説明

細胞膜媒介性作用の調節

【課題】グリセロールベースの化合物のファミリーのうち1つ以上を用いて、感染性微生物及び多様な因子の脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を阻害する方法を提供する。
【解決手段】被験体においてガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)感染を治療又は予防するための組成物であって、有効量のグリセロールモノラウレート(GML)と製薬上許容されうる担体とを含む、ただしGMLが、脊椎動物細胞膜を媒介するガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)の1つ以上の作用を阻害する、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本出願に記載された研究の一部は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)の米国国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)及び米国国立アレルギー感染病研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)から、それぞれ助成金番号HL36611及びAI57164による助成を受けた。従って、連邦政府は本発明について特定の権利を有する。
【0002】
技術分野
本発明は、脊椎動物の被験体における細胞膜媒介性作用に関連する病的状態、及び特にこれらの効果の調節に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
細胞膜媒介性作用によって宿主細胞に対し病原活性を発揮する感染性の病原体(並びに他の作用因子、例えば病原性毒素及び炎症性因子)によりもたらされ続けている人的、社会的、及び経済的損失のため、適切な被験体へと送達する上で安価であり簡単に運搬される有効な新しい治療及び/又は予防用の化合物を引き続き開発することは、依然として重要課題である。
引用文献1〜16には、脂肪酸グリセリド等のグリセロールベースの化合物が、細菌、ウイルス、原虫、真菌、溶血素、外毒素など多様な菌やウイルス等に有効であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平2-502915号公報
【特許文献2】特表2001-501181号公報
【特許文献3】特開平11-79988号公報
【特許文献4】特開平3-244349号公報
【特許文献5】国際公開第97/25032号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kabara, J.J.., Journal of the American Oil Chemists’ Society, 1984; 61(2): 397-403
【非特許文献2】Schievert, P.M. et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 1992; 36(3): 626-631
【非特許文献3】Bergsson, G. et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 2001; 45(11): 3209-3212
【非特許文献4】Kabara, J.J. et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 1972; 2(1): 23-28
【非特許文献5】Quimby, F. et al., Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, 1991; 91: 28, B-17
【非特許文献6】Brown-Skrobot, S.K. et al., Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, 1991; 91: 28, B-18
【非特許文献7】Melish, M. et al., Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, 1991; 91: 28, B-19
【非特許文献8】Projan, S.J. et al., Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, 1992; 92: 50, B-147
【非特許文献9】Parsonnet, J. et al., Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, 1992; 92: 50, B-148
【非特許文献10】Geshinizgani, A. et al., Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, 1992; 92: 244, I-45
【非特許文献11】Ross, R.A. et al., Abstracts of the General Meeting of the American Society for Microbiology, 1994; 94: 323, N-43
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明は部分的に、グリセロールモノラウレート(GML)が、感染性微生物及び/又は感染性微生物によって産生される因子の脊椎動物細胞に対する病原性の細胞膜媒介性作用を阻害するという本発明者らの発見に基づく。
【0007】
例えば、本発明者らは感染性の微生物及び/又は微生物因子(例えば、リポ多糖又はスーパー抗原などの外毒素、内毒素)が哺乳動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を有するということを観察している。このような細胞膜媒介性作用としては、例えば、上皮細胞のリンパ球増殖の増強、感染、及び/又は炎症反応の活性化、並びに赤血球(RBC)の溶解が挙げられる。本発明者らはさらに、GMLがこれらの細胞膜媒介性作用を緩和し又は阻止するということを見出している。これらの観察を考慮すると、GML及び関連の分子は、本明細書に記載されているような細胞膜媒介性作用に関連する病的状態に対する有効な治療及び/又は予防用薬剤であると思われる。さらにGMLが、偏性細胞内細菌であるクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、及びウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)1 (HIV-1)による感染に対して阻害効果を及ぼしたという観察を考慮すると、GML及び関連の化合物が、脊椎動物細胞と他のウイルス及び偏性細胞内病原菌との接触によって引き起こされる脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を阻害する上で有効である可能性が高い。GML及び関連の化合物は、大量生産し、輸送し、該当する被験体に投与する上で単純かつ安価である。さらに、このような薬の標的は感染性微生物自体ではないので、当該感染性生物による薬剤耐性の発達は、この薬を用いるレジメンの不利益とはならないであろう。
【0008】
さらに具体的には、本発明は細胞膜媒介性作用を阻害する方法を提供する。この方法は、以下のステップ:
(a)感染性微生物、又は感染性微生物に関連する微生物因子に曝露されているか、曝露されている可能性が高いか、又は曝露される可能性が高い脊椎動物の被験体を同定するステップであって、該感染性微生物は脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を有し、該細胞膜媒介性作用が該脊椎動物の被験体の病的状態に関連している前記ステップ、及び(b)該被験体に、単離されたグリセロールベースの化合物を投与するステップであって、該化合物が(i)細胞膜媒介性作用を阻害し、且つ(ii)下記の式:
【化1】

【0009】
[式中、R1は、OH、CO(CH2)8CH3、CO(CH2)9CH3、CO(CH2)10CH3、CO(CH2)11CH3、CO(CH2)12CH3、O(CH2)9CH3、O(CH2)10CH3、O(CH2)11CH3、O(CH2)12CH3、又は O(CH2)13CH3であってよく、
R2は、OH、CO(CH2)8CH3、CO(CH2)9CH3、CO(CH2)10CH3、CO(CH2)11CH3、CO(CH2)12CH3、O(CH2)9CH3、O(CH2)10CH3、O(CH2)11CH3、O(CH2)12CH3、又はO(CH2)13CH3であってよく、そして
R3は、CO(CH2)8CH3、CO(CH2)9CH3、CO(CH2)10CH3、CO(CH2)11CH3、CO(CH2)12CH3、O(CH2)9CH3、O(CH2)10CH3、O(CH2)11CH3、O(CH2)12CH3、又はO(CH2)13CH3であってよい。]
で示される構造を含むグリセロールベースの化合物である前記ステップ、を含む。
【0010】
脊椎動物細胞は、例えば、上皮細胞、RBC、又はリンパ球、例えばT細胞又はB細胞であり得る。感染性微生物は細菌、例えばスタフィロコッカス(Staphylococcus)(例えばスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))、ナイセリア(Neisseria)(例えばナイセリア・ゴノレエ(Neisseria gonorrheae))、ストレプトコッカス(Streptococcus)(例えばストレプトコッカス・ピオゲネス (Streptococcus pyogenes))、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、ガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)、ヘモフィルス・デュクレイ (Haemophilus ducreyi)、バシラス(Bacillus)(例えばバシラス・アンスラシス (Bacillus anthracis))、クロストリジウム(Clostridium)(例えばクロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens))、ヘモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi)、及びトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)であり得る。感染性微生物はまた、ウイルス、例えばHIV-1、HIV-2、単純ヘルペスウイルス(HSV)、又はヒトパピローマウイルス(HPV) であり得る。さらに、感染性微生物はまた、原生動物、例えばトリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)、又は真菌、例えばカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)であり得る。被験体は、本明細書において列挙される任意の脊椎動物(例えば、哺乳類)被験体であってよく、例えば、ヒトが挙げられる。
【0011】
本発明は、細胞膜媒介性作用を阻害する別の方法を一態様とする。この方法は、以下のステップ:(a) (i)脊椎動物の被験体が曝露されている因子の被験体における脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用に関連する病的状態を有する可能性が高いか、又はその病的状態を発症する可能性が高い該脊椎動物の被験体を同定するステップ、あるいは(ii)脊椎動物細胞に対する細胞媒介性作用を有する因子に曝露されているか、曝露されている可能性が高いか、又は曝露される可能性が高い脊椎動物の被験体を同定するステップであって、ここで該細胞媒介性作用が該脊椎動物の被験体において病的状態をもたらし得る前記ステップ、及び(b)被験体に、上記に列挙されたこれら化合物のいずれでもよい単離されたグリセロールベースの化合物を投与するステップであって、該化合物が、該因子による脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を阻害するものである、前記ステップ、を含む。脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を引き起こし得る因子は、多種多様な天然に存在する物質及び合成物質を含み、例えばタンパク質、核酸、炭水化物及び脂質などの小分子及び生体分子が挙げられ、本明細書において列挙される微生物物質及び非微生物物質の任意のものであり得るが、これらに限定されるものではない。脊椎動物細胞及び被験体は各々、本明細書において列挙される脊椎動物細胞のいずれか及び脊椎動物被験体のいずれかであり得る。病的状態は、例えば、乾癬、アトピー性皮膚炎、又は皮膚丘疹もしくは膿疱、毒素性ショック症候群(TSS)、肺炎、皮膚感染に関連する菌血症(例えば蜂巣炎、丹毒、又は外科創傷もしくは非外科創傷の感染)、深在性軟部組織感染(例えば筋炎又は壊疽性筋膜炎)、髄膜炎、腹膜炎、骨髄炎、敗血症性関節炎、分娩後敗血症(例えば産褥熱)、新生児敗血症、全ての形態の食中毒(例えば、サルモネラ中毒、ブドウ球菌エンテロトキシン媒介食中毒、大腸菌旅行者下痢、コレラ、細菌性赤痢、及びボツリヌス中毒症)、及びウイルス感染であり得る。
