説明

細菌細胞壁骨格成分製剤

新規な細菌細胞壁骨格成分製剤、および細菌の細胞壁骨格成分の分析方法の提供。細菌細胞壁骨格成分(細菌−CWS)および油からなるペーストであり、0.2〜0.7poise(25℃)の粘度を有する細菌−CWS含有ペースト、該ペーストを含有するエマルジョン、および凍結乾燥製剤を提供することが可能となった。また、細菌細胞壁骨格成分に含まれる高級脂肪酸またはその誘導体を分析することによって、細菌の細胞壁骨格成分を有効成分として含有する医薬組成物およびその製造中間体の品質を評価し、力価を検定し、有効成分を同定することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、細菌の細胞壁骨格成分(細菌−CWS)を有効成分として含有する凍結乾燥製剤、該凍結乾燥製剤の製造中間体および該凍結乾燥製剤、該製造中間体の調製方法、ならびにミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSを有効成分として含有する医薬品の分析方法等に関する。
【背景技術】
微生物死菌、細菌の細胞壁骨格成分(以下細菌−CWSと略する)は、免疫賦活作用を有し、例えば動物モデルを用いた実験的腫瘍系、およびヒト癌の免疫療法において抗腫瘍活性を示すことが知られている。
細胞壁骨格成分を油成分中に分散、乳化させ、水中油型エマルジョン製剤として投与した場合、免疫賦活作用による抗腫瘍効果などが著しく高まることが知られている。例えばウシ型結核菌の細胞壁骨格成分(以下、BCG−CWSと略す)の水中油型エマルジョンを用いた癌免疫療法では、ヒトの癌治療において優れた成績が得られたことが報告されている(Pro.Japan Acad.,70,Ser.B 205−209(1994)、Pro.Japan Acad.,74,Ser.B 20550−55(1998))。この水中油型エマルジョン製剤は、細菌−CWSを油中に分散したペースト状の原体に、界面活性剤を含む水を加えてエマルジョン化する等して調製することができる(J.Nat.CancerInst.48,831−835(1972)、J.Bacteriol,92,869−879(1966)、Gann,69,619−626(1978))。
一般に、細菌−CWSを含有する水中油型エマルジョン製剤は非常に不安定であり、数日で不溶性凝集物が生成する。その傾向は油成分の量が少ない場合、特に顕著である。一方、油成分の多い水中油型エマルジョン製剤は、投与された生体への負担が大きく、副作用をもたらす可能性がある。そのため、現在、臨床現場では、使用時に必要な量の水中油型エマルジョン製剤を手作業にて用時調製している。しかし、手作業による用時調製では、常に一定規格を有する製剤を調製することは困難である。よって、水中油型エマルジョン製剤を凍結乾燥して保存安定性の高い凍結乾燥製剤とし、使用時に注射用蒸留水等の水性溶媒を加えて水中油型エマルジョン製剤を再懸濁させる方法が、臨床現場での使い易さ、製剤の保存安定性の点から好ましい。このように、事実上医薬品として実用化できる、恒常的生産が可能な、安定な水中油型エマルジョン製剤やその凍結乾燥製剤が求められている。
一方、細菌−CWSを有効成分とする製剤が調製できたとしても、医薬品として上市するには、その生物学的力価を評価し、有効成分の同一性を確認しなければならない。通常、化学物質を有効成分とする医薬品は有効成分が化学分析により測定できるため、その同一性や含量を評価できる。
しかしながら、細菌−CWSはミコール酸等の高級脂肪酸、糖鎖、ペプチドグリカンからなる3層構造を有する生体高分子であり、水や有機溶媒に不溶であるため、化学物質を測定するために通常用いられるHPLC、GC等の分析方法では測定することができない。
細菌は、属、種および株によって構成成分が異なるが、結核菌、BCG菌等のミコバクテリウム属細菌の同定方法として、遺伝子解析による方法のほか、ミコバクテリウム属細菌等に特徴的に存在するミコール酸を分析する方法が知られている。すなわち、ミコバクテリウム属細菌等をアルカリ加水分解した後、有機溶媒でミコール酸を抽出し、これをHPLCで分析することにより、その溶出パターンから、属、種の同定が可能であることが報告されている(J.Clinical Microbiology,1327−1330,May 1992)。
しかし、細菌−CWS中のミコール酸を正確に定量する方法は知られていない。
【発明の開示】
本発明の課題は、細菌の細胞壁骨格成分を有効成分とする、安定で凍結乾燥可能な水中油型エマルジョン、本発明の水中油型エマルジョンの凍結乾燥製剤、本発明製剤の原料である細菌−CWSやその製造中間体に当たる細菌−CWS含有ペースト、これらの調製方法、および本発明製剤中の有効成分を同定しその力価を定量的に測定する方法、有効成分として用いられる細菌−CWSの由来細菌の属、種および株を同定する方法、ならびに本発明の製剤およびその製造中間体が標準品と同一であることを検定する方法を提供することにある。
本発明者らは、細菌−CWSを有効成分として含有する安定性に富む水中油型エマルジョン、および凍結乾燥製剤を得るべく、細菌−CWS、油、界面活性剤、および安定化剤等の組成、および調製工程について、鋭意検討を行った。まず、安定な水中油型エマルジョンおよび、優れた再懸濁安定性を有するエマルジョンの凍結乾燥製剤を良好に調製するには、製造中間体となる細胞壁骨格成分および油からなるペーストの性状が重要であると考えた。そこで、油の種類、油の組成、および油と細胞壁骨格成分の比率等を指標として、詳細に検討を進めたところ、安定な水中油型エマルジョンの性状を左右する大きなファクターは、細菌−CWSと油からなる細胞壁骨格成分含有ペーストの粘度であることを見出した。また、良好な粘度を得るための、細胞壁骨格成分と油の比率を明らかにした。
すなわち、細菌−CWSは、水、油のいずれにも溶解しないため、均一な粒度分布を有するエマルジョンとするのが困難である。特に、油の粘度が高い場合および油の量が少ない場合、混合攪拌時に均一に細菌−CWSを油中に拡散させることができないことがわかった。種々の油を用いて検討したところ、油の種類によらず、ある一定の粘度以下で、エマルジョン化に適した細菌−CWS含有ペーストが得られることがわかった。具体的には粘度約0.7poise以下の細菌−CWS含有ペーストを用いて乳化工程を行えば、良好な粒度分布を示すエマルジョンが得られることがわかった。
一方で、細菌−CWSに対する油の割合が高く、低い粘度を有する細菌−CWS含有ペーストを用いた場合、問題なくエマルジョンを得ることができるものの、凍結乾燥後に水を加えて再懸濁した場合、好適な粒度分布のエマルジョンが再現できないことも判明した。鋭意検討した結果、粘度約0.2poise以上の細菌−CWS含有ペーストであれば、凍結乾燥後の再懸濁安定性も維持できることがわかった。
また、細菌−CWSを有効成分として含有する凍結乾燥製剤においては、上記細菌−CWS含有ペーストの性状の他、界面活性剤および安定化剤によって、その安定性、および再懸濁した後に得られる水中油型製剤の安定性(再懸濁安定性)等の製剤品の品質は異なる。
上記国際公開パンフレットWO00/3724には、グリシンを安定化剤として用いる方法が知られているが、安定な凍結乾燥製剤を得るためには、約900mM〜1200mM(約6.9%〜9.2%)のグリシンが必要であることが記載されている。しかし、グリシンの場合300mM(2.3%)が生体にとって等張濃度であるため、このような高濃度では生体への負担が懸念される。
そこで、鋭意検討した結果、安定化剤としてマンニトールを用いることにより、再懸濁安定性に富む凍結乾燥製剤を調製できることがわかった。
本発明者は鋭意検討した結果、前記本発明の細菌−CWS含有ペーストの水中油型エマルジョンにおいて、1〜10%、好ましくは1〜5%のマンニトールを安定化剤として用いることによって、凍結乾燥製剤の安定性、および再懸濁した後の水中油型エマルジョンの安定性が高まることがわかった。
さらに、発明者は、該細菌−CWS含有ペーストの調製工程について検討した。
既に、細菌−CWSと油を混合する際、有機溶媒で一旦希釈して攪拌した後、溶媒を留去する方法が、前記国際公開パンフレットWO00/3724に記載されている。
発明者らは、種々の有機溶媒を分散補助溶媒として用いて鋭意検討を行ったところ、非極性溶媒を用いることによって、極性溶媒のみを用いた場合よりも優れた細菌細胞壁骨格成分含有ペーストが得られることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づき、完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、
[1]細菌−CWSおよび油からなる細菌−CWS含有ペーストであり、0.7poise(25℃)以下の粘度を有するペースト、
[2]0.2〜0.7poise(25℃)の粘度を有する[1]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[3]0.28〜0.55poise(25℃)の粘度を有する[1]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[4]細菌−CWSの粒子径が、0.15μm〜6μmであることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト、
[5]細菌−CWSの粒子径において、D10%:0.38μm以上、D90%:0.70μm以下であることを特徴とする[4]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[6]細菌−CWSがBCG−CWSである、[1]〜[5]のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト、
[7]油が、スクワラン、スクワレン、シンセラン4、落花生油、ツバキ油、大豆油、流動パラフィン、およびオレイン酸エチルの中から選ばれる1または複数の油の混合物である、[1]〜[6]のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト、
[8]油が、スクワラン、スクワレン、大豆油、流動パラフィンおよびオレイン酸エチルの中から選ばれる2種類の油の混合物である、[7]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[9]油が、大豆油、流動パラフィンおよびオレイン酸エチルの中から選ばれる1種の油とスクワランとの混合物である、[8]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[10]油が、オレイン酸エチルとスクワランとの1:1の混合物である、[9]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[11]油が、スクワランである、[7]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[12]細菌−CWSがBCG−CWSであって、BCG−CWS約0.67gに対して、スクワラン6.6g〜35.2gを含有することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト、
[13]以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とする、細菌−CWS含有ペーストの調製方法、
(1)細菌−CWSおよび油を、分散補助溶媒としての有機溶媒中で混合する工程、
(2)(1)の有機溶媒を留去する工程、
[14]有機溶媒がエーテル系溶媒である、[13]記載の調製方法、
[15] 有機溶媒が炭化水素系溶媒、またはハロゲン化炭化水素系溶媒である、[13]記載の調製方法、
[16] 有機溶媒がハロゲン化炭化水素系溶媒であって、該ハロゲン化炭化水素系溶媒が、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、またはジクロロエタンである、[15]記載の調製方法、
[17] 有機溶媒が炭化水素系溶媒であって、該炭化水素系溶媒が、ヘプタン、またはヘキサンである、[15]記載の調製方法、
[18] 有機溶媒が、5〜20%(V/V)のアルコール系溶媒を含むことを特徴とする、[15]〜[17]のいずれか記載の調製方法、
[19] [13]〜[18]のいずれか記載の調製方法によって得られる細菌−CWS含有ペースト、
[20]細菌がBCG菌であることを特徴とする[19]記載のペースト、
[21]油がスクワラン、または流動パラフィンであることを特徴とする、[19]または[20]記載のペースト、
[22][1]〜[12]、および[19]〜[21]のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト、界面活性剤、安定化剤、および水を含有することを特徴とする水中油型エマルジョン、
[23]水2Lあたり、0.66g〜3.35gの細菌−CWS、および0.4%〜8重量%の油を含有することを特徴とする、[22]記載の水中油型エマルジョン、
[24]安定化剤として1〜10%のマンニトールを含有する[22]または[23]記載の水中油型エマルジョン、
