説明

細胞分析装置

【課題】
細胞培養液の蒸発を抑えながら複数の分析容器に細胞を分注することができるようにする。
【解決手段】
シリコン基板7には基板を貫通して8個の細胞分析容器3が形成され、基板7の上面には排出流路4、底面には細胞導入流路2が形成されている。細胞導入流路2は段階的に均等に分岐をし、最終的に細胞分析容器3の数に等しくなるように分岐してそれぞれが細胞分析容器3に接続されている。それぞれの細胞分析容器3には排出流路4が接続され、排出流路4は段階的に均等に合流し、最終的に細胞排出口5に接続されている。細胞導入口1から排出口5までのすべての経路の流路抵抗が等しくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の薬剤や毒物に対する影響を評価するための、細胞を対象とした分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで細胞に対して多種類の薬剤の反応を測定する場合、一般に、マイクロプレートと呼ばれる24〜384個の容器を1枚のプレート上に形成したものを用いている。また近年、微細加工技術を用いて数cm程度のプレートの上に1000個以上の容器を形成し、細胞分析を行った報告がなされている(非特許文献1参照。)。いずれのプレートも、それに形成されている細胞を収容する個々の容器は、開口部が開放された凹部として形成されている。
そのような開放系の容器をもつマイクロプレート等の容器を分析容器として、そこに細胞を導入する場合、手動又はロボットによりマイクロピペット等の分注器具を用いて容器内に細胞を注入している。
【非特許文献1】High-throughput Screening of Anticancer Drugs Using Microarray Based Cell Chip、 S.R.Rao、 et.al、 Proc. of the TAS 2002 Symposium、 2002、 pp.86864
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながらこのような細胞導入方法の場合、容器個数に比例して細胞導入に要する時間が増える。
また1プレート上の容器個数が増えるにしたがって、1容器あたりの体積が小さくなるため、細胞培養液が蒸発して培養液濃度が変化する時間が短くなる。そのため、細胞導入に要する時間を短くしなければならなくなるので、1プレート上の容器個数が増えると細胞導入時間が問題になってくる。
本発明は細胞培養液の蒸発を抑えながら複数の分析容器に細胞を分注することのできる細胞分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の問題を解決するために、本発明では、細胞導入口から基体内部の複数の細胞導入流路を均等に分岐させてその基体内部の細胞分析容器に導くことにより、1回の導入操作により複数の細胞分析容器に細胞を同時に導入できるようにした。
【0005】
すなわち、本発明の細胞分析装置は、基体内部に空洞として形成されて試料細胞を分析するための複数の細胞分析容器、その基体内部に形成されて全ての細胞分析容器につながり試料細胞を導入するための細胞導入流路、及びその細胞導入流路につながる共通の試料導入口を備え、細胞導入流路は試料導入口から全ての細胞分析容器に向かって段階的に、かつ全ての細胞分析容器に対して均等に分岐する構造をもっていることを特徴とする。
【0006】
細胞分析容器からの試料を排出するために、その基体内部に形成されて全ての細胞分析容器につながり試料細胞を排出するための試料排出流路、及び試料排出流路につながる共通の試料細胞排出口をさらに備えていることが好ましい。この場合、試料排出流路は全ての細胞分析容器から試料細胞排出口に向かって段階的に均等に合流を繰り返す構造をもっていることが好ましい。
【0007】
細胞に対する影響を調べようとする薬剤や毒物を細胞分析容器に供給できるようにするために、細胞分析容器に設けられた試薬入口、その試薬入口につながる試薬供給流路、及びその試薬供給流路に配置されて試薬の流入を制御するマイクロバルブをさらに備えていることが好ましい。この場合、そのマイクロバルブは、その試薬供給口が試薬入口と一体化して細胞分析容器に面するように、細胞分析容器と一体的に形成されていることが好ましい。
【0008】
さらに好ましくは、マイクロバルブの試薬供給口は細胞分析容器の空洞の上面又は下面に位置している。
細胞分析装置の好ましい一例は、細胞分析容器を構成する空洞の少なくとも一部が上面と下面に開口をもつ貫通穴として形成されており、それらの開口の少なくとも一方は光透過性の部材で閉じられ、外部から光学検出が可能になっているものである。
