組換え的に改変されたプラスミン
組換え的に改変したプラスミ(ノーゲ)ン分子に関するポリヌクレオチドおよびポリペプチドが提供される。該プラスミ(ノーゲ)ン分子は、天然のヒトプラスミノーゲン分子中に存在する活性化部位に対しN末端の単一のクリングルドメインを有し、そして、天然の酵素に関連するリシン結合および有意の酵素の特徴を表す。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヒトプラスミノーゲンは、791アミノ酸残基を含有する一本鎖タンパク質である。プラスミノーゲンのプラスミンへの活性化は、酵素前駆体中のArg561−Val562ペプチド結合の単一切断から生じる。生じるプラスミン分子は、トリプシン様の特異性(LysおよびArgの後で切断する)をもつ二本鎖のジスルフィド結合したセリンプロテアーゼである。
【0002】
プラスミンのアミノ末端のH鎖(残基1−561、約60kDa)は、それぞれおよそ80アミノ酸残基を含有する5個のクリングルドメインから構成される。クリングルドメインは、活性化阻害剤例えばCl−1イオン;活性化刺激物質例えばε−アミノカプロン酸;哺乳動物および細菌細胞;ならびにプラスミンの生理学的基質フィブリンおよびプラスミン阻害剤α2−アンチプラスミンのような他のタンパク質との相互作用のようなプラスミノーゲンの調節特性を司る。全5個のクリングルのうち、クリングル1は最も多機能のものの1つであり、すなわち、そのリシン結合活性は、α2−アンチプラスミンおよびフィブリンとのプラスミンの相互作用を司ることが示されている。非特許文献1;および非特許文献2を参照されたい。
【0003】
プラスミンのC末端L鎖(残基562−791、約25kDa)は、トリプシンに相同かつ古典的セリンプロテアーゼの触媒性三つ組残基すなわちHis603、Asp646およびSer741を含有する典型的なセリンプロテアーゼである。プラスミノーゲンは、24個のジスルフィド架橋、ならびにAsn289およびThr346の2個のグリコシル化部位を含有する。
【0004】
エラスターゼによるプラスミノーゲンの制限タンパク質分解が3フラグメントをもたらすことが示されている(非特許文献3)。第一のフラグメントK1−3は最初の3クリングルを包含し、そして2バージョンすなわちTyr79−Val338およびTyr79−Val354で単離され得る。第二のフラグメントK4は第四のクリングルに対応し、そして残基Val355−Asn440を包含する。最後のC末端フラグメント(いわゆるミニプラスミノーゲン)は残基Val443−Asn791を包含し、そして第五のクリングルおよびセリンプロテアーゼドメインよりなる。ミニプラスミノーゲンはプラスミノーゲンと同一の方法で活性化されてミニプラスミンを形成し得る。
【0005】
完全長のプラスミノーゲン分子の複雑な構造のため、細菌発現系は組換えプラスミノーゲン産生に有用と判明していない。プラスミノーゲンは不溶性の封入体の形態で産生され、そしてその状態から再フォールディング可能でない。さらに、哺乳動物細胞中でのプラスミノーゲンの発現は、プラスミノーゲンのプラスミンへの細胞内活性化および生じる細胞傷害性により複雑にされる。昆虫細胞を使用する完全に活性なプラスミノーゲンの産生は可能であるが、しかしながらこの系は低収量により大スケール製造に適さない。
【0006】
従って、ある種の負の特徴を欠きかつ昆虫細胞中で実質的な量での産生が可能である一方で、プラスミン/プラスミノーゲンの望ましい特徴を有する、改変された組換えタンパク質が望ましい。
【非特許文献1】Wiman,B.ら、Biochim.Biophys.Acta 579:142−154(1979)
【非特許文献2】Lucas,M.A.ら、J.Biol.Chem.258:4249−4256(1983)
【非特許文献3】Sottrup−Jensen,L.ら、Prog.Chem.Fibrinol.Thrombol.、3:191−209(1978)
【発明の開示】
【0007】
[発明の要約]
本発明は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドを提供し;該ポリペプチドは固定されたリシンに結合する。該N末端クリングルドメインは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同であり得る。
【0008】
いくつかの態様において、コードされるポリペプチドは、配列番号2に示される配列に最低90%、95%若しくは98%同一である。さらに、コードされるポリペプチドは配列番号2に示される配列であり得る。
【0009】
該ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、配列番号1に示される配列、若しくはその縮重バリアントであり得る。該ヌクレオチド配列は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに相同なN末端クリングルドメイン;ならびに、ヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部分およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドをコードし得る。該ヌクレオチド配列はまた、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに最低90%同一な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲンの活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインに最低90%同一なC末端ドメインを有するポリペプチドもコードし得る。コードされるポリペプチドは固定されたリシンを結合し得る。
【0010】
別の局面において、本発明は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同なN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドを提供する。
【0011】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同な1個のN末端クリングルドメインを有し得る。
【0012】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、α2−アンチプラスミンによるミニプラスミンの線維素溶解活性の阻害速度より最低約5倍より速い速度でα2−アンチプラスミンにより阻害される線維素溶解活性を表し得る。α2−アンチプラスミンによる阻害速度はまた、ミニプラスミンの阻害の速度より最低約10倍、20倍、30倍若しくは40倍より速いこともできる。
【0013】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは固定されたリシンを結合し得る。固定されたリシンは、リシン−アガロース、リシン−BIOGEL(BioRad、カリフォルニア州ハーキュリーズ)、リシン−HYPERD(Pall Life Sciences、ニューヨーク州イーストヒルズ、リシン−ヒドロゲル)、リシン−セファロース(セファロースは架橋アガロースである)よりなる群から選択される固体支持体マトリックスに結合されたリシンであり得る。固定されたリシンはリシン−セファロースであり得る。
【0014】
いくつかの態様において、該ポリペプチドはミニプラスミンのフィブリノーゲンに対する結合親和性より低いフィブリノーゲンに対する結合親和性を表し得る。
【0015】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、ミニプラスミンの部分的に切断されたフ
ィブリンに対する結合親和性より高い、部分的に切断されたフィブリンに対する結合親和性を表し得る。
【0016】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、プラスミノーゲン活性化部位およびプラスミノーゲンセリンプロテアーゼドメインに対しN末端に位置する単一のクリングルドメインを有し得、該クリングルドメインは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル5とよりも天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4との最低1残基より大きいアミノ酸配列の同一性を有する。これらの態様について、ヒトプラスミノーゲンのクリングル1および4の天然の配列に関しての本発明のポリペプチドのクリングル領域の保存的置換が、クリングル5との同一性比較の目的上天然の配列と異なると考えられないとみられることが理解されるであろう。
【0017】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、配列番号2に示されるところのアミノ酸配列およびその保存的置換を有し得る。該ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の位置76(アルギニンである)の相対位置に類似の相対位置に1残基を有し得る。
【0018】
別の局面において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含んでなるベクター、および該ベクターを含んでなる培養宿主細胞を包含する。
【0019】
[発明の詳細な記述]
完全長プラスミンのフィブリンおよびアンチプラスミン結合特性を有する単純なグリコシル化されていない分子を提供するため、本発明はプラスミノーゲンの欠失変異体を提供する。本明細書でδ−プラスミノーゲンと称される本変異体中で、クリングル1に相同なドメインと活性化部位の間の天然のアミノ酸配列の少なくとも一部分が欠失されている。一局面において、ヒトプラスミノーゲンの天然のクリングル1ドメインに相同なドメインを、実質的に、該ドメイン間に残存するプラスミノーゲン活性化部位を含有する介在する天然の配列のみを用い、プラスミノーゲンのセリンプロテアーゼ部分、若しくはその相同な機能的アナログに直接結合し得る。
【0020】
本発明のδ−プラスミ(ノーゲ)ンは:より低分子量(37,198Da)のδ−プラスミンが、増大された比活性(タンパク質1mgあたり)をもたらし得;天然のタンパク質中で見出される最低2個のグリコシル化部位の欠如(図3を参照されたい)が、比較的低分子量と組合さって、比較的安価な細菌および酵母発現系を使用するこのタンパク質の組換え産生を助長し得;δ−プラスミノーゲンが、プラスミノーゲンアクチベーターtPA、ウロキナーゼおよびストレプトキナーゼにより活性化され得;天然のクリングル1に相同なドメインの存在が、血栓溶解効果に重要であり得るプラスミンのフィブリン結合特性を保存し;クリングル1に相同なドメイン上のα2−アンチプラスミン結合部位の存在が、δ−プラスミンがプラスミンのこの生理学的阻害剤により迅速に阻害される(出血を予防し得る特徴)ことを可能にし得;より小さい大きさのδ−プラスミンが、α2−マクログロブリンによるその阻害を助長して出血の合併症の機会を天然のプラスミンに関してさらに少なくし得る、ことを特徴とし得る。特定の態様において、無傷の消化されないフィブリ(ノーゲ)ンに対する主要な結合部位を保持するクリングル5の非存在は、循環するフィブリノーゲンの低下された枯渇を伴うδ−プラスミンの使用を可能にし得る。
【0021】
一般に、本発明は、ミニプラスミ(ノーゲ)ンに関してある種の利点を有する、活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインに対しN末端の単一のクリングル領域を有する組換えプラスミ(ノーゲ)ン分子を提供する。本発明のδ−プラスミノーゲンポリペプチドは、活性化部位に対しN末端のもののような1個のクリングル領域を有するのみとは言え、いくつかの態様は活性化部位に対しN末端の付加的な配列を包含する。付加的なN末端配列はプラスミノーゲンの天然のクリングル領域のものに由来し得る。
【0022】
本発明のN−末端クリングルドメインは、天然のプラスミ(ノーゲ)ンおよびその機能的同等物のクリングル1および4のクリングル配列を包含する。とりわけ、リシン結合に参画するか若しくは影響する残基の保存を包含するポリペプチドバリアント中の機能の保存に関する指針を提供する下の論考を参照されたい。
【0023】
定義
ポリペプチドの「ドメイン」および「領域」という用語は、別の方法で逆に示されない限り、本明細書で使用されるとおり一般に同義である。「クリングル」若しくは「セリンプロテアーゼ」などのような十分に認識された構造若しくは機能の呼称と一緒に列挙される場合、こうした用語は、こうした呼称に対応するポリペプチド構造に関連することが普遍的に認識かつ理解される、少なくとも何らかの特徴(1種若しくは複数)に関するポリペプチドの特徴を紹介することができる。
【0024】
本明細書で使用されるところの「培養宿主細胞」は、いずれかの手段、例えば電気穿孔法、リン酸カルシウム沈殿、微小注入法、形質転換、ウイルス感染などにより細胞に導入された異種DNAを含有する原核生物若しくは真核生物細胞を指す。
【0025】
本明細書で使用されるところの「異種」は、「異なる天然の起源のもの」すなわち非天然の状態を表すことを意味している。例えば、培養宿主細胞を別の生物体、とりわけ別の種由来のDNA若しくは遺伝子で形質転換する場合、その遺伝子は、その培養宿主細胞に関して、およびその遺伝子を運搬する培養宿主細胞の子孫に関してもまた異種である。同様に、「異種」は、同一の天然の元の細胞型由来かつそれに導入されたが、しかし非天然の状態、例えば異なるコピー数若しくは異なる調節エレメントの制御下で存在するヌクレオチド配列を指す。
【0026】
「ベクター」分子は、異種核酸を挿入し得その後適切な培養宿主細胞に導入し得る核酸分子である。ベクターは、好ましくは1個若しくはそれ以上の複製起点、および組換えDNAを挿入し得る1個若しくはそれ以上の部位を有する。ベクターは、しばしば、ベクターを含む細胞を含まないものから選択し得る便宜的手段を有し、例えばそれらは薬剤耐性遺伝子をコードする。普遍的なベクターはプラスミド、ウイルスゲノムならびに(主として酵母および細菌中で)「人工染色体」を包含する。
【0027】
本明細書で使用されるところの「転写制御配列」という用語は、それらが作動可能に連結されているタンパク質をコードする核酸配列の転写を誘導、抑制若しくは別の方法で制御する、イニシエータ配列、エンハンサー配列およびプロモーター配列のような核酸配列を指す。
【0028】
「ポリペプチド」という用語は、「ペプチド」および「タンパク質」という用語と本明細書で互換性に使用される。
【0029】
「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は本明細書で互換性に使用され、そして、文脈により示される目的上必要な情報を含有するいかなる核酸も指すことができる。すなわち、該核酸は、該ポリマーが例えばコードされるペプチドに関して適切な情報を表すことが可能でありかつ相補配列、例えば核酸ポリマーのセンス鎖およびアンチセンス鎖を包含し得る限り、一本鎖若しくは二本鎖いずれかのDNA若しくはRNA、または他の核酸であり得る。
【0030】
ポリペプチドの「バリアント」という用語は、1個若しくはそれ以上のアミノ酸により変えられているアミノ酸配列を指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造若
しくは化学特性を有する「保存的」変化、例えばイソロイシンでのロイシンの置換を有し得る。あるいは、バリアントは「非保存的」変化、例えばグリシンのトリプトファンでの置換を有し得る。類似の小さな変動は、アミノ酸の欠失若しくは挿入、または双方もまた包含し得る。「バリアント」ポリペプチドの特定の一形態は「機能的に同等な」ポリペプチド、すなわち、より詳細に下述されるところの本発明のポリペプチドの例と実質的に類似のin vivo若しくはin vitro活性を表すポリペプチドである。どのアミノ酸残基を生物学的若しくは免疫学的活性を除外することなく置換、挿入若しくは欠失し得るかの決定における指針は、当該技術分野で公知のコンピュータプログラム、例えばDNASTARソフトウェア(DNASTAR,Inc.、ウィスコンシン州マディソン)を使用して見出し得る。さらに、引用することにより本明細書に完全に組み込まれる引用される参考文献内に提供されるものを包含する特定の指針が下に提供される。
【0031】
「N末端の」および「C末端の」という用語は、それらが適用されるいずれかのアミノ酸配列若しくはポリペプチドのドメイン若しくは構造の相対位置を指定するのに本明細書で使用する。相対位置決めは文脈から明らかであろう。すなわち、「N末端の」特徴は、同一の文脈で論考される別の特徴よりも該ポリペプチド分子のN末端に少なくともより近くに位置することができる(他の可能な特徴は第一の特徴に対し「C末端の」と称される)。同様に、「5’−」および「3’−」という用語を、ポリヌクレオチドの特徴の相対位置を指定するのに本明細書で使用し得る。
【0032】
「天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な」N末端ドメインを有すると本明細書で称されるδ−プラスミノーゲン/プラスミンポリペプチドは、プラスミノーゲンの天然のクリングルドメインに類似の構造および機能の特徴を表す。さらに、「クリングル1に相同な」N末端ドメインを有すると本明細書で称されるδ−プラスミノーゲン/プラスミンポリペプチドは、少なくとも、該ポリペプチドがクリングル5よりも高いω−アミノカルボン酸(およびtrans−4−アミノメチルシクロヘキサン−1−カルボン酸(ある環状酸)のような機能的ホモログ)に対する親和性を有し得る程度まで、天然のクリングル1に類似の特徴を表す。5−アミノペンタン酸(5−APnA);ε−アミノカプロン酸(εACA)としてもまた知られる6−アミノヘキサン酸(6−AHxA);7−アミノヘプタン酸(7−AHpA);およびtrans−4−アミノメチルシクロヘキサン−1−カルボン酸(t−AMCHA)への単離されたクリングルドメインポリペプチドの結合の比較のための条件およびプロトコルについては、例えばChang,Y.ら、Biochemistry 37:3258−3271(1998)を参照されたい。
【0033】
「クリングル4に相同な」クリングルドメインへの言及は、「クリングル1に相同な」という句に関して上で示されたと同様に定義される。すなわち、それらは、上で論考されたところの天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1に類似の機能的特徴を表す。これらのポリペプチドもまた、上述されたとおり、固定されたリシンを結合する。
【0034】
本発明のポリペプチドは固定されたリシンを結合する。本明細書で使用されるところの「固定されたリシンを結合すること」という句は、そのように特徴づけられるポリペプチドが、クロマトグラフィー媒体としてリシン−セファロースを使用するカラムクロマトグラフィーにかけられる場合に、ミニプラスミノーゲンに関してそれらの進行が遅らされることを意味している。典型的には、本発明のポリペプチドは、特異的リガンド、例えばεACAを含有する溶液を溶離液として使用して、こうしたクロマトグラフィー媒体(リシンアフィニティー樹脂)から溶出され得る。
【0035】
さらに、Changら、上記に加え、本発明の範囲内の欠失変異体を生じるための保存的若しくは非保存的置換、欠失若しくは付加によりどの残基が変えられ得るかを決定する
ために、他の参考文献が当業者により調べられ得る。例えば、以下の参考文献は、ωアミノカルボン酸の結合に重要でありうる天然のクリングルドメインの特定の残基に関する情報を提供する:Jiらへの米国特許第6,538,103号明細書;Suzukiへの米国特許第6,218,517号明細書;Douglas,J.T.ら、Biochemistry 41(10):3302−10(2002);Zajicek,J.ら、J.Mol.Biol.、301(2):333−47(2000);Lee,H.ら、Arch Biochem Biophys.、375(2):359−63(2000);Castellino,F.とS.McCance、Ciba Found Symp.212:46−60(1997);McCance,S.ら、J.Biol.Chem.、269:32405−32410(1994);Rejante,M.R.とM.Llinas、Eur.J.Biochem.、221(3):939−49(1994);Wu,T.P.ら、Blood Coagul.Fibrinolysis、5(2):157−66(1994);Hoover,C.J.ら、Biochemistry、32(41):10936−43(1993);Menhart,N.ら、Biochemistry、32:8799−8806(1993);Thewes,T.ら、J.Biol.Chem.、265(7):3906−3915(1990);Novokhatny,V.ら、Thromb Res.、53(3):243−52(1989);Motta,A.ら、Biochemistry、26(13):3827−36(1987);Novokhatny,V.ら、J.Mol.Biol.、179:215−232(1984);Lerch,P.G.ら、Eur.J.Biochem.、107(1):7−13(1980);Sottrup−Jensen,L.ら、Prog.Chem.Fibrinol.Thrombol.、3:191−209(1978);およびWiman,B.とD.Collen、Nature 272、549−545(1978)(全部はそっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる)。
【0036】