[25]界面活性剤として0.01%〜3%のポリエチレンオキシソルビタン脂肪酸エステルを含有する[22]〜[24]のいずれか記載の水中油型エマルジョン、
[26]ポリエチレンオキシソルビタン脂肪酸エステルがツイーン80である[25]記載の水中油型エマルジョン、
[27]以下の▲1▼〜▲2▼の特徴を有する[22]〜[26]のいずれか記載の水中油型エマルジョン、
▲1▼エマルジョン油滴粒子径が、0.2〜30μmである。
▲2▼細菌−CWSが油滴中に包含され、レクチン反応が陰性を示す。
[28]エマルジョン油滴粒子径において、D10%:0.5μm以上、D90%:20μm以下であることを特徴とする[27]記載の水中油型エマルジョン、
[29] 以下の(1)〜(2)の工程を含むことを特徴とする、[22]〜[28]のいずれか記載の水中油型エマルジョンの調製方法、
(1)[1]〜[12]、および[19]〜[21]のいずれか記載の細菌−CWS含有ペーストと、界面活性剤を含む水溶液の混合液を、曇点以上の温度で乳化する工程、
(2)安定化剤を含む水溶液を加えて希釈する工程、
[30]前項(2)の工程が、曇点以下の温度で実施されることを特徴とする[29]記載の調製方法。
[31] 前項の(1)における乳化する工程が、以下の(3)〜(4)の工程を含むことを特徴とする[29]または[30]記載の調製方法、
(3)[1]〜[12]、および[19]〜[21]のいずれか記載の細菌−CWS含有ペーストと、0.02%〜0.8%の界面活性剤を含む水溶液の混合液を乳化する工程(粗乳化工程)、
(4)(3)の混合液に界面活性剤を含む水溶液を加えて界面活性剤濃度を調整し、強攪拌して本乳化を行う工程、
[32]界面活性剤がポリエチレンオキシソルビタン脂肪酸エステルである[31]記載の調製方法、
[33]記載のポリエチレンオキシソルビタン脂肪酸エステルがツイーン80である[32]記載の水中油型エマルジョンの調製方法、
[34]安定化剤がマンニトールである[29]〜[33]のいずれか記載の水中油型エマルジョンの調製方法、
[35][22]〜[28]のいずれか記載のエマルジョンを凍結乾燥することによって得られる、凍結乾燥製剤、
[36] 粒度分布において、粒子径が、0.15〜6μmであることを特徴とする、細菌の細胞壁骨格成分粒子集合体(細菌−CWS粒子集合体)、
[37] 粒度分布において、粒子径が、0.2〜2μmであることを特徴とする、細菌−CWS粒子集合体、
[38] 粒度分布において、D10%が0.2以上であり、D90%が0.7以下であり、かつ、単一ピークを有することをことを特徴とする[36]または[37]記載の細菌−CWS粒子集合体、
[39] 粒度分布において、D10%が0.23±0.05であり、D90%が0.60±0.05であり、かつ、単一ピークを有することをことを特徴とする[36]〜[38]のいずれか記載の細菌−CWS粒子集合体、
[40] 脂肪族炭化水素系溶媒を含む溶媒中で分散することを特徴とする、[36]〜[39]のいずれか記載の細菌−CWS粒子集合体の調製方法、
[41] 溶媒が、脂肪族炭化水素系溶媒と、アルコール系溶媒の混合物であることを特徴とする[40]記載の調製方法、
[42] 溶媒が、5〜20%エタノールを含むヘプタンであることを特徴とする[41]記載の調製方法、
[42−2] [40]〜[42]のいずれか記載の調製方法により得られることを特徴とする細菌−CWS、
に関する。
さらに、本発明はこの態様において、
[42−3] 粒度分布において、粒子径が0.1μm〜20μm、好ましくは0.15〜6μm、さらに好ましくは0.2μm〜2μmである細菌−CWS粒子集合体を含有する、本発明の細菌−CWS含有ペースト、
[42−4] 細菌−CWS粒子集合体が粒度分布においてD10%が0.23±0.05であり、D90%が0.60±0.05であり、かつ単一ピークを有する、[42−3]記載の細菌−CWS含有ペースト、
[42−5] [42−3]または[42−4]記載の細菌−CWS含有ペースト、界面活性剤、安定化剤、および水を含有する、水中油型エマルジョン、
[42−6] [42−5]記載のエマルジョンを凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥製剤。
[42−7] 本発明のエマルジョンからなる医薬組成物、に関する。
また、ミコバクテリウム属のCWSには構成成分として約30〜45%の高級脂肪酸が含まれ、高級脂肪酸のパターンによって細菌の属、種等を同定する方法が知られていた。しかし、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSに含まれる高級脂肪酸の量を正確に定量する方法や、該高級脂肪酸によって細菌−CWSの由来細菌の属、種または株を同定する方法は知られていなかった。発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSに含まれる高級脂肪酸を抽出して分析することによって、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌の菌種・菌株が同定され、該細菌のCWSの力価を評価できることを見出した。さらに、検出感度を上げるべく誘導体へ変換した後、HPLC等で分析することによって、高級脂肪酸の定量を効率的に行う方法を確立した。
一方、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSは、ミコール酸等の高級脂肪酸、糖類、ペプチドグリカン等からなる生体高分子であるが、力価に影響を与えるその成分、成分比および分子量は、細菌の培養条件により異なる。そのため、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSについては、その製造ロットごとの同等性および力価を評価する必要がある。
発明者らは、鋭意検討した結果、BCG菌のCWS(BCG−CWS)において、CWSに含まれるミコール酸の量と、BCG−CWSの生物活性が相関していることを見出し、簡便な力価評価方法を確立した。具体的には、BCG−CWS標準品において、ミコール酸含量と、BCG−CWSの生物活性、すなわち免疫賦活能の一つであるTNF−α産生誘導活性が比例関係を示すことがわかった(図8)。すなわち、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌の、CWSの構成成分である高級脂肪酸を定量することにより、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSの免疫賦活剤、および/または、抗腫瘍剤としての力価を評価できることがわかった。また、菌体、原薬および製剤から得た高級脂肪酸のクロマトグラムから、細菌の属、種および株を同定できることがわかった。
本発明は、上記の知見を基に完成するに至ったものである。すなわち本発明は、
[43] 細菌の細胞壁骨格成分(Cell Wall Skeleton、以下CWSと称する。)の菌種・菌株の同定方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする方法;
(1)細菌のCWS中に含まれる、高級脂肪酸を分離および/または抽出して高級脂肪酸画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程、
(2)(1)の高級脂肪酸画分における高級脂肪酸またはその誘導体をクロマトグラフィーにより分析する工程、
(3)(2)の分析結果に基づき、細菌のCWSの菌種・菌株を評価する工程、
[44] 前項の工程(2)が、高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を標識化して標識化高級脂肪酸誘導体を調製する工程を含むことを特徴とする、[43]記載の方法、
[45] 前記[43]における工程(3)が、細菌のCWSの標準品と比較することを含む、[43]または[44]記載の方法、
[46] 細菌の細胞壁骨格成分(Cell Wall Skeleton、以下CWSと称する。)の力価検定方法であって、以下の工程(1)、(4)、および(5)を含むことを特徴とする方法;
(1)細菌のCWS中に含まれる、高級脂肪酸を分離・抽出して高級脂肪酸画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程、
(4)(1)の高級脂肪酸画分における高級脂肪酸またはその誘導体の含量を分析する工程、
(5)(4)の分析結果に基づき、細菌のCWSの免疫賦活能を評価する工程、
[47] 高級脂肪酸またはその誘導体の含量を分析する(4)の工程が、高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を蛍光標識化して蛍光標識化高級脂肪酸誘導体を調製する工程を含むことを特徴とする、[46]記載の方法、
[48] 細菌のCWSの免疫賦活能を評価する(5)の工程が、細菌のCWSの標準品と比較することを含む、[46]または[47]記載の方法、
[49] 高級脂肪酸誘導体が高級脂肪酸エステルであることを特徴とする、[43]〜[48]のいずれか記載の方法、
[50] 高級脂肪酸誘導体が、蛍光標識された誘導体であることを特徴とする[49]記載の方法、
[51] 細菌がミコバクテリウム属またはノカルジア属の細菌であることを特徴とする、[43]〜[50]のいずれかに記載の方法、
[52] ミコバクテリウム属の細菌がBCG菌であることを特徴とする、[51]記載の方法、
[53] 高級脂肪酸がミコール酸であることを特徴とする、[43]〜[52]のいずれかに記載の方法、
に関するものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、分散補助溶媒にヘプタンを用いた場合のペースト中のBCG−CWSの粒度分布を示した。
図2は、分散補助溶媒に90%ヘプタン/10%エタノールを用いた場合のペーストの粒度分布を示した。
図3は、凍結乾燥前のスクワラン1.6%処方製剤における、水中油型エマルジョンの粒度分布を示した。
図4は、凍結乾燥後のスクワラン1.6%処方製剤における、水中油型エマルジョンの粒度分布を示した。
図5は、被験サンプルのクロマトグラムを示す図であり、横軸はHPLCの保持時間、縦軸は蛍光強度を示す。
図6は、BCG−CWS原薬の標準品の検量線を示す図である。
図7は、細菌の菌株による違いで、クロマトグラムから同定できる(上図:BCG菌の東京株、下図:BCG菌のパスツール株)ことを示す図である。
図8は、被験物質のミコール酸量と生物活性の相関関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明において、細菌−CWSの由来微生物としては、グラム陽性棹菌のミコバクテリウム属細菌、ノカルジア属細菌、コリネバクテリウム属細菌(プロプリオネバクテリウム属)、ロドコッカス属細菌、ボルデテラ属、リステリア属、またはゴルドナ属細菌などが挙げられ、好ましくはミコバクテリウム属細菌およびノカルジア属細菌が挙げられる。「ミコバクテリウム属細菌」とは、抗酸菌のミコバクテリウム属の細菌を表し、具体的には、結核菌群細菌のMycobacterium tuberculosis(結核菌)、Mycobacterium bovis(ウシ型結核菌、BCG菌を含む)、Mycobacterium africanum(アフリカ菌)、Mycobacterium microti(ネズミ型結核菌)があり、この他、Mycobacterium leprae(ライ菌)、非結核性抗酸菌群であるMycobacterium kansasii、Mycobacterium avium、Mycobacterium phlei等が挙げられる。ノカルジア属細菌として具体的には、ノカルジア・ルブラなどが挙げられる。細菌−CWSは、物理的に細菌を粉砕した後、除核酸、除蛋白、脱脂等の精製工程を経て、不溶性残渣として得られ、その製法自体は公知である(J.Nat.Cancer Inst.,52,95−101(1974))。
なお、細胞壁骨格成分の濃度は、エマルジョンとして0.01〜10mg/mlになるように使用される。好ましくは、0.1mg/ml〜2mg/ml、さらに好ましくは0.2mg/ml〜1mg/mlである。
本発明の「油」としては、Immunology第27巻、第311〜329項(1974年)に記載されているような鉱物油、動植物油が挙げられる。鉱物油としては、例えば、流動パラフィン(ドレコール6VR、モレスコバイオレスU−6、モレスコバイオレスU−8等)、バイオール(Bayol F)、などが挙げられる。植物油としては、例えば、大豆油、シンセラン4、オレイン酸エチル、落花生油、椿油、ゴマ油、AD−65(落花生油とアラセルとアルミニウムモノステアレートの混合物)等が挙げられる。動物油としては、例えば、スクワラン、スクワレンのようなテルペノイド誘導体が挙げられる。また、これら、動植物油、鉱物油の中から選ばれる複数の油の混合物を挙げることができる。好ましいものとしては、スクワランあるいは例えば、大豆油、オレイン酸エチル、オレイン酸等の植物油(またはそれに由来する油)とスクワランとの混合物、例えば、ドレコール6VR、各種流動パラフィン等の鉱物油とスクワランの混合物が挙げられる。
