説明

細胞運動計測方法およびシステム

【課題】細胞の走化活性の定量的データを取得する技術を提供する。
【解決手段】細胞の運動状態を計測する細胞運動計測方法は、生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で観察空間100に配置し、細胞が収容されている観察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与し、(a)各細胞について、刺激剤投与時点から運動を開始するまでに要する反応時間、および、(b)前記運動を開始した各細胞について、その運動が継続している継続時間のうち、少なくとも一方を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の運動活性を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞走化性とは、細胞が特定の因子の濃度勾配を察知し、その濃度の高い方向へと移動する機能のことである。細胞の移動は、炎症反応や創傷治癒、リンパ球などの恒常循環、癌転移や発生など、様々な生命プロセスにおいて重要な役割を示す。各種の免疫細胞の移動が中心的に関与する炎症性疾患としては、好酸球やTH2細胞が関与する喘息をはじめ、単球及びTH1細胞などが関与する関節リウマチや多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、好中球の関与する心筋梗塞や脳梗塞、虚血、その他クローン病や乾癬、移植拒絶反応、肝炎、I型糖尿病、慢性閉塞性肺疾患など、様々なものが挙げられる(Andrew et al, 2005)。
【0003】
これらの生命現象や疾患を解析するにあたっては、関連する細胞の走化性を評価することは重要である。そのためには細胞運動を適切に定量化する技術が必要となる。疾患の有無や重症度、薬剤奏効性などの指標となる細胞運動の評価方法が特定されれば、その方法による細胞運動の評価技術は、疾患に対する診断や薬剤選択などの目的で特に有用である。さらに、疾患のプロセスにおいて走化性が重要な役割を示す疾患については、適切な細胞運動の評価技術は、疾患のメカニズムを解明したり、疾患に対する薬剤を探索したりする目的に対しても応用可能である。
【0004】
細胞走化性を定量する従来の技術としてはボイデンチャンバー法が古くから使われてきた(Boyden, 1962)。この方法は、均一なサイズの微細孔を多数持ったフィルターに対して、その一方の側に細胞を、他方に走化性因子を添加し、フィルターの微細孔に生じた走化性因子の濃度勾配に沿って細胞がフィルターを潜り抜けて移動することを利用したものである。このためフィルターを通過した細胞の割合などをカウントすることによって走化性の程度を定量化することはできるものの、より複雑な走化性のパターン解析や移動中の細胞の様子を直接解析することは不可能であった。
【0005】
細胞の走化性を直接光学的に観察する方法としては、アンダーアガロース法(Cutler and Munoz, 1974; Nelson et al., 1975; John and Sieber, 1976) のほか、Zigmondチャンバー(Zigmond, 1977) 、Dunnチャンバー (Zicha et al., 1991) などが開発され、研究に利用されてきた。これらの手法では、いずれも、水平方向に形成された微小な平面状空間を利用する。アンダーアガロース法では、ガラス面上にアガロースゲルを凝固させた際にガラスとゲルとの界面に生じる間隙を利用する。ZigmondおよびDunnの手法では、段差の刻まれた特殊なガラス器具を用いる。水平な微小空間内に細胞を配置し、さらに走化性因子の濃度勾配を形成させることによって、細胞走化性を誘発した条件の下で、顕微鏡による細胞の様子を観察することができる。
【0006】
さらに、走化性を解析するツールとして、KKチャンバー法も報告されている(Kanegasaki et al. 2003)。これは、リガンドの濃度勾配を安定的に形成し、そこでの細胞の様子を直接観察するものである。細胞走化性を高い再現性で引き起こして、二次元平面上での様子を観察することを可能とした。
【0007】
また、細胞の二次元面上での運動を定量化する技術としては、顕微鏡のタイムラプス画像から細胞一つ一つの追跡データを取得し、細胞の数や移動速度などを解析するものが報告されている (Abraham et al. 2004, Krooshoop et al. 2003, Wick et al. 2003)。
【0008】
【非特許文献1】Abraham VC, Taylor DL, Haskins JR. High content screening applied to large-scale cell biology. Trends Biotechnol. 2004 Jan;22(1):15-22.
【非特許文献2】Andrew D Luster, Ronen Alon & Ulrich H von Andrian. Immune cell migration in inflammation: present and future therapeutic targets. Nature Immunol, 2005 December, 6 (12), pp1182 1190
【非特許文献3】Boyden, S., 1962. Chemotactic effect of mixtures of antibody and antigen on polymorphonuclear leukocytes. J. Exp. Med. 115, 453.
【非特許文献4】Cutler, J.E. and Munoz, J.J., 1974. A simple in vitro method for studies on chemotaxis. Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 147, 471.
【非特許文献5】Kanegasaki S, Nomura Y, Nitta N, Akiyama S, Tamatani T, Goshoh Y, Yoshida T, Sato T, Kikuchi Y. A novel optical assay system for the quantitative measurement of chemotaxis. J Immunol Methods. 2003 Nov;282(1-2):1-11.
【非特許文献6】John, T.J. and Sieber, O.F,Jr., 1976. Chemotactic migration of neutrophils under agarose. Life Sci. 18, 177.
【非特許文献7】Krooshoop, D.J., Torensma, R, van den Bosch, G.J., Nelissen, J.M., Figdor, C.G., Raymakers, R.A. and Boezeman, J.B., An automated multi well cell track system to study leukocyte migration. J. Immunol. Methods. 2003. Sep;280(1-2):89-102.
【非特許文献8】Nelson, F.D., Quie, P.G. and Simmons, R.L., 1975. Chemotaxis under agarose: a new and simple method for measuring chemotaxis and spontaneous migration of human polymorphonuclear leukocytes and monocytes. J. Immunol. 115, 1650.
【非特許文献9】Wick N, Thurner S, Paiha K, Sedivy R, Vietor I, Huber LA. Quantitative measurement of cell migration using time-lapse videomicroscopy and non-linear system analysis. Histochem Cell Biol. 2003 Jan;119(1):15-20.
【非特許文献10】Zigmond S.H., 1977. Ability of polymorphonuclear leukocytes to orient in gradients of chemotactic factors. J. Cell Biol. 75, 606.
