説明

細胞類の凍結装置

【課題】細胞類のダメージを最小限に抑え、小型設備で大容量化を実現し、設備稼働率を大幅に向上させることができる細胞類の凍結装置を提供する。
【解決手段】冷却室5と、冷却室5内の凍結試料9を局部冷却して植氷する局部冷却手段とを備え、上記局部冷却手段は、ペルチェ素子7の冷却側16を含んで構成され、上記ペルチェ素子7の排熱側17に冷熱を伝達するとともに、上記冷却室5に冷熱を伝達することにより、上記ペルチェ素子7の排熱側17と冷却室5の双方を冷却する伝熱部材6を備えて構成されている。冷却室5内で植氷を行なえるため、外気を導入することなく、従来の植氷方法よりも確実かつ効率的に植氷を行ない、過冷却に伴う細胞類へのダメージを最小限に抑えながら凍結させることができる。また、冷却構造の大幅な簡素化を図り、ファンなどの排熱処理装置を不要とし、装置を小型化すると同時に大容量化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や細胞等の生体組織について、ダメージを最小限に抑えながら速やかに凍結する細胞類の凍結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
疾病の治療に際し、近年「再生医療」という治療法が注目を浴びている。再生医療とは、機能障害や機能不全、欠損に陥った生体組織の機能の再生を行う治療法で、現在行われている臓器移植などに代わる治療法として期待されている。
【0003】
再生医療の中心にある幹細胞(胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等)は、生体の様々な組織に再生可能な細胞として、最も重要なソースである。
【0004】
幹細胞を医療現場で使用する際には、施術に必要十分な数まで幹細胞を増やし、目的とする組織に分化させた後に、患者へ投与することが行われる。そのために、限定された空間のクリーンルーム等にて無菌下であらかじめ細胞を培養し、施術前まで相当数の幹細胞もしくは分化した細胞を保存しておく必要がある。
【0005】
このような幹細胞は、液体窒素内で凍結することによって保存することが行われている。また、幹細胞に限らずとも、あらゆる細胞は液体窒素による凍結で半永久的に保存することが可能である。
【0006】
しかしながら、細胞を凍結する過程において、単に冷却するだけでは、下記の非特許文献1に示されているように、過冷却の解消に伴って細胞内の水分によって氷晶が発生し、細胞を内部から破壊して細胞死を引き起こすダメージが問題になる。
【0007】
そこで、前述の問題を回避するために、下記の非特許文献2に開示されているように、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の凍害保護剤が共存する環境下で液体窒素へ直接投入し、急激に試料凍結を行うガラス化法を用いる場合がある。
【0008】
また、他の方法として、−30℃程度の過冷却ポイントを通過するまで、冷却速度を−1℃/分以下に制御した凍結プログラムに従った緩慢凍結法も行われている。
【0009】
このような緩慢凍結法は、例えば、プログラムフリーザーによる冷凍制御や(下記の特許文献1・特許文献2)、冷凍機による熱吸収を緩和させる凍結コンテナ(下記の特許文献3)等の方法によって行われている。
【0010】
また、緩慢凍結と同時に、細胞外へ氷晶を意図的に発生させて細胞内の氷晶形成を抑える植氷を行う場合もある。
【0011】
このような植氷は、外部から振動等の物理的刺激を与える方法、あらかじめ液体窒素に浸漬しておいた冷却ピンセット等の接触によって熱刺激を与える方法、または、液体窒素等の冷媒を利用して試料容器を局部的に極低温領域に接触させる方法(下記の特許文献4)などが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭61−64101
【特許文献2】特開2007−97872
【特許文献3】特開2007−289041
【特許文献4】実公平1−21923
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】倉岡泰郎 他:冷凍,第63巻 第733号,p.111〜119,(1988)
【非特許文献2】Tsuyoshi Fujioka, et al., International Journal of Developmental Biology,48(10),p.1149〜1154,(2004)
【非特許文献3】伊藤のぞみ 他:日本輸血学会雑誌,第50巻 第4号,p.620〜625,(2004)
【非特許文献4】和氣敦:血液・腫瘍科,第53巻 第6号,p.671〜676,(2006)
【非特許文献5】松谷豊著,生物化学実験法29 動物細胞培養法入門,p.179,株式会社学会出版センター刊,(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、再生医療の施術には、まず、幹細胞もしくは分化した細胞を相当量だけ用意し、それを凍結によって保管しておく必要がある。
【0015】
一例として、臍帯血移植の場合、移植に必要な臍帯血は、通常の1包装容量で25mLである(上記非特許文献3)。また、最近では成人向けに複数の臍帯血を移植する方法が行われており(上記非特許文献4)、その場合、上述した1包装25mLの臍帯血が複数必要となる。
【0016】
一方、細胞類を凍結保存する場合の1包装の容量は、再生医療で必要とされる容量に比べて極めて微量であることが問題となっている。すなわち、ストローで凍結できる最大量は、1サンプルあたり0.5mL程度、クライオチューブでは、1サンプルの容量が0.8〜2.0mL程度でしかない。
【0017】
したがって、これらの冷凍保存された細胞類は、解凍した後、再生医療の施術に必要な量の細胞を確保するため、長時間をかけて培養することが必要となる。このような培養時間を短縮するためには、極めて多量の細胞類を同時に凍結しなければならなくなるが、上述したように、凍結保存できる1包装の容量に限りがあるため、それらの凍結ならびに解凍を行う処理は、極めて非効率なものとなってしまうのが実情である。
【0018】