本発明者は、(本明細書に記述されるところの固定されたリシンの結合について試験することにより部分的に評価し得る)有利な機能的特徴を有するN末端クリングルドメインを有する価値のある単純化されたプラスミ(ノーゲ)ン分子を製造し得ることを認識したため、本発明は、活性化部位に対しN末端の他のフィブリン結合ドメイン若しくは領域を包含し得る。例えば、本発明は、プラスミンのセリンプロテアーゼドメインが、限定されるものでないがヒトプラスミノーゲンのクリングル4、tPAのクリングル2若しくはアポリポタンパク質(a)のクリングルを挙げることができる群から選択されるフィブリン結合クリングルに結合されているポリペプチドを包含し得る。さらに、本発明は、プラスミンのセリンプロテアーゼドメインが、tPA若しくはフィブロネクチンの「フィンガー」ドメインまたはフィブリン特異的IgGのFABフラグメントのようないずれかの他の既知のフィブリン結合モジュールに結合されているポリペプチドを包含し得る。
【0037】
特定の態様において、δ−プラスミノーゲンのN末端クリングルドメインのある位置の残基は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1に関して保存されている。これらはリシン結合に関連する位置の残基であり得、そして、Pro136−Pro140、Pro143−Tyr146およびArg153−Tyr156(図3に示されるとおり番号付けされる位置)を包含する。本発明のδ−プラスミノーゲンのいくつかの態様は、位置153にArgを有し得る。他の態様において、命名される残基の特定の位置は、構造的および機能的に類似の位置(すなわちN末端ドメインのクリングル構造に関して;上で論考されたところのChang,Y.らを参照されたい)になお存在しつついくぶん変動し得る。いくつかの態様において、δ−プラスミ(ノーゲ)ンポリペプチドのN末端クリングル領域は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル5とよりも最低1残基より大きい、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4との同一性パーセントを有する。
【0038】
加えて、本発明の特定の態様は、類似のドメイン組成すなわちクリングル−セリンプロテアーゼ(K−SP)を有するミニプラスミ(ノーゲ)ンと対照的に、機能的に特徴付け得る(Sottrup−Jensen,L.ら、Progress in Chemical Fibrinolysis and Thrombolysis、Vol.3、(編:J.F.Davidsonら)Raven Press、ニューヨーク(1978)を参照されたい)。好ましい態様において、本発明のδ−プラスミンは、例えば、ミニプラスミンの阻害速度よりも約1若しくは2桁より速いと同じくらいのα2−アンチプラスミンによる阻害の増大された速度を表す。さらに、特定の態様において、δ−プラスミンは固定されたリシン(例えばリシン−セファロース)を結合する。
【0039】
「N末端の」としてのδ−プラスミノーゲンのクリングルドメインの特徴付けは、該ドメインが活性化部位に対しN末端に存在することのみを意味し、そして、該ドメインそれ自身に対しN末端の付加的なアミノ酸残基が存在しないことを意味しない。さらに、プラスミノーゲンのクリングル1に相同なドメインと活性化部位の間に置かれた残基の数および同一性は、本発明の範囲から離れることなく変動させ得る。当業者は、クリングル1の機能および構造に関する指針についての本明細書の開示および本明細書に引用される参考文献に基づき、過度の実験を伴わずに本発明の利益(欠失変異体の大きさの実質的な増大若しくは潜在的に問題の多いグリコシル化部位の導入を伴わないωアミノカルボン酸のクリングル1様の結合)を達成するこれらの変形物を決定することが可能であろう。
【0040】
従って、本発明は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、該ポリペプチドの組換え製造方法、該ポリヌクレオチドを含有するベクター、該ポリペプチドを産生するための発現系、およびこうした発現系を含んでなる培養宿主細胞に関する。
【0041】
示されたとおり、一局面において、本発明は、本明細書に開示されるポリペプチド若しくはその保存的アミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。「保存的」アミノ酸置換の選択に関する指針は下により詳細に提供される。一態様において、ポリヌクレオチドはDNAである。
【0042】
別の局面において、本発明は、ベクター中に本発明のポリヌクレオチドを挿入することを含んでなるベクターの作成方法に関する。別の局面において、本発明は本発明の方法により製造されるベクターに関する。
【0043】
別の局面において、本発明は、本発明のベクターを培養宿主細胞に導入することを含んでなる培養宿主細胞の作成方法に関する。別の局面において、本発明は本発明の方法により製造される培養宿主細胞に関する。
【0044】
別の局面において、本発明は:(a)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなるベクターを培養宿主細胞に導入すること;(b)該宿主細胞を培養すること;および(c)ポリペプチドを回収することを含んでなる方法により製造される、本発明の単離されたポリペプチドに関する。別の局面において、本発明は:(a)ベクターが発現される条件下で本発明の宿主細胞を培養すること;および(b)ポリペプチドを回収することを含んでなる、ポリペプチドの製造方法に関する。
【0045】
別の局面において、本発明は本発明の最低1種のポリヌクレオチドを含有する細胞に関する。
【0046】
一態様において、ポリヌクレオチドは配列番号1に示されるところのヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、ポリペプチドは、配列番号2に示されるところのアミノ酸配列を含んでなる。
【0047】
ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、1個若しくはそれ以上のヌクレオチドを巻き込み得る置換、欠失および/若しくは付加を有するバリアントを包含する。バリアントはコーディング領域、非コーディング領域若しくは双方で変えることができる。コーディング領域中の変化は、保存的若しくは非保存的なアミノ酸の置換、欠失若しくは付加を生じ得る。δ−プラスミ(ノーゲ)ンタンパク質若しくはその部分の特性および活性を変えない、サイレント置換、付加および欠失が、これらのうちでとりわけ好ましい。この点に関して、保存的置換(下を参照されたい)もまたとりわけ好ましい。
【0048】
本発明のさらなる態様は、(a)配列番号2の完全なアミノ酸配列を有するδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(b)配列番号2中のアミノ酸配列を有するδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;および(c)上の(a)若しくは(b)のヌクレオチド配列のいずれかに相補的なヌクレオチド配列に最低90%同一、およびより好ましくは最低95%、96%、97%、98%若しくは99%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含んでなる核酸分子を包含する。
【0049】
δ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードする参照ヌクレオチド配列に少なくとも例えば95%「同一な」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドにより、該ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、該ポリヌクレオチド配列がδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードする参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5個までの点突然変異を包含し得ることを除き、参照配列に同一であることを意図している。言い換えれば、参照ヌクレオチド配列に最低95%同一なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中のヌクレオチドの5%までを欠失若しくは別のヌクレオチドで置換し得るか、または、参照配列中の全ヌクレオチドの5%までのある数のヌクレオチドを参照配列に挿入し得る。参照配列のこれらの突然変異は、参照ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置に、あるいは、参照配列中のヌクレオチドの間に個別にまたは参照配列内の1個若しくはそれ以上の連続する群中のいずれかに散在して、それらの末端位置の間のどこかに存在し得る。
【0050】
上で示されたとおり、2種若しくはそれ以上のポリヌクレオチド配列を、それらの同一性パーセントを決定することにより比較し得る。2種若しくはそれ以上のアミノ酸配列を、同様に、それらの同一性パーセントを決定することにより比較し得る。2配列(核酸であろうとペプチド配列であろうと)の同一性パーセントは、一般に、より短い配列の長さにより除算しかつ100により乗算した、2種の整列した配列の間の正確な一致の数として記述される。核酸配列の適切なアライメントは、SmithとWaterman、Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981)の局所相同性アルゴリズムにより提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff、Atlas of Protein Sequences and Structure、M.O.Dayhoff編、5 suppl.3:353−358、国立生物医学研究財団(National Biomedical Research Foundation)、米国ワシントンDCにより開発されかつGribskov、Nucl.Acids Res.14(6):6745−6763(1986)により正規化されたスコアリングマトリックスを使用して、ペプチド配列での使用に拡張し得る。核酸およびペプチド配列についてのこのアルゴリズムの実行は、Genetics Computer Group(ウィスコンシン州マディソン)によりそれらのBESTFITユーティリティアプリケーションで提供される。この方法のデフォルトのパラメータは、Wisconsin配列分析パッケージプログラムマニュアル、バージョン8(1995)(Genetics Computer Group、ウィスコンシン州マディソンから入手可能)に記述されている。
【0051】
もちろん、遺伝暗号の縮重により、当業者は、配列番号1に示される核酸配列の核酸配列に最低90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一な配列を有する多数の核酸分子がδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードすることができることを即座に認識するであろう。事実、これらのヌクレオチド配列の縮重バリアントは全部同一のポリペプチドをコードするため、これは、本明細書に記述されるいかなる機能アッセイ若しくは測定も実施することさえなく当業者に明らかであろう。縮重バリアントでないこうした核酸分子について、合理的な数もまたδ−プラスミノーゲンポリペプチド活性を有するポリペプチドをコードすることができることが、当該技術分野でさらに認識されるであろう。これは、タンパク質の機能に有意に影響を及ぼすことがより少なさそうであるか若しくは全くありそうでないかのいずれかであるアミノ酸置換(例えば1個の脂肪族アミノ酸を第二の脂肪族アミノ酸で置換すること)を当業者が十分に知っているからである。
【0052】
最近、より長いポリヌクレオチド配列の合成製造の進歩が、伝統的なクローニング技術の使用を伴わずに有意により長いポリペプチドをコードする核酸の合成製造を可能にした。こうしたサービスの商業的提供元はBlue Heron,Inc.、ワイオミング州ボセル(http://www.blueheronbio.com)を包含する。Blue Heron,Incにより利用される技術は、米国特許第6,664,112号;同第6,623,928号;同第6,613,508号;同第6,444,422号;同第6,312,893号;同第4,652,639号明細書;米国特許出願公開第20020119456A1号;同第20020077471A1号明細書;ならびに公開国際特許出願(公開番号)第WO03054232A3号;同第WO0194366A1号;同第WO9727331A2号;および同第WO9905322A1号(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)に記述されている。
【0053】
もちろん、分子生物学、微生物学および組換え核酸の伝統的技術もまた、本発明のポリヌクレオチドを製造するのに使用し得る。これらの技術は公知であり、そして、例えば、Current Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausebel編、Vol.I、IIおよびIII(1997);Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(1989);DNA Cloning:A Practical Approach、D.N.Glover編、Vol.IおよびII(1985);Oligonucleotide Synthesis、M.L.Gait編(1984);Nucleic Acid Hybridization、HamesとHiggins編(1985);Transcription and Translation、HamesとHiggins編(1984):Animal Cell Culture、R.I.Freshney編(1986);Immobilized Cells and Enzymes、IRL Press(1986);Perbal、“A Practical Guide to Molecular Cloning”;Methods in Enzymologyシリーズ、Academic Press,Inc.(1984);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells、J.H.MillerとM.P.Calos編、Cold Spring Harbor Laboratory(1987);およびMethods in Enzymology、それぞれWuとGrossmanおよびWu、Vol.154および155(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)に説明されている。
【0054】
ベクターおよび培養宿主細胞
本発明はまた、本発明の単離された核酸分子を包含するベクター、該組換えベクターで
遺伝子的に工作されている培養宿主細胞、および組換え技術によるδ−プラスミ(ノーゲ)ンポリペプチドの製造にも関する。
【0055】
組換え構築物は、感染、形質導入、トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、電気穿孔法および形質転換のような公知の技術を使用して培養宿主細胞に導入し得る。ベクターは、例えばファージ、プラスミド、ウイルス若しくはレトロウイルスベクターであり得る。レトロウイルスベクターは複製コンピテント若しくは複製欠損であり得る。後者の場合、ウイルスの増殖は、一般に、補完する培養宿主細胞中でのみ起こることができる。
【0056】
ポリヌクレオチドは、培養宿主中での増殖のための選択可能なマーカーを含有するベクターに結合し得る。一般に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿のような沈殿物、若しくは荷電した脂質との複合体中で導入する。ベクターがウイルスである場合、適切なパッケージング細胞株を使用してそれをin vitroでパッケージングし得、そしてその後培養宿主細胞に形質導入し得る。
【0057】
目的のポリヌクレオチドに対しcis作用性の制御領域を含んでなるベクターが好ましい。適切なtrans活性化因子は、培養細胞により供給され得るか、補完するベクターにより供給され得るか、若しくは培養宿主中への導入に際してベクターそれ自身により供給され得る。
【0058】
ある態様においては、この点に関して、ベクターは、誘導可能かつ/若しくは細胞型特異的であり得る特異的発現を提供する。温度および栄養素添加物のような操作するのが容易である環境因子により誘導可能なものが、こうしたベクターのなかでとりわけ好ましい。
【0059】
本発明で有用な発現ベクターは、染色体、エピソーム、およびウイルス由来ベクター、例えば細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体要素由来のベクター、バキュロウイルス、パポーバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、禽痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルスおよびレトロウイルスのようなウイルス、ならびにコスミドおよびファージミドのようなそれらの組合せ由来のベクターを包含する。
【0060】
DNA挿入物は、いくつかを挙げれば、ファージλ PLプロモーター、大腸菌(E.coli)のlac、trpおよびtacプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、ならびにレトロウイルスのLTRのプロモーターのような適切なプロモーターに効果的に連結すべきである。他の適するプロモーターは当業者に既知であろう。発現構築物は、転写開始、終止の部位、および転写された領域中に翻訳のためのリボソーム結合部位をさらに含有することができる。構築物により発現される成熟転写物のコーディング部分は、好ましくは、最初の翻訳開始部および翻訳されるべきポリペプチドの端に適切に配置された終止コドン(UAA、UGA若しくはUAG)を包含することができる。
【0061】
示されるとおり、発現ベクターは好ましくは最低1個の選択可能なマーカーを包含することができる。こうしたマーカーは、真核生物の細胞培養物のためのジヒドロ葉酸還元酵素若しくはネオマイシン耐性、ならびに大腸菌(E.coli)および他の細菌での培養のためのテトラサイクリン若しくはアンピシリン耐性遺伝子を包含する。適切な培養宿主の代表的な例は、限定されるものでないが、大腸菌(E.coli)、放線菌類(Streptomyces)およびネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)細胞のような細菌細胞;酵母細胞のような真菌細胞;ショウジョウバエ(Drosophila)S2およびスポドプテラ属(Spdoptera)Sf9細胞のような昆虫細胞;CHO、COSおよびBowes黒色腫細胞のような動物細胞;ならびに植物
細胞を挙げることができる。上述の培養宿主細胞に適切な培地および培養条件は当該技術分野で公知である。
【0062】
細菌での使用に好ましいベクターには、Qiagen,Inc.、カリフォルニア州バレンシアから入手可能なpQE70、pQE60およびpQE−9;Stratagene、カリフォルニア州ラホヤから入手可能なpBSベクター、PHAGESCRIPTベクター、BLUESCRIPTベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;ならびにPharmacia(現在Pfizer,Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク)から入手可能なptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5を包含する。Stratageneから入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1およびpSG;ならびにPharmaciaから入手可能なpSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVLが好ましい真核生物ベクターのひとつである。他の適するベクターは当業者に容易に明らかであろう。
【0063】
本発明での使用に適する細菌プロモーターは、大腸菌(E.coli)lacIおよびlacZプロモーター、T3およびT7プロモーター、gptプロモーター、λ PRおよびPLプロモーター、ならびにtrpプロモーターを包含する。適する真核生物プロモーターは、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のもののようなレトロウイルスのLTRのプロモーター、ならびにマウスメタロチオネイン−Iプロモーターのようなメタロチオネインプロモーターを包含する。
【0064】
培養宿主細胞へのベクター構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、陽イオン性脂質媒介性トランスフェクション、電気穿孔法、形質導入、感染若しくは他の方法により遂げることができる。こうした方法は、Davisら、Basic Methods in Molecular Biology、第2版(1995)のような多くの標準的実験室手引書に記述されている。
【0065】
高等真核生物による本発明のポリペプチドをコードするDNAの転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することにより増大させ得る。エンハンサーは、所定の培養宿主細胞型中でのプロモーターの転写活性を増大させるように作用する、通常約10から300bpまでのDNAのcis作用性要素である。エンハンサーの例は、bp100ないし270の複製起点の後側(late side)に位置するSV40エンハンサー、サイトメガロウイスル初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーを包含する。
