説明

組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチド

【課題】糖鎖を有する組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドA、該ポリペプチドを製造するための方法、およびこの方法によって得られた組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAを提供する。
【解決手段】ヒトプラスミノーゲンの1−460番目のアミノ酸をコードするcDNAを含むプラスミドベクターを、CHO−K1細胞にトランスフェクションし、高い効率で組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAを生産する細胞を、選択薬剤メトトレキセートの濃度を段階的に増加させる適応法を用いて選抜した。選抜した細胞を用い、天然型BLアンジオスタチンに匹敵する生物活性を有する組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAを生産した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O−結合型糖鎖を有する組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチド、O−結合型糖鎖およびN−結合型糖鎖を有する組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチド、該ポリペプチドを製造するための方法、およびこの方法によって得られた組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生とは既存の血管から新しい血管が形成される過程であり、血小板や血管内皮細胞から放出される成長因子等の促進物質と種々の阻害因子により調節される(Browder,T.,Folkman,J.&Pirie−Shepherd,S.(2000).J.Biol.Chem.275,1521−4)。脊椎動物における血管新生は非常に厳密に制御されており、分化・成長過程および成熟個体における妊娠、創傷治癒のような限られた場合にしか生じない。例外的に、慢性炎症や糖尿病性網膜症、リウマチ性関節炎、固形腫瘍といった病的な素因がある場合に血管新生が亢進していることが知られており、これらの病態進行と血管新生は深く関与している(Carmeliet,P.(2003).Nat.Med.9,653−60)。
【0003】
固形腫瘍は、一定の大きさまでは既存の血管から得られる栄養素だけで成長できるが、それ以上に成長するためには新生血管を構築し、そこから増殖に必要な酸素や栄養素を獲得する必要がある。つまり、腫瘍の成長は血管新生に依存的であると言え、この過程を効果的に阻害することにより、腫瘍の成長、転移を阻害できる可能性が示されている。さらに、血管新生阻害剤の標的となるのは、がん細胞自身ではなく血管内皮細胞であり、薬剤耐性や副作用が生じにくいといった長所があり、新規の抗がん剤として期待されている。近年、血管内非細胞増殖因子のひとつであるVEGFを阻害する抗体医薬アバスチンが承認されている。
【0004】
アンジオスタチンは、血漿中の線溶因子プラスミノーゲンが部分分解して生じる内因性の血管新生阻害因子である(O’Reilly et al.(1994).Cell 79,315−28)。生理的条件下におけるアンジオスタチンの産生は、腫瘍の存在によって活性の亢進した各種のプロテアーゼによって分解を受けて生じる。典型的なアンジオスタチン分子はプラスミンの最初の4つのクリングルドメイン(K1−4)からなるが、その派生物であるK1−3、K1−41/2やA61などについても、血管内皮細胞の増殖、遊走、管腔形成の阻害、さらにin vivoにおいて、これらのアンジオスタチン分子が原発巣および転移巣の成長を抑制することも判明している。(O’Reilly et al.(1994).Cell 79,315−28,7.Cao,Y.et al.(1996).J.Biol.Chem.271,29461−7)
【0005】
アンジオスタチンの製造法としては、(1)エラスターゼによるプラスミノーゲンの加水分解(M.S.O’Reilly et al.,Nature Medicine,2,689−692(1996))及び(2)遺伝子組換え技術を用いた大腸菌や酵母による生産(B.K.Sim et al.,Cancer Research 57,1329−1334(1997))の2種類が知られていた。しかし、(1)では、エラスターゼの基質特異性の低さのため、副生成物が多く生じ、プラスミノーゲンからアンジオスタチンを選択的に生成させることが困難であることから、アンジオスタチンの活性の再現性が低いという欠点があった。また、(2)では、天然型に匹敵する活性が得られていない。これは異種生物での発現の過程で、タンパク質フォールディングの差に基づく立体構造の変化や、特に糖鎖修飾の差などが原因と考えられる。(Cao,Y.,Int J Biochem Cell Biol 33,357−69(2001)、Dell’Eva,R.,et al.,Endothelium 9,3−10(2002))。事実、Gonzalez−Gronowらは、アンジオスタチンの糖鎖末端のシアル酸の除去により、アンジオスタチンの活性が大きく低下することを報告している(Gonzalez−Gronow,Exp.Cell.Res.,303,22−31,(2005))。
【0006】