一方、上述した従来の緩慢凍結法や植氷法自体にも下記のような問題がある。
【0019】
すなわち、特許文献1、特許文献2ならびに特許文献3に開示された緩慢凍結法では、植氷機能を有しないため、過冷却を完全には回避することができず、過冷却の解消時に発生する潜熱によって細胞にダメージを与えてしまうことが避けられない。
【0020】
加えて、特許文献1の装置は、冷媒として液化ガスを使用しているため、冷媒供給用の液化ガス貯蔵タンクが必要となり、装置全体が大型化し、クリーンルーム等のようにスペースの限られた施設内でコンパクトに設置することが困難である。
【0021】
また、特許文献2の装置では、冷却手段としてペルチェ素子を使用していることから、ペルチェ素子の排熱を処理する必要があり、ファンなどの排熱処理装置を設備しなければならず、どうしても装置が大型化してしまう。
【0022】
さらに、植氷法では、振動等の物理的刺激や冷却ピンセット等の熱刺激を、試料毎に1つずつ与えてやる必要があるため、極めて非効率で確実性も低い。さらに、冷却ピンセット等の熱刺激を与えるためには、冷却室を少なくとも一度開放しなければならないことから、その際に試料が外気と接触して昇温し、速やかな凍結の妨げとなる。
【0023】
また、特許文献4の装置は、電磁弁の制御で冷媒である液化ガスを送り込んで局部冷却することから、凍結時に発生した霜が凍結終了後の昇温時に溶解して結露する。そうすると、引き続いて凍結しようとしても、結露が氷結して電滋弁が固着し、植氷制御ができなくなってしまう。このため、結露が除去するまでつぎの植氷を開始することができず、実際には1日に1回稼動させるのが限界で、極めて非効率な設備であった。
【0024】
また、植氷を含む冷却手段からの排熱や輻射による外部からの熱の流入は、試料温度制御の外乱となり、精密な温度制御の妨げとなる。特に、ヒトES細胞は凍結に弱く、細胞を凍結する際には極めて精密な温度制御が必要となるため、精密な温度制御を達成できる凍結方法の開発が強く望まれていた。
【0025】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、細胞類のダメージを最小限に抑えながら速やかに凍結でき、かつ小型の設備で大容量化を実現するとともに、設備稼働率を大幅に向上させることができる細胞類の凍結装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するため、本発明の細胞類の凍結装置は、冷却室と、
冷却室内の凍結対象物を局部冷却して植氷する局部冷却手段とを備え、
上記局部冷却手段は、ペルチェ素子の冷却側を含んで構成され、
上記ペルチェ素子の排熱側に冷熱を伝達するとともに、上記冷却室に冷熱を伝達することにより、上記ペルチェ素子の排熱側と冷却室の双方を冷却する伝熱部材を備えて構成されていることを要旨とする。
【0027】
なお、本発明が対象とする細胞類とは、細胞個体に限定するものではなく、細胞間物質を含む細胞の集合である生体組織、分離した細胞間物質等も含む趣旨である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の細胞類の凍結装置では、ペルチェ素子を利用した局部冷却手段により、冷却室内で植氷を行なえるため、外気を導入することなく、従来の植氷方法よりも確実かつ効率的に植氷を行ない、過冷却に伴う細胞類へのダメージを最小限に抑えながら凍結させることができる。また、ペルチェ素子の排熱側と冷却室の双方を共通の伝熱部材で冷却することにより、冷却構造の大幅な簡素化を図り、ファンなどの排熱処理装置を不要とし、装置を小型化すると同時に大容量化を実現することができる。このため、スペースの限られた施設内でコンパクトに設置することができ、大容量化により冷凍効率を飛躍的に向上させて、例えば再生医療の施術等に対応可能な大容量の凍結サンプルを冷凍保存することができるようになる。
また、本発明では、冷却室を冷却する冷却手段で伝熱部材を冷却することによって、冷却室の雰囲気も冷やされ、凍結対象物の周辺が冷気で覆われる。ペルチェ素子からの排熱は、伝熱部材により吸収されるが、伝熱部材により吸収されなかった排熱は、冷却室雰囲気によって吸収され、凍結対象物に直接伝わるのを防止している。同様に、外部からの輻射による熱の流入も、同じく冷却室雰囲気によって吸収され、凍結対象物に直接伝わるのを防止している。このように、本発明では、伝熱部材に加え、冷却室の低温雰囲気により、凍結対象物に対して意図しない外熱の伝導を防ぎ、厳密な温度制御を実現しているのである。したがって、特に、極めて精密な温度制御が可能となり、ヒトES細胞のように凍結に弱い細胞を凍結する際に有効である。
【0029】
本発明において、上記伝熱部材には、ペルチェ素子を埋設するための埋設部が設けられ、
上記ペルチェ素子は、上記埋設部内において冷却側が冷却室を向くよう配置されている場合には、
ペルチェ素子が伝熱部材中に埋設されることから、ペルチェ素子の排熱部から排出される熱が冷却室の冷却効率を低下させるのを防止し、冷凍効率の向上に有利である。
【0030】
本発明において、上記局部冷却手段は、上記伝熱部材から冷却室側に突出するとともに上記ペルチェ素子の冷却側からの冷却を受け、上記突出部において凍結対象物と熱的に接触して植氷するための植氷部材を含んで構成されている場合には、
植氷部材が冷却室に突出して凍結対象物と熱的に接触していることから、ペルチェ素子の排熱部から排出される熱が凍結対象物に影響するのを防止し、冷凍効率の向上に有利である。また、植氷部材の凍結対象物と熱的に接触している植氷する部分に対し、ペルチェ素子の排熱部から排出される熱が影響するのを防止し、植氷効率が低下するのを防止する。
【0031】
本発明において、上記伝熱部材の埋設部は、冷却室側に形成されて内部にペルチェ素子が配置される凹部であり、上記ペルチェ素子が配置された凹部にさらに植氷部材が配置されている場合には、
ペルチェ素子が凹部内に配置されて伝熱部材中に埋設されることから、ペルチェ素子の排熱部から排出される熱が冷却室の冷却効率を低下させるのを防止し、冷凍効率の向上に有利である。また、上記ペルチェ素子が配置された凹部にさらに植氷部材を配置することにより、植氷部材の凍結対象物と熱的に接触している植氷する部分に対し、ペルチェ素子の排熱部から排出される熱が影響するのを防止し、植氷効率が低下するのを防止する。