【0066】
小胞体の管腔、細胞膜周辺腔若しくは細胞外環境への翻訳されたタンパク質の分泌のため、適切な分泌シグナルを発現されるポリペプチドに組込み得る。該シグナルは該ポリペプチドに対し内因性であり得るか、若しくはそれらは異種シグナルであり得る。
【0067】
ポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で発現させ得、そして分泌シグナルのみならず、しかし付加的な異種機能的領域もまた包含し得る。例えば、培養宿主細胞中、精製の間、若しくはその後の取扱および貯蔵の間の安定性および難分解性を向上させるために、付加的なアミノ酸、とりわけ荷電したアミノ酸の一領域をポリペプチドのN末端に付加し得る。また、精製を容易にするためにペプチド部分をポリペプチドに付加し得る。こうした領域はポリペプチドの最終精製前に除去し得る。とりわけ、分泌若しくは排出を発生させるため、安定性を向上させるため、および精製を容易にするためのポリペプチドへのペプチド部分の付加は、当該技術分野で馴染みがありかつ慣例の技術である。好ましい融合タンパク質は、タンパク質を可溶化するのに有用である免疫グロブリンからの異種領域を含んでなる。例えば、第EP 0 464 533 A1号(カナダの対照物第2,045,869号)は、別のヒトタンパク質若しくはその部分と一緒になって免疫グロブリン分子の定常領域の多様な部分を含んでなる融合タンパク質を開示する。多くの場合、融合タンパク質中のFc部分は治療および診断での使用のため全面的に有利であり、そして、従って、例えば改良された薬物動態特性をもたらす。他方、いくつかの用途について、融合タンパク質を記述された有利な様式で発現、検出かつ精製した後にFc部分を欠失させることが可能であることが望ましいとみられる。これは、Fc部分が治療および診断で使用するための妨害であることが判明している場合、例えば免疫化のための抗原として該融合タンパク質を使用するはずである場合に真実である。例えば薬物発見において、ハイスループットスクリーニングアッセイの目的上、ヒトタンパク質がFc部分と融合された(hIL−5のアンタゴニストを同定するためのhIL5受容体のような)。Bennett,D.ら、J.Molecular Recognition、8:52−58(1995)およびJohanson,K.ら、J.Biol.Chem.、270(16):9459−9471(1995)を参照されたい。
【0068】
δ−プラスミノーゲンタンパク質は、本明細書の実施例にとりわけ記述されるものを包含する公知の方法により組換え細胞培養物から回収かつ精製し得る。本発明のポリペプチドは、天然の精製された産物、化学合成処置の生成物、ならびに例えば細菌、酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物細胞を包含する原核生物若しくは真核生物の培養宿主から組換え技術により製造された生成物を包含する。加えて、本発明のポリペプチドはまた、いくつかの場合には宿主媒介性の過程の結果として、最初の修飾メチオニン残基も包含し得る。
【0069】
ポリペプチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドの変形物および特定の例をコードするものを包含する。例えば、表現型上サイレントのアミノ酸置換の作成方法に関する指針はBowie,J.U.ら、“Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions,”Science 247:1306−1310(1990)に提供され、ここで著者はタンパク質が驚くべきことにアミノ酸置換に寛容であることを示している。本発明の範囲内のいかなる数の置換もこうした一般的原則の応用により得ることができるとは言え、置換に関する特定の指針について、クリングル1ドメインの構造および機能に関する本明細書で引用される参考文献が当業者により調べられ得る。
【0070】
使用される基準に依存して、δ−プラスミノーゲンポリペプチドのクリングル1、活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインの正確な「位置」は、本発明の範囲内の特定の変形物でわずかに異なり得ることが、さらに認識されるであろう。例えば、活性化部位に関するクリングル1ドメインの正確な場所はわずかに変動し得、かつ/若しくは、クリングル1ドメインに対しN末端の配列は長さが変動し得る。従って、本発明は、本明細書に開示されるところのδ−プラスミノーゲンポリペプチド活性を表すδ−プラスミノーゲンポリペプチドのこうした変形物を包含する。こうしたバリアントは欠失、挿入、反転、反復および置換を包含する。上に示されるとおり、どのアミノ酸変化が表現的にサイレントであることがありそうであるかに関する指針は、Bowie,J.U.ら、“Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions,”Science 247:1306−1310(1990)に見出し得る。
【0071】
従って、配列番号2のポリペプチドのフラグメント、誘導体若しくはアナログは、(i)アミノ酸残基の1個若しくはそれ以上(例えば3、5、8、10、15若しくは20)が保存された若しくは保存されないアミノ酸残基(好ましくは保存されたアミノ酸残基)で置換されているもの。こうした置換されたアミノ酸残基は、遺伝暗号によりコードされるものであっても若しくはなくてもよい。あるいは、(ii)アミノ酸残基の1個若しくはそれ以上が置換基を包含する(例えば3、5、8、10、15若しくは20)もの、あるいは(iii)成熟ポリペプチドが、該ポリペプチドの半減期を増大させるための化合物(例えばポリエチレングリコール)のような別の化合物と融合されているもの、あるいは(iv)IgG Fc融合領域ペプチド若しくはリーダーすなわち分泌配列、または成熟ポリペプチド若しくはプロタンパク質配列の精製に使用される配列のような付加的なアミノ酸が、成熟ポリペプチドに融合されているものであり得る。こうしたフラグメント、誘導体およびアナログは、本明細書の教示から当業者の範囲内にあると思われる。
【0072】
示されるとおり、変化は、好ましくは、タンパク質のフォールディング若しくは活性に有意に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換のような軽度のものである。もちろん、当業者が行いうるアミノ酸置換の数は、上述されたものを包含する多くの因子に依存する。一般的に言って、いずれかの所定のδ−プラスミノーゲンポリペプチドの置換の数は、50、40、30、25、20、15、10、5若しくは3を超えないことができる。
【0073】
機能に不可欠である本発明のδ−プラスミノーゲンポリペプチド中のアミノ酸は、部位特異的突然変異誘発若しくはアラニン走査突然変異誘発(CunninghamとWells、Science 244:1081−1085(1989))のような当該技術分野で既知の方法により同定し得る。後者の処置は分子中のすべての残基に単一のアラニン突然変異を導入する。生じる変異体分子をその後、例えば本明細書に提供される実施例で示されるとおり、生物学的活性について試験する。リガンド結合に決定的に重要である部位は、結晶化、核磁気共鳴若しくは光親和性標識(Smithら、J.Mol.Biol.224:399−904(1992)およびde Vosら Science 255:306−312(1992))のような構造分析によってもまた決定し得る。タンパク質のN末端からの1個若しくはそれ以上のアミノ酸の欠失が該タンパク質の1種若しくはそれ以上の生物学的機能の改変若しくは喪失をもたらす場合であっても、他の生物学的活性はなお保持され得る。
【0074】
本発明の「単離されたポリペプチド」の製造で有用なポリペプチドを固相合成法により製造し得ることもまた企図している。Houghten,R.A.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135(1985);およびHoughtenらへの米国特許第4,631,211号(1986)を参照されたい。
【0075】
本発明のポリペプチドは単離された形態で提供され得る。「単離されたポリペプチド」により、その天然の環境から取り出されたポリペプチドを意図している。従って、組換え培養宿主細胞内で産生かつ/若しくは含有されるポリペプチドは、本発明の目的上単離されたとみなされる。組換え培養宿主から部分的に若しくは本質的に精製されたポリペプチドもまた「単離されたポリペプチド」として意図している。
【0076】
δ−プラスミノーゲンポリペプチドの参照アミノ酸配列に対する示される同一性パーセントのアミノ酸配列を有するポリペプチドは、ポリヌクレオチドに関して上に示されたコンピュータ支援の方法を包含する方法を使用して決定し得る。前述の論考でヌクレオチド配列がまさにそうであるように、ポリペプチドのアミノ酸配列を検査かつ比較する。当業者は、ポリヌクレオチドについて論考された分子の終点としてのこうした概念が、ポリペプチド分析のためのこうした方法およびプログラムの対応する使用を考慮する場合に直接のアナログを有することができることを認識するであろう。例えば、ポリヌクレオチドに関して論考された人的補正は核酸の5’および3’の終点を指すが、しかし、同一の論考はポリペプチドのN末端およびC末端に応用可能と認識されるであろう。
【0077】
本発明は、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/封鎖基による誘導体化、タンパク質分解性切断、抗体分子若しくは他の細胞リガンドへの結合などにより翻訳の間若しくは後に示差的に修飾されるδ−プラスミノーゲンポリペプチドを包含する。多数の化学修飾のいずれも、限定されるものでないが臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、黄色ブドウ球菌(S.aureus)V8プロテアーゼ、NaBH4による特異的化学的切断;アセチル化、ホルミル化、酸化、還元;ツニカマイシンの存在下での代謝的合成;などを挙げることができる既知技術により実施し得る。
【0078】
本発明により包含される付加的な翻訳後修飾は、例えば、原核生物培養宿主細胞中でのδ−プラスミノーゲンポリペプチドの発現に適合されたベクターおよび構築物の結果としての、例えばN−結合若しくはO−結合した炭水化物鎖、N末端若しくはC末端のプロセシング)、アミノ酸バックボーンへの化学的部分の結合、N−結合若しくはO−結合した炭水化物鎖の化学修飾、およびN末端メチオニン残基の付加を包含する。該ポリペプチドは、該タンパク質の検出および単位を見込むための酵素、蛍光、同位体若しくはアフィニティー標識のような検出可能な標識でもまた修飾し得る。
【0079】
製薬学的組成物および処置方法
δ−プラスミ(ノーゲ)ンは、米国第2003/0012778 A1号明細書;およびNovokhatny,V.ら、J.Thromb.Haemost.1(5):1034−41(2003)(双方は引用することにより本明細書に組み込まれる)に記述される方法および組成物に従って、治療的使用のため処方し得る。例えば、低pH(約2.5から約4まで)、低緩衝能力の緩衝液をδ−プラスミンの製剤に使用し得る。加えて、プラスミン、ミニプラスミンおよび/若しくはマイクロプラスミンで実施されるところの当業者に既知の他の方法および処方を使用して、本発明のδ−プラスミンを治療的投与のため処方し得る。
【0080】
δ−プラスミ(ノーゲ)ンを使用して、例えば、米国特許第6,355,243号;および公開米国特許出願第2003/0026798 A1号;同第2003/0175264 A1号明細書(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)に記述されるところの方法に従って、多様な血栓症若しくは状態を処置し得る。再度、δ−プラスミンに応用可能な、可能な製薬学的製剤でのように、δ−プラスミンは、当該技術分野で既知の方法、例えばプラスミン、ミニプラスミンおよび/若しくはマイクロプラスミンで現在実施されうるものにより治療的にもまた投与し得る。
【実施例】
【0081】
発現ベクターの設計
δ−プラスミノーゲンのアミノ酸配列は配列番号2に示す。δ−プラスミノーゲンをコードする推定の配列を、大腸菌(E.coli)発現およびmRNAの安定性のためコドンを最適化して、配列番号1に示されるところのDNA配列を生じた。
【0082】
このDNAを化学合成し(Blue Heron,Inc.)、そして細胞質タンパク質を産生させるため、大腸菌(E.coli)発現ベクターpET22b(+)(Novagen;ウィスコンシン州マディソン)のNdeIおよびBamHI部位に挿入した。この構築物は、付加的な非天然のN末端メチオニンを伴うδ−プラスミノーゲンを産生する。(pET−22b(+)=pET発現系22b(カタログ番号70765)、EMD
Biosciences,Inc.、Novagen銘柄、ウィスコンシン州マディソン;ベクターに関する詳細については、http://www.emdbiosciences.comのpET−22bに関する製品情報の節を参照されたい)。
【0083】
δ−プラスミノーゲンの発現および精製
δ−プラスミノーゲン配列をコードするDNAを多様な細胞に形質転換し、そして、1mM IPTG(イソプロピルチオ−β−D−チオガラクトピラノシド)による誘導後のタンパク質の過剰発現をSDS−PAGEにより分析した。Arg、IleおよびLeuをコードする希な大腸菌(E.coli)tRNAを発現するよう工作した細胞型BL21(DE3)RIL(Stratagene、カリフォルニア州ラホヤ)細胞を、δ−プラスミノーゲンの産生に使用した。
【0084】
δ−プラスミノーゲンの産生を大スケール発現で確認し、ここで細胞を溶解しかつ可溶性タンパク質および精製した封入体双方をSDS−PAGEにより検査した。BL21(DE3)RIL細胞は、有意のδ−プラスミノーゲンタンパク質を封入体の形態で産生した。発現の推定量は50〜80mg/L細胞培養物であった。
【0085】
以下の典型的なプロトコルをδ−プラスミノーゲンの発現に使用した:
δ−プラスミノーゲンベクターを含有するBL21(DE3)RIL細胞の単一コロニーを使用して、5mlのLB/アンピシリン(100μg/ml)/クロラムフェニコール(50μg/ml)に接種し、そして振とう機上37℃で8時間インキュベートした。その後、50μlのアリコートを、新鮮培地中でのさらなる増殖のため、培養細菌懸濁液から採取した。該処置を、6mlの細菌培養物および250mlの培地を用いて16時間後に反復した。培養物を振とうしながら37℃で約1.0のOD600nmまで増殖させ、そしてIPTGを1mMの最終濃度まで添加した。培養物を追加の5時間増殖させた。細胞を5,000×gでの遠心分離により収集し、そして細胞ペレットを20mM EDTAを含有する20mMトリス pH8.0に溶解しかつ−80℃で凍結させた。
【0086】
δ−プラスミノーゲンを精製するため、細胞ペレットを融解し、そして溶液の容量が元の細胞培養物の容量のおよそ1/20の容量になるまで緩衝液を添加した。その後、リゾチームを0.5mg/mlの最終濃度まで添加し、そして細胞を4℃で10〜15分間急速に攪拌した。その後、Triton X−100を1%の最終濃度まで添加し、そして攪拌を別の10分間継続した。DNアーゼI(0.05mg/ml)およびMgCl2(2.5mM)を添加し、そして、溶液がもはや粘性でなくなるまで攪拌を4℃で30分間継続した。最終的な溶液を15,000×gで4℃で30分間遠心分離し、そして上清を廃棄した。
【0087】
細胞ペレットを、洗浄溶液(10mM EDTA、1% Triton−X−100および0.5M尿素を含有する50mMトリス−HCl、pH7.4)で3回洗浄し、そして最終的なペレットを40mlの抽出緩衝液(10mM EDTA、20mM DTTおよび6Mグアニジン−HClを含有するPBS、pH7.4)に溶解しかつ4℃で一夜保存した。16時間後に溶液を15,000×gで30分間遠心分離して固形物を除去し、そして上清を4℃で攪拌しつつ再フォールディング溶液(50mMトリス−HCl、pH8.3、3.5MグアニジンHCl、0.5MアルギニンHCl、10mM EDTA、3mM GSH、0.3mM GSSG)にゆっくりと添加した。再フォールディング処置は0.03mg/ml若しくはそれ未満のタンパク質濃度で実施した。
【0088】
再フォールディング溶液を4℃で2日間乱されないまま保ち、そしてその後、10mM
EDTA、0.15M NaCl、0.15Mアルギニン−HClを含有する8倍容量の0.1Mトリス−HCl pH8.0に対し、緩衝溶液の頻繁な交換を伴い8〜10時間にわたり透析した。
【0089】
タンパク質溶液をその後透析から取り出し、そして10kDaのメンブレンカットオフ
を伴うAMICONフィルターを使用しておよそ10〜20mlに濃縮し、そして10mM EDTA、0.15M NaClを含有する100倍容量の0.1Mトリス pH8.0に対し一夜透析した。この物質を遠心分離して微粒子を除去し、その後リシンアフィニティー樹脂(リシン−セファロース4B;Amersham Biosciences、ニュージャージー州ピスカタウェイ)を通過させた。δ−プラスミノーゲンは、0.2Mのε−アミノカプロン酸(εACA)を含有するトリス緩衝生理的食塩水、pH8.0を使用して樹脂から溶出した。
【0090】
典型的には、80mgの封入体を1リットルの細胞培養物から単離し得、また、40mgをリシン−セファロースクロマトグラフィー段階で溶出し得た。
【0091】
δ−プラスミノーゲンの特性
精製したδ−プラスミノーゲンは、還元(ジチオスレイトール処理)および非還元タンパク質のSDS−PAGE分析により、35〜40kDaの領域の単一バンドとして出現した(図5を参照されたい)。MALDI質量分析により測定されたその正確な分子量は、37,198Daという期待された値に非常に近い37,089Daであった。
【0092】
δ−プラスミノーゲン(ΔPg)がδ−プラスミンに活性化され得たかどうかを試験するために、δ−プラスミノーゲンをウロキナーゼ(1:1000のモル比)とともにインキュベートし、そして、セリンプロテアーゼ活性の増大を、S−2251の加水分解の速度の増大を測定することによりモニターした(S−2251=D−Val−Leu−Lys−p−ニトロアニリド、DiaPharma Group,Inc.、オハイオ州ウエストチェスター)。図6に見られるとおり、結合された活性化反応に典型的な活性の放物線状の増大(酵素前駆体が活性の酵素に転化され(1);そして酵素が色素生産性の基質を切断する(2))が観察される。δ−プラスミノーゲンのδ−プラスミンへの活性化は、これらの条件下で3分以内に完了した。非常に類似の結果が、tPAおよびストレプトキナーゼで得られた。
【0093】
δ−プラスミノーゲンのウロキナーゼ活性化のキネティクスを、Wholらの方法(Whol,R.C.,Summaria,L.,Arzadon,L.とRobbins,K.C.;J.Biol.Chem.253:1402−1407(1978)(引用することにより完全に組み込まれる))を使用して、完全長のプラスミノーゲンのものと比較した。この目的上、5.8nMのウロキナーゼを、37℃、pH7.5で1mMのS−2251基質の存在下に多様な濃度のプラスミン種を含有する溶液に添加した。405nmでの吸光度の増大をモニターし、そしてS−2251の生成物の形成の加速的速度を、放物型方程式(式中、速度=k・t2)を使用して計算した。Lineweaver−Burk解析を使用して、データをMichaelis−Mentenのキネティクスモデルに当てはめて、下の値をもたらした:
【0094】
【表1】
【0095】
完全長のプラスミノーゲンは、文献中で見出される値(1.7μM;Wohl,R.C.,Summaria,L.とRobbins,K.C.;J.Biol.Chem 255(5):2005−2013(1980))に類似のKm値、および同等のkcat値を伴い、ウロキナーゼにより十分に活性化された。
【0096】
δ−プラスミノーゲンのウロキナーゼ活性化のKm値は、プラスミノーゲンについてよりもおよそ30倍より高く、おそらく、プラスミノーゲンのこの変異体に対するウロキナーゼのより低い親和性を示す。同時に、δ−プラスミノーゲンの活性化のkcat値はプラスミノーゲンについてよりはるかにより高かった。kcatおよびKmの前述の差違にもかかわらず、それらの比すなわち触媒効率は、ウロキナーゼによる天然および組換えで改変されたプラスミノーゲン種の活性化についてほぼ同一である。従って、これらのデータは、「外来の」クリングル1の存在が、δ−プラスミノーゲン中のセリンプロテアーゼドメインの活性化特性に大きく影響を及ぼさないことを示す。
【0097】
なお別の活性化実験において、δ−プラスミノーゲンをストレプトキナーゼ、tPAおよびウロキナーゼとともにインキュベートし、そして二本鎖δ−プラスミン中の一本鎖δ−プラスミノーゲン分子の転化を観察するために還元SDS−PAGEで分析した(図5、レーン3−5を参照されたい)。全3つの場合で、δ−プラスミンの二本の鎖(約12kDaのクリングル1および約25kDaのセリンプロテアーゼ鎖)を見ることができ、δ−プラスミノーゲンが実際に全3種のプラスミノーゲン活性化物質により活性化され得ることを示唆した。
【0098】
期待されたとおり、δ−プラスミノーゲンはクリングル1を介してリシン−セファロースに結合し、そしてεACAの勾配によりカラムから単一ピークとして溶出され得た(図7を参照されたい)。再フォールディングされたδ−プラスミノーゲンのリシン−セファロースに結合する能力は、該分子のクリングルドメインが適正にフォールディングされ、また、リシン結合部位が完全に活性であることを示す。
【0099】
