説明

細胞分析装置及び細胞分析方法

【課題】細胞の弁別をより正確に行い、分析精度を高める。
【解決手段】本発明の細胞分析装置は、測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得する分析部と、測定試料流中の細胞の画像を撮像する撮像部と、弁別された対象細胞の画像と分析結果を表示する表示部と、表示部に表示された画像と対応する細胞を対象細胞から除外すべき指示を入力する入力部と、入力部からの除外入力に応じて分析結果を再取得する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセルを流れる測定試料に光を照射し、その測定試料中の細胞から生じる光を利用して当該細胞の分析を行う細胞分析装置及び細胞分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析対象となる細胞を含む測定試料にレーザ光を照射し、その測定試料からの散乱光や蛍光を利用して各細胞の大きさや形状を測定するフローサイトメトリー法が知られている。
例えば、下記特許文献1に記載されている細胞分析装置は、細胞を含む試料流を形成するフローセルと、フローセル中の試料流に光を照射する光源と、光を照射されることで試料流中の細胞から生じる散乱光信号及び蛍光信号を検出する検出部と、検出部により検出された信号を解析することで特徴パラメータを算出する信号解析部と、を備え、この信号解析部により算出された特徴パラメータに基づき、試料中の細胞から癌細胞及び異型細胞を弁別するように構成されている。
また、特許文献1には、この細胞分析装置が、特徴パラメータに基づき試料中の細胞から癌細胞及び異型細胞を正しく弁別できているかを確認するために、カメラによって細胞の画像を撮像し、その画像を確認することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/103920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている細胞分析装置は、子宮頸癌のスクリーニング検査に用いられ、散乱光信号や蛍光信号から得られた特徴パラメータを用いて、試料中の細胞を癌細胞等の異常細胞と正常細胞とに弁別する機能を有している。しかし、この細胞分析装置においては、カメラによって撮像された細胞の画像は、細胞の弁別に用いられていなかった。
【0005】
本発明は、光信号から得られる特徴パラメータに加え、細胞の画像を効果的に利用することによって細胞の弁別を正確に行い、より分析精度を高めることができる細胞分析装置及び細胞分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の様態における細胞分析装置は、測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得する分析部と、前記測定試料中の細胞の画像を撮像する撮像部と、弁別された対象細胞の画像と分析結果を表示する表示部と、前記表示部に表示された画像と対応する細胞を対象細胞から除外すべき指示を入力する入力部と、前記入力部からの除外入力に応じて分析結果を再取得する制御部と、を備えることを特徴としている。
【0007】
以上の構成を有する本発明の細胞分析装置において、分析部は、測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得する。一方、撮像部は、前記測定試料中の細胞の画像を撮像する。また、表示部は、弁別された対象細胞の画像と分析結果を表示する。
ここで、撮像部によって撮像された画像には、対象細胞の形態(外形や内部構造)が現れるため、この画像に基づいて対象細胞を弁別すればより正確な弁別が行え、分析結果もより正確になるといえる。そのため、本発明の細胞分析装置において、撮像部により撮像された画像に基づいて対象細胞の弁別が行われた結果、入力部に前記表示部に表示された画像と対応する細胞を対象細胞から除外すべき指示が入力されると、制御部は、前記入力部からの除外入力に応じて分析結果を再取得する。これにより、分析精度を高めることができるようにしている。
【0008】
また、前記分析結果は、測定試料中の前記対象細胞と他の細胞との比率を示す情報を含み、前記制御部は、前記比率が所定の閾値を越えたときに、その旨の情報を前記表示部に表示させる機能を有していることが好ましい。
この構成により、例えば、測定試料中の対象細胞と他の細胞との比率と、ある疾患と間に何らかの関連性がある場合には、その関連性に応じた閾値を予め定めておき、当該比率が閾値を越えた場合にその旨の情報を表示部に表示することによって、使用者は疾患の可能性を見落とすことなく表示部の表示から容易に読み取ることができる。
【0009】
また、前記対象細胞が異常細胞であり、記分析結果が、測定試料中の異常細胞の数と正常細胞の数との比率を示す情報を含み、前記入力部が、異常細胞であると弁別された細胞を異常細胞から削除する指示及び異常細胞を正常細胞として訂正する指示を入力可能であってもよい。
【0010】
この構成において、前記制御部は、前記削除指示が前記入力部に入力された場合には、削除される細胞の数を異常細胞の数に反映させて分析結果を再取得してもよい。
これによれば、特徴パラメータに基づいて当初は異常細胞と弁別された細胞が、画像に基づいた弁別によって異常細胞でも正常細胞でもない分析対象外の細胞であると判断された場合に、その細胞を、当初の異常細胞から除くことによって、異常細胞と正常細胞との比率を正確に取得することができる。
【0011】
また、この構成において、前記制御部は、前記訂正指示が前記入力部に入力された場合には、訂正される細胞の数を異常細胞の数と正常細胞の数との双方に反映させて分析結果を再取得してもよい。
これによれば、特徴パラメータに基づいて当初は異常細胞と弁別された細胞が、画像に基づいた弁別によって正常細胞であると判断された場合に、その細胞を、当初の異常細胞から除くとともに正常細胞に加えることによって、異常細胞と正常細胞との比率を正確に取得することができる。
【0012】
なお、上記における異常細胞の数と正常細胞の数との比率とは、正常細胞の数に対する異常細胞の数の比率であってもよいし、正常細胞及び異常細胞の総数に対する異常細胞の数の比率であってもよい。
【0013】
前記制御部は、前記分析部により取得された特徴パラメータに関する情報を表示部に表示させる機能を有していることが好ましい。これにより、分析結果だけでなく、この分析結果を得る過程で利用された特徴パラメータについても表示部を介して確認することができ、この表示をより適切な診断に役立てることができる。
【0014】
