説明

細菌の検出および/または同定のための培地

本発明は、黄色ブドウ球菌を特徴付けるための反応培地であって、β-リボシダーゼ基質である代謝指示薬を、少なくとも一つの他の代謝指示薬および/または少なくとも一つの代謝調節剤と組合わせて含む培地に関する。
本発明は、黄色ブドウ球菌を検出および/または同定する方法であって
a)β−リボシダーゼ基質である代謝指示薬を、少なくとも一つの他の代謝指示薬および/または少なくとも一つの代謝調節剤と組合わせて含む反応培地を提供すること、
b)培地に試験される生物試料を接種すること、
c)インキュベーションをすること、
d)黄色ブドウ球菌の存在を特徴づけること
からなる工程を含むことを特徴とする方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黄色ブドウ球菌に特異的な反応培地に関する。また、当該培地を使用する黄色ブドウ球菌の検出及び/又は同定方法にも関する。
【0002】
スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属の大部分の種は、外傷又は医薬関連品の直接移植による皮膚損傷の事態に、ハイリスクを呈するヒトの日和見病原菌である。ブドウ球菌の中で、黄色ブドウ球菌は疑いなく最も強毒の種であり、それは多数の細胞外酵素及び毒素を産生するためである。それは、単純なひょう疽から、敗血症、心内膜炎、肺炎または関節感染症のような最も重篤な感染症であって予後があまり楽観的でないような感染症に及ぶ、多数の様々な病的状態の原因となることがある。それは、注射器またはカテーテルのような装置を含む病院介護を受けなければならない患者でしばしば発見される。従って、それはますます院内感染症に関係するので、この病原細菌の存在を検出することに大きな価値がある。
【0003】
細菌学において、黄色ブドウ球菌種はコアグラーゼの生産によって特徴付けられ、「コアグラーゼ陰性」と称される他の種と対比されることは通常である。黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス)とアウレウスでないブドウ球菌を区別するための従来法は、コアグラーゼ及びDNaseが無いものについての調査及びフィブリノーゲン親和性因子、プロテインAと莢膜抗原の存在を証明することを目的とするラテックス上の凝集反応を得ることに基づく。しかしながら、他の潜在的病原性のブドウ球菌種は、コアグラーゼを発現することができる。
【0004】
また、黄色ブドウ球菌の存在を評価することを可能にするために選択培地に培養する技術があり、例えば高塩チャップマン培地(7.5%のNaCl含有)は、黄色ブドウ球菌とマンニトールを加水分解するブドウ球菌とを通常は選択し、ベアードパーカー培地(選択剤として亜テルル酸カリウム及び塩化リチウム含有)は食品中のコアグラーゼ陽性のブドウ球菌を分離して、計数するために用いられ、レシチナーゼ活性を証明することを可能にする。しかしながら、これらの技術は、感受性(後者では試験生物試料の少量に存在する探索されている種を示す能力)と特に特異性(他種を含む試験生物試料において探索されている種を検出する能力)を欠き、推定的な診断を与えるだけであるので他の確認試験を必要とする。しかしながら、黄色ブドウ球菌の同定のために必要な追加的な処理は、時間と解析のコストを増加させる。それらは、多数の試薬と資格のあるスタッフの関与を要求する。
【0005】
また、酵素基質、特にホスファターゼおよび/またはβ-グルコシダーゼまたはα-グルコシダーゼ基質を含む培養培地の使用も可能である。例えば、発色性培養培地CHROMagar(商標)黄色ブドウ球菌を挙げることができ、ブドウ球菌を分離して、黄色ブドウ球菌を、後種の藤色の呈色反応を与える発色性基質によって同定することを可能にする(Gaillot O. et al., 2000. J. Clin. Microbiol. 38, 4, 1587-1591)。次に、理論的には、同属の他種は青色又は無色の呈色反応によって検出される。同定はホスファターゼ、β-グルコシダーゼ、β‐グルクロニダーゼ及びβ‐ガラクトシダーゼ活性に基づき、更には阻害物質デフェロキサミンの存在に基本的に基づく。そして、それは黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌(スタフィロコッカス・エピデルミディス)とを区別することを可能にする。しかしながら、2種がCHROMagar(商標)培地において同色コロニーを産生するので、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌(スタフィロコッカス・エピデルミディス)との区別は不完全である。これは、ホスファターゼ基質は黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌とで陽性であり、ホスファターゼ基質は特異性を欠くためであり、デフェロキサミンによる後者の阻害が部分的であるためである。