【0009】
細胞分析装置の他の好ましい一例は、細胞分析容器を構成する空洞の上下面の一方の面の一部が開口をもってその開口が基体とは別の部材で閉じられており、その面の開口部以外の部分にマイクロバルブの試薬供給口が形成されており、そのマイクロバルブはその試薬供給口を開閉するダイヤフラムを備えたものである。その場合、マイクロバルブは、他のダイヤフラムにより開閉される試薬排出口をさらに備え、試薬供給流路を試薬供給口と試薬排出口に任意に接続できるものとすることができる。
【0010】
細胞分析装置のさらに他の好ましい一例は、細胞分析容器を構成する空洞の上下面の一方の面の一部が開口をもってその開口が基体とは別の部材で閉じられており、空洞のその面の開口部以外の部分は基体が厚さ方向に一部残存したものであり、マイクロバルブの試薬供給口はその残存部分に垂直方向に形成された貫通穴となっているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の細胞分析装置では、細胞導入流路を段階的に均等に分岐させていることにより、細胞分析容器までの全ての経路の流路抵抗が等しくなり、細胞導入口から導入する細胞を全ての細胞分析容器に同時に導入できるようになる。そして、一度の導入操作で複数の細胞分析容器に同時に細胞を導入することができるため、細胞の導入から分析までの総分析時間を短縮することができる。また、従来用いられているマイクロプレートと比較して、細胞分析容器も細胞導入流路も基体内部に形成されているため、細胞導入時の細胞培養液の蒸発を抑えることができ、より微量な試料を扱うことができて微小化による大規模な集積化が可能である。
【0012】
細胞分析容器からの試料を排出する試料排出流路を備えれば、分析終了後の試料排出処理が容易になる。その場合、各細胞分析容器から試料細胞排出口までの試料排出流路の流路抵抗も互いに等しくなるようにすれば、細胞導入流路から細胞分析容器へのほぼ均等な細胞導入が一層容易になる。
【0013】
細胞分析容器に試薬を供給する試薬供給流路を設け、その試薬供給流路には試薬の流入を制御するマイクロバルブを備えるとともに、そのマイクロバルブの試薬供給口を細胞分析容器の試薬入口と一体化して細胞分析容器に面するように、細胞分析容器と一体的に形成すれば、マイクロバルブと細胞分析容器との間のデッドボリュームが少なくなり、細胞分析容器内の反応を正確に制御することができるようになる。
【0014】
マイクロバルブの試薬供給口を細胞分析容器の空洞の上面又は下面に配置すれば、マイクロパルプの試薬供給口が細胞分析容器の直上又は真下に配置されて垂直方向を向くことになり、マイクロバルブと細胞分析容器との間のデッドボリュームがより少なくなるとともに、仮にデッドボリュームが存在したとしても落下又は拡散によって、そこに未反応の試薬が残存することがなくなり、細胞分析容器内の反応をより正確に制御することができるようになる。
【0015】
この細胞分析装置は、シリコン基板などの基板をドライエッチングすることにより形成することができる。その際、ドライエッチングにより細胞分析容器を形成するとともに、その細胞分析容器の上部に基板を厚さ方向に一部残存させ、その残存部にマイクロパルプを形成すれば、同一基板上で細胞分析容器上部にマイクロバルブを形成することができる。同一基板上に加工を施すことによって、加工後の位置合わせ接合が不要となるため、マイクロバルブと細胞分析容器との正確な位置決めが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に本発明の細胞分析装置の概念図を示す。細胞導入口1から導入された細胞は、基体内の細胞導入流路2を通って均等に分配されながら基体内の細胞分析容器3に導入される。その際、導入された細胞は細胞導入流路2の各分岐点においてほぼ均等に分配され、1回の導入操作によって複数の細胞分析容器3にほぼ同数の細胞が導入される。
また、マイクロプレートと異なり各細胞分析容器は蓋をされた状態であるため、細胞分析容器の体積が小さくなった場合でも培養液の蒸発が抑えられる。
【0017】
本発明の実施例を、以下、図面に基づいて説明する。
図2に一実施例を示し、図3に1つの細胞分析容器とそれにつながる細胞導入流路と排出流路を概略的に示す。
基板7には基板を貫通して8個の細胞分析容器3が形成され、基板7の上面には細胞分析容器3につながる溝状の排出流路4、底面には細胞分析容器3につながる溝状の細胞導入流路2が形成されている。細胞導入流路2の共通の一端が細胞導入部となり、その部分には基板7を貫通する貫通穴加工が施されている。基板7は例えばシリコン基板であるが、合成石英ガラス基板、パイレックス(登録商標)ガラス基板、その他のガラス基板などを用いることもできる。
