細胞培養担体及び細胞培養方法
【課題】間葉系幹細胞を簡便かつ均一な形状で3次元に凝集化させ、生体内組織に性質が一致し、かつ、分化状態が均一な細胞凝集塊を効率的に大量に得ることができる細胞培養担体及びこれを用いた細胞培養方法を提供する。
【解決手段】上面に細胞を培養するための複数のウェルが形成されており、前記上面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であり、前記ウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであり、中心点の間隔が80〜700μmであり、ジルコニアセラミックス焼結体からなり、かつ、該セラミックス焼結体の平均細孔径が0.15〜0.45μmである細胞培養担体、および該担体を用いる細胞培養方法。
【解決手段】上面に細胞を培養するための複数のウェルが形成されており、前記上面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であり、前記ウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであり、中心点の間隔が80〜700μmであり、ジルコニアセラミックス焼結体からなり、かつ、該セラミックス焼結体の平均細孔径が0.15〜0.45μmである細胞培養担体、および該担体を用いる細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞を細胞凝集塊として培養するのに好適に用いることができる細胞培養担体及びこれを用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell)は、間葉系組織中に存在する未分化細胞であり、自己増殖能と、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞等の中胚葉系の細胞への分化能とを有していることが知られている。また、近年、間葉系幹細胞は、肝細胞等の中胚葉系以外の細胞や、拍動する心筋にも分化することが分かり、多分化能を有することが報告された。
このため、間葉系幹細胞は、再生医療への利用が期待されており、自己再生が難しい部位に間葉系幹細胞を移植する細胞治療の臨床研究が始まっている。
【0003】
間葉系幹細胞を特定の組織細胞に分化させるためには、細胞の分化を誘導する因子が必要である。現在、間葉系幹細胞を、骨、脂肪、軟骨、肝臓、心筋等に分化誘導できる因子を特定する研究が進められており、これらの各組織に効率よく分化誘導することができるようになってきている。
【0004】
間葉系幹細胞の分化誘導は、細胞をシャーレに播種して2次元的な条件で培養することにより行われる。
しかしながら、このような2次元的な環境で間葉系幹細胞を分化誘導した場合、3次元的な構造を有する生体内組織の本来の性質とは異なるものとなる。特に、間葉系幹細胞から軟骨への分化誘導をシャーレで行うと、ほとんどの間葉系幹細胞が軟骨細胞へ分化しないことが知られている。
【0005】
したがって、間葉系幹細胞から軟骨細胞に分化誘導する場合、3次元凝集塊を形成した間葉系幹細胞を分化誘導する必要がある。
しかしながら、間葉系幹細胞は、シャーレ上では扁平かつ単一でしか増殖せず、肝細胞のように自己凝集する性質は見られない。
【0006】
そこで、間葉系幹細胞を強制的に凝集化させるための方法として、ペレット培養法等の方法が主に用いられている(非特許文献1参照)。
また、特許文献1に記載されているような、複数の凹部を有する3次元的な形状の培養担体を用いて培養することも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−306987号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mark F. Pitternger, et al.,Science, 284, 1999, p.143-146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1に記載されているペレット培養法は、15ml遠心チューブに細胞の懸濁液を入れ、遠心分離によって細胞を強制的に沈降させて凝集化させる方法であり、細胞に与える機械的刺激が強く、細胞を損傷させるため、状態のよい細胞塊を得ることが困難であった。
また、ペレット培養法により、凝集化させた間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化誘導すると、生体内軟骨細胞(硝子軟骨細胞)が発現している遺伝子である、TypeIIコラーゲンやアグリカンの発現が確認できる。
しかしながら、さらに分化が進んだ肥大軟骨細胞が発現しているTypeXコラーゲンや間葉系幹細胞に特異的なCD105の発現も確認でき、生体内組織に性質が一致した均一な軟骨組織に該凝集塊を分化誘導することができないという問題が見られた。
さらに、特許文献1に記載されているような複数の凹部を有する3次元培養担体を用いた場合も、凹部のみに間葉系幹細胞を凝集化させることができず、生体内組織に性質が一致し、かつ、分化状態がより均一な組織に分化誘導することができないという問題が見られた。
【0010】
したがって、間葉系幹細胞を静置培養で細胞凝集塊を形成させて、生体内組織に性質が一致し、かつ、分化状態が均一な組織に分化誘導することができる細胞培養担体及び細胞培養方法が求められている。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、間葉系幹細胞を簡便かつ均一な形状で3次元に凝集化させ、生体内組織に性質が一致し、かつ、分化状態が均一な細胞凝集塊を効率的に大量に得ることができる細胞培養担体及びこれを用いた細胞培養方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る細胞培養担体は、間葉系幹細胞の培養に用いられる細胞培養担体であって、上面に複数のウェルが形成されており、前記上面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることを特徴とする。
上面がこのような表面状態を有する担体を用いることにより、扁平化した間葉系幹細胞が上面に付着しないため、球状を維持することができる。あるいは、間葉系幹細胞の培養初期段階で、間葉系幹細胞が上面に付着して扁平状になった場合においても、ある程度の時間が経過すると、扁平状になった間葉系幹細胞は球状化する。しかも、この上面に複数のウェルが形成されているため、球状の間葉系幹細胞がウェルに移動、凝集し、間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に大量に培養することができるとともに、間葉系幹細胞から、生体内組織と性質が似ている硝子軟骨細胞、脂肪細胞や骨芽細胞等の組織細胞に効率よく分化誘導することができる。
【0013】
前記細胞培養担体において、ウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであることが好ましい。
このようなウェル形状及びウェル開口径とすることにより、ウェル内において、間葉系幹細胞を培養する際の凝集塊の3次元構造化及びそのサイズをより適切に制御することができ、また、硝子軟骨細胞へ分化誘導する場合においても、分化状態がより均一な軟骨組織等の生体内組織を得ることが可能となる。
【0014】
前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることが好ましい。
少なくともウェル底面も、担体上面と同様の表面粗さとすることにより、ウェル底面に細胞が扁平状に付着することがなく、ウェル底に接着した細胞が球状になりやすく、細胞凝集塊を形成しやすくなる。
【0015】
また、近隣する前記ウェルの中心点の間隔が、80〜700μmであることが好ましい。
このような間隔を設けることにより、ウェル内により効率的に細胞を入れることができ、かつ、ウェル内で凝集化した細胞塊に酸素や栄養等を安定して供給できる。
【0016】
また、前記細胞培養担体は、セラミックス焼結体からなり、かつ、該セラミックス焼結体の平均細孔径が0.15〜0.45μmであることが好ましい。
前記担体をセラミックス焼結体で構成することにより、上記のような表面粗さの上面を形成しやすくなる。また、このような平均細孔径とすることにより、前記ウェルに形成された細胞凝集塊に対し、担体裏面から分化誘導因子、栄養、酸素等をより効率的に供給することができる。
【0017】
前記セラミックスは、間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に培養する観点から、ジルコニアが使用されることが好ましい。
前記セラミックスにジルコニアを使用することにより、担体表面に対する培養液を介在した状態での間葉系幹細胞の耐変特性を抑制することができる。
【0018】
また、前記細胞培養担体の上面は、接触するセラミックス粒子の凹凸を認識して形状を変える細胞の性質に鑑みて、平坦性がより低いセラミックス焼結後の非加工面であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る細胞培養方法は、上記の細胞培養担体を用いた細胞培養方法であって、容器内に前記細胞培養担体の上面を上にして配置した後、前記容器内に第1の培養液を供給し、該第1の培養液を前記細胞培養担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる工程と、前記第1の培養液を浸透させた細胞培養担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を播種する工程と、前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記細胞培養担体全体を前記第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる工程と、前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、凝集化した前記間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導するための第3の培養液を前記容器内に供給し、前記細胞培養担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞のうちのいずれかの組織細胞に分化誘導する工程とを備えていることを特徴とする。
このような培養方法によれば、間葉系幹細胞の凝集塊の形成、さらに、該凝集塊から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を、同一の担体のままで、簡便かつ効率的に行うことができる。
【0020】
前記第2の培養液中の間葉系幹細胞数は、前記担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下とすることが好ましい。
このような培養方法を行うことにより、ウェル内に複数個の細胞が侵入しやすくなり、細胞凝集塊をより効率的に形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る細胞培養担体を用いれば、間葉系幹細胞を簡便に均一な3次元形状に凝集化させ、生体内組織に性質が一致した細胞凝集塊を効率的に大量に得ることができる。
また、前記細胞培養担体を用いた本発明に係る細胞培養方法によれば、間葉系幹細胞の凝集塊の形成、及び、該凝集塊から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を、同一の担体のままで、簡便かつ効率的に行うことができ、しかも、分化状態が均一な軟骨組織を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】試験例1−1に係るジルコニア原料粉(未焼成粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格の電子顕微鏡(SEM)写真(25000倍)である。
【図2】試験例1−1に係るジルコニア原料粉(未焼成粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布を表すグラフである。
【図3】試験例1−1に係る開口径100μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したヒト間葉系幹細胞(hMSC)のSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図4】試験例1−2に係るジルコニア原料粉(1150℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図5】試験例1−2に係るジルコニア原料粉(1150℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布である。
【図6】試験例1−2に係るジルコニア原料粉(1150℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図7】試験例1−3に係るジルコニア原料粉(1250℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図8】試験例1−3に係るジルコニア原料粉(1250℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布である。
【図9】試験例1−3に係るジルコニア原料粉(1250℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図10】試験例1−4に係るジルコニア原料粉(1350℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図11】試験例1−4に係るジルコニア原料粉(1350℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布である。
【図12】試験例1−4に係るジルコニア原料粉(1350℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図13】実施例1に係る開口径78μm、175μm、510μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体(1150℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(ウェル開口径78μm、175μm:500倍、ウェル開口径510μm:100倍)である。
【図14】比較例1に係る開口径175μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体(1150℃焼成)で培養したHepG2のSEM写真(担体全域:100倍、ウェル凹部:500倍、ウェル凸部:1000倍)である。
【図15】比較例2に係るシャーレで培養したhMSCの透過型顕微鏡写真(100倍)である。
【図16】比較例3に係るジルコニア平板(1150℃)上で培養した細胞のSEM写真である。
【図17】実施例2、比較例4において、ジルコニア製細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を、1、2、3週間(1W、2W、3W)軟骨細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子と、ヒト由来硝子軟骨細胞の発現遺伝子とのマーカーの比較を示したものである。
【図18】実施例3において、ウェル開口径78μm、175μm、350μm、510μmの細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を軟骨細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子のマーカーの比較を示したものである。
【図19】実施例4、比較例5において、ジルコニア製細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織をサフラニンO染色したものの透過型顕微鏡写真(a.ペレット法:100倍、b.ペレット法(軟骨組織中心部):400倍、c.ペレット法(軟骨組織外側):400倍、d.ウェル開口径510μm細胞培養担体:100倍、e.ウェル開口径510μm細胞培養担体:400倍)である。
【図20】実施例4、比較例5において、ジルコニア製細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織をトルイジンブルー染色したものの透過型顕微鏡写真(a.ペレット法:100倍、b.ペレット法(軟骨組織中心部):400倍、c.ペレット法(軟骨組織外側):400倍、d.ウェル開口径510μm細胞培養担体:100倍、e.ウェル開口径510μm細胞培養担体:400倍)である。
【図21】試験例2において、ウェル開口径30μm、70μm、540μm、1410μmの細胞培養担体で培養したhMSCのSEM写真(ウェル開口径30、70μm:250倍、ウェル開口径540μm、1410μm:100倍)である。
【図22】比較例6に係るアルミナ原料粉で作製したアルミナ製細胞培養担体の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図23】比較例6に係る開口径80μmのウェルが配列したアルミナ製細胞培養担体で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図24】実施例5、比較例7において、ジルコニア製細胞培養担体又はシャーレ上で形成したhMSCの凝集塊を脂肪細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子のマーカーの比較を示したものである。
【図25】実施例5において、ジルコニア製細胞培養担体で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた脂肪細胞をオイルレッドO染色したものの顕微鏡写真(100倍)である。
【図26】比較例7において、シャーレ上で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた脂肪細胞をオイルレッドO染色したものの透過型顕微鏡写真(100倍)である。
