説明

組換えブタ・アデノウイルス・ベクター

【課題】望ましいDNAが当該組換えブタアデノウイルス・ゲノムの適切なサイトに安定に組み込まれ、望ましいDNAを発現し得る組換えブタ・アデノウイルスを提供すること。
【解決手段】異種起源DNAを含み、さらにそれを発現することができる組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3であって、該目的のDNAが該組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3のゲノムの適切な部位に安定に組み込まれ、該部位がPAV3のE3領域及び遺伝地図単位97から99.5から成る群から選ばれる部位の非必須域である、上記組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
商業用ブタは病気によりその多くが死亡しているが、本発明は、この商業用ブタに免疫反応を発生させるために使用する抗原製造遺伝子(異種遺伝子配列又はそのフラグメント)の送入ベクターに関するものである。ブタを病気から保護するために大規模且つ容易に投与し得るワクチンの調製用として、このようなベクターは特に有用である。本発明はまた、適切な送入ベクターの製造方法、本ベクターに基づくワクチンの調製方法、当該ワクチンの投与戦略及びこれによりブタを病気から保護する方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
(背景)
ブタの集中生産業における生産性は、感染性疾患の管理状態により左右される。衛生及び検疫の状態を改善すれば病気の管理は一部可能である。しかし、当業界にとって、当該家畜の群れを病気から護るには、ワクチンを接種することも大切である。商業生産においては、家畜1頭当たりにかかる餌のコスト及び病気管理にかかる現在コストは高い。従って、ここに有効且つ送入の容易な新しいワクチンを提案し、これにより病気の予防及び管理を行えるようにしなければならない。
【0003】
従来、ウイルス粒子を構成するワクチンは、一度ウイルスを動物に通し、これを弱めて調製されていた。その他に、伝染性の強いウイルスを殺してワクチンを調製する方法もあった。
【0004】
最近、ブタの病気の抑制に、ウイルス・ベクターを使用した例が報告された。これは、オージェスキー病(Aujesky’s disease)を抑制するために、偽狂犬病ウイルスの欠失突然変異体を使用したものであった。ベクターとしてヘルペスウイルスを使用すると、体液反応及び細胞仲介反応を刺激でき、従って、生涯保護が可能になるという利点がある。もう一つの利点は、このベクターの中に、適切なプロモータから発現される他の異種起源配列を挿入でき、これにより、抗原を製造し、これを動物の免疫系に曝露し、従って二つの病気に対して同時に保護効果が得られる点にある。しかし、この系には欠点も存在する。第一に、潜伏状態が存在する問題である。ヘルペスウイルスには、神経節の中にあるニューロンに、動物の生涯に亘りベクターを組み込む能力がある。適切な応力を動物に作用させ、ウイルスを再活性化させ、病気全体を再活性化させるだけで良い。しかし、現在、特定の遺伝子(糖タンパク質E)を削除すると、ウイルスが希釈され、潜伏状態からの再活性化を防止できることが判明している。従って、この削除ベクターがオージェスキー病に対する根絶ベクターとして今や広く使用されており、従って、他抗原を挿入するための適切なベクターとしてこのオージェスキー病が発生する危険性は無くなったものと考えられる。
【0005】
従って、特に大規模投与に適した遺伝子物質の異種起源配列を挿入する手段を提供することも、本発明の目的である。
【0006】
特に、本発明の目的は、抗体又は細胞が仲介する免疫を発生させ又はこれを最適化する手段或いはその両者を提供又は高揚し、ブタが通常の病気に感染しないように、これから保護する手段を提供することにある。さらに、本発明の目的は、抗体又は細胞が仲介する免疫力を発生させ又は最適化し、或いはこれら両者を発現し、それによりブタを通常の病気に感染しないように保護する適切なプロセスを提供することにある。さらに、ブタの保護戦略を提供することも、本発明のさらなる目的の一つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(発明の要約)
本発明は、一つの態様として、望ましいDNAが当該組換えブタアデノウイルス・ゲノムの適切なサイトに安定に組み込まれ、望ましいDNAを発現し得る組換えブタ・アデノウイルスを提供するものである。
【0008】
もう一つの態様として、本発明は、少なくとも一つの異種起源ヌクレオチド配列を安定に組み込む組換えブタ・アデノウイルスなどの組換えベクターを提供するものである。この異種起源ヌクレオチド配列は、抗原ポリペプチドとして発現可能であることが好ましい。少なくとも一つのヌクレオチド配列によりコード化された抗原ポリペプチドは、宿主ベクターと異なるものであることが好ましい。
【0009】
この異種起源ヌクレオチド配列が、免疫力強化分子として発現可能なものが、本発明におけるさらに他の態様である。
【0010】
この異種起源ヌクレオチド配列が、抗原ポリペプチド及び免疫力強化分子をコード化し又はこれを発現できることも理解される。
【0011】
この組換えベクトルは、ビリオン構造タンパク質が、組換えブタ・アデノウイルスを製造する天然のブタ・アデノウイルスから変化していない、生きた組換えブタ・アデノウイルスで構成することができる。
【0012】
ブタ・アデノウイルス・ゲノム中に、他のアデノウイルス上ですでにその特徴が明らかにされているアデノウイルス・ゲノムに対応しない非必須域が存在することは既に発見されている。従って、本発明の一部である当該ウイルスが異種起源配列の挿入に特に適しているという事実は、この発見に基づき予見し得るものである。
【0013】
ブタ・アデノウイルスがブタに持続性反応を引き起こし、従って、ワクチンの担体として非常に適していることも既に発見されている。本発明は、この発見からも予見することができる。さらに、呼吸管又は胃腸管に特有のセロタイプが数多く存在することにより、目標器官及び必要な免疫反応の種類に適したワクチン担体の選択が可能である。
【0014】
ブタ・アデノウイルスが、哺乳類のアデノウイルスに対する105%ルールより大きいゲノムのDNAを、中間サイズのゲノムと一括することができ、その結果一括されたビリオンが、生体外及び生体内において安定であることも発見されている。本発明は、この事実からも予見することができる。
【0015】
アデノウイルスは、ヒトその他の哺乳類並びに種々の鳥類を含む多くの生物種から単離された、多様な大型ウイルスの一族である。その結果、アデノウイルスは少なくとも二つの属(Mastoadenoviridae及びAviadenoviridae)に分類されている。さらに最近になって、ウシ及びトリのアデノウイルスを含む第三の属(Atadenovirdae)が提案されている(卵落下症候群 egg drop syndrome)(Benko及びHarrach, Archives of Virology 143, 829-837, 1998 )。
【0016】