【0018】
基板7の上面には上部ガラス基板6、底面には下部ガラス基板8がそれぞれ接合されて一体構造となって基体を構成している。上部ガラス基板6には、細胞導入部の位置に細胞導入口1となる貫通穴加工が施され、排出流路4の共通の一端の位置に細胞排出口5となる貫通穴加工がそれぞれ施されている。
【0019】
基板7の底面に形成された細胞導入流路2は段階的に均等に分岐をし、最終的に細胞分析容器3の数に等しくなるように分岐し、分岐した流路のそれぞれが細胞分析容器3に接続されている。それぞれの細胞分析容器3には基板7の上面に形成された排出流路4が接続されている。排出流路4は段階的に均等に合流し、最終的に細胞排出口5に接続されている。
【0020】
細胞分析容器3の直径は細胞導入流路2及び排出流路4の幅に比べて大きく設定されている。また、胞導入流路2と排出流路4は均等に分岐又は合流をしているため、細胞導入口1から排出口5までのすべての経路の流路抵抗は等しくなっている。
細胞導入口1から試料細胞を含む溶液を供給すると、その溶液は基板7の底面に形成された細胞導入流路2を通って細胞分析容器3に導入される。このとき、すべての経路の流路抵抗が等しいため、8つの細胞分析容器3には試料細胞を含んだ溶液がほぼ均等に導入される。その結果、すべての細胞容器3にはほぼ同数の細胞を同時に導入することができる。
また、細胞分析容器3の直径は細胞導入流路2及び排出流路4の幅に比べて大きいため、細胞分析容器3内では試料溶液の流速が遅くなり、試料溶液の導入流速を調整することにより試料溶液に含まれる細胞を細胞分析容器3に留めることができる。
【0021】
一実施例として、細胞分析容器3、細胞導入流路2及び排出流路4を、厚さが例えば300μmのシリコン基板に形成した。加工は反応性イオンエッチング(RIE)装置を用いて行なった。寸法の一例として、細胞分析容器3の直径を1mmとした。その深さは基板の厚さに等しく、300μmである。細胞導入流路2及び排出流路4は、幅を50μm、深さを100μmとした。
【0022】
その実施例の細胞反応装置を用い、細胞の代替として直径約20μmの蛍光ビーズを導入した。図4は8個の細胞分析容器3に導入された蛍光ビーズを装置の底面から蛍光観察した結果を示している。全ての細胞分析容器3に蛍光ビーズが導入されていることが分かる。
この結果では、蛍光ビーズは1〜5個の範囲でばらついているが、蛍光ビーズの入っていない細胞分析容器3はない。本明細書で「ほぼ同数」、「ほぼ均等」と表現しているのは、この程度のばらつきをもったものも含む意味で使用している。
ここでは、細胞分析容器の数を8個としたが、これに限定されるものではない。
【0023】
図5は他の実施例を表わし、各細胞分析容器22に細胞導入流路4と排出流路(図示略)を接続するとともに、細胞に対する影響を評価するための薬剤や毒物を試薬として供給する試薬供給流路28を備えた実施例の1つの細胞分析容器に関する部分を示したものである。その実施例における試薬供給に関する構成を図6に詳細に示す。図6では細胞導入流路と排出流路の図示は省略されている。
【0024】
図6で、(A)は概略斜視図、(B)はそのA−A線位置での断面図である。ただし、図6は図5とは左右が逆に描かれている。
基板20は例えばシリコン基板であり、基板20には細胞分析容器22、試薬を細胞分析容器22に導く試薬供給流路28、試薬入口36、細胞分析容器22から離れた位置に配置された試薬排出口42を初め、必要な部分が細胞導入流路及び排出流路とともに、基板20のエッチングにより形成されている。試薬供給流路28はその供給口が基板20の裏面側に形成されている。
基板20は、図2の基板7と同様に、シリコン基板以外に、合成石英ガラス基板、パイレックス(登録商標)ガラス基板、その他のガラス基板などを用いることもできる。
【0025】
細胞分析容器22は基板20を貫通する空洞として形成され、その上部には基板20の表面部分の一部がエッチングされずに残された残存部分32が設けられている。その残存部分32には試薬供給流路28からの試薬の導入を制御するマイクロバルブ41が形成されている。マイクロバルブ41では細胞分析容器22への試薬供給口36が残存部分32に垂直方向の穴として形成されている。その穴36がマイクロバルブ41の試薬供給口と細胞分析容器22の試薬入口を兼ねている。
