組換えタンパク質を製造するための高細胞密度流加発酵法
タンパク質収量を向上させるために、インデューサを閾値パラメータ到達後に連続的に投入し、任意選択的に炭素源を連続的に投入、例えば、一定速度で投入することによる流加発酵法を用い、タンパク質、例えば組換え髄膜炎菌2086タンパク質を産生させる方法、並びに高密度タンパク質組成物、及び本発明に用いるための組成物を提供する。本発明の方法は、培養培地における誘導時にインデューサを連続供給することによる流加発酵によって予想外に高いタンパク質収量が得られるという意外な発見に基づくものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2006年7月27日に出願された、表題「HIGH−CELL DENSITY FED−BATCH FERMENTATION PROCESS FOR PRODUCING RECOMBINANT PROTEIN」の米国仮特許出願第60/833,479号(この開示は、その全体が参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本願は、一般に細菌系におけるタンパク質発現を向上させる新規な流加発酵法、並びに高密度タンパク質組成物、及びこの新規流加発酵法に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
実験室、臨床又は商業用途のためにタンパク質を十分な量産生させるための種々の発酵方法が用いられてきた。流加発酵法は、タンパク質の収量を単純な回分発酵法によって得られるものより増加させるために用いられてきた。流加発酵法は、初期の回分相の後、1種以上の栄養素をフィーディングにより培養物に供給する相が行われる方法である。
【0004】
一般に、上記バッチ相においては、最初に細胞を所望の濃度にまで増殖させる。この相では、細胞増殖は増幅されるが、一般にはプロモータに応じてアラビノース、ラクトース又はイソプロピルベータ−D−チオガラクトシド(IPTG)といったインデューサを加えるのでなければ目的とするタンパク質は産生されず、或いはいくらかのプロモータ漏出が起こる。上記供給相においては、通常、炭素源その他の必要素を比較的濃縮された液体流として一定の供給速度で発酵槽に供給する。一旦、目的とする細胞密度が達成されると、上記インデューサ又はインデューサと他の栄養素の供給を開始する。この相では、増殖した細胞によるタンパク質産生に重点が置かれる。この段階では、発酵槽に供給する基質(即ち、栄養素及びインデューサ)は、概して細胞増殖及び生成物合成に用いられる。この細胞増殖を供給速度によって制御することにより、最適な細胞増殖及びタンパク質産生が得られる。タンパク質の産生段階においては、組換え生物用のインデューサを添加しなければならない。
【0005】
グルコース又は他の糖系炭素源などの一般的な炭素源及びインデューサを含む培地上でのタンパク質発現は、供給相の終了時に制約条件が生じるまで良好である。制約条件としては、例えば、酸素濃度の低下、ビタミン類、炭素、窒素などの栄養素の減少、及び増殖培地中の毒性化合物の蓄積が挙げられる。
【0006】
流加発酵の方法は、栄養素の供給を制御するための間接的及び直接的フィードバックを含む種々の形態の制御を必要とすることが多い。そのような流加発酵法の1つは、栄養素を供給することによりプロセスパラメータを特定の設定値に制御することによってフィードバック制御アルゴリズムを適用するものである。例えば、供給の直接的な制御は栄養素の濃度の測定に基づくものとすることができる。次に、フィードバック制御は、発酵全体を通して細胞活性に直接関連づけられる。発酵のフィードバック制御に用いられている制御パラメータとしては、pH値、細胞密度のオンライン測定値又は溶存酸素圧(DOT)が挙げられる。
【0007】
しかしながら、フィードバック・アルゴリズムの適用はいくつかの欠点を伴う。そのような欠点の1つは、供給速度が稼働中プロセスのパラメータに依存していることである。このプロセスに障害が加わると、パラメータに影響があり、このため供給速度及び得られるタンパク質収量がゆがめられる。このような欠点は、タンパク質量を増加させるためにプロセスをスケールアップするにつれて、拡大する。
【0008】
これまでに用いられてきた流加発酵法の別の欠点は、フィードバック制御を用いる際に、特定の増殖速度を正確に事前規定又は制御することができず、その結果、生成物の形成が増殖に依存している場合、プロセスの収量が最適以下となることである。
【0009】
さらに、中心代謝経路への炭素フラックス(例えば、高グルコース濃度)がトリカルボン酸(TCA)サイクルの最大能力を超える場合には、副生成物が蓄積することがある。副生成物が蓄積すると、発酵中の細胞増殖及びタンパク質産生が阻害されることも考えられる。
【0010】
さらに、流加発酵法の種々の欠陥のために栄養素成分の利用が非効率的となる場合が多い。従って、こうした方法は、特にタンパク質の大規模商業生産には経済的に不利であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、流加発酵によって組換えタンパク質を発現させるこれまでの方法には種々の欠陥がある。各種の目的で十分量のタンパク質をコスト効率よく産生させることは重要であることから、細胞増殖の促進、タンパク質生成の増大(即ち、タンパク質収量の上昇)及び副生成物蓄積の減少をもたらす効率的な流加発酵法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
要旨
本発明は、組換えタンパク質を予想外に高い収量で産生させるための新規な流加発酵法に関する。
【0013】
本発明の実施態様は、組換えタンパク質を産生させる方法であって、組換え細菌細胞を含む培養物に炭素源を連続的に添加し、この培養物が閾値パラメータを達成した後にこの培養物にインデューサを連続的に添加することを含む、この組換え細菌細胞を培養して組換えタンパク質を発現させること、及び上記培養物からこの組換えタンパク質を単離することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明の別の実施態様は、組換えタンパク質を産生させる方法であって、(a)誘導プロモータの制御下にある組換えタンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成し、(b)この組換え細菌細胞を培養培地中に導入して細胞培養物を形成し、(c)この細胞培養物に連続供給材料として炭素源を添加し、(d)この細胞培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD600)が達成されたかどうかについて観察し、(e)一旦、この閾値光学濃度(OD600)が達成されると、連続供給材料として上記誘導プロモータのインデューサを上記細胞培養物に添加し、及び(f)この細胞培養物から上記組換えタンパク質を収集することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明のさらに別の実施態様は、組換えタンパク質を産生させる方法であって、組換え細菌細胞を培養し、培養物が閾値パラメータを達成した後にこの細菌細胞を含む培養物に連続的にインデューサを添加することによって組換えタンパク質を発現させることを含み、この細菌細胞が髄膜炎菌血清群Bの遺伝子に相当する核酸配列を含むものとする方法を提供する。
【0016】
さらに別の実施態様において、本発明は、組換え2086タンパク質(rP2086)を産生させる方法であって、(a)誘導プロモータの制御下にある組換え髄膜炎菌2086タンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成し、(b)この組換え細菌細胞を培養培地中に導入して培養物を形成し、(c)この培養物に炭素源を添加し、(d)細胞培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD600)が達成されたかどうかについて観察し、(e)培養物の細胞密度が約70乃至110の光学濃度に達すればすぐに上記誘導プロモータのインデューサを培養物に連続的に添加し、(f)このインデューサの連続添加の開始後約3時間乃至約6時間後に培養物から上記組換え2086タンパク質を収集することを含む方法を提供する。
【0017】
別の実施態様において、本発明は、細菌培養物であってこの細菌培養物の全容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度で組換え2086タンパク質(rP2086)を含む培養物を含む組成物を提供する。
【0018】
さらに別の実施態様において、本発明は、本発明の方法に従って調製した組換え髄膜炎菌2086タンパク質(rP2086)を含む細菌培養培地を含む組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】誘導の無い、各種一定供給速度における流加発酵を示すグラフである。
【図2】誘導の無い、各種一定供給速度における流加発酵を示すグラフである。
【図3】各種光学濃度における誘導を示すグラフである。
【図4】種々のアラビノースレベルを用いた誘導を示すグラフである。
【図5】rLP2086の収量に及ぼすアラビノース添加方法の影響を示すグラフである。
【図6】rLP2086の産生に及ぼすアラビノース供給速度の影響を示すグラフである。
【図7】発現に及ぼす誘導時間の影響を示すグラフである。
【図8】サブファミリーBのrLP2086を産生させるための流加発酵を示すグラフである。
【図9】図9aは、rLP2086サブファミリーB誘導についてのSDS−PAGEを示す図である。図9bは、rLP2086サブファミリーB誘導についてのウエスタン・ブロットを示す図である。
【図10】サブファミリーAのrLP2086を産生させるための流加発酵を示すグラフである。
【図11】図11aは、rLP2086サブファミリーA誘導についてのSDS−PAGEを示す図である。図11bは、rLP2086サブファミリーA誘導についてのウエスタン・ブロットを示す図である。
【図12A】誘導時におけるグルコース及びアラビノースの二重供給を示すグラフである。
【図12B】誘導時におけるグルコース及びアラビノースの二重供給を示すグラフである。
【図12C】誘導時におけるグルコース及びアラビノースの二重供給を示すグラフである。
【図13A】100L規模でのrLP2086サブファミリーBの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【図13B】100L規模でのrLP2086サブファミリーAの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【図14A】100L規模でのグルコース及びアラビノースの二重供給によるrIP2086サブファミリーBの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【図14B】100L規模でのグルコース及びアラビノースの二重供給によるrIP2086サブファミリーAの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の方法は、培養培地における誘導時にインデューサを連続供給することによる流加発酵によって予想外に高いタンパク質収量が得られるという意外な発見に基づくものである。炭素源は、任意選択的に、インデューサの連続供給の前及び/又はその間に連続的に供給する。アラビノースによる誘導の場合、本発明の実施形態として(髄膜炎菌血清群Bの2086遺伝子に相当する配列を有する微生物によって発現される)組換え2086リポタンパク質(rLP2086)が約2乃至3g/L産生された。これは、比較回分発酵法と比較してrLP2086タンパク質のサブファミリーA及びBの両方の場合の流加発酵によるこの2086の収量が約2乃至3倍であることを意味している。さらに、本発明の方法は上記及び他のタンパク質の商業規模の生産にすぐに応用できる。
【0021】
本明細書に記載した実施態様の理解を進める目的で、種々の実施態様について述べ、同一のもの又はことを述べるのに特定の言語を用いる。本明細書に用いている用語は、単に個々の実施態様を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。英文の本開示内容全体を通して用いている単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別の意味に解すべき場合を除き、複数形指示(plural reference)を包含する。同様に、「medium」などの用語の単数形は複数形「media」という表現を包含し、その逆の場合も同様である。従って、例えば、「a culture medium」という表現は、単一種の培地ばかりでなく、複数種のそのような培地をも包含し、「culture medium」という表現は、単一種の培地ばかりでなく、複数種の培地をも包含する。
【0022】
本明細書に用いている「インデューサ」という用語は、組換えタンパク質の発現を誘導、増強又は促進し、それによって誘導プロモータの制御下の遺伝子発現をその濃度により直接調節することができる任意の物質のことを意味する。
【0023】
本明細書に用いている「炭素源」という用語は、細胞のための炭素及びエネルギーの供給源のことを意味する。
【0024】
本明細書で同じ意味で用いている「供給(feed)」、「供給された(fed)」、「供給する(feeding)」又は「連続的に添加する(continuously adding)」という用語は、全部を一度にではなくある期間にわたって連続的に物質を添加することを意味する。これらの用語では、単回の開始及び/又は終了、或いは発酵過程においてこの物質を連続的に添加するための複数の開始及び/又は停止点を考慮している。
【0025】
本明細書に用いている「組換えタンパク質」という用語は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、オリゴタンパク質及び/又は融合タンパク質を含む複数のアミノ酸をコードしている組換え遺伝物質から発現された、レポータ又はマーカ遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質)ではない任意のタンパク質又はその生物活性部分(例えば、そのタンパク質の完全体の生物活性を保持している部分)のことを意味している。組換えタンパク質産物には治療用、予防用又は診断用産物を含めることができる。
【0026】
本発明の方法
本発明の方法では、培養物が閾値パラメータを達成した後に培養培地にアラビノースなどのインデューサを連続的に添加する新規な流加発酵プロセスを介して予想外に高い収量でタンパク質が得られる。一般には、この誘導期の前に、組換え細菌細胞を含む培養物にグルコースなどの炭素源を添加する。この炭素源は、インデューサと一緒に供給してもよい。このインデューサは二次炭素源としての機能を果たすこともできる。
【0027】
グルコースなどの炭素源は、本発明の実施態様では、培養培地へのインデューサの連続供給の前及び/又はその間に、培養培地に連続的に添加する。従って、一実施態様では、炭素源の連続供給はインデューサの連続供給と部分的に重なる。炭素源の連続供給は、連続インデューサ供給の全継続時間の間又はその継続時間の一部の間のみ継続することができる。別の実施態様では、炭素源の連続供給はインデューサの連続供給と重ならない。本発明の実施態様によれば、インデューサ及び/又は炭素源は、一定の速度で培養物に供給することができる。
【0028】
上記流加発酵プロセスは、本発明の実施態様に従って所望のタンパク質の産生をもたらすいくつかの工程を伴う。最初の工程では、誘導プロモータの制御下の組換えタンパク質産物をコードしている発現ベクターを調製した後、これを細菌宿主細胞中に導入する。次いで、この細菌宿主細胞を培養培地中に導入する。次に、上記誘導プロモータのインデューサを培養物に供給する(即ち、インデューサをある期間にわたって連続的に培養物中に添加する)。このインデューサは、一定速度で培養物に供給することができる。その後、培養物から組換えタンパク質産物を収集する。次いで、このようにして産生させた組換えタンパク質は、所望通りに精製し、及び/又は予防用、治療用又は診断用製剤としてなど、任意の適当な様式で使用することができる。
【0029】
インデューサを一定速度で供給することによる流加発酵によって予想外にも高細胞密度及びタンパク質収量の向上が達成された。この発酵では、下記の実施例に示したように、回分発酵に比し、約2乃至3倍の組換えタンパク質産物の収量が得られる。本発明の方法は、小規模発酵ばかりでなく大規模発酵にも適用可能である。本明細書に用いている「大規模」発酵とは、実容積、即ち、ヘッドスペース用に適当な空間を残した有効容積が少なくとも約1,000Lである発酵槽を用いた発酵のことを意味する。「小規模」発酵とは、実容積が通常わずか約100L、例えば5L、10L、50L又は100Lである発酵槽を用いた発酵のことを意味する。本流加発酵プロセスの明らかとなった利点は、これが5乃至10Lの発酵槽規模での組換えタンパク質産物の製造に利用することができ、任意の容積、例えば、100L、150L、250L、500L、1,000L又はそれ以上と、これらに限定されるものではないが、規模拡大が可能であることにある。
【0030】
インデューサ:
本明細書に記載の方法は、組換えタンパク質の産生であって、組換えタンパク質の発現が誘導プロモータの転写制御下にあり、これによってその誘導プロモータの制御下の遺伝子発現を培養培地中に存在するインデューサの濃度により直接調節することができるものとする産生のことを意味する。このインデューサは、培養培地に、任意選択的に一定速度で、連続供給する。このインデューサは、閾値パラメータが達成されればすぐに培養培地に添加する。例えば、組換えタンパク質はaraBプロモータ(例えば、ParaB)の制御下におくことができ、このプロモータは、培養培地に一定速度で添加するアラビノースの濃度によって直接調節することができる。本発明と関連して用いるための好適なインデューサは、当業者には公知である。本発明のインデューサの例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0031】
【化1】
炭素源
当業者であれば理解されようが、任意の適切な炭素源、例えば、グリセロール、コハク酸、乳酸又は糖系炭素源、例えば、グルコース、ラクトース、スクロース及びフラクトースを本発明において使用することが企図されている。例えば、本発明に用いることができる糖系炭素源としては、ホモ多糖及びヘテロ多糖、例えば、ラクトース、アミロペクチン、でんぷん、ヒドロキシエチル・でんぷん、アミロース、硫酸デキストラン、デキストラン、デキストリン、グリコーゲンもしくは酸性ムコ多糖類、例えば、ヒアルロン酸の多糖サブユニットを包含する、以下の糖単量体を含む分枝又は非分枝多糖類:D−マンノース、D−及びL−ガラクトース、フコース、フラクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルクロン酸、シアル酸、D−ガラクツロン酸、D−マンヌロン酸(例えば、ポリマンヌロン酸もしくはアルギン酸)、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、D−グルコース及びノイラミン酸;ポリソルビトール、ポリマンニトールなどの糖アルコールの重合体;ヘパリン又はヘパラン;或いはこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。グルコースは本発明の実施態様において主要な炭素源である。アラビノースは、インデューサとして用いる場合、二次炭素源としての機能を果たすこともできるが、主要炭素源とすることもできる。一実施態様では、炭素源として、D−グルコース、L−アラビノース、スクロース、l−イノシトール、D−マンニトール、β−D−フラクトース、α−L−ラムノース、D−キシロース、セルロース又はこれらの任意の組合せのうちのいずれかが挙げられる。1種又は2種以上の炭素源を本発明に用いることができる。
【0032】
細菌発現系及びプラスミド
また、本発明は、プロモータ配列及びイニシエータ配列を有する発現制御配列並びに所望のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含むプラスミドなどの発現ベクターを含む組換え細菌細胞であって、このヌクレオチド配列がこれらのプロモータ及びイニシエータ配列に対して3’側に位置している細菌細胞を提供する。本明細書に記載した開示内容から当業者には理解されようが、任意の適切な発現制御配列及び宿主細胞/クローニング媒体が企図されている。
【0033】
適切な発現制御配列及び宿主細胞/クローニング媒体組合せについては当該分野で公知であり、例えば、Sambrook,J.、E.F.Fritsch及びT.Maniatis、1989年、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press):コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨークに記載されている。概して、組換えDNA技術は、対象とする組換えタンパク質をコードしているDNA配列を合成又は単離によって入手し、これを適切なベクター/宿主細胞発現系中に導入し、この系でこの配列を、好ましくはアラビノース誘導プロモータの制御下に発現させるものである。発現ベクター中へのDNAの挿入について記載されている方法はいずれも、プロモータ及び他の調節制御要素をその選択したベクター内の特定部位に結合させるのに用いることができる。次いで、適切な宿主細胞に、従来技術により、そのようなベクター又はプラスミドを形質転換、感染、形質導入又は形質移入させる。
【0034】
対象とする組換えタンパク質を発現させるのに種々の宿主細胞−ベクター(プラスミド)系を用いることができる。例えばアラビノース誘導プロモータを含む系などのベクター系は、用いる宿主細胞に適合する。対象とする組換えタンパク質産物をコードしているDNAを発現系中に挿入し、プロモータ(好ましくは、アラビノース誘導プロモータ)及び他の制御要素をそのベクター内の特定の部位に結合させることによって、このベクターを(用いる宿主細胞−ベクター系に応じて形質転換、形質導入又は形質移入により)宿主細胞中に挿入すると、対象組換えタンパク質産物をコードしている上記のDNAが宿主細胞によって発現される。
【0035】
このベクターは、上述したウイルスベクター又は非ウイルスベクターのうちの1種から選択することができるが、使用する宿主細胞に適合するものでなければならない。上記組換えDNAベクターは、(ベクター/宿主細胞系に応じて)形質転換、形質導入、形質移入などによって適切な宿主細胞(細菌、ウイルス、酵母、哺乳動物細胞など)中に導入することができる。宿主−ベクター系としては、バクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNAで形質転換した細菌が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
対象組換えタンパク質産物の原核生物における発現は、融合又は非融合タンパク質の発現を誘導する構成的又は誘導プロモータを含有するベクターを有する大腸菌などの任意の適切な種又は株の細菌で行うことができる。
【0037】
融合ベクターは、これにコードされているタンパク質に対し、いくつかのアミノ酸をその組換えタンパク質のアミノ又はカルボキシ末端に付加する。このような融合ベクターは、通常3つの目的を果たす:1)組換えタンパク質の発現を増加させること、2)この組換えタンパク質の溶解度を増大させること、及び3)親和性精製のリガンドとして作用させることにより組換えタンパク質の精製を促進すること。多くの場合、融合発現ベクターでは、融合部分と組換えタンパク質との接合部に蛋白分解的切断部位を導入することによって融合タンパク質の精製後の融合部分からの組換えタンパク質の分離が可能となる。このような酵素及びその同族認識配列としては、Xa因子、トロンビン及びエンテロキナーゼが挙げられる。
【0038】
代表的な融合発現ベクターとしては、目的組換えタンパク質に、それぞれグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質又はプロテインAを融合させたPgex(ファルマシア・バイオテク社(Pharmacia Biotech Inc);Smith及びJohnson、1988年)、Pmal(ニュー・イングランド・バイオラブズ社(New England Biolabs)、ベバリー(Beverly)、マサチューセッツ州)及びPrit5(ファルマシア社(Pharmacia)、ピスカタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州)が挙げられる。
【0039】