前記対象細胞は、癌細胞及び異型細胞のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。また、前記測定試料に含まれる細胞は、被験者の子宮頸部から採取された細胞であることが好ましい。これにより、本発明の細胞分析装置を子宮頸癌等の疾患の診断に利用することができる。
【0015】
前記測定試料に含まれる細胞は、染色試薬により核染色されていることが好ましい。これにより細胞の癌化による核異常(DNA量の増大やクロマチンの増大等)をより正確に検出することが可能となる。
【0016】
前記検出部は、少なくとも測定試料中の細胞から生じる蛍光信号を検出することが好ましい。これにより細胞が非凝集細胞であるか否か、又はDNA量異常細胞であるか否かを判別することができ、異常細胞の弁別に有効に役立てることができる。
【0017】
また、本発明の第二の様態における細胞分析装置は、測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得する分析部と、前記測定試料中の細胞の画像を撮像する撮像部と、分析結果を表示する表示部と、前記分析部によって対象細胞であると弁別された細胞の画像に基づき、当該細胞が対象細胞であるか否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果に応じて分析結果を再取得する制御部と、を備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の第三の様態における細胞分析方法は、測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得するステップと、前記測定試料中の細胞を撮像するステップと、弁別された対象細胞の画像と分析結果を表示するステップと、対象細胞から除外すべき指示の入力を受け付けるステップと、受け付けた除外すべき指示に応じて分析結果を再取得するステップと、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光信号から取得された特徴パラメータに加え、細胞の画像を効果的に利用することによって対象細胞の弁別をより正確に行うことができ、その結果、分析精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る細胞分析装置の斜視説明図である。
【図2】図1に示される細胞分析装置の構成を示すブロック図である。
【図3】システム制御部を構成するパソコンのブロック図である。
【図4】光学検出部の構成を示す図である。
【図5】単一細胞の信号波形を示す図である。
【図6】2個の細胞からなる凝集細胞の信号波形を示す図である。
【図7】3個の細胞からなる凝集細胞の信号波形を示す図である。
【図8】測定試料から得られた前方散乱光信号のピーク値を縦軸にとり、前方散乱光信号のパルス幅を横軸にとったスキャッタグラムを示す図である。
【図9】分析対象細胞の蛍光信号波形の差分積分値をピーク値で除した値を縦軸にとり、側方散乱光信号のパルス幅を横軸にとったスキャッタグラムを示す図である。
【図10】測定試料から得られた側方蛍光信号のパルスの面積を横軸にとったヒストグラムを示す図である。
【図11】システム制御部のCPUによる処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】システム制御部のCPUによる細胞分析処理を示すフローチャートである。
【図13】表示部の画面構成の一例を示す概略図である。
【図14】異常細胞から除外されるべき正常細胞の画像である。
【図15】分析対象から除外されるべき白血球の凝集細胞の画像である。
【図16】異常細胞である癌細胞(ただし、試験的に培養したもの)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の細胞分析装置及び細胞分析方法の実施の形態を詳細に説明する。
[細胞分析装置の全体構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る細胞分析装置10の斜視説明図である。この細胞分析装置10は、患者から採取した細胞を含む測定試料をフローセルに流し、このフローセルを流れる測定試料にレーザ光を照射し、測定試料からの光(前方散乱光、側方蛍光等)を検出・分析することで、上記細胞に癌細胞や異型細胞(以下、これらを「異常細胞」ともいう)が含まれているか否かを判断するのに用いられる。具体的には、子宮頸部の上皮細胞を用いて子宮頸癌をスクリーニングするのに用いられる。細胞分析装置10は、試料の測定等を行う装置本体12と、この装置本体12に接続され、測定結果の分析等を行うシステム制御部13とを備えている。
【0022】
図2に示すように、細胞分析装置10の装置本体12は、測定試料から細胞や核のサイズ等の情報を検出するための光学検出部3と、信号処理回路4と、測定制御部16と、モータ、アクチュエータ、バルブ等の駆動部17と、各種センサ18と、細胞の画像を撮像する撮像部26とを備えている。信号処理回路4は、光学検出部3の出力をプリアンプ(図示せず)により増幅したものに対して増幅処理やフィルタ処理等を行うアナログ信号処理回路と、アナログ信号処理回路の出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、デジタル信号に対して所定の波形処理を行うデジタル信号処理回路とを備えている。また、測定制御部16がセンサ18の信号を処理しつつ駆動部17の動作を制御することにより、測定試料の吸引や測定が行われる。子宮頸癌をスクリーニングする場合、測定試料としては、患者(被検者)の子宮頸部から採取した細胞(上皮細胞)に遠心(濃縮)、希釈(洗浄)、攪拌(タッピング)、PI染色等の公知の処理を施して調製されたものを用いることができる。調製された測定試料は試験管に収容され、装置本体12のピペット(図示せず)下方位置に設置され、ピペットにより吸引されてシース液とともにフローセルに供給され、フローセルにおいて試料流が形成される。上記PI染色は、色素を含んでいる蛍光染色液であるヨウ化プロピジウム(PI)により行われる。PI染色では核に選択的に染色が施されるため、核からの蛍光が検出可能となる。
【0023】
[測定制御部の構成]
測定制御部16は、マイクロプロセッサ20、記憶部21、I/Oコントローラ22、センサ信号処理部23、駆動部制御ドライバ24、及び外部通信コントローラ25等を備えている。記憶部21は、ROM、RAM等からなり、ROMには、駆動部17を制御するための制御プログラム、及び、制御プログラムの実行に必要なデータが格納されている。マイクロプロセッサ20は、制御プログラムをRAMにロードし、又はROMから直接実行することが可能である。
【0024】
マイクロプロセッサ20には、センサ18からの信号がセンサ信号処理部23及びI/Oコントローラ22を通じて伝達される。マイクロプロセッサ20は、制御プログラムを実行することにより、センサ18からの信号に応じて、I/Oコントローラ22及び駆動部制御ドライバ24を介して駆動部17を制御することができる。
