説明

組換えウシ血清アルブミン(rBSA)の発現、分泌及び精製、並びにその使用

(a)rBSAを直鎖DNAとともに一晩温置し、ゲル電気泳動法によって測定された場合に、デオキシリボヌクレアーゼ活性を実質的に欠如し;(b)動物由来の細胞増殖補助剤と結合した動物ウイルスを欠如し;及び(c)DNAタンパク質を安定化できる、組換えBSA(rBSA)が提供される。rBSAを作製し、これを使用して酵素を安定化するための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ウシ血清アルブミン(BSA)は、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、ブロット及び免疫組織化学を含む数多くの用途において、希釈剤又はブロッキング剤として使用される。さらに、未変性BSAは、タンパク質の精製中若しくは精製後に、若しくは生物アッセイにおいて、前記タンパク質の安定性を増大させるために、又は反応用試験管及び他の容器に対する酵素の接着を防止するために日常的に使用されている。
【0002】
近年、ウシ由来のBSA中に動物ウイルス及び伝達性海綿状脳症(TSE;狂牛病の原因)の脅威が存在し得るため、多くの医薬及び生物工学産業での用途において、動物生成物の使用に対する懸念が高まっている。BSAの調製に関する最新の方法は、ウシ血漿からタンパク質を精製すること、及びこれらの混入物質の存在について検査することを包含する。しかしながら、検査は、公知のウイルス又はTSEを検出することができるに過ぎず、現在発見されていない感染性病原体を対象としていない。それゆえ、動物由来の全ての感染性病原体が含まれていないことが確実なBSAを大規模に供給する別の方法は現在存在していない。さらに、本発明までは、組換えBSA(rBSA)が、その未変性対応物と同一のタンパク質安定化特性を有するかどうかは不明であった。
【発明の開示】
【0003】
(発明の概要)
一実施形態において、(a)rBSAを直鎖DNAとともに一晩温置し、ゲル電気泳動法によって測定された場合に、デオキシリボヌクレアーゼ活性を実質的に欠如し;(b)動物由来の細胞増殖補助剤と結合した動物ウイルスを欠如し;及び(c)DNAタンパク質を安定化できる、rBSA調製物が提供される。rBSAは、クルイベロミセス(Kluyveromyces)等の酵母生成系によって発現及び分泌され、本明細書では、クルイベロミセス・ラクチスが例示される。さらに、rBSA調製物には、さらに、リン酸塩緩衝液が含まれ得る。
【0004】
本発明の一実施形態において、反応混合物には、上述のrBSA、及び制限エンドヌクレアーゼ等のDNAタンパク質が含まれ得る。反応混合物には、50%グリセロールも含まれ得る。
【0005】
本発明の一実施形態において、(a)組換えウシ血清アルブミン(rBSA)を直鎖DNAとともに一晩温置し、及びゲル電気泳動法によって測定された場合に、デオキシリボヌクレアーゼ活性を実質的に欠如し;(b)動物由来の細胞増殖補助剤と結合した動物ウイルスを欠如し;並びに(c)DNAタンパク質を安定化できる、rBSA調製物をDNAタンパク質の調製物へ添加することを含む、DNAタンパク質を安定化するための方法が提供される。
【0006】
本発明の一実施形態において、(a)動物由来のものを含まない培地中で、クルイベロミセス・ラクチス等のクルイベロミセス系においてrBSAを組換え的に発現すること;及び(b)精製されたrBSAを熱処理することを含む、DNAタンパク質を安定化するためのrBSA調製物を調製するための方法が提供される。
【0007】
(発明の詳細な記述)
本発明の一実施形態において、rBSAの存在下で一晩の温置した後のDNA調製物のゲル電気泳動法によって測定された場合に、デオキシリボヌクレアーゼ活性が実質的に存在せず、さらに、動物由来の細胞増殖補助剤と結合した動物ウイルス混入物を欠如しているrBSAの調製が提供される。rBSAは、このような酵素を安定化するために、DNA結合酵素への添加に適した緩衝液中で提供される。調製物中で使用するのに適した緩衝液の一例は、pH6ないし8のリン酸塩緩衝液である。本明細書に記載されるrBSAは、クルイベロミセス種等の酵母細胞中で、産業規模への拡大に適した量で作製可能である。