好適な誘導非融合大腸菌発現ベクターの例としては、pTrc(Amannほか、(1988年) “Tightly regulated tac promoter vectors useful for the expression of unfused and fused proteins in Escherichia coli”、Gene、69:301−315)及びPet lid(Studierほか(1990年) “Use of T7 RNA polymerase to direct expression of cloned genes”、 Methods in Enzymology、185:60−89)が挙げられる。このpTrcベクターからの目的遺伝子の発現は、ハイブリッドtrp−lac融合プロモータからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存している。Pet lidベクターからの目的遺伝子の発現は、同時発現されるウイルスRNAポリメラーゼJ7 gnlにより媒介されるT7gn10−lac融合プロモータからの転写に依存している。このウイルスポリメラーゼは、lacUV5プロモータの転写制御下のT7gnl遺伝子を収容する常在性プロファージから宿主BL21(DE3)又はHMS174(DE3)株によって供給される。
【0040】
上記ベクター構築物の調節配列は一実施態様では誘導プロモータである。誘導プロモータを用いることによって低い基礎レベルの活性化タンパク質を通常の培養及び拡張増加時に産生させることが可能となる。続いて、産生又はスクリーニング時に大量の所望タンパク質を発現するように細胞を誘導することができる。この誘導プロモータは細胞又はウイルスのゲノムから単離することができる。
【0041】
細胞外に供給した化合物により調節される誘導プロモータとしては、アラビノースプロモータ、亜鉛誘導ヒツジ・メタロチオニン(MT)プロモータ、デキサメサゾン(Dex)誘導マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモータ、T7ポリメラーゼ・プロモータ系(WO98/1008)、エクジソン昆虫プロモータ(Noほか、1996年、Proci Natl. Acad. Sci. USA、93:3346−3351)、テトラサイクリン抑制系(Gossenほか、1992年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:5547−5551)、テトラサイクリン誘導系(Gossenほか、1995年、Science、268:1766−1769、Harveyほか、1998年、Curr. Opin. Chem Biol、2:512−518も参照)、RU486誘導系(Wangほか、1997年、Nat. Biotech.、15:239− 243及びWangほか、1997年、Gene Ther.、4:432−441)並びにラパマイシン誘導系(Magariほか、1997年、J. Clin. Invest.、100:2865−2872)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施態様では、上記プロモータはアラビノース誘導プロモータである。
【0042】
本明細書に記載した開示内容から当業者には理解されようが、任意の適切な細菌宿主細胞が本発明における使用のために企図されている。例えば、この目的に適した細菌としては、大腸菌属、エンテロバクター属、アゾトバクター属、エルウィニア属、バシラス属、シュードモナス属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、セラシア属、赤痢菌属、根粒菌属、ビトレオシラ属、パラコッカス属の細菌又はこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような適切な細菌全てのうちの任意の適切な株も本発明によって企図されている。さらに、当業者なら認めるであろうが、適切な突然変異細胞を使用することも本発明により企図されている。当業者であれば、本明細書に示した指針に基づいて特定の状況下で使用するための適切な宿主細胞を選択することは容易にできよう。
【0043】
好適な誘導大腸菌発現ベクターの例としては、pTrc(Amannほか、1988年、Gene、69:301−315)、アラビノース発現ベクター(例えば、Pbad18、Guzmanほか、1995年、J. Bacteriol.、177:4121−4130)及びpETlld(Studierほか、1990年、Methods in Enzymology、185:60−89)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このpTrcベクターからの目的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp−lac融合プロモータからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存している。pETlldベクターからの目的遺伝子発現は、同時発現されるウイルスRNAポリメラーゼT7gn1により媒介されるT7gn10−lac融合プロモータからの転写に依存している。このウイルスポリメラーゼは、lacUV5プロモータの転写制御下のT7gn1遺伝子を収容する常在性プロファージから宿主BL21(DE3)又はHMSI74(DE3)株によって供給される。PBAD系は、ara−C遺伝子により調節される誘導アラビノースプロモータに依存している。このプロモータはアラビノースの存在下に誘導される。
【0044】
本発明の他の実施態様では、アラビノース調節発現ベクター、或いは対象組換えタンパク質の発現がアラビノースプロモータ、例えば、大腸菌アラビノースオペロンPBAD又はPARAのプロモータの制御下にあるベクターを利用するが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本発明は任意の所望タンパク質をコードしている核酸(ヌクレオチド)配列を企図している。このヌクレオチド配列は、完全もしくは部分的天然ヌクレオチド配列又は完全もしくは部分的改変ヌクレオチド配列、或いは緊縮条件下でこれらとハイブリッドを形成する任意の配列とすることができる。本明細書において遺伝子に相当する核酸配列という表現は、所望のタンパク質として発現可能な任意の核酸配列を意味している。
【0046】
例えば、そのような核酸配列の改変としては、1個のヌクレオチド欠失、塩基転移及び塩基転換を含む置換又は挿入が挙げられ、こうした改変は参照ヌクレオチド配列の5’又は3’末端位或いはこれらの末端位間のどこかで生じさせ、この参照配列内のヌクレオチド間に個別に又は参照配列内の1つ以上の隣接した群として散在させることができる。ヌクレオチド改変数は、任意の配列のヌクレオチド総数に(100で除した)各同一性百分率の百分率数値を乗じ、この配列のヌクレオチド総数からその積を差し引くことによって求められる。
【0047】
例えば、本発明では、特定の核酸配列と少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、その縮重変異体又はその断片の使用であって、この配列が上記核酸配列のポリヌクレオチド領域全体に対して最大nn個の核酸改変を含むことができるものとし、nnが最大改変数であり、式:
【0048】
【化2】
により算出されるものとし、式中、xnは任意の配列の核酸総数であり、yは0.70の値を有するものとし、xnとyとの任意の非整数の積については、切り捨てて最近隣数に丸めた後にこの積をxnから差し引くものとするヌクレオチド配列の使用を企図している。言うまでもなく、yは、80%の場合0.80、85%の場合0.85、90%の場合0.90、94%の場合0.94、95%の場合0.95、96%の場合0.96、97%の場合0.97、98%の場合0.98、99%の場合0.99、などの数値をとることもできる。配列の改変によりこのコーディング配列にナンセンス、ミスセンス又はフレームシフト突然変異が生じ、これによってそのような改変後に上記ポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドが改変される。
【0049】
本発明では、縮重変異体又はその断片の使用を企図している。本明細書で定義している「縮重変異体」とは、遺伝コードの縮重によるヌクレオチド配列(及びその断片)とは異なるが、なお同一タンパク質をコードしているポリヌクレオチドである。
【0050】
上記核酸は、DNA、染色体DNA、cDNA及びRNAを含むことができ、さらに、異種ヌクレオチドを含むことができる。種々の実施態様では、この核酸は、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下で特定の核酸、その相補体、その縮重変異体又はその断片とハイリッドを形成する。さらに別の実施態様では、このポリヌクレオチドは中ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でハイリッドを形成する。
【0051】
こうした核酸が天然、合成又は半合成材料から得ることができ、さらに、そのヌクレオチド配列が天然の配列であってもよく、或いはこれがそのような天然配列に対して、単又は多塩基置換、欠失、挿入及び逆位を含む突然変異の関係にあってもよいことは明瞭に理解されよう。上記核酸分子は、RNA、DNA、一本鎖又は二本鎖、直鎖状又は共有結合した環状とすることができる。
【0052】
ストリンジェンシー条件の例は下記のストリンジェンシー条件表に示した。即ち、高緊縮条件とは、例えば、条件A乃至Fと少なくとも同じくらいストリンジェンシーの条件であり、緊縮条件とは、例えば、条件G乃至Lと少なくとも同じくらいストリンジェンシーの条件であり、低緊縮条件とは、例えば、条件M乃至Rと少なくとも同じくらいストリンジェンシーである条件である。
【0053】
【化3】
bpI:ハイブリッド長さとは、ハイブリッド形成しているポリヌクレオチド間のハイブリッド形成されている領域について予測される長さである。あるポリヌクレオチドを配列未知の目的ポリヌクレオチドとハイブリッド形成させる場合、ハイブリッド長さは、ハイブリッド形成しているポリヌクレオチドの長さであると仮定している。配列既知のポリペプチド同士にハイブリッド形成させる場合、ハイブリッド長さは、これらのポリヌクレオチドの配列間で位置合わせを行い、配列相補性が最適である領域又は諸領域を特定することによって求めることができる。
【0054】
緩衝液H:ハイブリッド形成用緩衝液及び洗浄用緩衝液中のSSC(1×SSCは0.15M NaCl及び15mMクエン酸ナトリウムである)はSSPE(1×SSPEは0.15M NaCl、10mM NaH2PO4及び1.25mM EDTA、pH7.4である)で置換することができ、洗浄は、ハイブリッド形成の完了後15分間行う。
【0055】
TBからTRまで:長さが50塩基対未満と予測されるハイブリッドのハイブリッド形成温度は、このハイブリッドの融解温度(Tm)より5乃至10EC低くなるはずである。この場合、Tmは次式に従って求める。長さが18塩基対未満のハイブリッドの場合、Tm(EC)=2(A+T塩基の#)+4(G+C塩基の#)。長さが18乃至49塩基対のハイブリッドの場合、Tm(EC)=81.5+16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)-(600/N)。式中、Nはハイブリッド中の塩基数であり、[Na+]はハイブリッド形成用緩衝液中のナトリウムイオン濃度である(1×SSCの[Na+]=0.165M)。
【0056】
ポリヌクレオチド・ハイブリッド形成のストリンジェンシー条件についての別の例は、Sambrook J.、 E.F.Fritsch及びT.Maniatis、1989年、”Molecular Cloning: A Laboratory Manual”、 コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press):コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク、第9及び11章、並びにCurrent Protocols in Molecular Biology、1995年、F.M.Ausubelほか編、ジョーン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons, Inc.)、セクション2.10及び6.3−6.4に記載されており、これらは引用によって本明細書に組み入れられている。
【0057】
本発明では、これらのポリヌクレオチドに完全に相補性であるポリヌクレオチド、及びアンチセンス配列を使用することを企図している。アンチセンスオリゴヌクレオチドとも呼ばれるこうしたアンチセンス配列としては、本発明のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの発現を阻止する内的に形成される配列及び外部から投与される配列の両方が挙げられる。本発明のアンチセンス配列は、例えば、約15乃至20塩基対を含むが、これに限定されるものではない。こうしたアンチセンス配列は、例えば、プロモータの上流非翻訳配列への結合を阻止するか、本発明のポリペプチドをコードしている転写物の翻訳をリボソームの結合を妨げることにより阻止して、転写を阻害するように設計することができる。
【0058】
こうしたポリヌクレオチドは、任意の適当な方法で(例えば、化学合成により、DNAライブラリから、生物自体から)調製又は入手してもよく、また、当業者であれば理解されようが、(一本鎖、二本鎖、ベクター、プローブ、プライマなどの)各種の形態をとることができる。「ポリヌクレオチド」という用語には、DNA及びRNA、並びに主鎖が修飾されたものなどのアナログも含まれる。本発明の別の実施では、こうしたポリヌクレオチドはcDNAライブラリなどのDNAライブラリを含む。
【0059】
2086タンパク質発現系
本発明の一実施態様では髄膜炎菌血清群B2086ポリペプチドを発現することができる組換え微生物を提供する。この組換え微生物は、プロモータ配列及びイニシエータ配列を有する発現制御配列、並びに2086ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列であって、このヌクレオチド配列が上記プロモータ及びイニシエータ配列に対して3’側に位置しているヌクレオチド配列を含む。別の態様として、本明細書、及び引用により本明細書にその全体が組み込まれているWO03/063766及びWO04/094596に記載されているような組換え2086ポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を提供する。従って、本発明は、例えば、WO03/063766及びWO04/094596(これらに限定されるものではない)に記載されているような組換え2086タンパク質を産生させる方法を提供する。
【0060】
本発明の所望のタンパク質又はポリペプチドを発現する宿主細胞を、対応する2086ポリヌクレオチドを含有するプラスミドで形質転換、形質移入又は感染させることにより一旦構築すれば、この宿主細胞を、本発明の方法に従ってこうしたポリペプチドを発現させるような条件下で培養する。次いで、宿主細胞成分の混入が実質的にない上記ポリペプチドを当業者に公知の技術によって単離することができる。
【0061】
閾値パラメータ
いくつかのパラメータを用いて、細胞増殖及び組換えタンパク質発現の面で培養の進行を把握し、制御することができる。そのようなパラメータとしては、光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、pH、(炭素源などの)栄養素/エネルギー消費、代謝副産物の蓄積(例えば、酢酸)、収集時間、及び温度が挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者であれば理解されようが、任意の適したパラメータ又はパラメータの組合せを、本明細書に示した指針に基づいて本発明に使用することが企図されている。
【0062】
閾値パラメータを定めて、インデューサを培養物に連続的に添加する(即ち、時間をかけて培養物に供給する)ことになる時点を決定する。この閾値パラメータは所定のパラメータである。所定の光学濃度などの適切な閾値パラメータは、本発明の各種実施態様において本明細書で示した指針に基づき、当業者が容易に決定することができる。閾値パラメータは、単独又は複数のパラメータの組合せで用いることができる。
【0063】
このパラメータの単独又は複数のパラメータの組合せは、培養物において任意の適した時間間隔でモニタリングすることができる。例えば、OD600及びグルコース濃度は1時間、半時間又は15分間間隔でモニタリングすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の一実施態様では、光学濃度はインデューサの連続供給を開始するための閾値パラメータとして用いる。培養物の細胞密度が、約70乃至約110の光学濃度などの所定の閾値パラメータに達すれば、本明細書に記載したようにして培養物にインデューサを供給する。この閾値パラメータに対しては、より狭い範囲を設けてもよい。例えば、本発明では、本発明の実施態様では、培養物の細胞密度が約70乃至約105、約75乃至約100、約75乃至約95、約75乃至約85、約76乃至約84、約78乃至約82、又は約80の光学濃度に達した時に、培養物へのインデューサの連続添加を開始できることが企図されている。
【0065】
また、本発明では、炭素源の供給の開始及び/又は終了を信号として知らせるために閾値パラメータを用いることも企図されている。
【0066】
当業者であれば理解されようが、任意の適した装置単独又は複数の装置の組合せをこうした閾値パラメータ(類)をモニタリングするのに用いることが企図されている。例えば、閾値パラメータを測定するためのプローブ単独又は複数のプローブの組合せを任意の適した方法で発酵装置(前記「発酵槽」)に取り付けることができるが、これに限定されるものではない。
【0067】
一定供給速度
一定供給速度とは、インデューサ(類)及び/又は炭素源(類)を培養物に添加する速度のことを意味する。インデューサは、ある閾値パラメータが達成された後に培養物に添加する。また、炭素源はある閾値パラメータが達成された後に培養物に添加することができる(同様に、炭素源の添加は、ある閾値パラメータに達すると終了させることができる)。これらの閾値パラメータ類としては、光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、pH、培養培地中の栄養素の濃度、培養培地に添加した最初の炭素源の総濃度、又はこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本明細書に示した指針から当業者には理解されようが、培養物にインデューサ及び/又は炭素源を連続的に添加するのに任意の適した速度を用いる。本発明の各種実施態様では、下記の実施例に記載したように、DOスタット(DO−stat)により好適な一定速度を求める。例えば、濃度を毎時最大15及び24g/Lとするのに十分なグルコースを添加することによりDOスタット制御装置に対応する供給速度を選択することができるが、これに限定されるものではない。
【0069】
例えば、インデューサ及び/又は炭素源を培養物の総量に対して一定の量、例えば、約4g/L乃至約40g/L、例えば、4g/L、5g/L、6g/L、7g/L、8g/L、9g/L、9.5g/L、9.75g/L、10g/L、10.25g/L、10.5g/L、11g/L、12g/L、13g/L、14g/L、15g/L、16g/L、17g/L、18g/L、19g/L、20g/L、21g/L、22g/L、23g/L、24g/L、25g/L、26g/L、27g/L、28g/L、29g/L、30g/L、31g/L、32g/L、33g/L、34g/L、35g/L、36g/L、37g/L、38g/L、39g/L、40g/Lを培養物に添加するまで、インデューサ及び/又は炭素源は一定の速度で培養物に添加することができるが、これらに限定されるものではない。各種実施態様では、培養物に供給するインデューサ及び/又は炭素源の総量は、約5g/L乃至約20g/L、7g/L乃至約15g/L、8g/L乃至約14g/L、9g/L乃至約11g/L又は約10g/Lである。
【0070】
培養物に添加するべきインデューサの総量は、培養物に添加する炭素源の総量によって相殺することができる。例えば、炭素源がグルコースであり、インデューサがアラビノースである場合、添加するインデューサの量はグルコースの添加により減らすことができる。例えば、一実施態様では、総量10g/Lのインデューサ(即ち、アラビノースなど)を培養物に添加し、11g/Lのグルコースなどの炭素源を加える。このようにして得られるタンパク質の収量は総量20g/Lのアラビノース(即ち、アラビノースの培養物1,000L中20,000g即ち20kg計)を添加し、グルコースを添加しない場合の収量に近い。従って、本方法によって得られるこの相殺は、グルコースに比しアラビノースの価格が高いことを考えると、有利である。
【0071】
本発明の各種実施態様において、インデューサ及び/又は炭素源を培養物に添加する一定の速度は毎時約1.5g/L乃至約24g/Lの範囲に設定することができる。例えば、炭素源がグルコースである場合、グルコース添加における一定速度としては、1.8gグルコース/L/h、3.3gグルコース/L/h、6.7gグルコース/L/h、15gグルコース/L/h、16.4gグルコース/L/h、18gグルコース/L/h、24gグルコース/L/hなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。種々の実施態様において、アラビノースなどのインデューサは約1.5g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で添加する。
【0072】
各種実施態様において、閾値パラメータが一旦達成されると、炭素源の供給は継続、停止又は一時中断することができる。炭素源の供給は中断することができるが、この場合、一旦、供給を開始するための閾値が達成されると、一定速度で供給が再開されることになる。従って、一実施態様では、開始閾値及び停止閾値を用いて培養物中への炭素源の供給を調節することができる。別の実施態様では、グルコース及びアラビノースの両者を、供給の停止又は再開を行わずに、閾値パラメータに基づいて一定速度で供給する。
【0073】
任意の特定の培養物に添加する炭素源の適切な総量については、本明細書に示した指針に基づいて当業者が容易に決定することができる。この培養物に添加する炭素源の総量は、本発明の一実施態様では、(培養物のリットル単位の総容量に基づき、)約1g/L乃至約100g/Lの範囲とすることができる。例えば、一実施態様では、増殖期において、培地中のグルコースを10g/Lで開始し、このグルコース濃度がゼロに達した時に一定速度グルコース供給を開始し、ODが80に達し、その時点で最初の10g/Lのグルコースに加えて約40g/Lのグルコースが供給されたことになるまで上記一定速度グルコース供給を継続することにより、50g/Lのグルコースを添加する。一実施態様では、規模拡大が容易にできるように、こうした総量の炭素源を濃縮した状態で供給する。こうした量は、特定の状況おいて用いるべき炭素源の総質量に容易に換算することができる。例えば、10g/Lの炭素源を1,000Lの培養物に添加する場合、添加すべき炭素源の総量は、総炭素源として10g/L×1,000L=10,000グラム(即ち、10kg)と、容易に求めることができる。炭素源の総添加量は、本明細書に記載した各種実施態様において閾値パラメータとすることができる。
【0074】
任意の特定の培養物に添加するインデューサの適切な総量については、本明細書に示した指針に基づいて当業者が容易に決定することができる。この培養物に添加するインデューサの総量は、各種実施態様において(培養物のリットル単位の総容量に基づき、)約4g/L乃至約40g/Lの範囲とすることができる。種々の実施態様において、培養物に添加する炭素源の総量は、培養物の総容量に基づき、約5g/L乃至約20g/L、7g/L乃至約15g/L、8g/L乃至約14g/L、9g/L乃至約11g/L又は約10g/Lである。一実施態様では、規模拡大が容易にできるように、こうした総量のインデューサを濃縮した状態で供給する。こうした量は、特定の状況おいて用いるべきインデューサの総質量に容易に換算することができる。例えば、10g/Lのインデューサを1,000Lの培養物に添加する場合、添加すべきインデューサの総量は、総インデューサとして10g/L×1,000L=10,000グラム(即ち、10kg)と、容易に求めることができる。
【0075】
