説明

細胞療法戦略を用いた慢性神経組織損傷の治療方法

製薬上許容される液体に懸濁させた接着骨髄幹細胞を含む組成物を、損傷部位での軸索再生またはミエリン再形成を生じさせるために有効な量で、損傷部位またはその近傍に投与することによる、神経組織または脳の変性または外傷性損傷を治療する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、外傷性または変性の神経または脳の損傷を治療するために接着骨髄細胞集団の治療上有効な量を患者に投与することによる細胞療法の細胞、組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
末梢神経および/または脊髄(SCI)の外傷性または変性の損傷を含む神経および脳の損傷は、依然として治癒的療法がないままである。例えばSCIについては、脊髄の軽い打撲傷であっても大量の神経細胞およびグリア細胞の損失、脱髄(demyelination)、キャビテーション(cavitation)、およびグリア性瘢痕をもたらしうる。このような病変は、知覚の損失、末梢運動まひ、および重度の機能障害の原因となる有害な機能的影響を有し、最終的な結果は、軸索温存(axonal sparing)、ミエリン再形成およびおそらくは神経再生に依存する。また、同様の影響が、特にアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、多系統変性症、小脳変性症などを含む多くの神経変性障害とともに観察された。したがって、損傷を受けた組織を修復または再生し、最終的にこのような組織および失われた機能的影響を回復するための1以上の戦略が望まれている。
【0003】
提案されている戦略のひとつは、患部を治療する目的で多能性細胞または幹細胞を使用することである。特に骨髄間質細胞は、幹細胞の特性の多くを有し、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、さらに筋芽細胞に分化することが示されたため、このような目的には魅力的な候補である。したがって、患者における損傷した神経または脳組織の再生において、これらの細胞の使用の可能性がある。
【0004】
主な難しさのひとつは、骨髄細胞型は相対的にまれであり、識別が難しいことである。そのため、現在の研究の多くは、興味のある特定の細胞型を単離し、神経細胞分化を達成するための方法論を探索することを中心としてきた。例えば、米国特許出願公開第2007/0031387号には、骨髄細胞集団内の顆粒球からの単核細胞の単離が開示されている。また、米国特許第7,098,027号では、密度勾配遠心分離法を用いて、すなわち、1.07〜1.08g/mlの範囲の比重を有する細胞を単離することによって、単核細胞を単離している。2つの場合のいずれも、単離された単核細胞は、髄損傷または他の神経障害の治療のための投与が検討されている。
【0005】
細胞の単離以上に、インビトロ環境での投与の前またはインビボの投与の後に、BM細胞を分化させる多くの試みがなされてきた。例えば、米国特許第5,197,985号には、成熟骨髄(BM)細胞を用いて間葉組織および神経外胚葉組織を再生する方法が記載されている。細胞分化は、リン酸三カルシウムもしくはヒドロキシアパタイトまたはこれら2つの組み合わせの多孔質セラミック組成物を、骨格異常に移植されると細胞の骨格組織への分化を促進する骨髄由来の間葉細胞のビヒクルまたは担体として用いて達成される。
【0006】
米国特許第6,528,245号には、細胞をプラスチックの培地でインキュベートし、プラスチックに接着した間質細胞を除去することによって、骨髄細胞集団中の骨髄間質細胞を特異的に選択する方法が開示されている。次いで、これらの細胞は、レチノイン酸、増殖因子、および胎児の神経細胞の存在下でインビトロで分化され、神経変性障害の治療のために投与される。米国特許出願公開第2006/0275272号には、同様に、このような目的に用いる骨髄間質細胞を単離および培養することによる処理方法が示されている。最後に、米国特許第7,279,331号には、骨髄間質細胞を単離し、次いでこれを抗酸化剤および/またはさまざまな増殖因子を用いて神経細胞中にインビトロで予備分化させる、同様の方法が示されている。
【0007】
米国特許出願公開第2006/0029580号には、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)および上皮細胞増殖因子(EGF)を添加した培養液中で骨髄細胞をインキュベートすることによって、神経前駆細胞を発生させる方法がさらに示されている。次いで、前駆細胞は神経病理学的状態を示す患者に投与されうる。
【0008】
BM細胞の他に、胎盤または他の出産後組織に由来する細胞もまた、神経再生の目的で検討されている。米国特許出願公開第2006/0147426号は、出産後の多分化能誘導性細胞を単離する細胞培養条件に関する。このような培養条件は、細胞外マトリックス基材、酸素圧、増殖因子およびビタミン、細胞密度または細胞の共培養を含む。米国特許出願公開第2005/0032209号には、分娩後由来細胞を用いて神経組織を再生または修復するための方法および組成物が示されている。これらの細胞は、胎盤または臍帯組織に由来し、5%酸素環境でL−バリン培地上で成長する。
【0009】
上記は、骨髄細胞および同様の多能性細胞型が間葉細胞へ分化しうることの明確な証拠を提示し、さらに、これらの細胞型を神経または脳組織の外傷性または変性損傷の治療(損傷した軸索組織のミエリン再形成または再生など)に適用することの実現可能性および期待を示した。しかしながら、上記で提案された方法論を考慮しても、より断定できる細胞分化のための他の細胞集団および新規な戦略が必要である。加えて、現在神経細胞移植の広範囲な用途を制限している多くの倫理的および技術的制約を回避する必要がある。
【0010】
本発明は、その実施形態および実施例を通してこれらの必要性に対処する。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明は、外傷性または変性の神経または脳の損傷を治療するために、骨髄細胞集団から単離された接着骨髄細胞の治療上有効な量を患者に投与することを含む、細胞療法の細胞、組成物、および方法に関する。本明細書中に記載されるように、本発明は、接着骨髄細胞(ABMC)が、神経前駆細胞型、ミエリン形成細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、成熟神経細胞、有髄軸索などに分化しうる、および/またはこれらを生成させうることを見出したことに基づく。より具体的には、驚くべきことに、単離されたABMCがSCIなどの神経損傷を受けた哺乳類の損傷に導入されると、前記細胞は損傷部位で損傷を受けた神経組織のミエリン再形成および軸索再生の両方をもたらすことを見出した。運動協調の改善および/または標的の神経変性状態の低減もまた、特に理学療法と組み合わせた場合、観察された。
【0012】
したがって、本発明の一形態によれば、製薬上許容される液体に懸濁させた接着骨髄幹細胞を含む組成物を、損傷部位で軸索再生またはミエリン再形成を生じさせるために有効な量で、損傷部位またはその近傍に投与することによる、神経組織または脳の変性または外傷性損傷を治療する方法が提供される。本発明の形態の一実施形態によれば、前記損傷は脳または脊髄の損傷であり、前記骨髄幹細胞は、前記損傷部位またはその近傍に、腰椎穿刺を通してくも膜下注射によって脳脊髄液に投与される。本発明の他の実施形態によれば、前記損傷は末梢神経の損傷であり、前記骨髄幹細胞は、超音波ガイド下局所送達によって末梢神経根に投与される。
【0013】
本発明の他の実施形態によれば、前記接着骨髄幹細胞は、前記損傷部位で軸索再生およびミエリン再形成の両方を生じさせる。本発明の他の実施形態によれば、前記骨髄幹細胞は、臍帯血または骨髄穿刺液に由来する。
【0014】
治療上有効な量の細胞が、神経または脳の損傷を治療するために患者に投与される。一実施形態においては、治療上有効な量は、損傷部位で損傷を受けた神経組織のミエリン再形成および/または軸索再生を生じさせるために、または損傷を受けた神経または脳の組織を修復するために必要な細胞の量を意味する。そして、これは運動協調の改善および/または標的の神経変性状態の低減を促進しうる。治療上有効な投与量は、約10〜約10ABMC/kgである。以下に例示するように、非制限的な実施形態においては、治療上有効な投与量は約2×10ABMC/kgである。
【0015】
このような治療上有効な投与量は、1回の投与または複数回の累積投与として患者に提供され、ABMCの作用または分化に悪影響を与えないかぎり、1以上の製薬上許容される添加剤をさらに含みうる。一実施形態においては、前記骨髄幹細胞の累積投与量は、2回以上の注射で定期的に投与される。より具体的な実施形態においては、前記定期的な注射は月1回行われる。
【0016】
ABMCの単離された亜集団は、多分化能(multilineage differentiation potential)、特に神経分化の指標となる、1以上の分化抗原群(cluster of differentiation、CD)細胞表面マーカーに対して陽性である。本発明の一実施形態によれば、前記骨髄幹細胞は、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166およびCD271から選択される1以上のマーカーに対して陽性である細胞を含む。より具体的な実施形態によれば、前記骨髄幹細胞は、マーカーCD34、CD38およびCD45に対して陰性である。これらのマーカーの存在(または不在)は、本明細書中で説明する1以上の手順または当業者に公知の他の方法を用いて確認することができる。