【0012】
別の態様において、本発明は細胞膜媒介性作用を阻害するin vitroでの方法を提供する。本発明は、(a) 脊椎動物細胞を、(i)該脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を有するか、若しくは該脊椎動物細胞に対する該細胞膜媒介性作用を有する脊椎動物メディエーターの細胞による産生を培養物中で誘発する、感染性微生物、又は(ii) 該脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を引き起こす微生物因子、と共に培養するステップ、及び(b) ステップ(a)の前に、それと同時に、又は後に、脊椎動物細胞を、上記に列挙された化合物のいずれかであり得る単離されたグリセロールベースの化合物と接触させるステップ、を含む。この脊椎動物メディエーターは、本明細書において列挙される炎症性又は免疫刺激性メディエーターのいずれかであってよく、上で言及した脊椎動物細胞又は該培養物中の他の脊椎動物細胞のいずれかによって産生され得る。グリセロールベースの化合物は、感染性微生物、感染性微生物によって培養物中で誘導される脊椎動物メディエーター、及び/又は微生物因子による脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を阻害する。脊椎動物細胞、微生物因子、及び感染性微生物は、本明細書において列挙されるいずれのものでもよい。
【0013】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、互換的に用いられ、長さ又は翻訳後修飾に関わらず、任意の、アミノ酸のペプチド結合鎖を意味する。本発明において用いるポリペプチドは、保存的置換を有するポリペプチドを含む。保存的置換としては、典型的には以下の群内の置換が挙げられる:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン及びトレオニン;リジン、ヒスチジン及びアルギニン;並びにフェニルアラニン及びチロシン。一般的には、保存的置換を有する変異型ポリペプチドは、40以下(例えば、35、30、25、20、15、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1以下)の保存的置換を含有するだろう。必要なのは、変異型ポリペプチドが、野生型ポリペプチドの少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%、又は100%もしくはそれ以上)の活性を有することだけである。
【0014】
本明細書において使用される「微生物因子」は、(a)感染性微生物(例えば細菌)によって生成されるか、又は(b)感染性微生物(例えばウイルス)に感染した脊椎動物細胞によって産生されるがその感染性微生物に感染していない場合には同じ脊椎動物細胞によっては産生されない因子である。従って、「微生物因子」は、例えば、細菌によって産生される溶血素、関連のウイルスに感染した脊椎動物細胞によって産生されるウイルスコードタンパク質、又は脊椎動物細胞が保持する感染性微生物によってコードされた酵素により触媒される脊椎動物細胞における反応の産物であり得る。他方、「微生物因子」は、例えば、感染性微生物に感染した脊椎動物細胞であって、たとえ感染性微生物に感染していなくても該因子を産生する能力を有する脊椎動物細胞によって産生され、その遺伝子によってコードされる野生型因子(例えば、炎症性又は免疫刺激性メディエーター)ではない。従って、「感染性微生物に関連する微生物因子」は、(a)該感染性微生物によって、又は(b)該感染性微生物に感染した脊椎動物細胞によって産生され得るが、いずれの感染性微生物にも感染していない脊椎動物細胞によっては産生され得ない因子である。
【0015】
本明細書において使用される「単離された化合物」という用語は、天然の対応物が存在しないか、又は天然にそれと共存する成分(例えば、膵臓、肝臓、脾臓、卵巣、精巣、筋肉、関節組織、神経組織、胃腸組織もしくは腫瘍組織などの組織中で、又は血液、血清もしくは尿などの体液中で)から分離もしくは精製されている化合物(例えばGML)を指す。典型的には、天然の生体化合物は、その生体化合物と天然では共存している他の天然有機分子が乾燥重量で少なくとも70%除去されている場合、「単離された」と考えられる。好ましくは、本発明において用いるための化合物の調製物は、乾燥重量で、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも99%の当該化合物である。単離の程度すなわち純度は、任意の適当な方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析によって測定することができる。化学的に合成した化合物(例えばGML)は、本来的に、天然ではその化合物と共存する成分から分離されているため、該合成化合物は、定義に従い、「単離され」ている。
【0016】
単離された化合物、及び本発明に有用なさらなる薬剤は、例えば(i)天然源から(例えば、組織又は体液から)の抽出によって、(ii) 該化合物がタンパク質である場合は該タンパク質をコードする組換え核酸の発現によって、又は(iii)当業者に公知の標準的な化学合成法によって得ることができる。天然の由来源とは異なる細胞系において産生されるタンパク質は、「単離されて」いる。なぜなら、このタンパク質には必然的に、それと天然では共存する成分を含まないであろうからである。
【0017】
別途定義しない限り、本明細書において用いる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されている用語と同じ意味を有する。不一致がある場合には、定義を含む本明細書が規定することとする。好ましい方法及び材料は後述されるが、本明細書に記載される方法及び材料と類似又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験において用いることができる。本明細書において言及する全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参照によりその全体が組み入れられる。本明細書において開示する材料、方法及び例は一例にすぎず、限定を意図するものではない。
【0018】
本発明はまた、以下の発明を包含する。
(1)被験体においてガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)感染を治療又は予防するための組成物であって、有効量のグリセロールモノラウレート(GML)と製薬上許容される担体とを含む、ただしGMLが、脊椎動物細胞膜を媒介するガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)の1つ以上の作用を阻害する、前記組成物。
(2)前記脊椎動物細胞膜を媒介する作用が、前記脊椎動物細胞への感染性微生物の侵入の促進を含む、上記(1)に記載の組成物。
(3)前記脊椎動物細胞膜を媒介する作用が、前記脊椎動物細胞の活性化をもたらす、上記(1)に記載の組成物。
(4)前記脊椎動物細胞の活性化が、前記被験体における炎症を増強する、又は前記感染性微生物による前記被験体の感染を促進する、メディエーターの、該脊椎動物細胞による合成又は分泌を増大させる、上記(3)に記載の組成物。
(5)前記脊椎動物細胞膜を媒介する作用が、前記脊椎動物細胞の溶解をもたらす、上記(1)に記載の組成物。
(6)前記GML化合物が、前記脊椎動物細胞におけるアポトーシスの誘導による脊椎動物細胞膜を媒介する作用を阻害する、上記(1)に記載の組成物。
(7)前記GMLが、前記脊椎動物細胞における細胞アネルギーの誘導による脊椎動物細胞を媒介する作用を阻害する、上記(1)に記載の組成物。
(8)前記脊椎動物細胞が上皮細胞である、上記(1)に記載の組成物。
(9)前記上皮細胞が膣細胞である、上記(8)に記載の組成物。
(10)前記被験体がヒトである、上記(1)に記載の組成物。
(11)前記組成物が、クリーム、ゲル又は泡である、上記(1)に記載の組成物。
【0019】
本発明の他の特徴及び利点、例えば、細胞の感染を阻害することは、下記の説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この図は、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)毒素性ショック症候群毒素-1(TSST-1;100μg/ml)への3時間及び6時間の曝露の後の、HVEC培養物の上清中のサイトカイン(A)及びケモカイン(B)タンパク質のレベルを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
概要の節に概説した発明者らの実験は、GMLが多様な細菌及び因子(例えば、微生物及び非微生物)の脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用を阻害することを示唆する。細胞膜媒介性作用及び/又は脊椎動物細胞における細胞膜媒介性作用によって活性化される生体内作用を阻害するGMLの能力を例証する実施例が提供される。例えば、ヒト膣上皮細胞(HVEC)においては、GMLは(i)多様な細菌(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)、ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrhoeae)、ストレプトコッカス・ピオゲネス (S. pyogenes)及びクラミジア・トラコマティス(C. trachomatis))による感染、及び(ii)感染性微生物(例えばスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus))又は外毒素(例えばスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)TSST-1)に応答した、炎症性メディエーター(例えば、ケモカイン及びサイトカイン)をコードする遺伝子の発現(mRNA及びタンパク質合成の両方について)を阻害した。さらにGMLは、HIV-1によるヒトT細胞の感染を阻害した。GMLはまた、多様な細菌の外毒素(例えば、TSST-1、α-溶血素、ストレプトリジンO及びストレプトリジンS、並びにバシラス・アンスラシス (B. anthracis)外毒素)によるRBCの溶解を阻害した。さらにGMLは、細菌産物TSST-1及びリポ多糖(LPS)による活性化の後、リンパ球(例えばT及びB細胞)の増殖を阻害した。従って、GML及び関連の化合物は、多様な任意の作用因子がもつ脊椎動物細胞膜媒介性作用及び、間接的には、これらの作用から生じる現象を阻害し、又は除去することすらできると考えられる。
【0022】
GML、又は関連の化合物は、当該感染性微生物による脊椎動物の被験体の細胞への感染を阻害することによって、該被験体の感染を阻害することができる(最も可能性が高いのは、感染性微生物の細胞への侵入を阻害することによるものである)。或いは、GML、又は関連の化合物は、脊椎動物被験体における感染性微生物の、又はこれらの感染性に関連する微生物因子の、脊椎動物被験体において感染過程を増強することができる1以上の炎症性又は免疫刺激性メディエーターの該被験体の細胞による産生を誘導する能力を阻害することによって、脊椎動物細胞の感染を阻害することができる。GML、及び関連の化合物は、例えば、脊椎動物細胞の細胞膜に結合し、そして、感染性微生物又は微生物因子の脊椎動物細胞の細胞膜への結合後に該細胞による1以上の炎症性又は免疫刺激性メディエーターの産生をもたらす多様な脊椎動物細胞過程のいずれかを阻害することによって、作用することができる。このような細胞過程としては、例えば細胞活性化、細胞溶解、アポトーシス、又は細胞ネクローシスが挙げられる。炎症性及び免疫刺激性メディエーターとしては、限定するものではないが、例えばサイトカイン、ケモカイン、成長因子、又は脊椎動物細胞の活性化、ネクローシス、溶解、又はアポトーシスの際に放出される複数の細胞成分のいずれかであって、多様な機構のいずれかによって、当該微生物による被験体の感染の促進に働く前記成分、が挙げられる。このような機構としては、限定するものではないが、例えば微生物の細胞外複製の増強、細胞の微生物取り込み及び/又は微生物の細胞内複製の増強、生体部位間の微生物の移動の増大、感染部位への血流増加、宿主細胞の増殖の増強(例えば、ウイルス感染した宿主細胞)、他の炎症性及び/又は免疫刺激性メディエーターの産生の増強、及び/又は体温の局所的又は全身的上昇が挙げられる。目的の炎症性及び免疫刺激性メディエーターとしては、これに限定するものではないが、例えば腫瘍壊死因子-α[TNF-α]、インターロイキン[IL]-1β、インターフェロン-γ[INF-γ]、マクロファージ炎症性タンパク質-3α[MIP-3α]、IL-6、及びIL-8が挙げられる。
【0023】
さらに、又はこれに代えて、GML(又は関連の化合物)は、間接的に作用し、、感染性微生物又は微生物因子に応答してこの宿主細胞又は被験体の別の細胞により産生される内因的な炎症性又は免疫刺激性メディエーター(例えば、上記に記載したメディエーターのいずれか)に対して応答することができる被験体の細胞(すなわち、宿主細胞中)の能力を阻害することによって、脊椎動物被験体の感染を阻害することができる。これらメディエーターに対する宿主細胞の反応性を阻害することによって、GML(又は関連の化合物)は、該被験体の感染を(i)宿主細胞の感染を阻害すること、又は(ii)他の炎症性及び/又は免疫刺激性メディエーターの宿主細胞による産生を阻害すること、によって阻害することができる。
