説明

細菌採集治具,接種びん、それらを用いた細菌検査装置

【課題】血液培養後の培養液から同定・感受性検査に必要な、正確かつ再現性のある、所定菌数(菌濃度)の微生物を得てさらに、迅速、かつ正確かつ省力化効果の高い微生物分析装置および方法を提供することにある。
【解決手段】へら状の採集治具で細菌を採集する。細菌は採集治具の先端の径の小さい貫通した穴に毛細管現象によって導かれ、細菌の採集量は貫通した穴の容積で決定される。採集治具により採集した最近は、この採集治具をそのまま接種びんの開口部に設けた突き刺しによって破れる膜を貫通させて接種びんに移すことができる。採集治具が接種びんの膜を通過する際に、あふれた菌を除去することができて、定量性を高める。一連の動作は単純であり、自動化に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細菌の成長コロニーから所定量の細菌を採取する細菌採集治具,採取した細菌を集める接種びん、及びそれらを用いた細菌検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に、本発明の技術分野である微生物検査の概要について示す。まず患者から採集した血液に関して血液培養検査を実施する。本来無菌である血液から迅速に細菌・真菌などを検出することは、重篤な感染症である敗血症・菌血症において非常に重要性が高い。一方で最終的には微生物の種を同定し、抗生剤に対する感受性を迅速に測定し、効果のある薬剤の種類およびその濃度を決定し治療方針をたてることが適正な抗菌薬治療につながる。従来、検査室においては採血した血液を血液培養検査装置において培養し、陽性判定がなされた後に培養ボトルからサンプルを培地に塗布してサブカルチャーし、形成されたコロニーから菌懸濁液を調製し、同定・薬剤感受性検査装置の測定用デバイスに接種する流れをとっている。血液培養検査装置と同定・薬剤感受性検査装置は別々に独立したものを使用し検査を実施している。通常、敗血症・菌血症は重篤な疾患なため、菌の種類ではなく、菌の有無がより重要であり、陽性判定により医師による抗菌薬の投与が最優先される。従ってその後のサブカルチャーの作業は時間をおいて開始する場合が多い。特に夜間に血液培養の陽性判定が出た場合などは、多くの場合、サブカルチャーへの植え継ぎは翌朝検査室の業務が開始されてからである。このため、コロニーの形成が遅れ、同定・感受性検査装置への接種が遅れ、最終的に微生物の同定結果および薬剤感受性結果の報告が遅れていく。近年薬剤耐性の問題がクローズアップされ、早期の適切な抗菌薬治療が必要にもかかわらず、夜間で人がいないという植え継ぎまでの時間ロスにより適切な治療方針のもととなる結果が遅くなっているのが実情である。報告までの時間短縮を狙い、サブカルチャーを省略して血液培養で陽性を示したボトル内培養液を用い、直接同定・感受性検査装置のデバイスに接種する試みをする場合もなされている。しかし、この場合には、血液培養ボトル中の成分が同定・感受性検査装置のデバイスに含まれる薬剤に影響し、正確な結果が得られない場合がある。また、既に化学療法中の患者検体からの血液を適切に血液培養するために添加された、活性炭などの吸着剤の成分的な影響や一定濃度の菌液調製が着色によりうまくできないなどの問題がある。さらに、同定・感受性検査においては、正確な結果を得るためにはデバイスへの接種菌量を正確かつ再現性よく所定の濃度に一定にすることが必須である。血液培養ボトル中の菌数を一定量になるよう調整する必要があるが、多くの場合はそのままでは菌量(菌濃度)が不足している。これらの問題が解決した場合でも、人が血液培養検査と同定・感受性検査装置での作業をつなぐため、24時間体制で検査室が稼働するのは不可能であり、一部を除き大多数の現場では時間的なロスが生じているのが実情である。例えば特許文献1に記載の方法では、簡単な溝付きの棒体により菌量を一定量採取することができる例を示している。この方法では、カラーは長さ約0.8mmの下端の溝および下端面に接触せず、下端面に付着した菌の量を無視することはできない。また、特許文献2に記載の方法では、濃度調整後の菌液をデバイスに接種するのに有効なボトルの例が示されている。しかしこれらの方法を使用した場合でも省力化はできるものの、装置間を結合する方法にはならず、最終的な報告時間の短縮に大きく貢献することは困難である。また、これらの棒状体もしくはボトルは人による作業では優れているが、ステップが複雑で装置による自動化には適していない。さらにしかしこれらの方法を使用した場合でも採集できる一定量にはばらつきがありより高精度な採集方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2994675号公報