【0017】
以下で例示する他の実施形態においては、ABMCは、1以上のミエリン形成細胞、アストロサイト前駆細胞、アストロサイト、神経前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、オリゴデンドロサイト細胞、有髄軸索、成熟神経細胞などの生成を含む、またはもたらす。そのため、新たに形成された細胞は、特に制限されないが、NF70、ネスチン(Nestin)、PDGFR、GFAPまたはTuJlなどの細胞型に関連する1以上のマーカーに対して陽性であることがわかった。
【0018】
本発明において、骨髄幹細胞を含む生体試料は、はじめに、本明細書中に記載されるように当業者に公知の標準的な方法を用いて、例えば臍帯血または骨髄穿刺液から得られる。次いで、ABMCの亜集団は、本発明の方法を用いて単離される。
【0019】
したがって、本発明の他の形態によれば、以下の段階を含む、脊椎動物における神経組織または脳の変性または外傷性損傷を治療する方法が提供される:
(a)ポリ−L−リシン被覆基板上で、骨髄幹細胞の層が前記基板に接着するように、成熟骨髄幹細胞を含む生体試料を培養する;
(b)前記基板から非接着細胞を洗浄し、前記骨髄幹細胞の層を収集する;
(c)接着骨髄幹細胞を製薬上許容される液体に懸濁させる;および
(d)前記骨髄幹細胞の懸濁液を、損傷部位で軸索再生またはミエリン再形成を生じさせるために有効な量で、前記損傷部位の近傍に投与する。
【0020】
一実施形態においては、前記培養段階は2〜72時間行われ、さらなる実施形態においては、その時間は約72時間である。他の実施形態においては、インキュベーション後、1または複数の洗浄段階を用いて被覆基板を洗い流すことによって非接着細胞を除去する。その後、接着細胞をポリ−L−リシン被覆基板から取り外す。
【0021】
次いで、ABMCは、当該分野で理解されている任意の投与形態を用いて、患者の損傷部位またはその近傍に投与される。非制限的な一実施形態においては、ABMCは損傷部位またはその近傍への直接注射用に製剤されうる。そのため、前記細胞は、生理食塩水、蒸留水、髄液または他の製薬上許容される液体の1以上を含みうる、滅菌溶液中に懸濁されうる。脊髄損傷の治療のためには、投与はくも膜下注射によって行われる。投与形態の他の実施形態は、本明細書中にさらに提供される、または、当業者によって理解される他の形態である。
【0022】
本発明のABMCおよび組成物は、脊髄または末梢神経の損傷での軸索再生およびミエリン再形成への寄与において有益である。これらは、さらに、損傷を受けた神経または脳の組織の修復に有益である。脊髄損傷、すなわち、運動まひまたは感覚消失を有する患者については、ABMC移植は、特に理学療法による機能訓練と組み合わせた場合、軸索再生およびミエリン再形成の促進ならびに修復の誘導に効果的である。皮質脊髄路線維の再生もまた観察され、機能改善と一致した。また、ABMCは、線維性瘢痕組織に新たな神経細胞経路を生成することによって、または、発芽もしくは生成している短い再生した神経細胞線維を増殖させることによって、宿主神経組織を支持する神経栄養因子および抗炎症性メディエータを生成した。
【0023】
当業者であれば、本明細書中に与えられた教示および例示に基づいて本発明のさらなる利点を理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、イヌの重度SCIモデルにおけるABMC細胞療法後16週での組織病理学的所見を示す。(A)H&Eで染色した対照群のイヌの損傷した脊髄の中心点(epicenter)であり、著しい空孔形成(挿入)およびグリア性瘢痕を示す。(B)自己(autologous)ABMCで治療した群Bのイヌの損傷した脊髄の中心点であり、ミエリン再形成およびキャビテーションが少ないことを示す。(C)キャビティ領域の定量分析であり、自己ABMCで治療したイヌにおけるキャビティの有意な減少を示す。(D〜F)損傷を受けていないイヌの無傷の脊髄(D)、対照SCIのイヌ(E)、および自己ABMCで治療したイヌ(F)のミエリン塩基性タンパク質免疫染色。(G)自己ABMCで治療した後のイヌにおける、ミエリン塩基性タンパク質染色の無傷のイヌの正常レベル近くまでの回復。(H)ベースライン、ならびにSCI後1、4、8、12および16週でのイヌの運動(locomotor)スコアであり、自己ABMCで治療したイヌにおいては移植後わずか4週間で有意な改善を示している。(I)対照と比較した、自己ABMCで治療したイヌの後肢運動の向上。
【図2】図2は、自己ABMCで治療したイヌからのSCI切片の多色免疫蛍光染色を示す。(A)脊髄損傷の断面であり、自己ABMCで治療したイヌからの切片においてのみ観察された、脊髄の狭間(矢印)をつなぐ秩序立った組織を示す。セクションは、核マーカーであるDAPI(青)、移植されたABMCのマーカーであるGFP(緑)および神経細胞マーカーであるNF70(赤)の明視野像および蛍光像の低出力を重ねたものである。GFP発現は、灰白質および白質の両方において広範囲にわたり、神経根を囲んでいる。脊髄の灰白質中の正方形の領域1は、共局在化したGFPおよびNF70染色を示す。前皮質脊髄路の断面の正方形の領域2は、GFP発現(右)の高倍率、およびNF70と共局在化したGFPを有する軸索を示す。スケールバーは200μmである。(B)中心点からの距離によるGFP陽性細胞の分布。(C〜F)前皮質脊髄路の断面であり、GFPおよびNF70の免疫活性(immunoreactivity)を示す。(C)前皮質脊髄路であり、共局在化したGFPおよびNF70を示し、GFP細胞誘導体のかなりの神経細胞分化を示す。(D)Cにおける切片を明視野像に重ねた写真である。(E)構造的NF70発現(挿入)を有するGFP陽性ミエリン再形成軸索を示す高倍率写真である。(F)Eにおける切片を明視野像に重ねた写真である。(G)共局在化したGFPおよびネスチン染色。(H)共局在化したGFPおよびPDGFR染色、挿入部は正方形の領域の拡大を示す。(I)共局在化したGFPおよびGFAP染色、挿入部は正方形の領域の拡大を示す。挿入部の矢印はGFP陽性軸索を示し、くさび形はGFP発現のない軸索を示す。(J)中心管付近の灰白質の領域における共局在化したGFPおよびGRM1、GAD、A2B5およびAE染色。すべての切片においてDAPIを核染色に用いた。A中のスケールバーは200μmであり、DおよびF中のスケールバーは10μmである。
【図3】図3は、慢性完全脊髄損傷患者におけるABMCの自己(autologous)くも膜下移植の研究設計を示す。図は、登録、試験対象患者基準、および追跡基準を示す。
【図4】図4は、自己ABMC移植後18か月に測定した、慢性SCI患者の回復を示す。(A)対照と比較した、自己ABMCで治療した患者の神経レベル(neurological level)の向上。対照患者は、胸部神経レベルが胸部1〜12(T1〜T12)レベルのままであったが、自己ABMCで治療した患者は、最大S5までの腰部および仙骨の神経レベルを得た。(B)対照と比較した、治療した患者におけるASIAスコア(左軸)およびASIAスケール(右軸)の変化。3人の対照患者は、18か月後のASIAスコアがその患者のベースラインスコアよりも低かったが、細胞療法で治療した患者は、改善されたスコアを示した。(C)自己ABMC移植の前および12か月後のMRI像(頸部SCIの患者6)であり、C6〜C7レベルの脊髄の圧迫および浮腫を示すが、治療1年後の像は最小のグリオーシスを有する治癒された領域を示した。
【図5】図5は、イヌのABMCの3能性および神経誘導を示す。(A)72時間後に単離し、ギムザ染色したイヌの接着BM細胞(ABMC)。挿入部は細胞の高出力像を示す。(B)GFPを用いて95%の効率でトランスフェクトされたイヌのABMC(この視野のすべての細胞はGFPに対して陽性である)。(C)1週間後のcABMCの神経細胞誘導であり、神経形態(neuronal morphology)(上部の挿入)および神経球(下部の挿入)を示す。(D)脂肪細胞が誘導されオイルレッドで染色されたcABMC。(E)Von Kossa染色(上部の挿入)およびアルカリホスファターゼ染色(下部の挿入)での骨細胞分化。(F)組織培養プレート中(上部の挿入)、または管状3D培地中(下部の挿入)のコンドロイチン硫酸凝集体(矢印)としての軟骨細胞が誘導されたcABMCのアルシアンブルー染色。(G〜I)神経分化が誘導され、ネスチンで染色されたcABMCの明視野およびGFP像。
【図6】図6は、72時間後に単離されたヒト接着BM細胞(ABMC)であり、脂肪細胞、骨細胞、および軟骨細胞への3血球系分化転換、ならびに神経球誘導および神経分化の多能性を示す。(A)脂肪細胞分化が誘導されたhABMCのオイルレッド染色。(B)アルカリホスファターゼ染色での骨細胞分化。(C)軟骨細胞が誘導されたhABMCのアルシアンブルー染色。(D〜F)4日後のhABMCの神経細胞誘導であり、神経形態を示す。(G〜I)1週間後の神経球生成からの神経細胞の誘導。