より好ましくは、スクワラン、ドレコール6VR、スクワランと大豆油の混合物、スクワランとオレイン酸エチルの混合物、またはスクワランとドレコール6VRの混合物を挙げることができる。
本発明の「粘度」とは、動的粘弾性法により測定されるものであり、例えば、共軸二重円筒型の粘度測定装置を使用して得られる値を言う。本発明では、(株)レオロジ社製共軸二重円筒型の粘度測定装置(MR−300 ソリキッドメータ)を使用し、窒素雰囲気下25℃で粘度を測定することができる。1poiseは、0.1Pa・s(パスカル・秒)を表す。
本発明のペーストを調製する際に使用可能な「分散補助溶媒としての有機溶媒」は、窒素気流下加熱あるいは減圧下などで留去可能な有機溶媒が挙げられ、2種類以上の溶媒の混合物であってもよい。具体的には、大気圧での沸点が30℃〜140℃の溶媒が挙げられる。
本発明のペースト調製にエタノール等のアルコール系溶媒を単独で用いた場合、細菌−CWSは十分に分散されず、他方トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、またはテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒といった非極性溶媒を用いると、均一な分散溶液が得られ、均一性に優れたペーストが得られることが判明した。さらに、一部にアルコール系溶媒を含む非極性溶媒を用いると、非極性溶媒のみを用いた場合よりもさらに優れた細菌−CWS含有ペーストを得られることがわかった。非極性溶媒を単独で用いた場合、粒子径が約10μmの巨大粒子が若干混在し、ペースト内の細菌−CWSの粒度分布は2つのピークを示し(図1)、水中油型エマルジョンを調製した場合、ロット間のばらつきを生じやすい傾向があったが、アルコール系溶媒を混合させると、均一な粒度分布が得られることが判明した。
そこで、本発明のペースト調製にとって好ましい分散補助溶媒としては、非極性溶媒、および非極性溶媒とアルコール系溶媒の混合溶媒を挙げることができる。ここで溶媒としては、ICHの残留溶媒ガイドラインに記載のクラス2、クラス3の溶媒を選択することが好ましい。
非極性溶媒としては具体的には、例えばトルエン等の芳香族炭化水素、例えばシクロペンタン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、例えばジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素等、およびテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が挙げられる。非極性溶媒は一種類に限らず、適宜数種類組み合わせて使用することができる。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、またはブタノール等が挙げられ、特に好ましくはエタノールが挙げられる。
分散補助溶媒がアルコール系溶媒と非極性溶媒の混合物である場合、アルコール系溶媒は5〜30%、好ましくは5〜20%、さらに好ましくは5〜15%含有する。
より好ましくは溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、0〜20%のエタノールを含む方芳香族炭化水素もしくは脂肪族炭化水素が挙げられる。具体的には、5〜20%エタノール−ヘプタン、5〜20%エタノール−ヘキサン、5〜20%エタノール−トルエン、5〜20%エタノール−シクロヘキサン、5〜20%プロパノール−ヘプタン、5〜20%イソプロパノール−ヘプタン等を例示することができ、好ましくは、10%エタノール−ヘプタンが挙げられる。
本発明で使用可能な「界面活性剤」としては、医薬品製剤に使用される界面活性剤であれば特に制限されるものではない。例えばリン脂質、非イオン性界面活性剤などを挙げることができる。リン脂質としては、ホスファチジルアミン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、またはレシチン等を挙げることができる。また、水素添加されたリン脂質も使用することができる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)、同モノパルミテート(ポリソルベート40)、同モノステアレート(ポリソルベート60)、または同モノオレート(ポリソルベート80)等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類およびソルビタンモノラウレート(Span20)、同モノパルミネート(Span40)、同モノステアレート(Span60)、同モノオレート(Span80)等のソルビタン脂肪酸エステル類などを挙げることができる。好ましい界面活性剤としては、卵黄ホスファチジルコリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO−60)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50(HCO−50)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(プルロニックF68)を挙げることができる。より好ましくは、ポリソルベート80が挙げられる。
界面活性剤の濃度は、水中油型エマルジョンにおいて0.01〜10%w/wの範囲が適当であり、0.01〜3%が好ましい。これら界面活性剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。
「安定化剤」とは、上記エマルジョンのエマルジョンとしての安定性を維持・向上する目的で使用される成分である。本発明で使用可能な安定化剤としては、単糖類、糖アルコール、多糖類、アミノ酸、タンパク質、ウレア、または無機塩などが挙げられる。単糖類および二糖類としては、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、トレハロース等が挙げられる。糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール等が挙げられ、より好ましい糖アルコールとしてはマンニトールが挙げられる。多糖類としては、デキストラン、でんぷん、マルトデキストリン、セルロース、ポリビニルピロリドン、またはアルギン酸ナトリウム等が好ましいものとして挙げられる。アミノ酸としては、アラニン、グリシン、プロリン等の中性アミノ酸が好ましく、より好ましい中性アミノ酸としてグリシンを挙げることができる。タンパク質としては、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン等が好ましいものとして挙げられる。無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
好ましい安定化剤としては単糖類、または糖アルコールが挙げられ、特に好ましい安定化剤としてはマンニトールが挙げられる。
これら安定化剤は、1種類に限らず、適宜、数種類組み合わせて使用することができる。
安定化剤の濃度は、水中油型エマルジョンにおいて0.1〜20%w/wの範囲が適当であり、0.1〜10%w/wが好ましい。安定化剤の好適な濃度は、安定化剤の種類によって異なるが、製造スケールや各含有成分の含有量に応じて、適宜調整することができる。グリシン等のアミノ酸の場合、2.25%(300mM)〜11.25%(1500mM)、好ましくは約6.75%(900mM)である。マンニトールの場合、水中油型エマルジョンにおける濃度は、好ましくは1〜10%、さらに好ましくは1〜8%、より好ましくは約3〜6%である。マンニトールを安定化剤として用いることにより、等張と同程度の濃度で用いることができるので、より生体に負担の少ない安定な製剤を調製することができる。
本発明における凍結乾燥製剤を再懸濁するために使用される水性溶媒は、エマルジョン粒子の分散媒体となるものであり、注射用蒸留水、生理食塩水等が挙げられるが、注射可能な水性溶媒であれば特に限定されない。
「高級脂肪酸」とは、ミコバクテリウム属細菌、ノカルジア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドナ属細菌等の細胞壁に特徴的に存在する高級脂肪酸を表す。高級脂肪酸としては、例えばミコール酸が挙げられ、該ミコール酸とは、α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸を表し、総炭素数約22〜90を有する。このうちミコバクテリウム属におけるミコール酸の総炭素数は約60〜90であり、ノカルジア属では約44〜60であり、通常複数種類の分子の混合物として単離される。ミコール酸のα鎖は、直鎖の炭化水素からなり、その長さは属・種によって異なり、C22〜C26を中心とし、幅広い分布を有する。一方、β鎖にはすべてのミコバクテリアに共通するα−ミコール酸(シクロプロピル基および/または二重結合が存在)の他、菌株によって種々サブミコール酸(メトキシ基、ケト基、エポキシ基、メチル基等)の官能基が存在することがわかっている。例えば、BCG−東京株ではα−、メトキシ−およびケト−ミコール酸が存在する。
本明細書において、「力価」とは、一定重量、または一定容量の、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSもしくは該CWSを含有する医薬品の生物活性の強さ、または検定された標準品との相対的な値を表す。
該医薬品としては、CWSの水性溶媒懸濁液;CWSと鉱物油、スクワランまたはスクワレン等の油とを含有するペースト;該ペーストから再懸濁されたエマルジョン溶液;または、前記水性溶媒懸濁液もしくはエマルジョン溶液を凍結乾燥して得られる凍結乾燥製剤等が挙げられる。
ここで、生物活性とは、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSの免疫賦活活性、および/または抗腫瘍活性を表し、当業者に公知の、in vivoおよびin vitroの任意の活性が挙げられる。具体的には、インターフェロンγ誘導活性、TNF−α誘導活性、実験的腫瘍動物モデルに対する抗腫瘍活性等が挙げられる。
本発明に係る第1の態様は、水中油型エマルジョン、および凍結乾燥製剤を調製する際に好適な製造中間体となる、細菌−CWSを有効成分として含有するペーストである。すなわち、細菌−CWSと油とのペースト(混合油状物)であり、約0.7poise(25℃)以下の粘度、好ましくは約0.2〜約0.6poise(25℃)の粘度を示すことを特徴とする、細菌−CWS含有ペーストである。さらに好ましくは、約0.28〜0.55poise(25℃)の粘度を示す細菌−CWS含有ペーストである。
油としてスクワランを用いた場合、約0.35〜0.55poise(25℃)、さらに好ましくは約0.39〜0.51poise(25℃)の粘度を有する細菌−CWS含有ペーストが好適である。例えばBCG−CWS:1gに対して26.7gのスクワランを用いたBCG−CWS含有ペースト(粘度値:0.43poiseに相当)から、後述する手順により、水中油型エマルジョンを調製して凍結乾燥を行ったところ、凍結乾燥品を再度懸濁して得られる水中油型エマルジョンにおける油滴の粒度分布は平均粒子径2〜3μmの、半値幅の小さい単一ピークを与えた(図4を参照)。一方、BCG−CWS含有ペーストの粘度値が上昇するに従って、凍結乾燥品を再度懸濁して得られる水中油型エマルジョンの油滴の粒度分布は、平均粒子径2〜3μmの主分布以外に、粒子径約10〜50μmの粒子が増え、粒子の均一性が損なわれた。また、前記凍結乾燥品の長期保存安定性についても、容器の器壁への付着物の生成およびそれに伴う再懸濁水中油型エマルジョン中の原薬濃度の観点から、前記粘度値:0.43poiseのBCG−CWS含有ペーストが製造中間体としてより優れていた。具体的なBCG−CWS含有ペーストの態様として、約0.43±0.3poiseの粘度を有するものを好適な組成として例示することができる。
また、粒度分布において、粒子径が0.1μm〜20μm、好ましくは0.15〜6μm、さらに好ましくは0.2μm〜2μmである細菌−CWS粒子集合体を含有する細菌−CWS含有ペースト、および細菌−CWS粒子集合体が粒度分布においてD10%が0.23±0.05であり、D90%が0.60±0.05であり、かつ単一ピークを有する細菌−CWS含有ペーストが好ましい。
複数の油との混合物を使用する場合、それぞれの油を適切な組成比で混合して使用できるが、細菌−CWSとの混合時の粘度が約0.7poise(25℃)以下の粘度になるような組成比であることが望ましい。さらに、懸濁後安定な凍結乾燥製剤を作成するためには、それぞれの油の組成比が、細菌−CWSとの混合時の粘度が約0.2poise(25℃)以上になるような組成比であることが望ましい。具体的には、細菌−CWS約0.66gに対して、スクワランであれば、約6.6g〜35.2g、好ましくは約8.4g〜35.2g等の組成が挙げられる。
前記のペーストは、(1)細菌−CWS、油、および有機溶媒を混合撹拌する工程、および、(2)前記(1)の有機溶媒を留去し、細菌−CWS含有ペーストを得る工程を経て、大量スケールで調製することができる。