通常、新鮮培養培地には宿主細胞接種時に初期量の最初の炭素源を添加することにより培養物を作製することになる。この初期の濃度をモニタリングし、この最初の炭素源の濃度を閾値パラメータとして用いることができる。
【0076】
炭素源に加えて、任意の適したサプリメント又は栄養素を適切な量で培養物中に供給することもできる。この他の栄養素又はサプリメントをモニタリングし、適切に閾値を設定することもできる。本発明では窒素又は無機リン酸供給源などのサプリメントを用いることが企図されている。本発明の方法において用いることが企図されている化合物の例としては、KH2PO4、K2HPO4、クエン酸ナトリウム、二水和物、(NH4)2SO4、MgSO4、(Na)2SO4、CaCl2、FeSO4、クロラムフェニコール又はこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。追加的な炭素源又は炭素源類を使用することも企図されている。
【0077】
光学濃度及び対数増殖期
新鮮培養培地に細菌宿主細胞を導入することによって通常以下の4つの、程度の差はあれ異なる増殖期を経る培養物が得られる:(i)誘導期、(ii)対数(対数又は指数増殖)期、(iii)定常期及び(iv)衰退(死滅)期。対数期自体はさらに、初期対数増殖期、中期対数増殖期、後期対数増殖期などの種々の期に分けることができる。光学濃度は対数増殖の期に関連づけられる。対数増殖期及び光学濃度は、炭素源及び/又はインデューサの一定供給の開始及び/又は停止を信号として知らせるための閾値パラメータとして用いることもできる。
【0078】
例えば、誘導、即ち、インデューサの連続添加は、初期対数増殖期、中期対数増殖期及び後期対数増殖期で開始することができる。後期対数増殖期は約70乃至約110のODで生じさせることができる。本発明の一実施態様では、インデューサの定速供給は、培養培地の後期対数増殖期において、或いは各種実施態様では約70乃至約110、約70乃至約105、約75乃至約85又は約80のODで開始する。
【0079】
ODは、当業者によって用いられている種々の波長で測定することができる。通常、培養物中の細胞の細胞増殖及び密度の指標としてはOD600が用いられる。特に示さない限り、本明細書で用いている「OD」はOD600を意味する。
【0080】
溶存酸素
供給制御装置の始動及び/又は停止の引き金となることができる別のパラメータは溶存酸素(DO)(即ち、DOスタット流加発酵)である。DOは、培養培地を含む槽内の攪拌、空気流、酸素補給及び圧力を調整することによって制御することができる。DOの閾値は、20%、40%又は80%など、5%乃至80%DOの範囲に設定することができる。一旦閾値が満たされると、炭素源又はインデューサの供給制御装置は、この制御装置の停止を知らしめる閾値が満たされるまで、オンにしておくことができる。停止閾値は、別のDO閾値又は炭素源もしくはインデューサの量などの別のパラメータとすることができる。例えば、培養培地中のDOが30%又は40%を超えて上昇した時にはいつでも、供給制御装置は、DOが20%に低下するまでに、或いは本発明の種々の実施態様に従って0.5g/L又は1g/Lの炭素源又はインデューサを新たに添加するまでに始動させることができる。
【0081】
pH
供給制御装置の始動及び/又は停止の引き金となることができる別のパラメータはpH(即ち、pHスタット(pH−stat)流加発酵)である。pHは培養培地に塩基又は酸を添加することにより制御することができる。pHの閾値は、7.0など、6.8乃至7.2の範囲に設定することができる。一旦閾値が満たされると、炭素源又はインデューサの供給制御装置は、制御供給の停止を信号として知らせる閾値が満たされるまでオンにしておくことができる。停止閾値は、別のpH閾値又は炭素源もしくはインデューサの量などの別のパラメータとすることができる。例えば、培養培地中のpHが6.97に上昇した時にはいつでも、供給制御装置は、pHが6.95に低下するまでに、或いは本発明の種々の実施態様に従って1g/Lの炭素源又はインデューサを新たに添加するまでに、始動させることができる。
【0082】
収集時間
収集時間とは、最初の誘導、即ち、インデューサの添加後に経過する時間を意味する。本発明では任意の適した収集時間が企図されている。収集時間は、本発明の種々の実施態様では約2時間乃至約10時間、約2時間乃至約8時間、約2.5時間乃至約7時間、約3時間乃至約6時間などの範囲にあるものとすることができる。当業者であれば、一定供給速度、収集時間及びインデューサの総量を用いて、所望の結果を達成するには各パラメータをどのように調整することができるのか分かるであろう。当業者であれば、供給速度及び時間に基づいて供給量を容易に求めることができるので、アラビノースの供給量からいつ収集すべきか分かると思われる。このようにして、例えば、3時間で供給される5、10、20、30及び40g/Lのインデューサの最終濃度を達成することができるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
インデューサの濃度
本発明では任意の適した濃度のインデューサが企図されている。宿主細胞を誘導するのに有効なインデューサの濃度は約0.00001%乃至約20%(v/v)の範囲にあるとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0084】
温度
本実施態様の培養物は細胞の増殖を可能にする任意の温度でインキュベートすることができる。十分な増殖をもたらす、培養物をインキュベートする各種温度としては、22℃、28℃、37℃又はこれらの任意の組合せが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0085】
発酵装置
当業者であれば理解されようが、本発明では、任意の適した発酵装置(即ち、「発酵槽」)を使用することが企図されている。例えば、発酵槽は、任意の数のインペラ(Rushtonインペラなど)、取入れ口及び/又は測定プローブを具備することができる。一実施態様では、発酵槽は、3枚のインペラ及び空気を発酵槽中に導入するための1個のリング又はチューブスパージャを含むように構成される。本発明では、手動及び/又はコンピュータ利用システムを使用することを企図している。従って、この発酵システムは、発酵をモニタリングし、制御するためのコンピュータ化システムと連動することができる。このようにして、このシステムは、本発明の実施態様では、完全又は部分的に自動化することができる。
【0086】
本発明の組成物
組換えタンパク質、例えば、本発明の方法に従って調製したものを含む組成物を本発明の実施態様として本明細書に記載している。本発明の組成物は組換えタンパク質を高密度で培養物中に含み、そのようなタンパク質としては本発明の方法に従って調製した組換えタンパク質類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
この組成物は、培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度で組換えタンパク質を有する培養物を含む。上記組換えタンパク質の密度は、本発明の別の実施態様では、培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.7g/Lである。この組換えタンパク質の密度は、本発明の別の実施態様では、培養物の総容量に基づき、少なくとも約2.0g/Lである。この組換えタンパク質の密度は、本発明の別の実施態様では、培養物の総容量に基づき、少なくとも約3.0g/Lである。
【0088】
本発明の一実施態様では、組換え2086タンパク質を含む組成物を提供する。この場合の2086タンパク質とは、髄膜炎菌血清群Bの2086遺伝子に相当するポリヌクレオチドにより発現されるタンパク質であり、これにはその断片、誘導体又は突然変異体を含める。2086タンパク質及びポリヌクレオチドの例はWO03/063766及びWO04/094596に記載されているが、これらに限定されるものではない。
【0089】
上記組換え2086タンパク質組成物は、培養物中に、この培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度の組換え2086タンパク質を含む。本発明の別の実施態様では、この組換え2086タンパク質の密度はその培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.7g/Lである。本発明の別の実施態様では、この組換え2086タンパク質の密度はその培養物の総容量に基づき、少なくとも約2.0g/Lである。本発明の別の実施態様では、この組換え2086タンパク質の密度はその培養物の総容量に基づき、少なくとも約3.0g/Lである。
【0090】
本発明の組成物には、本発明の方法に従って調製したタンパク質などの任意のタンパク質を含ませることができる。上記組換えタンパク質は脂質付加されていてもよいし、脂質付加されていなくてもよい。本発明の一実施態様では、この組換えタンパク質は、脂質付加されているか、脂質付加されていない組換え2086タンパク質である。この組換え2086タンパク質は、2086サブファミリーAもしくはサブファミリーBのタンパク質又はこれらの組合せとすることができる。本発明の組成物には1種のタンパク質又は2種以上のタンパク質を含めることができる。これらのタンパク質は互いに同族又は無関係のタンパク質とすることができる。例えば、本発明の組成物には、一種以上のサブファミリーA株及び/又は一種以上のサブファミリーB株に対応する2086タンパク質を含めることができる。
【0091】
また、本発明の方法を実施する際に用いるための物質を含む組成物も本明細書に示した。このような組成物は、本発明の実施態様では、組換え細胞及び栄養素を含む、培養物に必要な成分を含む。こうした各種の組成物は、本発明の一実施態様では、キットとしてまとめて提供することができる。例えば、培養物を構成するための成分は、実験室又は工業環境での使用を容易にするために、適宜必要量を予めパッケージングすることができるが、これに限定されるものではない。また、このようなキットには、本発明の各種実施態様において各成分の使用及びこれらの成分の組合せ方法を容易にするために、ラベル、表示及び使用法を添付することもできる。
【0092】
以下の実施例は、本発明の各種実施態様を明らかにするために記載されたものである。以下の実施例に開示した技術が、本発明の実施においてよく機能するものであると本発明者らにより見出されたものであり、従って、その実施のための種々の方法を構成するものと考えることができることは、当業者には明らかである。しかしながら、本開示内容を勘案すれば、開示されている特定の実施態様に多くの変更を加えることができ、それでもなお、それによって、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく類似又は同様の結果が得られることは、当業者であれば、理解されるはずである。
【実施例】
【0093】
実施例1:定速供給による流加発酵
流加発酵法のためのモデル株として大腸菌(pPW62)サブファミリーBを用いた。得られる結果に基づいてこの方法をサブファミリーA大腸菌(pPW102)に適用する。
【0094】
流加発酵用の培地及び供給液は、以下の表に示した成分を用いて調製した。
【0095】
培地及び供給液:
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
方法:
定速供給による流加発酵法を用いて大腸菌発酵における高細胞密度を実現した。培地中の最初のグルコース濃度は10g/Lであった。(NH4)2SO4濃度は、発酵培地中では3g/Lに増加させ、種培養培地では1g/Lに維持した。供給速度を決定するために、先ずDOスタット流加を行った。DO濃度は、攪拌速度を最大値に引き上げた後、酸素補充を行うカスケード制御装置によって20%に調整した。グルコースが枯渇すると、DOが急激に上昇した(40%超)ので、グルコース濃縮液を発酵槽中1g/Lの最終濃度となるように添加した。グルコースの各添加後、ポンプをある一定時間オフにしておいた後、次の添加を行わせた。DOスタット流加発酵を行うと、約160の最大ODが得られた。次に、グルコースを十分量添加してその濃度を毎時最大18g/L又は24g/LにするDOスタット制御装置と同等であるように一定速度を選んだ。定速供給による流加発酵中、DOが40%に急上昇したときに、グルコース供給を所望の一定速度で開始した。
【0100】
種培養は、2,800mLフェルンバッハフラスコにおいて基礎培地+15μg/mLクロラムフェニコールの1リットル当たり1バイアルの大腸菌を用いて開始した。このフラスコを32℃、150rpmで一夜(約16時間)インキュベートした。最終OD600は通常約3であった。各発酵槽に接種するのに10%の接種サイズを用いた。各発酵槽には3枚のRushtonインペラ及び1個のリングスパージャを用いた。初期設定値:温度:36℃、pH:7.00±0.05(7.4N NH4OHで調整)、空気流:約1vvm、DO:20%。DOは、ガス混合装置による攪拌(最低:150rpm、最高:1,000rpm)及びO2添加のカスケードにより調整した。必要な場合、PPG−2000を手動で添加することによって泡を制御した。滅菌する前には0.35mL/LのAFを培地に添加した。発酵中、1時間ごとにサンプルを採り、オフラインでグルコース、pH及びOD600をモニタリングした。1mLのサンプルから上清を調製し、後のHPLCによる有機酸の分析のために貯蔵した。
【0101】
結果:
定速供給による流加発酵
図1に、一定供給速度によるOD、グルコース消費及び酢酸の蓄積の経時変化を示した。24gグルコース/L/h及び18gグルコース/L/hの一定供給速度で、それぞれ、158及び150の最大OD値が得られた。24g/L/hの供給速度を用いた場合、ラン(run)時に28g/Lの高濃度のグルコースが蓄積した。18g/L/hの供給速度を用いた場合、グルコースの蓄積は12g/Lとなった。いずれの場合も酢酸は殆ど生じなかった(即ち、1.5g/L未満)。指数増殖期は、OD100近くで終わった。比増殖速度は、いずれの場合も約0.60(hr−1)であった。
【0102】
グルコースの蓄積を低減させるために、16.4g/L/h及び15g/L/hの低い一定供給速度について検討した。図2に上記一定供給速度によるOD、グルコース消費及び酢酸の蓄積の経時変化を示した。最大OD値は、それぞれで142及び147であった。先のラン(run)におけるように、供給速度を速めて培養するほど、より多くのグルコースが蓄積されたが、蓄積されたグルコースの量は先の実験におけるよりもずっと少なかった。16.4g/L/hでは約8g/Lのグルコースが蓄積し、15g/L/hでは5.4g/Lのグルコースが蓄積した。いずれの場合も酢酸は(1.5g/L未満といったように)殆ど生じなかった(図2参照)。比増殖速度は、いずれの場合も約0.60(hr−1)であった。すなわち、比増殖速度は、15g/L/hと24g/L/hとの間で供給速度による影響を受けなかった。
【0103】
各種増殖ODにおける誘導
アラビノース誘導実験には15gグルコース/L/hの一定供給速度を用いた。何故なら、それによって高細胞密度が得られ、グルコース及び酢酸の蓄積が少ないからである。この実験では、中期対数増殖期OD約55及び後期対数増殖期OD約80での誘導を比較した。培養物の誘導は、単にグルコース供給の代わりにアラビノース供給を用い、アラビノースを13.4g/L/hの一定速度で供給することにより行った。各培養物には合計40g/Lのアラビノースを3時間の間に添加した。誘導後、SDS−PAGEによるrLP2086アッセイ並びにHPLCによる有機酸及びアラビノースのアッセイのためにサンプルを毎時採取した。
【0104】
図3にOD約55及び約80で誘導した場合のOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。最大OD及びrLP2086収量とも、細胞をOD約80で誘導した場合でより高かった(最大OD:101対84、最大収量:1.8g/L対1.2g/L)。
【0105】
種々のアラビノースレベルでの誘導
以下の実験の目的は、培養物に供給されたアラビノースの量を測定し、この培養物へのアラビノース供給量を減少させてもなおrLP2086の高発現が得られるかどうかを検討することにある。4つの異なる培養物のそれぞれににアラビノース濃縮液を種々の供給速度で3時間の間供給し、最終アラビノース濃度10、20、30及び40g/Lを得た。培養物は全てOD600約80で誘導した。図4にOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。表5は、これら4条件のそれぞれにつきOD及びrLP2086収量をまとめたものである。表に示したように、最大rLP2086収量は、アラビノース添加総量10g/Lで1.2g/L、アラビノース添加総量20g/Lで1.6g/L、アラビノース添加総量30g/Lで1.7g/L、アラビノース添加総量40g/Lで2.0g/Lであった。20g/L乃至40g/Lのアラビノース供給ではrLP2086収量は同様であったが、10g/LのアラビノースではrLP2086の産生はずっと少なかった(即ち、1.2g/L)。これらの結果は、誘導のために添加するアラビノースの総量をrLP2086生産性を低下させることなく40g/Lから20g/Lへ減少させることができることを示唆している。すなわち、アラビノースの使用量を減らすことは、特にアラビノースの価格が高い(約500米ドル/kg)ことを考えると、より費用効果が高いことになる。
【0106】
【表5】
アラビノース添加方法の比較
誘導用アラビノースに適用する場合、連続供給法が単純な回分添加法より優れているかどうかを検討するために、以下の実験を行った。ラン(run)X−BRN05−039では、ODが約80である場合、20g/Lのアラビノースを、時間をかけて供給するのではなく、一度に全部発酵槽に添加した。図5にOD、グルコース及びアラビノース消費、並びにrLP2086産生の経時変化を示した。最大1.3g/LのrLP2086が得られた。アラビノースの回分添加では、操作的により簡単ではあるが、連続供給よりrLP2086の産生が少なかった。すなわち、アラビノースの連続供給法は単純回分添加より優れている。
【0107】
アラビノース供給速度を低下させることによってアラビノースをさらに効率的に用いることができるかを検討するために、3.3gアラビノース/L/h及び6.7gアラビノース/L/hの供給速度について比較した。図6にOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。アラビノース濃縮液を1つの培養物に6.7g/L/hの供給速度で3時間にわたって供給し、別の培養物を3.3g/L/hの供給速度で6時間にわたって供給した。両培養物とも、添加したアラビノースの総量は20g/Lであった。図6に示したように、いずれの条件においても産生されたrLP2086の最大量は同じであった(即ち、2.2g/L)が、産生の速度には差が認められた。供給速度が高いほど産生速度も高かった。rLP2086の最大量は、6.7g/L/h及び3.3g/L/hの供給速度による誘導後、それぞれ3時間及び6時間に得られた。より高い供給速度(即ち、6.7g/L/h)を用いることの利点は、より低い供給速度を用いる場合よりもより高い供給速度を用いる場合の方が生産費用(例えば、光熱費)が低いことにある。
【0108】
rLP2086発現収量に及ぼす誘導時間の影響
最適の収集時間を決定するために、通常の供給特性(20g/Lアラビノースの3時間にわたる供給)を40g/Lの6時間にわたる供給に拡張した。ラン(run)X−BRN05−028及びラン(run)X−BRN05−029では、それぞれOD約55及びOD約80で細胞を誘導した。図7にOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。アラビノース供給を3時間から6時間に延長したが、興味深いことに、それでも誘導後3時間付近にピーク力価が得られた。この生成物力価は、より高いODで誘導した培養物では若干より高かった。OD約55での誘導時の最大rLP2086収量は2.0g/Lであった(X−BRN05−028)のに対し、OD約80での誘導時ではこれは2.4g/Lであった(X−BRN05−029)。この結果は、誘導後3時間に細胞を収集するべきであることを示唆している。
【0109】
塩含有の有無による供給液の比較
添加塩がグルコース及びアラビノース供給液において必要不可欠であるかどうかを検討するために、単純なグルコース及びアラビノース供給液を標準的なグルコース+塩(即ち、K2HPO4/KH2PO4+(NH4)2SO4)及びアラビノース+塩供給液と比較した。いずれの培養物についても、アラビノースは20g/Lを3時間にわたって供給した。その結果、増殖及びrLP2086産生の特性は極めて類似していた。rLP2086の最大収量は、供給液に塩を添加した場合には1.8g/Lであり、グルコース及びアラビノース供給液を塩を含有させずに調製した場合には2.0g/Lであった。これらの結果は、グルコース及びアラビノース供給液に塩を添加する必要がないことを示唆している。
【0110】
サブファミリーB株の定速供給による流加発酵
種培養は、15μg/mLのクロラムフェニコールを含有する1Lの基礎培地に1mlの解凍実用種を接種することによって開始した。2.8Lのフェルンバッハフラスコ中でこの培養物を増殖させ、32℃、150rpmで約16時間インキュベートした。最終OD600は約3.0であった。3g/Lの(NH4)2SO4を含有し、クロラムフェニコールを含有しない3.15Lの基礎培地中に350mLの種培養物を無菌的に移した。発酵は7.4NのNH4OHによりpH7.0±0.05に、温度は36℃に、空気流は1vvmに調整した。DOは攪拌(最低:150rpm、最高:1,000rpm)及び酸素添加のカスケードにより調節した。消泡剤PPG−2000を自動添加して泡を抑えた。発酵中、1時間ごとにサンプルを採取してグルコース及びODをオフラインでモニタリングした。接種後、DOは約100%から20%へ低下した後、20%に維持された。DOの20%から40%超への急激な上昇があった(通常6時間の経過発酵時間(EFT))場合、グルコース(塩を含まない)供給ポンプを15g/L/hの速度でオンにした。図8に示したように、グルコースは6時間のEFTまでに完全に枯渇し、DOの急激な上昇をもたらした。ODが約40に達したら、サンプルを半時間毎に採取した。グルコース供給はOD90でオフにし、アラビノース供給を13.4g/L/hの速度でオンにした。3時間のアラビノース(塩を含まない)供給(即ち、合計20g/Lのアラビノース添加)後、アラビノース供給をオフにし、発酵をさらに1時間継続させた。図8に示したように、102のODが得られ、SDS−PAGEに基づき、2.0g/LのMnB rLP2086が発現された(図9参照)。そのピークは、誘導後3時間(即ち、約12時間EFT)に生じた。SDS−PAGE及びウェスタン・ブロットにより、発現タンパク質は確かにサブファミリーBのrLP2086であることが示された。
【0111】
MnrLP2086サブファミリーA株のための流加発酵法の適用
rLP2086サブファミリーBに対して用いた流加発酵法がrLP2086サブファミリーAに適用できるかどうかを調べるために、この方法を、サブファミリーB株で確立した手順を用いて実施した。図10にOD、グルコース及びアラビノース消費並びにrLP2086産生の経時変化を示した。サブファミリーAの増殖及びrLP2086産生特性はサブファミリーBで得られたものと同様であった(図8と比較されたい)。SDS−PAGE及びウェスタン・ブロットにより、発現タンパク質は確かにサブファミリーAのrLP2086であることが示された(図11参照)。表6に6種のサブファミリーAラン(run)の最大OD及びrLP2086発現収量を示した。最大rLP2086発現収量の範囲は1.5乃至2.1g/L(平均最大収量:1.8±0.2g/L)であり、rLP2086サブファミリーBを産生させるために用いた流加発酵からの結果と同様であった。従って、サブファミリーB株用に開発した流加発酵はサブファミリーA株にも適している。
【0112】
【表6】
アラビノース誘導時のグルコース及びアラビノースの二重供給
rLP2086産生を低下させないで必要なアラビノースの量を減少させるために、誘導期におけるグルコース及びアラビノースの二重供給について検討した。この方法は、標準的グルコース供給速度の25%(3.75g/L/h)、50%(7.5g/L/h)及び100%(15g/L/h)で誘導期にグルコースの供給を継続しながら、アラビノース10g/Lを3時間かけて(通常量の半分)供給するものである。これらの供給物グルコース及びアラビノースはいずれも添加物を用いないで調製した。
【0113】