【図7】図7は、神経分化の72時間後に単離されたヒトの接着BM細胞(ABMC)を表す。(A)誘導前のhABMCの明視野像。(B)GFPを用いてトランスフェクトされたhABMC。(C)hABMCにおけるネスチンの発現。(D)4日後のhABMCの神経細胞誘導であり、神経形態を示す。(E)Dにおける同じ神経細胞がNF70を発現する。(F)Dにおける同じ神経細胞がTuJlを発現する。(G)神経誘導後のアストロサイト様の形態およびPDGFR発現(挿入)。(H)誘導されたhABMCにおけるTuJlの発現(上部の挿入は高倍率を示す)、一方下部の挿入は長い樹状突起(dendrite)を有するTuJl陽性細胞を示す。(I)継代(passage)0(P0)でのhABMCにおける、継代6の後の同じ患者からの細胞と比較した、ネスチン、PDGFR、およびTuJl細胞の百分率。A中のスケールバーは20mmであり、DおよびF中のスケールバーは10mmである。
【図8】図8は、対照およびABMC移植の16週での皮質脊髄路切片の免疫蛍光染色を示す。(A〜D)対照のイヌからの皮質脊髄路切片。(E〜H)自己ABMCで治療したイヌからの皮質脊髄路切片。(A)外側皮質脊髄路の明視野切片。(B)核マーカーであるDAPI(青)、GFP(緑)、およびNF70(赤)神経細胞マーカーの蛍光像。GFPの発現は検出されなかったが、弱いNF−70の発現が検出された。(C)前皮質脊髄路の明視野。(D)DAPI、GFPおよびNF−70で染色した、Cにおける前皮質脊髄路の蛍光像。(E)対照のイヌからの外側皮質脊髄路。(F)外側皮質脊髄路の蛍光切片であり、共局在化したGFPおよびNF−70を示す。(G)Eにおける明視野にFにおける蛍光像を重ねた写真である。(H)G中の正方形の高倍率であり、共局在化したNF70発現(黄色)を有する、GFP陽性ミエリン再形成軸索を示す。スケールバーは100μmである。
【図9】図9は、GFPおよびPDGFRに対して陽性であるBM誘導細胞が中心管を囲み、脊髄内の小血管に関連することを表す。(A)核マーカーDAPI(青)、移植されたイヌのABMCのマーカーであるGFP(緑)、およびPDGFR(赤)マーカーの蛍光像。像の左下でDAPI核は中心管に並ぶ。(B)蛍光像を明視野像に重ねたものであり、GFP陽性軸索および脊髄小血管を示す。スケールバーは50μmである。
【図10】図10は、対照のイヌにおけるSCIの切片の電子顕微鏡像を表し、著しい空孔形成、および切片の1%未満を再構成する最小の軸索温存を示す。(A)対照のイヌのSCIの低出力視野における著しい空孔形成および単一の温存された軸索。(B)正常ミエリン形成を有する温存された軸索。(C)神経膠瘢痕を有するミエリン形成細胞。(D)過剰の空孔形成およびミエリン形成細胞を囲む瘢痕であり、ミエリン再形成の証拠はない。(E)Dの高出力像。スケールバーは1μmである。
【図11】図11は、広範囲の軸索再生を示す、ABMCで治療したSCIのイヌの切片の電子顕微鏡像を表す。(A)再生した軸索は、直径がより小さく、複数の軸索は多核ミエリン形成細胞を伴い、側部(lateral)ミエリン形成を示唆する。SCIの対照のイヌの低出力視野における限定的な空孔形成および単一の温存された軸索。(B)厚い周縁を有するミエリン再形成軸索。(C)より大きいミエリン再形成軸索を囲む、複数の小さい軸索。(D)複数の軸索を引きつけるミエリン形成細胞。(E)多小葉性(multilobular)核を有するミエリン形成細胞。(F)多核の大きいミエリン形成細胞および周囲の基底膜。スケールバーは1μmである。
【図12】図12は、イヌにおけるMSCで治療したSCIの切片のFISH分析を示し、イヌの35番染色体プローブで標識され、融合の証拠を示さない、正常2倍体細胞(矢印)を表す。(A)DAPI染色核であり、赤色標識プローブで染色された2倍体の35番染色体(矢印)を示す。(B)35番染色体赤色プローブで染色された、GFP陽性細胞中の2倍体核の高倍率。
【図13】図13は、ABMCで治療した患者および対照患者の後脛骨筋において記録された、運動誘発電位反応を示す(それぞれの群から1人の患者からの代表的な記録)。(A)均一な活動を示す対照患者の記録。(B)治療後1年で記録を行った、ABMCで治療した患者。ABMCで治療した患者における回復は、後脛骨筋について記録された、20〜30msecの潜伏時間を有する電気的に誘発された反応から明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、神経または脳の外傷性または変性損傷を治療するために、骨髄細胞集団から単離された接着骨髄細胞の治療上有効な量を患者に投与することを含む、細胞療法の細胞、組成物、および方法に関する。本明細書中に記載されるように、本発明は、接着骨髄細胞(ABMC)が、神経前駆細胞型、ミエリン形成細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、成熟神経細胞、有髄軸索などに分化しうる、またはこれらを生成させうることを見出したことに基づく。より具体的には、驚くべきことに、単離されたABMCが、例えばSCIなどの神経損傷を受けた哺乳類に導入されると、正味の効果は、損傷部位での、損傷を受けた神経組織のミエリン再形成および軸索再生であることを見出した。これは、運動協調の改善および/または標的の神経変性状態の低減をさらにもたらすことが、特に理学療法と組み合わせた場合に観察された。
【0026】
本発明の骨髄細胞集団は、公知の任意の方法で得られうる。一実施形態においては、前記骨髄細胞集団は、骨に挿入した針を通して骨髄液および細胞を取り除くことによって吸引されうる。骨髄穿刺は、腸骨稜において行われうるが、この部位に制限されず、穿刺または骨髄細胞を得る他の方法において公知の任意の他の身体の部位で行われうる。特定の実施形態においては、骨髄細胞は罹患患者から同系細胞で(autologously)得られる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、骨髄細胞集団はまた、特に制限されないが、骨髄バンク(または同様のソースまたは患者の非血縁者由来の骨髄)、血縁者からの骨髄、または任意の他の胎児でない動物のソースからの骨髄、臍帯血、脂肪組織、体液、または公知の任意の他のソースなどの、患者に免疫学的に適合する、当業者に公知に任意の他のソースから得られうる。
【0027】
そのソースにかかわらず、骨髄細胞は穿刺液から公知の標準的な方法を用いて単離される。非制限的な一実施形態においては、骨髄穿刺液は、例えばRPMI−1640などの緩衝製剤を用いて希釈され、Ficoll−Plaque Plus(商標)(アマシャムバイオサイエンス)などの細胞分離培地の存在下で遠心分離される。上澄みが除去され、ペレットの細胞は再懸濁され、多能性細胞の維持のための標準的な培地を用いて維持される。非制限的な例において、このような培地としては、低グルコース含有量であり、FBS、L−グルタミン、少なくとも1つの広域スペクトル抗生物質およびCOが添加されたDMEMが挙げられる。他の培地型もまた他の公知のものとして用いられうる。
【0028】
この骨髄細胞の集団から、次にABMCの亜集団が単離される。非制限的な一実施形態においては、ABMCは、細胞をポリ−L−リシン被覆基板上で培養することによって、培養液中の細胞を増殖することなく単離される。そのため、細胞は、ポリ−L−リシンで被覆したディッシュ、フラスコ、バッグ、または多能性細胞の培養のための当業者に公知の他の同様の材料の上に懸濁されうる。非制限的な一実施形態においては、前記細胞は約2.0×10細胞/cmの密度で懸濁される。被覆した基板は、例えば、L−グルタミン含有α−MEM、1以上の広域抗生物質、およびFBSなどの当業者に公知の骨髄細胞生存用の任意の標準的な培地をさらに含みうる。
【0029】
骨髄細胞集団は、接着骨髄細胞を非接着骨髄細胞から分離するのに有効な時間、ポリ−−L−リシン被覆基板上でインキュベートされる。一実施形態においては、このような有効な時間は2〜72時間である。さらなる実施形態においては、前記有効な時間は約72時間である。
【0030】
インキュベーションの後、1または複数の洗浄段階を用いて被覆基板を洗い流すことによって、非接着細胞を除去する。任意の公知の洗浄剤が前記洗浄段階で用いられてもよく、特に制限されないが、生理食塩水、PBS、FBS、dHO、培地、または公知の同様の洗浄剤が挙げられる。特定の実施形態においては、前記細胞は3回洗い流され、非接着細胞が除去される。
【0031】
洗浄後、接着細胞は公知の方法を用いてポリ−L−リシン基板から外される。例えば、一実施形態においては、単離されたABMCは、Accutase存在下で前記基板をインキュベートすることによってポリ−L−リシン被覆基板から外される。特定の実施形態においては、細胞をAccutaseを用いた37℃で5分間のインキュベーションによってリフトする。しかしながら、本発明はこれに制限されず、接着細胞をリフトする同様の方法、または当該分野で理解されている他の方法もまた考えられる。
【0032】
さらなる実施形態においては、AMBCの亜集団はまた、2009年10月16日に出願され、その内容が参照により本明細書中に組み込まれる、米国特許仮出願第61/252,389号に開示された1以上の方法を用いて単離されうる。
【0033】
