説明

細菌の同定用培地組成物及びその利用

【課題】細菌の同定を迅速かつ簡易に行うための技術を提供する。
【解決手段】100重量部の炭素源に対し1重量部以下のアミノ酸を含む、細菌同定用組成物を用いて細菌を培養する。この培養液のpHを測定することにより、糖代謝能等を迅速に判定し、これにより菌種を迅速かつ簡易に同定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性大腸菌など細菌の同定のための細菌同定用栄養組成物、この組成物を用いた細菌の同定方法及び同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の原因である可能性のある食品や、感染症に罹患した可能性のある患者から採取した検体から原因微生物を検出し同定することは、汚染した環境に対する適切な処置や感染症に罹患した患者に対して適切な薬剤を投与して的確な治療を行うのに必要である。
【0003】
また、近年、ポイントオブケア検査(Point of Care Testing,POCT)など迅速診断の要請が大きくなったため、細菌検出及び同定の迅速診断も各種の試みがなされている。微生物を検出する方法としては、各種の代謝能など生化学的性質に基づく方法のほか、ATP法、インピーダンス法、誘電電気泳動法、CO2ガスセンサー法、ディジタル顕微鏡方式、蛍光測定法などがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら各種の方法を用いても菌の検出のみならず同定を迅速に行うのは極めて困難であった。これは、一般に、菌を同定するためには増菌培養を要するからであった。例えば、食品のように検体中に菌数が多い場合であっても一晩程度の増菌を有するほか、感染症に罹患した患者からの検体の場合には正確な菌種同定を行うには十分な菌の増殖を必要とし、1日から数日かかっていた。また、増菌せず判定用プレート上に直接試料を滴下する場合であっても、試薬により検出が可能な程度にまでプレート上において菌を増殖させる必要があるからであった。
【0005】
また、菌の同定を簡易に行うことも困難であった。すなわち、菌の同定を顕微鏡観察等で行う場合には人的作業を必要とするため作業者を確保する必要があるほか自動化が不可能であった。加えて、菌の生化学性質に基づく呈色反応等を確実に行うには、菌が十分に増殖したかどうかを別途菌数測定装置によってモニタリングする必要があり、装置が大型化あるいは高価になる傾向があった。
【0006】
以上のことから、現在までのところ、細菌等を迅速かつ簡易に定量する方法は見出されていない。そこで、本発明は、細菌の同定を迅速かつ簡易に行うための技術を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、迅速同定のための培地、当該培地を用いた菌類の迅速同定方法及び同定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、病原性大腸菌などの細菌の各種の糖代謝能による菌種の同定手法を利用することとし、培地として一定の組成を用いることで、pH変化を糖代謝能の指標とし、pHの変化傾向によりリアルタイムで糖代謝能を判定して菌種を同定できることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0008】
本発明によれば、100重量部の炭素源に対し1重量部以下のアミノ酸を含む、細菌同定用培地組成物が提供される。好ましくは、100重量部の炭素源に対して0.1重量部以上0.6重量部以下のアミノ酸を含有している。本組成物においては、前記炭素源は、グルコース、スクロース及びラクトースから選択されるいずれかであることが好ましい。また、本組成物は、前記炭素源による糖代謝能に基づく細菌同定用とすることができる。さらに、本組成物は、リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能の判定のための成分を含有することができる。本組成物は、前記細菌同定用培地組成物中のpH又はpHの変化の検出用とすることが好ましい。
【0009】
本組成物は、前記炭素源を、5g/l以上20g/l以下含有し、前記アミノ酸を0.005g/l以上0.12g/l以下含有することができる。また、前記アミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リシン及びバリンからなる第1のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上と、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン及びチロシンからなる第2のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上と、システイン、ヒスチジン及びメチオニンからなる第3のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上とを含むことができる。
【0010】
さらに、前記アミノ酸は、第1のアミノ酸群の全てのアミノ酸と、前記第2のアミノ酸群の全てのアミノ酸群と、前記第3のアミノ酸群の全てのアミノ酸とを含むことができる。
【0011】
本組成物は、また、前記アミノ酸は、カザミノ酸を含むことができる。本組成物は、さらに、ビタミン及び/又はミネラルを含有することができる。
【0012】
本組成物においては、前記細菌は病原性細菌であることが好ましく、前記細菌は、E.coli, E.cloacae, S.marcescens, P.mirabilis,P.vulgaris, K.pneumoniae, S.sonnci及び S.flexncriからなる群から選択されてもよい。
【0013】
本発明によれば、細菌同定用培地組成物であって、同定対象細菌の糖代謝能、リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能から選択される1種又は2種以上の代謝能の測定のための代謝成分を含有し、前記代謝能の発揮による培養液のpHの変化を抑制しない組成を有する、組成物が提供される。この組成物においては、アミノ酸を、前記代謝能の発揮による培養液のpHの変化に対する当該アミノ酸の緩衝作用を抑制可能な範囲(pHの変化を抑制しない範囲)で含有していてもよい。また、前記アミノ酸を、前記同定対象細菌の測定しようとする代謝能による培養液の識別可能なpHの変化を5時間以内に検出できる程度の量含有することもできる。
