説明

細胞培養試料中のマイコプラズマ汚染の迅速な検出

本発明は、例えば細胞培養培地中のマイコプラズマを検出する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、すべての目的のために参照によって組み込まれる、2009年10月29日に出願された米国仮特許出願第61/256,216号の優先権利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマは、最も頻度の高い細胞培養汚染物質の1つである(Uphoff,C.C.およびDrexler,H.G.(2005)Methods Mol Biol、290、13〜23)。細胞壁がないこれらの寄生細菌または腐生細菌は、モリクト綱(Mollicutes)として分類される。現在、100を超えるモリクト綱(Mollicutes)の種が記載されているが、その8種、すなわちマイコプラズマ・アルギニニ(Mycoplasma arginini)、M.ピルム(M.pirum)、M.ホミニス(M.hominis)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)、M.サルバリウム(salivarium)、M.オラーレ(M.orale)、M.ヒオリニス(M.hyorhinis)、およびアコレプラズマ・ライドラウィー(Acholeplasma laidlawii)(Tang,J.ら(2000)J Microbiol Methods、39、121〜126)が細胞培養汚染の95%超を占める。
【0003】
マイコプラズマは、細胞膜に吸着し、栄養素を枯渇させ、細胞の増殖および遺伝子発現の両方を変化させるため、感染した培養物からの実験結果は信頼性の低いものとなる。他の細菌汚染物質とは異なり、マイコプラズマは通常使用される抗生物質に感受性ではなく、また、培地に濁りを引き起こすこともなく細胞培養上清中で増殖する。このため、特異的な検出方法が使用されないかぎり、マイコプラズマは組織培養物中で看過される可能性がある。したがって、マイコプラズマのための日常試験が必要になる。
【0004】
微生物培養、生化学アッセイ、核酸染色、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含めて、マイコプラズマ検出のための数多くの方法が記載されてきた(Drexler,H.G.およびUphoff,C.C.(2002)Cytotechnology、39、75〜90)。他で議論されているように(Drexler H.G.、U.C.C.(2000)The Encyclopedia of Cell Technology.J.Wiley、New York.、1249頁)、それぞれの方法には利点および限界がある。PCRは、研究室で日常的に使用されている、迅速に、高感度で、大量処理できる検出方法である。最も一般的なモリクト綱(Mollicutes)の種を検出するために設計されたいくつかのプライマー対が、高度に保存的なDNA配列、例えば16Sおよび23SのrDNA配列またはその2つの間にあるスペーサーをターゲットとして文献中に記載されてきた(Harasawa,R.ら(1993)Res Microbiol、144、489〜493;Spaepen,M.ら(1992)FEMS Microbiol Lett、78、89〜94;Wirth,M.ら(1994)Cytotechnology、16、67〜77;Rawadi,G.およびDussurget,O.(1995)PCR Methods Appl、4、199〜208)。しかしながら、rDNAは細菌の間で高度に保存されているので、これらのプライマーの一部は、モリクト綱(Mollicutes)に加えて、系統的に関連するグラム陽性菌も検出することが示されてきた(Eldering,J.A.ら(2004)Biologicals、32、183〜193)。したがって、tuf(Stormer,M.ら(2009)Int J Med Microbiol、299、291〜300)およびrpoB遺伝子(Kong,H.ら(2007)Appl Microbiol Biotechnol、77、223〜232;Palgi,J.ら(2007)米国特許出願公開第20070243530号明細書)を含む単一コピー遺伝子をターゲットとするプライマーが設計されてきた。最近では、プライマーおよびPCR条件がリアルタイムPCRで使用するのに適合するようになっており(Stormer,M.ら(2009)Int J Med Microbiol、299、291〜300;Ishikawa,Y.ら(2006)In Vitro Cell Dev Biol Anim、42、63〜69;Harasawa,R.ら(2005)Microbiol Immunol、49、859〜863;Schmitt,M.およびPawlita,M.(2009)Nucleic Acids Res.)、試料の大量、高速、および高感度処理が実現している。Eva Green(Mao,F.ら(2007)BMC Biotechnol、7、76)などのDNA結合色素を使用すると、リアルタイムの検出が可能になり、その後に融解曲線分析を行うこともできる。融解曲線分析により、観察された増幅が正確に標的によるものという確証が得られる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、細胞培養培地中のマイコプラズマを検出する方法を提供する。
いくつかの実施形態では、本方法は、
細胞培養培地のアリコートを得るステップと、
このアリコート中のマイコプラズマ核酸を、存在する場合に増幅するためにDNAポリメラーゼを用いてリアルタイム核酸増幅反応を実施するステップであって、
アリコート中の核酸がさらに精製されることがなく、
この増幅反応が、二本鎖DNAの存在下で蛍光シグナルを生成する、インターカレートする蛍光色素を含むステップと、
増幅反応の増幅産物の融解温度を検出するステップであって、この増幅産物の存在が、細胞培養中のマイコプラズマの存在を示すステップと
を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、増幅反応は、マイコプラズマ・アルギニニ(Mycoplasma arginini)、M.ピルム(M.pirum)、M.ホミニス(M.hominis)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)、M.サルバリウム(M.salivarium)、M.オラーレ(M.orale)、M.ヒオリニス(M.hyorhinis)、およびアコレプラズマ・ライドラウィー(Acholeplasma laidlawii)のいずれも(すなわち、存在するすべてのもの)、アリコート中に存在する場合に増幅することができる。
【0007】
いくつかの実施形態では、マイコプラズマ核酸は、少なくとも50ヌクレオチドのrpoB遺伝子部分を含む。いくつかの実施形態では、実施ステップは、
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)
を含むか、またはこれからなる第1の縮重プライマー、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)
を含むか、またはこれからなる第2の縮重プライマーを用いて、この部分を増幅するステップを含む。ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表す。
【0008】
いくつかの実施形態では、反応は、1つの順方向プライマーおよび1つの逆方向プライマー以外のプライマーを含有しない。
【0009】
いくつかの実施形態では、検出ステップは、増幅産物をヌクレオチドシークエンシングするステップと、決定したヌクレオチド配列を様々なマイコプラズマ種のヌクレオチド配列と関連づけることによりマイコプラズマを同定するステップとをさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、増幅反応は検出可能に標識されたオリゴヌクレオチドを含まない。
【0011】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼは配列非特異的DNA結合ドメインに連結される。いくつかの実施形態では、配列非特異的DNA結合ドメインはSso7DNA結合ドメインである。
【0012】
いくつかの実施形態では、アリコートは、Taqポリメラーゼの活性を少なくとも10%阻害するために十分量の増幅阻害物質を含む。いくつかの実施形態では、阻害物質は、細胞片、細胞老廃物(例えば多糖またはタンパク質)、およびウシ胎児血清またはその増幅阻害物質成分からなる群から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、増幅反応は、増幅反応の効率を改善するために十分量のオスモライトおよび/またはヘパリンを含む。いくつかの実施形態では、オスモライトは、サルコシン、トリメチルアミンN−オキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオナート、およびトリメチルグリシンからなる群から選択される。
【0014】
本発明はまた、試料中(細胞培養培地中を含むがこれに限定されない)のマイコプラズマを検出する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、
試料(細胞培養培地を含むがこれに限定されない)のアリコートを得るステップと、
このアリコート中のマイコプラズマ核酸を、存在する場合に増幅するためにDNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施するステップであって、
(a)この実施ステップが第1および第2のプライマーを用いて部分を増幅することを含み、
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)
を含むまたはこれからなる第1の縮重プライマー、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)を含むまたはこれからなる第2の縮重プライマーを含み、ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表し、
(b)増幅反応の増幅産物の有無を検出し、増幅産物の存在が試料中のマイコプラズマの存在を示すステップと
を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、増幅反応はリアルタイムでモニターされる。いくつかの実施形態では、増幅反応は、二本鎖DNAの存在下で、一本鎖DNAのみの存在下で生成する蛍光シグナルの少なくとも2倍の蛍光シグナルを生成するインターカレートする蛍光色素を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、第1および第2のプライマーは、それぞれ以下の縮重配列からなる。
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)
【0017】
いくつかの実施形態では、アリコート中の核酸はさらに精製されない。
【0018】
いくつかの実施形態では、反応は、rpoB遺伝子にハイブリダイズするように設計された1つの順方向プライマーおよび1つの逆方向プライマー以外のプライマーを含有しない。
【0019】
いくつかの実施形態では、検出ステップは、増幅産物をヌクレオチドシークエンシングするステップと、決定したヌクレオチド配列を様々なマイコプラズマ種のヌクレオチド配列と関連づけることによりマイコプラズマを同定するステップとをさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、増幅反応は検出可能に標識されたオリゴヌクレオチドを含まない。
【0021】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼは配列非特異的DNA結合ドメインに連結される。いくつかの実施形態では、配列非特異的DNA結合ドメインはSso7DNA結合ドメインである。
【0022】
いくつかの実施形態では、増幅反応は、増幅反応の効率を改善するために十分量のオスモライトおよび/またはヘパリンを含む。いくつかの実施形態では、オスモライトは、サルコシン、トリメチルアミンN−オキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオナート、およびトリメチルグリシンからなる群から選択される。
【0023】
本発明はまた、細胞培養培地からのマイコプラズマDNAを、存在する場合に増幅するためのキットを提供する。いくつかの実施形態では、本キットは、
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)を含む第1の縮重プライマー、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)を含む第2の縮重プライマー
を含み、
ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表す。
【0024】
いくつかの実施形態では、第1のプライマーは
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)からなり、
