説明

細胞膜通過性ペプチド

【課題】細胞膜通過性を有し、かつ腸管腔から血液中への移行時の障壁である細胞層の通過性に優れた細胞膜通過性ペプチドを提供する。
【解決手段】下記の一般式(I)または(II)で示され(式中のnは1〜6の整数を表し、mは0〜4の整数を表し、Zはロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選ばれるアミノ酸を表し、X1およびX3はそれぞれ0〜10個の任意のアミノ酸を表し、X2は0〜4個の任意のアミノ酸を表す)、かつ全アミノ酸中のプロリンおよびアルギニンの割合がそれぞれ40%以下であることを特徴とする細胞膜通過性ペプチド。(I) X-(Pro-Arg-Z)-X-(Pro-Arg-Z)-X(II) X-(Arg-Pro-Z)-X-(Arg-Pro-Z)-X

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞膜通過性を持つペプチド、当該ペプチドを含有する医薬組成物および当該ペプチドをキャリアとして薬物を細胞膜通過させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の低分子薬物に加え、タンパク・ペプチド・核酸・抗体などの高分子薬物が医薬品として用いられるようになってきた。しかしながら、これらの高分子薬物は既存の医薬品と異なりその大きな分子量ゆえに拡散では腸管などの生体バリアをほとんど通過することが出来ず、注射剤として体内に直接投与することが必要となっている。注射は医師の指導の下で行う必要があり、また痛みを伴うなど投薬コンプライアンスの低下が懸念されるほか、感染などの問題があり、高分子薬物の腸管吸収を促進し経口製剤化する技術の確立が期待されている。
【0003】
このような高分子薬物の腸管からの吸収を促進する方法としては様々な方法が考えられているが、それらの一つに腸管を構成する細胞の隙間を通過させる方法がある。通常は高分子薬物はこの細胞間隙を通ることは出来ないが、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(非特許文献1)などのカルシウムキレート剤や、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)や胆汁酸などの界面活性剤、また細胞間接着を担う分子に作用するコレラ毒素の一部であるゾット(ZOT)(非特許文献2)などは、一時的に隙間を作らせ、薬物の通過を促進させることが報告されている。
【0004】
しかし、これらの細胞間隙を通過させる方法は、特に腸管などの環境では、目的とする薬物以外の異物や細菌、ウイルスなどを非特異的に通過させ下痢や感染などを引き起こす可能性が懸念されるため、実際の臨床応用は困難との考え方も多い。
【0005】
また、細胞間隙ではなく腸管を構成する細胞の中を通過させる方法も検討されている。最もよく試みられている戦略は、薬物の細胞付着性を高め、これにより細胞内に取り込まれる量を高める方法であり、高い正電荷を持ったキトサン(非特許文献3)やポリアクリル酸、塩基性ペプチド(非特許文献4)などを薬物に修飾し、負電荷を持った細胞膜への付着性を高める方法が検討されている。
【0006】
塩基性ペプチドの中ではヒト免疫不全ウイルス(HIVウイルス)由来タンパクの部分ペプチドであるTAT(非特許文献5)がよく検討されている。このペプチドとコンジュゲートを形成させた様々な物質を細胞内に移行させられることが報告され、多くの応用研究が進められている(特許文献1)。また強い正電荷を持つペプチドであるオリゴアルギニンも結合した薬物の細胞内移行を促進することが報告されている(非特許文献6)。
【0007】
しかし、これらのペプチドは正電荷を有するアルギニンなどのアミノ酸を高い割合で含有するものであり、消化管プロテアーゼあるいは細胞内プロテアーゼで分解されやすいことが考えられる。腸管の細胞層の通過には「細胞内への移行」に加え、「細胞内での安定性」「細胞内から細胞外への離脱」など様々な追加要素が必要であり、これらの高い正電荷を有した細胞膜通過性ペプチドは細胞内への移行は優れるものの、細胞層の通過を必要とする腸管からの吸収促進などの用途には適していない。
【特許文献1】特開2002−153288号公報
【非特許文献1】ワング ジー(Wang G)、他8名、「上皮細胞の細胞間隙の透過性を向上させると生体内における気道上皮細胞への遺伝子送達が高まる(Increasing epithelial junction permeability enhances gene transfer to airway epithelia in vivo.)」、アメリカン ジャーナル オブ レスピラトリー セル アンド モルキュラー バイオロジー(American journal of respiratory cell and molecular biology)、2000年、第22巻、第2号、ページ129〜138
【非特許文献2】ファサノ エー(Fasano A)、他1名、「ゾーヌラ オクルデンス毒素による腸管の細胞間隙接着の制御がインシュリンとマクロ分子の体内への移行を可能にすることを動物モデルで確認(Modulation of intestinal tight junctions by Zonula occludens toxin permits enteral administration of insulin and other macromolecules in an animal model.)」、ジャーナル オブ クリニカル インベストメント(Journal of clinical investment)、1997年、第99巻、第6号、ページ1158〜1164
