説明

細胞積層体

【課題】再構成人工皮膚として利用可能な細胞積層体において、特に表皮細胞の十分な増殖が可能な細胞積層体を提供する。
【解決手段】第一の細胞層、酵素処理されていないIV型コラーゲンからなる層、及び第二の細胞層がこの順番で積層されている細胞積層体。上記細胞積層体は、生体移植材料として使用することができる。即ち、医療目的として、細胞積層体は疾患部位へ移植することができる。また、疾患部位に移植し、該部位に生着した後、血管への進入、細胞増殖、真皮再構築などが起こり、自己組織化していくことができる。この場合、移植される細胞積層体は、構造や機能が不完全であっても、いったん生着すれば生体内の因子の作用により自己組織化され、治療する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品・化粧品等の薬効試験及び安全性試験における試験系として利用でき、また生体移植用材料としても有用な、IV型コラーゲンを含む細胞積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞培養技術の進歩により、ヒトの臓器を人工的に再構成し、生体の持つ構造と機能を十分に満たす臓器代替物を作ることが可能となってきた。皮膚の基本構造は、表皮と真皮の類似組織を培養系で作ることができ、火傷や創傷治癒などへの臨床応用も行われている。このような生体材料を用いた再構成人工皮膚は、2つの利用法がある。第一の利用法は、医療目的で、現在では表皮と真皮の基本構造だけで疾患部位への移植が行われており、生着した後には血管の進入、細胞増殖、真皮再構築などが起こり、自己組織化していくことが知られている。この場合、移植する人工皮膚は構造や機能が不完全であっても、いったん生着すれば生体内のさまざまな因子の作用により自己組織化され治療の目的は達成するが、移植後の皮膚がより正常に近づくために、毛や汗腺などの皮膚付属器官を含む人工皮膚の開発が望まれている。第2の利用法としては、生体類似の構造と機能をもつ培養人工皮膚を用いて、皮膚の構造や機能維持のメカニズム解明のための、また生体関連物質や薬剤化合物などの効果や作用機構を研究するための、バイオアッセイ系としての活用があげられる。従来の単層培養細胞系では、生体と類似の応答性が必ずしも見られないことが多かった。その原因として、生体組織では細胞は単独で存在しているわけではなく、細胞−細胞間相互作用や細胞−細胞外マトリックス相互作用、さらには表皮−真皮のような組織間相互作用など、互いに影響しあって、生体皮膚としての機能を発現、維持していることがあげられる。この問題点を解決するために、培養人工皮膚は重要な実験系になるといえる。
【0003】
例えば、特許第3951148号公報には、繊維芽細胞を含むコラーゲン溶液をゲル化させ、皮膚付属器官を構成する細胞のスフェロイドを該コラーゲンゲルに接着あるいは内封させ、該スフェロイドを接着あるいは内封させたコラーゲンゲルに表皮角化細胞を播種し、真皮層が培養液下で、かつ、表皮角化細胞が空気中に出るよう培地を添加し、37℃、10%CO2 下で10〜15日間培養して、該スフェロイドに含まれた細胞と該表皮角化細胞との生長により、皮膚付属器官様構造物を形成する工程を含むことを特徴とする皮膚付属器官様構造体を含む人工皮膚の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法では、表皮細胞の成長・増殖が不十分であるという問題があった。
【0004】
一方、特開2007−261966号公報には、タンパク質の混入がなく、かつ分解や変性のないIV型コラーゲンとして、レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出され、かつ還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とするレンズカプセル由来IV型コラーゲンが記載されている。このレンズカプセル由来IV型コラーゲンは、食品分野、医薬・医療分野、及び美容分野などにおいて利用することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3951148号公報
【特許文献2】特開2007−261966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、再構成人工皮膚として利用可能な細胞積層体において、特に表皮細胞の十分な増殖が可能な細胞積層体、及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一の細胞層、酵素処理されていないIV型コラーゲンからなる層、及び第二の細胞層がこの順番で積層することによって、第二の細胞層としての表皮細胞が十分に増殖できる細胞積層体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、第一の細胞層、酵素処理されていないIV型コラーゲンからなる層、及び第二の細胞層がこの順番で積層されている細胞積層体が提供される。