【特許文献2】特開平11−225742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明で解決しようとする課題は、血液培養検査と同定・薬剤感受性検査を人を介さずに自動的に接続する方法および装置を提供することにある。また、血液培養終了後、時間をおかずに同定・薬剤感受性検査装置に移行することにより、最終結果までに必要な検査時間を大幅に短縮することにある。さらに、血液培養後の培養液から同定・感受性検査に必要な、正確かつ再現性のある、所定菌数(菌濃度)の微生物を得ることにより、迅速、かつ正確かつ省力化効果の高い微生物分析装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
へら状の採集治具で細菌を採集する。細菌は採集治具の先端の径の小さい貫通した穴に毛細管現象によって導かれ、細菌の採集量は貫通した穴の容積で決定される。採集治具により採集した最近は、この採集治具をそのまま接種びんの開口部に設けた突き刺しによって破れる膜を貫通させて接種びんに移すことができる。採集治具が接種びんの膜を通過する際に、あふれた菌を除去することができて、定量性を高める。
(1)コロニーに採集治具を接触させる
(2)採集治具を接種びんの膜に貫通させる
という2つの動作は単純であり、自動化に適している。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、採集する菌の採集量の精度を向上させ、単純な動作で接種できるようになり自動化することができる。結果として、細菌分析の高精度化と省力化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】細菌採集治具。
【図2】先端を細くした細菌採集治具。
【図3】細菌採集治具貫通穴のバリエーション。
【図4】細菌採集方法のバリエーション。
【図5】接種びん。
【図6】細菌採集治具とセプタのバリエーション。
【図7】細菌検査装置の概要図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図面を参酌して説明する。
【0009】
本発明である細菌採集治具の使用に先立ち、患者から採集した血液の中に細菌の有無を判定するために血液培養装置において血液を培養する(図示せず)。この血液培養装置中には、例えば60本というような、多数の血液培養ボトルが設置可能になっている。また、血液培養装置は所定の温度に保持されている。血液培養容器に入れられ、血液培養装置の所定の位置にセットされた血液試料は一定時間培養される。血液中に含まれていた微生物が増殖するに従い二酸化炭素などの代謝物が産生され、培地のpHが変化する。この変化をpHセンサーが検知する。測定は一定時間間隔で行われ、所定のアルゴリズムにて陽性・陰性判定がなされる。
【0010】
陽性判定された血液培養容器の培養液を一定量採集して、新しい培地701に自動的に接種あるいは画線培養される。サブカルチャーユニット702は一定温度に保持されており、多くの場合は12時間程度の培養でコロニーあるいは十分量の菌数濃度試料を得ることができる。形成されたコロニーもしくはサブカルチャー菌液は、本発明である細菌採集治具703を搭載した細菌採集ユニット704により、採取され、本発明である接種びん705において生理食塩水あるいは専用試液に溶解,浮遊させられる。細菌採集ユニット704はXYZ方向に加えて、子午線方向に回転させる回転機構を有し、細菌採集治具703を鉛直方向に立てることができる。生理食塩水に浮遊させた浮遊菌液は測光部706によって光学的に測光される。光学系は例えば吸光度,濁度,散乱強度、など微生物の懸濁の濁り度合いが測定できれば種々の方法が使用可能である。通常では一連の希釈により、結果的に5×105CFU/mLになるよう調製されることが望ましい。