【0032】
本発明において、上記伝熱部材には、伝熱部材を冷却する冷凍装置の冷却部が、埋設部内のペルチェ素子の排熱側の近傍に位置するよう熱的に接触している場合には、伝熱部材に対して効果的に冷熱を与え、ペルチェ素子の排熱部を効率的に冷却するとともに、冷却室も冷却することを可能とし、ペルチェ素子を利用した局部冷却手段を有効に機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の細胞類の凍結装置の全体構成を示す図である。
【図2】上記凍結装置の冷却室ユニットを示す図であり、(A)は横断面図、(B)は縦断面図である。
【図3】第2実施形態の凍結装置の冷却室ユニットを示す図であり、(A)は横断面図、(B)は縦断面図である。
【図4】第3および第4実施形態の凍結装置の冷却室ユニットを示す図である。
【図5】確認実験に用いた装置を示す図である。
【図6】確認実験の冷却試験結果を示す線図である。
【図7】比較例に用いた装置を示す図である。
【図8】比較例の冷却試験結果を示す線図である。
【図9】実施例の冷却試験結果を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0035】
図1は、第1実施形態における細胞類の凍結装置の全体構成を示す概略図である。
図2は、同実施形態の冷却室ユニット1の詳細を示す断面図である。
【0036】
この装置は、冷却室ユニット1と、冷却室ユニット1を冷却するための冷凍機2と、上記冷却室ユニット1および冷凍機2を制御する制御装置3とを備えて構成されている。
【0037】
上記冷却室ユニット1は、断熱材4の壁面に囲まれ、凍結対象物である凍結試料9を収容するための冷却室5、上記冷却室5内の凍結試料9と接触することにより局部冷却して植氷するための植氷部材8、上記植氷部材8を冷却するためのペルチェ素子7、上記ペルチェ素子7からの排熱を吸収するとともに冷却室5の室内冷却を行う伝熱部材6を備えて構成されている。
【0038】
上記冷凍機2は、本発明の冷凍装置として機能するもので、例えば、スターリング式冷凍機を用いることができる。上記冷凍機2としては、伝熱部材6を介して冷却室5の冷却およびペルチェ素子7の排熱を吸収できるものであれば、これに限定するものではなく、例えば、蒸気圧圧縮冷凍機、水・臭化リチウム吸収式冷凍機、アンモニア吸収冷凍機、吸着冷凍機、パルスチューブ冷凍機等、各種の方式の冷凍機を適用することができる。また、液体窒素等の液化ガスを冷媒として冷却する冷凍装置を用いることも可能である。本発明では、冷却室5の温度制御として、−1℃/分の制御が可能のものが好ましいが、このような制御が可能であれば、各種の冷凍装置を使用することができる。
【0039】
上記制御装置3は、ペルチェ出力調整手段13、冷凍機出力調整手段14、測温手段15を備えて構成されている。
【0040】
以下、詳しく説明する。
【0041】
この装置は、冷却室5と、冷却室5内の凍結対象物である凍結試料9を局部冷却して植氷する局部冷却手段とを備えている。
【0042】
上記冷却室5は、断熱材4の壁面で囲まれた空間の下側に伝熱部材6が収容され、上記断熱材4の壁面と伝熱部材6に囲まれた空間として形成されている。すなわち、上記伝熱部材6は、その上面が冷却室5の内部空間に臨むよう配置され、冷却室5の底面のほぼ全域にわたって伝熱部材6の上面が露出している。これにより、冷凍機2の冷却部11と接触して冷却された伝熱部材6から、冷却室5の内部空間に冷熱が伝達され、冷却室5内が冷却されるようになっている。
【0043】
上記伝熱部材6には、冷却室5側の面のほぼ中央に、凹部10が形成されるとともに、その反対側の外側面のほぼ中央にも底面凹部12が形成されている。
【0044】
上記底面凹部12には、冷凍機2の冷却部11が熱的に接触するよう嵌めこまれ、冷凍機2の冷却部11からの冷熱により伝熱部材6が冷却されるようになっている。
【0045】
上記冷却室5側の凹部10にはペルチェ素子7が収容され、上記ペルチェ素子7は、冷却側16が冷却室5側を向き、排熱側17がその反対側を向くように配置されている。この状態で、ペルチェ素子7の排熱側17が伝熱部材6と熱的に接触している。また、凹部10に収容されたペルチェ素子7の上に植氷部材8がはめ込まれ、植氷部材8の底面がペルチェ素子7の冷却側16と熱的に接触している。
【0046】
これにより、ペルチェ素子7の冷却側16の冷熱が植氷部材8に伝達されて植氷部材8を冷却するとともに、ペルチェ素子7の排熱側17の排熱は、伝熱部材6によって吸収される。
【0047】
すなわち、上記伝熱部材6は、上記ペルチェ素子7の排熱側17に冷熱を伝達するとともに、上記冷却室5に冷熱を伝達することにより、上記ペルチェ素子7の排熱側17と冷却室5の双方を冷却するようになっている。
【0048】
上記伝熱部材6に形成された凹部10は、ペルチェ素子7を埋設するための本発明の埋設部として機能する。そして、上記ペルチェ素子7は、上記凹部(埋設部)10内において、冷却側16が冷却室5を向くよう配置されている。この状態で、上記ペルチェ素子7が配置された凹部10にさらに植氷部材8が配置されている。
【0049】
このとき、銀ペーストのような伝熱性のペーストや、伝熱フィラーが混入された伝熱性の接着剤を、ペルチェ素子7の冷却面16と植氷部材8の下面との間に介在させることができる。また、ペルチェ素子7の排熱側17と伝熱部材6の凹部10の底面との間、伝熱部材6の底面凹部12と冷凍機2の冷却部11との間にも同様に、伝熱性のペーストや伝熱性の接着剤を介在させることができる。
【0050】
このように、上記伝熱部材6には、ペルチェ素子7が収容される凹部(埋設部)10が上面中央に形成され、冷凍機2の冷却部11が配置される底面凹部12が下面中央に形成されている。これにより、伝熱部材6を冷却する冷凍機2の冷却部11が、凹部(埋設部)10内のペルチェ素子7の排熱側17の近傍に位置するよう熱的に接触している。
【0051】
