説明

細菌におけるフシジン酸耐性を克服させることができる薬剤のスクリーニング方法

fusB耐性遺伝子またはその相同体を含み、かつFusBフシジン酸耐性タンパク質またはその相同体を発現する、FusB耐性タンパク質またはその相同体と延長因子G(EF−G)タンパク質との相互作用に基づいた、細菌で抗生物質フシジン酸に対する耐性を克服させることができる薬剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、特に、FusBフシジン酸耐性タンパク質またはその相同体を発現する、fusB耐性遺伝子またはその相同体を含む細菌における、抗生物質フシジン酸に対する耐性を克服させることができる薬剤(薬物)のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フシジン酸は、特に、ブドウ球菌感染に起因する幾つかの疾病の治療に有効なことが証明されている、全身用および局所用の抗生物質である。フシジン酸は、骨髄炎、心内膜炎、皮膚組織および軟組織感染症、カテーテル関連感染症、尿路感染症、中枢神経系シャント感染症、手術部位感染症、細菌性結膜炎および眼の他の細菌感染、たとえば眼内炎等の病気に対して、しばしば処方される。しかし、最も一般的には、フシジン酸は、アトピー性湿疹、膿痂疹および感染性下腿潰瘍を含む、表在ブドウ球菌性皮膚感染の治療のための局所用抗生物質として、外来診療の場で使用される。フシジン酸はまた、抗菌薬として動物用にも処方される。
【0003】
フシジン酸は、トランスロカーゼ、伸長因子G(EF−G)のリボソームからの解離を阻害することにより、原核細胞のタンパク質合成を選択的に阻害することによって作用する。通常の状態で、EF−G・GDP・リボソーム三元複合体は、アミノアシルtRNA複合体がリボソームのA部位に入る前に解離する。しかし、フシジン酸が存在すると、該三元複合体は安定化して、タンパク質合成の阻害を招く。
【0004】
フシジン酸は、40年にわたり抗菌薬としてうまく使用されてきたが、その効力は今や、細菌の耐性出現により低下している。
【0005】
S.aureus(黄色ブドウ球菌)の臨床分離菌におけるフシジン酸耐性に関する限られたデータから、該耐性は、EF−G(fusA)をコードしている遺伝子の点突然変異に起因する(Besierら2003年、O’Neillら2004年およびNagaevら2001年)か、またはあまり明らかにされていない耐性機構(O’Brienら2002年およびProjan 2000年)をコードする外因性耐性決定因子(fusB)の獲得により生じることが分かる。後者の機構は、臨床状況におけるフシジン酸耐性への最も重要な経路のようである。欧州の、S.aureus(黄色ブドウ球菌)のフシジン酸耐性臨床分離菌の最近の分析で、欧州に蔓延している流行性膿痂疹の原因菌株にはfusBが存在し(O’Neillら2004年)、この決定因子はまた、重篤な市中感染を引き起こすS.aureus菌株でも検出されている(Witteら、Euro surveillance,1:1−2,2004年)。
【0006】
フシジン酸に対するfusB型耐性に関する初期の研究では、タンパク質合成装置の修飾またはフシジン酸の分解を同定することができず(Chops 1976年、SindenおよびChopra,1981年)、耐性は、細菌細胞内へのフシジン酸の侵入減少により獲得される可能性があることが示唆された。このため、細菌細胞からの抗生物質の排除は、fusB遺伝子にコードされた透過性障壁の形成に起因する可能性があると、著者は提唱するに至った。
【0007】
本発明において、特にフシジン酸に対するfusB型耐性に重要であると我々が考えているFusBとEF−Gとの間のタンパク質−タンパク質相互作用の同定により、我々は、FusBタンパク質の作用機序の解明に向けて、飛躍的な進歩を遂げた。我々は、細菌における抗生物質フシジン酸に対する耐性を克服させることができる薬剤をスクリーニングするためのアッセイを開発するために、またこのタンパク質−タンパク質相互作用を防止するための治療方法のデザインを可能にするために、このタンパク質−タンパク質相互作用を使用してきた。したがって、本発明は、フシジン酸耐性細菌菌株と闘う上で飛躍的な進歩を提供し、その結果、臨床環境で極めて重要になるであろう。
【発明の開示】
【0008】
本発明の第一の態様によれば、
(i)FusB耐性タンパク質またはその相同体を発現する細胞源を提供するステップと、
(ii)試験すべき少なくとも1つの候補薬剤を加え、該薬剤が、FusBタンパク質またはその相同体へのEF−Gタンパク質の結合に影響を及ぼすか否かを決定するステップと
を含む、in vitroでのFusB耐性タンパク質またはその相同体と延長因子G(EF−G)との相互作用を調節する薬剤を同定するための、in vitroスクリーニング方法が提供される。
