説明

組織ダメージの治療と予防

【課題】複数のC反応性タンパク質(CRP)分子が存在する場合にその複数のCRP分子と複合体を形成するように共有結合により相互に連結された複数のリガンドを含む医薬用薬剤の提供。
【解決手段】(i)該リガンドのうち少なくとも2つが、同一であっても異なっていてもよく、CRP分子に存在するリガンド結合部位によって結合される能力を有するか;または(ii)当該リガンドのうち少なくとも1つがCRP分子に存在するリガンド結合部位によって結合される能力を有し且つ少なくとも1つの他のリガンドが血清アミロイドP成分(SAP)分子に存在するリガンド結合部位によって結合される能力を有する薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の組織損傷を治療または予防する方法に関するものであり、特に、炎症状態および/または組織損傷を与える状態を有するヒト患者を対象とするものである。また、本発明は、インビボ(in vivo)における自己由来或いは外来のリガンドへのC反応性タンパク質(CRP)の結合を阻害する特性を有し、その結果、前記組織損傷を治療または予防できる化合物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
C反応性タンパク質(CRP)は、ペントラキシンタンパク質ファミリーに属する正常血漿タンパク質であり、当該ファミリーに属する他のタンパク質である血清アミロイドP成分(SAP)と非常に類似するものである(参照:参考文献1)。CRPは、炎症,組織損傷および感染症のほとんどの形態に反応してその血中濃度が急激に上昇するという性質を示す古典的な急性期タンパク質であり、大部分の状態で得られるその値は疾患の程度や活動度との密接な相関を示す(参考文献2)。CRPは、カルシウム依存性リガンド結合タンパク質であり、CRPが最も高い親和性で結合するリガンドはホスホコリン残基であるが(参考文献3)、他の様々なリガンドにも結合する。CRPは、高い親和力をもって多くのリガンドに結合する。CRPのリガンドは、自己由来の構造のものも外来の構造のものも知られている。自己由来のリガンドとしては、天然血漿リポタンパク質(参考文献4,5)と変性血漿リポタンパク質、損傷細胞膜(参考文献6)、多くの様々なリン脂質とその関連化合物(参考文献7)、および核内低分子リボヌクレオタンパク質粒子(参考文献8,9)がある。外来リガンドとしては、多くのグリカン、リン脂質、および微生物の他の成分、例えば細菌、菌類および寄生生物の莢膜成分や細胞体成分、ならびに植物生産物などもある(参考文献10〜15)。CRPがそのリガンドに結合すると、C1qを介した古典経路により補体の活性化能を獲得する(参考文献16〜19)。また、補体系の主要な接着分子であるC3の活性化と固定化を達成できるようになり(参考文献20,21)、さらに最終溶菌期C5〜C9の関与を引き起こすことが可能になる(参考文献22)。
【0003】
極めて早い段階の臨床試験において(参考文献23)、CRPが炎症に関与している可能性は示唆されており、その後における動物実験によれば、CRPは炎症を引き起こすものであると解釈された。しかし最近まで、CRPが炎症や組織損傷のプロセスに関与するとの直接の証拠はなかった。炎症病変や壊死組織病変においてCRPが沈着することや、CRPと補体の活性化との関係に関する報告がいくつかある(参考文献24〜30)。しかし、CRPが組織損傷の原因であることを直接示す研究はまったく無く、仮にあったとしても、ヒト患者の組織におけるCRPの沈着をリアルタイムで研究した唯一の例でも、極微量の沈着が生じることを示したに過ぎない(参考文献31)。疾病の実験モデルにおいてCRPの役割を直接検討した発表済みの研究で、CRPが、炎症細胞の浸潤を下方制御したり、組織損傷を低減するといった抗炎症的役割を有する可能性があることを示すものも確かにある(参考文献32,33)。このことは、複合体化したCRPは補体活性化の最終段階を引き起こす能力に比較的劣っており、また、CRPが関与することによって、炎症を起す可能性のある補体活性化の状況が下方制御されることがあるとの知見(参考文献34,35)と一致するものである。アポトーシスを起こした細胞の操作を含む別のモデルを用いた最近の研究も、CRPが抗炎症特性を有することを示している(参考文献36)。つまり、インビボにおけるCRPの役割については確固たる意見の一致はないものの、抗炎症作用を有するであろうという意見が支配的である。一般的に、CRP産生の上昇と疾病状態との関連性は、これまで、CRPの産生がその疾病の重症度および/または併発性の合併症の存在を反映することに基づいて解釈されてきた。しかし我々は、最近、CRPが補体に依存するメカニズムを介してインビボで虚血性の組織損傷を悪化させ得ることを明確に実証し、CRPの結合をインビボで阻害することが治療において重要になる可能性があることを立証した(参考文献37)。このことは、出願番号 0119370.5の米国特許出願の主題となっている。なお、当該出願の内容は、参照のために本願にも取り込まれるものとする。
【0004】
アテローム性動脈硬化症は先進国で非常に蔓延しており、その主要な合併症である心筋梗塞症と脳卒中とを合わせて、死亡事由の約3分の1を占めている。いくつかの病因面に対する理解や、予防処置および事後的な救済治療に進歩が見られるものの、治療等に要する個人的、社会的、経済的な負担は依然として多大である。同様に、その原因が明らかでない慢性炎症疾患は、治療が困難で余命を短くしてしまうこともある上に、一般的な疾病であり、患者を弱らせ、治療費用が高額であり、対症的な治療がしばしば危険な場合がある。例えば、関節リウマチは、苦痛を伴い重篤な身体障害を引き起こすと共に、50歳以上の人口のうち約4%に悪影響を与えており、著しく高い早期死亡率と関係している。癌の苦痛は大変重く、先進国ではその死亡事由の約3分の1を占める。また、世界中で感染性疾患の深刻さと重要性は明らかである。従って、これら様々な状態の全てにおいて、重症度を軽減したり生存期間を延長するための新規な薬剤が、緊急に求められている。
【発明の開示】
【0005】
そこで、本発明の第1の態様では、医薬において用いるための薬剤であって、特に、炎症状態および/または組織損傷を与える状態を有する患者における組織損傷を治療または予防するための組成物を調製するためのものを提供する。本発明の薬剤は、複数のC反応性タンパク質(CRP)分子が存在する場合にこれらと複合体を形成するように、相互に共有結合により連結された複数のリガンドを含む。当該リガンドのうち少なくとも2つは、同一であっても異なっていてもよく、CRP分子のリガンド結合部位によって結合される能力を有するものである。或いは、当該リガンドのうち少なくとも1つは、CRP分子のリガンド結合部位によって結合される能力を有するものであり、且つ少なくとも1つの他のリガンドが血清アミロイドP成分(SAP)分子のリガンド結合部位によって結合される能力を有するものである。
【0006】
驚くべきことに、本発明の薬剤は、リガンドのCRPへの結合を阻害する作用を有することが見出された。CRPは、特に、虚血性傷害により引き起こされる心筋障害の程度を増強することによって、疾病状態における直接の病因的役割を担うことが示された。斯かる病因的役割は、インビボにおいてCRPがその標的リガンドに結合することを阻害できる薬剤を使用することによって、処置または予防することができる。ここで、理論的な裏付けにとらわれることなく、そして本明細書により詳しく説明されているように、インビボにおいてCRPの標的リガンドに対する結合を阻害すれば、CRPの補体活性化を防ぐことになる。その結果、本発明が治療すべき対象としている状態において、現在、組織損傷の原因と考えられているCRP媒介による補体活性化の有害作用を、低減したり排除できると考えられる。
【0007】
本発明の一態様では、炎症状態および/または組織損傷を与える状態は、アテローム性動脈硬化症を含むものとする。
【0008】
組織傷害,炎症および感染症のほとんどの形態に対応して、CRPは大量に産生される一方で、正常で健康な被験者や一般母集団に属する個人のほとんどでは、その血中濃度は極端に低い(参考文献38,39)。最近まで、斯かる低濃度は臨床的に意義あるものとは全く考えられておらず、一般に使用されていたCRPのアッセイ方法は、当該濃度が5或いは10 mg/l(これは健康な被験者において見られる範囲の90〜99%を表す)を超えている場合の血中CRPを検出し測定するためだけに設計されている。しかし、1994年に開始した我々独自の知見(参考文献40)以来、数多くの研究が蓄積されてきており、これらの研究で、CRPに関する基準の範囲内でさえ、従来は“正常”と考えられていた値の中に、CRPの産生増大が、心筋梗塞症、脳卒中および血管疾患の進行を含むアテローム血栓性事象に非常に大きく関係していることが明確に示されている(参考文献41〜49)。
【0009】
CRP産生のわずかな増加と、アテローム性動脈硬化症の発症、進行および合併症との関係の根底にあるメカニズムは、まだ明らかでない。しかし、アテローム性動脈硬化症が炎症状態であると知られていること、およびCRPと活性化補体がほぼ全てのアテローム斑において共沈着することが、大いに関係していると高い確率で考えられる(参考文献29,50)。さらに、CRPは、アテローム性動脈硬化症の動脈病変において蓄積する主要なリポタンパク質である低比重リポタンパク質(LDL)へ選択的に結合する(参考文献4,5)。また、CRPが、“変性された”、即ちアテローム斑で見られる様な部分的に分解したLDLに結合すると、補体が強く活性化される(参考文献51)。CRPは、インビトロでマクロファージと血管平滑筋細胞による未変性LDLの取り込みを促進して泡沫細胞を形成する。この泡沫細胞は、インビボのアテローム動脈硬化病変部位における典型的で重要な病理学的特徴である。最終的に、アテローム斑に浸潤する最も豊富に存在する細胞であるマクロファージをCRPが刺激し、組織因子(TF)を産生させ得るとの証拠もある(参考文献52)。TFは血液凝固のイニシエータであり、破裂した病斑部位で血栓形成開始に関与する。この血栓形成は、実際にアテローム性硬化した動脈を塞ぎ、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす。この様に、CRPは、アテローム性動脈硬化症の病因、進行およびその臨床的に重要な合併症に直接関与すると考えられる。
【0010】
いったん心筋梗塞が起こると、全ての患者においてCRPの急性期反応が増幅し、到達するピーク値は、数日後、数週間後或いは数ヵ月後に生じる合併症や死につながる重要な予兆となる(参考文献53〜59)。梗塞自体においてCRPと活性化補体との普遍的な共沈着が起こることは、CRPが虚血性疾患の程度と重篤度に対して強く関与することを強く示唆している(参考文献28,60,61)。CRP値、特に経時的なCRPの累積的産生は、原因が明らかでない慢性炎症疾患の進行、重篤さおよび合併症の重要な予兆にもなる。この様な原因不明の慢性炎症疾患としては、関節リウマチ(参考文献62)やクローン病;急性および慢性の細菌、ウィルス、真菌および寄生生物による感染症;急性膵炎の様な虚血性および壊死性疾患;並びに多くの形態の癌がある(参考文献1,2を参照)。待機手術においてさえも、術前のCRP値と術後のCRP産生によって、合併症や結果を予測できる(参考文献63)。アテローム性動脈硬化症における我々の観察と、特にヒトCRPにより悪化させたラットの心筋梗塞モデルにおける観察により、いまやCRPは、確かにこれら全ての様々な状態において疾患の重篤度に積極的に関与していることが指摘されている。
【0011】
さらなる態様では、上記炎症状態および/または組織損傷を与える状態は、感染症,感染によるアレルギー性合併症,炎症性疾患,虚血性若しくはその他のネクローシス,外傷性組織損傷および悪性腫瘍からなる群から選択されるものである。
【0012】
例えば、状態が感染症である場合には、細菌またはウィルス感染症のような非原虫性の感染症が挙げられる。状態が感染のアレルギー性合併症である場合には、リウマチ熱,糸球体腎炎および癩性結節性紅斑からなる群より選択されるものがある。状態が炎症性疾患である場合には、関節リウマチ,若年性慢性(リウマチ性)関節炎,強直性脊椎炎,乾癬性関節炎,全身性血管炎,リウマチ性多発筋痛,ライター病,クローン病および家族性地中海熱からなる群より選択されるものがある。状態が虚血性のものまたはその他のネクローシスである場合には、心筋梗塞,虚血性脳卒中,腫瘍性塞栓および急性膵炎からなる群より選択されるものがある。状態が外傷である場合には、緊急手術または待機手術,火傷,化学的または物理的損傷および骨折からなる群より選択されるものがある。状態が悪性腫瘍である場合には、リンパ腫,ホジキン病,癌腫および肉腫からなる群より選択されるものがある。
【0013】
本発明によれば、インビボでCRPがそのリガンドへ結合することを阻害する、および/またはインビボでの斯かる結合に対するCRPの利用能を減ずる薬剤は、CRPの疾病の原因への寄与を阻止し、それにより疾病の程度や重篤度を低減し、症状を軽減し生存期間を延ばす。本発明は、その様な効果を有する化合物を提供するものであり、心筋梗塞,脳卒中および末梢血管疾患,その病因が既知および未知の急性および慢性炎症疾患,あらゆるタイプの急性および慢性感染症,火傷,緊急手術および待機手術を含む外傷,あらゆるタイプの悪性腫瘍,並びにCRPの産生増加に関係する全ての病態を含むアテローム性動脈硬化症およびその合併症を予防および/または治療するための組成物を製造するためのものを提供する。
【0014】
本発明の薬剤によれば、複数のリガンドは共有結合により互いに直接結合され得るが、リンカーを介して互いに共有結合されることが好ましい。それによって、リガンドが空間的に十分に分離され、そのため、標的となる複数のタンパク質が当該薬剤に結合されることができ、一つのタンパク質が他の一つまたは複数のタンパク質の結合を妨害することはない。リンカーの厳密な構造は重要ではないが、典型的には反応性基を含まないことが好適である。当該リンカーは、直鎖状または分枝鎖状のヒドロカルビレン(hydrocarbylene)であってよく、かかるヒドロカルビレンは、その1または2以上の炭素原子がヘテロ原子で任意に置き換えられていてもよい。当該リンカーは、2〜20個の原子分に相当する鎖長を有するものでよいが、好ましくは5〜7個の原子分に相当する鎖長を有する。有用な鎖長と化学構造は、本発明薬剤と共に複合体を形成するタンパク質により実験的に決定すればよい。本発明薬剤が2つのリガンドを有している場合には、当該リンカーは一般的には直鎖状のものとし;好適には「リガンド − リンカー − リガンド」の一般構造とする。この構造は、本願の目的から“パリンドローム”と表すのが便利である。当該リンカーとしては、下記でより詳しく説明するが、その構造中に1または2以上の二重結合を有していてもよい。当該リンカーが少なくとも2つの二重結合を有する場合には、これらは互いに共役していてもよく、これらが互いにトランスの位置関係にあることが好ましい。或いは、当該リンカーとしては、例えば-Ar-Ar-構造の様に、1または2以上のアリーレン基を有する。当該アリーレン基は、ヘテロアリーレン基でもよい。好適には、当該アリーレン基は下記構造である。
【0015】
【化1】