ABMCの単離された亜集団内の細胞は、多分化能、特に神経分化の指標となる、1以上の分化抗原群(CD)細胞表面マーカーに対して陽性である。このようなマーカーは、特に制限されないが、以下のCD44、CD73、CD90、CD105、CD166およびCD271の1以上から構成されうる。特定の実施形態においては、本発明のAMBCは、CD14、CD34、CD38およびCD45の発現を示さない。これらのCD細胞表面マーカーの存在または不在は、当業者に公知の1以上の手順によって同定されうる。一実施形態において、このような手順としては、2〜72時間のインキュベーションの後のフローサイトメトリーが挙げられる。細胞表面マーカーの同定のための公知の一般的なイムノアッセイもまた用いることができ、当業者に公知である。そのため、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体との両方がアッセイに用いられうる。ここで、当業者に知られているように、酵素結合免疫吸着法(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)などの適当な他のイムノアッセイも用いられうる。適用できるイムノアッセイは、特許文献および学術文献に広範囲に記載されている。例えば、米国特許第3,791,932号;第3,839,153号;第3,850,752号;第3,850,578号;第3,853,987号;第3,867,517号;第3,879,262号;第3,901,654号;第3,935,074号;第3,984,533号;第3,996,345号;第4,034,074号;第4,098,876号;第4,879,219号;第5,011,771号および第5,281,521号、加えて、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor,N.Y(1989)を参照。
【0034】
投与前に、ABMCは、分化を生じさせる環境条件および/または培地への曝露を最小にするまたは完全に避ける、最初に単離された形態から最小限に操作されていることが好ましい。別の方法では、しかしながら、本発明はこのような形態に制限されない。特定の実施形態においては、ABMCのサブセットの全体は、神経系列に予備分化されていてもよい。非制限的な例においては、ABMCのサブセットの全体は、投与の直前に、公知の神経細胞誘導培地上で、約1〜3日インキュベートされうる。このような培地としては、特に制限されないが、2%のDMSOおよび1mMのホルスコリンを含むDMEM/F12が挙げられる。
【0035】
本発明のABMCは、患者の損傷を受けた部位に、または近似的に当該部位に投与されうる。細胞投与形態は、治療する損傷/疾患の型、哺乳類の年齢、細胞が分化しているかどうか、細胞がこれに導入された異種DNAを有するかどうか、などを含むいくつかの因子に依存して変動しうる。脊髄組織に細胞を投与する例は、本明細書の実験的な実施例の欄に記載されている。この例では、細胞は、哺乳類の脳脊髄液に、脊髄損傷部位の近傍にくも膜下(intrathecally)導入される。そのため、細胞は患者の損傷部位またはその近傍での脳脊髄液への腰椎穿刺を通して、くも膜下注射のような直接注射によって所望の部位に導入されうる。
【0036】
しかしながら、本発明は必ずしもくも膜下注射またはこのような方法論に限定されない。手根管症候群に関連する正中神経損傷など、神経損傷が末梢神経の損傷である他の実施形態においては、前記細胞は、超音波ガイド下局所送達によって末梢神経根に投与されうる。前記細胞はまた、公知の1以上の方法を用いて、損傷部位近傍または損傷と同じ身体領域内に投与し、損傷部位に侵出(infuse)させることができる。例えば、脳の部位への投与については、細胞をくも膜下に、または本明細書中の1以上の方法を用いて投与し、脳の損傷を受けた組織に侵出させてもよい。
【0037】
必要に応じて、前記細胞は、例えばペプチドまたは他の生物剤などの血液脳関門を越える輸送を促進する1以上の添付群を備えうる。再び、上記の方法は本発明を制限するものではなく、前記細胞は、前記細胞が安全におよび確実に浸出されうるかぎり、任意の方法によって、例えば、特に制限されないが、経脈管、脳内、非経口、腹腔内、静脈内、硬膜外、髄腔内、胸骨内、関節内、腱滑液鞘内、脳内、動脈内、心臓内、または筋肉内で宿主に投与されうる。上述の任意の形態または他の公知の同様の形態を用いた本発明の細胞の移植もまた、本明細書中に提供される技術または他の公知の方法を用いて達成されうる。
【0038】
ABMCは、一般に、生理食塩水、蒸留水、髄液などの懸濁液の形態の組成物として移植に用いられる。一実施形態においては、例えば、前記組成物は、約150mlの生理食塩水に懸濁したABMCからなる。再び、本発明は必ずしもこの組成物に限定されず、ABMCはまた、PBSなどの適当な緩衝液または製薬上許容される液体の範囲の他の緩衝液の懸濁液として、投与に適した組成物に製剤されうる。ABMCはまた、生理食塩水中で低温保存して、使用前に上記の溶媒に懸濁させることによって再構成してもよい。ABMCの単離および保存、ならびに組成物の調製の方法は、細胞移植に関する当業者に公知である。このようなABMCの組成物は、ABMCを患者から同系細胞で(autologously)得ることが困難な場合に有用である。
【0039】
本明細書中に記載されるように、治療上有効な量の細胞が、外傷性または変性の神経または脳の損傷を治療するために患者に投与される。一実施形態においては、治療上有効な量は、損傷部位での損傷を受けた神経組織のミエリン再形成および/または軸索再生を生じさせるために、または損傷を受けた神経または脳の組織を修復するために必要な細胞の量を意味する。そして、これは運動協調の改善および/または標的の神経変性状態の低減を促進しうる。非制限的な一実施形態においては、約10〜10AMBC/患者の体重kgが治療上有効な量として患者に投与される。さらなる実施形態においては、以下の実施例で例示するように、治療上有効な投与量は、約2×10ABMC/患者の体重kgでありうる。
【0040】
本発明のABMC含有組成物は、神経または脳の損傷を有する患者に、損傷後できるだけ早く投与されうる。しかしながら、以下の実施例に示すように、当業者は、治療の時期などは一般に医師によって決定され、必ずしも本発明に制限されないことを理解するであろう。そのため、患者の状態および他の因子に応じて、後の段階で治療を受けてもよい。
【0041】
治療上有効な投与量は、1回の投与で、または複数回の投与で、患者に提供されうる。後者の場合には、前記治療上有効な量を、2〜8回の別個の投与など、複数回の投与に分けてもよい。このような投与は、複数日の期間にわたって続けて行ってもよく、毎日、週1回、月1回などで受ける離散的な投与として行ってもよい。再び、当業者は、治療の時期および/または投与の回数は、一般に医師によって決定され、必ずしも本発明に制限されないことを理解するであろう。
【0042】
前記ABMCの組成物は、ABMCの作用または分化に悪影響を与えないかぎり、任意の製薬上許容される添加剤をさらに含みうる。例えば、患者が外因性のソースから取得したABMCを用いて治療される場合、1以上の公知の免疫抑制剤があらかじめ投与されうる。免疫抑制剤は、特に制限されないが、シクロスポリン、タクロリムス水和物(FK506)、シクロホスファミド、アザチオプリン、ミゾリビン、およびメトトレキセートなどの、骨髄または器官移植に一般に用いられるものから選択されうる。免疫抑制剤の投与量は、薬剤の種類、投与するABMCの由来、患者の耐性などを考慮して適切に決定されうる。
【0043】
本発明は、脊髄の損傷部位での軸索再生およびミエリン再形成、または他の神経もしくは脳の損傷を受けた部位(例えば、末梢神経損傷、脳損傷など)の修復への寄与において有益である。脊髄損傷、すなわち運動まひまたは感覚消失を有する患者については、ABMC移植は、特に理学療法による機能訓練と組み合わせた場合、軸索再生およびミエリン再形成の促進に有効であり、SCI後の修復を誘導する。以下に例示するように、ABMCは、1以上のミエリン形成細胞、アストロサイト前駆細胞、アストロサイト、神経前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、オリゴデンドロサイト細胞、有髄軸索、成熟神経細胞などの生成を含む、またはもたらす。そのため、新たに形成された細胞は、特に制限されないが、NF70、ネスチン、PDGFR、GFAPまたはTuJlなどの細胞型に関連する1以上のマーカーに対して陽性であることがわかった。皮質脊髄路線維の再生もまた観察され、機能改善と一致した。
【0044】
理論に拘束されることを意図するものではないが、軸索再生が、直接的に、または中心管(central canal)周辺の上衣領域におけるシュワン細胞または脊髄組織幹細胞中で成熟する、脳神経堤(neural crest)からの神経前駆細胞の採用を通して、主な役割を担う可能性があると推測される。以下の例示においては、この領域は、共局在化した脊髄常在(spinal cord resident)前駆細胞マーカーとともに、最も多くの数のABMC誘導細胞がみられた領域であった。ABMCはまた、線維性瘢痕組織に新たな神経細胞経路を生成することによって、または、発芽もしくは生成している短い再生した神経細胞線維を増殖させることによって、宿主脊髄組織を支持する神経栄養因子および抗炎症性メディエータを生成する。さらに、ABMCは、神経組織の遠位端および近位端との結合のためのガイダンス(誘導)を提供し、移植された細胞の再生を促進しうる。
【0045】