BLアンジオスタチン(BLAS)は、Bacillus megaterium A9542株が産生するプロテアーゼであるバシロライシンMAを用いて、ヒトプラスミノーゲンを特異的に切断したアンジオスタチン様断片である(特開2002−272453号公報)。ヒトプラスミノーゲンのアミノ酸配列は公知であり、SWISSPROTに受入番号P00747として登録されている。なお、ヒトプラスミノーゲンのアミノ酸配列は、シグナルペプチド(Met1−Gly19)を含む。BLアンジオスタチンは、BLアンジオスタチンポリペプチドA(ヒトプラスミノーゲンのGlu20−Ser460からなるポリペプチド)を主成分として構成される組成物である。BLアンジオスタチンは、親水性アミノ酸に富むN末端領域、およびプラスミノーゲンに由来する天然型糖鎖を有し、水に対する溶解性も非常に高い。これまでの組み換え型アンジオスタチン分子と比較して、より低濃度から抗腫瘍活性、内皮細胞の管腔形成阻害といった作用が見出され、優れたアンジオスタチン分子であることが示された。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、糖鎖を有する組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドA、該ポリペプチドを製造するための方法、およびこの方法によって得られた組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAに関する。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の技術では、十分な生物活性を有するアンジオスタチンを生産することを達成できていない。また、BLアンジオスタチンは上記のように優れた生物活性を有するが、活性に必須の糖鎖を有する遺伝子組換え体の生産には至っていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、組換えBLアンジオスタチンポリペプチドA(rBLAS)の生産方法および、がんに対する効果について鋭意研究を行なった結果、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下CHO−K1)を用いた系によって、2種類の糖鎖を有する組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAの発現および生産に成功した。さらに、得られた組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAには、天然型アンジオスタチンと同等の極めて優れた血管新生阻害効果を有することを発見して、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、糖鎖を有することにより高い活性を示す、組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】 細胞株樹立の際に用いたヒトプラスミノーゲンのcDNAシークエンスを示す。
【図2】 天然型BLアンジオスタチンおよび組換え型ヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAの各分子に対する糖鎖付加を確認した。
【図3】 N型糖鎖を特異的に脱離するPNGaseを用い、天然型BLアンジオスタチンおよび組換え型ヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAを処理したところ、N型糖鎖がついている高分子量のバンドが消失し、低分子量のバンドに集約した
【図4】 組換え型ヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAのN型糖鎖中性糖のTOF−MSデータを示す。中性糖3ピーク(m/z 1442.3、1556.9、1866,9)が観測された。
【図5】 組換え型ヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAのN型糖鎖酸性糖のTOF−MSデータを示す。酸性糖2ピーク(m/z 2156.1、2447.5)が観測された。
【図6】 組換え型ヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAのO型糖鎖中性糖のTOF−MSデータを示す。中性糖4ピーク(m/z 753.2、902.7、999.7、1064.0)が観測された
【図7】 組換え型ヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAのO型糖鎖酸性糖のTOF−MSデータを示す。酸性糖2ピーク(m/z 731.7、788.7)が観測された。
【図8】 天然型BLアンジオスタチンおよび組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAの血管新生抑制試験の結果を示す。天然型、組換え型とも濃度依存的に申請血管数が減少し、3.5mg/kgにおいてそれぞれ有意な抑制作用が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAを製造するには、当該タンパク質をコードする塩基配列を有するDNAを作製し、これを好適な発現系に導入することにより目的タンパク質を製造することができる。
【0013】
本発明の組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAの塩基配列を有するDNAは、ヒト由来(例えば、HepG2細胞由来など)のcDNAライブラリーを、BLアンジオスタチンポリペプチドAのアミノ酸配列をコードする塩基配列の情報に基づいて設計した好適なプライマー又はプローブを用いてスクリーニングすることにより入手できる。スクリーニングはプラークハイブリダイゼーション等で行うことができる。あるいは、ヒト由来(例えば、HepG2細胞由来など)のcDNAライブラリーを鋳型として使用し、上記塩基配列の情報に基づいて設計した好適なプライマーを用いてPCRを行うことにより、目的遺伝子を直接クローニングすることもできる。