【0014】
本発明によれば、細菌同定用培地組成物のキットであって、上記いずれかに記載の細菌同定用培地組成物を1種類以上、好ましくは2種類以上含む、キットが提供される。
【0015】
本発明によれば、細菌の同定方法であって、同定対象細菌を含む被験試料を準備する工程と、前記被験試料に対して、上記いずれかに記載の細菌同定用培地組成物を供給して培養する培養工程と、前記培養工程の培養液のpHを検出するpH検出工程と、を備える、同定方法が提供される。この方法において、前記培養工程は、500μl以下の容積で実施することができる。また、前記培養工程は、一つの同定対象細菌に対して2種類以上の前記細菌同定用培地組成物を別個に供給して培養する工程とすることもできる。さらに、前記pH検出工程は、前記pH変化量を検出する工程としてもよい。
【0016】
本発明によれば、細菌の同定装置であって、同定対象細菌を含む被験試料と請求項1〜14のいずれかに記載の細菌同定用培地組成物とを含む培養液を培養キャビティと、前記培養キャビティ中の培養液のpHを検出するpH検出器と、を備える、装置が提供される。また、前記培養キャビティは1ml以下の培養液による培養用とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の細菌同定用培地組成物は、100重量部の炭素源に対し1重量部以下のアミノ酸を含むことができる。本発明の培地組成物は、炭素源に対して上記のように少ないアミノ酸を含有することにより、細菌が利用可能な炭素源を含む本培地組成物を利用して培養したとき、炭素源の代謝により培養液のpHが培養開始から早期に変化する。このため、細菌の炭素源代謝能を迅速に判定することができる。アミノ酸が炭素源よりも相当程度少ないことにより、アミノ酸によるバッファーアクションが抑制されるために、微量な代謝活動をpHやpH変化量として検出することができるようになる。好ましくは、アミノ酸は、100重量部の炭素源に対して0.1重量部以上である。アミノ酸が上記量未満であると、pHが安定せず、逆に菌での代謝活動を、pHの変動として検知することができにくくなるからである。また、本発明の培地組成物は、pHを指標とすることができるため簡易に代謝能を判定できる。さらに、培養液のpHをリアルタイムでモニタリングすることによっても迅速な判定が可能となる。さらにまた、急速にpHが変化することでpH変化量が大きくなるため、精度よく炭素源代謝能を判定することができる。したがって、本組成物によれば、細菌を迅速にかつ簡易に同定できる。
【0018】
さらに、本組成物は、同定対象細菌のリジンの脱炭酸反応、尿素の代謝(分解)及びクエン酸の代謝(分解)のための代謝成分も含むよう構成することもできる。このため、本組成物は、こうした代謝能に基づいて細菌を同定することができる。なお、本組成物は、糖代謝能によらないで、リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能から選択される1種又は2種以上によるpH変化によって細菌を同定するよう組成することもできる。この場合には、炭素源に替えてこれらの代謝成分(リジン、尿素及びクエン酸)を組成物に含むことになる。
【0019】
また、本発明の細菌同定用培地組成物を用いて微量の被験試料を500μl以下レベルの小さいスケールで培養するときには、細菌による炭素源の代謝による結果が培養液に速やかに反映されるため、より迅速に炭素源代謝能を判定し、これにより細菌を迅速に同定できる。
【0020】
本組成物は、特に、感染症に対する適切な薬剤を選択するのに都合がよい。培養開始から早期であっても的確な抗菌性物質の選択が可能な程度に菌種を同定できるからである。感染症患者に投与すべき抗菌性物質等は、一定の作用機作に基づく抗菌スペクトルを有している。したがって、菌種をおおよそ特定することで適切な抗菌性物質を選択して投与することができる。
【0021】
本発明の細菌同定用培地組成物は、同定対象細菌の糖代謝能、リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能から選択される1種又は2種以上の代謝能の測定のための代謝成分を含有し、前記代謝能の発揮による培養液のpHの変化を抑制しない組成を有する組成物とすることができる。培養液のpH変化を抑制しない範囲、すなわち、バッファーアクションを奏しない組成とすることで、細菌の代謝活動を確実にpH変化として把握することができる。また、細菌の代謝活動によるpH変化を早期に検出し識別できるため、細菌の同定時間の短縮の要請に応じられる時間内でpH変化を検出・識別できる。本組成物は、例えば、糖など代謝成分のみで構成されていてもよいし、アミノ酸などその他の成分を、細菌の代謝能の発揮による培養液のpHの変化に対するその成分の緩衝作用を発揮しない範囲(pH変化を抑制しない範囲)で含んでいてもよい。こうしたアミノ酸量は、炭素源とアミノ酸とを各種濃度比で組み合わせた組成の培地を調製して実験することにより取得することができる。例えば、細菌同定のために許容される時間が5時間であれば、5時間以内にpHの変化が現われるように炭素源とアミノ酸との含有量を決定すればよい。また、この他、代謝能の測定に必要な成分も組成物に含めることができる。また、こうした代謝成分もpHのバッファーアクションを抑制できる範囲で添加されていることが好ましい。
【0022】
本発明は、さらに本組成物を利用した細菌の同定方法及び同定装置等に関する。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
(細菌同定用培地組成物)
