説明

細胞内へ核酸を導入する為の新規な分子並びに細胞内へ導入する核酸および細胞内へ核酸を導入する為の新規な方法

【課題】 核酸を細胞内へ導入する方法の提供。
【解決手段】 核酸を細胞内に導入するための方法であって、以下の工程を包含する方法:(1)RNA結合性タンパク質の全体または一部構造および膜透過性キャリアペプチドを含む、RNA結合性および膜透過性を有する融合タンパク質と、該RNA結合性タンパク質に対する認識配列および任意の配列を含むRNAとを結合させる工程;および(2)該融合タンパク質と該RNAとの結合体を任意の細胞と混合する工程、ここで該融合タンパク質の構造中に含まれる膜透過性キャリアペプチドの性質により該融合タンパク質と結合した該RNAが該細胞内に導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を細胞内へ導入する為の分子および核酸を細胞内へ導入する為の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日において、DNAやRNA、PNAなどの核酸、あるいはタンパク質、低分子等の外来分子を真核生物へ導入する方法、すなわちトランスフェクション法は、生物学的・医学的な研究や応用のための重要なツールの一つである。所望の物質を任意に細胞内へ導入することによって、遺伝子の細胞への影響の研究、細胞内での特定の分子の追跡、遺伝子の発現調節、タンパク質発現のための組換え細胞の樹立など、生体の機能を解明する上で欠かすことの出来ない様々な研究を行うことが可能となる。また更に、近年特に、遺伝子治療分野への応用に関する技術開発が急速に進められており、細胞内への核酸の導入による、がん、高脂血症、糖尿病などの特定の遺伝子の過剰な活性発現を原因とする疾患の治療に簡便にかつ安全に用いることができる核酸バイオ医薬としての活用が期待されている。
【0003】
トランスフェクション法は以前より様々な方法が考案されている。今日において頻繁に用いられている方法としては、DEAEデキストラン法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、ウィルス法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法、デンドリマー法、非リポソーム脂質法などがある。また一方で、好ましいトランスフェクション法として要求される性質は、簡便に使えること、導入効率が高いこと、汎用性が高いこと、再現性が高いこと、細胞に対する毒性が低いこと、などが挙げられる。しかしながら汎用されているいずれの前述の手法には、それぞれ特有の長所と短所が存在し、導入を行う分子の形態や研究目的、導入を行う細胞の種類などにより、それぞれの使用法を使い分ける必要があった。また、細胞の種類によっては、いかなるトランスフェクション法を用いても高い導入効率を得られない場合もあった。
【0004】
その中でも、代表的なトランスフェクション法の一つとしては、リポソーム法が挙げられる。リポソーム法は、操作が比較的簡便であり、また前述したDEAEデキストラン法やリン酸カルシウム法などの比較的古い方法と比較して、高いトランスフェクション効率を持ち、再現性も良いといった特長があり、現在最も頻繁に使用されている方法のひとつである。しかしながらリポソーム法の最大の欠点は、リポソーム自身が非生体物質、即ち人工的な陽イオン性脂質と中性脂質の混合物を用いるため、試薬自身の毒性により細胞にダメージを与えてしまうという問題があった。また、エレクトロポレーション法やマイクロインジェクション法、パーティクルガン法などは、細胞を物理的に穿孔する方法で、前述のリポソーム法などの化学的方法と比べ、導入を行う細胞の種類を問わないなどの利点がある。しかしながらこれらの方法は、細胞に物理的なストレスがかかるため、細胞の死亡率が極めて高いという問題があった。
【0005】
一方、従来、DNAを用いることが多かった核酸の細胞内への導入においては、近年、核酸の細胞内への導入による研究・応用の高効率化や、DNAの導入では不可能であった全く新しい研究への期待から、RNAを細胞に導入する手法に注目が集まりつつある。RNAを細胞へ導入するにより、非分裂細胞へのRNAトランスフェクションによるタンパク質の翻訳、RNAウィルスの直接的な研究、アンチセンスRNAやリボザイム、siRNA、miRNAによるアッセイ等の研究・応用に用いることが可能となる。
【0006】