【図27】実施例6、比較例8において、ジルコニア製細胞培養担体又はシャーレ上で形成したhMSCの凝集塊を骨芽細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子のマーカーの比較を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図面を参照して、より詳細に説明する。
本発明に係る細胞培養担体は、間葉系幹細胞の培養に用いられる細胞培養担体であって、上面に細胞を培養するための複数のウェルが形成されており、かつ、前記上面が所定の表面粗さを有しているものである。
本発明において適用される細胞は、間葉系幹細胞(MSC)であり、具体的には、骨髄、臍帯血、脂肪等から採取可能な間葉系幹細胞、又は、組織由来の前駆細胞及びこれらの細胞を不死化した細胞である。
本発明に係る細胞培養担体は、このような均一な形状の間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に大量に形成し、また、間葉系幹細胞から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞を効率よく分化誘導することができるものである。
【0024】
前記担体の上面は、具体的には、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0の表面状態である。
上面がこのような表面状態を有する担体を用いることにより、扁平化した間葉系幹細胞が上面に付着しないため、球状を維持することができる。あるいは、間葉系幹細胞の培養初期段階に、間葉系幹細胞が上面に付着して扁平状になった場合においても、ある程度の時間が経過すると、扁平状になった間葉系幹細胞は球状化する。しかも、この上面に複数のウェルが形成されているため、球状の間葉系幹細胞が、ウェルに移動、凝集し、間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に形成させ、大量に培養することができるとともに、間葉系幹細胞から生体内組織に一致している硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞を効率よく分化誘導することができる。
2乗平均粗さRq及び線密度が上記数値範囲外である場合、細胞が扁平形状となり、該担体上面に接着して、細胞凝集塊を形成しなくなる傾向がある。
【0025】
この原因については、明確ではないが、下記のような現象に起因するものと予測される。
担体上面が、マクロなフラット面あるいは所定面積のミクロなフラット面を有する表面状態であると、これに伴い、間葉系幹細胞が扁平化して密着してしまう。しかしながら、このようなフラット面が存在せず、上記の特定の凹凸面である場合には、間葉系幹細胞が扁平化することなく球状を維持することができ、かつ、担体上面に複数のウェルが存在するため、当該球状の間葉系幹細胞がウェル内に移動し、凝集化する。特に、担体上面における凹凸形状の凸部上面に、ミクロなフラット面が存在しないことが重要であると推測される。
【0026】
ここで、2乗平均粗さRq及び線密度は、表面粗さを規定するためのパラメータである。
ここでいう線密度とは、面方向のパラメータであり、長さ1μmあたりの粗さ曲線が平均面と交差する回数を表している。
なお、本発明における2乗平均粗さRqは、JIS・B 0601により測定したものである。
また、線密度は、原子間力顕微鏡(AFM)により、スケール0.8μm、スキャンサイズ10μm×10μmにて測定したものである。
【0027】
前記細胞培養担体上面に形成されているウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであることが好ましい。
ウェル開口部の形状は、細胞の播種や細胞塊の形成が容易であること、また、ウェルの加工容易性等の観点から、円形状又は矩形状であることが好ましい。
ここで、ウェルの開口径は、開口部の形状が円形の場合は、この円の直径を意味し、矩形の場合は、対向する辺の間隔を意味する一方、多角形の場合は、1つの辺とこれに対向する頂点に接する平行線との間隔を意味する。
【0028】
また、上記範囲内のウェル開口径の担体で培養することにより、間葉系幹細胞の凝集塊を軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞へ分化誘導する際、この担体のウェル内において、そのまま、間葉系幹細胞の凝集塊のサイズをより制御しながら分化誘導することができ、また、ペレット法等の従来の分化誘導法と比較して、生体内軟骨細胞等の組織細胞の性質に近く、複数の種類の細胞が混在することなく、分化状態がより均一な軟骨組織等の生体内組織を得ることが可能となる。
さらに、前記ウェルの深さも、細胞凝集塊のサイズの制御等の観点から、前記ウェル開口径と同様に、70〜500μmであることが好ましい。一方、前記ウェル開口径が70μm未満又は550μmを超える場合は、間葉系幹細胞が所望する3次元細胞凝集塊を形成しにくくなる。
【0029】
前記担体のウェルの少なくとも底面の表面状態も、該担体の上面の表面粗さと同様に、2乗平均粗さRqが100〜280nm、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることが好ましい。
少なくとも前記ウェル底面も上記のような表面状態であれば、細胞が球状に維持されやすく、ウェル内の空間内で、細胞凝集塊をより形成しやすくなる。
一方、前記2乗平均粗さRq及び線密度が上記数値範囲外である場合、細胞が該ウェル底面に扁平形状に接着して、細胞凝集塊が形成されにくくなる。
なお、前記担体のウェル内は、上記底面のみならず、側壁部も前記担体の上面と同じ2乗平均粗さRqと線密度との各数値範囲内であることがより好ましい。
【0030】
前記細胞培養担体は、所定の表面粗さを有する上面に、上記のような近隣するウェルの中心点の間隔が、80〜700μmの間隔でパターン化して配列されていることが好ましい。
ウェルの中心点の間隔が80μm未満である場合、形成された細胞凝集塊同士の距離が近くなり、培地中の酸素や栄養等が細胞に供給されにくくなる。一方、ウェルの中心点の間隔が700μmを超える場合、球状化した細胞のウェル内への移動が困難となる。
また、上記のようなウェルの間隔を設けることにより、ウェル内に細胞を確実に入れることができる。
また、所定数の細胞を担体に確実に播種するために、前記担体の外周に、上面よりも高い壁が形成されていることが好ましい。
【0031】
また、前記細胞培養担体の材質は、セラミックス焼結体であることが好ましい。
セラミックス焼結体により細胞培養担体を構成することにより、セラミックス粒子が形成する凹凸構造のみで、該細胞培養担体の上面を上記のような表面状態にすることが簡易にできる。
また、セラミックス焼結体は、隣り合うセラミックス粒子間に細孔を有しているが、この細孔は、該細胞培養担体の下面(裏面)からウェル内に、栄養や誘導因子等を毛細管現象によって浸透させて供給する役割を果たす。
なお、前記セラミックス焼結体の気孔率は、上記のような栄養や誘導因子等の浸透性を確保し、また、担体としての強度を保持する等の観点から、10〜50%であることがより好ましい。
【0032】
前記セラミックス焼結体の平均細孔径は、0.15〜0.45μmであることが好ましい。
上記のような平均細孔径であれば、上記セラミックス焼結体による効果がより顕在化する。
なお、前記平均細孔径は、水銀ポロシメータを用いて、水銀圧入法により測定することができる。
【0033】
また、上述したように、細胞は、接触するセラミックス粒子の凹凸を認識して形状を変えることから、セラミックス焼結体表面を加工すると、その表面の状態や傷等の影響を受けるため、前記担体の上面は、セラミックス焼結後、そのままの表面状態、すなわち、非加工面であることが好ましい。
さらに、セラミックス表面で細胞凝集塊を形成させるためには、細胞と接触するセラミックス粒子の2次粒子の平均粒子径が0.6〜1.2μmであることが好ましい。
なお、本発明における2次粒子の平均粒子径は、セラミックス原料を純水に懸濁させて、超音波処理を10分行った後、大塚電子(株)ELSZ−2を用いて、粒度分布の平均値を算出(レーザードップラー法)したものである。
【0034】
上記のようなセラミックス焼結体からなる担体の表面粗さ、平均細孔径及び平均粒子径は、焼結体の製造時に、セラミックス原料粉の仮焼、成形体の焼成温度等の調整をすることによって適宜制御することができる。安定した焼成を行うために、必要に応じて、安定化剤等を添加してもよい。
【0035】
前記セラミックスの材料としては、生体親和性、生体適合性に優れており、細胞の足場として適しているものとして、ジルコニア、チタニア、アルミナ又はハイドロキシアパタイト等を用いることができる。これらの中でも、本発明においては、間葉系幹細胞の細胞凝集塊を効率的に形成させることができることから、ジルコニアを用いることがより好ましい。
【0036】
なお、前記担体をジルコニアにより製造する場合には、ジルコニアの安定化剤として、イットリア、酸化マグネシウム、酸化カルシウム又は酸化セリンのうちのいずれか1種以上を3〜15重量%含有させることが好ましい。
これらの安定化剤を添加することによって、ジルコニアの相転移が抑制され、安定して焼成することができ、上記のような表面粗さを有する担体を好適に得ることができる。
例えば、平均粒子径0.8μmのジルコニア原料粉に、安定化剤としてイットリアを5.6重量%添加して、1050〜1150℃で焼成することにより、好適な表面粗さを有する細胞培養担体を作製することができる。
【0037】
また、前記ウェル底面の形状は、中央部が凹んだ湾曲形状又は半球状であることが好ましい。
このような形状とすることにより、ウェル内に侵入した複数の細胞が凝集化して、細胞凝集塊をより形成しやすくなる。
【0038】
また、本発明に係る細胞培養方法は、上記のような本発明に係る担体を用いて行う細胞培養方法であり、容器内に前記担体の上面を上にして配置した後、前記容器内に第1の培養液を供給し、これを前記担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる工程と、この担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を培養する工程と、前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記担体全体を前記第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる工程と、前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、凝集化した前記間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞等に分化誘導するための第3の培養液を前記容器内に供給し、前記担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞のうちのいずれかの組織細胞に分化誘導する工程とを経ることにより行われる。
上述した本発明に係る担体を用いて、このような工程を経ることにより、間葉系幹細胞の凝集塊の形成及び該細胞凝集塊からの硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を、同一の担体のままで、担体上の細胞を移動させることなく行うことができ、硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞の培養を簡便かつ効率的に行うことができる。
本発明の細胞培養方法においては、前記第2の培養液中の間葉系幹細胞数を前記担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下とすることが好ましい。
これによって、前記細胞培養担体を用いて所望サイズの3次元細胞凝集塊をより効率的に培養することができる。
【0039】
以下、上記培養方法を工程順に詳細に説明する。
まず、容器内に前記担体の上面を上にして配置して、前記容器と担体との隙間に第1の培養液を供給する。そして、この培養液を、前記担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる。
上記のようにして、第1の培養液を供給することにより、培養液を前記担体の上面に直に供給するのではなく、該担体の下面(裏面)から担体中の細孔を通じて、毛細管現象により担体に培養液を浸透させることができるため、培養液に培養の阻害要因となり得る気泡を包含させることなく、複数のウェル内に満遍なく培養液を行き渡らせることができる。
【0040】
前記第1の培養液(培地)の種類は、特に限定されるものではないが、間葉系幹細胞の培養においては、例えば、MEM、α−MEM、DMEM、イーグル培地等が好ましい。さらに、これらの培地に、FBS(ウシ血清)、グルタミン酸等の細胞を維持するのに必要な物質が添加される。
また、間葉系幹細胞を細胞治療のツールとして用いる場合は、市販されている無血清培地を用いることがより好ましい。
【0041】
次に、この担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を担体に播種する。
このようにして、間葉系幹細胞を培養液に懸濁させた状態で前記担体の上面に滴下して播種することにより、間葉系幹細胞を負荷なく、担体上面に沈降させることができ、前記ウェル内でのスムーズな凝集化を達成することができる。ここで用いられる培地の種類は、前記第1の培養液と同様のものでよい。
【0042】
前記担体に播種する間葉系幹細胞数は、担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下であることが好ましい。
上記のような密度で間葉系幹細胞を播種することにより、前記細胞培養担体を用いて、所望サイズの3次元細胞凝集塊をより効率的に培養することができる。
【0043】
次に、前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記担体全体を第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる。
上記の第2の培養液の滴下による播種工程においては、ウェル内外を問わず、担体表面のあらゆる箇所に、細胞が付着しているが、本工程において、第1の培養液中に担体全体を浸漬させて、好ましくは48時間以上静置することにより、ウェル外の担体上面に付着していた細胞が、担体から離脱することなく、ウェル内に移動し、ウェル内で凝集塊を形成する。
【0044】
そして、前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、第3の培養液を前記容器内に供給し、担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、ウェル内で凝集塊を形成した間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導する。
このように、間葉系幹細胞の培養に用いた担体のままで、培養液を変えることにより、ウェル内において、間葉系細胞から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を行うことができる。
【0045】
前記第3の培養液は、凝集化した間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導するための培地であり、基本培地としてはDMEMを使用することができ、適宜改良して用いてもよい。さらに、TGFβ、BMP等を添加することが好ましく、また、アスコルビン酸、プロリン、デキサメタゾン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸等の添加剤を添加してもよい。
TGFβは、TGFβファミリーに属するものであればいずれでもよいが、TGFβ−3を用いることが好ましい。また、TGFβと同様の作用を示す低分子化合物を用いて代替することもできる。添加するTGFβの量は1〜50ng/ml、より好ましくは10ng/mlである。
BMPとしては、BMP2、BMP4、BMP6等が用いられ、BMP6を用いることが好ましい。また、低分子化合物を用いて代替することもできる。添加するBMPの量は、100〜500ng/ml、より好ましくは200ng/mlである。
また、添加するアスコルビン酸(好ましくはアスコルビン酸2−リン酸)の量は、10〜100μg/ml、好ましくは50μg/mlである。
また、添加するプロリンの量は、10〜100μg/ml、好ましくは約40μg/mlである。
また、添加するデキサメタソンの量は、10〜500nM、好ましくは100nMである。
また、添加するインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸は、市販のITS溶液を適正濃度になるように添加する。
なお、間葉系幹細胞から軟骨、脂肪、骨芽細胞に誘導する分化誘導培地が市販されており、これらも使用可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[試験例1−1]ジルコニア原料未焼成粉による細胞培養担体
平均粒子径が0.6〜0.9μmであるジルコニア原料粉を所望のウェル形状より若干小さいサイズとなるパターン化された複数の凸形状を有する特殊鋳型を用いて、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、室温で静置後、前記鋳型から成型体を取り出し、これを所定の温度で24時間乾燥し、1050℃、1150℃、1250℃、1350℃、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々82μm、78μm、64μm、60μm、55μmであった。
上記開口径の算出方法は、まず、ウェルの中心点を通る8本の直径線をランダムに引き、ウェルの開口径の平均値を算出する。これを、ウェル20個についてそれぞれ実施した後、ウェル1個あたりの開口径の平均値を算出した。
なお、ウェルの開口径は、マイクロスコープ(VHX−1000:キーエンス)を用いて測定した。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格の電子顕微鏡(SEM)写真を図1、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図2に示す。