【0006】
また、特許出願WO02/079486にて説明したように、α-グルコシダーゼ基質の使用が可能である。従って、α-グルコシダーゼ活性の検出だけを使用して、表皮ブドウ球菌及びスタフィロコッカス・サプロフィティクスから黄色ブドウ球菌を分離することは可能であり、それらは臨床的に分離されるブドウ球菌種の主な3種である。しかしながら、インドキシル核を有する発色団を有するα-グルコシダーゼ基質は固体培地に非常に適しているが、呈色反応は液体培地において拡散しないので、それらの使用は液体培地において問題が有る場合がある。
【0007】
驚くべきことに、発明者は、1以上のリボシダーゼ酵素基質の使用が黄色ブドウ球菌の急速で簡単な同定を可能にすることを証明した。特に、代謝調節剤および/または別の代謝指示薬と組合せた1又は複数のリボシダーゼ酵素基質の使用は、他のブドウ球菌種から黄色ブドウ球菌を区別することを可能にする。
【0008】
本発明を示す前に、以下の定義は、本発明がより明らかに理解されるために与えられる。それらは、決して限定的なものではない。
【0009】
「反応培地」なる用語は、代謝の発現のために及び/又は微生物の増殖のために必要な全ての要素を含む培地を意味することを目的とする。反応培地は、固体、半固体、又は液体でもよい。「固体培地」なる用語は、例えば、ゲル化された培地を意味することを目的とする。寒天は微生物を培養するための微生物学における通常のゲル化剤であるが、ゼラチンまたはアガロースを使用することが可能である。一定数の調製物、例えばコロンビア寒天、トリプトケース−ソイ寒天、マッコンキー寒天、サブロー寒天、又はさらに一般的にいえば、微生物学培地ハンドブック(the Handbook of Microbiological Media:CRC出版)に記載されているものは、市販されている。
【0010】
反応培地は、例えばアミノ酸、ペプトン、炭水化物、ヌクレオチド、ミネラル、ビタミンのような一つ以上の成分を組合せて含んでもよい。また、培地は着色剤を含んでもよい。例として、着色剤として、エバンスブルー、ニュートラルレッド、ヒツジ血液、ウマ血液、酸化チタンのような乳白剤、ニトロアニリン、マラカイトグリーン、ブリリアントグリーン、1以上の代謝指示薬、1以上の代謝制御剤等を挙げることができる。反応培地は、発現用培地または培養且つ発現用培地であってもよい。第1の場合において、微生物は接種の前に培養され、第2の場合において、検出および/または同定培地は培養培地をも構成する。 また、当業者は、異なる基質又は異なる選択混合物を含む2つの培地を容易に比較することでき、その上に同じ生物試料が置かれるバイプレートを使用してもよい。
【0011】
「代謝調節剤」なる用語は、微生物の増殖を調整する任意の化合物を意味することを目的とする。この代謝調節剤は、特にオシダーゼ調節剤、選択的化合物(例えば特に塩化リチウム、亜テルル酸カリウムまたは塩化ナトリウムまたは選択的化合物の混合物)、1又は複数のβ-ラクタム、1又は複数のアミノグリコシド、1又は複数のグリコペプチド、1又は複数のキノロン、1又は複数のポリペプチド、アンフォテリシン、1又は複数のアゾール化合物でを含む抗生物質、抗生物質の混合物、および/または抗真菌性薬剤であって黄色ブドウ球菌の検出を促進することができるもの、特に塩化リチウム(LiCl)、アジ化ナトリウム(NaN)、コリスチン、アンフォテリシン、アズトレオナム、コリマイシン、塩化ナトリウム(NaCl)、デフェロキサミン及び抗ビブリオ(vibriostatic )化合物O/129のような黄色ブドウ球菌バクテリアの増殖の促進を阻害する物質であってもよい。
好ましくは、本発明に係る培地は、黄色ブドウ球菌の増殖を促進するため及び/又は微生物の他種の増殖を阻害するための選択的混合物を含む。この混合物は、好ましくは、塩化リチウム、抗ビブリオ化合物O/129、アズトレオナム及びアンフォテリシンを含む。