【0011】
以上により調整された菌液は、培養・測定デバイス707に接種機構708により充填される。デバイスには多数の異なる濃度および種類の抗生剤あるいは菌種同定用のための栄養培地が充填されている。デバイスは培養機構708にて一定温度に保持され、接種された微生物が培養される。デバイス707は搬送ユニット709により一定時間間隔で培養ユニットから引き出され、検出ユニット710により光学測光される。
【0012】
711はマイクロコンピュ−タ、712はインタ−フェイス、713はLog変換器およびA/D変換器、714はプリンタ、715はCRT、716は記憶装置としてのハードディスク、717は操作パネルである。
【0013】
ここで、形成されたコロニーもしくはサブカルチャー菌液を採集するに当たり、図1に示す細菌採集治具を用いる部分を詳しく説明する。
【0014】
101は細菌採集治具の母体であり、材料は金属でも樹脂でもかまわない。角柱を斜めに切断した形状を呈しており、102はその切断面に当たる部位でかつ菌液に接触する面である。角柱を斜めに切断した形状を呈しているため、先端部は104に示すようにへら状の構造になる。103は先端のへら状構造にあけた貫通する穴である。採集作業は菌液に形成されたわずかなコロニーを狙って行うため、コロニーを狙いやすくするために図2に示すようにへら状の先端をさらに幅方向に絞込む構造にしてもよい。さらに先端を完全に尖らせて、以下に述べるセプタムへの貫通をしやすくしてもよい。
【0015】
図3は先端のへら状部分にあけた貫通する穴のバリエーションを示すものである。301の穴は、その中心線が、菌液に接触する底面の法線方向を向いているが、302に示す貫通する穴の中心線は底面の法線方向よりもへら構造の先端を向いている。図示はしていないが中心線を法線方向に対して先端から遠ざける方向に向けてもよい。これらの構造のバリエーションは、次に示す採集方法によって使い分けることができる。
【0016】
図4のaはコロニーを横方向にかきとる場合を示す。401がかきとるための治具404の移動方向である。402はかきとる対象のコロニー、403はコロニーを形成させる支持材である。この動作によってかきとられたコロニーはへらの上側に滞留する。この動作は主に手動で調整者が採取する際の動作に適している。
【0017】
図4のbはコロニーを上方向からへらの底部に転着させる場合を示す。405が転着するための治具406の移動方向である。この動作によってかきとられたコロニーはへらの底部に滞留する。この動作はロボットなどに治具を保持させ自動で上から治具をコロニーに押し付ける際の動作に適している。
【0018】
図4のaとbの治具は構造上の違いがある。aの治具は、貫通する穴の中心線が底面の法線方向よりもへら構造の先端を向いている。bの治具は、貫通する穴の中心線が底面の法線方向を向いている。
【0019】
図5は接種びんのキャップ部分の断面図を示す。501が接種びんであり、その中にはあらかじめ細菌を溶解,浮遊させるための生理食塩水あるいは専用試液で満たされている。502はキャップの構造体であり、びんに固定されて503の破れる部材を支持している。破れる部材とはたとえば、シリコンゴムやテフロン(登録商標)ゴムで作られたセプタムであり、先端のとがったへら状の治具を押し当てることで、押し当てられた部分が裂けて治具をびんの内部の液体である生理用食塩水や専用試薬に接触することができる。材料は、治具の表面に余った菌液を拭い取る効果を持たせるため、治具との密着性を考慮してゴム状の材料であることが望ましい。また、菌液を吸収したり、治具と材料の隙間に菌液を伝えないように撥水性の材料が望ましい。そのため、ここでは、シリコンゴムとテフロン(登録商標)ゴムを例示したが、上記の条件を満たせば、シリコン,テフロン(登録商標)に限定するものではない。
【0020】
図6はコロニーから菌を採取した治具が接種びんのゴム材のセプタム604を破いて通過する状態を示したものである。
【0021】
図6のaは図4のaに示すような、治具の貫通穴の中心線が底面の法線方向よりも先端を向いた治具で横方向にかきとった場合であり、採取した菌液はまず、へらの上側605側に保持される。ゴム材のセプタム604を通過する際、保持された菌液は、治具の貫通穴を通って治具の底面601側にあふれ出し、602のような状態になる。さらに深く治具をセプタムに差し込むことであふれた菌液602は拭い取られる。さらに治具を差し込むとそこには接種びん内の液体があり、厳密に治具の貫通する穴の体積に相当する量の菌液を液体中に移すことができる。
