説明

細胞破砕装置および細胞破砕方法

【課題】クロレラなどの所要の細胞を、その温度上昇を抑えつつ、短時間で破砕可能な細胞破砕装置および細胞破砕方法を提案する。
【解決手段】細胞破砕装置1は、所定の細胞Cを含む懸濁液2が貯留される原液貯槽3と、原液貯槽3に接続された処理槽4と、処理槽4に接続され、細胞Cを破砕して得られる細胞抽出液Eを含む処理液5が貯留される処理液貯槽6と、処理槽4に設けられ、原液貯槽3から懸濁液2が供給されるノズル27aを有する対向板27と、対向板27との間に狭隘空間Sを介して対面され、狭隘空間Sに振動を発生させる振動発生装置28と、を備え、狭隘空間Sに導入された懸濁液2を振動させ、キャビテーションを発生させて細胞Cの細胞膜または細胞壁を破砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を含む懸濁液にキャビテーションを発生させ、キャビテーション気泡の崩壊にともない発生する衝撃波によって細胞の細胞膜または細胞壁を破砕し、細胞抽出液を得る細胞破砕装置および細胞破砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロレラ(淡水性単細胞緑藻類)は、必須アミノ酸の組成に優れた上質のタンパク質を約50%以上含むとともに、各種ビタミン等の栄養素にも富む。このクロレラは、硬く丈夫な細胞壁に覆われており、食品として有効に利用するためには細胞壁を破砕して消化吸収率を高めることが重要である。
【0003】
ところが、クロレラの硬く丈夫な細胞壁は、通常の製粉機などでは破砕が非常に困難である。そこで、クロレラを高温、高圧の容器に導入し、所要の時間、細胞壁の内部まで圧力を浸透させ、その後一気に減圧し、細胞内部の圧力によって細胞壁を破砕する破砕方法(高温加圧減圧法)が実用化されている。
【0004】
また、密閉容器内に回動自在な撹拌羽根を設け、クロレラと直径約0.5mmから約0.8mmのガラス球とを水に懸濁した懸濁液を密閉容器に導入し、撹拌羽根を所要の周速で回動し、懸濁液に圧力の脈動を発生させてクロレラを急激に膨張させることで細胞壁を破裂する破砕方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−68536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温加圧減圧法は、大きなエネルギを必要とし、かつクロレラの破砕に掛かる処理時間が長く、大量生産には不向きである。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法は、密閉容器の容量の約80%以上をガラス球で満たす必要があり、撹拌羽根が高速で回転すると、衝突するガラス球による撹拌羽根の損傷や、ガラス球同士の衝突による損耗、破砕が問題点となる。
【0008】
さらに、特許文献1に記載の方法は、ガラス球が互いに高速で衝突しあい、この摩擦により懸濁液に熱が発生する。この摩擦熱は、クロレラの細胞壁の破砕に要する時間が長くなるほど高温になり、クロレラに含まれるタンパク質などの生体高分子の温度を上昇させる。そして、摩擦熱が生体高分子の変性温度を超えれば、生体高分子が変性を生じ、有用な成分が変質してしまうという問題があった。
【0009】
さらにまた、特許文献1に記載の方法は、撹拌羽根の遠心作用によって懸濁液中のクロレラ濃度の分布がばらつき、高温加圧減圧法に比べて細胞破砕割合が低くなる。
【0010】
ここで、タンパク質の変性温度は、約60℃から約80℃である。
【0011】
すなわち、クロレラなどの硬く丈夫な細胞壁に覆われた細胞を、食品として有効に利用するためには、細胞の温度上昇を抑えつつ、短時間で細胞壁を破砕すること重要であり、大きな課題であった。
【0012】
また、大量生産の用に供するためには、高い細胞破砕割合を呈するとともに、連続的に細胞を破砕可能で有ることが望まれる。
【0013】