ブタ・アデノウイルスは、主要なブタの感染病原体である。今日まで、四つの明確なセロタイプが認識されている(Adair及びMcFerran, 1976)。少なくとももう一つ(Derbyshireら, 1975)のセロタイプが存在する証拠もある。発見された四つのセロタイプの中、三つ(セロタイプ1−3)は胃腸管から単離され、四番目のセロタイプは呼吸系から採取されている。ブタ・アデノウイルスは発病性の低い、広く分布する病原体であると考えられており、一般に病気の動物から単離されてはいるが、アデノウイルスは二次的な感染源としてのに存在していた可能性は高い。アデノウイルスは下痢及び呼吸管に感染症を持つブタから単離されたが、少なくともアデノウイルスによる胃腸の感染は、通常無症候性であると考えられている(Stanford及びHoover, 1983)。ブタ・アデノウイルスは、経口摂取又は吸入により広がり、口、鼻孔及び気管を通して実験的に接種して感染させた場合、当該ウイルスは生体内に取り込まれることが分かった。実験的に病原性試験を行った結果、感染の一次サイトは小腸下部、及び恐らく扁桃腺であることが分かった(Sharpe及びJessett, 1967; Shadduckら, 1968)。実験的にセロタイプ4に感染させた場合、ウイルス血症が現れ、これが発達する。しかし、胃腸のセロタイプにおいて、これはあまり一般的な現象ではない(Shadduckら, 1968)。感染後5−6週間存在する糞便の排泄が、PAV拡散の最も一般的な原因となっている。実験条件下では、鼻が垂れる場合もある。肺炎におけるPAVの役割は、PAVの共存により肺炎にかかり易くなり、或いは肺炎の影響に対してシナジー効果を有することであることが示唆されているKaszaら, 1969; Schieferら, 1974)。しかし、セロタイプ4により実験的に起こさせた肺炎では、第二の病原体が無くても発症した(Smithら, 1973)。
【0017】
ブタ・アデノウイルスは、まだ充分に詳しく検討された訳ではなく、病気におけるその役割又はこのウイルスがどれ位広い範囲で存在するかについては、良く知られていない。それは、このウイルスが、群れの中に重大な病気を引き起こすことが無く、これにより生産が被害を被り、そのために産業界の注意を引くことが無かったからである。ブタ・アデノウイルスにおけるセロタイプの数は、4よりより遙かに大きく、大抵のブタの群れの中に共生している可能性が高い。
【0018】
ブタ・アデノウイルスの形態及び分子生物学に関して行われた研究の結果、試験を行った他のマストアデノウイルスとの類似性が明らかとなった。その形態は、試験を行った二重らせん構造を有するDNAゲノム核を含む他の二十面体キャプシドを有するアデノウイルスと同じであった。PAVゲノムのキャラクタリゼーションに関する研究報告は非常に少ない(Benkoら, 1990; Kleiboekerら, 1993; Reddyら, 1993; Kleiboeker, 1994)。PAVゲノムのサイズ(約34.8 kb)はヒト・アデノウイルス(約35.9 kb)よりやや小さい。ヒト・アデノウイルス・タイプ2の全ゲノムから採取したDNAプローブとハイブリッド化させて行った研究結果は、ブタとヒトのアデノウイルスの間には、合理的なDNAの相同性が存在することを示している(Benkoら, 1990)。セロタイプ4PAVに関する最近の報告は、配列の相同性は予想された程強くはないが、その遺伝子配列も、L4及びE3の領域(33K及びpVIII遺伝子を含む)においてヒト・アデノウイルスに類似していることを示している(Kleiboeker, 1994)。
【0019】
ブタにワクチンを送入するために、生きたベクターとして発現させる目的で適切なPAVを選択する一方で、セロタイプの天然罹病率を考慮することも大切である。ブタが頻繁に曝露されて免疫力を発現している可能性があるセロタイプに比して、自然界ではあまり遭遇しないこれらのセロタイプには、明らかに利点がある。
【0020】
さらに、初乳に含まれる母系抗体が誕生直後のブタを保護する期間を越えて、ブタの体内で当該ベクターが活性を維持する能力を有するかどうかについても検討する必要がある。
【0021】
潜在的PAVベクターの選択において、病原性及び免疫性も検討すべき重要な要因である。生きたベクター・ウイルスは高度な感染性を有しても、目標種に対して悪影響を及ぼさないためには、病原性は有しない(或いは、少なくとも病原性が弱められている)ことが望ましい。
【0022】
ワクチン・ベクターの候補物質としては、非病原性のセロタイプ4(呼吸管)及びセロタイプ3(胃腸管)の分離物質が好ましい。結局、ブタの腎臓細胞系においてセロタイプ3が優れた成長能力を有したために、これを選択した。他のセロタイプを分離していれば、それを選択していた可能性もある。もっと有毒な菌株を使用すれば、より大きな抗体反応が得られることにも注目すべきである。
【0023】
ウイルス・ゲノムの非必須域に組み込むことができ、且つ抗体又は細胞が仲介する免疫発生の対象となる感染性微生物の抗原決定基をコード化することのできる異種起源ヌクレオチド配列としては、胃腸ウイルスによる腸管感染の抗原決定基を発現できるもの(例えばロタウイルス又はパルボウイルス)、或いは呼吸管ウイルス(例えばパラインフルエンザ・ウイルス)、或いは日本脳炎ウイルスを選択することもできる。
【0024】
組み込み可能な異種起源ヌクレオチド配列には、下記病原体の抗原決定基が含まれる。
ブタ・パルボウイルス
マイコプラズマ・ヒヨ肺炎ウイルス(hyopneumonia)
ブタ・パラインフルエンザ・ウイルス
伝染性胃腸炎ウイルス(ブタ・コロナウイルス)
ブタ・ロタウイルス
ブタ・コレラ・ウイルス(古典的ブタ熱病ウイルス)
ブタ赤痢ウイルス
アフリカ・ブタ熱病ウイルス
偽狂犬病ウイルス(オージェスキー病ウイルス)、特に偽狂犬病ウイルスの糖タンパク質D
ブタの呼吸管及び生殖症候群ウイルス(PRRSV)
【0025】
本発明のベクター組み込みに好ましい異種起源ヌクレオチド配列は、ブタ・パルボウイルス、ブタ・ロタウイルス、ブタ・コロナウイルス及び古典的ブタ熱病ウイルスの抗原決定基を発現できる配列である。
【0026】
組み込まれる異種起源配列として、シトキン又は成長プロモーターのような免疫力強化分子(例えばブタ・インターロイキン4[IL-4]、ガンマ・インターフェロン[γ-IFN]、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、FLT-3リガンド及びインターロイキン3(IL-3)を使用することも考えられる。
【0027】
候補ベクターで刺激される免疫反応のタイプにより、その中へ挿入される異種起源ヌクレオチド配列の選択結果が影響を受ける可能性がある。消化管を通して自然に感染するPAVセロタイプ1、2及び3(例えば古典的なブタ熱病ウイルス)は、局部的に粘膜免疫を誘発する可能性があり、従って腸管の感染に適している。呼吸系を経由して自然に感染するPAVセロタイプ4(例えばブタ・パラインフルエンザ・ウイルス)は呼吸管の感染に適している可能性があり、これらのウイルスも良好な局部免疫を誘発する可能性がある。
【0028】
抗原決定基又は免疫力強化分子をコード化する異種起源遺伝子を構成する望ましいDNAは、ウイルス・ゲノムの少なくとも一つの非必須域に位置している可能性がある。
【0029】