【非特許文献11】Zichia, D., Dunn, G.A. and Brown, G.E., 1991. A new direct viewing chemotaxis chamber. J. Cell Sci. 99, 769.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
各種の疾患の診断においては、患者の示す症状の定性的な評価に依存するところがある。定性的な診断では、診断を行う医師によって診断結果の傾向が異なることがある。患者の病態を客観的に把握するため、また、診断の結果から、薬剤の種類および量、治療方法などを選定するために、定量的で客観的な評価基準が好ましい。例えば、喘息の診断においては、従来は、呼吸困難、歩行・会話など動作への支障など、といった症状の定性的な評価、また、ピークフロー値、血中の酸素飽和度などを指標とした診断がなされていた。しかし、疾患の重症度評価やグルーピングなどを定量的に行う目的に対しては、限界がある。そのため、疾患診断における定量的な評価をどのように行うかが、課題となっていた。
【0010】
細胞走化性は、喘息を含む各種の疾患において重要な役割を示すことから、これら疾患に関与する細胞の走化性を適切に定量化する指標が得られれば、疾患の診断やメカニズム解明、薬剤の開発や評価などの目的で非常に有用であると考えられる(Andrew et al, 2005)。しかしながら、細胞運動を計測する目的で開発され用いられてきた従来の方法にはアレルギーや喘息などといった疾患の診断に利用可能な実用レベルの細胞走化性評価技術は存在しなかった。
【0011】
本発明の目的は、細胞走化性の関与する各種疾患の評価に利用可能な、細胞の走化活性の定量的データを取得する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、
細胞の運動状態を計測する細胞運動計測方法において、
生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で観察空間に配置し、
前記細胞が収容されている観察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与し、(a)各細胞について、刺激剤投与時点から運動を開始するまでに要する反応時間、および、
(b)前記運動を開始した各細胞について、その運動が継続している継続時間のうち、少なくとも一方を計測すること
を特徴とする細胞運動計測方法が提供される。
【0013】
また、本発明の他の態様によれば、
細胞の運動状態を計測する細胞運動計測システムにおいて、
生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で保持する観察空間を構成すると共に、観察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与可能な観察支援器具と、
前記観察支援器具内の細胞を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により取得された画像の処理を行うコンピュータと、を備え、
前記コンピュータは、記憶装置と、表示装置と、入力装置と接続され、
前記撮像装置からの画像を記憶装置に記憶させると共に、撮像時点を示す時刻情報を画像と対応づけて記憶させる手段と、
前記入力装置を介して、刺激剤の投与時点の入力を受け付けて、その時刻を取得して前記記憶装置に記憶させる手段と、
得られた画像を解析して、細胞運動の評価指標を求める手段と、を有し、
前記評価指標を求める手段は、
各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する処理と、
距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の速さを算出する処理と、
細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上になったかを判定し、閾値以上になった時点において、前記刺激投与時点からその時点までに要する時間を算出して、前記反応時間を求める処理と、
を実行することを特徴とする細胞運動計測システムが提供される。
【0014】
さらに、本発明の他の態様によれば、
細胞の運動状態を計測する細胞運動計測システムにおいて、
生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で保持する観察空間を構成すると共に、観察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与可能な観察支援器具と、
前記観察支援器具内の細胞を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により取得された画像の処理を行うコンピュータと、を備え、
前記コンピュータは、記憶装置と、表示装置と、入力装置と接続され、
前記撮像装置からの画像を記憶装置に記憶させると共に、撮像時点を示す時刻情報を画像と対応づけて記憶させる手段と、
前記入力装置を介して、刺激剤の投与時点の入力を受け付けて、その時刻を取得して前記記憶装置に記憶させる手段と、
得られた画像を解析して、細胞運動の評価指標を求める手段と、を有し、
前記評価指標を求める手段は、
各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する処理と、
距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の速さを算出する処理と、
細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上に至ったかを判定し、閾値以上になった時点と、前記算出した速さが、予め定めた閾値未満に至ったかを判定し、閾値未満に至った時点との経過時間を算出して、前記継続時間を求める処理と、を実行することを特徴とする細胞運動計測システムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞走化性の関与する各種疾患の評価に利用可能な、細胞の走化活性の定量的データを計測により取得することができる。この技術を用いることにより、喘息など炎症性疾患をはじめとする細胞走化性の関与する各種疾患の評価に利用可能な、細胞の走化活性の定量的データを取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る細胞走化性を計測する装置の概略構成図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態において用いられる観察支援器具における濃度勾配を設けている状態を示す説明図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態における画像解析処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は本発明の一実施形態に係る評価指標を模式的に示すグラフである。
【図5】図5好酸球走行性の観察結果の画面例を示す説明図である。
【図6】図6a−図6dは好酸球走化性の移動経路追跡の状態を模式的に示す説明図である。
【図7】図7は細胞速度の時間変化を示すヒスグラムを表す説明図である。
【図8】図8a、8bはVDplotによる好酸球走化性の比較を示す説明図である。
【図9】図9a、9bは反応時間を解析した結果を示す説明図である。
【図10】図10a、10bは継続時間を解析した結果を示す説明図である。
【図11】図11は実験に用いた血液サンプルを示す図表である。
【図12】図12a、12bはVDPlotによる各疾患グループの好酸球走化性の解析結果を示す説明図である。
【図13】図13a、13bは細胞が運動を開始するまでの反応時間の解析結果を示す説明図である。
【図14】図14a、14bは細胞の運動継続時間の解析結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0017】
100…観察支援器具、110…細胞収容F空間、180…注入器具、310…光学系
、320…撮像装置、350…コンピュータ、351…CPU、352…メモリ、353