【非特許文献3】バレリー ドダン(Valerie Dodane)、他2名、「キトサンが上皮細胞の透過性と構造に与える影響(Effect of chitosan on epithelial permeability and structure)」、インターナショナル ジャーナル オブ ファーマシューティクス(International Journal of pharmaceutics)、1999年、第182巻、第1号、ページ21〜32
【非特許文献4】ディー ジェー ミッチェル(D. J. Mitchell)、他4名、「ポリアルギニンは他のポリカチオン単一多量体よりもより効率的に細胞内に入る(Polyarginine enters cells more efficiently than other polycationic homopolymers)」、ザ ジャーナル オブ ペプチド リサーチ(The journal of peptide research)、2000年、第56巻、第5号、ページ318〜325
【非特許文献5】フランケル エー ディー(Frankel AD)、他1名、「ヒト免疫不全ウイルスのTATタンパク質の細胞取り込み(Cellular uptake of the tat protein from human immunodeficiency virus.)」、セル(CELL)、1988年、第55巻、第6号、ページ1189〜1193
【非特許文献6】アネット エム コーチ(Annette M. Koch)、他4名、「表面を修飾したナノ粒子が細胞層を通過していく(Transport of surface-modified nanoparticles through cell monolayers)」、ケムバイオケム(ChemBioChem)、2005年、第6巻、第2号、ページ337〜345
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
経口投与、経鼻投与または経肺投与は、患者自身が自宅で投薬を行える最も好まれる投薬経路である。しかし、近年増え続けているタンパク・ペプチド・核酸・抗体などの高分子薬物は、これらの経口投与、経鼻投与または経肺投与を行っても生体バリアを通過することが出来ないため、効果を果たさせることが出来ず、注射など体内に直接投与する方法で投与する必要があった。
【0009】
本発明は、この課題を解決するため、細胞膜通過性に優れたペプチドを提供し、薬物の生体バリア通過を効率的に行う手段を提供する。これまでにも強い正電荷をもつペプチドであるオリゴアルギニンあるいはTATペプチドなどを用いる方法が報告されているが、これらの強い正電荷をもつペプチドは腸管内プロテアーゼあるいは細胞内プロテアーゼで分解されやすく、また細胞層の両側で細胞膜の通過性に差が無いため、逆方向の通過も起こり、効率的でなかった。本発明で提供される細胞膜通過性ペプチドはこのような高い正電荷を持たないため、腸管内・細胞内での安定性に優れ、実際の使用形態である腸管から血液中への移行に適しており、ペプチドおよびペプチドを含有する医薬組成物の効率的な腸管腔から血液中への移行を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、細胞膜を通過し物質を送達しうる新たなペプチドを提供することであり、これを実現させるために、下記の構成を有する。
(1)一般式(I)または(II)
(I) X-(Pro-Arg-Z)-X-(Pro-Arg-Z)-X
(II) X-(Arg-Pro-Z)-X-(Arg-Pro-Z)-X
(式中のnは1〜6の整数を表し、mは0〜4の整数を表し、Zはロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選ばれるアミノ酸を表し、XおよびXはそれぞれ別個に0〜10個の任意のアミノ酸配列を表し、Xは0〜4個の任意のアミノ酸配列を表す)
で示されるアミノ酸配列からなり、かつ全アミノ酸残基数に対するプロリンおよびアルギニンの残基数の割合がそれぞれ40%以下である細胞膜通過性ペプチド。
(2)一般式(I)で示される請求項1に記載の細胞膜通過性ペプチド。
(3)一般式(I)において、nが2〜4の整数である請求項2に記載の細胞膜通過性ペプチド。
(4)一般式(I)において、XまたはXのいずれかが0〜1個の任意のアミノ酸残基である(2)または(3)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチド。
(5)一般式(I)において、Zがロイシンであ(2)〜(4)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチド。
(6)一般式(I)において、mが1〜3の整数である(2)〜(5)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチド。
(7)配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる細胞膜通過性ペプチド。
(8)配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列において、Pro、Arg及びZ以外のアミノ酸の1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなる、(1)に記載の細胞膜通過性ペプチド。
(9)配列番号5で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなる、(1)に記載の細胞膜通過性ペプチド。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドをコードする組み換え核酸。