前記(1)において用いられる有機溶媒の量としては、細菌−CWS0.67gあたり、50ml〜500mlが挙げられる。原料を加える順序については特に限定は無い。また、これらの原料を混合攪拌する時間は特に限定されないが、10分間〜1時間が好ましい。
前記(2)において、溶媒を留去するための加熱温度としては、溶媒の沸点、蒸気圧に応じて適宜選択することが可能である。なお、高温になれば細胞壁骨格成分の失活が生じるため、失活の生じない100℃以下の温度が望ましい。好ましくは80℃以下である。
溶媒を留去する工程は、常圧下もしくは減圧下に行うことができる。
また、本発明の細菌−CWS含有ペーストは、細菌−CWS粒子集合体の粒子径が0.1μm〜20μmであり、好ましくは0.15〜6μm、さらに好ましくは0.2μm〜2μmである。すなわち、(1)粘度が約0.2〜0.7poise(25℃)であり、(2)細菌−CWS粒子集合体の粒子径が0.15μm〜6μmである細菌−CWS含有ペースト等もまた、本発明の好ましい態様である。
本発明に係る第2の態様は、均一な、粒度分布を有する、細菌−CWSを有効成分として含有する水中油型エマルジョン、および該水中油型エマルジョンからなる医薬組成物である。すなわち、前記細菌−CWS含有ペーストを含み、かつ、0.1%〜20%、好ましくは1%〜10%の安定化剤、0.01%〜10%、好ましくは0.01%〜3%の界面活性剤を含むことを特徴とする、水中油型エマルジョンおよびその医薬組成物である。
具体的には、2Lあたり、0.67g〜3.35gの細菌−CWSおよび、0.1〜10%w/w、好ましくは0.4〜8%w/w、さらに好ましくは0.6〜5%のスクワランを含み、かつ、1%〜10%w/wの安定化剤、0.01%〜3%w/wの界面活性剤を含むことを特徴とする、水中油型エマルジョンが挙げられる。
本発明の水中油型エマルジョンを調製する方法については特に限定されないが、国際公開パンフレット(WO00/3724)に記載された方法等を用いることができる。例えば、前記の方法で調製した細菌細胞壁骨格成分含有ペーストを、2段階乳化方法等を用いて乳化する方法、すなわち、下記の乳化方法1、および乳化方法2が挙げられる。
乳化方法1:
1)細菌細胞壁骨格成分油状混合物(ペースト)に、低濃度(油濃度の約10%以下)の界面活性剤を含む水溶液を加えて、緩やかに攪拌して粗乳化を行う工程、
2)前記1)の粗乳化エマルジョン溶液に、所望の濃度を得るべく、目的の最終濃度となる量の界面活性剤、および安定化剤を加えて、エマルジョン溶液の濃度を調整し、室温〜100℃で、分散・乳化機器で強く攪拌して本乳化を行う工程、
を経て、本発明の水中油型エマルジョンを調製することができる。
本発明で使用可能な分散・乳化機器としては、例えばPotter−Elvehjem型ホモジナイザー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー(商品名)、ナノマイザー(商品名)、アルティマイザー(商品名)、マントン−ガウリンホモジナイザー型高圧ホモジナイザー等の分散・乳化機により、分散もしくは乳化を行って所望の水中油型エマルジョンを得ることが出来る。調製上の都合によっては、水中油型エマルジョンを調製後、賦形剤、安定化剤等の添加剤を添加しても良い。
乳化方法2
4)細菌細胞壁骨格成分油状混合物(ペースト)に、低濃度(油濃度の約10%以下)の界面活性剤を含む水溶液を加えて、緩やかに攪拌して粗乳化を行う工程、
5)前記4)の粗乳化エマルジョン溶液に、最終濃度が約0.1%〜3%となるような界面活性剤を加えて、エマルジョン溶液の濃度を調整し、室温〜100℃で、分散・乳化機器で強く攪拌して本乳化を行う工程、
6)前記5)のエマルジョン溶液を、使用する安定化剤がアミノ酸・無機塩等の電解質である場合は必要に応じて曇点以下の温度まで冷却した後、所望の濃度を得るべく、最終濃度が約0.1%〜3%となるような界面活性剤、および最終濃度が1.0%〜10%となるような安定化剤を含む水溶液を加えて希釈する工程、
を経て、本発明の水中油型エマルジョンを調製することができる。前記6)において、好ましくは、前記5)で得られるエマルジョン溶液を2倍〜10倍に希釈して水中油型エマルジョンを調製することができる。
前記乳化方法2を用いて、本発明の水中油型エマルジョンを調製することにより、乳化方法1を用いた調製方法においては、安定化剤としてアミノ酸、無機塩などの電解質を含むエマルジョンを調製する場合に懸念される、界面活性剤の析出が避けられる。しかも乳化方法2の6)で表される希釈工程によって、エマルジョンの粒度分布は全く変化しない。また、乳化方法1を用いて大量調製を実施する場合、調製スケールに応じた乳化機器が必要であり、調製スケールの限界であった。しかし、乳化方法2を用いて、高濃度エマルジョン溶液を中間体として用いることにより、1回あたりに調製できる水中油型エマルジョン量が増大するという利点がある。
上記の乳化方法1、または乳化方法2等の水中油型エマルジョンの調製工程においては、必要に応じて、等張化剤を加えてもよい。これら等張化剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。該等張化剤は、凍結乾燥品を凍乾ケーキとして形成させるための賦形剤を兼ねることができる。該等張化剤もしくは賦形剤としては、糖類、アミノ酸、ウレア、無機塩等が挙げられる。糖類としては、単糖類、二糖類、糖アルコールが挙げられる。単糖類としては、グルコース、フルクトース等、二糖類としては、マルトース、ラクトース、トレハロース、スクロース等、糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。アミノ酸としては、アラニン、グリシン、リシン、アルギニン、プロリン等が挙げられる。これらの等張化剤は一種類に限らず、適宜、数種類を組み合わせて使用することができる。等張化剤としては、上記安定化剤として挙げられた物質を使用することができ、安定化剤は等張化剤を兼ねていてもよい。また、等張化剤として、安定化剤とは異なる物質を選択することも可能である。尚、等張化剤の濃度は、他の成分の含有量に応じて適宜設定されるが、通常0.1%〜30%w/wの範囲が適当である。
本発明の水中油型エマルジョンは、エマルジョンの油滴の粒子径が0.2〜30μm、好ましくは0.2〜20μmであり、平均粒子径としては2〜3μmが好ましい。細菌−CWSは油滴中に包含される。
本発明の水中油型エマルジョンにおいて、細菌−CWSが油に包含されているか否かは、レクチンによる細胞壁骨格成分の凝集反応を利用して検定することができる。該検定方法については、国際公開パンフレットWO00/3724に記載された方法等を用いることができる。
すなわち、(1)エマルジョン油滴の粒子径が0.2〜10μm、平均粒子径が、2〜3μmであり、(2)細菌−CWSが油滴中に包含され、レクチン反応が陰性を示すことを特徴とする水中油型エマルジョンもまた、本発明の態様として挙げられる。また、該エマルジョン油滴の粒子径において、好ましくはD10%:0.5μm以上、D90%:20μm以下である。
本発明に係る第3の態様は、前記水中油型エマルジョンを凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥製剤である。
前記凍結乾燥製剤は、前記水中油型エマルジョンを、凍結乾燥させることにより、調製することができる。すなわち本発明に係る凍結乾燥製剤は、水中油型エマルジョンを凍結乾燥処理し、最後に通常はバイアル内部を窒素置換し、打栓を行うことにより得ることができる。
水中油型エマルジョンを凍結乾燥する際、凍結乾燥温度、および時間等は特に限定されず、例えば、国際公開パンフレットWO00/3724に記載された方法を挙げることができる。
該凍結乾燥製剤を再懸濁させて水中油型エマルジョンを調製するために用いる水性溶媒としては、前記等張液等を用いることができる。該凍結乾燥製剤は、適当な水性溶媒の添加により速やかに再懸濁し、凍結乾燥前と同等の粒度分布、および安定性を有する水中油型エマルジョンが得られる。
本発明の第4の態様は、粒度分布において、粒子径が0.15〜6μmであり、好ましくは粒子径が0.2〜2μmであることを特徴とする、細菌の細胞壁骨格成分粒子集合体(細菌−CWS粒子集合体)に関する。また、粒子径において、
D10%:0.2μm(ここで「D10%:0.2μm」とは、粒度分布において、粒子径の小さい側から積算して10%に達した時の粒子径を表す。すなわち、細菌−CWS粒子集合体の90%までが粒子径0.2μm以上であることを意味する。)以上であり、かつD90%:0.7μm(ここで「D90%:0.7μm」とは、粒度分布において、粒子径の大きい側から積算して10%に達した時の粒子径を表す。すなわち、細菌−CWS粒子集合体の90%までが粒子径0.7μm以下であることを意味する。)以下の細菌−CWS粒子集合体であり、さらに好ましくは、D10%:0.23±0.05μmでありかつD90%:0.6±0.05μmである。
また本発明には、前記粒子径を有する細菌の細胞壁骨格成分粒子集合体(細菌−CWS粒子集合体)を含有するペーストや、該ペーストから調製されるエマルジョン、および凍結乾燥製剤も含まれる。すなわち、上記細菌−CWSを含有したエマルジョン(油滴)の粒子径が0.2〜30μm、好ましくは0.3〜20μm、さらに好ましくは、1〜10μmであることを特徴とする、エマルジョンや凍結乾燥製剤が挙げられる。
本明細書において、粒子径は、粒度分布を測定することにより得られる。該粒度分布は、当業者に公知の方法で測定することができるが、具体的には、細菌−CWSの溶媒懸濁液の場合は、レーザー回折式粒度測定装置(SALD3000;島津製作所製)や、マイクロトラックUPA(ハネウェル社製)を用いて、測定する。細菌−CWSの粒子径が1μm以下の場合には好ましくはマイクロトラックUPAを用いて測定することができる。具体的には、BCG−CWSを、約0.1mg/mLの濃度で溶媒に懸濁したものを測定サンプルとする。
また、細菌−CWS含有ペーストや、エマルジョンの場合には、レーザー回折式粒度測定装置(SALD3000;島津製作所製)を用いて測定することができる。具体的には、本発明の細菌−CWS含有ペーストを、約300倍以上に油で希釈して測定サンプルとすることができ、好ましくは0.1〜0.2mg/mLの細菌−CWS濃度となるように測定サンプルを調製すればよい。
本発明に係る水中油型エマルジョンは、注射など非経口で投与される。投与形態は、治療目的などにより異なり、特に制限されるものではない。通常用いられる投与形態として例えば、注射剤として皮膚より投与すること等ができる。エマルジョン中の細菌−CWSの量は通常0.2mg/ml〜0.6mg/mlの濃度である。本発明の凍結乾燥製剤は適量の水性溶媒、例えば前記等張液等を用いて本発明エマルジョンに再懸濁して用いる。凍結乾燥製剤を再懸濁して生体に投与する場合の水中油型エマルジョンにおける各成分の濃度は、凍結乾燥前の、製造中間体としての水中油型エマルジョンにおける各成分の濃度と異なっていてもよい。水性溶媒の適量とは、凍結乾燥前の液量の、好ましくは0.5〜4倍量の範囲であればよい。
投与量、投与回数は対象とする疾患、患者の症状、年齢、体重、性別等によって異なるが、非経口投与する場合、特に注射剤として使用する場合には、通常は成人に対して週1回若しくは4週1回の投与で1回当たり10〜250μgの範囲、好ましくは25〜200μgの範囲を投与することができる。
本発明の第5の実施の態様は、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSに含まれる高級脂肪酸のクロマトグラムから定性的にその菌種・菌株を同定、確認する方法であり、以下の工程(1)〜(3)を含む方法である。すなわち、
(1) ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSに含まれる、高級脂肪酸を分離・抽出して高級脂肪酸画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程
(2) (1)の高級脂肪酸またはその誘導体をクロマトグラフィーにより分析する工程、
(3) (2)の分析結果に基づき、細菌のCWSの菌種・菌株を評価する工程。
以下、各工程について詳細に説明する。
(1) ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSより、高級脂肪酸を分離・抽出して高級脂肪酸画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程
試料として一定質量のミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSを秤量し、溶媒中で、10℃〜溶媒の沸点の範囲内で塩基を反応させることにより、加水分解を行う。ここで用いられる溶媒としては、加水分解を行うに十分な水を含む有機溶媒であれば特に限定されないが、具体的な有機溶媒としては、例えばエタノール、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール性溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、ジメチルスルホキシド等の親水性溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、またはこれらの有機溶媒の任意の溶媒の混合物が挙げられる。