異種起源ヌクレオチド配列による置換又は挿入の目的に適したウイルス・ゲノムの非必須域は、遺伝地図単位97−99.5にある当該ゲノムの右端が非コード化域である可能性が強い。好ましい非コード化域として、地図単位81−84におけるPAVゲノムの初期域(E3)が含まれる。
【0030】
当該異種起源遺伝子配列は、当該ヌクレオチド配列が原位置にできるだけ効率良く発現されるように、プロモーター及びリーダー配列と会合している可能性が高い。当該異種起源遺伝子配列は、ブタ・アデノウイルスの主要遅延プロモーター及びスプライス・リーダー配列と会合していることが好ましい。哺乳類アデノウイルスの主要遅延プロモーターは、アデノウイルス遺伝地図における単位16−17の近くに存在し、古典的なTATA配列モチーフを含んでいる(Johnson, D.C., Ghosh-Chondhury, G., Smiley, J.R., Fallis, L 及びGraham, F.L. [1988], アデノウイルス・ベクターを使用する、ヘルペス単式ウイルス糖タンパク質gBの豊富な発現; Virology 164, 1-14)。
【0031】
本発明で検討するブタ・アデノウイルス・セロタイプのスプライス・リーダー配列は、全遅延遺伝子mRNAの5'端に分割された3分割配列である。
【0032】
当該異種起源遺伝子配列も、ポリアデニル化配列と会合している可能性が強い。
【0033】
ブタ・アデノウイルス主要遅延プロモーターの代わりに、その他適切な真核生物のプロモーターなら何でも使用することができる。例えば、SV40ウイルス、シトメガロウイルス(CMV)又はヒト・アデノウイルスのプロモーターを使用することが可能である。
【0034】
ブタ・アデノウイルス以外による処理信号及びポリ・アデニル化信号(例えばSV40の信号)も使用できる可能性が高い。
【0035】
上記以外の側面において、本発明は、抗体又は細胞が仲介して免疫力を発生又は最適化させ、ブタの体内にいる感染性微生物による感染に対する防御手段を提供又は高揚させる組換えワクチン、適切な担体及び賦形剤で処方された少なくとも一つの異種起源ヌクレオチド配列を安定に組み込むことのできる少なくとも一つの組換えブタ・アデノウイルス・ベクターを含むワクチンも提供するものである。当該ヌクレオチド配列は、抗原ポリペプチド又は免疫力強化分子として発現できることが好ましい。当該異種ヌクレオチド配列は、抗原ポリペプチド及び免疫力強化分子をコード化又は発現し、或いはその両者が可能であることが、さらに好ましい。
【0036】
少なくとも一つのヌクレオチド配列でコード化された抗原ポリペプチドは、宿主ベクターとは異なる抗原ポリペプチドであることが好ましい。少なくとも一つのヌクレオチド配列は、プロモーター又はリーダー並びにポリA配列に関連している可能性がある。
【0037】
組換えワクチンは、ビリオン構造タンパク質が、組換えブタ・アデノウイルスを製造する天然ブタ・アデノウイルスから変化していない、生きた組換えブタ・アデノウイルス・ベクターを含むことができる。
【0038】
組換えワクチンの中で使用するのに適したベクター候補物質は、セロタイプ3及び4のPAV単離物である。その群に存在する免疫性及びその環境によっては、その他のセロタイプを使用することもできる。
【0039】
当該ワクチンは、種々の病原体により、呼吸管及び腸管に感染させることができる。当該ワクチンを特定の感染性微生物に対して使用するために、これら感染性微生物の抗原決定基をコード化する異種起源遺伝子配列を、当該ベクターで構成されるブタ・アデノウイルス・ゲノムの非必須域に組み込むことができる。病気に対する保護条件を最適化する目的で当該ワクチンを使用する場合、適切な異種起源ヌクレオチド配列として、シトキン又は成長プロモーターなどの免疫力強化剤の配列を使用することができる。
【0040】
当該ワクチンは、安定剤、賦形剤、その他医薬品として使用し得る化合物又はその他抗原又はその一部など、その他成分で構成することもできる。当該ワクチンは、ワクチン製造業界で一般的に使用されている凍結乾燥製剤又は懸濁物の形を取ることもできる。
【0041】
ワクチンなどの担体として、等浸透圧緩衝食塩水の使用が適当である。
【0042】
さらにその他の側面として、本発明は、ブタの体内に生息する感染性微生物に対する保護力を誘発し又は高揚するために、少なくとも一つの異種起源ヌクレオチド配列を安定に組み入れる組換えブタ・アデノウイルス・ベクターを組み立て、当該組換えブタ・アデノウイルス・ベクターを投与に適した形に成形するなどして、抗体又は細胞が仲介する免疫力を発生させ又はこれを最適化し、或いはその両者を実現するワクチンの調製方法を提供するものである。当該ヌクレオチド配列は、仮にそれが免疫力強化分子であっても、抗原ポリペプチドとして発現できることが好ましい。当該ヌクレオチド配列は、抗原ポリペプチド及び免疫力強化分子をコード化し、又はこれを発現できることが一層好ましい。当該ヌクレオチド配列は、宿主ベクターとは異なる配列であると便利である。
【0043】
当該ヌクレオチド配列が、5プロモーター又はリーダー並びにポリA配列と関連していることが、さらに好ましい。
【0044】
当該ワクチンは、溶腸性の被覆投薬単位、腹膜内、筋肉内又は皮下投与用接種源、経口又は鼻孔内噴霧用のアエロゾル・スプレーの形で投与することができる。飲料水に添加し、又は錠剤の形で投与することもできる。
【0045】
その他側面として、本発明は、ブタ・アデノウイルスの中へ少なくとも一つの異種起源ヌクレオチド配列を挿入するなど、ブタ・アデノウイルス・ワクチン・ベクターの製造方法を提供するものである。当該異種起源ヌクレオチド配列は免疫力強化分子でもあるが、仮にそうであっても、抗原ポリペプチドとして発現できることが好ましい。当該ヌクレオチド配列は、抗原ポリペプチド及び免疫力強化分子をコード化し、又はこれを発現できることが、さらに好ましい。
【0046】
少なくとも一つのヌクレオチド配列によりコード化された当該抗原ポリペプチドは、宿主ベクターとは異なるものであることが好ましい。
【0047】
当該異種起源ヌクレオチド配列は、プロモーター又はリーダー並びにポリA配列に関連していることが、さらに好ましい。
【0048】
適切なベクター組立方法の一つにおいて、異種DNAを組み込むために変更される非必須域は、相同組換えによりこれを組み立てることができる。この方法により、当該非必須域をクローン化し、異種DNA及びプロモーター、リーダー及びポリ・アデニル化配列を、互いに側面を接する配列間の相同組換えにより挿入することが好ましい。この方法によって非必須域部分を削除することにより、ウイルスの通常の充填制限を越えるような大型DNAを挿入するために、特にその空間を創り出すことが可能となる。
【0049】
この方法により、異種遺伝子配列並びにリーダー配列及びポリ・アデニル化認識配列を有する適切なPAVプロモーターを含むDNA発現カセットを、カセットの側面に位置する唯一の制限酵素サイトで組み立て、これによりPAVゲノムの中に容易に挿入することができる。
【0050】
他の側面として、本発明は、本発明によるワクチンの投与戦略を提供する。
【0051】
戦略の一つにおいて、異種起源の抗原及びシトキンなどの免疫調節分子を、同じ組換え配列の中で発現し、単一ワクチンとしてこれを体内に送入することができる。
