説明

組成物と方法

【課題】 インクジェット印字ヘッド上にkogaを形成しにくくしつつ、定着剤の不必要な損失と未印刷部分への汚れの誘引を防止しつつ、湿潤堅牢性の高い(high wet−fast)印刷物をもたらすことのできるインクジェット印刷法の提供。
【解決手段】 (a)インクジェットプリンターによって被印刷物にインクを施して、被印刷物上に画像を形成させる工程;及び(b)塩酸グアニジン以外のグアニジン塩とC3-18−ヒドロカルビルジアミンとの溶媒重合又は溶融重合によって得られる複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーと液体媒体とを含んだ定着用組成物をインクジェットプリンターによって被印刷物に施す工程;を任意の順序で又は同時に行うことを含み、定着用組成物が重量基準で400ppm未満の塩化物濃度を有するインクジェット印刷法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷法、定着用組成物、数組の液体とこれらの組成物を収容するカートリッジ、印刷された被印刷物(substrate)、及びポリモノグアニドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷(ink jet printing:IJP)は非衝撃式の印刷技術であり、微細ノズルを被印刷物に接触させることなく、微細ノズルを通してインクの小滴を被印刷物上に射出する。
【0003】
インクジェットプリンターに対する厳しい要求性能と得られる印刷物とが、プリンター業界に難題を課している。インクジェットプリンターは、何百万ものインク小滴を、失敗せずに、あるいは印字ヘッドに過剰なkoga(すなわち炭化物質(charred material))の堆積を起こすことなく被印刷物上に発射するように要求されている。得られる印刷物は、光や水等の環境上の問題に対して良好な堅牢性を有するように要求されている。印刷物はさらに、くっつくのを防止するために、あるいは汚れるのを防ぐために速やかに乾燥する必要がある。
【0004】
ニッカケミカル社(Nicca Chemical Company)のEP1,172,224A1は、印刷時又はその後の水との接触時におけるインクの汚れの問題に対処するためにポリモノグアニド(“PMG”)塩を保持させた記録材料(例えば紙)、について開示している。PMGは、特定のジアミンと特定のジイソシアネートとをDMF中にて40〜60℃で縮合させることによって製造される。得られたPMGを、例えば、製紙用パルプに加えることによって、あるいはコーティングとして施すことによって被印刷物全体に均一に分散させる。この結果、多量のPMGが使用されることになる。さらに、被印刷物全体上にPMGが存在すると、未印刷部分における好ましくない汚れや油脂の定着を引き起こすことがある。
【0005】
アベシアリミテッド(Avecia Limited)の国際特許公開WO00/37258は、バインダーとポリメリックビグアニド(polymeric biguanide)定着剤(例えばPHMB)を含んだ組成物とインクとを、インクジェットプリンターによって被印刷物に施す、というインクジェット印刷法を開示している。定着用組成物の塩化物含量については明記されていないが、市販のPHMBの塩化物濃度は本質的に高いので、定着用組成物の塩化物含量はかなり高いものと思われる。
【0006】
同時係属の国際特許公開PCT/GB01/05381は、明記されている式のPMG塩を含有するバインダーと顔料と媒体とを含むコーティング組成物について開示している。これらのコーティング組成物は、インクジェット印刷用の媒体を製造するのに使用される。PMG塩は、HCl塩、あるいは相当程度の濃度の塩化物が最終的なPMG中に本質的に残るような方法によってHCl塩から作製される代替塩である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット印字ヘッド上にkogaを形成しにくくしつつ、そして定着剤の不必要な損失と未印刷部分への汚れの誘引を防止しつつ、湿潤堅牢性の高い(high wet−fast)印刷物をもたらすことのできるインクジェット印刷法を我々は発明した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
(a) インクジェットプリンターによって被印刷物にインクを施して、被印刷物上に画像を形成させる工程;及び
(b) 塩酸グアニジン以外のグアニジン塩とC3-18−ヒドロカルビルジアミンとの溶媒重合又は溶融重合によって得られる複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーと液体媒体とを含んだ定着用組成物をインクジェットプリンターによって被印刷物に施す工程;
を任意の順序で又は同時に行うことを含み、定着用組成物が重量基準で400ppm未満の塩化物濃度を有することを特徴とするインクジェット印刷法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定着用組成物は、工程(b)において被印刷物に、複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーで印刷される部分における、複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーの濃度が、被印刷物が乾燥している場合の被印刷物に対して、最大で20g.m-2となるように施すのが好ましく、最大で5g.m-2となるように施すのがさらに好ましく、0.1〜2g.m-2となるように施すのがさらに好ましく、0.5〜1g.m-2となるように施すのがさらに好ましい。
【0010】
複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーは、PMG及び/又はポリメリックビグアニドであるのが好ましい。
定着用組成物は、工程(B)において被印刷物に、工程(a)において被印刷物にインクを施すのに使用したのと同じインクジェットプリンターによって施すのが好ましい。
【0011】