【0016】
適切な分枝鎖状リンカーと共に3,4またはそれ以上のリガンドを含む他の構造も意図され、その場合、3,4またはそれ以上の標的タンパク質は複合体を形成できる。例えば、当該リンカーは、環状コアを有してもよく、当該環状コアは、その一方の面が複数の置換基により置換されており、当該各置換基はCRP分子のリガンド結合部位によって結合される能力を有するリガンドを含むものであり、且つ当該環状コアの他方の面が、CRP分子のリガンド結合部位によってまたはSAP分子のリガンド結合部位のいずれかによって結合される能力を有するリガンドにより置換されている。
【0017】
本発明薬剤で用いられるリガンドは、CRPのリガンド結合部位によって結合されることが知られているリガンドや、斯かるリガンド結合部位によって結合されることが、例えばX線結晶情報などの結合部位に関する入手可能な構造的情報に基づいて予想されるリガンドや、その構造類縁体から選択され得る。好適な化合物は、化合物ライブラリのハイスループットスクリーニングおよび/または構造に基づく分子デザインにより同定することができる。個々のリガンドとCRP結合部位との相互作用の親和性は、リガンドがそれぞれの標的タンパク質へ特異的であるならば、特別に高い必要はない。10ミリモルまでの解離定数であれば、十分であり得る。しかし、解離定数は、1ミリモル以下であることが好ましく、100マイクロモル未満がより好ましく、10マイクロモル未満が最も好適である。親和性は、マイクロモルまたはそれ以上が好ましい。可能な限り高い親和性が望ましいことは明らかであるものの、CRPの場合マイクロモルレベルの親和性で十分であることが判明している。
【0018】
さらに、本発明は、炎症および/または組織損傷を与える状態にある患者の組織損傷を治療または予防するための医薬用化合物を選択する方法であって、試験化合物の存在下、C反応性タンパク質(CRP)リガンド結合を可能にする条件下において、CRPとその試験リガンドを接触させる工程;および、試験化合物がCRP分子と試験リガンドとの結合を阻害するものである場合に、医薬用化合物として当該試験化合物を選択する工程を含む方法を提供する。当該試験化合物は、複数のリガンドを有し、その複数のリガンドは、同一でも異なってもよく、複数のCRP分子と複合体を形成するように互いに共有結合されている。
【0019】
本発明は、さらに、医薬用薬剤を製造する方法を提供する。当該方法は、(1)上記選択方法により化合物を選択することによって、医薬用化合物を特定する工程;および、(2)医薬用化合物またはその薬学的に許容される誘導体を用意することによって医薬用薬剤を製造する工程を含む方法である。
【0020】
即ち、本発明方法は、試験化合物の存在下でCRPリガンド結合を試験することを含む医薬用化合物の選択方法に関するものである。CRPの試験リガンドへの結合を阻害する試験化合物は全て、可能性のある薬剤として選択される。例えば、試験化合物は、特定された後、化学的もしくは生化学的合成により大量に製造され得るか、または医薬としての直接処方のために選択され得るという意味で選択されてもよい。医薬用薬剤の製造方法にしたがって、試験化合物は医薬用途のために製剤化されてもよく、あるいはその医薬上許容される誘導体を製造するために、誘導体化され、または化学的に修飾されてもよい。その様な誘導体化は、単純に新しい官能基を導入するために必要とされてもよく、または既に存在する置換基を変更して例えば溶解性を変えることによって製剤化を容易にするために必要とされてもよい。この種の誘導体化は、化合物の毒性を低減したり、化合物の安定性を変えたり、或いはその薬理活性を変更するためにも利用できる。この様に誘導体化され、または修飾された全ての化合物は、本発明方法により再試験することが必要だろう。このプロセスは、その医薬特性を改善するため、本発明薬剤に同様に適用され得る。
【0021】
試験化合物をCRPに接触させる工程においては、その条件は、試験化合物の不在下でCRPとリガンドを結合させるのに十分でなければならない。このような方法において、試験化合物の存在下でCRPとリガンドの結合が起こらなかったり、起こっても予想された程度より低かったならば、かかる効果は試験化合物に起因するものであり得る。ここで、結合の阻害は広い意味で解釈されるべきであり、特定のメカニズムに限定されず、結合の程度の低下があれば、本発明でいう結合の阻害に相当する。結合の阻害は、一般的には、コントロール値(試験化合物が存在しない状態での最大結合)との比較で測定する。IC50は、低マイクロモル以下であることが好ましく、より好ましくはナノモル以下である。当該接触は、CRPの特異的なカルシウム依存性結合を可能にするのに十分量の遊離のカルシウムイオンを含む条件下で行う。当該接触のために好適な緩衝液は、緩衝化生理食塩水である。CRPは、純粋なまたは単離された形態で提供されてもよく、或いは全血清に組み込まれた形で提供されてもよい。
【0022】
CRP,試験リガンドおよび試験化合物を接触させる順番は、重要なものではない。これら3成分は、本質的に同時に混合でき、或いは先ず3成分のうちの2成分を混合し、3番目の成分を加える前に事前にインキュベートすることもできる。接触は、一般的には、これら成分の少なくとも1つの成分が液相中にある状況で行う。しかし、試験手順において結合種を非結合種から分離するための技術として相分離を使用することでCRPのリガンド結合の程度についての試験を容易化することができるように、CRPまたは試験リガンドのいずれかが固相の一部を形成することが都合がよい。
【0023】
従って、CRPまたは試験リガンドの一方を含む第1成分が固相の一部として存在し、これを、他方を液相の一部として有する第2成分と接触させることが好ましい。次いで、CRPリガンド結合を試験する工程では、第2成分の固相に対する結合を検出することを含み得る。第2成分の固相に対する結合の検出は、固相における第2成分の存在を検出するか、或いは固相に結合しなかった第2成分の量を測定し、最初に液相へ添加した第2成分の量から固相へ結合した正確な量を推定することによって行うことができる。
【0024】
この態様では、固相は、固体担体へ結合させた第1成分を含むことが好ましい。この固体担体は、粒子状担体や固体表面を有するものであってもよい。利便性の高い態様では、当該固体表面は、マイクロタイタープレートウェルの様な容器の内部表面を含む。
【0025】
CRPリガンド結合の試験工程は、結合していない材料を除去するために、さらに固相を洗浄する工程を含むことが都合がよい。
【0026】
第2成分は、ここで説明する様な放射標識,蛍光色素または酵素などの検出可能なラベルで標識化してもよい。その他、固相への第2成分の結合は、固相へ結合した第2成分への抗体結合によって、或いは固相へ結合しなかった第2成分の量を定量免疫学的測定方法によって免疫学的に検出してもよい。
【0027】
本発明は、ヒトまたは他の動物由来CRPの、そのありとあらゆる既知の生物学的および化学的リガンドへの結合を阻害する能力を有する化合物を検出するためのインビトロスポットテスト、低スループット、及び高スループットスクリーニング方法を提供するものである。これら方法は、有機,無機および生物起源の天然化合物の化合物ライブラリー、ならびに従来の合成方法やあらゆる態様のコンビナトリアルケミストリーにより作られた化学ライブラリーをスクリーニングするのに適している。これら方法は、CRP結合を阻害するメカニズムの分析に適しておてり、また、スクリーニングやスポットテストにより同定されたリード化合物から可能性がある医薬品或いは実際の医薬品を化学的および医薬化学的に開発する際の、阻害の有効性の評価にも適している。本発明は、ヒトや実験動物でのCRP結合,血漿代謝回転および異化作用におけるCRP−阻害化合物の効果および効力、また、ヒトCRPにより悪化した疾患の実験モデルにおけるCRP−阻害化合物の効果および効力をインビボで試験する方法にも関する。
【0028】
上記方法に伴い、本発明のさらなる態様では、複数の試験化合物から、組織損傷を治療または予防するための医薬用化合物を選択する方法であって、反応区画と複数の試験化合物のアレイを用意し、各反応区画において上記記載の化合物選択方法を行なうことによって医薬化合物を選択することを含む方法を提供する。
【0029】
好適な態様では、本発明に係る薬剤のリガンドのそれぞれは、独立して下記一般式を有する。
【0030】
【化2】