図12a、12b及び12cにサブファミリーB細胞増殖、グルコース、アラビノース及び酢酸濃度並びにrLP2086産生の経時変化を示した。これら3種のラン(run)はOD約80で誘導した。図12aに示したように、100%速度のグルコース供給ランのODは誘導後上昇し続け、ピークが117となったのに対し、誘導後、50%速度のランではピークが106(図12b)、25%速度のランでは100付近に維持された(図12c)。100%速度のグルコース供給では、誘導後3時間でグルコース及びアラビノースが蓄積し始めた。50%速度のグルコースランでは、最後のサンプル中に若干量のグルコース(測定値=0.21g/L)が認められたに過ぎなかった。25%速度のグルコースランでは、グルコースの蓄積は認められなかった。3つのランではいずれもアラビノースの蓄積を認めなかった。100%速度(図12a)及び50%速度(図12b)のグルコース供給ランによって、それぞれ約1.5及び1.7g/LのrLP2086が得られたのに対し、25%速度(図12c)ランによっては2.1g超が得られた。100%速度ランでの産生は、アラビノースが無くなる前にピークに達し、rLP2086発現がグルコース及び酢酸の蓄積によって抑制されたかも知れないことが示唆された。50%速度のランでの産生はアラビノースが無くなる頃にピークに達し、25%速度のランでの産生はアラビノースが無くなった後にピークに達したことから、2086の発現は、グルコース濃度が最低レベルに抑えられている限り(図12b及び12cではグルコースの蓄積はみられない)抑制されないかも知れないことが示唆される。これらの培養物にはわずか10g/Lのアラビノースを供給したが、そのrLP2086産生は20g/Lを供給した場合と同様であった。グルコースとアラビノースの同時供給では、アラビノース消費を50%低下させることができ、それでもなお、グルコース濃度を誘導中低いに抑えている場合には同じrLP2086収量を達成することができる。従って、化学物質の費用を著しく低下させることができる。
【0114】
さらにアラビノース消費を低下させてrLP2086収量を増加させることができるかどうかを調べるために、種々のグルコース供給速度、供給アラビノースの総量及び誘導ODについて検討した。表7はこれらの条件の種々の組合せを示したものである。グルコース供給速度2.25乃至7.5g/L/h及びアラビノース供給速度1.7及び6.7g/L/hではrLP2086収量は著しい影響は受けないであろうと思われる。80乃至105の誘導ODではrLP2086収量は同様であった。
【0115】
【表7】
実施例3:100L規模へのスケールアップ流加発酵
種培養は、15μg/mLのクロラムフェニコールを含有する2つの1L基礎培地に1ml(即ち、1バイアル)の解凍実用種を接種することによって開始した。2.8Lフェルンバッハ中のこの培養物をロータリーシェーカーを用いて32℃、150rpmで約16時間インキュベートした。
【0116】
2つの1L一夜フェルンバッハ種培養物をクロラムフェニコールを含有しない70Lの基礎培地を含む150L発酵槽に無菌的に移した。基礎培地中におけるこの150L発酵は、7.4N NH4OHによりpH7.0±0.05、温度36℃、DO20%及び空気流1vvmに調整した。DOは攪拌及び酸素添加のカスケードによって調節した。消泡剤PPG−2000を自動添加して泡を抑えた。発酵中、DOは約100%から20%へ低下し、20%で維持された。DOの20%から40%超への急激な上昇があることにより(通常、OD約20で)、グルコースの枯渇を知らせている場合、供給ポンプを作動させてグルコース濃縮液(即ち、500g/L)を15gグルコース/L培養物/hの速度で3時間供給した。発酵中、1時間ごとにサンプルを採取してグルコース及びODをオフラインでモニタリングした。ODが約40に達したら、半時間ごとにサンプル採取を行った。ODが約80に達すればすぐに、グルコース供給を停止させ、アラビノース(例えば、500g/Lのアラビノース濃縮液)供給を6.7gアラビノース/L培養物/hの速度で開始させ、これを3時間行った。
【0117】
図13aに100L規模でのサブファミリーB細胞増殖、グルコース消費、酢酸蓄積及びrLP2086産生の経時変化を示した。この100L規模での発酵特性は、小規模でみられたのと同様であった。最大OD99及び最大rLP2086収量1.9g/Lが得られた。これらの結果は流加発酵が規模拡大可能であることを証明している。
【0118】
図13bに100L規模でのサブファミリーA細胞増殖、グルコース消費、酢酸蓄積及びrLP2086産生の経時変化を示した。この100L規模での発酵特性は、小規模でみられたのと同様であった。最大OD96及び最大rLP2086収量2.0g/Lが得られた。これらの結果は流加発酵が規模拡大可能でしっかりとしたものであることを証明している。
【0119】
図14aに100L規模でのグルコース及びアラビノースの二重供給によるサブファミリーA細胞密度、グルコース、アラビノース及び酢酸濃度並びにrLP2086収量の経時変化を示した。誘導時、供給速度は、グルコース及びアラビノース供給において、それぞれ3.75及び1.67g/L/hに調整した。アラビノース及びグルコースの二重供給は5時間で行った。最大OD90及び最大rLP2086収量1.8g/Lが得られた。この最大rLP2086収量は4時間誘導時に認められた。サブファミリーBにおける平均最大OD及び平均最大rLP2086収量は、それぞれ84.8±6.8及び1.6±0.3g/Lであった。これらの結果は、誘導期におけるグルコース及びアラビノースの二重供給による流加発酵が規模拡大可能であることを証明している。
【0120】
図14bに100L規模でのサブファミリーA細胞増殖、グルコース消費、酢酸蓄積及びrLP2086産生の経時変化を示した。発酵は段落[0109]に記載したのと同じ条件で実施し、細胞の誘導は6時間行った。最大OD89及び最大rLP2086収量1.8g/Lが得られた。この最大rLP2086収量は4時間誘導時に認められた。サブファミリーAの場合、平均最大ODは87.9±10.5及び平均最大rLP2086収量は1.8±0.2g/Lであった。これらの結果は流加発酵が規模拡大可能でしっかりとしたものであることを証明している。
【0121】
本発明を各種の実施態様及び実施例を参照して説明してきたが、本発明に対して、その精神及び範囲を逸脱することなく種々の修正を加えることができることは当業者により認められよう。
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2006年7月27日に出願された、表題「HIGH−CELL DENSITY FED−BATCH FERMENTATION PROCESS FOR PRODUCING RECOMBINANT PROTEIN」の米国仮特許出願第60/833,479号(この開示は、その全体が参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本願は、一般に細菌系におけるタンパク質発現を向上させる新規な流加発酵法、並びに高密度タンパク質組成物、及びこの新規流加発酵法に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
実験室、臨床又は商業用途のためにタンパク質を十分な量産生させるための種々の発酵方法が用いられてきた。流加発酵法は、タンパク質の収量を単純な回分発酵法によって得られるものより増加させるために用いられてきた。流加発酵法は、初期の回分相の後、1種以上の栄養素をフィーディングにより培養物に供給する相が行われる方法である。
【0004】
一般に、上記バッチ相においては、最初に細胞を所望の濃度にまで増殖させる。この相では、細胞増殖は増幅されるが、一般にはプロモータに応じてアラビノース、ラクトース又はイソプロピルベータ−D−チオガラクトシド(IPTG)といったインデューサを加えるのでなければ目的とするタンパク質は産生されず、或いはいくらかのプロモータ漏出が起こる。上記供給相においては、通常、炭素源その他の必要素を比較的濃縮された液体流として一定の供給速度で発酵槽に供給する。一旦、目的とする細胞密度が達成されると、上記インデューサ又はインデューサと他の栄養素の供給を開始する。この相では、増殖した細胞によるタンパク質産生に重点が置かれる。この段階では、発酵槽に供給する基質(即ち、栄養素及びインデューサ)は、概して細胞増殖及び生成物合成に用いられる。この細胞増殖を供給速度によって制御することにより、最適な細胞増殖及びタンパク質産生が得られる。タンパク質の産生段階においては、組換え生物用のインデューサを添加しなければならない。
【0005】
グルコース又は他の糖系炭素源などの一般的な炭素源及びインデューサを含む培地上でのタンパク質発現は、供給相の終了時に制約条件が生じるまで良好である。制約条件としては、例えば、酸素濃度の低下、ビタミン類、炭素、窒素などの栄養素の減少、及び増殖培地中の毒性化合物の蓄積が挙げられる。
【0006】
流加発酵の方法は、栄養素の供給を制御するための間接的及び直接的フィードバックを含む種々の形態の制御を必要とすることが多い。そのような流加発酵法の1つは、栄養素を供給することによりプロセスパラメータを特定の設定値に制御することによってフィードバック制御アルゴリズムを適用するものである。例えば、供給の直接的な制御は栄養素の濃度の測定に基づくものとすることができる。次に、フィードバック制御は、発酵全体を通して細胞活性に直接関連づけられる。発酵のフィードバック制御に用いられている制御パラメータとしては、pH値、細胞密度のオンライン測定値又は溶存酸素圧(DOT)が挙げられる。
【0007】
しかしながら、フィードバック・アルゴリズムの適用はいくつかの欠点を伴う。そのような欠点の1つは、供給速度が稼働中プロセスのパラメータに依存していることである。このプロセスに障害が加わると、パラメータに影響があり、このため供給速度及び得られるタンパク質収量がゆがめられる。このような欠点は、タンパク質量を増加させるためにプロセスをスケールアップするにつれて、拡大する。
【0008】
これまでに用いられてきた流加発酵法の別の欠点は、フィードバック制御を用いる際に、特定の増殖速度を正確に事前規定又は制御することができず、その結果、生成物の形成が増殖に依存している場合、プロセスの収量が最適以下となることである。
【0009】
さらに、中心代謝経路への炭素フラックス(例えば、高グルコース濃度)がトリカルボン酸(TCA)サイクルの最大能力を超える場合には、副生成物が蓄積することがある。副生成物が蓄積すると、発酵中の細胞増殖及びタンパク質産生が阻害されることも考えられる。
【0010】
さらに、流加発酵法の種々の欠陥のために栄養素成分の利用が非効率的となる場合が多い。従って、こうした方法は、特にタンパク質の大規模商業生産には経済的に不利であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、流加発酵によって組換えタンパク質を発現させるこれまでの方法には種々の欠陥がある。各種の目的で十分量のタンパク質をコスト効率よく産生させることは重要であることから、細胞増殖の促進、タンパク質生成の増大(即ち、タンパク質収量の上昇)及び副生成物蓄積の減少をもたらす効率的な流加発酵法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
要旨
本発明は、組換えタンパク質を予想外に高い収量で産生させるための新規な流加発酵法に関する。
【0013】
本発明の実施態様は、組換えタンパク質を産生させる方法であって、組換え細菌細胞を含む培養物に炭素源を連続的に添加し、この培養物が閾値パラメータを達成した後にこの培養物にインデューサを連続的に添加することを含む、この組換え細菌細胞を培養して組換えタンパク質を発現させること、及び上記培養物からこの組換えタンパク質を単離することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明の別の実施態様は、組換えタンパク質を産生させる方法であって、(a)誘導プロモータの制御下にある組換えタンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成し、(b)この組換え細菌細胞を培養培地中に導入して細胞培養物を形成し、(c)この細胞培養物に連続供給材料として炭素源を添加し、(d)この細胞培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD600)が達成されたかどうかについて観察し、(e)一旦、この閾値光学濃度(OD600)が達成されると、連続供給材料として上記誘導プロモータのインデューサを上記細胞培養物に添加し、及び(f)この細胞培養物から上記組換えタンパク質を収集することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明のさらに別の実施態様は、組換えタンパク質を産生させる方法であって、組換え細菌細胞を培養し、培養物が閾値パラメータを達成した後にこの細菌細胞を含む培養物に連続的にインデューサを添加することによって組換えタンパク質を発現させることを含み、この細菌細胞が髄膜炎菌血清群Bの遺伝子に相当する核酸配列を含むものとする方法を提供する。
【0016】
さらに別の実施態様において、本発明は、組換え2086タンパク質(rP2086)を産生させる方法であって、(a)誘導プロモータの制御下にある組換え髄膜炎菌2086タンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成し、(b)この組換え細菌細胞を培養培地中に導入して培養物を形成し、(c)この培養物に炭素源を添加し、(d)細胞培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD600)が達成されたかどうかについて観察し、(e)培養物の細胞密度が約70乃至110の光学濃度に達すればすぐに上記誘導プロモータのインデューサを培養物に連続的に添加し、(f)このインデューサの連続添加の開始後約3時間乃至約6時間後に培養物から上記組換え2086タンパク質を収集することを含む方法を提供する。
【0017】
別の実施態様において、本発明は、細菌培養物であってこの細菌培養物の全容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度で組換え2086タンパク質(rP2086)を含む培養物を含む組成物を提供する。
【0018】
さらに別の実施態様において、本発明は、本発明の方法に従って調製した組換え髄膜炎菌2086タンパク質(rP2086)を含む細菌培養培地を含む組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】誘導の無い、各種一定供給速度における流加発酵を示すグラフである。
【図2】誘導の無い、各種一定供給速度における流加発酵を示すグラフである。
【図3】各種光学濃度における誘導を示すグラフである。
【図4】種々のアラビノースレベルを用いた誘導を示すグラフである。
【図5】rLP2086の収量に及ぼすアラビノース添加方法の影響を示すグラフである。
【図6】rLP2086の産生に及ぼすアラビノース供給速度の影響を示すグラフである。
【図7】発現に及ぼす誘導時間の影響を示すグラフである。
【図8】サブファミリーBのrLP2086を産生させるための流加発酵を示すグラフである。
【図9】図9aは、rLP2086サブファミリーB誘導についてのSDS−PAGEを示す図である。図9bは、rLP2086サブファミリーB誘導についてのウエスタン・ブロットを示す図である。
【図10】サブファミリーAのrLP2086を産生させるための流加発酵を示すグラフである。
【図11】図11aは、rLP2086サブファミリーA誘導についてのSDS−PAGEを示す図である。図11bは、rLP2086サブファミリーA誘導についてのウエスタン・ブロットを示す図である。
【図12A】誘導時におけるグルコース及びアラビノースの二重供給を示すグラフである。
【図12B】誘導時におけるグルコース及びアラビノースの二重供給を示すグラフである。
【図12C】誘導時におけるグルコース及びアラビノースの二重供給を示すグラフである。
【図13A】100L規模でのrLP2086サブファミリーBの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【図13B】100L規模でのrLP2086サブファミリーAの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【図14A】100L規模でのグルコース及びアラビノースの二重供給によるrIP2086サブファミリーBの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【図14B】100L規模でのグルコース及びアラビノースの二重供給によるrIP2086サブファミリーAの大腸菌流加発酵を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の方法は、培養培地における誘導時にインデューサを連続供給することによる流加発酵によって予想外に高いタンパク質収量が得られるという意外な発見に基づくものである。炭素源は、任意選択的に、インデューサの連続供給の前及び/又はその間に連続的に供給する。アラビノースによる誘導の場合、本発明の実施形態として(髄膜炎菌血清群Bの2086遺伝子に相当する配列を有する微生物によって発現される)組換え2086リポタンパク質(rLP2086)が約2乃至3g/L産生された。これは、比較回分発酵法と比較してrLP2086タンパク質のサブファミリーA及びBの両方の場合の流加発酵によるこの2086の収量が約2乃至3倍であることを意味している。さらに、本発明の方法は上記及び他のタンパク質の商業規模の生産にすぐに応用できる。
【0021】
本明細書に記載した実施態様の理解を進める目的で、種々の実施態様について述べ、同一のもの又はことを述べるのに特定の言語を用いる。本明細書に用いている用語は、単に個々の実施態様を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。英文の本開示内容全体を通して用いている単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別の意味に解すべき場合を除き、複数形指示(plural reference)を包含する。同様に、「medium」などの用語の単数形は複数形「media」という表現を包含し、その逆の場合も同様である。従って、例えば、「a culture medium」という表現は、単一種の培地ばかりでなく、複数種のそのような培地をも包含し、「culture medium」という表現は、単一種の培地ばかりでなく、複数種の培地をも包含する。
【0022】
本明細書に用いている「インデューサ」という用語は、組換えタンパク質の発現を誘導、増強又は促進し、それによって誘導プロモータの制御下の遺伝子発現をその濃度により直接調節することができる任意の物質のことを意味する。
【0023】
本明細書に用いている「炭素源」という用語は、細胞のための炭素及びエネルギーの供給源のことを意味する。
【0024】
本明細書で同じ意味で用いている「供給(feed)」、「供給された(fed)」、「供給する(feeding)」又は「連続的に添加する(continuously adding)」という用語は、全部を一度にではなくある期間にわたって連続的に物質を添加することを意味する。これらの用語では、単回の開始及び/又は終了、或いは発酵過程においてこの物質を連続的に添加するための複数の開始及び/又は停止点を考慮している。
【0025】
本明細書に用いている「組換えタンパク質」という用語は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、オリゴタンパク質及び/又は融合タンパク質を含む複数のアミノ酸をコードしている組換え遺伝物質から発現された、レポータ又はマーカ遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質)ではない任意のタンパク質又はその生物活性部分(例えば、そのタンパク質の完全体の生物活性を保持している部分)のことを意味している。組換えタンパク質産物には治療用、予防用又は診断用産物を含めることができる。
【0026】
本発明の方法
本発明の方法では、培養物が閾値パラメータを達成した後に培養培地にアラビノースなどのインデューサを連続的に添加する新規な流加発酵プロセスを介して予想外に高い収量でタンパク質が得られる。一般には、この誘導期の前に、組換え細菌細胞を含む培養物にグルコースなどの炭素源を添加する。この炭素源は、インデューサと一緒に供給してもよい。このインデューサは二次炭素源としての機能を果たすこともできる。
【0027】
グルコースなどの炭素源は、本発明の実施態様では、培養培地へのインデューサの連続供給の前及び/又はその間に、培養培地に連続的に添加する。従って、一実施態様では、炭素源の連続供給はインデューサの連続供給と部分的に重なる。炭素源の連続供給は、連続インデューサ供給の全継続時間の間又はその継続時間の一部の間のみ継続することができる。別の実施態様では、炭素源の連続供給はインデューサの連続供給と重ならない。本発明の実施態様によれば、インデューサ及び/又は炭素源は、一定の速度で培養物に供給することができる。
【0028】
上記流加発酵プロセスは、本発明の実施態様に従って所望のタンパク質の産生をもたらすいくつかの工程を伴う。最初の工程では、誘導プロモータの制御下の組換えタンパク質産物をコードしている発現ベクターを調製した後、これを細菌宿主細胞中に導入する。次いで、この細菌宿主細胞を培養培地中に導入する。次に、上記誘導プロモータのインデューサを培養物に供給する(即ち、インデューサをある期間にわたって連続的に培養物中に添加する)。このインデューサは、一定速度で培養物に供給することができる。その後、培養物から組換えタンパク質産物を収集する。次いで、このようにして産生させた組換えタンパク質は、所望通りに精製し、及び/又は予防用、治療用又は診断用製剤としてなど、任意の適当な様式で使用することができる。
【0029】
インデューサを一定速度で供給することによる流加発酵によって予想外にも高細胞密度及びタンパク質収量の向上が達成された。この発酵では、下記の実施例に示したように、回分発酵に比し、約2乃至3倍の組換えタンパク質産物の収量が得られる。本発明の方法は、小規模発酵ばかりでなく大規模発酵にも適用可能である。本明細書に用いている「大規模」発酵とは、実容積、即ち、ヘッドスペース用に適当な空間を残した有効容積が少なくとも約1,000Lである発酵槽を用いた発酵のことを意味する。「小規模」発酵とは、実容積が通常わずか約100L、例えば5L、10L、50L又は100Lである発酵槽を用いた発酵のことを意味する。本流加発酵プロセスの明らかとなった利点は、これが5乃至10Lの発酵槽規模での組換えタンパク質産物の製造に利用することができ、任意の容積、例えば、100L、150L、250L、500L、1,000L又はそれ以上と、これらに限定されるものではないが、規模拡大が可能であることにある。
【0030】
インデューサ:
本明細書に記載の方法は、組換えタンパク質の産生であって、組換えタンパク質の発現が誘導プロモータの転写制御下にあり、これによってその誘導プロモータの制御下の遺伝子発現を培養培地中に存在するインデューサの濃度により直接調節することができるものとする産生のことを意味する。このインデューサは、培養培地に、任意選択的に一定速度で、連続供給する。このインデューサは、閾値パラメータが達成されればすぐに培養培地に添加する。例えば、組換えタンパク質はaraBプロモータ(例えば、ParaB)の制御下におくことができ、このプロモータは、培養培地に一定速度で添加するアラビノースの濃度によって直接調節することができる。本発明と関連して用いるための好適なインデューサは、当業者には公知である。本発明のインデューサの例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0031】
【化1】
炭素源
当業者であれば理解されようが、任意の適切な炭素源、例えば、グリセロール、コハク酸、乳酸又は糖系炭素源、例えば、グルコース、ラクトース、スクロース及びフラクトースを本発明において使用することが企図されている。例えば、本発明に用いることができる糖系炭素源としては、ホモ多糖及びヘテロ多糖、例えば、ラクトース、アミロペクチン、でんぷん、ヒドロキシエチル・でんぷん、アミロース、硫酸デキストラン、デキストラン、デキストリン、グリコーゲンもしくは酸性ムコ多糖類、例えば、ヒアルロン酸の多糖サブユニットを包含する、以下の糖単量体を含む分枝又は非分枝多糖類:D−マンノース、D−及びL−ガラクトース、フコース、フラクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルクロン酸、シアル酸、D−ガラクツロン酸、D−マンヌロン酸(例えば、ポリマンヌロン酸もしくはアルギン酸)、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、D−グルコース及びノイラミン酸;ポリソルビトール、ポリマンニトールなどの糖アルコールの重合体;ヘパリン又はヘパラン;或いはこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。グルコースは本発明の実施態様において主要な炭素源である。アラビノースは、インデューサとして用いる場合、二次炭素源としての機能を果たすこともできるが、主要炭素源とすることもできる。一実施態様では、炭素源として、D−グルコース、L−アラビノース、スクロース、l−イノシトール、D−マンニトール、β−D−フラクトース、α−L−ラムノース、D−キシロース、セルロース又はこれらの任意の組合せのうちのいずれかが挙げられる。1種又は2種以上の炭素源を本発明に用いることができる。