工程(b)の定着用組成物は、インクを施す直前に、あるいはインクを施すのと同時に被印刷物に施すのが好ましい。インクと工程(b)の組成物を施すのに使用されるインクジェットプリンターは、工程(b)の組成物の施し用に設計されたノズル又は一連のノズルをプリンター中に有するのが好ましい。したがってプリンターは、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、及びブラックインクが4つのペンで施され、そして定着用組成物が5つ目のペンで施される、という‘5以上ペン’タイプであってよい。適切なインクジェットプリンター及びそれを制御するための方法がEP657849に開示されている。
【0012】
工程(b)の組成物をインクジェットプリンターによって施すことによって、普通の媒体(例えば普通紙)を被印刷物として使用してよく、これによって高価な特殊被印刷物を使用する必要がなくなる。さらに、インクジェットプリンターによって定着用組成物を施すことで、定着用組成物の無駄を避けることができる。なぜなら、定着用組成物を、工程(a)において定められた局在化部分に選択的に施すことができるからである。定着用組成物を局在化された仕方で選択的に施すことができるということから生じるさらなる利点は、汚物(dirt)、お茶、又はコーヒー等の望ましくない汚れが、未印刷部分(unprinted areas)に引き寄せられないか、あるいは定着されない、という点にある。
【0013】
したがって、工程(b)においては、定着用組成物が局在化された仕方で被印刷物に施され、工程(a)と(b)においてインクと組成物が施される部分が実質的に同一の広がりをもつのが好ましい。例えば、インクで印刷される部分と定着用組成物で印刷される部分は、少なくとも80%重なり合うのが好ましく、少なくとも90%重なり合うのがより好ましく、少なくとも95%重なり合うのが特に好ましく、少なくとも98%重なり合うのがさらに好ましい。
【0014】
言うまでもないが、本発明の全ての実施態様において、“インク”、“着色剤”、“ポリマー”、及び“バインダー”という用語は、これらの物質の1種だけでなく2種以上に及んでいる。さらに、“PMG”及び“ポリモノグアニド”という語句は、本明細書においては区別なく使用されており、意味上の差は全くない。
【0015】
インクジェットプリンターは、インクと定着用組成物を、小さなオリフィスを通して被印刷物に射出される小滴の形で被印刷物に施すのが好ましい。好ましいインクジェットプリンターは、ピエゾエレクトリックインクジェットプリンター及びサーマルインクジェットプリンターである。サーマルインクジェットプリンターにおいては、オリフィスに隣接した抵抗器によってリザーバー中のインクにプログラム化した熱パルスが加えられ、これによって、被印刷物とオリフィスとの間の相対的な移動時に、オリフィスからインクが、被印刷物の方向に向けられた小さな液滴の形で射出される。ピエゾエレクトリック(圧電式)インクジェットプリンターにおいては、小さな結晶の振動が、オリフィス(orifice)からのインクの射出を引き起こす。インクジェットプリンターはさらに、国際特許出願WO00/48938とWO00/55089に記載のタイプであってもよく、該特許出願によれば、パドル(paddle)もしくはプランジャー(plunger)に連結されたエレクトロメカニカル・アクチュエーター(electromechanical actuator)を使用して、インク射出ノズルチャンバーからインクが射出される。
【0016】
我々はさらに、PMGの塩化物濃度(chloride concentration)を少なくすることが技術的に困難な問題であることを見出した。単純なイオン交換法は、本発明において必要とされる極めて低いレベルの塩化物を達成する上では煩わしく、一般には旨くいかない。したがって我々は、溶融重合(melt polymerisation)を含む、PMGの代替製造法を開発した。本発明の他の態様によれば、溶媒の非存在下での、塩酸グアニジン以外のグアニジン塩とC3-18−ヒドロカルビルジアミンとの溶液重合(solution polymerisation)又は溶融重合を含むPMGの製造法が提供される。
【0017】
溶融重合は100℃〜200℃の温度で行うのが好ましく、110℃〜180℃の温度で行うのがさらに好ましい。溶融重合は1〜50時間行うのが好ましく、9〜30時間行うのがさらに好ましい。
【0018】
重合マス(polymerised mass)の粘度を下げるためには、溶融重合より溶媒重合のほうが好ましい。溶媒重合が使用される場合、溶媒は100〜400℃の沸点を有するのが好ましく、120〜300℃の沸点を有するのがさらに好ましい。適切な溶媒の例としては、エチレングリコール、ペンタン−1,5−ジオール、ジエチレングリコール、N−メチルピロリドンなどがある。溶融重合は、不活性雰囲気下(例えば窒素雰囲気下)にて行うのが好ましい。反応混合物は、必要に応じて他の反応物を含んでもよい。
【0019】
溶媒重合法において使用される溶媒は、−1.5〜+1のオクタノール/水分配係数(LogP)を有するのが好ましく、−1〜+1の分配係数を有するのがさらに好ましい。
好ましい溶媒及びそれらのLogPと沸点は以下の通りである。
【0020】
【表1】

【0021】
溶媒は、C3-18−ヒドロカルビルジアミンとグアニジン塩との合計重量を基準として5〜75重量%の量にて存在するのが好ましく、5〜35重量%の量にて存在するのが特に好ましい。
【0022】
グアニジン塩は塩酸グアニジン以外であるのが好ましく、グアニジン塩は、酢酸グアニジン、プロピオン酸グアニジン、リン酸グアニジン、又はこのような塩の混合物であるのがさらに好ましい。
【0023】
本発明の方法によって製造されるPMG塩は、インクジェットプリンタヘッドを腐食する傾向、あるいはインクジェットプリンタヘッド上に炭化堆積物(charred deposits)(しばしば“koga”と呼ばれる)を形成する傾向が著しく低い。これは、本発明の方法から生じる塩化物のレベルが極めて低いためである、と我々は考えている。本発明の方法から得られるPMG中に見られる塩化物のレベルは、同時係属中の国際特許出願PCT/GB01/05381に記載の代替法(すなわち、PMG.HClを作製し、沈殿によってイオン交換を行い、5%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、水で洗浄し、酢酸アセテート、リン酸アセテート、又はプロピオン酸アセテート(acetic, phosphoric or propionic acid acetate)で処理する)において見られる塩化物のレベルより低かった。本発明の溶融重合法により、400ppm未満の塩化物濃度を有するPMGを製造することができる。したがって、本発明の第2の態様によるPMGは、重量基準で400ppm未満の塩化物濃度を有するのが好ましく、100ppm未満の塩化物濃度を有するのがより好ましく、50ppm未満の塩化物濃度を有するのが特に好ましく、そして20ppm未満の塩化物濃度を有するのがさらに好ましい。