なお、平均粒子径は、セラミックス原料を純水に懸濁後、超音波処理を10分おこなった後、大塚電子(株)ELSZ-2を用いて粒度分布の平均値を算出(レーザードップラー法)した。
【0047】
図1に示したSEM写真から分かるように、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図2のグラフに示したように、焼成温度が高くなるにつれて、緻密化が進み、微細孔が小さくなることが確認された。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.17μm、1150℃で焼成したものは0.15μm、1250℃で焼成したものは0.17μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0048】
また、上記において作製した各担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたヒト間葉系幹細胞(hMSC)を1×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図3に示す。
【0049】
図3に示したSEM写真から分かるように、1050℃及び1150℃で焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1250℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内で細胞の凝集塊が形成されているが、該担体の上面に扁平な細胞が接着していた。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0050】
[試験例1−2]ジルコニア原料1150℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成して、粒子径の平均値が0.75〜1.2μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050℃、1150℃、1250℃、1350℃、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々90μm、85μm、75μm、65μm、55μmであった。上記開口径の算出方法は上記のとおりである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図4、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図5に示す。
【0051】
図4に示したSEM写真から分かるように、1150℃仮焼成の2次粒子で作製した担体は、未焼成原料粉で作製した担体(試験例1−1)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図5のグラフに示したように、試験例1−1と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.25μm、1150℃で焼成したものは0.22μm、1250℃で焼成したものは0.20μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0052】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図6に示す。
【0053】
図6に示したSEM写真から分かるように、1050℃、1150℃及び1250℃焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0054】
[試験例1−3]ジルコニア原料1250℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成して、粒子径の平均値が0.8〜1.2μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050、1150、1250、1350、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々92μm、88μm、77μm、65μm、57μmとなる。上記開口径の算出方法は上記のとおりである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図7、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図8に示す。
【0055】
図7に示したSEM写真から分かるように、1250℃仮焼粉で作製した担体は、未焼成原料粉又は1150℃仮焼粉で作製した担体(試験例1−1、1−2)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図8のグラフに示したように、試験例1−1、1−2と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.45μm、1150℃で焼成したものは0.34μm、1250℃で焼成したものは0.42μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0056】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図9に示す。
【0057】
図9に示したSEM写真から分かるように、1050℃、1150℃及び1250℃焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0058】
[試験例1−4]ジルコニア原料1350℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1350℃で仮焼成して、粒子径の平均値が1.0〜2.5μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050、1150、1250、1350、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々85μm、82μm、75μm、67μm、58μmであった。上記開口径の算出方法は上記の通りである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図10、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図11に示す。
【0059】
図10に示したSEM写真から分かるように、1350℃仮焼成の2次粒子で作製した担体は、未焼成原料粉、1150℃仮焼成の2次粒子又は1250℃仮焼成の2次粒子で作製した担体(試験例1−1、1−2、1−3)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図11のグラフに示したように、試験例1−1〜1−3と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.64μm、1150℃で焼成したものは0.91μm、1250℃で焼成したものは0.72μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0060】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図12に示す。
【0061】
図12に示したSEM写真から分かるように、すべての焼成温度で、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0062】
また、上記試験例1−1〜1−4で作製した各担体で培養された細胞の形状について、各担体上面の2乗平均粗さRqとの関係を表1に、各担体上面の線密度との関係を表2に示す。
なお、2乗平均粗さRqは、JIS B 0601により測定したものである。
また、線密度は、原子間力顕微鏡(AFM)により、スケール0.8μm、スキャンサイズ10μm×10μmにて測定したものである。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び2で示した結果から、担体上面の2乗平均粗さRqが100nm以上280nm以下の場合、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6以上3以下の場合にhMSCは凝集塊を形成する傾向が認められた。
【0066】
さらに、上述した構成に加え、ウェルの少なくとも底面の2乗平均粗さRqが100nm以上280nm以下の場合、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6以上3以下の場合、hMSCは凝集塊をより形成する傾向が認められた。
【0067】
[実施例1]hMSCの培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した、開口径及び深さが78μm、175μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体に、試験例1−1と同様にして、0.5×104、1×104、2.5×104、5×104個のhMSCを播種して培養した。
播種して7日経過後のSEM写真を図13に示す。
【0068】
図13に示したSEM写真から分かるように、ウェル開口径78μmの場合、hMSCを1×104個以上播種すると、ウェル内で凝集化する傾向が認められた。
また、ウェル開口径175μm以上の場合、播種細胞数を5×104個以上にすると、細胞が凝集化しやすくなる傾向が認められた。
【0069】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各培養担体においても、ウェル内で凝集化する傾向が認められた。
【0070】
[比較例1]HepG2の培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが175μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体を作製した。この担体表面は、2乗平均粗さRq=103.22nm、線密度=2.71であった。
この担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、ヒト肝ガン由来細胞(HepG2)を5×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して7日経過後のSEM写真を図14に示す。
【0071】
図14に示したSEM写真から分かるように、本発明に係る構成を備えた細胞培養担体では、HepG2はウェル内(凹部)で凝集塊を形成せず、また、凸部(上面)にも接着していた。
【0072】
[比較例2]hMSCのシャーレでの通常培養
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを3×105個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日後のシャーレ表面の透過型顕微鏡写真を図15に示す。
【0073】
図15に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、シャーレ上では、hMSCは凝集塊を形成せず、扁平形状に接着していた。
【0074】
[比較例3]hMSCのジルコニア製平板での培養
成形型を凸形状のないフラットな面を有するものとしたことを除いて、比較例1と同様に、ジルコニア製平板を作製した。この平板表面は、2乗平均粗さRq=100.8nm、線密度=2.01であった。
この平板を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを1×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図16に示す。
【0075】
図16に示したSEM写真から分かるように、ジルコニア製平板でhMSCを培養すると、細胞が球状化したが、凝集塊の形成は認められなかった。
このことから、hMSCの凝集化には、ウェル構造が必要であり、また、効率的な凝集化のためには、ウェル底部も平面でなく、湾曲形状であることが好ましいと考えられる。
【0076】
[実施例2]hMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して、開口径及び深さが70μmの担体を作製した。
この担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを5×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種してから3日目に、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)に変え、3週間分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて1、2、3週間経過後、それぞれ、担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出には、RNAisoPlus(Takara社)を用い、そのプロトコルに従って、mRNAを抽出・精製した。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、軟骨分化マーカーであるCD29、CD44、CD105、TypeXコラーゲン、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン、Sox9、lunx2及びchM1の発現をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって確認した。
これらの軟骨分化マーカーを図17に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織、及び、硝子軟骨由来正常細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0077】
ここで、各マーカーの発現は、+:発現、−:非発現として表すと、hMSCは、CD29+、CD44+、CD105+、TypeXコラーゲン−、TypeIIコラーゲン−、COMP−、Aggrecan−、Sox9−、lunx2−、chM1−であり、ヒト由来軟骨細胞(硝子軟骨細胞)は、CD29+、CD44+、CD105−、TypeXコラーゲン−、TypeIIコラーゲン+、COMP+、Aggrecan+、Sox9+、lunx2−、chM1−であり、成熟・肥大軟骨細胞は、TypeXコラーゲン+、TypeIIコラーゲン−、COMP−、Aggrecan−、Sox9−、lunx2+、chM1+である。
【0078】
図17に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した場合、CD29、CD44、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン、Sox9が発現し、誘導期間が長くなるほど発現量が多くなった。また、TypeXコラーゲン、lunx2、chM1の発現は確認されず、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0079】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、これらを用いて、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。これらの培養細胞についても、軟骨分化マーカーによって確認したところ、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0080】
[比較例4]ペレット法によるhMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
不死化されたhMSC2.5×105個をDMEM5mlで懸濁させて15mlチューブに入れ、遠心分離によって該チューブの底でペレットを形成した。アスピレータでDMEMを吸引後、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)に変え、3週間分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて1、2、3週間経過後、それぞれ、担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによる軟骨分化マーカーの確認は、実施例2と同様にして行った。
これらの軟骨分化マーカーを、実施例2の結果と併せて、図17に示す。
【0081】
図17に示した結果から分かるように、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導した場合、硝子軟骨細胞が特異的に発現する遺伝子であるCD29、CD44、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン及びSox9が発現したが、TypeXコラーゲンの発現も確認された。
このことから、得られた軟骨細胞は、目的の硝子軟骨細胞の他に、成熟・肥大化した軟骨細胞が含まれており、分化状態が均一な軟骨組織ではないことが認められた。
【0082】
[実施例3]各ウェル開口径でのhMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100μm、200μm、400μm、600μmのウェルが配列したジルコニア製の各細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して開口径及び深さが78μm、175μm、350μm、510μmの担体を作製した。
上記において作製した各担体を用いて、実施例2と同様にして、hMSCの培養及び分化誘導を行った。
分化誘導を始めて3週間経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出には、RNAisoPlus(Takara社)を用い、そのプロトコルに従って、mRNAを抽出・精製した。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、間葉系幹細胞マーカーであるCD105、成熟・肥大硝子軟骨細胞マーカーであるTypeXコラーゲン、硝子軟骨細胞のマーカーであるTypeIIコラーゲンの発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを図18に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織についてのマーカーも併せて示す。