脊髄および末梢神経の損傷ならびに脳の損傷は、必ずしも物理的な損傷に制限されず、疾患状態ともまた関連しうる。したがって、ABMCの使用は、神経変性疾患状態の治療における使用もまた検討されうる。例えば、新生児から小児では、前記細胞は、特に制限されないが、テイーサックス病および関連するサンドホフ病、フルラー症候群および関連するムコ多糖症、ならびにクラッベ病を含む多くの遺伝病の治療に用いられうる。CNSの成人病については、本発明の細胞は、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、てんかんなどの治療に有用である。他の神経変性疾患としては、特に制限されないが、AIDSによる認知症;多発性硬化症および急性トランスフェラーゼ脊髄炎などの脱髄疾患;皮質脊髄系の病変などの錯体外路疾患および小脳疾患;大脳基底核障害または小脳疾患;ハンチントン舞踏病および老年性舞踏病などの多動性運動障害;運動低下性運動障害;進行性核上麻痺;小脳の構造的病変;脊髄性運動失調症、フリードライヒ運動失調症、小脳皮質変性症などの脊髄小脳変性症;多系統変性症(Mencel病、デジェリーヌ−トーマス病、シャイ−ドレーガー病およびマシャド−ジョセフ病);レフサム病、無βリポタンパク血症、運動失調、毛細血管拡張症などの全身性疾患;およびミトコンドリア多系統疾患;および神経原性筋委縮症などの運動単位の障害;中年のダウン症候群;びまん性レヴィー小体病;レヴィ小体型老年性認知症;ウェルニッケ−コルサコフ症候群;クロイツフェルト−ヤコブ病;亜急性硬化性全脳炎、ハレルフォルデン−スパッツ病;および拳闘家認知症などが挙げられる。例えば、当該参照文献およびこれに引用された参照文献が全体として参照により本明細書中に組み込まれる、Berkow et.al.,(eds.)(1987),The Merck Manual,(15th edition),Merck and Co.,Rahway,N.J.を参照。
【実施例】
【0046】
以下の非制限的な実施例によって、本発明の一形態を説明する。
【0047】
実施例
材料および方法
イヌ接着BM細胞(cABMC)の単離および培養
動物の飼育および処置のすべての形態は、NIHガイドラインおよび動物愛護委員会のガイドラインに従って行った。ABMCは、成犬の大腿骨から単離した。簡潔には、低密度単核細胞をFicoll−Plaque Plus(アマシャムバイオサイエンス)を用いて単離し、2mg/mlのL−グルタミン(Gibco)および0.3%ペニシリンストレプトマイシン(Gibco)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)−低グルコースに、37℃で5%CO濃度で維持した。ABMCは、Pittenger,M.F.Mutlilineage Potential of Adult Human Mesenchymal Stem Cells Science 284,143−7(1999).に記載されているように、フローサイトメトリーを行って純度を決定した。インビトロのGFP標識は、pCMV−AcGFPプラスミドにリポフェクタミンを2:1の比で混合したものを各プレートに添加することによって行い、移植前に37℃で6時間インキュベートした。
【0048】
ヒトABMC(hABMC)の単離および培養
ヒトABMCは、SCI患者の腸骨稜からの骨髄穿刺液を用いて単離した。インフォームドコンセントの署名後、試料を得た。細胞をRPMI−1640で1:1に希釈し、50mlのチューブ中で15mlのFicoll−Plaque Plusの上に重ね、30分間、800gで、室温で遠心分離した。細胞界面を培地で約15mlに希釈し、10分間、400gで遠心分離した。上澄みを捨てた後、ペレットを1mlの培地に再懸濁させた。有核細胞を計数し、ポリ−L−リシンを被覆したディッシュ上に、2mg/mlのL−グルタミン、1%の抗真菌性抗生物質および10%(v/v)の非加熱不活性化選択プレスクリーニングFBSを添加したα−MEMを含む標準的な培地中に、2×10細胞/cmの密度で懸濁させた。
【0049】
細胞を3日間インキュベートし、3段階の洗浄段階で培地を交換することによって非接着細胞を除去した。細胞をAccutaseで、37℃で5分間インキュベーションすることによってリフトした。比較のためのMCSを生成するための増殖および神経誘導のために、ABMCを上述のように調製した。増殖された細胞は、継代させる前に12〜16日間静置して成長させ、1:4の比で再平板培養した。骨形成、脂質生成、および軟骨細胞分化は、Pittenger,M.F.et al.Multilineage Potential of Adult Human Mesenchymal Stem Cells.Science 284,143−7(1999).に記載されている方法で行った。ABMCは、CD45−PC7、CD44−FITC、CD34−PE、CD73−PE、CD105−PE、CD106−PE、CD166−PEおよびCD271−PE(すべてBDバイオサイエンス社製)で染色した後、フローサイトメトリーで分析した。
【0050】
神経細胞誘導
神経細胞分化は、Arnhold,S.etal.Human Bone Marrow Sroma Cells Display Certain Neural Characteristics and Integrate in the Subventricular Compartment After Injection into the Liquor System Eur.J.Cell.Biol.85,551−65(2006)に記載される方法を修正して行った。神経球誘導は、2%(v/v)B27培地(Invitrogen)および増殖因子EGF(20ng/ml,R&Dシステムス)、βFGF(20ng/ml)およびヘパリン(5mg/ml)を添加した無血清DMEM中の培養によって行った。神経誘導は、Accutaseによって調製され、2%のDMSOおよび1mMのホルスコリンを有する無血清DMEM/F12中に2000細胞/cmの密度で設置された、単一の細胞を用いて行った。細胞をこれらの条件下で4日間保持し、その後、免疫蛍光顕微鏡によって分析した。
【0051】
重度の脊髄損傷のイヌモデル
体重3.77±0.59kgの健康な雑種の成犬16頭を、脊髄損傷の実験的な研究に用いた。動物の飼育および処置のすべての形態は、カイロ大学の動物愛護委員会のガイドラインに従って行った。麻酔をかけた(ペントバルビタールナトリウム、40mg/kg)イヌに、Young,W.et al.Effect of High−dose Corticosteroid Therapy on Blood Flow, Evoked Potentials,and Extracellular Calcium in Experimental Spinal Injury.J.Neurosurg.57,667−73(1982)にネコモデルについて記載される方法を修正して、L4レベルの重度の脊髄損傷(SCI)を受けさせた。簡潔には、L4椎弓切除の後、硬膜を開き、脊髄を切断した。脊髄の切断された末端を典型的には約3mm後退(retract)させ、外科用顕微鏡下で検査し、完全な切断面を確保した。術後処置としてはイヌを暖かくし、1日2回手動で排尿を行い、予防的抗生剤を与えた。イヌの摂食に困難はなかった。
【0052】
SCI後の治療に従って、イヌを公平に4つの群に割り当てた。イヌABMCの移植は、SCIの1週間後に行った。上記と同様の方法を用いてイヌに麻酔をかけた。対照群は、損傷後なんらの細胞移植も受けなかった。操作していないABMCまたは24時間もしくは72時間神経分化を誘導したABMCを受ける3つの群においては、150μlの生理食塩水に懸濁させた細胞を、腰椎穿刺によってCSFに注射した。後肢の機能回復の行動評価は、ビデオ記録によって行った。それぞれのイヌについて、最低10歩、側面および背面からビデオテープに記録した。15点採点システム25を用いて、それぞれのイヌの歩行を、治療の型に関して盲検化された調査員がビデオテープから採点し、ベースライン、SCIの1日後、ならびにSCIの4、8、12および16週間後での平均スコアを記録した。
【0053】
免疫染色
細胞を4%のパラホルムアルデヒド中に固定し、PBS下、4℃で染色されるまで保存した。組織病理学的変化を評価するために、すべてのイヌを細胞療法後16週で安楽死させた。イヌをPBSおよび4%のパラホルムアルデヒドを用いて潅流し、T10からL5までの脊髄を10%緩衝中性ホルマリン中に固定し、脱灰溶液中に浸した。切片をパラフィンに埋包し、4μm厚さの軸方向断面を切断し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)またはルクソール−ファスト−ブルーで染色し、ミエリンを識別、または蛍光分析に用いた。損傷を受けた脊髄の中心点からのミエリン形成された領域およびキャビティの体積は、Axio Vision画像解析ソフトウェア(Zeiss)を用いて横断面の画像から計算した。キャビテーデョンの最も大きい領域を用いて切片を同定し、それぞれのイヌについてこの領域を測定し、対照および細胞療法で治療したイヌからの平均±SEMとして表した。免疫蛍光には、脱パラフィン化切片を2分間の抗原賦活化を通して加工し、次いでイヌの交差反応性に適した特異的抗体で染色した。
【0054】