【0024】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様にしたがった方法によって得られるPMGが提供される。
PMGは、式(1)
【0025】
【化1】

【0026】
で示される基、及び/又は式(2)
【0027】
【化2】

【0028】
で示される基、あるいはこれらの塩を複数含むのが好ましく、このとき
各mは独立的に0又は1であり;
各Yは独立的にC3-18−ヒドロカルビル基であり;
AとBは、合わさって合計で3〜18個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;そして
各Rは独立的に、水素、置換されていてもよいアルキル、又は置換されていてもよいアルコキシである。
【0029】
mは0であるのが好ましい。
3-18−ヒドロカルビルジアミン中のヒドロカルビル基(Yで示されている)、A、及びBは、必要に応じて1つ以上のヘテロ原子又は基が介在していてもよく、また水素以外の1つ以上の置換基を含んでいてもよい。好ましい介在原子と介在基は、−O−、−S−、−NH−、−C(=O)−、及びフェニレンである。好ましい任意の置換基は、ヒドロキシ;C1-4−アルコキシ;ハロ(特に、クロロもしくはブロモ);ニトロ;アミノ;置換アミノ;ならびに酸基(特に、カルボキシ、スルホ、ホスファト(phosphato)、グアニジノ、及び置換グアニジノ);である。
【0030】
3-18−ヒドロカルビル基がアルキレン基であるときは、直鎖又は分岐鎖であるのが好ましい。
好ましいC3-18−ヒドロカルビル基は、C3-18−アルキレン(より好ましくはC4-16−アルキレン、特に好ましくはC6-12−アルキレン、特に好ましくはC6−アルキレン);C3-12−アリーレン(より好ましくはC6-10−アリーレン、特にフェニレンやナフチレン);C7-12−アラルキレン(より好ましくはC7-11−アリーレン、特にベンジレンやキシリレン);あるいはこれらの組み合わせ物;であり、1つ以上の−O−、−S−、−NH−、又は−C(=O)−基が介在していてもよい。
【0031】
AとBで示されるヒドロカルビル基は、互いに独立的にC2-6−アルキレン(1つ以上の−O−、−S−、−NH−、又は−C(=O)−基が介在していてもよい)であり、但しこのとき、AとBのそれぞれが、合計で3〜18個の炭素原子を含み、好ましくは3〜6個の炭素原子を含み、さらに好ましくは3個又は4個の炭素原子を含み、AとBが合わさって合計で3〜18個の炭素原子を含む。特に好ましい実施態様においては、A又はBの一方が−CH2−もしくは−(CH22−であって、他方が−(CH22−であり、さらに好ましい実施態様においては、AとBの両方が−(CH22−である。Yで示される好ましいヒドロカルビル基の例としては、−CH264CH2−、−CH2OC64OCH2−、−CH2OC610OCH2−、−(CH23O(CH23−、及び−(CH22S(CH22−などがある。
【0032】
特に好ましいC3-18−ヒドロカルビル基の例としては、−(CH26−、−(CH28−、−(CH29−、−(CH212−、−CH2CH(−CH3)(CH24CH3、1,4−ブチレン、2,3−ブチレン、1,3−ブチレン、2,5−ヘキシレン、2,7−ヘプチレン、及び3−メチル−1,6−ヘキシレンなどがある。
【0033】
Yで示される基は、全て同じであってC4-16−アルキレンであるのが好ましく、C4-12−アルキレンであるのがさらに好ましく、C4-8−アルキレンであるのがさらに好ましく、1,6−ヘキシレンであるのが特に好ましい。
【0034】
各Rは、独立的にH、C1-4アルキル、C1-4アルコキシ、又はC1-4アルコキシ−OHであるのが好ましく、H又はメチルであるのがさらに好ましく、Hであるのが特に好ましい。
【0035】
PMGは、前記にて定義した式(1)の基から実質的になるのが好ましい。
Rで示される基は全て同じであるのが好ましい。
Rで示される基は全てHであるのが好ましい。
【0036】
PMG上の末端基の性質は重要なポイントではないと考えられる。
しかしながら、PMG上の好ましい末端基はアミノとグアニジノである。
上記の好ましい態様を考慮すると、PMGは、式(3)
【0037】
【化3】

【0038】
(式中、nは2〜100であり、好ましくは2〜50であり、さらに好ましくは3〜25である)で示される基又はその塩を1つ以上含むのが好ましい。
PMGは、塩化物塩以外の塩の形態をとっているのが好ましい。好ましい塩は有機酸又は無機酸との塩であり、特に水溶性の塩、例えばグルコン酸塩、酢酸塩、又はリン酸塩である。
【0039】
式(1)と(2)のPMGは、塩酸グアニジンとジアミン〔例えば、式H2N−Y−NH2もしくはHN(−A−)(−B−)NH(式中、Y、A、及びBは前記にて定義した通りである)のジアミン、又はこのようなジアミンの混合物〕との反応によって製造することができる。
【0040】
PMGは、単独の個別化学種(single discrete species)であっても、あるいは式(1)及び/又は(2)の反復構造単位を1つ以上含有する種々の鎖長のポリマーの混合物であってもよい。PMGが種々の鎖長のポリマーの混合物であるとき、PMGは、式(1)又は(2)の単一のタイプの反復構造単位を含むのが好ましい。
【0041】
PMGはさらに、式(1)と(2)の反復構造単位以外の反復構造単位を含んでもよい。モノグアニド基のほかにビグアニド基も含有するPMGにおいては、いずれの場合もビグアニド基の数が、PMG中のビグアニド基とモノグアニド基の総数を基準として70%未満であるのが好ましく、60%未満であるのがさらに好ましく、またある実施態様においては10%未満であるのが好ましい。しかしながら、PMGは、式(1)及び/又は(2)の反復構造単位から実質的になるのが好ましい。
【0042】