【0083】
図18に示した結果から分かるように、ウェル開口径78〜510μmの細胞培養担体で培養したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織は、TypeIIコラーゲンが発現し、TypeXコラーゲンとCD105の発現がなかったことから、均一な硝子軟骨細胞に誘導されていることが認められた。
一方、ペレット法で得られた軟骨組織は、TypeIIコラーゲン、TypeXコラーゲン及びCD105が発現していたことから、間葉系幹細胞、硝子軟骨細胞、成熟・肥大軟骨細胞が混在した組織になっていることが確認された。
【0084】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、これらを用いて、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。これらの培養細胞について、軟骨分化マーカーによって確認したところ、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0085】
[実施例4]分化誘導された軟骨組織の染色
実施例3において、分化誘導を3週間行った細胞培養担体(ウェル開口径及び深さが510μm)から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド(Wako社)を用いて固定を行った。その後、エタノールを70、80、90、100%の順で加えて脱水を行い、キシレンで置換した。
そして、この担体のウェル内から、ピペッティングにより軟骨組織を回収し、パラフィンを用いて包埋した。この包埋したブロックから、ミクロトーム(Leica社)を用いて、厚さ5μmの切片を切り出した。この切片を、スライドガラスに貼り付け、キシレン、100、90、80、70%エタノールの順で浸液させて脱パラフィン処理を行い、軟骨組織部分を染色できる状態にした。
これを3%酢酸に浸した後、軟骨細胞が産生する細胞外基質であるグリコサミノグリカンを特異的に染色するサフラニンO又はトルイジンブルー液にそれぞれ、5分間浸液させた。そして、エタノール、キシレンで脱水処理を行い、封入剤を用いて封入した。
サフラニンO染色した組織の透過型顕微鏡写真を図19、トルイジンブルー染色した組織の透過型顕微鏡写真を図20に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織の染色状態も併せて示す。
【0086】
図19及び図20に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、本発明に係る細胞培養担体で培養したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織は、サフラニンO染色(赤紫色)及びトルイジンブルー染色(青紫色)のいずれも、中心部まで均一に染色されており、得られた軟骨組織は内外ともに均一な軟骨細胞組織が形成されていることが認められた。
【0087】
また、実施例2、3で述べた各焼成温度で作製して得られた種々の開口径及び深さのジルコニア製細胞培養担体においても、同様の結果が得られた。
【0088】
[比較例5]ペレット法により分化誘導された軟骨組織の染色
比較例4において、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊からの分化誘導を3週間行った組織から分化誘導培地を除去し、その後の処理は、実施例4と同様にして、サフラニンO又はトルイジンブルーによる染色を行った。
サフラニンO染色した組織の透過型顕微鏡写真を図19、トルイジンブルー染色した組織の透過型顕微鏡写真を図20に、実施例4の結果と併せて示す。
【0089】
図19及び図20に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導した軟骨組織は、組織周辺部は染色されているものの、中心部の組織があまり染色されておらず、内部と表面の軟骨分化度が全く異なり、均一な軟骨組織が形成されていないことが認められた。
【0090】
[試験例2]各ウェル開口径でのhMSCの培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、平均開口径及び深さが30μm、70μm、540μm、1410μmのウェルが配列したジルコニア製の各細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して担体を作製した。
上記において作製した各担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSC)を5×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図21に示す。
【0091】
図21に示したSEM写真から分かるように、ウェル開口径が70μm、540μmの細胞培養担体では、ウェル内にのみ細胞が集まり細胞凝集塊が形成されていた。
一方、ウェル開口径が30μmの細胞培養担体は、ウェル外(担体上面)にも扁平細胞が接着しており、細胞凝集塊は十分に形成されていなかった。また、ウェル開口径1410μmの細胞培養担体は、ウェル内に細胞が集まっていたが、凝集塊は十分に形成されていなかった。
【0092】
[比較例6]アルミナ製細胞培養担体
原料粉としてアルミナを用いた点、また、2次粒子形成にスプレードライヤーを用いた点を除き、実施例1と同様にして、開口径及び深さが100μmのウェルが配列したアルミナ製の細胞培養担体(直径15cm)を成形し、1000℃で2時間焼成して担体を作製した(特許文献1の実施例1記載のアルミナセラミックス多孔体と同等サンプル)。焼成後の担体上面に形成された開口径は、ウェル数10個の平均値で80μmであった。このアルミナ製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図22に示す。
また、この表面状態について、上記試験例1−1〜1−4の各担体と同様にして測定したところ、2乗平均粗さRq=47.40nm、線密度=5.01であった。
【0093】
また、この担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを1×104個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真(100、250、1000倍)を図23に示す。
【0094】
図23に示したSEM写真から分かるように、間葉系幹細胞は、ウェル凹凸部に扁平形状で接着して、凝集体を形成しないことが確認された。
【0095】
[実施例5]hMSCの脂肪細胞への分化誘導
平均粒子径0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100、200、400、600μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体を成形し、1150℃焼成で2時間焼成した。各ジルコニア製細胞培養担体は、焼成により収縮して開口径及び深さが75、175、350、510μmになった。
これらの各担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに不死化されたhMSCを1×105個(ウェル開口径75μm)、2×105個(ウェル開口径175μm)、3×105個(ウェル開口径350μm)、4×105個(ウェル開口径510μm)播種して、FBSを10%含むDMEMで37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種してから4日目に、脂肪細胞分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちに、RNAiso(Takara社)を用いてRNAの抽出を行った。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、初期脂肪マーカーであるPPARγ(Peroxisome Proliferator−Activated Receptor γ)、MSCマーカーであるCD105の発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを図24に示す。なお、比較のため、シャーレで形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた脂肪細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0096】
図24に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した結果、ウェル開口径が小さいほど、CD105の発現が少なく、PPARγの発現が多く、脂肪細胞へ分化誘導が進んでいることが確認された。
【0097】
また、分化誘導を始めて10日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、すぐに固定液で細胞を固定した。固定後、脂肪細胞の脂肪滴を染色するオイルレッドOにより染色した。
これらの染色した細胞の透過型顕微鏡写真を図25に示す。
図25に示した顕微鏡写真から分かるように、各細胞培養担体のウェル内で細胞凝集塊が染色されており、脂肪細胞が形成されていることが認められた。
【0098】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各培養担体においても、ウェル内で細胞凝集塊が染色されており、脂肪細胞が形成されていることが認められた。
【0099】
[比較例7]シャーレ上でのhMSCの脂肪細胞への分化誘導
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを7×104個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
24時間後、脂肪分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、この担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによるマーカーの確認は、実施例5と同様にして行った。
これらのマーカーを実施例5の結果と併せて、図24に示す。
【0100】
図24に示した結果から分かるように、シャーレで培養したhMSCを分化誘導した結果、CD105の発現が、実施例5の細胞培養担体を用いた場合に比べて多く、また、PPARγの発現は、実施例5のウェル開口径75μm、175μm、350μmの細胞培養担体を用いた場合に比べて少なかった。
このことから、本発明に係る細胞培養担体によれば、脂肪細胞へ効率よく分化誘導可能であることが確認された。
【0101】
また、分化誘導を始めて10日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、すぐに固定液で細胞を固定した。固定後、脂肪細胞の脂肪滴を染色するオイルレッドOにより染色した。
これらの染色した細胞の透過型顕微鏡写真を図26に示す。
【0102】
図26に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、シャーレ上でhMSCを脂肪細胞に誘導した場合、分化誘導を始めて10日経過後でも、オイルレッドOで染色された細胞はまばらであり、分化があまり進んでいないことが認められた。
【0103】
[実施例6]hMSCの骨芽細胞への分化誘導
実施例5と同様の各担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに不死化されたhMSCを1×105個(ウェル開口径75μm)、2×105個(ウェル開口径175μm)、3×105個(ウェル開口径350μm)、4×105個(ウェル開口径510μm)播種して、FBSを10%含むDMEMで37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種してから4日目に、骨形成分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて14日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちに、RNAiso(Takara社)を用いてRNAの抽出を行った。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、骨芽細胞マーカーであるColI(1型コラーゲン)、SppI(オステオポンチン)、MSCマーカーであるCD105の発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを図27に示す。なお、比較のため、シャーレで形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた骨芽細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0104】
図27に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した結果、ウェル開口径が大きいほど、ColI及びSppIの発現が多く、骨芽細胞への分化誘導が進んでいることが確認された。
【0105】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体を用いて、これらについても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各細胞培養担体においても、ウェル内で骨芽細胞への分化誘導が進んでいることが確認された。
【0106】
[比較例8]シャーレ上でのhMSCの骨芽細胞への分化誘導
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを7×104個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
24時間後、骨分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、この担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによるマーカーの確認は、実施例5と同様にして行った。
これらのマーカーを実施例6の結果と併せて、図27に示す。
【0107】
図27に示した結果から分かるように、シャーレで培養したhMSCを分化誘導した結果、CD105の発現が、実施例6の細胞培養担体を用いた場合に比べて多く、ColI及びSppIの発現は、実施例6のウェル開口径350μm、510μmの細胞培養担体を用いた場合に比べて少なかった。
このことから、本発明に係る細胞培養担体によれば、骨芽細胞へ効率よく分化誘導可能であることが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞を細胞凝集塊として培養するのに好適に用いることができる細胞培養担体及びこれを用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell)は、間葉系組織中に存在する未分化細胞であり、自己増殖能と、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞等の中胚葉系の細胞への分化能とを有していることが知られている。また、近年、間葉系幹細胞は、肝細胞等の中胚葉系以外の細胞や、拍動する心筋にも分化することが分かり、多分化能を有することが報告された。
このため、間葉系幹細胞は、再生医療への利用が期待されており、自己再生が難しい部位に間葉系幹細胞を移植する細胞治療の臨床研究が始まっている。
【0003】
間葉系幹細胞を特定の組織細胞に分化させるためには、細胞の分化を誘導する因子が必要である。現在、間葉系幹細胞を、骨、脂肪、軟骨、肝臓、心筋等に分化誘導できる因子を特定する研究が進められており、これらの各組織に効率よく分化誘導することができるようになってきている。
【0004】
間葉系幹細胞の分化誘導は、細胞をシャーレに播種して2次元的な条件で培養することにより行われる。
しかしながら、このような2次元的な環境で間葉系幹細胞を分化誘導した場合、3次元的な構造を有する生体内組織の本来の性質とは異なるものとなる。特に、間葉系幹細胞から軟骨への分化誘導をシャーレで行うと、ほとんどの間葉系幹細胞が軟骨細胞へ分化しないことが知られている。
【0005】
したがって、間葉系幹細胞から軟骨細胞に分化誘導する場合、3次元凝集塊を形成した間葉系幹細胞を分化誘導する必要がある。
しかしながら、間葉系幹細胞は、シャーレ上では扁平かつ単一でしか増殖せず、肝細胞のように自己凝集する性質は見られない。
【0006】
そこで、間葉系幹細胞を強制的に凝集化させるための方法として、ペレット培養法等の方法が主に用いられている(非特許文献1参照)。
また、特許文献1に記載されているような、複数の凹部を有する3次元的な形状の培養担体を用いて培養することも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−306987号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mark F. Pitternger, et al.,Science, 284, 1999, p.143-146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1に記載されているペレット培養法は、15ml遠心チューブに細胞の懸濁液を入れ、遠心分離によって細胞を強制的に沈降させて凝集化させる方法であり、細胞に与える機械的刺激が強く、細胞を損傷させるため、状態のよい細胞塊を得ることが困難であった。
また、ペレット培養法により、凝集化させた間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化誘導すると、生体内軟骨細胞(硝子軟骨細胞)が発現している遺伝子である、TypeIIコラーゲンやアグリカンの発現が確認できる。