本発明の組成物は細菌の同定を対象とすることができる。同定対象細菌としては特に限定されないが、迅速診断等の要請を考慮すると病原性細菌とすることが好ましい。病原性細菌としては、食中毒を含む感染症の原因菌等が挙げられる。本発明は、病原性細菌のなかでも、E.coli, E.cloacae, S.marcescens, P.mirabilis,P.vulgaris, K.pneumoniae, S.sonnci及び S.flexneriを同定対象細菌とすることが好ましい。これらの細菌は、臨床上の要請が大きいとともに、本発明が意図する糖代謝能等による同定が容易であるからである。
【0024】
本組成物は、上記のとおり、炭素源による糖代謝能に基づく細菌同定用とすることが好ましい。本組成物の有する組成は、細菌の糖代謝能の相違を培養早期においてpHの変化として顕在化させることができる。また、本組成物は、リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能の判定のための成分を含有することができる。既に記載したように、本組成物は糖代謝能のほか、これらの代謝能による細菌の相違を顕在化させるのにも適している。したがって、本組成物は、これらの代謝能のいずれかに基づく細菌同定用として使用することもできる。
【0025】
本組成物は、培養液中のpH又はpHの変化を検出して細菌を同定するのに用いることができる。培養液中のpH及びpHの変化は、各種のpH測定法によって測定することができる。なお、pH測定法としては、指示薬法、金属電極法(水素電極法、キンヒドロン電極法、アンチモン電極法)、ガラス電極法、ケミカルCCD(Charge Coupled device)法等を用いることができる。なお、ケミカルCCD法は水素イオン濃度に応じて表面電位が変化する表面を有するCCDセンサーを用い、当該表面電位の変化に基づく電子の蓄積量変化により水素イオン濃度を測定する方法である。これらの測定法のうち、一般的にはガラス電極法を用いることが好ましい。また、ケミカルCCD法は、特に、1ml以下、好ましくは500μl以下の小スケールでの培養液pHの測定に適している。
【0026】
本組成物は、炭素源100重量部に対してアミノ酸が1重量部以下であることが好ましい。アミノ酸が上記量以下であると、アミノ酸によるバッファーアクションが抑制されるために、微量な代謝活動をpHやpH変化量として検出することができるようになる。好ましくは、アミノ酸は、100重量部の炭素源に対して0.1重量部以上である。アミノ酸が上記量未満であると、pHが安定せず、逆に菌での代謝活動を、pHの変動として検知することができにくくなるからである。また、アミノ酸は好ましくは同0.6重量部以下である。アミノ酸が同0.6重量部以下であると、培養開始から早期にpHが変化するため、迅速に細菌の代謝活動によるpH及びpH変化量に基づいて細菌を同定することができる。
【0027】
また、炭素源は、5g/l以上20g/l以下含有し、アミノ酸を0.005g/l以上0.12g/l以下含有することができる。この範囲であると、10〜1012CFU/ml程度の細胞を培養したとき、識別できるpH変化を早期に得やすいからである。炭素源はより好ましくは、8g/l以上12g/l以下であり、アミノ酸はより好ましくは、0.008g/l以上0.072g/l以下である。
【0028】
炭素源は、同定対象細菌を他の細菌と区別するために選択される。したがって、同定対象細菌の種類に応じて選択される。例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、ガラクトース等が挙げられる。病原性細菌には、グルコース、スクロース及びラクトースから選択されることが好ましい。本組成物は、炭素源を1種類のみ含有することが好ましい。特定の炭素源についての代謝能の有無が細菌の同定に有効だからである。なお、一つの同定対象細菌について、複数種類の糖に対する代謝能に基づいて菌を同定することが好ましい。したがって、細菌の同定には、2種類以上の本組成物を用いることが好ましい。
【0029】
アミノ酸は、アラニン、アルギニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リシン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、グルタミン酸及びアスパラギン酸等から選択することができる。好ましくは、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リシン及びバリンからなる第1のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上と、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン及びチロシンからなる第2のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上と、システイン、ヒスチジン及びメチオニンからなる第3のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上とを含むことが好ましい。これら3種類の群のそれぞれのアミノ酸を含有することで、本組成物に含まれるアミノ酸の種類により細菌の糖代謝能が影響されることが抑制又は回避される。好ましくは、これら3群の全てのアミノ酸を含有する。
【0030】
第1のアミノ酸群の各アミノ酸の濃度、第2のアミノ酸群の各アミノ酸の濃度及び第3のアミノ酸群の各アミノ酸の濃度は、組成物の一定体積あたりにおいて重量比で約2:約1:約0.5であることが好ましい。
【0031】
第1のアミノ酸群のアミノ酸は、それぞれ400μg/l以上9000μg/l以下含有することが好ましく、第2のアミノ酸群のアミノ酸は、それぞれ200μg/l以上450μg/l以下含有し、第3のアミノ酸群のアミノ酸は、それぞれ100μg/l以上225μg/l以下含有することが好ましい。この範囲で各アミノ酸を含有すると、菌の代謝活動に必要な量を含んでいるだけでなく、バッファーアクション(緩衝作用)を抑制して、安定した菌の代謝活動の測定が可能となる。
【0032】
また、アミノ酸としては、カザミノ酸を含むことができる。カザミノ酸は、カゼインが加水分解されたアミノ酸混合物であり、各種アミノ酸を本発明において好ましい組成で含んでいる。したがって、他の各種の単体のアミノ酸と併用せずに、アミノ酸としてカザミノ酸を単独で用いることができる。菌種によっては、カザミノ酸を用いることで糖代謝能に相違が出やすくなる場合がある。