クリングル1の機能性をさらに確認するため、δ−プラスミノーゲンへのεACAの結合を、Matsukaら(Matsuka,Y.V.,Novokhatny,V.V.とKudinov、S.A.、Eur.J.Biochem.190:93−97(1990))およびDouglasら(Douglas,J.T.,von Haller,P.D.,Gehrmann,M.,Llinas,M.とSchaller,J.、Biochemistry 41:3302−3310(2002))(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)により記述されたとおり、タンパク質の蛍光の関連した変化をモニターすることにより測定した。δ−プラスミノーゲンのクリングル1へのεACAの結合は、ありそうにはリシン結合部位の一部であるトリプトファン残基の消光により、蛍光の減少をもたらす。
【0100】
この過程をモニターするため、εACAの濃縮した溶液の4μlないし16μlのアリコートを、20mM NaClを含有する50mMトリス緩衝液、pH8.0、25℃中5μMのδ−プラスミノーゲン2mlに添加した。蛍光は、FLUOROMAX蛍光分光光度計(Jobin Yvon,Inc.、ニュージャージー州エディソン)にて298nmの励起波長および340nmの測定波長でモニターし;εACAの各添加後に、蛍光のさらなる変化が観察されなくなるまで溶液を平衡化させた。
【0101】
生じる蛍光の値を希釈について補正し、そして0〜50μMのεACAの範囲にわたりεACAの濃度に対しプロットした。データを非直線回帰により当てはめて、3.2μM(Matsukaら)および13μM(Douglasら)というεACAのクリングル1親和性の文献値と良好に一致する11.1±2.3μMというKdを得た。
【0102】
プラスミンの一特性はフィブリンを結合するその能力である。δ−プラスミノーゲンが
フィブリンと相互作用する能力を保持するかどうかを決定するため、δ−プラスミノーゲンのフィブリンへの結合をtPAによるそのその後の活性化および生じる血餅溶解により評価したマイクロタイタープレートアッセイで、そのフィブリン結合特性を試験した。この目的上、100μlの5mg/mlのフィブリノーゲンを、マイクロタイタープレートの各ウェル中でトロンビンと重合させた。多様な濃度のδ−プラスミノーゲンをフィブリン塊の上面に添加しかつ37℃で1時間インキュベートした。フィブリン塊が未だ無傷でありかつウェルに付着していた間に、プレートをPBSで徹底的に洗浄した。洗浄後、tPAの0.1〜mg/ml溶液を各ウェルに添加し、そしてプレートを37℃で2時間インキュベートした。結果として塊のいくつかが完全に溶解され、そしていくつかは部分的に溶解された一方、非常に少量のδ−プラスミノーゲンを含むウェルおよび対照ウェルは事実上無傷のままであった。線維素溶解の程度を、1M NaOH中で再構成した最初の塊の残部の280nmの吸光度を測定することによりモニターした。吸光度の値を、δ−プラスミノーゲン濃度の関数としてプロットした。
【0103】
図8に見られるとおり、δ−プラスミノーゲンのフィブリンへの結合は古典的なS字状結合曲線に従う。このアッセイを使用して、δ−プラスミノーゲンが完全長のプラスミノーゲンの親和性に匹敵する親和性でフィブリンを結合し、またこの相互作用のC50(約0.2μM)が完全長のプラスミノーゲンのフィブリン結合のKdに匹敵することが見出された(Lucas,M.A.,Fretto,L.J.とMcKee,P.A.;J.Biol.Chem.258(7):4249−4256(1983))。これらの実験は、δ−プラスミノーゲンがフィブリンを結合し得ることを示す。
【0104】
従って、δ−プラスミノーゲンのリシン−セファロースとの相互作用、期待されるKdでεACAを結合するその能力、フィブリンを結合するその能力、全部の主要なプラスミノーゲン活性化物質により活性化されるその能力、および色素産生性のプラスミン基質S−2251に対するδ−プラスミンの効力は、全部、この分子が大腸菌(E.coli)系中で完全に機能的な形態で産生されたことを示した。
【0105】
δ−プラスミンの精製および製剤
10mM EDTAおよび0.15M NaClを含有する0.1Mトリス緩衝液、pH8.0に対し透析したδ−プラスミノーゲンを、本質的にプラスミンについて以前に記述された(Marder,V.J.ら、Thromb Haemost.、86(3):739−45(2001)(引用することにより組み込まれる))とおり、セファロース4Bに固定したウロキナーゼを使用して、δ−プラスミンに活性化した。活性化は室温で起こり、そしてS−2251の活性の増大によりリアルタイムでモニターした。バッチごとに変動した(典型的には1〜2mg/ml)δ−プラスミノーゲンの量に依存して、インキュベーション時間は30〜60分であった。S−2251の活性がプラトーに達した活性化の完了に際して、ウロキナーゼ−セファロースを濾過し、そして活性のδ−プラスミンをベンズアミジン−セファロース(Pharmacia)に捕捉した。δ−プラスミンは、低pH緩衝液(0.2Mグリシン、pH3.0、0.3M NaCl、0.2M εACA)を使用して樹脂から溶出した。
【0106】
溶出画分中のタンパク質濃度およびS−2251の活性を測定した。高特異的活性画分をプールし、そして0.15M NaCl、pH3.6の複数回の交換に対し4℃で透析した。非還元のδ−プラスミンサンプルのSDS−PAGE分析(図9、レーン3を参照されたい)は、この物質の純度が通常95%以上であることを示す。還元条件下(図9、レーン4)で、セリンプロテアーゼおよびクリングル鎖のほかに、クリングルのバンドの上および下に2本の淡いバンドが存在する。これらのバンドは、そのポリペプチド鎖の内的切断から生じるセリンプロテアーゼドメインの自己分解生成物を表し;それらは通常ジスルフィド結合により一緒に保持されるが、しかし還元条件下でのPAGEで見えるよう
になる。典型的には10%を超えなかった自己分解生成物の量は、ベンズアミジン−セファロース精製段階をカラム形式の代わりにバッチ様式で実施することにより大きく低下された。
【0107】
δ−プラスミンは完全長のプラスミンと同様に生理学的pHで自己分解する傾向があるため、最終製剤にpH3.6を選んだ(酢酸−生理的食塩水で酸性化する)。プラスミンについて以前に示され(Novokhatny,V.ら、J Thromb Haemost.、1(5):1034−41(2003)(引用することにより組み込まれる))かつδ−プラスミンを用いる実験で確認されたとおり、この低緩衝能力の低pH製剤は、長時間の活性のプラスミンの安全な貯蔵を可能にするのみならず、しかしまたこれらの直接血栓溶解薬の非経口投与とも適合性である。血漿若しくは中性のpH緩衝液と混合される場合に、δ−プラスミンは迅速に再活性化される。
【0108】
δ−プラスミンの酵素特性
δ−プラスミンのアミド分解活性を、プラスミン基質D−Val−Leu−Lys−p−ニトロアニリド(S−2251)(DiaPharma、オハイオ州ウエストチェスター)を使用して検査した。PBS緩衝液中pH7.4、25℃で、S−2251のMichaelis−Menten定数(Km)は138μMであることが見出された(表2)。該製剤のkcatは510min−1であることが見出された。4−グアニジノ安息香酸4−ニトロフェニル塩酸塩(pNPGB)滴定(Chase,T.とE.Shaw、Methods Enzymol.197:20−27(1970))を使用して、機能的活性部位のパーセントは67%であることが見出された。活性部位のパーセントについてkcatを補正して、755±45min−1のkcatを決定した。この値は、完全長のプラスミンについて(760±23min−1)およびマイクロプラスミン(全5個のクリングルを欠く)について(795±24min−1)同一アッセイで決定された値に非常に近かった(図9を参照されたい)。これらのデータは、クリングルの存在若しくは非存在が、セリンプロテアーゼドメインの触媒活性に影響を及ぼさないことを示す。
【0109】
α2−マクログロブリンによるδ−プラスミンの阻害速度を、Anonickらの方法(Anonick,P.ら、Thrombosis Res.59:449−462(1990))を使用して測定した。阻害速度は、PBS緩衝液中22℃で7.6±0.6×105M−1s−1であることが見出された。
【0110】
α2−アンチプラスミンによるδ−プラスミンの阻害速度は、プラスミンおよびα2−アンチプラスミンを混合し、その後特定の時間点でS−2251の活性についてアッセイするWimanとCollenの方法(Wiman,B.とD.Collen、Eur.J.Biochem.84:573−578(1978))を使用して、1.1×107M−1s−1であることが決定された(表3)。この値は、2.5×107M−1s−1(Anonickら、Thrombosis Res.59:449(1990)から)というプラスミンの報告値に匹敵する。
【0111】
マイクロプラスミンを用いて実施した同一の実験は、2回の別個の実験で1.8×105M−1s−1および3.1×105M−1s−1というα2−アンチプラスミン阻害速度を示した。ミニプラスミンのα2−アンチプラスミン阻害の速度(ミニプラスミンドメイン組成物、K5−SP)は2.4×105M−1s−1であることが決定された。これらのデータは、マイクロおよびミニプラスミンの文献値と合理的に一致し、そして、α2−アンチプラスミンによるδ−プラスミンの阻害がマイクロプラスミン若しくはミニプラスミンいずれかの阻害より40倍より速いことを示す。従って、これらの結果は、δ−プラスミンが、その構造中のクリングル1の存在によりα2−アンチプラスミンにより迅速に阻害されるはずであることを示す。
【0112】
全体として、この節に提示されるデータは、δ−プラスミンの酵素および阻害特性が完全長のプラスミンに類似であることを示す。
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
文献値はAnonickら、Thrombosis Res.59:449(1990)から採用している。全部の速度はAnonickらに発表された方法に従って測定した。
【0116】
in vitro血栓溶解効率
δ−プラスミンの血栓溶解効率を、以下の実験プロトコルを使用して、カテーテル補助(catheter−assisted)血栓溶解のin vitroモデル(Novokhatny,V.ら、J Thromb Haemost.、1(5):1034−41(2003)(引用することにより組み込まれる))で試験した。
【0117】
新鮮なヒト全血を20×0.95cmガラスチューブに収集し、そして添加物を用いずに自発的に凝固させた。チューブを37℃で20時間インキュベートして完全な収縮を可能にした。収縮した凝血塊を、14メッシュを伴う米国標準試験篩を使用して血清から分離し、そしてそれらの重量を測定した。血餅を、収縮させた凝血塊がきつく嵌るより小さい直径のガラスチューブ(0.8×7cm)に移した。凝血塊の平均重量は約3.6gであった。
【0118】
単一の1ml用量の酸性化した生理的食塩水、プラスミン若しくはδ−プラスミンを、シリンジを使用して凝血塊に注入した。凝血塊をTHELCO実験室オーブン(Jouan,Inc.、バージニア州ウィンチェスター)中37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後に凝血塊を再度篩の上に置いて液化した物質を除去し、そして消化された凝血塊の重量を測定した。凝血塊の溶解の程度を最初の凝血塊重量と残余の凝血塊の重量の間の差違から決定し、そして凝血塊重量の減少のパーセントとして表した。
【0119】
図10は、このモデルでのδ−プラスミンを用いた溶解実験の結果を示す。単一の0.44mg(モル濃度に基づき1mg/mlのプラスミンに同等)用量のδ−プラスミンの注入は、60分以内に36%の凝血塊重量の減少をもたらした。同時に、生理的食塩水を注入した凝血塊の重量は4%のみ減少した。プラスミン(1.0mg)は、同一の時間で50%の凝血塊重量の減少をもたらした。従って、これらのデータは、δ−プラスミンが血栓溶解効力を表し、そして直接血栓溶解剤として使用され得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】タンパク質分解的切断による活性化後の天然のプラスミンの図解である。K1−K5はクリングル領域1−5であり;また、SPはセリンプロテアーゼドメインである。「α2−AP」は、クリングル1のα2−アンチプラスミン結合部位である。
【図2】図1中と同一の命名法を使用しかつK2−5の欠失を示す、本発明のプラスミノーゲン欠失変異体の図解である。
【図3】−19ないし−1として番号付けされた19残基のリーダー配列、および残基1−791として示されるプラスミノーゲン配列を示す、ヒトプラスミノーゲンのアミノ酸配列を示す(図3に示されるところの配列番号3(ヒトプラスミノーゲンのcDNA配列;および配列番号4、コードされるアミノ酸配列を参照されたい)。以下、すなわちδ−プラスミノーゲン配列(影付);クリングルドメイン1−5(二重下線);グリコシル化部位Asn289およびThr346(太字で);プラスミノーゲン活性化のArg−Val活性化部位(太字で);ならびにクリングル1中のリシン結合部位(下線および特別の位置の番号付けで)を包含する多数の特徴を示す。
【図4】天然のヒトプラスミ(ノーゲ)ンの5個のクリングルドメイン(1−5)間のポリペプチド配列の比較を示す。クリングル1中の同一の相対位置のものに同一であるアミノ酸残基を下線で示す。
【図5】非還元(レーン1)および還元(レーン2)δ−プラスミノーゲン調製物の8−25%勾配SDS−PAGEを示す。ストレプトキナーゼ(レーン3)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)(レーン4)およびウロキナーゼ(レーン5)でのδ−プラスミノーゲンのδ−プラスミンへの活性化は、2個のジスルフィド架橋により結合されたクリングル1(K1)およびセリンプロテアーゼドメイン(SP)よりなる二本鎖分子の形成をもたらす。
【図6】ウロキナーゼによるδ−プラスミノーゲンの活性化の図解である。ウロキナーゼ(5.8nM)を、1.0mMのS−2251を含有するPBS中5μMのδ−プラスミノーゲンの溶液に37℃で添加した。吸光度の増大を405nmでモニターした。
【図7】リシン−セファロース4Bへのδ−プラスミノーゲンの結合を示すクロマトグラムである。すなわち、0.5mgの精製したδ−プラスミノーゲンを、トリス緩衝生理的食塩水、pH7.4で平衡化したリシン−セファロース4Bカラム(1×3cm)に適用した。結合したタンパク質は、ε−アミノカプロン酸(ε−ACA)の0〜20mM勾配により単一ピークとしてカラムから溶出された。280nmの吸光度、および溶出液容量の関数としてのε−ACAの濃度をグラフ上に提示する。
【図8】δ−プラスミノーゲンのフィブリンへの結合を示す。変動する濃度のδ−プラスミノーゲンを、マイクロタイタープレート中でフィブリン塊とともに37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後に塊をPBSで徹底的に洗浄し、そしてtPAの0.1mg/ml溶液を各ウェルに添加した。37℃での2時間インキュベーション後に液体を除去し、そして残存する固体の塊を100μlの1M NaOHで再構成した。残存するフィブリンの量を、これらの再構成した塊の280nmの吸光度を測定することにより定量した。フィブリンへのδ−プラスミノーゲンの結合の結果である線維素溶解の程度を、δ−プラスミノーゲン濃度の関数としてグラフにプロットした(実線)。点線は、結合方程式への実験データの最良適合を表す。
【図9】非還元(レーン1)および還元条件(レーン2)下の出発δ−プラスミノーゲン、ならびにまた非還元(レーン3)および還元(レーン4)条件下の最終的なδ−プラスミン調製物の8−25%勾配SDS−PAGEを示す。
【図10】酵素活性の対応する特徴付け(基質S−2251(D−Val−Leu−Lys−p−ニトロアニリド、DiaPharma Group,Inc.、オハイオ州ウエストチェスター)に関するkcatおよびKM)と一緒になったプラスミン、ミニプラスミン、マイクロプラスミンおよびδ−プラスミンの図解を示す。
【図11】収縮全血塊のδ−プラスミン誘発性の溶解の図解である。各凝血塊(0.8×7cm)に1ml容量のベヒクル(酸性化した生理的食塩水、pH3.6)、プラスミン(1.0mg/ml)若しくはδ−プラスミン(0.44mg/ml)を注入し、そして凝血塊の溶解を37℃で1時間進行させた。
【背景技術】
【0001】
ヒトプラスミノーゲンは、791アミノ酸残基を含有する一本鎖タンパク質である。プラスミノーゲンのプラスミンへの活性化は、酵素前駆体中のArg561−Val562ペプチド結合の単一切断から生じる。生じるプラスミン分子は、トリプシン様の特異性(LysおよびArgの後で切断する)をもつ二本鎖のジスルフィド結合したセリンプロテアーゼである。
【0002】
プラスミンのアミノ末端のH鎖(残基1−561、約60kDa)は、それぞれおよそ80アミノ酸残基を含有する5個のクリングルドメインから構成される。クリングルドメインは、活性化阻害剤例えばCl−1イオン;活性化刺激物質例えばε−アミノカプロン酸;哺乳動物および細菌細胞;ならびにプラスミンの生理学的基質フィブリンおよびプラスミン阻害剤α2−アンチプラスミンのような他のタンパク質との相互作用のようなプラスミノーゲンの調節特性を司る。全5個のクリングルのうち、クリングル1は最も多機能のものの1つであり、すなわち、そのリシン結合活性は、α2−アンチプラスミンおよびフィブリンとのプラスミンの相互作用を司ることが示されている。非特許文献1;および非特許文献2を参照されたい。
【0003】
プラスミンのC末端L鎖(残基562−791、約25kDa)は、トリプシンに相同かつ古典的セリンプロテアーゼの触媒性三つ組残基すなわちHis603、Asp646およびSer741を含有する典型的なセリンプロテアーゼである。プラスミノーゲンは、24個のジスルフィド架橋、ならびにAsn289およびThr346の2個のグリコシル化部位を含有する。
【0004】
エラスターゼによるプラスミノーゲンの制限タンパク質分解が3フラグメントをもたらすことが示されている(非特許文献3)。第一のフラグメントK1−3は最初の3クリングルを包含し、そして2バージョンすなわちTyr79−Val338およびTyr79−Val354で単離され得る。第二のフラグメントK4は第四のクリングルに対応し、そして残基Val355−Asn440を包含する。最後のC末端フラグメント(いわゆるミニプラスミノーゲン)は残基Val443−Asn791を包含し、そして第五のクリングルおよびセリンプロテアーゼドメインよりなる。ミニプラスミノーゲンはプラスミノーゲンと同一の方法で活性化されてミニプラスミンを形成し得る。
【0005】
完全長のプラスミノーゲン分子の複雑な構造のため、細菌発現系は組換えプラスミノーゲン産生に有用と判明していない。プラスミノーゲンは不溶性の封入体の形態で産生され、そしてその状態から再フォールディング可能でない。さらに、哺乳動物細胞中でのプラスミノーゲンの発現は、プラスミノーゲンのプラスミンへの細胞内活性化および生じる細胞傷害性により複雑にされる。昆虫細胞を使用する完全に活性なプラスミノーゲンの産生は可能であるが、しかしながらこの系は低収量により大スケール製造に適さない。
【0006】
従って、ある種の負の特徴を欠きかつ昆虫細胞中で実質的な量での産生が可能である一方で、プラスミン/プラスミノーゲンの望ましい特徴を有する、改変された組換えタンパク質が望ましい。
【非特許文献1】Wiman,B.ら、Biochim.Biophys.Acta 579:142−154(1979)
【非特許文献2】Lucas,M.A.ら、J.Biol.Chem.258:4249−4256(1983)
【非特許文献3】Sottrup−Jensen,L.ら、Prog.Chem.Fibrinol.Thrombol.、3:191−209(1978)
【発明の開示】
【0007】
[発明の要約]
本発明は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドを提供し;該ポリペプチドは固定されたリシンに結合する。該N末端クリングルドメインは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同であり得る。
【0008】
いくつかの態様において、コードされるポリペプチドは、配列番号2に示される配列に最低90%、95%若しくは98%同一である。さらに、コードされるポリペプチドは配列番号2に示される配列であり得る。
【0009】
該ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、配列番号1に示される配列、若しくはその縮重バリアントであり得る。該ヌクレオチド配列は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに相同なN末端クリングルドメイン;ならびに、ヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部分およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドをコードし得る。該ヌクレオチド配列はまた、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに最低90%同一な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲンの活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインに最低90%同一なC末端ドメインを有するポリペプチドもコードし得る。コードされるポリペプチドは固定されたリシンを結合し得る。
【0010】
別の局面において、本発明は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同なN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドを提供する。