本発明における上記局部冷却手段は、ペルチェ素子7の冷却側16、植氷部材8を含んで構成される。
【0052】
上記植氷部材8は、上部の凍結試料9との接触面18にいくほど断面積が小さくなって接触面18の面積が小さくなるよう先窄まり状に形成されている。また、上記植氷部材8は、底部がペルチェ素子7の冷却側16に接触した状態で、先端の接触面18を冷却室5内に突出させている。
【0053】
上記局部冷却手段を構成する植氷部材8は、上記伝熱部材6から冷却室5側に突出するとともに上記ペルチェ素子7の冷却側16からの冷却を受け、上記突出部において凍結対象物である凍結試料9と熱的に接触して植氷する。
【0054】
ここで、上記伝熱部材6は、極低温に耐えて熱伝導性がよい材質が好適に用いられ、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金、白金等があげられるが、実用的にはアルミニウム、銅、ニッケル、マグネシウム等を用いることができる。また、上記植氷部材8も同様に、極低温に耐えて熱伝導性がよい材質が好適に用いられ、実用的にはアルミニウム、銅、ニッケル、マグネシウム等を用いることができる。
【0055】
上記制御装置3は、上述したように、ペルチェ出力調整手段13、冷凍機出力調整手段14、測温手段15を備えて構成され、冷却室ユニット1の各部の温度を計測し、ペルチェ素子7および冷凍機2を制御する。
【0056】
上記測温手段15は、凍結試料9表面の温度、冷却室5内の雰囲気温度、伝熱部材6の冷却室5側の表面の温度、ペルチェ素子7の冷却側16の温度を計測する。
【0057】
ペルチェ出力調整手段13は、上記測温手段15で計測された、ペルチェ素子7の冷却側16の温度、凍結試料9表面の温度、必要に応じて冷却室5内の雰囲気温度、伝熱部材6の冷却室5側の表面の温度、に基づいてペルチェ素子7に対して出力調整信号を入力する。
【0058】
上記冷凍機出力調整手段14は、上記測温手段15で計測された、冷却室5内の雰囲気温度、伝熱部材6の冷却室5側の表面の温度、凍結試料9表面の温度、必要に応じてペルチェ素子7の冷却側16の温度、に基づいて冷凍機2に対して出力調整信号を入力する。
【0059】
上記冷却室5の内壁面を、冷凍機2の冷却部11と直接接触する内壁材24で囲うようにしてもよい。上記内壁材24としては、極低温に耐えて熱伝導性がよい材質が好適に用いられ、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、マグネシウム、銀、金、白金等を用いることができる。このように、試料に対して意図しない外熱の伝熱を防ぐ手段として、伝熱部材6に加え、冷却室5の内壁材24ならびに冷却室5内の低温雰囲気を利用し、厳密な試料温度制御を可能としている。
【0060】
このように、本実施形態の細胞類の凍結装置では、ペルチェ素子7を利用した局部冷却手段により、冷却室5内で植氷を行なえるため、外気を導入することなく、従来の植氷方法よりも確実かつ効率的に植氷を行ない、過冷却に伴う細胞類へのダメージを最小限に抑えながら凍結させることができる。また、ペルチェ素子7の排熱側17と冷却室5の双方を共通の伝熱部材6で冷却することにより、冷却構造の大幅な簡素化を図り、ファンなどの排熱処理装置を不要とし、装置を小型化すると同時に大容量化を実現することができる。このため、スペースの限られた施設内でコンパクトに設置することができ、大容量化により冷凍効率を飛躍的に向上させて、例えば再生医療の施術等に対応可能な大容量の凍結サンプルを冷凍保存することができるようになる。
また、本発明では、冷却室5を冷却する冷却手段で伝熱部材6を冷却することによって、冷却室5の雰囲気も冷やされ、凍結対象物の周辺が冷気で覆われる。ペルチェ素子7からの排熱は、伝熱部材6により吸収されるが、伝熱部材6により吸収されなかった排熱は、冷却室雰囲気によって吸収され、凍結対象物に直接伝わるのを防止している。同様に、外部からの輻射による熱の流入も、同じく冷却室雰囲気によって吸収され、凍結対象物に直接伝わるのを防止している。このように、本発明では、伝熱部材6に加え、冷却室5の低温雰囲気により、凍結対象物に対して意図しない外熱の伝導を防ぎ、厳密な温度制御を実現しているのである。したがって、特に、極めて精密な温度制御が可能となり、ヒトES細胞のように凍結に弱い細胞を凍結する際に有効である。
【0061】
また、上記伝熱部材6には、ペルチェ素子7を埋設するための埋設部が設けられ、
上記ペルチェ素子7は、上記埋設部内において冷却側16が冷却室5を向くよう配置されている場合には、
ペルチェ素子7が伝熱部材6中に埋設されることから、ペルチェ素子7の排熱側17から排出される熱が冷却室5の冷却効率を低下させるのを防止し、冷凍効率の向上に有利である。
【0062】
また、上記局部冷却手段は、上記伝熱部材6から冷却室5側に突出するとともに上記ペルチェ素子7の冷却側16からの冷却を受け、上記突出部において凍結対象物である凍結試料9と熱的に接触して植氷するための植氷部材8を含んで構成されている場合には、
植氷部材8が冷却室5に突出して凍結資料9と熱的に接触していることから、ペルチェ素子7の排熱部17から排出される熱が凍結試料9に影響するのを防止し、冷凍効率の向上に有利である。また、植氷部材8の凍結試料9と熱的に接触している植氷する部分に対し、ペルチェ素子7の排熱部17から排出される熱が影響するのを防止し、植氷効率が低下するのを防止する。
【0063】
また、上記伝熱部材6の埋設部は、冷却室5側に形成されて内部にペルチェ素子7が配置される凹部10であり、上記ペルチェ素子7が配置された凹部10にさらに植氷部材8が配置されている場合には、
ペルチェ素子7が凹部10内に配置されて伝熱部材6中に埋設されることから、ペルチェ素子7の排熱側17から排出される熱が冷却室5の冷却効率を低下させるのを防止し、冷凍効率の向上に有利である。また、上記ペルチェ素子7が配置された凹部10にさらに植氷部材を配置することにより、植氷部材の凍結試料9と熱的に接触している植氷する部分に対し、ペルチェ素子7の排熱側17から排出される熱が影響するのを防止し、植氷効率が低下するのを防止する。
【0064】