第2のプライマーはCCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)からなる。
【0025】
いくつかの実施形態では、本キットは、
ポリメラーゼ;
インターカレートする蛍光色素;
配列番号1または配列番号2によりプライムされる、ポリメラーゼにより増幅可能なポリヌクレオチドを含む陽性対照ポリヌクレオチド(すなわち、配列番号1および配列番号2からそれぞれなるプライマーにより増幅条件下でポリヌクレオチドの介在部分が増幅できるほど十分相補的な(場合によっては100%相補的な)配列を、このポリヌクレオチドが含む)
の少なくとも1つまたは複数をさらに含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、本キットは、マイコプラズマrpoB遺伝子の少なくとも50の連続したヌクレオチドを含む核酸を含む陽性対照試料をさらに含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、本キットはオスモライトおよび/またはヘパリンをさらに含む。いくつかの実施形態では、オスモライトは、サルコシン、トリメチルアミンN−オキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオナート、およびトリメチルグリシンからなる群から選択される。
【0028】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼは配列非特異的DNA結合ドメインに連結される。いくつかの実施形態では、配列非特異的DNA結合ドメインはSso7DNA結合ドメインである。
【0029】
定義
用語「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、リボ核酸(RNA)ポリマーおよびデオキシリボ核酸(DNA)ポリマーまたはそれらのアナログに相当し得る、モノマーのポリマーを互換的に指す。これには、RNAおよびDNAならびにそれらの改変形態、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA(商標))等の、ヌクレオチドのポリマーが含まれる。特定の用途では、核酸は、複数のモノマータイプ、例えばRNAサブユニットおよびDNAサブユニットの両方を含むポリマーとすることもできる。
【0030】
核酸は典型的には一本鎖または二本鎖であり、一般にはリン酸ジエステル結合を含有するものであるが、ある場合には、本明細書中で概説するように、例えば、これらに限定されるものではないが、ホスホルアミド(Beaucageら(1993)Tetrahedron 49(10):1925およびその中の参考文献;Letsinger(1970)J.Org.Chem.35:3800;Sprinzlら(1977)Eur.J.Biochem.81:579;Letsingerら(1986)Nucl.Acids Res.14:3487;Sawaiら(1984)Chem.Lett.805;Letsingerら(1988)J.Am.Chem.Soc.110:4470;ならびにPauwelsら(1986)Chemica Scripta 26:1419)、ホスホロチオアート(Magら(1991)Nucleic Acids Res.19:1437および米国特許第5,644,048号明細書)、ホスホロジチオアート(Briuら(1989)J.Am.Chem.Soc.111:2321)、O−メチルホホロアミダイト(O−methylphophoroamidite)結合(Eckstein、Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach、Oxford University Press(1992))、ならびにペプチド核酸骨格および結合(Egholm(1992)J.Am.Chem.Soc.114:1895;Meierら(1992)Chem.Int.Ed.Engl.31:1008;Nielsen(1993)Nature 365:566;およびCarlssonら(1996)Nature 380:207)を含む代替骨格を有し得る核酸アナログが含まれる。これらの文献はそれぞれ参照によって組み込まれるものとする。他のアナログ核酸には、正に荷電した骨格(Denpcyら(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6097);非イオン性骨格(米国特許第5,386,023号明細書、同第5,637,684号明細書、同第5,602,240号明細書、同第5,216,141号明細書、および同第4,469,863号明細書;Angew(1991)Chem.Intl.Ed.English 30:423;Letsingerら(1988)J.Am.Chem.Soc.110:4470;Letsingerら(1994)Nucleoside & Nucleotide 13:1597;第2章および第3章、ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Y.S.SanghviおよびP.Dan Cook編;Mesmaekerら(1994)Bioorganic & Medicinal Chem.Lett.4:395;Jeffsら(1994)J.Biomolecular NMR 34:17;Tetrahedron Lett.37:743(1996))、ならびに米国特許第5,235,033号明細書および同第5,034,506号明細書と、第6章および第7章、ASC Symposium Series 580、Carbohydrate Modifications in Antisense Research、Y.S.SanghviおよびP.Dan Cook編に記載のものを含む非リボース骨格が挙げられる。これらの文献はそれぞれ参照によって組み込まれるものとする。1つまたは複数の炭素環式糖を含有する核酸もまた、核酸の定義内に含まれる(Jenkinsら(1995)Chem.Soc.Rev.l69〜176頁、これは参照によって組み込まれる)。さらに、いくつかの核酸アナログが、例えばRawls、C&E News 1997年6月2日 35頁(これは参照によって組み込まれる)に記載されている。リボース−リン酸エステル骨格のこれらの改変は、標識部分などの追加部分の付加を容易にするために、または生理的環境下におけるこのような分子の安定性および半減期を修正するためになされ得る。
【0031】
核酸中に典型的に見出される天然の複素環塩基(例えばアデニン、グアニン、チミン、シトシン、およびウラシル)に加えて、人工的な複素環塩基または他の修飾塩基を有するものも核酸アナログに含まれる。これらの多くが本明細書中に記載されているか、さもなければ参照されている。具体的には、多くの人工的な塩基が、例えば、Seelaら(1991)Helv.Chim.Acta 74:1790、Greinら(1994)Bioorg.Med.Chem.Lett.4:971〜976、およびSeelaら(1999)Helv.Chim.Acta 82:1640にさらに記載されている。これらは、それぞれ参照によって組み込まれるものとする。さらなる例として、融解温度(Tm)修飾因子として作用する、ヌクレオチド中で使われる特定の塩基が、場合によっては含まれる。例えば、これらの中には、7−デアザプリン(例えば7−デアザグアニン、7−デアザアデニン等)、ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン、プロピニル−dN(例えばプロピニル−dU、プロピニル−dC等)などが含まれる。例えば、参照によって組み込まれる、1999年11月23日に公表のSeelaによる、名称「SYNTHESIS OF 7−DEAZA−2’−DEOXYGUANOSINE NUCLEOTIDES」の米国特許第5,990,303号明細書を参照されたい。代表的な他の複素環塩基としては、例えば、ヒポキサンチン、イノシン、キサンチン;2−アミノプリン、2,6−ジアミノプリン、2−アミノ6−クロロプリン、ヒポキサンチン、イノシン、およびキサンチンの8−アザ誘導体;アデニン、グアニン、2−アミノプリン、2,6−ジアミノプリン、2−アミノ−6−クロロプリン、ヒポキサンチン、イノシン、およびキサンチンの7−デアザ−8−アザ誘導体;6−アザシトシン;5−フルオロシトシン;5−クロロシトシン;5−ヨードシトシン;5−ブロモシトシン;5−メチルシトシン;5−プロピニルシトシン;5−ブロモビニルウラシル;5−フルオロウラシル;5−クロロウラシル;5−ヨードウラシル;5−ブロモウラシル;5−トリフルオロメチルウラシル;5−メトキシメチルウラシル;5−エチニルウラシル;5−プロピニルウラシル等が挙げられる。本発明のプライマーは、例えば、1つまたは2つ以上の上記非天然ヌクレオチドを含むことができる。
【0032】
「配列同一性の割合」は、比較ウィンドウにわたって最適にアライメントされた2つの配列を比較することより決定し、比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列部分またはポリペプチド配列部分は、2つの配列を最適にアライメントするために、付加または欠失を含まない参照配列と比較して、付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでいてもよい。この割合は、核酸塩基またはアミノ酸残基が両配列中で同一である位置の数を決定してマッチした位置の数を得、比較ウィンドウ中の位置の総数でこのマッチした位置の数を除して、その結果を100倍して配列同一性の割合を得ることによって計算する。
【0033】
用語「同一」またはパーセント「同一性」は、2つ以上の核酸配列またはポリペプチド配列のコンテキストの中では、同じ配列である2つ以上の配列または部分配列を指す。比較ウィンドウ、すなわち以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いてもしくはマニュアルアライメントおよび目視検査によって測定されるような指定配列にわたって、または指定のない場合は全配列にわたって一致が最大になるように比較およびアライメントされる場合に、2つの配列が、同じであるアミノ酸残基またはヌクレオチドの指定された割合(すなわち、指定された領域にわたって、または指定のない場合には全配列にわたって、60%の同一性、場合によっては、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%の同一性)を有するとき、配列は「実質的に同一」である。
【0034】
配列比較については、典型的には、1つの配列を参照配列として置き、それと試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。デフォルトのプログラムパラメータを使用してもよく、または代わりのパラメーターを指定してもよい。他に指示がなければ、デフォルトパラメーターと想定することができる。次いで、配列比較アルゴリズムにより、プログラムパラメータに基づいて参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性が計算される。
【0035】
本明細書中で使用する「比較ウィンドウ」は、20〜600、一般的には約50〜約200、より一般的には約100〜約150からなる群から選択される連続した位置の数のいずれか1つのセグメントについての言及を含む。このセグメントにおいて、ある配列と、連続した位置が同数の参照配列とを最適にアライメントした後に、この2つの配列を比較することができる。比較のための配列アライメントの方法は当技術分野でよく知られている。比較のための最適な配列アライメントは、例えば、SmithおよびWaterman(1970)Adv.Appl.Math.2:482cの局所相同性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch(1970)J.Mol.Biol.48:443の相同性アライメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman(1988)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444の類似性探索方法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、WIの中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、またはマニュアルアライメントおよび目視検査(例えば、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(1995補遺)を参照されたい)により行なうことができる。
【0036】