【0008】
本発明の一実施形態において、クルイベロミセスは、rBSAを発現し、これを細胞培地中へ分泌するための宿主細胞として選択される。クルイベロミセスは、DNAと共に一晩温置することによって測定された場合に、デオキシリボヌクレアーゼを分泌しないように見受けられるので、クルイベロミセスには、他の真菌類を含む他の宿主生物体を上回る利点がある。これに対して、宿主細胞として使用される糸状真菌であるアスペルギルス(Aspergillus)(WO2006/066595)は、少なくとも1つのデオキシリボヌクレアーゼを分泌するように見受けられる(Lee et al.Appl Microbiol Biotechnol.44:425−31(1995))。
【0009】
驚くべきことに、分泌されたデオキシリボヌクレアーゼがクルイベロミセス中で見かけ上欠如しているにもかかわらず、本発明において、DNAを特異的に切断するのに使用される制限エンドヌクレアーゼ調製物にrBSAを添加した場合、DNAの非特異的分解を生じる1つ又はそれ以上のデオキシリボヌクレアーゼとともに、クルイベロミセス・ラクチス由来のrBSAが共精製することが発見された(図3)。理論に拘泥するものではないが、デオキシリボヌクレアーゼ活性は、組換えBSAタンパク質の本質的な特性であるか、又は宿主細胞からのrBSAの分泌の間に、rBSAと物理的に結合され得る細胞内デオキシリボヌクレアーゼから生じるかの何れかであることが、本発明において示唆される。
【0010】
アセチル化を使用した未変性BSAからのデオキシリボヌクレアーゼ活性の除去が報告されている(Trugillo et al.,Biotechniques 9:620−2(1990))。アセチル化されたBSAは、特定の好熱性DNAポリメラーゼ活性のインビトロでの安定化に関して問題であり得る。このような反応において、アセチル基は、BSAから、DNA重合を触媒する酵素の能力を除去するポリメラーゼへと転移され得る。
【0011】
実施例2は、精製されたrBSAの熱処理を包含するrBSAからデオキシリボヌクレアーゼを除去する方法を提供する。これは、アセチル化によるタンパク質の化学的修飾を必要とせずに、デオキシリボヌクレアーゼ活性を除去する。この方法を介して生成されるrBSAは、デオキシリボヌクレアーゼによるDNA基質の分解を生じずに、制限エンドヌクレアーゼを安定化できる(実施例3)。
【0012】
ヒト血清由来のHSAなどのウシ血清由来の未変性BSAは、血中のステロイドホルモン、脂肪酸、疎水性小分子及びイオン等の無数の分子を非特異的に結合及び輸送することが長く公知である。HSAとは異なり、BSAに関する主な使用は、BSAがその通常の生物学的機能とは異なる目的に利用される分子生物学の適用に関するものである。BSAがこれらの機能をどのように発揮し、未変性のBSAが、天然では通常遭遇しない酵素の活性をどのように安定化できるかについては知られていない。例えば、ウシ血清から精製されたBSAは、かなり多くの細菌の制限エンドヌクレアーゼのインビトロでの活性を安定化及び増大することが可能である。未変性のBSAの構造−機能の関係に関する不確実性の点において、(a)ウシ以外の宿主細胞において作製された精製済みのrBSAが、ウシ血清から精製されたタンパク質と同一の酵素安定化能を保持し得るかどうか;(b)ウシ血清中に存在する特定の分子の機能を発揮するために、前記分子が、未変性のBSAに関して相加的に又は相乗的に必要とされるかどうか;及び(c)酵母によって生成され、動物由来のものを含有しない培地中で増殖されるrBSAが、DNAタンパク質を安定化するなどの分子生物学の用途において使用されうるかどうかは、予測不可能である。「DNAタンパク質」は、本発明において、DNAに作用するそれらのタンパク質又は酵素を含むよう企図される。DNAタンパク質の例には、制限エンドヌクレアーゼ、ニッキングエンドヌクレアーゼ、メチラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、ヘリカーゼ及び刊行された米国の刊行された出願US−2006−0088868−A1に記載されるものなどのDNA修復酵素が含まれる。