【0033】
本組成物は、炭素源とアミノ酸のほか、ビタミンを含有していてもよい。ビタミンとしては、細菌用培地に含まれる一般的なものから適宜選択すればよい。例えば、チアミン、チミジン、リボフラビン、パントテン酸、ニコチン酸、イノシトール、コリン、p−アミノ安息香酸、ピリドキシン、ビオチン、葉酸等から適宜選択することができる。本組成物は好ましくは、2種類以上のビタミンを含有する。ビタミンの含有量は特に限定されないが、例えば、チアミン、チミジン、リボフラビン、パントテン酸、ニコチン酸、イノシトール、コリン、p−アミノ安息香酸及びピリドキシンについては、それぞれ5μg/l以上20μg/l以下とすることが好ましい。また、ビオチン及び葉酸については、0.5μg/l以上2μg/l以下とすることが好ましい。
【0034】
本組成物は、ミネラルを含むことができる。ミネラルとしては、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、マンガン、鉄、亜鉛、コバルト及び銅などが挙げられる。好ましくは、少なくともマグネシウム及びカリウムを塩基として含む塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩又は硝酸塩等の形態で含有する。ミネラルの含有量は特に限定されないが、例えば、MgCl2については0.01g/l程度、KClについては、0.5g/l程度、K2HPO4については0.05g/l程度とすることができる。
【0035】
本組成物のpHは、同定対象細菌の種類に応じて適宜調整される。通常は、pH6.8以上7.4以下程度に調整される。なお、本発明の組成物は、液体で使用するものであるため、液体組成物とすることができるほか、こうした組成を用時溶解により得ることができる用時溶解性の固形組成物(粉末であってもよいし、タブレット等であってもよい)とすることができる。また、用時希釈によりこうした組成を得ることができる高濃度液とすることもできる。さらに、こうした組成を得ることができる液体及び/又は固体(粉末)のキットとすることもできる。
【0036】
また、本組成物は、上記組成に限定されることなく、同定対象細菌の糖代謝能、リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能から選択される1種又は2種以上の代謝能の測定のための代謝成分を含有し、前記代謝能の発揮による培養液のpHの変化を抑制しない組成を有することができる。したがって、こうした代謝成分のみを含むことができるほか、前記代謝能の発揮による培養液pHの変化を抑制しない範囲、換言すれば、培養液のpHの変化に対する添加成分(アミノ酸やビタミンなど代謝成分以外)の緩衝作用を抑制可能な範囲で、アミノ酸やビタミン等の成分を含むことができる。アミノ酸は、同定対象細菌の測定しようとする代謝能による培養液の識別可能なpHの変化を5時間以内に検出できる程度の量含有するようにすることが好ましい。より好ましくは4時間以内にpH変化を検出できるのがよく、より好ましくは3時間以内にpH変化を検出できるのがよい。
【0037】
(細菌同定用培地組成物のキット)
本発明のキットは、本組成物を1種類以上、好ましくは2種類以上含むキットとすることができる。被験試料中の細菌の菌種を同定するには、2種類以上の糖代謝能に基づくことが好ましいからである。被験試料において、複数の同定対象細菌が含まれる可能性があるのが通常であるからである。本キットは、炭素源としてグルコースを含む本組成物、ラクトースを含む本組成物、スクロースを含む本組成物から選択される2種類あるいは全種類を含むことが好ましい。さらに、本キットは、培養に適したウェル容器あるいは複数個のウェルを有する固相担体を備えることもできる。
【0038】
(細菌同定方法)
本発明の細菌の同定方法は、同定対象細菌を含む可能性のある被験試料を準備する工程と、前記被験試料と本組成物とを混合して培養する培養工程と、前記培養工程の培養液のpHを検出するpH検出工程と、を備えることができる。
【0039】
本組成物の調製方法については特に限定しない。アミノ酸及びビタミンについては、それぞれ高濃度の原液を予め調製しておき、適宜希釈して用いることが好ましい。
【0040】
培養工程は、細菌一般の培養条件を採用することができる。適宜、同定対象細菌の種類に応じて、酸素要求性、温度、pH等を調整することができる。一般的には、温度は、30℃〜40℃程度とし、pH6.8以上7.4以下程度とし、培養は、酸素要求性等に応じて静地培養、振とう培養、回転培養、静地培養下での酸素供給法などから適宜選択することができる。培養液における菌濃度は、10CFU/ml以上1012CFU/ml以下とすることができる。この範囲であると、迅速なpH低下を期待することができる。より好ましくは、10CFU/ml以上1011CFU/ml以下とすることができる。ただし、被験試料中の菌濃度を予め取得するのが困難な場合には、食品や患者等から採取した検体を複数段階に希釈したものを被験試料として用いることができる。
【0041】
培養スケールは、通常は固形培地を用い、その量を液体として換算すると約20ml程度とすることができるが、本発明では、1ml以下程度(好ましくは500μl以下、より好ましくは300μl以下、一層好ましくは200μl以下である。)の液体培地による小スケールとすることもできる。このような小スケール下では、被験試料も微量ですみ、また、培養液が小容量であるため細菌の糖代謝の結果が培養液に速やかに反映されるため、より迅速に糖代謝能の有無の判定及び菌種の同定が可能となる。こうした小スケールでの培養のためのキャビティの形成には、例えば、マイクロマシンやMEMS(micro Electro Mechanical System)の製作技術を適用することができる。また、各種のエッチング技術、リソグラフィ技術、接合技術、成膜技術、レーザ等による精密微細加工技術、超音波技術等を適宜組み合わせて用いることができる。さらに、マイクロ塑性加工技術、マイクロ射出成形技術、マイクロ光造形技術などのマイクロ成形技術を用いることもできる。なお、用いる成形・加工技術に応じて、被加工体である固相基材を適宜選択することができる。