本発明は、クロレラなどの所要の細胞を、その温度上昇を抑えつつ、短時間で破砕可能な細胞破砕装置および細胞破砕方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決するため本発明に係る細胞破砕装置は、所定の細胞を含む懸濁液が貯留される原液貯槽と、前記原液貯槽に接続された処理槽と、前記処理槽に接続され、前記細胞を破砕して得られる細胞抽出液を含む処理液が貯留される処理液貯槽と、前記処理槽に設けられ、前記原液貯槽から前記懸濁液が供給される孔を有する対向部と、前記対向部との間に狭隘空間を介して対面され、前記狭隘空間に振動を発生させる振動発生部と、を備え、前記狭隘空間に導入された前記懸濁液を振動させ、キャビテーションを発生させて前記細胞の細胞膜または細胞壁を破砕することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る細胞破砕方法は、対向部と、前記対向部との間に狭隘空間を介して対面する振動発生部と、を準備し、前記狭隘空間に所定の細胞を含む懸濁液を供給し、前記振動発生部の振動により、前記狭隘空間に導入した前記懸濁液にキャビテーションを発生させて前記細胞の細胞膜または細胞壁を破砕することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クロレラなどの所要の細胞を、その温度上昇を抑えつつ、短時間で破砕可能な細胞破砕装置および細胞破砕方法を提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る細胞破砕装置を示した概略図。
【図2】本発明の実施形態に係る細胞破砕装置のホーンおよび対向板を部分的に示した断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る細胞破砕装置および細胞破砕方法による細胞の破砕のようすを説明する図。
【図4】本発明の実施形態に係る細胞破砕装置および細胞破砕方法による狭隘空間のギャップと衝撃波の強さの関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る細胞破砕装置および細胞破砕方法の実施形態について図1から図4を参照して説明する。
【0019】
本発明の実施形態に係る細胞破砕装置および細胞破砕方法は、キャビテーション泡の崩壊にともない発生する衝撃波によって細胞の細胞膜または細胞壁を破砕し、細胞抽出液を得るものである。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る細胞破砕装置を示した概略図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る細胞破砕装置1は、所定の細胞Cを含む懸濁液2が貯留される原液貯槽3と、原液貯槽3に接続された処理槽4と、処理槽4に接続され、細胞Cを破砕して得られる細胞抽出液Eを含む処理液5が貯留される処理液貯槽6と、制御部7と、を備える。原液貯槽3と処理槽4とは、原液送給配管系統8によって接続される。一方、処理槽4と処理液貯槽6とは、処理液排出配管系統9によって接続される。
【0022】
懸濁液2は、所定の細胞Cを水に懸濁したものである。所定の細胞Cは、動物細胞でも植物細胞でもよい。所定の細胞Cは、例えば植物細胞の場合、クロレラやスピルリナなど、タンパク質や各種ビタミン、ミネラル等に富む単細胞藻類がある。
【0023】
原液貯槽3は、細胞膜または細胞壁を破砕される以前の細胞Cが懸濁された懸濁液2を原液として貯留する。原液貯槽3は、槽内に貯留された懸濁液2の温度を測定する温度計11(原液温度計)と、槽内に貯留された懸濁液2を冷却する冷却装置12(原液冷却部)と、槽内に貯留された懸濁液2を撹拌する攪拌機13と、を備える。
【0024】
冷却装置12は、冷媒(図示省略)を環状に循環させる冷媒配管15と、冷媒を流動させる循環ポンプ16と、熱交換によって冷媒を冷却する熱交換器17と、冷媒の流量を測定する冷媒流量計18と、を備える。冷媒配管15、循環ポンプ16、熱交換器17および冷媒流量計18は、直列、かつ環状に接続される。