【0025】
マイクロプロセッサ20が処理したデータや、マイクロプロセッサ20の処理に必要なデータは、外部通信コントローラ25を介してシステム制御部13等の外部の装置との間で送受信される。
【0026】
[システム制御部の構成]
図3は、システム制御部13のブロック図である。システム制御部13は、パーソナルコンピュータ等からなり、本体27と、表示部28と、入力部29とから主に構成されている。本体27は、CPU27aと、ROM27bと、RAM27cと、ハードディスク27dと、読出装置27eと、入出力インターフェース27fと、画像出力インターフェース27gと、から主に構成されている。これらの間は、バス27hによって通信可能に接続されている。
【0027】
CPU27aは、ROM27bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM27cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。ROM27bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPU27aに実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータ等が格納されている。RAM27cは、SRAM又はDRAM等によって構成されている。RAM27cは、ROM27b及びハードディスク27dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU27aの作業領域として利用される。
【0028】
ハードディスク27dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU27aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及びそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。例えば、ハードディスク27dには、米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザーインターフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。また、凝集粒子と非凝集粒子とを判別するためのコンピュータプログラム及びそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータが、ハードディスク27dにインストールされている。
【0029】
また、ハードディスク27dには、細胞分析装置10の測定制御部16への測定オーダ(動作命令)の送信、装置本体12で測定した測定結果の受信及び処理、処理した分析結果の表示等を行う操作プログラムがインストールされている。この操作プログラムは、上記オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0030】
読出装置27eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。入出力インターフェース27fは、例えば、USB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インターフェース27fには、キーボード及びマウスからなる入力部29が接続されており、ユーザーが入力部29を使用することにより、パーソナルコンピュータにデータを入力することが可能である。また、入出力インターフェース27fは、装置本体12と接続されており、装置本体12との間でデータ等の送受信を行うことが可能である。
【0031】
画像出力インターフェース27gは、LCD又はCRT等で構成された表示部28に接続されており、CPU27aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部28に出力するようになっている。表示部28は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0032】
[光学検出部及び撮像部の構成]
図4は、光学検出部3及び撮像部26の構成を示す図である。この光学検出部3は、半導体レーザからなる光源53を備え、この光源53から放射されたレーザ光は、レンズ系52を経てフローセル51を流れる測定試料に集光する。このレーザ光により測定試料中の細胞から生じた前方散乱光は、対物レンズ54及びフィルタ56を経てフォトダイオード(検出器)55に検出される。なお、レンズ系52は、コリメータレンズ、シリンダーレンズ、コンデンサーレンズ等を含むレンズ群から構成されている。
【0033】
さらに、細胞から生じた側方蛍光及び側方散乱光は、フローセル51の側方に配置された対物レンズ56を経てダイクロイックミラー61に入射する。そして、このダイクロイックミラー61を反射した側方蛍光及び側方散乱光がダイクロイックミラー62に入射し、さらにダイクロイックミラー62を透過した側方蛍光がフィルタ63を経てフォトマルチプライヤ59によって検出される。また、ダイクロイックミラー62を反射した側方散乱光は、フィルタ64を経てフォトマルチプライヤ58によって検出される。
【0034】
フォトダイオード55、フォトマルチプライヤ58及びフォトマルチプライヤ59は、検出した光を電気信号に変換し、それぞれ、前方散乱光信号(FSC)、側方散乱光信号(SSC)及び側方蛍光信号(SFL)を出力する。これらの信号は、図示しないプリアンプにより増幅された後、上述した信号処理回路4(図2参照)に送られる。
【0035】
図2に示すように、信号処理回路4でフィルタ処理やA/D変換処理等の信号処理が施されて得られた前方散乱光データ(FSC)、側方散乱光データ(SSC)及び側方蛍光データ(SFL)や、これらデータを用いて求められた後述の特徴パラメータは、マイクロプロセッサ20によって、外部通信コントローラ25を介して前述したシステム制御部13へ送られ、ハードディスク27dに記憶される。システム制御部13では、前方散乱光データ(FSC)、側方散乱光データ(SSC)、側方蛍光データ(SFL)及び特徴パラメータに基づいて、細胞や核を分析するためのスキャッタグラムやヒストグラムが作成され、所定の分析が行われる。
【0036】