【0031】
式中、XはOまたはCH2-CH2を示し、Rはアミンを含む基を示す。当該態様においては、アミンは1級,2級,3級アミンまたは4級アンモニウムでもよい。アミンは、脂肪族でも芳香族でもよく、窒素基が環の一部であるヘテロ環式化合物も含まれる。アミンは、メチレン基またはエチレン基の様なアルキレン基を介して-O-に結合しているものであってもよく、基は、3 ヒドロキシ,1-シクロペンタニルまたは4 ヒドロキシ,1-シクロヘキサニル等の置換基により置換されていてもよい。好ましくは、アミンは、トリメチルアンモニウム,アミノメチル ジメチルアンモニウムまたはNH2を含む。これらリガンドの例としては、下記で示す化合物2,3,7および8があり、これらは実施例でさらに詳しく説明する。特に好適な態様では、各リガンドは、[(トリメチルアンモニウム)エトキシホスフィニル]オキシ基を含む。この様に、好適な本発明薬剤は、1,6-ビス[{[(トリメチルアンモニウム)エトキシ]ホスフィニル}-オキシ]ヘキサン、口語表現ではホスホコリン−ヘキサン−ホスホコリン、略して示せばPCHPCを含む。これらリガンドとしては、例えば、下記で示す化合物2,3,7および8があり、これらは実施例でさらに詳しく説明する。
【0032】
さらなる態様では、アミンはインドール,アデニンまたはグアニンを含むものでもよい。その様なリガンドの例は、化合物1,5および6として実施例で示す。
【0033】
本発明薬剤と、場合により薬学的に許容される賦形剤,希釈剤または担体を含む医薬組成物が製剤化され得る。当該医薬組成物は、本発明薬剤またはその誘導体を含むプロドラックの形態をとるものであってもよい。このプロドラックは、被投与者により代謝された場合にのみ活性化するものである。その様な医薬組成物の成分の正確な性質や量は、実験的に測定することができ、また、組成物の投与経路にもよる場合がある。被投与者への投与経路としては、経口,口腔内,舌下,吸入,局所(眼を含む),直腸,膣内,鼻腔および非経口(静脈注射,動脈注射,筋肉注射,皮下注射および関節注射を含む)を例示することができる。利便性の高さからいえば、本発明の投与形態は経口によることが好ましいが、用いる薬剤やそのバイオアベイラビリティによる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
ここで、本発明について、添付の図面や以下の実施例を参照してさらに詳しく説明するが、これらは単なる例示である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ホスホコリンとPCHPC(ロットナンバー:GP44)による、固定化したCPSへのCRPの結合の阻害を示す図である。ホスホコリンよりも、PCHPCのIC50の方が10倍低いことが分かる。
【図2】PCHPCにより架橋されたCRP分子のペアを可視化したものである。2aは、ヒトの天然五量体CRPのみのネガティブ染色された電子顕微鏡写真を示す。2bは、PCHPCを混合した後に形成されたCRPの二量体を示す。2cは、CRP−PCHPC複合体のX線結晶構造をリボンモデルで表したものを示す。2つの五量体CRP分子が、互いに向かい合って相互作用している様子を示している;それぞれのプロトマーのリガンド結合ポケットにおいて、カルシウム原子のペアが球として表されている。PCHPC分子の電子密度に相当する構造は、示していない。
【図3】CRP濃度に対するPCHPC(ロットナンバーRMM)の効果について、MIRAにより測定した結果を示す図である。
【図4】二次元免疫電気泳動法により示された全血清における補体第3成分C3の活性化を示す図である。
【図5】低濃度リポタンパク質(LDL)とCRPの存在下インビトロで培養した血管平滑筋細胞による泡沫細胞の形成を示す図である。
【図6】PCHPCと共に、低濃度リポタンパク質(LDL)とCRPの存在下インビトロで培養した血管平滑筋細胞による泡沫細胞の形成の阻害を示す図である。
【図7】フェニレフリン(PE)に対する血管の応答におけるCRPの効果とPCHPCによる阻害を示す図である。
【図8】CRPが、Streptococcus pneumoniaeによる致死的な感染からマウスを保護することを示す図である。
【図9】PCHPCが、Streptococcus pneumoniaeによるインビボでの致死的な感染からのCRPの保護効果を完全に消滅させることを示す図である。
【図10】PCHPCが最初にCRPと複合体を形成したにもかかわらず(これは下の図10(b)において、MIRAアッセイにおけるCRPの免疫反応性の消失により明確に示されている)、電気化学的イムノアッセイ結果による図10(a)に示されているとおり、PCHPCが、インビボでマウスの循環系からのヒトCRPのクリアランスに対して影響を及ぼさないことを示す図である。
【実施例】
【0036】
強い親和性をもってCRPにより結合される生理学的な成分は、CRPの一部の外因性高分子リガンドおよびCRPの一部の自己由来の高分子リガンドの一構成要素であるホスホコリンである。本発明の具体例によれば、1つのリンカー構造に結合された2つのホスホコリン頭部基を含むビス−ホスホコリン分子は、インビトロでもインビボでも、その全てのリガンドに対するCRPの結合の強力な阻害剤である。1,6-ビス[{[(トリメチルアンモニウム)エトキシ]ホスフィニル]-オキシ]ヘキサン、口語表現ではホスホコリン−ヘキサン−ホスホコリン、略して示せばPCHPCが、本発明の典型的な実施例である。当該分子の構造と典型的な合成例を以下に示す。
【0037】
1,6-ビス[{[(トリメチルアンモニウム)エトキシ]ホスフィニル}-オキシ]ヘキサン
【0038】
【化3】