しかしながら、さらに分化が進んだ肥大軟骨細胞が発現しているTypeXコラーゲンや間葉系幹細胞に特異的なCD105の発現も確認でき、生体内組織に性質が一致した均一な軟骨組織に該凝集塊を分化誘導することができないという問題が見られた。
さらに、特許文献1に記載されているような複数の凹部を有する3次元培養担体を用いた場合も、凹部のみに間葉系幹細胞を凝集化させることができず、生体内組織に性質が一致し、かつ、分化状態がより均一な組織に分化誘導することができないという問題が見られた。
【0010】
したがって、間葉系幹細胞を静置培養で細胞凝集塊を形成させて、生体内組織に性質が一致し、かつ、分化状態が均一な組織に分化誘導することができる細胞培養担体及び細胞培養方法が求められている。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、間葉系幹細胞を簡便かつ均一な形状で3次元に凝集化させ、生体内組織に性質が一致し、かつ、分化状態が均一な細胞凝集塊を効率的に大量に得ることができる細胞培養担体及びこれを用いた細胞培養方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る細胞培養担体は、間葉系幹細胞の培養に用いられる細胞培養担体であって、上面に複数のウェルが形成されており、前記上面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることを特徴とする。
上面がこのような表面状態を有する担体を用いることにより、扁平化した間葉系幹細胞が上面に付着しないため、球状を維持することができる。あるいは、間葉系幹細胞の培養初期段階で、間葉系幹細胞が上面に付着して扁平状になった場合においても、ある程度の時間が経過すると、扁平状になった間葉系幹細胞は球状化する。しかも、この上面に複数のウェルが形成されているため、球状の間葉系幹細胞がウェルに移動、凝集し、間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に大量に培養することができるとともに、間葉系幹細胞から、生体内組織と性質が似ている硝子軟骨細胞、脂肪細胞や骨芽細胞等の組織細胞に効率よく分化誘導することができる。
【0013】
前記細胞培養担体において、ウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであることが好ましい。
このようなウェル形状及びウェル開口径とすることにより、ウェル内において、間葉系幹細胞を培養する際の凝集塊の3次元構造化及びそのサイズをより適切に制御することができ、また、硝子軟骨細胞へ分化誘導する場合においても、分化状態がより均一な軟骨組織等の生体内組織を得ることが可能となる。
【0014】
前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることが好ましい。
少なくともウェル底面も、担体上面と同様の表面粗さとすることにより、ウェル底面に細胞が扁平状に付着することがなく、ウェル底に接着した細胞が球状になりやすく、細胞凝集塊を形成しやすくなる。
【0015】
また、近隣する前記ウェルの中心点の間隔が、80〜700μmであることが好ましい。
このような間隔を設けることにより、ウェル内により効率的に細胞を入れることができ、かつ、ウェル内で凝集化した細胞塊に酸素や栄養等を安定して供給できる。
【0016】
また、前記細胞培養担体は、セラミックス焼結体からなり、かつ、該セラミックス焼結体の平均細孔径が0.15〜0.45μmであることが好ましい。
前記担体をセラミックス焼結体で構成することにより、上記のような表面粗さの上面を形成しやすくなる。また、このような平均細孔径とすることにより、前記ウェルに形成された細胞凝集塊に対し、担体裏面から分化誘導因子、栄養、酸素等をより効率的に供給することができる。
【0017】
前記セラミックスは、間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に培養する観点から、ジルコニアが使用されることが好ましい。
前記セラミックスにジルコニアを使用することにより、担体表面に対する培養液を介在した状態での間葉系幹細胞の耐変特性を抑制することができる。
【0018】
また、前記細胞培養担体の上面は、接触するセラミックス粒子の凹凸を認識して形状を変える細胞の性質に鑑みて、平坦性がより低いセラミックス焼結後の非加工面であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る細胞培養方法は、上記の細胞培養担体を用いた細胞培養方法であって、容器内に前記細胞培養担体の上面を上にして配置した後、前記容器内に第1の培養液を供給し、該第1の培養液を前記細胞培養担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる工程と、前記第1の培養液を浸透させた細胞培養担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を播種する工程と、前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記細胞培養担体全体を前記第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる工程と、前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、凝集化した前記間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導するための第3の培養液を前記容器内に供給し、前記細胞培養担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞のうちのいずれかの組織細胞に分化誘導する工程とを備えていることを特徴とする。
このような培養方法によれば、間葉系幹細胞の凝集塊の形成、さらに、該凝集塊から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を、同一の担体のままで、簡便かつ効率的に行うことができる。
【0020】
前記第2の培養液中の間葉系幹細胞数は、前記担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下とすることが好ましい。
このような培養方法を行うことにより、ウェル内に複数個の細胞が侵入しやすくなり、細胞凝集塊をより効率的に形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る細胞培養担体を用いれば、間葉系幹細胞を簡便に均一な3次元形状に凝集化させ、生体内組織に性質が一致した細胞凝集塊を効率的に大量に得ることができる。
また、前記細胞培養担体を用いた本発明に係る細胞培養方法によれば、間葉系幹細胞の凝集塊の形成、及び、該凝集塊から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を、同一の担体のままで、簡便かつ効率的に行うことができ、しかも、分化状態が均一な軟骨組織を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】試験例1−1に係るジルコニア原料粉(未焼成粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格の電子顕微鏡(SEM)写真(25000倍)である。
【図2】試験例1−1に係るジルコニア原料粉(未焼成粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布を表すグラフである。
【図3】試験例1−1に係る開口径100μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したヒト間葉系幹細胞(hMSC)のSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図4】試験例1−2に係るジルコニア原料粉(1150℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図5】試験例1−2に係るジルコニア原料粉(1150℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布である。
【図6】試験例1−2に係るジルコニア原料粉(1150℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図7】試験例1−3に係るジルコニア原料粉(1250℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図8】試験例1−3に係るジルコニア原料粉(1250℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布である。
【図9】試験例1−3に係るジルコニア原料粉(1250℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図10】試験例1−4に係るジルコニア原料粉(1350℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図11】試験例1−4に係るジルコニア原料粉(1350℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)についての水銀圧入法で測定した細孔径分布である。
【図12】試験例1−4に係るジルコニア原料粉(1350℃仮焼粉)で作製したジルコニア製細胞培養担体(1050〜1500℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図13】実施例1に係る開口径78μm、175μm、510μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体(1150℃焼成)で培養したhMSCのSEM写真(ウェル開口径78μm、175μm:500倍、ウェル開口径510μm:100倍)である。
【図14】比較例1に係る開口径175μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体(1150℃焼成)で培養したHepG2のSEM写真(担体全域:100倍、ウェル凹部:500倍、ウェル凸部:1000倍)である。
【図15】比較例2に係るシャーレで培養したhMSCの透過型顕微鏡写真(100倍)である。
【図16】比較例3に係るジルコニア平板(1150℃)上で培養した細胞のSEM写真である。
【図17】実施例2、比較例4において、ジルコニア製細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を、1、2、3週間(1W、2W、3W)軟骨細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子と、ヒト由来硝子軟骨細胞の発現遺伝子とのマーカーの比較を示したものである。
【図18】実施例3において、ウェル開口径78μm、175μm、350μm、510μmの細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を軟骨細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子のマーカーの比較を示したものである。
【図19】実施例4、比較例5において、ジルコニア製細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織をサフラニンO染色したものの透過型顕微鏡写真(a.ペレット法:100倍、b.ペレット法(軟骨組織中心部):400倍、c.ペレット法(軟骨組織外側):400倍、d.ウェル開口径510μm細胞培養担体:100倍、e.ウェル開口径510μm細胞培養担体:400倍)である。
【図20】実施例4、比較例5において、ジルコニア製細胞培養担体又はペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織をトルイジンブルー染色したものの透過型顕微鏡写真(a.ペレット法:100倍、b.ペレット法(軟骨組織中心部):400倍、c.ペレット法(軟骨組織外側):400倍、d.ウェル開口径510μm細胞培養担体:100倍、e.ウェル開口径510μm細胞培養担体:400倍)である。
【図21】試験例2において、ウェル開口径30μm、70μm、540μm、1410μmの細胞培養担体で培養したhMSCのSEM写真(ウェル開口径30、70μm:250倍、ウェル開口径540μm、1410μm:100倍)である。
【図22】比較例6に係るアルミナ原料粉で作製したアルミナ製細胞培養担体の表面骨格のSEM写真(25000倍)である。
【図23】比較例6に係る開口径80μmのウェルが配列したアルミナ製細胞培養担体で培養したhMSCのSEM写真(100、250、1000倍)である。
【図24】実施例5、比較例7において、ジルコニア製細胞培養担体又はシャーレ上で形成したhMSCの凝集塊を脂肪細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子のマーカーの比較を示したものである。
【図25】実施例5において、ジルコニア製細胞培養担体で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた脂肪細胞をオイルレッドO染色したものの顕微鏡写真(100倍)である。
【図26】比較例7において、シャーレ上で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた脂肪細胞をオイルレッドO染色したものの透過型顕微鏡写真(100倍)である。
【図27】実施例6、比較例8において、ジルコニア製細胞培養担体又はシャーレ上で形成したhMSCの凝集塊を骨芽細胞に分化誘導した各組織の発現遺伝子のマーカーの比較を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図面を参照して、より詳細に説明する。
本発明に係る細胞培養担体は、間葉系幹細胞の培養に用いられる細胞培養担体であって、上面に細胞を培養するための複数のウェルが形成されており、かつ、前記上面が所定の表面粗さを有しているものである。
本発明において適用される細胞は、間葉系幹細胞(MSC)であり、具体的には、骨髄、臍帯血、脂肪等から採取可能な間葉系幹細胞、又は、組織由来の前駆細胞及びこれらの細胞を不死化した細胞である。
本発明に係る細胞培養担体は、このような均一な形状の間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に大量に形成し、また、間葉系幹細胞から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞を効率よく分化誘導することができるものである。
【0024】
前記担体の上面は、具体的には、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0の表面状態である。
上面がこのような表面状態を有する担体を用いることにより、扁平化した間葉系幹細胞が上面に付着しないため、球状を維持することができる。あるいは、間葉系幹細胞の培養初期段階に、間葉系幹細胞が上面に付着して扁平状になった場合においても、ある程度の時間が経過すると、扁平状になった間葉系幹細胞は球状化する。しかも、この上面に複数のウェルが形成されているため、球状の間葉系幹細胞が、ウェルに移動、凝集し、間葉系幹細胞の凝集塊を効率的に形成させ、大量に培養することができるとともに、間葉系幹細胞から生体内組織に一致している硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞を効率よく分化誘導することができる。
2乗平均粗さRq及び線密度が上記数値範囲外である場合、細胞が扁平形状となり、該担体上面に接着して、細胞凝集塊を形成しなくなる傾向がある。
【0025】
この原因については、明確ではないが、下記のような現象に起因するものと予測される。
担体上面が、マクロなフラット面あるいは所定面積のミクロなフラット面を有する表面状態であると、これに伴い、間葉系幹細胞が扁平化して密着してしまう。しかしながら、このようなフラット面が存在せず、上記の特定の凹凸面である場合には、間葉系幹細胞が扁平化することなく球状を維持することができ、かつ、担体上面に複数のウェルが存在するため、当該球状の間葉系幹細胞がウェル内に移動し、凝集化する。特に、担体上面における凹凸形状の凸部上面に、ミクロなフラット面が存在しないことが重要であると推測される。
【0026】
ここで、2乗平均粗さRq及び線密度は、表面粗さを規定するためのパラメータである。
ここでいう線密度とは、面方向のパラメータであり、長さ1μmあたりの粗さ曲線が平均面と交差する回数を表している。
なお、本発明における2乗平均粗さRqは、JIS・B 0601により測定したものである。
また、線密度は、原子間力顕微鏡(AFM)により、スケール0.8μm、スキャンサイズ10μm×10μmにて測定したものである。
【0027】
前記細胞培養担体上面に形成されているウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであることが好ましい。
ウェル開口部の形状は、細胞の播種や細胞塊の形成が容易であること、また、ウェルの加工容易性等の観点から、円形状又は矩形状であることが好ましい。
ここで、ウェルの開口径は、開口部の形状が円形の場合は、この円の直径を意味し、矩形の場合は、対向する辺の間隔を意味する一方、多角形の場合は、1つの辺とこれに対向する頂点に接する平行線との間隔を意味する。
【0028】
また、上記範囲内のウェル開口径の担体で培養することにより、間葉系幹細胞の凝集塊を軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞へ分化誘導する際、この担体のウェル内において、そのまま、間葉系幹細胞の凝集塊のサイズをより制御しながら分化誘導することができ、また、ペレット法等の従来の分化誘導法と比較して、生体内軟骨細胞等の組織細胞の性質に近く、複数の種類の細胞が混在することなく、分化状態がより均一な軟骨組織等の生体内組織を得ることが可能となる。