なお、光源53として、上記半導体レーザに代えてガスレーザを用いることもできるが、低コスト、小型、且つ低消費電力である点で半導体レーザを採用するのが好ましく、半導体レーザの採用により製品コストを低減させるとともに、装置の小型化及び省電力化を図ることができる。本実施の形態では、ビームを狭く絞ることに有利な波長の短い青色半導体レーザを用いている。青色半導体レーザは、PI等の蛍光励起波長に対しても有効である。なお、半導体レーザのうち、低コスト且つ長寿命であり、メーカーからの供給が安定している赤色半導体レーザを用いてもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、光学検出部3に加えて撮像部26が設けられている。この撮像部26は、パルスレーザからなる光源66とCCDカメラ65とを備えており、パルスレーザ66からのレーザ光はレンズ系60を経てフローセル51に入射し、さらに対物レンズ56及びダイクロイックミラー61を透過してカメラ65に結像する。パルスレーザ66は、後述するように前方散乱光データ(FSC)、側方散乱光データ(SSC)及び側方蛍光データ(SFL)から求められた特徴パラメータに基づき弁別された異常細胞をカメラ65によって撮像するタイミングで発光する。
【0038】
図2に示すように、カメラ65によって撮像された異常細胞の画像は、マイクロプロセッサ20によって、外部通信コントローラ25を介してシステム制御部13へ送られる。そして、異常細胞の画像は、システム制御部13において、前方散乱光データ(FSC)、側方散乱光データ(SSC)及び側方蛍光データ(SFL)に基づいて求められた特徴パラメータに対応づけてハードディスク27d(記憶部)に記憶される。
【0039】
[特徴パラメータの内容]
(分析対象細胞の分類に使用する特徴パラメータ)
測定試料中には、分析対象細胞以外に、粘液、血液の残りカス、細胞の破片等のデブリスや白血球等(以下、これらを「デブリス等」ともいう)が含まれることがある。このデブリス等が測定試料中に多量に含まれていると、そのデブリス等からの蛍光がノイズとして検出され、測定精度を低下させることになる。そのため、本実施の形態では、信号処理回路4が、フォトダイオード55から出力された前方散乱光信号から分析対象細胞を含む粒子の大きさを反映した複数の特徴パラメータとして、前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)と、前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)とを取得する。
【0040】
図5(b)に示すように、前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)は、検出された前方散乱光の最大強度(図中のFSCP)を表す。また、前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)は、ベースライン(BaseLine 2)より大きい強度を有する前方散乱光の信号波形の幅を表す。システム制御部13は、前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)と前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)とを含む前方散乱光データを、外部通信コントローラ25を介して装置本体12から受信する。そして、システム制御部13は、前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)と前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)とを用いたスキャッタグラムを作成し、そのスキャッタグラムに基づいて、分析対象細胞と、分析対象細胞以外の粒子等(デブリス等)とを分類する。
【0041】
図8は、前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)を横軸にとり、前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)を縦軸にとったFSCW−FSCPスキャッタグラムを示す図である。デブリス等は分析対象細胞に比べてサイズが小さいことから、粒子の大きさを反映する、前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)及び前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)のそれぞれは分析対象細胞よりも小さくなる。図8において、左下に分布する一群がデブリス等を示している。したがって、Gで示される領域内の細胞を以降の分析対象とすることにより、異常細胞であるか否かの弁別精度を向上させることができる。
【0042】
(非凝集細胞と凝集細胞の分類に使用する特徴パラメータ)
本実施の形態では、フローセル51を流れる測定試料からの蛍光をフォトマルチプライヤ59が検出し、信号処理回路4は、フォトマルチプライヤ59から出力された蛍光信号から複数の特徴パラメータとして、信号の波形の高さを反映した値である蛍光信号波形のピーク値(PEAK)を取得するとともに、信号の波形の稜線の長さを反映した値である信号波形の差分積分値(DIV)を取得する。
【0043】
図7(b)は、図7(a)の細胞C3の信号波形を示す図であり、検出された光の強度を縦軸にとり、光信号の検出時間を横軸にとっている。図7(b)に示すように、蛍光信号波形(一点鎖線)のピーク値(PEAK)は、検出された蛍光の最大強度(図中のPEAK)を表し、蛍光信号波形の差分積分値(DIV)は、ベースライン(BaseLine 1)より大きい強度を有する蛍光信号波形の長さ(点S〜点T,点U〜点V,点W〜点Xの波形の長さの合計)を表す。
【0044】
システム制御部13は、蛍光信号波形の差分積分値(DIV)と蛍光信号波形のピーク値(PEAK)とを含む側方蛍光データを、外部通信コントローラ25を介して受信し、蛍光信号波形の差分積分値(DIV)を蛍光信号波形のピーク値(PEAK)で除した値(DIV/PEAK)を所定の閾値と比較することにより、その細胞が凝集細胞であるか、非凝集細胞であるかを判別する。
【0045】
差分積分値は、信号波形を微分し、その絶対値を足し合わせた値であり、波形に谷のない信号の差分積分値は、その信号のピーク値を2倍した値とほぼ同じになる。一方、波形に谷の有る信号の差分積分値は、その信号のピーク値を2倍した値よりも大きくなり、波形に谷が多いほど、また谷が深いほどピーク値を2倍した値との差も大きくなる。
【0046】
そこで、システム制御部13は、信号に重畳されるノイズ等を考慮して、「2」よりも若干大きめの値である「2.6」を、分析対象細胞が凝集細胞であるか非凝集細胞であるかを判別する基準値となる上記「所定の閾値」としている。なお、所定の閾値は2.6に限られないが、2.2〜3の範囲の値であることが好ましい。蛍光信号波形の差分積分値(DIV)を蛍光信号波形のピーク値(PEAK)で除した値(DIV/PEAK)が所定の閾値よりも大きいということは、蛍光信号の波形に少なくとも1つの谷が存在するということであり、これにより分析対象細胞を、複数の細胞が凝集した凝集細胞として分類することができる。