前記有機溶媒として、好ましくは、エタノール等のアルコール系溶媒、あるいは、前記アルコール系溶媒および疎水性有機溶媒の混合物が挙げられ、具体的には、エタノール−トルエン−水混液等が挙げられる。
反応温度は、用いられる有機溶媒の種類によって適当な温度を選択することができるが、好ましくは、室温〜溶媒の沸点で加温するか、あるいは105℃〜135℃でオートクレーブを用いる方法が挙げられる。
加温の場合の反応時間としては、5分〜72時間が挙げられ、高級脂肪酸のパターンを分析する場合の反応時間としては、好ましくは5分〜5時間、高級脂肪酸量を定量的に分析する場合の反応時間としては、好ましくは30分〜5時間が挙げられる。オートクレーブの場合の反応時間としては、5分から8時間が挙げられ、好ましくは、パターンを分析する場合は5分〜3時間、定量的に分析する場合は10分〜5時間が挙げられる。
使用される塩基としては、当業者に知られたものであれば任意の塩基を用いることができるが、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸バリウム、炭酸セシウム等の無機塩基が挙げられる。
ここで、被験サンプルが細菌−CWSの場合、反応効率を上げるために、試料をそのまま一定質量秤量するか、またはトルエン、クロロホルム、ヘプタンおよびエタノール等から選択される有機溶媒、またはこれらの溶媒の混液等に懸濁し、必要量を採取し、該有機溶媒を留去した後、加水分解に供することが好ましい。また、被験サンプルが「細菌」または「菌体」である場合は、水に懸濁した状態で、原薬と同様に加水分解を行うほか、反応効率を上げるために温度を沸点まで上げて5分〜72時間反応させるか、オートクレーブを用いて5分〜8時間反応させることが好ましい。医薬品製剤の場合は、水を加えてエマルジョンを形成させ、その全部または一部を採取して加水分解反応させるほか、反応効率を上げるために、一旦水でエマルジョンとするのではなく、直接加水分解試液を加えて、反応させることが好ましい。
加水分解反応終了後、酸を加えて反応溶液を酸性とした後、疎水性有機溶媒を用いて高級脂肪酸画分を抽出する。ここで用いられる酸としては、当業者に知られたものであれば任意の酸を用いることができるが、具体的には、塩酸、硫酸、燐酸等の無機酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸、スルホン基を有する酸性イオン交換樹脂等を用いることができる。疎水性溶媒は、水層との分離が可能な溶媒であれば特に限定はないが、具体的には、ヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、トルエン、クロロホルム等が挙げられる。
(2) (1)の高級脂肪酸またはその誘導体をクロマトグラフィーにより分析する工程
(1)において得られた高級脂肪酸画分に含まれる高級脂肪酸またはその誘導体のクロマトグラムを得、その溶出パターンを確認する。該溶出パターンとは、溶出ピークの形状、各溶出ピークの保持時間(リテンションタイム)、ピーク面積、ピーク幅、もしくは極大値等のパラメーター、および、各溶出ピーク間の該パラメーターの比等、クロマトグラムにおける任意の性質を表す。その確認方法は、当業者に公知の方法であれば、任意の方法を用いることができる。高級脂肪酸、または、高級脂肪酸をエステル化もしくはアミド化することにより調製される、高級脂肪酸の誘導体を、HPLC、GC、TLC等で分析し、高級脂肪酸またはその誘導体のクロマトグラムを得ることができる。ここで、高級脂肪酸または高級脂肪酸の標識化誘導体におけるクロマトグラムは、HPLCもしくはGCにおけるクロマトグラム、すなわちピークの溶出パターンや、TLCにおけるスポットの検出パターン等を表す。また、検出方法としては、特に限定はないが、蛍光、UV−VIS、ラジオアイソトープ、RI(示差屈折計)、質量分析、電気化学、化学発光、エバポレイティブ光散乱、またはレーザー励起吸光等を用いることができる。
好ましくは、高級脂肪酸に標識化試薬を作用させることにより、標識化高級脂肪酸誘導体を調製した後、その溶出パターンを分析する方法等が挙げられる。
高級脂肪酸の標識化方法としては、高級脂肪酸のカルボン酸または水酸基を、蛍光、UV−VIS、ラジオアイソトープ、RI(示差屈折計)、質量分析、電気化学、化学発光、エバポレイティブ光散乱、レーザー励起吸光等で検出可能な原子もしくは部分構造を有する高級脂肪酸エステル、または高級脂肪酸アミドへ導く方法が挙げられる。
具体的な標識化高級脂肪酸誘導体としては、高級脂肪酸のカルボキシル基と反応するブロモメチル(ブロモアセチル)基、ジアゾメチル基、アミノ基、ヒドラジノ基などを有するとともに、同時に紫外、可視または蛍光で検出可能な置換基を有する9−アントリルメチルエステル、p−ブロモフェナシルエステル、6,7−ジメトキシ−4−クマリニルメチルエステル、2−(2,3−ナフタルイミド)エチルエステル、2−(2,3−アントラセンジカルボキシイミド)エチルエステル等が挙げられる。
誘導化反応条件としては、個々の標識化高級脂肪酸誘導体に適当な条件を、当業者によく知られた方法から選択することができるが、通常は、必要に応じて塩基もしくは酸等の補助試薬の存在下、−10℃〜溶媒の沸点で5分〜72時間標識化試薬と反応させることにより、標識化高級脂肪酸誘導体を調製することができる。具体的には、9−アントリルメチルエステルの場合、高級脂肪酸画分を、ADAM(9−アントリルジアゾメタン)等の蛍光標識化試薬を用いて、−10℃〜溶媒の沸点で5分〜72時間、好ましくは20℃〜60℃で3時間〜12時間反応させることによって、高級脂肪酸9−アントラニルメチルエステルを得ることができる。
分析方法としては、HPLC、GC、TLC等、当業者によく知られた方法を用いることができる。例えば、分析される高級脂肪酸、もしくは標識化高級脂肪酸誘導体の性質に応じて、HPLCの逆相クロマトグラフ法、順相クロマトグラフ法、疎水クロマトグラフ法、イオン交換クロマトグラフ法、イオンクロマトグラフ法、サイズ排除クロマトグラフ法、アフィニティークロマトグラフ法において、溶出される高級脂肪酸もしくは標識化高級脂肪酸誘導体を含有する複数のピークのパターンを得ることができる。ここで検出方法としては、前記標識化方法に応じて、蛍光分析、UV−VIS分析、ラジオアイソトープ分析、RI(示差屈折計)分析、質量分析、電気化学分析、化学発光、エバポレイティブ光散乱、またはレーザー励起吸光等が挙げられる。
(3) (2)の分析結果に基づき、細菌のCWSの菌種・菌株を評価する工程
一般的には、被験サンプル、すなわち評価対象の細菌のCWSにおける(2)のクロマトグラムと、基準となる該細菌のCWSの標準品における(2)のクロマトグラムのパターンを比較することにより、被験サンプルの菌種・菌株を同定、確認することができる。また、被験サンプルである細菌のCWSが、同種同株の標準サンプルと、CWSの構成成分において等価であるか否かを評価することができる。すなわち、細菌の培養条件によって、同種同株である場合でも該構成成分は変化する可能性があるが、(2)の分析結果を標準品と比較することにより、CWSの構成成分において等価な菌株であることを同定することができる。
具体的には、例えば高級脂肪酸がミコール酸である場合、逆相HPLCカラム(オクタデシル基(C18)を有するカラムまたはトリアコンチル基(C30)を有するカラム(2〜10mmφ×5〜30cm、粒径2〜10μm)を使用し、水および/またはメタノールおよび2−プロパノールを用いたグラジエント条件、メタノールおよびトルエンを用いたグラジエント条件、または、メタノールおよびジクロロメタンのグラジエント条件で分析した場合は約5〜約120分に溶出する特徴的なピークが、それぞれ高級脂肪酸のパターンに相当する。
本発明の、第6の実施の態様は、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSを含む被験サンプルにおけるCWSの含量を定量して評価するとともに、有効成分量すなわち力価を検定、評価する方法であり、以下の工程(1)、(4)、および(5)を含む方法である。すなわち、
(1)細菌のCWS中に含まれる、高級脂肪酸を分離・抽出して高級脂肪酸画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程、
(4)(1)の高級脂肪酸またはその誘導体の含量を分析する工程、
(5)(4)の分析結果に基づき、細菌のCWSの免疫賦活能を評価する工程。
以下、それぞれの工程について具体的に述べる。
(1) ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSより、高級脂肪酸を抽出してその含有画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程
この工程については前記のとおりである。
(4) (1)の高級脂肪酸またはその誘導体の含量を分析する工程
(1)で得られる高級脂肪酸を含む画分を、前記(2)に記載された方法で分析し、得られたクロマトグラムより高級脂肪酸または高級脂肪酸誘導体の量を定量すればよい。すなわち、前記(2)のクロマトグラムにおいて、高級脂肪酸または高級脂肪酸誘導体に相当する複数のピークの、面積値の総和を算出することにより、高級脂肪酸を定量することができる。
なお、細菌、または、細菌のCWSを有効成分として含有する医薬品の原薬もしくは製剤の定量分析において、内部標準を使用する場合、該内部標準としては、HPLC等の分析において、被験サンプルもしくは標準品と分離して、検出可能であれば、特に限定されない。また、上記(1)、(2)、および(4)のいずれの工程で添加してもよい。
(5) (4)の分析結果に基づき、細菌のCWSの免疫賦活能を評価する工程
一般的には、被験サンプル、すなわち評価対象の細菌のCWSにおける(4)の値と、基準となる該細菌(被験サンプルと同種・同株の細菌)におけるCWSの標準品における(4)の値を比較することによって、被験サンプルの力価を評価することができる。例えば、BCG−CWS・東京株の場合、高級脂肪酸はミコール酸であり、被験サンプルのミコール酸の含量を前記(1)および(4)の工程によって分析した結果を、BCG−CWS・東京株の標準品におけるミコール酸の含量と比較することにより、被験サンプルの力価を定量することができる。
被験サンプル、すなわち評価対象の細菌のCWSにおける(4)の値と、基準となる該細菌のCWSの標準品における(4)の値を比較することにより、被験サンプルの力価を評価することができる。
具体的には、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSの標準品における(4)の値:Vstdを、被験サンプルにおける(4)の値:Vsamと比較することにより、被験サンプルの力価を、標準品に対して、下式(%):
Vsam/Vstd×100 (%)で表すことができる。
ここで、好ましくは、標準品における(4)の値を、複数の濃度で、複数回数測定し、標準品の濃度と、高級脂肪酸量の相関関係を表す検量線を作成し、該検量線に被験サンプルにおける高級脂肪酸量の測定値(すなわち(4)の値)を当てはめることにより、被験サンプルにおける有効成分量、すなわち力価を逆算することができる。
本発明の方法により、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSだけでなく、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌のCWSを含有する医薬品の有効成分を同定、確認するとともに、力価を評価することも可能である。すなわち、前記と同様の方法で、一定量の菌体、または医薬品から、水または有機溶媒等の懸濁液を調製し、該菌体または医薬品中の高級脂肪酸の量を測定することができる。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
BCG−CWS含有ペーストの調製
J.Nat.Cancer Inst.,52,95−101(1974)に記載されているようにして調製した細胞壁骨格成分としてのBCG−CWS670mgを、油として使用するスクワラン8.4gとトルエン200mLの混合液に加え、振とうあるいは超音波により室温で分散した。その後、窒素あるいは空気気流下60〜70℃に加熱しトルエンを留去し、BCG−CWS含有ペーストを得た。
このペーストに関して、共軸二重円筒型粘度測定器(MR−300ソリキッドメータ:(株)レオロジ社製)を用いて25℃での粘度を測定した。その結果、0.545poiseであることが示された。
また、同様にして、油としてスクワランとオレイン酸エチルの混合物を8.4g使用し、BCG−CWS含有ペーストを得た。同様に、共軸二重円筒型粘度測定器(MR−300ソリキッドメータ:(株)レオロジ社製)を用いて25℃での粘度を測定した。これらの結果を表1に示す。