…記憶装置、370…データ記憶領域、380…プログラム記憶領域。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態では、細胞の二次元面上での運動をタイムラプス撮影し、得られ画像を解析する。すなわち、図4に模式的に示すように、細胞に対して走化性因子などの刺激剤を投与した時点から個々の細胞が移動を開始するまでにかかる反応時間、または、移動を開始した細胞がその移動を継続する持続時間、さらには、その両方を指標として得ることができる。本発明者は、これらの指標が、喘息など疾患の診断に有用であることを、実験的に初めて明らかにした。以下の実施系谷より、そのための細胞運動計測方法を開示する。
【0020】
以下に述べる実施形態は、例えば、喘息などといった疾患を評価、診断する上で有用である。実施例として示したものは、好酸球の走化活性評価、およびアレルギー、アトピー及び喘息についての好酸球走化性の解析例である。この実施例から、本実施形態が、好酸球の走化性評価や、アレルギーや喘息などの疾患の診断などに有用であることが示され。
【0021】
実施例では、解析の対象となる細胞として「好酸球」を用いた。そのほか、「好中球」「好塩基球」「単球」「Tリンパ球」「Bリンパ球」「マクロファージ」「肥満細胞」「樹状細胞」などが挙げられる。また、実施例では、対象とする疾患として「アレルギー」「アトピー」「喘息」を挙げた。しかし、本発明は、これに限られない。そのほか、「関節リウマチ」「多発性硬化症」「アテローム性動脈硬化症」「心筋梗塞」「脳梗塞」「虚血」「クローン病」「乾癬」「移植拒絶反応」「肝炎」「I型糖尿病」「慢性閉塞性肺疾患」などが挙げられる。
【0022】
本実施形態では、細胞を選び、刺激剤を選ぶことにより、具体的な診断支援を行うことができる。例えば、細胞として、好酸球を用い、刺激剤として、プロスタグランディンを用いることにより、本実施形態による計測結果を、アレルギー疾患についての診断支援に利用することができる。すなわち、計測対象の好酸球についての継続時間が、健常者の好酸球について予め計測した継続時間と比較する処理を行い、健常者の継続時間に比べて長い場合、当該好酸球の提供者はアトピーまたは喘息の疾患の可能性があるとの評価を出力することができる。これにより、診断の支援が行える。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態である細胞運動計測システムの構成の一例を示す。図1に示すシステムは、生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で保持する観察空間を構成すると共に、観察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与可能な観察支援器具100と、観察支援器具100内の細胞を撮像する撮像装置320と、撮像装置320により取得された画像の処理を行うコンピュータ350と、を備える。
【0024】
観察支援器具100は、細胞が動き得る厚さを持った扁平な空間を有し、内部に細胞を生きた状態で保持できるように、例えば、培地、培養液等で満たされる。具体的には、例えば、シリコンウェハに複数の溝を形成して、その溝を、細胞を収容する空間として利用する構造としたものが挙げられる。観察支援器具100は、撮像装置320により撮像されるため、撮像装置対向面が透明に形成される。
【0025】
また、この観察支援器具100には、刺激剤を、細胞が収容される空間に投与するための部位が設けられている。具体的には、貫通孔が設けられる。刺激剤は、例えば、注射器等の注入器具180を用いて、細胞収容空間に投与される。
【0026】
刺激剤の投与は、手作業で行うことができる。また、定量を噴射できる機構とすることで、コンピュータ350からの投与指令に基づいて、投与を自動的に行う構成とすることができる。自動的な投与とすると、投与時刻を取得する場合に便利である。
【0027】
本実施形態の場合、図2に示すように、複数の細胞が配置された空間に、細胞の反応を見るための刺激剤についての濃度勾配を形成する。そのため、観察支援器具100により、細胞を収容する空間として細胞収容空間110が形成される。図1に示す細胞収容空間110は、原理の説明をするため、その構造を模式的に示す。具体的な構成については後述する。
【0028】
この細胞収容空間110に、細胞に無害な液体120を満たし、この中に、観察したい細胞200を、複数個(細胞群)配置する。この状態で、細胞の反応を見るための物質(以下、刺激剤という)130を、細胞収容空間110の一方から注入して、細胞収容空間110内に濃度勾配131を形成させる。この例では、化合物等の刺激剤130を溶解した溶液を注入し、細胞収容空間110に特定の刺激剤130の濃度勾配131が形成された状況において、各細胞200の状態を、顕微鏡を構成する光学系310を介して、ディジタルカメラ(例えば、CCDカメラ)等の撮像装置320により撮像する。なお、本実施形態では、細胞収容空間110をシリコンウェア上にフォトリソグラフ技術を用いて複数個(例えば、12個)形成する。そして、それぞれの細胞収容空間110における濃度勾配の各位置における細胞の運動を計測する。この方法により、化合物の細胞に対する作用の比較を容易に行うことが可能となる。
【0029】
刺激剤に対する細胞の運動は、濃度に応じて異なる。細胞が示す応答として、例えば、遺伝子発現、形態変化、生理活性物質の放出など、様々な細胞現象が考えられる。こられの応答として、細胞は、外部から観察できる何らかの特徴量を示す場合がある。本発明では、この性質を利用して、細胞群が示す特徴量を細胞群の画像を解析することにより抽出して、刺激剤に関する細胞の運動に関する情報を、取得する。本発明の場合、同じ画面内に、濃度勾配が形成される。このため、濃度を変えては、実験を繰り返すといった試行錯誤による手間を要しない。1回の実験で濃度の違いによる運動の違いを観察することができる。
【0030】
なお、図2には、濃度勾配を形成する場合の例を示したが、本発明は、濃度勾配を設けずに行うこともできる。その場合には、細胞収容空間110に、刺激剤を一余蘊分布させる。
【0031】
観察支援器具100は、温度調節可能な恒温チャンバ190に、着脱可能に収容されている。また、観察支援器具100は、自動XYステージ316上に配置され、コンピュータ350からの指示に応じて、観察支援器具をXY平面上で変位させることができる。これにより、観察域を設定することが可能となる。自動XYステージ316は、図示していない駆動機構を備え、コンピュータ350からの操作指令に応じて、XY変位する。
【0032】
撮像装置320は、例えば、CCD素子を備えたディジタルカメラであり、細胞の画像を取得して、データをコンピュータ350に送る。この撮像装置320は、コンピュータ350からの指示に従って、一定時間毎の時点で、撮像を行う、すなわちタイムラプス撮像を行っている。
【0033】
コンピュータ350は、記憶装置353を内蔵すると共に、表示装置340と、入力装置330と接続される。また、コンピュータ350は、プログラムと協働して各種処理を実行する具体的な手段を構築して、各種情報の処理を行うCPU351と、CPU351が実行するプログラム380をロードすると共に、データ370を記憶するメモリ352とを有する。
【0034】
記憶装置353には、データ370として、例えば、撮像装置320から送られる画像データ371と、刺激剤投与時刻、撮像時点を示す撮像時刻等の時刻データ372と、実験条件データ373と、評価データ374とが格納される。各撮像時点を示す時刻データは、撮像した画像と対応づけて記録しておく。例えば、画像識別子とリンクして時刻データを記憶する。
【0035】
コンピュータ350は、撮像装置320に撮像させる制御と、撮像装置320からの画像を記憶装置353に記憶させると共に、撮像時点を示す時刻情報を画像と対応づけて記憶させる手段と、入力装置330を介して、刺激剤の投与時点の入力を受け付けて、その時刻を取得して記憶装置353に記憶させる手段と、得られた画像を解析して、細胞運動の評価指標を求める手段と、評価指標を用いて病気の診断をすることを支援する手段と、を有する。これらの手段は、図1に示すプログラム380をCPU351が実行することにより構築される。プログラム380としては、撮像制御処理381、画像解析処理382、診断支援処理383等が記憶されている。もちろん、記憶されるプログラムはこれらに限られない。
【0036】