【0024】
従って、GML(又は関連の化合物)は、多様な感染性微生物による感染に対する有効な治療及び/又は予防用の薬剤であり得る。さらに、細胞膜媒介性作用(例えば、受容体媒介型又は非特異的細胞膜結合作用)を阻害する能力の点で、GML(及び関連の化合物)は、たとえ活性化の本質自体が不明であるとしても、望ましくない脊椎動物細胞の死、脊椎動物細胞に対する毒性、微生物性薬剤又は非微生物性因子(例えば植物又は動物の分子)による炎症性の応答又は免疫応答に対して有効となり得る。従って、GML(及び関連の化合物)は、多様な症状、例えば望ましくない炎症性及び/又は免疫応答の治療に用いることが可能であり、これらの応答が感染性微生物に関連していても、或いは他の微生物性又は非微生物性の炎症性もしくは抗原性作用因子の幾つかに関連していても、用いることができる。
【0025】
本明細書において用いられる、脊椎動物細胞に対する「細胞膜媒介性作用」を有し、脊椎動物被験体における病的状態に関連する作用因子(例えば、感染性微生物、微生物因子、非微生物因子、又は脊椎動物宿主因子)は、脊椎動物細胞の細胞膜に関わる直接又は間接の機構(上記参照)によって(i) 脊椎動物細胞の活性化、死、溶解又はアポトーシス、(ii)感染性微生物、微生物因子、非微生物因子、又は脊椎動物メディエーターの、脊椎動物細胞への侵入の促進、(iii) 細胞膜成分(例えば受容体)の、感染性微生物、微生物因子、非微生物因子、又は脊椎動物宿主メディエーターと結合する能力の増強、及び/又は(iv) 感染性微生物、微生物因子、非微生物因子、又は脊椎動物宿主メディエーターに対する脊椎動物細胞膜の増強された透過性、を引き起こす作用因子である。
【0026】
関連する病的状態は、上に記載されたいずれかの作用因子のもつ、該作用因子が細胞膜に結合している脊椎動物細胞に対する作用に起因するものであってよく、例えばT及び/又はB細胞の細胞膜と物理的に相互作用する作用因子(HIV-1又はHIV-2など)によって誘導されるT及び/又はB細胞ネクローシス又はアポトーシスの結果として生じるAIDSなどの免疫不全疾患であってよい。或いは、該病的状態は、そのような物理的相互作用に間接的に起因し、相互作用の結果として脊椎動物細胞によって産生されるメディエーター、例えば該作用因子が細胞膜に結合している脊椎動物細胞(例えば、マクロファージ、単球及び/又は上皮細胞)から放出されるメディエーターから、生じ得る。
【0027】
「脊椎動物細胞の活性化」としては、例えば細胞の成長の惹起、細胞の成長の増強、細胞の増殖(すなわち分裂)の惹起、増殖(すなわち、細胞分裂)の増強、細胞による可溶性メディエーター(例えば、炎症性又は免疫刺激性メディエーター)の産生の惹起、及び/又は該細胞によるこのような可溶性メディエーターの産生の増強、が挙げられる。
【0028】
本発明の様々な態様については下に論じる。
【0029】
グリセロールモノラウレート(GML)及び関連の化合物を用いた細胞の処理方法
本発明の方法は、広範囲の感染性微生物又は微生物もしくは非微生物起源の感染性分子のいずれかによる脊椎動物細胞に対する細胞膜媒介性作用(例えば、上記参照)を阻害するために、脊椎動物細胞とGML及び/又は関連の化合物とを接触させることを含む。本明細書において用いられる「感染性微生物による脊椎動物細胞の感染」は、感染性微生物の脊椎動物細胞への侵入を意味するが、それに続いて該脊椎動物細胞における該感染性微生物の複製がその後に続く場合があってもよい。「脊椎動物細胞の感染の阻害」は、感染性微生物の脊椎動物細胞への侵入、及び/又は感染性微生物の脊椎動物細胞における複製の阻害を意味する。
【0030】
GML又は関連の化合物を用いて治療し得る脊椎動物細胞は、その内部でGML(又は関連の化合物)が感染性微生物、微生物因子、又は非微生物因子(例えばアレルゲン又は宿主細胞メディエーター)の細胞膜媒介性作用を阻害することができる脊椎動物細胞のいずれでもよい。このような細胞としては、例えば、上皮細胞(例えば、ケラチノサイトなどの皮膚上皮細胞;例えば鼻、頬側、気管、気管支、肺、肛門、直腸、膣、又は尿道の表面などの粘膜表面上の上皮細胞;膀胱上皮細胞;子宮上皮細胞;胃腸(例えば胃又は結腸)上皮細胞;腎臓上皮細胞;肝臓上皮細胞;神経(例えば脳)上皮細胞;又は乳房上皮細胞);RBC、及びリンパ球、例えばT(CD4+及びCD8+)細胞並びにB細胞が挙げられる。本発明者らによって観察されたGMLの幅広い活性(すなわち、広範囲の脊椎動物細胞、例えば上皮細胞、リンパ球及びRBCに対する作用)を考慮すると、GML及び関連の産物が、付加的な細胞種、例えば単球/マクロファージ、任意の筋肉細胞、及び精子に対して本明細書において記載されたように作用するだろうということが予期される。脊椎動物(例えば、哺乳動物)細胞は、任意の脊椎動物種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、チンパンジー及びヒヒ)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ラット、マウス、及びトリ、例えばニワトリ、シチメンチョウ、及びカナリヤに由来し得る。
【0031】
上皮細胞に関して、適当な感染性微生物としては、本明細書に記載されたいずれかの上皮細胞に感染し及び/又は該細胞を活性化することができる任意の感染性微生物が挙げられる。目的の細菌としては、これに限定するものではないが、例えばスタフィロコッカス(Staphylococci)(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)、スタフィロコッカス・インテルメディウス(S. intermedius)、スタフィロコッカス・エピデルミディス (S. epidermidis)、及び他のコアグラーゼ陰性スタフィロコッカス(Staphylococci))、ナイセリア(Neisseriae)(例えば、ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)及びナイセリア・メニンジティディス(N. meningitidis))、ストレプトコッカス(Streptococci) (例えば、グループAストレプトコッカス(Streptococcus) (例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス (S. pyogenes))、グループBストレプトコッカス(Streptococcus) (例えば、ストレプトコッカス・アガラクティエ(S. agalactiae))、グループCストレプトコッカス(Streptococcus)、グループGストレプトコッカス(Streptococcus)、ストレプトコッカス・ニゥモニエ(S. pneumoniae)、及びヴィリダンス・ストレプトコッカス(viridans Streptococci))、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、トレポネーマ(Treponemae) (例えば、トレポネーマ・パリダム(T. pallidum)、トレポネーマ・パーテニュエ(T. pertenue)、及びトレポネーマ・カラテウム(T. cerateum))、ヘモフィルス細菌(Haemophilus bacteria)(例えば、ヘモフィルス・デュクレイ (H. ducreyi)、ヘモフィルス・インフルエンザ(H. influenzae)、及びヘモフィルス・エジプティウス(H. aegyptius))、ボルデテラ(Bordetellae)(例えば、ボルデテラ・ペルツッシス(B. pertussis)、ボルデテラ・パラペルツッシス(B. parapertussis)、及びボルデテラ・ブロンキセプチカ(B. bronchiseptica))、ガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)、バシラス(Bacillus) (例えば、バシラス・アンスラシス(B. anthracis)及びバシラス・セレウス(B. cereus))、及びクロストリジウム(Clostridium) (例えばクロストリジウム・ペルフリンゲンス(C. perfringens)、クロストリジウム・セプティカム(C. septicum)、ノーヴィー菌(C. novyi)、及びクロストリジウム・テタニ(C. tetani))、大腸菌(Escherichia coli)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、サルモネラ細菌(Salmonella bacteria) (例えば、サルモネラ・エンテリディティス(S. enteriditis)、サルモネラ・ティフィムリウム(S. typhimurium)、及びサルモネラ・ティフィ(S. typhi))、シゲラ細菌(Shigella bacteria)、マイコバクテリア(Mycobacteria)、フランシセラ細菌(Francisella bacteria)、エルシニア細菌(Yersinia bacteria) (例えばエルシニア・ペスティス(Y. pestis))、ブルクホルデリア細菌(Burkholderia bacteria)、シュードモナス細菌(Pseudomonas bacteria)、及びブルセラ細菌(Brucella bacteria)が挙げられる。目的のマイコプラズマ(Mycoplasmal)生物としては、例えばマイコプラズマ・ニューモニエ(M. pneumoniae)、マイコプラズマ・フェルメンタンス(M. fermentans)、マイコプラズマ・ホミニス (M. hominis)、及びマイコプラズマ・ペネトランス(M. penetrans)が挙げられる。目的の真菌生物(酵母を含む)としては、限定するものではないが、例えばカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、他のカンジダ(Candida)種、クリプトコックス・ネオファルマンス(Cryptococcus neoformans)、及び ニューモシスティス・カリニ(Pneumocyctis carinii)が挙げられる。 目的の原生動物としては、限定するものではないが、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)が挙げられる。関連のウイルスとしては、限定するものではないが、例えばライノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、(例えば、パルボウイスルB19)、突発性発疹ウイルス、エンテロウイルス、パピローマウイルス、レトロウイルス、ヘルベスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタインバー・ウイルス(EBV)、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、並びにヒトヘルペスウイル6、7及び8)、及びポックスウイルス(例えば大痘瘡及び小痘瘡、ワクシニア、並びにサル痘のウイルス)が挙げられる。
【0032】
GML(及び関連の化合物)によって改善し又は除去することが可能な病的状態を引き起こし又は増強するように上皮細胞に細胞膜媒介性作用をもたらすことができる因子としては、例えば微生物因子及び非微生物因子が挙げられる。微生物因子としては、例えば上皮細胞に感染し及び/又は上皮細胞を活性化する、上記の細菌(例えば外毒素、内毒素、又は他の因子)及びウイルスによって産生され又は含まれる分子が挙げられる。このような因子には、限定するものではないが、例えばプロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ペプチドグリカン、リポテイコ酸及びテイコ酸、タンパク質A、莢膜及び粘液層中の分子、及び細菌性細胞接着分子、他の細菌に由来する関連の因子、グラム陰性細菌に由来するリポ多糖(LPS)、線毛中の分子、外膜タンパク質、及び産生微生物中の鞭毛中の分子が挙げられる。目的の他の微生物因子は、スーパー抗原、アレルゲン、又は外毒素であり、限定するものではないが、例えばTSST-1、ブドウ球菌アルファ、ベータ、ガンマ、及びデルタ溶血素、連鎖球菌発熱毒(SPE)、ブドウ球菌エンテロトキシン(Staphylococcal enterotoxins)(SEs、例えばSEA、SEB、SEC又はSEE)、A-B毒素、ジフテリア毒素、コレラ毒素、百日咳毒素、志賀毒素、志賀様毒素、炭疽(B. anthracis)毒素、ボツリヌス毒素、破傷風毒素、気管上皮細胞毒素、ヘリコバクター毒素、α毒素(レシチナーゼ)、κ毒素(コラゲナーゼ)、μ毒素(ヒアルロニダーゼ)、ロイコシジン、エラスターゼ及び真菌毒素、を挙げることができる。目的の非微生物因子は、限定するものではないが、例えばニッケル及び他の金属錯体、ラテックス、及び羊毛中の分子、ツタウルシ、ウルシ、ヌルデ、植物毒素例えばリシン、及び動物毒(クモなどの昆虫、ヘビなどの爬虫類)が挙げられる。上皮細胞とこれらの因子(例えば、微生物性又は非微生物性)との接触によってもたらされる症状としては、例えば、接触性皮膚炎(例えばツタウルシによって生じる接触性皮膚炎)、酒さにおいて生じる丘疹及び膿疱[Dahlら(2004) J. Am Acad. Dermatol. 50:266-272]、毒素性ショック症候群(TSS)、肺炎、皮膚感染に関連する菌血症(例えば蜂巣炎、丹毒、又は外科創傷もしくは非外科創傷の感染)、深在性軟部組織感染(例えば筋炎又は壊疽性筋膜炎)、髄膜炎、腹膜炎、骨髄炎、敗血症性関節炎、分娩後敗血症(例えば産褥熱)又は新生児敗血症が挙げられる。