PMGは、200〜10,000のMnを有するのが好ましく、250〜5,000のMnを有するのがより好ましく、300〜4,000のMnを有するのが特に好ましく、400〜4,000のMnを有するのがさらに好ましい。
【0043】
PMGは、無色であるか又は実質的に無色であるのが好ましい。ポリメリックビグアニドは、WO00/37258(援用により本明細書に含める)の1ページ第28行(すなわち、式(1)又はその塩から始まって)から3ページ第13行に記載の通りであるのが好ましい。塩化物イオンの非存在下にてジアミンとジシアンイミド(dicyanimide)とを溶液重合することによって製造されるポリメリックビグアニドを使用すると、定着剤中の低い塩化物イオン濃度を達成することができる。例えば、塩化物イオンの非存在下にて行うこと以外は、GB特許出願番号1,152,243の1ページ第2欄第54行〜4ページ第37行に記載の方法に従って行う(例えば、この方法においては塩酸の使用を避け、ジアミンが塩の形態をとっている場合は、HCl塩以外の塩を使用する)。
【0044】
本発明の印刷法の工程(a)において使用するインクは、液体媒体と着色剤を含むのが好ましい。好ましい液体媒体としては、水、水と有機溶媒との混合物、及び水を含有しない有機溶媒などがある。液体媒体が水と有機溶媒との混合物を含む場合、水対有機溶媒の重量比は、99:1〜1:99であるのが好ましく、99:1〜50:50であるのがより好ましく、95:5〜80:20であるのが特に好ましい。
【0045】
水と有機溶媒との混合物中に存在する有機溶媒は、水溶性の有機溶媒又はこのような有機溶媒の混合物であるのが好ましい。好ましい水溶性有機溶媒としては、C1-6−アルカノール(好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノール、及びシクロヘキサノール);直鎖状アミド(好ましくは、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド);ケトンとケトン−アルコール(好ましくは、アセトン、メチルエーテルケトン、シクロヘキサノン、及びジアセトンアルコール);水溶性エーテル(好ましくは、テトラヒドロランやジオキサン);ジオール〔好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオール(例えば、ペンタン−1,5−ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、及びチオジグリコール)、及びオリゴ−アルキレングリコールとポリ−アルキレングリコール(好ましくは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール)〕;トリオール(好ましくは、グリセロールや1,2,6−ヘキサントリオール);ジオールのモノ−C1-4−アルキルエーテル〔好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ−C1-4−アルキルエーテル(特に、2−メトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]−エタノール、及びエチレングリコールモノアリルエーテル)〕;環状アミド(好ましくは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、カプロラクタム、及び1,3−ジメチルイミダゾリドン);環状エステル(好ましくはカプロラクトン);ならびにスルホキシド(好ましくは、ジメチルスルホキシドやスルホラン);などがある。液体媒体は、水と2種以上(特に2〜8種)の水溶性有機溶媒を含むのが好ましい。
【0046】
液体媒体が水を含有しない有機溶媒(すなわち、水が1重量%未満)を含む場合、該有機溶媒は、30〜200℃の沸点を有するのが好ましく、40〜150℃の沸点を有するのがより好ましく、50〜125℃の沸点を有するのが特に好ましい。有機溶媒は、水不混和性溶媒であっても、水溶性溶媒であっても、あるいはこのような溶媒の混合物であってもよい。好ましい水溶性有機溶媒は、前述した水溶性有機溶媒及びそれらの混合物のすべてである。好ましい水不混和性溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素;エステル(好ましくは酢酸エチル);塩素化炭化水素(好ましくはCH2Cl2);エーテル(好ましくはジエチルエーテル);及びこれらの混合物;などがある。
【0047】
液体媒体が水不混和性の有機溶媒を含む場合は、極性溶媒が含まれるのが好ましい。なぜなら、極性溶媒は、液体媒体中への染料の溶解度を高めるからである。極性溶媒の例としては、C1-4−アルコールがある。
【0048】
水を含有しない有機溶媒は、単一の有機溶媒であってもよいし、あるいは2種以上の有機溶媒の混合物であってもよい。液体媒体が水を含有しない有機溶媒である場合、該液体媒体は、2〜5種の異なった有機溶媒の混合物であるのが好ましい。これにより、乾燥特性と貯蔵安定性に対して良好な制御をもたらす媒体を選択することが可能となる。
【0049】
水を含有しない有機溶媒を含んだ液体媒体は、速い乾燥時間が必要とされる場合には特に有用である。
インクは、
(i) 0.5〜20部の着色剤;
(ii) 50〜98部の水;及び
(iii) 20〜50部の水溶性有機溶媒;
を含むのが好ましく、このとき部は全て重量部であり、部(i)と(ii)と(iii)の合計は100である。インクジェット印刷に適したいかなる着色剤も、本発明のインクにおいて使用することができる。好ましい着色剤は、有機(カーボンブラックを含む)又は無機の分散染料及び水溶性染料であってよい顔料であり、さらに好ましいのは水溶性アゾ染料である。
【0050】
着色剤は、水溶性/分散性を付与又は促進するための1つ以上の基を有するのが好ましい。このような基の例としては、−COOH、−SO3H、−PO32、モルホリニル、ピペラジニル、及びこれらの塩などがある。
【0051】
着色剤が顔料である場合、インクはさらに、顔料の安定な分散をもたらすための適切な分散剤をインク中に含有するのが好ましい。これとは別に、顔料は、米国特許第5,922,118号に記載のような、共有結合したスルホ基、カルボキシ基、又は他のアニオン性、非アニオン性、もしくはカチオン性の基を有する自己分散性の顔料であってもよいし、あるいは国際特許出願WO99/51690に記載のような、結合したポリマーを有する自己分散性の顔料であってもよい。