【0047】
図9は、分析対象細胞の蛍光信号波形の差分積分値(DIV)をピーク値(PEAK)で除した値(DIV/PEAK)を縦軸にとり、側方散乱光の信号波形のパルス幅(SSCW)を横軸にとった(DIV/PEAK)−SSCWスキャッタグラムである。図9において、Aで示される領域内に分布する細胞は、縦軸の値(蛍光信号波形の差分積分値/ピーク値(DIV/PEAK))が約2〜2.6の範囲にあり、これらの細胞は図5(a)に示されるような単一の細胞(非凝集細胞)C1である。図5(b)は、細胞C1の信号波形を示す図である。図5(b)に示されるように、単一細胞の場合、信号波形のピークは1つであるが、前方散乱光の信号波形(実線)や側方散乱光の信号波形(破線)に比べて、蛍光信号の波形(一点鎖線)は、ピークが明瞭である。
【0048】
また、図9において、Bで示される領域内に分布する細胞は、縦軸の値が約3.5〜4.2の範囲にあり、これらのサンプルは図6(a)に示されるような2個の細胞が凝集してなる凝集細胞C2である。さらに、図9において、Cで示される領域内に分布する細胞は、縦軸の値が約4.5〜7の範囲にあり、これらの細胞は図7(a)に示されるような3個の細胞が凝集してなる凝集細胞C3である。図6(b)は、細胞C2の信号波形を示す図である。図6(b)及び図7(b)に示されるように、前方散乱光の信号波形や側方散乱光の信号波形に比べて、蛍光信号の波形ではピーク及び谷の部分が明瞭であることが分かる。
【0049】
このように、前方散乱光の信号波形や側方散乱光の信号波形に比べて、蛍光信号の波形の方が、そのピークや谷の部分が明瞭であることから、凝集細胞と非凝集細胞とを高精度に分類することができる。
【0050】
(DNA量異常細胞の分類に使用する特徴パラメータ)
細胞が癌化・異型化すると、細胞分裂が活発化する結果、DNA量が正常細胞に比べて多くなる。そこで、このDNA量を癌化・異型化の指標とすることができる。核中のDNA量を反映する値としては、レーザ光が照射される分析対象細胞からの蛍光信号のパルスの面積(蛍光量)(SFLI)とすることができる。図7(b)に示すように、蛍光信号のパルスの面積(蛍光量)(SFLI)は、ベースライン(BaseLine 1)と蛍光信号波形とで囲まれた部分の面積を表す。信号処理回路4は、フォトマルチプライヤ59から出力された蛍光信号から、特徴パラメータとして分析対象細胞の核のDNA量を反映した値である蛍光信号のパルスの面積(蛍光量)(SFLI)を取得する。そして、システム制御部13は、この蛍光量が所定の閾値以上であるか否かを判断し、閾値以上である場合には、対象の細胞を異常なDNA量を有するDNA異常細胞として分類する。
【0051】
子宮頸癌のスクリーニングで用いられる測定試料では大部分が正常細胞であることから、蛍光信号のパルスの面積(蛍光量)を横軸にとり図10に示すようなヒストグラムを描くと、正常細胞に相当する位置にピークが現れる。このピークの位置の蛍光量が正常細胞のDNA量を示すので、システム制御部13は、その2.5倍以上の蛍光量を示す細胞をDNA量異常細胞として分類する。
【0052】
なお、本実施形態では、DNA量異常細胞を分類する際には、標準試料から得た蛍光信号のパルス面積を用いてヒストグラムを描き、そのピークとなる蛍光量の2.5倍以上の蛍光量を示す細胞をDNA量異常細胞として分類することとしている。
【0053】
(異常細胞の弁別)
2個以上の細胞が互いに凝集した状態でレーザ光のビームスポットを通過すると、複数の核からの蛍光がフォトマルチプライヤ59で検出され、全体として大きな面積のパルスが出力されると考えられる。しかしながら、前述したように、本実施の形態によれば、蛍光信号波形の差分積分値をピーク値で除した値(DIV/PEAK)を利用して、凝集細胞によるデータを高精度に除外することができる。したがって、本実施の形態では、DNA量異常細胞に分類された細胞のうち、凝集細胞にも分類されたものを除外することによって、真に異常細胞である癌・異型細胞を弁別する。これにより、凝集細胞であるが故に大きなDNA量を有するものとして測定された細胞を、異常細胞として誤って分類するのを防止することができる。
なお、各光信号や特徴パラメータにより異常細胞として弁別された細胞は、後述するように撮像部26によって撮像され、その画像データは、システム制御部13に送信される。
【0054】
[細胞分析方法]
次に、細胞分析装置10(図1参照)を用いた細胞分析方法の実施の形態について説明する。
まず、フローセルに流す測定試料の調製が使用者の手動により行われる。具体的には、患者の子宮頸部から採取した細胞(上皮細胞)に遠心(濃縮)、希釈(洗浄)、攪拌(タッピング)、PI染色等の公知の処理を施すことで測定試料が調製される。
ついで、使用者により、調製された測定試料が試験管(図示せず)に収容され、試験管が装置本体のピペット(図示せず)下方位置に設置される。
【0055】
次に、図11及び図12を参照して、システム制御部13及び装置本体12の処理の流れについて説明する。
まず、システム制御部13の電源が入れられると、システム制御部13のCPU27aは、システム制御部13に格納されているコンピュータプログラムの初期化を行う(ステップS101)。次に、CPU27aは、使用者からの測定指示を受け付けたか否かを判断し(ステップS102)、測定指示を受け付けた場合には、I/Oインターフェース27fを介して、測定開始信号を装置本体12に送信する(ステップS103)。
【0056】
システム制御部13から送信された測定開始信号が装置本体12の測定制御部16によって受信されると(ステップS201)、装置本体12において、試験管に収容された測定試料がピペットにより吸引されて図4に示すフローセル51に供給され、試料流が形成される(ステップS202)。そして、フローセル51を流れる測定試料中の細胞にレーザ光が照射され、当該細胞からの前方散乱光がフォトダイオード55により検出され、側方散乱光がフォトマルチプライヤ58で検出され、側方蛍光がフォトマルチプライヤ59により検出される(ステップS203)。
【0057】
ついで、光学検出部3から出力された前方散乱光信号、側方散乱光信号、蛍光信号が信号処理回路4に送られ、信号処理回路4で所定の処理を施すことによって前方散乱光データ(FSC)、側方散乱光データ(SSC)及び側方蛍光データ(SFL)が取得されるとともに、前述したこれらの特徴パラメータが取得される(ステップS204)。そして、測定制御部16は、これらの測定データを外部通信コントローラ25を介して、システム制御部13に送信する(ステップS205)。
【0058】