【0013】
BSAに関して興味のある別の特徴は、HSAとBSAとの間のアミノ酸配列同一性の程度が高いことである(76%)。それにもかかわらず、これら2つのタンパク質の機能的特性は、有意に異なるようである。例えば、未変性HSA及び未変性BSAは、これらを固定化する色素を結合する能力に関する挙動が異なる(Antoni et al.Ital.J.Biochem.31:100−6(1982))。さらに、長鎖脂肪酸の存在下で、固定化された色素からのHSAの解離は、3倍増大するのに対し、BSAの解離は、約15倍増大する(Metcalf et al.Biochem.J.199:465−72(1981))。これらの差異は、クルイベロミセス・ラクチスにより発現されるrBSAが、クルイベロミセス・ラクチスにより発現されるrHSAを欠失するデオキシリボヌクレアーゼ活性とともに共精製するという実施例4における知見と一致している。さらに、DNAが、熱処理されていないrHSAの存在下で安定であるのに対し、DNAは、熱処理されていないrBSAの存在下で破壊された(図2A(iii)及びB(iii))。
【0014】
総合して考慮すると、これらの知見は、アミノ酸配列同一性の程度が高いにもかかわらず、rHSAとrBSAとの間に固有の測定可能な生化学的及び物理的差異があることを示している。従って、組換え発現されたHSA若しくはBSAが、非特異的酵素安定剤として未変性のHSA若しくはBSAのようにどの程度十分に機能し得るかを、又はたとえそうであるとしても推定することは不可能であった。実際、本発明者は、図2において、精製された熱処理済みのrBSA及びrHSAが、DNA基質を分解せずに、制限エンドヌクレアーゼPvuIの活性を安定化することが可能であることを示している。
【0015】
動物由来のものを含まない培地中でクルイベロミセス種によって発現されるrBSAは、DNAタンパク質を安定化するための改良された組成物及び方法を提供する。
2006年4月3日に出願された米国仮出願第60/788,850号、及び2006年12月20日に出願された第60/875,917号を含む、上述及び後述で引用される参考文献は全て、参照により組み入れられる。
【0016】
実施例
【実施例1】
【0017】
クルイベロミセス・ラクチスにおけるrBSAの発現及び分泌
それぞれ、次の順方向及び逆方向プライマー:5’−
【0018】
【化1】

を用いたRT−PCRを使用して、BSAをコードする遺伝子をウシ肝臓ポリA+RNA(Clontech,Mountain View,CA)から増幅した。順方向及び逆方向プライマーは、操作された制限酵素部位XhoI及びNotI(下線部)を含有する。さらに、順方向プライマーは、二塩基性のクルイベロミセス・ラクチスKex1プロテアーゼ切断部位KR(太字)をコードするDNA配列を組み込む。逆方向プライマーはまた、終止コドン(太字のイタリック体)を組み込み、両プライマー中のDNAをコードするBSAは、イタリック体で表される。SignalPソフトウェアを使用して、BSAシグナル配列を同定した。シグナルペプチドの改良された予測(Bendtsen et al.J.Mol.Biol.,340:783−795(2004)及びNielsen et al.Protein Engineering 10:1−6(1997))は、シグナルペプチダーゼによる切断が、18番目のアミノ酸と19番目のアミノ酸との間(Ser18−Arg19)で生じることを予測する。従って、順方向プライマー中のBSAをコードするDNA配列は、Arg19コドンで開始した。以下の周期条件下で、高い忠実度のDNA Polymerase Deep Vent(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)を使用して、BSAのDNA増幅を実施した:94℃で5分、80℃で1分、94℃で30秒、58℃で30秒、72℃で2分を30周期、及び最後に72℃で10分。