【0052】
本発明のインクにおいて使用される顔料の平均粒径は1μm未満であるのが好ましい。
本発明のインクは、単一の着色剤を含有してもよいし、あるいは2種以上の着色剤の混合物を含んでもよい。
【0053】
本発明の第3の態様において使用されるインクに使用することができる顔料の例としては、米国特許第5,085,698号の第7欄第36行〜第8欄第48行、及び米国特許第5,846,307号の第3欄第21行〜第52行(これらの特許の開示内容を援用により本明細書に含める)に記載の顔料がある。さらに、官能化された顔料〔例えば、キャボット・コーポレーション(Cabot Corporation)に属する特許に記載の顔料〕も使用することができる。
【0054】
本発明の第3の態様の方法において使用されるインクに使用することができる染料の例としては、アベシア社(Avecia)から市販のPro−Jet(商標)、及び米国特許第4,725,849号の第4欄第13行〜第6欄第13行(該特許の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載の染料がある。
【0055】
一般には、本発明のインクは、異なった色の少なくとも4種のインク(例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、及びブラック)を含むインクセットの一部である。このようなインクセットの例が、米国特許第5,749,951号、第5,888,284号、第5,948,154号、第6,183,548号、第5,738,716号、及び第6,153,000号に記載されている。
【0056】
着色剤はインク中に、インクの重量を基準として0.5〜20重量部の濃度にて存在するのが好ましく、1〜15重量部の濃度にて存在するのがさらに好ましく、1〜5重量部の濃度にて存在するのがさらに好ましい。
【0057】
本発明のインクはさらに、インクジェット印刷インクに従来から使用されている追加成分(例えば、粘度変性剤、表面張力変性剤、腐食抑制剤、紙のカールを防ぐための添加剤、殺生物剤、コゲーション減少用添加剤(kogation reducing additives)、分散剤、及びイオン性であっても非イオン性であってもよい界面活性剤)を含有してよい。工程(b)において使用される液体媒体は、水、有機溶媒、及び水と1種以上の水溶性有機溶媒との混合物から選択するのが好ましい。好ましい溶媒と溶媒系は、インク用の液体媒体に関して前記したリストから選択される。
【0058】
好ましいPMGは、本発明の第3の態様に関して前記した通りである。
工程(b)において使用される定着用組成物は、必要に応じてバインダーをさらに含有してもよい。バインダーは、ポリマーバインダー又は重合可能なバインダーであるのが好ましく、水溶性もしくは水分散性の重合可能なバインダー又はポリマーバインダー、あるいは疎水性バインダーであるのがさらに好ましい。好ましい水溶性のポリマーバインダー及び重合可能なバインダーとしては、スターチ〔好ましくはヒドロキシアルキルスターチ(例えばヒドロキシエチルスターチ)〕;セルロース類(例えば、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースとその塩、及び酢酸セルロース);ブチラート;ゼラチン;ガム(例えば、グアーガム、キサンタンガム、及びアラビアガム);ポリビニルアルコール;ポリビニルホスフェート;ポリビニルピロリドン;ポリビニルピロリジン;ポリエチレングリコール;加水分解ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンイミン;ポリアクリルアミド類〔例えば、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、及びポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸〕;アクリルアミド−アクリル酸コポリマー;ポリビニルピリジン;ポリビニルホスフェート;ビニルピロリドン−酢酸ビニルコポリマー;ビニルピロリドン−スチレンコポリマー;ポリビニルアミン;ポリ(ビニルピロリドンジアルキルアミノアルキルアルキルアクリレート)(例えばポリビニルピロリドン−ジエチルアミノメチルメタクリレート);酸官能性のアクリルポリマーとアクリルコポリマー;アミン官能性のアクリルポリマーとアクリルコポリマー(例えばポリジメチルアミノエチルメタクリレート);酸官能性もしくはアミン官能性のウレタンポリマー(好ましくは、ジメチロールプロパン酸及び/又はペンダントもしくは末端のポリエチレングリコールを含有するウレタンポリマー);イオン性ポリマー、特にカチオン性ポリマー〔例えば、塩化ポリ(N,N−ジメチル−3,5−ジメチレンピペリジニウム)〕;及びポリエステル;などがある。
【0059】
水分散性バインダーより水溶性バインダーのほうが好ましい。なぜなら、乾燥時間が速く、インクジェットプリンターにおいて使用される微細ジェットを詰まらせる傾向がより低いからである。水溶性バインダーと水分散性バインダーとの組み合わせ物も、機械的強度が向上する、シートがくっつきにくくなる、そしてインクの吸収性が良くなる、という点から有益となりうる。
【0060】
特に注目すべきバインダーは、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はこれらの組み合わせ物を含む。
定着用組成物がバインダーを含有する場合、バインダーと、複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーとの重量比は、99:1〜1:99であるのが好ましく、60:40〜15:85であるのがさらに好ましく、50:50〜20:80であるのがさらに好ましく、30:70〜20:80であるのがさらに好ましい。
【0061】
複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーとバインダー(存在する場合)は、液体媒体中に分散させるのが好ましく、液体媒体中に溶解させるのがさらに好ましい。
【0062】
1つの実施態様においては、工程(b)において使用する定着用組成物がバインダーを含有しない。