【0011】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同な1個のN末端クリングルドメインを有し得る。
【0012】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、α2−アンチプラスミンによるミニプラスミンの線維素溶解活性の阻害速度より最低約5倍より速い速度でα2−アンチプラスミンにより阻害される線維素溶解活性を表し得る。α2−アンチプラスミンによる阻害速度はまた、ミニプラスミンの阻害の速度より最低約10倍、20倍、30倍若しくは40倍より速いこともできる。
【0013】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは固定されたリシンを結合し得る。固定されたリシンは、リシン−アガロース、リシン−BIOGEL(BioRad、カリフォルニア州ハーキュリーズ)、リシン−HYPERD(Pall Life Sciences、ニューヨーク州イーストヒルズ、リシン−ヒドロゲル)、リシン−セファロース(セファロースは架橋アガロースである)よりなる群から選択される固体支持体マトリックスに結合されたリシンであり得る。固定されたリシンはリシン−セファロースであり得る。
【0014】
いくつかの態様において、該ポリペプチドはミニプラスミンのフィブリノーゲンに対する結合親和性より低いフィブリノーゲンに対する結合親和性を表し得る。
【0015】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、ミニプラスミンの部分的に切断されたフ
ィブリンに対する結合親和性より高い、部分的に切断されたフィブリンに対する結合親和性を表し得る。
【0016】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、プラスミノーゲン活性化部位およびプラスミノーゲンセリンプロテアーゼドメインに対しN末端に位置する単一のクリングルドメインを有し得、該クリングルドメインは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル5とよりも天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4との最低1残基より大きいアミノ酸配列の同一性を有する。これらの態様について、ヒトプラスミノーゲンのクリングル1および4の天然の配列に関しての本発明のポリペプチドのクリングル領域の保存的置換が、クリングル5との同一性比較の目的上天然の配列と異なると考えられないとみられることが理解されるであろう。
【0017】
いくつかの態様において、該ポリペプチドは、配列番号2に示されるところのアミノ酸配列およびその保存的置換を有し得る。該ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の位置76(アルギニンである)の相対位置に類似の相対位置に1残基を有し得る。
【0018】
別の局面において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含んでなるベクター、および該ベクターを含んでなる培養宿主細胞を包含する。
【0019】
[発明の詳細な記述]
完全長プラスミンのフィブリンおよびアンチプラスミン結合特性を有する単純なグリコシル化されていない分子を提供するため、本発明はプラスミノーゲンの欠失変異体を提供する。本明細書でδ−プラスミノーゲンと称される本変異体中で、クリングル1に相同なドメインと活性化部位の間の天然のアミノ酸配列の少なくとも一部分が欠失されている。一局面において、ヒトプラスミノーゲンの天然のクリングル1ドメインに相同なドメインを、実質的に、該ドメイン間に残存するプラスミノーゲン活性化部位を含有する介在する天然の配列のみを用い、プラスミノーゲンのセリンプロテアーゼ部分、若しくはその相同な機能的アナログに直接結合し得る。
【0020】
本発明のδ−プラスミ(ノーゲ)ンは:より低分子量(37,198Da)のδ−プラスミンが、増大された比活性(タンパク質1mgあたり)をもたらし得;天然のタンパク質中で見出される最低2個のグリコシル化部位の欠如(図3を参照されたい)が、比較的低分子量と組合さって、比較的安価な細菌および酵母発現系を使用するこのタンパク質の組換え産生を助長し得;δ−プラスミノーゲンが、プラスミノーゲンアクチベーターtPA、ウロキナーゼおよびストレプトキナーゼにより活性化され得;天然のクリングル1に相同なドメインの存在が、血栓溶解効果に重要であり得るプラスミンのフィブリン結合特性を保存し;クリングル1に相同なドメイン上のα2−アンチプラスミン結合部位の存在が、δ−プラスミンがプラスミンのこの生理学的阻害剤により迅速に阻害される(出血を予防し得る特徴)ことを可能にし得;より小さい大きさのδ−プラスミンが、α2−マクログロブリンによるその阻害を助長して出血の合併症の機会を天然のプラスミンに関してさらに少なくし得る、ことを特徴とし得る。特定の態様において、無傷の消化されないフィブリ(ノーゲ)ンに対する主要な結合部位を保持するクリングル5の非存在は、循環するフィブリノーゲンの低下された枯渇を伴うδ−プラスミンの使用を可能にし得る。
【0021】
一般に、本発明は、ミニプラスミ(ノーゲ)ンに関してある種の利点を有する、活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインに対しN末端の単一のクリングル領域を有する組換えプラスミ(ノーゲ)ン分子を提供する。本発明のδ−プラスミノーゲンポリペプチドは、活性化部位に対しN末端のもののような1個のクリングル領域を有するのみとは言え、いくつかの態様は活性化部位に対しN末端の付加的な配列を包含する。付加的なN末端配列はプラスミノーゲンの天然のクリングル領域のものに由来し得る。
【0022】
本発明のN−末端クリングルドメインは、天然のプラスミ(ノーゲ)ンおよびその機能的同等物のクリングル1および4のクリングル配列を包含する。とりわけ、リシン結合に参画するか若しくは影響する残基の保存を包含するポリペプチドバリアント中の機能の保存に関する指針を提供する下の論考を参照されたい。
【0023】
定義
ポリペプチドの「ドメイン」および「領域」という用語は、別の方法で逆に示されない限り、本明細書で使用されるとおり一般に同義である。「クリングル」若しくは「セリンプロテアーゼ」などのような十分に認識された構造若しくは機能の呼称と一緒に列挙される場合、こうした用語は、こうした呼称に対応するポリペプチド構造に関連することが普遍的に認識かつ理解される、少なくとも何らかの特徴(1種若しくは複数)に関するポリペプチドの特徴を紹介することができる。
【0024】
本明細書で使用されるところの「培養宿主細胞」は、いずれかの手段、例えば電気穿孔法、リン酸カルシウム沈殿、微小注入法、形質転換、ウイルス感染などにより細胞に導入された異種DNAを含有する原核生物若しくは真核生物細胞を指す。
【0025】
本明細書で使用されるところの「異種」は、「異なる天然の起源のもの」すなわち非天然の状態を表すことを意味している。例えば、培養宿主細胞を別の生物体、とりわけ別の種由来のDNA若しくは遺伝子で形質転換する場合、その遺伝子は、その培養宿主細胞に関して、およびその遺伝子を運搬する培養宿主細胞の子孫に関してもまた異種である。同様に、「異種」は、同一の天然の元の細胞型由来かつそれに導入されたが、しかし非天然の状態、例えば異なるコピー数若しくは異なる調節エレメントの制御下で存在するヌクレオチド配列を指す。
【0026】
「ベクター」分子は、異種核酸を挿入し得その後適切な培養宿主細胞に導入し得る核酸分子である。ベクターは、好ましくは1個若しくはそれ以上の複製起点、および組換えDNAを挿入し得る1個若しくはそれ以上の部位を有する。ベクターは、しばしば、ベクターを含む細胞を含まないものから選択し得る便宜的手段を有し、例えばそれらは薬剤耐性遺伝子をコードする。普遍的なベクターはプラスミド、ウイルスゲノムならびに(主として酵母および細菌中で)「人工染色体」を包含する。
【0027】
本明細書で使用されるところの「転写制御配列」という用語は、それらが作動可能に連結されているタンパク質をコードする核酸配列の転写を誘導、抑制若しくは別の方法で制御する、イニシエータ配列、エンハンサー配列およびプロモーター配列のような核酸配列を指す。
【0028】
「ポリペプチド」という用語は、「ペプチド」および「タンパク質」という用語と本明細書で互換性に使用される。
【0029】
「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は本明細書で互換性に使用され、そして、文脈により示される目的上必要な情報を含有するいかなる核酸も指すことができる。すなわち、該核酸は、該ポリマーが例えばコードされるペプチドに関して適切な情報を表すことが可能でありかつ相補配列、例えば核酸ポリマーのセンス鎖およびアンチセンス鎖を包含し得る限り、一本鎖若しくは二本鎖いずれかのDNA若しくはRNA、または他の核酸であり得る。
【0030】
ポリペプチドの「バリアント」という用語は、1個若しくはそれ以上のアミノ酸により変えられているアミノ酸配列を指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造若
しくは化学特性を有する「保存的」変化、例えばイソロイシンでのロイシンの置換を有し得る。あるいは、バリアントは「非保存的」変化、例えばグリシンのトリプトファンでの置換を有し得る。類似の小さな変動は、アミノ酸の欠失若しくは挿入、または双方もまた包含し得る。「バリアント」ポリペプチドの特定の一形態は「機能的に同等な」ポリペプチド、すなわち、より詳細に下述されるところの本発明のポリペプチドの例と実質的に類似のin vivo若しくはin vitro活性を表すポリペプチドである。どのアミノ酸残基を生物学的若しくは免疫学的活性を除外することなく置換、挿入若しくは欠失し得るかの決定における指針は、当該技術分野で公知のコンピュータプログラム、例えばDNASTARソフトウェア(DNASTAR,Inc.、ウィスコンシン州マディソン)を使用して見出し得る。さらに、引用することにより本明細書に完全に組み込まれる引用される参考文献内に提供されるものを包含する特定の指針が下に提供される。
【0031】
「N末端の」および「C末端の」という用語は、それらが適用されるいずれかのアミノ酸配列若しくはポリペプチドのドメイン若しくは構造の相対位置を指定するのに本明細書で使用する。相対位置決めは文脈から明らかであろう。すなわち、「N末端の」特徴は、同一の文脈で論考される別の特徴よりも該ポリペプチド分子のN末端に少なくともより近くに位置することができる(他の可能な特徴は第一の特徴に対し「C末端の」と称される)。同様に、「5’−」および「3’−」という用語を、ポリヌクレオチドの特徴の相対位置を指定するのに本明細書で使用し得る。
【0032】
「天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な」N末端ドメインを有すると本明細書で称されるδ−プラスミノーゲン/プラスミンポリペプチドは、プラスミノーゲンの天然のクリングルドメインに類似の構造および機能の特徴を表す。さらに、「クリングル1に相同な」N末端ドメインを有すると本明細書で称されるδ−プラスミノーゲン/プラスミンポリペプチドは、少なくとも、該ポリペプチドがクリングル5よりも高いω−アミノカルボン酸(およびtrans−4−アミノメチルシクロヘキサン−1−カルボン酸(ある環状酸)のような機能的ホモログ)に対する親和性を有し得る程度まで、天然のクリングル1に類似の特徴を表す。5−アミノペンタン酸(5−APnA);ε−アミノカプロン酸(εACA)としてもまた知られる6−アミノヘキサン酸(6−AHxA);7−アミノヘプタン酸(7−AHpA);およびtrans−4−アミノメチルシクロヘキサン−1−カルボン酸(t−AMCHA)への単離されたクリングルドメインポリペプチドの結合の比較のための条件およびプロトコルについては、例えばChang,Y.ら、Biochemistry 37:3258−3271(1998)を参照されたい。
【0033】
「クリングル4に相同な」クリングルドメインへの言及は、「クリングル1に相同な」という句に関して上で示されたと同様に定義される。すなわち、それらは、上で論考されたところの天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1に類似の機能的特徴を表す。これらのポリペプチドもまた、上述されたとおり、固定されたリシンを結合する。
【0034】
本発明のポリペプチドは固定されたリシンを結合する。本明細書で使用されるところの「固定されたリシンを結合すること」という句は、そのように特徴づけられるポリペプチドが、クロマトグラフィー媒体としてリシン−セファロースを使用するカラムクロマトグラフィーにかけられる場合に、ミニプラスミノーゲンに関してそれらの進行が遅らされることを意味している。典型的には、本発明のポリペプチドは、特異的リガンド、例えばεACAを含有する溶液を溶離液として使用して、こうしたクロマトグラフィー媒体(リシンアフィニティー樹脂)から溶出され得る。
【0035】
さらに、Changら、上記に加え、本発明の範囲内の欠失変異体を生じるための保存的若しくは非保存的置換、欠失若しくは付加によりどの残基が変えられ得るかを決定する
ために、他の参考文献が当業者により調べられ得る。例えば、以下の参考文献は、ωアミノカルボン酸の結合に重要でありうる天然のクリングルドメインの特定の残基に関する情報を提供する:Jiらへの米国特許第6,538,103号明細書;Suzukiへの米国特許第6,218,517号明細書;Douglas,J.T.ら、Biochemistry 41(10):3302−10(2002);Zajicek,J.ら、J.Mol.Biol.、301(2):333−47(2000);Lee,H.ら、Arch Biochem Biophys.、375(2):359−63(2000);Castellino,F.とS.McCance、Ciba Found Symp.212:46−60(1997);McCance,S.ら、J.Biol.Chem.、269:32405−32410(1994);Rejante,M.R.とM.Llinas、Eur.J.Biochem.、221(3):939−49(1994);Wu,T.P.ら、Blood Coagul.Fibrinolysis、5(2):157−66(1994);Hoover,C.J.ら、Biochemistry、32(41):10936−43(1993);Menhart,N.ら、Biochemistry、32:8799−8806(1993);Thewes,T.ら、J.Biol.Chem.、265(7):3906−3915(1990);Novokhatny,V.ら、Thromb Res.、53(3):243−52(1989);Motta,A.ら、Biochemistry、26(13):3827−36(1987);Novokhatny,V.ら、J.Mol.Biol.、179:215−232(1984);Lerch,P.G.ら、Eur.J.Biochem.、107(1):7−13(1980);Sottrup−Jensen,L.ら、Prog.Chem.Fibrinol.Thrombol.、3:191−209(1978);およびWiman,B.とD.Collen、Nature 272、549−545(1978)(全部はそっくりそのまま引用することにより本明細書に組み込まれる)。
【0036】
本発明者は、(本明細書に記述されるところの固定されたリシンの結合について試験することにより部分的に評価し得る)有利な機能的特徴を有するN末端クリングルドメインを有する価値のある単純化されたプラスミ(ノーゲ)ン分子を製造し得ることを認識したため、本発明は、活性化部位に対しN末端の他のフィブリン結合ドメイン若しくは領域を包含し得る。例えば、本発明は、プラスミンのセリンプロテアーゼドメインが、限定されるものでないがヒトプラスミノーゲンのクリングル4、tPAのクリングル2若しくはアポリポタンパク質(a)のクリングルを挙げることができる群から選択されるフィブリン結合クリングルに結合されているポリペプチドを包含し得る。さらに、本発明は、プラスミンのセリンプロテアーゼドメインが、tPA若しくはフィブロネクチンの「フィンガー」ドメインまたはフィブリン特異的IgGのFABフラグメントのようないずれかの他の既知のフィブリン結合モジュールに結合されているポリペプチドを包含し得る。
【0037】
特定の態様において、δ−プラスミノーゲンのN末端クリングルドメインのある位置の残基は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1に関して保存されている。これらはリシン結合に関連する位置の残基であり得、そして、Pro136−Pro140、Pro143−Tyr146およびArg153−Tyr156(図3に示されるとおり番号付けされる位置)を包含する。本発明のδ−プラスミノーゲンのいくつかの態様は、位置153にArgを有し得る。他の態様において、命名される残基の特定の位置は、構造的および機能的に類似の位置(すなわちN末端ドメインのクリングル構造に関して;上で論考されたところのChang,Y.らを参照されたい)になお存在しつついくぶん変動し得る。いくつかの態様において、δ−プラスミ(ノーゲ)ンポリペプチドのN末端クリングル領域は、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル5とよりも最低1残基より大きい、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4との同一性パーセントを有する。
【0038】
加えて、本発明の特定の態様は、類似のドメイン組成すなわちクリングル−セリンプロテアーゼ(K−SP)を有するミニプラスミ(ノーゲ)ンと対照的に、機能的に特徴付け得る(Sottrup−Jensen,L.ら、Progress in Chemical Fibrinolysis and Thrombolysis、Vol.3、(編:J.F.Davidsonら)Raven Press、ニューヨーク(1978)を参照されたい)。好ましい態様において、本発明のδ−プラスミンは、例えば、ミニプラスミンの阻害速度よりも約1若しくは2桁より速いと同じくらいのα2−アンチプラスミンによる阻害の増大された速度を表す。さらに、特定の態様において、δ−プラスミンは固定されたリシン(例えばリシン−セファロース)を結合する。
【0039】
「N末端の」としてのδ−プラスミノーゲンのクリングルドメインの特徴付けは、該ドメインが活性化部位に対しN末端に存在することのみを意味し、そして、該ドメインそれ自身に対しN末端の付加的なアミノ酸残基が存在しないことを意味しない。さらに、プラスミノーゲンのクリングル1に相同なドメインと活性化部位の間に置かれた残基の数および同一性は、本発明の範囲から離れることなく変動させ得る。当業者は、クリングル1の機能および構造に関する指針についての本明細書の開示および本明細書に引用される参考文献に基づき、過度の実験を伴わずに本発明の利益(欠失変異体の大きさの実質的な増大若しくは潜在的に問題の多いグリコシル化部位の導入を伴わないωアミノカルボン酸のクリングル1様の結合)を達成するこれらの変形物を決定することが可能であろう。
【0040】
従って、本発明は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、該ポリペプチドの組換え製造方法、該ポリヌクレオチドを含有するベクター、該ポリペプチドを産生するための発現系、およびこうした発現系を含んでなる培養宿主細胞に関する。
【0041】
示されたとおり、一局面において、本発明は、本明細書に開示されるポリペプチド若しくはその保存的アミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。「保存的」アミノ酸置換の選択に関する指針は下により詳細に提供される。一態様において、ポリヌクレオチドはDNAである。
【0042】
別の局面において、本発明は、ベクター中に本発明のポリヌクレオチドを挿入することを含んでなるベクターの作成方法に関する。別の局面において、本発明は本発明の方法により製造されるベクターに関する。
【0043】
別の局面において、本発明は、本発明のベクターを培養宿主細胞に導入することを含んでなる培養宿主細胞の作成方法に関する。別の局面において、本発明は本発明の方法により製造される培養宿主細胞に関する。
【0044】
別の局面において、本発明は:(a)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなるベクターを培養宿主細胞に導入すること;(b)該宿主細胞を培養すること;および(c)ポリペプチドを回収することを含んでなる方法により製造される、本発明の単離されたポリペプチドに関する。別の局面において、本発明は:(a)ベクターが発現される条件下で本発明の宿主細胞を培養すること;および(b)ポリペプチドを回収することを含んでなる、ポリペプチドの製造方法に関する。
【0045】
別の局面において、本発明は本発明の最低1種のポリヌクレオチドを含有する細胞に関する。
【0046】
一態様において、ポリヌクレオチドは配列番号1に示されるところのヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、ポリペプチドは、配列番号2に示されるところのアミノ酸配列を含んでなる。
【0047】
ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、1個若しくはそれ以上のヌクレオチドを巻き込み得る置換、欠失および/若しくは付加を有するバリアントを包含する。バリアントはコーディング領域、非コーディング領域若しくは双方で変えることができる。コーディング領域中の変化は、保存的若しくは非保存的なアミノ酸の置換、欠失若しくは付加を生じ得る。δ−プラスミ(ノーゲ)ンタンパク質若しくはその部分の特性および活性を変えない、サイレント置換、付加および欠失が、これらのうちでとりわけ好ましい。この点に関して、保存的置換(下を参照されたい)もまたとりわけ好ましい。