組み換えタンパク質を発現させるための発現系(遺伝子を含む発現ベクターとその宿主)は当業者に公知である。DNAを宿主細胞中で発現させるためには、まず、該DNAを発現ベクター中のプロモーターの下流に挿入し、次いでこの組み換え発現ベクターを、当該発現ベクターに適合した宿主細胞中に導入する。
【0014】
動物細胞用の発現ベクターとして、例えば、pcDNAI、pcDM8(フナコシ)、pcDNAI/AmP(Invitrogen)、pREP4(Invitrogen)が挙げられる。
動物細胞用の発現ベクターに用いることができるプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、アデノウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーターを挙げることができる。
宿主細胞としては、CHO−K1などの動物細胞、Sf21細胞などの昆虫細胞などが挙げられる。
【0015】
組換えベクターの宿主への導入方法は、例えば、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法、リポフェクション法などが挙げられ、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
【0016】
形質転換体の培養物から、目的の組み換えタンパク質を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いることができる。例えば、組み換えタンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、イオン交換グロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法を単独、又は組み合わせて用い、精製することができる。
【0017】
本発明の制がん剤は、一般的には、有効成分としての組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAと賦形剤などの製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態で提供される。
本発明の制がん剤は、ヒトを含む哺乳動物に医薬として投与することができる。
本発明の薬剤の投与経路は特に限定されず、経口投与または非経口投与(例えば、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、鼻腔などへの粘膜投与、または吸入投与など)の何れでもよい。
組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAは、先行技術の組換え型アンジオスタチン分子とは異なり、水に対する溶解度が高いことから、本発明の制がん剤は、静脈内投与によって投与することができるという特徴を有する。
本発明の制がん剤の形態は特に限定されず、経口投与のための製剤としては例えば、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などが挙げられ、非経口投与のための製剤としては例えば、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、経粘膜吸収剤、経皮吸収剤、点鼻剤、点耳剤などが挙げられる。本発明の薬剤の形態、使用すべき製剤用添加物、製剤の製造方法などは、いずれも当業者が適宜選択することができる。
【0018】
本発明の薬剤の投与量は、患者の性別、年齢または体重、症状の重症度、予防または治療といった投与目的、あるいは他の合併症状の有無などを総合的に考慮して適宜選択することができる。投与量は、一般的には、0.1mg/kg体重/日〜1000mg/kg体重/日、好ましくは1mg/kg体重/日〜100mg/kg体重/日である。
本発明の制がん剤は、乳がん、肺がん、咽頭がん、胃がん、膵がん、肝がん、結腸がん、子宮がん、卵巣がん、等の治療に用いることができる。
【実施例】
【0019】
細胞株の樹立
HepG2細胞からTrizol reagent(Invitrogen)およびRNeasy Mini kit(QIAGEN)をもちいてトータルRNAを抽出した。その一部395.2μg/ml(90μl)を鋳型に逆転写反応を行い、以下のPCR用primerを用いてプラスミノーゲンの部分配列をコードするcDNAを得た。各反応は、TaKaRaBIO社PrimeScript RT System及びPrimeStar PCR Systemを用いて行った。
用いたprimerの配列を以下に示す。なお、ヒトプラスミノーゲンの配列は公知であり(図1)、BLアンジオスタチンポリペプチドAを発現するためのcDNAはプラスミノーゲンの1〜460番目のアミノ酸配列をコードする。(図1)
RT−PCR用primer:
5‘−TTAATTATTTCTCATCACTCCCTC−3’
PCR用primer:
Forward(36mer):
5’−TGTGAACCGTCGACATGGAACATAAGGAAGTGGTTC−3’
Reverse(37mer):
5’−CCTTAGAGGTCGACTTAACTCGCTTCTGTTCCTGAGC−3’
得られたcDNA断片の末端を平滑処理後、pCAGGS1.dhfr.neoベクター(財団法人化学及び血清療法研究所)のSalIサイトにクローニングし、BLアンジオスタチンポリペプチドAを発現するためのプラスミノーゲン部分配列のプラスミド構築物SYN1300−1を得た。