塩化物の濃度は、任意の適切な分析法によって測定することができる。しかしながら、塩化物イオンの濃度はイオンクロマトグラフィーによって測定するのが好ましく、これによれば、定着用組成物又はその適切な希釈物をイオン交換カラムに通し、分離したイオンを電導度検出器(conductivity detector)によって検出する。
【0063】
定着用組成物は、25℃にて20cP未満の粘度を有するのが好ましく、10cP未満の粘度を有するのがより好ましく、5cP未満の粘度を有するのが特に好ましい。これらの低粘度組成物は、インクジェットプリンターによって被印刷物に施すのに特に適している。
【0064】
工程(b)において使用する定着用組成物は、(定着用組成物の成分に結合した二価金属イオンと三価金属イオン以外の)二価金属イオンと三価金属イオンの合計量を、重量基準にて500ppm未満含有するのが好ましく、250ppm未満含有するのがよりに好ましく、100ppm未満含有するのが特に好ましく、10ppm未満含有するのがさらに好ましい。
【0065】
定着用組成物は、10μm未満の平均細孔径を有するフィルターを通して濾過するのが好ましく、3μm未満の平均細孔径を有するフィルターを通して濾過するのがより好ましく、2μm未満の平均細孔径を有するフィルターを通して濾過するのが特に好ましく、1μm未満の平均細孔径を有するフィルターを通して濾過するのがさらに好ましい。この濾過によって、多くのインクジェットプリンターにおいて見られる微細ノズルを詰まらせる可能性を有する粒状物質が除去される。
【0066】
インクジェットプリンターによって被印刷物に施すのに適した定着用組成物として使用できる好ましい組成物は、
(a) 複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基あるいはその塩を含有するポリマーを0.1〜10部;
(b) バインダーを0〜10部;
(c) 水溶性の有機溶媒を30〜60部;及び
(d) 水を35〜80部;
含み、このとき部は全て重量部であり、部(a)と(b)と(c)と(d)との合計数が100であり、そして塩化物イオンの含量が重量基準で400ppm未満である。
【0067】
この組成物は、本発明の第4の特徴を形成する。
定着用組成物の塩化物濃度は、重量基準で300ppm未満であるのが好ましく、200ppm未満であるのがより好ましく、100ppm未満であるのが特に好ましく、50ppm未満であるのがさらに好ましい。
【0068】
定着用組成物の塩化物濃度は、任意の適切な分析法によって測定することができ、定着用組成物の脱イオン水溶液を作製し、この溶液を実施例に記載のイオンクロマトグラフィーにて処理することによって測定するのが好ましい。
【0069】
好ましい水溶性有機溶媒、ポリマー、及びバインダーは、本発明の他の態様に関して前述した通りである。被印刷物は、紙、プラスチック、繊維素材、金属、又はガラスであるのが好ましく、紙、繊維素材、又はプラスチックフィルム〔特に透明フィルム(例えばオーバーヘッドプロジェクター用スライドフィルム)〕であるのがさらに好ましい。被印刷物は、紙(特にコート紙、そして特にオフセットタイプの軽量コート紙)、繊維素材、又は透明フィルムであるのが特に好ましい。
【0070】
好ましい紙は、酸性であっても、アルカリ性であっても、もしくは中性であってもよい普通紙又は表面加工紙である。
好ましいプラスチックフィルムは透明ポリマーフィルム、特にオーバーヘッドプロジェクター用スライドフィルム〔例えば、ポリエステル(特にポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、二酢酸セルロースフィルム、及び三酢酸セルロースフィルム〕として使用するのに適した透明ポリマーフィルムである。
【0071】
好ましい繊維素材は、天然、合成、及び半合成の繊維素材である。好ましい天然繊維素材物質の例としては、羊毛、絹、髪、及びセルロース系物質などがあり、具体的にはコットン、ジュート、麻布、亜麻布、及びリンネルが挙げられる。好ましい合成及び半合成物質の例としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、及びポリウレタンがある。
【0072】
本発明の方法を使用して得られる印刷物はさらに、色のにじみが少なく、印刷品質が高く、場合によっては、連鎖延長ポリマーを使用せずに製造した印刷物と比較してより高い光堅牢性を有する。さらに、PMGを使用しても、インクの色調や色あいに目立った影響を与えず、印刷された被印刷物は変色を起こさない。
【0073】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第2の態様による方法によって画像が印刷された被印刷物が提供される。好ましい被印刷物は、本発明の第2の態様に関して前記したとおりである。
【0074】
本発明の第6の態様によれば、
(a) 本発明の第4の態様による定着用組成物;及び
(b) 着色剤と液体媒体を含んだインク;
を含む、インクジェットプリンターにおいて使用するのに適した一組の液体が提供される。
【0075】
インク、着色剤、水溶性有機溶媒、及びバインダーは、本発明の第1の態様において定義したとおりである。
本発明の第6の態様による前記一組の液体は、インクジェットプリンター中に格納するのが好ましい。すなわち、本発明はさらに、印刷メカニズムと本発明の第6の態様において定義したとおりである場合の一組の液体とを含むインクジェットプリンターを提供する。前記一組の液体は、インクジェットプリンター中に存在する1つ又は1つより多いカートリッド中に収容することができる。
【0076】
本発明はさらに、複数のチャンバーと一組の液体とを含んでいて、このとき前記液体が、インクジェットプリンター・カートリッジの個別のチャンバー中に収容され、前記一組の液体が本発明の第5の態様において定義したとおりであるインクジェットプリンター・カートリッジを提供する。
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、特に明記しない限り、部とパーセントは重量基準である。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
溶融重合によるポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート(“PMG−Ac”)の製造