評価指標を求める手段は、図3に示すように、距離算出処理2821と、速さ算出処理2822と、反応時間算出処理2823と、継続時間算出処理2824とを実行する。距離算出処理2821は、各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する。速さ算出処理2822は、距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の速さを算出する。反応時間算出処理2823は、細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上になったかを判定し、閾値以上になった時点において、前記刺激投与時点からその時点までに要する時間を算出して、反応時間を求める。継続時間算出処理2824は、細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上に至ったかを判定し、閾値以上になった時点と、前記算出した速さが、予め定めた閾値未満に至ったかを判定し、閾値未満に至った時点との経過時間を算出して、前記継続時間を求める。得られた反応時間および継続時間は、評価指標となるその他のデータと共に、評価データ374として、記憶装置353に格納される。
【0037】
なお、本実施形態では、画像解析処理382および診断支援処理383が、撮像制御処理381と、同じコンピュータ350により処理される構成となっている。しかし、これに限られない。例えば、画像解析処理382と、診断支援処理383とを、それぞれ別のコンピュータにおいて処理する構成としてもよい。
【0038】
次に、本実施形態における細胞運動の計測手順について説明する。
【0039】
まず、観察支援器具100の細胞収容空間110に解析対象となる細胞、例えば、好酸球などを注入する。この状態で、走化性因子などの刺激因子となる刺激剤、例えば、プロスタグランディン(PGD2)を投与する。この投与は、自動、もしくは手動で行うことができる。この際、時刻データを記録する。具体的には、入力装置330を介して、コンピュータに投与時刻を入力する。例えば、表示装置340に、投与時刻入力領域を含む画面を表示しておき、入力装置330により、その領域をクリックすることで、CPU351が構築する撮像制御処理381が、入力時点の時刻を取得して、時刻データ372として、記憶装置353に格納する。この時刻が、投与時点となる。
【0040】
撮像制御処理381は、解析対象となる細胞群を、顕微鏡310と撮像装置320とを用いて、タイムラプス撮影する。すなわち、予め定めたタイミングで、同じ細胞収容空間を複数回、撮像装置320に撮像させる。具体的には、観察支援器具100には、複数、例えば、12個の細胞収容空間110が設けられているので、これらの空間を移動しつつ、順次、定められた時間間隔、例えば、1分、5分などの感覚で、撮像する。撮像した画像は、記憶装置353のデータ領域370に、画像データ371として記憶される。
【0041】
タイムラプス撮影の開始は、刺激剤投入の前から初めてよい。撮像制御処理381は、自動、または、手動で、撮影を開始した時点と、タイムラプスの撮影間隔、もしくは、各タイムラプス写真を撮影した時刻を記録する処理を行う。
【0042】
次に、細胞運動の定量か、すなわち、画像解析処理による指標を得る手順について説明する。
【0043】
CPU351は、記憶装置353のデータ領域370に記憶される画像データ371から、細胞一つ一つを識別し、そこから個々の細胞が各時刻において移動をしているかどうかの判定を行う。具体的には、各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する(ステップ3821)。細胞の移動経路の取得方法については、画像処理によって自動的に行うのでも、人為的に目視による判定により行うのでも、その組み合わせでも良い。自動で行う場合には、ある時点で細胞画像を認識すると共に、その細胞画像の画面内での位置を特定する。次の時点で、細胞画像を認識し、先に特定した位置に最も近い位置に存在する細胞画像を、前の時点で認識した細胞画像と判定して、その位置を特定する。この両者の位置の差を求めて、距離を算出する。
【0044】
次に、細胞が移動しているか否かの判定に際しては、細胞の各時間での位置情報から細胞の移動速度を計算し、その移動速度があらかじめ設定した閾値を越えた状態をもってして、細胞が移動していると判定する。このため、移動の速さを算出する。すなわち、CPU351は、距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の速さを算出する(ステップ3822)。
【0045】
次に、CPU351は、細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上になったかを判定し、閾値以上になった時点において、前記刺激投与時点からその時点までに要する時間を算出して、前記反応時間を求める(ステップ3823)。ここでは、速さとしたが、移動方位を含めて、速度を求めてもよい。細胞の移動速度としては、タイムラプス中の2つの時点での画像から細胞の位置を取得し、その間の距離を写真撮影時刻の間隔で割った値を用いることができる。
【0046】
なお、各時点間での細胞の移動速度には、各時点での細胞の位置座標の揺らぎなどに由来する誤差が含まれることがある。この誤差によって、細胞移動の識別に誤りが生じることを避けるため、細胞移動の有無の判定に用いる細胞速度としては、移動距離を時間間隔で割って得た平均速度のほか、この平均速度の時系列変化を取得し、その時系列情報から得られる移動平均値、もしくは指数移動平均値を用いることも可能である。
【0047】
本実施形態では、反応時間のみならず、継続時間の算出も行う。すなわち、CPU351は、細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上に至ったかを判定し、閾値以上になった時点と、前記算出した速さが、予め定めた閾値未満に至ったかを判定し、閾値未満に至った時点との経過時間を算出して、前記継続時間を求める(ステップ3824)。
【0048】
ここで、閾値の設定は、細胞の種類、実験条件、測定の目的などに合わせて、好ましい値を適宜選定したものを使用する。この値は、例えば、実験条件データ373と共に記憶しておき、画像解析処理を行う際、メモリ352に読み出す。そして、反応時間、および、継続時間の閾値判定を行う際に、CPU351が用いる。本実施形態の画像解析処理では、CPU351は、個々の細胞の移動径路から細胞の移動速度の時間変化を取得して、そこから細胞が移動を開始するまでの応答時間、および、移動を開始した細胞が移動を停止するまでの移動継続時間を得る。
【0049】
ここで、応答時間についての時間の起点としては刺激剤投入時点を、移動継続時間についての時間の起点としてはその細胞が移動を開始した時点を用いる。応答時間および継続時間は、細胞一つ一つについて得られる。このため、例えば、画面中に30個の細胞があれば、30個の細胞について得られる情報である。
【0050】
CPU351は、応答時間および移動継続時間の情報の他、診断などに有効な数値データを取得する。例えば、刺激剤投与後一定の時間が経過した時点における、移動を開始した細胞の割合を用いる。また、移動を開始後一定の時間が経過した時点における、移動を継続している細胞の割合を用いる。場合によっては、途中で追跡が途絶えたり、測定時間内に運動を開始しなかったりなどの理由で、測定中に情報を得られない場合がある。そのような場合を加味して移動開始細胞の割合の時間変化、ないし移動継続細胞の割合の時間変化を取得するために、データを取得できなかった細胞を打ち止めとして扱い、例えばKaplan-Meier推定量などを用いることによって、各時間に対応する移動開始細胞の割合、ないし移動継続細胞の割合を得ることができる。これらのデータは、いずれも評価データ373として記憶装置350にデータ領域370に格納される。
【0051】
また、CPU351は、予め健常者についての、応答時間および継続時間を含む、前述した各種計測情報を取得しておいて、記憶装置353に記憶させておく。
【0052】
これらの評価指標を用いて、診断支援処理383により、診断支援を行うことができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明する。
(試薬及び細胞の準備)