好ましくは、第一の細胞層が線維芽細胞を含む。
好ましくは、第一の細胞層が、線維芽細胞を含有する生体親和性高分子からなる。
好ましくは、第一の細胞層が、線維芽細胞を含有するコラーゲンゲルである。
好ましくは、第二の細胞層が表皮角化細胞を含む。
【0009】
好ましくは、酵素処理されていないIV型コラーゲンがレンズカプセル由来である。
好ましくは、酵素処理されていないIV型コラーゲンが、レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出され、かつ還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とするレンズカプセル由来IV型コラーゲンである。
【0010】
本発明によればさらに、第一の細胞層に、酵素処理されていないIV型コラーゲンを積層してIV型コラーゲン層を形成し、次いで、上記のIV型コラーゲン層に、第二の細胞層を積層することを含む、上記した本発明の細胞積層体の製造方法が提供される。
【0011】
本発明によればさらに、上記した本発明の細胞積層体からなる、生体移植材料が提供される。
本発明によればさらに、上記した本発明の細胞積層体に被験物質を接触させることを含む、被験物質の試験方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞積層体は、第二の細胞層としての表皮細胞が十分に増殖できるという利点を有している。本発明の細胞積層体は、例えば、医薬品・化粧品等の薬効試験及び安全性試験における試験系として利用でき、また生体移植材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例における三次元培養皮膚モデルの作製の概要を示す。
【図2】図2は、HE染色した三次元培養皮膚モデル(コントロール)の中央部分(1)と周縁部分(2)の像を示す。
【図3】図3は、HE染色した三次元培養皮膚モデル(本発明のIV型コラーゲン)の中央部分(1)と周縁部分(2)の像を示す。
【図4】図4は、HE染色した三次元培養皮膚モデル(ペプシンで処理したIV型コラーゲン;比較例)の中央部分(1)と周縁部分(2)の像を示す。
【図5】図5は、皮膚モデルの表皮の厚さの求め方を示す。1つの皮膚モデルにおいて丸数字1〜3の3点の表皮の厚さを測定した。
【図6】図6は、皮膚モデルの表皮の厚さの求め方を示す。バーをつけた部分の長さを測定し表皮層の厚さとした。
【図7】図7は、皮膚モデルの表皮の厚さの測定結果を示す。皮膚モデル4個の表皮の厚さを測定し、計12点の値から平均の表皮の厚さを求めた。バーはSD。**controlに対する有意差:p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の細胞積層体においては、第一の細胞層、酵素処理されていないIV型コラーゲンからなる層、及び第二の細胞層がこの順番で積層されている。
【0015】
(第一の細胞層)
本発明における第一の細胞層は、第二の細胞層に含まれる細胞(例えば、表皮角化細胞など)の培養や分化に好適な皮膚の真皮層に相当する細胞層であり、例えば、線維芽細胞を含む細胞層を使用することができる。第一の細胞層としては、線維芽細胞などの細胞を生体親和性高分子(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸など)に播種又は内封したものを使用することができる。例えば、線維芽細胞とコラーゲン溶液の混合物を平板状にゲル化させたものを、第一の細胞層として用いることができる。このようなコラーゲンゲルの好ましい例としては、コラーゲン溶液に1×104〜106細胞/mlの線維芽細胞を混合し、適当な容器内にてゲル化し、細胞の作用によりコラーゲンゲルが平板状に収縮し、コラーゲン密度が20〜100mg/ml程度になるまで培養することにより得られるものを使用することができる。
【0016】
(第二の細胞層)
本発明における第二の細胞層に含まれる細胞の種類は特に限定されないが、好ましくは表皮角化細胞である。第二の細胞層に表皮角化細胞が含まれる場合、第二の細胞層には、表皮角化細胞以外の細胞を含めてもよいし、含めなくてもよい。第二の細胞(好ましくは、表皮角化細胞)は、好ましくは、0.5〜20×105 細胞/cm2 の密度で播種することができる。