【0042】
pH検出工程は、培養液のpHを測定する。pH測定法としては、既に説明したように、指示薬法、金属電極法(水素電極法、キンヒドロン電極法、アンチモン電極法)、ガラス電極法、ケミカルCCD法等を用いることができる。一般には、ガラス電極法を用い、小スケールでは、ケミカルCCD法を用いることが好ましい。
【0043】
pH検出工程におけるpH検出は、培養開始から連続的に行うこともできるが、一定期間毎に断続的に行うこともできるし、特定した時間経過後においてのみ行うこともできる。pH検出のタイミング等は、必要に応じ選択することができるが、時間当たりのpH変化量を検出する場合には、継続的又は断続的にpHを測定することが好ましい。
【0044】
pH検出工程で検出したpH又はpH変化量に基づいて、被験試料中の細菌の菌種を同定することができる。すなわち、被験試料中の細菌が同定対象細菌であるかどうかを判定できる。判定の基礎は、あるタイミングにおけるpHであってもよいし、時間当たりのpH変化量であってもよい。特に、迅速診断の要請に応えるためには、培養早期の比較的pH変化の大きい時期におけるpH変化量を判定基礎とすることが好ましい。なお、菌種及び同定に用いる代謝能の種類によっては、培養後期において大きくpHが変化する場合もありうる。
【0045】
また、判定にあたっては、同定対象細菌(コントロール)について被験試料中の細菌の同定に用いたのと同じ組成の本組成物による培養を実施して得られたpH傾向に関するpH情報に基づくことができる。こうしたpH情報は、予め取得しておいてもよいし、さらにデータベース化しておいてもよい。また、被験試料と同時にコントロールについても培養を実施してもよい。
【0046】
(細菌同定装置)
本発明の細菌の同定装置は、同定対象細菌を含む可能性のある被験試料と本組成物とを含む培養液を培養キャビティと、前記培養キャビティ中の培養液のpHを検出するpH検出器と、を備えることができる。培養キャビティは、通常のチューブ状であってもよいし、ガラス又はプラスチックプレート上に成形あるいはエッチング等の加工をすることにより形成されたウェルであってもよいし、ガラスやPPなどのプラスチック製の固相担体にウェルを区画する壁体となる部材を接着して形成した凹部であってもよい。本同定装置は、こうした培養キャビティ、好ましくは複数個の培養キャビティを、着脱可能なモジュールとして備えることができる。培養キャビティは、1ml以下の培養液による培養用であることが好ましい。より好ましくは、500μl以下の培養液による培養用である。こうした容積範囲の培養液による培養用のキャビティを備えることで、より迅速な同定を容易に行えるようになる。さらに好ましくは300μl以下、一層好ましくは200μl以下である。
【0047】
本同定装置は、こうした培養キャビティに本組成物を供給する培地供給装置を備えることもできる。このような培地供給装置を備えることで、容易に本組成物と被験試料とを混合して培養を開始することができる。培地供給装置は、個々の培養キャビティに培地を供給可能にX−Yプロッタ等による可動性を備えていることが好ましい。あるいは、培養キャビティ側にX−Yプロッタにより可動性を備えるようにしてもよい。
【0048】
pH検出器としては、上記した各種pH測定方法に基づく検出装置を備えることができる。なお、指示薬法の場合には、少なくとも比色計を備えることができる。
【実施例1】
【0049】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(培地の調製1)
細菌の同定に適した培地の調製について説明する。
<アミノ酸>
まず下記表に示す各アミノ酸のストック液 (10 mg/ml)を調製し、使用時に10倍希釈して1mg/mlの希釈液を調製する。この各希釈液を培地100mlあたり下記含量となるよう、カッコ内の体積を蒸留水に加えた。
【0051】
第1群(200 μl)
Alanine 200 μg
Arginine 200 μg
Aspartic acid 200 μg
Glutamic acid 200 μg
Glycine 200 g
Isoleucine 200 μg
Leucine 200 μg
Lysine 200 μg
Valine 200 μg
第2群(100 l)
Phenylalanine 100 μg
Proline 100 μg
Serine 100 μg
Threonine 100 μg
Tryptophan 100 μg
Tyrosine 100 μg
第3群(50 l)
Cystine 50 μg
Histidine 50 μg
Methionine 50 μg
【0052】
<ビタミン>
ビタミンについては、各ビタミンのストック液 (10 mg/ml)を調製し(銀紙で包んで冷暗所保存、2週間以後は使用不可とする)、これを1000倍希釈して各希釈液を調製する。この各希釈液を培地100mlあたり下記含量となるようカッコ内の体積を蒸留水に加えた。
<Aグループ(100μl)>
Thiamine 1 μg
Thymidine 1 μg
Riboflavin 1 μg
pantothenic acid 1 μg
nicotinic acid 1 μg
inositol 1 μg
choline-Cl 1 μg
PABA 1 μg
Pyridoxine 1 μg
<Bグループ(10μl)>
biotin 0.1 μg
folic acid 0.1 μg
【0053】
さらに、上記培地には、MgCl20.001%, KCl 0.05%, K2HPO40.005%を含有するように、これらのストック液を添加した。こうして調製した培地は、蒸留水で100mlとし、オートクレーブで滅菌した。この培地は、後段の実施例で示すように、最終的に、各種炭素源が10g/lとなるように添加して使用された。
【0054】
なお、上記培地を1倍濃度の培地として、上記各希釈液の添加量を半減させた1/2培濃度の培地と、上記各希釈液の添加量を倍増させた2倍濃度の培地とをそれぞれ調製した。
【実施例2】
【0055】