また、上記伝熱部材6には、伝熱部材6を冷却する冷凍機2の冷却部11が、埋設部内のペルチェ素子7の排熱側17の近傍に位置するよう熱的に接触している場合には、伝熱部材6に対して効果的に冷熱を与え、ペルチェ素子7の排熱側17を効率的に冷却するとともに、冷却室5も冷却することを可能とし、ペルチェ素子7を利用した局部冷却手段を有効に機能させることができる。
【0065】
図3は、本発明の第2実施形態の凍結装置における冷却室ユニット1を示す。
【0066】
この例では、1つの冷却室5および1つの伝熱部材6に対し、凹部(埋設部)10が複数(この例では8つ)形成され、それぞれの凹部(埋設部)10に対してペルチェ素子7および植氷部材8が装入されている。また、底面凹部12も上記凹部(埋設部)10に対応する位置に複数(この例では8つ)形成され、それぞれに冷凍機2の冷却部11が配置されている。
【0067】
これにより、1つの冷却室5で複数(この例では最大8個まで)の凍結試料9を同時に凍結できるようになっている。それ以外は、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏し、同様の部分には同じ符号を付して説明を省略している。
【0068】
図4(A)は、本発明の第3実施形態の凍結装置における冷却室ユニット1を示す。
【0069】
この例では、伝熱部材6の上面に凹部10が形成されて埋設部を形成するのではなく、伝熱部材6の側面から横穴19を形成して埋設部を形成している。すなわち、上記横穴19は、ペルチェ素子7を伝熱部材6のほぼ中央に位置決めする深さ寸法になるよう形成されるとともに、ペルチェ素子7を収容した状態で、ペルチェ素子7の冷却側16および排熱側17が横穴19の天井面および底面とそれぞれ熱的に接触するようになっている。このとき、ペルチェ素子7の冷却側16および排熱側17と横穴19の天井面および底面との間に、上述したような伝熱性のペーストや伝熱性の接着剤を介在させるのが好ましい。ペルチェ素子7を収容した状態の横穴19は蓋部材20で蓋をされる。
【0070】
この例では、伝熱部材6の上面はフラットであり、フラットな上面に、植氷部材8bを載置している。この植氷部材8bと伝熱部材6の上面との間にも、伝熱性のペーストや伝熱性の接着剤を介在させるのが好ましい。それ以外は、上記第1および第2実施形態と同様の作用効果を奏し、同様の部分には同じ符号を付して説明を省略している。
【0071】
図4(B)は、本発明の第4実施形態の凍結装置における冷却室ユニット1を示す。
【0072】
この例でも、第3実施形態と同様に、伝熱部材6に形成した横穴19により埋設部を形成している。この例では、伝熱部材6の上面に、植氷部材8cを一体として形成している。それ以外は、上記第3実施形態と同様の作用効果を奏し、同様の部分には同じ符号を付して説明を省略している。
【実施例1】
【0073】
つぎに、実施例について説明する。
【0074】
〔冷却性能確認試験〕
まず、冷凍機2としてスターリング式冷凍機を使用した場合の冷却温度制御について確認試験を実施した。
【0075】
図5は、確認試験に用いた装置の概略を示す図である。
【0076】
スターリング式冷凍機2aは、ツインバード工業株式会社製、型番SC−UD08、寸法幅175×奥行195×高さ290mm、冷却性能65+10(−5)W(吸熱部温度−23.3℃)を用いた。断熱材4で囲まれた冷却室5a内に、スターリング式冷凍機2aの冷却部11を天井、床、壁に接触しないよう配置した。また、冷却室5a内には、天井、床ならびに壁に接触しないようK型熱電対(株式会社岡崎製作所製、型番EXS)を設置して空間温度を測定した。温度測定ならびにスターリング式冷凍機2aの出力調節は、制御装置であるプログラマブルコントローラー(株式会社キーエンス製、型番KV−1000)3aを使用した。
【0077】
試験は、開始時の空間温度(3.2℃)から、−1℃/分の冷却速度で冷却した場合に、−20℃まで下がると想定される時間(23.2分間)まで実施した。
【0078】
図6に、確認試験による冷却試験の結果を示す。
【0079】
この結果より、実測値(実線)と−1℃/分を示した値(点線)がほぼ一致した挙動を示しており、−1℃/分を維持しながら試料冷却が可能であることが確認できた。
【0080】
緩慢凍結では、非特許文献5(松谷豊著,生物化学実験法29 動物細胞培養法人門,p.179,株式会社学会出版センター刊,(1993))にあるように、−1℃/分以下の速度で冷却を行うことから、−1℃/分の制御可能であるスターリング式冷凍機2aは、細胞凍結装置として有用であることが確認できた。
【0081】
〔比較例〕
比較例として、従来技術に即して凍結コンテナによる試験を実施した。
【0082】
試験試料として、10%ジメチルスルホキシド(DMSO・和光純薬株式会社製、型番048−21985)を含む培地(ダルベッコ修正イーグル培地(D−MEM)、血清代替品、抗生物質等)により、実態に則した形で予備試験を実施した。
【0083】
図7は、比較例の試験に用いた装置の概略を示す図である。
【0084】
10%DMSOを含む培地5mLをフローズバッグ(材質:ポリオレフィン、ニプロ株式会社製、型番F−025)に充填し、予め冷蔵庫(日本フリーザー株式会社製、型番KGT−4056HC)で4℃に冷却したバイセル22(日本フリーザー株式会社製、型番BICELL、内寸法φ50×69mm)に入れ、そのまま−85℃のフリーザー21(日本フリーザー株式会社製、型番CLN−30UW)に入れた。試料の測温としてフローズバッグ表面の中央付近にアルミテープを用いてK型熱電対(株式会社岡崎製作所製、型番EXS)を貼り付け、メモリハイロガー23(日置電機株式会社製、型番8420−50)を用いて測定した。試験は、80分間実施した。
【0085】
図8に、比較例による冷却試験の結果を示す。
【0086】
この結果より、冷却開始より40分前後にて、過冷却の解消に伴う潜熱の発生が存在し、細胞ヘダメージを与える恐れがあることがわかる。
【0087】
〔実施例〕
図1および図2に示した装置により、ペルチェ素子7を利用して植氷を行った。冷却速度制御についてはマイクロプロセッサ(制御手段3)により行い、試料表面温度を測定し、その10秒間の移動平均値に応答してスターリング式冷凍機2aの出力電圧を調節する方式を採用している。