【0032】
細菌発現系及びプラスミド
また、本発明は、プロモータ配列及びイニシエータ配列を有する発現制御配列並びに所望のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含むプラスミドなどの発現ベクターを含む組換え細菌細胞であって、このヌクレオチド配列がこれらのプロモータ及びイニシエータ配列に対して3’側に位置している細菌細胞を提供する。本明細書に記載した開示内容から当業者には理解されようが、任意の適切な発現制御配列及び宿主細胞/クローニング媒体が企図されている。
【0033】
適切な発現制御配列及び宿主細胞/クローニング媒体組合せについては当該分野で公知であり、例えば、Sambrook,J.、E.F.Fritsch及びT.Maniatis、1989年、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press):コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨークに記載されている。概して、組換えDNA技術は、対象とする組換えタンパク質をコードしているDNA配列を合成又は単離によって入手し、これを適切なベクター/宿主細胞発現系中に導入し、この系でこの配列を、好ましくはアラビノース誘導プロモータの制御下に発現させるものである。発現ベクター中へのDNAの挿入について記載されている方法はいずれも、プロモータ及び他の調節制御要素をその選択したベクター内の特定部位に結合させるのに用いることができる。次いで、適切な宿主細胞に、従来技術により、そのようなベクター又はプラスミドを形質転換、感染、形質導入又は形質移入させる。
【0034】
対象とする組換えタンパク質を発現させるのに種々の宿主細胞−ベクター(プラスミド)系を用いることができる。例えばアラビノース誘導プロモータを含む系などのベクター系は、用いる宿主細胞に適合する。対象とする組換えタンパク質産物をコードしているDNAを発現系中に挿入し、プロモータ(好ましくは、アラビノース誘導プロモータ)及び他の制御要素をそのベクター内の特定の部位に結合させることによって、このベクターを(用いる宿主細胞−ベクター系に応じて形質転換、形質導入又は形質移入により)宿主細胞中に挿入すると、対象組換えタンパク質産物をコードしている上記のDNAが宿主細胞によって発現される。
【0035】
このベクターは、上述したウイルスベクター又は非ウイルスベクターのうちの1種から選択することができるが、使用する宿主細胞に適合するものでなければならない。上記組換えDNAベクターは、(ベクター/宿主細胞系に応じて)形質転換、形質導入、形質移入などによって適切な宿主細胞(細菌、ウイルス、酵母、哺乳動物細胞など)中に導入することができる。宿主−ベクター系としては、バクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNAで形質転換した細菌が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
対象組換えタンパク質産物の原核生物における発現は、融合又は非融合タンパク質の発現を誘導する構成的又は誘導プロモータを含有するベクターを有する大腸菌などの任意の適切な種又は株の細菌で行うことができる。
【0037】
融合ベクターは、これにコードされているタンパク質に対し、いくつかのアミノ酸をその組換えタンパク質のアミノ又はカルボキシ末端に付加する。このような融合ベクターは、通常3つの目的を果たす:1)組換えタンパク質の発現を増加させること、2)この組換えタンパク質の溶解度を増大させること、及び3)親和性精製のリガンドとして作用させることにより組換えタンパク質の精製を促進すること。多くの場合、融合発現ベクターでは、融合部分と組換えタンパク質との接合部に蛋白分解的切断部位を導入することによって融合タンパク質の精製後の融合部分からの組換えタンパク質の分離が可能となる。このような酵素及びその同族認識配列としては、Xa因子、トロンビン及びエンテロキナーゼが挙げられる。
【0038】
代表的な融合発現ベクターとしては、目的組換えタンパク質に、それぞれグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質又はプロテインAを融合させたPgex(ファルマシア・バイオテク社(Pharmacia Biotech Inc);Smith及びJohnson、1988年)、Pmal(ニュー・イングランド・バイオラブズ社(New England Biolabs)、ベバリー(Beverly)、マサチューセッツ州)及びPrit5(ファルマシア社(Pharmacia)、ピスカタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州)が挙げられる。
【0039】
好適な誘導非融合大腸菌発現ベクターの例としては、pTrc(Amannほか、(1988年) “Tightly regulated tac promoter vectors useful for the expression of unfused and fused proteins in Escherichia coli”、Gene、69:301−315)及びPet lid(Studierほか(1990年) “Use of T7 RNA polymerase to direct expression of cloned genes”、 Methods in Enzymology、185:60−89)が挙げられる。このpTrcベクターからの目的遺伝子の発現は、ハイブリッドtrp−lac融合プロモータからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存している。Pet lidベクターからの目的遺伝子の発現は、同時発現されるウイルスRNAポリメラーゼJ7 gnlにより媒介されるT7gn10−lac融合プロモータからの転写に依存している。このウイルスポリメラーゼは、lacUV5プロモータの転写制御下のT7gnl遺伝子を収容する常在性プロファージから宿主BL21(DE3)又はHMS174(DE3)株によって供給される。
【0040】
上記ベクター構築物の調節配列は一実施態様では誘導プロモータである。誘導プロモータを用いることによって低い基礎レベルの活性化タンパク質を通常の培養及び拡張増加時に産生させることが可能となる。続いて、産生又はスクリーニング時に大量の所望タンパク質を発現するように細胞を誘導することができる。この誘導プロモータは細胞又はウイルスのゲノムから単離することができる。
【0041】
細胞外に供給した化合物により調節される誘導プロモータとしては、アラビノースプロモータ、亜鉛誘導ヒツジ・メタロチオニン(MT)プロモータ、デキサメサゾン(Dex)誘導マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモータ、T7ポリメラーゼ・プロモータ系(WO98/1008)、エクジソン昆虫プロモータ(Noほか、1996年、Proci Natl. Acad. Sci. USA、93:3346−3351)、テトラサイクリン抑制系(Gossenほか、1992年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:5547−5551)、テトラサイクリン誘導系(Gossenほか、1995年、Science、268:1766−1769、Harveyほか、1998年、Curr. Opin. Chem Biol、2:512−518も参照)、RU486誘導系(Wangほか、1997年、Nat. Biotech.、15:239− 243及びWangほか、1997年、Gene Ther.、4:432−441)並びにラパマイシン誘導系(Magariほか、1997年、J. Clin. Invest.、100:2865−2872)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施態様では、上記プロモータはアラビノース誘導プロモータである。
【0042】
本明細書に記載した開示内容から当業者には理解されようが、任意の適切な細菌宿主細胞が本発明における使用のために企図されている。例えば、この目的に適した細菌としては、大腸菌属、エンテロバクター属、アゾトバクター属、エルウィニア属、バシラス属、シュードモナス属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、セラシア属、赤痢菌属、根粒菌属、ビトレオシラ属、パラコッカス属の細菌又はこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような適切な細菌全てのうちの任意の適切な株も本発明によって企図されている。さらに、当業者なら認めるであろうが、適切な突然変異細胞を使用することも本発明により企図されている。当業者であれば、本明細書に示した指針に基づいて特定の状況下で使用するための適切な宿主細胞を選択することは容易にできよう。
【0043】
好適な誘導大腸菌発現ベクターの例としては、pTrc(Amannほか、1988年、Gene、69:301−315)、アラビノース発現ベクター(例えば、Pbad18、Guzmanほか、1995年、J. Bacteriol.、177:4121−4130)及びpETlld(Studierほか、1990年、Methods in Enzymology、185:60−89)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このpTrcベクターからの目的遺伝子発現は、ハイブリッドtrp−lac融合プロモータからの宿主RNAポリメラーゼ転写に依存している。pETlldベクターからの目的遺伝子発現は、同時発現されるウイルスRNAポリメラーゼT7gn1により媒介されるT7gn10−lac融合プロモータからの転写に依存している。このウイルスポリメラーゼは、lacUV5プロモータの転写制御下のT7gn1遺伝子を収容する常在性プロファージから宿主BL21(DE3)又はHMSI74(DE3)株によって供給される。PBAD系は、ara−C遺伝子により調節される誘導アラビノースプロモータに依存している。このプロモータはアラビノースの存在下に誘導される。
【0044】
本発明の他の実施態様では、アラビノース調節発現ベクター、或いは対象組換えタンパク質の発現がアラビノースプロモータ、例えば、大腸菌アラビノースオペロンPBAD又はPARAのプロモータの制御下にあるベクターを利用するが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本発明は任意の所望タンパク質をコードしている核酸(ヌクレオチド)配列を企図している。このヌクレオチド配列は、完全もしくは部分的天然ヌクレオチド配列又は完全もしくは部分的改変ヌクレオチド配列、或いは緊縮条件下でこれらとハイブリッドを形成する任意の配列とすることができる。本明細書において遺伝子に相当する核酸配列という表現は、所望のタンパク質として発現可能な任意の核酸配列を意味している。
【0046】
例えば、そのような核酸配列の改変としては、1個のヌクレオチド欠失、塩基転移及び塩基転換を含む置換又は挿入が挙げられ、こうした改変は参照ヌクレオチド配列の5’又は3’末端位或いはこれらの末端位間のどこかで生じさせ、この参照配列内のヌクレオチド間に個別に又は参照配列内の1つ以上の隣接した群として散在させることができる。ヌクレオチド改変数は、任意の配列のヌクレオチド総数に(100で除した)各同一性百分率の百分率数値を乗じ、この配列のヌクレオチド総数からその積を差し引くことによって求められる。
【0047】
例えば、本発明では、特定の核酸配列と少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列、その縮重変異体又はその断片の使用であって、この配列が上記核酸配列のポリヌクレオチド領域全体に対して最大nn個の核酸改変を含むことができるものとし、nnが最大改変数であり、式:
【0048】
【化2】
により算出されるものとし、式中、xnは任意の配列の核酸総数であり、yは0.70の値を有するものとし、xnとyとの任意の非整数の積については、切り捨てて最近隣数に丸めた後にこの積をxnから差し引くものとするヌクレオチド配列の使用を企図している。言うまでもなく、yは、80%の場合0.80、85%の場合0.85、90%の場合0.90、94%の場合0.94、95%の場合0.95、96%の場合0.96、97%の場合0.97、98%の場合0.98、99%の場合0.99、などの数値をとることもできる。配列の改変によりこのコーディング配列にナンセンス、ミスセンス又はフレームシフト突然変異が生じ、これによってそのような改変後に上記ポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドが改変される。
【0049】
本発明では、縮重変異体又はその断片の使用を企図している。本明細書で定義している「縮重変異体」とは、遺伝コードの縮重によるヌクレオチド配列(及びその断片)とは異なるが、なお同一タンパク質をコードしているポリヌクレオチドである。
【0050】
上記核酸は、DNA、染色体DNA、cDNA及びRNAを含むことができ、さらに、異種ヌクレオチドを含むことができる。種々の実施態様では、この核酸は、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下で特定の核酸、その相補体、その縮重変異体又はその断片とハイリッドを形成する。さらに別の実施態様では、このポリヌクレオチドは中ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でハイリッドを形成する。
【0051】
こうした核酸が天然、合成又は半合成材料から得ることができ、さらに、そのヌクレオチド配列が天然の配列であってもよく、或いはこれがそのような天然配列に対して、単又は多塩基置換、欠失、挿入及び逆位を含む突然変異の関係にあってもよいことは明瞭に理解されよう。上記核酸分子は、RNA、DNA、一本鎖又は二本鎖、直鎖状又は共有結合した環状とすることができる。
【0052】
ストリンジェンシー条件の例は下記のストリンジェンシー条件表に示した。即ち、高緊縮条件とは、例えば、条件A乃至Fと少なくとも同じくらいストリンジェンシーの条件であり、緊縮条件とは、例えば、条件G乃至Lと少なくとも同じくらいストリンジェンシーの条件であり、低緊縮条件とは、例えば、条件M乃至Rと少なくとも同じくらいストリンジェンシーである条件である。
【0053】
【化3】
bpI:ハイブリッド長さとは、ハイブリッド形成しているポリヌクレオチド間のハイブリッド形成されている領域について予測される長さである。あるポリヌクレオチドを配列未知の目的ポリヌクレオチドとハイブリッド形成させる場合、ハイブリッド長さは、ハイブリッド形成しているポリヌクレオチドの長さであると仮定している。配列既知のポリペプチド同士にハイブリッド形成させる場合、ハイブリッド長さは、これらのポリヌクレオチドの配列間で位置合わせを行い、配列相補性が最適である領域又は諸領域を特定することによって求めることができる。
【0054】
緩衝液H:ハイブリッド形成用緩衝液及び洗浄用緩衝液中のSSC(1×SSCは0.15M NaCl及び15mMクエン酸ナトリウムである)はSSPE(1×SSPEは0.15M NaCl、10mM NaH2PO4及び1.25mM EDTA、pH7.4である)で置換することができ、洗浄は、ハイブリッド形成の完了後15分間行う。
【0055】
TBからTRまで:長さが50塩基対未満と予測されるハイブリッドのハイブリッド形成温度は、このハイブリッドの融解温度(Tm)より5乃至10EC低くなるはずである。この場合、Tmは次式に従って求める。長さが18塩基対未満のハイブリッドの場合、Tm(EC)=2(A+T塩基の#)+4(G+C塩基の#)。長さが18乃至49塩基対のハイブリッドの場合、Tm(EC)=81.5+16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)-(600/N)。式中、Nはハイブリッド中の塩基数であり、[Na+]はハイブリッド形成用緩衝液中のナトリウムイオン濃度である(1×SSCの[Na+]=0.165M)。
【0056】
ポリヌクレオチド・ハイブリッド形成のストリンジェンシー条件についての別の例は、Sambrook J.、 E.F.Fritsch及びT.Maniatis、1989年、”Molecular Cloning: A Laboratory Manual”、 コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press):コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク、第9及び11章、並びにCurrent Protocols in Molecular Biology、1995年、F.M.Ausubelほか編、ジョーン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons, Inc.)、セクション2.10及び6.3−6.4に記載されており、これらは引用によって本明細書に組み入れられている。
【0057】
本発明では、これらのポリヌクレオチドに完全に相補性であるポリヌクレオチド、及びアンチセンス配列を使用することを企図している。アンチセンスオリゴヌクレオチドとも呼ばれるこうしたアンチセンス配列としては、本発明のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの発現を阻止する内的に形成される配列及び外部から投与される配列の両方が挙げられる。本発明のアンチセンス配列は、例えば、約15乃至20塩基対を含むが、これに限定されるものではない。こうしたアンチセンス配列は、例えば、プロモータの上流非翻訳配列への結合を阻止するか、本発明のポリペプチドをコードしている転写物の翻訳をリボソームの結合を妨げることにより阻止して、転写を阻害するように設計することができる。
【0058】
こうしたポリヌクレオチドは、任意の適当な方法で(例えば、化学合成により、DNAライブラリから、生物自体から)調製又は入手してもよく、また、当業者であれば理解されようが、(一本鎖、二本鎖、ベクター、プローブ、プライマなどの)各種の形態をとることができる。「ポリヌクレオチド」という用語には、DNA及びRNA、並びに主鎖が修飾されたものなどのアナログも含まれる。本発明の別の実施では、こうしたポリヌクレオチドはcDNAライブラリなどのDNAライブラリを含む。
【0059】
2086タンパク質発現系
本発明の一実施態様では髄膜炎菌血清群B2086ポリペプチドを発現することができる組換え微生物を提供する。この組換え微生物は、プロモータ配列及びイニシエータ配列を有する発現制御配列、並びに2086ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列であって、このヌクレオチド配列が上記プロモータ及びイニシエータ配列に対して3’側に位置しているヌクレオチド配列を含む。別の態様として、本明細書、及び引用により本明細書にその全体が組み込まれているWO03/063766及びWO04/094596に記載されているような組換え2086ポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を提供する。従って、本発明は、例えば、WO03/063766及びWO04/094596(これらに限定されるものではない)に記載されているような組換え2086タンパク質を産生させる方法を提供する。
【0060】
本発明の所望のタンパク質又はポリペプチドを発現する宿主細胞を、対応する2086ポリヌクレオチドを含有するプラスミドで形質転換、形質移入又は感染させることにより一旦構築すれば、この宿主細胞を、本発明の方法に従ってこうしたポリペプチドを発現させるような条件下で培養する。次いで、宿主細胞成分の混入が実質的にない上記ポリペプチドを当業者に公知の技術によって単離することができる。
【0061】
閾値パラメータ
いくつかのパラメータを用いて、細胞増殖及び組換えタンパク質発現の面で培養の進行を把握し、制御することができる。そのようなパラメータとしては、光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、pH、(炭素源などの)栄養素/エネルギー消費、代謝副産物の蓄積(例えば、酢酸)、収集時間、及び温度が挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者であれば理解されようが、任意の適したパラメータ又はパラメータの組合せを、本明細書に示した指針に基づいて本発明に使用することが企図されている。
【0062】
閾値パラメータを定めて、インデューサを培養物に連続的に添加する(即ち、時間をかけて培養物に供給する)ことになる時点を決定する。この閾値パラメータは所定のパラメータである。所定の光学濃度などの適切な閾値パラメータは、本発明の各種実施態様において本明細書で示した指針に基づき、当業者が容易に決定することができる。閾値パラメータは、単独又は複数のパラメータの組合せで用いることができる。
【0063】
このパラメータの単独又は複数のパラメータの組合せは、培養物において任意の適した時間間隔でモニタリングすることができる。例えば、OD600及びグルコース濃度は1時間、半時間又は15分間間隔でモニタリングすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の一実施態様では、光学濃度はインデューサの連続供給を開始するための閾値パラメータとして用いる。培養物の細胞密度が、約70乃至約110の光学濃度などの所定の閾値パラメータに達すれば、本明細書に記載したようにして培養物にインデューサを供給する。この閾値パラメータに対しては、より狭い範囲を設けてもよい。例えば、本発明では、本発明の実施態様では、培養物の細胞密度が約70乃至約105、約75乃至約100、約75乃至約95、約75乃至約85、約76乃至約84、約78乃至約82、又は約80の光学濃度に達した時に、培養物へのインデューサの連続添加を開始できることが企図されている。
【0065】
また、本発明では、炭素源の供給の開始及び/又は終了を信号として知らせるために閾値パラメータを用いることも企図されている。
【0066】
当業者であれば理解されようが、任意の適した装置単独又は複数の装置の組合せをこうした閾値パラメータ(類)をモニタリングするのに用いることが企図されている。例えば、閾値パラメータを測定するためのプローブ単独又は複数のプローブの組合せを任意の適した方法で発酵装置(前記「発酵槽」)に取り付けることができるが、これに限定されるものではない。
【0067】
一定供給速度
一定供給速度とは、インデューサ(類)及び/又は炭素源(類)を培養物に添加する速度のことを意味する。インデューサは、ある閾値パラメータが達成された後に培養物に添加する。また、炭素源はある閾値パラメータが達成された後に培養物に添加することができる(同様に、炭素源の添加は、ある閾値パラメータに達すると終了させることができる)。これらの閾値パラメータ類としては、光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、pH、培養培地中の栄養素の濃度、培養培地に添加した最初の炭素源の総濃度、又はこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本明細書に示した指針から当業者には理解されようが、培養物にインデューサ及び/又は炭素源を連続的に添加するのに任意の適した速度を用いる。本発明の各種実施態様では、下記の実施例に記載したように、DOスタット(DO−stat)により好適な一定速度を求める。例えば、濃度を毎時最大15及び24g/Lとするのに十分なグルコースを添加することによりDOスタット制御装置に対応する供給速度を選択することができるが、これに限定されるものではない。
【0069】