E.coli 臨床株3、E.cloacae 臨床株1、P.mirabilis 臨床株1、P.vulgaris 臨床株1及びS.sonnei 臨床株1につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した1倍濃度の培地(炭素源添加前)に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてグルコースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、グルコースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表1及び図1に示す。なお、E.coli はグルコース及びラクトース代謝能を有し、E.cloacaeはグルコース代謝能を有するがラクトース代謝能は変動的であり、P.mirabilis、P.vulgaris及びS.sonneiはグルコース代謝能を有しラクトース代謝能を有さない。
【0056】
【表1】

【0057】
表1及び図1に示すように、培養開始後40分以内、特に20分以内に急激に培養液pHが低下した。用いた臨床株の菌種は、いずれもグルコース代謝性を有していることが本実施例でも確認できた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例3】
【0058】
実施例2で用いたのと同一のE.coli 臨床株3、E.cloacae 臨床株1、P.mirabilis 臨床株1、P.vulgaris 臨床株1及びS.sonnei 臨床株1につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した1倍濃度の培地(炭素源添加前)に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてラクトースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、ラクトースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表2及び図2に示す。
【表2】

【0059】
表2及び図2に示すように、培養開始後40分以内に一部の菌についてpHが低下した。pHが低下した菌は、いずれもラクトース代謝性であり、pHが維持された菌はラクトース非代謝性であった。したがって、本実施例により、用いた臨床株の菌種のラクトース代謝能を適切に確認することができた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例4】
【0060】
実施例2で用いたのと同一の臨床株群につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した培地(炭素源添加前)を1/2倍濃度の培地に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてグルコースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、グルコースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表3及び図3に示す。
【表3】

【0061】
表3及び図3に示すように、培養開始後40分以内、特に20分以内に急激に培養液pHが低下した。用いた臨床株の菌種は、いずれもグルコース代謝性を有していることが本実施例でも確認できた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例5】
【0062】
実施例2で用いたのと同一の臨床株群につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した培地(炭素源添加前)を1/2倍濃度の培地に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてラクトースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、ラクトースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表4及び図4に示す。
【表4】

【0063】
表4及び図4に示すように、培養開始後40分以内に一部の菌についてpHが低下した。pHが低下した菌は、いずれもラクトース代謝性であり、pHが維持された菌はラクトース非代謝性であった。したがって、本実施例により、用いた臨床株の菌種のラクトース代謝能を適切に確認することができた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例6】
【0064】
実施例2で用いたのと同一の臨床株群につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した培地(炭素源添加前)の2倍濃度の培地に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてグルコースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、グルコースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表5及び図5に示す。
【表5】

【0065】
表5及び図5に示すように、培養開始後40分以内、特に20分以内に急激に培養液pHが低下した。用いた臨床株の菌種は、いずれもグルコース代謝性を有していることが本実施例でも確認できた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例7】
【0066】
実施例2で用いたのと同一の臨床株群につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した培地(炭素源添加前)の2倍濃度の培地に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてラクトースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、グルコースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表6及び図6に示す。