それぞれの挿入部位及び近傍の塩基配列解析を行った(図1)。その結果、挿入部位について4箇所のpoint mutationが認められた(344T→C、785C→T、887G→T、1097G→A)。これらはsilent mutationであり、コードするアミノ酸の変化を伴うものではなかったため、得られた配列を用いて次の作業を進めた。
【0020】
発現プラスミドDNAベクターの調製
目的遺伝子発現プラスミドクローンSYN1300−1について、トランスフェクション用プラスミドDNAの大量調製をおこなった。40mLの大腸菌培養液より、EndoFree plasmid Maxiキット(QIAGEN cat.No.12362)を用いて、プラスミドDNAを調製した。
【0021】
ヒトプラスミノーゲン部分タンパク質安定発現株の樹立
CHO/dhfr−細胞(ATCC cat.No.CRL−9096)にプラスミドクローンSYN1300−1を導入し、ヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAを安定発現する細胞株の樹立を試みた。6ウエルプレートに3x10個/ウエルでCHO/dhfr細胞(Invitrogen)を播種し、24時間培養した後、トランスフェクション試薬TransIT−CHO(Mirus cat.No.MIR2174)を用いて目的遺伝子発現プラスミドDNA(2μg)を細胞に導入した。導入方法はTransIT−CHOのinstruction manualに従った。
DNAトランスフェクションから48時間培養の後、HT supplement未添加/10%FBS−IMDM培地(培地:SIGMA cat.No.I3390,HT supplement:GIBCO/Invitrogen cat.No.A6770)で細胞懸濁液を作製し、100分の1、200分の1、400分の1及び、800分の1量の細胞を新しい6cmディッシュに播種し、欠損培地による選択を開始した。3〜4日毎に新鮮なHT supplement未添加/10%FBS−IMDM培地に交換しながら、7日間培養した後、0.03μM MTX(Methotrexate)添加/HT supplement未添加/10%FBS−IMDM培地に交換し、更に4日間選択培養をした。選択開始から11日後に、欠損培地耐性となり増殖してきた細胞コロニーをクローニングカップにより、42個ピックアップし、48ウエルプレートに継代した。増殖した34クローンについて、10分の1量の細胞を6ウエルプレートに播種し、MTX濃度を0.3μMに上げたHT supplement未添加/10%FBS−IMDM培地を用いて遺伝子増幅培養を試みた。7〜10日間の培養の後、増殖した32クローンについて、30分の1量の細胞を6ウエルプレートに播種し、MTX濃度を1.0μMに上げたHT supplement未添加/10%FBS−IMDM培地を用いて再度遺伝子増幅培養を試みた。7〜13日間の培養の後、1.0μMMTXで増殖した32クローンのうち、増殖の遅い2クローンを除いた30クローンについて、6cmディッシュに拡大培養した。これらの培養上清に含まれる組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA量をウエスタンブロットによって定量し、この30クローンのうち、生産性の良かったクローン、22,23,24,25,26を組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA生産基本株とした。
【0022】
高生産株の取得
上記安定発現CHO細胞のクローン、22,23,24,25,26を、60mmディッシュで1μM MTXおよび10%FBSを含むDMEM4ml中37℃,5% CO下で培養した。90mmディッシュ(10ml培地)に拡大した後、6穴プレートに播き(およそ20,000/cm)1μM MTX/10%FBS/DMEM中で1日培養後、1mlのDMEMに換え48時間後の培養液を回収し、16,000xg,10分間遠心した上清に存在する組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAをWestern blotで検出した。定量の結果、組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAの発現量はクローン間で大きな差はなく、5クローンのうち生育の遅いNO.25についてMTXによる選択を行った。
【0023】
クローンNo.25を10%FBS/DMEM中37℃,5%CO下において、3μM MTX(7日間、培地交換1回)、30μM MTX(8日間、培地交換2回)、100μM MTX(37日間、培地交換7回・継代3回)条件でそれぞれ培養した。これらのうち100μM MTX中で生存した細胞は発現量が約3倍に上昇し(10mg/L培地)、本細胞集団をM100とした。
さらにM100細胞について、限界希釈法によるクローニングを実施し、96穴プレート(Coster 3595)中で10%FBS/DMEM中条件、22日間培養後100μlのDMEMに換え、48時間培養後、生育の良かったクローン12個について50μlの培地を回収し、Western blotで組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA量を定量した。得られた12個のクローンの発現量はいずれもM100細胞集団と同等かそれ以下であり、発現量が同等であった2つのクローンをそれぞれM100−1,M100−2とし、これを組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA高生産株とした。
【0024】
組換えBLアンジオスタチンポリペプチドA産生細胞の無血清培地馴化および浮遊化検討
上記で得られた選択株M100,M100−1,M100−2 計3クローンについて無血清培地への馴化検討および浮遊化検討を行った。