【0039】
新たに蒸留したジクロロメタン(50 mL)に無水炭酸カリウム(29.84 g, 0.216 mol)を加えた懸濁液を攪拌し、ここへ、アルゴン雰囲気下-10℃でエチレン クロロホスフェイト(19.34 mL, 0.212 mol)を滴下した。新たに蒸留したテトラヒドロフラン(10 mL)にヘキサン 1,6-ジオール(5 g, 42.34 mmol)を加えた溶液を、10分かけてこの混合物へ滴下し、得られた懸濁液を-10℃で攪拌した。当該反応液を4時間かけて25℃まで温めた。6時間後、薄層クロマトグラフィーは、メジャー化合物の存在と原料化合物の消失を示した。反応混合液をジクロロメタン(250 mL)で希釈し、濾過した後、pH 7の緩衝液(200 mL)へ注いだ。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液(200 mL)で洗浄し、水層をジクロロメタン(100 mL)とクロロホルム(100 mL)で抽出した。有機層を合わせてMgSO4により乾燥し、濾過し(溶媒:ジクロロメタン)、減圧濃縮することによって、淡黄色オイルであるビスホスフェイトエステルを得た。このオイル(約9 g)を無水アセトニトリル(60 mL)に溶解し、30 Smith Process Vials(トレードマーク)(5 mL容量)に分配した。トリメチルアミン(2 mL, -10℃)を各容器に加えた後、バイアルをシールし、電磁波(300W)照射下30分間100℃に加熱した。冷却後、バイアルに穴を開け(注意が必要)、混合し(溶媒:メタノール)、減圧濃縮し、高度な真空下で徹底的に乾燥することによって、淡黄色で泡状の1,6-ビス[{[(トリメチルアンモニウム)エトキシ]ホスフィニル}-オキシ]ヘキサン(11.8 g)が得られた。
【0040】
一般的な実験手順
電磁波による加熱実験を、専用ガラス器中のPersonal Chemistry Smith Synthesizer(Personal Chemistry社製,ウプサラ,スウェーデン)で実施した。分析用薄層クロマトグラフィを、プレコートしたガラスプレート(Merck Kieselgel 60 F254)上で行なった。モリブデン酸アンモニウムまたは過マンガン酸カリウム水溶液と、それに続く加熱により可視化した。全ての湿気および/または空気感受性の反応は、アルゴンの不活性雰囲気下オーブン(150℃)で乾燥したガラス器中で行なった。アセトニトリルとジクロロメタンを、水素化カルシウムから留去した。ベンゾフェノンの存在下、ナトリウムからテトラヒドロフランを留去した。その他の試薬と溶媒は、標準的な実験で用いられる市販の或いは精製したものを用いた。pH 7の緩衝液は、オルトリン酸二水素カリウム(212.5 g)と水酸化ナトリウム(36.25 g)を水(2375 mL)に溶解することにより調製した。
【0041】
改良合成法は、以下に示す通りである。
【0042】
【化4】