【0025】
攪拌機13は、槽内に貯留された懸濁液2の濃度分布および温度分布を略均一に保つ。
【0026】
原液送給配管系統8は、原液貯槽3から処理槽4に懸濁液2を送給する。原液送給配管系統8は、原液貯槽3から処理槽4までの流路を構成する原液送給配管21と、懸濁液2を流動させる原液送給ポンプ22と、懸濁液2の送給流量を調整する原液送給流量調節弁23と、懸濁液2の送給流量を測定する原液流量計24と、を備える。
【0027】
処理槽4は、原液貯槽3から送給された懸濁液2を振動させ、キャビテーションを発生させてキャビテーション泡の崩壊にともなう衝撃波で細胞Cの細胞膜または細胞壁を破砕し、細胞抽出液Eを含む処理液5を得て処理液貯槽6に排出する。処理槽4は、原液貯槽3から懸濁液2が供給され小口径(約2mmから約5mm)のノズル27a(孔)を有する対向板27(対向部)と、対向板27との間に狭隘空間Sを介して対面され、狭隘空間Sに振動を発生させる振動発生装置28(振動発生部)と、槽内の処理液5の温度を測定する温度計29(処理液温度計)と、を備える。
【0028】
対向板27は、処理槽4の内底面に配置される。対向板27のノズル27aは、原液送給配管系統8に接続され、原液貯槽3から供給される懸濁液2を狭隘空間Sに噴出させる。
【0029】
振動発生装置28は、対向板27のノズル27aから狭隘空間Sに供給された懸濁液2を振動させ、キャビテーションを発生させる。振動発生装置28は、高周波電源装置31と、高周波電源装置31に電気的に接続され、振動を発生させる振動子32と、振動子32が発生させた振動を狭隘空間Sに伝達するホーン33と、堅牢な基礎35に固定され振動子32を支持するアーム36と、を備える。
【0030】
振動子32は、超磁歪材料または圧電型セラミックス材料によって構成される。また、振動子32は、高周波電源装置31から電源ケーブル37を介して高周波電流が供給され、約14kHzから約2MHzの高周波で振動する。
【0031】
ホーン33は、狭隘空間Sを介して対向板27に対面された振動発生装置28の先端部分を構成する。ホーン33は、振動子32に連結された軸部33aと、軸部33aの先端に設けられた円板状のコマ33bと、を備える。コマ33bは、軸部33aを介して振動子32によって振動する。コマ33bは、対向板27との間のギャップgの距離が遠ざかったり、近づいたりする方向(図1中、実線矢A)に振動する。
【0032】
処理液排出配管系統9は、処理槽4の排出口38に接続され、処理槽4から処理液貯槽6に処理液5を送給する。処理液排出配管系統9は、処理槽4から処理液貯槽6までの流路を構成する処理液送給配管41と、処理液送給配管41の流路を開閉する処理液送給弁42と、を備える。
【0033】
処理液貯槽6は、処理槽4よりも低い位置に配置され、処理槽4との水頭差で導かれる処理液5を貯留する。
【0034】
制御部7は、狭隘空間Sに供給される懸濁液2の温度が、細胞Cに含まれる生体高分子の低温側の変性温度より大きくなるように、狭隘空間Sに供給される懸濁液2の温度を制御する。また、制御部7は、狭隘空間Sから排出された処理液5の温度が、細胞Cに含まれる生体高分子の高温側の変性温度より小さくなるように、狭隘空間Sに供給される懸濁液2の流量および温度を制御する。
【0035】
制御部7は、温度計11、29で測定された温度と、冷媒流量計18および原液流量計24で測定された流量を入力信号として受信し、循環ポンプ16、原液送給ポンプ22および原液送給流量調節弁23の制御信号を出力して狭隘空間Sに供給される懸濁液2の流量および温度を制御する。
【0036】
具体的には、制御部7は、温度計11で測定される原液貯槽3内の懸濁液2の温度が、細胞Cに含まれる生体高分子の低温側の変性温度(一般に約0℃)より大きくなるように、冷却装置12の循環ポンプ16の運転出力を制御し、懸濁液2の温度を約20℃に制御する。このとき、原液貯槽3内の懸濁液2は、その温度分布が略均一になるよう攪拌機13によって撹拌される。
【0037】