【0009】
本明細書および特許請求の範囲を通して、単語「含む(comprise)」、あるいは「comprises」または「comprising」等の変形は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、明言された物または物の集合の包含を意味すると理解されるが、他の物または物の集合の除外を意味するものではない。
【0010】
本明細書で、「FusBタンパク質相同体」への言及は、黄色ブドウ球菌で同定されたFusBタンパク質と同様の機能を有するタンパク質を包含することを意図するが、他の生物に由来し、かつFusBタンパク質と特定の程度の配列同一性を有するものであってもよい(O’Brienら2002年)。特定の程度の相同性は、30%以上の相同性であることもあり、好ましくは40%または60%またはそれ以上の相同であることもあり、より好ましくは80%またはそれ以上の相同性であることもある。2つのアミノ酸配列または2つの核酸の「配列同一性」は、KarlinおよびAltschul(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993年)のように修正された、KarlinおよびAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268,1990年)を使用して決定される。このようなアルゴリズムは、AltschulらのNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれている(J.Mol.Biol.215:403−410,1990年)。BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて実施される。BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施される。2配列間にギャップが存在する場合、Altschulら(Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997年)に記載されているように、Gapped BLASTが使用される。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを使用する場合、それぞれのプログラム(たとえば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターが使用される。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照されたい。
【0011】
好ましくは、FusBタンパク質またはその相同体および/またはEF−Gタンパク質は精製されている。FusBタンパク質またはその相同体および/またはEF−Gタンパク質は、当該技術分野で周知の任意の方法で精製されてもよく、ポリヒスチジン(his)タギング法により簡便に精製することが可能である。
【0012】
好ましくは、該タンパク質の一方、FusBタンパク質またはその相同体あるいはEF−Gタンパク質のいずれかを、固定化する。
【0013】
好ましくは、FusBタンパク質またはその相同体あるいはEF−Gタンパク質は、たとえば下記により固定化されるがその限りではない。
・2002年、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーのCold Spring Harbor Laboratory Pressから出版された、Erica Golemis編、「タンパク質−タンパク質相互作用」の第4章に、Einarson,MB.およびOrlinick,JR.により記述されているアフィニティ・タギング法。
・2002年、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーのCold Spring Harbor Laboratory Pressから出版された、Erica Golemis編、「タンパク質−タンパク質相互作用」の第6章に、Nadeau,OW.,Carlson,GM.により記述されている化学的架橋。
・2002年、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーのCold Spring Harbor Laboratory Pressから出版された、Erica Golemis編、「タンパク質−タンパク質相互作用」の第5章、免疫共沈降に、Adams,P.、Seeholzer,S.、およびOhh,M.により記述されている抗体に基づく結合。
【0014】