その中でも、近年において最も注目を浴びている研究・応用手法が、二本鎖RNAによる配列特異的なメッセンジャーRNAの分解と、その結果として起こる遺伝子発現の抑制、即ちRNA干渉(RNAi)である。RNA干渉は、アンチセンス法やリボザイム法といった従来の遺伝子発現抑制法と比較して、特異性や効率が高く、方法が簡便であるといった特長があり、1990年代の発見以来、近年急速に広まりつつある手法である。遺伝子の機能を解明や、培養細胞中において薬剤の標的を検証するといった創薬研究、あるいは応用分野として、がん、高脂血症、糖尿病などの特定の遺伝子の過剰な活性発現を原因とする疾患の治療に簡便にかつ安全に用いることができる核酸バイオ医薬としての活用など、遺伝子発現の抑制による研究・応用は以前から幅広く行われてきており、RNA干渉はそれらの研究・応用を飛躍的に加速する技術として、非常に期待がもたれている。
【0007】
特に、RNA干渉を用いた核酸バイオ医薬への期待は近年非常に高まりつつある。核酸バイオ医薬の技術開発においては、核酸を生体、特に人体へ効率よく導入する技術が不可欠である。しかしながら既存のトランスフェクション技術では、いずれの方法においても前述のように細胞へのダメージが大きく、安全性の面において、生体、特に人体への応用には適さないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、核酸、特にRNAの細胞内への導入に対する需要が増大し、学問的・応用的用途が近年急激に広まってゆく傾向にある中で、核酸、特にRNAを従来よりも細胞に与えるダメージをより小さくした細胞内への導入方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ね、核酸結合性タンパク質と膜透過性キャリアペプチドとの融合蛋白を用いることで、非生体物質を一切用いず、細胞毒性を極めて低く抑えたまま核酸を細胞内へ導入できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下のような構成からなる。
[1]核酸を細胞内に導入するための方法であって、以下の工程を包含する方法:
(1)RNA結合性タンパク質の全体または一部構造および膜透過性キャリアペプチドを含む、RNA結合性および膜透過性を有する融合タンパク質と、該RNA結合性タンパク質に対する認識配列および任意の配列を含むRNAとを結合させる工程;および
(2)該融合タンパク質と該RNAとの結合体を任意の細胞と混合する工程、ここで該融合タンパク質の構造中に含まれる膜透過性キャリアペプチドの性質により該融合タンパク質と結合した該RNAが該細胞内に導入される。
[2]RNA結合性タンパク質がU1Aタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素、sex−lethal蛋白質、伸長因子Tu、RRMモチーフを構造中に含むタンパク質から選択されるいずれかのタンパク質もしくはそれらに類似のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを特徴とする[1]に記載の方法。
[3]RNA結合性タンパク質がヒト由来U1Aタンパク質もしくはそれに類似のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを特徴とする[2]に記載の方法。
[4]膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチド、Revペプチド、ネコヘルペスウィルスCoatタンパク質由来ペプチド、ポリアルギニンから選択されるいずれかのペプチドもしくはそれらに類似のアミノ酸配列を持つペプチドであることを特徴とする[1]に記載の方法。
[5]膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチドもしくはそれに類似のアミノ酸配列を持つペプチドであることを特徴とする[4]に記載の方法。
[6]RNA中の任意の配列が、ウィルスRNA、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、アンチセンスRNA、アプタマ−RNA、リボザイム、siRNA、miRNAから選択されるいずれか一つまたは複数の機能を持つ機能性RNAの配列であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の方法により核酸を細胞内に導入する工程を包含する、細胞内タンパク質合成または遺伝子発現抑制方法。
[8]RNA結合性タンパク質の全体または一部構造および膜透過性キャリアペプチドを含むRNA結合性および膜透過性を有する融合タンパク質であって、RNA結合性タンパク質ドメインと結合した該RNA結合性タンパク質に対する認識配列を含む任意のRNAを細胞内に導入する性質をもつことを特徴とする融合タンパク質。