【0033】
T細胞に関しては、適当な感染性微生物として、例えばCD4+及び/又はCD8+T細胞に対して細胞膜媒介性作用をもたらす任意の感染性微生物が挙げられる。目的の細菌には、上記の上皮細胞に対する任意の細菌が含まれる。関連のウイルスとしては、上記の上皮細胞に対するものに加えて、レトロウイルス、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)-1及び2、ヒト白血球ウイルス(HTLV)1及び2、猫白血病ウイルス、スーパー抗原遺伝子含有ウイルス、例えばマウス乳癌ウイルス、及びヘルペスウイルス、例えばヒトヘルペスウイルス6及び7、並びに、ヒトにおいて内因性スーパー抗原の発現を活性化することが示されているエプスタインバー・ウイルス(EBV)[Sutkowski ら (2001) Immunity 15(4):579-589]が挙げられる。
【0034】
細胞膜媒介性作用をもたらすようにT細胞を活性化し、GML及び関連の化合物によって阻害され得る因子としては、微生物及び非微生物因子が挙げられる。微生物因子としては、例えば、T細胞に感染し及び/又はT細胞を活性化する上記の細菌及びウイルスによって産生される、又は含まれるもしくは表面にある分子(例えば外毒素、内毒素又は他の因子)が挙げられる。微生物因子としては、例えばスーパー抗原(例えばブドウ球菌エンテロトキシン(Staphylococcal enterotoxin)、TSST-1、連鎖球菌発熱毒(Streptococcal pyogenic exotoxin)、及び5型Mタンパク質)並びにT細胞を活性化し及び/又はT細胞に感染する、上記の細菌及びウイルスによって産生される非スーパー抗原分子が挙げられる。目的の抗原はまた、T細胞を活性化し、遅延型過敏(DTH)反応を引き起こす任意の抗原である。微生物起源又は非微生物起源であり得るこのような抗原(例えば、食物抗原及び薬物抗原並びに金属性物質及び植物由来物質及び動物由来物質)は、抗原特異的T細胞を活性化し、該反応の症状は、抗原への被験体の曝露の24〜72時間後に最大となる。関連の抗原の例としては、限定するものではないが、例えばストレプトキナーゼ、連鎖球菌DNase、カンジダ抗原、白癬菌抗原、ニッケル及び他の金属、及びラテックス、並びに羊毛、ツタウルシ、ウルシ及びヌルデに由来する抗原が挙げられる。CD4+T細胞がDTH反応の主要メディエーターであるように見えるが、CD8+T細胞もまた、このような反応をもたらしかつモジュレートする。T細胞活性化に関連する他の非微生物分子は、非微生物ポリクローナルT細胞活性化因子であり、例えば植物レクチンフィトヘマグルチニン(PHA)及びコンカナバリンA(ConA)が挙げられる。
【0035】
T細胞に対する細胞膜の効果又は関連する効果によってもたらされる病的状態の例としては、例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)及びグループAストレプトコッカス(Streptococcus)による感染に伴う乾癬、並びにスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)及び他のグラム陽性細菌による感染に伴うアトピー性皮膚炎が挙げられる。さらに、酒さの患者において生じる丘疹及び膿疱は、スタフィロコッカス・エピデルミディス (S. epidermidis)に関連することが示されており、座瘡はニキビ桿菌(Propionibacterium acnes)によってもたらされる。
【0036】
B細胞に関しては、適当な感染性微生物として、B細胞に感染し及び/又はB細胞を活性化することができる任意の感染性微生物が挙げられる。この分類に属する感染性微生物としては、例えばB細胞を活性化する内毒素分子であるリポ多糖(LPS)を産生するグラム陰性細菌が挙げられるだろう。このような細菌の例として、限定するものではないが、例えばサルモネラ(Salmonella)、シゲラ(Shigella)、エシェリキア(Escherichia)(例えば、大腸菌(E. coli))、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、ビブリオ(Vibrio)(例えば、ビブリオ・コレラ(V. cholerae))、シュードモナス(Pseudomonas)、ナイセリア(Neisseria)(上記参照)、及びヘモフィルス(Haemophilus)(上記参照)が挙げられる。目的のウイルスとしては、ヘルペスウイルス、例えばエプスタインバー・ウイルス(EBV)及びヘルペスウイルス8が挙げられる。
【0037】
望ましくない病的状態(例えば、炎症性応答又は免疫応答の増強)を引き起こすようにB細胞に対してGML及び関連の化合物によって阻害され得る細胞膜媒介性作用をもたらす因子として、微生物因子及び非微生物因子が挙げられる。微生物因子としては、例えばリポ多糖(LPS)、並びにB細胞に感染し及び/又はB細胞を活性化する上記の細菌及びウイルスによって産生される他の分子が挙げられる。目的の因子はまた、抗原特異的B細胞を活性化して抗体(例えばIgE抗体)を産生させ、被験体の該抗原への被曝露時に即時型過敏反応をもたらす任意の抗原である。これらの抗原は、微生物起源又は非微生物起源(例えば、特定の薬(例えばペニシリン)並びに植物由来物質及び動物由来物質、例えばブタクサ花粉及び他の花粉中又はネコの鱗屑中の分子)であり得る。非微生物因子としては、例えばT細胞、上皮細胞、単球/マクロファージ、及びRBCに対して列挙された分子の任意のものが挙げられる。即時過敏性反応の症状は、通常、抗原への被験体の曝露の数分後から24時間後までに最大となる。B細胞に関連する他の非微生物分子は、非微生物ポリクローナルB細胞活性化因子、例えば植物レクチン、ヤマゴボウマイトジェン(PWM)である。
【0038】
単球/マクロファージに関しては、適当な感染性微生物として、単球/マクロファージに感染し及び/又は単球/マクロファージを活性化することができる任意の感染性微生物が挙げられる。この分類における細菌としては、例えば単球/マクロファージを活性化するリポ多糖(LPS)(上記参照)を産生するグラム陰性細菌、ブドウ球菌及び連鎖球菌、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)が挙げられる。目的のウイルスとしては、HIV及び上記のウイルスの任意のものが挙げられる。
【0039】
単球/マクロファージに望ましくない病的状態(例えば、炎症性応答又は免疫応答の増強)を伴う細胞膜媒介性作用をもたらし、GML(及び関連の化合物)によって阻害され得る因子として、例えば微生物因子及び非微生物因子が挙げられる。このような因子としては、例えば、深刻なグラム陰性菌感染を伴う被験体における敗血症ショックの原因であるリポ多糖(LPS)、並びに単球/マクロファージに感染し、及び/又は単球/マクロファージを活性化する、上記の細菌及びウイルスによって産生される他の分子、例えば、鞭毛分子、ペプチドグリカン、スーパー抗原、並びに二本鎖DNA及びRNAが挙げられる。
【0040】
RBCに関しては、適当な感染性微生物として、RBCに感染することのできる任意の感染性微生物が挙げられる。適当な微生物としては、例えば、赤血球期を有する原生動物、例えば熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、及び四日熱マラリア原虫(P. malariae)のようなマラリア原虫が挙げられる。
【0041】
RBCに関して、RBCに望ましくない病的状態を伴う細胞膜媒介性作用をもたらし、GML(及び関連の化合物)によって阻害され得る因子として、例えば微生物因子及び非微生物因子が挙げられる。微生物因子としては、例えば記載された感染性微生物の任意のものが挙げられ、例えばマラリアのような寄生虫であってよい。微生物因子はまた、感染性微生物によって産生される、又は感染性微生物の成分である因子を含み得る。微生物因子は外毒素であってよく、限定するものではないが、例えば、TSST-1、ブドウ球菌(Staphylococcal)アルファ、ベータ、ガンマ、及びデルタ溶血素、連鎖球菌発熱毒 (Streptococcal pyogenic exotoxin)(SPE)、ブドウ球菌エンテロトキシンB(Staphylococcal enterotoxin B)(SEB)、A-B毒素、ジフテリア毒素、コレラ毒素、百日咳毒素、志賀毒素、志賀様毒素、炭疽毒素、ボツリヌス毒素、破傷風毒素、気管上皮細胞毒素、ヘリコバクター毒素、アルファ毒素(レシチナーゼ)、κ毒素(kappa toxin)(コラゲナーゼ)、μ毒素(ヒアルロニダーゼ)、ロイコシジン、及びエラスターゼが挙げられる。非微生物因子として、脊椎動物被験体の細胞に対し細胞膜媒介性作用をもたらし又は該作用を増強し得る非生物起源の任意の分子又は因子が挙げられる。非微生物因子としては、上記の因子の任意のものが挙げられる。RBCへの細胞膜の効果又は関連する効果によってもたらされる病的状態としては、限定するものではないが、例えば上記の因子のいずれかによってもたらされる、慢性疾患に伴う貧血(ACD)、巨赤芽球性貧血、又は他のRBC疾患又は機能障害が挙げられる。
【0042】
その病理関連細胞膜媒介性作用がGML(及び関連の化合物)によって阻害され得るような他の因子としては、例えば、任意の適切な脊椎動物標的細胞(本明細書において列挙されている標的細胞の任意のものを含む)に対してその作用を及ぼし得る内因性脊椎動物因子が挙げられ、例えば、(a) 補体であって、細胞、例えば抗体(特にIgM抗体)が結合する細胞の、細胞膜に結合し且つ孔を形成することによって最終的に標的細胞の溶解をもたらす一連の因子である前記補体、及び(b)パーフォリン及びナチュラルキラー細胞傷害性因子(NKCF)であって、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)及びナチュラルキラー(NK)細胞のエフェクター分子であり、標的細胞の細胞膜に孔を形成することによって適切な標的細胞を殺すように作用する、前記パーフォリン及びナチュラルキラー細胞傷害性因子(NKCF)が挙げられる。補体媒介型細胞膜媒介性作用は宿主細胞特異的抗体を伴う病的状態と関連し、そのような病的状態としては、例えば自己免疫疾患(例えば、全身性エリテマトーデス)、移植された臓器及び組織の超急性拒絶(特に異種移植)、及び補体媒介型超過敏反応が挙げられる。CTLは、例えば同種異系及び異種移植片双方の慢性拒絶及び自己免疫疾患、例えばインスリン依存性糖尿病(IDDM)、多発性硬化症(MS)、及び関節リウマチ(RA)などの病的状態に関与する。NK細胞は、幹細胞(例えば、骨髄)移植の拒絶に関係している。
【0043】
さらに、GMLの幅広い細胞種活性を考慮すると、GML及び関連の化合物は、精子の卵子への侵入に必要とされる精子の細胞膜媒介性作用を阻害し(又は防止し)、これによって卵子の受精を妨げると思われる。このような活性を考慮すると、GML及び関連の化合物は、殺精子薬として有用であり得る。
【0044】
上記の、細胞の感染及び/又は活性化を阻害するために用いることができる化合物としては、GMLに関連する多様なグリセロールベースの化合物が挙げられる。この化合物としては、例えばグリセロールの脂肪酸エステルであって、グリセロールの末端炭素原子の一方又は両方のアルコール基が、中間の炭素原子のアルコール基のみが、中間の炭素原子及び末端炭素原子の一方のアルコール基が、又は3つの炭素原子全てのアルコール基が、脂肪酸でエステル化されている、グリセロールの脂肪酸エステルが挙げられる。この脂肪酸は、炭素数10、炭素数11、炭素数12、炭素数13、又は炭素数14の直鎖アルキル脂肪酸エステルであってよく、任意の組合せで分子内に存在し得る。さらに、炭素数10、炭素数11、炭素数12、炭素数13、又は炭素数14の直鎖アルキル鎖は、グリセロール骨格にエステル結合によって結合するのではなく、エーテル結合によってグリセロール骨格に結合し得る。
【0045】
要約すると、本発明において有用な阻害用のグリセロールベースの化合物は、下記の式:
【化2】

【0046】
[式中、R1は、OH、CO(CH2)8CH3、CO(CH2)9CH3、CO(CH2)10CH3、CO(CH2)11CH3: CO(CH2)12CH3、O(CH2)9CH3、O(CH2)10CH3、O(CH2)11CH3、O(CH2)12CH3、又はO(CH2)13CH3
であり、
R2は、OH、CO(CH2)8CH3、CO(CH2)9CH3、CO(CH2)10CH3、CO(CH2)11CH3: CO(CH2)12CH3、O(CH2)9CH3、O(CH2)10CH3、O(CH2)11CH3、O(CH2)12CH3、又はO(CH2)13CH3であり、及び
R3は、CO(CH2)8CH3、CO(CH2)9CH3、CO(CH2)10CH3、CO(CH2)11CH3: CO(CH2)12CH3、O(CH2)9CH3、O(CH2)10CH3、O(CH2)11CH3、O(CH2)12CH3、又はO(CH2)13CH3である。]