RPMI 1640 Medium HEPES Modification (RPMI-HEPES), Fetal Bovine Serum (FBS),はSigma-Aldrich Co. (St. Louis, MO) から購入した。Dulbecco's Phosphate-Buffered Salines (PBS) はInvitrogen Japan K.K. (Tokyo, Japan)より購入した。Recombinant Human MIP-1 alpha (CCL3; Macrophage Inflammatory Protein-1 alpha)、Recombinant Human RANTES (CCL5; Regulation upon Activation Normal T cell Express Sequence)およびRecombinant Human SDF-1 alpha (CXCL12; Stromal-Cell Derived Factor-1) はPeproTech Inc. (Rocky Hill, NJ)より購入した。その他の試薬は和光純薬工業株式会社 (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan) より購入したものを用いた。
【0054】
血液は、インフォームド・コンセントの確認作業を行った上で患者および健常人より採取した。血液に対して水処理による溶血反応および遠心分離を二度繰り返した後に、磁気細胞分離法を実施して好酸球を分離した。磁気細胞分離にはMACS (Miltenyi Biotec GmbH, Germany) を使用し、抗ヒトCD3, CD14, CD16およびCD19抗体標識磁気ビーズを用いたネガティブセレクション法により行った。磁気細胞分離のメソッドはMiltenyi社のマニュアルに準じて行った。得られた細胞はPBSで洗浄した後、1%FCS添加RPMI-HEPES培養液に5×106 cells/ml の濃度で懸濁して以降の実験に用いた。
(細胞走化性測定)
細胞運動計測装置本体およびホルダー(観察支援器具)は、株式会社カケンジェネックス (Kaken Geneqs Inc, Chiba, Japan) が製作したものである。シリコンチップには、株式会社山武 (Yamatake Corporation, Tokyo, Japan) が作成したものを、装置の作動にはトリイシステム株式会社 (TORII SYSTEMS CO., LTD., Tokyo, Japan) が作成したソフトウェアを用いた。装置の構造設定および測定の方法は、前述した手順に従っておこなった。
【0055】
本実施例において用いられる装置は、図1に示すものと同じ構成である。(Kanegasaki S, Nomura Y, Nitta N, Akiyama S, Tamatani T, Goshoh Y,Yoshida T, Sato T, Kikuchi Y. A novel optical assay system for thequantitative measurement of chemotaxis. J Immunol Methods. 2003Nov;282(1-2):1-11.)に示されているものと同じである。
【0056】
測定の際には、装置の観察支援器具内を1%FCS添加RPMI-HEPESで満たし、同器具を37℃に保持した状態で細胞及び走化性因子を投入し、その後の細胞の様子をタイムラプス撮影した。試験に用いた走化性因子の濃度は、CCL3(MIP-1α),CCL5(RANTES)は5μMで、 CXCL12 (SDF-1), N-formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine (fMLP) 及び Prostaglandin D2 (PGD2) については1μMで、これらの各溶液1μlを観察支援器具100に添加して濃度勾配を形成した。撮影は1分間隔のタイムラプスで行い、1ホルダーあたり最大12サンプルについて並行して行った。
【0057】
(細胞運動の追跡)
細胞の識別および追跡には、前述したプログラムを用いた。具体的には、C++ Builder 6 (Borland, Cupertino, CA) を用いて開発した専用のソフトウェアを用いた。本ソフトウェアでは、ユーザが写真中から解析対象となる領域を選択するとその領域内の細胞を識別し、追跡を実行する。細胞の自動追跡は、タイムラプス画像における位置ブレを補正した後に、隣接するタイムフレームの写真中で最も近くにある細胞の位置を順次指定、保存することによる。細胞の自動追跡にはエラーが含まれるため、得られた細胞の移動経路は人間の目視による判定に基づいて適宜修正を行った。目視による細胞経路の指定は、本ソフトウェアによって、ユーザがタイムラプス画像中から解析すべき細胞を選別し、その位置をフレーム1枚ずつ、順次、入力装置、例えば、マウスでクリックすることで、細胞の時系列座標データを取得、保存する仕組となっている。得られた細胞一つ一つの移動経路情報から、細胞の位置や速度、方向性などの時系列データを取得した。データに人為的なバイアスが影響することを避けるため、本ソフトウェアを用いた細胞の識別および追跡作業は、実験の内容を知らされていない第三者によって行われた。
【0058】
(統計解析)
下記の解析について、統計処理計算およびデータの可視化にはソフトウェアRを用いた (R Development Core Team, 2005)。VD plot (Velocity-Direction plot) は、細胞個々の速度および方向性の時系列データに対してこれらの値の中央値を計算し、速度の中央値を縦軸、方向性の中央値を横軸としてプロットしたものである。このグラフ面上に細胞走化性の指標となるゲートを設定して、そのゲートに含まれる細胞の割合を得た。細胞の割合についての差の検定にはマン・ホイットニーのU検定を用いた。
【0059】
遊走応答時間Chemotactic Response Time (CRT) および細胞の遊走継続時間Chemotaxis Lifetime (CLT)の計算に際しては、細胞移動速度の時系列データよりExponential Moving Average (EMA) を計算し、その値が一定の閾値を超えた状態をもって細胞の遊走を定義した。すなわち測定開始後に移動速度のEMAが初めて閾値を越えたまでの時間がCRTであり、その時点から閾値を下回るまでにかかった経過時間がCLTである。CLTの計算は測定時間内に運動を開始した細胞に対してのみ行った。
CRT analysisでは細胞の移動開始を細胞活性化の指標として、個々の細胞のCRTからその細胞集団における活性化細胞の割合 (Activated Cell Rate: ACR) の時間変化を計算した。同様にCLT analysisにおいては、運動を継続している細胞の割合 (Running Cell Rate: RCR)の時間変化をCLTの値から計算した。細胞追跡時間内に移動開始ないし停止を観測できなかった細胞は打ち切りデータ (censored) として扱った。各時間におけるACR及びRCRにはKaplan-Meier推定量を用い、信頼区間には補完両対数による値を用いた (Venables and Ripley, 1999)。特定時間のACRおよびRCRについてグループ間の差の検定にはt検定を用いた。
【0060】
(好酸球走化性観察および移動経路の解析)
図5は、健常人より得た好酸球がProstaglandin D2 (PGD2) の濃度勾配に対して遊走する様子を、本装置を用いて撮影した画像である。写真上方向より下へ向かってPGD2の濃度勾配を形成したところ、時間が経過するに従って好酸球がテラス上方向へと移動する様子が観察された。
【0061】
好酸球の運動性を解析するために、このタイムラプス画像から細胞一つ一つの移動経路を取得した。撮影は一分間隔のタイムラプスで行ったため、細胞追跡の結果からは一分毎の各細胞の位置情報が得られている。前後する2枚の写真より各細胞の座標の相対値を計算することによって、各時点での各細胞の一分間の移動ベクトルが得られる。その長さから一分間の移動速度 (velocity) を、濃度勾配方向を基準とした移動ベクトルの向きから濃度勾配に対する運動方向の特異性 (direction) を知ることができる(図6a)。
【0062】
運動の方向については、濃度勾配方向に対して直角方向に設定した線と運動方向ベクトルとのなす角度をもって運動方向性と定義した。すなわち、細胞が濃度勾配に沿って濃度高い方向へと移動した場合には運動方向性は+π/2となり、逆に濃度の低い方向へと移動した場合には-π/2となる。濃度勾配に対して直角方向に移動した場合は0である。細胞一つ一つについて時間を追って行うことにより、各細胞の速度および運動方向性の時系列変化を得ることができる。以下の実験ではタイムラプス画像から個々の細胞の移動径路を取得し、そこから得た速度及び運動方向特異性の時系列変化を計算して、各種の解析に用いた。