【0017】
(酵素処理されていないIV型コラーゲンからなる層)
本発明では、酵素処理されていないIV型コラーゲンを用いる。本発明で用いる酵素処理されていないIV型コラーゲンの由来は特には限定されないが、好ましくはレンズカプセル由来である。好ましくは、酵素処理されていないIV型コラーゲンが、レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出され、かつ還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とするレンズカプセル由来IV型コラーゲンである。
【0018】
「レンズカプセル」とは、眼球内に存在するレンズの周囲を覆う膜状の構造物であり、発生学的に水晶体上皮細胞由来の基底膜と位置づけられている。「還元条件」とは、IV型コラーゲンの分子内及び分子間のジスルフィド結合の少なくとも一部が還元されて未架橋の状態になるような条件を意味し、例えば、β-メルカプトエタノール又はジチオスレイトールなどの還元剤とドデシル硫酸ナトリウムとを含む緩衝液を添加後、70℃以上で1分間以上加熱した状態を挙げることができる。
【0019】
本発明で用いるレンズカプセル由来IV型コラーゲンは、好ましくは、ポリペプチド鎖の片方又は両方の末端に分子間相互作用ドメインを有する。「分子間相互作用ドメイン」とは、ポリペプチドとポリペプチドが物理的に結合するために必要とする、ポリペプチドの領域である。また、本発明で用いるレンズカプセル由来IV型コラーゲンは、好ましくは、ポリペプチド鎖の分子内にGly-Xaa-Xbb(式中、Xaa及びXbbはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を示す)の繰り返し配列を有する。
【0020】
本発明で用いるIV型コラーゲンは、例えば、(1)リン酸緩衝液中においてレンズカプセルを攪拌し、沈殿を回収する工程、(2)工程(1)で得た沈殿を酸性水溶液中で攪拌し、IV型コラーゲンを含有する上清を回収する工程、及び(3)工程(2)で得た上清に塩を添加してIV型コラーゲンを沈殿させ、生じた沈殿を回収する工程によって製造することができる。上記した工程(1)から(3)は低温条件下において行うことができる。本発明における「低温条件」とは好ましくは、4℃以下を意味する。
【0021】
工程(1)で用いるリン酸緩衝液、及び/又は工程(2)で用いる酸性水溶液は、好ましくは、タンパク質分解酵素阻害剤を含む。本発明における「タンパク質分解酵素阻害剤」とは、ペプチド結合加水分解酵素を阻害する物質の総称である。例えば、Acetyl-Pepstatin、AEBSF、ALLM、ALLN、Amastatin、ε-Amino-n-caproic Acid、Aminopeptidase N Inhibitor、α1-Antichymotrypsin、Antipain、α2-Antiplasmin、α2-Antiplasmin、Antithrombin III、α1-Antitrypsin、p-APMSF、Aprotinin ATBI、Benzamidine、Bestatin、Calpastatin、Calpeptin、Carboxypeptidase Inhibitor、Caspase Inhibitor、Cathepsin Inhibitor、Chymostatin、Chymotrypsin Inhibitor、Cystat、1,5-Dansyl-Glu-Gly-Arg Chloromethyl Ketone、3,4-Dichloroisocoumarin、Diisopropylfluorophosphate、Dipeptidylpeptidase、E-64 Protease Inhibitor、Ecotin、EDTA、EGTA、Elastase Inhibitor、Elastatinal、EST、FUT-175、GGACK、2-Guanidinoethylmercaptosuccinic Acid、HDSF、α-Iodoacetamide、Kininogen、Leupeptin、α2-Macroglobulin、Pepstatin A、Phenylmethylsulfonyl Fluoride、Phosphoramidon、PPACK、Prolyl Endopeptidase Inhibitor、Serine Protease Inhibitor、Tripeptidylpeptidase II Inhibitor、Trypsin Inhibitor及びD-Val-Phe-Lys Chloromethyl Ketoneなどを挙げることができる。
【0022】