一方、システム制御部13のCPU27aは、装置本体12から当該細胞の測定データ(前方散乱光データ(FSC)、側方散乱光データ(SSC)、側方蛍光データ(SFL)、特徴パラメータ)を受信したか否かを判断し(ステップS104)、測定データを受信した場合には、その測定データをハードディスク27dに記憶する(ステップS105)。そして、当該細胞が異常細胞であるか否かを弁別する処理を実行する(ステップS106)。
【0059】
図12は、異常細胞の弁別処理の手順を示すフローチャートである。この図を参照してステップS106の異常細胞の弁別処理を説明する。
まず、CPU27aは、装置本体12から受信した当該細胞の前方散乱光データの特徴パラメータうち、前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)と、前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)とをハードディスク27dからRAM27cに読み出す(ステップS121)。ついで、CPU27aは、当該細胞が分析対象の細胞であるかを分類する(ステップS122)。ここで、CPU27aは、当該細胞の前方散乱光の信号波形のパルス幅(FSCW)と、前方散乱光の信号波形のピーク値(FSCP)とが所定の範囲内にあれば分析対象の細胞として分類し、所定の範囲外にあれば分析対象細胞以外のデブリス等として除去する。
【0060】
次に、CPU27aは、分析対象とされた当該細胞の側方蛍光データの特徴パラメータうち、蛍光信号波形の差分積分値(DIV)と蛍光信号波形のピーク値(PEAK)とをハードディスク27dからRAM27cに読み出し、蛍光信号波形の差分積分値(DIV)を蛍光信号波形のピーク値(PEAK)で除した値(DIV/PEAK)を取得するとともに、分析対象細胞の側方散乱光データのうち、側方散乱光の信号波形のパルス幅(SSCW)をハードディスク27dからRAM27cに読み出す(ステップS123)。なお、図6(b)に示すように、側方散乱光の信号波形のパルス幅(SSCW)は、ベースライン(BaseLine 3)より大きい強度を有する側方散乱光の信号波形の幅を表す。
【0061】
次いで、CPU27aは、蛍光信号波形の差分積分値(DIV)を蛍光信号波形のピーク値(PEAK)で除した値(DIV/PEAK)を、閾値の2.6と比較することにより、当該細胞を凝集細胞と非凝集細胞のいずれかに分類する(ステップS124)。ここで、次の式(1)が成立している場合は、その細胞は非凝集細胞であり、式(1)が成立していない場合は、その細胞は凝集細胞である。
DIV/PEAK≦2.6・・・(1)
【0062】
次に、CPU27aは、ステップS124において非凝集細胞であると分類された細胞の、側方蛍光データの特徴パラメータとしての、細胞の核のDNA量を反映した値である蛍光信号のパルスの面積を示す蛍光量(SFLI)をハードディスク27dからRAM27cに読み出す(ステップS125)。また、ハードディスク27dには、標準試料の蛍光信号の蛍光量が記憶されており、この蛍光量についてもRAM27cに読み出す。
【0063】
ついで、CPU27aは、非凝集細胞であると分類された細胞の蛍光量(SFLI)が、標準試料の蛍光量(SFLIP)の2.5倍以上であるか否か、すなわち、次の式(2)が成立しているか否かを判断する。
SFLI≧SFLIP・2.5・・・(2)
【0064】
ここで、CPU27aは、式(2)が成立している場合には、当該細胞を核のDNA量が異常なDNA量異常細胞として分類し、計数する(ステップS126)。そして、CPU27aは、ステップS126においてDNA異常細胞と分類された細胞を異常細胞として弁別する(ステップS127)。
【0065】
図11に戻って、システム制御部13は、当該細胞が異常細胞として弁別されたか否かを判断し(ステップS107)、弁別された場合には当該細胞の画像を撮像するために、撮像開始信号をI/Oインターフェース27fを介して装置本体12に送信する(ステップS108)。システム制御部13は、当該細胞が異常細胞として弁別されなかった場合には、処理をステップS111に進める。
【0066】
装置本体12の測定制御部16は、システム制御部13からの撮像開始信号を受信したか否かを判断し(ステップS206)、撮像開始信号を受信した場合には撮像処理を実行する(ステップS207)。撮像開始信号を受信していない場合にはステップS209に処理を進める。
撮像処理は、所定のタイミングで撮像部26の光源66(図4参照)を発光し、この発光による照明を利用してフローセル51中の当該細胞の画像をカメラ65によって取り込むことにより行う。
【0067】
次いで、測定制御部16は、外部通信コントローラ25を介して当該細胞の画像データをシステム制御部13に送信する処理を行う(ステップS208)。システム制御部13のCPU27aは、装置本体12から画像データを受信したか否かを判断し(ステップS109)、画像データを受信した場合には、その画像データを、当該細胞の前方散乱光データ等の光データや特徴パラメータに対応づけてハードディスク27dに記憶する(ステップS110)。
【0068】
装置本体12の測定制御部16は、フローセル51を流れる試料流が終了したか否かを判断し(ステップS209)、終了した場合にはその旨の情報(終了信号)をシステム制御部13に送信する(ステップS210)。試料流が終了していない場合にはステップS203に処理を戻す。
システム制御部13は、終了信号を受信したか否かを判断し(ステップS111)、終了信号を受信した場合には、異常細胞比率を計算する処理を行う(ステップS112)。
【0069】
この異常細胞比率は、ステップS106における異常細胞の弁別処理において取得した異常細胞の総数Xと、非凝集細胞の総数Yとの比率である。また、非凝集細胞の総数Yは、異常細胞の総数Xと正常細胞の総数Zとを加算した数となる。したがって、異常細胞比率Wは次の式(3)により求めることができる。
W=X/Y×100(%)=X/(X+Z)×100(%)・・・(3)
【0070】
なお、この異常細胞比率とは、細胞分析装置10で分析された測定試料中に所定数以上の癌・異型細胞が存在するか否かを判断する指標となる数値である。例えば、異常細胞比率が0.1%以上である場合には、測定試料中に所定数以上の癌・異型細胞があることにより、患者が癌に侵されている可能性が高いと判断することができる。
また、異常細胞比率Wは、次の式(4)によるものであってもよい。
W=W/Z×100(%)・・・(4)
【0071】
次いで、システム制御部13は、ステップS112において求めた異常細胞比率、異常細胞の画像、及びその他の情報を表示部28に表示する処理を行う(ステップS113)。また、このとき、システム制御部13は、異常細胞の弁別処理における特徴パラメータを用いてスキャッタグラムを作成する。