クルイベロミセス・ラクチス発現ベクターpKLAC1(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)のXhoI及びNotI制限部位中に、BSAをコードする遺伝子をクローン化し、SacIIで直線化し、化学的に形質転換受容性のクルイベロミセス・ラクチスGG799細胞(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)中に形質転換した。5mMアセトアミドを含有するアガープレート上で、形質転換体を30℃で4日間選択した。発現カセットのゲノム組込み分析のため、5mMアセトアミドを含有するアガープレート上で、多くのコロニーを再度画線した。発現カセットの複数の組み込まれたコピーを含有する系の同定に特異的なプライマーを使用して、再度画線された形質転換体に関して全細胞PCRを実施した。1Mソルビトール中の10mg/mLリチカーゼ溶液25μL中で、形質転換細胞を前処理した。100μLの全反応容積中で組込みプライマー2(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA,カタログ番号S1278S)及び組込みプライマー3(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA,カタログ番号S1279S)を含有するPCR反応のためのテンプレートとして、リチカーゼ処理された細胞15μLを使用した。PCR反応混合物を95℃で10分間の後、80℃で2分間温置し、80℃で2分間温置する時点でTaqDNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)を添加した。次に、PCRは、以下の周期条件で進行した:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で3分を30周期、及び最後に72℃で10分。BSA発現カセットの複数の組み込まれたコピーを含有するものとして同定された形質転換体をさらに、前記形質転換体がrBSAを分泌する能力に関して評価した。クルイベロミセス・ラクチスの系を、30℃の振盪プラットフォーム恒温器で4日間、2mLのYPGal培養物中で増殖した。消費された培地を、3×タンパク質負荷緩衝液(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)と混合し、4ないし20%のトリス−グリシンポリアクリルアミド勾配ゲル上でのSDS−PAGEによって、タンパク質を分離した。クーマシー染色後、67kDaタンパク質としてBSAを同定した。
【0019】
5Lの作業容積の卓上発酵槽中で、rBSAを生成する系の発酵によって、rBSAの生成を実施した。−80℃で保存された貯蔵培養物を融解し、規定された発酵培地(組成については以下参照)100mLへ播種するために使用した。前培養物を30℃で、約8の細胞密度(OD600)まで増殖し、発酵を開始するために使用した。規定されたバッチ発酵培地は、動物由来の成分がなく、KHPO8.873g/L;KHPO1.724g/L、グルコース20g/L、MgSO・7HO0.5g/L、(NH)SO10g/L、CaCl・2HO0.33g/L、NaCl1g/L、KCl1g/L、CuSO・5HO0.005g/L、MnSO・HO0.03g/L、NaMoO・2HO0.008g/L、ZnCl0.01g/L、KI0.001g/L、CoCl・6HO0.002g/L、HBO0.0004g/L、FeCl・6HO0.015g/L、ビオチン0.0008g/L、Ca−パントテナート0.02g/L、チアミン0.015g/L、ミオイノシトール0.016g/L、ニコチン酸0.010g/L、及びピリドキシン0.004g/Lから構成された。前培養ブロス60mLを使用して、バッチ培地3Lに播種した。発酵中のpH及び温度をそれぞれ6℃及び30℃で維持した。定常速度(5rpm)で空気を発酵槽中に散布し、撹拌速度を変動させることによって、溶存酸素(DO)を飽和の30%で維持した。バッチ培地中のグルコースを約17時間で完全に消費し、その時点で、グルコース供給段階を開始した。