無血清馴化には、市販のAnimal Component Free 培地である3種類の培地を選択し使用した。具体的にはIS CHO−V培地(Irvine、9197)、IS CHO−CD+SOY(Irvine、特注品lot:ISJ005−043)、EX−CELL CD CHO(SAFC、14360C−1000M)である。これらの培地1Lに対して、200mMグルタミン酸を40mlまたは80ml(IS CHO−V培地のみ)添加したものを無血清馴化培地とした。これら無血清馴化培地3種類を用いて、上記で得られた細胞3種(M100,M100−1,M100−2)を用いての馴化培養を行った。馴化培養は、10%FBS含有DMEM培地で凍結細胞を蘇生後、1μM MTX含有の10%FBS含有DMEM培地で培養された細胞を用いて行った。10%FBS含有培地から順次、FBS濃度を10%→5%→1%→0.5%→0%(無血清)と低下させ、各FBS濃度で一定期間培養を行いながら培養を継続した。5%、1%、0.5%FBS濃度の培地は、1μM MTX含有の10%FBS含有DMEM培地と1μM MTXを含有した各無血清培地を濃度比率で混和させて使用した。細胞の播種密度は、本報告書で特筆しない場合、基本を2×10cells/mLとし、細胞状態によっては、2×10cells/mL以上を播種して培養を行った。
検討の結果、M100−1細胞は他の2種と比較して、無血清培地馴化による増殖率および生産性が劣る結果が得られた。またIS CHO−CD+SOY培地は、いずれの細胞においても増殖性は優れるものの、生産性が低いという結果が得られた。
【0025】
細胞の浮遊化検討は、3種の細胞ともほぼ同様の推移を示し、1%FBS濃度の培地から、浮遊細胞と接着細胞(明らかな接着様態)の混在状態となり、IS CHO−CD+SOY培地では、1%FBS含有培地から、EX−CELL CD CHO培地では、0.5%FBS含有培地から、IS CHO−V培地では、0%FBS培地への移行時から浮遊細胞化が認められた。ただし、M100−1細胞は、0%FBSのIS CHO−V培地においても、細胞播種後、接着細胞様態を示し、培養を継続することにより接着細胞が剥離し、浮遊化(分散細胞群と凝集魂が混在)する傾向が見られた。全般的に細胞の浮遊化の傾向に関しては、M100−2≧M100>M100−1の順で浮遊化がし易いことが観察された。
【0026】
これらの結果により、大量生産培養の検討に用いる細胞株としてM100およびM100−2、無血清馴化培地としてはIS CHO−V培地、EX−CELL CD CHO培地を選択した。
【0027】
【表1】

【0028】
組換えBLアンジオスタチンポリペプチドA生産のための基本培地の検討
前項で得た無血清培地馴化済みのM100およびM100−2細胞を、それぞれIS CHO−V培地、EX−CELL CD CHO培地を用いて(Irvine社製培地を基本培地として使用する場合はIS CHO−V培地、SAFC社製培地を基本培地として使用する場合はEX−CELL CD CHO培地を蘇生・継代培養に用いた。培地組成は、前述・無血清培地馴化と同)蘇生・継代培養を行うことによって、基礎培地検討に要する細胞数へ拡大培養を行った。その後、無血清馴化培地と候補基本培地を等量混和した培地で、1継代行った。その後、候補基本培地で培養を2継代以上行った。増殖性が適切であると判断した候補基本培地を選択し、基本培地選択のための培養を行った。培養開始後、3、5、7、10日目の生細胞数、細胞生存率を測定、さらに組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA産生量を、5、7、10日目の培養上清を用いて測定した。生細胞数が播種時に対し2〜5日培養後、2倍以上達しない場合、または細胞浮遊状態を維持できない場合は、培養を中止した。
候補基本培地としては、Irvine社製培地としてIS CHO V培地(9197)、IS CHO−V1培地(特注ISJ005−146A)、IS CHO−V2培地(特注ISJ005−146B)IS CHO CD−X1培地(特注ISJ005−147A)、IS CHO CD−X2培地(特注ISJ005−147B)、IS CHO CD−M1培地(特注ISJ005−147C)、IS CHO CD−M2培地(特注ISJ005−147D)の7種類、SAFC社製培地として、EX−CELL CD CHO培地(14360C−1000M)、EX−CELL ACF CHO培地(C5467)、imMEDIAte ADVANTAGE 65904培地(特注65904−1000M)、imMEDIAte ADVANTAGE 65898培地(特注65898−1000M)、EX−CELL CD CHO−3培地(C1490−1L)の5種類、計12種類の培地を使用した。各基本培地は、L−グルタミン(終濃度4mM、IS CHO V培地のみ終濃度8mM)、メソトレキセート(終濃度1μM)をそれぞれ添加したものを用いた。なお、これら12種のうち、各培地への馴化培養を進める段階の振とう培養過程で、SAFC系培地のEX−CELL CD CHO、imMEDIAte ADVANTAGE 65904、imMEDIAte ADVANTAGE 65898培地の増殖性が低下した。EX−CELL CD CHO培地は増殖が止まったので、増殖性培養試験は行わなかった。
【0029】