パーセント配列同一性および配列類似性の決定に適したアルゴリズムの2つの例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれ、Altschulら(1977)Nuc.Acids Res.25:3389〜3402、およびAltschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403〜410に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を介して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードとアライメントした場合、マッチするかまたはある正の閾値スコアTを満足するかのいずれかである、クエリー配列中の長さWの短いワードを同定することにより、高スコアの配列ペア(HSP)を最初に同定することを含んでいる。Tは隣接ワードスコア閾値(Altschulら、前出)と呼ばれる。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含むさらに長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとして役立つ。このワードヒットは、累積アライメントスコアが増加する限り、それぞれの配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合、パラメーターM(一対のマッチ残基のリワードスコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基のペナルティースコア;常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列の場合、累積スコアを計算するためにスコアリング行列が用いられる。累積アラインメントスコアが、その到達した最大値から量Xだけ減少した場合;1つもしくは複数の負のスコアの残基アラインメントが蓄積したために累積スコアが0もしくはそれ未満になった場合;またはいずれかの配列の末端に到達した場合に、それぞれの方向でのワードヒットの延長は停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T、およびXはアラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(核酸配列の場合)は、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)または10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、ワード長3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアリング行列(HenikoffおよびHenikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915を参照されたい)アラインメント(B)50、期待値(E)50、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。
【0037】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計解析を実施する(例えば、KarlinおよびAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5787を参照されたい)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの尺度は最小合計確率(P(N))であり、これは2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間のマッチが偶然に起こる確率の指標を提供するものである。例えば、試験核酸と参照核酸との比較において最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に、核酸は参照配列と類似であると考えられる。
【0038】
「耐熱性」ポリメラーゼは、当技術分野で一般に使用されるように使用され、例えば複数サイクルのPCR反応で使用するのに有効となるように、高温(例えば90℃)で活性を実質的に保持するポリメラーゼを指す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、モリクト綱(Mollicutes)由来のrpoB遺伝子を検出するための汎用プライマーの設計を示す図である。プライマー結合領域およびプライマー配列の概観。次の混合塩基の対を使用した。K:G、T:W:A、T:R:A、G:Y:C、T。表示した配列は次のとおりである。順方向プライマー;M.ピルム(M.pirum)(P)(配列番号7)、A.ライドラウィー(A.laidlawii)(L)(配列番号9)、M.アルギニニ(M.arginini)(A)(配列番号11)、M.オラーレ(M.orale)(O)(配列番号13)、M.サルバリウム(M.salivarium)(S)(配列番号15)、M.ホミニス(M.hominis)(H)(配列番号17)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)(F)(配列番号19)、M.ヒオリニス(M.hyorhinis)(Hy)(配列番号21)、および順方向コンセンサス(配列番号23)。逆方向プライマー;M.ピルム(M.pirum)(P)(配列番号8)、A.ライドラウィー(A.laidlawii)(L)(配列番号10)、M.アルギニニ(M.arginini)(A)(配列番号12)、M.オラーレ(M.orale)(O)(配列番号14)、M.サルバリウム(M.salivarium)(S)(配列番号16)、M.ホミニス(M.hominis)(H)(配列番号18)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)(F)(配列番号20)、M.ヒオリニス(M.hyorhinis)(Hy)(配列番号22)、および逆方向コンセンサス(配列番号24)。
【図2A】図2は、rpoB PCRの特異性を示す図である。図2Aは、指定のマイコプラズマ種由来のゲノムDNA20pgをrpoBプライマーを用いて増幅した。増幅プロットおよび融解曲線分析を図に示す。
【図2B】図2は、rpoB PCRの特異性を示す図である。図2Bは、AからのPCR産物を3%アガロースゲルで分析した。
【図2C】図2は、rpoB PCRの特異性を示す図である。図2Cは、ラット、ヒト、マウス、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、大腸菌(E.coli)由来のゲノムDNA1ngを、M.ファーメンタンス(M.fermentans)由来のゲノムDNA1pgと一緒に、A)に記載のようにPCRにより分析した。
【図3A】図3は、rpoB PCRの感度を示す図である。A.ライドラウィー(A.laidlawii)(A)およびM.ファーメンタンス(M.fermentans)(B)由来のゲノムDNAの系列希釈100pg〜1fgを、図1Bに示すrpoBプライマーおよびSsoFast EvaGreen Supermixを用いるリアルタイムPCR増幅に供した。反応(三つ組)の増幅プロット、融解曲線、および標準曲線を示す。
【図3B】図3は、rpoB PCRの感度を示す図である。A.ライドラウィー(A.laidlawii)(A)およびM.ファーメンタンス(M.fermentans)(B)由来のゲノムDNAの系列希釈100pg〜1fgを、図1Bに示すrpoBプライマーおよびSsoFast EvaGreen Supermixを用いるリアルタイムPCR増幅に供した。反応(三つ組)の増幅プロット、融解曲線、および標準曲線を示す。
【図4】図4は、リアルタイムPCRアッセイによる粗試料中のマイコプラズマの検出を示す図である。表2に示すように、反応をセットアップした。様々な汚染および非感染細胞株由来の馴化培地を、新鮮培地および水に加え、10%の最終濃度にした。PCR反応(三つ組)の増幅プロットおよび融解ピーク分析を示す。
【0040】
表1:本発明人らのリアルタイムPCRアッセイによるrpoB PCR増幅に対する通常の培地調製物の効果。示すような様々な組織培養培地(10%の最終濃度)の存在下または非存在下(水)において、精製されたゲノムマイコプラズマDNAおよびSsoFast EvaGreen Supermixと共に、図1Bに示すプライマーを用いてPCR反応をセットアップした。反応は三つ組で実施し、平均Ctおよび標準偏差を示す。
【0041】
表2:本発明人らのリアルタイムPCRアッセイによるrpoB遺伝子の増幅に対する加齢培養物由来の馴化培地の効果。表1に示すように、反応をセットアップした。示すように、4日を超える期間コンフルエントになるまで成長させた様々な細胞株に由来する馴化培地(cond)を10%の最終濃度まで加えた。三つ組から得られた平均Ctおよび標準偏差を示す。
【0042】
表3:粗試料中のマイコプラズマの検出。図2に記載の反応(三つ組)の平均Ctならびに標準偏差および主要融解ピークを示す。融解ピークが77℃と79℃との間になった場合に試料は陽性であると判定した。
【発明を実施するための形態】
【0043】
I.緒言
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して、最小限の阻害または阻害なしで、未精製の培養培地試料中にいる数多くの様々なマイコプラズマ種を検出することができるという驚くべき発見に一部分は基づいている。本発明は、細胞培養培地で通常見出されるポリメラーゼ阻害物質に抵抗性があるポリメラーゼ酵素と組み合わせると特に有用である。さらに、本発明者らは、1つのプライマー対による、数多くのマイコプラズマ種の増幅および検出を可能にする特定のプライマーセットを同定した。このプライマーを、阻害物質抵抗性のポリメラーゼと組み合わせると、細胞培養培地中のマイコプラズマの迅速で効率的な検出を可能にする、強力な組合せが誕生する。
【0044】
II.本発明のプライマー
マイコプラズマ起源の任意の標的核酸を、増幅をベースとした本発明のアプローチの標的として使用することができる。マイコプラズマ核酸は他の生物と共通ではないものが好ましい。例えば、いくつかの実施形態では、特定の標的核酸は、哺乳類細胞(例えばヒト、ラット、マウス等)には存在しないか、または少なくとも、マイコプラズマの有無のためのアッセイの解釈を変えるのに十分なほど本方法の間に増幅することはない。本発明のプライマーはまた、非マイコプラズマ細菌の核酸を有意には増幅しないことが一般には望ましいが、これは常に可能または必要であるとは限らない。いくつかの実施形態では、常在細菌種に由来する核酸も本発明のプライマーにより増幅可能な場合、いくつかの実施形態では、その核酸は、そのアンプリコンの融解温度または(これらに限定されないが、アンプリコンの長さの測定またはヌクレオチドシークエンシングを行うことを含む)他の検出できる特徴によってマイコプラズマのアンプリコンと識別することができる。
【0045】
マイコプラズマ種における、検出のための典型的な核酸標的としては、これらに限定されないがtuf遺伝子(例えば、Stormerら、Int.J.Med.Microbiol.、299:291〜300(2009)を参照されたい)、P1遺伝子(例えば、米国特許第6,277,582号明細書を参照されたい)、これらに限定されないが16S遺伝子および/またはスペーサー領域を含む、リボソームRNa(rRNA)の構造遺伝子およびスペーサー領域が挙げられる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のプライマー対を、rpoB遺伝子の少なくとも一部(例えば少なくとも20、50、100塩基対など)を増幅するために使用する。典型的なプライマーセットの一つは、例えば、参照によって組み込まれる、Kongら、Appl.Microbiol.Biotechnol.77:223〜232(2007)に記載されている。
【0046】
本発明者らは、すべての細胞培養マイコプラズマ汚染の95%を説明するマイコプラズマ・アルギニニ(Mycoplasma arginini)、M.ピルム(M.pirum)、M.ホミニス(M.hominis)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)、M.サルバリウム(M.salivarium)、M.オラーレ(M.orale)、M.ヒオリニス(M.hyorhinis)、およびアコレプラズマ・ライドラウィー(Acholeplasma laidlawii)の迅速な検出が1つの順方向プライマーおよび1つの逆方向プライマーのみにより可能になることで、特定のプライマーセットがこれまでのマイコプラズマ検出システムよりも著しく改善されていることを発見した。本発明のプライマーはrpoB遺伝子を標的とする。本プライマーは、哺乳類の核酸またはほとんどの他の細菌の核酸を増幅せず、シグナルの簡単な検出、すなわち増幅産物の生成の検出によりマイコプラズマが存在することを暫定的に結論づけることを可能にする。シグナルは、例えば増幅産物の融解温度の検出により検出することができる。融解温度は、例えば増幅産物の生成とプライマー二量体または他のアーティファクトの生成とを識別のために有用である。
【0047】
プライマーの標的領域を、矢印で示すプライマーハイブリダイゼーション領域およびプライマーの方向性と共に、図1に示す。実施例で使用する縮重プライマーは以下のとおりである。
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)
ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表す。「縮重」プライマーとは、類似であるが同一ではないプライマーの混合物を指す。したがって、上記のプライマーについては、配列番号1を含む順方向プライマーは、関連するプライマーの混合物を含み、W、Y、R、およびMは、関連するプライマーで異なる1つまたは複数の位置を表わす。本発明のいくつかの実施形態では、順方向プライマーおよび逆方向プライマーは、それぞれ配列番号1および配列番号2からなるか、または基本的にそれらからなる。例えば多くの最新のオリゴヌクレオチド合成機を使用して、縮重プライマー混合物を生成することができる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、マイコプラズマrpoB遺伝子、または場合によっては任意のrpoB遺伝子にハイブリダイズするように設計された唯一のプライマーは配列番号1および配列番号2を含むか、またはそれらからなるプライマーである。したがって、例えば、いくつかの実施形態では、増幅反応における唯一の順方向プライマーは配列番号1を含むか、またはそれからなり、増幅反応における唯一の逆方向プライマーは配列番号2を含むか、またはそれからなる。
【0049】
いくつかの実施形態では、本発明のプライマーは配列番号1および配列番号2(それぞれ順方向および逆方向プライマー)を含み、1つまたは複数の追加のヌクレオチドおよび/または他の成分(例えば、標識、タグ、ビオチン等)を含むことになる。1つまたは複数のヌクレオチドは、マイコプラズマrpoB遺伝子(プライマーの残りの部分とアライメントされる)に相補的なヌクレオチド、および/または例えばプライマーの5’末端に標的に相補的ではない追加のヌクレオチド(例えば、制限酵素認識配列を含有する)を含むことができる。
【0050】
上述したように、いくつかの実施形態では、増幅産物はヌクレオチド配列が決定される。これは、マイコプラズマの正確な種を知ることおよび/または汚染が細菌DNAの増幅によるものではないと確認することが所望される場合に有用となり得る。rpoB遺伝子を増幅する実施形態では、マイコプラズマrpoB DNAを増幅する場合に、シークエンシングプライマー:TGC ATT TTG TCA TCA ACC ATG TG(配列番号5)および/またはCCT TCA CGT ATG AAC AT(配列番号6)のいずれかまたは両方を使用することにより種の識別が可能になることが見出された。それぞれのプライマーによる少なくとも約50のヌクレオチドのシークエンシングランにより種を識別することが可能であるが、一般的には、シークエンシングランが完了できれば(例えば300〜500ヌクレオチド)容易になる。例えば、シークエンシングプライマーとして配列番号5を用いてヌクレオチドシークエンシングを行うと、M.ピルム(M.pirum)、M.アルギニニ(M.arginini)、M.オラーレ(M.orale)、M.サルバリウム(M.salivarium)、M.ホミニス(M.hominis)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)、およびM.ヒオリニス(M.hyorhinis)が同定できるようになる。シークエンシングプライマーとして配列番号6を用いてヌクレオチドシークエンシングを行うと、A.ライドラウィー(A.laidlawii)、M.アルギニニ(M.arginini)、M.サルバリウム(M.salivarium)、M.ホミニス(M.hominis)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)、およびM.ヒオリニス(M.hyorhinis)が同定できるようになる。
【0051】
III.ポリメラーゼ連鎖反応
本発明はいかなる種類の核酸増幅方法を使用しても実施することができる。
【0052】
いくつかの実施形態では、本発明の方法はポリメラーゼ連鎖反応を用いて実施される。基本レベルでは、PCRを含む本発明の方法は、細胞培養物に存在する標的マイコプラズマ核酸の少なくとも一部を増幅するステップと、次いで得られるアンプリコンの有無を検出するステップとを含む。場合によっては、PCRに続いて、得られるアンプリコンを検出および/または分析する(例えば、長さ、ゲル中で移動する能力などの物理的特徴を測定する、融解温度を測定する、ヌクレオチド配列を決定する等)ことができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、PCRは、アンプリコンの蓄積が「リアルタイム」で(すなわち、連続的に、例えば、増幅の完了後のみではなく、1サイクル当たり1回)モニターされる定量的PCRである。定量的増幅方法(例えば定量的PCRまたは定量的線形増幅)は、核酸鋳型の増幅を含み、直接または間接的に(例えば、Ct値を測定する)増幅DNA量を測定するステップと、次いで増幅のサイクル数に基づいて開始鋳型量を計算するステップとを含む。反応を用いるDNA座の増幅はよく知られている(米国特許第4,683,195号明細書および同第4,683,202号明細書;PCR PROTOCOLS:GUIDE TO METHODS AND APPLICATIONS(Innisら編、1990)を参照されたい)。典型的には、PCRはDNA鋳型を増幅するために使用される。しかしながら、増幅の別法が記載されており、その別法も、切断されたDNAよりもインタクトDNAを大規模に増幅するかぎり、使用することができる。定量的増幅の方法は、米国特許第6,180,349号明細書;同第6,033,854号明細書;および同第5,972,602号明細書、ならびに、例えば、Gibsonら、Genome Research 6:995〜1001(1996);DeGravesら、Biotechniques 34(1):106〜10、112〜5(2003);Deiman Bら、Mol Biotechnol.20(2):163〜79(2002)に記載されている。
【0054】
いくつかの実施形態では、定量的増幅は、増幅(例えばPCR)反応のサイクル中の鋳型のコピーを表わすシグナル(例えばプローブの蛍光)のモニタリングに基づいている。PCRの初期サイクルでは、形成されたアンプリコン量ではアッセイから測定可能なシグナル出力が得られないので、極めて低いシグナルしか観察されない。初期サイクルの後、形成されたアンプリコン量が増加するにつれて、シグナル強度が測定可能なレベルまで増大し、PCRが非対数期へ入る後期サイクルでプラトーに達する。シグナル強度対サイクル数のプロットにより、測定可能なシグナルがPCR反応から得られる特定のサイクルを推定でき、それをPCRのスタート前の標的量を逆算するために用いることができる。この方法により決定される特定のサイクル数は、一般にサイクル閾値(Ct)と呼ばれる。典型的な方法は、例えば、加水分解プローブに関しては、Heidら Genome Methods 6:986〜94(1996)に記載されている。
【0055】
増幅産物の検出のための方法の1つは、5’−3’エキソヌクレアーゼ「加水分解」PCRアッセイ(TaqMan(商標)アッセイとも呼ばれる)である(米国特許第5,210,015号明細書および同第5,487,972号明細書;Hollandら、PNAS USA 88:7276〜7280(1991);Leeら、Nucleic Acids Res.21:3761〜3766(1993))。このアッセイは、増幅反応の間に2重標識蛍光発生プローブ(「TaqMan(商標)プローブ)がハイブリダイゼーションし、かつ切断されることにより、特定のPCR産物の蓄積を検出するものである。蛍光発生プローブは、蛍光リポーター色素およびクエンチャー色素の両方で標識されたオリゴヌクレオチドからなる。PCRの間に、増幅されているセグメントにこのプローブがハイブリダイズする場合、かつその場合にのみ、このプローブはDNAポリメラーゼの5’−エキソヌクレアーゼ活性により切断される。プローブが切断されると、リポーター色素の蛍光強度の増大が生じる。
【0056】
エネルギー転移の利用に基づく増幅産物を検出する別の方法は、TyagiおよびKramer、Nature Biotech.14:303〜309(1996)に記載されている「ビーコンプローブ」の方法である。この方法は、米国特許第5,119,801号明細書および同第5,312,728号明細書の対象でもある。この方法では、ヘアピン構造を形成することができるオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブを使用する。ハイブリダイゼーションプローブの一方の末端(5’末端または3’末端のいずれか)にドナーフルオロフォアがあり、他方の末端にアクセプター部分がある。TyagiおよびKramerの方法の場合には、このアクセプター部分はクエンチャーである。すなわち、アクセプターは、ドナーにより放出されたエネルギーを吸収するが、その後、それ自体は蛍光を発しない。したがって、ビーコンが開いたコンフォメーションにある場合には、ドナーフルオロフォアの蛍光は検出可能であるが、ビーコンがヘアピン(閉じた)コンフォメーションにある場合には、ドナーフルオロフォアの蛍光はクエンチされる。PCRで使用された場合、ハイブリダイズしていない分子ビーコンプローブは、蛍光を発しないが、PCR産物の鎖の一方にハイブリダイズしていると、このプローブは開いたコンフォメーションにあり、蛍光が検出される(TyagiおよびKramer、Nature Biotechnol.14:303〜306(1996))。その結果、蛍光量はPCR産物量が増大するにつれて増大するため、PCRの進行の尺度として使用することができる。定量的増幅の他の方法もまた利用可能であることは、当業者であれば認識されよう。
【0057】
核酸の定量的増幅を行う様々な他の方法も知られている。例えば、いくつかの方法では、オリゴヌクレオチドが標的核酸にハイブリダイズしたときに蛍光変化が生じるように組み立てられた1つまたは複数のプローブオリゴヌクレオチドが使用される。例えば、このような方法の1つは、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を利用する二重フルオロフォアアプローチ、例えば2つのオリゴプローブがアンプリコンにアニールするLightCycler(商標)ハイブリダイゼーションプローブである。このオリゴヌクレオチドは、フルオロフォアが効率的なエネルギー転移に適した距離に分離した状態で、ヘッドトゥーテールの配向にてハイブリダイズするように設計されている。核酸に結合しているときまたは伸長産物に組み込まれているとき、シグナルを発するように組み立てられた標識オリゴヌクレオチドの他の例としては、Scorpions(商標)プローブ(例えば、Whitcombeら、Nature Biotechnology 17:804〜807、1999、および米国特許第6,326,145号明細書)、Sunrise(商標)(またはAmplifluor(商標))プローブ(例えば、Nazarenkoら、Nuc.Acids Res.25:2516〜2521、1997、および米国特許第6,117,635号明細書)、ならびにクエンチャーがなくともシグナルの減少を引き起こす二次構造を形成し、標的にハイブリダイズしたときに増強されたシグナルを発するプローブ(例えば、Luxプローブ(商標))が挙げられる。
【0058】
いくつかの実施形態では、PCR反応混合物は標識されたプローブオリゴヌクレオチドを含んでいない。例えば、リアルタイムまたはエンドポイントでのアンプリコンの蓄積をモニターするためのTaqmanまたは他の標識されたオリゴヌクレオチドプローブが反応混合物にはない。これらの実施形態の一部では、インターカレートする蛍光色素が含まれている。いくつかの実施形態では、インターカレートする色素は、シグナル鎖核酸よりも二本鎖核酸に結合しているときにシグナルを変化させる(増大または減少させる)。典型的な試剤としては、SYBR GREEN(商標)、SYBR GOLD(商標)、およびEVAGREEN(商標)が挙げられる。これらの試剤は鋳型に特異的ではないので、シグナルは鋳型特異的な増幅に基づいて生成されると仮定される。このことは、鋳型配列の融解点が一般には、例えばプライマー二量体よりも著しく高いので、温度の関数としてシグナルをモニターすることにより確認することができる。
【0059】
PCR反応のいくつかの成分はよく知られており、当業者により容易に決定することができる。特定の態様では、qPCRなどの増幅反応における効率を改善するために、添加物として追加の化合物を含むことが望ましい場合がある。例えば、特定の結合色素(一非限定例では、EvaGreen DNA結合色素)を含む調製物の中、または特定の増幅阻害物質の存在下で使用される場合に、エキソヌクレアーゼ活性を欠く本発明のポリメラーゼが特定の標的に対して低い効率を示す状況が起こり得る。そのような低い効率は、いくつかの実施形態では、低いDNA投入濃度と関係したCt値の遅延の結果である場合がある。特定の反応の効率を測定する方法は当技術分野で知られている。
【0060】
いくつかの実施形態では、効率を改善するために本発明の増幅反応にオスモライトが含まれることがある。例えば、参照により組込まれる国際公開第2010/080910号パンフレットを参照されたい。オスモライトファミリーのメンバーがタンパク質の熱安定性を改善すること(Santoro、Biochemistry、1992)、およびDNA二重らせんの安定性を減少させること(Chadalavada、FEBS Letters、1997)が示されてきた。本発明で使用するオスモライトには、サルコシン、トリメチルアミンN−オキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオナート、およびトリメチルグリシンが含まれるが、これらに限定されるものではない。サルコシンは、従来のPCR(Henke、Nucleic Acids Research、1997)を改善することが示されている化学物質であるベタインに化学的に類似している。