供給培地は、動物由来の成分がなく、グルコース448g/L、MgSO・7HO6g/L、CaCl・2HO1.65g/L、NaCl1g/L、KCl1g/L、CuSO・5HO0.0075g/L、MnSO・HO0.045g/L、NaMoO・2HO0.012g/L、ZnCl0.015g/L、KI0.0015g/L、CoCl・6HO0.003g/L、HBO0.0006g/L、FeCl・6HO0.0225g/L、ビオチン0.0032g/L、Ca−パントテナート0.080g/L、チアミン0.060g/L、ミオイノシトール0.064g/L、ニコチン酸0.040g/L、及びピリドキシン0.016g/Lから構成された。指数関数的に増大する速度でグルコース供給を導入し、約0.12/時で増殖速度を調節した。グルコース供給約1.1Lを添加した。この後、ガラクトース供給段階が続いた。ガラクトース供給培地は、グルコース供給培地と同一であったが、例外は、ガラクトースが、グルコースの代わりに448g/Lで存在していることであった。植物(サトウダイコン)由来のガラクトースを、牛乳由来のガラクトースに代わりに使用した。ガラクトース供給約1.1Lを40mL/時の定常速度で添加した。総発酵時間は、65時間であった。
【0020】
クルイベロミセスの他の生成系の例には、クルイベロミセス・マルキアヌス(K.marxianus)種フラジリス(fragilis)が含まれる。他の酵母生成系には、ヤロウイア(Yarrowia)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)及びサッカロミセス(Saccharomyces)が含まれる。
【実施例2】
【0021】
rBSAの精製
イオン交換及び分子ふるいクロマトグラフィーによって、クルイベロミセス・ラクチスにより消費された培地から、rBSAを精製した。特に、rBSAをまず、DEAEカラムに結合させ、緩衝液A(50mMトリス−Cl pH7.5、0.1mMEDTA、10mMDTT及び5%グリセロール)中の50mMないし1MのNaCl勾配で溶出した。SDS−PAGEによる溶出済みのタンパク質の分離及びクーマシー染色によるrBSAの可視化の後、rBSAを含有する画分を同定した。rBSAを含有する画分をプールし、ソースQカラムを通過させた。緩衝液A中の50mMないし1M NaCl勾配中で、結合したタンパク質を溶出した。SDS−PAGEによる溶出済みタンパク質の分離及びクーマシー染色によるrBSAの可視化の後、rBSAを含有する画分を同定した。rBSAを含有する画分をプールし、Superdex75分子ふるいカラムを通過させた。SDS−PAGEによる画分試料の分離及びクーマシー染色による可視化の後、rBSAを含有する画分を同定した。1mg/mLの作業溶液にrBSAを濃縮した。図1は、SDS−PAGEによって分離されるとき、精製済みrBSAが、ウシ由来のBSAと同様に移動することを示す。rBSAと共精製したヌクレアーゼ活性を不活性化するため、精製済みrBSA(1mg/mL)を80℃で2時間熱処理した。rBSAをその後0.22μMフィルターで濾過した。
【実施例3】
【0022】
rBSAを使用する制限エンドヌクレアーゼ機能の安定化
rBSAが、未変性ウシ由来BSAと同一の様式で酵素安定剤として挙動し得るかどうかを決定するため、制限エンドヌクレアーゼPvuIを使用して安定化アッセイを実施した。本アッセイにおいて、100mMNaCl、10mMMgCl、及び1mMジチオスレイトールを含有する50mMトリス−HCl中の基質としてHindIIIで消化されたλDNA1μgを含有する制限消化物の2倍連続希釈にPvuI1単位を供した。各希釈シリーズを含む反応物に、0.1μg/mLの終濃度の精製済み未変性BSA(図2A(ii))、精製済みの熱処理されていないrBSA(図2A(iii))又は精製済みの熱処理されたrBSAを補充した。反応物を37℃で一晩温置し、1%アガロースゲル上での消化済みDNAの分解及び臭化エチジウム染色による可視化の後、酵素の効率性を測定した。標的DNA基質の不完全な消化は、2300bpバンドの出現によって最も良好に観察された(図2中の矢印によって示された。)。
【0023】
PvuI安定性は、BSAの非存在下で損なわれ、DNA切断の効率性の低下に至る(図2A(ii))。精製済みの熱処理されていないrBSAの添加によって、全てのレーンでDNA基質のヌクレアーゼによる分解が生じた(図2A(iii))。精製済みの熱処理されたrBSAの存在によって、PvuI活性は、精製済みの未変性BSAと同一の程度まで安定化された。