マイクロバルブ41は、試薬供給口36を開閉するダイヤフラム41aと、排出口42を開閉するダイヤフラム41bを備えている。この実施例では、試薬供給流路28と排出口42は基板貫通穴を含んでいる。
【0026】
マイクロバルブ41でダイヤフラム41a,41b上に空気室を形成するとともに、基板20の上面で試薬供給流路28につながる試薬供給口28aと、排出口42につながる試薬排出口44aに開口を設け、ダイヤフラム41a,41b上の空気室にマイクロバルブ駆動用の空気を供給するための流路を形成し、その空気供給用の流路につながる空気供給口38a,38bを設けるために、基板20の上面に上部基板40が接合されている。上部基板40は例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)による樹脂成型品であり、ダイヤフラム41a,41bはその上部基板40と同じ材質のPDMSからなる薄膜である。それぞれの空気供給口38a、38bから流路を経てダイヤフラム41a、41b上の空気室に駆動用空気が供給される。
【0027】
ダイヤフラム41a,41bとなる薄膜としては、PDMSのほか、シリコーン樹脂膜、フッ素アモルファス樹脂(例えば、CYTOP:旭硝子株式会社製)などを用いることができ、その厚さは数十μm〜数百μmが適当である。
【0028】
基板20の裏面側に透明ガラス基板21、例えばパイレックス(登録商標)ガラスが接合され、裏面側から細胞分析容器22内を光学的に観測できるようになっている。ガラス基板21の厚さは特に限定はされないが、顕微鏡観察を行なうことを目的とする場合には、顕微鏡観察に適した厚さ、例えば0.15mm程度のものを使用するのが好ましい。
基板20、上部基板40及びガラス基板21が一体構造となって基体を構成している。
【0029】
図7に図6の試薬供給流路による試薬供給動作を示す。
(A)は試薬を細胞分析容器22に供給するときのマイクロバルブ41a、41bの動作であり、試薬供給側のダイヤフラム41aには空気圧は加えられず、ダイヤフラム41bに空気圧が加えられる。これにより供給口36が開けられ、排出口42が閉じられる。試薬供給流路28から矢印のように供給された試薬は供給口36から細胞分析容器22内に供給される。
【0030】
(B)は試薬交換のときなど、試薬供給流路28に残留している試薬を新しい試薬と置換するためのパージモードを示したものである。このときダイヤフラム41a、41bは、(A)とは逆にダイヤフラム41a上の空気室に空気圧が与えられて供給口36が閉じられ、ダイヤフラム41b上の空気室には空気圧が与えられずに排出口42が開いた状態となる。新しい試薬を供給すると、流路28に残留していた試薬は排出口42から排出され、流路28は新しい試薬で置換される。
【0031】
試薬供給口36は基板残存部分32に垂直方向に開けられた穴であるので、マイクロバルブ41と細胞分析容器22との間に未反応の試薬が残留することがない。
試薬は細胞分析容器22内で細胞と反応する。細胞分析容器22の裏面は透明ガラス板21であるので、細胞分析容器22内の様子はその透明ガラス板21を通して顕微鏡などにより光学的に観察することができる。
反応を終了した後の細胞は、排出流路4から排出口5へ排出される。
【0032】
図8は試薬供給用の流路が1つの場合の実施例を、細胞導入部分を省略して示したものであり、(A)は概略斜視図、(B)はそのA−A線位置での断面図である。
基板20にエッチングにより細胞分析容器22、試薬を細胞分析容器22に導く試薬供給流路28、試薬入口36、細胞分析容器22から試薬を排出する試薬排出流路26を初め、必要な部分が細胞導入流路及び排出流路とともに、基板20のエッチングにより形成されている。
【0033】
細胞分析容器22の上部には基板20の表面部分の一部がエッチングされずに残された残存部分32が設けられ、その残存部分32には試薬供給流路28からの試薬の供給を制御するマイクロバルブ34が形成されている。マイクロバルブ34では細胞分析容器22への試薬供給口36が残存部分32に垂直方向の穴として形成されている。その穴36がマイクロバルブ34の試薬供給口と細胞分析容器22の試薬入口を兼ねている。マイクロバルブ34はその穴36を開閉するダイヤフラム34aを備えている。
【0034】
図7と同様に、マイクロバルブ34でダイヤフラム34a上に空気室を形成するとともに、基板20の上面で試薬供給流路28につながる試薬供給口24と、試薬排出流路26につながる試薬排出口26aに開口を設け、ダイヤフラム34a上の空気室にマイクロバルブ駆動用の空気を供給するための流路を形成し、その空気供給用の流路につながる空気供給口38を設けるために、基板20の上面に上部基板40が接合されている。基板20の裏面側には透明ガラス基板21が接合され、裏面側から細胞分析容器22内を光学的に観測できるようになっている。