さらに、前記ウェルの深さも、細胞凝集塊のサイズの制御等の観点から、前記ウェル開口径と同様に、70〜500μmであることが好ましい。一方、前記ウェル開口径が70μm未満又は550μmを超える場合は、間葉系幹細胞が所望する3次元細胞凝集塊を形成しにくくなる。
【0029】
前記担体のウェルの少なくとも底面の表面状態も、該担体の上面の表面粗さと同様に、2乗平均粗さRqが100〜280nm、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることが好ましい。
少なくとも前記ウェル底面も上記のような表面状態であれば、細胞が球状に維持されやすく、ウェル内の空間内で、細胞凝集塊をより形成しやすくなる。
一方、前記2乗平均粗さRq及び線密度が上記数値範囲外である場合、細胞が該ウェル底面に扁平形状に接着して、細胞凝集塊が形成されにくくなる。
なお、前記担体のウェル内は、上記底面のみならず、側壁部も前記担体の上面と同じ2乗平均粗さRqと線密度との各数値範囲内であることがより好ましい。
【0030】
前記細胞培養担体は、所定の表面粗さを有する上面に、上記のような近隣するウェルの中心点の間隔が、80〜700μmの間隔でパターン化して配列されていることが好ましい。
ウェルの中心点の間隔が80μm未満である場合、形成された細胞凝集塊同士の距離が近くなり、培地中の酸素や栄養等が細胞に供給されにくくなる。一方、ウェルの中心点の間隔が700μmを超える場合、球状化した細胞のウェル内への移動が困難となる。
また、上記のようなウェルの間隔を設けることにより、ウェル内に細胞を確実に入れることができる。
また、所定数の細胞を担体に確実に播種するために、前記担体の外周に、上面よりも高い壁が形成されていることが好ましい。
【0031】
また、前記細胞培養担体の材質は、セラミックス焼結体であることが好ましい。
セラミックス焼結体により細胞培養担体を構成することにより、セラミックス粒子が形成する凹凸構造のみで、該細胞培養担体の上面を上記のような表面状態にすることが簡易にできる。
また、セラミックス焼結体は、隣り合うセラミックス粒子間に細孔を有しているが、この細孔は、該細胞培養担体の下面(裏面)からウェル内に、栄養や誘導因子等を毛細管現象によって浸透させて供給する役割を果たす。
なお、前記セラミックス焼結体の気孔率は、上記のような栄養や誘導因子等の浸透性を確保し、また、担体としての強度を保持する等の観点から、10〜50%であることがより好ましい。
【0032】
前記セラミックス焼結体の平均細孔径は、0.15〜0.45μmであることが好ましい。
上記のような平均細孔径であれば、上記セラミックス焼結体による効果がより顕在化する。
なお、前記平均細孔径は、水銀ポロシメータを用いて、水銀圧入法により測定することができる。
【0033】
また、上述したように、細胞は、接触するセラミックス粒子の凹凸を認識して形状を変えることから、セラミックス焼結体表面を加工すると、その表面の状態や傷等の影響を受けるため、前記担体の上面は、セラミックス焼結後、そのままの表面状態、すなわち、非加工面であることが好ましい。
さらに、セラミックス表面で細胞凝集塊を形成させるためには、細胞と接触するセラミックス粒子の2次粒子の平均粒子径が0.6〜1.2μmであることが好ましい。
なお、本発明における2次粒子の平均粒子径は、セラミックス原料を純水に懸濁させて、超音波処理を10分行った後、大塚電子(株)ELSZ−2を用いて、粒度分布の平均値を算出(レーザードップラー法)したものである。
【0034】
上記のようなセラミックス焼結体からなる担体の表面粗さ、平均細孔径及び平均粒子径は、焼結体の製造時に、セラミックス原料粉の仮焼、成形体の焼成温度等の調整をすることによって適宜制御することができる。安定した焼成を行うために、必要に応じて、安定化剤等を添加してもよい。
【0035】
前記セラミックスの材料としては、生体親和性、生体適合性に優れており、細胞の足場として適しているものとして、ジルコニア、チタニア、アルミナ又はハイドロキシアパタイト等を用いることができる。これらの中でも、本発明においては、間葉系幹細胞の細胞凝集塊を効率的に形成させることができることから、ジルコニアを用いることがより好ましい。
【0036】
なお、前記担体をジルコニアにより製造する場合には、ジルコニアの安定化剤として、イットリア、酸化マグネシウム、酸化カルシウム又は酸化セリンのうちのいずれか1種以上を3〜15重量%含有させることが好ましい。
これらの安定化剤を添加することによって、ジルコニアの相転移が抑制され、安定して焼成することができ、上記のような表面粗さを有する担体を好適に得ることができる。
例えば、平均粒子径0.8μmのジルコニア原料粉に、安定化剤としてイットリアを5.6重量%添加して、1050〜1150℃で焼成することにより、好適な表面粗さを有する細胞培養担体を作製することができる。
【0037】
また、前記ウェル底面の形状は、中央部が凹んだ湾曲形状又は半球状であることが好ましい。
このような形状とすることにより、ウェル内に侵入した複数の細胞が凝集化して、細胞凝集塊をより形成しやすくなる。
【0038】
また、本発明に係る細胞培養方法は、上記のような本発明に係る担体を用いて行う細胞培養方法であり、容器内に前記担体の上面を上にして配置した後、前記容器内に第1の培養液を供給し、これを前記担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる工程と、この担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を培養する工程と、前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記担体全体を前記第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる工程と、前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、凝集化した前記間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞等に分化誘導するための第3の培養液を前記容器内に供給し、前記担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞のうちのいずれかの組織細胞に分化誘導する工程とを経ることにより行われる。
上述した本発明に係る担体を用いて、このような工程を経ることにより、間葉系幹細胞の凝集塊の形成及び該細胞凝集塊からの硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を、同一の担体のままで、担体上の細胞を移動させることなく行うことができ、硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞の培養を簡便かつ効率的に行うことができる。
本発明の細胞培養方法においては、前記第2の培養液中の間葉系幹細胞数を前記担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下とすることが好ましい。
これによって、前記細胞培養担体を用いて所望サイズの3次元細胞凝集塊をより効率的に培養することができる。
【0039】
以下、上記培養方法を工程順に詳細に説明する。
まず、容器内に前記担体の上面を上にして配置して、前記容器と担体との隙間に第1の培養液を供給する。そして、この培養液を、前記担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる。
上記のようにして、第1の培養液を供給することにより、培養液を前記担体の上面に直に供給するのではなく、該担体の下面(裏面)から担体中の細孔を通じて、毛細管現象により担体に培養液を浸透させることができるため、培養液に培養の阻害要因となり得る気泡を包含させることなく、複数のウェル内に満遍なく培養液を行き渡らせることができる。
【0040】
前記第1の培養液(培地)の種類は、特に限定されるものではないが、間葉系幹細胞の培養においては、例えば、MEM、α−MEM、DMEM、イーグル培地等が好ましい。さらに、これらの培地に、FBS(ウシ血清)、グルタミン酸等の細胞を維持するのに必要な物質が添加される。
また、間葉系幹細胞を細胞治療のツールとして用いる場合は、市販されている無血清培地を用いることがより好ましい。
【0041】
次に、この担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を担体に播種する。
このようにして、間葉系幹細胞を培養液に懸濁させた状態で前記担体の上面に滴下して播種することにより、間葉系幹細胞を負荷なく、担体上面に沈降させることができ、前記ウェル内でのスムーズな凝集化を達成することができる。ここで用いられる培地の種類は、前記第1の培養液と同様のものでよい。
【0042】
前記担体に播種する間葉系幹細胞数は、担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下であることが好ましい。
上記のような密度で間葉系幹細胞を播種することにより、前記細胞培養担体を用いて、所望サイズの3次元細胞凝集塊をより効率的に培養することができる。
【0043】
次に、前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記担体全体を第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる。
上記の第2の培養液の滴下による播種工程においては、ウェル内外を問わず、担体表面のあらゆる箇所に、細胞が付着しているが、本工程において、第1の培養液中に担体全体を浸漬させて、好ましくは48時間以上静置することにより、ウェル外の担体上面に付着していた細胞が、担体から離脱することなく、ウェル内に移動し、ウェル内で凝集塊を形成する。
【0044】
そして、前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、第3の培養液を前記容器内に供給し、担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、ウェル内で凝集塊を形成した間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導する。
このように、間葉系幹細胞の培養に用いた担体のままで、培養液を変えることにより、ウェル内において、間葉系細胞から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞への分化誘導を行うことができる。
【0045】
前記第3の培養液は、凝集化した間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導するための培地であり、基本培地としてはDMEMを使用することができ、適宜改良して用いてもよい。さらに、TGFβ、BMP等を添加することが好ましく、また、アスコルビン酸、プロリン、デキサメタゾン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸等の添加剤を添加してもよい。
TGFβは、TGFβファミリーに属するものであればいずれでもよいが、TGFβ−3を用いることが好ましい。また、TGFβと同様の作用を示す低分子化合物を用いて代替することもできる。添加するTGFβの量は1〜50ng/ml、より好ましくは10ng/mlである。
BMPとしては、BMP2、BMP4、BMP6等が用いられ、BMP6を用いることが好ましい。また、低分子化合物を用いて代替することもできる。添加するBMPの量は、100〜500ng/ml、より好ましくは200ng/mlである。
また、添加するアスコルビン酸(好ましくはアスコルビン酸2−リン酸)の量は、10〜100μg/ml、好ましくは50μg/mlである。
また、添加するプロリンの量は、10〜100μg/ml、好ましくは約40μg/mlである。
また、添加するデキサメタソンの量は、10〜500nM、好ましくは100nMである。
また、添加するインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸は、市販のITS溶液を適正濃度になるように添加する。
なお、間葉系幹細胞から軟骨、脂肪、骨芽細胞に誘導する分化誘導培地が市販されており、これらも使用可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[試験例1−1]ジルコニア原料未焼成粉による細胞培養担体
平均粒子径が0.6〜0.9μmであるジルコニア原料粉を所望のウェル形状より若干小さいサイズとなるパターン化された複数の凸形状を有する特殊鋳型を用いて、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、室温で静置後、前記鋳型から成型体を取り出し、これを所定の温度で24時間乾燥し、1050℃、1150℃、1250℃、1350℃、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々82μm、78μm、64μm、60μm、55μmであった。
上記開口径の算出方法は、まず、ウェルの中心点を通る8本の直径線をランダムに引き、ウェルの開口径の平均値を算出する。これを、ウェル20個についてそれぞれ実施した後、ウェル1個あたりの開口径の平均値を算出した。
なお、ウェルの開口径は、マイクロスコープ(VHX−1000:キーエンス)を用いて測定した。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格の電子顕微鏡(SEM)写真を図1、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図2に示す。
なお、平均粒子径は、セラミックス原料を純水に懸濁後、超音波処理を10分おこなった後、大塚電子(株)ELSZ-2を用いて粒度分布の平均値を算出(レーザードップラー法)した。
【0047】
図1に示したSEM写真から分かるように、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図2のグラフに示したように、焼成温度が高くなるにつれて、緻密化が進み、微細孔が小さくなることが確認された。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.17μm、1150℃で焼成したものは0.15μm、1250℃で焼成したものは0.17μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0048】
また、上記において作製した各担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたヒト間葉系幹細胞(hMSC)を1×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図3に示す。
【0049】
図3に示したSEM写真から分かるように、1050℃及び1150℃で焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1250℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内で細胞の凝集塊が形成されているが、該担体の上面に扁平な細胞が接着していた。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0050】
[試験例1−2]ジルコニア原料1150℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成して、粒子径の平均値が0.75〜1.2μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050℃、1150℃、1250℃、1350℃、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々90μm、85μm、75μm、65μm、55μmであった。上記開口径の算出方法は上記のとおりである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図4、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図5に示す。
【0051】
図4に示したSEM写真から分かるように、1150℃仮焼成の2次粒子で作製した担体は、未焼成原料粉で作製した担体(試験例1−1)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図5のグラフに示したように、試験例1−1と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.25μm、1150℃で焼成したものは0.22μm、1250℃で焼成したものは0.20μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0052】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図6に示す。
【0053】
図6に示したSEM写真から分かるように、1050℃、1150℃及び1250℃焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0054】
[試験例1−3]ジルコニア原料1250℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成して、粒子径の平均値が0.8〜1.2μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050、1150、1250、1350、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々92μm、88μm、77μm、65μm、57μmとなる。上記開口径の算出方法は上記のとおりである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図7、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図8に示す。
【0055】