【0024】
精製済みの熱処理されていないrHSA(図2Bの左から3番目のパネル)及び精製済みの熱処理されたHSA(図2Bの右のパネル)を使用して、消化物の同一のシリーズも実施した。熱処理されていないrHSAは、前記rHSAと結合しているヌクレアーゼ活性を有さなかった(図2B(iii))が、熱処理されない限り、PvuI活性も安定化しなかった(図2B(iv))。
【0025】
これらの結果は、クルイベロミセス・ラクチスにおいて生じ、消費された培地から精製された精製済みの熱処理されたrBSAが、ウシ由来のBSAと関連した潜在的な危険性なく、未変性のウシ由来BSAと同程度の効率的に酵素安定剤として作用することを示している。
【実施例4】
【0026】
rBSAとrHSAとの比較
実施例1に記載のとおり、rBSAを調製及び精製した。
【0027】
rHSAを産生するクルイベロミセス・ラクチスの系の構築は、既に記載されていた(Colussi & Taron Appl.Environ.Microbiol.71:7092−8(2005))。5Lの作業容積の卓上発酵槽において、本系の発酵を実施した。−80℃で保存された貯蔵培養物を融解し、規定された発酵培地100mLへ播種するために使用した。前培養物を30℃で、約8の細胞密度(OD600)まで増殖し、発酵を開始するために使用した。前培養物にも使用される規定されたバッチ発酵培地は、rBSA発酵物に関して使用されるものと同一であったが、例外は、MgSO・7HO1g/Lが存在することであった。前培養ブロス40mLを使用して、バッチ培地2Lに播種した。発酵中のpH及び温度をそれぞれ6℃及び30℃で維持した。定常速度(5lpm)で空気を発酵槽中に散布し、撹拌速度を変動させることによって、溶存酸素(DO)を飽和の30%で維持した。バッチ培地中のグルコースを約17時間で完全に消費し、その時点で、グルコース供給段階を開始した。供給培地は、rBSA発酵に使用されるものと同一であった。グルコース供給は、直線的に増大する速度で導入し、グルコース供給物約1.1Lを添加した。この後、ガラクトース供給段階が続いた。ガラクトース供給培地は、rBSA発酵に使用されるものと同一であった。ガラクトース供給物約1.1Lを直線的に増大する速度で添加した。総発酵時間は、64時間であった。
【0028】
イオン交換及び分子ふるいクロマトグラフィーによって、クルイベロミセス・ラクチスにより消費された発酵培地から、rHSAを精製した。特に、まず、rHSAは、20mMトリス−Cl pH8.0、300mMNaCl及び5%グリセロール中で平衡化されたDEAE HyperD樹脂の500mLベッド容積を通過した。さらに緩衝液500mLでカラムを洗浄し、カラムを通じて空隙を洗浄した。4℃で12時間固体PEG8000の500gで覆った50mm透析チューブを使用して、試料約2Lを、容積を減少させる透析に供した。次に、20mMトリス−Cl pH8.0、50mMNaCl及び5%グリセロール中で平衡化されたBiosep DEAE樹脂の44mLベッド容積に、試料を負荷した。rHSAは、樹脂に結合し、20mMトリス−Cl pH8.0及び5%グリセロール中の50ないし700mMの範囲のNaClの線形勾配を使用して、前記rHSAを溶出した。rHSAの大部分は、200mMNaClでの単一画分中で溶出した。20mMトリス−Cl pH8.0、500mMNaCl及び50%グリセロールに対して、本画分を4℃で一晩透析した後、Superdex75pgXR50/100樹脂の1700mLベッド容積を使用するゲル濾過へ供した。rHSAピークは、最初に、このカラムから溶出した。図3は、4ないし20%のSDS−PAGEによって分離され、クーマシーによる染色によって可視化されると、精製されたrHSAが均質であったことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、組換えBSAの純度が、野生型タンパク質の純度と比較されるゲルを示す。rBSA2μg及び5μg並びに未変性BSA(NEB B9001S,New England Biolabs,Inc.(NEB),Ipswich,MA)2μgを、4ないし20%トリス−グリシンゲル上で分離し、クーマシーブルーで染色すると、rBSAが、添加されたタンパク質全体の量と同量の量を含有する単一のバンドを形成することを示した。