【0063】
好酸球のPGD2に対する遊走実験では細胞は移動を開始するものとしないものとに分かれたが(data not shown)、さらに遊走を開始した細胞についてその移動径路を観察したところ、装置の観察部外へと走り抜けていく細胞と(図6b)、しばらく移動したのちに停止する細胞(図6c)とが存在していた。なお、図6b、図6cの右下方のバーは、50μmを示す。ここでは一定の閾値を設けて運動の有無を定義することにより、細胞の速度の時系列変化からその細胞の遊走応答時間 (Chemotactic Response Time: CRT) および走化性継続時間 (Chemotaxis Lifetime: CLT) を取得して解析の対象とした(図6d)。
【0064】
このような運動のパターンの特性を検討するため、以下の解析では細胞の速度の時系列変化からその細胞の遊走応答時間 (Chemotactic Response Time: CRT) および走化性継続時間 (Chemotaxis Lifetime: CLT) について解析を行った。各細胞におけるCRTおよびCLTの測定に際して、細胞の移動経路から速度の時系列データを取得してそのExponential Moving Average (EMA) を計算し、その値が一定の閾値を越えた時点で細胞が移動したと定義することにした。各時間での細胞の位置は人為的に目視によって一つ一つ指定することで得られており、形態変化しながら移動する細胞に対して一意的に特定されるものではない。すなわち、細胞の位置やそこから計算される細胞の運動速度や方向性には回避できないノイズが含まれることになる。このノイズによって移動開始およびが誤認されてしまうことを避けるために、ここではEMAを用いることとした。
【0065】
(各種走化性因子に対する好酸球の走化性実験)
装置を用いて、健常人の血液4サンプルより得た好酸球の各種走化性因子に対する走化性実験を行った。ここではProstaglandin D2 (PGD2), N-Formyl-Met-Leu-Phe (fMLP), CCL3 (MIP-1α), CCL5 (RANTES), CXCL12 (SDF-1) による濃度勾配処理時、及び化合物未処理時(N.C.)について実験を行った。ここでCXCL-12については、抹消血中および採血直後の好酸球はCXCL-12に対するレセプターであるCXCR4を細胞表面にほとんど出していないが、37℃にて細胞をインキュベートすると徐々にその量が増えていくことが知られていることから(Nagase et al., 2000)、CXCL-12に対する走化性実験は末梢血より好酸球を分離した後8時間後に行った。各種走化性因子の濃度については、細胞の走化性が最も明確に観察できる濃度を実験的に選定した(data not shown)。
【0066】
各条件において個々の好酸球の追跡を行い、その経路から速度および方向性の時系列変化情報を取得した。図7に、健常人4サンプルのうち一つについて各条件における細胞の運動速度のヒストグラムを示した。ここでは速さを横軸、頻度を縦軸として表した。本データから、化合物未処理時(N.C.)では一部の細胞が運動することはあるが全体として運動性は低く、移動速度は0.15 μm/min を超えることがほとんどないことが分かる。ここから、本実験条件下においては運動の有無の閾値として0.15 μm/min を用いることは妥当であるといえる。
【0067】
(VD plotによる細胞走化性の解析)
好酸球の各種走化性因子に対する走化性を定量的に解析するため、細胞の追跡を行いその経路情報を定量的に解析した。図8aに、個々の細胞を細胞移動の速さ(Velocity)および方向性(Direction)についてプロットした図(VD plot)を示した。VD plotは、細胞の追跡データから速さおよび方向性の中央値(Median)を計算し、それを各々縦軸および横軸に設定してプロットしたものである。ここから、走化性因子を加えないコントロール(N.C.)では細胞の速さおよび方向性はゼロ付近に留まっており移動がほとんど見られないのに対し、PGD2、CCL3およびCXCL12では右上部にプロットされる細胞が多く、濃度勾配方向に対して特異的に移動する細胞が多いことが分かる。VD plotで濃度勾配方向への特異的な運動性が高いと検出された細胞の割合を図8bに示した。ここからもPGD2、CCL3およびCXCL12について高い運動性が認められたが、fMLPおよびCCL5についてはVD plotによる解析ではコントロールとの差がほとんど認められなかった。
(走化性因子に対する応答時間の解析)
VD plotでは速度および方向性の時系列データから中央値を計算してプロットしていることから、走化性因子に対して反応を示した細胞であっても運動状態が静止状態に対して短時間であれば、VD plotではその反応は検出されない。ここでは細胞の走化性因子に対する反応の有無および反応にかかる時間を調べるため、Chemotactic Response Time (CRT) Analysisを行った。CRTは走化性因子を投入した時点から細胞が移動を開始するまでにかかった応答時間であり(図6d)、各実験条件における細胞のCRTの分布から、細胞の走化性因子に対する反応性を評価することができる。ここでは細胞速度の時系列データから細胞ごとにCRTを計算し、そこから運動を開始した細胞の割合 (Activated Cell Rate: ACR) の時系列変化を計算した(図9a)。
【0068】
CRTの計算に際して、走化性因子を投入しないサンプルでは細胞の速度は0.15μm/minをほとんど超えないことから(図7および図8a)、ここでは0.15μm/minを細胞移動検出のための閾値として用いた。
【0069】
また図9bは、反応開始後5分及び45分後における各サンプルのACRについて、その推定値と95%信頼区間を示したものである。図9aから、N.C.ではACRは0〜0.2あたりで横ばいとなり、ほとんどの細胞は運動を開始しない一方、走化性因子の濃度勾配条件下では徐々に移動を開始していく様子が分かった。PGD2処理では他の因子と比較して極めて短時間で細胞の移動が開始しており、図9a及び図9bのグラフから測定開始後5分程度で8割程度の細胞が運動を開始したことが分かった。fMLP, CCL3, CXCL12ついては、細胞は時間経過に従い徐々に運動を開始しているが、CCL3についてはサンプル間でのばらつきが目立った。またCCL5については測定開始後5分および45分の時点では細胞はほとんど運動を開始しないが、その後に細胞の反応性が徐々に上昇する、特徴的な傾向が観察された。
(細胞走化性のライフタイム解析)
好酸球が移動開始したのち停止するまでにかかった経過時間 (Chemotactic Lifetime: CLT) を解析した。CLTの計算においては、CRTの計算と同様に速度のEMA値が0.15μm/sec を超えた状態をもって細胞が移動していると定義した。個々の細胞のCLTから、移動を継続している細胞の割合 (Running Cell Rate: RCR) を運動開始後の経過時間ごとに計算した結果が図10aで、運動開始より5分後および15分後の時点におけるRCRの値と95%信頼区間を示したのが図10bである。PGD2、fMLPおよびCCL3では15分以上継続して割合した細胞は5割未満程度であり、特にfMLPについてはほとんどの細胞が15分以内に移動を停止したことと比較して、CCL5およびCXCL12に対する好酸球の遊走はライフタイムが長い傾向があることが示された。
(アレルギー及びぜんそく患者の好酸球の走化性解析)
好酸球はアレルギー性疾患をはじめとする多くの病態へ関与することが知られている。TAXIScanを用いることでその好酸球の活性を走化性の側面から詳細に解析することが可能となることから、ここでは各種疾患グループごとに好酸球の走化性を比較し、診断技術として応用が想定されるバイオマーカー抽出の検討を行った。
【0070】
健常人およびアレルギー、アトピー、ぜんそくの患者より採取した好酸球を用いてTAXIScanによる走化性試験を行った。解析に用いた血液サンプルのドナー情報を図11に示す。ここではサンプルを健常人 (I)、アレルギー患者もしくはアトピー患者 (II)、ぜんそく患者 (III) の3グループに分類して解析した。解析に用いた血液サンプル数は、グループIが5、IIが8、IIIが3サンプルである。
【0071】