【0088】
ペルチェ素子7としては、株式会社フジタカ製、型番FPH1−3104NC、冷却能力8.6W(Th=27℃)を用いた。伝熱部材6は、大きさφ60mm、厚み8mmのアルミニウム製の金属板を用いた。なお、ペルチェ素子7による植氷については、試料表面温度が予め設定した温度(−5℃)に達した時、ペルチェ素子7が出力を開始し、印加電圧3.3V、目標到達温度−35℃、オン5秒−オフ5秒の周期で900秒間実施し、ペルチェ素子7と接触している試料表面に局部的な低温状態を作り出している。試験は、80分間実施した。
【0089】
図9は、実施例の冷却試験結果を示す。
【0090】
ペルチェ素子7による植氷により、試料の過冷却を起こさず凍結させることができた。また、ペルチェ素子7による植氷工程において、ペルチェ素子7の発熱側17による発熱は、スターリング式冷凍機2aにより十分冷却された伝熱部材6により吸収されるため、当該伝熱部材6の温度は上昇するものの、冷却室5内の雰囲気温度の上昇を引き起こすことはなかった。
【0091】
なお、ここで使用したペルチェ素子7の材質はアルミナであり、熱伝導率が35W/m・K、比熱容量は790J/kg・Kである。一方、ここで使用した伝熱部材6は、アルミニウム製であり、熱伝導率が237W/m・K、比熱容量は900J/kg・Kである。
【0092】
ここで使用した伝熱部材6は、ペルチェ素子7に用いられている物質よりも熱伝導性が良く、かつ熱容量が大きい物質であれば特に限定はしない。例えば、前述のアルミニウムの他には、マグネシウム(熱伝導率156W/m・K、比熱容量1020J/kg・K)が該当する。
【0093】
本発明のシステムでは、装置構成上、冷媒用の貯蔵タンクならびにペルチェ素子7の排熱手段等を追加付設する必要が無いため、卓上に設置できるほどのコンパクトなスケールが可能となる。
【0094】
また、特許文献1(実開昭61−64101)に記載された従来技術のように、冷媒として液体窒素を使用する場合には、初回の凍結時に発生した霜が凍結終了後の昇混時に溶解し、再凍結時に当該水分による電磁弁の固着を引き起こし、以後の植氷制御が困難になる。そのために、電磁弁ならびに配管を乾燥させなければならず、それに時間を要してしまうため、装置の利用は1日当たり1回に限定される。
【0095】
本発明のシステムでは、凍結完了後、冷却室を室温に戻してすぐに次回の凍結が可能である。例えば、昇温に要する時間が凍結時間(80分)と同じだと仮定すると、初回の凍結から次回の凍結までのタイムサイクルは160分となり、1日当たり3ないし4回の使用が可能となる。
【0096】
さらに、図3に示す複数試料を同時に凍結できる冷却室ユニット1では、例えば、容量5mLのフローズバッグを最大8個まで、つまり40mLの試料を同時に凍結することができ、凍結容量の大容量化が達成できる。
【0097】
これらの結果より、従来技術と本発明との比較をまとめたものを表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
装置の大きさとしては、体積で見てみると従来装置と比較して15.7%程度まで小さくすることができた。また、装填できる試料としては、1サンプルあたり、これまでの10倍量である5mLのものを用いることができ、さらにこれを同時に8サンプル装填できるため、試料の全量としても、従来装置の4倍量の装填が可能となった。さらに、1日あたりの運転回数が従来より3〜4倍まで増加する。
【実施例2】
【0100】
図1および図2に示す装置により、マウスES細胞を実試料として凍結試験を実施した。実施例2では、細胞凍結で一般に最も多く採用されている凍結コンテナ(バイセル)による簡易緩慢凍結方法を比較例とし、マウスES細胞の凍結試験を実施した。
【0101】
実施例2の試験方法は、つぎのとおりである。
【0102】
マウス線維芽細胞をフィーダー細胞として、60%コンフルエント程度になるまでマウスES細胞を培養する。
培養液を吸引し、カルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝溶液(PBS−)(GIBCO製、型番70011)を加えた後吸引する。
この操作を3回繰り返し、トリプシンとエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の混合物(invitrogen製、型番25300−054)を添加して37℃で3分間静置して、細胞を消化分散させる。
培養液を加え反応を停止し、軽くピペッティングした後、ディスポーザブル遠心管(容量50mL、BECTON DICKINSON製、型番352070)に入れ、遠心分離機(久保田商事株式会社製、型番2410)にて、1000rpmで5分間遠心分離を行う。
上清を除去し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む培地に懸濁し、フローズバッグ2つに5mLをそれぞれ充填する。
一つはあらかじめ冷却室内を2℃に冷却しておいた本発明の凍結装置に設置し、もう一つはあらかじめ冷蔵庫(日本フリーザー株式会社製、型番KGT−4056HC)に入れて冷却しておいたバイセル(日本フリーザー株式会社製、型番BICELL、内寸法φ50×69mm)に入れ、−85℃のフリーザー(日本フリーザー株式会社製、型番CLN−30UW)に入れる。
【0103】
以下の温度制御によって、細胞凍結装置の試料を凍結した。
・試料冷却(1)(2〜−10℃):−0.3℃/分
・植氷:試料温度が−5℃になったとき、印加電圧3.3V、目標到達温度−35℃、オン5秒−オフ5秒の周期で900秒間実施し、植氷終了となる。
・試料冷却(2)(植氷操作時):−10℃で維持
・試料冷却(3)(植氷終了〜−30℃):−0.3℃/分
・試料冷却(4)(−30℃以下):冷凍機最大出力
【0104】
細胞凍結装置内の凍結試料を−85℃の冷凍機にて冷却後、液体窒素中へ一晩入れる。
凍結試料を取り出し、37℃恒温槽(アズワン株式会社製、型番ED−1)に浸けて速やかに解凍する。
試料をディスポーザブル遠心管に入れ、培地を加え、DMSOを希釈する。