[9]RNA結合性タンパク質がU1Aタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素、sex−lethal蛋白質、伸長因子Tu、RRMモチーフを構造中に含むタンパク質から選択されるいずれかのタンパク質であることを特徴とする[8]に記載のタンパク質。
[10]RNA結合性タンパク質がヒト由来U1Aタンパク質であることを特徴とする[9]に記載のタンパク質。
[11]膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチド、Revペプチド、ネコヘルペスウィルスCoatタンパク質由来ペプチド、ポリアルギニンから選択されるいずれかのペプチドであることを特徴とする[8]に記載のタンパク質。
[12]膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチドであることを特徴とする[11]に記載のタンパク質。
[13][8]〜[12]のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【発明の効果】
【0011】
本発明により提供される核酸を細胞内へ導入する為のタンパク質を用いることにより、従来法に比べて核酸の細胞内への導入効率が向上し、高効率なRNA干渉アッセイやそれを利用した治療を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず本発明は、融合タンパク質を用いた、核酸を細胞内へ導入する方法である。
【0013】
本願発明で言う核酸とは、その構造は特に限定されないが、より具体的にはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)等を用いるのが好ましく、特にRNAを用いるのが好ましい。
【0014】
また本願発明で言う融合タンパク質とは、二つ以上のタンパク質あるいはペプチドが構造的に融合しているタンパク質を指し、その構造は特に限定されないが、特に二つ以上のタンパク質がそのコードする遺伝子レベルで融合しているものを用いるのが好ましく、特に好ましくは、膜透過性キャリアペプチドのアミノ酸配列のC末端側の直下にRNA結合性タンパク質の全体または一部構造のアミノ酸配列を連結したもの、もしくは膜透過性キャリアペプチドのアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列を介しRNA結合性タンパク質の全体または一部構造のアミノ酸配列を連結したものを用いることができる。これらの融合タンパク質は、一般的な遺伝子組み換え方法、即ち、DNA連結酵素による連結、あるいはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法などの手法により、そのコードするDNAを作成することにより、容易に作製することが可能である。また、それらの手法により作製した融合タンパク質は、細胞培養液中に添加するだけで反応を行うことができ、使用法は容易である。また、作製した融合タンパク質がRNA結合性タンパク質由来のRNA結合性および膜透過性キャリアペプチド由来の膜透過性を有することは、そのRNA導入効率を確認することによって調べることができる。RNA導入効率は、RNA結合性タンパク質に対する認識配列を持つ任意のRNAに蛍光ラベルを付加したものを用い、該融合タンパク質と該RNAを混合した後、細胞に添加し、蛍光顕微鏡観察による細胞内のRNAの検出を行うことで、細胞内へのRNA導入効率を容易に確認することできる。
【0015】
また本願発明で言うRNA結合性タンパク質とは、RNAの塩基配列あるいは立体構造に依存的または非依存的に結合するタンパク質を指し、その構造は特に限定されないが、好ましくはRNA鎖上の特定の塩基配列あるいは特定の立体構造を認識し、配列あるいは構造依存的に特異的に結合する性質を持つタンパク質を用いることができる。より具体的には、野生型タンパク質もしくはそのタンパク質の一部ドメインもしくはそれに類似するアミノ酸配列をもつタンパク質であることが好ましい。なお本願発明で述べる類似するアミノ酸配列を持つタンパク質とはとは、ドメイン構造等のタンパク質本来の機能を失わない程度で改変されていても良いという意味であり、具体的には、アミノ酸配列の好ましくは10%以内、より好ましくは7%以内、さらに好ましくは5%以内、特に好ましくは3%以内、最も好ましくは2%以内のアミノ酸残基が置換、欠失、付加されていても良い。また、好ましい野生型タンパク質の具体的な例としては、U1Aタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素、sex−lethal蛋白質、伸長因子Tu、RRMモチーフを構造中に含むタンパク質などが挙げられ、より具体的にはヒト由来U1Aタンパク質が好適に用いられる。