一次抗体は、モノクローナル抗−GFP,Clontech(1:100);ポリクローナル抗−GFAP,Dako(1:500);モノクローナル抗β−III−チューブリン,Chemicon(1:200);ポリクローナル抗−PDGFRα,Chemicon(1:80);モノクローナル抗−GAD6、Abeam(1:500);ポリクローナル抗−Nestin,LifeSpan(1:100);モノクローナル抗−アセチルコリンエステラーゼAE−1,ミリポア(1:50);モノクローナル抗−70kDa神経フィラメント,ミリポア(1:50);モノクローナル抗−A2B5,ミリポア(1:100);およびモノクローナル抗−GRMl,BD(1:100)であった。ペルオキシダーゼABCキットおよびCoC12−増強ジアミノベンジジン(DAB)を、ミエリン塩基性タンパク質染色のためのクロモーゲンとして用いた。蛍光顕微鏡法には、Alexa Fluor488、535、および610色素(Invitrogen)で標識した二次抗体を用いた。GFP、ネスチン、PDGFR、TuJl、およびNF70のカウントを計算するために、各0.01mmの表面積を有する100の正方形を計数に用い、標的領域が選択された。値は平均±SEMとして表した。治療の型に関して盲検化された病理学者がすべての組織学的検査を行った。
【0055】
ヒトの移植
適格SCI患者を評価し、159人の患者を初期スクリーニングのために選択した。試験対象患者基準に合致する80人の患者が登録され(50人の胸部SCIおよび30人の頸部SCI)、無作為に対照群および細胞療法群の2つの群に分けられ、両方の群は、独立した物理療法、リハビリテーション、およびリウマチ学のための軍事力センターで、計画的な標準的な理学療法を受けた。試験に対する正式な承認および詳細なインフォームドコンセントへの署名の後、移植群のすべての参加者は、局所麻酔下で骨髄穿刺を受け、ABMCを作製した。穿刺液は腸骨部(iliac region)から取り、冷培地中、滅菌容器に直ちに設置し、すべての後続処理は、上述のように、カイロ大学病院の幹細胞センターで完全臨床無菌条件下で行った。患者は2×10細胞/kgの累積標的細胞投与量を受け、ABMC細胞数および生存率(viability)を72時間の接着後に評価し、この手順を、この標的投与量が達成されるまで月1回繰り返した(中央値は4回であり、1〜8回の範囲であった)。
【0056】
データおよび統計解析
全てのデータを平均±SEMとして表した。すべての群の間で、連続データをone−factor ANOVAによって、次いで事後(post hoc)フィッシャーの保護最小有意差法(Fisher’s protected least significant difference)(PLSD)によって比較した。脊髄における移植したGFP細胞の定量分析のために、それぞれのイヌの脊髄から4μm厚さで、150μm離して15の断面を切断した。各切片における平均直径が6μmであるすべての細胞を計数した。抗体あたり3つの脊髄の切片について二重陽性細胞を調べ、切片あたり4つの領域を計数した。キャビテーション領域を対照と細胞療法群との間でスチューデントt−検定を用いて比較した。機能テストには、移植を受けたイヌと対照との間の運動スコア(locomotor score)の差を、各時点でANOVAの繰り返し測定を用いて分析した。統計的有意性は、P<0.05のレベルで決定した。
【0057】
実施例1−ABMCのインビトロ分化
6頭のイヌのBM試料を単離し、ポリ−L−リシン上で、承認されたプロトコル下で72時間培養した。72時間後に分離されたイヌのABMCは、CD44、CD73、CD105、CD166、CD271を発現するが、CD34、CD38、およびCD45は発現しない、または無視できる程度の発現であることがわかった。イヌのABMCは、従来の培養増殖MSCに多い線維芽細胞様細胞については限られた数である、平坦な長楕円形の形態を有した(図5A)。イヌのABMC(図5A)はGFP発現プラスミドを用いて90%近くの効率でトランスフェクトされた(図5B)。これらの細胞は、その多能性を保持し、直ちに、そして強力に脂肪細胞、骨細胞、および軟骨細胞に誘導されうる(図5E〜G)。神経誘導培地中でのこれらの細胞の培養は、ヒトの細胞と同様に、神経球の生成、および神経表現型(neuronal phenotype)に関連するネスチン発現の増加を伴う形態変化をもたらす(図5C、G〜I)。
【0058】
次に、ポリ−L−リシンで被覆したフラスコ中で72時間培養した10のヒトBM試料からのABMCの多分化能を評価した。72時間でのフローサイトメトリー分析から、ヒトのABMCは、90%超がCD90、CD105、CD166、CD271に対して陽性であるが、CD34、CD45およびCD14を発現しないことが明らかになった。2〜3週間の従来の誘導と比較すると、ヒトABMCは、1週間以内に、脂肪細胞、骨細胞、および軟骨細胞への中胚葉3血球系分化を強力に誘導可能であった(図6A〜C)。神経誘導18は、神経分化(図6D〜F)、複数の一次樹状突起を形成する、細胞における典型的なオリゴデンドログリア形態(図6F)、および同じ患者からの培養増殖細胞と比較してより強い能力(図7I)と一致する形態変化をもたらした。
【0059】
ABMCから生じた神経球の数(n=12を6穴プレートで3連で行った)は、6〜8週間培養液中で増殖した、同じ患者のMSCから生成したこれらの神経球よりも少し多かったが有意に相違しなかった。しかしながら、培養増殖したMSCと比較すると、ABMCは、アストロサイト前駆細胞マーカーであるネスチン(図7C)、オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーである血小板由来増殖因子受容体−α(PDGFR−α)(図7G)、および神経前駆細胞マーカーであるタイプIIIβ−チューブリンエピトープJl(TuJl)(図7H)に対するアップレギュレートされた免疫活性によって示されるように、脊髄常在神経前駆細胞組織により強く誘導可能であった。
【0060】
すぐに、または培養増殖後に神経分化を誘導した、同じ患者からの免疫活性細胞の定量分析(n=6を6穴プレートで3連で行った)から、ネスチン発現においては有意な差がないことがわかったが、PDGFRαおよびTuJlの両方は、ABMCにおいて、培養増殖したMSCよりも有意に高かった(図7I)。したがって、これらのインビトロの研究は、移植された細胞のインビボの挙動を反映しない条件で行われたものであるが、培養増殖したMSCと比較して、ABMCを用いることの有益性を示している。
【0061】
実施例2−イヌモデルにおけるABMCのインビボ分化
前臨床モデルにおける細胞療法戦略を確立するために、重度SCIのイヌモデルにおいて自己ABMCをくも膜下に移植した。イヌの脊髄の重度の打撲症は、確立されたネコの重度SCIモデル24と同様に、16頭のイヌに実施し、全ての損傷を受けたイヌ(n=16)において感覚消失および後肢まひが生じた(図1H)。損傷の1週間後、動物をランダムに4つの群に分け(n=4/群)、群Aを細胞治療を受けない対照群とした。群B、C、およびDのイヌは、腸骨稜からBM吸引し、プレートに72時間接着させることによってABMCを単離した。150μlの生理食塩水中に2×10ABMC/kgに調製されたGFP発現プラスミドを用いて細胞をトランスフェクトし、腰椎穿刺によって注射した。群Bの動物は、操作していないABMCを受けた。ABMCの神経系列へのインビトロの予備分化によって、これらのインビボの神経ポテンシャルが増加するかどうかを調べるために、群CおよびDの動物は、72時間で単離したABMCであって、最後の24時間(群C)または全72時間(群D)、神経分化を誘導したABMCを受けた。
【0062】
後肢の運動能力および機能回復は、移植後16週間の間、4週間ごとに、イヌのSCI25のために開発された15点ビデオテープスコアリングシステムを用いて評価した。後肢の運動機能は、SCIの前はすべての動物において損なわれておらず、すべて14〜15点のスコアであった(図1H)。損傷後、イヌは対まひであって深い痛みの感覚がなく、後肢のスコアはゼロであった。操作していないABMC(n=4)、または24時間(n=4)もしくは72時間(n=4)、神経細胞分化が誘導されたABMCを受けたB、CおよびDの3つの群のイヌの間で、有意な差は測定されなかった(P=0.75)。群Aの対照治療のイヌと異なって、自己ABMC移植を受けたイヌ(n=12)は、移植後8週で最大近くの回復に達し、16週でその運動機能の有意な回復がみられ(図1Hおよび表1)、最初の週のうちに自発的な後肢の運動が検出され(図1I)、これはABMCの早期の局所的神経保護的効果を示唆する。治療後16週で、イヌを安楽死させて脊髄を固定し、組織学および免疫染色によって分析した。対照のイヌからの切片は、ABMCで治療した切片における最小のキャビテーションとは対照的に、重大な空孔形成を示した(図1A〜C)。抗ミエリン塩基性タンパク質(MBP)抗体を用いた免疫染色から、ABMCで治療したイヌにおいて、対照と比較して、有意なミエリン再形成がみられることが明らかになった(図1D−G)。ABMC切片におけるMBP染色は、損傷を受けていない脊髄におけるMBPレベルの85%までに達し(図1D〜G)、実質的なミエリン再形成を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