【表6】

【0067】
表6及び図6に示すように、培養開始後40分以内に一部の菌についてpHが低下した。pHが低下した菌は、いずれもラクトース代謝性であり、pHが維持された菌はラクトース非代謝性であった。したがって、本実施例により、用いた臨床株の菌種のラクトース代謝能を適切に確認することができた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例8】
【0068】
(培地の調製2)
細菌の同定に適した他の培地の調製について説明する。本実施例では、アミノ酸としてカザミノ酸を用いて、0.02g/l及び0.05g/lとなるようにそれぞれ調製し、さらに、これらの各液にMgCl2 0.001%, KCl 0.05%, K2HPO40.005%を含有するように調製し、蒸留水を加えて最終濃度としたのち、オートクレーブで滅菌した。これらの培地は、それぞれ後段の実施例で示すように、最終的に、各種炭素源が10g/lとなるように添加して使用された。
【実施例9】
【0069】
E.coli 臨床株3、E.cloacae 臨床株1、P.mirabilis 臨床株1、P.vulgaris 臨床株1及びS.sonnei 臨床株1につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製したカザミノ酸0.02g/lの培地(炭素源添加前)に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてグルコースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、グルコースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表7及び図7に示す。
【0070】
【表7】

【0071】
表7及び図7に示すように、培養開始後40分以内、特に20分以内に急激に培養液pHが低下した。用いた臨床株の菌種は、いずれもグルコース代謝性を有していることが本実施例でも確認できた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例10】
【0072】
実施例9で用いたのと同一のE.coli 臨床株3、E.cloacae 臨床株1、P.mirabilis 臨床株1、P.vulgaris 臨床株1、及びS.sonnei 臨床株1につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製したカザミノ酸0.02g/lの培地(炭素源添加前)に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてラクトースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、ラクトースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表8及び図8に示す。
【表8】

【0073】
表8及び図8に示すように、培養開始後60分以内に一部の菌についてpHが低下した。pHが低下した菌は、いずれもラクトース代謝性であり、pHが維持された菌はラクトース非代謝性であった。したがって、本実施例により、用いた臨床株の菌種のラクトース代謝能を適切に確認することができた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例11】
【0074】
実施例9で用いたのと同一の臨床株及びS.marcesence臨床株2につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した培地(炭素源添加前)をカザミノ酸0.05g/lの培地に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてグルコースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、グルコースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表9及び図9に示す。
【表9】

【0075】
表9及び図9に示すように、培養開始後40分以内、特に20分以内に急激に培養液pHが低下した。用いた臨床株の菌種は、いずれもグルコース代謝性を有していることが本実施例でも確認できた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【実施例12】
【0076】
実施例2で用いたのと同一の臨床株及びS.marcesence臨床株2につき、LB寒天培地で一晩培養した1コロニーをLB培地2mlに溶かし、振とう培養で18時間培養した。この菌液を遠心して、菌を採取し、1mlの実施例1で調製した培地(炭素源添加前)をカザミノ酸0.05g/lの培地に懸濁して1010CFU/mlの菌液とした。この菌液に10g/lとなるよう炭素源としてラクトースを加え、pHを7.5とし、37℃で振とう培養しながら、ラクトースを加えた直後、20分後、40分後、1時間後、2時間後、3時間後にpHメータ(ガラス電極製)で測定した。結果を表10及び図10に示す。
【表10】

【0077】
表10及び図10に示すように、培養開始後40分以内に一部の菌についてpHが低下した。pHが低下した菌は、いずれもラクトース代謝性であり、pHが維持された菌はラクトース非代謝性であった。したがって、本実施例により、用いた臨床株の菌種のラクトース代謝能を適切に確認することができた。また、菌株間において大きな差は認められなかった。
【0078】
以上のことから、特定培地により極めて短時間で細菌の糖代謝能プロファイリングが可能であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例2での培養液pHの時間経過を示す図。
【図2】実施例3での培養液pHの時間経過を示す図。
【図3】実施例4での培養液pHの時間経過を示す図。
【図4】実施例5での培養液pHの時間経過を示す図。
【図5】実施例6での培養液pHの時間経過を示す図。
【図6】実施例7での培養液pHの時間経過を示す図。