本発明で用いるIV型コラーゲンの具体的な製造方法については、特開2007−261966号公報の段落0027から段落0030に記載されており、当該記載は本明細書中に引用されるものとする。
【0023】
(細胞積層体の製造方法)
本発明の細胞積層体は、第一の細胞層に、酵素処理されていないIV型コラーゲンを積層してIV型コラーゲン層を形成し、次いで、上記のIV型コラーゲン層に、第二の細胞層を積層することによって製造することができる。より詳細には、本発明の細胞積層体は、例えば、以下の手順で製造することができる。先ず、線維芽細胞を含むコラーゲン溶液をゲル化して、線維芽細胞を含有するコラーゲンゲルを作成する。次に、上記コラーゲンゲルの上に、酵素処理されていないIV型コラーゲンを含む液をのせてインキュベートすることにより、線維芽細胞を含有するコラーゲンゲルの上に酵素処理されていないIV型コラーゲンを沈着させる。さらに、その上に、表皮角化細胞をのせて、適当な培地中で適当な培養条件下(例えば、37℃でCO2存在下)で培養することによって、表皮角化細胞を含む層を形成させることによって、本発明の細胞積層体を製造することができる。
【0024】
(細胞積層体の使用方法)
本発明の細胞積層体は、生体移植材料として使用することができる。即ち、医療目的として、本発明の細胞積層体は疾患部位へ移植することができる。本発明の細胞積層体を疾患部位に移植し、該部位に生着した後、血管への進入、細胞増殖、真皮再構築などが起こり、自己組織化していくことができる。この場合、移植される本発明の細胞積層体は、構造や機能が不完全であっても、いったん生着すれば生体内の因子の作用により自己組織化され、治療の目的を達成することができる。
【0025】
また、本発明の細胞積層体に被験物質を接触させることによって、被験物質の試験を行うことができる。即ち、生体と類似した構造と機能をもつ本発明の細胞積層体は、皮膚の構造や機能維持のメカニズムを解明するためのバイオアッセイ系、また生体関連物質や薬剤化合物などの効果や作用機構を研究するためのバイオアッセイ系として使用することができる。
【0026】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
(実施例の方法)
(1)三次元培養皮膚モデル作製
【0028】
材料
アプロチニン溶液:
アプロチニン約10 mgにmilliQ水 1 mlを加え、フィルター滅菌した。エッペンチューブに分注し−30℃で保存した。使用時にはアプロチニン溶液を皮膚モデル用培地に培地量の1/1000量添加して使用した。
【0029】
CaCl2溶液:
CaCl2・2H2O 294.04 mg/milliQ水 1 mlとし、ボルテクスにかけ攪拌し、フィルター滅菌した。エッペンチューブに分注し−30℃で保存した。
【0030】
皮膚モデル用培地:
正常ヒト新生児包皮線維芽細胞(以下、hFと略記)用培地10% FBS-DMEMとhEGFのみ添加していない正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(以下、hEKと略記)用培地を1:1で混合した。この培地500 mlに対してCaCl2溶液を225 μl(培地中最終カルシウム濃度1.8 mM)を添加した。この培地を50 mlファルコンチューブに分注し、AA2G(アスコルビン酸2-グルコシド)を培地量の1/1000量添加して使用した。
【0031】
IV型コラーゲン沈着用希釈液(100 μg/ml)
【0032】
方法
(A)真皮モデルコラーゲンゲル作製
以下の材料でhF 100×104cells、コラーゲン10 mgを含む10 mlのコラーゲンゲル溶液を60 mmのdishに分注し37℃・CO2インキュベーター中で培養した。培養2〜3日で直径1.5 cm程度まで収縮した真皮モデルとなった。
【0033】
【表1】

【0034】
(B)真皮モデル上でのIV型コラーゲンの沈着作製
コラーゲンゲル作製の3日後、収縮コラーゲンゲル(真皮モデル)をステンレスメッシュにのせ、それを 6 wellシャーレに移した。ゲルにガラスリング(内径12mm)をのせ、以下の溶液(400μl)をリング中に分注し、リングの外側にゲルが浸るようにhF用培地を加えた。37℃・CO2インキュベーター中で24時間培養し、真皮モデル表面にIV型コラーゲンを沈着させた。
【0035】
(i)コントロール(10%FBS-DMEM)
(ii)酵素処理されていない豚IV型コラーゲン:100 μg/ml 豚IV型コラーゲン(in DMEM)(特開2007−261966号公報の実施例1に記載の方法で製造したもの;還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量は160〜180kDaである