タンパク質−タンパク質相互作用を破壊したり無効にしたりすることができる薬剤の存在下で、この相互作用が確認できるように、上記の任意の技術を使用してもよい。本発明の方法には、FusB耐性タンパク質とEF−Gタンパク質の相互作用が必須であると理解され、したがって、ある薬剤が該相互作用を破壊させることができるかどうかという結果は、固定化されるものがFusB耐性タンパク質であってもEF−Gタンパク質であっても同じである。
【0015】
本発明の一実施形態では、FusBタンパク質は、アフィニティマトリックスに結合された組換えhis標識FusBタンパク質であり、精製FusB耐性タンパク質に対するある薬剤による影響の有無を決定するステップは、全細胞溶解液中のEF−Gタンパク質とともに固定化されたFusBタンパク質を用いて達成される。精製FusB耐性タンパク質を金属アフィニティ樹脂に結合させ、EF−Gを結合させるために、ブドウ球菌細胞溶解液(簡便なEF−G源である)で洗浄する。推定治療薬は、このプロセスの前またはプロセス中のいずれに加えてもよい。推定治療薬の存在により結合しなかったEF−Gを除去するために繰り返し洗浄した後、結合したまま残ったEF−Gの量を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に続く定性的方法で決定する。
【0016】
代替実施形態では、EF−Gタンパク質とともに固定化された精製FusB耐性タンパク質に対するある薬剤による影響の有無を決定するステップは、細胞溶解液からの天然のEF−Gに代えて、過剰発現し精製したアフィニティ標識(理想的にはGST標識)組換えEF−Gを添加することにより達成される。この実施形態はまた、ELISAアッセイでEF−Gの結合を検出できるように、市販の酵素結合抗アフィニティ標識抗体を使用することも可能であろう。
【0017】
また、固定化を必要とせずに、例えばタンパク質の大きさの違いなどの異なるパラメーターに基づいた技法によっても、このようなタンパク質−タンパク質相互作用を評価することが可能であることが理解されるであろう。80kDaであるEF−Gに比して、FusB耐性タンパク質は25kDaの分子量を有する。したがって、異なる大きさに基づいて、分子量25kDaを超える、例えば、限定されないが50kDaの分画分子量を有する膜上にEF−Gを保持することが可能であり、その結果、FusBは膜を透過することができ、一方でEF−Gは保持される。
【0018】
FusB耐性タンパク質とEF−Gタンパク質とのタンパク質−タンパク質相互作用を検出するための他の方法も、本発明の方法に使用できることは、当業者に理解されるであろう。このような方法の例としては、限定されないが、アフィニティクロマトグラフィ、アフィニティブロッティング、免疫沈降および上文に記載したような架橋に基づく方法など、別のタンパク質に結合するタンパク質を検出する物理的方法などを含む。加えて、2002年、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーのCold Spring Harbor Laboratory Pressから出版された、Erica Golemis編、「タンパク質−タンパク質相互作用」の第9章に、Strich Rにより記述されているタンパク質探索、または2002年、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーのCold Spring Harbor Laboratory Pressから出版された、Erica Golemis編、「タンパク質−タンパク質相互作用」の第8章に、Goodyear C.S.およびSilverman G.J.により記述されているファージディスプレイ、または2002年、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーのCold Spring Harbor Laboratory Pressから出版された、Erica Golemis編、「タンパク質−タンパク質相互作用」の第7章に、Serebriliskii IおよびJoung J.K.より記述されている2ハイブリッドシステム等の、ライブラリーに基づく方法を使用することができる。
【0019】
さらに、FusB耐性タンパク質またはその相同体およびEF−Gタンパク質と、それらの相互作用を阻害する薬剤との相互作用が検出可能である限りは、当該技術分野で周知の、タンパク質−タンパク質相互作用を検出するための任意の方法を、本発明に応用できることも理解されるであろう。
【0020】