【0035】
この実施例において、細胞分析容器22に試薬を供給するときは、マイクロバルブ34でダイヤフラム34a上の空気室に空気圧を印加しない状態で試薬供給流路28から供給される試薬を試薬供給口36から細胞分析容器22へ導入する。細胞分析容器22への試薬供給後は、ダイヤフラム34aにより試薬供給口36を閉じる。
【0036】
次に、図9により実施例の製造方法を説明する。ただし、この実施例は上記の実施例とは厳密には一致しない。細胞分析容器や流路は、シリコン基板にフォトリソグラフイーとデイープRIEにより形成する。
【0037】
(A)厚さが例えば300μmのシリコン基板20にドライエッチング時のマスクとなるシリコン酸化膜50を熱酸化により1μmの厚さに形成する。
(B)両面アライナーを用いたフォトリソグラフイーによりレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとしてフッ酸を用いた酸化膜エッチングにより、酸化膜50をパターニングする。このとき、基板20の上面ではマイクロバルブと細胞分析容器の上部開口形状を決定する酸化膜パターン50aを形成し、基板20の下面では試薬供給流路の形状が決定されるように酸化膜パターン50bを形成する。
また、図8では省略しているが、同様に、基板20の上面で細胞導入流路形状パターンを、基板20の下面で排出流路形状パターンを、酸化膜50に形成する。
【0038】
(C)シリコン基板上面にフォトリソグラフイーにより、細胞分析容器の上部開口と、マイクロバルブにおける試薬供給口36と試薬供給流路28につながる口の形状、及び細胞導入流路形状を決定するフォトレジストパターン52を形成する。
次に、このときフォトレジストパターンをマスクとして、シリコン基板20をICP(誘導結合プラズマ)−RIEを用いてドライエッチングにより50μm程度の深さにエッチングする。
【0039】
(D)フォトレジスト除去後、工程(B)でパターニングした酸化膜パターン50aをマスクにしてCCP(Capacitive Coupling Plasma)−RIEを用いて20μm程度の深さにドライエッチングを行ない、マイクロバルブ形状を形成する。
【0040】
(E)次に、シリコン基板20の下面にフォトリソグラフイーにより、細胞分析容器の下面からの貫通穴の形状と試薬供給流路の基板厚さ方向の形状、及び細胞排出流路形状を決定するフォトレジストバターン54を形成する。
次にこのフォトレジストバターン54をマスクとしてシリコン基板20をICP−RIEを用いてドライエッチングする。
【0041】
(F)フォトレジスト除去後、酸化膜パターン50a、50bをマスクとしてICP−RIEを用いてドライエッチングを行なう。このエッチングで、細胞分析容器上部の一部32を除いた部分が貫通し、マイクロバルブ34が細胞分析容器22の上部にせり出した形状が実現される。また同時に試薬供給用の流路28が形成される。
(G)このように形成されたシリコン基板20の下面にパイレックス(登録商標)ガラス板21を陽極接合する。
【0042】
(H)シリコン基板20の上面にマイクロバルブのダイヤフラム34aとなるPDMS薄膜を接合する。PDMS薄膜の接合は、例えば次のように行なう。まず、PDMS(Sylgard 184:Dow Corning社(米)の製品)をポリエステル膜やPET(ポリエチレンテレフタレート)膜などの樹脂膜上にスピンコート法により30μm程度の厚さに形成する。そのPDMS薄膜を60℃で30分間加熱処理する。PDMSはこの加熱処理では完全には硬化しない。次にそのPDMS薄膜をシリコン基板20の上面に貼りつけ、105℃で1時間加熱処理してPDMSを完全に硬化させることによりPDMS薄膜をシリコン基板20の上面に接合する。その後、PDMS薄膜を形成していた樹脂膜を剥離する。
【0043】
次に、PDMS膜34a上に、ダイヤフラム34a上の空気室、その空気室にマイクロバルブ駆動用の空気を供給するための流路、その空気供給用流路につながる空気供給口、試薬供給口及び試薬排出口が形成されたPDMSによる樹脂成型品40を貼り合せる。
これにより、細胞分析装置が完成する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、細胞を対象として、細胞の薬剤や毒物に対する影響を評価する細胞分析装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の細胞分析装置を概念的に示す概略斜視図である。