【0072】
図13は、表示部28の画面構成の一例を示す概略図である。図13において、表示部28の画面の上段には、ツールバーやメニューバー等を表示する表示部71が設けられ、その下方には、患者(被験者)の氏名や患者ID等、患者の属性に関する情報を表示する患者属性情報表示部72が設けられている。患者属性情報表示部72の下側には、例えば、図8,9に示すようなスキャッタグラムやその他のグラフ等Dを表示する図表表示部73、異常細胞の数や異常細胞比率等分析結果を表示する分析結果表示部74、撮像部26によって撮像された異常細胞の画像P等を表示する画像表示部75が設けられている。
ここで、図8には、横軸がパルス幅(FSCW)、縦軸がピーク値(FSCP)のFSCW−FSCPスキャッタグラムが示される。また、図9には、蛍光信号波形の差分積分値をピーク値で除した値(DIV/PEAK)を縦軸にとり、側方散乱光の信号波形のパルス幅(SSCW)を横軸にとる(DIV/PEAK)−SSCWスキャッタグラムが示される。
【0073】
画像表示部75には、複数枚(図示例では6枚)の画像Pを同時に表示可能であり、細胞検査士等の使用者は、画像表示部75に表示された細胞の画像Pを直接目で見ることによって、細胞の形態を把握することができる。そして、その細胞の画像から、当該細胞が真に異常細胞であるか否かを確認することができる。
また、画像表示部75には、「正常」選択ボタン76、「削除」選択ボタン77が設けられている。使用者は、画像表示部75に表示された細胞の画像Pを見て、当該細胞が異常細胞ではなく正常細胞の画像であると判断した場合には、その画像Pをクリックして選択した状態で「正常」選択ボタン76を押すことによって、当該画像Pに係る細胞を異常細胞から除外し、正常細胞として弁別し直すことが可能となっている。
【0074】
また、画像表示部75に表示された画像Pが、異常細胞でも正常細胞でもなく、凝集細胞やデブリス等の画像(すなわち、分析対象外の画像)であった場合には、その画像Pを選択した状態で「削除」選択ボタン77を押すことによって、その画像Pに係る細胞を異常細胞からも正常細胞からも除外(削除)することが可能となっている。すなわち、本実施の形態の画像表示部75は、異常細胞から除外すべき細胞の画像の選択を受け付ける選択受付画面とされている。
【0075】
図14〜図16には、画像表示部75に表示される画像の例が示されており、図14は異常細胞から除外されるべき正常細胞の画像であり、図15は分析対象から除外されるべき白血球の凝集細胞の画像であり、図16は異常細胞である癌細胞(ただし、試験的に培養したもの)の画像である。
【0076】
なお、画像表示部75には頁送りボタン78が設けられており、この頁送りボタン78を押すと、画像表示部75内で細胞の画像Pが前頁又は後頁に頁送りされ、全ての異常細胞の画像を画像表示部75内に順次表示させることが可能となっている。
【0077】
システム制御部13は、上述の画像表示部75における画像選択操作によって異常細胞から除外すべき細胞が選択されたか否かを判断し(図11のステップS114)、除外すべき細胞が選択された場合には、再度、異常細胞比率を計算する処理を行う(ステップS115)。
例えば、使用者がある細胞の画像を見てこれを正常細胞であると判断し、その細胞を異常細胞から除外した場合(上記「正常」ボタンを押した場合)には、上記式(3)の分子である異常細胞の数Xから、除外した細胞(正常細胞)の数Naを減じ、異常細胞比率Wの再計算、すなわち、次の式(5)の計算を行う。
W=(X−Na)/Y・・・(5)
【0078】
なお、式(3)、式(5)の分母Yは、異常細胞の数Xと正常細胞の数Zとを加算した数(X+Z)であるので、異常細胞の数Xから除外した細胞(正常細胞)の数Naを減じ、正常細胞Zに除外した細胞の数Naを加えたとしても、総数Y自体に変化はない。
【0079】
また、使用者がある細胞の画像を見てこれを異常細胞でも正常細胞でもないと判断し、その細胞を異常細胞から除外(削除)した場合(上記「削除」ボタンを押した場合)には、上記式(3)の分子である異常細胞の数Xと、分母である非凝集細胞の数Yとの双方から除外した細胞の数Nbを減じ、異常細胞比率Wの再計算、すなわち、次の式(6)の計算を行う
W=(X−Nb)/(Y−Nb)・・・(6)
【0080】
システム制御部13は、再計算された異常細胞比率を表示部28の分析結果表示部74に再表示する処理を行う(ステップS116)。使用者は、分析結果表示部74に表示された分析結果を確認することによって、その患者が、癌等に侵されている可能性があるか否かを判断することができる。
【0081】
以上説明した本実施の形態の細胞分析装置では、光学検出部3の測定データから取得された特徴パラメータに基づいて第1段階目の異常細胞の弁別を行い、異常細胞として弁別された細胞の画像を撮像部26により撮像し、その画像に基づいて第2段階目の異常細胞の弁別が可能となっている。したがって、第1段階目の弁別のみを行う場合に比べ、使用者の視覚を通じて異常細胞の弁別をより正確に行うことができる。さらに、本実施の形態の細胞分析装置は、第1段階目の異常細胞の弁別結果から異常細胞比率の計算を行い、第2段階目の異常細胞の弁別が行われた場合には、異常細胞比率の再計算を行っている。したがって、分析結果の精度をより高めることができる。
【0082】
なお、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0083】
たとえば、上記した実施の形態では、被検者から採取された測定試料中に所定数以上の子宮頸部の癌・異型細胞が存在するか否かを判定しているが、本発明の細胞分析装置は、これに限定されるものではなく、口腔細胞、膀胱や咽頭等他の上皮細胞の癌・異型細胞、さらには臓器の癌・異型細胞が、被検者から採取された測定試料中に所定数以上存在するか否か判定するために用いることができる。
【0084】
また、上記した実施の形態の異常細胞の弁別処理では、非凝集細胞及び凝集細胞の分類を行った後に、DNA量異常細胞の分類を行っているが、逆の順番でもよい。また、異常細胞の弁別に使用する特徴パラメータについても、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0085】
上記した実施の形態では、異常細胞比率を表示部に表示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、異常細胞の個数や濃度を表示部に表示してもよい。