【0048】
本発明のさらなる態様は、(a)配列番号2の完全なアミノ酸配列を有するδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;(b)配列番号2中のアミノ酸配列を有するδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;および(c)上の(a)若しくは(b)のヌクレオチド配列のいずれかに相補的なヌクレオチド配列に最低90%同一、およびより好ましくは最低95%、96%、97%、98%若しくは99%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含んでなる核酸分子を包含する。
【0049】
δ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードする参照ヌクレオチド配列に少なくとも例えば95%「同一な」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドにより、該ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、該ポリヌクレオチド配列がδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードする参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5個までの点突然変異を包含し得ることを除き、参照配列に同一であることを意図している。言い換えれば、参照ヌクレオチド配列に最低95%同一なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中のヌクレオチドの5%までを欠失若しくは別のヌクレオチドで置換し得るか、または、参照配列中の全ヌクレオチドの5%までのある数のヌクレオチドを参照配列に挿入し得る。参照配列のこれらの突然変異は、参照ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置に、あるいは、参照配列中のヌクレオチドの間に個別にまたは参照配列内の1個若しくはそれ以上の連続する群中のいずれかに散在して、それらの末端位置の間のどこかに存在し得る。
【0050】
上で示されたとおり、2種若しくはそれ以上のポリヌクレオチド配列を、それらの同一性パーセントを決定することにより比較し得る。2種若しくはそれ以上のアミノ酸配列を、同様に、それらの同一性パーセントを決定することにより比較し得る。2配列(核酸であろうとペプチド配列であろうと)の同一性パーセントは、一般に、より短い配列の長さにより除算しかつ100により乗算した、2種の整列した配列の間の正確な一致の数として記述される。核酸配列の適切なアライメントは、SmithとWaterman、Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981)の局所相同性アルゴリズムにより提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff、Atlas of Protein Sequences and Structure、M.O.Dayhoff編、5 suppl.3:353−358、国立生物医学研究財団(National Biomedical Research Foundation)、米国ワシントンDCにより開発されかつGribskov、Nucl.Acids Res.14(6):6745−6763(1986)により正規化されたスコアリングマトリックスを使用して、ペプチド配列での使用に拡張し得る。核酸およびペプチド配列についてのこのアルゴリズムの実行は、Genetics Computer Group(ウィスコンシン州マディソン)によりそれらのBESTFITユーティリティアプリケーションで提供される。この方法のデフォルトのパラメータは、Wisconsin配列分析パッケージプログラムマニュアル、バージョン8(1995)(Genetics Computer Group、ウィスコンシン州マディソンから入手可能)に記述されている。
【0051】
もちろん、遺伝暗号の縮重により、当業者は、配列番号1に示される核酸配列の核酸配列に最低90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一な配列を有する多数の核酸分子がδ−プラスミノーゲンポリペプチドをコードすることができることを即座に認識するであろう。事実、これらのヌクレオチド配列の縮重バリアントは全部同一のポリペプチドをコードするため、これは、本明細書に記述されるいかなる機能アッセイ若しくは測定も実施することさえなく当業者に明らかであろう。縮重バリアントでないこうした核酸分子について、合理的な数もまたδ−プラスミノーゲンポリペプチド活性を有するポリペプチドをコードすることができることが、当該技術分野でさらに認識されるであろう。これは、タンパク質の機能に有意に影響を及ぼすことがより少なさそうであるか若しくは全くありそうでないかのいずれかであるアミノ酸置換(例えば1個の脂肪族アミノ酸を第二の脂肪族アミノ酸で置換すること)を当業者が十分に知っているからである。
【0052】
最近、より長いポリヌクレオチド配列の合成製造の進歩が、伝統的なクローニング技術の使用を伴わずに有意により長いポリペプチドをコードする核酸の合成製造を可能にした。こうしたサービスの商業的提供元はBlue Heron,Inc.、ワイオミング州ボセル(http://www.blueheronbio.com)を包含する。Blue Heron,Incにより利用される技術は、米国特許第6,664,112号;同第6,623,928号;同第6,613,508号;同第6,444,422号;同第6,312,893号;同第4,652,639号明細書;米国特許出願公開第20020119456A1号;同第20020077471A1号明細書;ならびに公開国際特許出願(公開番号)第WO03054232A3号;同第WO0194366A1号;同第WO9727331A2号;および同第WO9905322A1号(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)に記述されている。
【0053】
もちろん、分子生物学、微生物学および組換え核酸の伝統的技術もまた、本発明のポリヌクレオチドを製造するのに使用し得る。これらの技術は公知であり、そして、例えば、Current Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausebel編、Vol.I、IIおよびIII(1997);Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(1989);DNA Cloning:A Practical Approach、D.N.Glover編、Vol.IおよびII(1985);Oligonucleotide Synthesis、M.L.Gait編(1984);Nucleic Acid Hybridization、HamesとHiggins編(1985);Transcription and Translation、HamesとHiggins編(1984):Animal Cell Culture、R.I.Freshney編(1986);Immobilized Cells and Enzymes、IRL Press(1986);Perbal、“A Practical Guide to Molecular Cloning”;Methods in Enzymologyシリーズ、Academic Press,Inc.(1984);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells、J.H.MillerとM.P.Calos編、Cold Spring Harbor Laboratory(1987);およびMethods in Enzymology、それぞれWuとGrossmanおよびWu、Vol.154および155(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)に説明されている。
【0054】
ベクターおよび培養宿主細胞
本発明はまた、本発明の単離された核酸分子を包含するベクター、該組換えベクターで
遺伝子的に工作されている培養宿主細胞、および組換え技術によるδ−プラスミ(ノーゲ)ンポリペプチドの製造にも関する。
【0055】
組換え構築物は、感染、形質導入、トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、電気穿孔法および形質転換のような公知の技術を使用して培養宿主細胞に導入し得る。ベクターは、例えばファージ、プラスミド、ウイルス若しくはレトロウイルスベクターであり得る。レトロウイルスベクターは複製コンピテント若しくは複製欠損であり得る。後者の場合、ウイルスの増殖は、一般に、補完する培養宿主細胞中でのみ起こることができる。
【0056】
ポリヌクレオチドは、培養宿主中での増殖のための選択可能なマーカーを含有するベクターに結合し得る。一般に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿のような沈殿物、若しくは荷電した脂質との複合体中で導入する。ベクターがウイルスである場合、適切なパッケージング細胞株を使用してそれをin vitroでパッケージングし得、そしてその後培養宿主細胞に形質導入し得る。
【0057】
目的のポリヌクレオチドに対しcis作用性の制御領域を含んでなるベクターが好ましい。適切なtrans活性化因子は、培養細胞により供給され得るか、補完するベクターにより供給され得るか、若しくは培養宿主中への導入に際してベクターそれ自身により供給され得る。
【0058】
ある態様においては、この点に関して、ベクターは、誘導可能かつ/若しくは細胞型特異的であり得る特異的発現を提供する。温度および栄養素添加物のような操作するのが容易である環境因子により誘導可能なものが、こうしたベクターのなかでとりわけ好ましい。
【0059】
本発明で有用な発現ベクターは、染色体、エピソーム、およびウイルス由来ベクター、例えば細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体要素由来のベクター、バキュロウイルス、パポーバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、禽痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルスおよびレトロウイルスのようなウイルス、ならびにコスミドおよびファージミドのようなそれらの組合せ由来のベクターを包含する。
【0060】
DNA挿入物は、いくつかを挙げれば、ファージλ PLプロモーター、大腸菌(E.coli)のlac、trpおよびtacプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、ならびにレトロウイルスのLTRのプロモーターのような適切なプロモーターに効果的に連結すべきである。他の適するプロモーターは当業者に既知であろう。発現構築物は、転写開始、終止の部位、および転写された領域中に翻訳のためのリボソーム結合部位をさらに含有することができる。構築物により発現される成熟転写物のコーディング部分は、好ましくは、最初の翻訳開始部および翻訳されるべきポリペプチドの端に適切に配置された終止コドン(UAA、UGA若しくはUAG)を包含することができる。
【0061】
示されるとおり、発現ベクターは好ましくは最低1個の選択可能なマーカーを包含することができる。こうしたマーカーは、真核生物の細胞培養物のためのジヒドロ葉酸還元酵素若しくはネオマイシン耐性、ならびに大腸菌(E.coli)および他の細菌での培養のためのテトラサイクリン若しくはアンピシリン耐性遺伝子を包含する。適切な培養宿主の代表的な例は、限定されるものでないが、大腸菌(E.coli)、放線菌類(Streptomyces)およびネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)細胞のような細菌細胞;酵母細胞のような真菌細胞;ショウジョウバエ(Drosophila)S2およびスポドプテラ属(Spdoptera)Sf9細胞のような昆虫細胞;CHO、COSおよびBowes黒色腫細胞のような動物細胞;ならびに植物
細胞を挙げることができる。上述の培養宿主細胞に適切な培地および培養条件は当該技術分野で公知である。
【0062】
細菌での使用に好ましいベクターには、Qiagen,Inc.、カリフォルニア州バレンシアから入手可能なpQE70、pQE60およびpQE−9;Stratagene、カリフォルニア州ラホヤから入手可能なpBSベクター、PHAGESCRIPTベクター、BLUESCRIPTベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;ならびにPharmacia(現在Pfizer,Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク)から入手可能なptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5を包含する。Stratageneから入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1およびpSG;ならびにPharmaciaから入手可能なpSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVLが好ましい真核生物ベクターのひとつである。他の適するベクターは当業者に容易に明らかであろう。
【0063】
本発明での使用に適する細菌プロモーターは、大腸菌(E.coli)lacIおよびlacZプロモーター、T3およびT7プロモーター、gptプロモーター、λ PRおよびPLプロモーター、ならびにtrpプロモーターを包含する。適する真核生物プロモーターは、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のもののようなレトロウイルスのLTRのプロモーター、ならびにマウスメタロチオネイン−Iプロモーターのようなメタロチオネインプロモーターを包含する。
【0064】
培養宿主細胞へのベクター構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介性トランスフェクション、陽イオン性脂質媒介性トランスフェクション、電気穿孔法、形質導入、感染若しくは他の方法により遂げることができる。こうした方法は、Davisら、Basic Methods in Molecular Biology、第2版(1995)のような多くの標準的実験室手引書に記述されている。
【0065】
高等真核生物による本発明のポリペプチドをコードするDNAの転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することにより増大させ得る。エンハンサーは、所定の培養宿主細胞型中でのプロモーターの転写活性を増大させるように作用する、通常約10から300bpまでのDNAのcis作用性要素である。エンハンサーの例は、bp100ないし270の複製起点の後側(late side)に位置するSV40エンハンサー、サイトメガロウイスル初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーを包含する。
【0066】
小胞体の管腔、細胞膜周辺腔若しくは細胞外環境への翻訳されたタンパク質の分泌のため、適切な分泌シグナルを発現されるポリペプチドに組込み得る。該シグナルは該ポリペプチドに対し内因性であり得るか、若しくはそれらは異種シグナルであり得る。
【0067】
ポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で発現させ得、そして分泌シグナルのみならず、しかし付加的な異種機能的領域もまた包含し得る。例えば、培養宿主細胞中、精製の間、若しくはその後の取扱および貯蔵の間の安定性および難分解性を向上させるために、付加的なアミノ酸、とりわけ荷電したアミノ酸の一領域をポリペプチドのN末端に付加し得る。また、精製を容易にするためにペプチド部分をポリペプチドに付加し得る。こうした領域はポリペプチドの最終精製前に除去し得る。とりわけ、分泌若しくは排出を発生させるため、安定性を向上させるため、および精製を容易にするためのポリペプチドへのペプチド部分の付加は、当該技術分野で馴染みがありかつ慣例の技術である。好ましい融合タンパク質は、タンパク質を可溶化するのに有用である免疫グロブリンからの異種領域を含んでなる。例えば、第EP 0 464 533 A1号(カナダの対照物第2,045,869号)は、別のヒトタンパク質若しくはその部分と一緒になって免疫グロブリン分子の定常領域の多様な部分を含んでなる融合タンパク質を開示する。多くの場合、融合タンパク質中のFc部分は治療および診断での使用のため全面的に有利であり、そして、従って、例えば改良された薬物動態特性をもたらす。他方、いくつかの用途について、融合タンパク質を記述された有利な様式で発現、検出かつ精製した後にFc部分を欠失させることが可能であることが望ましいとみられる。これは、Fc部分が治療および診断で使用するための妨害であることが判明している場合、例えば免疫化のための抗原として該融合タンパク質を使用するはずである場合に真実である。例えば薬物発見において、ハイスループットスクリーニングアッセイの目的上、ヒトタンパク質がFc部分と融合された(hIL−5のアンタゴニストを同定するためのhIL5受容体のような)。Bennett,D.ら、J.Molecular Recognition、8:52−58(1995)およびJohanson,K.ら、J.Biol.Chem.、270(16):9459−9471(1995)を参照されたい。
【0068】
δ−プラスミノーゲンタンパク質は、本明細書の実施例にとりわけ記述されるものを包含する公知の方法により組換え細胞培養物から回収かつ精製し得る。本発明のポリペプチドは、天然の精製された産物、化学合成処置の生成物、ならびに例えば細菌、酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物細胞を包含する原核生物若しくは真核生物の培養宿主から組換え技術により製造された生成物を包含する。加えて、本発明のポリペプチドはまた、いくつかの場合には宿主媒介性の過程の結果として、最初の修飾メチオニン残基も包含し得る。
【0069】
ポリペプチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドの変形物および特定の例をコードするものを包含する。例えば、表現型上サイレントのアミノ酸置換の作成方法に関する指針はBowie,J.U.ら、“Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions,”Science 247:1306−1310(1990)に提供され、ここで著者はタンパク質が驚くべきことにアミノ酸置換に寛容であることを示している。本発明の範囲内のいかなる数の置換もこうした一般的原則の応用により得ることができるとは言え、置換に関する特定の指針について、クリングル1ドメインの構造および機能に関する本明細書で引用される参考文献が当業者により調べられ得る。
【0070】
使用される基準に依存して、δ−プラスミノーゲンポリペプチドのクリングル1、活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインの正確な「位置」は、本発明の範囲内の特定の変形物でわずかに異なり得ることが、さらに認識されるであろう。例えば、活性化部位に関するクリングル1ドメインの正確な場所はわずかに変動し得、かつ/若しくは、クリングル1ドメインに対しN末端の配列は長さが変動し得る。従って、本発明は、本明細書に開示されるところのδ−プラスミノーゲンポリペプチド活性を表すδ−プラスミノーゲンポリペプチドのこうした変形物を包含する。こうしたバリアントは欠失、挿入、反転、反復および置換を包含する。上に示されるとおり、どのアミノ酸変化が表現的にサイレントであることがありそうであるかに関する指針は、Bowie,J.U.ら、“Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions,”Science 247:1306−1310(1990)に見出し得る。
【0071】
従って、配列番号2のポリペプチドのフラグメント、誘導体若しくはアナログは、(i)アミノ酸残基の1個若しくはそれ以上(例えば3、5、8、10、15若しくは20)が保存された若しくは保存されないアミノ酸残基(好ましくは保存されたアミノ酸残基)で置換されているもの。こうした置換されたアミノ酸残基は、遺伝暗号によりコードされるものであっても若しくはなくてもよい。あるいは、(ii)アミノ酸残基の1個若しくはそれ以上が置換基を包含する(例えば3、5、8、10、15若しくは20)もの、あるいは(iii)成熟ポリペプチドが、該ポリペプチドの半減期を増大させるための化合物(例えばポリエチレングリコール)のような別の化合物と融合されているもの、あるいは(iv)IgG Fc融合領域ペプチド若しくはリーダーすなわち分泌配列、または成熟ポリペプチド若しくはプロタンパク質配列の精製に使用される配列のような付加的なアミノ酸が、成熟ポリペプチドに融合されているものであり得る。こうしたフラグメント、誘導体およびアナログは、本明細書の教示から当業者の範囲内にあると思われる。
【0072】