表1に示されるように、スクワラン自体の粘度は0.236であり、これに細胞壁骨格成分のBCG−CWSが上記のように混合された場合、そのペーストの粘度は0.545となる。より粘度の低いオレイン酸エチルの割合を増やすと、BCG−CWS含有ペーストの粘度は次第に低くなった。
【実施例2】
BCG−CWS含有ペーストの調製
細胞壁骨格成分としてBCG−CWS670mgを用い、油として大豆油8.4gを使用し、実施例1と同様にして油状混合物(ペースト)を調製し、粘度を測定した。
また、油としてシンセラン4、ドラケオールを使用し、同様にペーストを調製し、粘度を測定した。
以上の結果を表2に示す。

表2に示されるように、スクワラン以外の油を使用した場合のBCG−CWS含有ペーストの粘度は、使用する油によって大きく変動する。
【実施例3】
スクワランの量の変化と粘度の変化
細胞壁骨格成分としてBCG−CWS670mgを用い、油として使用するスクワランの量を4.2gから33.6gへと変化させる以外は実施例1と同様にしてペーストを調製し、その粘度変化を測定した。
その結果を表3に示す。

表3に示されるように、BCG−CWSに対するスクワランの量比が小さくなれば粘度が増加し、スクワランの量比が大きくなれば粘度が減少する傾向にある。
【実施例4】
スクワランの量比の変化とエマルジョン製剤化の可否
実施例3の▲3▼のペーストに0.02w/w%ポリソルベート80水溶液281.5gを添加し、ホモミキサーを用いて粗乳化を行い、さらに、5.2gの10w/w%ポリソルベート80水溶液を添加し本乳化を行った。最後に、204.2gの10w/w%ポリソルベート80溶液を添加混合し、ポリソルベート80最終濃度を1.0w/w%に調整し、水中油型エマルジョンを得た。その後、4w/w%マンニトール水溶液1500mLを添加し、2Lの最終製剤を得た。これは、BCG−CWSの原体濃度0.3mg/mlのエマルジョンである。
同様にして、▲3▼以外の実施例3のペーストを用いてエマルジョンを調製し、エマルジョンの製剤化の可否に対するスクワラン量の影響を調べた。エマルジョン製剤化の可否は、▲1▼乳化中の凝集物出現の有無、▲2▼乳化直後の粒度分布、▲3▼凍結乾燥前後での粒度分布維持性、▲4▼凍結乾燥品再懸濁後の性状)を基準とした。
その結果を表4に示す。表中、「○」は上記▲1▼〜▲4▼をすべて満たすことを示し、「×」はこれらを満たさないことを示し、そして「△」は▲2▼の粒度分布の均一性が若干劣ることを示す。

実施例3記載のBCG−CWS含有ペーストを使用してエマルジョンを調製する場合、表4に示されるように、約0.7poise以下のペーストを使用した場合では良好なエマルジョンが調製される。一方、それより粘度が高い▲1▼の場合、(0.888poise)、良好なエマルジョンは製剤化できないことがわかった。これは、粘度の上昇に伴い、一部の油滴において過乳化が起こり、非常に少量の油に包埋された原薬の塊(均一に懸濁されずに凝集する物質)が出現し、製剤の性状と安定性を著しく低下させることを示唆している。
一方、粘度:0.670poise程度では、原薬の塊が出現することはないが、エマルジョンの油滴の粒度分布は、均一性が乏しかった。また、粘度0.545poise以下の製剤では、エマルジョンの油滴は均一性に富むシャープな粒度分布を示した(データは示していない)。
【実施例5】
油の種類とエマルジョン製剤化の可否
油として実施例2の種類のものを使用し、実施例4と同様にしてエマルジョンを調製し、製剤化の可否を評価した。その結果を表5に示す。

表5に示されるように、油の種類に関係なく、BCG−CWS含有ペーストの粘度が約0.55poise以下のものを使用して、エマルジョンを調製すれば、エマルジョンとして良好なものが得られた。表中、「○」は、▲1▼乳化直後の粒度分布が平均粒子径2〜3μmでありシャープな単一ピーク、▲2▼凍結乾燥前後において粒度分布に変化が無い、▲3▼凍結乾燥品を再懸濁した後にバイアルへの製剤付着やそれに伴う製剤中原薬濃度低下が認められない、ことを示している。特に、粘度:0.49〜0.55poiseである▲2▼および▲3▼の製剤が良好な結果を示した。
【実施例6】
油の組成とエマルジョン製剤化の可否
油として実施例1の組成のものを使用し、実施例4と同様にしてエマルジョンを調製し、製剤化の可否を評価した。その結果を表6に示す。

表6は、油の組成(スクワランとオレイン酸エチルの混合比)が変化してもエマルジョンの性質にはあまり大きな影響を与えず、BCG−CWS含有ペーストの粘度が0.545以下であれば、良好なエマルジョンが調製されることを示している。
【実施例7】
ペーストにおけるスクワランの量の変化と凍結乾燥製剤化の可否
実施例4にて調製した水中油型エマルジョンをバイアルに10mLずつ分注し、凍結乾燥を行って本発明の凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥は、凍結乾燥機(GT−6、フィンテック社製)を用いて行った。次いで、凍結乾燥製剤の再懸濁安定性、粒度分布等の面で調製の可否を判断した。その結果を表7に示す。

表7で示されるように、エマルジョンの凍結乾燥製剤の良否もBCG−CWS含有ペーストの粘度によって影響を受ける。BCG−CWS含有ペーストの粘度が0.672以下の場合であれば良好な凍結乾燥製剤が調製される。0.545以下の場合であれば、さらに良好な凍結乾燥製剤が調製されることがわかった。
【実施例8】
油の組成と凍結乾燥製剤化の可否
実施例6にて調製したエマルジョンの凍結乾燥製剤を調製し、凍結乾燥製剤の再懸濁安定性、粒度分布等の面で調製の可否を判断した。
その結果を表8に示す。

実施例7では、エマルジョンの凍結乾燥製剤は、使用されるBCG−CWS含有ペーストの粘度に影響を受け、良好な凍結乾燥製剤はペーストの粘度が0.545以下であることが示された。上記表8は、ペーストの粘度が低すぎても良好な凍結乾燥製剤が得られないことを示している。従って、良好なエマルジョンの凍結乾燥製剤が得られるための、好適なペーストの粘度は、0.258から0.545の範囲であることが分かる。
【実施例9】
油の種類とエマルジョンの凍結乾燥製剤化の可否
油として実施例2の種類のものを使用し、実施例7と同様にしてエマルジョンの凍結乾燥製剤を調製し、その製剤の可否を評価した。その結果を表9に示す。

表9に示されるように、油の種類が相違してもエマルジョンの凍結乾燥製剤化には大きな影響は与えず、使用するBCG−CWS含有ペーストの粘度の大きく影響されることが分かった。また、実施例8を参考にすれば、良好な凍結乾燥製剤が得られるところのBCG−CWS含有ペーストの好適な粘度は0.28から0.55であることが示されている。
【実施例10】
製剤例
細胞壁骨格成分としてBCG−CWS2640mgを用いて、スクワラン35.2gおよび10%エタノール/90%ヘプタン400mLの混合液に加え、振とうあるいは超音波により室温で分散した。その後、窒素気流下60℃に加熱し、攪拌下溶媒を留去した。ついで、0.02w/w%ポリソルベート80水溶液924gを添加し、ホモミキサーを用いて粗乳化(7,000rpm(逆回転)/min×5分間)を行い、さらに、36.6gの10w/w%ポリソルベート80水溶液を添加し本乳化(12,000rpm(正転)/min×10分間)を行った。最後に、1.5gの10w/w%ポリソルベート80溶液を添加混合し攪拌(7,000rpm(逆回転)×1分間)し、ポリソルベート80最終濃度を0.4w/w%に調整し、水中油型エマルジョンを得た。その後、4w/w%マンニトール水溶液3500gを添加し、4000gの最終製剤を得た。(このときの処方は、CWS:0.6mg/mL、SQA:0.8w/w%、Tween80:0.1w/w%、マンニトール:3w/w%)
この水中油型エマルジョンをバイアルに2mLずつ分注し、凍結乾燥を行って本発明の凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥は、凍結乾燥機(GT−6、フィンテック社製あるいはULVAC13A、日本真空社製)を用いて行った。
【実施例11】
分散補助溶媒についての検討
BCG−CWS(210mg)を各種有機溶媒(トルエン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン;各20ml)中に、超音波処理により分散し、分散原薬を調製した後、さらに、必要に応じてポッター型ホモジナイザー(20ml型)により攪拌(3000rpm x5分)した。得られた分散原薬について粒度分布評価を行った。さらに、実施例10と同様に、上記分散原液にスクワラン(2.64g)を混合し、さらに有機溶媒を留去することにより調製したペーストの粒度分布評価を行った。
粒度分布は、分散原薬については、0.1mgCWS/mLの濃度で、マイクロトラックUPA(ハネウェル社製)、およびレーザー回折式粒度測定装置(SALD3000;島津製作所製)を用いて測定した。また、ペーストは、スクワランで希釈し、0.1〜0.2mgCWS/mLSQAの濃度で、レーザー回折式粒度測定装置(SALD3000;島津製作所製)を用いて測定した。
[結果]
トルエン中に分散された分散原薬の粒度分布を調べた結果、400〜600nmに分布するサブミクロンでのピークと、10μmを中心とした大きな粒子の分布の二つに分かれた。
次に、上記トルエン分散原薬にスクワランを混合した混合物の粒度分布、およびこれをさらにポッター型ホモジナイザーでさらに分散して調製したペーストの粒度分布を調べた結果、これらはいずれもスクワランを混合する前の粒度分布をほぼ維持していた。
一方、分散補助溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン等において、トルエン分散で見られた数十μmを中心とした粒度分布は減少した(図1)。90%ヘプタン/10%エタノールを用いた場合の、ペースト内のBCG−CWS原薬の粒度分布結果を図2に示す。図2のとおり、サブピークは無く、0.3〜2μmに単一ピークを持つ均一な混合物が得られていることがわかった。
表10には、各溶媒における溶媒に分散したBCG−CWS原薬をマイクロトラックUPAで測定した場合の、D10%値、D90%値、および平均粒子径の実測値を示す。

以下の表11には、各溶媒における溶媒に分散したBCG−CWS原薬をSALD3000で測定した場合の、D10%値、D90%値、および平均粒子径の実測値を示す。

以下の表12には、各溶媒における溶媒にBCG−CWS含有ペーストをスクワランで希釈し、SALD3000で粒子径を測定した場合の、D10%値、D90%値、および平均粒子径の実測値を示す。