1000rpmで5分間遠心分離を行う。
上清を除去した後、500μLの培地に懸濁する。そのうち10μLを分取し、トリパンブルー染色を用いて、血球計算盤(エルマ販売株式会社製、型番031001)上の全細胞ならびに死細胞(トリパンブルーにより青く染色)を計測する。なお、計測に際して、倒立型顕微鏡(オリンパス株式会社製、型番IX71N−22PH)を通して対象を100倍に拡大した状態で、細胞を目視にて計測した。そして、生細胞率は式(1)のようにして算出した。
生細胞率(%)=(全細胞数−死細胞数)(個)/全細胞数(個)×100・・・式(1)
また、従来技術の生細胞率に対する本発明での生細胞率の向上の度合を下記式(2)に示す向上率として算出した。
向上率(%)=(本発明での生細胞率−従来技術の生細胞率)(%)/従来技術の生細胞率(%)×100・・・式(2)
【0105】
その結果を表2に示す。この結果に示すように、本発明の細胞凍結装置は、比較対象として実施したバイセルによる簡易緩慢凍結法よりも約15〜30%程度生細胞率が向上した。
【0106】
【表2】

【0107】
なお、実施例2で使用した各試料に含まれる実際の細胞数Nは、表2に示したような、サンプリングによってトリパンブルー染色を用いた計測で得られた細胞数をnとすると、下記式(3)にて算出される。
N=n/4×10・・・式(3)
式(3)を適用すると、サンプリングした細胞数の少ない試験Aでは、実施例にて全細胞数2.05×10個のうち1.6×10個の細胞が生存しているのに対し、比較例にて全細胞数1.75×10個のうち1.15×10個の細胞が生存していることとなる。
【0108】
一方、サンプリングした細胞数が多い試験Bでは、実施例にて全細胞数5.725×10個のうち3.175×10個の細胞が生存しているのに対し、比較例にて全細胞数5.575×10個のうち2.500×10個の細胞が生存していることとなる。
【0109】
この測定方法では、試料を希釈した後にサンプリングし、その後にトリパンブルー染色を行うことが可能である。従って、実施例を基に算出された細胞数より多い場合の試験でも、この測定方法は有効である。
【実施例3】
【0110】
次に、マウスES細胞の塊であるマウス胚様体(EB)を実試料として凍結試験を実施した。細胞凍結で一般に最も多く採用されている凍結コンテナ(バイセル)による簡易緩慢凍結方法を比較例として、マウスEBの凍結試験を実施した。
【0111】
実施例3の試験方法は、つぎのとおりである。
【0112】
マウス線維芽細胞をフィーダー細胞として、60%コンフルエント程度になるまでマウスES細胞を培養する。
培養液を吸引し、カルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝溶液(PBS−)(GIBCO製、型番70011)を加えた後吸引する。
この操作を3回繰り返し、トリプシンとエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の混合物(invitrogen製、型番25300−054)を添加して37℃で3分間静置して、細胞を消化分散させる。
【0113】
培養液を加え反応を停止し、軽くピペッティングした後、ディスポーザブル遠心管(容量50mL、BECTON DICKINSON製、型番352070)に入れ、遠心分離機(久保田商事株式会社製、型番2410)にて、1000rpmで5分間遠心分離を行う。
【0114】
上清を除去し、培養液を加え懸濁し、予めコラーゲン(タイプI、BECTON DICKINSON製、型番354236)をコーティングしておいた培養皿(BECTONDICKINSON製、型番353004)に播種し、一晩培養する。
【0115】
培養液を吸引し、PBS−を加えた後吸引する操作を3回繰り返し、トリプシンとEDTAの混合物を添加して37℃で3分間静置して、細胞を消化分散させる。
【0116】
培養液を加え反応を停止し、軽くピペッティングした後、ディスポーザブル遠心管に入れ、遠心分離機にて、1000rpmで5分回遠心分離を行う。
【0117】
上清を除去し、イスコブ修正ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO製、型番31980)、ウシ胎児血清(FBS)(三光純薬株大会社製、型番HCSH30151−S、Lot番号AQC23241)ならびに各種サプリメントを含むEB用培養液を加え懸濁する。
【0118】
48穴培養皿(BECTON DICKINSON製、型番353078)にPBS−を200μLずつ分法する。
【0119】
EB用培養液に懸濁したマウスES細胞を4.0×10個/mLに調製し、48穴培養皿の蓋に滴下する。
COインキュベータ(三洋電機株式会社製、型番MCO−18AIC)内で、37℃、5%CO下で5日間静置培養し、マウスEBを作成する。
【0120】
EB用培養液を除去し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むEB用培養液に懸濁し、フローズバッグ2つに5mLをそれぞれ充填する。
【0121】
一つはあらかじめ冷却室内を2℃に冷却しておいた本発明の細胞凍結装置に設置、もう一つはあらかじめ冷蔵庫(日本フリーザー株式会社製、型番KGT−4056HC)に入れて冷却しておいたバイセル(日本フリーザー株式会社製、型番BICELL、内寸法φ50×69mm)に入れ、−85℃のフリーザー(日本フリーザー株式会社製、型番CLN−30UW)に入れる。
【0122】
以下の温度制御によって、細胞凍結装置の試料を凍結する。
・試料冷却(1)(2〜−10℃):−0.3℃/分
・植氷:試料温度が−5℃になったとき、印加電圧3.3V、目標到達温度−35℃、オン5秒−オフ5秒の周期で900秒間実施し、植氷終了となる。
・試料冷却(2)(植氷操作時):−10℃で維持
・試料冷却(3)(植氷終了〜−30℃):−0.3℃/分
・試料冷却(4)(−30℃以下):冷凍機最大出力
【0123】
細胞凍結装置内の凍結試料を−85℃にて冷却後、液体窒素中へ一晩入れる。
凍結試料を取り出し、37℃恒温槽(アズワン株式会社製、型番ED−1)に浸けて速やかに解凍する。
