造方法。
【請求項24】
前記3つ以上の官能基を有する化合物の各官能基に核酸断片が連結すること、そして前記オリゴヌクレオチドに前記核酸断片と相補的に結合できる配列を導入し、前記核酸断片に相補的に連結されることを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記3つ以上の官能基を有する化合物は、ホスホアミダイト化合物、ヨードアセチル化合物、マレイミド化合物、エポキシド化合物、チオール−ジスルフィド化合物、チオール化されたエルマン試薬、NHSまたはsulfo−NHS化合物及びイソシアネート化合物のいずれか一つであることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項26】
次の工程を含む、細胞内の伝達能が増加した多機能性核酸構造複合体の製造方法:
(a)3つ以上の官能基を有する化合物にsiRNA、miRNA、アンタゴmiR、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及びアプタマーからなる群から選択される核酸オリゴヌクレオチドの一末端を連結して、多機能性核酸構造体を製造する工程;及び
(b)前記多機能性RNA構造に陽イオン性細胞伝達体を電荷相互作用によって結合させる工程。
【請求項27】
前記(a)工程は3つ以上の官能基を有する化合物の各官能基に核酸断片が連結し、そして前記オリゴヌクレオチドに前記核酸断片と相補的に結合できる配列を導入し、前記核酸断片との相補的に連結される工程を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記3つ以上の官能基を有する化合物は、ホスホアミダイト化合物、ヨードアセチル化合物、マレイミド化合物、エポキシド化合物、チオール−ジスルフィド化合物、チオール化されたエルマン試薬、NHSまたはsulfo−NHS化合物及びイソシアネート化合物のいずれか一つであることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記核酸断片は配列番号42の塩基配列を含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記オリゴヌクレオチドは化学的修飾を含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記陽イオン性細胞伝達体は、陽イオン性ポリマーまたは陽イオン性脂質であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のsiRNA複合体を含有する遺伝子発現抑制用組成物。
【請求項33】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のsiRNA複合体を含有する抗癌組成物。
【請求項34】
請求項12の多機能性核酸構造複合体を含有する遺伝子発現抑制用組成物。
【請求項35】
請求項12の多機能性核酸構造複合体を含有する抗癌組成物。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2012−516683(P2012−516683A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547817(P2011−547817)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/KR2010/000678
【国際公開番号】WO2010/090452
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511185438)ソンギュングヮン ユニバーシティ ファウンデーション フォー コーポレート コラボレーション (2)
【Fターム(参考)】