【0061】
オスモライトの従来の使用では、このような化合物の安定効果は比較的高い濃度(>1M)で一般に観察される。しかしながら、本発明の方法では、ミリモル濃度のオスモライトが、qPCRなどの増幅反応の反応効率を改善するために効果的であることが見出された。例えば、参照によって組み込まれる国際公開第2010/080910号パンフレットを参照されたい。作用機序に関係付けられるものではなく、効率のこの改善は低いDNA鋳型濃度を含有する反応に対するCt値の改善の結果である可能性がある。いくつかの実施形態では、約100〜約1000mM濃度のオスモライトが本発明の方法およびキットの中で使用される。またさらなる実施形態では、約50〜約700、約100〜約600、約150〜約500、約200〜約400mM濃度、または約300〜約350mM濃度のオスモライトが本発明の方法およびキットの中で使用される。いくつかの実施形態では、本発明の方法およびキットの中で使用されるオスモライトはサルコシンである。実際に、サルコシンの添加により、水を含む対照と比較して、増幅反応の効率が改善されたことが判明している。
【0062】
いくつかの実施形態では、特に低コピーの標的核酸の増幅においてまたは増幅阻害物質の存在下において、プライムされていない二本鎖核酸標的にポリメラーゼが結合することにより効率が低下する。二本鎖の標的にポリメラーゼが結合すると、それらの標的の変性、プライマーとのハイブリダイゼーション、および増幅反応が妨げられることになる。プライムされた鋳型に対するポリメラーゼの特異性を向上させるために、いくつかの実施形態では、本発明の方法およびキットはヘパリンを利用する。例えば、参照によって組み込まれる国際公開第2010/080910号明細書を参照されたい。負に荷電するヘパリン分子は、反応混合物中に含まれると、二本鎖核酸の静電的性質を模倣することができる。ヘパリンの添加は、作用機序に制限されることなく、一本鎖のプライムされた鋳型が利用できるようになるまで、過剰ポリメラーゼが二本鎖の鋳型に結合することを妨げることができる。いくつかの典型的な実施形態では、ヘパリンは、本発明の方法およびキットの中で約50〜約750pg/μlの濃度で使用される。さらに典型的な実施形態では、ヘパリンは、本発明の方法およびキットの中で約75〜約700、約100〜約600、約125〜約500、約150〜約400、約175〜約300、または約200〜約250pg/μlの濃度で使用される。
【0063】
IV.ポリメラ−ゼ
本発明に有用なDNAポリメラーゼは、DNA分子を複製することができる任意のポリメラーゼとすることができる。典型的なDNAポリメラーゼは耐熱性ポリメラーゼであり、それらはPCRに特に有用である。耐熱性ポリメラーゼは、サーマス・アクティカス(Thermus aquaticus)(Taq)、サーマス・ブロキアヌス(Thermus brockianus)(Tbr)、サーマス・フラバス(Thermus flavus)(Tfl)、サーマス・ルーバー(Thermus ruber)(Tru)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)(Tth)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)(Tli)、およびサーモコッカス(Thermococcus)属の他の種、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)(Tac)、サーモトガ・ネアポリタナ(Thermotoga neapolitana)(Tne)、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)(Tma)、サーモトガ(Thermotoga)属の他の種、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)(Pfu)、パイロコッカス・ヴェッセイ(Pyrococcus woesei)(Pwo)、およびパイロコッカス(Pyrococcus)属の他の種、バチルス・ステアロテルモフィルス(Bacillus sterothermophilus)(Bst)、スルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)(Sac)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)(Sso)、ピロディクティウム・オカルタム(Pyrodictium occultum)(Poc)、ピロディクティウム・アビシ(Pyrodictium abyssi)(Pab)、およびメタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)(Mth)、ならびにそれらの突然変異体、変異体、または誘導体など多種多様な好熱性細菌から単離されている。
【0064】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼ酵素は、ポリメラーゼドメインおよびDNA結合ドメインを含むハイブリッドポリメラーゼである。このようなハイブリッドポリメラーゼは向上した処理能力を示すことが知られている。例えば、米国特許出願公開第2006/005174号明細書;同第2004/0219558号明細書;同第2004/0214194号明細書;同第2004/0191825号明細書;同第2004/0081963号明細書;同第2004/0002076号明細書;同第2003/0162173号明細書;同第2003/0148330号明細書;同第2003/0138830号明細書、ならびに米国特許第6,627,424号明細書および同第7,445,898号明細書を参照されたい。これらの文献はそれぞれ、すべての目的のために、特にポリメラーゼ、ハイブリッド/キメラポリメラーゼに関係するすべての教示のために、またこのようなポリメラーゼを作製および使用するすべての方法のために、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれるものとする。
【0065】
一態様では、本発明は、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を欠くハイブリッドポリメラーゼを提供する。一実施形態では、このようなハイブリッドポリメラーゼは、このエキソヌクレアーゼ欠失を与える二重点変異をポリメラーゼドメイン中に含む。特定の実施形態では、本発明のハイブリッドポリメラーゼは、二重点変異D141A/E143Aをポリメラーゼドメイン中に含む。
【0066】
さらなる実施形態では、本発明のハイブリッドポリメラーゼは配列番号3のヌクレオチド配列によりコードされる。またさらなる実施形態では、本発明のハイブリッドポリメラーゼは、配列番号3に対して約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によりコードされる。
【0067】
さらなる実施形態では、本発明のハイブリッドポリメラーゼは配列番号4のアミノ酸配列を有する。またさらなる実施形態では、本発明のハイブリッドポリメラーゼは、配列番号4に対して約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、および99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明のハイブリッドポリメラーゼの結合ドメインは、耐熱性生物由来であり、高温、例えば45℃を超える温度で活性の上昇を示す。例えば、Sso7dおよびSac7dは、それぞれ超好熱性の古細菌(archaeabacteria)スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)およびS.アシドカルダリウス(S.acidocaldarius)に由来する小さい(約7kd MW)、塩基性の染色体タンパク質である(例えば、Choliら、Biochimica et Biophysica Acta 950:193〜203、1988;Baumannら、Structural Biol.1:808〜819、1994;およびGaoら、Nature Struc.Biol.5:782〜786、1998を参照されたい)。これらのタンパク質は配列非依存的にDNAに結合し、結合した場合、いくつかの条件下で最大40℃、DNAのTmを上昇させる(McAfeeら、Biochemistry 34:10063〜10077、1995)。これらのタンパク質およびそれらのホモログは、改良されたポリメラーゼ融合タンパク質の中で配列非特異的なDNA結合ドメインとして使用されることが多い。Sso7d、Sac7d、Sac7e、および関連配列(本明細書では「Sso7配列」または「Sso7ドメイン」と呼称する)は、当技術分野で知られている(例えば、受託番号(P39476(Sso7d)(配列番号25);P13123(Sac7d)(配列番号26);およびP13125(Sac7e)(配列番号27)。これらの配列は、典型的には、少なくとも75%以上、80%、85%、90%、または95%以上のアミノ酸配列同一性を有する。例えば、Sso7タンパク質は、典型的には、Sso7d配列に対して少なくとも75%の同一性を有する。
【0069】
さらなる実施形態では、本発明で使用するハイブリッドポリメラーゼは、例えば、米国特許出願公開第2006/005174号明細書;同第2004/0219558号明細書;同第2004/0214194号明細書;同第2004/0191825号明細書;同第2004/0081963号明細書;同第2004/0002076号明細書;同第2003/0162173号明細書;同第2003/0148330号明細書;同第2003/0138830号明細書、ならびに米国特許第6,627,424号明細書および同第7,445,898号明細書に記載されている。これらの文献はそれぞれ、すべての目的のために、特にポリメラーゼ、ハイブリッド/キメラポリメラーゼに関係するすべての教示のために、またこのようなポリメラーゼを作製および使用するすべての方法のために、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれるものとする。ハイブリッドポリメラーゼタンパク質の例およびハイブリッドタンパク質を生成する方法もまた、国際公開第2004011605号パンフレットの中に開示されている。この文献は、すべての目的のために、特にハイブリッドタンパク質の生成と関係するすべての教示のために、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれるものとする。
【0070】
V.試料調製
上述の説明および実施例にあるように、本発明の一態様では、標的マイコプラズマ核酸を、存在する場合に増幅させる前に、細胞培養物から核酸を精製する必要も、細胞培養物中に存在する阻害物質を除去する必要もない。したがって、本発明は、場合によっては哺乳類または他の非原核細胞を含有する細胞培養培地のアリコートを増幅反応に加え、マイコプラズマ核酸の存在に向けて増幅する態様を提供する。簡潔にいえば、特に、本明細書に記載のrpoBプライマーを使用する場合、かつ/あるいは安定化添加物(例えばオスモライトおよび/もしくはヘパリン)および/または異種のDNA結合ドメインを含むハイブリッドポリメラーゼを使用する場合、細胞培養培地のアリコートを増幅に直接使用することができるという点で試料調製の必要性はない。
【0071】
動物細胞のための典型的な非限定培養培地としては、DMEM、MEM、RPMI1640、またはIMDMが挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、細胞培地はウシ胎仔血清(fetal calf serum(FCS)またはfetal bovine serum(FBS))を含むことになる。細胞培養物中に見出されるいくつかの成分がいくつかのポリメラーゼに対して阻害的になる可能性がある。阻害因子として、例えば、ヘモグロビン、ラクトフェリン、および免疫グロブリン、ならびに例えば細胞片、細胞老廃物(例えば多糖またはタンパク質)を挙げることができる。
【0072】
VI.キット
本発明はまた、例えば、細胞培養中の可能なマイコプラズマ汚染を検出するためのキットを提供する。キットは、場合によっては、書面の説明書または電子説明書(例えばCD−ROMまたはDVD上)を含むことができる。いくつかの実施形態では、本発明のキットは、キットの中に試薬を保持するためのケースまたは容器を含むことになる。これらは別々にまたは一緒に含むことができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明のキットは、
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)を含む(またはこれからなる)第1のプライマー(すなわちプライマーの縮重混合物)、ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表わす;