【図2】一実施例を示す概略斜視図である。
【図3】同実施例の要部断面図である。
【図4】各細胞分析容器に導入された蛍光ビーズを示す蛍光画像である。
【図5】他の実施例を示す斜視断面図である。
【図6】同実施例を細胞導入用の流路を省略して表わす図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)のA−A線位置での断面図である。
【図7】同実施例の動作を示す断面図である。
【図8】さらに他の実施例を細胞導入用の流路を省略して表わす図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)のA−A線位置での断面図である。
【図9】1つの実施例の反応装置を製造する方法を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 細胞導入口
2 細胞導入流路
3 細胞分析容器
4 排出流路
5 排出口
6 上部ガラス基板
7,20 基板
8 下部ガラス基板
28 試薬供給流路
30 排出用流路
32 残存部分
34、41 マイクロバルブ
36 試薬供給口
34a、41a、41b ダイヤフラム
40 上部基板
21 透明ガラス基板
38、38a、38b マイクロバルブ駆動用空気供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体内部に空洞として形成されて試料細胞を分析するための複数の細胞分析容器、前記基体内部に形成されて全ての前記細胞分析容器につながり試料細胞を導入するための細胞導入流路、及び前記細胞導入流路につながる共通の試料導入口を備え、
前記細胞導入流路は前記試料導入口から全ての前記細胞分析容器に向かって段階的に、かつ全ての前記細胞分析容器に対して均等に分岐する構造をもっていることを特徴とする細胞分析装置。
【請求項2】
前記基体内部に形成されて全ての前記細胞分析容器につながり試料細胞を排出するための試料排出流路、及び前記試料排出流路につながる共通の試料細胞排出口をさらに備え、
前記試料排出流路は全ての前記細胞分析容器から前記試料細胞排出口に向かって段階的に均等に合流を繰り返す構造をもっている請求項1に記載の細胞分析装置。
【請求項3】
前記細胞分析容器に設けられた試薬入口、前記試薬入口につながる試薬供給流路、及び前記試薬供給流路に配置されて試薬の流入を制御するマイクロバルブをさらに備え、
前記マイクロバルブは、その試薬供給口が前記試薬入口と一体化して前記細胞分析容器に面するように、前記細胞分析容器と一体的に形成されている請求項1又は2に記載の細胞分析装置。
【請求項4】
前記試薬供給口は前記細胞分析容器の空洞の上面又は下面に位置している請求項3に記載の細胞分析装置。
【請求項5】
前記細胞分析容器は前記空洞の少なくとも一部が上面と下面に開口をもつ貫通穴として形成されており、それらの開口の少なくとも一方は光透過性の部材で閉じられ、外部から光学検出が可能になっている請求項1から4のいずれかに記載の細胞分析装置。
【請求項6】
前記細胞分析容器は前記空洞の上下面の一方の面の一部が開口をもってその開口が前記基体とは別の部材で閉じられており、その面の開口部以外の部分に前記試薬供給口が形成されており、
前記マイクロバルブはその試薬供給口を開閉するダイヤフラムを備えたものである請求項3から5のいずれかに記載の細胞分析装置。
【請求項7】
前記マイクロバルブは、他のダイヤフラムにより開閉される試薬排出口をさらに備え、前記試薬供給流路を前記試薬供給口と前記試薬排出口に任意に接続できるものである請求項6に記載の細胞分析装置。
【請求項8】
前記細胞分析容器は前記空洞の上下面の一方の面の一部が開口をもってその開口が前記基体とは別の部材で閉じられており、前記空洞のその面の開口部以外の部分は前記基体が厚さ方向に一部残存したものであり、前記試薬供給口はその残存部分に垂直方向に形成された貫通穴である請求項3から7のいずれかに記載の細胞分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−87336(P2006−87336A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275938(P2004−275938)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度農業・生物系特定産業技術研究機構 新事業創出研究開発事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】