ミエリン再形成の機構、およびABMC移植が損傷した軸索の再生を向上させるのかどうかを調べるために、GFPを移植されたABMCのマーカーとして、脊髄常在前駆細胞マーカーとともに用いて、多色免疫組織化学試験を行った。GFP−陽性細胞はSCI損傷の境界内で検出され(図2A)、対照のイヌからの切片では検出されなかった(図8A〜D)。多数のGFP陽性細胞が中心点から広く分布し(図2B)、損傷した脊髄の灰白質および白質中に見られ、損傷の境界領域、中心管周辺、および対側灰白質内(図2A)に分布し、くも膜下に注射されたBM細胞が損傷部位に吻側移動したことを示す。GFPおよびPDGFRに対して陽性であるBM誘導細胞は、中心管を囲んでみられ、おそらく新血管形成を通して成長する脊髄内の小血管と関連する(図9)。加えて、灰白質中の少なくとも30%のGFP−陽性細胞もまた、成熟神経細胞の特異的マーカーである70kDa神経フィラメント(NF70)に対して陽性であった(図2A)。
【0065】
脊髄の後索は主に有髄軸索からなる。強いGFP染色が大きな核および細胞質境界を有するいくつかの細胞を有する後索において観察され、周辺ミエリン形成を示した。対照動物からの切片では、電子顕微鏡写真においてアストログリオ−シスのない細胞外環境における脱髄軸索、広範囲の空孔形成、およびグリア性瘢痕を示した(図10)。ABMC移植したイヌからの切片の電子顕微鏡写真における中枢対末梢ミエリン形成の定量分析から、ミエリン再形成軸索は主に末梢様ミエリン形成細胞からであることが示された(図11A〜C)。全ミエリン再形成軸索の1/3近くにおいて、中枢ミエリン形成を有するオリゴデンドロサイト−有髄軸索および特徴的な薄いミエリン鞘が、より小さい軸索において観察された(図11D〜F)。
【0066】
これらのミエリン再形成軸索はGFPおよびGFAPに対して二重陽性であることがわかり(図2I)、多小葉性核および複数のミエリン再形成軸索まで拡張される大きな中間径フィラメントリッチ工程によって特徴づけられるアストロサイトに関連する(図11)。GFP−標識ABMC由来のアストロサイトおよびミエリン形成細胞もまた回復した脊髄損傷において検出された。さらに、ABMCで治療したイヌにおける前皮質脊髄路の切断面内に、NF70を発現する有意により多くのGFP陽性軸索(図2C〜F)を、ミエリン再形成軸索を明らかにマーキングするGFP発現(図8E〜Hおよび図2F中の挿入)とともに検出したが、一方で対照では検出されなかった(図8A〜D)。
【0067】
随意運動を制御する前皮質脊髄路および外側皮質脊髄路のGFP陽性ABMCからの再生により、移植を受けたイヌの損傷部位内でのより強い軸索再生が示唆され、これらの管は従来から少なくとも再生可能と評価されていたため、ABMCの神経再生能が示された。さらに、神経前駆細胞マーカーを発現するGFP陽性細胞の二重標識プロファイルの優位性は、灰白質および白質における貪欲な神経分化と整合した。GFP陽性細胞は、高密度シナプス接合における神経前駆細胞マーカーであるネスチン(図2G)、低密度シナプス接合におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーであるPDGFR(図2H)、および神経束におけるアストロサイト前駆細胞マーカーであるGFAP(図2I)を含む、常在神経前駆細胞組織のマーカーを発現した。
【0068】
GFP陽性ABMCは、興奮性、阻害性(GABA)およびコリン作用性神経伝達物質マーカーを用いた免疫活性によって示されるように共局在化したGFP陽性細胞の検出によって示されるように、末端神経細胞の運命に貢献した。GFPと興奮性代謝調節型グルタミン酸受容体−1(GRM1)、GABA作動性シグナルのマーカーである阻害性グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)およびコリン作用性アセチルコリンエステラーゼ(AE−1)のいずれかで二重標識された細胞のシグナルが再生された脊髄において検出された(図2J)。加えて、神経幹細胞の特徴を有する共通のグリア前駆細胞O−2A(図2J)中に存在するガングリオシド抗原であるA2B5との免疫活性によって示されるように、共局在化した低頻度のGFP陽性細胞が観察された。まとめると、これらのデータは、脊髄微小環境内のABMC誘導神経再生を示す。
【0069】
再生の機構として融合事象の発生の可能性を排除するために、移植実験を受けたイヌの脊髄の切片を分析した。DAPI核染色したGFP発現細胞を、イヌの35番染色体の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)プローブを用いて調べた。調査した細胞(n=500)はすべて2倍体であった(図12)。
【0070】
実施例3−ヒトにおけるABMCのインビボ分化
重度のSCIイヌモデルにおける前臨床試験から、くも膜下に移植された自己ABMCは損傷部位に戻り、白質および灰白質の温存、神経細胞および軸索の再生、新血管形成、有意なミエリン再形成を伴うアストロサイト増殖、および運動スコアにおける機能改善をもたらし、副作用が検出されないことが明らかになった。
【0071】
これらのデータから、頸部および胸部の完全なレベルのSCI患者における、ABMCの自己くも膜下移植の安全性および有効性を調査するための、無作為化された第I/II相臨床試験を始めた。選択基準(図3)は、損傷後、少なくとも6か月の理学療法を完了し、自然回復していない患者を含んでいた。試験した患者は、9人の女性および71人の男性であり、16〜45歳であった。患者の損傷からの期間は、12〜36か月であり、完全なASIA A外傷性SCIを有し、C3からT12の神経レベルであり、少なくとも6か月間、神経学的改善の証拠がなく、付随する全身性疾患がなかった(図3)。登録期間の間、完全慢性SCIを有する159人の患者が評価され、全部で80人の患者が、カイロ大学およびアル=アズハル大学の臨床試験審査委員会によって承認されたプロトコルにしたがって、署名およびインフォームドコンセントの後、登録された。
【0072】
患者は2つのバランスのとれた群に無作為化された:50人の患者;40人の胸部SCI患者および10人の頸部SCI患者は、標準的な理学療法と組み合わせた自己ABMC移植に割り当てられ、一方、30人の合致した患者(20人の胸部SCI患者および10人の頸部SCI患者)は、対照群として標準的な理学療法のみに割り当てられた。細胞療法治療の前に患者を評価してベースライン測定を確立した。治療を受けた患者、および平行する対照患者の両方がモニターされ、ASIAスケール測定は、独立した物理療法、リハビリテーション、およびリウマチ学のための軍事力センターで、試験期間にわたって、盲検化された観察者によって行われた。腰椎穿刺および細胞注射に伴う危険性は、偽薬を注射した対照群の包含を制限する重要な倫理的な問題を生じる。
【0073】
患者は神経障害性の痛み、嚢胞、脊髄空洞症または細胞異常増殖の発生の臨床試験によって評価された。すべての移植患者は、次にBM吸引を受け、ここから自己の最小限に操作されたBM細胞を、カイロ大学病院の幹細胞ユニットで、滅菌条件下で72時間接着させた(ABMC)。ABMCの移植の前に、試料の細胞表現型、生存率および滅菌性を検査した。腰椎穿刺を通したくも膜下移植による自己ABMC細胞療法で治療した50人の患者はすべて、2×10細胞/kgの累積標的細胞投与量を受け、この手順を、この標的投与量が達成されるまで月1回繰り返した(中央値は4回であり、1〜8回の範囲であった)。ASIAおよびFIMスコアの測定およびSSEPを試験し、脊髄のMRIは、MRIを承諾し、これに耐えられるすべての患者において、移植前のベースラインおよび18か月間、6か月ごとに行った。
【0074】
試験データは、エジプト保健省審査委員会によって、および独立したドイツの審査委員会によって手続きにしたがって審査された。細胞療法を受けた50人の患者は、頭痛(30人の患者;60%)、腰痛(5人の患者;10%)、不随意運動(8人の患者、16%)、および視力障害(1人の患者、2%)を含む、腰椎穿刺に共通の軽い副作用があった。上記の副作用はすべて一時的なものであり、腰椎穿刺後12時間から数日続き、対症療法によって完全に解消した。移植後18か月まで、ABMCで治療した患者において長期間の副作用は検出されず、治療を受けた患者のいずれもが、感染症、脳脊髄液の漏れ、さらなる神経障害性の痛み、脊髄奇形を経験せず、MRI像上に塊状物の発生はみられなかった。
【0075】
標準的な理学療法に加えて、自己ABMC療法を受けたすべての患者は、理学療法のみを受けた対照の患者と比較して、良好な応答をし、その神経機能が有意に改善した(図4)。自己ABMCで治療した患者は、移植後6か月で、そのASIAスコアおよびFIMスコアが有意に向上し、電気生理学的筋機能が回復した(図4A〜B)。
【0076】
移植後18か月で(表2)、20人の胸部SCI患者(50%)は、ASIAスケールが、グレードAからグレードCへの改善を示し、15人の患者(37.5%)は、グレードAからグレードBに改善したが、5人の患者(12.5%)は、グレードAのままであった(胸部SCI患者の基準の詳細を表3に示す)。ABMC細胞療法で治療した10人の頸部SCI患者については、2人の患者(20%)はグレードAからグレードCに改善し、3人の患者はグレードAからグレードBに改善し、5人の患者はグレードAのままであった(頸部SCI患者の基準の詳細を表4に示す)。これらの変化により脊髄の圧迫および浮腫が回復した(図4CにC6〜C7の頸部SCIを有する患者6の移植後1年でのMRI像を示す)。さらに、これらの変化により日常活動が向上し生活の質が有意に改善した。2人の代表的な患者;患者1(C6の頸部SCIを有する)は細胞療法前は四肢まひであり、患者(T9の胸部SCIを有する)は片まひであったが、細胞療法後9か月〜1年で両者とも歩けるようになり、運動性を取り戻した。
【0077】