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)を含む(またはこれからなる)第2のプライマー(すなわちプライマーの縮重混合物)、ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表わす;
ポリメラーゼ(本明細書に記載のハイブリッドポリメラーゼを含むが、これらに限定されない);
インターカレートする蛍光色素;
配列番号1または配列番号2によりプライムされ、ポリメラーゼにより増幅することができるポリヌクレオチドを含む陽性対照ポリヌクレオチド;ならびに/または
オスモライトおよび/もしくはヘパリン
の1つまたは複数を含むことになる。
【0074】
いくつかの実施形態では、本キットは、酵素活性用に好適な緩衝液(例えば、好適なようにCa++、Mg++、および/またはMn++を含むかまたは除外する)をさらに含む。いくつかの実施形態では、本キットはヌクレオチド(デオキシヌクレオチドもしくはジデオキシヌクレオチドまたはそれらのアナログを含むが、これらに限定されない)をさらに含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、本キットは陰性対照をさらに含む。いくつかの実施形態では、陰性対照はマイコプラズマDNAを含まない、水または組織培養培地である。
【実施例】
【0076】
以下の実施例は説明のために提供するものであり、クレームされた発明を限定するものではない。
【0077】
PCRの主要な欠点の1つは、臨床試料および組織培養試料の中に存在するPCR阻害物質に影響を受けやすく、そのため偽陰性結果が得られることである(Rossen,L.ら(1992)Int J Food Microbiol、17、37〜45;Wilson,I.G.(1997)Appl Environ Microbiol、63、3741〜3751;Razin,S.(1994)Mol Cell Probes、8、497〜511)。血液に由来するいくつかの阻害成分が、ヘモグロビン(Al−Soud,W.A.およびRadstrom,P.(2001)J Clin Microbiol、39、485〜493)、ラクトフェリン(Al−Soud,W.A.およびRadstrom,P.(2001)J Clin Microbiol、39、485〜493)、ならびに免疫グロブリン(Al−Soud,W.A.ら(2000)J Clin Microbiol、38、345〜350)を含めて同定されてきたが、これらはすべて、ほとんどのFBS調製物の中に存在する。さらに、細胞片、様々なタンパク質、および多糖も、PCR反応を阻害することが記載された(Harasawa,R.ら(2005)Microbiol Immunol、49、859〜863;Wilson,I.G.(1997)Appl Environ Microbiol、63、3741〜3751)。したがって、PCRプロトコルは、PCRの前にマイコプラズマ由来のゲノムDNAを精製する試料調製ステップを一般に含んでいる。試料調製ステップは時間がかかるだけでなく、試料の損失および間違いの原因にもなる。
【0078】
PCR阻害物質に対して高い耐性を有する酵素を生成するために、配列選択性を示さないSso7dのdsDNA−結合タンパク質63アミノ酸を含有する新しいポリメラーゼが設計されている(Wang,Y.、米国特許出願公開第2004/0081963号明細書;Wang,Y.ら、米国特許出願公開第2004/0002076号明細書;Vander Horn,P.B.ら、米国特許出願公開第2004/0219558号明細書)。Sso7dは、ポリメラーゼに対して、複製されたDNAの副溝上にスライディンググリップを与えて、触媒活性または酵素安定性を損なわずに、処理能力を劇的に高める。この酵素は、EvaGreen色素を含有する特定の緩衝液調製物と組み合わせると、PCR阻害物質に対する高い耐性だけでなく、短い反応時間および長いPCR産物を合成する能力を実現する強力な研究ツールになる。
【0079】
ここで、本発明人らは、DNA標的として単一コピー遺伝子を用いて、組織培養試料中のマイコプラズマ汚染を検出する新しいリアルタイムPCRアッセイを記載する。本発明人らは、rpoB遺伝子中の保存配列を標的にするプライマーを設計してきており、これらのプライマーにより8種の一般的なマイコプラズマ種を特異的に検出することが可能である。本発明人らのデータにより、SsoFast EvaGreen Supermixに基づいたrpoB PCRは、PCR阻害物質による妨害を最小限にまたは無くして、組織培養上清中のマイコプラズマを検出することを可能にすることが実証される。このアッセイは、様々な一般的な培地調製物および最終濃度10%のFBSに抵抗性である。細胞由来の馴化培地による阻害は見出されなかった。本発明人らのアッセイの感度は1遺伝子コピーと6遺伝子コピーとの間である。このアッセイはマイコプラズマに特異的であり、他の一般的な組織培養汚染を試験する場合に、交差反応性は観察されなかった。最後に、本発明人らは、粗組織培養試料中のマイコプラズマを信頼性高く検出するためのリアルタイムPCRアッセイを、Lonza社製のマイコアラート(mycoalert)キットを標準として用いて、検証した。
【0080】
材料および方法
以下の種に由来するゲノムDNAをATCCから購入した。A.ライドラウィー(A.laidlawii)(23206D);M.オラーレ(M.orale)(23714D);M.アルギニニ(M.arginini)(23838D);M.ファーメンタンス(M.fermentans)(19989D);M.ホミニス(M.hominis)、株PG21(23114D));M.ピルム(M.pirum)(25960D);M.ヒオリニス(M.hyorhinis)(17981D);カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(10231D−5);ラクトバチルス・カゼイ(lactobacillus casei)(334D);バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)(23857D)。M.サルバリウム(M.salivarium)(NCTC010113)のゲノムDNAはMinerva BioLabsから購入した。Iscoves培地はATCC、FBSはHyclone、EGM2はLonza、およびEsgro completeはChemicon、L15はSigmaから購入した。RPMI、Neurobasal培地、DMEM、DMEM/F12、F12K、KSFM、OPTIMEM、MEM、およびMEM ALPHAは、Gibcoから入手した。すべての培地(KSF、Neurobasal、ESGRO complete、OPTIMEM以外)に10%のFBSを添加した。汚染および非感染の培養細胞株を、様々な共同研究者から入手した。プライマーはIDTから入手した。プライマーの配列は次のとおりである。順方向プライマー5’−GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG−3’;逆方向プライマー5’−CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG−3’。リアルタイムPCR反応は、Bio−Rad CFX96リアルタイムPCR検出システム上で容量20μl中にて、SsoFast EvaGreen Supermix(Bio−Rad)、指定の鋳型、および最終濃度0.5マイクロモルのプライマーを用いて、以下の条件下で実施した。最初の変性:94℃、3分、および94℃、10秒、58℃、30秒、72℃、30秒の40サイクル。データはCFXデータマネージャーソフトウェアを用いて分析した。
【0081】
マイコアラートマイコプラズマ検出キットはLonzaから入手し、製造業者の推奨に従って使用した。ルミネセンスの記録はBio−Rad社製のLumimark上で行った。
【0082】
結果
リアルタイムPCRのための汎用rpoBプライマーの設計
rpoB遺伝子は、従来のPCRにより細胞培養物中のマイコプラズマ汚染を検出するためにこれまで述べられてきた(Kong、H.ら(2007)Appl Microbiol Biotechnol、77、223〜232)。リアルタイムPCRに適したプライマーを設計するために、マイコプラズマ8種(M.ピルム(M.pirum)、A.ライドラウィー(A.laidlawii);M.アルギニニ(M.arginini);M.オラーレ(M.orale);M.サルバリウム(M.salivarium);M.ホミニス(M.hominis);M.ファーメンタンス(M.fermentans);M.ヒオリニス(M.hyorhinis))の配列を、Accelrysにより開発されたソフトウェアを用いてアライメントした。細胞培養汚染に見出される最も一般的な8種を検出するために、400〜600bpにわたる2つの保存領域をプライマー結合部位として選択し、保存性が低い様々な位置に混合塩基を用いた(図1)。
【0083】
プライマーが8種すべてを検出できることを確認するために、一般的なマイコプラズマ8種を用いてPCR反応を行った。ゲノムDNA 20pg、rpoBプライマー、およびSsoFast EvaGreen Supermixを用いてリアルタイム−PCRをセットアップした。PCR反応の後、DNAフラグメントをアガロースゲル電気泳動により分析した。図2Aに示すように、rpoBプライマーにより、試験したマイコプラズマ種すべての検出がサイクル22と27との間で可能になった。融解ピーク温度は77.5と80.5℃との間であった。配列アラインメントから予測されるように、PCR産物の大きさは、M.ピルム(M.pirum)については600bp、他のすべての種については400bpであった(図2B)。要約すると、これらのデータから、rpoBプライマーは最も一般的なマイコプラズマの特異的検出に適していることが示された。
【0084】
本発明人らは、他の様々な種に対するプライマーの交差反応性を試験した。組織培養細胞は培地へDNAを放出する可能性があるので、組織培養細胞の一般的な供給源であるヒト、マウス、およびラットのゲノムDNAを試験した。本発明人らはまた、系統発生的に関連する細菌(ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis))および一般的な非マイコプラズマの組織培養汚染物質(大腸菌(E.coli)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans))を試験した。様々な種に由来するゲノムDNA 1ngを、EvaGreen supermixと共にrpoBプライマーを用いるPCRに供した。図2Cに示すように、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来のゲノムDNAのみがPCR増幅を引き起こした。ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)のゲノムDNAに対する検出限界は約10pgであった(データを示さず)。これは約3×10細菌/mlに相当し、他の手段、例えば顕微鏡観察によっても、古典的細菌汚染として明らかになるものである。したがって、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)汚染がマイコプラズマ汚染として間違えられる可能性は極めて少ない。他のDNA鋳型では特異的シグナルは生じなかった。これらのデータより、rpoBプライマーは、汚染された細胞培養物中で見出される最も一般的なマイコプラズマ8種の特異的な検出に適していることが示された。
【0085】
PCRの感度
マイコプラズマ種の間でrpoB遺伝子の配列に相違があるため、PCRアッセイの感度によっては種の間に様々な検出限界が生み出される可能性がある。アッセイの感度を調べるために、本発明人らは、代表的なマイコプラズマ2種に対する検出限界を測定した。A.ライドラウィー(A.laidlawii)のrpoB遺伝子の配列は、保存性が低くかつ本発明人らのプライマーとミスマッチを示し(図1B、ラベルL)、他の種よりも遅いCt値を生じさせた(図2A、円を伴う線)ので、A.ライドラウィー(A.laidlawii)を選択した。M.ファーメンタンス由来のrpoB遺伝子のDNA配列(図1B、ラベルF)は、プライマー配列とほぼ同一であり、本発明人らの方法では早いCtで検出された。(図2A、クロスを伴う線)。アッセイがこれら2種に対して成功する範囲を決定するために、ゲノムDNAの10倍の系列希釈(100pg〜1fg)を、rpoB PCRアッセイに供した。保存性が低い種であるA.ライドラウィー(A.laidlawii)に対しては、10fgが検出限界であり(図3A)、これは、ゲノムサイズを1497kb(NC_010163.1)とすれば、約6コピーのゲノムに相当する。M.ファーメンタンス(M.fermentans)由来のゲノムDNAを鋳型として用いた場合は(図3B)、1245bpのゲノムサイズに基づいて、約1コピーに相当する、1fgのゲノムDNAが検出された(Schaeverbeke,T.ら(1998)J Clin Microbiol、36、1226〜1231)。極めて低いコピー数の評価は、コピー数を決定するために、Ctよりもむしろ、数多くの複製の中で成功した増幅の数を用いるアプローチ(Sykes,P.J.ら(1992)Biotechniques、13、444〜449)のようなデジタルPCRによって行うのが最善である。この方法では、鋳型分子のポアソン分布が仮定され、単コピー反応の66%のみが標的を含有し、したがって増幅し、1未満のコピーを有するものはそれより少ないことに相当する(Sykes,P.J.ら(1992)Biotechniques、13、444〜449)。単コピーの検出を確認するために、本発明人らは、鋳型としてM.ファーメンタンス(M.fermentans)ゲノムDNA 1fgを用いて75の複製試料を増幅した。rpoBアンプリコンは、反応の53%で増幅に成功し、これは0.8のゲノム当量に基づいた予測と一致する(データを示さず)。したがって、本発明人らの方法は、高感度であり、PCR反応当たり約1〜6のゲノムコピーを検出することができる。