好ましくは、FusBタンパク質または相同体の原料は、fusB耐性遺伝子または相同体が存在するか、または存在すると考えられ、FusB耐性タンパク質またはその相同体を発現し、かつ、その結果として、フシジン酸の作用に耐性を示すことが可能なグラム陽性またはグラム陰性の細菌種である。fusBまたは相同体は、今までに、S.aureusおよびブドウ球菌属の他のメンバー、ならびにエンテロコッカス種、リステリア種、バチルス種およびラクトコッカス種で同定されてきた。したがって、これらの細菌はいずれも、適当なFusBタンパク質源を提供することが可能であろう。
【0021】
好ましくは、細菌がブドウ球菌である場合、該細菌は、S.caprae、S.gallinarum、S.aureus亜種anaerobius、S.aureus亜種aureus、S.epidermidis、S.haemolyticus、S.intermedius、S.lugdunensis、S.saccharolyticus、schleiferi亜種schleiferi、S.xylosus、S.capitis亜種capitis、S.arlettae、S.warneri、S.hominis、S.stimulans,S.saprophyticus、S.equorum、S.cohnii亜種cohnii、S.auricularis、S.carnosus亜種carnosus、S.kloosii、S.chromogenes、S.hyicus亜種hyicus、S.pulvereri、S.felis、S.lentus、S.muscaeおよびS.scuir、または哺乳動物の細菌感染症に関与するあらゆる他のブドウ球菌を含む群から選択されるブドウ球菌の種である。
【0022】
fusBのクローニング、ならびに組換えFusBの過剰発現および精製により、このタンパク質がどのような方法でフシジン酸に対する耐性を与えるのか、分子レベルでの理解が可能になった。我々は、無細胞転写翻訳共役反応系(cell−free coupled transcription−translation assays)を用いて、可溶性タンパク質である精製FusBは、in vitroにおいて、S.aureusの転写装置をフシジン酸による阻害から保護することを証明した。対照的に、FusBタンパク質は、E.coli(大腸菌)無細胞系を保護することはできないようであり、これは、E.coliにおいてはfusB遺伝子の発現はフシジン酸に対する耐性を与えることができないという我々の観察結果と一致する。我々は最近、この耐性タンパク質が相互に作用する細胞タンパク質を同定するために、固定化したFusBタンパク質をアフィニティマトリックスとして使用して、FusBタンパク質は、S.aureus由来のEF−Gに結合するが、E.coli由来のEF−Gには結合しないことを、証明した(図1)。
【0023】
FusBの生物情報学的分析では、機能が確認されている他のタンパク質との有意な配列相同性が明らかにされず、その結果、FusBはどのような機構でS.aureus転写装置を保護するのかについては様々な推測が可能である。しかし、EF−Gとの相互作用は、防御機構の中心であると考えられる。
【0024】
本発明の第二の態様によれば、FusBタンパク質またはその相同体とEF−Gタンパク質との相互作用を防止し、細菌細胞におけるfusB介在耐性の表現型発現を阻止する薬剤をスクリーニングおよび同定する方法が提供される。
【0025】
好ましくは、本発明の第二の態様の方法は、本発明の第一の態様の方法の特徴のいずれか1つまたは複数を含む。
【0026】
次に、ほんの一例として、以下の図を参照しながら、本発明を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
材料と方法
<fusBのクローニング>
fusBのPCR増幅は、プライマー5’−GGTTGAAACATATGAAAACAATGATTTAT(配列番号1)および5’−GTGGATCCCTTAACCTAGTTTATCA(配列番号2)を使用して行った。PCR増幅産物は、遺伝子工学的に導入したNdeIおよびBamHI制限部位を介してpET28(Novagen)に連結し、E.coli JM109を形質転換した。形質転換体は、50μg/mlカナマイシンを含有する寒天上で選択し、次いで、プラスミド調製物の制限分解により挿入断片を含有する形質転換体をスクリーニングした。忠実なPCR増幅を検証するために挿入断片をDNA配列決定に付し、次いでE.coli BL21(λDE3)を形質転換した。
【0028】
<ポリヒスチジン標識FusBの発現および精製>