示されるとおり、変化は、好ましくは、タンパク質のフォールディング若しくは活性に有意に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換のような軽度のものである。もちろん、当業者が行いうるアミノ酸置換の数は、上述されたものを包含する多くの因子に依存する。一般的に言って、いずれかの所定のδ−プラスミノーゲンポリペプチドの置換の数は、50、40、30、25、20、15、10、5若しくは3を超えないことができる。
【0073】
機能に不可欠である本発明のδ−プラスミノーゲンポリペプチド中のアミノ酸は、部位特異的突然変異誘発若しくはアラニン走査突然変異誘発(CunninghamとWells、Science 244:1081−1085(1989))のような当該技術分野で既知の方法により同定し得る。後者の処置は分子中のすべての残基に単一のアラニン突然変異を導入する。生じる変異体分子をその後、例えば本明細書に提供される実施例で示されるとおり、生物学的活性について試験する。リガンド結合に決定的に重要である部位は、結晶化、核磁気共鳴若しくは光親和性標識(Smithら、J.Mol.Biol.224:399−904(1992)およびde Vosら Science 255:306−312(1992))のような構造分析によってもまた決定し得る。タンパク質のN末端からの1個若しくはそれ以上のアミノ酸の欠失が該タンパク質の1種若しくはそれ以上の生物学的機能の改変若しくは喪失をもたらす場合であっても、他の生物学的活性はなお保持され得る。
【0074】
本発明の「単離されたポリペプチド」の製造で有用なポリペプチドを固相合成法により製造し得ることもまた企図している。Houghten,R.A.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135(1985);およびHoughtenらへの米国特許第4,631,211号(1986)を参照されたい。
【0075】
本発明のポリペプチドは単離された形態で提供され得る。「単離されたポリペプチド」により、その天然の環境から取り出されたポリペプチドを意図している。従って、組換え培養宿主細胞内で産生かつ/若しくは含有されるポリペプチドは、本発明の目的上単離されたとみなされる。組換え培養宿主から部分的に若しくは本質的に精製されたポリペプチドもまた「単離されたポリペプチド」として意図している。
【0076】
δ−プラスミノーゲンポリペプチドの参照アミノ酸配列に対する示される同一性パーセントのアミノ酸配列を有するポリペプチドは、ポリヌクレオチドに関して上に示されたコンピュータ支援の方法を包含する方法を使用して決定し得る。前述の論考でヌクレオチド配列がまさにそうであるように、ポリペプチドのアミノ酸配列を検査かつ比較する。当業者は、ポリヌクレオチドについて論考された分子の終点としてのこうした概念が、ポリペプチド分析のためのこうした方法およびプログラムの対応する使用を考慮する場合に直接のアナログを有することができることを認識するであろう。例えば、ポリヌクレオチドに関して論考された人的補正は核酸の5’および3’の終点を指すが、しかし、同一の論考はポリペプチドのN末端およびC末端に応用可能と認識されるであろう。
【0077】
本発明は、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/封鎖基による誘導体化、タンパク質分解性切断、抗体分子若しくは他の細胞リガンドへの結合などにより翻訳の間若しくは後に示差的に修飾されるδ−プラスミノーゲンポリペプチドを包含する。多数の化学修飾のいずれも、限定されるものでないが臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、黄色ブドウ球菌(S.aureus)V8プロテアーゼ、NaBH4による特異的化学的切断;アセチル化、ホルミル化、酸化、還元;ツニカマイシンの存在下での代謝的合成;などを挙げることができる既知技術により実施し得る。
【0078】
本発明により包含される付加的な翻訳後修飾は、例えば、原核生物培養宿主細胞中でのδ−プラスミノーゲンポリペプチドの発現に適合されたベクターおよび構築物の結果としての、例えばN−結合若しくはO−結合した炭水化物鎖、N末端若しくはC末端のプロセシング)、アミノ酸バックボーンへの化学的部分の結合、N−結合若しくはO−結合した炭水化物鎖の化学修飾、およびN末端メチオニン残基の付加を包含する。該ポリペプチドは、該タンパク質の検出および単位を見込むための酵素、蛍光、同位体若しくはアフィニティー標識のような検出可能な標識でもまた修飾し得る。
【0079】
製薬学的組成物および処置方法
δ−プラスミ(ノーゲ)ンは、米国第2003/0012778 A1号明細書;およびNovokhatny,V.ら、J.Thromb.Haemost.1(5):1034−41(2003)(双方は引用することにより本明細書に組み込まれる)に記述される方法および組成物に従って、治療的使用のため処方し得る。例えば、低pH(約2.5から約4まで)、低緩衝能力の緩衝液をδ−プラスミンの製剤に使用し得る。加えて、プラスミン、ミニプラスミンおよび/若しくはマイクロプラスミンで実施されるところの当業者に既知の他の方法および処方を使用して、本発明のδ−プラスミンを治療的投与のため処方し得る。
【0080】
δ−プラスミ(ノーゲ)ンを使用して、例えば、米国特許第6,355,243号;および公開米国特許出願第2003/0026798 A1号;同第2003/0175264 A1号明細書(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)に記述されるところの方法に従って、多様な血栓症若しくは状態を処置し得る。再度、δ−プラスミンに応用可能な、可能な製薬学的製剤でのように、δ−プラスミンは、当該技術分野で既知の方法、例えばプラスミン、ミニプラスミンおよび/若しくはマイクロプラスミンで現在実施されうるものにより治療的にもまた投与し得る。
【実施例】
【0081】
発現ベクターの設計
δ−プラスミノーゲンのアミノ酸配列は配列番号2に示す。δ−プラスミノーゲンをコードする推定の配列を、大腸菌(E.coli)発現およびmRNAの安定性のためコドンを最適化して、配列番号1に示されるところのDNA配列を生じた。
【0082】
このDNAを化学合成し(Blue Heron,Inc.)、そして細胞質タンパク質を産生させるため、大腸菌(E.coli)発現ベクターpET22b(+)(Novagen;ウィスコンシン州マディソン)のNdeIおよびBamHI部位に挿入した。この構築物は、付加的な非天然のN末端メチオニンを伴うδ−プラスミノーゲンを産生する。(pET−22b(+)=pET発現系22b(カタログ番号70765)、EMD
Biosciences,Inc.、Novagen銘柄、ウィスコンシン州マディソン;ベクターに関する詳細については、http://www.emdbiosciences.comのpET−22bに関する製品情報の節を参照されたい)。
【0083】
δ−プラスミノーゲンの発現および精製
δ−プラスミノーゲン配列をコードするDNAを多様な細胞に形質転換し、そして、1mM IPTG(イソプロピルチオ−β−D−チオガラクトピラノシド)による誘導後のタンパク質の過剰発現をSDS−PAGEにより分析した。Arg、IleおよびLeuをコードする希な大腸菌(E.coli)tRNAを発現するよう工作した細胞型BL21(DE3)RIL(Stratagene、カリフォルニア州ラホヤ)細胞を、δ−プラスミノーゲンの産生に使用した。
【0084】
δ−プラスミノーゲンの産生を大スケール発現で確認し、ここで細胞を溶解しかつ可溶性タンパク質および精製した封入体双方をSDS−PAGEにより検査した。BL21(DE3)RIL細胞は、有意のδ−プラスミノーゲンタンパク質を封入体の形態で産生した。発現の推定量は50〜80mg/L細胞培養物であった。
【0085】
以下の典型的なプロトコルをδ−プラスミノーゲンの発現に使用した:
δ−プラスミノーゲンベクターを含有するBL21(DE3)RIL細胞の単一コロニーを使用して、5mlのLB/アンピシリン(100μg/ml)/クロラムフェニコール(50μg/ml)に接種し、そして振とう機上37℃で8時間インキュベートした。その後、50μlのアリコートを、新鮮培地中でのさらなる増殖のため、培養細菌懸濁液から採取した。該処置を、6mlの細菌培養物および250mlの培地を用いて16時間後に反復した。培養物を振とうしながら37℃で約1.0のOD600nmまで増殖させ、そしてIPTGを1mMの最終濃度まで添加した。培養物を追加の5時間増殖させた。細胞を5,000×gでの遠心分離により収集し、そして細胞ペレットを20mM EDTAを含有する20mMトリス pH8.0に溶解しかつ−80℃で凍結させた。
【0086】
δ−プラスミノーゲンを精製するため、細胞ペレットを融解し、そして溶液の容量が元の細胞培養物の容量のおよそ1/20の容量になるまで緩衝液を添加した。その後、リゾチームを0.5mg/mlの最終濃度まで添加し、そして細胞を4℃で10〜15分間急速に攪拌した。その後、Triton X−100を1%の最終濃度まで添加し、そして攪拌を別の10分間継続した。DNアーゼI(0.05mg/ml)およびMgCl2(2.5mM)を添加し、そして、溶液がもはや粘性でなくなるまで攪拌を4℃で30分間継続した。最終的な溶液を15,000×gで4℃で30分間遠心分離し、そして上清を廃棄した。
【0087】
細胞ペレットを、洗浄溶液(10mM EDTA、1% Triton−X−100および0.5M尿素を含有する50mMトリス−HCl、pH7.4)で3回洗浄し、そして最終的なペレットを40mlの抽出緩衝液(10mM EDTA、20mM DTTおよび6Mグアニジン−HClを含有するPBS、pH7.4)に溶解しかつ4℃で一夜保存した。16時間後に溶液を15,000×gで30分間遠心分離して固形物を除去し、そして上清を4℃で攪拌しつつ再フォールディング溶液(50mMトリス−HCl、pH8.3、3.5MグアニジンHCl、0.5MアルギニンHCl、10mM EDTA、3mM GSH、0.3mM GSSG)にゆっくりと添加した。再フォールディング処置は0.03mg/ml若しくはそれ未満のタンパク質濃度で実施した。
【0088】
再フォールディング溶液を4℃で2日間乱されないまま保ち、そしてその後、10mM
EDTA、0.15M NaCl、0.15Mアルギニン−HClを含有する8倍容量の0.1Mトリス−HCl pH8.0に対し、緩衝溶液の頻繁な交換を伴い8〜10時間にわたり透析した。
【0089】
タンパク質溶液をその後透析から取り出し、そして10kDaのメンブレンカットオフ
を伴うAMICONフィルターを使用しておよそ10〜20mlに濃縮し、そして10mM EDTA、0.15M NaClを含有する100倍容量の0.1Mトリス pH8.0に対し一夜透析した。この物質を遠心分離して微粒子を除去し、その後リシンアフィニティー樹脂(リシン−セファロース4B;Amersham Biosciences、ニュージャージー州ピスカタウェイ)を通過させた。δ−プラスミノーゲンは、0.2Mのε−アミノカプロン酸(εACA)を含有するトリス緩衝生理的食塩水、pH8.0を使用して樹脂から溶出した。
【0090】
典型的には、80mgの封入体を1リットルの細胞培養物から単離し得、また、40mgをリシン−セファロースクロマトグラフィー段階で溶出し得た。
【0091】
δ−プラスミノーゲンの特性
精製したδ−プラスミノーゲンは、還元(ジチオスレイトール処理)および非還元タンパク質のSDS−PAGE分析により、35〜40kDaの領域の単一バンドとして出現した(図5を参照されたい)。MALDI質量分析により測定されたその正確な分子量は、37,198Daという期待された値に非常に近い37,089Daであった。
【0092】
δ−プラスミノーゲン(ΔPg)がδ−プラスミンに活性化され得たかどうかを試験するために、δ−プラスミノーゲンをウロキナーゼ(1:1000のモル比)とともにインキュベートし、そして、セリンプロテアーゼ活性の増大を、S−2251の加水分解の速度の増大を測定することによりモニターした(S−2251=D−Val−Leu−Lys−p−ニトロアニリド、DiaPharma Group,Inc.、オハイオ州ウエストチェスター)。図6に見られるとおり、結合された活性化反応に典型的な活性の放物線状の増大(酵素前駆体が活性の酵素に転化され(1);そして酵素が色素生産性の基質を切断する(2))が観察される。δ−プラスミノーゲンのδ−プラスミンへの活性化は、これらの条件下で3分以内に完了した。非常に類似の結果が、tPAおよびストレプトキナーゼで得られた。
【0093】
δ−プラスミノーゲンのウロキナーゼ活性化のキネティクスを、Wholらの方法(Whol,R.C.,Summaria,L.,Arzadon,L.とRobbins,K.C.;J.Biol.Chem.253:1402−1407(1978)(引用することにより完全に組み込まれる))を使用して、完全長のプラスミノーゲンのものと比較した。この目的上、5.8nMのウロキナーゼを、37℃、pH7.5で1mMのS−2251基質の存在下に多様な濃度のプラスミン種を含有する溶液に添加した。405nmでの吸光度の増大をモニターし、そしてS−2251の生成物の形成の加速的速度を、放物型方程式(式中、速度=k・t2)を使用して計算した。Lineweaver−Burk解析を使用して、データをMichaelis−Mentenのキネティクスモデルに当てはめて、下の値をもたらした:
【0094】
【表1】
【0095】
完全長のプラスミノーゲンは、文献中で見出される値(1.7μM;Wohl,R.C.,Summaria,L.とRobbins,K.C.;J.Biol.Chem 255(5):2005−2013(1980))に類似のKm値、および同等のkcat値を伴い、ウロキナーゼにより十分に活性化された。
【0096】
δ−プラスミノーゲンのウロキナーゼ活性化のKm値は、プラスミノーゲンについてよりもおよそ30倍より高く、おそらく、プラスミノーゲンのこの変異体に対するウロキナーゼのより低い親和性を示す。同時に、δ−プラスミノーゲンの活性化のkcat値はプラスミノーゲンについてよりはるかにより高かった。kcatおよびKmの前述の差違にもかかわらず、それらの比すなわち触媒効率は、ウロキナーゼによる天然および組換えで改変されたプラスミノーゲン種の活性化についてほぼ同一である。従って、これらのデータは、「外来の」クリングル1の存在が、δ−プラスミノーゲン中のセリンプロテアーゼドメインの活性化特性に大きく影響を及ぼさないことを示す。
【0097】
なお別の活性化実験において、δ−プラスミノーゲンをストレプトキナーゼ、tPAおよびウロキナーゼとともにインキュベートし、そして二本鎖δ−プラスミン中の一本鎖δ−プラスミノーゲン分子の転化を観察するために還元SDS−PAGEで分析した(図5、レーン3−5を参照されたい)。全3つの場合で、δ−プラスミンの二本の鎖(約12kDaのクリングル1および約25kDaのセリンプロテアーゼ鎖)を見ることができ、δ−プラスミノーゲンが実際に全3種のプラスミノーゲン活性化物質により活性化され得ることを示唆した。
【0098】
期待されたとおり、δ−プラスミノーゲンはクリングル1を介してリシン−セファロースに結合し、そしてεACAの勾配によりカラムから単一ピークとして溶出され得た(図7を参照されたい)。再フォールディングされたδ−プラスミノーゲンのリシン−セファロースに結合する能力は、該分子のクリングルドメインが適正にフォールディングされ、また、リシン結合部位が完全に活性であることを示す。
【0099】
クリングル1の機能性をさらに確認するため、δ−プラスミノーゲンへのεACAの結合を、Matsukaら(Matsuka,Y.V.,Novokhatny,V.V.とKudinov、S.A.、Eur.J.Biochem.190:93−97(1990))およびDouglasら(Douglas,J.T.,von Haller,P.D.,Gehrmann,M.,Llinas,M.とSchaller,J.、Biochemistry 41:3302−3310(2002))(全部は引用することにより本明細書に組み込まれる)により記述されたとおり、タンパク質の蛍光の関連した変化をモニターすることにより測定した。δ−プラスミノーゲンのクリングル1へのεACAの結合は、ありそうにはリシン結合部位の一部であるトリプトファン残基の消光により、蛍光の減少をもたらす。
【0100】
この過程をモニターするため、εACAの濃縮した溶液の4μlないし16μlのアリコートを、20mM NaClを含有する50mMトリス緩衝液、pH8.0、25℃中5μMのδ−プラスミノーゲン2mlに添加した。蛍光は、FLUOROMAX蛍光分光光度計(Jobin Yvon,Inc.、ニュージャージー州エディソン)にて298nmの励起波長および340nmの測定波長でモニターし;εACAの各添加後に、蛍光のさらなる変化が観察されなくなるまで溶液を平衡化させた。
【0101】
生じる蛍光の値を希釈について補正し、そして0〜50μMのεACAの範囲にわたりεACAの濃度に対しプロットした。データを非直線回帰により当てはめて、3.2μM(Matsukaら)および13μM(Douglasら)というεACAのクリングル1親和性の文献値と良好に一致する11.1±2.3μMというKdを得た。
【0102】
プラスミンの一特性はフィブリンを結合するその能力である。δ−プラスミノーゲンが
フィブリンと相互作用する能力を保持するかどうかを決定するため、δ−プラスミノーゲンのフィブリンへの結合をtPAによるそのその後の活性化および生じる血餅溶解により評価したマイクロタイタープレートアッセイで、そのフィブリン結合特性を試験した。この目的上、100μlの5mg/mlのフィブリノーゲンを、マイクロタイタープレートの各ウェル中でトロンビンと重合させた。多様な濃度のδ−プラスミノーゲンをフィブリン塊の上面に添加しかつ37℃で1時間インキュベートした。フィブリン塊が未だ無傷でありかつウェルに付着していた間に、プレートをPBSで徹底的に洗浄した。洗浄後、tPAの0.1〜mg/ml溶液を各ウェルに添加し、そしてプレートを37℃で2時間インキュベートした。結果として塊のいくつかが完全に溶解され、そしていくつかは部分的に溶解された一方、非常に少量のδ−プラスミノーゲンを含むウェルおよび対照ウェルは事実上無傷のままであった。線維素溶解の程度を、1M NaOH中で再構成した最初の塊の残部の280nmの吸光度を測定することによりモニターした。吸光度の値を、δ−プラスミノーゲン濃度の関数としてプロットした。
【0103】
図8に見られるとおり、δ−プラスミノーゲンのフィブリンへの結合は古典的なS字状結合曲線に従う。このアッセイを使用して、δ−プラスミノーゲンが完全長のプラスミノーゲンの親和性に匹敵する親和性でフィブリンを結合し、またこの相互作用のC50(約0.2μM)が完全長のプラスミノーゲンのフィブリン結合のKdに匹敵することが見出された(Lucas,M.A.,Fretto,L.J.とMcKee,P.A.;J.Biol.Chem.258(7):4249−4256(1983))。これらの実験は、δ−プラスミノーゲンがフィブリンを結合し得ることを示す。
【0104】
従って、δ−プラスミノーゲンのリシン−セファロースとの相互作用、期待されるKdでεACAを結合するその能力、フィブリンを結合するその能力、全部の主要なプラスミノーゲン活性化物質により活性化されるその能力、および色素産生性のプラスミン基質S−2251に対するδ−プラスミンの効力は、全部、この分子が大腸菌(E.coli)系中で完全に機能的な形態で産生されたことを示した。
【0105】
δ−プラスミンの精製および製剤
10mM EDTAおよび0.15M NaClを含有する0.1Mトリス緩衝液、pH8.0に対し透析したδ−プラスミノーゲンを、本質的にプラスミンについて以前に記述された(Marder,V.J.ら、Thromb Haemost.、86(3):739−45(2001)(引用することにより組み込まれる))とおり、セファロース4Bに固定したウロキナーゼを使用して、δ−プラスミンに活性化した。活性化は室温で起こり、そしてS−2251の活性の増大によりリアルタイムでモニターした。バッチごとに変動した(典型的には1〜2mg/ml)δ−プラスミノーゲンの量に依存して、インキュベーション時間は30〜60分であった。S−2251の活性がプラトーに達した活性化の完了に際して、ウロキナーゼ−セファロースを濾過し、そして活性のδ−プラスミンをベンズアミジン−セファロース(Pharmacia)に捕捉した。δ−プラスミンは、低pH緩衝液(0.2Mグリシン、pH3.0、0.3M NaCl、0.2M εACA)を使用して樹脂から溶出した。
【0106】
溶出画分中のタンパク質濃度およびS−2251の活性を測定した。高特異的活性画分をプールし、そして0.15M NaCl、pH3.6の複数回の交換に対し4℃で透析した。非還元のδ−プラスミンサンプルのSDS−PAGE分析(図9、レーン3を参照されたい)は、この物質の純度が通常95%以上であることを示す。還元条件下(図9、レーン4)で、セリンプロテアーゼおよびクリングル鎖のほかに、クリングルのバンドの上および下に2本の淡いバンドが存在する。これらのバンドは、そのポリペプチド鎖の内的切断から生じるセリンプロテアーゼドメインの自己分解生成物を表し;それらは通常ジスルフィド結合により一緒に保持されるが、しかし還元条件下でのPAGEで見えるよう
になる。典型的には10%を超えなかった自己分解生成物の量は、ベンズアミジン−セファロース精製段階をカラム形式の代わりにバッチ様式で実施することにより大きく低下された。
【0107】
δ−プラスミンは完全長のプラスミンと同様に生理学的pHで自己分解する傾向があるため、最終製剤にpH3.6を選んだ(酢酸−生理的食塩水で酸性化する)。プラスミンについて以前に示され(Novokhatny,V.ら、J Thromb Haemost.、1(5):1034−41(2003)(引用することにより組み込まれる))かつδ−プラスミンを用いる実験で確認されたとおり、この低緩衝能力の低pH製剤は、長時間の活性のプラスミンの安全な貯蔵を可能にするのみならず、しかしまたこれらの直接血栓溶解薬の非経口投与とも適合性である。血漿若しくは中性のpH緩衝液と混合される場合に、δ−プラスミンは迅速に再活性化される。