【0086】
PCR阻害物質に対する抵抗性
SsoFast EvaGreen Supermixの有用な特性の1つは、血液または血清などの粗試料中に存在するPCR阻害物質に対するその抵抗性である。本発明人らは、FBSを含む様々な細胞培養培地の存在下でSsoFast EvaGreen Supermixの性能を試験した。培地は10%の最終濃度でリアルタイムPCR反応に含めた。このmixの性能特性を試験するために、本発明人らは、マイコプラズマ感染試料に由来する精製されたゲノムDNAをPCRのための鋳型として用いた。表1に示すように、精製されたDNA単独の増幅から、平均27のCtが得られた。様々な培地調製物をPCR反応に加えた場合は、本発明人らはCtのわずかな遅延(0.5Ct未満)を観察した。FBSのみが、ほぼ1Ctの遅延を示した。これらのデータより、SsoFast EvaGreen Supermixは、様々な組織培養培地の存在下で、また10%のFBS(最終濃度)の存在下で極めて効率的なPCR増幅を生み出すことが示される。

【0087】
培地成分だけでなく細胞片および過剰量のDNA(アポトーシス細胞由来)もまた、PCR阻害を引き起こす可能性があることが示唆されてきた(Kong,H.ら(2007)Appl Microbiol Biotechnol、77、223〜232;Harasawa,R.ら(2005)Microbiol Immunol、49、859〜863)。この仮定を試験するために、加齢しコンフルエントを超えた細胞培養物に由来する馴化培地がPCRを阻害するかどうかを検討した。表2に示すように、様々なタイプの馴化培地を加えると、わずかなCt遅延のみ(1Ct未満)が起こり、したがって、SsoFast EvaGreen Supermixを用いて実施するPCR反応では、PCR阻害物質の存在による影響は最小限であることが示された。

【0088】
最後に、本発明人らは、事前に試料調製をしていない粗試料中のマイコプラズマ検出に関してリアルタイムPCRアッセイの性能を試験した。Lonza社製の市販のマイコプラズマ検出キットを用いて、本発明人らは様々な細胞培養上清試料をスクリーニングし、10の汚染試料および10の非汚染試料を同定した(データを示さず)。本発明人らは、本発明人らのリアルタイムPCRアッセイで培地対照および非鋳型対照と共にそれらの試料を試験した。細胞培養上清は、全く試料調製をせずにPCRに直接供した。本発明人らは、10の感染試料すべてでマイコプラズマを検出することができたが(実線、図4A)、非感染試料は特異的増幅を引き起こさなかった(円を伴う線)。陽性試料については、21と34との間のCt値および78.5と79℃との間の融解ピークが得られたが(表3)、非感染試料および対照試料では、Ctは39を超えていた(特異的融解ピークはなし)。

【0089】
考察
マイコプラズマは組織培養において誤った結果に導く恐れのある深刻な問題である。容易に判断することができる典型的な細菌または真菌の汚染物質と異なり、マイコプラズマ汚染は特異的な試験なしでは容易に検出できないため、検出されないままになることが簡単に起こり得る。したがって、定期的な試験が、強く推奨されるが、現在の試験方法が有する問題のために、試験を常に行うわけにはいかない。本発明人らは、ここで、細胞培養上清中のマイコプラズマを検出するための新規のリアルタイムPCRアッセイを提示する。本発明人らのプロトコルの主な利点は、改善された特異性および感度、広範囲な試料調製の回避、HT試料スループット、簡単な反応セットアップ、および速度である。これらの利点によりマイコプラズマ汚染の試験がはるかに実用的なものになる。
【0090】
マイコプラズマのリアルタイムPCR検出用のいくつかのプロトコルが文献に記載されているが、それらの大部分はリボソームDNA配列の検出に基づいている(Ishikawa,Y.ら(2006)In Vitro Cell Dev Biol Anim、42、63〜69;Harasawa,R.ら(2005)Microbiol Immunol、49、859〜863;Schmitt,M.およびPawlita,M.(2009 Nucleic Acids Res.)。それらの遺伝子の主な欠点は、その高い保存性により、そのプライマーがマイコプラズマに特異的ではなく、しかも系統発生的に関連する他の細菌を検出する恐れもあるということである(Tang,J.ら(2000)J Microbiol Methods、39、121〜126;Eldering,J.A.ら(2004)Biologicals、32、183〜193)。非標的種を検出しない特異的プローブを組み込むことによりPCR反応の特異性を改善することは可能である(Schmitt,M.およびPawlita,M.(2009)Nucleic Acids Res.;Promokine)。しかし、このアプローチでは、材料費が高くなる。
【0091】
種交差反応性を回避するために、保存性が低い他のマイコプラズマ遺伝子がPCR検出のために用いられてきた。Stormerらは、広範囲プライマーおよびマイコプラズマ特異的プローブを用いて、tuf遺伝子の増幅のためのアッセイを開発した(Stormer,M.ら(2009)Int J Med Microbiol、299、291〜300)。そのアッセイは、33の細菌および真菌の種と交差反応性を示さないが、2つの一般的な細胞培養汚染物質(Tang,J.ら(2000)J Microbiol Methods、39、121〜126;Timenetsky、J.ら(2006)Braz J Med Biol Res、39、907〜914)である、マイコプラズマ種のM.アルギニニ(M.arginini)およびM.ピルム(M. pirum)の検出に関するデータはない(Stormer,M.ら(2009)Int J Med Microbiol、299、291〜300)。本発明人らの実験によると、tufプライマーではこれら2つの種は検出されなかった(データを示さず)。本発明人らは、Stormerが提示したアッセイはマイコプラズマに高度に特異的であり、臨床関連のモリクト綱(Mollicutes)の種を検出するために十分最適化されたものであるが、細胞培養中の一般的なマイコプラズマ種すべてを試験するには十分でないと考えている。
【0092】
別のアプローチとして、rpoB遺伝子の領域を標的とする、リアルタイムPCRに適したプライマーを本発明人らは設計した。このプライマーにより、少なくとも8種の一般的なマイコプラズマ種が特異的に検出できるようになった(図2A、B)。試験したマイコプラズマ8種すべてと関連非標的細菌で唯一のラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)のゲノムDNAが増幅することを本発明人らは観察した。これにより、これらのプライマーがマイコプラズマ種の間を幅広くカバーする優れた特異性を併せ持つことが示唆される(図2)。
【0093】
rpoBアッセイの感度は、検出する種に応じて、反応当たり約1〜6のゲノムコピーであると判定された(図3)。典型的なマイコプラズマ感染培養物は、10〜10コロニー形成単位/mlを含有している(Wirth,M.ら(1994)Cytotechnology、16、67〜77)。したがって、この方法には弱感染の培養物でも十分検出できる感度がある。
【0094】
最も一般的な8種の等量ゲノムDNAを試験したとき、最初と最後に検出された種の間で5Ctの相違を本発明人らは観察した。このことは、最も一般的な8種のプライマー結合部位用に選択したrpoB配列の相同性が完全ではなく、その結果、様々な標的の間でプライマー結合およびPCR増幅効率に相違が生じた事実により説明することができる。別の可能な説明は、異なる2社のベンダーから入手したゲノムDNAの出発原料の質および量における相違である。
【0095】
本発明人らの方法では検出の前に試料調製の必要がないことをここで示す。FBSならびに細胞片および細胞老廃物を含有する馴化培地を含む最も一般的な培地調製物を本発明人らは試験した。試験した培地のいずれも1Ctを超える遅延をもたらさないことを本発明人らは見出し、本発明人らのPCRアッセイはPCR阻害物質に対して高度に抵抗性であることが示された(表1−2)。試料調製ステップの省略により、いくつかの利点が得られる。DNA精製は労働力を必要とする作業である。本発明人らの方法ではこれは最早必要ないので、多数の試料を同時に処理することができる。試料調製ステップの省略により、試料の損失および間違いが起こる機会がほとんどなくなるので、アッセイの質も改善される。本発明人らの方法は、迅速で、反応のセットアップが容易であるので、魅力的でもある。極めてわずかなハンドリング時間と共に2時間未満で結果を得ることができるため、試験による研究室資源の消費はもはや大きくない。
【0096】
実際の試料でrpoBアッセイの有効性を試験するために、市販の生化学的マイコプラズマ試験キット(Mariotti,E.ら(2008)Leuk Res、32、323〜326)により同定された10の感染および10の非感染培養物セットを本発明人らは調べた。rpoBアッセイにより、20の細胞培養試料すべてに関して市販のキットと同じ結果が得られ(図4、表3)、本発明人らの方法がマイコプラズマ感染試料の定期的な試験に適していることが示唆された。生化学をベースとするキットは未接種培地の試料を陽性と同定したが、本発明人らのrpoBアッセイはそうではなかったため(データを示さず)、本発明人らの結果は、1つの対照試料に関してのみ、そのキットと異なっていた。生化学的方法の既知の欠点の1つは、偽陽性が生じることである(Sykes,P.J.ら(1992)Biotechniques、13、444〜449)。これは、この試験が研究室環境中にかなり豊富にあるATPの検出に基づいているという事実による可能性がある。
【0097】
まとめると、本発明人らはここに、研究室の定期的な試験に適した、マイコプラズマ感染の伝播を防止するための簡単なマイコプラズマ検出方法を示す。
【0098】
本明細書に記載の実施例および実施形態は説明のみを目的とするものであり、それらに照らして、様々な修正または変更が、当業者に示唆されるであろうが、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の中に含まれるべきものであることは理解されよう。本明細書に引用されたすべての出版物、特許、および特許出願は、すべての目的のためにそれらの全体が参照によって本明細書に組み込まれるものとする。
非公式配列表
配列番号1
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG
配列番号2
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG
配列番号3

配列番号4

配列番号5
TGC ATT TTG TCA TCA ACC ATG TG
配列番号6
CCT TCA CGT ATG AAC AT
配列番号7
M ピルム(M pirum)
順方向
GAAGATATGCCGCATTTAGAAGATGGC
配列番号8
M ピルム(M pirum)
逆方向
CAACAACCATTGGGTGGTAAATCACAAAATGGT
配列番号9
A.ライドラウィー(A.laidlawii)
順方向
GAAGATATGCCATATTTAGCAGATGGA
配列番号10
A.ライドラウィー(A.laidlawii)
逆方向
CAACAACCAATGGGTGGTAAAGCTCAAAACGGT
配列番号11
M.アルギニニ(M.arginini)
順方向
GAAGAAATGCCATACTTAGAAGATGGA
配列番号12
M.アルギニニ(M.arginini)
逆方向
CAACAACCACTTGGTGGTAAATCACAAAATGGT
配列番号13
M.オラーレ(M.orale)
順方向
GAAGAAATGCCTTATTTAGAAGATGGT
配列番号14
M.オラーレ(M.orale)
逆方向
CAACAACCTCTTGGTGGTAAAAGTCAAAACGGT
配列番号15
M.サルバリウム(M.salivarium)
順方向
GAAGATATGCCTTATTTAGAAGATGGA
配列番号16
M.サルバリウム(M.salivarium)
逆方向
CAACAACCACTTGGTGGAAAGAGTCAAAATGGT
配列番号17
M.ホミニス(M.hominis)
順方向
GAAGAAATGCCTTATTTAGCAGATGGA
配列番号18
M.ホミニス(M.hominis)
逆方向
CAACAACCACTTGGTGGAAAGAGTCAAAATGGT