例えば、インデューサ及び/又は炭素源を培養物の総量に対して一定の量、例えば、約4g/L乃至約40g/L、例えば、4g/L、5g/L、6g/L、7g/L、8g/L、9g/L、9.5g/L、9.75g/L、10g/L、10.25g/L、10.5g/L、11g/L、12g/L、13g/L、14g/L、15g/L、16g/L、17g/L、18g/L、19g/L、20g/L、21g/L、22g/L、23g/L、24g/L、25g/L、26g/L、27g/L、28g/L、29g/L、30g/L、31g/L、32g/L、33g/L、34g/L、35g/L、36g/L、37g/L、38g/L、39g/L、40g/Lを培養物に添加するまで、インデューサ及び/又は炭素源は一定の速度で培養物に添加することができるが、これらに限定されるものではない。各種実施態様では、培養物に供給するインデューサ及び/又は炭素源の総量は、約5g/L乃至約20g/L、7g/L乃至約15g/L、8g/L乃至約14g/L、9g/L乃至約11g/L又は約10g/Lである。
【0070】
培養物に添加するべきインデューサの総量は、培養物に添加する炭素源の総量によって相殺することができる。例えば、炭素源がグルコースであり、インデューサがアラビノースである場合、添加するインデューサの量はグルコースの添加により減らすことができる。例えば、一実施態様では、総量10g/Lのインデューサ(即ち、アラビノースなど)を培養物に添加し、11g/Lのグルコースなどの炭素源を加える。このようにして得られるタンパク質の収量は総量20g/Lのアラビノース(即ち、アラビノースの培養物1,000L中20,000g即ち20kg計)を添加し、グルコースを添加しない場合の収量に近い。従って、本方法によって得られるこの相殺は、グルコースに比しアラビノースの価格が高いことを考えると、有利である。
【0071】
本発明の各種実施態様において、インデューサ及び/又は炭素源を培養物に添加する一定の速度は毎時約1.5g/L乃至約24g/Lの範囲に設定することができる。例えば、炭素源がグルコースである場合、グルコース添加における一定速度としては、1.8gグルコース/L/h、3.3gグルコース/L/h、6.7gグルコース/L/h、15gグルコース/L/h、16.4gグルコース/L/h、18gグルコース/L/h、24gグルコース/L/hなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。種々の実施態様において、アラビノースなどのインデューサは約1.5g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で添加する。
【0072】
各種実施態様において、閾値パラメータが一旦達成されると、炭素源の供給は継続、停止又は一時中断することができる。炭素源の供給は中断することができるが、この場合、一旦、供給を開始するための閾値が達成されると、一定速度で供給が再開されることになる。従って、一実施態様では、開始閾値及び停止閾値を用いて培養物中への炭素源の供給を調節することができる。別の実施態様では、グルコース及びアラビノースの両者を、供給の停止又は再開を行わずに、閾値パラメータに基づいて一定速度で供給する。
【0073】
任意の特定の培養物に添加する炭素源の適切な総量については、本明細書に示した指針に基づいて当業者が容易に決定することができる。この培養物に添加する炭素源の総量は、本発明の一実施態様では、(培養物のリットル単位の総容量に基づき、)約1g/L乃至約100g/Lの範囲とすることができる。例えば、一実施態様では、増殖期において、培地中のグルコースを10g/Lで開始し、このグルコース濃度がゼロに達した時に一定速度グルコース供給を開始し、ODが80に達し、その時点で最初の10g/Lのグルコースに加えて約40g/Lのグルコースが供給されたことになるまで上記一定速度グルコース供給を継続することにより、50g/Lのグルコースを添加する。一実施態様では、規模拡大が容易にできるように、こうした総量の炭素源を濃縮した状態で供給する。こうした量は、特定の状況おいて用いるべき炭素源の総質量に容易に換算することができる。例えば、10g/Lの炭素源を1,000Lの培養物に添加する場合、添加すべき炭素源の総量は、総炭素源として10g/L×1,000L=10,000グラム(即ち、10kg)と、容易に求めることができる。炭素源の総添加量は、本明細書に記載した各種実施態様において閾値パラメータとすることができる。
【0074】
任意の特定の培養物に添加するインデューサの適切な総量については、本明細書に示した指針に基づいて当業者が容易に決定することができる。この培養物に添加するインデューサの総量は、各種実施態様において(培養物のリットル単位の総容量に基づき、)約4g/L乃至約40g/Lの範囲とすることができる。種々の実施態様において、培養物に添加する炭素源の総量は、培養物の総容量に基づき、約5g/L乃至約20g/L、7g/L乃至約15g/L、8g/L乃至約14g/L、9g/L乃至約11g/L又は約10g/Lである。一実施態様では、規模拡大が容易にできるように、こうした総量のインデューサを濃縮した状態で供給する。こうした量は、特定の状況おいて用いるべきインデューサの総質量に容易に換算することができる。例えば、10g/Lのインデューサを1,000Lの培養物に添加する場合、添加すべきインデューサの総量は、総インデューサとして10g/L×1,000L=10,000グラム(即ち、10kg)と、容易に求めることができる。
【0075】
通常、新鮮培養培地には宿主細胞接種時に初期量の最初の炭素源を添加することにより培養物を作製することになる。この初期の濃度をモニタリングし、この最初の炭素源の濃度を閾値パラメータとして用いることができる。
【0076】
炭素源に加えて、任意の適したサプリメント又は栄養素を適切な量で培養物中に供給することもできる。この他の栄養素又はサプリメントをモニタリングし、適切に閾値を設定することもできる。本発明では窒素又は無機リン酸供給源などのサプリメントを用いることが企図されている。本発明の方法において用いることが企図されている化合物の例としては、KH2PO4、K2HPO4、クエン酸ナトリウム、二水和物、(NH4)2SO4、MgSO4、(Na)2SO4、CaCl2、FeSO4、クロラムフェニコール又はこれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。追加的な炭素源又は炭素源類を使用することも企図されている。
【0077】
光学濃度及び対数増殖期
新鮮培養培地に細菌宿主細胞を導入することによって通常以下の4つの、程度の差はあれ異なる増殖期を経る培養物が得られる:(i)誘導期、(ii)対数(対数又は指数増殖)期、(iii)定常期及び(iv)衰退(死滅)期。対数期自体はさらに、初期対数増殖期、中期対数増殖期、後期対数増殖期などの種々の期に分けることができる。光学濃度は対数増殖の期に関連づけられる。対数増殖期及び光学濃度は、炭素源及び/又はインデューサの一定供給の開始及び/又は停止を信号として知らせるための閾値パラメータとして用いることもできる。
【0078】
例えば、誘導、即ち、インデューサの連続添加は、初期対数増殖期、中期対数増殖期及び後期対数増殖期で開始することができる。後期対数増殖期は約70乃至約110のODで生じさせることができる。本発明の一実施態様では、インデューサの定速供給は、培養培地の後期対数増殖期において、或いは各種実施態様では約70乃至約110、約70乃至約105、約75乃至約85又は約80のODで開始する。
【0079】
ODは、当業者によって用いられている種々の波長で測定することができる。通常、培養物中の細胞の細胞増殖及び密度の指標としてはOD600が用いられる。特に示さない限り、本明細書で用いている「OD」はOD600を意味する。
【0080】
溶存酸素
供給制御装置の始動及び/又は停止の引き金となることができる別のパラメータは溶存酸素(DO)(即ち、DOスタット流加発酵)である。DOは、培養培地を含む槽内の攪拌、空気流、酸素補給及び圧力を調整することによって制御することができる。DOの閾値は、20%、40%又は80%など、5%乃至80%DOの範囲に設定することができる。一旦閾値が満たされると、炭素源又はインデューサの供給制御装置は、この制御装置の停止を知らしめる閾値が満たされるまで、オンにしておくことができる。停止閾値は、別のDO閾値又は炭素源もしくはインデューサの量などの別のパラメータとすることができる。例えば、培養培地中のDOが30%又は40%を超えて上昇した時にはいつでも、供給制御装置は、DOが20%に低下するまでに、或いは本発明の種々の実施態様に従って0.5g/L又は1g/Lの炭素源又はインデューサを新たに添加するまでに始動させることができる。
【0081】
pH
供給制御装置の始動及び/又は停止の引き金となることができる別のパラメータはpH(即ち、pHスタット(pH−stat)流加発酵)である。pHは培養培地に塩基又は酸を添加することにより制御することができる。pHの閾値は、7.0など、6.8乃至7.2の範囲に設定することができる。一旦閾値が満たされると、炭素源又はインデューサの供給制御装置は、制御供給の停止を信号として知らせる閾値が満たされるまでオンにしておくことができる。停止閾値は、別のpH閾値又は炭素源もしくはインデューサの量などの別のパラメータとすることができる。例えば、培養培地中のpHが6.97に上昇した時にはいつでも、供給制御装置は、pHが6.95に低下するまでに、或いは本発明の種々の実施態様に従って1g/Lの炭素源又はインデューサを新たに添加するまでに、始動させることができる。
【0082】
収集時間
収集時間とは、最初の誘導、即ち、インデューサの添加後に経過する時間を意味する。本発明では任意の適した収集時間が企図されている。収集時間は、本発明の種々の実施態様では約2時間乃至約10時間、約2時間乃至約8時間、約2.5時間乃至約7時間、約3時間乃至約6時間などの範囲にあるものとすることができる。当業者であれば、一定供給速度、収集時間及びインデューサの総量を用いて、所望の結果を達成するには各パラメータをどのように調整することができるのか分かるであろう。当業者であれば、供給速度及び時間に基づいて供給量を容易に求めることができるので、アラビノースの供給量からいつ収集すべきか分かると思われる。このようにして、例えば、3時間で供給される5、10、20、30及び40g/Lのインデューサの最終濃度を達成することができるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
インデューサの濃度
本発明では任意の適した濃度のインデューサが企図されている。宿主細胞を誘導するのに有効なインデューサの濃度は約0.00001%乃至約20%(v/v)の範囲にあるとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0084】
温度
本実施態様の培養物は細胞の増殖を可能にする任意の温度でインキュベートすることができる。十分な増殖をもたらす、培養物をインキュベートする各種温度としては、22℃、28℃、37℃又はこれらの任意の組合せが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0085】
発酵装置
当業者であれば理解されようが、本発明では、任意の適した発酵装置(即ち、「発酵槽」)を使用することが企図されている。例えば、発酵槽は、任意の数のインペラ(Rushtonインペラなど)、取入れ口及び/又は測定プローブを具備することができる。一実施態様では、発酵槽は、3枚のインペラ及び空気を発酵槽中に導入するための1個のリング又はチューブスパージャを含むように構成される。本発明では、手動及び/又はコンピュータ利用システムを使用することを企図している。従って、この発酵システムは、発酵をモニタリングし、制御するためのコンピュータ化システムと連動することができる。このようにして、このシステムは、本発明の実施態様では、完全又は部分的に自動化することができる。
【0086】
本発明の組成物
組換えタンパク質、例えば、本発明の方法に従って調製したものを含む組成物を本発明の実施態様として本明細書に記載している。本発明の組成物は組換えタンパク質を高密度で培養物中に含み、そのようなタンパク質としては本発明の方法に従って調製した組換えタンパク質類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
この組成物は、培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度で組換えタンパク質を有する培養物を含む。上記組換えタンパク質の密度は、本発明の別の実施態様では、培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.7g/Lである。この組換えタンパク質の密度は、本発明の別の実施態様では、培養物の総容量に基づき、少なくとも約2.0g/Lである。この組換えタンパク質の密度は、本発明の別の実施態様では、培養物の総容量に基づき、少なくとも約3.0g/Lである。
【0088】
本発明の一実施態様では、組換え2086タンパク質を含む組成物を提供する。この場合の2086タンパク質とは、髄膜炎菌血清群Bの2086遺伝子に相当するポリヌクレオチドにより発現されるタンパク質であり、これにはその断片、誘導体又は突然変異体を含める。2086タンパク質及びポリヌクレオチドの例はWO03/063766及びWO04/094596に記載されているが、これらに限定されるものではない。
【0089】
上記組換え2086タンパク質組成物は、培養物中に、この培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度の組換え2086タンパク質を含む。本発明の別の実施態様では、この組換え2086タンパク質の密度はその培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.7g/Lである。本発明の別の実施態様では、この組換え2086タンパク質の密度はその培養物の総容量に基づき、少なくとも約2.0g/Lである。本発明の別の実施態様では、この組換え2086タンパク質の密度はその培養物の総容量に基づき、少なくとも約3.0g/Lである。
【0090】
本発明の組成物には、本発明の方法に従って調製したタンパク質などの任意のタンパク質を含ませることができる。上記組換えタンパク質は脂質付加されていてもよいし、脂質付加されていなくてもよい。本発明の一実施態様では、この組換えタンパク質は、脂質付加されているか、脂質付加されていない組換え2086タンパク質である。この組換え2086タンパク質は、2086サブファミリーAもしくはサブファミリーBのタンパク質又はこれらの組合せとすることができる。本発明の組成物には1種のタンパク質又は2種以上のタンパク質を含めることができる。これらのタンパク質は互いに同族又は無関係のタンパク質とすることができる。例えば、本発明の組成物には、一種以上のサブファミリーA株及び/又は一種以上のサブファミリーB株に対応する2086タンパク質を含めることができる。
【0091】
また、本発明の方法を実施する際に用いるための物質を含む組成物も本明細書に示した。このような組成物は、本発明の実施態様では、組換え細胞及び栄養素を含む、培養物に必要な成分を含む。こうした各種の組成物は、本発明の一実施態様では、キットとしてまとめて提供することができる。例えば、培養物を構成するための成分は、実験室又は工業環境での使用を容易にするために、適宜必要量を予めパッケージングすることができるが、これに限定されるものではない。また、このようなキットには、本発明の各種実施態様において各成分の使用及びこれらの成分の組合せ方法を容易にするために、ラベル、表示及び使用法を添付することもできる。
【0092】
以下の実施例は、本発明の各種実施態様を明らかにするために記載されたものである。以下の実施例に開示した技術が、本発明の実施においてよく機能するものであると本発明者らにより見出されたものであり、従って、その実施のための種々の方法を構成するものと考えることができることは、当業者には明らかである。しかしながら、本開示内容を勘案すれば、開示されている特定の実施態様に多くの変更を加えることができ、それでもなお、それによって、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく類似又は同様の結果が得られることは、当業者であれば、理解されるはずである。
【実施例】
【0093】
実施例1:定速供給による流加発酵
流加発酵法のためのモデル株として大腸菌(pPW62)サブファミリーBを用いた。得られる結果に基づいてこの方法をサブファミリーA大腸菌(pPW102)に適用する。
【0094】
流加発酵用の培地及び供給液は、以下の表に示した成分を用いて調製した。
【0095】
培地及び供給液:
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
方法:
定速供給による流加発酵法を用いて大腸菌発酵における高細胞密度を実現した。培地中の最初のグルコース濃度は10g/Lであった。(NH4)2SO4濃度は、発酵培地中では3g/Lに増加させ、種培養培地では1g/Lに維持した。供給速度を決定するために、先ずDOスタット流加を行った。DO濃度は、攪拌速度を最大値に引き上げた後、酸素補充を行うカスケード制御装置によって20%に調整した。グルコースが枯渇すると、DOが急激に上昇した(40%超)ので、グルコース濃縮液を発酵槽中1g/Lの最終濃度となるように添加した。グルコースの各添加後、ポンプをある一定時間オフにしておいた後、次の添加を行わせた。DOスタット流加発酵を行うと、約160の最大ODが得られた。次に、グルコースを十分量添加してその濃度を毎時最大18g/L又は24g/LにするDOスタット制御装置と同等であるように一定速度を選んだ。定速供給による流加発酵中、DOが40%に急上昇したときに、グルコース供給を所望の一定速度で開始した。
【0100】
種培養は、2,800mLフェルンバッハフラスコにおいて基礎培地+15μg/mLクロラムフェニコールの1リットル当たり1バイアルの大腸菌を用いて開始した。このフラスコを32℃、150rpmで一夜(約16時間)インキュベートした。最終OD600は通常約3であった。各発酵槽に接種するのに10%の接種サイズを用いた。各発酵槽には3枚のRushtonインペラ及び1個のリングスパージャを用いた。初期設定値:温度:36℃、pH:7.00±0.05(7.4N NH4OHで調整)、空気流:約1vvm、DO:20%。DOは、ガス混合装置による攪拌(最低:150rpm、最高:1,000rpm)及びO2添加のカスケードにより調整した。必要な場合、PPG−2000を手動で添加することによって泡を制御した。滅菌する前には0.35mL/LのAFを培地に添加した。発酵中、1時間ごとにサンプルを採り、オフラインでグルコース、pH及びOD600をモニタリングした。1mLのサンプルから上清を調製し、後のHPLCによる有機酸の分析のために貯蔵した。
【0101】
結果:
定速供給による流加発酵
図1に、一定供給速度によるOD、グルコース消費及び酢酸の蓄積の経時変化を示した。24gグルコース/L/h及び18gグルコース/L/hの一定供給速度で、それぞれ、158及び150の最大OD値が得られた。24g/L/hの供給速度を用いた場合、ラン(run)時に28g/Lの高濃度のグルコースが蓄積した。18g/L/hの供給速度を用いた場合、グルコースの蓄積は12g/Lとなった。いずれの場合も酢酸は殆ど生じなかった(即ち、1.5g/L未満)。指数増殖期は、OD100近くで終わった。比増殖速度は、いずれの場合も約0.60(hr−1)であった。
【0102】
グルコースの蓄積を低減させるために、16.4g/L/h及び15g/L/hの低い一定供給速度について検討した。図2に上記一定供給速度によるOD、グルコース消費及び酢酸の蓄積の経時変化を示した。最大OD値は、それぞれで142及び147であった。先のラン(run)におけるように、供給速度を速めて培養するほど、より多くのグルコースが蓄積されたが、蓄積されたグルコースの量は先の実験におけるよりもずっと少なかった。16.4g/L/hでは約8g/Lのグルコースが蓄積し、15g/L/hでは5.4g/Lのグルコースが蓄積した。いずれの場合も酢酸は(1.5g/L未満といったように)殆ど生じなかった(図2参照)。比増殖速度は、いずれの場合も約0.60(hr−1)であった。すなわち、比増殖速度は、15g/L/hと24g/L/hとの間で供給速度による影響を受けなかった。
【0103】
各種増殖ODにおける誘導
アラビノース誘導実験には15gグルコース/L/hの一定供給速度を用いた。何故なら、それによって高細胞密度が得られ、グルコース及び酢酸の蓄積が少ないからである。この実験では、中期対数増殖期OD約55及び後期対数増殖期OD約80での誘導を比較した。培養物の誘導は、単にグルコース供給の代わりにアラビノース供給を用い、アラビノースを13.4g/L/hの一定速度で供給することにより行った。各培養物には合計40g/Lのアラビノースを3時間の間に添加した。誘導後、SDS−PAGEによるrLP2086アッセイ並びにHPLCによる有機酸及びアラビノースのアッセイのためにサンプルを毎時採取した。
【0104】
図3にOD約55及び約80で誘導した場合のOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。最大OD及びrLP2086収量とも、細胞をOD約80で誘導した場合でより高かった(最大OD:101対84、最大収量:1.8g/L対1.2g/L)。
【0105】
種々のアラビノースレベルでの誘導
以下の実験の目的は、培養物に供給されたアラビノースの量を測定し、この培養物へのアラビノース供給量を減少させてもなおrLP2086の高発現が得られるかどうかを検討することにある。4つの異なる培養物のそれぞれににアラビノース濃縮液を種々の供給速度で3時間の間供給し、最終アラビノース濃度10、20、30及び40g/Lを得た。培養物は全てOD600約80で誘導した。図4にOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。表5は、これら4条件のそれぞれにつきOD及びrLP2086収量をまとめたものである。表に示したように、最大rLP2086収量は、アラビノース添加総量10g/Lで1.2g/L、アラビノース添加総量20g/Lで1.6g/L、アラビノース添加総量30g/Lで1.7g/L、アラビノース添加総量40g/Lで2.0g/Lであった。20g/L乃至40g/Lのアラビノース供給ではrLP2086収量は同様であったが、10g/LのアラビノースではrLP2086の産生はずっと少なかった(即ち、1.2g/L)。これらの結果は、誘導のために添加するアラビノースの総量をrLP2086生産性を低下させることなく40g/Lから20g/Lへ減少させることができることを示唆している。すなわち、アラビノースの使用量を減らすことは、特にアラビノースの価格が高い(約500米ドル/kg)ことを考えると、より費用効果が高いことになる。
【0106】
【表5】
アラビノース添加方法の比較
誘導用アラビノースに適用する場合、連続供給法が単純な回分添加法より優れているかどうかを検討するために、以下の実験を行った。ラン(run)X−BRN05−039では、ODが約80である場合、20g/Lのアラビノースを、時間をかけて供給するのではなく、一度に全部発酵槽に添加した。図5にOD、グルコース及びアラビノース消費、並びにrLP2086産生の経時変化を示した。最大1.3g/LのrLP2086が得られた。アラビノースの回分添加では、操作的により簡単ではあるが、連続供給よりrLP2086の産生が少なかった。すなわち、アラビノースの連続供給法は単純回分添加より優れている。
【0107】
アラビノース供給速度を低下させることによってアラビノースをさらに効率的に用いることができるかを検討するために、3.3gアラビノース/L/h及び6.7gアラビノース/L/hの供給速度について比較した。図6にOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。アラビノース濃縮液を1つの培養物に6.7g/L/hの供給速度で3時間にわたって供給し、別の培養物を3.3g/L/hの供給速度で6時間にわたって供給した。両培養物とも、添加したアラビノースの総量は20g/Lであった。図6に示したように、いずれの条件においても産生されたrLP2086の最大量は同じであった(即ち、2.2g/L)が、産生の速度には差が認められた。供給速度が高いほど産生速度も高かった。rLP2086の最大量は、6.7g/L/h及び3.3g/L/hの供給速度による誘導後、それぞれ3時間及び6時間に得られた。より高い供給速度(即ち、6.7g/L/h)を用いることの利点は、より低い供給速度を用いる場合よりもより高い供給速度を用いる場合の方が生産費用(例えば、光熱費)が低いことにある。
【0108】
rLP2086発現収量に及ぼす誘導時間の影響