(11)(1)〜(9)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドおよび生物学的に活性な薬物を含有する医薬組成物。
(12)(1)〜(9)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を細胞外部から細胞内部へ送達させる方法。
(13)(1)〜(9)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を細胞層の片側から反対側へ送達させる方法。
(14)(1)〜(9)のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を腸管腔から血液中へ送達させる方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により細胞膜を通過しうるペプチドが提供される。このペプチドは高い細胞膜通過性を有し、細胞外から細胞内への移行性が高いことに加え、腸管内および細胞内での安定性に優れており、腸管に存在する生体バリアである細胞層を通過し腸管腔から血液中へ移行する能力に優れたペプチドである。
【0012】
また、本発明の細胞膜通過性ペプチドを含有した医薬組成物は高い細胞膜通過性を有し、また腸管内および細胞内での安定性に優れることから、これまで困難が生じていた高分子薬物の投与に関して妨げとなっている生体バリアを高い効率で通過させるという効果が得られる。これによりバイオ医薬品など従来は注射でしか投与出来なかった高分子薬物の経口、経肺または経鼻など非注射投与が可能になり、患者の苦痛、不便が大幅に改善される。
【0013】
また、本発明のペプチドをコードする組み換え核酸は、簡便に本発明の細胞膜通過性ペプチドまたは本発明の細胞膜通過性ペプチドを含有する融合タンパク質を生産するために利用可能であり、また体内に投与して発現させるなどといった間接的な本発明の細胞膜通過性ペプチドの利用が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の細胞膜通過性ペプチドは、一般式(I)または(II)
(I) X-(Pro-Arg-Z)-X-(Pro-Arg-Z)-X
(II) X-(Arg-Pro-Z)-X-(Arg-Pro-Z)-X
で示されるアミノ酸配列からなり、かつ全アミノ酸残基数に対するプロリンおよびアルギニンの残基数の割合がそれぞれ40%以下であるペプチドである。
【0015】
ここで、nは1〜6の整数を表し、mは0〜4の整数を表し、Zはロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選ばれるアミノ酸を表し、XおよびXはそれぞれ別個に0〜10個の任意のアミノ酸配列を表し、Xは0〜4個の任意のアミノ酸配列を表す。
【0016】
一般式(I)または(II)で表される本発明の細胞膜通過性ペプチドのうち、一般式(I)で表される細胞膜通過性ペプチドが好ましい。
【0017】
一般式(I)または(II)のアミノ酸配列の中、「Pro-Arg-Z」または「Arg-Pro-Z」のアミノ酸配列部分が細胞膜通過性に関わる部分であり、好ましくはnが2〜6、より好ましいのはnが2〜4の整数である。また、mは、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3の整数である。また、このアミノ酸配列部分は、機能を果たさせる際に細胞に対してより作用しやすい部分であることが好ましく、この理由からペプチド全体の端部に存在することが好ましい。従って、XまたはXのいずれかが0〜2個の任意のアミノ酸であることが好ましく、0〜1個の任意のアミノ酸であることがさらに好ましい。最も好ましいのは、XまたはXのいずれかが0個の任意のアミノ酸、すなわち「Pro-Arg-Z」または「Arg-Pro-Z」が末端となるペプチドである。また、Zはロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選ばれるアミノ酸を表すが、好ましくはロイシン、イソロイシンまたはバリンであり、より好ましいのはロイシンである。
【0018】
一般式(I)または(II)において、X、XまたはXで表される「任意のアミノ酸配列」とは、自然界での存在の有無に関わらずカルボキシル基とアミノ基を持つ分子が任意の順にペプチド結合したアミノ酸配列であればよく、ヒドロキシル化あるいはグリコシル化等の生体内で通常見られる翻訳後修飾をされたアミノ酸からなる配列であっても良いが、好ましくは哺乳類細胞内に通常存在する天然アミノ酸およびその光学異性体からなる配列であり、例を挙げるとアルギニン(Arg)、リシン(Lys)、アスパラギン酸(Asp)、アスパラギン(Asn)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、プロリン(Pro)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、メチオニン(Met)、システイン(Cys)、フェニルアラニン(Phe)、ロイシン(Leu)、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)などからなるアミノ酸配列である。
【0019】
本発明の細胞膜通過性ペプチドは、全アミノ酸残基数に対するプロリンおよびアルギニンの残基数の割合がそれぞれ40%以下である。ここでいう「アルギニンの割合」、「プロリンの割合」とは、本発明のペプチド全体のアミノ酸残基数に対するアルギニン、プロリン残基の個数の割合を表す。例えば、アミノ酸が15個結合したペプチド中にアルギニンが3個、プロリンが6個含まれていた場合、このペプチド中のアルギニンの割合は20%、プロリンの割合は40%と表す。