【0052】
本発明による戦略の一つにおいて、PAVベクターに基づくワクチンを、異種の遺伝子又は免疫力強化物質を担持する2種又はそれ以上のウイルス・ベクターで構成される「カクテル」として投与することができる。
【0053】
本発明の優先接種戦略(「カクテル投与戦略」又は「同時投与戦略」)においては、PAVのセロタイプ3及びセロタイプ4の両方に基づくワクチンを使用する。
【0054】
もう一つの優先戦略においては、基礎組換えセロタイプ3のブタ・アデノウイルスを組み立て、次にこのセロタイプ3の線維遺伝子又は本発明の目標を消化管及び呼吸管への送入に広げる目的でワクチンにさらに追加してクローン化したセロタイプ4の線維を、セロタイプ4の線維遺伝子で置換する。
【0055】
これに代わる本発明による戦略として、初期PAV接種後のある段階で、PAVベクターに基づくワクチンを相互に連続して、ブースター・ワクチン又は新しいワクチンに投与する。使用するワクチンは、異種起源PAVの単離物に基づくことが好ましい。
【0056】
優先的「連続投与戦略」においては、感染に対して最大の保護効果を達成する目的で、セロタイプ的に無関係の単離物に基づくワクチンを選択する。このような戦略の一例として、PAVセロタイプ4に基づくワクチンの接種を行う前又は後に、PAVセロタイプ3に基づくワクチンを使用する。
【0057】
本発明に基づくベクター・ワクチンは、如何なる年齢のブタにも、これを接種することができる。生後1日の子ブタにも接種でき、親ブタには、出産前後を問わず定期的に接種することができる。
【0058】
ブタに完全に免疫性が着かない間に、「連続投与戦略」又は「カクテル投与戦略」のいずれかにより、ブタに接種を行うことが好ましい。生後数日の子ブタに接種することにより、最初に接種を行ってから4週間後に起こる再感染を防止することができる。
【0059】
さらに他の態様において、本発明は、本発明による遺伝子組換えワクチンをブタに投与することなどにより、ブタの体内に免疫反応をつくり出す方法を提供するものである。有効量とは、免疫反応を引き出すのに充分な量のことであり、1回の投与量は、少なくとも104TCID50であることが好ましい。
【0060】
本発明のワクチンは、その投与時に、他のウイルス又はパルボウイルス又はオージェスキ病ウイルスなどの微生物に対するワクチンと組み合わせて使用できることは勿論である。
【0061】
本発明の本態様における優先的側面において、投与は経口で又は鼻孔内へ行うことが好ましい。
【0062】
本発明による遺伝子組換えベクター及びワクチンの組立方法及び試験方法としては、当技術に精通した人達に良く知られている方法を使用することができる。標準的な手順として、メーカー又は供給業者の説明に従い、エンドヌクレアーゼ消化法、結紮法及び電気泳動法を使用した。標準的手法については、当技術に精通した人達は良く理解しているものと思われるので、ここで詳細な説明は行わない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】PAVセロタイプ3ゲノム全体のDNA抑制エンドヌクレアーゼに関する遺伝地図を、図1に示した。
【図2】配列のキャラクタリゼーション並びにPAVセロタイプ3の主要後期プロモーター及びスプライス・リーダーの配列を、図2に示した。
【図3】主要後期プロモーター、上流エンハンサー及びスプライス・リーダー1、2及び3の配列を、図3に示した。
【図4】ゲノム右端の末端720塩基を、図4に示した。
【図5】E3及び重複L4領域のプロモーター域を、図5に示した。
【図6】PAVベクター組立ての優先的方法を、図6に示した。
【図7】CSFV抗原で処理したPAVベースのワクチンをブタに接種し、当該ブタの体温を測定し、これを図7に示した。
【図8】PAVワクチン接種前後における抗PVA抗体濃度をELISAを使用してブタ体内で検出し、これを図8にグラフで示した。
【図9】CSFV抗原処理の前後において、PAVワクチン接種ブタの体内に発生した中和抗体の発現状況を、図9にグラフで示した。
【図10】ブタG-CSFを発現している遺伝子組換えPVAワクチンを接種したブタの白血球(WBC)平均計数値を、図10にグラフで示した。
【図11】ブタG-CSFを発現した組換えPAVワクチンを接種し、その後の白血球(WBC)計数値の割合変化を測定し、これを図11にグラフで示した。
【図12】組換えPAV-G-CSFワクチンを接種し、その後の単球細胞集団の割合変化を測定し、これを図12にグラフで示した。
【図13】組換えPAV-G-CSFワクチンを接種し、その後のリンパ球細胞集団の割合変化を測定し、これを図13にグラフで示した。
【図14】組換えPAV-G-CSFワクチンを接種し、その後のT細胞刺激の変化を測定し、これを図14にグラフで示した。
【図15】図15a,b及びcはPAV E3 ベクターの構築法をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
(好ましい態様)
次に、本発明のPAV単離物セロタイプ3及びセロタイプ4ベースに関する優先的態様の側面について説明する。これら2種類の単離物は、ブタの体内におけるその感染サイトに適したものを選択した。しかし、これらの他にも、ワクチン・ベクターを組み立てるに当たり、前に本明細書中で述べた選択基準さえ満たすなら、ブタ・アデノウイルス単離物としてもっと適したものが有り得ることは容易に理解されるであろう。
【0065】
一般に、PAVの病原性は低いものと考えられ、自然界においてもその症例は殆ど発見されていない。PAVの病原性上の重要性については、Derbyshire(1989)に纏められている。PAVの単離に関する最初の報告は、下痢症状を示している生後12日目のブタから単離したことに関するものであった(Haigら, 1964)。その2年後、始めてPAVタイプ4について報告されたが、このタイプは、原因不明で脳炎に罹ったブタの脳から単離されたものであった(Kasza, 1966)。その後の報告は、PAVを主に天然の下痢症状と関連付けるものであったが、その学術的価値は一般に低い。PAVは、罹病兆候の無い健康な動物からも単離されることが多く、仮に罹病動物から単離されても、それは当該ウイルスの病原性を示すものではなく、このウイルスがそれだけ広く分布していることを示しているに過ぎないものと考えられる。しかし、セロタイプ4と呼吸器病との関連性を指摘する報告もある(Watt, 1978)。この報告は、感染実験の結果からも支持されている(Edingtonら, 1972)。このウイルスの胃腸セロタイプ(例えばセロタイプ3)による感染実験において、ブタに下痢症状を発生させることはできたが、その病理学的な変化は臨床的に明確ではない。
【0066】
PAVセロタイプ3のゲノムを選び、従来法によりそのキャラクタリゼーションを実施した。全ゲノムに関するDNA抑制エンドヌクレアーゼの遺伝地図を、図1に示す。当該ゲノムは左から右に向いている。習慣により、アデノウイルス・ゲノムは、通常通り、後期mRNAの転写遺伝情報が合成されない末端領域が左端に位置するように向けられている。遺伝地図の作成に使用された酵素名は、各地図の端に示した。
【0067】