他方、制御部7は、温度計29で測定された処理槽4内の処理液5の温度が、細胞Cに含まれる生体高分子の高温側の変性温度(一般に約60℃から約80℃)より小さくなるように、原液送給配管系統8の原液送給ポンプ22の運転出力および原液送給流量調節弁23の弁開度、すなわち狭隘空間Sに供給される懸濁液2の流量を制御し、処理液5の温度を約50℃に制御する。また、制御部7は、狭隘空間Sに供給される懸濁液2の流量を制御しても処理液5の温度を約50℃に制御できない場合、冷却装置12の循環ポンプ16の運転出力、すなわち狭隘空間Sに供給される懸濁液2の温度を制御して懸濁液2の温度を約10℃に冷却し、処理液5の温度を約50℃に制御する。
【0038】
細胞破砕装置1は、制御部7による狭隘空間Sに供給される懸濁液2の流量および温度の制御によって、細胞Cに含まれる生体高分子の変性温度を超えることなく細胞膜または細胞壁の破砕が可能となり、細胞Cに含まれている有用な各種成分が抽出された処理液5を得ることができる。
【0039】
図2は、本発明の実施形態に係る細胞破砕装置のホーンおよび対向板を部分的に示した断面図である。
【0040】
図2に示すように、細胞破砕装置1のコマ33bは、処理槽4の内底面に対向する。処理槽4の内底面には、コマ33bに対向させて対向板27が設けられる。コマ33bおよび対向板27は、それぞれ円板状に形成される。また、コマ33bおよび対向板27は、互いに対面し、対向面間にギャップg=約0.2mmから約10mmが設けられ、狭隘空間Sを構成する。
【0041】
コマ33bおよび対向板27は、その全体または少なくとも相対する面を構成する部分が硬度の高い材料、例えばセラミックスまたは超硬合金などの硬質な材料で構成される。これにより、コマ33bおよび対向板27は、キャビテーション泡43の崩壊時に発生する衝撃波に十分に耐え、壊食されない高強度をもつ構成とされる。
【0042】
なお、コマ33bと対向板27との対向部分のみを高硬度に構成する場合には、各種金属等の母材の表面にセラミックスまたは超硬合金の硬質メッキによる表面処理を施すことなどにより構成できる。セラミックスとしては、例えばアルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)およびジルコニア(ZyO2)等が適用される。また、超硬合金としては、例えばタングステンカーバイド(WC)、タングステンカーバイド・コバルト合金(WC−Co、WC−TiC−Co、WC−TiC−TaC−Co等)およびステライト(Stellite)等が適用される。
【0043】
そして、細胞破砕装置1は、原液貯槽3から原液送給配管系統8を介して送給される懸濁液2を、ノズル27aから処理槽4の狭隘空間Sに連続して噴出する。噴出した懸濁液2は、狭隘空間Sを満たし、コマ33bおよび対向板27の中心部から周縁側に向って流動する。懸濁液2は、コマ33bおよび対向板27の外周に到達するまでの間、コマ33bの振動によって発生するキャビテーション泡43の崩壊にともなう衝撃波を受ける。これにより、懸濁液2に含まれた細胞Cの細胞膜または細胞壁が破砕され、細胞抽出液Eを含む処理液5が得られる。細胞Cの細胞膜または細胞壁の破砕に掛かる時間は、懸濁液2が狭隘空間Sを流動しつつ通過する時間であり、懸濁液2の流量にもよるが、約0.1秒間から約1秒間で十分である。この破砕に掛かる時間は、従来の破砕方法に掛かる時間(短くとも150秒以上)に比べて非常に短時間である。
【0044】
なお、真水などの液体で狭隘空間Sを満たし、当該液体にキャビテーションを発生させた後に、原液貯槽3から処理槽4に懸濁液2を送給することによって、細胞Cを無駄なく破砕できる。
【0045】
図3は、本発明の実施形態に係る細胞破砕装置および細胞破砕方法による細胞の破砕のようすを説明する図である。
【0046】