【0016】
また本願発明で言う膜透過性キャリアペプチドとは、細胞膜と結合し自身を細胞内に取り込ませる働きを持つポリペプチドを指し、その構造は特に限定されないが、好ましくは塩基性アミノ酸に富んだ2〜100残基程度のポリペプチドを用いることができる。より具体的には、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチド、Revペプチド、ネコヘルペスウィルスCoatタンパク質由来ペプチド、ポリアルギニンから選択されるいずれかのペプチドもしくはそれらに類似のアミノ酸配列を持つペプチドなどが好適に用いられ、さらに好ましくはヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチドが用いられる。
【0017】
本願発明の融合タンパク質の一例としてヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチドとヒト由来U1Aタンパク質との融合タンパク質(TAT−U1A融合タンパク質)が挙げられる。
【0018】
また本願発明で言うRNA結合性タンパク質に対する認識配列および任意の配列を含むRNAとは、前述のRNA結合タンパク質と結合する性質を持ついかなる配列のRNAを用いることもできるが、好ましくはRNA結合性の野生型タンパク質もしくはそのタンパク質の一部ドメインもしくはそれに類似するアミノ酸配列を持つタンパク質と結合する認識配列を持つRNAを用いることができ、より好ましくは、RNA結合性タンパク質に対する認識配列と、細胞内への導入を目的とする機能性RNA配列とを、リンカーを介しまたは直接連結したRNAを用いることができる。なお本願発明で述べる類似するアミノ酸配列を持つタンパク質とはとは、ドメイン構造等のタンパク質本来の機能を失わない程度で改変されていても良いという意味であり、具体的には、アミノ酸配列の好ましくは10%以内、より好ましくは7%以内、さらに好ましくは5%以内、特に好ましくは3%以内、最も好ましくは2%以内のアミノ酸残基が置換、欠失、付加されていても良い。さらに好ましいRNA結合性に対する認識配列を含むRNAとは、U1Aタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素、sex−lethal蛋白質、伸長因子Tu、RRMモチーフのいずれかに対する認識配列を含むRNAを用いることができ、特に好ましくはヒト由来U1Aタンパク質に対する認識配列を含むRNAを用いることができる。また本願発明で言う機能性RNAとは、その機能は特に限定されないが、具体的には、ウィルスRNA、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、アンチセンスRNA、アプタマ−RNA、リボザイム、siRNA、miRNAなどが好ましく、より具体的にはリボザイム、siRNA、miRNAが好ましい。
【0019】
また本願発明は、細胞内タンパク質合成、遺伝子発現抑制等を行う方法である。ここで言う細胞内タンパク質合成とは、RNA結合性タンパク質に対する認識配列とメッセンジャーRNA(mRNA)としての機能を持つ配列とを直列に連結したRNA分子を本願発明の方法により細胞内へ導入し、細胞内において該RNA分子のmRNA配列部分のコードするタンパク質を、細胞内に固有の機能により翻訳反応を行わせるもので、その形態は特に限定されない。またここで言う遺伝子発現抑制は、RNA結合性タンパク質に対する認識配列とリボザイム、siRNA、miRNA等の機能を持つ配列を、リンカーを介して直列に連結したRNAを、本願発明の方法により細胞内へ導入し、細胞内において、導入したRNA分子の配列依存的に特定のmRNA分子に結合し、該mRNA分子の機能を阻害するもので、特にその形態は限定されないが、より好ましくは図1に示すようなRNA結合性タンパク質に対する認識配列と、siRNA分子またはmiRNA分子等の機能を持つ配列とをリンカー配列を介して連結したものを本願発明の方法により細胞内へ導入し、細胞内でDicer酵素の作用により、リンカー配列部分および一本鎖ループ配列部分が切断・分解され、二本鎖部分が細胞固有の特定の構造体に認識されることにより、mRNAからの翻訳反応を阻害する方法(RNA干渉)を行うことができる。図1は結合した本願発明の融合タンパク質およびRNAの構造を示す概念図である。図1において、1は融合タンパク質中のRNA結合性タンパク質由来の部分を、2は融合タンパク質中の膜透過性キャリアペプチド由来の部分を、3はRNA中のRNA結合性タンパク質に対する認識配列を、4はRNA中の任意の配列を表す。