【0043】
新たに蒸留したジクロロメタン(20 mL)に無水炭酸カリウム(14 g, 107.6 mmol, 5.1当量)を加えた懸濁液を攪拌し、ここへ、アルゴン雰囲気下-10℃でエチレン クロロホスフェイト(15.1 g, 106 mmol, 5当量)を滴下した。新たに蒸留したテトラヒドロフラン(10 mL)の1,6-ヘキサンジオール(2.5 g, 22 mmol)溶液を、10分かけてこの混合物へ滴下し、得られた懸濁液を-10℃で攪拌した。当該反応液を4時間かけて25℃まで温めた。16時間後、LC-マスクロマトグラフィーによると反応は完了しているように見えた。当該反応混合液へ、N-(2-アミノエチル)-アミノエチル ポリスチレン樹脂(約22 gの2.8 mM/gロードポリマー,理論上の未反応エチレン クロロホスフェイトの62 mmolに相当)を加え、得られた混合物を20℃で15分間攪拌した。その後、当該混合物を焼結漏斗に通して濾過し、濾液を濃縮することによって、淡黄色オイル状のビホスフェイトエステルを得た(定量的)。このオイルの一部(約4 g)を無水アセトニトリル(40 mL)に溶解し、20 Smith Process Vials(トレードマーク)(5 mL容量)に分配した。冷却し濃縮したトリメチルアミン(2 mL)を各バイアルに加え、バイアルをシールし、電磁波(300W)照射下、30分間100℃まで加熱した。冷却後、バイアルに穴を開け(注意が必要)、上清を合わせた。各バイアルの底に残留した残渣をメタノールに溶解し、濃縮した上清と合わせ、高度な真空下で徹底的に乾燥することによって、淡黄色で泡状の1,6-ビス[{[(トリメチルアンモニウム)エトキシ]ホスフィニル}-オキシ]ヘキサン(6 g,定量的)が得られた。1H NMR (400 MHz, MeOD): 4.27 (2H, br, CH2CH2N), 3.89 (2H, m, CH2CH2N), 3.65 (2H, br, CH2OP(O)O2CH2CH2N), 3.24 (9H, s, N(CH3)3), 1.65 (2H, br, CH2CH2CH2OP), 1.45 (2H, br, CH2CH2CH2OP)。
【0044】
外来性の高分子リガンドとして最もよく知られている肺炎球菌菌体C−ポリサッカライド(CPS)に対するインビトロでのCRPの結合を阻害するPCHPCの強い性質を、図1に示す。CPSは、プラスチック製のマイクロタイタープレートへ共有結合により固定化した。CPSに対する、125I-ラベル化した精製ヒトCRPの典型的なカルシウム依存性の結合は、容易に実証することができた。この結合は、明らかに溶液中のホスホコリンにより阻害されており(約20μMのIC50)、それに対してPCHPCは、10倍も低い約2μMのIC50でCRP結合を阻害した(図1)。さらに、CRPに対するPCHPCのKを等温熱量計で直接測定したところ、反復実験することによって、0.469,0.679,0.73および0.855μMの値が得られた。一方、当該値と比較して、CRPに対するホスホコリンのKは、1.6,2.02,3.8μMであった。
【0045】
CRPの結合のリガンドとしての、およびCRPの結合の阻害剤としてのPCHPCの効力がフリーのホスホコリンに比べて高いことは、PCHPC分子の二官能性、パリンドローム性の性質を反映するものである。リンカー部分の各末端におけるホスホコリン残基(これは五量体CRP分子の各プロトマーに存在するリガンド結合ポケットによって認識され、結合され得る)の存在は、PCHPCによるCRP分子のペアの橋架けおよび架橋結合を可能にする。こういった複合的な相互作用能は、PCHPCとCRP間の相互作用の結合力を強く増強する。CRP分子における5つのプロトマーそれぞれのリガンド結合部位は全て天然タンパク質の円盤状五量体アセンブリの同一面上に存在している。PCHPC分子によるCRP分子ペアの架橋は、タンパク質の結合面すなわち“B”面を遮蔽することによって、他のリガンドに対するCRPの結合能もさらに減ずる。大過剰モルのPCHPC存在下においては、CRPの全てのリガンド結合部位は個々のPCHPC分子により占有されており、CRP分子ペアの架橋は全く生じず、その結果、CRPは本来の五量体の状態のままになる。フリーのホスホコリンはCRPに結合するが、“モノマー的な”ものであり、CRP分子ペアを架橋することはできない。これら効果は、CRPの未変性の1個の五量体アセンブリと、本発明薬剤により二量化されているかかる五量体のペアとを明確に区別する分子ふるいクロマトグラフィにより実証される。重要なことに、インビボで病原の可能性があるCRP結合の阻害剤として働くPCHPCの能力について、同様の効果が、水性緩衝液中の単離された純粋なCRPでも、全血清の生理的環境でのCRPでも観察されている。
【0046】
表. ゲル濾過クロマトグラフィで示すCRPの分子アセンブリにおけるPCHPCの効果
【表1】