試料をディスポーザブル遠心管に入れ、EB用培養液を加え、DMSOを希釈する。
1000rpmで5分間遠心分離を行う。
上清を除去した後、EB用培養液に懸濁し、48穴培養皿にEBを播種する。3日間培養し、EBを培養皿に接着させる。培養皿に接着しているEBの個数を目視にて計測した。
【0124】
なお計測に際し、倒立型顕微鏡(オリンパス株式会社製、型番IX71N−22PH)を通して対象を100倍に拡大した状態で、培養皿を揺するなどを行い、EBが動かないものを接着しているものとして計測した。そして、EB接着率は式(4)のようにして算出した。
EB接着率(%)=接着EB数(個)/全EB数(個)×100 ・・・式(4)
【0125】
また、従来技術のEB接着率に対する本発明でのEB接着率の向上の度合を下記式(5)に示す向上率として算出した。
向上率(%)=(本発明でのEB接着率一従来技術のEB接着率)(%)/従来技術のEB接着率(%)×100・・・式(5)
【0126】
その結果を表3に示す。この結果に示すように、本発明の細胞凍結装置は、比較対象として実施したバイセルによる簡易緩慢凍結法よりも約20〜50%程度接着EB率が向上した。
【0127】
【表3】

【0128】
これらの実施例から、マウスES細胞とマウスEBの両方に効果があることがわかる。本発明では、冷却速度の制御ならびにペルチェ素子による植氷を開始させる温度が設定可能であるため、細胞の種類ならびに数量に応じて冷却速度ならびに植氷開始温度を設定することができる。従って、ヒトES細胞やヒトiPS細胞を含む幹細胞、ならびに種々の分化細胞に対しても本発明は有効であると考えられる。
【0129】
以上のように、本実施例は、つぎの構成を備えるようにした。
(1)冷却室内の冷却方法として、液体窒素等の冷媒を使用せず、スターリング式冷凍機を用いた。
(2)植氷方法として、ペルチェ素子により、試料容器を局部的に極低温領域に接触させる方法を用いた。
(3)確氷時に発生するペルチェ素子からの排熱は、スターリング式冷凍機により予め冷却された熱伝導性の良い物質により相殺し、冷却室内の温度上昇を抑制した。
【0130】
本実施例では、ペルチェ素子を使用した植氷機構により、以下の効果が得られた。
(1)冷却室内にペルチェ素子が設置されていることにより、冷却ピンセット等による容器外壁からの熱刺激のように、植氷のために冷却室内を開放し外気と接触せざるを得なくなる問題を回避した。
(2)冷媒の流出入制御用の電磁弁が、冷媒(液体窒素等)を使用しないことで不要となったため、初回凍結時に発生した霜が凍結終了後の昇温時に溶解し、再凍結時に当該水分による電磁弁固着が発生し、以後の植氷制御が困難になる問題が回避できた。
【0131】
また、本実施例では、装置全体として以下の効果が得られた。
(3)冷媒(液体窒素等)を使用しないため、液体窒素を用意する手間及びコストを削減できた。さらに、冷媒用貯蔵タンクが不必要となり、その結果、装置の省スペース化が達成できた。
(4)ペルチェ素子の排熱を排除するための追加設備を付設する必要がなく、同じく装置の省スペース化が達成できた。
(5)複数の試料を同時に、かつ植氷を起こさせることができるので、凍結試料の大容量化を達成できた。
(6)植氷を起こしながら温度制御が可能なため、簡易な緩慢凍結法である凍結コンテナ使用の場合と比較して、試料細胞の生存率向上を達成できた。
【0132】
なお、上記実施形態および実施例では、凍結対象物として細胞を使用した例を説明したが、本発明の適用範囲としてはそれに限定するものではなく、細胞間物質を含む細胞の集合体である生体組織や、分離した細胞間物質等にも適用できる趣旨である。
【符号の説明】
【0133】
1 冷却室ユニット
2 冷凍機
2a 冷凍機
3 制御装置
3a 制御装置
4 断熱材
5 冷却室
5a 冷却室
6 伝熱部材
7 ペルチェ素子
8 植氷部材
8b 植氷部材
8c 植氷部材
9 凍結試料
10 凹部
11 冷却部
12 底面凹部
13 ペルチェ出力調整手段
14 冷凍機出力調整手段
15 測温手段
16 冷却側(ペルチェ素子)
17 排熱側(ペルチェ素子)
18 接触面(植氷部材)
19 横穴
20 蓋部材
21 フリーザー
22 バイセル
23 メモリハイロガー
24 内壁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却室と、
冷却室内の凍結対象物を局部冷却して植氷する局部冷却手段とを備え、
上記局部冷却手段は、ペルチェ素子の冷却側を含んで構成され、
上記ペルチェ素子の排熱側に冷熱を伝達するとともに、上記冷却室に冷熱を伝達することにより、上記ペルチェ素子の排熱側と冷却室の双方を冷却する伝熱部材を備えて構成されていることを特徴とする細胞類の凍結装置。
【請求項2】
上記伝熱部材には、ペルチェ素子を埋設するための埋設部が設けられ、
上記ペルチェ素子は、上記埋設部内において冷却側が冷却室を向くよう配置されている請求項1記載の細胞類の凍結装置。
【請求項3】
上記局部冷却手段は、上記伝熱部材から冷却室側に突出するとともに上記ペルチェ素子の冷却側からの冷却を受け、上記突出部において凍結対象物と熱的に接触して植氷するための植氷部材を含んで構成されている請求項1または2記載の細胞類の凍結装置。
【請求項4】
上記伝熱部材の埋設部は、冷却室側に形成されて内部にペルチェ素子が配置される凹部であり、上記ペルチェ素子が配置された凹部にさらに植氷部材が配置されている請求項3記載の細胞類の凍結装置。
【請求項5】
上記伝熱部材には、伝熱部材を冷却する冷凍装置の冷却部が、埋設部内のペルチェ素子の排熱側の近傍に位置するよう熱的に接触している請求項2〜4のいずれか一項に記載の細胞類の凍結装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−34667(P2012−34667A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180672(P2010−180672)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】