【0020】
また本願発明は、RNA結合性タンパク質の全体または一部構造および膜透過性キャリアペプチドを含む、RNA結合性および膜透過性を有する融合がタンパク質であって、RNA結合性タンパク質ドメインと結合した任意のRNAを細胞内に導入する性質をもつことを特徴とする融合タンパク質である。
【実施例】
【0021】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1
ゲルシフトアッセイ
50mM 塩化ナトリウムを含有する10mM HEPES−KOH, pH7.6緩衝液に、最終濃度10μMのdsRNAと28μMのTAT−U1A融合タンパク質をどちらか一方あるいは両方を混合したものをそれぞれ5μl調製し、インキュベートを行った。TAT−U1Aタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1に示す。配列番号1においてアミノ酸1〜10がヒスチジンタグ、14〜25がヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチド、26〜36がHAタグ、37〜132がヒト由来U1Aタンパク質にそれぞれ相当する。配列番号2にdsRNAの塩基配列を示す。配列番号2において塩基1〜22がヒト由来U1Aタンパク質に対する認識配列に相当する。
次に、50mM トリス, pH6.8、10mM 酢酸マグネシウム、65mM 酢酸アンモニウム、1mM エチレンジアミン四酢酸、1mM ジチオスレイトールを含む6%ポリアクリルアミドゲルに反応液をアプライし、電気泳動を行った。電気泳動を行ったゲルは、臭化エチジウムまたはクマシーブリリアントブルーを用いて、それぞれ核酸染色またはタンパク質染色を行った。
その核酸染色の結果を図2に示す。図2レーン2に示す、dsRNAとTAT−U1A融合タンパク質との混合反応液では、図2レーン3に示す、dsRNA単独反応液と比較して、RNAの染色シグナルが高分子量側にシフトしているのが確認された。また、タンパク質染色の結果を図3に示す。図3レーン2に示す、dsRNAとTAT−U1A融合タンパク質との混合反応液では、図2レーン1に示す、TAT−U1A融合タンパク質単独反応液と比較して、タンパク質の染色シグナルがシフトしているのが確認された。これらの分子量の増大は、dsRNAとTAT−U1A融合タンパク質とが互いに結合していることにより起こると考えられ、TAT−U1A融合タンパク質がdsRNAとの融合能を有していることが示唆された。
【0023】
実施例2
核酸の細胞への導入
1μMのテトラメチルローダミン標識dsRNAと、5μMのTAT−U1A融合タンパク質、もしくは1μMのテトラメチルローダミン標識dsRNAのみを、ウシ胎児血清添加ハムF12培地に添加した。この培地を用いて、細胞培養用ディッシュ上の70%コンフルエントのチャイニーズハムスター卵巣細胞の培地交換を行い、37℃で16時間培養した。その後、細胞をPBSで洗浄し、未反応の標識dsRNAおよびTAT−U1A融合タンパク質を除去した。蛍光顕微鏡観察により細胞中のテトラメチルローダミン標識dsRNAのシグナルを検出した。
その結果を図4に示す。図4Aに示す、標識dsRNAのみを添加した条件では、細胞内で標識dsRNAのシグナルが全く観察されなかったのに対し、図4Bに示す、標識dsRNAとTAT−U1A融合タンパク質を共に添加したものでは、細胞内での標識dsRNAのシグナルが検出された。このことから、TAT−U1A融合タンパク質の作用により、標識dsRNAは細胞内に導入されたと考えられ、TAT−U1A融合タンパク質にdsRNAを効率的に細胞内に導入する能力があることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の融合タンパク質を用いて、RNA干渉等に用いるRNAの細胞内への導入を効率よく行うことができ、研究分野、医療分野等の産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】結合した本願発明の融合タンパク質およびRNAの構造を示す概念図。
【図2】電気泳動を行ったゲルを臭化エチジウムにより染色を行った像を示す図。
【図3】電気泳動を行ったゲルをクマシーブリリアントブルーにより染色を行った像を示す図。