【0047】
これら効果は、絶対的にカルシウム依存的なものである。遊離のカルシウムイオンが存在しない場合には、PCHPCは、CRPの分子アセンブリに対して何の効果も示さない。
【0048】
マススペクトル分析によって、カルシウム依存的なCRPとPCHPCの複合体に関するより正確な証拠を提供される。
【0049】
PCHPCを含むまたは含まないカルシウム不存在溶液における単離した純粋天然ヒトCRPの試験によれば、公知の共有結合構造によるMr 23027という5つのプロトマーについて計算された値に近いMrを有する予測された五量体が主として存在することが示された。十量体に正確に相当する高いMr種も、極微量存在した。しかしながら、PCHPCとカルシウムイオンの両方の存在下では、十量体種が優勢であり、純粋なCPRのみで見られる十量体よりも高いMrを有している。CRPのみの十量体とPCHPCおよびカルシウムイオンの存在下で形成される十量体におけるMrの相違は、2840〜2890の範囲内にある。これは、CRP五量体のペア当たり5つのPCHPC分子(それぞれのMrは448)と20個のカルシウムイオン(それぞれのMrは40)分に最も近いものである。
【0050】
PCHPCによるCRP分子のペアリングも、図2bに示す通り、直接の電子顕微鏡により写真で示すことができる。さらに、X線結晶法により解析されたCRP−PCHPC複合体の構造は、CRP分子の五量体のペアが面と面で相互作用していることを示している(図2c)。これはまさしく、本発明に係るPCHPC分子の設計により予想されたものである。
【0051】
CRPのためのRoche MIRA自動免疫学的アッセイ(参考文献64)は、CRP分子上のカルシウム依存性エピトープのモノクローナル抗体による認識に依存する。PCHPCにより、カルシウム依存性のリガンド結合部位が遮蔽されたCRP二量体が形成されることによって、このエピトープはマスクされ、当該アッセイではCRP−PCHPC複合体が検出不能になる(図3)。これは、インビトロまたはインビボで生じたその様な複合体の証明のための利便性の高い方法を提供する。このことは図3に示されており、CRP濃度をPCHPC(ロットナンバーRMM)の存在下でMIRAにより測定した結果は実線で示されており、対してフリーのホスホコリンの効果は破線で示されている。同一の結果が、単離した純粋なCRPでも全急性期血清中のCRPでも得られた。
【0052】
CRPの炎症誘発性の組織損傷を与える作用がインビボで仲介される主要なメカニズムは、補体系の活性化を経由する。従って、その様なCRPの有害作用をブロックする本発明に係る薬剤が、CRPによる補体の活性化を阻害しなければならないことは、不可欠である。図4に示されている通り、PCHPCはこの点において強力である。図4は、二次元免疫電気泳動法により示した全血清中における補体第3成分C3の活性化と、PCHPCによるその阻害を示す図である。左上図は、正常なヒト血清(NHS)を4℃で単独でインキュベートした結果であり、C3は活性化されていない;右上図は、NHSをCRPおよびCPSと共に37℃でインキュベートした結果であり、C3が完全に活性化されていることを示す;左下図は、NHSを37℃で単独でインキュベートした結果であり、C3は活性化されていない;右下図は、NHSをCRPおよびCPSに加えてPCHPCと共に37℃でインキュベートした結果であり、C3の活性化はほとんど完全に阻害されていることを示している。
【0053】
本発明薬剤が、CRPのその他の病原的な作用を防ぐことも重要である。マクロファージの細胞質と血管平滑筋細胞でLDLが蓄積し、泡沫細胞が形成されることは、アテローム斑に特徴的なものである。これら細胞をインビトロでLDLと共に培養した場合、炎症誘発性のサイトカインや他の細胞活性化剤と接触することにより刺激されない限り、これら細胞は泡沫細胞を形成しない。しかし、LDLと共に培養された細胞へCRPを加えることによって、他のあらゆる刺激剤または活性化剤が存在しない場合であっても、泡沫細胞の形成が誘導される(図5)。そして、このことがインビボで起こると、CRP産生の増加によりアテローム形成促進状態に直接つながるメカニズムが提示されることになる。図5は、低比重リポタンパク質(LDL)とCRPと共にインビトロで培養された血管平滑筋細胞による泡沫細胞の形成を示すものである。摂取され細胞内に保持されたLDLは、Oil Red O色素により染色される。CRPが存在しない場合、LDL単独では細胞内に蓄積されない。重要なことに、LDLとCRPの両方を含む平滑筋細胞培養液へPCHPCを添加することによって、泡沫細胞の形成が効果的に阻害される(図6)。
【0054】
インビボにおける正常な血管の弛緩と拡張の相対的な欠陥として一般的に認識されている内皮機能障害が、心欠陥疾患を引き起こすアテローム性動脈硬化症の発症および進行に関わることは、一般的に容認されている。一酸化窒素の適切な産生の減少が、同様に血管拡張の欠陥に関係しており、CRPがインビトロで血管壁や内皮細胞において一酸化窒素の産生を減ずることが主張されている。しかし、我々の研究は、ヒトCRPが、eNOSのアップレギュレーションによって媒介される一酸化窒素産生の増大の結果として、インビトロにおいてフェニレフリンと接触したヒトとラットの血管の収縮応答を実際に減少させることを再現よく示した(図7)。CRPの斯かる効果がアテローム性動脈硬化症やインビボでの他の病理に関してどのような病態生理学的重要性を有しているかは明らかでない。しかしながら、このことはCRPの強い生物学的活性を示すものであり、それゆえ当該実験においてPCHPCの添加によりCRPの効果が完全に消失したことは、本発明に関係する原理の極めて重要な証拠となる(図7)。
【0055】
図7は、フェニレフリン(PE)に対する血管応答におけるCRPの効果とPCHPCによる阻害を示す。移植された動脈のPEに応答した収縮は、培地へのCRPの添加により有意に低減された。これは、CRPによるeNOSのアップレギュレーション(データは示していない)と、それに対応した血管弛緩薬であるNOの産生の増大(データは示していない)によるものである。CRPの当該効果は、PCHPC(ロットナンバーRMM)の添加により完全に阻害される。
【0056】
ヒトCRPを予め注射されたマウスにPCHPCをインビボ投与することによって、循環系で実証可能なPCHPC−CRP複合体の形成が誘導される。それ故に、ポリクローナル抗体を使用したCRPの電気化学的イムノアッセイでCRPの完全な反応性が保持される一方で、MIRAアッセイではCRP反応性の減退がみられる。電気化学的イムノアッセイは、カルシウムにキレートし複合体からCRPを遊離させるEDTAの存在下で行なわれる。さらに、ヒトCRPを注射したマウスへPCHPCを投与した後には、血清中のCRPは、生体外でセファロース粒子上に固定したホスホエタノールアミンに結合することができなくなる。例えば、ヒトCRPを与えられたが薬剤投与されなかったマウス由来の血清中では、45 mg/lのCRPの96%がセファロース−PEに結合した一方で、CRPと共にPCHPCの単回投与を受けたマウス由来の血清では、47 mg/lの17%しかセファロース−PEへ結合できなかった。
【0057】
PCHPCの臨床的な効果は、本発明によれば、PCHPCがインビボでCRPのリガンドへの結合を阻害するのみでなく、インビボにおいてCRPの生物学的効果をも消失させることを必要とする。ヒトCRPをマウスに投与することによって、Streptococcus pneumoniaeによる致死的な感染から動物を保護できることは古くから知られており、斯かる保護の具定例が図8に示されている。
【0058】
Streptococcus pneumoniaeにより感染された上でヒトCRPを投与されたマウスが、PCHPCの注射を繰り返し受けた場合、CRPを介した保護は、図9に示した通り完全に消失する。これら実験により、PCHPCがヒトCRPのインビボでの強い生物活性をインビボで完全に消失させることから、本発明で好適に使用される化合物であることが明確に示されている。
【0059】
PCHPCは、CRPによる補体活性化を阻害し、また、インビトロでもインビボでもCRPと複合体を形成して、インビトロでもインビボでもCRPが他のリガンドへ結合することを阻害するものの、図10(a)に示す通り、PCHPCをインビボ投与しても循環系からのCRPのクリアランス速度は影響を受けない。この実験と同様のサンプルをCRPに関するMIRAアッセイで測定すると(図10(b))、CRPと複合体を形成することによってこのアッセイでその免疫反応性を消失させことにおけるその薬剤の効果が明らかになる。しかし、PCHPC自体は速やかに消失し、4時間後にはマウスにおけるヒトCRP循環がMIRAアッセイで十分に検出可能になり、処置していないコントロール動物とほぼ同じ速度で消失する。
【0060】
薬剤とCRPとの複合体の形成にもかかわらず、マウス血漿からのヒトCRPのクリアランスにPCHPCが影響を与えないという事実は、ヒトCRPが正常なヒト被験者や様々な疾病に罹患している患者から常に一定の速い速度で消失するということを示す公知文献の記載内容と一致する(参考文献31)。また、実験動物における研究でも、CPSの様な強い高分子リガンドの存在にも関わらず、ヒトCRPは常に同じ速度で消失するということが示されている(参考文献65)。この現象は、ヒトペントラキシンタンパク質ファミリーの他のメンバーである密接に関連した分子血清アミロイドP成分(SAP)のインビボ挙動とは明らかに対照的である。SAPは、5つの同一のプロトマーが円盤状の立体配置で非共有結合により結合し、それぞれのサブユニットの一つの面上に一つのカルシウム依存性リガンド結合部位を有するホモ五量体構造をとるという点において、CRPと共通する。しかし、SAPにより認識され結合されるパリンドローム型(palindromic)分子である(R)-1-[6-(R)-2-カルボキシ-ピロリジン-1-イル]-6-オキソ-ヘキサノイル]ピロリジン-2-カルボン酸(略して、CPHPC)が、SAPのペアを架橋することによりSAPとの複合体を形成すると、斯かる複合体は、インビボ循環系から極めて速やかに消失する(参考文献66,67)。この様に、インビボにおけるヒトSAP凝集体のハンドリングは、CRP凝集体とはかなり異なり得る。一方、CRPとPCHPCとの複合体は、SAPとCPHPCにより形成される複合体よりも安定性が悪いことがある。等温熱量計で測定した結合親和性は、CRPとPCHPCについては400 nMであるのに対し、SAPとCPHPCでは10 nMである。マウスSAPは、ヒトSAPほど全てのリガンドと強く結合せず、CPHPCをマウスに投与しても、インビボにおけるマウスSAPのクリアランスは促進されないが、ヒトSAPトランスジェニックマウスで発現したヒトSAPは劇的に消失される(参考文献67)。よって、CRPにより高い親和性で結合され、且つより高い安定性でCRPを架橋する化合物は、インビボにおいて血漿からのクリアランスを促進することができる。
【0061】
PCHPCの様に、CRPによるリガンド結合を阻害するのみでなく、CRPのクリアランスを促進することによって、有害な病原性の作用を発揮できないようにする化合物が本発明において好ましい。その様な化合物は、カルシウム依存性結合ポケットにおいてホスホコリン頭部基を認識できることに加え、CRPとの補助的な相互作用(accessory interactions)に基づくCRPによる高親和性結合を特徴とする。例えば、ホスホコリン結合部位に隣接して小さな疎水性の割れ目があり、これがメチル基やその他の小さな疎水性基を収容する。そして、PCHPC分子の各末端に適切に配置された基が結合すると、CRPによる結合親和性が顕著に向上する(参考文献68)。結合親和性と薬剤−CRP複合体の形成能も、2つのホスホコリン頭部基の間の脂肪族リンカーを修飾することにより向上する。例えば、鎖の長さを変えたり、最適なコンフォメーションを確固なものとするために二重結合を導入したり、ホスホコリンのカルシウム依存性結合の他にも薬剤とタンパク質との相互作用をもたらす芳香族基や側鎖を導入するといった修飾がある。
【0062】
特に、CRPのリガンド結合ポケットにおけるホスホコリンのカルシウム依存性結合にとって重要な要素は、コリンの第4級アンモニウムと残基Glu81との静電気的な相互作用である。この電荷相互作用は、PCHPCにおける6炭素長よりも長い、例えば7炭素長またはそれ以上の鎖を有するビスホスホエタノールアミン化合物において維持される。下記一般式を有するその様な化合物は、本発明において好ましいものである。
【0063】
【化5】