【0020】
上記の一般式(I)または(II)で表される細胞膜通過性ペプチドは、アルギニンの割合が本発明の範囲より多いと、腸管など共雑物の多い環境下では正電荷により共雑物への付着性を高めるため好ましくない。また、正電荷を多く持つペプチドは、プロテアーゼにより分解されやすい性質を持つことが知られている。以上の理由から、本発明の細胞膜通過性ペプチドに含まれるアルギニンの割合は40%以下であり、好ましくはアルギニンの割合が34%以下である。またペプチドの正電荷は細胞膜通過のために必要な細胞膜への親和性に寄与している。そのため、正電荷が低すぎてペプチド全体の荷電が低すぎることは好ましくない。この理由から最も好ましいのは、ペプチド内のアルギニンの割合が8%以上34%以下である。
【0021】
また同様に、本発明の細胞膜通過性ペプチドに含まれるプロリンの割合は40%以下であり、好ましいのは34%以下であり、最も好ましいのは8%以上34%以下である。
【0022】
本発明の細胞膜通過性ペプチドのうち、好ましいペプチドの具体例は、細胞膜通過を担う部分である「Pro-Arg-Leu」を4回連続させた配列を有する配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、また1個の「Pro-Arg-Leu」配列を有する配列番号2〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0023】
本発明において上記の5つのペプチドの1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたペプチドは、その改変が一般式(I)または(II)を満たし、細胞膜通過性を有するものであれば、本発明に含まれる。これは、細胞膜通過性機能に由来するのはそのペプチドの化学的性質、電気的性質または/および立体構造であり、欠失、置換または付加が生じてもこの化学的性質、電気的性質または/および立体構造保たれているかぎり同様の活性をもちうるためである。ただし、欠失、置換または置換のが増えるに従い細胞膜通過性が失われるため、欠失、置換または置換は2個以下であることが好ましく、1個以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の「細胞膜通過性ペプチド」は、細胞膜を横断して細胞外部から内部へ高い効率で移行しうるペプチドのことを示す。ここでいう高い効率で移行しうるかどうかは、例えば、以下の方法で確認することができる。すなわち、Caco-2細胞(ATCC HTB-37)を細胞培養用直径35ミリ平底プレート(IWAKI code:3810-006)上で10%FBS(SIGMA D7524)含有DMEM(SIGMA D5796)培地で37℃5%CO存在下で飽和状態後6日間培養した細胞に、N末端にスペーサーとしてグリシンを用いてフルオレセイン標識を施したペプチド10 nmolを事前に37℃に加温したHBSS(+)(Hanks’ Balamced Salt solution(GIBCO)、0.14 g/L CaCl2、0.1 g/L MgCl2・6H2O、0.1 g/L MgSO4・7H2O)2mlに希釈し細胞に添加した後、37℃、5%CO恒温糟にて120分間インキュベーションする。その後、ペプチド溶液をプレートからアスピレーターを用い完全に除去し、HBSS(+)溶液を2ml加え5分間静置することで表面に付着したペプチドを除去する操作を2回行い、その後、細胞溶解緩衝液(40 mM Tris-HCl pH7.6、10 mM EDTA、2% Triton-X100、 100 mM NaCl)により細胞内の蛍光修飾ペプチドを抽出する。この場合に、細胞内から回収される蛍光修飾ペプチドの量が、細胞に添加した量との比率で0.1%以上である場合、細胞膜を横断して細胞外部から内部へ高い効率で移行しうるということができる。
【0025】
本発明の細胞膜通過性ペプチドは、一般的な化学合成法により製造することが出来る。製造する方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が含まれる。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とが含まれる。本発明の細胞膜通過性ペプチドの合成は、そのいずれによることもできる。
【0026】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンイミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等またはこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0027】
上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸やペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステル等のアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に、例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明のペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。
【0028】