を有する。
【0047】
本発明において有用なさらなる阻害剤化合物としては、例えば(a)ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン、及び(b)スフィンゴ脂質、例えばセラミドが挙げられる。これらの化合物においては、脂肪酸(又は対応のエーテル結合した直鎖アルキル鎖)は上記の脂肪酸のいずれかである。
【0048】
上記化合物のうち1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、20、25、30又はそれ以上)は、単独で、又は1以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、20、25、30又はそれ以上)の補助剤と共に、目的の脊椎動物細胞に送達され得る。このような補助剤としては、例えば、細胞膜又は細胞膜関連作用を阻害する働きをする物質が挙げられる。例えば、補助因子は感染を阻害し(例えば標準的な抗微生物性の抗生物質)、又は上記の脊椎動物細胞集団の任意のものの活性化、例えば免疫調節性サイトカイン又はこのようなサイトカインに特異的な抗体の活性化を、阻害することができる。例えば、Th1型免疫応答(例えば、DTH応答における)を減少させることが望ましい場合、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)-4、IL-10、もしくはIL-13、又はIL-12又はインターフェロン-γ(IFN-γ)などのサイトカインに特異的な抗体を補助剤として用いることができる。或いは、Th2型免疫応答(例えば、即時型過敏反応において)を阻害することが望ましい場合、IL-12又はインターフェロン-γ(IFN-γ)などのサイトカイン、又はIL-4、IL-10、もしくはIL-13に特異的な抗体を補助剤として用いることができる。また目的の補助剤は、炎症誘発性サイトカイン及びケモカイン、例えばIL-1、IL-6、IL-8、TNF-α、MIP-1、MIP-3α、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、上皮好中球活性化ペプチド-78(ENA-78)、インターフェロン-γ誘導タンパク質-10(IP10)、Rantes、及び本明細書に列挙される他の適切なサイトカイン又はケモカインの任意のものに特異的な抗体である。
【0049】
上記の抗体は全て、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体(mAb)であってよく、広範囲の種のうち任意のもの、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル又はチンパンジー)、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ラット、マウス、又はニワトリのいずれかに由来し得る。
【0050】
本明細書において用いられる、「抗体」の用語は、任意のクラスの抗体(例えば、IgM、IgG、IgA、IgD又はIgE)を指す。さらに本発明に有用な抗体は、抗原結合フラグメント、例えば、Fab、F(ab’)2、Fv、及び一本鎖Fv(scFv)フラグメントである。scFvフラグメントは、このscFvが由来する抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の両方を含む一本のポリペプチド鎖である。さらに、キメラ抗体、例えばヒト化抗体も抗体に含まれる。
【0051】
分子の結合ドメインを含む抗体フラグメントは、公知の技術によって作製することができる。例えばF(ab')2フラグメントは、抗体分子のペプシン消化によって産生することが可能であり、Fabフラグメントは、F(ab')2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって、又は抗体分子をパパイン及び還元剤を用いて処理することによって作製することができる。例えば、国立衛生研究所(the National Institutes of Health)1 Current Protocols In Immunology, Coligan ら編 2.8, 2.10 (Wiley Interscience, 1991)を参照されたい。scFvフラグメントは、例えば、米国特許第4,642,334号に記載のとおりに産生することが可能であり、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0052】
キメラ及びヒト化モノクローナル抗体は、本技術分野において公知の組換えDNA技術によって産生することが可能である。この組換えDNA技術は、例えば、Robinsonら、国際公開公報PCT/US86/02269号;Akiraら、欧州特許出願第184,187号;Taniguchi, 欧州特許出願第171,496号;Morrison ら、欧州特許出願第173,494号;Neuberger ら、PCT出願WO 86/01533号;Cabillyら、米国特許第4,816,567号;Cabilly ら、欧州特許出願第125,023号;Betterら、(1988) Science 240,1041-43;Liuら、(1987) J. Immunol. 139,3521-26:Sunら、(1987) PNAS 84,214-18;Nishimuraら、(1987) Canc. Res. 47,999-1005;Woodら、(1985) Nature 314,446-49;Shawら、(1988) J. Natl. Cancer Inst. 80,1553-59;Morrison, (1985) Science 229,1202-07、Oiら、(1986) BioTechniques 4, 214;Winter, 米国特許第5,225,539号;Jonesら、(1986) Nature 321, 552-25;Veroeyanら、(1988) Science 239,1534;及びBeidlerら、(1988) J. Immunol.141,4053-60に記載の方法を用いている。
【0053】
完全ヒト抗体(ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)は、全てのヒト免疫グロブリン領域(すなわち、可変、結合、多様性及び定常)をコードする遺伝子断片を含むトランスジェニック動物(例えばマウス)を免疫することによって産生することができる(例えば、米国特許第5,545,806号及び第5,569,825号を参照されたい)。
【0054】
細胞の感染及び/又は活性化を阻害する方法は、in vitro法であってもin vivo法であってもよい。
【0055】
本発明の方法のin vitro法への応用は、感染、感染に対する細胞抵抗性の機構、炎症、並びに感染及び/又は炎症の抑制方法の基礎科学研究において役立ち得る。本発明のin vitro法においては、1つ以上の阻害化合物は、目的の脊椎動物細胞(上記)及び感染性微生物又はこの感染性微生物によって産生される因子のいずれかと共に培養すればよい(上記参照)。この培養物は、新たな阻害化合物のスクリーニングアッセイにおいて「陽性対照」となり得る。さらに、in vitro法では、当該脊椎動物細胞を感染させることなく、又は感染を最小化しながらその脊椎動物細胞(例えば、上皮細胞)を目的の感染性微生物と共に培養することが望ましい。例えば、感染性微生物の力価、細胞増殖/生存レベルの測定は、本技術分野において公知の方法を用いて様々なインキュベーション時間後に行うことができる。これらのin vitro系は、阻害化合物に加えて、上記の補助剤を1以上含むことができる。
【0056】
本発明の方法は、好ましくはin vivo法であろう。これらの応用は本明細書中に列挙される感染性微生物、又は微生物の産物のいずれかによってもたらされる、脊椎動物細胞における細胞膜媒介性作用に関連する感染症の治療及び予防において役立ち得る。これらの応用はまた、ワクチン接種、例えば生ウイルス(例えば牛痘)を用いたワクチン接種の副作用を減少させるために役立ち得る。目的の化合物を、感染した動物(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)感染を患うヒトの患者)、感染が予想される動物(例えば、ワクシニア・ウイルスによってワクチン接種したヒト被験体)、又は感染する危険がある動物(例えば、予想されるバイオテロリストの攻撃中に、バシラス・アンスラシス(B. anthracis)に感染する危険があるヒト被験体)に投与することによって、ウイルスによってもたらされる臨床症状の治療、又は予防を達成することができる。
【0057】
本明細書において用いられる「予防」は、疾患の症状の完全な阻止、疾患の症状の発症の遅延、又はその後進行した疾患症状の重篤性の緩和を意味し得る。本明細書において用いられる「治療」は、疾患の症状の完全な消滅、又は疾患の症状の重篤性の減少を意味し得る。
【0058】
本発明の方法は、広範囲の種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、チンパンジー及びヒヒ)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ラット、マウス、並びにトリ、例えばニワトリ、シチメンチョウ、及びカナリヤ、に適用することができる。
【0059】
In vivo 法
好ましいin vivo法においては、1つ以上の単離された化合物を被験体に投与する。さらに、1つ以上の上記の補助剤は、阻害化合物と共に、又は別に投与し得る。補助剤を別に投与する場合、補助剤を化合物と同時に投与し得るが、異なる経路による。或いは補助剤は、阻害化合物とは異なる時間に、同じ経路又は異なる経路のいずれかによって投与することができる。
【0060】
一般的に、化合物及び補助剤は、製薬上許容される担体(例えば、生理食塩水)中に懸濁され、経口もしくは静脈(i.v.)注入によって投与され、又は皮下、筋肉内、くも膜下腔内、腹腔内、直腸内(例えば、坐剤中)、経膣、鼻腔内、胃内、気管内又は肺内に注入されるであろう。化合物及び補助剤は、例えば、感染及び/又は炎症部位へと、例えば感染及び/又は炎症が肺にある場合は肺内へと直接送達され得る。さらに、該化合物は局所的に投与し得る。局所用に、化合物をクリーム、ジェル、クリーム、泡、化粧品、シャンプー、歯磨き粉、又は浴用せっけん中に添加することができる。化合物を、例えば、にきびの薬又は殺精子薬組成物、例えばジェル、泡、又はクリーム中で用いることができる。使用する阻害化合物及び補助剤の用量は、投与経路の選択、製剤の性質、患者の疾病の性質、被験体の大きさ、体重、表面積、年齢、及び性別、他に投与する薬、並びに治療を行っている医師の判断によって決まる。適切な用量は、0.0001〜100.0mg/kgの範囲内である。利用可能な多様な化合物及び補助剤並びに異なる効率の多様な投与経路を考慮すると、必要とされる用量の幅広いバリエーションを予期すべきである。例えば経口投与は、静脈注射による投与より高い用量を必要とすることが予期されるであろう。これらの用量レベルのバリエーションは、本技術分野においてよく理解されているように、最適化のための標準的な実験的手順を用いて調整することができる。化合物及び/又は補助剤の投与は、単回で又は複数回で(例えば、2、3、4、6、8、10、20、50、100、150又はそれ以上の倍数で)行うことができる。化合物及び/又は補助剤の、適切な送達ビヒクル(例えば、ポリマー微粒子、移植可能装置又は坐薬)中へのカプセル化は、送達の効率を増大させることができる。
【0061】
特定のレジメンが、特定の病的状態に対して治療的又は予防的であるか否か試験する方法は、本技術分野において公知である。治療効果を試験する場合、病的状態の症状を示している試験集団(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)に感染しているヒト又は実験動物)は、上記のストラテジーのいずれかを含む試験レジメンを用いて治療される。同様に病的状態の症状を示している対照集団は、プラセボ又は異なるレジメンを用いて治療される。被験体における病的状態の症状の消滅又は減少は、試験レジメンが有効な治療の方法論であることを示唆するであろう。
【0062】
同じストラテジーを、病的状態の症状の発症の前の被験体(例えば、ヘルペスウイルスを用いた計画的感染前の実験動物)に適用することによって、試験レジメンの予防的方法論としての有効性について試験することができる。この局面においては、病的状態の症状の発症の阻止又は遅延が試験される。
【0063】
下記の実施例は、本発明の例示を意味し、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1 材料及び方法
細菌
スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)株MN8は、TSS(毒素性ショック症候群)毒素-1(TSST-1)に対して陽性(すなわち、発現している)の、典型的な月経TSS分離株である。この生物の低継代サンプルは、本発明者らの研究室で凍結乾燥状態で維持されている。1 x 109/mlの細胞濃度のスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)は600nmで1.2の吸光度に相当することを実験的に求めた。
【0065】