【図7】実施例9での培養液pHの時間経過を示す図。
【図8】実施例10での培養液pHの時間経過を示す図。
【図9】実施例11での培養液pHの時間経過を示す図。
【図10】実施例12での培養液pHの時間経過を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部の炭素源に対し1重量部以下のアミノ酸を含む、細菌同定用培地組成物。
【請求項2】
100重量部の炭素源に対し0.1重量部以上0.6重量部以下のアミノ酸を含む、請求項1に記載の細菌同定用培地組成物。
【請求項3】
前記炭素源は、グルコース、スクロース及びラクトースから選択されるいずれかである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記炭素源による糖代謝能に基づく細菌同定用である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能の判定のための成分を含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記細菌同定用培地組成物中のpH又はpHの変化を検出するための請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記炭素源を、5g/l以上20g/l以下含有し、前記アミノ酸を0.005g/l以上0.12g/l以下含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記アミノ酸は、
アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リシン及びバリンからなる第1のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上と、
フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン及びチロシンからなる第2のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上と、
システイン、ヒスチジン及びメチオニンからなる第3のアミノ酸群から選択される1種又は2種以上と
を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記第1のアミノ酸群、第2のアミノ酸群及び第3のアミノ酸群を全て含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記アミノ酸は、第1のアミノ酸群の全てのアミノ酸と、前記第2のアミノ酸群の全てのアミノ酸群と、前記第3のアミノ酸群の全てのアミノ酸とを含む、請求項7〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記アミノ酸は、カザミノ酸を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
ビタミン及び/又はミネラルを含有する、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記細菌は、病原性細菌である、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記細菌は、E.coli, E.cloacae, S.marcescens, P.mirabilis, P.vulgaris, K.pneumoniae, S.sonnci及び S.flexncriからなる群から選択される、請求項1〜13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
細菌同定用培地組成物であって、
同定対象細菌の糖代謝能、リジン脱炭酸能、尿素分解能及びクエン酸分解能から選択される1種又は2種以上の代謝能の測定のための代謝成分を含有し、
前記代謝能の発揮による培養液のpHの変化を抑制しない組成を有する、組成物。
【請求項16】
アミノ酸を、前記代謝能の発揮による培養液のpHの変化に対する当該アミノ酸の緩衝作用を抑制可能な範囲で含有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記アミノ酸を、前記同定対象細菌の測定しようとする代謝能による培養液の識別可能なpHの変化を5時間以内に検出できる程度の量含有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
細菌同定用培地組成物のキットであって、
請求項1〜17のいずれかに記載の細菌同定用培地組成物を含む、キット。
【請求項19】
細菌の同定方法であって、
同定対象細菌を含む被験試料を準備する工程と、
前記被験試料と請求項1〜17のいずれかに記載の細菌同定用培地組成物とを混合して、前記同定対象細菌を培養する培養工程と、
前記培養工程の培養液のpHを検出するpH検出工程と、
を備える、同定方法。
【請求項20】
前記培養工程は、1ml以下の容積で実施する、請求項19の記載の同定方法。
【請求項21】
前記培養工程は、一つの同定対象細菌に対して2種類以上の前記細菌同定用培地組成物を別個に供給して培養する工程である、請求項19又は20に記載の同定方法。
【請求項22】
前記pH検出工程は、前記pH変化量を検出する工程である、請求項19〜21に記載の同定方法。
【請求項23】
細菌の同定装置であって、
同定対象細菌を含む被験試料と請求項1〜17のいずれかに記載の細菌同定用培地組成物とを含む培養液を培養キャビティと、
前記培養キャビティ中の培養液のpHを検出するpH検出器と、
を備える、装置。
【請求項24】
前記培養キャビティは500μl以下の培養液による培養用である、請求項23に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−86240(P2008−86240A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269916(P2006−269916)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】