その他、本発明の細胞膜通過性ペプチドは、遺伝子工学的手法を用いて常法により調製することもできる。このようにして得られる本発明の細胞膜通過性ペプチドは、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
【0029】
また、本発明の細胞膜通過性ペプチドは、生物学的に活性な薬物と本発明の細胞膜通過性ペプチド双方を含有した医薬組成物として用いることが出来る。医薬組成物内の本発明の細胞膜通過性ペプチドと薬物はコンジュゲートを形成していることが好ましい。ここでいう「コンジュゲート」とは、2つ以上の物質が同時に動きうる状態を表し、その物質間が共有結合により結合しているもの、イオン結合により静電的に結合しているもの、また結合が存在しない場合であっても立体構造により他方がもう他方の動きを制限し共に動きうる状態にしたものも含まれる。例えば本発明のペプチドを表面に修飾したミセル、リポソーム、高分子などの微粒子の中に生物学的に活性な薬物が封入されているものなども「コンジュゲート」を形成していることに含まれる。より好ましくは、本発明のペプチドと生物学的に活性な薬物が強い結合で結ばれているものであり、共有結合で結ばれているものが好ましい。例えばペプチド中のアミノ基、カルボキシル基やシステインのもつチオール基と本発明の細胞膜通過性が共有結合により結合している医薬組成物である。
【0030】
薬物の種類としては、タンパク質に限定されるものではなく、また実際に臨床使用されているものあるいは臨床使用が期待されているもの等を幅広く利用できる。好ましくは、消化管などの生体バリアの透過性に乏しいペプチド、タンパク質、核酸または遺伝子である。また薬物の大きさも特に限定されるものでは無いが、細胞膜を通過するために分子量が大きすぎる薬物は障害となるため、分子量500000以下であることが望ましく、より好ましくは30000以下である。例えば、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、インスリン、アンジオテンシン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、ガストリン、成長ホルモン、プロラクチン(黄体刺激ホルモン)、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)、サイトトロピックホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、プロチレリン、黄体形成ホルモン(LH)、コルチコトロピン、ソマトロピン、チロトロピン(甲状腺刺激ホルモン)、ソマトスタチン(成長ホルモン刺激因子)、視床下部ホルモン(GnRH)、G−CSF、エリスロポエチン、HGF、EGF、VEGF、アンジオポエチン、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン類、スーパーオキサイドジムスターゼ(SOD)、ウロキナーゼ、リゾチーム、ワクチン等であるが、より好ましくはインスリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、成長ホルモン、インターフェロン類、インターロイキン類、G−CSFである。
【0031】
本発明のペプチドとタンパク質をコンジュゲートとする場合には、融合タンパク質として作成してもよい。本発明のペプチドを加える位置としては特に場所は限定されないが、細胞膜通過性を有するペプチドがタンパク質の外側に提示されており、かつ融合させたタンパク質の活性、機能への影響が低いことが好ましく、望ましくはN末端またはC末端である。融合させるタンパク質の種類としては特に限定されるものでは無いが、細胞膜を通過するために分子量が大きすぎる薬物は障害となるため、分子量500000以下であることが望ましく、より好ましくは30000以下である。
【0032】
当発明の細胞膜通過性ペプチドとの融合タンパク質を製造する場合は、一般的な化学合成法により行うことが出来る。例を示すと、本発明の細胞膜通過性ペプチドとインスリンを混合し縮合剤を添加して結合させる方法や、ペプチド合成装置(例えばApplied Biosystems Medel 433)を用いる方法である。また塩基配列情報に基づいて遺伝子工学的手法を用いて常法により製造することも出来る。例を挙げると、タンパク発現プロモーターを有する遺伝子発現ベクターに本発明の細胞膜通過性ペプチドおよび融合させるタンパク質をコードする塩基配列を組み込み製造する方法である。
【0033】
本発明の医薬組成物としては、本発明のペプチドと薬物に加えて、薬学的に許容される添加剤からなる粉末形態、あるいは、水等の媒体および該媒体以外の薬学的に許容される基剤との混合物等からなる液状形態、さらには、薬学的に許容される基剤との組み合わせにより固形化または半固形化した形態等が挙げられる。前記基剤としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機物質が挙げられ、例えば賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸収促進剤等が挙げられる。
【0034】
とくに、経口投与のためには、本発明のペプチドと薬物を含む組成物を腸溶性のカプセルや粘膜付着性のヒドロキシプロピルセルロースやスマートハイドロゲルpoly(methacrylic acid) grafted with poly(ethylene glycol)P(MAA-g-EG)などに包含した医薬組成物とすることは、消化酵素によるペプチドおよび薬物の分解回避の上でとくに好ましい。
【0035】