(PANセロタイプ3の主要後期プロモーター(MLP)配列及びスプライス・リーダー配列のキャラクタリゼーション)
(PAV MLPの同定及びクローン化)
制限酵素及びPAVセロタイプ3ゲノムの遺伝地図を使用して、MLP及びリーダー配列を含む領域の位置を示した(図1)。この領域で確認されたフラグメントをプラスミド・ベクターの中へクローン化し、その配列を決定した。
【0068】
MLPプロモーター配列は、古典的なTATA配列を含むことが確認された。この配列は、配列決定を行った領域及び上流因子の中では唯一のTATA配列であり、後にリーダー配列及び転写開始サイトの位置により確認を行った。
【0069】
PAVセロタイプ3の主要後期プロモーター及びスプライス・リーダー配列のキャラクタリゼーションを行った結果を、図2及び図3に示した。
【0070】
後期mRNAに接合されたリーダー配列の構造及び配列を決定する目的で、ブタの腎臓細胞をPAVに感染させ、感染サイクルの後期(通常、20−24 hr p.i.)に至るまで感染を進行させた。ここで、RNAgents Total RNA Purification Kit(Promega社)を使用して、全RNAを感染細胞から取り出して精製した。単離したRNAをイソプロパノールで沈殿させ、その200 μl を、使用するまで-70 ℃で保存した。Poly AT Tract System(米国Promega社)を使用して、ポリA(mRNA)を全RNAから単離した。単離したmRNAをcDNAの製造に使用した。
【0071】
cDNAの製造を目的として、ヘキソン遺伝子及びペントン基礎遺伝子の相補鎖上に、オリゴヌクレオチドを作りだした。これらはいずれもMLP転写により実施した。さらに、主要後期転写のキャップ・サイト提案位置(TATAボックスの下流に存在する24個の塩基)を覆うオリゴヌクレオチドを作りだした。このオリゴヌクレオチドを、Taqポリメラーゼ連鎖反応でcDNAの製造に使用したオリゴヌクレオチドと共に使用した。ここで陽性クローンから製造したDNAを適切な制限酵素で消化し、挿入フラグメントのサイズを決定した。修正連鎖終結法(Sanger,F., Nicklen,S.及びGulson,A.R., 1977; 連鎖終結用禁止剤によるDNA配列の決定; PNAS USA 74, 5463-5467)を使用して、挿入フラグメントのDNA配列を決定し、Taq DNA Polymerase Extension装置(米国Promega社)にかけた。
【0072】
リーダー配列のキャップ・サイトを確認するために、新しいcDNAを調製し、今回は、dGTP残基の尾をそれに付加した。簡単に述べれば、cDNAを、1 mMのdGTP及び末端デオキシヌクレオチジル・トランスファーゼ(Promega社)の約15単位と共に、37 ℃の2 mM CaCl2緩衝液中で60分間インキュベートした。70 ℃で10分間加熱し、反応を停止させた。次に、このDNAをエタノールで沈殿させ、ポリメラーゼの連鎖反応(PCR)に適した容積中に再懸濁させた。前に述べた方法により、5'末端にXbaIサイトを有するポリ(dC) オリゴヌクレオチドを使用して、PCRを実施した。得られたフラグメントをT4 DNAポリメラーゼと共に、37 ℃で30分間、過剰のヌクレオチド存在下にブラント・エンド化し、pUC18 ベクターのSmaIサイトにクローン化した。DNAの調製及び配列決定は、ハイブリッド化により陽性を示したクローンについて、前に述べた方法で実施した。
【0073】
cDNA研究で決定した主要後期ポロモーターの配列、上流エンハンサーの配列並びにスプライス・リーダー1、2及び3の配列を、それぞれ別々に図3に示す。完全プロモーター・カセットのDNA配列を、その成分を一緒にして図2に示す。
【0074】
(ウイルス・ゲノムの非必須域に関するキャラクタリゼーション)
約1.8 KbpのPAVセロタイプ3 ApaIフラグメントJをクローン化し、その全配列を決定することにより、当該ゲノムの右端構造を同定した。RHE配列を左端構造の配列と比較することにより、その逆転末端反復単位(ITR)の構造を決定した。ITRは塩基144個分の長さがあり、これが挿入開始点を表している。720個の末端塩基配列を図4に示す。異種DNAを挿入する制限エンドヌクレアーゼ・サイトを、末端配列の中に示した。E4プロモーターの推定TATAサイトを同定したが、このサイトは挿入可能サイトの左端部にあった。初期挿入は、SmaI又はEcoRIサイトの中へ行う予定である。
【0075】
ゲノムのE3領域も非必須域であるが、この領域を突き止め、ここをクローン化した。E3のプロモーター領域を突き止め、重複L4領域の配列を決定した(図5)。L4のポリアデニル化信号後のE3領域も挿入可能サイトであり、より大型のカセットを挿入するために、これを削除してそのための空間として使用することができる。
【0076】
(PAVベクターの組立て)
PAVベクターの優先的な組立方法を、図6に示す。右端部にあるPAVセロタイプ3のApaIフラグメントJをクローン化し、逆転反復単位から230 bpの位置にある唯一のSmaI制限エンドヌクレアーゼ・サイトを、挿入サイトとして使用した。
【0077】
古典的ブタ熱病ウイルス(ブタコレラ・ウイルス)のE2(gp55)遺伝子を含む主要後期プロモーターの発現カセットを、RHEフラグメントのSmaIサイトの中へクローン化した。
【0078】
相同遺伝子組換えの優先的方法は、ゲノム中で唯一のサイトである、HpaIを有するゲノムPAV 3 DNAを切除し、gp55を含むApaI切除発現カセット・プラスミドで、このDNAをトランスフェクトする方法であった。
【0079】
このDNAミックスを、標準塩化カルシウム沈殿法により、好ましくは一次ブタの腎臓細胞の中へトランスフェクトした。
【0080】
優先的トランスフェクション法により、ゲノムPAV 3及びプラスミドの間で相同組換えを行い、遺伝子組換えウイルスを発生させる(図6)。
【0081】
(発明の詳細な説明)
(PAVベクターの構造)
下記の例は、本発明における代表的な組換えブタアデノウイルスの構造を示している。この組換えウイルスは、一次ブタ腎臓細胞上で増殖し、タイターされたものである。
【0082】
(1 PAV-gp55の構造)
ブタ・アデノウイルスの主要後期プロモーターで構成される発現カセット、古典的ブタ熱病ウイルス(CSFV)遺伝子(gp55)及びSV40ポリAを、ブタ・アデノウイルス・セロタイプ3右端部(MU 97-99.5)のSmaIサイト中へ挿入し、ブタの一次腎臓細胞の中に組換えPAV3を発生させる目的でこれを使用した。発現カセットのサイズは2.38キロ塩基対であった。ゲノムPAV3の削除は行わなかった。中位の大きさのゲノム(〜36 kb)を有する哺乳類のアデノウイルスは、野性型ゲノム長の105%まで適応できることが示され、このサイズより大きなゲノムは収納不能であるか、又は極端に不安定であり、しばしばDNAの再配置が行われる(Betts, Prevec及びGraham, Journal of Virology 67, 5911-5921 [1993], ヒト・アデノウイルス・タイプ5ベクターの収容能力及び安定性; Parks及びGraham, Journal of Virology 71, 3293-3298 [1997], 効率的なDNAの収納を可能にするアデノウイルス・ベクター製造用ヘルパー依存系による収納下限値の定義)。本発明においては、PAVゲノムの長さは34.8 kbであり、その他削除を一切行わずに、この中へ2.38 kbの発現カセットを挿入した。得られた本発明による組換えブタ・アデノウイルスのゲノムDNAの長さは106.8%であり、従って、安定な組換えウイルス構造の推定上限値を越えていた。この遺伝子組換えウイルスは、精製を3回行ったプラークであった。このウイルスを一次ブタ腎臓細胞の中を安定に通した。この遺伝子組換えウイルスは、サザンブロット・ハイブリッド化法により、gp55を含むことが示された。カバー・グラス上で成長させた一次PK細胞系を遺伝子組換えブタ・アデノウイルスに感染させることにより、gp55のの発現が証明された。24時間後、免疫蛍光染色法(IF)により、感染した細胞がgp55を発現していることが判明した。