【0012】
「代謝オシダーゼ調節剤」なる用語は、特に、反応培地の1又は複数のオシダーゼ活性の発現を誘発または抑制することができる化合物を意味することを目的とする。好ましくは、代謝調節剤の濃度は、0.5mg/lと75g/lとの間である。
【0013】
「代謝指示薬」なる用語は、微生物の存在を証明することを可能にする任意の化合物を意味することを目的とする。この代謝指示薬は、特にリボシダーゼ基質、またはβ-リボシダーゼ基質以外の基質、例えば特にオシダーゼ基質、エステラーゼ基質またはペプチダーゼ基質のような基質、特にβ-グルコシダーゼおよび/またはβ‐ガラクトシダーゼおよび/またはβ‐グルクロニダーゼおよび/またはホスファターゼ基質であって、それによって黄色ブドウ球菌の検出を促進する基質であってもよい。また、培地は、β-リボシダーゼ基質とは異なる1又は複数の代謝指示薬、例えば基質の組合せのようなものを含むことができる。当業者は、同定することを要求される微生物に従って基質の濃度を調整する。好ましくは、基質の濃度は、50と400mg/lとの間に、5と1000mg/lの間である。
【0014】
「基質」なる用語は、微生物を直接的又は間接的に検出可能にする生産物を生じる、β-リボシダーゼのような酵素により加水分解されうる分子を意味することを目的とする。この基質は、特に、明らかにされる酵素活性に特異的な第1部分及び標識として作用する第2部分(以下に標識部分という)を含む。この標識部分は、発色性、蛍光発生、発光性等であってもよい。
【0015】
「β-リボシダーゼ基質」なる用語は、特に2-ヒドロキシフェニル-β-D-リボシド(カテコール-β-D-リボシド);マゼンタ-β-D-リボシド(5ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ジヒドロキシフラボン-β-D-リボシド; X-β-D-リボシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ピンク-β-D-リボシド(6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド); 6-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 5-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 6-フルオロ-3-インドキシル-β-D-リボシド;アリザリン-β-D-リボシド;(P)-ニトロフェニル-β-D-リボシド; 4-メチルウンベリフェリル-β-D-リボシド;ナフトール-β-D-リボシド;ジクロロアミノフェニル-β-D-リボシドを含むことを意図する。
好ましくは、本発明に係る培地中のβ−リボシダーゼ基質の濃度は、25と1000mg/lとの間であり、より好ましくは50と400mg/lとの間にある。
【0016】
「β-グルコシダーゼ基質」は、特に2-ヒドロキシフェニル-β-D-グルコシド(カテコール-β-D-グルコシド);マゼンタ-β-D-グルコシド(5ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-β-D-グルコシド);ジヒドロキシフラボン-β-D-グルコシド; X-β-D-グルコシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-グルコシド);ピンク-β-D-グルコシド(6-クロロ-3-インドキシル-β-D-グルコシド); 6-ブロモ-3-インドキシル-β-D-グルコシド; 5-ブロモ-3-インドキシル-β-D-グルコシド; 6-フルオロ-3-インドキシル-β-D-グルコシド;アリザリン-β-D-グルコシド;(P)-ニトロフェニル-β-D-グルコシド; 4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルコシド; ナフトールベンゼイン-β-D-グルコシド;インドキシル-Nメチル-β-D-グルコシド; 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-N-メチル-β-D-グルコシド; 8-ヒドロキシキノリン-β-D-グルコシド;ナフトール-β-D-グルコシドを意味することを目的とする。