図7に示したSEM写真から分かるように、1250℃仮焼粉で作製した担体は、未焼成原料粉又は1150℃仮焼粉で作製した担体(試験例1−1、1−2)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図8のグラフに示したように、試験例1−1、1−2と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.45μm、1150℃で焼成したものは0.34μm、1250℃で焼成したものは0.42μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0056】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図9に示す。
【0057】
図9に示したSEM写真から分かるように、1050℃、1150℃及び1250℃焼成した担体を用いた場合、hMSCは、ウェル内に集まり、球状の細胞が凝集塊を形成していることが認められ、該担体の上面(ウェル外)には、細胞は接着していなかった。1350℃及び1500℃で焼成した担体を用いた場合は、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0058】
[試験例1−4]ジルコニア原料1350℃仮焼粉による細胞培養担体
試験例1−1で用いたジルコニア原料粉を1350℃で仮焼成して、粒子径の平均値が1.0〜2.5μmの2次粒子を得た。この2次粒子を用いて、試験例1−1と同様にして、開口径100μm、深さ100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1050、1150、1250、1350、1500℃でそれぞれ2時間焼成して担体を作製した。
作製した各担体のウェルの平均開口径は、各々85μm、82μm、75μm、67μm、58μmであった。上記開口径の算出方法は上記の通りである。
各温度で焼成したジルコニア製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図10、水銀圧入法で測定した細孔径分布を図11に示す。
【0059】
図10に示したSEM写真から分かるように、1350℃仮焼成の2次粒子で作製した担体は、未焼成原料粉、1150℃仮焼成の2次粒子又は1250℃仮焼成の2次粒子で作製した担体(試験例1−1、1−2、1−3)と比較して、大きい粒子で構成されており、また、焼成温度が高くなるにつれて、粒子が焼結して緻密化が進むことが認められた。
また、図11のグラフに示したように、試験例1−1〜1−3と同温度で焼成した担体は、微細孔が若干大きくなることが認められた。平均細孔径は、それぞれ、1050℃で焼成したものは0.64μm、1150℃で焼成したものは0.91μm、1250℃で焼成したものは0.72μmであり、1350℃及び1500℃で焼成したものは微細孔が測定されなかった。
【0060】
また、上記において作製した各担体を用いて、試験例1−1と同様にして、hMSCを培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図12に示す。
【0061】
図12に示したSEM写真から分かるように、すべての焼成温度で、ウェル内外に扁平細胞が接着していた。
【0062】
また、上記試験例1−1〜1−4で作製した各担体で培養された細胞の形状について、各担体上面の2乗平均粗さRqとの関係を表1に、各担体上面の線密度との関係を表2に示す。
なお、2乗平均粗さRqは、JIS B 0601により測定したものである。
また、線密度は、原子間力顕微鏡(AFM)により、スケール0.8μm、スキャンサイズ10μm×10μmにて測定したものである。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び2で示した結果から、担体上面の2乗平均粗さRqが100nm以上280nm以下の場合、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6以上3以下の場合にhMSCは凝集塊を形成する傾向が認められた。
【0066】
さらに、上述した構成に加え、ウェルの少なくとも底面の2乗平均粗さRqが100nm以上280nm以下の場合、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6以上3以下の場合、hMSCは凝集塊をより形成する傾向が認められた。
【0067】
[実施例1]hMSCの培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した、開口径及び深さが78μm、175μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体に、試験例1−1と同様にして、0.5×104、1×104、2.5×104、5×104個のhMSCを播種して培養した。
播種して7日経過後のSEM写真を図13に示す。
【0068】
図13に示したSEM写真から分かるように、ウェル開口径78μmの場合、hMSCを1×104個以上播種すると、ウェル内で凝集化する傾向が認められた。
また、ウェル開口径175μm以上の場合、播種細胞数を5×104個以上にすると、細胞が凝集化しやすくなる傾向が認められた。
【0069】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各培養担体においても、ウェル内で凝集化する傾向が認められた。
【0070】
[比較例1]HepG2の培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが175μmのウェルが配列したジルコニア製細胞培養担体を作製した。この担体表面は、2乗平均粗さRq=103.22nm、線密度=2.71であった。
この担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、ヒト肝ガン由来細胞(HepG2)を5×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して7日経過後のSEM写真を図14に示す。
【0071】
図14に示したSEM写真から分かるように、本発明に係る構成を備えた細胞培養担体では、HepG2はウェル内(凹部)で凝集塊を形成せず、また、凸部(上面)にも接着していた。
【0072】
[比較例2]hMSCのシャーレでの通常培養
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを3×105個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日後のシャーレ表面の透過型顕微鏡写真を図15に示す。
【0073】
図15に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、シャーレ上では、hMSCは凝集塊を形成せず、扁平形状に接着していた。
【0074】
[比較例3]hMSCのジルコニア製平板での培養
成形型を凸形状のないフラットな面を有するものとしたことを除いて、比較例1と同様に、ジルコニア製平板を作製した。この平板表面は、2乗平均粗さRq=100.8nm、線密度=2.01であった。
この平板を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを1×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図16に示す。
【0075】
図16に示したSEM写真から分かるように、ジルコニア製平板でhMSCを培養すると、細胞が球状化したが、凝集塊の形成は認められなかった。
このことから、hMSCの凝集化には、ウェル構造が必要であり、また、効率的な凝集化のためには、ウェル底部も平面でなく、湾曲形状であることが好ましいと考えられる。
【0076】
[実施例2]hMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100μmのウェルが配列したジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して、開口径及び深さが70μmの担体を作製した。
この担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを5×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種してから3日目に、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)に変え、3週間分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて1、2、3週間経過後、それぞれ、担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出には、RNAisoPlus(Takara社)を用い、そのプロトコルに従って、mRNAを抽出・精製した。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、軟骨分化マーカーであるCD29、CD44、CD105、TypeXコラーゲン、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン、Sox9、lunx2及びchM1の発現をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって確認した。
これらの軟骨分化マーカーを図17に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織、及び、硝子軟骨由来正常細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0077】
ここで、各マーカーの発現は、+:発現、−:非発現として表すと、hMSCは、CD29+、CD44+、CD105+、TypeXコラーゲン−、TypeIIコラーゲン−、COMP−、Aggrecan−、Sox9−、lunx2−、chM1−であり、ヒト由来軟骨細胞(硝子軟骨細胞)は、CD29+、CD44+、CD105−、TypeXコラーゲン−、TypeIIコラーゲン+、COMP+、Aggrecan+、Sox9+、lunx2−、chM1−であり、成熟・肥大軟骨細胞は、TypeXコラーゲン+、TypeIIコラーゲン−、COMP−、Aggrecan−、Sox9−、lunx2+、chM1+である。
【0078】
図17に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した場合、CD29、CD44、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン、Sox9が発現し、誘導期間が長くなるほど発現量が多くなった。また、TypeXコラーゲン、lunx2、chM1の発現は確認されず、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0079】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが175μm及び550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、これらを用いて、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。これらの培養細胞についても、軟骨分化マーカーによって確認したところ、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0080】
[比較例4]ペレット法によるhMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
不死化されたhMSC2.5×105個をDMEM5mlで懸濁させて15mlチューブに入れ、遠心分離によって該チューブの底でペレットを形成した。アスピレータでDMEMを吸引後、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)に変え、3週間分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて1、2、3週間経過後、それぞれ、担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによる軟骨分化マーカーの確認は、実施例2と同様にして行った。
これらの軟骨分化マーカーを、実施例2の結果と併せて、図17に示す。
【0081】
図17に示した結果から分かるように、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導した場合、硝子軟骨細胞が特異的に発現する遺伝子であるCD29、CD44、TypeIIコラーゲン、COMP、アグリカン及びSox9が発現したが、TypeXコラーゲンの発現も確認された。
このことから、得られた軟骨細胞は、目的の硝子軟骨細胞の他に、成熟・肥大化した軟骨細胞が含まれており、分化状態が均一な軟骨組織ではないことが認められた。
【0082】
[実施例3]各ウェル開口径でのhMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100μm、200μm、400μm、600μmのウェルが配列したジルコニア製の各細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して開口径及び深さが78μm、175μm、350μm、510μmの担体を作製した。
上記において作製した各担体を用いて、実施例2と同様にして、hMSCの培養及び分化誘導を行った。
分化誘導を始めて3週間経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出には、RNAisoPlus(Takara社)を用い、そのプロトコルに従って、mRNAを抽出・精製した。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、間葉系幹細胞マーカーであるCD105、成熟・肥大硝子軟骨細胞マーカーであるTypeXコラーゲン、硝子軟骨細胞のマーカーであるTypeIIコラーゲンの発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを図18に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織についてのマーカーも併せて示す。
【0083】
図18に示した結果から分かるように、ウェル開口径78〜510μmの細胞培養担体で培養したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織は、TypeIIコラーゲンが発現し、TypeXコラーゲンとCD105の発現がなかったことから、均一な硝子軟骨細胞に誘導されていることが認められた。
一方、ペレット法で得られた軟骨組織は、TypeIIコラーゲン、TypeXコラーゲン及びCD105が発現していたことから、間葉系幹細胞、硝子軟骨細胞、成熟・肥大軟骨細胞が混在した組織になっていることが確認された。
【0084】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、350μm、510μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、これらを用いて、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。これらの培養細胞について、軟骨分化マーカーによって確認したところ、ヒト体内から採取した硝子軟骨細胞の発現遺伝子と同じであることが確認された。
【0085】
[実施例4]分化誘導された軟骨組織の染色
実施例3において、分化誘導を3週間行った細胞培養担体(ウェル開口径及び深さが510μm)から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド(Wako社)を用いて固定を行った。その後、エタノールを70、80、90、100%の順で加えて脱水を行い、キシレンで置換した。
そして、この担体のウェル内から、ピペッティングにより軟骨組織を回収し、パラフィンを用いて包埋した。この包埋したブロックから、ミクロトーム(Leica社)を用いて、厚さ5μmの切片を切り出した。この切片を、スライドガラスに貼り付け、キシレン、100、90、80、70%エタノールの順で浸液させて脱パラフィン処理を行い、軟骨組織部分を染色できる状態にした。
これを3%酢酸に浸した後、軟骨細胞が産生する細胞外基質であるグリコサミノグリカンを特異的に染色するサフラニンO又はトルイジンブルー液にそれぞれ、5分間浸液させた。そして、エタノール、キシレンで脱水処理を行い、封入剤を用いて封入した。
サフラニンO染色した組織の透過型顕微鏡写真を図19、トルイジンブルー染色した組織の透過型顕微鏡写真を図20に示す。なお、比較のため、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織の染色状態も併せて示す。
【0086】
図19及び図20に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、本発明に係る細胞培養担体で培養したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた軟骨組織は、サフラニンO染色(赤紫色)及びトルイジンブルー染色(青紫色)のいずれも、中心部まで均一に染色されており、得られた軟骨組織は内外ともに均一な軟骨細胞組織が形成されていることが認められた。
【0087】
また、実施例2、3で述べた各焼成温度で作製して得られた種々の開口径及び深さのジルコニア製細胞培養担体においても、同様の結果が得られた。
【0088】
[比較例5]ペレット法により分化誘導された軟骨組織の染色
比較例4において、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊からの分化誘導を3週間行った組織から分化誘導培地を除去し、その後の処理は、実施例4と同様にして、サフラニンO又はトルイジンブルーによる染色を行った。
サフラニンO染色した組織の透過型顕微鏡写真を図19、トルイジンブルー染色した組織の透過型顕微鏡写真を図20に、実施例4の結果と併せて示す。
【0089】