【0064】
本発明によるパリンドローム型(palindromic)となる様な頭部基を有する他のホスフェートを、以下に示す。化合物1,5と6は、CRPリガンド結合ポケットにおけるTrp66と積み重なる環を生じさせ、それによってカルシウムの配位結合を維持しつつ結合親和性を増大させる。化合物5と6は、環の窒素原子と、CRPとの複合体におけるホスホコリンの第4級窒素と相互作用する極性基との間で水素結合を形成することもできる(参考文献68)。
【0065】
結合親和性を向上させる他のバリエーションは、ビスホスホコリン構造の各第4級窒素におけるメチル基の1つにおける水素原子の1つを、アミノ基で置換することである。それによって、コリン頭部基に近いSer68および/またはSer74残基との水素結合が可能になり、本発明にとり望ましい高い結合親和性結合が得られる。斯かる構造を有する頭部基は、下記構造式中の2で示されている。化合物3と8は、コリン基中に同一の好適な置換基を有しており、それぞれ5員環、6員環の側鎖を持つ。この側鎖はCRPのリガンド結合ポケットに収まり、下記でさらに説明する通りポケット壁の1つを形成する重要な極性残基であるThr76と追加の水素結合を形成する。化合物7は、有利なことにThr76と水素結合できるヒドロキシプロリン様の環を有しており、正電荷をもつアミノ基はコリンの第4級窒素よりも小さく、頭部全体基をポケットへよりぴったりと適合させる。これによって、本発明にとり好ましい高い親和性結合が得られる。
【0066】
化合物4は、リン酸基の代わりにカルボキシル基を有し、通常はコリンの正電荷をもつNと結合するグルタミン酸残基へ届く様に延長されたアミノ基を持つ。構造式中に矢印で示したカルボキシル基の前方にある炭素原子は、リンカーの結合部位である。下記に示す他の全ての頭部基については、リンカーは、PCHPCの様にホスフェートの水酸基を介して結合される。
【0067】
【化6】

【0068】
CRPにおけるホスホコリンのためのカルシウム依存性リガンド結合ポケット(参考文献68)は、D-プロリン残基へ結合するSAPのカルシウム依存性リガンド結合ポケット(参考文献67)よりも、わずかに大きい。CRPポケットは、SAPポケットの内側を覆いかつ4個のプロリン炭素のうちの3個に結合するTyr74、Tyr64およびLeu62残基の代わりにCRPのThr76残基を有することによって極性側鎖を有している。CRPポケットを満たすためには、リン酸や他の酸性基に結合してしまうカルシウム原子への接近を克服することが不可欠である。リン酸エステルでは、鎖中の余分なO原子が、頭部基とリンカー上の枝分かれ置換基をポケットから追い出す。Oエステル原子を2炭素フラグメントで置換することによって、リンカーの末端における極性枝分かれ部分がポケット内に侵入してThr74と水素結合することができる。その結果、高い親和性結合が得られる。従って、このタイプのパリンンドローム型化合物は、本発明において好ましい。
【0069】
リンカー鎖に関しては、PCHPCにおける6炭素鎖長が、完全な(intact)五量体の5回対称軸(five fold axis)から離れるように傾いた(参考文献68)CRPプロトマーにおけるカルシウム依存性リガンド結合部位の位置で最適化される。しかし、本発明においては、5または7個のメチレン基を含む鎖も好適である。5個のメチレン基の場合、より多くの五量体と五量体との接触が可能になり、これらによって望ましいことに結合強度が高まる。7個のメチレン基の場合、リンカーは、リガンド結合ポケットにおけるホスホコリン頭部の位置を最適化できる所に留まることができ、その結果、結合親和性が高まる。リンカー鎖中に二重結合が挿入されると自由度が制限され、結合強度を高めることができ、薬理学上の特性も改良できるので望ましい。その様な化合物の例とその合成経路を下記に示す。
【0070】
【化7】

【0071】
ジエチル−トランス−トランス−ムコン酸
トランス−トランス−ムコン酸(2.0 g, 9.71 mmol)の無水エタノール(10 mL)溶液へ濃硫酸(1 mL)を加え、当該混合液を16時間加熱還流した。当該溶液を、塩基性になるまで飽和炭酸水素ナトリウムにより希釈した。形成された固形分を濾別し、エタノール:水(1:1)から再結晶することによって、白色結晶を得た(1.8 g, 64%)。1H NMR (400 MHz, CDCl3): 7.29 (2H, m, =CH), 6.19 (2H, m, =CH), 4.22 (2H, q, J 12, CH2), 1.31 (3H, t, J 12, CH3)。
【0072】
トランス−トランス−ムコノール
攪拌したジエチル−トランス−トランス−ムコン酸(1.67 g, 8.4 mmol)の無水ジクロロメタン(60 mL)溶液へ、30分かけてシリンジポンプからジブチルアルミニウムハイドライド(1.0 M, 33.6 mL, 4当量)のエーテル溶液を加えた。添加完了後、黄色溶液を20℃まで温め、8時間攪拌した。その後、未反応のジブチルアルミニウムハイドライドを分解するために過剰のメタノール(250 mL)でクエンチし、当該混合物を1時間攪拌した。その後、当該懸濁液を濾過して濾液を分離し、残渣をメタノールと共にすり鉢中ですり、再びセライトを用いて濾過し、最初の濾液と合わせた。この有機層を乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧濃縮することによって、黄色のオイルを得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィ(酢酸エチル:石油エーテル,7:3)で精製した。その後、前記で詳しく説明したPCHPC合成の通り、ホスホコリンリガンド頭部基をトランス−トランス−ムコノールの末端水酸基に結合させた。
【0073】
本発明において好適な他のリンカーとしては、CRPによるホスホコリン頭部基の高い親和性結合を促進し、薬理上の特性を改良できると共に、より強く効果的な複合体形成を導くことができる様に薬剤とタンパク質の相互作用を増強するアリール系成分を挙げることができる。斯かる化合物の合成経路の一例を下記に示す。当該合成経路中では、適切なアルコールであるリンカーの構築に続いて、前述したPCHPCと同様にホスホコリン頭部基を結合させる。
【0074】
【化8】

【0075】
直鎖リンカー鎖上での置換基導入も、CRP分子との二次的な相互作用を可能にすることにより結合の親和性と強度が高められるという特性によって、本発明における好適な態様である。バインダーは、CRP上に存在するリガンド結合部位との相互作用のために、各リガンドに近い位置に疎水性置換基を有してもよい。その一例である下記では、各ホスホコリン頭部基に近いリンカー炭素原子上にメチル側鎖が好適に配置され、CRP構造において、カルシウム依存性リガンド結合部位に近接した小疎水性ポケットと疎水性相互作用することができる(参考文献68)。これによって、化合物とCRPとの結合親和性を大幅に向上させることができる。ここで、この化合物の合成経路を示す。
【0076】
【化9】