【図2】図2A(iないしiv)及び2B(iないしiv)は、各ゲルに7個のレーンがある8枚の一連のゲルを示す。レーンは、PvuIの連続希釈を示す。ゲルの左側から、DNAに添加されたPvuIの量が、5単位、1単位、0.5単位、0.25単位、0.125単位、0.06単位、PvuIなし及びDNAマーカーである。図2A(i)において、アルブミンは添加されておらず、切断が、PvuI酵素0.25単位を使用することで効果的に生じないように、酵素は、熱処理されたアルブミンの存在下にあるよりも不安定である。2A(ii)において、熱処理された未変性BSAを添加すると、PvuI酵素0.06単位を使用して切断される。2A(iii)において、熱処理されていないrBSAの結果、DNAの非特異的ヌクレアーゼ切断が生じる。2A(iv)において、熱処理されたrBSAの結果、PvuI0.06単位による切断が生じる。図2B(i)及び(ii)は、2A(i)及び2A(ii)と同一である。2B(iii)は、PvuIへ添加された熱処理されていない組換えヒト血清アルブミン(rHSA)であり、ヌクレアーゼ活性は生じないようであるが、PvuIは、2A(i)及び2B(i)に関して観察される安定性を同様に欠如していることを示す。熱処理されたrHSAは、PvuIの安定性を保護する。
【図3】図3は、rHSAの純度が評価されているゲルを示す。rHSAを含有する消費された発酵ブロス5μL、rHSA2μg及び未変性BSA(NEB B9001S,NEB,Ipswich,MA)2μgを、4ないし20%トリス−グリシンゲル上で分離し、クーマシーブルーで染色すると、rHSAが、添加されたタンパク質全体の量と同量の量を含有する単一のバンドを形成することを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)組換えウシ血清アルブミン(rBSA)を直鎖DNAとともに一晩温置することによって及びゲル電気泳動によって測定された場合に、デオキシリボヌクレアーゼ活性を実質的に欠如し;(b)動物由来の細胞増殖補助剤と結合した動物ウイルスを欠如し;及び(c)DNAタンパク質を安定化できる、rBSA調製物。
【請求項2】
調製物がリン酸塩緩衝液を含む、請求項1に記載のrBSA調製物。
【請求項3】
rBSAがK.lactisによって発現される、請求項1に記載のrBSA調製物。
【請求項4】
請求項1に記載のrBSA及び制限エンドヌクレアーゼを含む、反応混合物。
【請求項5】
50%グリセロールをさらに含む、請求項4に記載の反応混合物。
【請求項6】
(a)組換えウシ血清アルブミン(rBSA)を直鎖DNAとともに一晩温置することによって及びゲル電気泳動法によって測定された場合に、デオキシリボヌクレアーゼ活性を実質的に欠如し;(b)動物由来の細胞増殖補助剤と結合した動物ウイルスを欠如し;並びに(c)DNAタンパク質を安定化できる、rBSA調製物をDNAタンパク質の調製物へ添加すること、
を含む、DNAタンパク質を安定化するための方法。
【請求項7】
(a)動物を含まない培地中でK.lactisにおいてrBSAを組換え的に発現すること;及び
(b)精製されたrBSAを熱処理すること
を含む、DNAタンパク質を安定化するためのrBSA調製物を調製するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−532061(P2009−532061A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504217(P2009−504217)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/007921
【国際公開番号】WO2007/123689
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(591021970)ニユー・イングランド・バイオレイブス・インコーポレイテツド (18)
【Fターム(参考)】