【0083】
(2 組換えPAV-G-CSFの構造)
ブタ・アデノウイルスの主要後期プロモーターで構成される発現カセット、ブタ顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)コード化遺伝子及びSV40ポリAを、ブタ・アデノウイルス・セロタイプ3右端部のSmaIサイト(MU 97-99.5)に挿入し、ブタ一次腎臓細胞中に組換えPAV3を発生させる目的でこれを使用した。この発現カセットのサイズは1.28キロ塩基対であった。ゲノムPAV3の削除は一切行わなかった。この組換えウイルスは、精製を2回行ったプラークであり、安定に一次ブタ腎臓細胞の中を通したものであった。この組換えウイルスは、サザンブロット・ハイブリッド化法及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、G-CSFを含むことが示された。一次腎臓細胞を組換えPAV-G-CSFに感染させることにより、G-CSFの発現が示された。感染一次腎臓細胞から採取した組織カルチャーの上澄液を、次に、SDS-PAGEゲルの中で電気泳動させ、フィルターへ移した。G-CSFを発現した感染細胞を、精製組換えE coliにより発現させた、ブタG-CSFに対するウサギの多クローン性抗血清を使用して、ウェスタン・ブロット中で検出した。
【0084】
(3 組換えPAV-gp55T/GM-CSFの構造)
ブタ・アデノウイルス主要後期プロモーターで構成される発現カセット、ブタの顆粒球又はマクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)の全長又は成熟形コード化遺伝子にフレーム融合した古典的ブタ熱病ウイルス遺伝子gp55の先端部を切り取った形状のもの、及びSV40ポリAを、ブタ・アデノウイルス・セロタイプ3右端部のSmaIサイト(MU 97-99.5)に挿入し、これを使用してブタ一次腎臓細胞の中で組換えPAV3を発生させた。発現カセットのサイズは2.1 キロ塩基対であった。ゲノムPAV3の削除は一切行わなかった。この組換えウイルスは、2回精製プラークであり、PCRによりgp55及びGM-CSFを含むことが示された。
【0085】
(4 組換えPAV-gp55/E3の構造)
PAVセロタイプ3ゲノムの右端のApaIフラグメントJを含有する挿入ベクターpjj408(約1.8kbp)は拡張され、PAV3右端の7.2kbpからなる完全Bg/II Bフラグメントを含有する(図15a及びb)。このフラグメントは、上記した右端挿入部位及びE3領域の両方を含有する。右端挿入部位は、マルチプルクローニング部位及びSV40ポリA配列が続くPAV3 MLP/TPL配列を含有するように操作された。
E3挿入部位は、622bp SnaBI/BsrGIフラグメントをPAVセロタイプ3のE3領域内で切り取る。MLP/TPL-gp55-ポリA発現カセットは、SnaBI/BsrGI部位に挿入された(図15b及びc)。このプラスミドはトランスフェクションで使用され、部分欠失E3領域に挿入されたMLP/TPL-gp55-ポリAカセットを含有する組換えPAV3を生産した(図15c)。
野生型PAV3 DNAはSnaBI制限酵素で消化し、28.712kbp及び5.382kbpの2つのフラグメントを生じた。PAV3ゲノムの右端及び左端の重複領域を含有する大きい左側のフラグメントはゲル精製した。このフラグメントは3cmペトリ皿中でプライマリーPK細胞にKpnI制限E3/rhe挿入ベクターDNAと共にトランスフェクトされ、相補組換えをPAV3及び挿入ベクターDNAの間で起こさせた。この方法を用いて、組換えウイルスのみ回収した。
細胞は37℃で5日間メインテインし、その後凍結融解を2回行った。ライゼートを新たなプライマリーPK細胞に通過させ、プラークの発育のために観察した。組換えウイルスはプラーク精製され、PCRによってgp55を含有することが示された。
【0086】
(5 ワクチンの接種戦略)
(1.PAV-gp55の接種)
本実験においては、生後5−6週間の子ブタを使用して免疫ブタをつくった。子ブタ(#2、6及び7)のグループに、1匹当たり1 x 107 pfuの組換えPAV-gp55を皮下接種した。比較対照グループ(#3、8、11、12、13及び14)には、接種を行わなかった。ワクチンを接種した子ブタのグループに、臨床的な症状(体温の上昇)は観察されなかった(表1)。
【0087】
【表1】

【0088】
組換えPAV-gp55を接種した5週間後、両グループのブタに致死量(1 x 103.5TCID50)の有毒ブタコレラ・ウイルス(古典的ブタ熱病ウイルス)を皮下投与した。ブタの体温を監視し、その数値を表2に、グラフを図7に示した。
【0089】
【表2】

【0090】
この結果から、比較対照グループの体温は、5日目まで(40.5 ℃を越えて)上昇し、臨床的に発病したことが分かる。ワクチンを接種したグループは、病気の兆候を示していない。比較対照グループのブタは、9日目までに死亡し又は安楽死させた。ワクチンを接種したグループは16日目に安楽死させた。死後、全ての比較対照ブタは、臨床的にひどい症状を示していたが、ワクチンを接種したグループに症状は認められなかった。この結果は、組換えPAV-gp55を皮下接種したブタは、致死量の古典的ブタ熱病ウイルスを投与しても生き残ることを示している。
【0091】
ブタの両グループから血清を採取し、PAVに対する抗体がすでに存在するかどうかを、ELISA法により試験した。これらの試験結果は、接種前にすでにPAVに対する抗体が存在していたことを示している。これら抗体の濃度は、組換えPAV-gp55の接種後28日と36日の間に増加してピークに達した。これらの結果を、図8に示す。
【0092】
CSFVの投与前後に、CSFVに対する中和抗体の存在下に、接種グループから血清を採取して試験を行った。血清試験は、組換えPAV-gp55接種後0日目及び28日目(ウイルス投与前)に実施した。ウイルス投与後16日目(ワクチン接種後52日目)にも、再び試験を実施した。図9の結果は、0日目には中和抗体が検出されず、28日目には低濃度の中和抗体が検出され、52日目には高濃度の中和抗体が検出されたことを示している。これらの結果は、PAV抗体の存在下に致死量の古典的ブタ熱病ウイルスを投与しても、ブタは組換えPAV-gp55の存在により保護されることを示している。