好酸球の走化性試験は、走化性因子濃度勾配を加えないサンプル(N.C.)と、PGD2およびfMLPの濃度勾配条件サンプルについて行った。その結果のVD plotを図12a、12bに示す。VD plotから得られる細胞の運動性を疾患グループごとに比較したところ、fMLP刺激ではぜんそく患者(III)において、PGD2刺激ではアレルギー/アトピー患者(II)およびぜんそく患者(III)において、健常人(I)との有意な差異が認められ、炎症性疾患においてこれら走化性因子に対する運動性が高いことが確認された(図12b)。
【0072】
各サンプルの好酸球についてCRT Analysisを行った結果を図13a、13bに示す。ぜんそく患者 (III)はPGD2刺激に対して非常に反応性が高く、5分以内には全ての好酸球が遊走を開始する結果となり、健常人 (I) との間で5%の有意な差が認められたが、その他についてはグループ間に有意な差は認められなかった。
【0073】
続いて細胞の移動継続時間を患者グループごとに比較するためにCLT Analysisを行ったところ、PGD2濃度勾配刺激時における細胞の移動継続時間はアレルギー/アトピー患者およびぜんそく患者において長く、5分以上の移動を行う細胞の割合は健常人と比較して有意に高いことが明らかとなった(図14a、14b)。一方、fMLPについては健常人と炎症性疾患患者との間には有意な差は認められなかった。
【0074】
本研究では細胞走化性を定量化する新規な技術を確立し、好酸球の走化性解析を行ってその実効性を確認した。
【0075】
好酸球は骨髄由来の白血球の一種で、その多くは組織中に存在し、上皮を超えて進入した寄生虫などの異物に対する生体防御の役割を担う。好酸球はIL-3やIL-5、GM-CSFなどのサイトカイン刺激によって骨髄中での増殖・分化が促進され、またIL-5によって末梢血中への動員が制御されていることが知られている (Collins et al. 1995, Lampinen et al. 2004) 。血液中を循環している好酸球はそのほとんどが組織中へと浸潤し、さらにそこで活性化されるとFc epsilon RIを細胞表面へ発現して、抗体を介した寄生虫への生体防御反応を現す (Gounni et al. 1994)。好酸球の感染局所への動員および活性化は、主にマスト細胞の脱顆粒やTH2細胞の活性化などが引き金となってもたらされるものと考えられている。
【0076】
好酸球の走化性は、これら生理的な細胞活性を示す上で、非常に重要であると考えられる。好酸球の走化性因子に対する応答としては、cAMPの上昇やアクチン重合活性化、接着因子の活性化などが報告されている(Monneret et al. 2001)。これら個々の活性は重要な意味合いを持つが、今回新たに開発した走化性解析手法を用いることによって、好酸球のリガンドに対する反応を多角的に調べることが可能となった。
【0077】
本研究で新たに開発した走化性解析技術を用いて、各種の走化性因子に対する好酸球の運動の様子を解析したところ、因子によって異なるパターンが明らかとなった。PGD2については、運動開始までの時間が他の走化性因子と比較して極めて短く、試験開始の5分後には7〜10割程度の細胞が運動を開始した。fMLPについては、CRT analysisより健常人で半数程度の好酸球が遊走するが移動の継続時間は他の因子と比較して短かった。ケモカイン類についてはCCL3, CCL5, CXCL12の三種類を解析した。CRT Analysisからは、CCL5処理時において反応開始より1時間ほど経過したあたりから細胞の反応性が徐々に上昇する特徴的な様子が確認された。運動開始までの反応応答時間が走化性因子によってばらつく原因としては走化性因子の拡散速度の差なども考えられるが、CCL3, CCL5およびCXCL12はいずれも類似の構造を持つケモカインであり、物理的な拡散に大きな差異があるとは考えにくく、細胞自体の因子に対する反応性に差異があるものと考えられる。またCLT Analysisからは、CCL3についてCCL5やCXCL12などと比較すると移動継続時間が短いことが分かった。同一の好酸球であっても、与える走化性因子によって走化性のパターンが異なることは興味深い。この原因としては、走化性因子とレセプターとの結合段階やその下流のシグナル伝達系に差異が存在するものと想定される。この差異が生じる機構を解明し、その生理的な意義を考察することは非常に興味深く、今回確立した解析法を応用することによる更なる研究の進展が期待される。
【0078】
好酸球の走化性は、病理的な立場からも非常に興味深いものである。好酸球は生体防御反応の一角を担う一方で、ぜんそくなどの疾患では炎症部位の好酸球数が特異的に増加することが知られており、好酸球の攻撃能力が異常に機能することによってぜんそくやアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などの炎症性疾患を引き起こす原因になるものと考えられている。各種の炎症性疾患においては、IL-5などのサイトカイン刺激によって好酸球の骨髄における増殖・分化が活発となり、さらに血中の好酸球もプライミングされ細胞機能が全般的に活性化される。活性化された好酸球が炎症部位へと動員される機構には、複数の要因が関連しているものと考えられている。第一にサイトカインの作用によって好酸球及び血管内皮細胞の接着分子が活性化されることから、好酸球の血管内皮でのローリングおよび接着が増す。第二に活性化された好酸球は自律的に細胞壁を通過して組織へと浸潤する能力が高いことから、アレルギー及びぜんそくの患者では好酸球の組織への移動が亢進する。そして第三に、活性化された好酸球は各種の走化性因子に対する遊走能が高まるため、組織中での炎症局所への移動が活発となる。以上のような多面的な作用により、アレルギーやぜんそくなどの炎症性疾患において好酸球の炎症部位への集積がなされるものと考えられている (Wardlaw 2001, Lampinen et al. 2004)。
【0079】
本研究では、健常人およびアレルギーやぜんそくなどの炎症性疾患の患者について、好酸球走化性のパターンを比較した。PGD2に対する好酸球の走化性を比較した結果、VD plotの解析からはアレルギー・アトピー患者およびぜんそく患者由来の好酸球において高い運動性が確認された。またCRT Anaysisよりぜんそく患者は健常人と比較して運動開始の反応性も高いことが明らかとなったが、特徴的であったのがCLTである。すなわち、移動開始から5分間以上継続して運動した細胞の割合について、アレルギー・アトピー患者グループは健常人と比較して優位に高く、ぜんそく患者ではこれよりもさらに高かった。一方fMLPの実験では、VD plotによる解析からはぜんそく患者において健常人よりも優位に高い運動活性が確認されたが、CRTおよびCLTについては健常人と疾患患者との間に差異は認められなかった。PGD2に対する好酸球走化性のCLTが疾患グループごとに異なることについて、同時に実験を行ったfMLPに対する遊走実験ではこのような明白なCLTの差異は認められなかったことから、細胞運動に関わるマシーナリーや細胞移動に消費可能なエネルギーなどでは説明できない。原因としては、炎症性疾患の患者では過剰な走化性を抑制する何らかの機構が正常に機能しないことなどが仮説として考えられた。
【0080】
今回確立した細胞走化性の定量化技術により、従来は不可能であった細胞走化性の多面的な解析が可能となった。好酸球を用いた試験から、今回確立した手法は細胞走化性の基礎的な研究のほか、アレルギーなど疾患の評価技術としても有用であることが示された。走化性を示す細胞としては、好酸球のほかにも好中球や好塩基球、リンパ球、単球など様々なものが挙げられる。本技術は、これら細胞の走化性が関与する疾患の診断や評価を行うためのツールとして有効であると期待される。さらに今回の成果は、アレルギー及びぜんそくなどの疾患患者において炎症が発生、悪化するメカニズムについて示唆を与えるものであった。メカニズムの解明は炎症性疾患治療の有望なターゲットへとつながり、さらに今回確立した手法などを用いることによる新薬探索も有効となるものと考えられ、研究の更なる進展が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の運動状態を計測する細胞運動計測方法において、
生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で観察空間に配置し、
前記細胞が収容されている観察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与し、