pET28:fusBを担持するBL21(λDE3)を、50μg/mlカナマイシンを含む2YT+0.5%グルコース中、37℃で15時間培養した。菌体を、カナマイシン30μg/mlを含む250mlの用時調製した2YT中に1/25希釈し、OD600が0.6に達するまで、30℃(220rpm)で培養した。IPTGを300μMになるように加え、5時間インキュベーションを続けた。菌体を、5000×gで15分間遠心して収菌し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、−80℃で凍結した。必要に応じて、菌体ペレットを20分間氷上で解凍し、次いで、氷上で、冷やした溶解バッファー(50mMリン酸ナトリウム[pH7]、300mM NaCl、1×BugBuster(Novagen;10×濃縮物から)、0.5mM THP(Novagen)、5mMイミダゾール、コンプリートEDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル錠(Roche)1/4錠)12ml中に、完全に再懸濁させた。次に、90KUのrLysozymeおよび1KUのBenzonase(両者ともNovagen)を加え、その混合物を、穏やかに振盪している台上で、氷中に20〜30分間インキュベートしてから、4℃、10,000×gで20分間遠心分離し、上清を冷却した新品の試験管中に回収した。完全に平衡化したTalon金属アフィニティ樹脂(Clontech)のアリコート(1ml)を、澄んだサンプルに加え、氷中で60分間穏やかに撹拌し、ポリヒスチジン標識タンパク質を樹脂に結合させた。次に、これを4℃、700×gで5分間遠心分離し、上清を除去した。洗浄用バッファー(50mMリン酸ナトリウム[pH7]、300mM NaCl、20mMイミダゾール、0.5mM THP)40mlを加え、氷上で10分間穏やかに撹拌することにより樹脂を洗浄した。これを繰り返した後、2mlの洗浄用バッファーを樹脂に加え、穏やかにボルテックスすることにより再懸濁させた。樹脂は2mlの重力溶出カラムに移し、懸濁液から沈殿させ、バッファーを流出させた。このカラムを10mlの洗浄用バッファーで1回洗浄し、5mlの溶出用バッファー(50mMリン酸ナトリウム[pH7]、300mM NaCl、0.5mM THP、150mMイミダゾール)を加えることによりポリヒスチジン標識タンパク質を溶出した。最初の500μlを棄て、続く溶出液1.5mlを回収した。3.5K MWCO透析カセットを使用して、500mlの20mM Tris HCl[pH7.8]、300mM NaCl、1mM DTTに対して、4℃で、これを透析した。3時間後、バッファーを50%グリセロールを含有する用時調製したバッファーと取り替え、4℃で一晩放置した。12%SDSポリアクリルアミドゲルによる電気泳動で1〜10μlアリコートを分析することにより、ポリヒスチジン標識タンパク質の存在および純度を確認し、ブラッドフォード法で定量した。
【0029】
<ポリHisプルダウン>
このアッセイのプロトコールは、「bait」タンパク質を使用して、相互に作用する「prey」タンパク質を「プルダウン」するため、簡便に「プルダウンアッセイ」と呼ばれる。
I.baitタンパク質を調製する
1)固定化コバルトキレートを平衡化する
1.サンプル、非処理ゲルコントロールおよび固定化baitコントロールを含むために十分なミニスピンカラム(Mini−Spin Column)(Pierce)を標識する。
2.各ミニスピンカラムごとに、8mlの洗浄用バッファー(25mM Tris HC1[pH7.2]、150mM NaCl、1mM MgCl2、0.5mM THP、100μlプロテアーゼインヒビター混合物/1.25ml)を調製し、80μlの4Mイミダゾールを加える。
3.コバルトキレートをボルテックスによって再懸濁させ、このスラリー50μlを、各標識ミニスピンカラムに入れる。
4.400μlの洗浄溶液を各スピンカラムに加える。両カラム端に蓋をし、数回逆さにして平衡化する。
5.両方の蓋を外し、スピンカラムをコレクションチューブに入れる。
6.1,250×gで30秒間、遠心分離する。底蓋を元に戻す。洗浄液を棄てる。
7.洗浄ステップを5回、繰り返す。
【0030】
2)前もって精製したタンパク質からbaitを固定する。
1.洗浄用バッファーで総量500μlにしたポリヒスチジン標識baitタンパク質(FusB)100〜150μgを加える。
2.各ミニスピンカラムの底蓋および上端の蓋を元に戻す。
3.回転台上で穏やかに揺らしながら、4℃で少なくとも30分間、インキュベートする。
4.各スピンカラムから両方の蓋を外し、カラムをコレクションチューブに入れる。
5.1,250×gで30秒間、遠心分離する。
6.底蓋をスピンカラムに戻す。
7.400μlの洗浄液を加え、前述同様、5回洗浄する。
【0031】
II.preyタンパク質
1)preyタンパク質を調製して捕獲する(ステップ1および2は、実験日の前に行わなければならない)
1.5mlのRN4220飽和培養TSBを用時調製した100mlの培地に加え、通気しながら37℃で3時間培養する。