図3に示すように、懸濁液2が狭隘空間Sに噴出し、コマ33bが懸濁液2中を振動方向aに向かって動作すると、狭隘空間Sが瞬間的に負圧になり懸濁液2の飽和蒸気圧以下の圧力場が形成され、懸濁液2にキャビテーション泡43が発生する。このキャビテーション泡43は、サブミクロンオーダーの微細な気泡であり、狭隘空間S中に高密度に発生する。そして、高周波振動により次の瞬間にコマ33bが懸濁液2中を振動方向bに向かって動作すると、狭隘空間Sに瞬間的に高圧の圧力場が形成され、この圧力によってキャビテーション泡43が崩壊する。
【0047】
そして、狭隘空間S中の懸濁液2には、キャビテーション泡43の崩壊にともない、高圧の衝撃波w(泡崩壊時発生衝撃波:図3中、実線矢w)が発生する。この衝撃波wは、懸濁液2に含まれている細胞Cの細胞膜または細胞壁の破壊エネルギとして作用し、細胞膜または細胞壁を破砕する。特にキャビテーション泡43の崩壊時には、外向きの破壊エネルギが発生する。また、衝撃波wはコマ33bまたは対向板27で反射し、衝撃反射波x(以下、単に「反射波x」という:図3中、実線矢x)となって、再び懸濁液2に含まれる細胞Cの細胞膜または細胞壁の破壊エネルギとして繰り返し作用し、細胞膜または細胞壁をさらに破砕する。このとき、衝撃波wおよび反射波xは、懸濁液2に細胞Cの他に有機微生物(図示省略)や細菌(図示省略)が含まれている場合、これら有機微生物や細菌の破壊エネルギとしても作用し、これらの有害生物を死滅させる。
【0048】
すなわち、コマ33bが懸濁液2を高周波で振動すると、コマ33bの超高速往復動作によって微細なキャビテーション泡43の発生、崩壊が繰り返される。そして、このキャビテーション泡43の崩壊の都度、大きな衝撃波wおよび反射波xが生じ、条件によっては、発生する衝撃波の圧力が約100MPaから約300MPaに達する。この衝撃波の圧力が約100MPaから約300MPaに達することは、本実施形態において明確に観測することができた。
【0049】
図4は、本発明の実施形態に係る細胞破砕装置および細胞破砕方法による狭隘空間のギャップと衝撃波の強さの関係を示した図である。
【0050】
図4に示すように、細胞破砕装置1または細胞破砕方法の狭隘空間Sに発生する衝撃波wおよび反射波xによる衝撃波の強さは、コマ33bの周波数によっても異なるものの、コマ33bと対向板27との間のギャップgが支配的である。衝撃波wは、狭隘空間Sのギャップgを約0.2mmから約10mmにすると、複数のキャビテーション泡43が相互に作用しながら反射波xを発生し、衝撃波の強さが高まる。なお、衝撃波wは、距離が大きくなるに従って拡散、減衰されるため、数十ミリ離れた場所では衝撃波としての作用を殆ど及ぼさない。
【0051】
すなわち、本実施形態に係る細胞破砕装置1および細胞破砕方法は、狭隘空間Sに発生するキャビテーション泡43の崩壊によって生じる衝撃波wと、その反射波xとの相互作用により、懸濁液2中の細胞Cの細胞膜または細胞壁を破砕し、細胞抽出液Eが含まれる処理液5を得ることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る細胞破砕装置1および細胞破砕方法は、細胞Cの細胞膜または細胞壁の破砕に掛かる時間が、従来の細胞破砕装置および細胞破砕方法に比べて極めて短い。これによって、懸濁液2および処理液5の温度上昇を十分に抑制することが可能となり、細胞Cに含まれる生体高分子を変性させることなく抽出できる。また、キャビテーションを発生させる以前の懸濁液2を十分に冷却し、かつ狭隘空間Sに供給する懸濁液2の流量を制御することで、懸濁液2および処理液5の温度上昇をさらに抑制することが可能である。さらに、細胞Cの細胞膜または細胞壁の破砕に掛かる時間が極めて短いとともに、狭隘空間Sに懸濁液2を流動させて細胞Cを破砕するため、懸濁液2を連続的に処理することが可能であり、処理液5を大量に生産することが容易に可能になる。
【0053】
したがって、本発明に係る細胞破砕装置1および細胞破砕方法によれば、所要の細胞Cを、その温度上昇を抑えつつ、短時間で破砕できる。
【符号の説明】
【0054】
1 細胞破砕装置
2 懸濁液
3 原液貯槽
4 処理槽
5 処理液
6 処理液貯槽
7 制御部