【実施例12】
製剤例
細胞壁骨格成分としてBCG−CWS1320mgを用いて、スクワラン17.6gおよび10%エタノール/90%ヘプタン200mLの混合液に加え、振とうあるいは超音波により室温で分散した。その後、窒素気流下60〜70℃に加熱し、攪拌下溶媒を留去した。ついで、0.02w/w%ポリソルベート80水溶液462.0gを添加し、ホモミキサーを用いて粗乳化(7,000rpm(逆回転)/min×5分間)を行い、さらに、18.3gの10w/w%ポリソルベート80水溶液を添加し本乳化(12,000rpm(正転)/min×5分間)を行った。最後に、0.76gの10w/w%ポリソルベート80溶液を添加混合し攪拌(7,000rpm(逆回転)×1分間)し、ポリソルベート80最終濃度を0.4w/w%に調整し、水中油型エマルジョンを得た。その後、4w/w%マンニトール水溶液1500gを添加し、2000gの最終製剤を得た。(このときの処方は、CWS:0.6mg/mL、SQA:0.8w/w%、Tween80:0.1w/w%、マンニトール:3w/w%)
この水中油型エマルジョンをバイアルに1mLまたは2mLずつ分注し、凍結乾燥を行って本発明の凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥は、凍結乾燥機(GT−6、フィンテック社製あるいはULVAC13A、日本真空社製)を用いて行った。
【実施例13】
製剤例
細胞壁骨格成分としてBCG−CWS2640mgを用いて、スクワラン70.4gおよび10%エタノール/90%ヘプタン400mLの混合液に加え、振とうあるいは超音波により室温で分散した。その後、窒素気流下60〜70℃に加熱し、攪拌下溶媒を留去した。ついで、0.02w/w%ポリソルベート80水溶液888.7gを添加し、ホモミキサーを用いて粗乳化(7,000rpm(逆回転)/min×5分間)を行い、さらに、36.7gの10w/w%ポリソルベート80水溶液を添加し本乳化(12,000rpm(正転)/min×10分間)を行った。最後に、1.5gの10w/w%ポリソルベート80溶液を添加混合し攪拌(7,000rpm(逆回転)×1分間)し、ポリソルベート80最終濃度を0.4w/w%に調整し、水中油型エマルジョンを得た。その後、1.2w/w%ポリソルベート80/6.7w/w%マンニトール水溶液3000gを添加し、4000gの最終製剤を得た。(このときの処方は、CWS:0.6mg/mL、SQA:1.6w/w%、Tween80:1w/w%、マンニトール:5w/w%)
この水中油型エマルジョンをバイアルに1mLまたは2mLずつ分注し、凍結乾燥を行って本発明の凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥は、凍結乾燥機(GT−6、フィンテック社製あるいはULVAC13A、日本真空社製)を用いて行った。
【実施例14】
製剤例
細胞壁骨格成分としてBCG−CWS1320mgを用いて、スクワラン35.2gおよび10%エタノール/90%ヘプタン200mLの混合液に加え、振とうあるいは超音波により室温で分散した。その後、窒素気流下60〜70℃に加熱し、攪拌下溶媒を留去した。ついで、0.02w/w%ポリソルベート80水溶液444.3gを添加し、ホモミキサーを用いて粗乳化(7,000rpm(逆回転)/min×5分間)を行い、さらに、18.4gの10w/w%ポリソルベート80水溶液を添加し本乳化(12,000rpm(正転)/min×5分間)を行った。最後に、0.76gの10w/w%ポリソルベート80溶液を添加混合し攪拌(7,000rpm(逆回転)×1分間)し、ポリソルベート80最終濃度を0.4w/w%に調整し、水中油型エマルジョンを得た。その後、1.2w/w%ポリソルベート80/6.7w/w%マンニトール水溶液1500gを添加し、2000gの最終製剤を得た。(このときの処方は、CWS:0.6mg/mL、SQA:1.6w/w%、Tween80:1w/w%、マンニトール:5w/w%)
この水中油型エマルジョンをバイアルに1mLまたは2mLずつ分注し、凍結乾燥を行って本発明の凍結乾燥製剤を得た。凍結乾燥は、凍結乾燥機(GT−6、フィンテック社製あるいはULVAC13A、日本真空社製)を用いて行った。
【実施例15】
速結乾燥後における粒度分布変化
実施例12で調製したスクワラン1.6%処方(BCG−CWS1gに対して、スクワラン26.7gを含むもの;粘度値:0.43poise)の凍結乾燥品について、凍結乾燥前後における粒度分布変化を、実施例11と同様の方法で評価した。
その結果、図4に示すように、凍結乾燥製剤を再懸濁した場合も、凍結乾燥前の水中油型エマルジョン(図3)と同様に、平均粒子径2〜3μmの単一ピークの粒度分布を維持し、90%径値が約5μmであった。一方、スクワランの含量を減らした処方では、さらに粒子径が大きい(10μm〜50μm)粒子が混在した。凍結乾燥後の粒度分布については、大きな粒子の存在比率の指標となる90%径値が、1.6%処方では5μm前後となった。
以上の結果から、実施例12の製剤は凍結乾燥前後における粒度分布維持性が高いことが判った。
【実施例16】
凍乾製剤保存による性状および懸濁液中原薬濃度変化
実施例12で調製したスクワラン1.6%処方(BCG−CWS1gに対して、スクワラン26.7gを含むもの;粘度値:0.43poise)製剤について、長期・加速保存条件として5℃、25℃、40℃、および苛酷条件として60℃、80℃での安定性を検討した。評価基準は、実施例17に記載の懸濁液原薬濃度をミコール酸定量法により算出し、懸濁液の溶状を目視により評価した。
その結果、表13に示すように、スクワラン1.6%処方製剤において、40℃X3ヶ月保存品で懸濁後における付着物の生成およびそれに伴う懸濁液原薬濃度の低下は認められなかった。また、表14に示すように、60℃、80℃X1ヶ月保存の苛酷条件下においても、付着物の生成および懸濁液原薬濃度の低下は全く認められなかった。
以上の結果から、実施例12の製剤は、優れた保存安定性を示すことが判った。


【実施例17】
BCG−CWSに含まれるミコール酸の定量
(1)溶液の調製
▲1▼ BCG−CWSは、BCG菌東京株(日本ビーシージー製)から公知の方法(J.Nat.Cancer Inst.,52,95−101(1974)))で調製した。BCG−CWSの被験サンプル、および生物活性が確認されているBCG−CWSの標準品約15mgをそれぞれ精密に量り、トルエンまたはヘプタン/エタノール(99.5)混液(9:1)を加えて正確に25mLとし、超音波を15分間照射し、試料原液および標準原液とした。試料原液2mLを正確に量り、溶媒を留去した。また、標準原液1、2および3mLを正確に量り、同様に溶媒を留去した。
▲3▼ 試料溶液および標準溶液にそれぞれ内標準溶液(エルカ酸(アルドリッチ製)のトルエン溶液(1g/5000mL)またはトリコセン酸(東京化成製)のトルエン溶液(3g/1000mL))100μLを正確に加えた。
▲4▼ 0.5mol/L水酸化カリウムのエタノール(99.5)/トルエン/水混液(10:10:1)溶液1mLを加え、超音波を1分間照射した。
▲5▼ 65℃の恒温槽で3時間加熱し、放冷後、2mol/L塩酸500μLを正確に加え、よく振り混ぜた。さらにヘキサン2mLを加え、よく振り混ぜた後静置し、上層(有機層)をサンプル瓶に移した。同操作を、ヘキサン1mLずつを用いて、さらに2回繰り返した。
▲6▼ 集めた上層に水1mL加え、よく混ぜ、遠心分離を行ったのち、水層(下層)を除去した。前記操作をさらに1回繰り返した。
▲7▼遠心型エバポレーターまたは窒素を用いて上層の溶媒を留去した。
▲8▼残渣にトルエン4mLを加えて溶かした後、この溶液200μLをサンプル瓶に正確に量り、さらにトルエン300μLおよび蛍光標識化試液(ADAM(9−Anthryldiazomethane;フナコシ製)のアセトン溶液(1g/250mL)をさらにメタノールで正確に10倍に希釈したもの)500μLを加え、40℃で5時間以上反応させた。反応終了後、すみやかに5℃に冷却した。これらをそれぞれ試料溶液および標準溶液として分析に供した。
(2)分析
試料溶液および標準溶液の各10μLをHPLCにて以下の条件で分析した。
試料溶液からクロマトグラムのミコール酸に由来する複数ピークの溶出パターンと、標準溶液のそれと比較した。また、内標準物質のピーク面積に対するミコール酸誘導体のピーク面積比を求め、標準溶液から得られた検量線を用いて、被験サンプルの力価を求めた。
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の設定条件]
カラム温度:50℃
カラム:関東化学製Mightysil(登録商標)RP−18 GP 150−4.6(5μm、4.6mmφ×15cm)、または住化分析センター製SUMIPAX ODS A−211(5μm、4.6mmφ×25cm)
または野村化学製Develosil C30−UG(登録商標)(3μm、4.6mmφ×15cm、または5μm、4.6mmφ×25cm)
溶媒:A液:メタノール/水混液(9:1)B液:2−プロパノールグラジエント条件またはA液:メタノール B液:トルエングラジエント条件を表15に示した。

移動相の流速:1.0または1.5mL/min
蛍光検出条件:
励起波長:365nm
検出波長:412nm
(3)結果
図5に代表的なクロマトグラム、図6に標準品について複数濃度でミコール酸含量を測定した結果をプロットして作成した検量線を示した。
試料溶液のミコール酸の溶出パターンは、標準溶液と比較し、同様の位置に同様の強度のピークを認めることを確認した。また、被験サンプルの測定結果から図6の検量線を用いて力価を算出した結果を、表16に示した。

上記のように、BCG−CWSを有効成分として含有する医薬品の製造中間体となるBCG−CWSの各製造ロットにおける力価を評価することができた。
【実施例18】
菌株の同定および定量
(1)溶液の調製
▲1▼BCG菌東京株(日本ビーシージー製)を公知の方法で死滅したものを約10mg(CWS量に換算して)を精密に量り、5mol/L水酸化カリウムのエタノール(99.5)/水混液(1:1)溶液2mLを加えて、100℃で2時間反応させた。放冷後、6mol/L塩酸1.5mLを加えて酸性にし、よく振り混ぜた。
▲2▼ 別に、生物活性が確認されているBCG−CWSの標準品約15mgを精密に量り、トルエンまたはヘプタン/エタノール(99.5)混液(9:1)を加えて正確に25mLとし、超音波を15分間照射し、標準原液とした。標準原液1、2および3mLを正確に量り、溶媒を留去した。0.5mol/L水酸化カリウムのエタノール(99.5)/トルエン/水混液(10:10:1)溶液1mLを加え、超音波を1分間照射した。65℃の恒温槽で3時間加熱し、放冷後、2mol/L塩酸500μLを正確に加え、よく振り混ぜた。
▲3▼ 試料溶液および標準溶液にそれぞれヘキサン2mLを加え、よく振り混ぜた後静置し、上層(有機層)をサンプル瓶に移した。同操作を、ヘキサン1mLずつを用いて、さらに2回繰り返した。
▲4▼ 集めた上層に水1mL加え、よく混ぜ、遠心分離を行ったのち、水層(下層)を除去した。前記操作をさらに1回繰り返した。
▲5▼ 遠心型エバポレーターまたは窒素を用いて上層の溶媒を留去した。
▲6▼ 残渣にトルエンを約0.3mg/mL(CWS量に換算して)となるよう一定量を正確に加えて溶かし、この溶液200μLをサンプル瓶に正確に量り、さらにトルエン300μLおよび蛍光標識化試薬(ADAM(9−Anthryldiazomethane);フナコシ製)500μLを加え、40℃で5時間以上反応させた。反応終了後、すみやかに5℃に冷却した。これらをそれぞれ試料溶液および標準溶液として分析に供した。
(2)分析
試料溶液および標準溶液の各10μLをBCG−CWSのHPLCと同じ試験条件で分析した。試料溶液からクロマトグラムのミコール酸に由来する複数ピークの溶出パターンと、標準溶液のそれと比較した。また、試料溶液のミコール酸誘導体のピーク面積を求め、標準溶液のミコール酸誘導体のピーク面積から得られた検量線を用いて、被験サンプル(菌体)におけるCWS含量(%)を求めた。
(3)結果
被験サンプルの測定結果を表17に示した。