酢酸グアニジン(65g)と1,6−ヘキサメチレンジアミン(66.7g)を250mlの丸底フラスコ中に仕込み、混合した。N2ガスの雰囲気下で攪拌しながら混合物を120℃に加熱し、N2ガスの雰囲気下で攪拌を4時間続けた。次いで温度を150℃に上げ、反応混合物をこの温度でさらに20時間攪拌した。反応混合物を室温に自然冷却し、次いで同じ体積の蒸留水と混合し、80℃に加熱し、溶液が形成されるまでこの温度で保持した。溶液を冷却し、酢酸を使用してpHをpH7に調節し、本混合物を蒸留水を使用して25%固形分になるよう希釈した。こうして得られたPMG−Acは、ゲル透過クロマトグラフィーによる測定で1120の平均分子量(Mw)を有した。
【0079】
(比較例1a)
溶融重合によるポリ(ヘキサメチレングアニジン).HCl(“PMG.HCl”)の製造
塩酸グアニジン(450g)と1,6−ヘキサメチレンジアミン(547.4g)を2リットルの丸底フラスコ中に仕込み、実施例1と類似の仕方で溶融重合した。こうして得られたPMG.HClは、水性ゲル透過クロマトグラフィーによる測定で1620のMwを有した。
【0080】
(比較例1b)
PMG.HClからのポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテートの製造
段階(i)
より短い時間にわたって溶融重合を行ったこと以外は、比較例1aに記載の方法を繰り返した。こうして得られたPMG.HClは、水性ゲル透過クロマトグラフィーによる測定で1050のMwを有した。
【0081】
段階(ii)
段階(i)からのPMG.HCl溶液(水中25%濃度溶液100g)と水酸化ナトリウム(50重量%濃度,100g)とを混合した。得られた沈殿物を単離し、10%水酸化ナトリウム水溶液で繰り返し洗浄し、次いで蒸留水で洗浄してPMG遊離塩基を得た。これに水を加え、次いでpHが7の値に達するまで酢酸水溶液(15重量%濃度)を加えることによって、PMGの酢酸塩に転化させた。
【0082】
(比較例1c)
PMG塩酸塩からのポリ(ヘキサメチレングアニジン)ホスフェートの製造
酢酸水溶液(15重量%濃度)の代わりにリン酸水溶液(15重量%濃度)を使用したこと以外は、比較例1(b)に記載の手順を繰り返した。
【0083】
塩化物の分析
上記PMGの25%濃度(水中)サンプル中の塩化物イオンの濃度を測定するのに2つの方法を使用した。
【0084】
比較例1a、1b、及び1cの場合は塩化物の含量が高いので、分析は、硝酸銀溶液を使用する従来の滴定によって行った。
実施例1の塩化物含量は、硝酸銀溶液を使用する従来の滴定では検出限界に満たないことがわかった。したがって、より高い感度の方法が必要とされた。実施例1の塩化物濃度を測定するのに使用した方法では、ダイオネックス・イオンパック・アニオン交換カラム(AS4A(商標))を取り付けたダイオネックス(Dionex)(商標)イオンクロマトグラムを使用し、炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム溶離液で溶離し、電導度検出器を使用してイオンの検出と測定を行った。
【0085】
得られた結果を下記の表Aに示す。
【0086】
【表2】

【0087】
(実施例2−定着用組成物の製造)
定着用組成物1
実施例1からのPMG−Ac(水中25%濃度溶液20部)を、2−ピロリドン(9部)とチオジエチレングリコール(9部)とシクロヘキサノール(2部)と水(60部)とからなる液体媒体中に溶解することによって、定着用組成物(以後、“定着用組成物1”と呼ぶ)を作製した。
【0088】
比較用の定着用組成物1
実施例1からのPMG−Ac(20部)の代わりに比較例1aからのPMG(水中25%濃度溶液20部)を使用したこと以外は、上記の定着用組成物1に関して記載した手順と全く同様に定着用組成物を作製した。
【0089】
比較用の定着用組成物2
実施例1からのPMG−Ac(20部)の代わりに脱イオン水(20部)を使用したこと以外は、上記の定着用組成物1に関して記載した手順と全く同様に定着用組成物を作製した。
【0090】
比較用の定着用組成物3
実施例1からのPMG−Ac(20部)の代わりに比較例1bからのPMG(水中25%濃度溶液20部)を使用したこと以外は、上記の定着用組成物1に関して記載した手順と全く同様に定着用組成物を作製した。
【0091】
インクAの作製
インクAの処方は以下のとおりであった。
【0092】
【表3】

【0093】
インクジェット印刷
表Bに記載の定着用組成物を、個別の実験において1つのチャンバー中に入れ、インクAを、3チャンバーのオリベッティJP192(商標)スタンダード3カラー・サーマルインクジェットプリンターの別のチャンバー中に入れた。定着用組成物をゼロックス酸性紙上に印刷し、次いで直ちにインクAを印刷した。
【0094】
得られた印刷物を下記に記載のように評価した。
湿潤堅牢性の評価
インクで平行バーのパターンに印刷した紙を、平行バーが水平方向になるように45度の角度で支持体に貼り付けた。ピペットを使用して、平行バーの頂部よりわずかに上の位置にて、印刷物上に0.5mlの蒸留水(pH6〜7)を供給し、印刷物上での水の流れ落ち(run down)が、印刷されたバーに対してできるだけ直角に近くなるように注意した。
【0095】
印刷物を5分乾燥した後、印刷されたバー4〜6の汚れた部分の平均反射光学濃度〔“ODステインド(OD Stained)”〕と汚れていない未印刷部分の平均反射光学濃度〔“バックグラウンドOD(Background OD)”〕を、Xライト・スペクトロデンシトメータ(X rite Spectrodensitometer)を使用して測定した。印刷物において水が未印刷部分への侵入(すなわち“流れ落ち”)を引き起こした程度を下記の式によって算出した。
【0096】
流れ落ち=(ODステインド−バックグラウンドOD)
蛍光ペン汚れ(Highlighter Smear)