スケール測定にかかわらず、自己ABMCで治療したすべての患者は、ASIAグレードがAのままであった患者を含めて、移植後わずか4〜6週で神経機能の改善に気付いた。患者は、始めに触覚および感覚的刺激に対する応答の向上を、後に、最初に下肢の遠位筋において、次いで大腿筋において記録された筋肉強度の増加を経験した。ASIAグレードの改善があった患者は、ベッドに座ったり向きを変えたりできるような、よりよい体幹運動を示した。加えて、筋肉強度の改善によって性的能力が向上し、さらに、腸および膀胱括約筋の制御が強くなって、これらの患者がカテーテルを用いずに生活できるようになった。これらの効果は、対照と比較して、ABMCで治療した患者において、神経レベルおよびFIMの改善に反映された(図4Aおよび表3〜4)。すべての患者は治療前には皮質のSSEPを示さなかったが、移植後6か月から1年で、ABMCで治療した患者の65%が皮質インパルスの再発を示し、対照の患者のいずれもが示さなかった(図13)。したがって、自己ABMC細胞療法により、慢性の完全なSCI患者において運動機能および感覚機能が有意に改善された。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
上述の実施例および好ましい形態の説明は、特許請求の範囲で定義される本発明を制限するものではなく、説明のためのものであると解されるべきである。容易に理解されるように、上述した特徴の多数の変形および組み合わせは、特許請求の範囲に記載される本発明から逸脱することなく利用されうる。このような変形は本発明の精神および処方から逸脱するものではないとみなされ、このような変形はすべて、以下の特許請求の範囲に包含されることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬上許容される液体に懸濁させた接着骨髄幹細胞を含む組成物を、損傷部位で軸索再生またはミエリン再形成を生じさせるために有効な量で、損傷部位またはその近傍に投与することを含む、神経組織または脳の変性または外傷性損傷を治療する方法。
【請求項2】
前記損傷は脳または脊髄の損傷であり、前記骨髄幹細胞は、前記損傷部位またはその近傍に、腰椎穿刺を通してくも膜下注射によって脳脊髄液に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記損傷は末梢神経の損傷であり、前記骨髄幹細胞は、超音波ガイド下局所送達によって末梢神経根に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記外傷性損傷は、脊髄損傷または末梢神経損傷である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記変性損傷は、筋萎縮性側索硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記接着骨髄幹細胞は、前記損傷部位で軸索再生およびミエリン再形成を生じさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記骨髄幹細胞は、臍帯血または骨髄穿刺液に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
約10〜約10骨髄幹細胞/kgが累積的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記骨髄幹細胞の累積投与量は、2回以上の注射で定期的に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記定期的な注射は月1回行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記骨髄幹細胞は、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166およびCD271からなる群から選択される1以上のマーカーに対して陽性である細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記骨髄幹細胞は、マーカーCD34、CD38およびCD45に対して陰性である細胞から実質的になる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記骨髄幹細胞は、ミエリン形成細胞、アストロサイト前駆細胞、アストロサイト、神経前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、オリゴデンドロサイト細胞、有髄軸索、および成熟神経細胞からなる群から選択される細胞型を分化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記骨髄幹細胞は、NF−70に対して陽性である細胞型を分化させる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記骨髄幹細胞は、ネスチンを発現させるアストロサイト前駆細胞を分化させる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記骨髄幹細胞は、PDGFR−αを発現させるオリゴデンドロサイト前駆細胞を分化させる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記骨髄幹細胞は、GFAPを発現させるアストロサイト前駆細胞を分化させる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
(a)ポリ−L−リシン被覆基板上で、骨髄幹細胞の層が前記基板に接着するように、成熟骨髄幹細胞を含む生体試料を培養する;
(b)前記基板から非接着細胞を洗浄し、前記骨髄幹細胞の層を収集する;
(c)接着骨髄幹細胞を製薬上許容される液体に懸濁させる;および
(d)前記骨髄幹細胞の懸濁液を、損傷部位で軸索再生またはミエリン再形成を生じさせるために有効な量で、前記損傷部位の近傍に投与する;
を含む、脊椎動物における神経組織または脳の変性または外傷性損傷を治療する方法。
【請求項19】
前記生体試料は、臍帯血または骨髄穿刺液を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記懸濁液は、前記損傷部位の近傍に、腰椎穿刺を通してくも膜下注射によって脳脊髄液に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
約10〜約10骨髄幹細胞/kgが累積的に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記骨髄幹細胞の累積投与量は、2回以上の注射で定期的に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記定期的な注射は月1回行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記骨髄幹細胞は、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166およびCD271からなる群から選択される1以上のマーカーに対して陽性である細胞を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記骨髄幹細胞は、マーカーCD34、CD38およびCD45に対して陰性である細胞から実質的になる、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記骨髄幹細胞は、ミエリン形成細胞、アストロサイト前駆細胞、アストロサイト、神経前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、オリゴデンドロサイト細胞、有髄軸索、および成熟神経細胞からなる群から選択される細胞型を分化させる、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記骨髄幹細胞は、NF−70に対して陽性である細胞型を分化させる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記骨髄幹細胞は、ネスチンを発現させるアストロサイト前駆細胞を分化させる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記骨髄幹細胞は、PDGFR−αを発現させるオリゴデンドロサイト前駆細胞を分化させる、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記骨髄幹細胞は、GFAPを発現させるアストロサイト前駆細胞を分化させる、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−508013(P2013−508013A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534151(P2012−534151)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/061093
【国際公開番号】WO2011/046570
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512099873)ザ ユニバーシティ オブ メディスン アンド デンティストリー オブ ニュー ジャージー (1)
【Fターム(参考)】