本発明の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を細胞外部から細胞内部へ送達させることが出来る。細胞は哺乳類細胞あっても昆虫細胞であってもその他の細胞であっても良い。最も好ましいのは哺乳類細胞である。例えば経口投与、経皮投与、血管内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、病巣内投与などにより成体に投与し、近傍および遠隔部位の細胞内へ生物学的に活性な薬物を送達することが出来る。具体的な例を挙げると本発明のペプチドを含む医薬組成物を血管内投与することで血管内皮細胞内に薬物を送達することが出来る。また本発明のペプチドを含む医薬組成物を経口投与することで消化管上皮細胞内に薬物を送達することが出来る。
【0036】
また本発明の細胞膜通過性ペプチドの送達方法は、上記に示した生体への投与に限定されない。例を挙げると生体外で培養している細胞に本発明のペプチドと遺伝子発現ベクターからなる医薬組成物を添加することで、遺伝子発現ベクターを細胞内に送達させることが出来る。
【0037】
また本発明の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を細胞層の片側からその反対側に送達させることが出来る。本発明のペプチドを使用した生物学的に活性な薬物を通過させる方法としてより好ましいのは、細胞層を構成する細胞同士が密接に結びついている上皮細胞組織の通過であり、肺、口腔、鼻腔、気道、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、結腸、直腸、皮膚などの細胞層通過である。例を挙げると本発明のペプチドを含む医薬組成物を皮膚表面に塗布することで、皮膚細胞層をこえて医薬組成物を体内に送達することができる。
【0038】
本発明の細胞膜通過性ペプチドの効果が得られる好ましい使用方法としては、本発明の細胞膜通過性ペプチドは正電荷が低いことを特徴とし、非特異的吸着が低いことを特徴とするため、共雑物が多く、またプロテアーゼが高い濃度で存在する腸管腔を経由し血液中に生物学的に活性な薬物を送達させる方法である。例えば腸管からの吸収性の悪い薬物と本発明のペプチドの双方を含む医薬組成物を経口投与し、腸管の細胞層を越えて薬物を体内に送達することが出来る。
【0039】
ここでいう「細胞層」とは、単一または複数種類の細胞が集まり層を形成し空間を2つに分け、物質の移動をその度合いに関わらず制限している細胞集団の部分を表す。例えば単層の円柱上皮細胞(主に、腸管上皮細胞、杯細胞、内分泌細胞、パネート細胞)から構成され、細胞間の密着結合により腸管腔から体内への物質移動が制限されている腸管の上皮などである。
【0040】
本発明には、上記の細胞膜通過性ペプチドをコードする組み換え核酸の含まれる。具体的には、本発明のペプチドとの融合タンパク質をコードする組み換え核酸を含みこのペプチドを発現しうるプラスミドベクター、ウイルスベクター、ファージミド、トランスポゾンなどである。
【0041】
またこの組み換え核酸は、例えば、本発明の細胞膜通過性ペプチドまたは本発明の細胞膜通過性ペプチドとの融合タンパク質の工業的生産や、体内より取り出した生体由来の細胞への本発明の細胞膜通過性ペプチドをコードする発現ベクターの導入、体内に本発明の細胞膜通過性ペプチドを投与し、体内の細胞に本発明の細胞膜通過性ペプチドまたは融合タンパク質を発現させることなどに、好ましく用いられる。特に、生体外にて本発明の細胞膜通過性ペプチドまたは本発明の細胞膜通過性ペプチドとの融合タンパク質を生産する方法として好適に用いられる。
【0042】
本発明において用いる「組み換え核酸」とは、人工的に作成されたDNAまたはRNAを表す。これはアデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウラシルなどの核酸を結合させ合成したものや、生物に含まれるDNAまたはRNAの一部を切り出し一部塩基を除去、他の塩基と結合などの修飾により作成したもの、またそれらを複製したものも本発明の「組み換え核酸」に含まれる。
【実施例】
【0043】
本発明を以下に実施例をあげて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]ファージディスプレイ法による腸管腔から血液中への移行性に優れた細胞膜通過ペプチドのスクリーニング
<方法>
8週齢のオスICRマウスにネンブタール(大日本製薬5%溶液)50μlを腹腔内投与し深麻酔状態においたのち、仰向けにして四肢を固定した。腹部をアルコール消毒した後、正中線を避け向かって右下部の盲腸上部付近を約2 cm切開した。切開した部分より露出させた回腸部位の1カ所を縫合糸により結紮閉鎖させた。結紮部位から約4cm離れた位置から22Gの留置針を用いてファージライブラリー溶液(約1×1011pfuのファージを含むHBSS緩衝液200μl)を結紮部位側へ投与し、速やかに留置針の上から腸管を結紮することでファージ溶液を約4 cmのループ内に閉じこめた状態とした。腸管を腹部に戻し、適宜ネンブタールを追加投与して麻酔を維持した。90分後にマウス心臓より25G注射針を用いて全血液を採取することで、腸管内から血中に移行したファージを含む循環血液を回収した。
【0045】
採取した血液に1/10容量の3.8%クエン酸ナトリウムを添加し、5000回転/分、5分間の遠心で血漿を分離した。得られた血漿50μlを、O.D.600が0.2程度の過剰量大腸菌ER2738株培養液10 mlに感染させて5時間震とう培養し、10000回転/分 10分間遠心して産生されたファージを含む上清を回収した。回収したファージ含有培養上清に1/6容量の20%PEG8000/2.5MNaClを加え、4℃4時間以上静置してファージを沈殿させ、10000回転/分 10分間遠心して増幅したファージを分離回収した。回収したファージは200μlのリン酸緩衝液に溶解し、この内の1/10量のファージを再度マウスの腸管へ投与することで、血中移行性ファージのスクリーニングを繰り返した。