8 原液送給配管系統
9 処理液排出配管系統
11 温度計
12 冷却装置
13 攪拌機
15 冷媒配管
16 循環ポンプ
17 熱交換器
18 冷媒流量計
21 原液送給配管
22 原液送給ポンプ
23 原液送給流量調節弁
24 原液流量計
27a ノズル
27 対向板
28 振動発生装置
29 温度計
31 高周波電源装置
32 振動子
33 ホーン
33a 軸部
33b コマ
35 基礎
36 アーム
37 電源ケーブル
38 排出口
41 処理液送給配管
42 処理液送給弁
43 キャビテーション泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の細胞を含む懸濁液が貯留される原液貯槽と、
前記原液貯槽に接続された処理槽と、
前記処理槽に接続され、前記細胞を破砕して得られる細胞抽出液を含む処理液が貯留される処理液貯槽と、
前記処理槽に設けられ、前記原液貯槽から前記懸濁液が供給される孔を有する対向部と、
前記対向部との間に狭隘空間を介して対面され、前記狭隘空間に振動を発生させる振動発生部と、を備え、
前記狭隘空間に導入された前記懸濁液を振動させ、キャビテーションを発生させて前記細胞の細胞膜または細胞壁を破砕することを特徴とする細胞破砕装置。
【請求項2】
前記振動発生部は、略14kHz以上の高周波振動を発生させることを特徴とする請求項1に記載の細胞破砕装置。
【請求項3】
前記振動発生部は、超磁歪材料または圧電型セラミックス材料を用いた振動子を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の細胞破砕装置。
【請求項4】
前記狭隘空間は、前記振動発生部と前記対向部との間に略0.2mmから略10mmの隙間を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞破砕装置。
【請求項5】
前記原液貯槽に貯留された前記懸濁液を冷却する原液冷却部を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞破砕装置。
【請求項6】
前記狭隘空間から排出された前記処理液の温度が、前記細胞に含まれる生体高分子の変性温度より小さくなるように、前記狭隘空間に供給される前記懸濁液の流量および温度を制御する制御部を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞破砕装置。
【請求項7】
前記細胞は、クロレラであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の細胞破砕装置。
【請求項8】
対向部と、前記対向部との間に狭隘空間を介して対面する振動発生部と、を準備し、
前記狭隘空間に所定の細胞を含む懸濁液を供給し、
前記振動発生部の振動により、前記狭隘空間に導入した前記懸濁液にキャビテーションを発生させて前記細胞の細胞膜または細胞壁を破砕することを特徴とする細胞破砕方法。
【請求項9】
前記振動発生部は、略14kHz以上の高周波振動を発生させることを特徴とする請求項8に記載の細胞破砕方法。
【請求項10】
前記狭隘空間は、前記振動発生部と前記対向部との間に略0.2mmから略10mmの隙間を有することを特徴とする請求項8または9に記載の細胞破砕方法。
【請求項11】
前記狭隘空間に供給する以前の前記懸濁液の温度を前記細胞に含まれる生体高分子の変性温度より小さくなるように冷却することを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の細胞破砕方法。
【請求項12】
前記細胞は、クロレラであることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の細胞破砕方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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