培養はいずれも、細胞培養液をよく攪拌、懸濁した後、培地で1〜5×10cells/mlに調製し、新しい培養フラスコ(T25、T75、T225、エレンマイヤーフラスコ(E125、E250)など)に加え、5%COインキュベーター(以下COインキュベーター)に入れ培養を継続した。Tフラスコによる培養は、COインキュベーターに入れ、静置培養、エレンマイヤーフラスコ(E250)による培養は、空気にCOが5 vol%の割合で含まれる混合ガス(流量1L/min)を45秒間エレンマイヤーフラスコ内に通気し、キャップを密閉後、36.5±0.5℃、80rpmの旋回振とう速度条件下で培養を行った。細胞密度を上げる必要のある場合、培地全量交換する必要のある場合は、1,000rpm(180G)の条件で5分間遠心分離後、上清を除去したのち、培地を加え0.5〜5×10cells/mlに調製して継代培養を進めた。
増殖性培養試験を行った結果、M100細胞、M100−2細胞ともに、SAFC社EX−CELL ACF CHO培地の増殖性がもっとも良く生細胞密度も高かったが、SAFC社の培地は、AD4、AD8培地を除き、ほぼ同等の増殖性を示した。組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA濃度測定の結果、各培地において、M100細胞の方が、M100−2細胞より組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAの蓄積量が高い傾向が見られた。培養10日目の組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA蓄積量において、M100細胞では、EX−CELL ACF CHO培地、M100−2細胞では、IS CHO CD−M2培地が、それぞれ約45mg/Lであり、高い組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA蓄積量を示した。また、生細胞密度あたりの生産量としては、培養十日目においていずれの細胞もIS CHO CD−M2培地>IS CHO CD−M1培地>EX−CELL ACF CHO培地の順であった。(表2〜5)
【0030】
以上の結果から、M100−2細胞、無血清培地としてIS CHO−V培地(Irvine、9197)、IS CHO CD−M2培地(Irvine、特注 ISJ003−061)が組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAの生産に適していると判断した。
【0031】
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0032】
大量培養検討
前項で確立した条件を用い、スピナーフラスコを用いた攪拌培養確認、および流加培養検討を行った。
上記と同様に調整した培地を用い、無血清培地(IS CHO−V培地)を用いて蘇生培養を行い、同培地で1継代培養を行った後、IS CHO CD−M2培地とIS CHO−V培地を等量混和した培地で、1継代行った。その後、IS CHO CD−M2培地による培養を3継代行うことにより、拡大培養を行い、攪拌培養に使用する細胞を取得した。
5Lの培養槽を高圧蒸気滅菌し、放熱後4000mLのIS CHO CD−M2培地を加え、COが5 vol%の割合で含まれる混合ガス(流量200mL/min)を通気しながら、温度36.7℃、攪拌数72rpm(先端速度0.45m/s)、溶存酸素濃度(DO)40%設定し、約20時間運転放置した(前培養)。放置後、pHおよび溶存酸素濃度を調整した。細胞播種前の培養状態は、攪拌数72rpm(先端速度0.45m/s)、温度36.6℃、pH7.18、DO 100.4%だった。
前培養後、培養槽に播種細胞密度が、2×10cells/mLになるように、細胞培養液を加えたのち、IS CHO CD−M2培地を加え、培養液量を5,000mLとした。培養条件は、5L培養槽の各設定値を、温度36.7℃、上面通気量200mL/min、pH7.2、DO 40%、攪拌数72rpmとし、培養を開始した。培養開始後、pHが下がった場合は、炭酸ナトリウム溶液を注入し、pHを補正、培養を継続した。
培養3日目から5,7,10,12日目に生細胞数および生存率を測定し、12日目において生存率が50%を下回ったため、培養を終了した。
培養終了後、細胞ろ過フィルター(ザルトブランP300)による除細胞ろ過をおこない、4,650mLの培養上清を回収した。
組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA濃度は、培養5日目より7、10、12日目に測定し、培養5日目は、7mg/L、7日目は、14.7mg/L、10日目は、23.6mg/L、12日目は、30.1mg/Lだった。なお、フィルターへの吸着は確認されなかった。
【0033】
流加培養検討は、基本培地をIS CHO CD−M2培地(Irvine、特注 ISJ003−061、ISJ003−064)、流加培地として基本培地メーカー推奨の培地6種、IS CHO FEED−CD(Irvine、91108)、CHO FEED MEDIUM(Irvive、特注ISJ003−060)、Soy Hydrolysate UF Solution 50×(SAFC、58903C)、Yeast Hydrolysate UF Solution 50×(SAFC、58902C)、Yeast Hydrolysate UF Solution 50×(Irvine、ISJ005−082)、Wheat Hydorolysate Solution(Irvine、ISJ003−071)を用いた。
【0034】
【表6】

【0035】
組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAの精製