好ましくは、本発明に係る培地中のβ-グルコシダーゼ基質の濃度は、25と1000mg/lとの間、より好ましくは、50と400mg/lとの間にある。
【0017】
「β-ガラクトシダーゼ基質」は、特に2-ヒドロキシフェニル-β-D-ガラクトシド(カテコール-β-D-ガラクトシド);マゼンタ-β-D-ガラクトシド(5ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-β-D-ガラクトシド);ジヒドロキシフラボン-β-D-ガラクトシド; X-β-D-ガラクトシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-ガラクトシド);ピンク-β-D-ガラクトシド(6-クロロ-3-インドキシル-β-D-ガラクトシド); 6-ブロモ-3-インドキシル-β-D-ガラクトシド; 5-ブロモ-3-インドキシル-β-D-ガラクトシド; 6-フルオロ-3-インドキシル-β-D-ガラクトシド;アリザリン-β-D-ガラクトシド;(P)-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド; 4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシド; ナフトールベンゼイン-β-D-ガラクトシド;インドキシル-N-メチル-β-D-ガラクトシド; 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-N-メチル-β-D-ガラクトシド; 8-ヒドロキシキノリン-β-D-ガラクトシド;ナフトール-β-D-ガラクトシドを意味することを目的とする。
好ましくは、本発明に係る培地のβ‐ガラクトシダーゼ基質の濃度は、25と1000とmg/lの間、より好ましくは50と400mg/lとの間にある。
【0018】
「黄色ブドウ球菌」なる用語は、黄色ブドウ球菌の任意菌株であって、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、MSSA、GISA、VISAまたはVRSA(それぞれグリコペプチド−中間体、バンコマイシン中間体、又はバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)のようなを耐性菌株を含むものを意味することを目的とする。
【0019】
「生物試料」なる用語は、生体液に由来する臨床試料、又は任意の種類の食品に由来する食品試料を意味することを目的とする。従って、この試料は液体又は固体でもよく、血液、血漿、尿または糞便、鼻、のど、皮膚、傷又は脳脊髄液から採取された試料に由来する臨床試料、水又例えば牛乳または果汁等の飲料の試料;ヨーグルト、肉、卵、野菜、マヨネーズまたはチーズの試料;魚等の試料に由来する食品試料、あるいは、特に動物の餌のような動物飼料に由来する食品試料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
この点で、本発明は、少なくとも一つの他代謝指示薬および/または少なくとも一つの代謝調節剤と組合わせてβ-リボシダーゼ基質である代謝指示薬を含む、黄色ブドウ球菌を特徴づけるための反応培地に関する。
また、本発明は、黄色ブドウ球菌を特徴づけるために、別の代謝指示薬および/または代謝調節剤と組合わせた、β-リボシダーゼ基質である代謝指示薬の使用にも関する。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態によって、前記代謝調節剤は、オシダーゼ活性の調節剤、選択的化合物(例えば特に塩化リチウム、亜テルル酸カリウムまたは塩化ナトリウムまたは選択的化合物の混合物)、1又は複数のβ-ラクタム、1又は複数のアミノグリコシド、1又は複数のグリコペプチド、1又は複数のキノロン、1又は複数のポリペプチド、アンフォテリシン、アゾール化合物のような抗生物質、抗生物質の混合物、および/または抗真菌性薬剤、単独又は1又は複数の選択的化合物を組合わせから選択される。
【0021】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記他の代謝指示薬は、酵素基質、好ましくはオシダーゼ、エステラーゼ、ペプチダーゼ、β-グルコシダーゼおよび/またはβ‐ガラクトシダーゼ基質である。より好ましい実施形態によれば、前記他の代謝指示薬は、β-グルコシダーゼおよび/またはβ‐ガラクトシダーゼ基質から選択される。