2.4℃で遠心分離することにより収菌し、5mlの冷やしたバッファーA(25mM Tris.HCl[pH7.2] 150mM NaCl)で洗浄する。
3.ペレットを−80℃で保存する。
4.0.5g/mlになるように冷やしたバッファーA中に再懸濁させる。
5.リゾスタフィンを20μg/mlになるまで加え、穏やかに混合しながら37℃で30分間、インキュベートする。
6.4℃、30,000×gで30分間、遠心分離する。
7.上清をデカントし、イミダゾールを40mMまで加える。
8.最高800μlまで、固定化した融合タンパク質およびコントロールチューブ(+樹脂/−baitタンパク質)に加える。
9.穏やかに撹拌しながら4℃で1時間、インキュベートする。
10.前述同様、5回洗浄する。
【0032】
III.bait−prey溶出および分析
1.樹脂を、50mM EDTAを加えたSDSサンプル用緩衝溶液2μl中、99℃で3分間煮沸し、直接SDS−PAGEゲル(10〜12%)で泳動する。
【実施例1】
【0033】
図1を参照すると、FusBとEF−Gの相互作用が示されている。2つ目のレーンに見られる上方のバンドは、このタンパク質バンドのトリプシン消化物に対する質量分析で確認された通り、EF−Gである。無細胞転写翻訳共役反応系を使用して、我々は、可溶性タンパク質である精製FusBは、S.aureusの転写装置を、フシジン酸による阻害から保護することを証明した。一方で、FusBタンパク質はE.coliの無細胞系を保護することはできないようであり、これはE.coliにおけるfusB遺伝子の発現がフシジン酸に対する耐性を付与しないという以前の観察結果と一致する。我々は最近、固定化したFusBタンパク質をアフィニティマトリックスとして用いて、FusBタンパク質は、S.aureus由来のEF−Gに結合するが、E.coli由来のEF−Gには結合しないことを証明した(図1のレーン4および5を参照)。レーン3および5は、FusBが存在しなければ、金属アフィニティ樹脂へのEF−Gの非特異的結合が起こらないことを示す、コントロールレーンである。
【0034】
[参考文献]
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】精製FusB(下のバンド)と黄色ブドウ球菌溶解液由来の天然EF−G(上のバンド)との間の相互作用を示す。FusBとE.coli由来のEF−Gタンパク質との間には相互作用は生じない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroでのFusB耐性タンパク質またはその相同体と延長因子G(EF−G)との相互作用を調節する薬剤の同定のためのin vitroスクリーニング方法であって、
(i)FusB耐性タンパク質またはその相同体を発現する細胞源を提供するステップと、
(ii)試験すべき少なくとも1つの候補薬剤を加え、該薬剤が、FusBタンパク質またはその相同体へのEF−Gタンパク質の結合に影響を及ぼすか否かを決定するステップと
を含む、in vitroスクリーニング方法。
【請求項2】
FusBタンパク質またはその相同体および/またはEF−Gタンパク質は精製されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質の一方、FusBタンパク質もしくはその相同体またはEF−Gタンパク質のいずれかが固定化される、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質−タンパク質相互作用を破壊したり無効にしたりすることができる薬剤の存在下で、この相互作用が確認できるように、FusBタンパク質もしくはその相同体またはEF−Gタンパク質が、アフィニティタギング法、化学的架橋または抗体に基づく結合を含む群から選択される技術により固定化される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
FusBタンパク質が組換えポリヒスチジン標識FusBタンパク質である、請求項1〜4のいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
ポリヒスチジン標識FusBタンパク質はアフィニティマトリックスに結合され、精製FusB耐性タンパク質に対する薬剤の影響の有無を決定するステップは、固定化されたFusBタンパク質を用いて行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
EF−Gタンパク質は全細胞溶解液に由来する、請求項1〜6のいずれか一に記載の方法。
【請求項8】