リジンセファロース4B(GEヘルスケア)を充填したカラムを0.1M NHHCOで平衡化し、そこにカラムの70培量の細胞培養液の遠心上清をアプライした。カラムの20倍量の0.1M NHHCOで洗浄した後、0.2MのEACA(ε−aminocapronic acid)を含む0.1M NHHCOで溶出した。回収液をSDS−PAGE(10%ポリアクリルアミドゲル)によって分離し、50−54kDaの組換えBLアンジオスタチンポリペプチドA分子を含む画分をまとめ、硫酸アンモニウムを添加して、たんぱく質を沈殿させた。得られた沈殿物4.8mgを2mlの30%飽和硫安を含む0.1Mリン酸バッファ(pH7.0)に溶解し、これを30%飽和硫安を含む0.1Mリン酸バッファ(pH7.0)であらかじめ平衡化したSOURCE 15PHE4.6/100PE(phenyl)(GEヘルスケア)にアプライした。カラムの20倍量のボリュームで0.1Mリン酸バッファ(pH7.0)へグラジエント溶出を行い、その後カラム2倍量の0.1Mリン酸バッファ(pH7.0)で溶出し、2mlずつ溶出画分を集めた。溶出画分をそれぞれSDS−PAGEによって評価し、高純度組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA標品を得た。
【0036】
組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAの糖鎖付加確認および糖鎖分析
上記疎水カラムクロマト処理後の高純度標品、およびヒト血漿より得られた天然型BLアンジオスタチンをそれぞれSDS−PAGEに供した後、ニトロセルロース膜にブロッティングした。ブロッティング後のメンブレンを糖タンパク検出キット(GE社 ECL glycoprotein detection kit)を用いてビオチン標識し、これをHRP標識のストレプトアビジンを用いて検出することにより、糖鎖修飾の有無を確認した。その結果、天然型BLアンジオスタチンおよび組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAを構成する、分子量の異なる2つの分子は、いずれも糖鎖を有していることが明らかとなった。(図2)
【0037】
天然型プラスミノーゲンは、N型、O型糖鎖が1つずつ付加したI型プラスミノーゲンと、O型糖鎖が1つ付加したII型プラスミノーゲンが存在する。天然型アンジオスタチンは、プラスミノーゲンの部分分解産物であるため、これらの糖鎖を有している。組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAに付加された糖鎖を確認するため、N型糖鎖を特異的に分解するPNGaseF(NEB S0407S)で反応させることにより、アンジオスタチン分子に付加していると予測されるN型糖鎖の脱離を試みた。
1μgの天然型BLアンジオスタチンおよび組み換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAを500ユニットのPNGaseFと1%のNP−40、40mM DTTを含むSDS−PAGEサンプルバッファ中、37℃で1時間インキュベーションし、その後、電気泳動で評価した。その結果、組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAをPNGaseFで処理すると、天然型と同様に、2本のバンドのうち分子量の多い上のバンドが消失し、下のバンドのみが検出された。これらの結果により、組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAを構成する2つの分子のうち、高分子量のタンパク断片については、N型糖鎖を有し、下のバンドに相当する分子はN型糖鎖が付加して異なことが示唆された。(図3)
【0038】
さらに、分子に付加した糖鎖を構成する糖の推定を行うため、糖鎖分析を試みた。上記疎水カラムクロマト処理後の高純度標品を、精製水に対して4℃下、一晩透析を行い、回収したサンプルを凍結乾燥して試料を粉末状にした。得られた試料に無水ヒドラジンを加え、100℃で10時間反応させた後、トルエンの共沸留去によってヒドラジンを除去した。N−アセチル化試薬を加え、氷上で30分間反応させ、そこに陽イオン交換樹脂を加え、ミニカラムでろ液を回収、乾固させた。
分離した糖鎖をカップリング試薬(2−アミニピリジンを酢酸で溶解)に溶解し、90℃1時間反応させた後、還元剤(ジメチルアミンボランを酢酸と精製水に溶解)を加え80℃、35分間反応させることにより糖鎖のピリジルアミノ化(PA化)を行った。反応後に、溶液をセルロースカラムに通し、PA化糖鎖と余剰の2−アミノピリジンを分離した。得られたPA化糖鎖をMALDI−TOF MSにかけ、分子量を測定した。マトリックスは2,5−Dihydroxybenzoic acidを用い、中性糖についてはlinearモード、酸性糖についてはlinear negativeモードで測定した。
得られたマススペクトルから、N型およびO型糖鎖を構成する構成糖を推定した。N型糖鎖は中性糖3ピークと酸性糖2ピーク、O型糖鎖では中性糖4ピークと酸性糖2ピークが検出された。(図4〜7、表7)検出されたピークについてExPASy−GlycoMod toolで分子量から構成糖を推定した。
【0039】
【表7】

【0040】
糖含量およびシアル酸定量
糖定量は、ガラクトースを標品として用い、フェノール硫酸法にて行った。標品および組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドA0.5mlに5%フェノール溶液を0.5ml加えた後、濃硫酸2.5mlを勢い良く加え、混合、室温で10分反応させた。反応後、490nmの吸光度を測定することで、検量線より糖の定量を行った。その結果、組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAの糖含量は、タンパク質1μgあたり、34.35ngであった。