【0022】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記β-リボシダーゼ基質は、2-ヒドロキシフェニル-β-D-リボシド(カテコール-β-D-リボシド);マゼンタ-β-D-リボシド(5ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ジヒドロキシフラボン-β-D-リボシド; X-β-D-リボシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ピンク-β-D-リボシド(6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド); 6-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 5-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 6-フルオロ-3-インドキシル-β-D-リボシド;アリザリン-β-D-リボシド;(P)-ニトロフェニル-β-D-リボシド; 4-メチルウンベリフェリル-β-D-リボシドを意味することを目的とする。
【0023】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記β-リボシダーゼ基質は、カテコール-β-D-リボシドである。
別の本発明の好ましい実施例によれば、前記β-リボシダーゼ基質は、X-β-D-リボシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド)である。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記反応培地は、固体培地である。
本発明の別の好ましい実施例によれば、前記反応培地は、液体培地である。この場合、ほぼ18時間で黄色ブドウ球菌の検出/同定を可能にするので、前記β-リボシダーゼ基質は好ましくはカテコール-β-D-リボシドである。
【0025】
また、本発明は、黄色ブドウ球菌を検出および/または同定する方法であって
a) 上記の反応培地を提供すること、
b) 培地に試験される生物試料を接種すること、
c) インキュベーションをすること、
d) 黄色ブドウ球菌の存在を特徴づけること
からなる工程を含むか、又はそれからなることを特徴とする。
また、この方法は、確認工程を含むことができる。この確認工程は、特に生化学、免疫学的又は分子同定であってもよい。
【0026】
微生物の接種は、当業者に公知である任意の接種技術によって実施され得る。インキュベーション工程は検出が求められる酵素活性の発現にとって最適である温度で実施されてもよく、当業者は検出される酵素活性に従って容易に前記温度を選択することができる。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態によれば、工程c)において、インキュベーションされる期間は16と48時間との間、好ましくは18と24時間との間である。
工程d)は、目視検査、比色法または蛍光測定によって実施することが出来る。
1又は複数の抗生物質に対する黄色ブドウ球菌菌株、特にMRSA(メチシリン耐性S.アウレウス菌株)、GISA(グリコペプチド中間体黄色ブドウ球菌菌株)、VISA(バンコマイシン中間体黄色ブドウ球菌菌株)、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌菌株)及び他の耐性表現型は、特にβラクタム、セファロスポリン、グリコペプチド、アミノグリコシド、キノロン、ポリペチドなどから選択される好適な抗生物質を付加することによって検出できる。
下記の実施例は、説明として提供されるものであって、事実上限定するものではない。本発明を、より明らかに理解することを可能にするものである。
【実施例】
【0028】
実施例1:黄色ブドウ球菌を特徴づけるためのβ-D-リボシダーゼ基質の評価:
培地は、以下において、200mlのコロンビア寒天ベース(Oxoid)中において、発色性β-D-リボシダーゼ基質と組合わせて調整された。培地において使用する異なる基質、更には濃度と添加物を、下記の表1に記載する:

表1:使用する発色性β-D-リボシダーゼ基質の略称と濃度

β-D-リボシダーゼ基質は、DMSO中に溶解して、表1に示す濃度を得るように培地に加えられる。
191の菌株は、0.5マクファーランドで1/1000に希釈された懸濁液を使用して、各培地上へ接種された。シャーレは、37℃で暖められて、それから読みとられた。
培地はシャーレに分配され、次に約100000CFUで接種されて、次に37℃で48時間インキュベートした。形成されたコロニーは、18、24及び48時間のインキュベーション時間後に、視覚的に調べられた。191の菌株の主要なコレクションは、79のMRSA、48のブドウ球菌種、61のエンテロコッカス種及び3つのα型溶血連鎖球菌を含む。
得られた結果は、下記の表に示される:

表2:さまざまなβ−D−リボシダーゼ基質の評価

全ての培地は、黄色ブドウ球菌の検出を明らかに可能にした。
基質カテコール-β-D-リボシド又はX-β-リボシドを含んで成る反応培地は、最も特異的で、最も感受性があり、X-β-D-リボシドの場合たった18時間のインキュベーション後及びカテコール-β-D-リボシドの場合24時間のインキュベーション後に、黄色ブドウ球菌(MRSAとMSSA)の良好な検出が可能であり、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の中に3%の偽陽性だけを有していた。
また、DHF-β-D-リボシドを含む培地は非常に感受性があったが、βリボシダーゼ陽性だったコアグラーゼ陰性ブドウ球菌のパーセンテージは24時間で68%、24時間で68%であったので、特異的ではなかった。
【0029】
実施例2:液体培地のカテコール-β-D-リボシドの評価
以下において培地は、chromID黄色ブドウ球菌ベース(ビオメリュー)と同じ組成物を有し、選択剤も寒天も含まない液体培地を得た。基質と誘導物質はオートクレーブ前に、DMSOに溶解した300mg/gのカテコール-β-D-リボシド及び500mg/lのアンモニア性クエン酸鉄に交換された。次に、培地は、1.5ml/チューブの割合でチューブに分配された。
この培地では、接種は、37℃で24時間で調製された前培養を使用して、実施された。0.5Mcfの生理食塩水の懸濁液が調製され、次に各菌株は10μlに調整したループを使用して、シャーレに接種をされた。
読取りは、37℃で24時間及び48時間のインキュベーション後に実施された。
全体として、11のブドウ球菌菌株は試験された;5つの黄色ブドウ球菌、6つのブドウ球菌属の他種(コアグラーゼ陰性)。得られた結果は、下記の表3に記録された:

表3:液体培地のカテコール-β-D-リボシドの評価

結果は固体培地で得られ結果及び黄色ブドウ球菌についてカテコール-β-D-リボシドが高い特異性を示すことは、液体培地において確認された:黄色ブドウ球菌の100%の呈色反応は18時間後から観察されたが、ブドウ球菌属の他種のいずれも検出されなかった。
【0030】
実施例3ブドウ球菌種の幅広いパネルにおける基質カテコール-β-D-リボシドとX-β-D-リボシドによって得られる結果の確認
基質カテコール-β-D-リボシドまたは基質X-β-D-リボシドを含んで成る反応培地の妥当性を確認するために、以下の実験が更に実施された:
カテコール-β-D-リボシド:300mg/gのカテコール-β-D-リボシドを添加したGTS培地(ビオメリュー)は、オートクレーブされ、500mg/lのアンモニア性クエン酸鉄を添加されて使用し、直径55mmのシャーレに分配された。
X-β-D-リボシド:改変チャップマン培地(NaClなし)はオートクレーブされ、60mg/lのX-β-D-リボシドを添加されて使用し、直径55mmのシャーレに分配された。
接種は、37℃で24時間で調製された前培養を使用して、実施された。0.5Mcfの生理食塩水の懸濁液が調製され、次に各菌株は10μlに調整したループを使用して、シャーレに接種をされた。読取りは、37℃で24時間と48時間のインキュベーション後に実施された。
全体として、90のブドウ球菌が試験された:25のMRSAを含む34の黄色ブドウ球菌、及び46のブドウ球菌の他種(S.schleiferi;S.capitis;S.hyicus;S.intermedius;S.haemolyticus;S.auricularis;S.hominis;S.warneri;S.chromogenes;S.cohnii;表皮ブドウ球菌;S.sciuri;S.xylosus;腐性ブドウ球菌を含む)。得られた結果は表4に記録される。

表4:ブドウ球菌種の菌株の幅広いパネルにおける基質カテコール-β-D-リボシド及びX-β-D-リボシドの評価

この試験の結果は、18時間後から黄色ブドウ球菌のこれらの2つの基質の良好な特異性を示した。具体的には、ブドウ球菌属のその他の13種の中で、4つの非常にマイナーな種だけは呈色反応を与えた。これらは、Staphylococcus saprophyticus,Staphylococcus xylosus,Staphylococcus conhii及びStaphylococcus sciuriという種であり、全4種をあわせて、診療標本中に見つかるブドウ球菌菌株のたった4.4%に相当する(Kawamura et al., 1998, Distribution of Staphylococcus species among human clinical specimens and emended description of Staphylococcus caprae. J. Clin Microbial. 36: 20382042).
【0031】
実施例4:ゲル化培地におけるβ-D-リボシダーゼ及び他のオシダーゼ活性の直接検出による同属の他種から黄色ブドウ球菌の区別
以下において培地は、オートクレーブされた改変チャップマン培地(NaClなし)において調製されて、β-リボシダーゼ発色性基質を1又は2の他の代謝指示薬、すなわちβ-リボシダーゼ活性を検出するため以外の1又は2の発色性基質の組合せと組合わせた。 これらの基質の組合せは、以下の表に示す:

表5:βリボシダーゼ発色性基質のさまざまな組合せ及び他の酵素活性に特異的な発色性基質の略語

さまざまな基質は、DMSO中に溶解され、培地に加えられる。
基質ブルー-β-ガラクトシドを含む培地について、逆浸透水に溶解したIPTGは1mg/lの濃度を得るように加えられる。
培地は直径55mmのシャーレに分配され、接種は、37℃で24時間で調製された前培養を使用して、実施された。0.5Mcfの生理食塩水の懸濁液が調製され、次に各菌株は10μlに調整したループを使用して、シャーレに接種をされた。読取りは、37℃で24時間及び48時間のインキュベーション後に実施された。
全体として、28のブドウ球菌菌株は、試験された:5つのMRSA及び3つの黄色ブドウ球菌、4つの腐性ブドウ球菌、4つのS.cohnii、4つのS.xylosus、4つのS.sciuri、2つの表皮ブドウ球菌及び2つのS.haemolyticus。
下記の表において、Cはインキュベーション後のコロニーの呈色反応を表す、Iはこの呈色反応の強さを表わし、ITはインキュベーション時間を定義する。呈色反応の強さは、任意目盛りであり、以下のように定義することができる
* シンボル「−」は、活性欠如に相当する
* 0.1は、呈色反応のトレースの存在に相当する
* 0.5は、非常に弱い呈色反応の存在に相当する
* 1は、弱い強度の明白な呈色反応の存在に相当する
* 1.5は、呈色反応1と2との間の中間の呈色反応の存在に相当する
* 2は、中程度の強度の明白な呈色反応の存在に相当する
* 2.5は、呈色反応2と3の間で中間である呈色反応の存在に相当する
* 3は、強い呈色反応の存在に相当する
* 3.5は、呈色反応3と4の間の中間である呈色反応の存在に相当する
* 4は、非常に強い呈色反応の存在に相当する。
テストの結果は、以下に示す:

表6:基質のさまざまな組合せの評価


上記の結果は、基質の組合せにより、インキュベーション18時間後からβ-D-リボシダーゼを発現しているブドウ球菌の他種から黄色ブドウ球菌を区別することが可能であることを示す。腐性ブドウ球菌の唯一の菌株だけは48時間に問題を起こしたが、24時間のインキュベーションに曖昧さはなかったが、これは黄色ブドウ球菌はすでに良好な呈色反応強度を有していたためである。
【0032】
実施例5:選択培地でのβリボシダーゼ活性によるMRSAの検出
改変チャップマン培地は、Naclを含まず、オートクレーブにかけて100mg/lでX-β-D-リボシドに懸濁されて、選択性であり、すなわちMSSAおよび他のブドウ球菌種を阻害するために代謝阻害調節剤(LiCl、抗ビブリオ化合物O/129、アズトレオナム及びアンフォテリシン)を含有するものを使用し、直径55mmのシャーレに分配した。基質は、培地に加えられる前に、DMSOにおいて溶解された。接種は、37℃で24時間で調製された前培養を使用して、実施された。0.5Mcfの生理食塩水の懸濁液が調製され、次に各菌株は10μlに調整したループを使用して、シャーレに接種をされた。読取りは、37℃で24時間と48時間のインキュベーション後に実施された。全体として15のブドウ球菌菌株が試験された:5つのMRSA及び2つのMSSA、4つの表皮ブドウ球菌、1つのS.cohnii、4つのS.sciuri及び2つのS.saprophyticus。
結果は、以下に表7に記録する:

表7:β-リボシダーゼ活性による選択培地におけるMRSAの検出

上記の結果は、選択培地において、MSSAおよび他のブドウ球菌種の多くを阻害することは、青緑色の呈色反応を有するMRSAを区別できることを示す。この培地で増殖する他の種は、これらの培養条件下で如何なる呈色反応をも示さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色ブドウ球菌を特徴付けるための反応培地であって、β-リボシダーゼ基質である代謝指示薬を、少なくとも一つの他の代謝指示薬および/または少なくとも一つの代謝調節剤と組合わせて含む培地。
【請求項2】
前記代謝調節剤がオシダーゼ調節剤、選択的化合物、又は選択的化合物の混合物、抗生物質又は抗生物質及び/又は真菌性薬剤の混合物から選択される、請求項1に記載の反応培地。
【請求項3】
前記他の代謝指示薬が酵素基質、好ましくはオシダーゼ、エステラーゼ、ペプチダーゼ、β-グルコシダーゼおよび/またはβ‐ガラクトシダーゼ基質である、請求項1又は2に記載の反応培地。
【請求項4】
前記酵素基質がβ-グルコシダーゼおよび/またはβ‐ガラクトシダーゼ基質から選択される、請求項3に記載の反応培地。
【請求項5】
前記β-リボシダーゼ基質がβ-リボフラノシダーゼ基質である、請求項1から4の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項6】
前記β-リボシダーゼ基質が2-ヒドロキシフェニル-β-D-リボフラノシド(カテコール-β-D-リボシド);マゼンタ-β-D-リボシド(5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ジヒドロキシフラボン-β-D-リボシド; X-β-D-リボシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ピンク-β-D-リボシド(6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド); 6-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 5-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 6-フルオロ-3-インドキシル-β-D-リボシド;アリザリン-β-D-リボシド;(P)-ニトロフェニル-β-D-リボシド; 4-メチル-ウンベリフェリル-β-D-リボシド;ナフトール-β-D-リボシド;ジクロロアミノフェニル-β-D-リボシドから選択される基質である、請求項1から5の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項7】
前記β-リボフラノシダーゼ基質が2-ヒドロキシフェニル-β-D-リボフラノシドである、請求項6に記載の反応培地。
【請求項8】
前記β-リボシダーゼ基質が5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシドである、請求項6に記載の反応培地。
【請求項9】
黄色ブドウ球菌を特徴づけるためのβ-リボシダーゼ基質である代謝指示薬の使用であって、少なくとも一つの他の代謝指示薬および/または少なくとも一つの代謝調節剤と組み合わせた使用。
【請求項10】
前記β-リボシダーゼ基質がβ-リボフラノシダーゼ基質である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記β-リボシダーゼ基質が、2-ヒドロキシフェニル-β-D-リボフラノシド(カテコール-β-D-リボシド);マゼンタ-β-D-リボシド(5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ジヒドロキシフラボン-β-D-リボシド; X-β-D-リボシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド);ピンク-β-D-リボシド(6-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシド); 6-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 5-ブロモ-3-インドキシル-β-D-リボシド; 6-フルオロ-3-インドキシル-β-D-リボシド;アリザリン-β-D-リボシド;(P)-ニトロフェニル-β-D-リボシド; 4-メチルウンベリフェリル-β-D-リボシド;ナフトール-β-D-リボシド;ジクロロアミノフェニル-β-D-リボシドから選択される基質である、請求項9又は10に記載の使用。
【請求項12】
前記基質が5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-リボシドである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記基質が2-ヒドロキシフェニル-β-D-リボフラノシドである、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
黄色ブドウ球菌を検出および/または同定する方法であって
a) 請求項1から8の何れか一項に記載の反応培地を提供すること、
b) 培地に試験される生物試料を接種すること、
c) インキュベーションをすること、
d) 黄色ブドウ球菌の存在を特徴づけること
からなる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
確認工程をさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2011−504373(P2011−504373A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535432(P2010−535432)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/FR2008/052119
【国際公開番号】WO2009/071831
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【Fターム(参考)】