図19及び図20に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、ペレット法で形成したhMSCの凝集塊を分化誘導した軟骨組織は、組織周辺部は染色されているものの、中心部の組織があまり染色されておらず、内部と表面の軟骨分化度が全く異なり、均一な軟骨組織が形成されていないことが認められた。
【0090】
[試験例2]各ウェル開口径でのhMSCの培養
平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、平均開口径及び深さが30μm、70μm、540μm、1410μmのウェルが配列したジルコニア製の各細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して担体を作製した。
上記において作製した各担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSC)を5×104個播種して、FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真を図21に示す。
【0091】
図21に示したSEM写真から分かるように、ウェル開口径が70μm、540μmの細胞培養担体では、ウェル内にのみ細胞が集まり細胞凝集塊が形成されていた。
一方、ウェル開口径が30μmの細胞培養担体は、ウェル外(担体上面)にも扁平細胞が接着しており、細胞凝集塊は十分に形成されていなかった。また、ウェル開口径1410μmの細胞培養担体は、ウェル内に細胞が集まっていたが、凝集塊は十分に形成されていなかった。
【0092】
[比較例6]アルミナ製細胞培養担体
原料粉としてアルミナを用いた点、また、2次粒子形成にスプレードライヤーを用いた点を除き、実施例1と同様にして、開口径及び深さが100μmのウェルが配列したアルミナ製の細胞培養担体(直径15cm)を成形し、1000℃で2時間焼成して担体を作製した(特許文献1の実施例1記載のアルミナセラミックス多孔体と同等サンプル)。焼成後の担体上面に形成された開口径は、ウェル数10個の平均値で80μmであった。このアルミナ製細胞培養担体について、表面骨格のSEM写真を図22に示す。
また、この表面状態について、上記試験例1−1〜1−4の各担体と同様にして測定したところ、2乗平均粗さRq=47.40nm、線密度=5.01であった。
【0093】
また、この担体を、滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに、不死化されたhMSCを1×104個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種して3日経過後のSEM写真(100、250、1000倍)を図23に示す。
【0094】
図23に示したSEM写真から分かるように、間葉系幹細胞は、ウェル凹凸部に扁平形状で接着して、凝集体を形成しないことが確認された。
【0095】
[実施例5]hMSCの脂肪細胞への分化誘導
平均粒子径0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが100、200、400、600μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体を成形し、1150℃焼成で2時間焼成した。各ジルコニア製細胞培養担体は、焼成により収縮して開口径及び深さが75、175、350、510μmになった。
これらの各担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに不死化されたhMSCを1×105個(ウェル開口径75μm)、2×105個(ウェル開口径175μm)、3×105個(ウェル開口径350μm)、4×105個(ウェル開口径510μm)播種して、FBSを10%含むDMEMで37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種してから4日目に、脂肪細胞分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちに、RNAiso(Takara社)を用いてRNAの抽出を行った。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、初期脂肪マーカーであるPPARγ(Peroxisome Proliferator−Activated Receptor γ)、MSCマーカーであるCD105の発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを図24に示す。なお、比較のため、シャーレで形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた脂肪細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0096】
図24に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した結果、ウェル開口径が小さいほど、CD105の発現が少なく、PPARγの発現が多く、脂肪細胞へ分化誘導が進んでいることが確認された。
【0097】
また、分化誘導を始めて10日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、すぐに固定液で細胞を固定した。固定後、脂肪細胞の脂肪滴を染色するオイルレッドOにより染色した。
これらの染色した細胞の透過型顕微鏡写真を図25に示す。
図25に示した顕微鏡写真から分かるように、各細胞培養担体のウェル内で細胞凝集塊が染色されており、脂肪細胞が形成されていることが認められた。
【0098】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体についても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各培養担体においても、ウェル内で細胞凝集塊が染色されており、脂肪細胞が形成されていることが認められた。
【0099】
[比較例7]シャーレ上でのhMSCの脂肪細胞への分化誘導
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを7×104個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
24時間後、脂肪分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、この担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによるマーカーの確認は、実施例5と同様にして行った。
これらのマーカーを実施例5の結果と併せて、図24に示す。
【0100】
図24に示した結果から分かるように、シャーレで培養したhMSCを分化誘導した結果、CD105の発現が、実施例5の細胞培養担体を用いた場合に比べて多く、また、PPARγの発現は、実施例5のウェル開口径75μm、175μm、350μmの細胞培養担体を用いた場合に比べて少なかった。
このことから、本発明に係る細胞培養担体によれば、脂肪細胞へ効率よく分化誘導可能であることが確認された。
【0101】
また、分化誘導を始めて10日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後、すぐに固定液で細胞を固定した。固定後、脂肪細胞の脂肪滴を染色するオイルレッドOにより染色した。
これらの染色した細胞の透過型顕微鏡写真を図26に示す。
【0102】
図26に示した透過型顕微鏡写真から分かるように、シャーレ上でhMSCを脂肪細胞に誘導した場合、分化誘導を始めて10日経過後でも、オイルレッドOで染色された細胞はまばらであり、分化があまり進んでいないことが認められた。
【0103】
[実施例6]hMSCの骨芽細胞への分化誘導
実施例5と同様の各担体を滅菌処理後、24ウェルプレートに入れた。ここに不死化されたhMSCを1×105個(ウェル開口径75μm)、2×105個(ウェル開口径175μm)、3×105個(ウェル開口径350μm)、4×105個(ウェル開口径510μm)播種して、FBSを10%含むDMEMで37℃、5%CO2の条件下で培養した。
播種してから4日目に、骨形成分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて14日経過後、各担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちに、RNAiso(Takara社)を用いてRNAの抽出を行った。
得られたRNAについて、RNA PCR kit(Takara社)を用いて、逆転写後、骨芽細胞マーカーであるColI(1型コラーゲン)、SppI(オステオポンチン)、MSCマーカーであるCD105の発現をPCRによって確認した。
これらのマーカーを図27に示す。なお、比較のため、シャーレで形成したhMSCの凝集塊を分化誘導して得られた骨芽細胞についてのマーカーも併せて示す。
【0104】
図27に示した結果から分かるように、細胞培養担体のウェルによってサイズを制御して培養したhMSCの凝集塊を分化誘導した結果、ウェル開口径が大きいほど、ColI及びSppIの発現が多く、骨芽細胞への分化誘導が進んでいることが確認された。
【0105】
また、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1150℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.6〜0.9μmのジルコニア原料粉を用いて、1050℃で焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.75〜1.2μmのジルコニア原料粉を1150℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体と、平均粒子径が0.8〜1.2μmのジルコニア原料粉を1250℃で仮焼成した後、1050℃、1150℃及び1250℃でさらに焼成して作製した開口径及び深さが70μm、175μm、550μmのウェルが配列した各ジルコニア製細胞培養担体を用いて、これらについても、上記と同様にしてhMSCを播種して培養した。その結果、これらの各細胞培養担体においても、ウェル内で骨芽細胞への分化誘導が進んでいることが確認された。
【0106】
[比較例8]シャーレ上でのhMSCの骨芽細胞への分化誘導
ゼラチンがコーティングされた直径10cmのシャーレに、不死化されたhMSCを7×104個播種して、FBS10%を含むDMEMで、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
24時間後、骨分化誘導培地(GIBCO社)に変え、分化誘導を行った。なお、培地交換は4日おきに行った。
分化誘導を始めて7日経過後、この担体から分化誘導培地を除去し、PBSで洗浄後直ちにRNAの抽出を行った。RNAの抽出及びPCRによるマーカーの確認は、実施例5と同様にして行った。
これらのマーカーを実施例6の結果と併せて、図27に示す。
【0107】
図27に示した結果から分かるように、シャーレで培養したhMSCを分化誘導した結果、CD105の発現が、実施例6の細胞培養担体を用いた場合に比べて多く、ColI及びSppIの発現は、実施例6のウェル開口径350μm、510μmの細胞培養担体を用いた場合に比べて少なかった。
このことから、本発明に係る細胞培養担体によれば、骨芽細胞へ効率よく分化誘導可能であることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞の培養に用いられる細胞培養担体であって、上面に複数のウェルが形成されており、前記上面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることを特徴とする細胞培養担体。
【請求項2】
前記ウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであることを特徴とする請求項1記載の細胞培養担体。
【請求項3】
前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養担体。
【請求項4】
近隣する前記ウェルの中心点の間隔が、80〜700μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項5】
セラミックス焼結体からなり、かつ、該セラミックス焼結体の平均細孔径が0.15〜0.45であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項6】
前記セラミックスがジルコニアであることを特徴とする請求項5記載の細胞培養担体。
【請求項7】
前記上面がセラミックス焼結後の非加工面であることを特徴とする請求項5又は6に記載の細胞培養担体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養担体を用いた細胞培養方法であって、
容器内に前記細胞培養担体の上面を上にして配置した後、前記容器内に第1の培養液を供給し、該第1の培養液を前記細胞培養担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる工程と、
前記第1の培養液を浸透させた細胞培養担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を播種する工程と、
前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記細胞培養担体全体を前記第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる工程と、
前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、凝集化した前記間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導するための第3の培養液を前記容器内に供給し、前記細胞培養担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞のうちのいずれかの組織細胞に分化誘導する工程と
を備えていることを特徴とする細胞培養方法。
【請求項9】
前記第2の培養液中の間葉系幹細胞数を前記担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下とすることを特徴とする請求項8記載の細胞培養方法。
【請求項1】
間葉系幹細胞の培養に用いられる細胞培養担体であって、上面に複数のウェルが形成されており、前記上面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、かつ、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることを特徴とする細胞培養担体。
【請求項2】
前記ウェルは、開口部が円形状又は矩形状であり、開口径が70〜550μmであることを特徴とする請求項1記載の細胞培養担体。
【請求項3】
前記ウェルの少なくとも底面は、2乗平均粗さRqが100〜280nm、長さ1μmあたりの線密度が1.6〜3.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養担体。
【請求項4】
近隣する前記ウェルの中心点の間隔が、80〜700μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項5】
セラミックス焼結体からなり、かつ、該セラミックス焼結体の平均細孔径が0.15〜0.45であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養担体。
【請求項6】
前記セラミックスがジルコニアであることを特徴とする請求項5記載の細胞培養担体。
【請求項7】
前記上面がセラミックス焼結後の非加工面であることを特徴とする請求項5又は6に記載の細胞培養担体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養担体を用いた細胞培養方法であって、
容器内に前記細胞培養担体の上面を上にして配置した後、前記容器内に第1の培養液を供給し、該第1の培養液を前記細胞培養担体のウェル開口部付近まで毛細管現象により浸透させる工程と、
前記第1の培養液を浸透させた細胞培養担体の上面に未分化の間葉系幹細胞を含む第2の培養液を滴下して、間葉系幹細胞を播種する工程と、
前記容器内に前記第1の培養液をさらに供給し、前記細胞培養担体全体を前記第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞の凝集化を進行させる工程と、
前記容器内から、前記第1の培養液と、前記間葉系幹細胞を除いた前記第2の培養液とを排出した後、凝集化した前記間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞に分化誘導するための第3の培養液を前記容器内に供給し、前記細胞培養担体全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル内で間葉系幹細胞を、硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞のうちのいずれかの組織細胞に分化誘導する工程と
を備えていることを特徴とする細胞培養方法。
【請求項9】
前記第2の培養液中の間葉系幹細胞数を前記担体1cm2あたり1×104個以上1×106個以下とすることを特徴とする請求項8記載の細胞培養方法。
【図2】
【図5】
【図8】
【図11】
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図5】
【図8】
【図11】
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2012−50426(P2012−50426A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130953(P2011−130953)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】
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