最適の収集時間を決定するために、通常の供給特性(20g/Lアラビノースの3時間にわたる供給)を40g/Lの6時間にわたる供給に拡張した。ラン(run)X−BRN05−028及びラン(run)X−BRN05−029では、それぞれOD約55及びOD約80で細胞を誘導した。図7にOD及びrLP2086産生の経時変化を示した。アラビノース供給を3時間から6時間に延長したが、興味深いことに、それでも誘導後3時間付近にピーク力価が得られた。この生成物力価は、より高いODで誘導した培養物では若干より高かった。OD約55での誘導時の最大rLP2086収量は2.0g/Lであった(X−BRN05−028)のに対し、OD約80での誘導時ではこれは2.4g/Lであった(X−BRN05−029)。この結果は、誘導後3時間に細胞を収集するべきであることを示唆している。
【0109】
塩含有の有無による供給液の比較
添加塩がグルコース及びアラビノース供給液において必要不可欠であるかどうかを検討するために、単純なグルコース及びアラビノース供給液を標準的なグルコース+塩(即ち、K2HPO4/KH2PO4+(NH4)2SO4)及びアラビノース+塩供給液と比較した。いずれの培養物についても、アラビノースは20g/Lを3時間にわたって供給した。その結果、増殖及びrLP2086産生の特性は極めて類似していた。rLP2086の最大収量は、供給液に塩を添加した場合には1.8g/Lであり、グルコース及びアラビノース供給液を塩を含有させずに調製した場合には2.0g/Lであった。これらの結果は、グルコース及びアラビノース供給液に塩を添加する必要がないことを示唆している。
【0110】
サブファミリーB株の定速供給による流加発酵
種培養は、15μg/mLのクロラムフェニコールを含有する1Lの基礎培地に1mlの解凍実用種を接種することによって開始した。2.8Lのフェルンバッハフラスコ中でこの培養物を増殖させ、32℃、150rpmで約16時間インキュベートした。最終OD600は約3.0であった。3g/Lの(NH4)2SO4を含有し、クロラムフェニコールを含有しない3.15Lの基礎培地中に350mLの種培養物を無菌的に移した。発酵は7.4NのNH4OHによりpH7.0±0.05に、温度は36℃に、空気流は1vvmに調整した。DOは攪拌(最低:150rpm、最高:1,000rpm)及び酸素添加のカスケードにより調節した。消泡剤PPG−2000を自動添加して泡を抑えた。発酵中、1時間ごとにサンプルを採取してグルコース及びODをオフラインでモニタリングした。接種後、DOは約100%から20%へ低下した後、20%に維持された。DOの20%から40%超への急激な上昇があった(通常6時間の経過発酵時間(EFT))場合、グルコース(塩を含まない)供給ポンプを15g/L/hの速度でオンにした。図8に示したように、グルコースは6時間のEFTまでに完全に枯渇し、DOの急激な上昇をもたらした。ODが約40に達したら、サンプルを半時間毎に採取した。グルコース供給はOD90でオフにし、アラビノース供給を13.4g/L/hの速度でオンにした。3時間のアラビノース(塩を含まない)供給(即ち、合計20g/Lのアラビノース添加)後、アラビノース供給をオフにし、発酵をさらに1時間継続させた。図8に示したように、102のODが得られ、SDS−PAGEに基づき、2.0g/LのMnB rLP2086が発現された(図9参照)。そのピークは、誘導後3時間(即ち、約12時間EFT)に生じた。SDS−PAGE及びウェスタン・ブロットにより、発現タンパク質は確かにサブファミリーBのrLP2086であることが示された。
【0111】
MnrLP2086サブファミリーA株のための流加発酵法の適用
rLP2086サブファミリーBに対して用いた流加発酵法がrLP2086サブファミリーAに適用できるかどうかを調べるために、この方法を、サブファミリーB株で確立した手順を用いて実施した。図10にOD、グルコース及びアラビノース消費並びにrLP2086産生の経時変化を示した。サブファミリーAの増殖及びrLP2086産生特性はサブファミリーBで得られたものと同様であった(図8と比較されたい)。SDS−PAGE及びウェスタン・ブロットにより、発現タンパク質は確かにサブファミリーAのrLP2086であることが示された(図11参照)。表6に6種のサブファミリーAラン(run)の最大OD及びrLP2086発現収量を示した。最大rLP2086発現収量の範囲は1.5乃至2.1g/L(平均最大収量:1.8±0.2g/L)であり、rLP2086サブファミリーBを産生させるために用いた流加発酵からの結果と同様であった。従って、サブファミリーB株用に開発した流加発酵はサブファミリーA株にも適している。
【0112】
【表6】
アラビノース誘導時のグルコース及びアラビノースの二重供給
rLP2086産生を低下させないで必要なアラビノースの量を減少させるために、誘導期におけるグルコース及びアラビノースの二重供給について検討した。この方法は、標準的グルコース供給速度の25%(3.75g/L/h)、50%(7.5g/L/h)及び100%(15g/L/h)で誘導期にグルコースの供給を継続しながら、アラビノース10g/Lを3時間かけて(通常量の半分)供給するものである。これらの供給物グルコース及びアラビノースはいずれも添加物を用いないで調製した。
【0113】
図12a、12b及び12cにサブファミリーB細胞増殖、グルコース、アラビノース及び酢酸濃度並びにrLP2086産生の経時変化を示した。これら3種のラン(run)はOD約80で誘導した。図12aに示したように、100%速度のグルコース供給ランのODは誘導後上昇し続け、ピークが117となったのに対し、誘導後、50%速度のランではピークが106(図12b)、25%速度のランでは100付近に維持された(図12c)。100%速度のグルコース供給では、誘導後3時間でグルコース及びアラビノースが蓄積し始めた。50%速度のグルコースランでは、最後のサンプル中に若干量のグルコース(測定値=0.21g/L)が認められたに過ぎなかった。25%速度のグルコースランでは、グルコースの蓄積は認められなかった。3つのランではいずれもアラビノースの蓄積を認めなかった。100%速度(図12a)及び50%速度(図12b)のグルコース供給ランによって、それぞれ約1.5及び1.7g/LのrLP2086が得られたのに対し、25%速度(図12c)ランによっては2.1g超が得られた。100%速度ランでの産生は、アラビノースが無くなる前にピークに達し、rLP2086発現がグルコース及び酢酸の蓄積によって抑制されたかも知れないことが示唆された。50%速度のランでの産生はアラビノースが無くなる頃にピークに達し、25%速度のランでの産生はアラビノースが無くなった後にピークに達したことから、2086の発現は、グルコース濃度が最低レベルに抑えられている限り(図12b及び12cではグルコースの蓄積はみられない)抑制されないかも知れないことが示唆される。これらの培養物にはわずか10g/Lのアラビノースを供給したが、そのrLP2086産生は20g/Lを供給した場合と同様であった。グルコースとアラビノースの同時供給では、アラビノース消費を50%低下させることができ、それでもなお、グルコース濃度を誘導中低いに抑えている場合には同じrLP2086収量を達成することができる。従って、化学物質の費用を著しく低下させることができる。
【0114】
さらにアラビノース消費を低下させてrLP2086収量を増加させることができるかどうかを調べるために、種々のグルコース供給速度、供給アラビノースの総量及び誘導ODについて検討した。表7はこれらの条件の種々の組合せを示したものである。グルコース供給速度2.25乃至7.5g/L/h及びアラビノース供給速度1.7及び6.7g/L/hではrLP2086収量は著しい影響は受けないであろうと思われる。80乃至105の誘導ODではrLP2086収量は同様であった。
【0115】
【表7】
実施例3:100L規模へのスケールアップ流加発酵
種培養は、15μg/mLのクロラムフェニコールを含有する2つの1L基礎培地に1ml(即ち、1バイアル)の解凍実用種を接種することによって開始した。2.8Lフェルンバッハ中のこの培養物をロータリーシェーカーを用いて32℃、150rpmで約16時間インキュベートした。
【0116】
2つの1L一夜フェルンバッハ種培養物をクロラムフェニコールを含有しない70Lの基礎培地を含む150L発酵槽に無菌的に移した。基礎培地中におけるこの150L発酵は、7.4N NH4OHによりpH7.0±0.05、温度36℃、DO20%及び空気流1vvmに調整した。DOは攪拌及び酸素添加のカスケードによって調節した。消泡剤PPG−2000を自動添加して泡を抑えた。発酵中、DOは約100%から20%へ低下し、20%で維持された。DOの20%から40%超への急激な上昇があることにより(通常、OD約20で)、グルコースの枯渇を知らせている場合、供給ポンプを作動させてグルコース濃縮液(即ち、500g/L)を15gグルコース/L培養物/hの速度で3時間供給した。発酵中、1時間ごとにサンプルを採取してグルコース及びODをオフラインでモニタリングした。ODが約40に達したら、半時間ごとにサンプル採取を行った。ODが約80に達すればすぐに、グルコース供給を停止させ、アラビノース(例えば、500g/Lのアラビノース濃縮液)供給を6.7gアラビノース/L培養物/hの速度で開始させ、これを3時間行った。
【0117】
図13aに100L規模でのサブファミリーB細胞増殖、グルコース消費、酢酸蓄積及びrLP2086産生の経時変化を示した。この100L規模での発酵特性は、小規模でみられたのと同様であった。最大OD99及び最大rLP2086収量1.9g/Lが得られた。これらの結果は流加発酵が規模拡大可能であることを証明している。
【0118】
図13bに100L規模でのサブファミリーA細胞増殖、グルコース消費、酢酸蓄積及びrLP2086産生の経時変化を示した。この100L規模での発酵特性は、小規模でみられたのと同様であった。最大OD96及び最大rLP2086収量2.0g/Lが得られた。これらの結果は流加発酵が規模拡大可能でしっかりとしたものであることを証明している。
【0119】
図14aに100L規模でのグルコース及びアラビノースの二重供給によるサブファミリーA細胞密度、グルコース、アラビノース及び酢酸濃度並びにrLP2086収量の経時変化を示した。誘導時、供給速度は、グルコース及びアラビノース供給において、それぞれ3.75及び1.67g/L/hに調整した。アラビノース及びグルコースの二重供給は5時間で行った。最大OD90及び最大rLP2086収量1.8g/Lが得られた。この最大rLP2086収量は4時間誘導時に認められた。サブファミリーBにおける平均最大OD及び平均最大rLP2086収量は、それぞれ84.8±6.8及び1.6±0.3g/Lであった。これらの結果は、誘導期におけるグルコース及びアラビノースの二重供給による流加発酵が規模拡大可能であることを証明している。
【0120】
図14bに100L規模でのサブファミリーA細胞増殖、グルコース消費、酢酸蓄積及びrLP2086産生の経時変化を示した。発酵は段落[0109]に記載したのと同じ条件で実施し、細胞の誘導は6時間行った。最大OD89及び最大rLP2086収量1.8g/Lが得られた。この最大rLP2086収量は4時間誘導時に認められた。サブファミリーAの場合、平均最大ODは87.9±10.5及び平均最大rLP2086収量は1.8±0.2g/Lであった。これらの結果は流加発酵が規模拡大可能でしっかりとしたものであることを証明している。
【0121】
本発明を各種の実施態様及び実施例を参照して説明してきたが、本発明に対して、その精神及び範囲を逸脱することなく種々の修正を加えることができることは当業者により認められよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えタンパク質を産生させるための方法であって、
組換え細菌細胞を含む培養物に炭素源を連続的に添加し、該培養物が閾値パラメータを達成した後に該培養物にインデューサを連続的に添加することを含む、該組換え細菌細胞を培養して組換えタンパク質を発現させること、及び該培養物から該組換えタンパク質を単離することを含む、方法。
【請求項2】
前記閾値パラメータが光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、培養培地中の栄養素の濃度、培養培地に添加された炭素源の総濃度、又はこれらの任意の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値パラメータが前記培養物の光学濃度(OD)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約105のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記培養物の細胞密度が約75乃至約85のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記培養物に一定速度で前記インデューサを添加すること、該培養物にDOスタット供給により該インデューサを添加すること、又は該培養物にpHスタット供給により該インデューサを添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記培養物に約3.35g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で前記インデューサを添加すること、該培養物にDOスタット供給により又はpHスタット供給により該インデューサを添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約4g/L乃至約40g/Lである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
インデューサ供給時に前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約5g/L乃至約20g/Lである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
インデューサ供給時に前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約7g/L乃至約15g/Lである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
インデューサ供給時に前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約10g/Lである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法の開始後約2乃至約8時間の間、前記培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
開始後約3乃至約6時間の間、前記培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記培養物への前記インデューサの添加を開始後約2乃至約8時間に前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記培養物への前記インデューサの添加を開始後約3乃至約6時間に前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記インデューサがアラビノースである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
誘導前の前記培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
誘導前及び誘導後の前記培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記インデューサが前記培養物に連続的に添加されている間に該培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達するまで該培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記炭素源が糖系炭素源である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記糖系炭素源がグルコースである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記インデューサがアラビノースである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アラビノースが前記培養培地に連続的に添加されている間に該培養培地に前記グルコースを連続的に添加することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達するまで前記グルコースを連続的に添加することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
組換えタンパク質を産生させるための方法であって、
(a)誘導プロモータの制御下にある組換えタンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成すること、
(b)該組換え細菌細胞を培養培地中に導入して細胞培養物を形成すること、
(c)該細胞培養物に連続供給材料として炭素源を添加すること、
(d)該細胞培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD600)の達成についてモニタリングすること、
(e)一旦、該閾値光学濃度(OD600)が達成されると、連続供給材料として該誘導プロモータのインデューサを該細胞培養物に添加すること、及び
(f)該細胞培養物から該組換えタンパク質を単離すること
を含む、方法。
【請求項29】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約105のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記培養物の細胞密度が約75乃至約85のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記インデューサが一定速度で前記培養物に添加されるか、又は該インデューサがDOスタット供給によって該培養物に添加されるか、又は該インデューサがpHスタット供給によって該培養物に添加される、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記インデューサが約3.35g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で前記培養物に添加されるか、又は該インデューサがDOスタット供給によって該培養物に添加されるか、又は該インデューサがpHスタット供給によって該培養物に添加される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約4g/L乃至約40g/Lである、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約5g/L乃至約20g/Lである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約7g/L乃至約15g/Lである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約10g/Lである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
インデューサ供給の開始後約2時間乃至約8時間に前記培養物から前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項40】
インデューサ供給の開始後約3時間乃至約6時間に前記培養物から前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記炭素源が、該炭素源及び前記インデューサの両者の定速供給中に、又は該炭素源が該炭素源及び該インデューサの両者のDOスタット供給中に、又は該炭素源及び該インデューサの両者のpHスタット供給中に前記細胞培養物に添加される、請求項28に記載の方法。
【請求項42】
前記インデューサがアラビノースである、請求項28に記載の方法。
【請求項43】
前記炭素源が糖系炭素源である、請求項28に記載の方法。
【請求項44】
前記糖系炭素源がグルコースである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記炭素源がグルコースであり、前記インデューサがアラビノースである、請求項28に記載の方法。
【請求項46】
前記アラビノースが前記細胞培養物に連続的に添加されている間に該細胞培養物にグルコースを連続的に添加することを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記細胞培養物の細胞密度が約80のOD600に達するまで該細胞培養物にグルコースを連続的に添加することを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
組換えタンパク質を産生させるための方法であって、
組換え細菌細胞を培養し、培養物が閾値パラメータを達成した後に該細菌細胞を含む該培養物に連続的にインデューサを添加することによって組換えタンパク質を発現させることを含み、該細菌細胞が髄膜炎菌血清群Bの遺伝子に相当する核酸配列を含む、方法。
【請求項49】
前記閾値パラメータが光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、pH、培養培地中の栄養素の濃度、培養培地に添加された炭素源の総濃度、又はこれらの任意の組合せである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記閾値パラメータが前記培養物の光学濃度(OD)である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達した時に開始される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約70乃至約105のOD600に達した時に開始される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約75乃至約85のOD600に達した時に開始される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達した時に開始される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記インデューサが約3.35g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で前記培養物に添加されるか、又は該インデューサがDOスタット供給によって添加されるか、又は該インデューサがpHスタット供給によって添加される、請求項48に記載の方法。
【請求項56】
誘導時に前記培養物に添加されるインデューサの総量が約4g/L乃至約40g/Lである、請求項48に記載の方法。
【請求項57】
誘導時に前記培養物に添加されるインデューサの総量が約5g/L乃至約20g/Lである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
誘導時に前記培養培地に添加されるインデューサの総量が約7g/L乃至約15g/Lである、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
誘導時に前記培養物に添加されるインデューサの総量が約10g/Lである、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記インデューサ供給が前記方法の開始後約2時間乃至約8時間継続する、請求項48に記載の方法。
【請求項61】
前記インデューサ供給が前記方法の開始後約3時間乃至約6時間継続する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記組換えタンパク質がインデューサ供給の開始後約2時間乃至約8時間に収集される、請求項48に記載の方法。
【請求項63】
前記組換えタンパク質産物がインデューサ供給の開始後約3時間乃至約6時間に単離される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記培養培地への前記炭素源供給が前記培養物へのインデューサ供給中継続する、請求項48に記載の方法。
【請求項65】
前記インデューサがアラビノースである、請求項48に記載の方法。
【請求項66】
前記炭素源が糖系炭素源である、請求項48に記載の方法。
【請求項67】