また、上記した実施の形態では、異常細胞比率を単に表示部に表示しているだけであるが、これに限定されるものではなく、例えば、患者が癌に侵されているか否かを示す情報を異常細胞比率とともに表示してもよい。例えば、異常細胞比率が、癌の可能性が高いと考えられる所定の閾値を超えている場合には、癌に侵されている旨のコメントを異常細胞比率とともに表示したり、異常細胞比率の表示色を赤色等に変更したり、表示を点滅又は反転等させたりすることによって当該表示を目立たせてもよい。これにより、使用者は、患者が癌に侵されているか否かを画面の表示から容易に読み取ることができ、分析結果の見落としや見誤り等を抑制することができる。
【0086】
上記実施の形態では、使用者が画像表示部75に表示された画像を直接目で見ることによって、異常細胞であるか否かを判断しているが、システム制御部13が画像処理を行うことによって細胞の形態を把握し、異常細胞であるか否かを自動で弁別することも可能である。このようにすれば、使用者による作業が少なくなり、より効率化、省力化を図ることができる。
【0087】
上記した実施の形態では、装置本体12の測定制御部16が、光信号から特徴パラメータを取得する処理を行い、システム制御部13の本体27(CPU27a)が、特徴パラメータに基づいて異常細胞を弁別する処理を行っているが、これらの処理(すなわち、本発明の分析部が行う処理)を、測定制御部16及び本体27の一方のみで行ってもよい。
上記した実施の形態では、異常細胞の画像だけでなく、数値情報(分析結果)やスキャッタグラムを表示しているが、これらは表示部に表示せず、印刷によって紙等に出力してもよい。
【0088】
また、上記した実施の形態では、細胞分析装置が、被験者の子宮頸部から採取された細胞を含む測定試料の分析を行っている。しかし、本発明はこれに限らず、細胞分析装置が、被験者から採取された尿中の有形成分を含む測定試料の分析を行ってもよい。
【0089】
また、上記した実施の形態では、システム制御部13が異常細胞の弁別処理を行っている。しかし、本発明はこれに限らず、装置本体12の測定制御部16が異常細胞の弁別処理を行い、異常細胞として弁別された細胞の画像を撮像するよう撮像部26を制御してもよい。
【0090】
また、上記した実施の形態では、前方散乱光、側方散乱光及び側方蛍光信号に基づき異常細胞であると弁別された細胞の画像が撮像され、ハードディスク27dなどに記憶されている。しかし、本発明はこれに限らない。例えば、前方散乱光信号に基づき分析対象細胞であると判定された細胞の画像が撮像され、ハードディスク27dなどに記憶されるようにしてもよい。この場合、ハードディスク27dなどに記憶された分析対象細胞の画像のうち、側方散乱光及び側方蛍光信号に基づき異常細胞であると弁別された細胞の画像が表示部28に表示されるようにしてよい。なお、ハードディスク27dなどに記憶された分析対象細胞の画像のうち、異常細胞であると弁別されなかった細胞の画像については、ハードディスク27dなどから削除されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0091】
3 光学検出部
10 細胞分析装置
12 装置本体
13 システム制御部
16 測定制御部
26 撮像部
28 表示部
53 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得する分析部と、
前記測定試料中の細胞の画像を撮像する撮像部と、
弁別された対象細胞の画像と分析結果を表示する表示部と、
前記表示部に表示された画像と対応する細胞を対象細胞から除外すべき指示を入力する入力部と、
前記入力部からの除外入力に応じて分析結果を再取得する制御部と、を備えた細胞分析装置。
【請求項2】
前記分析結果が、測定試料中の前記対象細胞と他の細胞との比率を示す情報を含み、
前記制御部は、前記比率が所定の閾値を越えたときに、その旨の情報を前記表示部に表示させる請求項1に記載の細胞分析装置。
【請求項3】
前記対象細胞が異常細胞であり、
前記分析結果が、測定試料中の異常細胞の数と正常細胞の数との比率を示す情報を含み、
前記入力部は、異常細胞であると弁別された細胞を異常細胞から削除する指示及び異常細胞を正常細胞として訂正する指示の入力が可能である請求項1又は2に記載の細胞分析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記削除指示が前記入力部に入力された場合には、削除される細胞の数を異常細胞の数に反映させて分析結果を再取得する請求項3に記載の細胞分析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記訂正指示が前記入力部に入力された場合には、訂正される細胞の数を異常細胞の数と正常細胞の数との双方に反映させて分析結果を再取得する請求項3に記載の細胞分析装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記分析部により取得された特徴パラメータに関する情報を前記表示部に表示させる請求項1〜5のいずれか1つに記載の細胞分析装置。
【請求項7】
前記対象細胞が、癌細胞及び異型細胞のうち少なくとも一方を含む請求項1〜6のいずれか1つに記載の細胞分析装置。
【請求項8】
前記測定試料に含まれる細胞が、被験者の子宮頸部から採取された細胞である請求項1〜7のいずれか1つに記載の細胞分析装置。
【請求項9】
前記測定試料に含まれる細胞が、染色試薬により核染色されている請求項1〜8のいずれか1つに記載の細胞分析装置。
【請求項10】
前記検出部は、少なくとも試料中の細胞から生じる蛍光信号を検出する請求項1〜9のいずれか1つに記載の細胞分析装置。
【請求項11】
測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得する分析部と、
前記測定試料中の細胞の画像を撮像する撮像部と、
分析結果を表示する表示部と、
前記分析部によって対象細胞であると弁別された細胞の画像に基づき、当該細胞が対象細胞であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に応じて分析結果を再取得する制御部と、を備えた細胞分析装置。
【請求項12】
測定試料中の細胞から特徴パラメータを取得して所定の対象細胞を弁別し、かつ弁別された対象細胞の数を含む分析結果を取得するステップと、
前記測定試料中の細胞を撮像するステップと、
弁別された対象細胞の画像と分析結果を表示するステップと、
対象細胞から除外すべき指示の入力を受け付けるステップと、
受け付けた除外すべき指示に応じて分析結果を再取得するステップと、を含む細胞分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−95182(P2011−95182A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251386(P2009−251386)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】