【図4】TAT−U1A融合タンパク質により細胞内に導入した標識dsRNAを蛍光顕微鏡観察により検出した像を示す図。
【符号の説明】
【0026】
1 融合タンパク質中のRNA結合性タンパク質由来の部分
2 融合タンパク質中の膜透過性キャリアペプチド由来の部分
3 RNA中のRNA結合性タンパク質に対する認識配列
4 RNA中の任意の配列
【配列表フリーテキスト】
【0027】
SEQ ID NO:1: TAT-U1A protein
SEQ ID NO:2: dsRNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を細胞内に導入するための方法であって、以下の工程を包含する方法:
(1)RNA結合性タンパク質の全体または一部構造および膜透過性キャリアペプチドを含む、RNA結合性および膜透過性を有する融合タンパク質と、該RNA結合性タンパク質に対する認識配列および任意の配列を含むRNAとを結合させる工程;および
(2)該融合タンパク質と該RNAとの結合体を任意の細胞と混合する工程、ここで該融合タンパク質の構造中に含まれる膜透過性キャリアペプチドの性質により該融合タンパク質と結合した該RNAが該細胞内に導入される。
【請求項2】
RNA結合性タンパク質がU1Aタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素、sex−lethal蛋白質、伸長因子Tu、RRMモチーフを構造中に含むタンパク質から選択されるいずれかのタンパク質もしくはそれらに類似のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RNA結合性タンパク質がヒト由来U1Aタンパク質もしくはそれに類似のアミノ酸配列を持つタンパク質であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチド、Revペプチド、ネコヘルペスウィルスCoatタンパク質由来ペプチド、ポリアルギニンから選択されるいずれかのペプチドもしくはそれらに類似のアミノ酸配列を持つペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチドもしくはそれに類似のアミノ酸配列を持つペプチドであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
RNA中の任意の配列が、ウィルスRNA、メッセンジャーRNA、トランスファーRNA、アンチセンスRNA、アプタマ−RNA、リボザイム、siRNA、miRNAから選択されるいずれか一つまたは複数の機能を持つ機能性RNAの配列であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により核酸を細胞内に導入する工程を包含する、細胞内タンパク質合成または遺伝子発現抑制方法。
【請求項8】
RNA結合性タンパク質の全体または一部構造および膜透過性キャリアペプチドを含むRNA結合性および膜透過性を有する融合タンパク質であって、RNA結合性タンパク質ドメインと結合した該RNA結合性タンパク質に対する認識配列を含む任意のRNAを細胞内に導入する性質をもつことを特徴とする融合タンパク質。
【請求項9】
RNA結合性タンパク質がU1Aタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素、sex−lethal蛋白質、伸長因子Tu、RRMモチーフを構造中に含むタンパク質から選択されるいずれかのタンパク質であることを特徴とする請求項8に記載のタンパク質。
【請求項10】
RNA結合性タンパク質がヒト由来U1Aタンパク質であることを特徴とする請求項9に記載のタンパク質。
【請求項11】
膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチド、Revペプチド、ネコヘルペスウィルスCoatタンパク質由来ペプチド、ポリアルギニンから選択されるいずれかのペプチドであることを特徴とする請求項8に記載のタンパク質。
【請求項12】
膜透過性キャリアペプチドが、ヒト免疫不全ウィルス由来のTATペプチドであることを特徴とする請求項11に記載のタンパク質。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−280261(P2006−280261A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103703(P2005−103703)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】