前記糖系炭素源がグルコースである、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記インデューサがアラビノースである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
グルコースが、前記培養物へのアラビノースの定速供給時、又は該グルコース及び前記インデューサの両者のDOスタット時、又は該グルコース及び該インデューサの両者のpHスタット供給によって一定供給速度で該培養物に供給される、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
グルコースが、前記培養物へのアラビノースの定速供給時に、又は該培養物中の細胞密度が約80のOD600に達するまで該グルコース及び前記インデューサの両者のDOスタット供給によって、又は該培養物中の細胞密度が約80のOD600に達するまで該グルコース及び該インデューサの両者のpHスタット供給によって一定供給速度で該培養物に供給される、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
組換え髄膜炎菌2086タンパク質がリポタンパク質(rLP2086)を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
前記タンパク質が脂質付加されていないタンパク質を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項73】
前記タンパク質が髄膜炎菌2086サブファミリーAタンパク質を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項74】
前記タンパク質が髄膜炎菌2086サブファミリーBタンパク質を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項75】
組換え髄膜炎菌2086タンパク質(P2086)を産生させる方法であって、
(a)誘導プロモータの制御下にある組換え2086タンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成すること、
(b)該組換え細菌細胞を培養培地に導入して培養物を形成すること、
(c)該培養物に炭素源を添加する工程、
(d)該培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD)の達成についてモニタリングすること、
(e)一旦、該培養物の細胞密度が約70乃至110の光学濃度に達したら、該誘導プロモータのインデューサを該培養物に連続的に添加すること、ならびに
(f)該インデューサの連続添加開始後約3時間乃至約6時間後に該培養物から該組換え髄膜炎菌2086タンパク質を単離すること
を含む、方法。
【請求項76】
細菌培養物であって、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度で組換え髄膜炎菌2086タンパク質を含む、培養物
を含む組成物。
【請求項77】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質が脂質付加されているタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項78】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質が脂質付加されていないタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項79】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質が2086サブファミリーAタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項80】
前記組換えタンパク質が2086サブファミリーBタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項81】
前記培養物が別の組換え髄膜炎菌2086タンパク質を含む、請求項80の組成物。
【請求項82】
前記別の2086組換え髄膜炎菌タンパク質が2086サブファミリーAタンパク質である、請求項81の組成物。
【請求項83】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質の密度が、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.7g/Lである、請求項76の組成物。
【請求項84】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質の密度が、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約2.0g/Lである、請求項76の組成物。
【請求項85】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質の密度が、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約3.0g/Lである、請求項76の組成物。
【請求項86】
請求項1乃至75のいずれかの方法に従って調製された組換え髄膜炎菌2086タンパク質を含む細菌培養物を含む組成物。
【請求項1】
組換えタンパク質を産生させるための方法であって、
組換え細菌細胞を含む培養物に炭素源を連続的に添加し、該培養物が閾値パラメータを達成した後に該培養物にインデューサを連続的に添加することを含む、該組換え細菌細胞を培養して組換えタンパク質を発現させること、及び該培養物から該組換えタンパク質を単離することを含む、方法。
【請求項2】
前記閾値パラメータが光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、培養培地中の栄養素の濃度、培養培地に添加された炭素源の総濃度、又はこれらの任意の組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値パラメータが前記培養物の光学濃度(OD)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約105のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記培養物の細胞密度が約75乃至約85のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記培養物に一定速度で前記インデューサを添加すること、該培養物にDOスタット供給により該インデューサを添加すること、又は該培養物にpHスタット供給により該インデューサを添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記培養物に約3.35g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で前記インデューサを添加すること、該培養物にDOスタット供給により又はpHスタット供給により該インデューサを添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約4g/L乃至約40g/Lである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
インデューサ供給時に前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約5g/L乃至約20g/Lである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
インデューサ供給時に前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約7g/L乃至約15g/Lである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
インデューサ供給時に前記培養物に添加する前記インデューサの総量が約10g/Lである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法の開始後約2乃至約8時間の間、前記培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
開始後約3乃至約6時間の間、前記培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記培養物への前記インデューサの添加を開始後約2乃至約8時間に前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記培養物への前記インデューサの添加を開始後約3乃至約6時間に前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記インデューサがアラビノースである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
誘導前の前記培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
誘導前及び誘導後の前記培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記インデューサが前記培養物に連続的に添加されている間に該培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達するまで該培養物に前記炭素源を連続的に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記炭素源が糖系炭素源である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記糖系炭素源がグルコースである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記インデューサがアラビノースである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アラビノースが前記培養培地に連続的に添加されている間に該培養培地に前記グルコースを連続的に添加することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達するまで前記グルコースを連続的に添加することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
組換えタンパク質を産生させるための方法であって、
(a)誘導プロモータの制御下にある組換えタンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成すること、
(b)該組換え細菌細胞を培養培地中に導入して細胞培養物を形成すること、
(c)該細胞培養物に連続供給材料として炭素源を添加すること、
(d)該細胞培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD600)の達成についてモニタリングすること、
(e)一旦、該閾値光学濃度(OD600)が達成されると、連続供給材料として該誘導プロモータのインデューサを該細胞培養物に添加すること、及び
(f)該細胞培養物から該組換えタンパク質を単離すること
を含む、方法。
【請求項29】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記培養物の細胞密度が約70乃至約105のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記培養物の細胞密度が約75乃至約85のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達した時に該培養物に前記インデューサを連続的に添加することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記インデューサが一定速度で前記培養物に添加されるか、又は該インデューサがDOスタット供給によって該培養物に添加されるか、又は該インデューサがpHスタット供給によって該培養物に添加される、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記インデューサが約3.35g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で前記培養物に添加されるか、又は該インデューサがDOスタット供給によって該培養物に添加されるか、又は該インデューサがpHスタット供給によって該培養物に添加される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約4g/L乃至約40g/Lである、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約5g/L乃至約20g/Lである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約7g/L乃至約15g/Lである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記培養物に添加されるインデューサの総量が約10g/Lである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
インデューサ供給の開始後約2時間乃至約8時間に前記培養物から前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項40】
インデューサ供給の開始後約3時間乃至約6時間に前記培養物から前記組換えタンパク質を単離することを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記炭素源が、該炭素源及び前記インデューサの両者の定速供給中に、又は該炭素源が該炭素源及び該インデューサの両者のDOスタット供給中に、又は該炭素源及び該インデューサの両者のpHスタット供給中に前記細胞培養物に添加される、請求項28に記載の方法。
【請求項42】
前記インデューサがアラビノースである、請求項28に記載の方法。
【請求項43】
前記炭素源が糖系炭素源である、請求項28に記載の方法。
【請求項44】
前記糖系炭素源がグルコースである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記炭素源がグルコースであり、前記インデューサがアラビノースである、請求項28に記載の方法。
【請求項46】
前記アラビノースが前記細胞培養物に連続的に添加されている間に該細胞培養物にグルコースを連続的に添加することを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記細胞培養物の細胞密度が約80のOD600に達するまで該細胞培養物にグルコースを連続的に添加することを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
組換えタンパク質を産生させるための方法であって、
組換え細菌細胞を培養し、培養物が閾値パラメータを達成した後に該細菌細胞を含む該培養物に連続的にインデューサを添加することによって組換えタンパク質を発現させることを含み、該細菌細胞が髄膜炎菌血清群Bの遺伝子に相当する核酸配列を含む、方法。
【請求項49】
前記閾値パラメータが光学濃度(OD)、溶存酸素(DO)、pH、培養培地中の栄養素の濃度、培養培地に添加された炭素源の総濃度、又はこれらの任意の組合せである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記閾値パラメータが前記培養物の光学濃度(OD)である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約70乃至約110のOD600に達した時に開始される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約70乃至約105のOD600に達した時に開始される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約75乃至約85のOD600に達した時に開始される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記連続的インデューサ供給が、前記培養物の細胞密度が約80のOD600に達した時に開始される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記インデューサが約3.35g/L/h乃至約16g/L/hの一定速度で前記培養物に添加されるか、又は該インデューサがDOスタット供給によって添加されるか、又は該インデューサがpHスタット供給によって添加される、請求項48に記載の方法。
【請求項56】
誘導時に前記培養物に添加されるインデューサの総量が約4g/L乃至約40g/Lである、請求項48に記載の方法。
【請求項57】
誘導時に前記培養物に添加されるインデューサの総量が約5g/L乃至約20g/Lである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
誘導時に前記培養培地に添加されるインデューサの総量が約7g/L乃至約15g/Lである、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
誘導時に前記培養物に添加されるインデューサの総量が約10g/Lである、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記インデューサ供給が前記方法の開始後約2時間乃至約8時間継続する、請求項48に記載の方法。
【請求項61】
前記インデューサ供給が前記方法の開始後約3時間乃至約6時間継続する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記組換えタンパク質がインデューサ供給の開始後約2時間乃至約8時間に収集される、請求項48に記載の方法。
【請求項63】
前記組換えタンパク質産物がインデューサ供給の開始後約3時間乃至約6時間に単離される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記培養培地への前記炭素源供給が前記培養物へのインデューサ供給中継続する、請求項48に記載の方法。
【請求項65】
前記インデューサがアラビノースである、請求項48に記載の方法。
【請求項66】
前記炭素源が糖系炭素源である、請求項48に記載の方法。
【請求項67】
前記糖系炭素源がグルコースである、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記インデューサがアラビノースである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
グルコースが、前記培養物へのアラビノースの定速供給時、又は該グルコース及び前記インデューサの両者のDOスタット時、又は該グルコース及び該インデューサの両者のpHスタット供給によって一定供給速度で該培養物に供給される、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
グルコースが、前記培養物へのアラビノースの定速供給時に、又は該培養物中の細胞密度が約80のOD600に達するまで該グルコース及び前記インデューサの両者のDOスタット供給によって、又は該培養物中の細胞密度が約80のOD600に達するまで該グルコース及び該インデューサの両者のpHスタット供給によって一定供給速度で該培養物に供給される、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
組換え髄膜炎菌2086タンパク質がリポタンパク質(rLP2086)を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
前記タンパク質が脂質付加されていないタンパク質を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項73】
前記タンパク質が髄膜炎菌2086サブファミリーAタンパク質を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項74】
前記タンパク質が髄膜炎菌2086サブファミリーBタンパク質を含む、請求項68に記載の方法。
【請求項75】
組換え髄膜炎菌2086タンパク質(P2086)を産生させる方法であって、
(a)誘導プロモータの制御下にある組換え2086タンパク質をコードしている発現ベクターを細菌宿主細胞中に導入して組換え細菌細胞を形成すること、
(b)該組換え細菌細胞を培養培地に導入して培養物を形成すること、
(c)該培養物に炭素源を添加する工程、
(d)該培養物中の細胞増殖を閾値光学濃度(OD)の達成についてモニタリングすること、
(e)一旦、該培養物の細胞密度が約70乃至110の光学濃度に達したら、該誘導プロモータのインデューサを該培養物に連続的に添加すること、ならびに
(f)該インデューサの連続添加開始後約3時間乃至約6時間後に該培養物から該組換え髄膜炎菌2086タンパク質を単離すること
を含む、方法。
【請求項76】
細菌培養物であって、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.5g/Lの密度で組換え髄膜炎菌2086タンパク質を含む、培養物
を含む組成物。
【請求項77】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質が脂質付加されているタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項78】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質が脂質付加されていないタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項79】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質が2086サブファミリーAタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項80】
前記組換えタンパク質が2086サブファミリーBタンパク質である、請求項76の組成物。
【請求項81】
前記培養物が別の組換え髄膜炎菌2086タンパク質を含む、請求項80の組成物。
【請求項82】
前記別の2086組換え髄膜炎菌タンパク質が2086サブファミリーAタンパク質である、請求項81の組成物。
【請求項83】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質の密度が、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約1.7g/Lである、請求項76の組成物。
【請求項84】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質の密度が、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約2.0g/Lである、請求項76の組成物。
【請求項85】
前記組換え髄膜炎菌2086タンパク質の密度が、該細菌培養物の総容量に基づき、少なくとも約3.0g/Lである、請求項76の組成物。
【請求項86】
請求項1乃至75のいずれかの方法に従って調製された組換え髄膜炎菌2086タンパク質を含む細菌培養物を含む組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【公表番号】特表2009−544321(P2009−544321A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521856(P2009−521856)
【出願日】平成19年7月21日(2007.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/016917
【国際公開番号】WO2008/013943
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月21日(2007.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/016917
【国際公開番号】WO2008/013943
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】
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