【0093】
(2.PAV-G-CSFワクチンの接種)
この実験では、生後5−6週間の子ブタを使用して免疫ブタをつくった。第一のグループ(n=4)には、子ブタ1匹当たり1 x 107 pfuの組換えPAV-G-CSFワクチンを皮下接種した。第二のグループ(n=4)には、子ブタ1匹当たり1 x 107 pfuの野性型(wt)PAVを皮下接種した。比較対照グループ(n=4)には、何も接種しなかった。ワクチン接種後104時間までの間、8時間間隔でブタから採血した。完全血液計数値を測定し、各グループの平均白血球(WBC)数を求めた。これらの結果をグラフで図10に、平均WBC計数値の割合変化を図11に示した。
【0094】
PAVwt又はPAV-G-CSFを接種したブタは、接種後24−72時間目に、下痢を伴う臨床症状を示した。両グループのブタは、接種後80−96時間目には完全に回復した。比較対照ブタは、臨床症状は何も示さなかった。
【0095】
完全血液スクリーニングの結果は、比較対照ブタの平均WBC計数値が、実験期間中、増大し続けたことを示している。
【0096】
PAV-wtを接種したブタも、WBC計数の増加を示した。接種後48−80の間でやや減少したが、80−96時間後から後では再び回復した。
【0097】
組換えPAV-G-CSFを接種したブタは、全実験期間中を通して、WBC計数が著しく減少した。これらの結果を統計分析し、その結果を表3に示した。この分析結果から、平均WBC計数(比較対照及びPAV-G-CSF、並びにPAV-wt及びPAV-G-CSF)の間の差が著しく、組換えPAV-G-CSFが免疫細胞の割合を変化させたことを示している。
【0098】
【表3】


a:帰無仮説:平均WBC計数の間に差は存在しない。
b:p>0.05:95%信頼水準における帰無仮説を拒絶するには不充分。平均白血球濃度に差は無いと結論する。
c:p<0.05:95%信頼水準で拒絶された帰無仮説。平均白血球濃度の間に差があると結論する。
d:各グループのブタ4匹から、8時間間隔で採血した。
【0099】
各グループに関するWBC計数差も測定して監視した。平均単球細胞集団の割合変化を図12に、平均リンパ球細胞集団の割合変化を図13に、それぞれグラフで示した。図12から、ブタ体内の単球細胞集団がPAV-wtの接種後は速やかに増加するが、組換えPAV-G-CSFの接種により、その増加が抑えられることが分かる。この効果は、当該組換えウイルスによりG-CSFが発現することによるものであった。これらの結果を統計分析にかけ、その結果を表4に示した。この分析結果は、接種後32−96時間において、PAV-wtとPAV-G-CSFの間に著しい差が存在したことを示している。図13は、組換えPAV-G-CSFの接種後に、リンパ球細胞数がシフトしたことを示している。未接種の比較対照は、当該実験の全期間を通して安定なリンパ球細胞数を示し、これに対してPAV-wtを接種したブタは、感染に対する反応として、リンパ球細胞集団が著しい増加を示している。組換えPAV-G-CSFを接種したブタでは、リンパ球細胞集団が減少することを示している。これらの結果を統計分析にかけ、その結果を表5に示した。この分析結果から、接種後8−96時間において、PAV-wtと当該組換えPAV-G-CSFの間に著しい差が存在したことが分かる。組換えPAV-G-CSFとPAV-wtが、これらの接種後にリンパ球細胞集団が異なる反応を示すのは、当該組換えウイルスによるG-CSFの発現によるものであった。これらの結果から、組換えPAV-G-CSFの接種により、免疫に関与する部分母集団にシフトが起こることが分かる。
【0100】
【表4】


a:帰無仮説:平均WBC計数の間に差は存在しない。
b:p>0.05:95%信頼水準における帰無仮説を拒絶するには不充分。平均白血球濃度に差は無いと結論する。
c:p<0.05:95%信頼水準で拒絶された帰無仮説。平均白血球濃度の間に差があると結論する。
d:各グループのブタ4匹から、8時間間隔で採血した。
【0101】
【表5】


a:帰無仮説:平均WBC計数の間に差は存在しない。
b:p>0.05:95%信頼水準における帰無仮説を拒絶するには不充分。平均白血球濃度に差は無いと結論する。
c:p<0.05:95%信頼水準で拒絶された帰無仮説。平均白血球濃度の間に差があると結論する。
d:各グループのブタ4匹から、8時間間隔で採血した。
【0102】
図14に、コンカナバリンA(Con A)刺激後における、各グループのT細胞増殖状況の変化をグラフで示す。これらの結果から、PAV-wtの接種後2日目に、T細胞が著しく増殖することを確認できた。しかし、組換えPAV-G-CSFを接種すると、T細胞の増殖が、3日目までに抑えられることが分かった。
【0103】
ブタG-CSFを発現する組換えPAVを接種した結果から、G-CSFが免疫細胞に対して著しい効果を及ぼすことが分かる。
【0104】
本明細書は本発明の境界線を確立するものである。従って、保護対象とすることを意図してはいても、その範囲内にある全態様、例えば異種起源遺伝子、挿入サイト、プロモーター及びセロタイプの種類に関して、必ずしも特にこれらを例示することはしなかった。このことは、容易に理解されるものと考える。
【0105】
【化1】

【0106】
上流刺激因子(USF)及びTATAモチーフは太字で示した。完全リーダー配列は、それぞれ二重下線及び一重下線で示す個々のリーダー間のキャップ・サイト及びスプライス・サイトを添えて、イタリックで示した。
【0107】
【化2】

【0108】
【化3】


挿入した末端繰返し単位(ITR)は太字で示した。問題酵素のサイトには下線を付し、酵素名をその下に示した。E4領域における推定TATAの位置も示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種起源DNAを含み、さらにそれを発現することができる組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3であって、該目的のDNAが該組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3のゲノムの適切な部位に安定に組み込まれ、該部位がPAV3のE3領域及び遺伝地図単位97から99.5から成る群から選ばれる部位の非必須域である、上記組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3。
【請求項2】
組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3を含む組換えベクターであって、該組換えブタ・アデノウイルス・タイプ3がその中に安定に組み込まれ、また、異種起源DNAを発現しており、該異種起源DNAがPAV3のE3領域及び遺伝地図単位97から99.5から成る群から選ばれる部位の非必須域に組み込まれている、上記組換えベクター。
【請求項3】
請求項2に記載の組換えベクターであって、該組換えブタ・アデノウイルスが該組換えブタ・アデノウイルスが由来している天然ブタ・アデノウイルスのものから変化していないビリオン構造タンパク質を有する生きたブタ・アデノウイルスを含む、上記組換えベクター。