配列番号19
M.ファーメンタンス(M.fermentans)
順方向
GAAGATATGCCTTATTTAGAAGATGGT
配列番号20
M.ファーメンタンス(M.fermentans)
逆方向
CAACAACCTCTTGGAGGTAAGAGTCAAAACGGT
配列番号21
M.ヒオリニス(M.hyorhinis)
順方向
GAAGATATGCCATTTTTAGAAGATGGA
配列番号22
M.ヒオリニス(M.hyorhinis)
逆方向
CAACAACCACTTGGAGGAAAAAGTCAAAACGGT
配列番号23
図1順方向コンセンサス
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG
配列番号24
図1逆方向コンセンサス
CAACAACCACTKGGTGGWAARAGTCAAAAYGG

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養培地中のマイコプラズマを検出する方法であって、
細胞培養培地のアリコートを得るステップと、
前記アリコート中のマイコプラズマ核酸を、存在する場合に増幅するために熱安定性DNAポリメラーゼを用いてリアルタイム核酸増幅反応を実施するステップであって、
前記アリコート中の核酸がさらに精製されることがなく、
前記増幅反応が、二本鎖DNAの存在下で蛍光シグナルを生成する、
インターカレートする蛍光色素を含むステップと、
前記増幅反応の増幅産物の融解温度を検出するステップであって、前記増幅産物の存在が、前記細胞培養中のマイコプラズマの存在を示すステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記増幅反応がマイコプラズマ・アルギニニ(Mycoplasma arginini)、M.ピルム(M.pirum)、M.ホミニス(M.hominis)、M.ファーメンタンス(M.fermentans)、M.サルバリウム(M.salivarium)、M.オラーレ(M.orale)、M.ヒオリニス(M.hyorhinis)、およびアコレプラズマ・ライドラウィー(Acholeplasma laidlawii)のいずれでも、前記アリコート中に存在する場合に増幅することができることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記マイコプラズマ核酸が、少なくとも50ヌクレオチドのrpoB遺伝子部分を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記実施ステップが、以下の縮重プライマー:
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)、
を用いて、前記部分を増幅することを含み、
ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表わす
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記反応が、1つの順方向プライマーおよび1つの逆方向プライマー以外のプライマーを含有しないことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記検出ステップが、前記増幅産物をヌクレオチドシークエンシングするステップと、決定したヌクレオチド配列を様々なマイコプラズマ種のヌクレオチド配列と関連づけることにより、前記マイコプラズマを同定するステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記増幅反応が、検出可能に標識されたオリゴヌクレオチドを含まないことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記ポリメラーゼが、配列非特異的DNA結合ドメインに連結されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記配列非特異的DNA結合ドメインが、Sso7DNA結合ドメインであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記アリコートが、Taqポリメラーゼの活性を少なくとも10%阻害するために十分量の増幅阻害物質を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記阻害物質が、細胞片、細胞老廃物(例えば多糖またはタンパク質)、およびウシ胎児血清またはその増幅阻害物質成分からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、前記増幅反応が、前記増幅反応の効率を改善するために十分量のオスモライトおよび/またはヘパリンを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記オスモライトが、サルコシン、トリメチルアミンN−オキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオナート、およびトリメチルグリシンからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
細胞培養培地中のマイコプラズマを検出する方法であって、
細胞培養培地のアリコートを得るステップと、
前記アリコート中のマイコプラズマ核酸を、存在する場合に増幅するためにDNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施するステップであって、
(a)前記実施ステップが第1および第2のプライマーを用いて前記部分を増幅することを含み、前記第1のプライマーが次の縮重配列:
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)
を含み、かつ前記第2のプライマーが次の縮重配列:
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)
を含み、
ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表し、
(b)前記増幅反応の増幅産物の有無を検出し、増幅産物の存在が細胞培養物中のマイコプラズマの存在を示すステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記増幅反応が、リアルタイムでモニターされることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記増幅反応が、二本鎖DNAの存在下で、一本鎖DNAのみの存在下で生成する蛍光シグナルの少なくとも2倍の蛍光シグナルを生成するインターカレートする蛍光色素を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法において、前記第1および第2のプライマーが、それぞれ以下の縮重配列:
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)
からなることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法において、前記アリコート中の核酸がさらに精製されないことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項14に記載の方法において、前記反応が、rpoB遺伝子にハイブリダイズするように設計された、1つの順方向プライマーおよび1つの逆方向プライマー以外のプライマーを含有しないことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項14に記載の方法において、前記検出ステップが、前記増幅産物をヌクレオチドシークエンシングするステップと、決定したヌクレオチド配列を様々なマイコプラズマ種のヌクレオチド配列と関連づけることにより、前記マイコプラズマを同定するステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項14に記載の方法において、前記増幅反応が、検出可能に標識されたオリゴヌクレオチドを含まないことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項14に記載の方法において、前記ポリメラーゼが、配列非特異的DNA結合ドメインに連結されることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、配列非特異的DNA結合ドメインが、SsoDNA結合ドメインであることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項14に記載の方法において、前記増幅反応が、前記増幅反応の効率を改善するために十分量のオスモライトおよび/またはヘパリンを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記オスモライトが、サルコシン、トリメチルアミンN−オキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオナート、およびトリメチルグリシンからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項26】
細胞培養培地からのマイコプラズマDNAを、存在する場合に増幅するためのキットであって、
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)を含む第1の縮重プライマー、および
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)を含む第2の縮重プライマー
を含み、
ここで、WはAまたはTを表し、YはCまたはTを表し、RはAまたはGを表し、MはAまたはCを表す
ことを特徴とするキット。
【請求項27】
請求項26に記載のキットにおいて、前記第1のプライマーが、
GAAGAWATGCCWTATTTAGAAGATGG(配列番号1)からなり、
前記第2のプライマーが、
CCRTTTTGACTYTTWCCACCMAGTGGTTGTTG(配列番号2)
からなることを特徴とするキット。
【請求項28】
請求項26に記載のキットにおいて、
ポリメラーゼ;
インターカレートする蛍光色素;
配列番号1または配列番号2によりプライムされる、ポリメラーゼにより増幅可能なポリヌクレオチドを含む陽性対照ポリヌクレオチド
の少なくとも1つまたは複数をさらに含むことを特徴とするキット。
【請求項29】
請求項26〜28のいずれか1項に記載のキットにおいて、前記キットが、マイコプラズマrpoB遺伝子の少なくとも50の連続したヌクレオチドを含む核酸を含む陽性対照試料をさらに含むことを特徴とするキット。
【請求項30】
請求項26に記載のキットにおいて、オスモライトおよび/またはヘパリンをさらに含むことを特徴とするキット。
【請求項31】
請求項30に記載のキットにおいて、前記オスモライトが、サルコシン、トリメチルアミンN−オキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオナート、およびトリメチルグリシンからなる群から選択されることを特徴とするキット。
【請求項32】
請求項28に記載のキットにおいて、前記ポリメラーゼが、配列非特異的DNA結合ドメインに連結されることを特徴とするキット。
【請求項33】
請求項32に記載のキットにおいて、前記配列非特異的DNA結合ドメインが、Sso7DNA結合ドメインであることを特徴とするキット。

【図1】
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【図2A−1】
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【図2A−2】
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【図2A−3】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A−1】
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【図3A−2】
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【図3B−1】
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【図3B−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公表番号】特表2013−515458(P2013−515458A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537100(P2012−537100)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/054658
【国際公開番号】WO2011/059802
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(502416811)バイオ−ラッド ラボラトリーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】