【0046】
各ステップのスクリーニングにより得られたファージは、IPTG(イソプロピル−βーD−チオガラクトピラノシド)、X-gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−D−ガラクトピラノシド)を含むアガロースプレートに大腸菌とともに播種し、得られたプラークより複数個をランダムに選んでクローニングし個別のファージ感染大腸菌を培養し、増幅したファージのランダムペプチド部位の塩基配列をDNAシークエンサーにて分析した。
【0047】
<結果>
スクリーニング3回終了後に回収されたファージの提示ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2〜5で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであった。
【0048】
スクリーニング開始前のファージライブラリーに含まれるファージを無作為に15クローン選び出し、提示するペプチド配列を調べたところ、「プロリン−アルギニン−疎水性アミノ酸」部分を含有するファージは見られなかった。これに対しスクリーニング3回終了後のファージでは、配列を決定したうち8クローンのうち、4クローン(配列番号2〜5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド)に「プロリン−アルギニン−疎水性アミノ酸」部分が含まれており腸管から血液中への移行性に優れた配列を提示するファージの濃縮が確認された。
【0049】
[実施例2]蛍光修飾細胞膜通過性ペプチドのCaco-2細胞取り込み
<方法>
ヒト大腸癌由来細胞Caco-2(ATCC HTB-37)を細胞培養用直径35ミリ平底プレート(IWAKI code:3810-006)に播種し、10%FBS(SIGMA D7524)含有DMEM(SIGMA D5796)培地で37℃5%CO存在下でコンフレント状態にまで培養した。さらに2日毎に培養液を交換し6週間培養して細胞の分化を促した。分化を誘導した細胞は、培養液を取り除き、37℃に加温したHBSS緩衝液で3回洗浄した後、蛍光修飾ペプチド各10 nmolをHBSS緩衝液2mlとともに細胞に添加し120分間反応させた。その後、HBSS緩衝液を取り除きHBSS緩衝液4 ml、5分間の洗浄を2回行い、可溶化緩衝液1 mlを加え室温にて10分間振動させ細胞内の蛍光ペプチドを抽出した。蛍光ペプチドを抽出した可溶化溶液は、HBSS緩衝液にてO.D.488 nm励起O.D.510 nmの蛍光を蛍光強度計(HORIBA FluoroMax-3)で測定し、細胞への蛍光ペプチド取り込み量を測定した。
【0050】
ここで、HBSS緩衝液は、Hanks' Balanced Salt solution(GIBCO)、0.14 g/L CaCl2、0.1g/L MgCl26H2O、0.1 g/L MgSO4・7H2Oからなる水溶液である。また、培養液としては、FBS(SIGMA)終濃度10%、50 units/mlペニシリンG(GIBCO)、50μg/mlストレプトマイシン(GIBCO)、非必須アミノ酸10uμM(MEM Non-essential amino acids solution(GIBCO))含有D−MEM(SIGMA)を、可溶化緩衝液としては、40 mM Tris-HCl pH7.6, 10 mM EDTA, 2% Triton-X100, 100 mM NaClからなる水溶液を用いた。
【0051】
また、蛍光修飾ペプチドとしては、以下の配列で表される本発明のペプチドである「プロリン−アルギニン−疎水性アミノ酸」を4回繰り返した配列である「(PRL)4」のFITC-蛍光修飾体、また比較用としてランダム配列ペプチドである「random」、既知ペプチドである「TAT」、「R8」の3ペプチドのFITC-蛍光修飾体を用いた。
【0052】
「(PRL)4」:FITC-Gly-Pro-Arg-Leu-Pro-Arg-Leu-Pro-Arg-Leu-Pro-Arg-Leu
「random」:FITC-Gly-Leu-Ser-Ala-Ser-Pro-Asn-Leu-Gln-Phe-Arg-Thr-Val
「TAT」:FITC-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg-Pro-Arg-Gln
「R8」:FITC-Gly-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg。
【0053】
<結果>
「プロリン−アルギニン−疎水性アミノ酸」を4回繰り返した配列である本発明のペプチド「(PRL)4」、細胞への高い付着性が報告されている「TAT」、「R8」は、ランダム配列の「random」と比較し有意に高いCaco-2細胞への取り込み量を示した。
【0054】
また、高い正電荷を持つサケプロタミン(SIGMA) 17.5 mg/mlを同時に添加して正電荷に由来する細胞膜通過を阻害したところ、高い正電荷を持つペプチドである「TAT」や「R8」は強く抑制されたのに対し、本発明の「(PRL)4」は阻害されなかった。
【0055】
[実施例3]蛍光修飾した細胞膜通過性ペプチドの腸管組織への取り込み
<方法>