(iii)ペプシンで処理したIV型コラーゲン:100 μg/mlのペプシンで処理したウシIV型コラーゲン(DMEM中)(新田ゼラチン株式会社)
【0036】
上記(ii)に記載の豚IV型コラーゲンは、具体的には、以下のプロトコール(1)〜(16)に従い、ブタ眼球から得た。以下のプロトコールは4℃でおこなった。
【0037】
(1)眼球からハサミを用いて角膜を除き、レンズを眼球内部より取り出す。
(2)レンズに付着する硝子体などの不溶部位をハサミなどで出来る限り取り除く。
(3)冷PBS(phosphate buffered saline)50mlにコンプリート プロテアーゼインヒビターカクテル1錠(ロシュ社)を加え溶解後、レンズカプセルを入れ、2時間攪拌する。
(4)遠心分離(2000g、10分、4℃)し、上清に存在する不要部位を除去する。
(5)沈殿をコンプリート プロテアーゼインヒビターカクテル半錠(ロシュ社)を溶解した0.5M酢酸25mlに懸濁する。
(6)ホモジナイザー(IKA)を用いて細かく破砕する。
(7)細かく破砕したレンズカプセルを3日間攪拌し、IV型コラーゲンの抽出をおこなう。
(8)遠心分離(2000g、10分、4℃)し、上清(酢酸可溶性コラーゲン)と沈殿を分離する。
(9)この攪拌による抽出と遠心分離をもう一度繰り返す。
(10)遠心分離により得られた上清に終濃度1.7M になるように乳鉢で可能な限り結晶をすり潰した NaCl を添加する。
(11)一晩攪拌しコラーゲンを沈殿させる。
(12)遠心分離(5000g、30分、4℃)し、沈殿物を回収する。
(13)沈殿物に0.5M酢酸を加え、十分に溶解する。
(14)コラーゲン酸性水溶液を透析チューブ(三光純薬)に入れ、0.5M酢酸を用いて透析をおこなう。
(15)さらに、2mM塩酸で透析をおこなう。
(16)透析後のコラーゲン溶液を回収し、精製IV型コラーゲン溶液を得る。
【0038】
(C)表皮(hEK)の重層
hEKを回収し、hEK 40×104cells/皮膚モデル用培地0.4 mlとなるように細胞分散液を調製した。コラーゲンゲルのリング外側の培地とリング内の液を吸引し、hEK40×104cells/皮膚モデル用培地0.4 ml/コラーゲンゲル1枚となるように、細胞分散液を添加し、リングから外に細胞分散液が漏れていないかどうか確認した。各wellのリング外側にAA2Gを添加した皮膚モデル用培地を3 mlずつ添加し、hEKがリングの外に流れ出ないように静かに移動させ、37℃のCO2インキュベーター中で培養した。
【0039】
24時間後、ゲルと重層したhEKに注意しながらリング内外の培地を吸引し、ピンセットを用いてリングを外した。hEKの層が表面張力でリングに接着しているため、この層がゲル上に残るように注意して静かにリングを外した。AA2Gを添加した皮膚モデル用培地を2ml程度wellの端から添加した。皮膚モデルの表皮と真皮の境界まで浸り、表皮部分に培地が触れないように培地の量を 2ml〜3 ml程度に調整した。
【0040】
37℃のCO2インキュベーターで培養を続け、培地交換は2日おきに行った。hEK播種後7日目からアプロチニンを添加した培地を用意して培地交換を行い、14日目に回収した。
【0041】
上記した三次元培養皮膚モデルの作製の概要を図1に示す。
【0042】
(2)三次元培養皮膚モデルの固定・回収
材料
Zambobni固定液:
200 ml三角フラスコに蒸留水 70 ml、パラホルムアルデヒド 4 gを入れ、60〜70℃まで加熱し。1N NaOHを2,3滴入れ、振り混ぜて溶かした。溶解後、すぐに冷却し、0.5 M リン酸緩衝液(pH7.2)20 mlを加え、蒸留水で全量を100 mlとし、4% パラホルム/0.1 M リン酸緩衝液(pH7.2)を作製した。ここに0.2%ピクリン酸を溶解した。
【0043】
方法
皮膚モデルの固定・回収はZamboni固定液を用い、固定液やシャーレは氷上に置いて作製した。well中の培地を吸引除去し、PBSに2分程度浸して洗浄する。2回洗浄を繰り返し、Zamboni固定液に2分程度浸して洗浄する。Zamboni固定液で2回洗浄した後、Zamboni固定液を分注したサンプルビンにサンプルを入れ、4℃で保存した。
【0044】
(3)三次元皮膚モデルの組織学的解析
(3−1)パラフィン切片作製
Zamboni固定皮膚モデルを0.1Mリン酸緩衝液に浸し、数回液を交換して固定液を置換した。剃刀で皮膚モデルを短冊状に切断し、パラフィン包埋し、ミクロトームで4 μmに薄切し、スライドグラスに貼って45℃で乾燥させた。室温で保存した。
【0045】
(3−2)凍結切片作製
材料
・OCT
・ガムシュークロース液