【0108】
δ−プラスミンの酵素特性
δ−プラスミンのアミド分解活性を、プラスミン基質D−Val−Leu−Lys−p−ニトロアニリド(S−2251)(DiaPharma、オハイオ州ウエストチェスター)を使用して検査した。PBS緩衝液中pH7.4、25℃で、S−2251のMichaelis−Menten定数(Km)は138μMであることが見出された(表2)。該製剤のkcatは510min−1であることが見出された。4−グアニジノ安息香酸4−ニトロフェニル塩酸塩(pNPGB)滴定(Chase,T.とE.Shaw、Methods Enzymol.197:20−27(1970))を使用して、機能的活性部位のパーセントは67%であることが見出された。活性部位のパーセントについてkcatを補正して、755±45min−1のkcatを決定した。この値は、完全長のプラスミンについて(760±23min−1)およびマイクロプラスミン(全5個のクリングルを欠く)について(795±24min−1)同一アッセイで決定された値に非常に近かった(図9を参照されたい)。これらのデータは、クリングルの存在若しくは非存在が、セリンプロテアーゼドメインの触媒活性に影響を及ぼさないことを示す。
【0109】
α2−マクログロブリンによるδ−プラスミンの阻害速度を、Anonickらの方法(Anonick,P.ら、Thrombosis Res.59:449−462(1990))を使用して測定した。阻害速度は、PBS緩衝液中22℃で7.6±0.6×105M−1s−1であることが見出された。
【0110】
α2−アンチプラスミンによるδ−プラスミンの阻害速度は、プラスミンおよびα2−アンチプラスミンを混合し、その後特定の時間点でS−2251の活性についてアッセイするWimanとCollenの方法(Wiman,B.とD.Collen、Eur.J.Biochem.84:573−578(1978))を使用して、1.1×107M−1s−1であることが決定された(表3)。この値は、2.5×107M−1s−1(Anonickら、Thrombosis Res.59:449(1990)から)というプラスミンの報告値に匹敵する。
【0111】
マイクロプラスミンを用いて実施した同一の実験は、2回の別個の実験で1.8×105M−1s−1および3.1×105M−1s−1というα2−アンチプラスミン阻害速度を示した。ミニプラスミンのα2−アンチプラスミン阻害の速度(ミニプラスミンドメイン組成物、K5−SP)は2.4×105M−1s−1であることが決定された。これらのデータは、マイクロおよびミニプラスミンの文献値と合理的に一致し、そして、α2−アンチプラスミンによるδ−プラスミンの阻害がマイクロプラスミン若しくはミニプラスミンいずれかの阻害より40倍より速いことを示す。従って、これらの結果は、δ−プラスミンが、その構造中のクリングル1の存在によりα2−アンチプラスミンにより迅速に阻害されるはずであることを示す。
【0112】
全体として、この節に提示されるデータは、δ−プラスミンの酵素および阻害特性が完全長のプラスミンに類似であることを示す。
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
文献値はAnonickら、Thrombosis Res.59:449(1990)から採用している。全部の速度はAnonickらに発表された方法に従って測定した。
【0116】
in vitro血栓溶解効率
δ−プラスミンの血栓溶解効率を、以下の実験プロトコルを使用して、カテーテル補助(catheter−assisted)血栓溶解のin vitroモデル(Novokhatny,V.ら、J Thromb Haemost.、1(5):1034−41(2003)(引用することにより組み込まれる))で試験した。
【0117】
新鮮なヒト全血を20×0.95cmガラスチューブに収集し、そして添加物を用いずに自発的に凝固させた。チューブを37℃で20時間インキュベートして完全な収縮を可能にした。収縮した凝血塊を、14メッシュを伴う米国標準試験篩を使用して血清から分離し、そしてそれらの重量を測定した。血餅を、収縮させた凝血塊がきつく嵌るより小さい直径のガラスチューブ(0.8×7cm)に移した。凝血塊の平均重量は約3.6gであった。
【0118】
単一の1ml用量の酸性化した生理的食塩水、プラスミン若しくはδ−プラスミンを、シリンジを使用して凝血塊に注入した。凝血塊をTHELCO実験室オーブン(Jouan,Inc.、バージニア州ウィンチェスター)中37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後に凝血塊を再度篩の上に置いて液化した物質を除去し、そして消化された凝血塊の重量を測定した。凝血塊の溶解の程度を最初の凝血塊重量と残余の凝血塊の重量の間の差違から決定し、そして凝血塊重量の減少のパーセントとして表した。
【0119】
図10は、このモデルでのδ−プラスミンを用いた溶解実験の結果を示す。単一の0.44mg(モル濃度に基づき1mg/mlのプラスミンに同等)用量のδ−プラスミンの注入は、60分以内に36%の凝血塊重量の減少をもたらした。同時に、生理的食塩水を注入した凝血塊の重量は4%のみ減少した。プラスミン(1.0mg)は、同一の時間で50%の凝血塊重量の減少をもたらした。従って、これらのデータは、δ−プラスミンが血栓溶解効力を表し、そして直接血栓溶解剤として使用され得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】タンパク質分解的切断による活性化後の天然のプラスミンの図解である。K1−K5はクリングル領域1−5であり;また、SPはセリンプロテアーゼドメインである。「α2−AP」は、クリングル1のα2−アンチプラスミン結合部位である。
【図2】図1中と同一の命名法を使用しかつK2−5の欠失を示す、本発明のプラスミノーゲン欠失変異体の図解である。
【図3】−19ないし−1として番号付けされた19残基のリーダー配列、および残基1−791として示されるプラスミノーゲン配列を示す、ヒトプラスミノーゲンのアミノ酸配列を示す(図3に示されるところの配列番号3(ヒトプラスミノーゲンのcDNA配列;および配列番号4、コードされるアミノ酸配列を参照されたい)。以下、すなわちδ−プラスミノーゲン配列(影付);クリングルドメイン1−5(二重下線);グリコシル化部位Asn289およびThr346(太字で);プラスミノーゲン活性化のArg−Val活性化部位(太字で);ならびにクリングル1中のリシン結合部位(下線および特別の位置の番号付けで)を包含する多数の特徴を示す。
【図4】天然のヒトプラスミ(ノーゲ)ンの5個のクリングルドメイン(1−5)間のポリペプチド配列の比較を示す。クリングル1中の同一の相対位置のものに同一であるアミノ酸残基を下線で示す。
【図5】非還元(レーン1)および還元(レーン2)δ−プラスミノーゲン調製物の8−25%勾配SDS−PAGEを示す。ストレプトキナーゼ(レーン3)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)(レーン4)およびウロキナーゼ(レーン5)でのδ−プラスミノーゲンのδ−プラスミンへの活性化は、2個のジスルフィド架橋により結合されたクリングル1(K1)およびセリンプロテアーゼドメイン(SP)よりなる二本鎖分子の形成をもたらす。
【図6】ウロキナーゼによるδ−プラスミノーゲンの活性化の図解である。ウロキナーゼ(5.8nM)を、1.0mMのS−2251を含有するPBS中5μMのδ−プラスミノーゲンの溶液に37℃で添加した。吸光度の増大を405nmでモニターした。
【図7】リシン−セファロース4Bへのδ−プラスミノーゲンの結合を示すクロマトグラムである。すなわち、0.5mgの精製したδ−プラスミノーゲンを、トリス緩衝生理的食塩水、pH7.4で平衡化したリシン−セファロース4Bカラム(1×3cm)に適用した。結合したタンパク質は、ε−アミノカプロン酸(ε−ACA)の0〜20mM勾配により単一ピークとしてカラムから溶出された。280nmの吸光度、および溶出液容量の関数としてのε−ACAの濃度をグラフ上に提示する。
【図8】δ−プラスミノーゲンのフィブリンへの結合を示す。変動する濃度のδ−プラスミノーゲンを、マイクロタイタープレート中でフィブリン塊とともに37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後に塊をPBSで徹底的に洗浄し、そしてtPAの0.1mg/ml溶液を各ウェルに添加した。37℃での2時間インキュベーション後に液体を除去し、そして残存する固体の塊を100μlの1M NaOHで再構成した。残存するフィブリンの量を、これらの再構成した塊の280nmの吸光度を測定することにより定量した。フィブリンへのδ−プラスミノーゲンの結合の結果である線維素溶解の程度を、δ−プラスミノーゲン濃度の関数としてグラフにプロットした(実線)。点線は、結合方程式への実験データの最良適合を表す。
【図9】非還元(レーン1)および還元条件(レーン2)下の出発δ−プラスミノーゲン、ならびにまた非還元(レーン3)および還元(レーン4)条件下の最終的なδ−プラスミン調製物の8−25%勾配SDS−PAGEを示す。
【図10】酵素活性の対応する特徴付け(基質S−2251(D−Val−Leu−Lys−p−ニトロアニリド、DiaPharma Group,Inc.、オハイオ州ウエストチェスター)に関するkcatおよびKM)と一緒になったプラスミン、ミニプラスミン、マイクロプラスミンおよびδ−プラスミンの図解を示す。
【図11】収縮全血塊のδ−プラスミン誘発性の溶解の図解である。各凝血塊(0.8×7cm)に1ml容量のベヒクル(酸性化した生理的食塩水、pH3.6)、プラスミン(1.0mg/ml)若しくはδ−プラスミン(0.44mg/ml)を注入し、そして凝血塊の溶解を37℃で1時間進行させた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドであって、固定されたリシンに結合するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
N末端クリングルドメインが、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
コードされるポリペプチドが、配列番号2に示される配列に最低90%若しくは95%、または98%同一である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
コードされるポリペプチドが、配列番号2に示される配列に最低98%同一である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
コードされるポリペプチドが配列番号2に示される配列である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、配列番号1に示される配列、若しくはその縮重バリアントである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
ヌクレオチド配列が、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに相同な1個のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
ヌクレオチド配列が、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに最低90%同一な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲンの活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインに最低90%同一なC末端ドメインを有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを含んでなるポリペプチドであって、該ポリペプチドが固定されたリシンに結合する、上記ポリペプチド。
【請求項10】
N末端クリングルドメインが、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同である、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
ポリペプチドが、ミニプラスミンの線維素溶解活性のα2−アンチプラスミンによる阻害速度より最低約5倍より速い阻害速度の、α2−アンチプラスミンにより阻害される線維素溶解活性を表す、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項12】
阻害速度が、ミニプラスミンの阻害速度より最低約10倍、20倍、30倍若しくは40倍より速い、請求項11に記載のポリペプチド。
【請求項13】
固定されたリシンが、リシン−アガロース、リシン−ヒドロゲル、リシン−架橋アガロースよりなる群から選択される固体支持体マトリックスに結合されたリシンである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項14】
固定されたリシンがリシン−架橋アガロースである、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
ポリペプチドが、ミニプラスミンのフィブリノーゲンに対する結合親和性よりも低いフィブリノーゲンに対する結合親和性を表す、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項16】
ポリペプチドが、ミニプラスミンの部分的に切断されたフィブリンに対する結合親和性よりも高い、部分的に切断されたフィブリンに対する結合親和性を表す、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項17】
プラスミノーゲン活性化部位およびプラスミノーゲンセリンプロテアーゼドメインに対しN末端に位置する単一のクリングルドメインを含んでなるポリペプチドであって、該クリングルドメインは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル5とよりも天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4との最低1残基より大きいアミノ酸配列の同一性を有し、かつ、ヒトプラスミノーゲンのクリングル1および4の天然の配列に関しての該単一のクリングル領域の保存的置換が、クリングル5との同一性比較の目的上天然の配列と異なると考えられない、上記ポリペプチド。
【請求項18】
ポリペプチドが、配列番号2に示されるところのアミノ酸配列、およびその保存的置換を有する、請求項17に記載のポリペプチド。
【請求項19】
ポリペプチドが、配列番号2に示されるアミノ酸配列の位置76の相対位置に類似の相対位置に1アルギニン残基を有する、請求項17に記載のポリペプチド。
【請求項20】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクター。
【請求項21】
請求項20の発現ベクターを含んでなる培養細胞。
【請求項1】
天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドであって、固定されたリシンに結合するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
N末端クリングルドメインが、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
コードされるポリペプチドが、配列番号2に示される配列に最低90%若しくは95%、または98%同一である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
コードされるポリペプチドが、配列番号2に示される配列に最低98%同一である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
コードされるポリペプチドが配列番号2に示される配列である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、配列番号1に示される配列、若しくはその縮重バリアントである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
ヌクレオチド配列が、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに相同な1個のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
ヌクレオチド配列が、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4ドメインに最低90%同一な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲンの活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインに最低90%同一なC末端ドメインを有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
天然のヒトプラスミノーゲンのクリングルドメインに相同な単一のN末端クリングルドメイン;ならびにヒトプラスミノーゲン中の対応するドメインに相同なC末端ドメイン活性化部位およびセリンプロテアーゼドメインを含んでなるポリペプチドであって、該ポリペプチドが固定されたリシンに結合する、上記ポリペプチド。
【請求項10】
N末端クリングルドメインが、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4に相同である、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
ポリペプチドが、ミニプラスミンの線維素溶解活性のα2−アンチプラスミンによる阻害速度より最低約5倍より速い阻害速度の、α2−アンチプラスミンにより阻害される線維素溶解活性を表す、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項12】
阻害速度が、ミニプラスミンの阻害速度より最低約10倍、20倍、30倍若しくは40倍より速い、請求項11に記載のポリペプチド。
【請求項13】
固定されたリシンが、リシン−アガロース、リシン−ヒドロゲル、リシン−架橋アガロースよりなる群から選択される固体支持体マトリックスに結合されたリシンである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項14】
固定されたリシンがリシン−架橋アガロースである、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
ポリペプチドが、ミニプラスミンのフィブリノーゲンに対する結合親和性よりも低いフィブリノーゲンに対する結合親和性を表す、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項16】
ポリペプチドが、ミニプラスミンの部分的に切断されたフィブリンに対する結合親和性よりも高い、部分的に切断されたフィブリンに対する結合親和性を表す、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項17】
プラスミノーゲン活性化部位およびプラスミノーゲンセリンプロテアーゼドメインに対しN末端に位置する単一のクリングルドメインを含んでなるポリペプチドであって、該クリングルドメインは、天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル5とよりも天然のヒトプラスミノーゲンのクリングル1若しくはクリングル4との最低1残基より大きいアミノ酸配列の同一性を有し、かつ、ヒトプラスミノーゲンのクリングル1および4の天然の配列に関しての該単一のクリングル領域の保存的置換が、クリングル5との同一性比較の目的上天然の配列と異なると考えられない、上記ポリペプチド。
【請求項18】
ポリペプチドが、配列番号2に示されるところのアミノ酸配列、およびその保存的置換を有する、請求項17に記載のポリペプチド。
【請求項19】
ポリペプチドが、配列番号2に示されるアミノ酸配列の位置76の相対位置に類似の相対位置に1アルギニン残基を有する、請求項17に記載のポリペプチド。
【請求項20】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクター。
【請求項21】
請求項20の発現ベクターを含んでなる培養細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−533327(P2007−533327A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509616(P2007−509616)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/013562
【国際公開番号】WO2005/105990
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(506074484)タレクリス・バイオセラピユーテイクス・インコーポレーテツド (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/013562
【国際公開番号】WO2005/105990
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(506074484)タレクリス・バイオセラピユーテイクス・インコーポレーテツド (10)
【Fターム(参考)】
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