本明細書に記載の試験において用いたナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)株は、急性淋病に由来する臨床分離株であった。この生物を、10%グリセリンの存在下、-80℃で凍結保存した。ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)細胞濃度2 x 109/mlは、600nmで1.0の吸光度に相当した。
【0066】
クラミジア・トラコマティス(C. trachomatis)血清型eの基本小体(この細菌の感染性形態)をテネシー大学(テネシー州メンフィス)のGerald Byrne博士から入手し、10%グリセリンの存在下、-80℃で保存した。
【0067】
下記の実験において用いたグループAストレプトコッカス株T18P(M型18)は、咽頭炎及びリウマチ熱の発生に関連するグループAストレプトコッカス分離株であった。この生物の低継代サンプルが、本発明者らの研究室で凍結乾燥状態で維持されている。5 X 108 CFU(コロニー形成単位)/mlのグループAストレプトコッカス(Streptococcus)T18Pは600nmで1.5の吸光度に相当することを実験的に求めた。
【0068】
使用の前日、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8及びグループAストレプトコッカス(Streptococcus)T18Pの生物を血液寒天プレート上に、そしてナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)をチョコレート寒天プレート上に継代培養した。クラミジア(Chlamydia)基本小体は、提供されたものをそのまま用いた。上皮感染実験用に、細菌細胞(クラミジア(Chlamydia)を除く)を細菌100及び1000個/上皮細胞の初期濃度で用いた。細菌を、血液寒天プレート又はチョコレート寒天プレートから直接、抗生物質を含まない10mlのケラチノサイト無血清培地(KSFM; Gibco Life Technologies、カリフォルニア州カールスバッド)へとこすり落とし、それを抗生物質を含まない10mlのKSFMを用いて1回洗浄し、600nmにおける吸光度に基づき所定の濃度へと調整することによって、使用のために調製した。実際に上皮細胞に加えられた細胞の数は、続いてプレーティングし、培養し、コロニーを数えることによって測定した。スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)及びナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)の増殖を阻害するために必要とされるGMLの量は、該化合物をTodd Hewitt(スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)用)又はチョコレート(ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)用)プレートのいずれかに加え、その後、プレートの表面上に該生物をストリークしたプレートを48時間インキュベートすることによって、測定した。
【0069】
マイクロアレイ実験では、全量10mlにおいて、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8を1 x 109個の細菌/3 x 107個の上皮細胞という細胞密度で用いた。
【0070】
グリセロールモノラウート(GML)
GMLペレット(Cognis Henkel Eco-Labs、ドイツ、によってMonomuls 90L-12として製造された)を濃度100mg/mlで無水エタノール中に溶解した。使用のためこの化合物を、この原液からエタノール中に希釈して、培養液への最大添加量(体積/体積)が1mlの培養液につきGML溶液10μlとなるようにした。GMLを含まない同量のエタノールを対照培養液に添加した。
【0071】
不死化ヒト膣上皮細胞の作製
不死化ヒト膣上皮細胞は、アイオワ大学(アイオワ州 アイオワシティー)のKevin Ault博士から贈与されたものであり、下に記載のとおりに作製された。
【0072】
初代正常ヒト上皮細胞を、以前にヒト包皮上皮細胞の単離のために記載されていた方法[Halbertら (1992) J. Virol. 66:2125-2134]を用いて、癌を患っていない患者から得た閉経前の膣子宮摘出組織から単離した。ヒトパピローマウイルス6型のE6及びE7遺伝子は、ヒト上皮細胞中で弱い不死化活性を有する。細胞を、プラスチック上のKSFM (Gibco Life Technologies)中で増殖させ、トリプシン-EDTA溶液(1x トリプシン-EDTA (エチレンジアミン四酢酸); 0.25%トリプシン、0.1% EDTA、Mediatech, Inc., Herndon, ヴァージニア州)を用いて1:4分割で継代した。初期継代細胞には、以前に記載のとおり[Kiyonoら(1998) Nature 396:84-88]、HPV-16 E6/E7を発現するレトロウイルス(Fred Hutchinson Cancer Research Center(ワシントン州シアトル)、Denise Galloway博士からの贈与)及びテロメラーゼの逆転写酵素成分であるhTERTを発現するレトロウイルス(Geron Corporationから入手)を用いて二重に形質導入し、50μg/mlのG418中で選択した。ヒト上皮細胞を不死化するためには、Rb/p16INK4a不活性化及びテロメラーゼ活性の両方が必要である[Kiyonoら(1998)]。選択で生存した細胞(V428)は高レベルのテロメラーゼを有し、危機に陥ることなく不死化したが、正常の非形質導入細胞は約9継代で老化した。
【0073】
上皮細胞感染実験
V428上皮細胞は、KSFMの存在下、6ウェルの平底マイクロタイタープレートのウェル底で、集密になるまで増殖させた(集密では、9.6 x 105細胞/ウェルであることを実験で測定した)。使用の前日にKSFMを除去し、各ウェルに2mlの新鮮なKSFMを添加した。使用の当日、KSFMを除去し、エタノールに溶解したGMLを含有する1mLの新鮮なKSFM、又はエタノールのみを各ウェルに添加した。7% CO2の環境中、37℃で1時間のインキュベーション後、細菌(10μl量)をその組織培養ウェルに添加し、その後それらを37℃、7% CO2で3時間インキュベートした。その後それらのウェルを、KSFMを用いて2回洗浄し、残余の細胞外細菌を殺すために、20μg/mlゲンタマイシンを含有するKSFM 2mlを加えて1時間インキュベートし、その後ゲンタマイシンを除去するために2mlのKSFMを用いてさらに3回洗浄した。その後Falcon単回使用細胞スクレイパー(BD Biosciences, マサチューセッツ州ベッドフォード)を用いてこすり落とすことによって、上皮細胞をプレートから除去した。細菌コロニー形成単位(CFU)を、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)用の血液及びチョコレート寒天と、ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)用のチョコレート寒天との組合せについて、プレート計数によって決定した。基本的に同一のプロトコルを用いて、グループAストレプトコッカス(Streptococcus)T18Pを用いた実験を行った。
【0074】
クラミジア・トラコマティス(C.trachomatis)による感染に対するGMLの作用を試験するための実験を、プレートを細菌の添加後24時間(3時間ではなく)インキュベートし、ゲンタマイシンを除去するためにプレートを洗浄後、上皮細胞をエタノール固定しその後ギムザ染色した点を除いては、基本的に上記のとおり行った。封入体を光学顕微鏡によって数えた。
【0075】
マイクロアレイ実験
V428ヒト膣上皮細胞を、250mlのFalcon組織培養フラスコ(BD Biosciences)にてKSFM中で集密になるまで増殖させた(およそ3 x 107 細胞/フラスコ)。実験の前日に培地を除去し、新しい培地と交換した。アッセイの当日、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8を、添加したKSFM 1mL当たり109個の細菌濃度で、すなわち全容量10mlのKSFM中に1010細菌として、上皮細胞に添加した。その後分離フラスコを、GML(1000μg/ml)の非存在下及び存在下で、3及び6時間インキュベートした。全てのインキュベーションは、静置し、37℃、及び7% CO2の環境中で行った。インキュベーションの終わりに、フラスコをインキュベーターから取り出し、フラスコに10mlのトリプシン-EDTA溶液(1xトリプシン-EDTA、0.25% トリプシン、0.1% EDTA、Mediatech, Inc.)を添加し、5分後に脱離した上皮細胞をフラスコから取り出した。この上皮細胞を1回洗浄し、Qiagen RNeasy MiniTMキットを用いてそれらの細胞からRNAを単離した。このRNAから、フラグメント化したビオチン標識化cRNAを調製し、GeneChip(登録商標)発現解析技術マニュアル (Affymetrix,カリフォルニア州サンタクララ、2003年4月)に記載の方法を用いたマイクロアレイ解析に用いた。要するに、RNAから一本鎖cDNAを調製し、この一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを調製し、この二本鎖cDNAからビオチン標識化cRNAを調製した。最終的に、ビオチン標識化cRNAは金属誘導性加水分解によってフラグメント化し、Affymetrix U133A Human GeneChip(登録商標)(Affymetrix)にハイブリダイズさせた。データは、The Institute for Genome Research(Microarray Software Suite; ロックヴィル、メリーランド州)及びAffymetrix Microarray Suite Softwareによって提供されているソフトウェアによって解析した。
【0076】
リンパ球増殖実験
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を、密度勾配遠心法によってヒトの血液から単離した。プラスチックの組織培養ペトリ皿に付着したPBMCを抗原提示細胞(APC)として用いた。この組織培養皿に付着しなかったPBMCをSephadexTM G-10カラムに適用し、このカラムを通過する細胞から、連続した2ラウンドのヒツジ赤血球ロゼット形成(「E-ロゼット形成」)、密度勾配遠心法、及び塩化アンモニウム(0.15M)を用いたヒツジ赤血球の溶解によって、T細胞を精製した。T細胞(1ウェルにつき1 x 105)及びAPC(1ウェルにつき3 x 104)を、TSST-1(10μg/ml)を加えずに及び加えて、並びにGML(15μg/ml)を加えずに及び加えて、96穴組織培養マイクロタイタープレートのウェル中にプレーティングした。そのプレートを37℃で3日間インキュベートし、3H-チミジン(1μCi)でパルスし、37℃でさらに24時間インキュベートした。細胞を回収し、細胞に取り込まれた3H-チミジン量(カウント毎分、cpm)で細胞増殖の相対レベルを測定した。シンチレーションカウンター(Beckman Instruments,カリフォルニア州フラートン)を用いて放射活性を測定した。
【0077】
プラスチックの組織培養ペトリ皿に付着しているBALB/cマウス脾臓細胞を、抗原提示細胞(APC)として用いた。組織培養皿に付着しなかった脾臓細胞から、赤血球の溶解並びにT細胞特異的抗体及び補体を用いたT細胞の殺傷によって、B細胞を精製した。B細胞(1ウェルにつき1 x 105)及びAPC (1ウェルにつき3 x 104)を、リポ多糖(LPS; 10μg/ml)を加えずに及び加えて、並びにGML(15μg/ml)を加えずに及び加えて、96穴組織培養マイクロタイタープレートのウェル中にプレーティングした。プレートを37℃で3日間インキュベートし、3H-チミジン(1μCi)でパルスし、37℃でさらに24時間インキュベートした。細胞を回収し、細胞増殖の相対レベルを上記のとおりに測定した。
【0078】
実施例2. 細菌増殖に対するGMLの効果
スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)及びナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)双方のGMLに対する耐性を調べるための初期研究を行った。これらの研究のため、様々な量のGMLを含む培地プレートに細菌を接種し、このプレートを48時間インキュベートして増殖について調べた。スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8は、100μg/mlまでのGMLを含有するTodd Hewittプレート上で増殖したが、200μg/ml含有プレート上においてもいくらか増殖が認められた。この生物は、300μg/ml含有プレート上では増殖しなかった。ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)は、GMLを50μg/mlまでの濃度で含有するチョコレート寒天プレート上で増殖した。
【0079】
実施例3. 上皮細胞の細菌感染に対するGMLの効果
スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)及びナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)は両方とも、上皮細胞に侵入し、上皮細胞中で複製する能力を有する。GMLが細菌による細胞への侵入を妨げ、このようにして細菌感染の開始を阻止するという仮説が立てられた。20又は50μg/mlのいずれかのGMLとの上皮細胞のプレインキュベーションは、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)及びナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)による感染を効果的に阻害した(表1)。
【0080】
【表1】

【0081】
最初の細菌:上皮細胞の比が100:1であるスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8が上皮細胞に侵入し、細胞密度が500個の細菌/106個の上皮細胞になるまで増殖した。対照的に、各GML濃度を用いて前処理した上皮細胞においては細菌を検出することができなかった。スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8を、細菌:上皮細胞比が1000:1でインキュベートした場合、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)感染からの、上皮細胞の著しい保護もまた見られた(表1)。
【0082】
同様に、ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae):上皮細胞比が1000:1では、GMLは、両方の濃度において、ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)による感染からの著しい保護を与えた(すなわち、非GML処理細胞については4 x 104ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)/106個の上皮細胞であったと比べて、GML処理した細胞中には細菌が検出されなかった)(表1)。ナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae):上皮細胞比で100:1を用いた試験では、計数できないほどわずかなナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)しか存在しなかった。
【0083】
基本的に同一のプロトコルを用いて、ストレプトコッカス・ピオゲネス (S. pyogenes)を用いた上皮細胞感染実験を行った。表2に示すように、GML(濃度10及び20μg/ml)は、上皮細胞中の細菌数の劇的な減少をもたらした。
【0084】
【表2】

【0085】
偏性細胞内細菌であるクラミジア・トラコマティス(C. trachomatis)による上皮細胞への感染に対するGMLの効果を試験するために実験を行った。1ウェルにつき20μg量のGMLを、1ml量の上皮細胞に添加し、細菌を1ウェルにつき108、107、106、及び105の濃度で培養ウェルに添加した(表3)。
【0086】
【表3】

【0087】
封入体は、GMLを添加していない全てのウェル中に見られたが、GMLを添加したウェル中には封入体は見られなかった。
【0088】
これらのデータは、GMLが細菌の上皮細胞への侵入を阻害することを示唆する。実施例2における実験は、GML(その使用した濃度で)が、細菌の細胞内複製を阻害することによっては作用しなかったことを示唆するが、このように作用した可能性は完全には排除し得ない。この発明は、特定の作用機構のいずれによっても限定されない。さらに、GMLが偏性細胞内病原体(クラミジア・トラコマティス(C. trachomatis))による感染を阻害した事実は、ウイルス、また偏性細胞内病原体による感染も、GML及び関連の化合物によって阻害される可能性が高いことを示唆する。
【0089】
実施例4. スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)細菌に対する上皮細胞応答のマイクロアレイ解析
予備的なmRNAマイクロアレイ解析において、V428膣上皮細胞が、多数の遺伝子の発現を上方制御又は下方制御することによってスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)に応答することが観察された。2,889個の遺伝子の発現が1.5倍又はそれより大きく、986個の遺伝子の発現が2倍又はそれより大きく、84個の遺伝子の発現が5倍又はそれより多くモジュレートされた。発現が5倍又はそれより多くモジュレートされた84個の遺伝子のうち、83個の遺伝子の発現が上方制御された。これらの83の遺伝子の大部分はシグナル伝達に関与し、免疫系の活性化を引き起こす。例えば、ケモカインリガンド20(マクロファージ炎症タンパク質(MIP)-3α)遺伝子の発現は274倍、インターロイキン-8(IL-8)遺伝子の発現は64倍、腫瘍壊死因子α(TNFα)遺伝子の発現は19.7倍に上方制御された。発現が上方制御された他の炎症性/免疫調節性遺伝子としては、例えば、ケモカインリガンド2(27.9倍)、ケモカインリガンド1(21.1倍)、サイトカインであるインターロイキン(IL)-1α(7.5倍)及びIL-1β(6.1倍)、及び接着性リガンドICAM-1(10.6倍)が挙げられる。
【0090】
膣上皮細胞の細菌感染に対する、GMLの上記の阻害効果は、細菌の上皮細胞への侵入を妨げるようにGMLが上皮細胞膜を変化させることに起因する可能性が高いとされた。従って、GMLが、上皮細胞表面への初期作用を経て最終的に上皮細胞によるmRNA合成を阻害することができた可能性は高いと考えられた。そこで、109細胞のスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8に曝露された上皮細胞によるRNA合成に対するGMLの効果を評価するために実験を行った。スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)はグリセロールエステル加水分解酵素を生成するため、これらの試験は1000μg/ml濃度のGMLの存在下で行った。これは、感染試験において用いられたGMLより高い濃度のGMLであったが、2種の実験において用いられた実験プロトコルは異なっていた。遺伝子発現実験において、ブドウ球菌のグリセロールエステル加水分解酵素は、細菌細胞を洗い流すことによっては系から除去されなかったのに対して、感染試験においては、この酵素は洗浄によって除去された。スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)によって産生されたグリセロールエステル加水分解酵素は、GMLを分解することが示されている。
【0091】
3時間及び6時間の両方の時点において、GMLの存在下、RNA合成の完全な阻害が観察された。他方、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8単独、又はGML及びスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)MN8双方の非存在下でインキュベートした上皮細胞のいずれかに曝露された上皮細胞においては、大量のmRNA合成があった。
【0092】
これらの試験は、GMLが、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)及びナイセリア・ゴノレエ(N. gonorrheae)の内在化を妨げるように上皮細胞によるシグナル伝達を妨害することを示す。さらに、これらの試験は、GMLが、上皮細胞における発現が細菌によって活性化されるサイトカイン、ケモカイン及びプロ炎症性分子の産生を阻害し、このような方法で当該細菌による感染の進行を阻害することができることを示唆する。
【0093】
実施例5. GMLは、細菌性産物TSST-1及びリポ多糖(LPS)によって活性化されるT細胞及びB細胞の増殖を阻害する
表4中のデータは、GML(濃度15μg/ml)が、TSST-1に対するヒトT細胞の、及びLPSに対するマウスB細胞の、増殖応答を阻害することを示す。
【0094】
【表4】

【0095】
強力なスーパー抗原であるTSST-1は、T細胞増殖を刺激した。対照的に、GMLが存在した場合、TSST-1は有意なT細胞増殖を誘導しなかった。同様に、GMLはLPSによって誘導されたB細胞増殖を阻害した。これらのデータは、GMLが、これらの微生物及び/又はこれらによって産生される物質によって誘導されるT及びB細胞媒介性炎症応答を阻害することができることを示唆する。
【0096】
実施例6. GMLは、ブドウ球菌毒素α-溶血素による赤血球(RBC)の細胞溶解を阻害する
ブドウ球菌α-溶血素は、細胞に対して毒性の外毒素であり、脊椎動物の標的細胞の細胞膜上に七量体の孔を形成することによってその溶解を引き起こす。特に、RBCはα-溶血素の毒作用に高い感受性がある。
【0097】
ブドウ球菌α-溶血素のウサギRBCに対する溶解効果を阻害するGMLの能力を評価した。高度に精製したα-溶血素をウサギRBCと共にインキュベートし、37℃で1時間のインキュベーション後には完全な溶解により410nmの波長における吸光度の読み取り値が1.0となるようにした。この実験は、GML(1μg/ml)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)をRBCに添加し、1時間インキュベートすることによって行い、その後無傷のRBCを除去するために遠心分離した後、上清の吸光度を測定した。そのデータは表5に要約する。RBC単独又はGMLで処理したRBCのサンプルの410nmにおける吸光度はゼロであった。α-溶血素によるRBCの処理は、完全な細胞溶解をもたらした。溶血素及びGML(1μg/ml)を用いたRBCのインキュベーションは、RBCの溶解を完全に妨げた。
【0098】
【表5】

【0099】
実施例7. GMLはバシラス・アンスラシス (Bacillus anthracis)外毒素によるRBCの細胞溶解を阻害する
バシラス・アンスラシス(B. anthracis)外毒素の上清がRBC溶解を引き起こすか否か、及びこのような溶解がGMLによって阻害され得るか否かを評価するために、実施例6に記載の実験と同様の実験を行った。バシラス・アンスラシス(B. anthracis)Sterneの培養物を、外毒素、例えば防御抗原、致死因子、浮腫因子、及び溶血素の産生に有利な条件下で増殖させた。Sterne株微生物を、定常期に達するまでR培地及び重炭酸塩中の7%二酸化炭素中で37℃において緩やかな振とうで培養した。これらの培養液から得た上清は、ウサギRBC(表6)又はヒトRBC(表7)を溶解することができた。上清の0.1 mlアリコートを、ウサギ又はヒトRBC含有PBS 0.9 mlに添加した。ウサギRBCを用いた実験においては、サンプルを37℃で15分間、7%二酸化炭素中でインキュベートし、ヒトRBCを用いた実験においては、同様の条件下でサンプルを18時間インキュベートした。対照は、微生物を増殖させるために用いられたことのないR培地を含有していた。GML単独(濃度1、5、又は10μg/ml)では、RBC溶解を引き起こさなかった。GML(濃度5μg/ml)は特に、バシラス・アンスラシス(B. anthracis)外毒素によるウサギRBCの溶解を阻害し、濃度10μg/mlでその溶解をほぼ完全に阻害した(表6)。GML(濃度1μg/ml)は、バシラス・アンスラシス (B. anthracis)外毒素によるヒトRBCの溶解を部分的に阻害し、濃度10μg/mlでその溶解を完全に阻害した(表7)。
【0100】
【表6】

【0101】
【表7】

【0102】
実施例8. GMLは、ストレプトリジンO及びストレプトリジンS誘導性のRBC溶血を阻害する
グループAストレプトコッカスは、ストレプトリジンO(酸素に不安定性であり、且つニューモリシン、リステリオリシン及び多数の他の溶血素に関連する)及びストレプトリジンS(酸素に安定性)と名付けられる2つの溶血素を生成する。ストレプトリジンOは七量体孔形成毒素であり、一方ストレプトリジンSは、RBC細胞膜を可溶化する界面活性剤、又はRBC細胞膜に孔を形成するタンパク質のいずれかとして作用する。
【0103】
GML(10μg/ml)を、固体寒天及びこの寒天中に懸濁されたウサギRBCを含む培養プレート中に加えた。ストレプトリジンO誘導性溶血に対するGMLの効果を、寒天の表面下における細菌の嫌気的生育を可能としこれによってストレプトリジンOが機能することを可能とするように、グループAストレプトコッカスをこの寒天中に穿刺することによって試験した。GML(10μg/ml)を添加したRBC含有寒天プレート上におけるグループAストレプトコッカスの培養は、RBCの溶血を完全に妨げた。
【0104】
GMLの、ストレプトリジンS誘導溶血に対する効果を、RBC含有寒天プレート表面上におけるストレプトコッカスの直接培養によってアッセイした。グループAストレプトコッカス(Streptococci)を、GML含有ウサギ血寒天プレート上で培養した場合、ストレプトリジンS誘導溶血は完全に阻害された。
【0105】