結合していないEF−Gは反復洗浄により除去され、候補/推定治療薬の存在により結合したままになっているEF−Gの量が決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
候補/推定治療薬の存在により結合したままになっているEF−Gの量は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に続いて定性的に決定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
EF−Gタンパク質源は、過剰発現し精製した組換えアフィニティ標識EF−Gに由来する、請求項1〜6のいずれか一に記載の方法。
【請求項11】
EF−GはGST標識されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ELISAアッセイでEF−G結合の検出を可能にするするために、酵素結合抗アフィニティ標識抗体を使用するステップをさらに含む、請求項10または11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
EF−Gは25kDaを超える特定の分画分子量を有する膜に保持され、その結果EF−Gが保持される間FusBは膜を透過することができ、候補/推定治療薬の存在下でのFusB耐性タンパク質またはその相同体とEF−Gとの相互作用を決定することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
候補/推定治療薬の存在下でFusB耐性タンパク質とEF−Gタンパク質とのタンパク質−タンパク質相互作用を検出するための技術は、アフィニティクロマトグラフィ、アフィニティブロッティング、免疫沈降、化学的架橋、タンパク質探索、ファージディスプレイおよび2ハイブリッドシステムを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
FusBタンパク質または相同体の原料は、fusB耐性遺伝子または相同体が存在するか、または存在すると考えられ、FusB耐性タンパク質またはその相同体を発現し、その結果として、フシジン酸の作用に耐性を示すことが可能なグラム陽性またはグラム陰性の細菌種である、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
細菌種は、ブドウ球菌属、エンテロコッカス種、リステリア種、バチルス種およびラクトコッカス種を含む群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ブドウ球菌の種または亜種は、S.caprae、S.gallinarum、S.aureus亜種anaerobius、S.aureus亜種aureus、S.epidermidis、S.haemolyticus、S.intermedius、S.lugdunensis、S.saccharolyticus、schleiferi亜種schleiferi、S.xylosus、S.capitis亜種capitis、S.arlettae、S.warneri、S.hominis、S.stimulans,S.saprophyticus、S.equorum、S.cohnii亜種cohnii、S.auricularis、S.carnosus亜種carnosus、S.kloosii、S.chromogenes、S.hyicus亜種hyicus、S.pulvereri、S.felis、S.lentus、S.muscaeおよびS.scuir、または哺乳動物の細菌感染症に関与するあらゆる他のブドウ球菌を含む群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
FusBタンパク質またはその相同体とEF−Gタンパク質との相互作用を防止し、細菌細胞におけるfusB介在耐性の表現型発現を阻止する薬剤をスクリーニングおよび同定する方法。
【請求項19】
請求項2〜17に記載の特徴のいずれか一以上をさらに含む、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−517294(P2008−517294A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537366(P2007−537366)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003937
【国際公開番号】WO2006/043030
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(391008881)レオ・ファーマ・アクティーゼルスカブ (13)
【氏名又は名称原語表記】LEO Pharma A/S
【Fターム(参考)】