300 ml三角フラスコにmilliQ 140 mlを入れ、アラビアゴム 2.5 mgを入れ、ホットスターラ―で攪拌して完全に溶解した。常温でスクロース 75 gを加えて溶解した。0.5 Mリン酸緩衝液を加えて攪拌し、全量を250 mlとして攪拌した。これを濾紙と漏斗を用いて濾過し、4℃で保存した。
【0046】
方法
短冊状に切断したサンプルを0.1 Mリン酸緩衝液で一晩洗浄した。4℃でガムシュークロースに一晩浸し、さらにガムシュークロース:OCT=1:1の混合液に一晩浸した。OCTで包埋し、Cryostatで10μmに薄切し、スライドグラスに貼って−25℃で保存した。
【0047】
(3−3)Hematoxylin-Eosin染色(HE染色)
パラフィン切片をキシレンによって脱パラフィン処理した後、100%から70%のエタノールに順に浸して置換した。蒸留水で洗浄した後ヘマトキシリン染色液に5分間浸し、流水で洗浄した。その後、0.2% HClアルコールに1秒浸し、流水で10分間洗浄した。さらにエオジン染色液に10分浸して、95%〜100%のアルコールで脱水し、キシレンに2〜3分浸漬する。封入剤をのせたプレパラートをのせ、乾燥させて封入した。
【0048】
(実施例の結果)
上記のHE染色の結果を図2から図4に示す。今回の実験では、コントロールで、皮膚モデルの周縁部分は表皮層が厚く重層化していたが、のせたリング内にあたる中央部分では表皮層が周辺部に比べ薄かった。それに対し、ブタIV型コラーゲンを沈着させた皮膚モデルでは、表皮層の厚さが一様であり、中央部分でも周縁部分でもコントロールより厚く重層していた。基底層の細胞はコントロールと比べ、縦に長い形状のものが多いように観察された。また、扁平な細胞層に核が染色されている細胞がまばらに存在しており、不完全角化が見られた。ペプシン抽出したIV型コラーゲンを沈着させた皮膚モデルでは、コントロールと同様に中央部分の表皮層が薄く、周縁部分の表皮層が厚かった。角層の染色が確認されなかった。
【0049】
また、コントロール、酵素処理されていないIV型コラーゲン、及びペプシン処理したIV型コラーゲンの皮膚モデル各4個について、それぞれ中央と中央から3mmの2点の計3点の表皮層の厚さを測定した。皮膚モデル4個分を合計して計12点の測定値から平均の表皮の厚さを求めた(図5及び図6)。結果を図7に示す。酵素処理されていないブタIV型コラーゲンを沈着させた皮膚モデルはコントロールと比較して表皮層の厚さが有意に増加していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の細胞層、酵素処理されていないIV型コラーゲンからなる層、及び第二の細胞層がこの順番で積層されている細胞積層体。
【請求項2】
第一の細胞層が線維芽細胞を含む、請求項1に記載の細胞積層体。
【請求項3】
第一の細胞層が、線維芽細胞を含有する生体親和性高分子からなる、請求項1又は2に記載の細胞積層体。
【請求項4】
第一の細胞層が、線維芽細胞を含有するコラーゲンゲルである、請求項1から3の何れかに記載の細胞積層体。
【請求項5】
第二の細胞層が表皮角化細胞を含む、請求項1から4の何れかに記載の細胞積層体。
【請求項6】
酵素処理されていないIV型コラーゲンがレンズカプセル由来である、請求項1から5の何れかにに記載の細胞積層体。
【請求項7】
酵素処理されていないIV型コラーゲンが、レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出され、かつ還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とするレンズカプセル由来IV型コラーゲンである、請求項1から6の何れかに記載の細胞積層体。
【請求項8】
第一の細胞層に、酵素処理されていないIV型コラーゲンを積層してIV型コラーゲン層を形成し、次いで、上記のIV型コラーゲン層に、第二の細胞層を積層することを含む、請求項1から7の何れかに記載の細胞積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7の何れかに記載の細胞積層体からなる、生体移植材料。
【請求項10】
請求項1から7の何れかに記載の細胞積層体に被験物質を接触させることを含む、被験物質の試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−4935(P2011−4935A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150934(P2009−150934)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】