実施例9. GMLはHVECに対して無毒であり、かつTSST-1及び他のスーパー抗原(SAg)を用いた刺激後のHVECサイトカイン及びケモカイン放出を阻止する
不死化HVECの作製及び培養
ヒトにおけるスーパー抗原(SAg)に対する最も重要な物理的障壁の1つは、無傷の上皮である。本発明者の最近の研究は、スーパー抗原(SAg)TSST-1が、上皮細胞中でケモカイン及びサイトカインの遺伝子発現を上方制御することを示している。HVECの不死化系統を、ヒトパピローマウイルス16のE6/E7遺伝子を用いて閉経前の女性に由来する初代膣上皮細胞を形質転換することによって得た。不死化HVECの単層を作製し、サイトケラチン特異的抗体染色の使用及び細胞密着結合の存在の評価によって特徴付けた。ヒトサイトケラチンに特異的なモノクローナル抗体(mAb)(mAb AE1及びmAb AE3)の混合物は、予想どおりHVECに結合し(データは示さず)、これはその細胞がもともと上皮であったことを示唆している。AE1 mAbは、高分子量(mw)サイトケラチン10、14、15及び16並びに低分子量(mw)サイトケラチン19に特異的である。AE3 mAbは、高分子量サイトケラチン1〜6並びに低分子量サイトケラチン7及び8に特異的である。細胞は部分的な密着結合を形成したが、これは膣上皮細胞が、口腔上皮細胞と同様にしかし腸管の上皮細胞とは対照的に、密着結合を形成しないが、互いの上に積み重なり、水不溶性の化合物例えばセラミド、グルコシルセラミド、及びコレステロールを分泌することによって透過性障壁を形成するという事実と一致している。HVECはまた、37℃において7% CO2中のKSFM中で増殖させた場合、非重層化扁平上皮細胞の典型的な形態を示した。
【0106】
スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)外毒素TSST-1の、HVECの細胞形態に対する効果
HVECを、精製したTSST-1を用いた処理後、共焦点顕微鏡によって、全体の形態効果について試験した。HVECは細胞間密着を失い、TSST-1(100μg/ml)への6時間の曝露後、収縮した。
【0107】
濃度100μg/mlのTSST-1は、TSSスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)株に生理学的に関連する。TSSスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)は、透析管中に取り付けられた止血栓上で薄膜として培養し、その後Todd Hewitt軟寒天の下に埋め込んだ場合、1.0〜1.5 mg/mlのTSST-1を産生したからである。さらに、TSS患者に由来するメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(MRSA)分離株によるTSST-1産生の最近の研究は、ポリエチレンメッシュ上で薄膜として増殖させた場合、これらの株によって100〜1000μg/mlのTSST-1が産生されることを示唆した。従って、in vivoで、粘膜表面上で薄膜として増殖しているTSSスタフィロコッカス・アウレウス(TSS S. aureus)は、恐らく100μg/mlを超えるTSST-1を産生するだろう。
【0108】
スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)外毒素TSST-1は、HVECにおけるサイトカイン及びケモカイン発現のレベルを増強する
下記の試験は、細菌の外毒素が、HVECにおいてサイトカイン及びケモカインの発現を上方制御することを示す。3及び6時間の培養後、Affymetrix Human GeneChip(登録商標)U133Aを用いて、HVEC及び非処理の対照HVECの、TSST-1(100μg/ml)に対する全体的な応答(mRNA転写物産生の点で)を測定した。TSST-1(100μg/ml)を用いた、HVECの3時間及び6時間の処理は、各々1472個の遺伝子及び2386個の遺伝子の発現の、著しい上方及び下方制御(2倍又はそれより大きい)を引き起こした。表8に示すように、6時間までに転写レベルが著しく上方制御されたケモカイン遺伝子としては、例えば、CCL20 (MIP-3αをコードする、169倍)、CXCL1 (GRO-αをコードする、84倍)、CXCL2 (GRO-βをコードする、13倍)、及びCXCL3 (GRO-γをコードする、32倍)が挙げられた。さらに、転写レベルが同様に著しく上方制御されたサイトカインをコードする遺伝子としては、例えば、TNF-α及びIL-1βをコードする遺伝子が挙げられ、各々2.5倍及び2.0倍の変化を示した。さらに、主要組織適合複合体(MHC)クラスI古典的遺伝子(A、B、C)並びに非古典的遺伝子(E、F及びG)のmRNA発現は、TSST-1(100μg/ml)に応答して有意に上方制御された(データは示さず)。
【0109】
【表8】

【0110】
上記のマイクロアレイ解析によって、HVECのTSST-1(100μg/ml)への曝露後にその発現が上方制御されたことが確認された代表的なサイトカイン及びケモカイン遺伝子を、酵素免疫測定法(ELISA)を用いて、コードされたタンパク質の産生について解析した。特に、サイトカイン(IL-1β、TNF-α、及びインターフェロンγ)並びにケモカイン(MIP-3α、IL-6及びIL-8)濃度を、TSST-1(100μg/ml)と共に3又は6時間インキュベートした培養HVECの上清中で測定した(図1)。オボアルブミン(100μg/ml)(TSST-1ではなく)を対照培養液に添加し、6時間の培養後、HVECからのサイトカイン及びケモカインの最小限の産生のみをもたらすことが見出されたが(表9を参照)、これにより、TSST-1(100μg/ml)を用いた場合に見られた効果は、この外毒素自体によって引き起こされるものであり、任意の外因性タンパク質によって誘発された非特異的効果ではないことが示された。
【0111】
顕著なレベルのIL-1β及びTNF-α双方を、HVECにTSST-1(100μg/ml)を加えて6時間のインキュベーションした後の培養上清について検出した(各々12 pg/ml及び68 pg/ml)(図1)。表7に示すように、IL-1β及びTNF-αタンパク質のレベルは、これらの遺伝子のTSST-1による転写誘導の測定結果(各々2.0倍及び2.5倍)と一致していた。対照的に、インターフェロンγの転写物を検出不能であることと一致するように、TSST-1(100μg/ml)を加えたHVECのインキュベーション後の培養上清にはインターフェロン-γタンパク質は検出されなかった。
【0112】
ケモカインMIP-3α(240 pg/ml)、IL-6(15 pg/ml)及びIL-8(475 pg/ml)を、 TSST-1(100μg/ml)を加えたHVECの6時間のインキュベーション後の培養上清にて検出した。対照HVEC(TSST-1を加えない)は、3及び6時間のインキュベーション後、検出可能なレベルの被験サイトカイン又はケモカインを産生しなかった。
【0113】
HVECを、様々なスーパー抗原(SAg)の存在下、GMLを加えて又は加えずに、上記のようにして培養した。表9に示すように、GMLは、以下のスーパー抗原(SAg)(100μg/ml):TSST-1、ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)、及び連鎖球菌発熱毒素A(SPEA)、と共に6時間培養後、HVECによる2つのケモカイン(MIP-3α及びIL-8 )のスーパー抗原(SAg)誘導性産生を阻害する上で非常に有効であった。GMLがELISAにおいてタンパク質検出を妨害しなかったことは、それを関連ケモカインを含有する対照の上清に添加した時に、ケモカイン検出に影響を及ぼさなかったという事実によって示された。全てのサイトカイン及びケモカインについて、検出の下限値は4 pg/ml〜16 pg/mlであった。まとめると、これらのデータは、GMLが、スーパー抗原(SAg)によって誘導されたHVECにおける炎症応答を阻害することを示す。
【0114】
【表9】

【0115】
実施例10. GMLは、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)のHIV-1感染を阻害する
HIV血清陰性供与者から単離したヒトPBMCの培養物を、3つのサンプルに分けた。3つのサンプル全てを、スーパー抗原であるブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA、最終濃度0.1μg/ml)及び組換えヒトIL-2(rIL-2、最終濃度10ユニット/ml)と共に48時間培養し、その後HIV-1を用いて感染させた(最終濃度100組織培養感染量(TCID)50/ml)。GML(最終濃度100μg/ml)を、このサンプルの1つに対してはHIV-1感染の直前及び2日後に、第2のサンプルに対してはHIV-1感染と同時に添加した。第3の対照サンプルにはGMLを添加しなかった。その後3つのサンプル全てを5日間培養した。3つのサンプルから細胞を回収し、顕微鏡スライドガラス上にスポットし、固定し、HIV-1 p24タンパク質に特異的な抗体を用いて免疫化学的に染色した。GMLを含まないサンプルでは大多数の細胞はp24を発現した。他方、HIV-1感染の前及び後にGMLで処理したサンプル、及びHIV-1感染と同時にGMLで処理したサンプルは、それぞれ、p24を発現している細胞をほとんど含まず、またp24を発現している細胞を全く含んでいなかった。細胞生存率はGMLを含むサンプルにおいて維持されたが、サンプル中の細胞の総数は、GMLを含まない対照サンプルと比較して著しく少なかった。後者の知見は、GMLによるSEA-及びIL-2-活性化細胞増殖の阻害と一致している。
【0116】
本発明の多くの実施形態が記載されている。それでもなお、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく多様な変更を行うことが可能であるということが理解されるだろう。従って、他の実施形態は特許請求の範囲の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物被験体においてガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)感染を治療又は予防するための組成物であって、有効量のグリセロールモノラウレート(GML)と製薬上許容される担体とを含む、ただしGMLが、脊椎動物細胞膜を媒介するガードネラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)の1つ以上の作用を阻害する、前記組成物。
【請求項2】
前記脊椎動物細胞膜を媒介する作用が、前記脊椎動物細胞への感染性微生物の侵入の促進を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記脊椎動物細胞膜を媒介する作用が、前記脊椎動物細胞の活性化をもたらす、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記脊椎動物細胞の活性化が、前記被験体における炎症を増強する、又は前記感染性微生物による前記被験体の感染を促進する、メディエーターの、該脊椎動物細胞による合成又は分泌を増大させる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記脊椎動物細胞膜を媒介する作用が、前記脊椎動物細胞の溶解をもたらす、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記GML化合物が、前記脊椎動物細胞におけるアポトーシスの誘導による脊椎動物細胞膜を媒介する作用を阻害する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記GMLが、前記脊椎動物細胞における細胞アネルギーの誘導による脊椎動物細胞を媒介する作用を阻害する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記脊椎動物細胞が上皮細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記上皮細胞が膣細胞である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記被験体がヒトである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、クリーム、ゲル又は泡である、請求項1に記載の組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246320(P2012−246320A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−204516(P2012−204516)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2006−539791(P2006−539791)の分割
【原出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(305023366)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (39)
【Fターム(参考)】