(a)各細胞について、刺激剤投与時点から運動を開始するまでに要する反応時間、およ
び、
(b)前記運動を開始した各細胞について、その運動が継続している継続時間
のうち、少なくとも一方を計測すること
を特徴とする細胞運動計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の計測方法において、
前記(a)において、運動の開始は、前記細胞の運動が予め定めた閾値以上となった時
であることを特徴とする細胞運動計測方法。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞運動計測方法において、
前記反応時間の計測は、
前記細胞が所在する観察空間を、撮像装置により経時的に複数の時点で撮像し、
前記撮像装置が取得した画像を、コンピュータを介して記憶装置に記憶させると共に、
各撮像時点を、撮像した画像と対応づけて記録し、
前記コンピュータにおいて、
各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した
画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する処理と、
距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の
速さを算出する処理と、
細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上になったかを判定し、閾
値以上になった時点において、前記刺激投与時点からその時点までに要する時間を算出し
て、前記反応時間を求めること
を特徴とする細胞運動計測方法。
【請求項4】
請求項1に記載の計測方法において、
前記(b)に置いて計測される継続時間は、運動が、予め定めた閾値以上となってから
予め定めた閾値未満に至るまでに要する時間であることを特徴とする細胞運動計測方法。
【請求項5】
請求項4に記載の細胞運動計測方法において、
前記継続時間の計測は、
前記細胞が所在する観察空間を、撮像装置により経時的に複数の時点で撮像し、
前記撮像装置が取得した画像を、コンピュータを介して記憶装置に記憶させると共に、
各撮像時点を、撮像した画像と対応づけて記録し、
前記コンピュータにおいて、
各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した
画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する処理と、
距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の
速さを算出する処理と、
細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上に至ったかを判定し、閾
値以上になった時点と、前記算出した速さが、予め定めた閾値未満に至ったかを判定し、
閾値未満に至った時点との経過時間を算出して、前記継続時間を求めること
を特徴とする細胞運動計測方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞運動計測方法において、
前記細胞として、好酸球、好中球、好塩基球、単球、Tリンパ球、Bリンパ球、マクロ
ファージ、肥満細胞および樹状細胞から選択される細胞を用いること
を特徴とする細胞運動計測方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞運動計測方法を用いた診断支援方法におい
て、
前記細胞として、好酸球を用い、前記刺激剤として、プロスタグランディンを用い、
計測対象の好酸球についての前記継続時間の長さを指標をとする、アレルギー、アトピ
ーまたは喘息の診断支援方法。
【請求項8】
細胞の運動状態を計測する細胞運動計測システムにおいて、
生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で保持する観察空間を構成すると共に、観
察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与可能な観察支援器具と、
前記観察支援器具内の細胞を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により取得された画像の処理を行うコンピュータと、を備え、
前記コンピュータは、記憶装置と、表示装置と、入力装置と接続され、
前記撮像装置からの画像を記憶装置に記憶させると共に、撮像時点を示す時刻情報を画
像と対応づけて記憶させる手段と、
前記入力装置を介して、刺激剤の投与時点の入力を受け付けて、その時刻を取得して前
記記憶装置に記憶させる手段と、
得られた画像を解析して、細胞運動の評価指標を求める手段と、を有し、
前記評価指標を求める手段は、
各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した
画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する処理と、
距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の
速さを算出する処理と、
細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上になったかを判定し、閾
値以上になった時点において、前記刺激投与時点からその時点までに要する時間を算出し
て、前記反応時間を求める処理と、
を実行することを特徴とする細胞運動計測システム。
【請求項9】
細胞の運動状態を計測する細胞運動計測システムにおいて、
生きている細胞を、平面上で運動可能な状態で保持する観察空間を構成すると共に、観
察空間内に、細胞の運動に影響を与える刺激剤を投与可能な観察支援器具と、
前記観察支援器具内の細胞を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により取得された画像の処理を行うコンピュータと、を備え、
前記コンピュータは、記憶装置と、表示装置と、入力装置と接続され、
前記撮像装置からの画像を記憶装置に記憶させると共に、撮像時点を示す時刻情報を画
像と対応づけて記憶させる手段と、
前記入力装置を介して、刺激剤の投与時点の入力を受け付けて、その時刻を取得して前
記記憶装置に記憶させる手段と、
得られた画像を解析して、細胞運動の評価指標を求める手段と、を有し、
前記評価指標を求める手段は、
各撮像時点で取得した画像に表れている各細胞の位置と、それぞれ次の時点で撮像した
画像に表れている各細胞の位置との距離を、取得した画像から抽出する処理と、
距離を求めた撮像時点間の経過時間を算出して、前記距離を経過時間で除して各細胞の
速さを算出する処理と、
細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上に至ったかを判定し、閾
値以上になった時点と、前記算出した速さが、予め定めた閾値未満に至ったかを判定し、
閾値未満に至った時点との経過時間を算出して、前記継続時間を求める処理と、
を実行することを特徴とする細胞運動計測システム。
【請求項10】
請求項8に記載の細胞運動計測システムにおいて、
細胞ごとに各時点について前記算出した速さが、前記閾値以上に至ったかを判定し、閾
値以上になった時点と、前記算出した速さが、予め定めた閾値未満に至ったかを判定し、
閾値未満に至った時点との経過時間を算出して、前記継続時間を求める処理、をさらに実
行することを特徴とする細胞運動計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−141314(P2012−141314A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−43684(P2012−43684)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【分割の表示】特願2007−549149(P2007−549149)の分割
【原出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(512033534)M&Tプロジェクトパートナーズ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】