8週齢のオスBALB/cマウスを安楽死させ、空腸・回腸部分を摘出した。37℃に加温したHBSS緩衝液50 mlを通過させ内部の洗浄を行ったのち、腸管を6 cmごとに切り、縫合糸を用いて両側を縛り5 cmのループを作成した。ここに蛍光修飾ペプチド5 nmlを含む200μlのHBSS緩衝液を注入し、37℃に加温した状態で90分後静置した。その後、腸管内をHBSS緩衝液にて洗浄し、4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液にて4℃で一晩固定を行った。次に10% Sucorose 溶液にて6時間、15% Sucrose溶液にて6時間、20% Sucrose溶液にて6時間置換したのち-80℃で凍結させ厚さ5μmの凍結切片を作成した。凍結切片は0.1μg/ml PI(プロピジウム イオドイド)にて10分間細胞核を染色した後、蛍光顕微鏡にて観察を行った。
【0056】
ここで、HBSS緩衝液はHanks' Balanced Salt solution(GIBCO)、0.14 g/L CaCl2、0.1g/L MgCl26H2O、0.1 g/L MgSO4・7H2Oからなる水溶液である。
【0057】
<結果>
「プロリン−塩基性アミノ酸−疎水性アミノ酸」を4回繰り返した配列である本発明のペプチド「(PRL)4」、及び既知ペプチドの「TAT」、「R8」の腸管への取り込み量を、ランダム配列ペプチドの「random」と比較したところ、腸管細胞に「random」がほとんど取り込まれないのに対し、「(PRL)4」、「TAT」、「R8」は取り込みを示した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、ヒト大腸癌由来細胞Caco-2に蛍光修飾したペプチドを添加し、細胞内に移行した蛍光物質量を定量的に測定した結果を示す。
【図2】図2は、マウス腸管に蛍光修飾ペプチドを投与し、一定時間後に凍結切片を作成し、腸管細胞に取り込まれた蛍光修飾ペプチドを凍結切片を蛍光顕微鏡観察した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)または(II)
(I) X-(Pro-Arg-Z)-X-(Pro-Arg-Z)-X
(II) X-(Arg-Pro-Z)-X-(Arg-Pro-Z)-X
(式中のnは1〜6の整数を表し、mは0〜4の整数を表し、Zはロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン及びチロシンからなる群から選ばれるアミノ酸を表し、XおよびXはそれぞれ別個に0〜10個の任意のアミノ酸配列を表し、Xは0〜4個の任意のアミノ酸配列を表す)
で示されるアミノ酸配列からなり、かつ全アミノ酸残基数に対するプロリンおよびアルギニンの残基数の割合がそれぞれ40%以下である細胞膜通過性ペプチド。
【請求項2】
一般式(I)で示される請求項1に記載の細胞膜通過性ペプチド。
【請求項3】
一般式(I)において、nが2〜4の整数である請求項2に記載の細胞膜通過性ペプチド。
【請求項4】
一般式(I)において、XまたはXのいずれかが0〜1個の任意のアミノ酸残基である請求項2または3のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチド。
【請求項5】
一般式(I)において、Zがロイシンである請求項2〜4のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチド。
【請求項6】
一般式(I)において、mが1〜3の整数である請求項2〜5のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチド。
【請求項7】
配列番号1〜5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる細胞膜通過性ペプチド。
【請求項8】
配列番号1〜4のいずれかで表されるアミノ酸配列において、Pro、Arg及びZ以外のアミノ酸の1もしくは2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の細胞膜通過性ペプチド。
【請求項9】
配列番号5で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の細胞膜通過性ペプチド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドをコードする組み換え核酸。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドおよび生物学的に活性な薬物を含有する医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を細胞外部から細胞内部へ送達させる方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を細胞層の片側から反対側へ送達させる方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の細胞膜通過性ペプチドを使用して生物学的に活性な薬物を腸管腔から血液中へ送達させる方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−143454(P2007−143454A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340849(P2005−340849)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成17年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】