【請求項4】
請求項2に記載の組換えベクターであって、該異種起源DNAが安定な形で遺伝地図単位の97から99.5までにおけるゲノムの右端に組み込まれる、上記組換えベクター。
【請求項5】
請求項2に記載の組換えベクターであって、該異種起源DNAが安定な形で、ゲノムのE3領域に組み込まれる、上記組換えベクター。
【請求項6】
請求項2に記載の組換えベクターであって、該異種起源DNAが安定な形で、遺伝地図単位の81から84までにおけるゲノムのE3領域に組み込まれる、上記組換えベクター。
【請求項7】
請求項2に記載の組換えベクターであって、該異種起源ヌクレオチド配列が抗原ポリペプチドをコード化する、上記組換えベクター。
【請求項8】
該異種起源ヌクレオチド配列が免疫力強化分子をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項9】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタの腸管病を引き起こす原因となる伝染性病原体の抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項10】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタの呼吸器病を引き起こす原因となる伝染性病原体の抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項11】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、偽狂犬病ウイルス(オージェスキー病ウイルス)の抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項12】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、偽狂犬病ウイルス糖タンパク質Dの抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項13】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタの呼吸管及び生殖症候群ウイルス(PRRSV)の抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項14】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタ・コレラ・ウイルスの抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項15】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタ・パルボウイルスの抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項16】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタ・コロナウイルスの抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項17】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタ・ロタウイルスの抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項18】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタ・パラインフルエンザウイルスの抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項19】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、マイコプラズマ・ブタ肺炎の抗原決定基をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項20】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、FLT-3リガンドをコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項21】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、インターロイキン3(IL-3)をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項22】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、インターロイキン4(IL-4)をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項23】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ガンマ・インターフェロンをコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項24】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタ顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項25】
当該異種起源ヌクレオチド配列が、ブタ顆粒球コロニー刺激因子、G-CSF、をコード化する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項26】
a) ブタ・アデノウイルス・タイプ3の配列を取得すること、及び、b) ブタ・アデノウイルス・ゲノムの非必須域に少なくとも1つの異種起源ヌクレオチド配列を、効果的なプロモータ配列と共に挿入することを含む、ワクチン利用のための組換えブタ・アデノウイルス・ベクターの産生方法であって、該異種起源ヌクレオチド配列がPAV3のE3領域及び遺伝地図単位97から99.5から成る群から選ばれる部位に挿入されている、上記方法。
【請求項27】
当該異種起源ヌクレオチド配列の挿入の前に、制限酵素部位を該ブタ・アデノウイルス・ゲノムの該非必須域に挿入する、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−213495(P2009−213495A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156467(P2009−156467)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【分割の表示】特願2000−509443(P2000−509443)の分割
【原出願日】平成10年8月14日(1998.8.14)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【出願人】(500120990)ピッグ リサーチ ディベラップメント コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】