湿潤堅牢性の評価に関して上記したように紙を印刷した。スタビロ・ボス(Stabilo Boss)(商標)イエロー蛍光ペンである“スタビロ・ハイライター(Stabilo highlighter)”とサンフォード・メジャー・アクセント(Sanford Major Accent)(商標)イエロー蛍光ペンである“サンフォード・ハイライター(Sanford highlighter)”を使用して、印刷から24時間後に、蛍光ペン汚れ試験を行った。紙の未印刷部分上で蛍光ペンを2回引き、次いで印刷されたバーとそれに隣接した未印刷部分上で蛍光ペンを2回引くことによって試験を行った。蛍光ペンを2回より多く引いておいた紙の未印刷部分に対して平均反射光学濃度を測定した(“バックグラウンドOD”)。さらに、蛍光ペンを2回より多く引いておいた印刷部分に隣接した紙の部分に対して平均反射光学濃度を測定した〔“ODスミアード(OD Smeared)”〕。印刷物において蛍光ペンが紙の未印刷部分への汚れ(すなわち“蛍光ペン汚れ”)を引き起こした程度を下記の式によって算出した。
【0097】
蛍光ペン汚れ=(ODスミアード−バックグラウンドOD)
流れ落ちと蛍光ペン汚れの結果を下記の表1に示す。値がより小さいということは、流れ落ちがより少なく(すなわち、湿潤堅牢性がより良好)、蛍光ペン汚れがより少ないということを示している。
【0098】
結果
【0099】
【表4】

【0100】
表1から、定着用組成物1は、水−ブランク(比較用の定着用組成物2)より良好な水堅牢性(water−fastness)を、そしてより高い塩化物イオン濃度を有する比較用の定着用組成物1及び3と同等の水堅牢性を有することがわかる。
【0101】
(実施例3)
定着用組成物4及び比較用の定着用組成物4aと4bの製造
表Bに記載の定着用組成物を製造した。表Bにおいて、部は全て重量部である。PMGの部数は、水中25%濃度溶液の部数を表わしている。
【0102】
【表5】

【0103】
定着用組成物4及び比較用の定着用組成物4aと4bを、未使用のHP660(商標)3チャンバー・カートリッジの3つの全てのチャンバーに別個に仕込んだ。各チャンバー中の組成物は下記のように射出した:
イエローチャンバー − 2000万の小滴
マゼンタチャンバー − 3000万の小滴
シアンチャンバー − 4000万の小滴
試験後、インクカートリッジを取り外し、ノズルプレート上の抵抗器を顕微鏡で調べた。各ヘッドに対するkogationのレベルを次のようにスコア付けした:
1 − 優良−kogationなし
2 − kogationtが殆ど認められない
3 − kogationが幾らか認められる
4 − kogationが多く認められる
5 − kogationの程度が大
結果を表Cに示す。
【0104】
【表6】

【0105】
表Cから、本発明による定着用組成物4は、比較用の定着用組成物よりkogationが少ないことがわかる。
(実施例4)
溶媒重合によるポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート(“PMG−Ac”)の製造
N−メチルピロリドン(32.93g)、酢酸グアニジン(65g)、及び1,6−ヘキサメチレンジアミン(66.7g)を250mlの丸底フラスコ中に仕込み、混合した。N2ガスの雰囲気下で攪拌しながら混合物を120℃に加熱し、N2ガスの雰囲気下で攪拌を4時間続けた。次いで温度を170℃に上げ、反応混合物をこの温度でさらに11.1時間攪拌した。反応混合物を室温に自然冷却し、次いで同じ体積の蒸留水と混合し、80℃に加熱し、溶液が形成されるまでこの温度で保持した。溶液を冷却し、酢酸を使用してpHをpH7に調節し、本混合物を蒸留水を使用して25%固形分になるよう希釈した。こうして得られたPMG−A2は、ゲル透過クロマトグラフィーによる測定によれば1000の数平均分子量(Mn)と5160の重量平均分子量(Mw)を有した。
【0106】
(実施例5〜12−溶媒重合)
N−メチルピロリドンの代わりに表Dの第2欄に記載の溶媒(括弧内に量を示す)を使用したこと以外は、実施例4に記載の方法を繰り返した。
【0107】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) インクジェットプリンターによって被印刷物にインクを施して、被印刷物上に画像を形成させる工程;及び
(b) 塩酸グアニジン以外のグアニジン塩とC3-18−ヒドロカルビルジアミンとの溶媒重合又は溶融重合によって得られる複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーと液体媒体とを含んだ定着用組成物をインクジェットプリンターによって被印刷物に施す工程;
を任意の順序で又は同時に行うことを含み、定着用組成物が重量基準で400ppm未満の塩化物濃度を有することを特徴とするインクジェット印刷法。
【請求項2】
定着用組成物を局在化された仕方で被印刷物に施し、工程(a)と(b)においてインクと組成物を施す区域が実質的に同一の広がりを持つ、請求項1に記載の印刷法。
【請求項3】
複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーが、ポリモノグアニド及び/又はポリメリックビグアニドである、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷法。
【請求項4】
複数のモノグアニド基及び/又はビグアニド基を含有するポリマーがポリモノグアニドである、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷法。
【請求項5】
ポリモノグアニドが、式(1)
【化1】

で示される基、及び/又は式(2)
【化2】

で示される基、あるいはこれらの塩を複数含み、式中
各mは独立に0又は1であり;
各Yは独立にC3-18−ヒドロカルビル基であり;
AとBは、一緒にして合計で3〜18個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;そして
各Rは独立に、水素、置換されていてもよいアルキル、又は置換されていてもよいアルコキシである;請求項4に記載のインクジェット印刷法。

【公開番号】特開2009−113499(P2009−113499A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47817(P2009−47817)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【分割の表示】特願2003−580089(P2003−580089)の分割
【原出願日】平成15年2月27日(2003.2.27)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】