【0022】
図6のbは図4のbに示すような、治具の貫通穴の中心線が底面の法線方向を向いた治具で上方向から転着した場合であり、採取した菌液はまず、へらの底面601側に保持される。ゴム材のセプタム604を通過する際、保持された菌液は、治具の貫通穴を通って治具の上面605側にあふれ出し、603のような状態になる。さらに深く治具をセプタムに差し込むことであふれた菌液603は拭い取られる。さらに治具を差し込むとそこには接種びん内の液体があり、厳密に治具の貫通する穴の体積に相当する量の菌液を液体中に移すことができる。
【0023】
菌液の採集において手動かきとる場合は図4,図6ともにaの組み合わせで実現しやすいが、省力化を追及したロボットに操作をさせる場合は、図4,図6ともにbの組み合わせが適している。
【0024】
菌液を治具から接種びんに導いた後は、治具を引き抜き、図5のセプタム503またはふた502をはずし、新たにびんにふたをして次工程に移る。びんにあらたなふたをする作業は、手動でもよいし、ふたを保持したまま回転または上下する機構を備えたロボットによって容易に自動化することもできる。
【符号の説明】
【0025】
101 細菌採集治具
102,601 治具の底面
103 治具先端の貫通する穴
104 治具先端のへら状構造
204 へら状構造のバリエーション
301 中心線が治具底面の法線方向を向く治具の貫通穴
302 中心線が治具底面の法線の方向よりも先端を向いている治具の貫通穴
401 コロニーをかきとる場合の治具移動方向
402 コロニー
403 コロニー形成の支持材
404 中心線が治具底面の法線方向よりも先端を向いている貫通穴を有する治具
405 上からコロニーを転着させる際の治具の移動方向
406 中心線が治具底面の法線の方向よりも先端を向いている貫通穴を有する治具
501 びん
502 キャップ
503,604 セプタム
602 底面方向にあふれた菌液
603 治具の上面方向にあふれた菌液
605 治具の上面
701 培地
702 サブカルチャーユニット
703 菌採集治具
704 細菌採集ユニット
705 接種びん
706 測光部
707 培養・測定デバイス
708 接種機構
709 搬送ユニット
710 検出ユニット
711 マイクロコンピュータ
712 インターフェイス
713 Log変換機およびA/D変換機
714 プリンタ
715 CRT
716 記憶装置
717 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌コロニーから所定量の細菌を採集する細菌採集治具であって、
へら状の先端部を有し、該先端部の細菌コロニーに接触する面に貫通穴を有して、該貫通穴の内部に採集した細菌を蓄えることができることを特徴とする細菌採集治具。
【請求項2】
請求項1記載の細菌採集治具において、
前記貫通穴の中心線は、前記先端部の細菌コロニーに接触する面の法線方向より先端部分に近づくまたは遠ざかる方向を向いていることを特徴とする細菌採集治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細菌採集治具と組み合わせて使用する、採集された細菌の成長コロニーから採集された細菌を接種びんであって、
該接種びんの開口部に着脱可能であり、かつ該接種びんの外部からの突き刺しで突き刺された部分が破れて突き刺した構造をびんの内部に導くことができる構造を備えたことを特徴とした接種びん。
【請求項4】
請求項1または2記載の細菌採集治具と、請求項3記載の接種びんを組み合わせた細菌検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−172245(P2010−172245A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17454(P2009−17454)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】