上記のように、BCG−CWSを有効成分として含有する医薬品の製造中間体となるBCG菌・東京株の菌体について、各製造ロットにおける有効成分量を評価することができた。
【実施例19】
凍結乾燥製剤の分析例
(1)溶液の調製
▲1▼ BCG−CWS凍結乾燥製剤は実施例10に記載された方法で調製した。生物活性が確認されているBCG−CWS凍結乾燥製剤の標準品約15mgを精密に量り、トルエンまたはヘプタン/エタノール(99.5)混液(9:1)を加えて正確に25mLとし、超音波を15分間照射し、標準原液とした。標準原液1、2および3mLを正確に量り、溶媒を留去した。標準原液に内標準溶液(エルカ酸(アルドリッチ製)のトルエン溶液(1mL/5000mL)またはトリコセン酸(東京化成製)のトルエン溶液(3g/1000mL)))100μLを正確に加え、0.5mol/L水酸化カリウムのエタノール(99.5)/トルエン/水混液(20:10:1)溶液1mLを加え、超音波を1分間照射した。▲2▼ BCG−CWS凍結乾燥製剤の被験サンプルを精密に量り、内標準溶液100μLを正確に加え、0.5mol/L水酸化カリウムのエタノール(99.5)/トルエン/水混液(10:10:1)溶液1mLを加え、超音波を1分間照射した。
以下、実施例1と同様に加水分解を行い、ミコール酸を溶媒抽出し、標識化を行った。ただし、用いる標識化試薬は10倍濃度が濃いものを用いた。
(2)分析
試料溶液および標準溶液の各10μLをHPLCにて以下の条件で分析した。
試料溶液からクロマトグラムのミコール酸に由来する複数ピークの溶出パターンと、標準溶液のそれと比較した。また、内標準物質のピーク面積に対するミコール酸誘導体のピーク面積比を求め、標準溶液から得られた検量線を用いて、被験サンプルの力価を求めた。
(3)結果
被験サンプルの測定結果を表18に示した。

上記のように、BCG−CWSを有効成分として含有する医薬品について、各製造ロットにおける力価を評価することができた。
【実施例20】
BCG−CWSの菌株の同定
実施例1と同様の方法でBCG菌東京株のCWSと、BCG菌パスツール株のCWSの、ミコール酸の溶出パターンをHPLCで分析した。結果を図7に示した。
図7からわかるように、BCG菌の株の種類によって、含まれるミコール酸の分子種およびミコール酸分子の量比が異なり、クロマトグラムで判別できることが明らかとなった。
参考例1 BCG−CWS標準品の生物活性評価
(1)方法
RAW264.7細胞を96穴プレートに播種後37℃、5%二酸化炭素、湿条件で5時間培養し、複数濃度のBCG−CWS(標準品)の生理食塩水懸濁液を添加して、さらに約15時間培養した。培養上清のTNF−□量をAN’ALYZA(登録商標)Mouse TNF−□□Immunoassayキットを用いてELISA測定を行った。付属の手順書に従い、450nmの吸光度を測定することによって測定した。上記BCG−CWSの生理食塩水懸濁液のミコール酸含量を、実施例17記載の方法で測定した。
(2)結果
測定したBCG−CWSのミコール酸含量とTNF−α量をプロットした結果を図8に示した。
上記の結果から、BCG−CWS標準品において、本発明の方法で検定したミコール酸含量の分析値と、実際の生物活性値(TNF−α産生誘導活性)が相関していることがわかった。すなわち、ミコール酸含量を生物活性の力価の指標として用いることができることが確認できた。
【発明の効果】
本発明により、安定な水中油型エマルジョン製剤が提供できる。また、固体成分を油中に含有する安定で凍結乾燥可能な水中油型エマルジョン製剤とその凍結乾燥製剤が提供できることから、この方法を用いて、BCG−CWS製剤を創出でき、免疫賦活抗がん療法が、より効果的に実施できるようになった。
本発明により、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSに含まれる高級脂肪酸またはその誘導体のクロマトグラムのパターンから細菌−CWS、および該細菌−CWSを含む製剤等における細菌の属、種および株を同定、確認することができた。また、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSを含有する製造中間体菌体、原薬および製剤の力価を定量的に評価することが可能になった。このことにより、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSおよびそれを有効成分とする医薬品の品質を一定に保ち、ミコバクテリウム属およびノカルジア属等の細菌−CWSを含有する医薬品を提供することが可能になった。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌−CWSおよび油からなる細菌−CWS含有ペーストであって、0.7poise(25℃)以下の粘度を有するペースト。
【請求項2】
0.2〜0.7poise(25℃)の粘度を有する請求項1記載の細菌−CWS含有ペースト。
【請求項3】
0.28〜0.55poise(25℃)の粘度を有する請求項1記載の細菌−CWS含有ペースト。
【請求項4】
細菌−CWSがBCG−CWSである、請求項1〜3のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト。
【請求項5】
油がスクワランである、請求項1〜4のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト。
【請求項6】
細菌−CWSがBCG−CWSであり、BCG−CWS約0.67gに対してスクワラン6.6g〜35.2gを含有することを特徴とする細菌−CWS含有ペースト。
【請求項7】
(1)細菌−CWSおよび油を分散補助溶媒としての有機溶媒中で混合する工程、および
(2)得られた(1)の混合物から有機溶媒を留去する工程を含む、細菌−CWS含有ペーストの調製方法。
【請求項8】
有機溶媒が炭化水素系溶媒、またはハロゲン化炭化水素系溶媒を含む、請求項7記載の調製方法。
【請求項9】
有機溶媒が、5〜20%(V/V)のアルコール系溶媒を含む炭化水素系溶媒である、請求項8記載の調製方法。
【請求項10】
炭化水素系溶媒がヘプタンまたはヘキサンである、請求項8または9記載の調製方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか記載の調製方法によって得られる細菌−CWS含有ペースト。
【請求項12】
細菌がBCG菌である請求項11記載のペースト。
【請求項13】
油がスクワランである、請求項7〜12のいずれか記載のペースト。
【請求項14】
請求項1〜6および11〜13のいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト、界面活性剤、安定化剤、および水を含有する、水中油型エマルジョン。
【請求項15】
水2Lあたり、0.66g〜3.35gの細菌−CWS、および0.4〜8重量%の油を含有することを特徴とする、請求項14記載の水中油型エマルジョン。
【請求項16】
安定化剤が1〜10%のマンニトールである、請求項14または15記載の水中油型エマルジョン。
【請求項17】
界面活性剤が0.01%〜3%のポリエチレンオキシソルビタン脂肪酸エステルである、請求項14〜16のいずれか記載の水中油型エマルジョン。
【請求項18】
ポリエチレンオキシソルビタン脂肪酸エステルがツイーン80である請求項17記載の水中油型エマルジョン。
【請求項19】
以下の(1)および(2)の特徴を有する請求項14〜18のいずれか記載の水中油型エマルジョン:
(1)エマルジョン油滴粒子径が0.2〜30μm;および
(2)細菌−CWSが油滴中に包含され、レクチン反応が陰性。
【請求項20】
以下の(1)および(2)の工程を含む、請求項14〜19のいずれか記載の水中油型エマルジョンの調製方法:
(1)請求項1〜10および17〜19のいずれか記載の細菌−CWS含有ペーストと、界面活性剤を含む水溶液の混合液を、曇点以上の温度で乳化する工程、および
(2)安定化剤を含む水溶液を加えて希釈する工程。
【請求項21】
前項の(1)における乳化工程が、以下の(3)および(4)の工程を含む請求項20記載の調製方法:
(3)請求項1〜6および11〜13のいずれか記載の細菌−CWS含有ペーストと、0.02%〜0.8%の界面活性剤を含む水溶液の混合液を乳化する工程(粗乳化工程)、
(4)(3)の粗乳化液に界面活性剤を含む水溶液を加え、界面活性剤濃度を調整し、強攪拌して本乳化を行う工程。
【請求項22】
請求項14〜19のいずれか記載のエマルジョンを凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥製剤。
【請求項23】
エマルジョンが請求項20または21記載の調製方法で得られることを特徴とする、請求項22記載の凍結乾燥製剤。
【請求項24】
粒度分布において、粒子径が0.15〜6μmである細菌−CWS粒子集合体。
【請求項25】
粒度分布において、D10%が0.23±0.05μmであり、D90%が0.60±0.05μmであり、かつ単一ピークを有する、請求項24記載の細菌−CWS粒子集合体。
【請求項26】
脂肪族炭化水素系溶媒を含む溶媒中に細菌−CWSを分散することを特徴とする、請求項24または25記載の細菌−CWS粒子集合体の調製方法。
【請求項27】
溶媒が、脂肪族炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合物である、請求項26記載の調製方法。
【請求項28】
溶媒が、5〜20%エタノールを含むヘプタンである請求項27記載の調製方法。
【請求項29】
細菌−CWSの菌種および/または菌株の同定方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする方法;
(1)細菌−CWS中に含まれる、高級脂肪酸を分離および/または抽出して高級脂肪酸画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程、
(2)(1)の高級脂肪酸画分における高級脂肪酸またはその誘導体をクロマトグラフィーにより分析する工程、および
(3)(2)の分析結果に基づき、細菌のCWSの菌種および/または菌株を同定する工程。
【請求項30】
前項の工程(1)が、高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を標識化して標識化高級脂肪酸誘導体を調製する工程を含むことを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項31】
細菌−CWSの力価検定方法であって、以下の工程(1)、(4)および(5)を含むことを特徴とする方法;
(1)細菌−CWS中に含まれる高級脂肪酸を分離および/または抽出して高級脂肪酸画分を調製し、要すれば高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を誘導体に変換する工程、
(4)(1)の高級脂肪酸画分における高級脂肪酸またはその誘導体の含量を分析する工程、
(5)(4)の分析結果に基づき、細菌−CWSの免疫賦活能を評価する工程。
【請求項32】
高級脂肪酸またはその誘導体の含量を分析する(1)の工程が、高級脂肪酸画分における高級脂肪酸を標識化して標識化高級脂肪酸誘導体を調製する工程を含むことを特徴とする、請求項31記載の方法。
【請求項33】
高級脂肪酸の誘導体が高級脂肪酸エステルであることを特徴とする、請求項30または32記載の方法。
【請求項34】
細菌がミコバクテリウム属またはノカルジア属の細菌である、請求項29〜33のいずれか記載の方法。
【請求項35】
ミコバクテリウム属の細菌がBCG菌である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
高級脂肪酸がミコール酸である、請求項29〜35のいずれか記載の方法。
【請求項37】
粒度分布において、粒子径が0.1μm〜20μm、好ましくは0.15〜6μm、さらに好ましくは0.2μm〜2μmである細菌−CWS粒子集合体を含有する、請求項1から6および11から13までのいずれか記載の細菌−CWS含有ペースト。
【請求項38】
細菌−CWS粒子集合体が粒度分布においてD10%が0.23±0.05μmであり、D90%が0.60±0.05μmであり、かつ単一ピークを有する、請求項37記載の細菌−CWS含有ペースト。
【請求項39】
請求項37または38記載の細菌−CWS含有ペースト、界面活性剤、安定化剤、および水を含有する、水中油型エマルジョン。
【請求項40】
請求項39記載のエマルジョンを凍結乾燥することによって得られる凍結乾燥製剤。
【請求項41】
請求項14〜19および39のいずれか記載のエマルジョンからなる医薬組成物。

【国際公開番号】WO2004/012751
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525815(P2004−525815)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009801
【国際出願日】平成15年8月1日(2003.8.1)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】