シアル酸定量は、シアル酸を標品として用い、レゾルシノール法にて実施した。レゾルシノール0.2gを20mlのミリQ水に溶かし、濃硫酸80mlと0.1M CuSO 0.25mlを加える。標品および組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAサンプル0.5mlに前述で調整したレゾルシノール試薬0.5mlを加え、100℃で15分間反応させた後、流水で冷やし、メチルセロソルブを2ml加えて混合し、580nmの吸光度を測定した。その結果、組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAは、タンパク質1μgあたりシアル酸21.32ngであった。
【0041】
組換えBLアンジオスタチンポリペプチドAの血管新生阻害作用
組み換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAの血管新生阻害作用を、アフィニティートラップリアクターで製造・精製した天然型BLアンジオスタチン組成物(調製法はWO2004/065595)と比較した。
天然型BLアンジオスタチンポリペプチド組成物は、アフィニティートラップリアクターを用い、ヒト血漿から調製した。組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAは、上記の高生産株M100細胞を用いて生産し、リジンセファロース4Bによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。両サンプルは生理食塩水に溶解して、フィルター滅菌した(ポアサイズ0.2μm,ADVANTEC)。
マウスはCrlj:CD1(ICR)を用いた。Sarcoma 180腫瘍細胞は、シャーレで培養した後に、細胞を適当な量のハンクス液に浮遊させ、その一部を等量の0.4%トリパンブルーと混合し、細胞数及び生存率を求めた。この細胞懸濁液を1×10cells/0.1mL/bodyの条件で細胞増殖用Crlj:CD1(ICR)マウスの腹腔内に接種した。
細胞移植後5〜7日に細胞増殖用マウスを頸椎脱臼により安楽死させた。その後、腹腔内にハンクス液を約1mL注入してSarcoma 180腫瘍細胞を含む腹水を回収した。
移植用のチャンバーは、ミリポアリング(ミリポア株式会社)の両側にMFセメント(ミリポア株式会社)でフィルター(ポアサイズ0.45μm,ミリポア株式会社)を装着することにより調製した。風乾後、完成したチャンバーをエチレンオキサイドガスで滅菌した。
滅菌済みチャンバーにSarcoma 180腫瘍細胞懸濁液[Vehicle群にはPBS(−)]を23Gの注射針を用いて0.15mLずつリングの注入孔からチャンバー内部に注入し、注入口をナイロン棒(ミリポア株式会社)で塞いだ(5×10cells/0.15mL/chamber)。
作成した移植用チャンバーを、ペントバルビタールナトリウム(55mg/kg)腹腔内投与による麻酔下で、剃毛後、マウス尾根部へ26Gの注射針を装着した注射器を用いて空気を約8mL皮下に注入した。尾根部より頭側1.5cm程度のところで皮膚を1.5cm程度水平切開し,細胞懸濁液[Vehicle群にはPBS(−)]を注入したチャンバーをピンセットを用いて背部まで挿入した。チャンバーを封入したマウスにday 0(腫瘍細胞移植後)〜day 4に1日1回(計5回)、尾静脈から、生理食塩水(対照群)、天然型BLアンジオスタチンポリペプチド組成物、あるいは組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドAを投与した。それぞれの薬剤の投与量は、0.35および3.5mg/kgとした。
Day 5にエーテル麻酔下でマウス背部を広く切開し、皮膚側のチャンバー接触部分にリングと同じ内径の黒色ゴムリング(三興化学工業株式会社,内径と外径の厚さ:約2mm)を置き、顕微鏡下で観察し、写真撮影する。長さ3mm以上の蛇行彎曲している血管を新生血管として計測した。
その結果、天然型・組換え型とも、ほぼ同等の血管新生阻害作用を示し、組換え型BLアンジオスタチンポリペプチドAが十分な薬理作用を有していることが示された。(図8)
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の制がん剤は、血管新生を伴う疾患に用いることができる。特に、乳がん、肺がん、咽頭がん、胃がん、膵がん、肝がん、結腸がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん等のがんの治療に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
O−結合型糖鎖を有する組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドA。
【請求項2】
O−結合型糖鎖およびN−結合型糖鎖を有する組換えヒトBLアンジオスタチンポリペプチドA。
【請求項3】
請求項1のポリペプチドおよび/あるいは請求項2のポリペプチドを含有する医薬組成物。
【請求項4】
請求項1のポリペプチドおよび/あるいは請求項2のポリペプチドを含有する、血管新生を伴う疾患の治療のための医薬組成物。
【請求項5】
請求項1のポリペプチドおよび/あるいは請求項2のポリペプチドを含有する、がんの治療のための医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−231090(P2011−231090A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112610(P2010−112610)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(507051732)株式会社ティムス (5)
【Fターム(参考)】