【0077】
(R)-O-tert-ブチルジメチルシリル-ペンテン-2-オール
(R)-(-)-ペンテン-2-オール(2 mL, 19.4 mmol),トリエチルアミン(5.4 mL, 38.9 mmol)およびDMAP(0.237 g, 1.94 mmol)のジクロロメタン(25 mL)溶液を0℃に冷却し、塩化TBDMS(3.81 g, 25.3 mmol)の溶液を加えた。当該混合物を20℃まで温めて17時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム(100 mL)を加え、水層を酢酸エチル(2×100 mL)で抽出した。有機層を合わせて乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧濃縮することによって、透明のオイルを得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィ(石油エーテル40-60,100%)で精製して、透明オイル(3 g,77%)を得た。
【0078】
O,O-2,7-ジ-(tert-ブチルジメチルシリル)-オクト-4-エン
(R)-O-tert-ブチルジメチルシリル-ペンテン-2-オール(2 g, 10 mmol)のDCM(60 mL)溶液へ、グラブ(Grubb)の第一世代触媒(0.206 g, 25 mol%)を加え、当該混合液を16時間加熱還流した。その後、反応液を水(100 mL)で希釈し、水層を酢酸エチル(2×100 mL)で抽出した。有機層を合わせて乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧濃縮することによって、黒色のオイルを得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィ(ヘキサン,100%)で精製して、透明オイルを得た。これに続く還元と加水分解によって、PCHPCにおいて説明した通りホスホコリン頭部基への結合に適したアルコールとしての所望のリンカーが得られる。
【0079】
CRPにより結合される複数のホスホコリン、或いは他の頭部基を有する多量体の薬剤化合物であって、その複数のホスホコリンまたは頭部基が当該薬剤により架橋された二量体における各CRP分子ペア上の複数のプロトマーと相互作用できる様に適切に空間をあけて配置されているものは、非常に強く安定な薬剤−CRP複合体を形成することができ、斯かる化合物は本発明において好適なものである。特に、CRP分子の平面的な結合(B)面上にある5つのリガンド結合ポケットのそれぞれに結合できるよう適切に空間をあけて配置された配列でリガンド頭部基を有する化合物は、多様な相互作用により親和力が非常に高められる点で好ましい。
【0080】
本発明におけるCRPの作用阻害とクリアランスのための他のアプローチとしては、ホスホコリンまたはCRPによって認識される上記の様々な異なる頭部基のいずれか一つを一方の頭部基として有し、SAPによって認識されるD−プロリンを他方の頭部として有するヘテロ二官能性化合物を使用することである。構造上このタイプに分類される典型例を下記に示す。
【0081】
【化10】

【0082】
この化合物により、1つのCRP分子と1つのSAP分子が薬剤によって架橋された混合複合体を形成させることができる。CRPによるホスホコリンまたは関連頭部基の結合は、CRPが他のリガンドと相互作用する能力を抑制し、斯かる抑制はCRP分子のB面を覆い隠すと増強される。重要なことに、SAPとの複合化と凝集によって、インビボで異物と認識され、循環系から速やかに除去される複合体が形成される。この様な循環系からの除去は、CRPの有害な病原性作用を無効にし、その結果疾病を改善することにおける本発明に係る薬剤の有効性をさらに高める。
【0083】
PCHPCについて説明した通り、CRPのMIRAアッセイにおいてモノクローナル抗CRP抗体の1つに認識されるエピトープが存在するCRP分子のB面を覆い隠すことによって、このアッセイで検出されるCRPの量は減ぜられる。同様に、ホスホコリン基を介してCRPにより結合される、本明細書に示したヘテロ二官能性リガンド化合物、D-Pro-ヘキサノイル-ホスホコリン(DPHPC)は、単離された純粋なCRPに添加された場合、おそらく単純な立体障害によって、MIRAアッセイにおいて見掛けのCRP濃度をわずかに低減する。しかし、純粋なSAPが存在すると、DPHPCは用量依存的にMIRA CRP濃度を劇的に減ずる。100 mg/l(およそ4μM)のCRPと4 mMのDPHPCで実験を行なうと、MIRA値は91%下がるが、DPHPCが400 μMである場合には、何ら効果は見られなかった。SAPが100 mg/l(およそ4μM)で存在する場合にも、4 mMのDPHPCでMIRA CRP濃度は99%、2 mMのDPHPCで89%、400μMのDPHPCで58%下がった。斯かる強力な効果も、SAP濃度に依存する。例えば、約4μMのCRPと1 mMのDPHPCを用いた別の典型的な実験では、MIRA CRP濃度は62%低減された。しかし、約4μMのSAPが存在すると、MIRA CRP値は85%;2μMのSAPでは73%;800 nMまたは400 nMのSAPでは61%(SAPが無い場合と同等)下がった。重要なことに、等モル量のCRPとSAPを含む全血清に薬剤が添加された場合に、DPHPCは混合CRP−SAP複合体を形成する同様の効果を有し、この複合体が形成されるとMIRAアッセイではCRPは検出されなくなる。従って、約4μMのCRPを含む全血清に4 mMのDPHPCが添加されると、MIRAアッセイで検出できるCRP濃度は19%低減した。DPHPCが存在しない場合には、最終濃度約4μMでSAPを添加しても何ら効果は見られず、存在する全てのCRPはMIRAアッセイで検出された。しかし、およそ4μMでSAPとCRPの両方を含む血清に4 mMでDPHPCを添加した場合には、MIRA CRP値は44%下がった。2μMのSAPでは29%下がり、低濃度のSAPでは、DPHPCのみの効果に対する増強効果は見られな
かった。
【0084】
CRPとSAPの両方に結合される能力を有する多量体化合物は、より強い相互作用をもたらしし、その結果、CRP分子とSAP分子の混合複合体をより安定化する。また、かかる化合物はCRPの結合をより効果的に阻害し、CRPのクリアランスもより効果的に促進する。その様な化合物は、本発明において好ましい。その典型例を下記に示す。当該化合物では、CRPとSAPの各B面上における5つのリガンド結合ポケットそれぞれと相互作用できる様に、複数のリガンド頭部基が適切に空間をあけて配置されている。SAPにより認識されるD-プロリン頭部基は、当該化合物の一方の面に存在し、CRPにより認識されるホスホコリン頭部基(図中、Rと示している)は、反対の面に存在する。
【0085】
【化11】

【0086】
当該化合物の合成経路の前半部分を下記に示す。ここでは、環の形成工程が含まれている部分を上に、その下にホスホコリン頭部基の結合を含む部分を示す。
【0087】
【化12】

【0088】
【化13】

【0089】













【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のC反応性タンパク質(CRP)分子が存在する場合にその複数のCRP分子と複合体を形成するように共有結合により相互に連結された2つのリガンドを含む医薬用薬剤であって、当該薬剤が一般構造:
リガンド − リンカー − リガンド
[式中、リンカーは2〜20個の原子の鎖長を有する直鎖状または分枝鎖状のヒドロカルビレン基であり、各リガンドは、CRP分子に存在するリガンド結合部位によって結合され得るものであり、かつ各リガンドは独立して一般式:
【化1】

(式中、Rはメチレン基またはエチレン基を介して−O−に連結されたアミンであり、該アミンはトリメチルアンモニウム、アミノメチルジメチルアンモニウムまたはNHである)
で表される]
で表される、薬剤。
【請求項2】
上記各リガンドが、[(トリメチルアンモニウム)エトキシホスフィニル]オキシ基を含む、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
上記リンカーが、一般構造:−(CH2)−(式中、nは5〜7である)で表される、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
上記薬剤が下記式:
【化2】

で表される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
炎症状態および/または組織損傷を与える状態を有する患者の組織損傷を治療または予防するための組成物の製造における、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤の使用。
【請求項6】
上記炎症状態および/または組織損傷を与える状態が、アテローム性動脈硬化症を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
上記炎症状態および/または組織損傷を与える状態が、感染症、感染によるアレルギー性合併症、炎症性疾患、虚血性若しくはその他のネクローシス、外傷性組織損傷および悪性腫瘍からなる群から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
上記状態が、細菌感染、ウイルス感染および寄生生物感染からなる群から選択される感染である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
上記状態が、リウマチ熱、糸球体腎炎、および癩性結節性紅斑からなる群から選択される感染によるアレルギー性合併症である、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
上記状態が、関節リウマチ、若年性慢性(リウマチ性)関節炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、全身性血管炎、リウマチ性多発筋痛、ライター病、クローン病および家族性地中海熱からなる群から選択される炎症性疾患である、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
上記状態が、心筋梗塞、虚血性脳卒中、腫瘍性塞栓および急性膵炎からなる群から選択される組織ネクローシスである、請求項7に記載の使用。
【請求項12】
上記状態が、待機手術、火傷、化学的損傷、骨折および圧迫性損傷からなる群から選択される外傷である、請求項7に記載の使用。
【請求項13】
上記状態が、リンパ腫、ホジキン病、癌腫および肉腫からなる群から選択される悪性腫瘍である、請求項7に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−174013(P2010−174013A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−22669(P2010−22669)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【分割の表示】特願2004−505099(P2004−505099)の分割
【原出願日】平成15年5月14日(2003.5.14)
【出願人】(504048364)ペントラキシン セラピューティクス リミテッド (4)
【Fターム(参考)】